説明

乗物用シート

【課題】 振動吸収特性をさらに向上させることができると共に、安定した着座姿勢を確保し、車両操縦性が高く、長時間着座による疲労の低減を図ることができる乗物用シートを提供する。
【解決手段】乗物用シート1の座部10において、人体の一対の座骨結節間の略中央部に対応する位置に中心を有する第1人体支持部11と、人の大腿部の付け根付近に対応し、第1人体支持部11から座部10の縦方向中心線に沿った水平距離で100mm前方の位置に中心を有する第2人体支持部12とを、それぞれバネ要素としてみなし、その静的バネ定数及び動的バネ定数を所定の関係で設定した。これにより、静的着座時の安定性と振動吸収性の向上が図られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、航空機、列車、船舶、フォークリフトなどの乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
シートの性能を評価する手法として、加圧盤により所定の部位を押圧し、そのときの力(荷重)と変位(たわみ)との関係を求め、それにより、当該部位の弾性特性としてのバネ定数(静的バネ定数)を求めたり、あるいは、所定の部位に重りを載置し、自重で安定した状態で加振し、重りに働く荷重(F=ma(mは重りの質量、aは振動によって重りに生じる加速度)と重りの相対変位との関係をリサージュ図形に描き、当該リサージュ図形の傾きから静的バネ定数を求めたりすることが行われている。その一方、除振性能を評価するために、静的なバネ力と減衰力から動的な弾性特性としてのバネ定数(動的バネ定数)を求めたりすることが行われている。
【0003】
着座性能を評価するに当たっては、人体モデルに近い加圧盤や重りを用いることが好ましく、体圧分布の頂点となる座骨結節下を中心とした直径約100mm(正確には直径98mm)の範囲に対応する大きさ、すなわち、人の臀部の片側ないしは大腿部の片側に相当する大きさの加圧盤や重りを用いて評価することが基準となる。また、動的バネ定数を測定する際の重りの質量は、座骨結節下を中心とした直径約100mm(正確には直径98mm)の範囲の圧力に対応させたものが基準となる。
【0004】
そこで、座部に着座した際の支持感は、座骨結節下において十分な支持が得られるか否かにより決定されるとの前提のもと、シートを評価するに当たっては、静的バネ定数及び動的バネ定数のいずれも、直径98mmの加圧盤あるいは重りを用いた評価を重視し、その評価データにおいて、静的バネ定数及び動的バネ定数のいずれも、座骨結節下に位置する部位おいて最も高く、大腿部の付け根付近に相当する部位、大腿部の略中央付近から膝裏付近に相当する部位というように、座部の前方に向かうに従って低くなるように設定しているのが一般的である。すなわち、人体の重心位置に対応する座骨結節下の静的バネ定数及び動的バネ定数を高く設定することで、人体の支持性を高めることがシート設計の基本となっている。しかしながら、かかる構造のシートは、座骨結節下の動的バネ定数が大きいことから、座骨結節下に配置された部材(クッション材、フレーム部材等)から入力される振動の影響が大きいという欠点がある。
かかる点に鑑み、本出願人は、特許文献1において、バネ定数の異なるバネ部材を直列結合させることにより、座骨結節下における人体支持部(バネ要素)の静的バネ定数を小さくし、それにより動的バネ定数も小さくすることを試みたシートを提案している。この構造によれば、座骨結節下に配置された部材を通じで伝達される振動の影響は小さくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−7078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示されたものも、座骨結節下における人体支持部の静的バネ定数及び動的バネ定数が小さいといっても、特許文献1においては明示されていないが、大腿部付け根付近、大腿部の略中央付近から膝裏付近に相当する部位というように、座部の縦方向中心線に沿って前方に向かうに従って、静的バネ定数及び動的バネ定数のいずれも低くなっている点では、上記一般のシートと変わりない。また、特許文献1では明記されていないが、この種のシートでは、膝裏へのフレームの違和感を軽減する工夫の一つとして、柔らかめのウレタン材で大腿部の略中央部から膝裏付近までを支持する構成を採用することが多い。しかしながら、このようなウレタン材を配置しても、圧縮による反力により、抹消神経系、末梢循環系があって敏感な膝裏付近を圧迫し、不快感を乗員へ与え、疲労感を増すこともある。このため、さらに柔らかいウレタン材を用いる必要があるが、柔らかいものほど、膝裏へのフレームの当たり感が増す。その対策としてはウレタン材の厚みを厚くすることが考えられるが、そうすると、今度は膝裏への圧迫度合いがまた大きくなる。従って、ある程度の柔らかさ、厚さのもので妥協せざるを得ない状況になっていた。
【0007】
その一方、座骨結節下における静的バネ定数及び動的バネ定数を小さくすると、座部のサイドフレームによる荷重の分担支持の割合が比較的大きなり、サイドフレームを介して大腿部側部や臀部側部へ高周波振動が入力される可能性があり、また、尻滑りにより姿勢の崩れも誘発する。疲労感を改善するためには、この姿勢の崩れと高周波振動の吸収特性の点でさらなる改善の余地する必要があった。
【0008】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、振動吸収特性をさらに向上させることができると共に、安定した着座姿勢の確保、また、運転席シートにおいてはペダルの操作性の向上を図ることができ、もって、長時間着座による疲労の低減を図ることができる乗物用シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明者は鋭意検討をした結果、次のような知見を得た。すなわち、まず、人の重心位置である座骨結節下において、静的な着座状態での支持感を評価する静的バネ定数は、直径98mmの加圧盤ではなく、人の臀部から大腿部の中途までに至る直径200mmの加圧盤での評価を重視し、その評価において座骨結節下の静的バネ定数が高いと、実際に座った際に十分な支持感が得られることということに着目した。また、直径98mmの重りでの振動に対する部位別の評価指標である動的バネ定数を利用し、筋肉で覆われた大腿部を支点にして座骨結節下の部位に逆位相を生じさせることにより、衝撃性の大振幅低周波の振動を吸収する特性、並びに、大腿部の筋肉と弾性コンプライアンスがマッチングする表皮材(座部を構成するバネ部材のうち、浅層のバネ部材に相当する)のバネ定数が実質的にゼロに近い特性(バネゼロ特性)によって発揮される減衰特性により高周波振動を減衰させる特性を評価し、その評価において所定の条件を満足することで、低周波の共振域における振動吸収特性と高周波の減衰域における振動吸収特性を共に向上させる構造を備えさせることができると考えた。つまり、姿勢の支持と、高周波・小振幅・高加速度の入力と、衝撃性の低周波・大振幅・高加速度の入力とは、座部に設定された複数のバネ部材を常に同じように機能させるのではなく、それぞれ異なる条件・組み合わせで機能させる必要があり、その結果、共振域及び減衰域の両方の振動吸収特性の向上と、上記した静的に安定した着座感を得るという二律背反的な特性の改善を図ることが可能なシートを提供できる。
【0010】
また、大腿部の圧迫やペダルの操作性を改善するために、膝裏付近に配置されるクッション材(ウレタンなどのパッド材)として、面剛性やバネ定数の高いものを用いることで、低い負荷荷重によっては容易に圧迫方向で変形しないように考えた。しかし、このままでは、ペダル操作の脚の運動を妨げる特性になるため、高剛性でバネ定数の高いウレタンを、脚の運動によって発生する力の前後方向の分力により、座部前縁に配置された該ウレタンに回動のきっかけを与え、かつ、重力方向の分力により回動させ、ペダル操作による脚の運動を邪魔しないところにウレタンが動くことを考えた。そして、上記した点が統合されることにより、疲労感の小さいシートが作られる。
【0011】
すなわち、請求項1記載の本発明では、座部が、面状バネ部材と該面状バネ部材の上部に配設されるウレタン材とを備えてなり、
前記座部における人体の一対の座骨結節間の略中央部に対応する位置に中心を有する第1人体支持部と、該第1人体支持部から座部の縦方向中心線に沿った水平距離で100mm前方の位置に中心を有する第2人体支持部と、前記第1人体支持部から座部の縦方向中心線に沿った水平距離で200mm前方の位置を中心とした第3人体支持部とした場合に、
前記第3人体支持部を含む部位が、前方に回転可能に設けられていることを特徴とする乗物用シートを提供する。
請求項2記載の本発明では、前記第3人体支持部を含む部位と前記第2人体支持部を含む部位との境界において分離スリットが形成され、該分離スリットを境として、前記第3人体支持部を含む部位が、前方に回転可能である請求項1記載の乗物用シートを提供する。
請求項3記載の本発明では、前記第3人体支持部を含む部位の重心が、該部位の前方への回転中心よりも、前方寄りとなるように設けられている請求項1又は2記載の乗物用シートを提供する。
請求項4記載の本発明では、前記座部が、複数のバネ部材の作用によって人体を支持可能な構成であり、
前記座部における人体の一対の座骨結節間の略中央部に対応する位置に中心を有する第1人体支持部と、該第1人体支持部から座部の縦方向中心線に沿った水平距離で100mm前方の位置に中心を有する第2人体支持部とを、それぞれ前記複数のバネ部材の働きにより作られるバネ要素としてみなした場合、
直径98mm、質量6.7kgの円形の重りの中心を、前記各人体支持部の中心に合わせ、該重りが自重で安定した状態を原点として振動周波数4〜10Hzで加振させて求められる前記第1人体支持部の動的バネ定数kd1と前記第2人体支持部の動的バネ定数kd2とが、kd1<kd2の関係を有し、入力振動の励振力が変化すると、前記複数のバネ部材の中で、支配的に機能するバネ部材が替わり、前記各動的バネ定数kd1,kd2が変化する構造であり、かつ、前記面状バネ部材の後縁部が、座部の後部に配設される後部バネ部材に連結されている請求項1〜3のいずれか1に記載の乗物用シートを提供する。
請求項5記載の本発明では、前記座部が、複数のバネ部材の作用によって人体を支持可能な構成であり、
前記座部における人体の一対の座骨結節間の略中央部に対応する位置に中心を有する第1人体支持部と、該第1人体支持部から座部の縦方向中心線に沿った水平距離で100mm前方の位置に中心を有する第2人体支持部とを、それぞれ前記複数のバネ部材の働きにより作られるバネ要素としてみなした場合、
直径98mm、質量6.7kgの円形の重りの中心を、前記各人体支持部の中心に合わせ、該重りが自重で安定した状態を原点として振動周波数4〜10Hzで加振させて求められる前記第1人体支持部の動的バネ定数kd1と前記第2人体支持部の動的バネ定数kd2とが、kd1<kd2の関係を有し、入力振動の励振力が変化すると、前記複数のバネ部材の中で、支配的に機能するバネ部材が替わり、前記各動的バネ定数kd1,kd2が変化する構造であり、かつ、
前記座部は、面状バネ部材と該面状バネ部材の上部に配設されるウレタン材とを備えてなり、前記ウレタン材において、前記第1人体支持部の中心から、座部の縦方向中心線に沿って50mm以上100mm未満の位置に、座部の幅方向を長手方向として所定の深さで刻設されたスリットを有し、前記第1人体支持部の中心が前記スリットよりも後部寄りに位置し、前記第2人体支持部の中心が、前記スリットよりも前部寄りに位置する構成である請求項1〜3のいずれか1に記載の乗物用シートを提供する。
請求項6記載の本発明では、前記面状バネ部材の後縁部が、座部の後部に配設される後部バネ部材に連結されている請求項5記載の乗物用シートを提供する。
