説明

乗客コンベア

【課題】乗客コンベアの据付け作業や点検作業時に、目的の踏段の数だけ容易に移動できる乗客コンベアを提供する。
【解決手段】点検操作装置50は、運転開始スイッチ56と踏段30を上昇又は下降させる操作スイッチ54と、踏段30が1段分移動したことを検出する踏段センサ70と、踏段30が1段分移動したことを報知する表示部60と、運転開始スイッチ56がONされた後、操作スイッチ54が操作されて踏段30が上昇又は下降して、踏段センサ70が踏段30の1段分の移動を検出したときに、表示部60で表示する制御部68とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エスカレータや動く歩道などの乗客コンベアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、乗客コンベアの据付け作業や点検作業時においては、点検操作装置を乗客コンベアの駆動装置に接続し、作業者がこの点検操作装置を操作することにより踏段を移動させたりして、据付け作業や保守点検を行なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−219677号公報
【特許文献2】特開平6−100281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記点検操作装置においては、作業者がその運転スイッチを押している間だけ踏段が移動するため、踏段一段分だけ運転させたい場合は、作業者が一段分の移動に必要な時間だけ運転スイッチを操作する必要がある。
【0005】
そのため、運転スイッチの操作時間が短かったり長かったりすると、目的の踏段一段分だけ移動できず再度操作して位置合わせをする必要があり、その作業効率が悪いという問題点があった。特に、このような据付け作業や点検作業に不馴れな作業者の場合には、より多くの時間を要するという問題点があった。
【0006】
そこで、本実施形態は、上記問題点に鑑み、乗客コンベアの据付け作業や点検作業時に、目的の踏段の数だけ容易に移動できる乗客コンベアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態は、複数の踏段と、前記踏段を駆動するための踏段チェーンと、前記踏段チェーンを駆動する駆動手段と、乗客コンベアの点検運転のときに前記駆動手段に接続される点検操作手段と、を有する乗客コンベアにおいて、前記点検操作手段は、前記点検運転を開始する運転開始スイッチと、前記踏段を上昇、又は、下降させる操作スイッチと、前記踏段が一段分移動したことを検出する検出手段と、前記踏段が一段分移動したことを報知する報知手段と、前記運転開始スイッチがONされた後、前記操作スイッチが操作されて前記踏段が上昇、又は、下降して、前記検出手段が前記踏段の一段分の移動を検出したときに、前記報知手段で報知する制御手段と、を有することを特徴とする乗客コンベアである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施形態1のエスカレータの機械的構造を示した側面図である。
【図2】エスカレータの乗降口付近の斜視図であって、点検操作装置50を接続部48に接続した状態の斜視図である。
【図3】点検操作装置の正面図である。
【図4】点検操作装置及び主制御装置の回路図である。
【図5】点検操作装置を動作させた場合のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、一実施形態の乗客コンベア10について図面に基づいて説明する。
【実施形態1】
【0010】
実施形態1の乗客コンベア10について、図1〜図5に基づいて説明する。本実施形態の乗客コンベアとしては、エスカレータ10を例として説明する。
【0011】
(1)エスカレータ10の構造
エスカレータ10の構造について、図1と図2に基づいて説明する。
【0012】
図1に示すように、エスカレータ10のトラス12は、建屋の上階側と下階側に架設されており、トラス12の上階側には機械室14が設けられ、下階側には機械室26が設けられている。機械室14内部には、駆動装置であるモータ16と、このモータ16からの回転を減速する減速機18が設けられ、この減速機18の出力側にはモータ側スプロケット20が設けられている。また、この機械室14には、駆動スプロケット22が回転自在に設けられている。そして、モータ側スプロケット20と駆動スプロケット22との間には、駆動チェーン24が掛け渡され、モータ側スプロケット20が回転することにより駆動スプロケット22も回転する。
【0013】
トラス12の下階側の機械室26には、従動スプロケット28が設けられている。駆動スプロケット22と従動スプロケット28との間には、無端状の踏段チェーンが掛け渡されている。なお、この踏段チェーンは、図示していない。この踏段チェーンには、複数の踏段30が等間隔に連結されている。
【0014】
踏段30には、その前後に前輪32と後輪34が取り付けられ、これら前輪32と後輪34が、トラス12内部に設けられた往路ガイドレール36と帰路ガイドレール38と不図示の反転ガイドレールからなるガイドレールを移動することにより、複数の踏段30は、踏段チェーンの移動に連動して、上階側と下階側とを循環走行する。
【0015】
