説明

乗用溝切機

【課題】機体の左右バランスを可能な限り均等にすることで作業時の走行安定性を確保し、直線状の溝を形成するための作業精度を向上させる。また、旋回時の操作性を向上させて作業性と安全性を向上させる。
【解決手段】乗用溝切機1において、エンジン40と着座シート60とを機体フレーム20の中心に沿って配置し、走行車輪10が機体の旋回操作時又は非作業時に軸支部材21の周りに自由回転可能であり、軸支部材21を中心に操作ハンドル70を前傾させるように機体の後方を持ち上げて、溝切作業体30を地上から浮かせることができるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水田等の圃場で溝切り作業を行う乗用溝切機に関する。
【背景技術】
【0002】
圃場面に溝を形成する作業の労力軽減化或いは効率化を図るために、機体に作業者が跨乗してエンジンの駆動力で走行しながら溝切り作業を行う乗用型溝切機が知られている(下記特許文献1参照)。
【0003】
この従来技術は、機体フレームの前部にエンジンによって駆動される走行車輪が軸支され、機体フレームの後部に溝切板が設けられており、機体フレームの中央部には作業者が機体フレームを跨いで着座する着座シートが設けられ、作業者が操作するハンドルが機体フレームの前部に設けられている。
【0004】
また、この従来技術は、走行車輪を駆動するためのエンジンを機体フレームの片側・側方に配置し、そのエンジンの出力軸の回転をその出力軸に沿って直線的に伝達する動力伝達軸を機体フレームの前後方向に沿って配置しており、この動力伝達軸の先端部を走行車輪の車軸と交差する位置まで延ばして、この動力伝達軸の軸方向と直交する車軸に対して、ギアボックスを介して動力を伝達している。
【特許文献1】特開2005−73540号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した従来技術では、動力伝達軸を用いた動力伝達機構を採用して、この動力伝達軸をエンジンの出力軸に沿って連結しているため、機体フレームの片側・側方にエンジン,動力伝達軸,ギアボックスを配置する必要があり、機体の重量バランスが左右不均等にならざるを得ない。このため、作業時の走行が不安定になりやすく、圃場面に直線状の溝を形成する溝切り作業を精度良く行うことができない問題がある。
【0006】
また、圃場の端部まで溝切り作業を進めて機体を旋回させる時には、作業者は一旦機体から降りて機体を持ち上げながら機体の方向を変えることになるが、機体の重量バランスが左右不均等になっている従来技術では、旋回時における機体の扱いが困難であり、足下の悪い圃場では重作業になり、バランスを崩して転倒する虞もあった。
【0007】
特に、旋回する方向によっては、エンジンが配置されている側に作業者が降りて機体を旋回させることが必要になるが、この場合には、エンジンの存在によって作業者は機体から離れてハンドルを持たざるを得なくなって、機体を持ち上げるのに余計な力を要することになり、より旋回操作が行い難くなる問題があった。
【0008】
また、前述した従来技術では、動力伝達軸から車軸に動力を伝達するギアボックスに、エンジンの出力軸に沿って連結された動力伝達軸とこれに直交した車軸間に動力を伝達するのに必要な動力伝達機構(ウォームギア等)を採用しているので、エンジン停止時には走行車輪を自由に回転させることができない問題がある。これによって、エンジンを停止させて機体の旋回を行おうとすると走行車輪がロックされた状態での旋回操作を強いられることになり、これによっても旋回操作が行い難いという問題があった。
【0009】
更には、機体の側面に沿って動力伝達軸が配置されていることで、機体フレームと動力伝達軸との隙間や動力伝達軸が存在することによる凸部に泥が溜まりやすい構造になっており、作業の進行と共に機体片側に泥が溜まって、これによっても機体の左右バランスがより不均等になる問題もあった。また、泥が溜まった側に作業者が降りて旋回操作を行うと、泥が付いて作業者の衣服を汚してしまう問題があった。
【0010】
本発明は、このような従来技術の問題点を解決するために提案されたものであって、機体の左右バランスを可能な限り均等にすることで作業時の走行安定性を確保し、直線状の溝を形成するための作業精度を向上させること、旋回時の操作性を向上させて作業性と安全性を向上させること、作業時に機体に泥が付着するのを抑えて、作業進行に伴って機体の左右バランスが崩れる不具合を解消すること、等が本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的と達成するために、本発明の乗用溝切機は、少なくとも以下の特徴を具備するものである。
