説明

乗客コンベア

【課題】駆動装置の交換を簡単に行える乗客コンベアを提供する。
【解決手段】電動機4と電磁ディスクブレーキ13とを有する駆動装置1と、前記電磁ディスクブレーキ13の電磁コイル13aに給電して、前記電磁ディスクブレーキ13を開放するブレーキ回路56とを有し、前記ブレーキ回路56を構成する一部の部品が前記駆動装置1に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、乗客コンベアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、設置年数が十数年経過した古い乗客コンベアは各装置が経年劣化するため、エスカレータ全体を入れ替える工事が増えてきている。この工事を実施している間は、乗客コンベアを利用することができず、上下階の動線を失うことになり、建物利用者にかなりの負担を強いることになる。
【0003】
そこで乗客コンベアを停止することができない物件においては、モータ、減速機、電磁ディスクブレーキ、駆動チェーン等で構成される駆動装置のみを交換する工事を実施することがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−321181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のように駆動装置のみを交換する工事においては、交換前の電磁ディスクブレーキの電磁コイルへの励磁電圧と、交換後の電磁ディスクブレーキの電磁コイルへの励磁電圧とが異なる場合がある。そのため、駆動装置の交換後に、交換後の励磁電圧となるように、駆動装置とは別に設置された制御盤内部のブレーキ回路を改造する必要があった。
【0006】
この改造作業は、現状の制御盤とは配線や部品配置が異なった古い制御盤の改造となるため、配線間違いを発生させる問題点があった。
【0007】
そこで本発明は、上記問題点に鑑みなされたもので、乗客コンベアの駆動装置の交換を簡単に行える乗客コンベアを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態は、乗客コンベアを駆動する電動機と、前記電動機の回転を停止させる電磁ディスクブレーキとを有する駆動装置と、前記電磁ディスクブレーキの電磁コイルに給電して、前記電磁ディスクブレーキを開放するブレーキ回路と、を有し、前記ブレーキ回路を構成する少なくとも一部の部品が、前記駆動装置に設けられている、ことを特徴とする乗客コンベアである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施例に係るエスカレータの正面図である。
【図2】図1のD−D線方向から見た矢視平面図である。
【図3】制御回路の回路図である。
【図4】図2のE−E線方向から見た駆動装置を示す矢視平面図である。
【図5】図4のA−A線方向から見た矢視平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態の乗客コンベアについて、エスカレータの駆動装置1を実施例にして図1〜図5に基づいて説明する。
【0011】
(1)エスカレータの駆動装置1の構造
エスカレータの駆動装置1の構造について図1と図2を用いて説明する。
【0012】
図1に示すように、駆動装置1は、エスカレータの機械室を構成するトラスのフレーム3に固定されたベース2に載置されている。ベース2には、平行軸の減速機6が固定され、この減速機6には電動機4が載置されている。電動機4の出力軸4aにはプーリ5が固定され、減速機6の入力軸6aにはプーリ7が固定され、各プーリ5,7間にベルト8が巻き掛けられている。減速機6の入力軸6aの反プーリ側には、電磁ディスクブレーキ13が取り付けられている。
【0013】
また、駆動装置1の側方には、エスカレータの踏段を移動させるための踏段チェーンを駆動する駆動鎖歯車10が回動自在にフレーム3に固定されている。一方、減速機6の出力軸6bには鎖歯車9が固定され、駆動鎖歯車10と鎖歯車9の間には、電動機4からの駆動力を駆動鎖歯車10に伝達するチェーン11が巻き掛けられている。
【0014】
図2は、図1におけるD−D線視であって、カバー30を取り外し電磁ディスクブレーキ13に、電磁ディスクブレーキ13を給電しないで開放できる工具14を取り付けた図である。エスカレータの使用時は、工具14は外され、工具14を取り付ける穴から電磁ディスクブレーキ13内にゴミやホコリが進入しないように、軸にはカバー30がネジで固定されている。
【0015】
(2)駆動回路50の構造
次に、本実施例におけるエスカレータの駆動回路50について図3に基づいて説明する。図3は、電動機4の駆動回路50の回路図である。
【0016】
図3に示すように、駆動回路50は、電源回路52、制御回路54、ブレーキ回路56から構成されている。
【0017】
