説明

乗客コンベアの欠損判定方法及び乗客コンベア用部材

【課題】乗客コンベアの部材が欠損した場合に、欠損箇所を容易に判定することができる乗客コンベアの欠損判定方法及び乗客コンベヤ用部材を提供する。
【解決手段】本発明の実施形態に係る乗客コンベアの欠損判定方法は、無端状に連結された複数の踏段が周回移動して動作する乗客コンベアにおいて、乗客コンベアの運転中に外部に露出されるよう乗客コンベアに組み込まれ、蓄光材が添加された材料で作成され、少なくとも外部に露出される表面が被覆される乗客コンベア用部材に対して、被覆された表面に光を照射する照射ステップを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、乗客コンベアの欠損判定方法及び乗客コンベア用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
エスカレータなどの乗客コンベアでは、これを構成する各部材、具体的には、例えば踏段、乗降板、移動手すり等に、破損や摩滅などの欠損が生じることがある。例えば、踏段の踏み面には利用者の挟まれ防止を目的とした溝状のクリートが設けられるが、このクリートに外力が加わると、踏み面が軽合金ダイカストで構成された場合でも折損してしまうことがある。
【0003】
このようなクリートの破損など乗客コンベアの各部材の欠損は、乗客コンベアの安全運行の点から早期に発見し対応することが必要である。従来、このような欠損発生の判定は、乗客コンベアを動かしながら作業員が目視で行うのが一般的であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−211190号公報
【特許文献2】特開平5−037908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の乗客コンベアの欠損判定では、作業員の目視により実施されるため、判定に時間がかかり、また欠損箇所を見落とす場合があること、または乗客コンベアを動かしながら動いている踏段に接近して作業員が目視で確認するため、判定作業に危険性が伴うこと、などの問題があった。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、乗客コンベアの部材が欠損した場合に、欠損箇所を容易に判定することができる乗客コンベアの欠損判定方法及び乗客コンベア用部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の実施形態に係る乗客コンベアの欠損判定方法は、無端状に連結された複数の踏段が周回移動して動作する乗客コンベアにおいて、乗客コンベアの運転中に外部に露出されるよう乗客コンベアに組み込まれ、蓄光材が添加された材料で作成され、少なくとも外部に露出される表面が被覆される乗客コンベア用部材に対して、被覆された表面に光を照射する照射ステップを含むことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施形態に係るエスカレータ(乗客コンベア)の下階側の概略構成を示す縦断面図である。
【図2】図1に示す踏段の斜視図である。
【図3】図2の踏段の踏み面のIII−III断面を拡大視した図である。
【図4】実施形態のエスカレータ(乗客コンベア)における欠損判定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、実施形態に係る乗客コンベアの欠損判定方法及び乗客コンベア用部材を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0010】
本実施形態では、無端状に連結された踏段が周回移動するよう動作する乗客コンベアの一例としてエスカレータを挙げて説明する。まずは、図1〜3を参照して本実施形態に係るエスカレータ1の構成について説明する。図1は、実施形態に係るエスカレータ(乗客コンベア)1の下階側の概略構成を示す縦断面図であり、図2は、図1に示す踏段2の斜視図であり、図3は、図2の踏段2の踏み面2aのIII−III断面を拡大視した図である。
【0011】
エスカレータ1は、図1に示すように、無端状に連結された複数の踏段2を備え、これらの踏段2を下階の乗降口3と上階の乗降口(図示せず)との間で周回移動することで、踏段2の上面の踏み面2a上に乗った利用者を上方または下方に搬送することができる。踏段2は、前輪2b及び後輪2cをそれぞれ誘導する前輪レール4および後輪レール5に沿って移動可能に配置され、前輪レール4および後輪レール5の位置関係によって、隣り合う踏段2同士が水平状または階段状となるよう構成されている。例えば、エスカレータ1が上昇方向に稼動する場合、図1に示す下階側では、踏段2は、トラス内を上階側から踏み面2aを下方に向けた水平状で下降し、下部機械室6にて反転され、乗降口3から水平状に進出される。そして、前輪レール4および後輪レール5の間隔が変更される下部遷移カーブにて、隣接する踏段2の間の段差を拡大してゆき階段状に遷移されてゆく。エスカレータ1が下降方向に稼動する場合には上記と逆の動作となる。
