説明

乗客コンベア装置

【課題】
踏段が有する横方向の遊びを確保しながら、踏段とスカートガードとの間隙の管理を容易にする乗客コンベア装置を提供する。
【解決手段】エスカレータ20などの乗客コンベア装置1は、エスカレータ20の踏段2に設けられた一対の追従ローラ7を受け、追従ローラ7とほぼ同じ横幅を有する溝部13と、溝部13の端部に起立して設けられ、追従ローラ7の横方向の動きを規制するガイド部14とを有する追従レール8aにより、踏段2が有する横方向の遊びを確保しながら、踏段2とスカートガード21との隙間(d)を管理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗客コンベア装置に係り、特に、乗客コンベアの踏段に設けられた駆動ローラと、駆動ローラを受ける駆動レールとの隙間を規制することにより、乗客コンベアの踏段とスカートガードとの隙間を調整する乗客コンベア装置に関する。
【背景技術】
【0002】
乗客コンベアとは、例えば、エスカレータ、動く歩道などの乗客を輸送する装置をいう。図3に、一般的な乗客コンベア装置30としてエスカレータ20の場合の構成を示す。エスカレータ20の乗客は、ステップ面3及びライザ面4を有する踏段2に乗って移動する。そして、踏段2は、前輪である一対の駆動ローラ5と、後輪である一対の追従ローラ7により支持されて走行する。2つの駆動ローラ5はステップ軸9を介して連結され、踏段チェーン10により駆動されて駆動レール6上を走行する。この踏段チェーン10は、エスカレータ20の上部に設けられた駆動ユニット(図示せず)、及び駆動チェーン(図示せず)により駆動される。また、2つの追従ローラ7はL字型の追従レール8´上を走行する。
【0003】
図4に、エスカレータ20を上方から見た図を示す。エスカレータ20の手摺17の内側にはスカートガード21が設けられて乗客を保護する。踏段2のステップ面3とスカートガード21との隙間(d)は、余り大きいとその隙間(d)に物が挟まったり、落下したりするため、検査基準(JIS A−4302)として片側5mm以内、左右で10mm以内となっている。エスカレータメーカーの社内基準ではこの検査基準よりも更に厳しい基準が設定されている。また、この隙間(d)は、余り小さいと、踏段2に乗る乗客の横方向の移動や踏段2が有する横方向の遊びにより、ステップ面3とスカートガード21とが接触し、スカートガード21面に疵がついたり、軋み音が発生したり、エスカレータ20の駆動装置に悪影響が発生したりする。そのため、この隙間(d)は、ある程度の間隔を確保しなければならない。
【0004】
図5に、従来の乗客コンベア装置30の踏段2が有する横方向の遊びを示す。また、図6に、図5に示す乗客コンベア装置30の各部の部分詳細を示す。図6(a)は図5中の(a)の部分詳細であり、図6(b)は図5中の(b)の部分詳細であり、図6(c)は図5中の(c)の部分詳細である。上述した踏段2が有する横方向の遊びは、図6(a)に示す、U型溝の駆動レール6とその溝内を移動する駆動ローラ5の両側に取付けられた摺動板12との隙間(d1)、図6(b)に示す、ステップリンク10を受けるステップリンクブッシュ11と分割止め輪18aの隙間(d2)、及び図6(c)に示す、ステップ口金19と分割止め輪18bの隙間(d3)により決まる。一方、図5に示す、従来の追従ローラ7はL字型の追従レール8´上に載置される。この追従レール8´は、追従ローラ7の走行位置を規制する機能は有しない。
【0005】
【特許文献1】特開2001−316066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のエスカレータでは、踏段とスカートガードとの間隙の調整は、踏段の駆動ローラと、駆動ローラを受けるU字型の駆動レールとの隙間を規制することにより、踏段の直進性が図られていた。しかし、乗客コンベア装置の踏段は、上述したように横方向の遊びを有するため、踏段とスカートガードとの間隙の調整を維持するにはメンテナンスが必要になるという問題があった。
【0007】
すなわち、各隙間において、部品が相互に擦れることによる磨耗が進行すると、踏段の横方向の遊びが大きくなり、上述した基準値を維持することが困難になる。また、踏段を構成する個々の部品の製作誤差の加わるため、踏段とスカートガードとの所望の隙間を確保することはさらに難しくなる。
【0008】