請求項7記載の本発明では、前記スリットは、座部の縦方向中心線に略直交して160〜240mmの長さで形成されていると共に、該スリットを長さ方向の略中央付近の深さがその両端付近よりも浅い請求項4〜6のいずれか1に記載の乗物用シートを提供する。
請求項8記載の本発明では、前記スリットの長さ方向の略中央付近の深さは、18〜30mmの範囲であり、その両端付近の深さは、23〜50mmの範囲である請求項7記載の乗物用シートを提供する。
請求項9記載の本発明では、前記スリットは、幅が2〜20mmの範囲である請求項7又は8記載の乗物用シートを提供する。
請求項10記載の本発明では、前記第3人体支持部の動的バネ定数をkd3としたときに、前記各動的バネ定数が、
kd1<kd2<kd3の関係を満たすと共に、
前記各動的バネ定数kd1、kd2及びkd3の入力振動の励振力の変化による変化範囲が、次の条件式;
1≦kd2/kd1≦6、
1≦kd3/kd2≦3、及び
1≦kd3/kd1≦7を満たす範囲となるように設定されている請求項4〜9のいずれか1に記載の乗物用シートを提供する。
請求項11記載の本発明では、直径200mmの加圧盤の中心を前記各人体支持部の中心に合わせて1000Nまで加圧した際の荷重−変位特性から得られる45kg、60kg及び75kgの各位置を平行位置として求めた静的バネ定数が、第1人体支持部の静的バネ定数をks1、第2人体支持部の静的バネ定数をks2としたときに、ks1>ks2となるように設定されている請求項4〜10のいずれか1に記載の乗物用シートを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の乗物用シートは、複数のバネ部材を備え、各バネ部材を作用させて人体を支持する座部を備えた乗物用シートであって、座部における人体の一対の座骨結節間の略中央部に対応する位置に中心を有する第1人体支持部と、該第1人体支持部から座部の縦方向中心線に沿った水平距離で100mm前方の位置に中心を有する第2人体支持部とを、それぞれ前記複数のバネ部材の働きにより作られるバネ要素としてみなした場合、第1人体支持部の動的バネ定数kd1と第2人体支持部の動的バネ定数kd2とが、人が着座した状態で、入力振動により第1人体支持部及び第2人体支持部のそれぞれに働く励振力と実質的に同じ励振力となる加振条件においてkd1<kd2の関係を有し、第2人体支持部が除振作用時における運動支点となるように設定されている。このため、入力振動の励振力が変化すると、複数のバネ部材の中で、支配的に機能するバネ部材が変化し、各動的バネ定数kd1,kd2が変化する。
具体的には、複数のバネ部材は、人体と接する際に厚み方向に押圧されて働き、極めて柔らかな静的バネ定数、すなわち、あるたわみ範囲において荷重の増加がほとんどない、その範囲において実質的に静的バネ定数が変化しない特性、いわゆる「バネゼロ特性」を有する表皮材、面状支持部材などのバネ部材(以下、「浅層のバネ部材」)と、線形性が高く、主として第2人体支持部の動的バネ定数を作り出す際に機能するバネ部材(以下、「中層のバネ部材」)、並びに、バネ力と共に、重力方向及び抗重力方向で位相差による減衰力を発揮させ、主として第1人体支持部の動的バネ定数を作り出す際に機能するバネ部材(以下、「深層のバネ部材」)を有して構成される。
【0013】
すなわち、振動が入力された際、骨突出のある座骨結節を含む骨盤が位置する部位と、筋肉で覆われた大腿部が位置する部位とでは、人体の各部位の固有振動数に依存して、振動の伝達されやすさにおいて差がある。すなわち、変位量の大きい低周波の入力振動では、体幹全体を揺らす振動になるため、重心直下である座骨結節下に位置する、動的バネ定数が低い、バネ要素としての第1人体支持部が主として作用し、低周波振動を除振する。すなわち、座骨結節下を支持する第1人体支持部の動的バネ定数kd1を決定するバネ部材の弾性が主として作用し、かかる低周波振動が除振される。一方、変位量の小さい高周波の振動が入力された場合は、大腿部付け根から大腿部略中央部(ないしは膝裏付近)を支持する人体支持部が振動の影響を受けやすく、また、座骨結節下を支持する第1人体支持部よりも負荷質量が小さいため、粘性減衰及びクーロン摩擦力を含めた動的バネ定数kd2(及びkd3)は、座骨結節下を支持する人体支持部の動的バネ定数kd1を作る際に支配的に機能する深層のバネ部材の影響を受けず、中層のバネ部材が支配的に作用し、動的バネ定数kd1よりも高くなる。そして、大腿部付け根から大腿部略中央部(ないしは膝裏付近)を支持する人体支持部では、中層のバネ部材及び浅層のバネ部材が支配的に作用し、動的バネ定数kd2,kd3で、大腿部付近が支持される。このため、座骨結節下の人体支持部の動的バネ定数よりも大腿部下の人体支持部の動的バネ定数が小さくなっている従来の構造と比較した場合、大腿部下のバネ要素である人体支持部の分担支持の割合が大きくなる。一方、大腿部付近の支持があるため、重力方向での沈み込みが、臀部全体ではなく、特に、座骨結節下の狭い範囲に制限され、サイドフレームによる荷重の分担支持の割合が小さくなり、大腿部側部や臀部側部へ入力される高周波振動の影響が緩和される。従って、本発明によれば、低周波から高周波までの広い領域における振動吸収特性が向上する。
【0014】
また、本発明の乗物用シートは、走行中の振動入力時においては、大腿部付け根付近から膝裏付近に至る大腿部全体が動的バネ定数kd2,kd3の人体支持部によって支持されることにより、骨盤の後傾が防止され、かつ、負荷質量の小さい大腿部に対して支配的に作用する動的バネ定数kd2,kd3は線形性が強く復元力も大きいため、ペダル操作時の下肢の運動による骨盤面の上下動による圧迫方向の変位が小さく抑えられると共に、座部前縁部の前後方向の回動を伴ってペダル操作運動が行われることから、座部前縁部のたわみで膝裏が部分的に圧迫されることが抑制され、座圧による大腿部の筋肉に与える影響を軽減し、すなわち、膝裏の筋肉のたわみがより小さくなり、筋肉が圧迫されることによる変位量が小さくなる。このため、運転席シートに適用した場合には、座部の表面を滑るように脚あるいは大腿部が動くことになり、ペダルの操作性も向上し、疲労の軽減に寄与する。
【0015】
また、座骨結節下に対応する第1人体支持部を直径200mmの加圧盤で加圧した際の静的バネ定数が、第2人体支持部よりも大きくなるように設定する。加圧盤の大きさが直径200mmであるということは、座骨結節下に相当する第1人体支持部のバネ特性を決定するバネ部材の作用のほかに、大腿部の付け根付近に相当する位置では、第2人体支持部のバネ部材も作用し、第1人体支持部におけるバネ特性と第2人体支持部におけるバネ特性とが並列で作用する。これにより、ks1がks2よりも高くなり、座骨結節下を十分支持できる。従って、本発明は、静的な着座状態でも、安定した着座姿勢を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の一の実施形態に係る乗物用シートを示す概念図である。
【図2】図2は、第1人体支持部、第2人体支持部、第3人体支持部の位置を説明するための座部の平面図である。
【図3】図3は、実施例1にかかる乗物用シートを示す図である。
【図4】図4は、実施例1にかかる乗物用シートの座部の静的バネ定数を示す図であって、直径200mmの加圧盤により、50mm/minで1000Nまで加圧していった際に、45kg、60kg、75kgの各位置を、それぞれ変位量0mmの平衡位置として求めた静的バネ定数値を示すグラフである。
【図5】図5は、実施例1にかかる乗物用シートの座部の動的バネ定数を示す図である。
【図6】図6は、実施例1にかかる乗物用シートの座部の動的バネ定数の比を示す図である。
【図7】図7は、実施例2にかかる乗物用シートを示す斜視図である。
【図8】図8は、実施例2にかかる乗物用シートを示す側面図である。
【図9】図9は、実施例2にかかる乗物用シートのペダル操作時の作用を説明するための側面図である。
【図10】図10は、実施例2にかかる乗物用シートの座部の静的バネ定数を示す図であって、直径200mmの加圧盤により、50mm/minで1000Nまで加圧していった際に、45kg、60kg、75kgの各位置を、それぞれ変位量0mmの平衡位置として求めた静的バネ定数値を示すグラフである。
【図11】図11は、実施例2にかかる乗物用シートの座部の動的バネ定数を示す図である。
【図12】図12は、実施例2にかかる乗物用シートの座部の動的バネ定数の比を示す図である。
【図13】図13は、実施例1と実施例2にかかる乗物用シートの座部の動的バネ定数を示す図である。
【図14】図14は、実施例1と実施例2にかかる乗物用シートの座部の動的バネ定数の比を示す図である。
【図15】図15は、実施例1、実施例2及び比較例2にかかる乗物用シートの座部の振動伝達率を示す図である。
【図16】図16は、試験例2−4で用いた実施例2の乗物用シートの座部の動的バネ定数を示す図である。
【図17】図17は、試験例2−4で用いた実施例2の乗物用シートの座部の動的バネ定数の比を示す図である。
【図18】図18は、実施例2のシート(試験例2−4で用いた表皮材として厚さ0.8mmの薄い皮革を用いたもの)と比較例2のシートについて測定した、振動周波数に対する圧力振幅差を示す図である。
【図19】図19は、試験例2−6において、第1人体支持部に重りをセットして測定した1Hzのときのリサージュ図形である。
【図20】図20は、試験例2−6において、第1人体支持部に重りをセットして測定した2Hzのときのリサージュ図形である。
【図21】図21は、試験例2−6において、第1人体支持部に重りをセットして測定した3Hzのときのリサージュ図形である。
【図22】図22は、試験例2−6において、第1人体支持部に重りをセットして測定した4Hzのときのリサージュ図形である。
【図23】図23は、試験例2−6において、第1人体支持部に重りをセットして測定した5Hzのときのリサージュ図形である。
【図24】図24は、試験例2−6において、第1人体支持部に重りをセットして測定した6Hzのときのリサージュ図形である。
【図25】図25は、試験例2−6において、第1人体支持部に重りをセットして測定した7Hzのときのリサージュ図形である。
【図26】図26は、試験例2−6において、第1人体支持部に重りをセットして測定した8Hzのときのリサージュ図形である。
【図27】図27は、試験例2−6において、第1人体支持部に重りをセットして測定した9Hzのときのリサージュ図形である。
【図28】図28は、試験例2−6において、第1人体支持部に重りをセットして測定した10Hzのときのリサージュ図形である。
【図29】図29は、試験例2−7において、第2人体支持部に重りをセットし、片側振幅1mm(上下のピーク間振幅2mm)、1Hzで加振したときのリサージュ図形である。
【図30】図30は、試験例2−7において、第2人体支持部に重りをセットし、片側振幅1mm(上下のピーク間振幅2mm)、2Hzで加振したときのリサージュ図形である。
【図31】図31は、試験例2−7において、第2人体支持部に重りをセットし、片側振幅1mm(上下のピーク間振幅2mm)、3Hzで加振したときのリサージュ図形である。
【図32】図32は、試験例2−7において、第2人体支持部に重りをセットし、片側振幅1mm(上下のピーク間振幅2mm)、4Hzで加振したときのリサージュ図形である。
【図33】図33は、試験例2−7において、第2人体支持部に重りをセットし、片側振幅1mm(上下のピーク間振幅2mm)、5Hzで加振したときのリサージュ図形である。
【図34】図34は、試験例2−7において、第2人体支持部に重りをセットし、片側振幅1mm(上下のピーク間振幅2mm)、6Hzで加振したときのリサージュ図形である。
【図35】図35は、試験例2−7において、第2人体支持部に重りをセットし、片側振幅1mm(上下のピーク間振幅2mm)、7Hzで加振したときのリサージュ図形である。
【図36】図36は、試験例2−7において、第2人体支持部に重りをセットし、片側振幅1mm(上下のピーク間振幅2mm)、8Hzで加振したときのリサージュ図形である。
