説明

乗員保護装置

【課題】テンションレデューサ機能及びプリテンショナ機能を同一機構で構成し、装置を簡素化及び小型化することができる乗員保護装置を提供する。
【解決手段】シートベルト1を巻き取る巻取軸を、シートベルト1の巻き取り方向へ付勢する付勢手段と、該付勢手段によって巻取軸に加えられる付勢力を変化させるテンションレデューサとを備える乗員保護装置に、シートベルト1の装着を検出するベルト装着検出部7と、車両の衝突を検知する衝突検知センサ9と、シートベルト1の非装着を検出した場合、第1付勢力でシートベルト1が巻き取られるようにテンションレデューサの動作を制御する手段と、シートベルト1の装着を検出した場合、車両の衝突を検知したとき、第1付勢力でシートベルト1が巻き取られ、車両の非衝突を検知したとき、第1付勢力より弱い第2付勢力でシートベルト1が巻き取られるようにテンションレデューサの動作を制御する手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の乗員をシートベルトによって拘束保護する乗員保護装置に関し、特にシートベルト装着時にシートベルトの巻き取り力を制御することによって、乗員の圧迫感を軽減するテンションレデューサを備えた乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の座席に設けられる乗員保護装置は、車両の衝突時に乗員を拘束し、保護する装置であり、シートベルト(ウェビング)、シートベルトリトラクタ及びバックルから構成される。
【0003】
シートベルトリトラクタは、シートベルトを巻取軸に巻回し、渦巻きばねの付勢力により内部に引き込み、シートベルト非装着時にはその引き込んだ状態でシートベルトを収容している。乗員がシートベルトを装着する場合、シートベルトの巻き取り側と反対側一端に設けたタングプレートを引っ張ることで収容されたシートベルトを引き出し、これを座席の傍らに設けたバックルに係合させることで、シートベルトを装着する。
【0004】
このように構成されたシートベルトリトラクタは、車両衝突時にシートベルトの巻取軸からの引き出しをロックし、前方へ慣性移動する乗員の身体を拘束する。また、特に車両急減速時等において一層強力に乗員の身体を拘束するため、プリテンショナ及びロック機構が設けられる。
プリテンショナは、車両が急減速状態になったことを加速度センサが検知した場合にシートベルトの弛みを除去し、シートベルトによる拘束力を向上するものである。
【0005】
一方、乗員がシートベルトを装着した際、渦巻きばねの付勢力によって乗員が圧迫感を抱かぬよう、シートベルトの巻き取り力を軽減するテンションレデューサを備えたシートベルトリトラクタが知られている(例えば、特許文献1〜3)。
テンションレデューサは、シートベルトの巻き取り方向へ巻取軸を付勢する第1渦巻きばね及び第2渦巻きばねを備え、シートベルト非装着時には第1及び第2渦巻きばね両方の付勢力によってシートベルトを巻き取り、シートベルト装着時には、第2渦巻きばねの付勢力のみによってシートベルトを巻き取るように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭64−10450号公報
【特許文献2】特開2000−238611号公報
【特許文献3】特開2001−187560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、自動車分野では車両の小型化、車内空間の拡大が求められている。このため、各種車載装置にも省スペース化が要求されている。
しかしながら、従来、プリテンショナ及びテンションレデューサは技術的目的が異なるため、別システムで構成されており、シートベルトリトラクタにプリテンショナ、テンションレデューサ等の各種機構を備えることによる乗員保護装置の大型化が深刻な問題となっていた。