水平な車軸を有する単一の走行車輪と、前記車軸の左右両側をそれぞれ軸支する軸支部との連結部を先端部に備えて前記走行車輪を跨ぐように形成されたU字型フレーム部を有すると共に前記走行車輪の車輪幅中心に沿って後方に延設される機体フレームと、前記走行車輪の車輪幅中心の延長線上に底部が位置するように前記機体フレームの後方部に装着された溝切作業体と、前記機体フレーム上に搭載されて前記車軸と平行に出力軸を配置したエンジンと、前記エンジンの出力軸から前記走行車輪の車軸に動力を伝達する動力伝達機構部と、前記機体フレームに支持されて前記走行車輪又は前記機体フレーム上に形成された着座シートと、前記機体フレームの前方に配備された操作ハンドルとを備え、前記エンジンと前記着座シートとを前記機体フレームの中心に沿って配置し、前記走行車輪が機体の旋回操作時又は非作業時に前記軸支部の周りに自由回転可能であり、前記軸支部を中心に前記操作ハンドルを前傾させるように機体の後方を持ち上げて、前記溝切作業体を地上から浮かせることができることを特徴とする乗用溝切機。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、このような特徴を有することで、機体の左右バランスを可能な限り均等にすることができ、作業時の走行安定性を確保し、直線状の溝を形成するための作業精度を向上させることができる。また、旋回時には、機体フレーム後方の溝切作業体を地上から浮かせて、走行車輪を自由回転させることができるので、旋回時の操作性を向上させて作業性と安全性を向上させることができる。また、平行な車軸と出力軸間の動力伝達を行う動力伝達機構部を平面的に形成することができるので、作業時に機体に泥が付着するのを抑えて、作業進行に伴って機体の左右バランスが崩れる不具合を解消することができる。また、機体から降りて旋回操作を行う場合にも作業者の衣服を汚すことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の実施形態に係る乗用溝切機の全体構成を示した側面図である。本発明の実施形態に係る乗用溝切機1は、走行車輪10、機体フレーム20、溝切作業体30、エンジン40、動力伝達機構部50、着座シート60、操作ハンドル70を備えている。
【0014】
走行車輪10は、水平な車軸11を有する単一の車輪であって、図示の例では、外輪12に抵抗体13が取り付けられて、車軸11と外輪12を結合するスポーク部材14とスポーク部材14間を補強する補強部材15が設けられている。軟弱な圃場を走行する場合には、溝切作業体30の牽引力を得るために抵抗体13を設けることが有効である。
【0015】
機体フレーム20は、車軸11の左右両側をそれぞれ軸支する軸支部(軸支部材21及びギアケース52Aによって軸支部が形成されている)との連結部を先端部に備えて走行車輪10を跨ぐように形成されたU字型フレーム部22を有すると共に、走行車輪10の車輪幅中心に沿って後方に延設される後方部23を有している。また、機体フレーム20の左右片側には、必要に応じてスタンド部材24が機体フレーム20に沿って収納自在に装備されている。
【0016】
溝切作業体30は、走行車輪10の車輪幅中心の延長線上に底部30Aが位置するように機体フレーム20の後方部23に装着されている。溝切作業体30の形態としては、図示のように左右一対の溝切板31で機体の左右両方に排土しながら溝を形成するもの、或いは機体の左右片側に排土しながら溝を形成するものの何れであっても良い。溝切作業体30は、走行車輪10の通過跡を溝切作業体30の底部30Aが通過するように配置されている。
【0017】
エンジン40は、走行車輪10を回転駆動するために機体フレーム20上に搭載されており、走行車輪10の車軸11と出力軸とが平行になるように配置されている。エンジン40を機体フレーム20上に搭載するために、機体フレーム20の後方部23には支持枠体41が取り付けられている。エンジン40は、作業時の騒音、振動、及び動力伝達機構部50の耐久性等を鑑みて、低回転・高トルクの4サイクル空冷型を採用することができる。
【0018】
動力伝達機構部50は、詳細は後述するが、図1に示した機体フレーム20の側面とは逆側に配備されており、機体フレーム20に支持されてエンジン40の出力軸から走行車輪10の車軸11に動力を伝達するものである。
【0019】
着座シート60は、作業者が機体を跨いで乗るために設けられるものであり、機体フレーム20の上部に形成されたサブフレーム63に支持されて、走行車輪10又は機体フレーム20上に形成されるものである。図示の例では、サブフレーム63に取り付けられるカバー部材61の上部に着座シート60が形成されており、着座シート60の後方にはエンジン40を覆うエンジンカバー62が装備されている。着座シート60は、走行車輪10の車軸11上に形成されている。