【図37】図37は、試験例2−7において、第2人体支持部に重りをセットし、片側振幅1mm(上下のピーク間振幅2mm)、9Hzで加振したときのリサージュ図形である。
【図38】図38は、試験例2−7において、第2人体支持部に重りをセットし、片側振幅1mm(上下のピーク間振幅2mm)、10Hzで加振したときのリサージュ図形である。
【図39】図39は、試験例2−7において、第2人体支持部に重りをセットし、片側振幅2.5mm(上下のピーク間振幅5mm)、1Hzで加振したときのリサージュ図形である。
【図40】図40は、試験例2−7において、第2人体支持部に重りをセットし、片側振幅2.5mm(上下のピーク間振幅5mm)、2Hzで加振したときのリサージュ図形である。
【図41】図41は、試験例2−7において、第2人体支持部に重りをセットし、片側振幅2.5mm(上下のピーク間振幅5mm)、3Hzで加振したときのリサージュ図形である。
【図42】図42は、試験例2−7において、第2人体支持部に重りをセットし、片側振幅2.5mm(上下のピーク間振幅5mm)、4Hzで加振したときのリサージュ図形である。
【図43】図43は、試験例2−7において、第2人体支持部に重りをセットし、片側振幅2.5mm(上下のピーク間振幅5mm)、5Hzで加振したときのリサージュ図形である。
【図44】図44は、試験例2−7において、第2人体支持部に重りをセットし、片側振幅2.5mm(上下のピーク間振幅5mm)、6Hzで加振したときのリサージュ図形である。
【図45】図45は、試験例2−7において、第2人体支持部に重りをセットし、片側振幅2.5mm(上下のピーク間振幅5mm)、7Hzで加振したときのリサージュ図形である。
【図46】図46は、試験例2−7において、第2人体支持部に重りをセットし、片側振幅2.5mm(上下のピーク間振幅5mm)、8Hzで加振したときのリサージュ図形である。
【図47】図47は、試験例2−7において、第2人体支持部に重りをセットし、片側振幅2.5mm(上下のピーク間振幅5mm)、9Hzで加振したときのリサージュ図形である。
【図48】図39は、試験例2−7において、第2人体支持部に重りをセットし、片側振幅2.5mm(上下のピーク間振幅5mm)、10Hzで加振したときのリサージュ図形である。
【図49】図49は、試験例2−7において、片側振幅2.5mm(上下のピーク間振幅5mm)で加振した際の第2人体支持部12(C100)及び第3人体支持部13(C200)における動的バネ定数を示した図である。
【図50】図50は、図49の動的バネ定数の比kd3/kd2を示した図である。
【図51】図51は、実施例2のシート(試験例2−4等で用いたシート)の体圧分布を示す図である。
【図52】図52は、試験例2−8において、2kgの重りを第2人体支持部にセットし、片側振幅2.5mm(上下のピーク間振幅5mm)、1Hzで加振して描いたリサージュ図形である。
【図53】図53は、試験例2−8において、2kgの重りを第2人体支持部にセットし、片側振幅2.5mm(上下のピーク間振幅5mm)、2Hzで加振して描いたリサージュ図形である。
【図54】図54は、試験例2−8において、2kgの重りを第2人体支持部にセットし、片側振幅2.5mm(上下のピーク間振幅5mm)、3Hzで加振して描いたリサージュ図形である。
【図55】図55は、試験例2−8において、2kgの重りを第2人体支持部にセットし、片側振幅2.5mm(上下のピーク間振幅5mm)、4Hzで加振して描いたリサージュ図形である。
【図56】図56は、試験例2−8において、2kgの重りを第2人体支持部にセットし、片側振幅2.5mm(上下のピーク間振幅5mm)、5Hzで加振して描いたリサージュ図形である。
【図57】図57は、試験例2−8において、2kgの重りを第2人体支持部にセットし、片側振幅2.5mm(上下のピーク間振幅5mm)、6Hzで加振して描いたリサージュ図形である。
【図58】図58は、試験例2−8において、2kgの重りを第2人体支持部にセットし、片側振幅2.5mm(上下のピーク間振幅5mm)、7Hzで加振して描いたリサージュ図形である。
【図59】図59は、試験例2−8において、2kgの重りを第2人体支持部にセットし、片側振幅2.5mm(上下のピーク間振幅5mm)、8Hzで加振して描いたリサージュ図形である。
【図60】図60は、試験例2−8において、2kgの重りを第2人体支持部にセットし、片側振幅2.5mm(上下のピーク間振幅5mm)、9Hzで加振して描いたリサージュ図形である。
【図61】図61は、試験例2−8において、2kgの重りを第2人体支持部にセットし、片側振幅2.5mm(上下のピーク間振幅5mm)、10Hzで加振して描いたリサージュ図形である。
【図62】図62(a)、(b)は、実施例3にかかる乗物用シートの座部の概略構成を示す図である。
【図63】図63は、実施例3にかかる乗物用シートの座部の側面から見た概略構成を示す図である。
【図64】図64は、実施例4にかかる乗物用シートの座部の側面から見た概略構成を示す図である。
【図65】図65は、実施例5にかかる乗物用シートの座部の側面から見た概略構成を示す図である。
【図66】図66は、実施例6にかかる乗物用シートの座部の側面から見た概略構成を示す図である。
【図67】図67は、実施例6にかかる乗物用シートにおいて、ソフトなウレタン材に代えて、当該部位に、三次元立体編物(ネット)を配設した座部の側面から見た概略構成を示す図である。
【図68】図68は、実施例7にかかる乗物用シートの座部の側面から見た概略構成を示す図である。
【図69】図69(a)〜(c)は、実施例5〜実施例7にかかる乗物用シートの座部で形成したスリットの構成を説明するための図である。
【図70】図70は、図66に示した構造のシートにおいて、スリットを形成した場合(スリット有)と形成しない場合(スリット無)について、第1人体支持部と第2人体支持部における動的バネ定数の比kd2/kd1を求めた図である。
【図71】図71は、実施例8にかかる乗物用シートの座部の概略構成を示す図である。
【図72】図72は、実施例8にかかる乗物用シートの座部の側面から見た概略構成を示す図である。
【図73】図73は、実施例3及び実施例8の第1人体支持部、第2人体支持部、第3人体支持部における動的バネ定数を比較した図である。
【図74】図74(a)は実施例8の座部における体圧分布を、図74(b)は実施例3の座部における体圧分布をそれぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。図1は、本発明の構造を説明するための図である。この図に示したように、本発明では、乗物用シート1の座部10において、人体の一対の座骨結節間の略中央部に対応する位置に中心を有する第1人体支持部11と、人の大腿部の付け根付近に対応し、第1人体支持部11から座部10の縦方向中心線に沿った水平距離で100mm前方の位置に中心を有する第2人体支持部12とを、それぞれバネ要素としてみなし、そのバネ特性を次のように設定したことを最大の特徴とするものである。
【0018】
すなわち、まず、着座感を評価する際に用いられる通常のバネ定数(本明細書では、減衰力とバネ力の合力で規定される「動的バネ定数」との区別を明確にするために「静的バネ定数」と呼ぶ)を第1人体支持部11の静的バネ定数をks1、第2人体支持部12の静的バネ定数をks2としたときに、ks1>ks2となるように設定する。静的バネ定数ks1,ks2は、直径200mmの円形の加圧盤の中心を上記各人体支持部11,12の中心に合わせて加圧した際の荷重−変位特性から求める。第1人体支持部11は、人の重心位置である座骨結節下に相当するが、静的な着座状態で人の感じる支持感は、座骨結節下周囲の狭い範囲だけでなく、大腿部付け根付近が支持されているか否かによっても変化する。従って、人の臀部から大腿部の中途付近までに至る直径200mmの加圧盤で評価し、その評価において座骨結節下の静的バネ定数が適切か否かを判定することが妥当である。
【0019】
一方、制動性能に代表される車両操縦性に大きな影響を及ぼすペダル操作性、ペダル操作による反力を受ける安定性を確保する前後の姿勢のホールド性の観点、あるいは乗り心地に大きな影響を及ぼす除振性能の観点からは、動的バネ定数の設定、特に、臀部(骨盤)を支持する第1人体支持部11の動的バネ定数の設定が重要となる。入力振動の振動伝達特性は、座骨結節を含む骨盤が位置する部位と、筋肉で覆われた大腿部が位置する部位とでは、筋肉自体のバネ性、減衰性の影響により、振動吸収性に差がある。従って、骨盤には、骨伝導しやすい高周波の振動を入力されにくくする一方、体幹の上下動を誘発する低周波の振動を、大腿部を支点とした180度の位相差により吸収するようにする。そのためには、座骨結節下部の動的バネ定数を大腿部の動的バネ定数より小さく設定する必要がある。すなわち、動的バネ定数という観点からみると、人体を、いわば、骨盤が位置するブロックと、大腿部が位置するブロックというように分けて考察すべきである。このため、直径98mmの重りでの部位別の評価を重視し、骨盤を中心とした体幹全体を揺らす低周波振動と、大腿部等の筋肉を揺らす高周波振動との両方に対処可能な特性を備えた構造とするため、直径98mmの円形の重りの中心を、各人体支持部11,12の中心に合わせ、該重りが自重で安定した状態を原点として加振させて得られる動的バネ定数が、第1人体支持部11の動的バネ定数をkd1、第2人体支持部12の動的バネ定数をkd2としたときに、kd1<kd2となるように設定する。但し、人が着座した状態で、入力振動により第1人体支持部11及び第2人体支持部12のそれぞれに働く励振力と実質的に同じ励振力となる加振条件においてkd1<kd2を満足する必要がある。人が着座した場合と同様の励振力のバランスを、直径98mmの重りを用いて作り出すためには、後述のように、第1人体支持部11にセットした場合と、第2人体支持部にセットした場合とで加振振幅を変化させたりして測定する。また、剛性の高い表皮材を用いるか否かによっても異なり、同じ加振振幅で実験して人が着座した状態と同様の励振力バランスとなる場合もあれば、例えば、柔らかな表皮材を用いることにより、第1人体支持部11にセットした際には、加振振幅を大きくして実験する必要がある場合もある。詳細な試験結果については後述する。
【0020】
また、第1人体支持部11から座部10の縦方向中心線に沿った水平距離で200mm前方の位置を中心とした人体支持部を第3人体支持部13とし、その動的バネ定数をkd3としたときに、各動的バネ定数の関係が、kd1<kd2<kd3の関係を満たすと共に、次の条件式;
1≦kd2/kd1≦6、
1≦kd3/kd2≦3、及び
1≦kd3/kd1≦7を満たす値に設定されていることがより好ましい。
【0021】
第1人体支持部11は、座部の縦方向中心線に沿って背部と座部との境界から前方へ水平距離で50〜150mmの範囲内に設定される。かかる範囲内であれば、体格の大小を吸収でき、着座時において人の座骨結節下に相当することになる。第1人体支持部11は、座部の縦方向中心線に沿って背部と座部との境界から前方へ水平距離で100mmの位置に設定されていることが好ましい。この位置が座骨結節下に相当することになる場合が最も多いためである。
【0022】
第2人体支持部12は、上記のように、第1人体支持部11から座部10の縦方向中心線に沿った水平距離で100mm前方とし、第3人体支持部13は、第1人体支持部11から座部10の縦方向中心線に沿った水平距離で200mm前方とすることが好ましい。この位置で、人の大腿部の付け根付近、並びに、人の大腿部の略中央部付近から膝裏付近にかけての部位を支持することになるからである。
【0023】