図2に示すように、上階側の機械室14の上方には、利用客の乗降口40が形成されている。トラス12の幅方向両側の上部には、左右一対の欄干42が立設され、この欄干42の上部には、踏段30と同期して走行する手すりベルト44が設けられている。図1に示すように、上階側の機械室14には、踏段30と手すりベルト44の走行を制御する主制御装置46が設けられている。乗降口40付近の欄干42の下部には、作業者がエスカレータ10の据付け作業時又は保守点検時に操作するための操作盤49が形成され、この操作盤49には点検操作装置50を接続するための接続部48が設けられている。点検操作装置50については後から説明する。
【0016】
また、図1に示すように、踏段30が移動する側面には、踏段30が1段分移動することを検出するための踏段センサ70が設けられている。
【0017】
(2)点検操作装置50の構造
次に、点検操作装置50について図2及び図3に基づいて説明する。
【0018】
図3に示すように、点検操作装置50は、直方体の形状を有し、その正面には、踏段カウントスイッチ54、運転開始スイッチ56、リセットボタン58、セブンセグメントよりなる表示部60、連続運転スイッチ62、運転許可スイッチ64、非常停止スイッチ66が設けられている。この中で、踏段カウントスイッチ54、運転開始スイッチ56及び連続運転スイッチ62は回転式のスイッチであり、右側に回転させると踏段30を上昇(UP)させ、左側に回転させると踏段30を下降(DN)させる。点検操作装置50の上面からはコード52が延び、図2に示すように、作業者がエスカレータ10を設置する据え付け作業や保守点検を行なう点検作業時に、このコード52を接続部48に接続して操作する。
【0019】
(3)点検操作装置50の構造
次に、点検操作装置50の構造について図3に基づいて説明する。
【0020】
点検操作装置50は、直方体状を有し、上面から接続のためのコード52が延びている。
【0021】
点検操作装置50の正面には、操作スイッチ54、運転開始スイッチ56、リセットスイッチ58、表示部60、ランプ62、ブザー63、運転許可スイッチ64、非常停止スイッチ66が設けられ、また、その内部にマイコンよりなる制御部68が内蔵されている。
【0022】
操作スイッチ54は、回転式のスイッチであり、右側に回した場合には踏段30が上昇し、左側に回転させた場合には下降し、中央部に位置しているときには踏段30の移動は停止している。
【0023】
運転開始スイッチ56、リセットスイッチ58、運転許可スイッチ64、非常停止スイッチ66は、押しボタン式のスイッチである。
【0024】
表示部60は、2つのセブンセグメントの表示機構を有するデジタル表示装置である。
【0025】
(4)点検操作装置50と主制御装置46の電気的構成
次に、点検操作装置50と主制御装置46の電気的構成について、図4の回路図に基づいて説明する。
【0026】
点検操作装置50の制御部68の入力側には、運転開始スイッチ56、リセットスイッチ58、踏段センサ70がそれぞれ接続されている。
【0027】
制御部68の出力端子には、表示部60、ランプ62、ブザー63がそれぞれ接続されている。
【0028】
制御部68の出力側には、非常停止スイッチ66と運転許可スイッチ64が直列に接続されている。
【0029】
運転許可スイッチ64の他端には、操作スイッチ54の上昇用スイッチ54Uと下降用スイッチ54Dとが並列に接続されている。
【0030】
主制御装置46には、安全回路74と直列に運転方向選択スイッチ76が接続されている。この運転方向選択スイッチ76は、下降用の回路と上昇用の回路との選択を行う。
【0031】
下降用の回路には、下降用スイッチ54Dからのラインと下降用運転方向選択コンダクタ78が接続されている。上昇用の回路においても、上昇用スイッチ54Uからのラインと上昇用運転方向選択コンダクタ80が接続されている。
【0032】
運転方向選択スイッチ76の基部側には、点検用切替スイッチ82の一端が接続され、この点検用切替スイッチ82の他端が二股に分かれている。二股の一方は、下降用の運転方向選択コンダクタ78のa接点78aを介して下降用の回路に接続され、他方は上降用の運転方向選択コンダクタ80のa接点80aを介して上昇用の回路に接続されている。下降用のa接点78aと下降用運転方向選択コンダクタ78との間には、上昇用運転方向選択コンダクタ80のb接点80bが接続され、上昇用運転方向選択コンダクタ80のa接点80aと上昇用運転方向選択コンダクタ80との間には、下降用運転方向選択コンダクタ78のb接点78bが接続されている。
【0033】
(5)点検操作装置50の動作状態
次に、点検操作装置50の動作状態について、図5のフローチャートに基づいて説明する。
【0034】
作業者が、据付け作業又は保守点検作業などの点検作業時に点検操作装置50のコード52を操作盤49の接続部48に接続する。これによって点検運転が可能となる。
【0035】
ステップS1において、作業者は、運転開始スイッチ56をON状態にする。
【0036】
ステップS2において、作業者は、運転許可スイッチ64を押しながら、操作スイッチ54を上昇又は下降側に回転させる。ここでは、上昇側に回転させたとする。そしてステップS3に進む。
【0037】