【0020】
操作ハンドル70は、機体フレーム20の上部に形成されたサブフレーム63に支持されて、機体フレーム20の前方に配備されており、着座シート60に着座した作業者が両手で把持することができるものである。図示の例では、サブフレーム63の前方延出部にカバー部材90と共にハンドル支持部71が取り付けられ、ハンドル支持部71の上端に把持部72を有するハンドル操作部73が左右に延設されている。また、ハンドル操作部73に近接して、後述する操作レバー80が揺動自在に装備されている。
【0021】
図2は、本発明の実施形態に係る乗用溝切機1の着座シート60と操作ハンドル70を取り除いた状態(着座シート60と操作ハンドル70の装備位置を破線で示す)の平面図である(前述した各部は同一符号を付して重複説明を省略する)。走行車輪10の車輪幅中心の後方延長線上に溝切作業体30の中心(底部30A)が位置するようになっており、機体フレーム20の中心がその延長線と一致している。そして、機体フレーム20の中心に沿ってエンジン40と着座シート60が配置されている。図示のように、エンジン40の出力軸40Aと走行車輪10の車軸11は平行になっており、動力伝達機構50はその間の動力伝達を行うので、動力伝達方向が一方向で良く、動力伝達方向が交差する従来技術と比較して機構を単純化することができる。
【0022】
図3は、本発明の実施形態に係る乗用溝切機1の着座シート60と操作ハンドル70を取り除いた状態の斜視図である(前述した各部は同一符号を付して重複説明を省略する)。同図によって、機体フレーム20の形態が明示されている。機体フレーム20は、前述したように、走行車輪10を跨ぐように形成されたU字型フレーム部22を有しており、その先端部に軸支部材21とギアケース52Aが連結されている。すなわち、機体フレーム20は、走行車輪10の周りに回転可能に軸支されている。
【0023】
図4は、本発明の実施形態における動力伝達機構部50を説明する側面図である(前述した各部は同一符号を付して重複説明を省略する)。図示の例では、動力伝達機構部50は、ベルト伝動機構51と歯車伝動機構52との組み合わせで構成されている。エンジン40の出力軸40Aと中間軸53間の動力伝達をベルト伝動機構51が担っており、中間軸53と走行車輪10の車軸11間の動力伝達を歯車伝動機構52が担っている。
【0024】
ベルト伝動機構51は、ベルト伝動ケース51A、出力軸40Aに装着された駆動プーリ51B、中間軸53に装着された従動プーリ51C、その両者間に巻き回された伝動ベルト51D、更には、後述するように操作レバー80(図1参照)によって揺動操作され、ベルト伝動機構51による動力伝達を断接するためのクラッチ機構(テンションプーリ51Eとテンションアーム51F)によって構成されている。歯車伝動機構52は、ギアケース52Aとその中に配列された平歯車列によって構成されている。このベルト伝動機構51と歯車伝動機構52の組み合わせによって、エンジン40の回転数を所定の減速比で変速して走行車輪10の車軸11に伝動している。
【0025】
このような動力伝達機構部50を採用すると、テンションプーリ51Eを緩めてベルト伝動機構51の動力伝達を切断することで、走行車輪10を自由回転させることができる。歯車伝動機構52は全て平歯車列で形成されているので、走行車輪10は前後両方に自由回転させることが可能になる。
【0026】
また、このような動力伝達機構部50によると、機体の幅方向の厚さをプーリ又は歯車の厚さ程度に抑えることができ、また機体に近接して配備することができる。更には、ベルト伝動ケース51Aとギアケース52Aの側面をカバーで覆うことで、機体の側面を平面カバーで覆った状態にすることができる。
【0027】
図5は、本発明の実施形態に係る乗用溝切機1の特徴的な作用を示す説明図である(前述した各部は同一符号を付して重複説明を省略する)。この実施形態によると、走行車輪10を旋回操作時に軸支部(軸支部材21及びギアケース52A)の周りに自由回転可能にすることができると共に、旋回時には、軸支部を中心に操作ハンドル70を前傾(矢印a方向に倒す)させるように機体後方を矢印b方向に持ち上げて、溝切作業体30を地上Sから浮かせることができる。すなわち、旋回操作時に、作業者が機体から降り、操作ハンドル70の把持部72を一方の手で前方に押しながら他方の手でエンジン40の後部に配備された後ハンドル64を引き上げるように操作して、操作ハンドル70を前傾させるように機体後部を持ち上げると、図示のように溝切作業体30を地上Sから浮かせた状態で走行車輪10のみが接地し、手押し又は低速により一輪走行することが可能になる。