各人体支持部11〜13の位置、並びに、直径200mmの加圧盤、直径98mmの重りをセットする位置を平面から見た図が図2である。符号11a,12a,13aは各人体支持部11〜13の中心であり、それらの中心11a,12a,13aに中心が一致する実線で示した小円98a,98b,98cは、動的バネ定数を測定する際の直径98mmの重りのセット位置である。この実線で示した3つの小円のうち、小円98aの両側に、同じ大きさで破線で示した小円98a’は、人の座骨結節の真下に相当し、臀部の中で最も高い体圧分布となる位置である。また、実線の小円98bの両側に、同じ大きさで破線で示した小円98b’は、大腿部の付け根付近に相当し、大腿部の中で最も高い体圧分布となる位置である。動的バネ定数は、実際には、破線の小円98a’,98b’に重りをセットして測定するのが理想的であるが、測定の便宜上、一方側又は他方側の破線の小円98a’と98b’ との対応位置関係を、座部10の縦方向中心線に沿った実線の小円98aと98bとの対応位置関係に相当するものと見なしている。なお、図2において、各人体支持部11〜13の中心11a〜13aに中心を合わせて示された破線の大円は、静的バネ定数を測定する直径200mmの加圧盤のセット位置であるが、この詳細については後述する。
【0024】
一方、動的バネ定数kd1,kd2,kd3は、振動状態で測定されるバネ定数であり、測定用重りの中心を、上記したように、第1人体支持部11、第2人体支持部12、及び第3人体支持部13の中心にそれぞれ合わせて載置した状態で加振させて求められる。本実施形態においては、測定用重りとして、直径98mm、質量6.7kgの円形の重りを用い、振動周波数4〜10Hzで加振させて求められる値である。
【0025】
静的バネ定数をks1、ks2が、ks1>ks2となるように設定されていることにより、静止状態では、高いバネ定数が臀部下を支持できるため、安定した着座感が得られる。一方、動的バネ定数kd1,kd2,kd3が、kd1<kd2<kd3の関係を有することにより、振動時(走行時)における人の体重の荷重分担が動的バネ定数kd2,kd3の第2及び第3人体支持部12,13で多くなり、走行時においても安定した着座姿勢が確保され、上記条件式の範囲に収まっていることにより、振動吸収特性が向上する。なお、静的着座時の安定性を高めると共に、走行時の運転姿勢がたえず一定の位置におかれるように、体幹とステアリング、骨盤とペダルの前後方向の位置関係の安定化を図り、さらに上記振動吸収特性を高めるためには、座部10の座角は、20〜28度、好ましくは、22〜26度、より好ましくは、25度に設定されていることが望ましい。
【0026】
振動周波数に拘わらず、kd2/kd1が1未満の場合及びkd3/kd1が1未満の場合には、走行時において人の体重を第1人体支持部11で支持することになるため、大振幅低周波の励振力が作用した場合、反力が座骨結節部に集中して入力されるため、座骨結節部回りにおいて底付きを誘発する。この底付きにより、筋肉を変形させ、末梢循環系の血管や神経系を圧迫することになる。また、高周波振動の影響が直接的に骨盤に入力されるため、主に頭部に至る除振性能が劣り、好ましくない。一方、kd2/kd1が1以上の場合及びkd3/kd1が1以上の場合には、大腿部が接する第2人体支持部12が支点となり、大腿部を支点とした臀部の前下方への回転運動により、無用な骨盤の沈み込みを軽減し、抜重方向への小さな反力により筋肉の変形が抑制される。また、kd3/kd2が1未満の場合には、膝裏付近の支持性が弱くなり、圧迫されやすくなる。kd2/kd1、kd3/kd2、及びkd3/kd1がいずれも大きく1を超えて10近くなる場合、特に、kd2/kd1では6を超える場合、kd3/kd2では3を超える場合、kd3/kd1では7を超える場合には、最終的な着座感として、支えを感じない状態になること(抜け感)が懸念される。
【0027】
次に、上記した静的バネ定数ks1,ks2及び動的バネ定数kd1,kd2,kd3を備えた乗物用シートの具体的実施例を説明する。
【0028】
(実施例1)
実施例1は、図3に示したように、座部10として、前後方向に張設される面状支持部材20を備えてなる。面状支持部材20は、座部10を構成するクッション材において最下層に配設されるものであり、三次元立体編物、二次元の布帛等を用いることができるが、本実施形態では三次元立体編物を用いている。面状支持部材20の後縁部21は、座部10の後端フレーム10aに係合される後部バネ部材としての複数本のコイルスプリング30によって支持される。各コイルスプリング30は、略等間隔で互いにほぼ平行となるように配置されている。本実施例では、バネ定数(静的バネ定数0.4kg/mmの引張りコイルスプリング4本使用している。なお、三次元立体編物(三次元ネット材)とは、所定間隔をおいて位置する一対のグランド編地間に連結糸を往復させて編成したもので、ダブルラッセル機等を用いて所定の形状に形成され、例えば、旭化成(株)製、製品番号:T24004A、あるいは住江織物(株)製、製品番号:49076D、49013Dなどを用いることができる。本実施例では、旭化成(株)製の製品番号:T24004Aを用いている。
【0029】
また、本実施例では、面状支持部材20の下部に補助面状支持部材40が配設されており、該補助面状支持部材40の側縁部42のうち、第2人体支持部12に相当する位置の側方に位置する部位には、座部10のサイドフレーム12の略中央部に一端が係合される側部バネ部材としての複数本のコイルスプリング31が係合される。このコイルスプリング31は、バネ定数(静的バネ定数)0.35kg/mmの引張りコイルスプリングからなり、座部10の一方のサイドフレーム12と一方の側縁部42との間、他方のサイドフレーム12と他方の側縁部42との間にそれぞれ3本ずつ略平行に配設され、該補助面状支持部材40を左右方向に張設している。
【0030】
従って、本実施形態では、側部バネ部材であるコイルスプリング31の合成バネ定数は2.1kg/mmであり、後部バネ部材であるコイルスプリング30の合成バネ定数は1.6kg/mmよりも大きくなっている。
【0031】
また、側部バネ部材のうち、少なくとも最も座部10の後端寄りに配設される側部バネ部材300は、第1人体支持部11の中心11aと第2人体支持部12の中心12aとの間の領域に対応する位置、すなわち、第1人体支持部11の中心11aから、座部10の縦方向中心線に沿って50mm以上100mm未満の位置に設けられることが好ましい。これにより、静的な着座状態を評価するに当たって、第1人体支持部11の中心11aに直径200mmの加圧盤の中心を合わせて押圧すると、後部バネ部材のほかに、側部バネ部材の弾性が大腿部付け根付近に作用し、しっかりと臀部を支持できる。しかも、衝突時のように大きな加速度が下方向並びに前方斜め方向に入力された場合、側部バネ部材は前方に移動し、抗重力方向でバネ定数が小さくなる。
【0032】
面状支持部材20の前縁部23は、座部10の前縁支持フレーム10cにより支持されている。本実施例では、この前縁支持フレーム10cは、トーションバー10dによってねじり方向に弾性的に支持されるアーム部材10eに連結されており、座部10の前後方向に揺動することにより、トーションバー10dのねじりトルクによる弾性が機能する。
【0033】
面状支持部材20の略中央付近から前縁付近にかけて所定の厚みのウレタン材25が積層される。このウレタン材25により、大腿部略中央付近から膝裏付近にかけての部位が支持される。
【0034】
上記のようにして配設された面状支持部材20及びウレタン材25の上面には、表皮材28が配設される。本実施例では表皮材28として三次元立体編物を用いているが、該三次元立体編物は、着座時の平衡状態において伸び率5%以下で、座部10を構成するサイドフレーム12を含んでなるクッションフレーム全体を覆うように配設される。表皮材(三次元立体編物)28をこのように低い伸び率で配設することにより、着座して平衡状態に至るまでは、主に、面状支持部材20の伸び、トーションバー10d及び補助面状支持部材40を左右方向に張設するコイルスプリング31の弾性が支配的となり、コイルスプリング30はこの段階では大きく作用しない。すなわち、コイルスプリング30は、平衡着座状態を作る段階ではその弾性機能があまり作用していないことになるため、外部入力が作用したときに側部バネ部材が前下方に回動し、該コイルスプリング30の弾性機能が大きく作用することになる。
【0035】
本実施例の第1人体支持部11は、座部中心線に沿って背部と座部との境界から前方へ水平距離で100mmの位置に設定されている。この第1人体支持部11は、バネ要素として機能するが、これは、上記した後部バネ部材であるコイルスプリング30の弾性が主として作用することによる。第1人体支持部11に対して水平距離で100mm前方の第2人体支持部12は、上記した側部バネ部材であるコイルスプリング31の弾性が主として作用することによりバネ要素として機能する。第1人体支持部11に対して水平距離で200mm前方の第3人体支持部13は、ウレタン材25の有する弾性が主として作用し、バネ要素として機能する。
【0036】
前縁支持フレーム10cを支持するトーションバー10dの弾性は、上記各人体支持部11〜13のいずれにも関連するが、主として第1人体支持部11に位相遅れを生じさせる直列バネ(深層のバネ部材)として作用する。精密に考えると、面状支持部材20や表皮材28として用いられる三次元立体編物自体の弾性も、各人体支持部11〜13における静的バネ定数、動的バネ定数に影響を与える。また、例えば、側部バネ部材であるコイルスプリング31の弾性も、静的な着座状態では、第1人体支持部11の静的バネ定数に影響するというように、各人体支持部11〜13は座部10に設けられた各種バネ部材の影響を相乗的に受ける場合もあるが、各人体支持部11〜13の静的バネ定数、動的バネ定数を主として決定するバネ部材は、上記のとおりである。
【0037】
(試験例1−1)
実施例1の乗物用シートによれば、上記した各種部材を備えることにより、第1人体支持部11、第2人体支持部12及び第3人体支持部13の静的バネ定数ks1,ks2、動的バネ定数kd1,kd2,kd3が所定の関係を有する構造になる。図4は、直径200mmの加圧盤により、50mm/minで1000Nまで加圧していった際に、45kg、60kg、75kgの各位置を、それぞれ変位量0mmの平衡位置として求めた静的バネ定数値を示すグラフである。C000は第1人体支持部11に中心を合わせて測定した値を意味し、C100は第2人体支持部12に中心を合わせて測定した値を意味し、C200は第3人体支持部に中心を合わせて測定した値を意味する。なお、比較のため、臀部下75mm厚のコールドキュアのウレタンフォームで構成されたフルフォーム構造のシートについて、同様に静的バネ定数を測定し、同じく図4に示した。
【0038】
この結果から、本実施例では、第1人体支持部11であるC000の静的バネ定数ks1が、第2人体支持部12であるC100の静的バネ定数ks2、さらには、第3人体支持部13であるC200の静的バネ定数ks3のいずれよりも大きな値であった。この点は、比較例1のシートでも同様であり、両者とも臀部下の静的着座時の支持性は優れているが、後述のように動的な特性が異なる。
【0039】
(試験例1−2)
図5は、4〜10Hzの振動周波数において、直径98mm、質量6.7kgの重りを用いて測定した動的バネ定数を示す。図5から、本実施例のシートは、第1人体支持部11の動的バネ定数kd1が最も低く、第2人体支持部12の動的バネ定数kd2、第3人体支持部13の動的バネ定数kd3の順に高くなっていた。すなわち、本実施例の動的バネ定数kd1,kd2,kd3は、kd1<kd2<kd3の条件を満たした構造であった。また、kd2/kd1、kd3/kd2、kd3/kd1の比を求めたところ、図6に示したように、いずれの振動周波数においても、上記条件式の範囲に収まっていた。これに対し、比較例1は、第1人体支持部11の動的バネ定数kd1が最も高く、kd2,kd3というように前方に向かうほど値が小さくなっており、kd1に対するkd2又はkd3の比がいずれも1未満となっている。また、振動周波数が変化しても、各比はあまり大きくは変化していない。