ステップS3において、操作スイッチ54の上昇用スイッチ54UがON状態となったため、踏段30が上昇側に移動し始める。そして、踏段センサ70がその移動を検出し、1段分の踏段30が移動した場合に検出信号を制御部68に出力する。
【0038】
ステップS4において、制御部68は、1段分の踏段30が移動したことを表示部60でデジタル表示する。また、同時にランプ62を1回点滅させ、ブザー63を1回鳴らす。そしてステップS5に進む。
【0039】
ステップS5において、操作スイッチ54の操作が終了したか、又は、非常停止スイッチ66がON状態になればモータ16の回転を中止し、運転を終了する。これによって、踏段30の移動は停止する。一方、操作スイッチ54の操作が続いていればステップS3に戻り、踏段センサ70が再び1段分の踏段30の移動を検出する。
【0040】
なお、表示部60に表示されたカウント数をリセットする場合には、リセットスイッチ58をON状態にする。
【0041】
(6)効果
本実施形態によれば、作業者は操作スイッチ54を上昇側又は下降側に回転させることにより、1段分の踏段30が移動する毎に表示部60のカウント数が変化し、また、ランプ62が点滅すると共にブザー63が鳴ることとなる。これによって、周囲の共同作業者にも踏段が1段ずつ移動したことを報知できると共に、表示部60を見ることにより何段の踏段30が移動したかを確認できる。
【変更例】
【0042】
上記実施形態では、点検操作装置50に、表示部60、ランプ62、ブザー63を設けたが、これに限らず、これら3個の装置の中の何れか1つの装置を設けることにより、1段分の踏段30が移動したことを作業者に報知できる。
【0043】
また、1段分の踏段30が移動した場合に、点検操作装置50が振動するようにするために、点検操作装置50の内部にバイブレータを内蔵してもよい。この振動によっても作業者に1段分の踏段30が移動したことを知らせることができる。
【0044】
また、上記実施形態では、点検操作装置50にのみ表示部60を設けたが、これに代えて操作盤49にも表示部60を設けることにより、共同作業者などにより確実に踏段30の移動を知らせることができる。
【0045】
また、上記実施形態ではエスカレータ10で説明したが、これに代えて、動く歩道でも適用することができる。
【0046】
上記では本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の主旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0047】
10・・・エスカレータ、30・・・踏段、46・・・制御装置、48・・・接続部、49・・・操作盤、50・・・点検操作装置、54・・・踏段カウントスイッチ、56・・・運転開始スイッチ、58・・・リセットボタン、60・・・表示部、68・・・制御部、70・・・踏段センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の踏段と、
前記踏段を駆動するための踏段チェーンと、
前記踏段チェーンを駆動する駆動手段と、
乗客コンベアの点検運転のときに前記駆動手段に接続される点検操作手段と、
を有する乗客コンベアにおいて、
前記点検操作手段は、
前記点検運転を開始する運転開始スイッチと、
前記踏段を上昇、又は、下降させる操作スイッチと、
前記踏段が一段分移動したことを検出する検出手段と、
前記踏段が一段分移動したことを報知する報知手段と、
前記運転開始スイッチがONされた後、前記操作スイッチが操作されて前記踏段が上昇、又は、下降して、前記検出手段が前記踏段の一段分の移動を検出したときに、前記報知手段で報知する制御手段と、
を有することを特徴とする乗客コンベア。
【請求項2】
前記報知手段は、前記移動した踏段の数を表示する表示手段である、
ことを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項3】
前記報知手段は、前記踏段が一段分移動したときに音で報知する音発生手段である、
ことを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項4】
前記報知手段は、前記踏段が一段分移動したときに前記点検操作手段を振動させて報知する振動発生手段である、
ことを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項5】
前記報知手段は、前記踏段が一段分移動したときに光で報知する光発生手段である、
ことを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項6】
前記表示手段で表示した数をリセットするリセットスイッチをさらに有する、
ことを特徴とする請求項2に記載の乗客コンベア。
【請求項7】
前記表示手段が、前記駆動手段の操作盤にも設けられている、
ことを特徴とする請求項2に記載の乗客コンベア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−107769(P2013−107769A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256356(P2011−256356)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】