電源回路52は、電動機4へ三相の交流電源を給電する回路である。三相の交流電源から延びた電源ラインR,S,T上に遮断器40、正転用電磁接触器23の主接点23a1〜23a3、反転用電磁接触器24の主接点24a1〜3が設けられ、電動機4へ三相の交流電源を給電する。
【0018】
制御回路54は、制御装置20に制御電源を給電する回路である。電源ラインR,Sから分岐したライン上に設けられた制御回路54用の電源トランスTRを有し、この電源トランスTRには、制御回路54用の切断スイッチPBと制御装置20とが順番に接続されている。制御回路54は、機械室内部にある制御盤に配置されている。また、正転用電磁接触器23と反転用電磁接触器24とは、制御装置20内部に配され、制御装置20に接続された操作部からの正転、反転、停止の指令により動作する。すなわち、制御回路54は、正転信号が出ると正転用電磁接触器23の各接点23a1〜4を閉路し、反転信号が出ると反転用電磁接触器24の各接点24a1〜4を閉路し、停止信号が出ると正転用電磁接触器23の各接点23a1〜4、反転用電磁接触器24の各接点24a1〜4が開路する。
【0019】
ブレーキ回路56は、電磁ディスクブレーキ13の電磁コイル13aに励磁電圧を供給して、電磁ディスクブレーキ13を開放する回路であって、駆動装置1に配置されている。制御回路20用の切断スイッチPBの負荷側より分岐したラインから整流器21に交流電圧を印加し、整流器21から直流電圧が給電される。整流器21の入力側(交流側)のライン上にサージアブソーバ22が設けられ、制御回路20からのサージ電圧を吸収する。
【0020】
正転用電磁接触器23の補助接点23a4、反転用電磁接触器24の補助接点24a4とが、並列に接続され、第1の並列回路42を構成している。
【0021】
また、放電抵抗器26と電磁ディスクブレーキ13の電磁コイル13aとが、並列に接続され、第2の並列回路44が構成されている。なお、放電抵抗器26は、抵抗46とコンデンサ48が直列に接続され、電磁ディスクブレーキ13の電磁コイル13aで発生するサージ電圧を抑制する。
【0022】
第1の並列回路42、可変の直列抵抗器25、第2の並列回路44とが直列に接続され、また、サージアブソーバ35が並列に接続され、これら回路が整流器21の出力側(直流側)の正極に接続されている。なお、可変の直列抵抗器25は、電磁ディスクブレーキ13の電磁コイル13aに規定電圧が印加されるように調整される。
【0023】
(3)電磁ディスクブレーキ13の動作
次に、電磁ディスクブレーキ13の動作について説明する。
【0024】
例えば、正転信号が出て正転用電磁接触器23が投入されると、主接点23a1〜23a3が閉路して電動機4が起動して正転する。また、同時に補助接点23a4が閉路して、整流器21から電磁コイル13aに励磁電圧が印加されて電磁ディスクブレーキ13が開放され、エスカレータが正転で駆動する。
【0025】
停止信号が出て、正転用電磁接触器23の主接点23a1〜23a3、補助接点23a4が開路して、電動機4への交流電源が遮断され、同時に電磁ディスクブレーキ13の電磁コイル13aへの励磁電圧が遮断され、電磁ディスクブレーキ13が動作してエスカレータは停止する。
【0026】
(4)ブレーキ回路56の部品の取り付け
次に、駆動装置1に設けたブレーキ回路56の部品の取り付けについて図4と図5に基づいて説明する。図4は図2のE−E線視において駆動装置1のみを示したものである。図5は図4のA−A線断面を示したものであるが減速機6の内部は省略して示している。
【0027】
電磁ディスクブレーキ13の軸の外側にはゴミやホコリの侵入を防ぐための直方体状のカバー30が設けられている。カバー30は、ネジで電磁ディスクブレーキ13に固定されている。カバー30の内部にはブレーキ回路56を構成している整流器21、サージアブソーバ22,35、放電抵抗器26のコンデンサ48が設けられている。具体的には、整流器21、サージアブソーバ22,35はラグ板31にハンダ付けで固定され、ラグ板31は防振ゴム等よりなる弾性部材33を介してカバー30内部の一側面に固定されている。また、コンデンサ48はラグ板32にハンダ付けで固定され、ラグ板32は弾性部材34を介してカバー30内部の他側面に固定されている。これにより、減速機6から伝わる振動は弾性部材33,34によって抑制される。よって振動によりハンダ付け部分が破損する等の不具合を防ぐことができる。
【0028】
また、カバー30の一側面の外側には、カバー30とは別体のケース34が取り付けられている。このケース34内部には、直列抵抗器25と、放電抵抗器26の抵抗46が収納され、弾性部材36を介してケース34内部に固定されている。
【0029】
ケース34とカバー30は貫通した穴が設けられており、その穴からケース34内に取り付けた直列抵抗器25、抵抗46と、カバー30内の整流器21、サージアブソーバ22,35、コンデンサ48が電気コードで接続されている。また、直列抵抗器25、抵抗46、整流器21、サージアブソーバ22,35、コンデンサ48、電磁コイル13a、電磁コイル13aは、予め工場において、図3に示すブレーキ回路56の通り配線しておく。