【0040】
すなわち、実施例1では、第1人体支持部11における静的バネ定数ks1は側部バネ部材の影響により大きくなっているが、振動が入力された際には、骨盤を含む体幹のブロックと大腿部を含むブロックとに分けて考え、骨盤を含む体幹のブロックは、後部バネ部材と前部バネ部材(トーションバー)との直列バネによる低い動的バネ定数により除振される。これに対し、比較例1では、骨盤を含む体幹のブロックが、体幹全体を揺らす振動であるにも拘わらず、動的バネ定数が高いため、効果的な除振がなされない。
【0041】
また、実施例1では、第1人体支持部11の動的バネ定数kd1が最も小さく、上記条件式の範囲に収まっているが、振動周波数が変化すると、各動的バネ定数間の比も上記条件式の範囲内で顕著に変化する。これは、振動周波数に応じて、支配的に作用する人体支持部11,12,13が変化することを意味する。すなわち、各人体支持部11,12,13をバネ要素として機能させている各バネ部材(コイルスプリング30,31,トーションバー10d等)の影響力が振動周波数に応じて変化することを意味する。従って、実施例1によれば、振動周波数に応じて高い除振性能が得られる。この点についての試験結果は後述する。
【0042】
(実施例2)
実施例2は、図7及び図8に示すように、実施例1と同様に、面状支持部材20の下層であって、第2人体支持部12及び第3人体支持部13に相当する範囲において、補助面状支持部材40を有する構造である。また、座部10の後部には、座部の幅方向に沿って配置されたトーションバー10fが配設されており、このトーションバー10fに対してアーム部材10gが連結され、このアーム部材10gに後縁支持フレーム10hが連結されている。これにより、後縁支持フレーム10hは、トーションバー10fの弾性により前後方向に揺動し得るように支持される。従って、本実施例においては、このトーションバー10fが後部バネ部材として機能し、バネ力と減衰力を付与する深層のバネ部材を構成する。
【0043】
補助面状支持部材40は、より詳しくは、第1人体支持部11の中心11aから、座部10の縦方向中心線に沿って50mm以上100mm未満の位置に、後端縁略中央部が位置するように設けられる。図2に示した補助面状支持部材40は、略中央部が前方に位置するように円弧状に形成されているが、実施例2で使用する補助面状支持部材40も、このように形成されていることが好ましく、それにより、静的な着座状態での臀部下の支持性が高まり、衝撃性振動が入力されたときに、コイルスプリングを前下方に、逃がしやすくなる。
【0044】
また、側部バネ部材は、上記実施例1と同じコイルスプリング31を用いており、このコイルスプリング31を補助面状支持部材40の側縁部に連結しているが、側部バネ部材のうち、少なくとも最も座部の後端寄りに配設される側部バネ部材(図2の符号300で示した側部バネ部材)は、第1人体支持部11の中心11aと第2人体支持部12の中心12aとの間の領域に対応するように設けることが好ましい。これにより、静的な着座時において、かかる側部バネ部材の弾性も作用するため、臀部下の支持性がさらに高まる。なお、補助面状支持部材40は、三次元立体編物や二次元の弾性布帛等からなるが、これにより、面状支持部材20の弾性を補い、第2人体支持部12及び第3人体支持部13の面剛性を高める機能も有する。なお、この補助面状支持部材40は、面状支持部材20の下層に、非着座時において隣接面同士がわずかに接する程度に近づけて配設される。座部10のその他の構成は、上記実施例1とほぼ同じで、大腿部略中央付近から膝裏付近にかけてウレタン材が配設されていると共に、面状支持部材20の前縁部は、トーションバー10dにより支持された前縁支持フレーム10cに連結されている。
【0045】
なお、第3人体支持部13に相当する位置に設けられるウレタン材25は、図8に示したように、通常の着座時においては、該ウレタン材25のうち、ほぼ第2人体支持部12付近に位置している後縁部25aが大腿部略中央付近によって圧縮されるように変形している。図8の斜線で示した部分がこの圧縮代であり、この圧縮代による反力が第2人体支持部12のバネ定数を高める方向に作用しているが、ペダル操作時において膝が伸びようとしたときには、図9に示したように、その体動に追随して、ウレタン材25の前縁部が前方に回動する。この結果、ウレタン材25の後縁部25aも、図9の破線で示したように変位しようとするが、大腿部の荷重により、破線のようには変位せず、下向き矢印方向に曲げられてしまう。すなわち、ウレタン材25が前方に回動するように移動しながら、後縁部25aが曲がることになるため、後縁部25aの圧縮による反力が小さくなって、フィットするように大腿部を支持する。これにより、ペダル操作時において大腿部が浮いた感じになったり、逆に大腿部に対して強い反力が生じたりすることがなく、円滑なペダル操作を実現できる。
【0046】
(試験例2−1)
図10は、実施例2の座部10について、直径200mmの加圧盤により、50mm/minで1000Nまで加圧していった際に、45kg、60kg、75kgの各位置を、それぞれ変位量0mmの平衡位置として求めた静的バネ定数値を示すグラフである。なお、座部10には、表皮材として厚さ1.6mmの皮革を着座時の平衡状態において伸び率5%以下で設けている。厚さ1.6mmの皮革は、面剛性が高いため、上記したトーションバーやコイルスプリングなどの各種のバネを有機的に連動して作動させるという特徴を備える。図10においても、第1人体支持部11であるC000の静的バネ定数ks1が、第2人体支持部12であるC100の静的バネ定数ks2、さらには、第3人体支持部13であるC200の静的バネ定数ks3のいずれよりも大きな値であった。この点は、比較例2のシートでも同様であり、両者とも臀部下の静的着座時の支持性は優れているが、後述のように動的な特性が異なる。なお、比較例2は、臀部下60mm厚のコールドキュアのウレタンフォームで構成されたフルフォーム構造のシートである。
【0047】
(試験例2−2)
図11は、試験例2−1で用いたシートと同じシートに対し、4〜10Hzの振動周波数において、直径98mm、質量6.7kgの重りを用いて測定した動的バネ定数を示す。図11から、本実施例のシートも、実施例1と同様に、第1人体支持部11の動的バネ定数kd1が最も低く、第2人体支持部12の動的バネ定数、第3人体支持部13の動的バネ定数の順に高くなっていた。すなわち、本実施例の動的バネ定数kd1,kd2,kd3は、kd1<kd2<kd3の条件を満たした構造であった。また、kd2/kd1、kd3/kd2、kd3/kd1の比を求めたところ、図12に示したように、いずれの振動周波数においても、上記条件式の範囲に収まっていた。但し、本実施例の場合は、図11から、上記実施例1と異なり、kd1,kd2,kd3というように、前方の人体支持部の動的バネ定数ほど、非線形性が強くなっている。これは、トーションバーを前部だけでなく、後部にも配設したことにより、面状支持部材20の上下方向の減衰比が実施例1よりも高くなり、周波数に依存してその直列バネ定数が変化することが影響している。
【0048】
図11及び図12を見ると、比較例2は、第1人体支持部11の動的バネ定数kd1が最も高いため、kd2,kd3の比がいずれも1未満となっており、また、振動周波数が変化しても、各比はあまり大きく変化していない。この点は、比較例1とほぼ同様である。これに対し、実施例2では、第1人体支持部11の動的バネ定数kd1が最も小さく、上記条件式の範囲に収まっているが、振動周波数が変化すると、各動的バネ定数間の比も上記条件式の範囲内で顕著に変化し、振動周波数に応じて、支配的に作用する人体支持部11,12,13が変化しており、実施例1と同様に、振動周波数に応じて高い除振性能が得られることがわかる。
【0049】
図5及び図11に示した実施例1及び実施例2の動的バネ定数のデータを併せて表示したのが図13であり、図6及び図12に示した実施例1及び実施例2のデータを併せて表示したのが図14である。図13及び図14から、動的バネ定数は、全体的に実施例2の方が大きいと共に、非線形性が強いことから、上記のように、実施例1よりも減衰比が大きいことが分かる。
【0050】
(試験例2−3)
次に、上記試験例1−1及び1−2で用いた実施例1のシート、試験例2−1〜試験れ2−3で用いた実施例2のシート及び比較例2のシートに関して振動伝達率を測定した。振動伝達率は、加振機のプラットフォーム上に上記した乗物用シートを取り付けると共に、座部10の座骨結節下に相当する付近、すなわち、第1人体支持部11に加速度センサを取り付け、体重58kgの日本人男性を各乗物用シートに着座させ、片側振幅1mm(上下のピーク間振幅2mm)の正弦波で、振動周波数を180秒間で0.5Hzから15Hzまで変化させて加振して測定した。その結果を図15に示す。
【0051】
まず、比較例2は、共振点が5Hzを超えていると共に、共振点の振動伝達率が1.7と低いため、7Hz以上の高周波帯の振動吸収特性の値がよくない。これに対し、実施例1では、共振点が5Hz以下となり、7Hz以上の高周波帯の振動吸収特性が比較例2よりも大きく改善されていることがわかる。また、実施例2は、実施例1よりもやや共振点は高いものの、比較例2よりは低く、また、7Hz以上の高周波帯の振動吸収特性は、実施例1よりもさらに改善されていることがわかる。
【0052】
(試験例2−4)
図16は、試験例2−1〜2−3のシートと構造的には同じであるが、表皮材として用いた皮革の厚みが、試験例2−1〜2−3の1.6mmに対し、本試験例2−4では、0.8mmと薄いものを用いたシートの動的バネ定数を示すデータである。本試験例2−4では、上記した剛性の高い1.6mmの皮革を用いた場合と比較し、表層の皮革の張力が小さく、ソフトな座り心地を提供する。これにより、トーションバー、コイルスプリング、面状支持部材などの各種のバネ部材が作用する際の独立性が、試験例2−1〜2−3の厚さ1.6mmの剛性の高い皮革を用いたものと比べると高くなる。すなわち、本試験例2−4では、厚さ1.6mmの皮革を用いた場合と比較すると、各種のバネ部材の働きが励振力の大きさに対応して異なるという性質が現れやすくなる。例えば、励振力が小さい場合には、面状支持部材が主として機能し、励振力が大きい場合に、中層のバネ部材である側部のコイルスプリングが前下方に移動し、引っ張り方向では大きく作用せず、伸縮しながら回転運動(以下、「弾性振り子運動」という)する弾性振り子として機能し、また、大腿部を支点にした臀部の前下前への移動により、深層に配置されたトーションバー(深層のバネ部材)の作用が大きくなり、振動を吸収できる。従って、表皮材としては、このように薄いものを用いることがより好ましく、それにより、抜け感のない安定した座り心地を達成できると共に、微小振動から衝撃性振動まで対応できる高い除振性能により、快適な乗り心地を達成できる。
【0053】
薄い皮革(表皮材)を用いたシートはこのような特徴を備えるため、試験例2−2と全く同じ条件では、第1人体支持部11に重さ6.7kgの負荷質量を載置したときに、皮革が深く沈み込み、その平衡位置において既に後部トーションバーが作動しているため、微小変位では該後部トーションバーが作動しない。そこで、本試験例2−4では、加振条件を片側振幅2.5mm(上下のピーク間振幅5mm)と大きくし、後部トーションバーが平衡位置から振動によって作動可能な励振力を付与し、第1人体支持部11における動的バネ定数kd1を求めた。
【0054】