一方、各隙間を小さくすることにより、踏段の横方向の遊びは小さくできるが、例えば、各部品の摺動による異常音の発生、各部品の早期磨耗、或いは駆動ローラの軸受けへの負担増による軸受けの破損などの不具合が発生する虞がある。
【0009】
本願の目的は、かかる課題を解決し、踏段が有する横方向の遊びを確保しながら、踏段とスカートガードとの間隙の管理を容易にする乗客コンベア装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る乗客コンベア装置は、乗客コンベアの踏段に設けられた駆動ローラと、駆動ローラを受ける駆動レールとの隙間を規制することにより、乗客コンベアの踏段とスカートガードとの隙間を調整する乗客コンベア装置において、踏段に設けられた追従ローラを受ける溝部と、溝部の端部に設けられ、追従ローラの横方向の動きを規制するガイド部とを有する追従レールにより、踏段とスカートガードとの隙間を管理することを特徴とする。
【0011】
上記構成により、乗客コンベア装置は、踏段を支持する追従ローラが走行する追従レールについて、追従ローラを受ける溝部、及び溝部の端部に設けられ追従ローラの横方向の動きを規制するガイド部を設けることで、踏段の直進性を図ることができる。すなわち、追従ローラの直進性を確保することで、踏段の横方向の遊びに影響されずに踏段とスカートガードとの間隙を容易に管理することができる。
【0012】
また、乗客コンベア装置は、溝部の横幅は追従ローラの横幅と略同じであり、溝部の端部に設けられるガイド部が、溝部の端部から起立することが好ましい。これにより、乗客コンベアの据付け時に追従レールの直進性を調整すれば、追従レールに従って移動する追従ローラにより踏段の直進性が確保できる。
【0013】
また、乗客コンベア装置は、ガイド部が、追従ローラの乗り上げが可能なように凸状に膨らんで溝部の端部から起立することが好ましい。これにより、踏段に乗った乗客の横方向の動きなどにより踏段が強制的に横方向に移動した場合であっても、追従ローラがガイド部に乗り上げることで、踏段自体を拘束することがない。
【0014】
また、乗客コンベア装置は、一対の追従レールの一方側が、溝部の両端にガイド部を備えることが好ましい。これにより、乗客コンベアの据付け時において、一方側の追従レールの据付け精度のみを管理することで、踏段とスカートガードとの所望の隙間を確保することができる。
【0015】
また、乗客コンベア装置は、両方の追従レールが、それぞれの溝部の外側の端部にガイド部を備えることが好ましい。また、両方の追従レールが、それぞれの溝部の内側の端部にガイド部を備えることが好ましい。これにより、踏段とスカートガードとの隙間の管理について、それぞれ直近の追従レールの据付け精度を管理することで、踏段とスカートガードの両側の隙間についてそれぞれ所望の隙間を確保することができる。
【0016】
さらに、乗客コンベア装置は、追従レールの溝部には、長さ方向に所定のピッチで孔が明けられることが好ましい。これにより、ガイド部に挟まれた溝部に堆積した塵埃や落下物を自然に排除することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明に係る乗客コンベア装置によれば、踏段が有する横方向の遊びを確保しながら、踏段とスカートガードとの間隙の管理を容易にする乗客コンベア装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、図面を用いて本発明に係る乗客コンベア装置の実施の形態につき、詳細に説明する。
【0019】
図1に、乗客コンベア装置の1つの実施形態の概略構成を示す。図2に、図1の追従レールの構成についての複数の実施例を示す。エスカレータ20の乗客コンベア装置1は、踏段2に設けられた一対の駆動ローラ5、駆動ローラ5を受ける駆動レール6、駆動レール6を連結するステップ軸9、一対の追従ローラ7、及び追従ローラ7を受ける追従レール8a,8bから構成される。
【0020】
駆動ローラ5と駆動ローラ5が走行するU字型の駆動レール6との間には一対の摺動板12が設けられる。また、駆動ローラ5は、エスカレータ20の上部に設けられた駆動ユニット(図示せず)に連結されたステップリンク(又は踏段チェーン)10により駆動される。このため、駆動ローラ5と連結するステップ軸9には一対の分割輪止め18aが取り付けられ、その分割輪止め18aの間にステップリンク10を受けるステップリンクブッシュ11が挿入される。また、踏段2はステップ口金19に連結される。そして、ステップ軸9には一対の分割輪止め18bが取り付けられ、その分割輪止め18bの間にステップ口金19が挿入される。さらに、追従ローラ7は、支持部材24を介して踏段2に固定される。