【0012】
踏段2には、図2,3に示すように、上面の踏み面2aに踏段2の移動方向に沿って溝状の複数のクリート11が形成されている。同様に、踏段2が階段状となったときに蹴上げ部となるライザ面2dにも、上下方向にクリート11が形成されている。
【0013】
乗降口3には、図1に示すように、利用者がエスカレータ1の乗降時にその上を通行する乗降板7が設けられており、乗降板7の上階側の端部にはコム8が取り付けられている。コム8は、その先端部の下面に複数のくし歯が突設されており、これらのくし歯を、踏段2の踏み面2a上に形成されている複数のクリート11の間に入り込め相対移動可能に配置されている。なお、乗降板7は、下部機械室6の天井を兼ねることができる。また、図1に図示しない上階側の乗降口でも同様に構成されている。
【0014】
また、エスカレータ1は、踏段2の進行方向における両脇に欄干9を備え、この欄干9の外周に沿って環状の移動手すり10が取り付けられている。移動手すり10は、踏段2の移動に合わせて踏段2と同方向に周回移動するよう構成されている。なお、踏段2及び移動手すり10は、図示しない減速機や電動機などで構成される駆動源により駆動される。
【0015】
そして特に本実施形態では、欠損発生が判定されるエスカレータ1の部材(乗客コンベア用部材)として踏段2の踏み面2aが対象とされている。
【0016】
このような欠損判定の対象としての踏段2は、軽金属ダイカスト等のアルミ合金やステンレス鋼材などの金属材料に蓄光材を添加した上で鋳造されている。蓄光材は、紫外線などの光が照射されると、照射された紫外線を蓄光することで発光することができる性質をもつ。さらに、踏段2は、表面が塗装され、蓄光材が露出しないよう塗料12で被覆され、紫外線Lを照射しても表面が発光しないよう構成されている。例えば、踏段2の踏み面2aでは、図3に符号11aで示すように、クリート11の形状に沿って塗料12で被覆されている。なお、踏段2の踏み面2aやライザ面2dが別部品で構成される場合には、踏み面2aの部材のみに蓄光材を添加して塗装する構成としてもよい。また、塗装による被覆は、踏段2の踏み面2aのうち、少なくとも外部に露出される部分に施せばよい。
【0017】
ここで、欠損発生が判定されるエスカレータ1の部材としては、踏段2の踏み面2a以外も選択することができる。本実施形態で欠損判定の対象となる部材(乗客コンベア用部材)は、広義には「エスカレータ(乗客コンベア)1の運転中に外部に露出されるようエスカレータ1に組み込まれる部材」と定義することができる。より詳細には、エスカレータ1の運転中に利用者と接触する機会があり、外力を受けて破損したり、利用者との接触の繰り返しで摩滅しやすい部材(例えば、踏段2の踏み面2a、乗降板7、移動手すり10の表側)や、または、エスカレータ1の動作部分に関わり、他部材との接触により破損や摩滅が発生する可能性の高い部材(例えば乗降口3のコム8、踏段2のライザ面2d、移動手すり10の裏側)などが挙げられる。そして、これらの部材の少なくとも1つの部材が本実施形態で欠損判定の対象とされ、上述のように蓄光材を添加された材料で作成され、少なくとも外部に露出される表面が被覆されるよう構成される。
【0018】
また、本実施形態では、図1に示すように、下部機械室6内に、踏段2の踏み面2aを紫外線Lで照射する紫外線ランプ13と、紫外線ランプ13で紫外線Lを照射されて踏み面2aを撮影するカメラ14が設けられている。紫外線ランプ13及びカメラ14は、例えば図1に示すようにブラケット15を介して下部機械室6(トラス)を横切る梁などに連結固定される構成としてもよいし、または、乗降板7から吊り下げてもよいし、三脚などを用いて下部機械室6内に配置してもよい。
【0019】
カメラ14は、外部の欠損判定部16に電気的に接続されており、欠損判定部16は、カメラ14により撮影された踏段2の踏み面2aの画像データをカメラ14から受信し、この画像データを用いて、踏段2の踏み面2aに破損や摩滅などの欠損が発生しているか否かを判定する欠損判定処理を実行する。
【0020】
ここで、図3を参照して、欠損判定部16による欠損判定の原理を説明する。図3に符号11aで示すように、踏段2の踏み面2a上のクリート11の表面に塗料12が被覆されている状態では、蓄光材を添加された部分は露出していないため、紫外線ランプ13により紫外線Lが照射されても踏み面2aは発光しない。