【0008】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、シートベルトの装着を検出するベルト装着検出手段と、車両の衝突を検知する衝突検知手段とを備え、シートベルト装着時に車両の衝突を検知した場合、シートベルトの巻き取り力が大きくなるようにテンションレデューサの動作を制御するよう構成することにより、テンションレデューサ機能及びプリテンショナ機能を同一機構で構成し、装置を簡素化及び小型化することができる乗員保護装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る乗員保護装置は、乗員を拘束保護するためのシートベルトを巻き取る巻取軸を、該シートベルトの巻き取り方向へ付勢する付勢手段と、該付勢手段によって前記巻取軸に加えられる付勢力を変化させるテンションレデューサとを備える乗員保護装置において、前記シートベルトの装着を検出するベルト装着検出手段と、車両の衝突を検知する衝突検知手段と、前記ベルト装着検出手段が前記シートベルトの非装着を検出した場合、第1付勢力で前記シートベルトが巻き取られるように、前記テンションレデューサの動作をオフ状態に制御する手段と、前記ベルト装着検出手段が前記シートベルトの装着を検出した場合、前記衝突検知手段が車両の衝突を検知したとき、第1付勢力で前記シートベルトが巻き取られるように、前記テンションレデューサの動作をオフ状態に制御し、前記衝突検知手段が車両の非衝突を検知したとき、第1付勢力より弱い第2付勢力で前記シートベルトが巻き取られるように、前記テンションレデューサの動作をオン状態に制御する手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明にあっては、付勢手段は巻取軸をシートベルトの巻き取り方向へ付勢している。テンションレデューサは、巻取軸に加えられる付勢力を増減変化させる手段であり、シートベルト装着時に乗員の圧迫感を軽減するテンションレデューサと、車両衝突時にシートベルトの弛みを取り除き、乗員を初期拘束するプリテンショナとを同一機構で構成するものである。
ベルト装着検出手段は、テンションレデューサ機能を実現すべく、シートベルトの装着を検出する。また、衝突検知手段は、プリテンショナ機能を実現すべく、車両の衝突を検知する。そして、乗員保護装置は、ベルト装着検出手段の検出結果と、衝突検知手段の検知結果とに基づいて、テンションレデューサの動作を制御、つまり、シートベルトの巻き取り力を制御する。
具体的には、シートベルトが装着されていない場合、強い第1付勢力でシートベルトが巻き取られる。シートベルトが装着されている場合であって、衝突検知手段が車両の非衝突を検知したとき、弱い第2付勢力でシートベルトが巻き取られる。従って、シートベルト装着時における乗員の圧迫感を軽減することが可能になる。
一方、シートベルトが装着されている場合であって、衝突検知手段が車両の衝突を検知したとき、強い第1付勢力でシートベルトが巻き取られる。従って、車両衝突時にシートベルトの弛みを取り除き、乗員を効果的に初期拘束することが可能になる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、テンションレデューサ機能及びプリテンショナ機能を同一機構で構成し、装置を簡素化及び小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係る乗員保護装置の構成を示す模式図である。
【図2】制御部の構成を模式的に示すブロック図である。
【図3】テンションレデューサ機能及びプリテンショナ機能の制御に係るCPUの処理手順を示すフローチャートである。
【図4】車両衝突及びベルト装着の有無と、テンションレデューサ機能のオンオフ状態との関係を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の実施の形態に係る乗員保護装置の構成を示す模式図である。本発明の乗員保護装置は、車両内部に設けられており、乗員Aを座席Cに拘束するためのシートベルト1と、シートベルト1の一方側を引き出し可能に巻き取るシートベルトリトラクタ2と、シートベルト1に摺動可能に設けたタング3と、タング3と係合するバックル4とを備えている。
また、乗員保護装置は、乗員Aを拘束保護するためのシートベルト1を巻き取る巻取軸を、該シートベルト1の巻き取り方向へ付勢する付勢手段と、シートベルト装着時にシートベルト1の巻き取り力を制御することによって、乗員Aの圧迫感を軽減するテンションレデューサとを備えている。
【0014】
シートベルト1は、一方側がセンターピラーB内下部に設けられるシートベルトリトラクタ2により巻き取られると共に、途中でショルダアンカ5に通され、その他方側端部が止め具6により車体下部にて回動可能に接続されている。
【0015】
また、乗員保護装置は、例えば、バックル4に設けられており、シートベルト1の装着を検出するベルト装着検出部7と、車両の衝突を検知する衝突検知センサ9とを備える。ベルト装着検出部7は、例えばバックルスイッチを備え、バックル4にタング3が挿嵌されたか否かを検出する。
【0016】