【0028】
図6は、本発明の実施形態における操作ハンドル70及び操作レバー80の具体例を示した説明図であり、図7は、操作レバー80の操作例を示した説明図である。
【0029】
本発明の実施形態では、操作ハンドル70には単一の操作レバー80が設けられており、操作レバー80は、エンジン40のスロットル開度調整と動力伝達機構部50の動力伝達断接とに共用されている。また、詳しくは、操作レバー80を揺動させることにより、スロットル開度調整と動力伝達断接の両方を一連の操作で行えるようにしている。更に詳しくは、操作レバー80を非操作とすることで、操作レバー80はエンジン40のアイドリング位置及び動力伝達機構部50の動力伝達切断位置に付勢され、走行車輪10を自由回転可能にすることができるようになっている。
【0030】
このような操作ハンドル70及び操作レバー80の具体例を図6及び図7によって説明する。操作ハンドル70は、サブフレーム63の前端近くに立設された平面視コ字状の固定支柱部71Aとこの固定支柱部71A内に摺動可能に嵌挿されて所望の位置にて係止される平面視コ字状の可動支柱部71Bからなるハンドル支持部71と、このハンドル支持部71の上端部に設けられて左右両端に把持部72を有するハンドル操作部73とを備えている。可動支柱部71Bを固定支柱部71Aに沿って摺動させることでハンドル高さの調整を行うことができる。
【0031】
操作レバー80は、揺動支持部81と連結部82とレバー操作部83とを備えている。揺動支持部81は可動支柱部71Bの下部に挿入された支軸ピン85によって前後方向に揺動可能に支持されており、その上端部に、後方に延びる連結部82を介して、レバー操作部83が取り付けられている。ストッパピン86は、揺動支持部81の前側揺動範囲を規制するストッパ部材である。
【0032】
レバー操作部83は機体の左右いずれからでも同じ操作ができるように左右対称に形成され、棒材を曲げた形状を有し、ハンドル操作部73の上で近接するようにこれと略平行に配置された直線状の後辺部83aと、この後辺部83aの左右両端から折り曲げられて前方に突出する前方突出辺部83b,83bと、この前方突出辺部83b,83bの前端から折り曲げられて左右方向外方に延びた手指操作辺部83c,83cからなっている。レバー操作部83の後辺部83aは、作業者がハンドル操作部73と共に握りうるように配置されており、手指操作辺部83c,83cは、作業者が把持部72を握っている手の指によって把持部72側に引き寄せられる位置に配置されている。
【0033】
図示の例では、揺動支持部81の前面側の下部には、引張アーム87と引張アーム88が前方に向けて突設されており、引張アーム87には、引張コイルバネ93を介して動力伝達断接用のケーブル91(のインナーケーブル91a)の一端部が、また、引張アーム88には、スロットル開度調整用のケーブル92(のインナーケーブル92a)の一端部が、それぞれ連結されている。
【0034】
スロットル開度調整用のケーブル92(のインナーケーブル92a)の他端部は、エンジン40の気化器スロットル弁に連結されており、このスロットル弁に付設されている付勢バネによって、インナーケーブル92aは揺動支持部81を前側に揺動するように付勢している。スロットル弁に付設されている付勢バネはスロットル弁を常時最小開度(アイドル開度)方向に付勢しているので、操作レバー80を非操作状態にすると、操作レバー80はエンジン40のアイドリング位置に付勢されることになる。
【0035】
一方、動力伝達断接用のケーブル91(のインナーケーブル91a)の他端部は、ベルト伝動機構51のテンションアーム51Fにおける操作端部51F1に連結されている(図4参照)。図4に示すように、テンションアーム51Fは、支軸51F2に軸支されており、このテンションアーム51Fは、テンションプーリ51Eを伝動ベルト51Dから離す方向(動力伝達を切断する方向)に自重で付勢されており、戻しバネ等の弾性部材が不要になって簡素化されている。
【0036】
すなわち、作業者が操作ハンドル70のみを握って操作レバー80を非操作状態にしている場合には、レバー操作部83は図7(A)に示す実線の非操作位置に付勢されることになり、この位置では、エンジン40はアイドリング状態になり、動力伝達機構部50は動力伝達が切断された状態になる。したがって、この状態では、走行車輪10を自由回転させることが可能になる。
【0037】