その一方、第2及び第3人体支持部12,13における動的バネ定数kd2、kd3については、上記試験例2−2と同様に片側振幅1mm(上下のピーク間振幅2mm)で求めた。本発明のシートは、動的バネ定数をkd1<kd2とし、大腿部を支持する第2人体支持部12が運動の支点となることを特徴とする。従って、上記動的バネ定数kd1と同様の条件で求めると、負荷質量6.7kgが相対的に重すぎ、大きな加速度が発生するため、実際に人が着座した際の圧力分布と異なることになる。すなわち、本試験例2−4では、実際に人が着座した際の体圧分布が部位によって相違することによる、入力振動に対する影響の差を考慮し、実際の着座条件に合わせて各動的バネ定数kd1,kd2,kd3を求めたものである。
【0055】
図16から、本試験例2−4のシートも、試験例2−2と同様に、kd1<kd2<kd3の条件を満たした構造であった。また、kd2/kd1、kd3/kd2、kd3/kd1の比を求めたところ、図17に示したように、いずれの振動周波数においても、上記条件式の範囲に収まっていた。
【0056】
なお、動的バネ定数kd2も、第1人体支持部11における動的バネ定数kd1のように、大きな励振力(片側振幅2.5mm(上下のピーク間振幅5mm))で加振して求めた場合には、動的バネ定数kd1と同程度となる。その結果、第2人体支持部12における動的バネ定数kd2と第3人体支持部13における動的バネ定数kd3との関係は、上記したkd1とkd2との関係と同様になる。これは、肥満体の臀部の大きい人や衝突等の衝撃性振動が入力された際の振動特性を示すものとなる。これは、側部のコイルスプリングが前下方に移動することにより、第2人体支持部12の位置が、臀部の大きい人の座骨結節下に相当し、また、衝撃性振動が入力されて臀部が前方に移動した際の座骨結節下に相当するからである。従って、本発明のシートは、この意味で、体格差、着座姿勢差を吸収し、負荷質量依存により、その動的バネ定数の分布を任意に変えていくことができる。なお、この点については図39〜図50を用いて改めて後述する。
【0057】
(試験例2−5)
次に、実施例2のシート(試験例2−4で用いた表皮材として厚さ0.8mmの薄い皮革を用いたもの)と比較例2のシートについて、体重58kgの被験者が着座した状態において、表皮材と筋肉との境界面がどの程度動いているかの指標となる振動周波数に対する圧力振幅差を求めた。その結果を図18に示す。
【0058】
図18に示したように、第1人体支持部11に相当する座骨結節部、並びに、骨盤前部に相当する位置について求めているが、いずれの場合も、試験例2−4の方が比較例2によりも低くなっている。図11に示した比較例2の座骨結節部(C000)の動的バネ定数kd1と図16に示した本試験例2−5のC000における動的バネ定数kd1とを比較した場合、本試験例2−5の方が低くなっていることが大きく影響しており、本試験例2−5で用いたシートは、振動伝達率で示されるように、圧力の中央値の低減だけでなく、圧力振幅低減効果が高い。
【0059】
(試験例2−6)
ここで、上記した説明では、動的バネ定数を、上記条件式を満足するように設定することで、振動周波数に応じて、支配的に作用する人体支持部が変化すると述べているが、この裏付けとして、第1人体支持部11に、直径98mm、質量6.7kgの重りをセットし、片側振幅2.5mm(上下のピーク間振幅5mm)の正弦波で、振動周波数1Hzから10Hzまでの10段階で加振し、重りの相対変位量と重りに働く荷重との関係をリサージュ図形に表した。結果を図19〜図28に示す。リサージュ図形からは、バネ性のみを考慮した静的バネ定数も読み取ることができ、重りが下方向に変位する重力方向の静的バネ定数をs−1として、重りが上方向に変位する抜重方向の静的バネ定数s−2として示した。なお、試験例2−6では、試験例2−4及び2−5と同様のシート、すなわち、実施例2の構造のシートであるが、厚さ0.8mmの薄手の皮革を表皮材として用いたシートを用いている。
【0060】
図19に示した1Hzの振動周波数では、面状支持部材20の弾性が主に作用していることがわかる。後側のトーションバー10fは作用していない。2Hz、3Hzになると、図20及び図21に示したように、第1人体支持部11から距離が離れているため、重力方向の荷重の支持には、面状支持部材20の圧縮方向での荷重支持に加えて、コイルスプリング31の復元力が作用し、次いで、前後のトーションバー10d,10fが作用し、抜重方向のバネ定数が小さくなると共に粘性減衰が生じる始めている。さらに図22の4Hzになると、側部のコイルスプリングの前下方向への回動(弾性振り子運動)による後側のトーションバー10fの影響が大きく現れ、徐々に、斜線で示したように粘性減衰の影響も大きくなる。3Hz,4Hzのリサージュ図形から明らかなように、抜重方向の静的バネ定数s−2は、重力方向の静的バネ定数s−1よりも小さな傾きになっている。すなわち、振動周波数が大きくなって、相対変位量が大きくなってくると、つまり、第1人体支持部11に作用する力が大きくなってくると、面状支持部材20の弾性と横方向から復元力を与えているコイルスプリング31の弾性に、その前下方向への運動が加わり、さらに、前側のトーションバー10d、後側のトーションバー10fの作用が加わると共に、前側のトーションバー10dと後側のトーションバー10fとが位相差をもって作用することから、静的バネ定数s−2が低くなるものである。
【0061】
特に、図22〜図25で示した符号A部(重力方向から抜重方向に変化する付近)において、リサージュ図形が段部を描きながら変化していることから前側のトーションバー10dと後側のトーションバー10fとが位相差をもって作用していることがわかる。さらに、図23〜図27の5Hz〜9Hzにおいて、リサージュ図形の面積が図において下方向に膨出するように大きくなることから、徐々に粘性減衰が生じ、減衰力が大きくなっており、振動周波数に応じて、動的バネ定数が変化することもわかる。また、高周波振動になることで、本シートを構成している各種バネ部材の運動、作用がスムーズになり、リサージュ図形がきれいな波形になってきている。一方、図28の10Hzでは、リサージュ図形の下方向への膨出傾向が小さくなっており、8Hz,9Hzの場合よりも、減衰がやや小さくなっている。これは、振動周波数が高周波に移行することにより、第1人体支持部11から離れている前側のトーションバー10dの作用が鈍くなり、後側のトーションバー10fの作用が支配的となって逆位相で振動を吸収していることによる。
【0062】
これらのことから、本実施例によれば、第1人体支持部11を支持する前側のトーションバー10d、後側のトーションバー10f、面状支持部材20等の作用が、振動周波数に応じて異なっており、振動周波数に応じて高い除振性能が得られることがわかる。特に、図21〜図27の特徴のあるリサージュ図形には、本発明のシートの深層のバネ部材の特徴がよく現れているといえる。
【0063】
(試験例2−7)
次に、図29〜図38に、第2人体支持部12に、直径98mm、質量6.7kgの重りをセットし、片側振幅1mm(上下のピーク間振幅2mm)の正弦波で、振動周波数1Hzから10Hzまでの10段階で加振し、重りの相対変位量と重りに働く荷重との関係をリサージュ図形で表した。
【0064】
図29〜図38のリサージュ図形から明らかなように、第2人体支持部12(C100の位置)では、いずれの振動周波数においても、重力方向及び抜重方向共にほぼ同じ傾きの静的なバネ定数になっており、楕円形ないしは平行四辺形に近いリサージュ図形になっている。これは、第2人体支持部12では、コイルスプリング31とウレタン材25の後縁部25aの弾性の作用が大きく影響しており、試験例2−6で説明したような粘性減衰がほとんど生じていないことを示す。このことから、減衰比を考慮して算出される動的バネ定数が、第1人体支持部11よりも第2人体支持部12の方が大きくなっており、すなわち、上記条件式のkd1<kd2を満たす構造になっており、走行中の振動入力時においては、座骨結節下の第1人体支持部11ではなく、大腿部下の第2人体支持部12による支持性が高いシートとなっている。これが中層のバネ部材の特徴である。
【0065】
なお、この第2人体支持部12も入力荷重を大きくすると(直径98mm、質量6.7kgの重りをセットし、片側振幅2.5mm(上下のピーク間振幅5mm)で加振した場合)、図39〜図48に示すように、深層に位置するトーションバー等のバネの特性がさらに出現しており、中層のバネ部材の特性から深層のバネ部材の特性へと変化している。これは、大腿部を支点にした臀部の回動により、側部のコイルスプリングの前下方への弾性振り子運動が大きくなったことを示す。これにより、衝突時におけるより大きなエネルギーの吸収に役立つシートであることがわかる。従って、負荷質量や入力の大きさにより、リサージュ図形が、図29〜図38のように線形性の高い図形になったり、図39〜図48に示したように、粘性減衰が大きくでている図形になったりしており、この違いが本発明のシートの大きな特徴となる。いわば、本発明のシートは、複数の特性が重畳されているといえ、入力の大きさや負荷質量の変動に応じて、異なる特性が出てくる。第2人体支持部12において衝撃性振動が入力された際の動的バネ定数kd2は、通常走行時における振動が入力された際の第1人体支持部11のkd1に相当するものとし、第3人体支持部13の動的バネ定数kd3が、通常走行時における第2人体支持部12のkd2に相当するものとして考える。この場合、第2人体支持部12のkd2と第3人体支持部13のkd3との関係は、上記条件式のkd1とkd2の条件式に当てはまるか否かを検討することになる。第2人体支持部12(C100)及び第3人体支持部13(C200)における動的バネ定数を示したのが図49であり、両者の比kd3/kd2を示したのが図50である。この2つの図から明らかなように、このkd2,kd3の関係は、上記したkd1,kd2の関係を満たしており、本発明のシートが衝撃性振動に対する振動吸収特性も改善できることがわかる。
【0066】
なお、試験例2−7のシートは、試験例2−4等で用いたシートと同じであり、実施例2の構造のシートであるが、厚さ0.8mmの薄手の皮革を表皮材として用いたシートである。
【0067】
(試験例2−8)
上記したように、本発明のシートは、動的バネ定数をkd1<kd2とし、大腿部を支持する第2人体支持部12が運動の支点となることを特徴としている。そして、試験例2−7で説明したように、直径98mm、質量6.7kgの重りを用いて検証したところ、通常の振動入力時では、第2人体支持部12が線形で比較的高い静的バネ特性を備え、人体を大腿部で支持できることが分かっている。その一方、大腿部が支点となることから、快適な乗り心地を実現するために、大腿部筋肉及び皮膚表面へのびびり振動の影響を小さくする必要がある。そこで、びびり振動が入力された際の影響を検証した。びびり振動は、支点となる大腿部への直接の影響であるから、大腿部の体圧分布に相当する負荷質量により検証する。これは、実施例2のシート(試験例2−4等で用いたシート)の場合、図51の体圧分布から明らかなように、直径98mmの重りの場合で質量2kgに相当する。この2kgの重りを第2人体支持部12にセットし、片側振幅2.5mm(上下のピーク間振幅5mm)で加振して描いたリサージュ図形が、図52〜図61である。この図に示したように、加振振幅が大きいにも拘わらず静的バネ定数が小さく、びびり振動による反力はこれらの図に示したような小さなバネ定数で吸収されるため、びびり振動に対する振動吸収性も高い。このバネ特性が浅層のバネ部材の特性、すなわち、バネゼロ特性である。従って、支点となる大腿部からの高周波振動の入力の影響は極めて小さい。なお、この加振条件では、トーションバーの作用はほとんどなく、このような小さなバネ定数が実現できているとのは、表皮材として用いている柔らかな皮革と面状バネ部材20として用いている三次元立体編物のバネ特性によるところが大きい。
【0068】
(実施例3)
実施例3は、実施例1や実施例2のように、三次元立体編物などを張って設ける構造と異なり、面状バネ部材上にウレタン材を載置して用いる構造において、本発明の動的バネ定数を有する構造を実現した実施例である。
【0069】