【0021】
従って、踏段2の横方向の遊びは、図6(a)に示すように、U型溝の駆動レール6とその溝内を移動する駆動ローラ5の両側に取付けられた摺動板12との隙間(d1)、図6(b)に示すように、ステップリンクブッシュ11と分割止め輪18aの隙間(d2)、及び図6(c)に示すように、ステップ口金19と分割止め輪18bの隙間(d3)により決まる。すなわち、一対の駆動ローラ5とそれらの駆動ローラ5を連結するステップ軸9は、駆動レール6、ステップリンク10、及び踏段2とに対して隙間(d1,d2,d3)を設けて横方向の遊びを有する。この遊びにより、各隙間において部品が相互に擦れることにより磨耗するなどに対処している。また、踏段2に乗っている乗客の横方向の移動に追従し、或いは踏段2とスカートガード21との隙間(d)に物が挟まった場合に抜き取るための動きを許容している。
【0022】
図1及び図2(a)に示す本発明に係る一対の追従レール8は、図1及び図2に向かって左側の追従レール8aと、右側の追従レール8bとが組み合わされる。そして、追従レール8aは、追従ローラ7を受ける溝部13と、溝部13の両端部に設けられ、追従ローラ7の横方向の動きを規制するガイド部14とから構成される。一方、追従レール8bは、従来のL字型の形状であり、追従ローラ7の横方向の動きは規制しない。この追従レール8aの溝部13の横幅が追従ローラ7の横幅と略同じである。従って、追従ローラ7と追従レール8aとには、横方向の遊びがない。また、追従ローラ7は、支持部材24を介して踏段2に固定されているため、原則として追従レール8aの溝部13に沿って走行する。
【0023】
追従レール8aの溝部13の両端に設けられるガイド部14は、溝部13の端部から起立し、追従ローラ7の乗り上げが可能なように凸状に膨らんで溝部13の端部に接続される。上述したように、追従ローラ7は追従レール8aの溝部13に沿って走行するが、ガイド部14により追従ローラ7横方向の動きを拘束すると問題が発生する。例えば、踏段2に乗っている乗客により横方向の移動が発生するからである。また、踏段2とスカートガード21との隙間(d)に物が挟まった場合に抜き取らなければならないからである。追従レール8aのガイド部14の形状により、踏段2から横方向の動きが加えられた追従ローラ7は、一時的にガイド部14の凸状に膨らんだ部分に乗り上げる。そして、横方向の動きが減少するとこの凸状に膨らんだ部分の傾斜により溝部13に復帰する。
【0024】
この追従レール8の構成により、踏段2の追従ローラ7は追従レール8aの溝部13の直進性に従って移動し、踏段2とスカートガード21との隙間(d)は、この追従レール8aの溝部13の直進性に依存する。また、踏段2から加えられた横方向の動きに対しては、追従レール8aのガイド部14により吸収される。一方、一対の駆動ローラ5とそれらの駆動ローラ5を連結するステップ軸9は、駆動レール6、ステップリンク10、及び踏段2とに対する隙間(d1,d2,d3)が確保される。
【0025】
図1及び図2(a)に示す追従レール8の実施例では、一方側の追従レール8aは、溝部13の両端にガイド部14を備えるが、他方側の追従レール8bは、従来の追従レール8´と同様にL字型である。この追従レール8a及び追従レール8bは、左右が逆であっても良い。このように、追従ローラ7の直進性を片方の追従レール8aのみで行うことで、エスカレータ20の据付け時において、片側の追従レール8aの据付け精度のみを管理すればよいことになる。これにより、踏段2とスカートガード21との所望の隙間(d)を確保することが容易となる。
【0026】
図2(b)に示す実施例では、両方の追従レール8cは、それぞれの溝部13の外側の端部にガイド部14を備える。また、図2(c)に示す実施例では、両方の追従レール8dは、それぞれの溝部13の内側の端部にガイド部14を備える。踏段2とスカートガード21との隙間(d)の管理について、それぞれ直近の追従レール8c,8dの据付け精度を管理することで所望の隙間(d)を確保することができる。また、踏段2の乗り上げに対しては、乗り上げの方向により、左右の追従レール8c,8dがそれぞれ分担し安定した対処ができる。