そして、レバー操作部83を前述した非操作位置から操作ハンドル70側に引き寄せる(後方側に揺動させる)と、スロットル開度調整用のケーブル92(のインナーケーブル92a)によりスロットル弁が開方向に操作され、操作レバー80の揺動角度に応じたスロットル開度となり、揺動角度が最大角度(図7(C)の実線で示される位置)になったときに、スロットル開度が最大になる。同時に、この操作レバー80の揺動によって、動力伝達断接用のケーブル91(のインナーケーブル91a)も引っ張られることになり、テンションプーリ51Eが伝動ベルト51Dから離れた位置(動力伝達切断位置)から接近圧接する方向に揺動されることになる。この際、レバー操作部83が図7(A)において仮想線で示される位置まで後方側に揺動したときに、テンションプーリ51Eが伝動ベルト51Dに圧接して、伝動ベルト51Dに所要のテンションが付与されることになり、これによって、エンジン40の出力軸40Aから走行車輪10の車軸11に駆動力が伝達されることになる。この状態からさらにレバー操作部83を後方側に揺動させても、引張コイルバネ93が引き伸ばされることにより、テンションプーリ51Eの揺動が抑制されて伝動ベルト51Dの張り過ぎが防止される。図7(C)の実線で示された位置では、伝動ベルト51Dによる動力伝達効率が最大になる。
【0038】
次に、溝切作業時のレバー操作について説明する。通常の溝切作業時には、図7(C)に示すように、操作ハンドル70の把持部72を握っている手の指(人差し指等)によりレバー操作部83の手指操作辺部83c,83c(図示のV部辺り)を把持部72側の任意の位置まで引き寄せる(図7(C)の実線位置)。これにより、前述したように操作レバー80の揺動によって、インナーケーブル91a,92aが引っ張られ、スロットル弁が操作レバー80の揺動角度に応じて開放されると共に、伝動ベルト51Dのテンションが張られて、中高速状態での作業を行うことができる。
【0039】
これに対して、旋回時や移動時等で作業者が機体から降りて随行するために走行速度を低くしたい場合には、図7(B)に示すように、レバー操作部83の後辺部83aを操作ハンドル70のハンドル操作部73の上に重ね合わせるようにして、ハンドル操作部73の両端近くの部位(図のU部辺り)を、レバー操作部83の後辺部83aと共に握る。これにより、前述した図7(C)の状態に比べてスロットル弁の開度は所定の低速位置となるように閉方向に調整されるので、暴走を回避して安全に低速走行できる。
【0040】
そして、手押し走行による旋回時或いは非作業時には、図7(A)に示すように、操作レバー80から手を離し、操作ハンドル70のみを握るようにする。これによって、前述したように、操作レバー80は、図7(A)に示す実線の位置、すなわちエンジン40のアイドリング位置及び動力伝達機構部50の動力伝達切断位置に付勢されることになり、これによって走行車輪10を自由回転させることができる。
【0041】
圃場内で機体を旋回させるときには、作業者は機体から降り、操作レバー80を図7(A)に示す非操作状態にして、走行車輪10を自由回転可能にするか、又は図7(B)に示す低速操作状態にする。そして、操作ハンドル70の把持部72を一方の手で前方に押しながら他方の手でエンジン40の後部に配備された後ハンドル64を引き上げるように操作して、操作ハンドル70を前傾させるように機体後部を持ち上げ、図5に示すように溝切作業体30を地上から浮かせるようにして、手押し又は低速による一輪走行で機体を旋回させる。圃場外の畦道走行等を行う際にも同様にして手押し又は低速により一輪走行させることができる。
【0042】
このような構成及び機能を有する本発明の実施形態に係る乗用溝切機1によると以下に示す作用効果を得ることができる。
【0043】
先ず、走行車輪10の車輪幅中心と機体フレーム20の中心が一致しており、この中心線の延長線上に溝切作業体30の中心が配置されており、着座シート60とエンジン40が機体フレーム20の中心に沿って配置されているのに加えて、U字型フレーム部22を有する左右対称の機体フレーム構造を採用しているので、機体の左右バランスをほぼ均等にすることができる。これによって、溝切り作業走行時の走行安定性を得ることができると共に、直線状の溝形成を高い精度で行うことができる。
【0044】
また、走行車輪10の車輪幅中心の後方延長線上に溝切作業体30の中心が位置することで、走行車輪10の轍に案内されて溝切作業体30の溝切り作業が行われることになり、溝切りの時の抵抗を軽減することができると共に、左右対称の溝切板31を用いる場合には左右バランスのよい溝形成を行うことができる。
【0045】