すなわち、本実施例では、図62〜図63に示したように、座部10の後部に、後部バネ部材として、深層のバネ部材となるトーションバー10kを配置し、該トーションバー10kを中心として図の略水平位置から下方へと回動するアーム部材10mを設け、これに後縁支持フレーム10nを連結する。そして、この後縁支持フレーム10nに、中層のバネ部材を構成するウレタン材60と共に面状バネ部材50の後端を係合して支持する。面状バネ部材50の前端は、クッションフレームの前縁部に位置する固定フレーム10jに係合させる。この構造により、大腿部が支点となり、前下方に臀部が回動しやすくなる。一方、固定フレーム10jは図63に模式的に示したように、前縁部において所定の面積を有する板状に形成されている。
【0070】
このようにして支持された面状バネ部材50の上部にパッド材としてのウレタン材60を載置する。すると、乗員が着座したときの姿勢は、面状バネ部材50がたわむことにより、トーションバー10kの略前方に乗員の体重による分力が作用し、主に、トーションバー10k以外の弾性を利用して作られることがわかる。外部からの加速度や慣性力が入力されたときや、体格差の吸収にトーションバー10kの弾性力が利用される。すなわち、外部入力が生じた時は、面状バネ部材50の前下方への回動により、トーションバー10kに支持された後縁支持フレーム10nが上下動し、第1人体支持部11は、ウレタン材60、面状バネ部材50に加え、トーションバー10kの弾性が直列的に作用することになる。一方、第2人体支持部12においては、ウレタン材60及び面状バネ部材50の弾性が主に作用する。さらに、第3人体支持部13においては、ウレタン材60の弾性が主に作用する。この結果、第1人体支持部11の動的バネ定数kd1が最も低く、次いで、第2人体支持部12の動的バネ定数kd2、第3人体支持部13の動的バネ定数kd3が順に高くなる構造が形成される。
【0071】
(実施例4)
実施例4は、実施例3とほぼ同じ構造であるが、図64に示したように、実施例3のトーションバー10kに代え、後部バネ部材として、コイルスプリング32を用いた構成である。本実施例においても、実施例3と同様に、第1人体支持部11がウレタン材60及び面状バネ部材50の弾性に加え、該コイルスプリング32の弾性が直列的に機能するため、動的バネ定数kd1が小さくなる。なお、コイルスプリング32は、トーションバー10kを有する構造より、前方に回動し易いため、トーションバー構造より、さらに敏感に作用し始める。図63及び図64に示した実施例3及び4のウレタン材60は、いずれも、第2人体支持部12と第3人体支持部13との境界において、表面から裏面まで、斜めに貫通する分離スリット60bが設けられており、該分離スリット60bを挟んで2つのブロックに分断されている。これは、円滑なペダル操作を実現するための工夫であるが、詳細については、後述の実施例5(図65)において説明する。
【0072】
(実施例5〜実施例7)
図65〜図68に示したように、実施例5から実施例7は、いずれも、面状バネ部材50の上部にウレタン材60を配置した構成である点で、上記実施例3及び実施例4と同様であるが、面状バネ部材50の後端が、トーションバー10kやコイルスプリング32のような後部バネ部材の弾性により支持されているのではなく、座部10の後端に配置された固定フレーム10pに係合されている。このため、この構造は、実施例2のように、負荷質量や入力に対応して深層に位置するバネの特性が出現してくるというようなことはないが、ウレタンの硬度差により、動的バネ定数kd1,kd2,kd3の比やペダル操作性の点は緩やかではあるが同様の傾向を示す。
【0073】
その一方、ウレタン材60は、座骨結節付近に、所定の深さのスリット60aが刻設されており、該スリット60aにより、後部パッド61と中央部パッド62とに区画されている。このスリット60aは、バネゼロ特性を浅層に作るためのものであり、かつ、圧力の均一性を向上させ、着座感を高めるために設けるものであり、詳細については後述するが、ウレタン材60の厚み方向に貫通しない程度の深さで形成される。また、座部の中央よりもやや前方には、側面から見て、表面から裏面方向に向かうに従って前方に傾斜する分離スリット60bが、表面から裏面に至るまで貫通形成されており、該分離スリット60bを境として中央部パッド62と前部パッド63とに区画されている。そして、後部パッド61が前記第1人体支持部となり、中央部パッド62が前記第2人体支持部となり、前部パッド63が前記第3人体支持部となっている。
【0074】
分離スリット60bによって中央部パッド62から分離された前部パッド63には、膝裏付近から大腿前部が当接する。従って、ペダル操作の際に膝を曲げたり伸ばしたりすることによって、前部パッド63を上側から押し付ける。この際、通常のウレタン材と同様に、前部パッド63が中央部パッド62と分離されていない場合には、前部パッド63が押しつぶされるように変形し、膝裏付近から大腿前部に反力を与え、ペダル操作時の違和感につながる。これに対し、本実施例のように、前部パッド63を分離した構成とした場合には、膝裏付近から大腿前部によっり前部パッド63を上側から押し付けると、前部パッド63は、図65に示したように、回転中心の回りを前方に回転する。このため、膝裏付近から大腿前部に対して入力されるペダル操作時の反力が極めて小さくなり、ペダル操作性が向上する。なお、前部パッド63は、回転動作を容易にするため、その重心位置は、回転中心よりもやや前方となるように形成することが好ましい。分離スリット60bにより、前部パッド63(第3人体支持部13)を分離し、回転可能に支持することが好ましいことは、本実施例に限定されず、他の実施例でも全く同様である。なお、分離スリット60bは、前部パッド63を前方に回転可能にするために形成するものであり、必ずしも、表面から裏面まで貫通形成されている必要はなく、適宜の深さで形成することもできる。また、臀部近くに設定すると違和感が生じるため、その前後方向の位置はウレタンの硬度によって前後する。
【0075】
座骨結節付近に形成されるスリット60aは、第1人体支持部の中心から、座部の縦方向中心線に沿って50mm以上100mm未満の位置に、座部の幅方向を長手方向として所定の深さで刻設されており、前記第1人体支持部の中心が前記スリット60aよりも後部寄りに位置し、前記第2人体支持部の中心が、前記スリット60aよりも前部寄りに位置する。この結果、直径200mmの加圧盤を用いて測定する場合には、第1人体支持部の中心に該加圧盤の中心を合致させると、該加圧盤がスリット60aを跨ぐことになるため、直径200mmの加圧盤を用いて測定される静的バネ定数ks1は、中央部パッド62の弾性も作用し、静的バネ定数ks1は高くなる。一方、動的バネ定数は、スリット60a,60bを介して各パッド61〜63の弾性を異ならせることにより、上記した動的バネ定数kd1,kd2,kd3に調整できる。
【0076】
実施例5では、図65に示したように、後部パッド61、中央部パッド62及び前部パッド63を構成するウレタン材60の材質を変化させ、動的バネ定数kd1の後部パッド61が最もソフトなウレタン材で、中央部パッド62、前部パッド63が後部パッドよりも硬度の硬いハードなウレタン材を使用した構成である。後部パッド61では、該パッドの柔らかな弾性に加え、面状バネ部材50の弾性が直列的に機能し、中央部パッド62では、後部パッド61よりも硬いウレタン材の弾性と面状バネ部材50の弾性とが直列的に機能し、前部パッド63では、後部パッド61よりも硬いウレタン材の弾性のみが機能するため、動的バネ定数kd1が最も小さく、kd2,kd3の順に大きくなる構成が作られる。
【0077】
実施例6は、図66に示したように、例えば、後部パッド61として、面剛性の高い層を介して、その下層にソフトなウレタン材を、その上層にハードなウレタン材を配置し、面状バネ部材50の弾性と直列に機能することにより、実施例5と同様に、上記条件式を満足する動的バネ定数kd1,kd2,kd3が設定される。なお、図66のソフトなウレタン材に代えて、図67に示したように、当該部位に、三次元立体編物(ネット)を配設する構成とすることもできる。
【0078】
実施例7は、図68に示したように、ほぼ同じ厚みのウレタン材60を用いる一方で、後部パッド61及び中央部パッド62に、バネ特性の異なる部材、好ましくは、浅層のバネ部材特性を担うものとして、三次元立体編物64を、スリット60aを跨いで積層した構成である。この結果、後部パッド61においては、三次元立体編物64の弾性、後部パッド61の弾性及び面状バネ部材50の弾性が直列に作用するため、動的バネ定数kd1が小さくなる。中央部パッド62は、該中央部パッド62の弾性、面状バネ部材50の弾性との作用になるため、後部パッド61における動的バネ定数kd1よりも高い動的バネ定数kd2になる。前部パッド63においては、該前部パッド63の弾性のみの機能になるため、より高い動的バネ定数kd3になる。
【0079】
実施例5〜7で形成する座骨結節付近に位置するスリット60aは、ウレタンに、負荷質量の大小やたわみの大小で浅層と中層の2種類のバネを作ることを促す。図69に示したように、座部10の縦方向中心線に略直交して160〜240mmの長さで形成されていると共に、長さ方向の略中央付近の深さがその両端付近よりも浅いことが好ましい。スリット60aの長さ方向の略中央付近の深さは、18〜30mmの範囲であり、その両端付近の深さは、23〜50mmの範囲とすることが好ましい。また、スリット60aの幅は、2〜20mmの範囲、好ましくは、3〜10mmの範囲、さらに好ましくは3〜5mmの範囲である。このようなスリット形状とすることにより、着座時においては、図69(c)の矢印で示したようにスリット形状が変化する。すなわち、重心のかかる座骨結節下を中心に引っ張られるため、該スリットの長さ方向の略中央付近の変形が小さく、その両端付近の変形の方が大きくなる。これにより、座部にかかる圧力が臀部形状に沿ってかかるため、圧力の均一性が高くなる。なお、スリット60aの構造は、上記実施例3,4においても併せて適用すると着座感がさらに改善されるため好ましい。
【0080】
例えば、図66に示した実施例6では、パッド厚が変化するため、違和感が生じる可能性がある。そのため、スリット60aを設けることで着座時の違和感を軽減することができる。図70は、図66に示した構造のシートにおいて、スリット60aを形成した場合(スリット有)と形成しない場合(スリット無)について、第1人体支持部11と第2人体支持部12における動的バネ定数の比kd2/kd1を求めた図である。ウレタンの下に配置されたバネの層の剛性が高いため、この適用例では、動的バネ定数比kd2/kd1は、1〜1.5の間にある方が支持面の連続感を与えるため、望ましい。あまりこの比が大きくなると、別の剛性の高いバネ部材で支持されていないため、4Hzのときに抜け感を感じやすくなる。試験は、第1人体支持部11及び第2人体支持部12に、それぞれ直径98mm、質量6.7kgの重りをセットし、片側振幅1mm(上下のピーク間振幅2mm)の正弦波で、振動周波数4Hzから10Hzで加振し行った。また、上記した図14及び図15に示したように、片側振幅1mm(上下のピーク間振幅2mm)といった微振動では、kd2/kd1が全体的に1に近い実施例2の方が振動吸収性の点で優れている(上記したように、特に、高周波帯での振動吸収性が高い)。図70においては、スリット60aを形成した場合の方が、kd2/kd1が1に近くなっていることから、スリット60aを形成することにより、姿勢の支持性と振動吸収特性の改善の両立を図ることができることがわかる。
【0081】
(実施例8)