【0027】
図7に、追従レール8aに設けられた孔22を断面で示す。追従レール8aの溝部13には、長さ方向に所定のピッチで孔22が明けられる。これにより、従来のL字型の追従レール8´と比較して、両側のガイド部14により形成された凹状の溝部13に堆積した塵埃や落下物を自然に排出できる。
【0028】
以上の構成により、乗客コンベア装置1は、踏段2を支持する追従ローラ7が走行する追従レール8a,8b,8cに、追従ローラ7を受ける溝部13、及び溝部13の端部に設けられ追従ローラ7の横移動を規制するガイド部14を設けることで、踏段2が有する横方向の遊びを確保しながら、踏段2とスカートガード21との隙間(d)を管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る乗客コンベア装置の1つの実施形態の概略構成を示す側面図である。
【図2】図1の追従レールの構成についての複数の実施例を示す部分詳細図である。
【図3】一般的な乗客コンベア装置を示す斜視図である。
【図4】エスカレータを上部から見た平面図である。
【図5】従来の乗客コンベア装置の踏段が有する横方向の遊びを示す側面図である。
【図6】図5に示す乗客コンベア装置の各部の詳細を示す部分詳細図である。
【図7】追従レールに設けられた孔を示す断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1,30 乗客コンベア装置、2 踏段、3 ステップ面、4 ライザ面、5 駆動ローラ、6 駆動レール、7 追従ローラ、8,8´ 追従レール、9 ステップ軸、10 ステップリンク(踏段チェーン)、11 ステップリンクブッシュ、12 摺動板、13 溝部、14 ガイド部、17 手摺、18a,18b 分割止め輪、19 ステップ口金、20 エスカレータ、21 スカートガード、22 孔、24 支持部材、d,d1,d2,d3 隙間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客コンベアの踏段に設けられた駆動ローラと、駆動ローラを受ける駆動レールとの隙間を規制することにより、乗客コンベアの踏段とスカートガードとの隙間を調整する乗客コンベア装置において、
踏段に設けられた追従ローラを受ける溝部と、溝部の端部に設けられ、追従ローラの横方向の動きを規制するガイド部とを有する追従レールにより、踏段とスカートガードとの隙間を管理することを特徴とする乗客コンベア装置。
【請求項2】
請求項1に記載の乗客コンベア装置であって、溝部の横幅は追従ローラの横幅と略同じであり、溝部の端部に設けられるガイド部は、溝部の端部から起立することを特徴とする乗客コンベア装置。
【請求項3】
請求項2に記載の乗客コンベア装置であって、ガイド部は、追従ローラの乗り上げが可能なように凸状に膨らんで溝部の端部から起立することを特徴とする乗客コンベア装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1に記載の乗客コンベア装置であって、一対の追従レールの一方側は、溝部の両端にガイド部を備えることを特徴とする乗客コンベア装置。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1に記載の乗客コンベア装置であって、両方の追従レールは、それぞれの溝部の外側の端部にガイド部を備えることを特徴とする乗客コンベア装置。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか1に記載の乗客コンベア装置であって、両方の追従レールは、それぞれの溝部の内側の端部にガイド部を備えることを特徴とする乗客コンベア装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1に記載の乗客コンベア装置であって、追従レールの溝部には、長さ方向に所定のピッチで孔が明けられることを特徴とする乗客コンベア装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−173740(P2010−173740A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−15166(P2009−15166)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】