衝突検知センサ9は、例えば、衝突時に車体に発生する衝撃を検出する加速度センサを備え、加速度センサの信号を衝突検知信号として制御部8へ出力する。なお、加速度センサから得られる加速度信号を信号処理して大きさ又は立ち上がり波形に基づいて車両の衝突を検出し、衝突の有無を示す衝突検知信号を制御部8へ出力するように構成しても良い。
また、自車両と、前方車両等の障害物との衝突が生ずる可能性があるか、衝突を回避可能か回避不可であるかを判別するように衝突検知センサ9を構成しても良い。例えば、レーザレーダ、超音波センサ等の非接触型距離センサによって所定時間毎に自車と障害物との距離を計測する。この距離の時間的変化から相対速度を計算する。距離を相対速度で除算して衝突までの時間を計算する。該衝突時間が予め設定された所定時間以下なら、衝突の可能性があるとして衝突検知信号を制御部8へ出力する。
また、ヨーレート検知センサ、ロール検知センサ、車両周囲モニター等で、衝突検知センサ9を構成しても良い。
【0017】
図2は、制御部8の構成を模式的に示すブロック図である。制御部8は、テンションレデューサ機能及びプリテンショナ機能の制御、各種演算、判定処理等を行うCPU80を備える。CPU80には、バス86を介してテンションレデューサ機能及びプリテンショナ機能の制御を行うためのコンピュータプログラムを記憶するROM81と、演算に伴って発生する一時的な情報を記憶するRAM82と、ベルト装着検出部7からシートベルト1の装着の有無を示すシートベルト装着信号が入力する第1入力部83と、衝突検知センサ9から衝突検知信号が入力する第2入力部85と、テンションレデューサの動作を制御、具体的には電磁ソレノイド26への通電を制御するための制御信号を出力する出力部84とが接続されている。なお、図1においては作図の便宜上、ベルト装着検出部7から制御部8へ入力する信号を示す矢印を省略している。
【0018】
図3は、テンションレデューサ機能及びプリテンショナ機能の制御に係るCPU80の処理手順を示すフローチャート、図4は、車両衝突及びベルト装着の有無と、テンションレデューサ機能のオンオフ状態との関係を示す図表である。まず、CPU80は、衝突検知信号を取得する(ステップS11)。そして、衝突検知信号の信号レベルが所定レベル以上であるか否かを判定する(ステップS12)。所定レベル未満であると判定した場合(ステップS12:NO)、CPU80は、ベルト装着検出部7からシートベルト装着信号を取得し(ステップS13)、シートベルト1の装着の有無を判定する(ステップS14)。ステップS12で所定レベル以上であると判定した場合(ステップS12:YES)、又はステップS14でシートベルト1を装着していないと判定した場合(ステップS14:NO)、CPU80は、テンションレデューサ機能をオフ状態に制御、つまりシートベルト1が強い付勢力で巻き取られるように、電磁ソレノイド26を非通電状態に制御し(ステップS16)、処理を終える。シートベルト1を装着していると判定した場合(ステップS14:YES)、CPU80は、テンションレデューサ機能をオン状態に制御、つまりシートベルト1が弱い付勢力で巻き取られるように、電磁ソレノイド26を通電状態に制御し(ステップS15)、処理を終える。
【0019】
このように構成された乗員保護装置にあっては、テンションレデューサ機能及びプリテンショナ機能を同一機構で構成し、装置を簡素化及び小型化することができる。
【0020】
更に、車両衝突時のシートベルト1の巻き取り力を乗員Aの体格、体重等に応じて増減させることができ、より効果的に乗員Aを初期拘束することができる。
【0021】
更にまた、バックル4にシートベルト検出スイッチを設ける場合に必要となるケーブル、即ちバックル4のシートベルト検出スイッチからシートベルトリトラクタ2へ引き回すケーブルが不要になり、装置全体をより簡素化及び小型化することができる。
【0022】
(変形例1)
変形例1に係る乗員保護装置は、シートベルト1の巻き取り量によって、シートベルト1の装着を検出するように構成したものである。
【0023】
変形例1に係る乗員保護装置は、バックル4に設けたベルト装着検出部7に代えて、シートベルト1の巻き取り量を検出する巻取量センサを備える。巻取量センサは、可動片を有する常閉接点型のリミットスイッチであり、可動片が巻取軸まわりに巻回されたシートベルト1の最外周面に当接するような位置及び姿勢で、フレームの適宜箇所に固定されている。巻取量センサは、シートベルト1が所定量以上引き出されて可動片が押されていない状態になった場合、オン状態となり、シートベルト1の引き出し量が所定量未満で可動片が押されている状態になった場合、オフ状態となる。制御部8は、巻取量センサのオンオフ状態を検出することによって、シートベルト1の装着を検出する。