【0030】
なお、正転用電磁接触器23の補助接点23a4、反転用電磁接触器24の補助接点24a4とからなる第1の並列回路42は、機械室内部にある制御盤に配置された制御回路54と共に配置されている。
【0031】
そして、古い駆動装置に代えて、本実施例の駆動装置1を機械室に設置する場合には、図3に示すように、工事担当者は、機械室内部にある制御盤に配置された制御回路54と、駆動装置1のブレーキ回路56とを、接続箇所62,64に関して電気コードで接続し、また、第1の並列回路42の接続箇所66,68に関して電気コードで接続するだけでよい。
【0032】
(5)効果
本実施例によれば、駆動装置1にブレーキ回路56を設けることができ、また、弾性部材33,34,36を介してブレーキ回路56の各部品を取り付けているため、減速機6の振動で、これら部品が破損することなく動作する。
【0033】
また、ブレーキ回路56における直列抵抗器25と抵抗46を、カバー30とは別体のケース34に収納したことにより、直列抵抗器25と抵抗46が発する熱による他の部品の劣化を防ぐことができ、ブレーキ回路56の信頼性の向上を図れる。
【0034】
また、駆動装置1にブレーキ回路56を有することにより、駆動装置1に交換した場合においても、制御盤内の制御回路を改造しなくても、接続箇所62,64と、接続箇所66,68のみを電気コードで接続するだけでよい。したがって、駆動装置1の交換時の制御盤の改造作業が不要となり、工事時間の短縮、工事担当者の負担軽減を図ることができる。
【0035】
(6)変更例
上記実施例では、エスカレータで説明したが、これに代えて動く歩道で適用してもよい。
【0036】
上記では本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の主旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0037】
1・・・駆動装置、4・・・電動機、21・・・整流器、23・・・正転用電磁接触器、23a1〜23a4・・・正転用電磁接触器の接点、24・・・反転用電磁接触器、24a1〜24a4・・・反転用電磁接触器の接点、25・・・直列抵抗器、26・・・放電抵抗器、30・・・電磁ディスクブレーキ軸部のカバー、31・・・ラグ板、33・・・弾性部材、34・・・ケース、48・・・コンデンサ、50・・・駆動回路、52・・・電源回路、54・・・制御回路、56・・・ブレーキ回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客コンベアを駆動する電動機と、前記電動機の回転を停止させる電磁ディスクブレーキとを有する駆動装置と、
前記電磁ディスクブレーキの電磁コイルに給電して、前記電磁ディスクブレーキを開放するブレーキ回路と、
を有し、
前記ブレーキ回路を構成する少なくとも一部の部品が、前記駆動装置に設けられている、
ことを特徴とする乗客コンベア。
【請求項2】
前記ブレーキ回路に電源を給電すると共に、前記電磁ディスクブレーキを開放又は動作させる信号を供給する制御回路が制御盤に設けられ、前記駆動装置に設けられた前記ブレーキ回路と電気コードで接続されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項3】
前記部品が、前記電磁ディスクブレーキの軸を保護するカバーに配置されている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の乗客コンベア。
【請求項4】
前記ブレーキ回路を構成する部品であって、前記電磁コイルと直列に接続される直列抵抗器が、前記カバーとは別体であって、かつ、前記駆動装置に設けられたケースに収納されている、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の乗客コンベア。
【請求項5】
前記部品が、弾性部材を介して前記駆動装置に設けられている、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の乗客コンベア。
【請求項6】
前記部品が、電磁コイルに直流電源を給電する整流器、前記電磁コイルに直列に接続された可変の直列抵抗器、前記電磁コイルのサージ電圧を抑制する放電抵抗器である、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の乗客コンベア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−121657(P2012−121657A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272478(P2010−272478)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】