実施例8は、実施例3とほぼ同じ構造であるが、面状バネ部材50’の構造が異なる。実施例3で用いた面状バネ部材50は、図62及び図63に示したように、座部の前後方向に配置された複数本のS字バネ50aと、このS字バネ50aの下側に積層され、複数本のS字バネ50a同士を連結する略コ字状に形成されたバネ(コ字状バネ)50bとの組み合わせからなる。コ字状バネ50bは、図63に示したように、側面から見ると、第1人体支持部11と第2人体支持部12との境界付近において両者にまたがるようにS字バネ50aに固定されている。これに対し、実施例8においては、図71及び図72に示したように、コ字状バネ50’bの後縁付近を、S字バネ50’aに接触させずに、S字バネ50’aから離間する形状に形成している。このため、コ字状バネ50’bの後縁付近においては、隙間が生じるため、これに対応する位置に相当する座骨結節付近の第1人体支持部11のバネ感が第2人体支持部12よりもより柔らかくなる。
【0082】
図73は、実施例3及び実施例8の第1人体支持部11、第2人体支持部12、第3人体支持部13における動的バネ定数を比較したものである。基本的には両者間に顕著な差はないが、実施例8の第1人体支持部11における動的バネ定数は、実施例3よりも若干低くなっている。一方、図74(a)は実施例8の座部における体圧分布を、図74(b)は実施例3の座部における体圧分布をそれぞれ調べた図である。前後距離30cm付近が、座骨結節に相当する位置になるが、両者を比較すると、実施例8の方が体圧分散性に優れていると言える。実施例8は、後縁付近においてS字バネ50’aとの間に隙間が形成されるコ字状バネ50’bを用いている点で実施例3と異なるだけであるが、このように、コ字状バネ50’bの形状変更のみによっても、体圧分散性を向上させることができる。
【0083】
なお、実施例3〜8において、第1人体支持部11の動的バネ定数kd1、第2人体支持部12の動的バネ定数kd2、第3人体支持部13の動的バネ定数kd3を、kd1<kd2<kd3の関係を満たすことができることは上記の通りであるが、上記条件式、すなわち、1≦kd2/kd1≦6、1≦kd3/kd2≦3、及び1≦kd3/kd1≦7を満たす値に設定することは、上記実施例で用いた各種バネ部材(トーションバー、コイルスプリング、ウレタン材、面状バネ部材等)の弾性を調整することで実現できることはもちろんである。また、上記したように、本発明では、座部について、部位により異なる特性を有する構造にしている。すなわち、従来、一般のシートで座部と背部とを比較した場合、座部は、比較的、面剛性が高く一様なクッション特性となっているのに対し、背部は、腰椎部や胸部の支持圧が部分的に高くなるような特性を付与している。この視点で考察すると、本発明は、いわば、従来の背部の特徴を座部に適用し、部位によりクッション特性や支持圧を変化させ、背部は、従来の座部の特徴を適用し、凹凸が少なく、面剛性が高く比較的均一なクッション特性にしたものと見ることもできる。
【0084】
ここで、各人体支持部の動的バネ定数が所定の範囲に設定されていると、さらには、静的バネ定数が所定の範囲に設定されていると、振動吸収特性の向上、着座姿勢の安定性等に優れた乗物用シートを提供できることが、上記したことから明らかになった。従って、乗物用シートの座部が上記した各動的バネ定数や静的バネ定数の条件を満たすか否かを上記各実施例で行った方法を用いて判定することにより、高い振動吸収特性、安定した着座姿勢の確保を達成でき、長時間着座による疲労低減を図ることができる乗物用シートか否かを客観的に評価できる。
【符号の説明】
【0085】
1 乗物用シート
10 座部
11 第1人体支持部
12 第2人体支持部
13 第3人体支持部
20 面状支持部材
25 ウレタン材
30 コイルスプリング(後部バネ部材)
31 コイルスプリング(側部バネ部材)
300 側部バネ部材
40 補助面状支持部材
50 面状バネ部材
60 ウレタン材
60a,60b スリット
61 後部パッド
62 中央部パッド
63 前部パッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
座部が、面状バネ部材と該面状バネ部材の上部に配設されるウレタン材とを備えてなり、
前記座部における人体の一対の座骨結節間の略中央部に対応する位置に中心を有する第1人体支持部と、該第1人体支持部から座部の縦方向中心線に沿った水平距離で100mm前方の位置に中心を有する第2人体支持部と、前記第1人体支持部から座部の縦方向中心線に沿った水平距離で200mm前方の位置を中心とした第3人体支持部とした場合に、
前記第3人体支持部を含む部位が、前方に回転可能に設けられていることを特徴とする乗物用シート。
【請求項2】
前記第3人体支持部を含む部位と前記第2人体支持部を含む部位との境界において分離スリットが形成され、該分離スリットを境として、前記第3人体支持部を含む部位が、前方に回転可能である請求項1記載の乗物用シート。
【請求項3】
前記第3人体支持部を含む部位の重心が、該部位の前方への回転中心よりも、前方寄りとなるように設けられている請求項1又は2記載の乗物用シート。
【請求項4】
前記座部が、複数のバネ部材の作用によって人体を支持可能な構成であり、
前記座部における人体の一対の座骨結節間の略中央部に対応する位置に中心を有する第1人体支持部と、該第1人体支持部から座部の縦方向中心線に沿った水平距離で100mm前方の位置に中心を有する第2人体支持部とを、それぞれ前記複数のバネ部材の働きにより作られるバネ要素としてみなした場合、
直径98mm、質量6.7kgの円形の重りの中心を、前記各人体支持部の中心に合わせ、該重りが自重で安定した状態を原点として振動周波数4〜10Hzで加振させて求められる前記第1人体支持部の動的バネ定数kd1と前記第2人体支持部の動的バネ定数kd2とが、kd1<kd2の関係を有し、入力振動の励振力が変化すると、前記複数のバネ部材の中で、支配的に機能するバネ部材が替わり、前記各動的バネ定数kd1,kd2が変化する構造であり、かつ、前記面状バネ部材の後縁部が、座部の後部に配設される後部バネ部材に連結されている請求項1〜3のいずれか1に記載の乗物用シート。
【請求項5】
前記座部が、複数のバネ部材の作用によって人体を支持可能な構成であり、
前記座部における人体の一対の座骨結節間の略中央部に対応する位置に中心を有する第1人体支持部と、該第1人体支持部から座部の縦方向中心線に沿った水平距離で100mm前方の位置に中心を有する第2人体支持部とを、それぞれ前記複数のバネ部材の働きにより作られるバネ要素としてみなした場合、
直径98mm、質量6.7kgの円形の重りの中心を、前記各人体支持部の中心に合わせ、該重りが自重で安定した状態を原点として振動周波数4〜10Hzで加振させて求められる前記第1人体支持部の動的バネ定数kd1と前記第2人体支持部の動的バネ定数kd2とが、kd1<kd2の関係を有し、入力振動の励振力が変化すると、前記複数のバネ部材の中で、支配的に機能するバネ部材が替わり、前記各動的バネ定数kd1,kd2が変化する構造であり、かつ、
前記座部は、面状バネ部材と該面状バネ部材の上部に配設されるウレタン材とを備えてなり、前記ウレタン材において、前記第1人体支持部の中心から、座部の縦方向中心線に沿って50mm以上100mm未満の位置に、座部の幅方向を長手方向として所定の深さで刻設されたスリットを有し、前記第1人体支持部の中心が前記スリットよりも後部寄りに位置し、前記第2人体支持部の中心が、前記スリットよりも前部寄りに位置する構成である請求項1〜3のいずれか1に記載の乗物用シート。
【請求項6】
前記面状バネ部材の後縁部が、座部の後部に配設される後部バネ部材に連結されている請求項5記載の乗物用シート。
【請求項7】
前記スリットは、座部の縦方向中心線に略直交して160〜240mmの長さで形成されていると共に、該スリットを長さ方向の略中央付近の深さがその両端付近よりも浅い請求項4〜6のいずれか1に記載の乗物用シート。
【請求項8】
前記スリットの長さ方向の略中央付近の深さは、18〜30mmの範囲であり、その両端付近の深さは、23〜50mmの範囲である請求項7記載の乗物用シート。
【請求項9】
前記スリットは、幅が2〜20mmの範囲である請求項7又は8記載の乗物用シート。
【請求項10】
前記第3人体支持部の動的バネ定数をkd3としたときに、前記各動的バネ定数が、
kd1<kd2<kd3の関係を満たすと共に、
前記各動的バネ定数kd1、kd2及びkd3の入力振動の励振力の変化による変化範囲が、次の条件式;
1≦kd2/kd1≦6、
1≦kd3/kd2≦3、及び
1≦kd3/kd1≦7を満たす範囲となるように設定されている請求項4〜9のいずれか1に記載の乗物用シート。
【請求項11】
直径200mmの加圧盤の中心を前記各人体支持部の中心に合わせて1000Nまで加圧した際の荷重−変位特性から得られる45kg、60kg及び75kgの各位置を平行位置として求めた静的バネ定数が、第1人体支持部の静的バネ定数をks1、第2人体支持部の静的バネ定数をks2としたときに、ks1>ks2となるように設定されている請求項4〜10のいずれか1に記載の乗物用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【図57】
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【図58】
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【図59】
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【図60】
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【図61】
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【図62】
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【図63】
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【図64】
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【図65】
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【図66】
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【図67】
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【図68】
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【図69】
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【図70】
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【図71】
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【図72】
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【図73】
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【図74】
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【公開番号】特開2012−176330(P2012−176330A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−141497(P2012−141497)
【出願日】平成24年6月22日(2012.6.22)
【分割の表示】特願2007−552882(P2007−552882)の分割
【原出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(594176202)株式会社デルタツーリング (111)
【Fターム(参考)】