【0021】
これに対し、符号11bで示すようにクリート11が折損している状態や、符号11cで示すようなクリート11が摩滅している状態では、クリート11の表面を被覆していた塗料12が剥げて蓄光材を添加された部分が外部に露出するため、紫外線ランプ13により紫外線Lが照射されると、露出している蓄光材が照射された紫外線Lを蓄光して発光する。つまり、踏み面2a上の欠損部分のみが発光することになる。
【0022】
この現象を利用して、欠損判定部16は、カメラ14により撮影された踏み面2aの画像データを解析して、蓄光材の発光の有無を検出し、発光する箇所を検出した場合に、この踏み面2aに欠損が発生しているものと判定することができるよう構成されている。
【0023】
欠損判定部16は、物理的には、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)などを有するコンピュータである。欠損判定部16の機能は、ROMに保持されるアプリケーションプログラムをRAMにロードしてCPUで実行することによって、RAMやROMにおけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。
【0024】
次に、図4を参照して、本実施形態に係るエスカレータ1の欠損判定方法について説明する。図4は、本実施形態のエスカレータ1における欠損判定処理を示すフローチャートである。
【0025】
図4に示す処理は、例えば、エスカレータ1の定期点検時に実施される。また、このフローチャートの欠損判定処理を実施するための前提条件として、欠損発生が判定されるエスカレータ1の部材としての踏段2の踏み面2aが、蓄光材を添加した材料で形成され、さらにこの踏み面2aの表面が塗装され塗料12で被覆されていることが必要である。
【0026】
まず、紫外線ランプ13により、踏段2の踏み面2aに紫外線Lが照射され(S101:照射ステップ)、カメラ14により、紫外線Lを照射された踏み面2aが撮影される(S102)。カメラ14により撮影された踏段2の踏み面2aの画像データは欠損判定部16に送信される。
【0027】
次に、欠損判定部16により、踏段2の踏み面2aの画像データが解析され、撮影した画像から発光箇所が検知される(S103:検知ステップ)。そして、踏段2の踏み面2aの表面に発光箇所があったか否かが確認され(S104:判定ステップ)、発光箇所があった場合には、この踏み面2aに折損や摩滅などの欠損が発生したものと判定される(S105:判定ステップ)。一方、踏段2の踏み面2aの表面に発光箇所が無かった場合には、この踏み面2aに欠損が無いものとして、そのまま処理を終了する。
【0028】
次に、本実施形態に係るエスカレータ1の欠損判定方法及びエスカレータ1に用いるエスカレータ1用部材の効果について説明する。
【0029】
本実施形態のエスカレータ1に用いるエスカレータ1用部材、具体的には踏段2の踏み面2aは、エスカレータ1の運転中に外部に露出されるようエスカレータ1に組み込まれ、蓄光材が添加された材料で作成され、少なくとも外部に露出される表面が被覆されている。
【0030】
そして、本実施形態のエスカレータ1の欠損判定方法では、このようなエスカレータ1用部材(踏段2の踏み面2a)に対して、紫外線ランプ13によりこの踏み面2aの被覆された表面に紫外線Lが照射される。
【0031】
このような構成により、踏み面2aの表面に何らかの欠損が発生している場合には、欠損箇所では被覆されていた蓄光材が露出するため、紫外線Lの照射に応じて蓄光材が紫外線Lを蓄光して発光する。したがって、紫外線Lが照射された後の踏み面2a上において、蓄光材の発光の有無を確認するだけで、この踏み面2aに欠損が発生しているか否かを迅速かつ高精度に判定することができる。このように、本実施形態によれば、エスカレータ1の部材が欠損した場合に、欠損箇所を容易に判定することができる。
【0032】
また、本実施形態のエスカレータ1の欠損判定方法では、欠損判定部16により、紫外線Lを照射された踏段2の踏み面2aの表面から発光している箇所を検知する処理が行われる。そして、踏み面2aの表面で発光している箇所が検知された場合に、踏み面2aに欠損が発生していることが判定される。
【0033】
この構成により、踏み面2aの表面に何らかの欠損が発生した場合に、欠損判定部16が、自動的に紫外線Lを照射された踏段2の踏み面2aの発光を検知し、踏み面2aに欠損が発生していることを判定することができる。これにより、従来の作業員の目視による欠損判定手法と比べて、欠損判定の精度をより一層向上させることができる。また、欠損判定の対象である踏段2の踏み面2aを、作業員が動いている踏段に接近して直接目視する必要がなくなるので、欠損判定作業の安全性を向上できる。