【0024】
変形例1に係る乗員保護装置にあっては、シートベルトリトラクタ2側でシートベルト1の装着を検出するように構成されているため、バックル4に設けたベルト装着検出部7と、シートベルトリトラクタ2側の制御部8とを接続するケーブル及びケーブルを引き回すスペースが不要になる。従って、乗員保護装置をより簡素化及び小型化することができる。
【0025】
本発明の他の目的は、ベルトの巻き取り量を検出するセンサによって、シートベルトの装着を検知するように構成することにより、バックルにシートベルト検出スイッチを設ける場合に必要となるケーブル、即ちバックルのシートベルト検出スイッチからシートベルトリトラクタへ引き回すケーブルが不要になり、装置全体をより簡素化及び小型化することができる乗員保護装置を提供することにある。
【0026】
本発明に係る乗員保護装置は、前記ベルト装着検出手段は、ベルトの巻き取り量を検出するセンサであることを特徴とする。
【0027】
本発明に係る発明にあっては、ベルト装着検出部(ベルト装着検出手段)が、シートベルトの巻き取り量を検出するセンサ、例えばリミットスイッチによって、シートベルトの装着を検出する。シートベルトの巻き取り量が所定量以上である場合、シートベルトが装着されていない状態、所定量未満である場合、シートベルトが装着されている状態と考えられるため、シートベルトの巻き取り量によってシートベルトの装着を検出することができる。
シートベルトの巻き取り量を検出するセンサによってシートベルトの装着を検出するように構成した場合、シートベルト検出スイッチをバックルに備える場合に必要となるケーブル、ケーブルの配線スペースが不要になる。
【0028】
本発明に係る発明によれば、バックルにシートベルト検出スイッチを備える場合に必要となるケーブル、即ちバックルからシートベルトリトラクタへ引き回すケーブルが不要になり、装置全体をより簡素化及び小型化することができる。
【0029】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0030】
1 シートベルト
2 シートベルトリトラクタ
7 ベルト装着検出部(ベルト装着検出手段)
8 制御部
9 衝突検知センサ(衝突検知手段)
80 CPU
A 乗員

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員を拘束保護するためのシートベルトを巻き取る巻取軸を、該シートベルトの巻き取り方向へ付勢する付勢手段と、該付勢手段によって前記巻取軸に加えられる付勢力を変化させるテンションレデューサとを備える乗員保護装置において、
前記シートベルトの装着を検出するベルト装着検出手段と、
車両の衝突を検知する衝突検知手段と、
前記ベルト装着検出手段が前記シートベルトの非装着を検出した場合、第1付勢力で前記シートベルトが巻き取られるように、前記テンションレデューサの動作をオフ状態に制御する手段と、
前記ベルト装着検出手段が前記シートベルトの装着を検出した場合、前記衝突検知手段が車両の衝突を検知したとき、第1付勢力で前記シートベルトが巻き取られるように、前記テンションレデューサの動作をオフ状態に制御し、前記衝突検知手段が車両の非衝突を検知したとき、第1付勢力より弱い第2付勢力で前記シートベルトが巻き取られるように、前記テンションレデューサの動作をオン状態に制御する手段と
を備えることを特徴とする乗員保護装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−47098(P2013−47098A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−240615(P2012−240615)
【出願日】平成24年10月31日(2012.10.31)
【分割の表示】特願2008−158196(P2008−158196)の分割
【原出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(503358097)オートリブ ディベロップメント エービー (402)
【復代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
【復代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
【Fターム(参考)】