【0034】
また、本実施形態のエスカレータ1の欠損判定方法では、欠損判定の対象となるエスカレータ1用部材とは、踏段2の踏み面2aと、乗降口3にて踏み面2aのクリート11と噛み合うコム8と、踏段2のライザ面2dと、乗降口3の乗降板7と、移動手すり10と、のうち少なくとも1つを含む。この構成により、エスカレータ1のさまざまな部材の折損や摩滅などの欠損の発生を迅速且つ正確に判定できるので、エスカレータ1の保守点検作業の効率を向上させることができる。
【0035】
なお、上記実施形態では、無端状に連結された踏段が周回移動するよう動作する乗客コンベアの一例としてエスカレータ1を挙げて説明したが、本実施形態は、エスカレータ1に限らず、動く歩道など他のタイプの乗客コンベアにも同様に適用することができる。
【0036】
また、上記実施形態では、欠損判定の対象となるエスカレータ1用部材(踏段2の踏み面2aなど)において、蓄光材を添加された部材の表面が塗装され塗料12で被覆される構成としたが、蓄光材を被覆できれば塗装以外の手法を適用してもよい。
【0037】
また、上記実施形態では、蓄光材を添加された部材の発光有無検出のために紫外線Lを照射していたが、蓄光材を発光させることが可能であれば紫外線L以外の光(例えば自然光など)を照射する構成としてもよいし、または、紫外線L以外で発光する他の蓄光材料を適用してもよい。
【0038】
また、上記実施形態では、欠損判定部16がカメラ14により撮影された画像データを解析して欠損判定をおこなっているが、欠損判定部16の代わりにカメラ14の撮像画像を表示するモニタを設置し、作業員がこのモニタに表示される画像を目視することで蓄光材の発光有無を確認する構成としてもよい。
【0039】
また、上記実施形態では、カメラ14により撮影された画像データを解析して蓄光材の発光の有無を検出しているが、例えば光センサで発光を検出するなど他の検出手法を用いてもよい。
【0040】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0041】
1 エスカレータ(乗客コンベア)
2 踏段
2a 踏段の踏み面(乗客コンベア用部材)
2d 踏段のライザ面(乗客コンベア用部材)
7 乗降板(乗客コンベア用部材)
8 コム(乗客コンベア用部材)
10 移動手すり(乗客コンベア用部材)
L 紫外線(光)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状に連結された複数の踏段が周回移動して動作する乗客コンベアにおいて、前記乗客コンベアの運転中に外部に露出されるよう前記乗客コンベアに組み込まれ、蓄光材が添加された材料で作成され、少なくとも外部に露出される表面が被覆される乗客コンベア用部材に対して、前記被覆された表面に光を照射する照射ステップ
を含むことを特徴とする乗客コンベアの欠損判定方法。
【請求項2】
前記照射ステップにおいて前記光を照射された前記乗客コンベア用部材の表面から発光している箇所を検知する検知ステップと、
前記検知ステップにおいて前記乗客コンベア用部材の表面で発光している箇所が検知された場合に、前記乗客コンベア用部材に欠損が発生していることを判定する判定ステップと、
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の乗客コンベアの欠損判定方法。
【請求項3】
前記乗客コンベア用部材とは、前記踏段の踏み面と、乗降口にて前記踏み面のクリートと噛み合うコムと、前記踏段のライザ面と、前記乗降口の乗降板と、移動手すりと、のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の乗客コンベアの欠損判定方法。
【請求項4】
無端状に連結された複数の踏段が周回移動して動作する乗客コンベアに用いる乗客コンベア用部材であって、
前記乗客コンベアの運転中に外部に露出されるよう前記乗客コンベアに組み込まれ、
蓄光材が添加された材料で作成され、少なくとも外部に露出される表面が被覆される、
ことを特徴とする乗客コンベア用部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−49538(P2013−49538A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189153(P2011−189153)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】