機体フレーム20の側面には、動力伝達機構部50が配置されることにはなるが、平行する出力軸40Aと車軸11間に動力を伝達する機構であるから、歯車或いはプーリの幅が重なる程度の薄厚に形成することができ、しかも、機体フレーム20に近接配置することができるので、この動力伝達機構部50の存在によって大きく左右バランスが崩れることを避けることができる。
【0046】
そして、本発明の実施形態に係る乗用溝切機1は、機体全体を持ち上げることなく、簡易に旋回操作を行うことができる。すなわち、本発明の実施形態では、旋回時には走行車輪10が自由回転できるようにしており、U字型フレーム部22の先端部に設けた軸支部材21の周りに回転可能に車軸11が軸支されているので、旋回操作時には、作業者は機体から降り、操作ハンドル70の把持部72を一方の手で前方に押しながら他方の手でエンジン40の後部に配備された後ハンドル64を引き上げるように操作して、操作ハンドル70を前傾させるように機体後部を持ち上げ、簡易に溝切作業体30を地上から浮かせた状態にして、手押し又は低速による一輪走行で機体を旋回させることができる。これによって、非力な作業者であっても、機体全体を持ち上げることなく簡易に旋回操作を行うことができる。また、畦などの移動時にも、簡易且つ安全に手押し又は低速による一輪走行によって機体を移動させることができる。
【0047】
また、旋回操作時には、操作ハンドル70を握りながら機体に寄り添って手押し走行することになるが、機体の側面に配置している動力伝達機構部50は、前述したように、薄厚に形成することができると共に機体フレーム20に近接して配置することができるので、旋回方向によって動力伝達機構部50側に降りることが必要であっても、体を機体に近づけて楽に手押し走行することが可能になる。
【0048】
更には、走行車輪10を跨いで装着されているU字型フレーム部22が走行車輪10に付着する泥を掻き落とす機能を有し、機体の側面には動力伝達機構部50のカバー面が形成されているので、作業中に機体側面に泥が付き難い構造になっている。これによって、泥の付着で機体バランスが崩れる不具合を解消することができると共に、機体に寄り添って手押し走行する場合にも作業者の衣服が泥で汚れることがない。
【0049】
本発明の実施形態に係る乗用溝切機1は、水田の排水溝を形成する溝切り作業、水田又は畑地の栽培列間を中耕除草する際の溝切り作業等において、作業効率及び作業精度を向上させることができると共に、機体を持ち上げることを必要としていた従来機に比べて格段に作業労力を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施形態に係る乗用溝切機の全体構成を示した側面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る乗用溝切機の着座シートと操作ハンドルを取り除いた状態(着座シートと操作ハンドルの装備位置を破線で示す)の平面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る乗用溝切機の着座シートと操作ハンドルを取り除いた状態の斜視図である。
【図4】本発明の実施形態における動力伝達機構部を説明する側面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る乗用溝切機の特徴的な作用を示す説明図である。
【図6】本発明の実施形態における操作ハンドル及び操作レバーの具体例を示した説明図である。
【図7】本発明の実施形態における操作レバーの操作例を示した説明図である。
【符号の説明】
【0051】
1:乗用溝切機,
10:走行車輪,11:車軸,
20:機体フレーム,21:軸支部材,22:U字型フレーム部,23:後方部,
30:溝切作業体,30A:底部,
40:エンジン,40A:出力軸,
50:動力伝達機構部,51:ベルト伝動機構,51A:ベルト伝動ケース,52:歯車伝動機構,52A:ギアケース,53:中間軸,
60:着座シート,63:サブフレーム,64:後ハンドル,
70:操作ハンドル,71:ハンドル支持部,72:把持部,73:ハンドル操作部,
80:操作レバー,81:揺動支持部,82:連結部,83:レバー操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平な車軸(11)を有する単一の走行車輪(10)と、
前記車軸(11)の左右両側をそれぞれ軸支する軸支部(21,52A)との連結部を先端部に備えて前記走行車輪(10)を跨ぐように形成されたU字型フレーム部(22)を有すると共に前記走行車輪(10)の車輪幅中心に沿って後方に延設される機体フレーム(20)と、
前記走行車輪(10)の車輪幅中心の延長線上に底部(30A)が位置するように前記機体フレーム(20)の後方部に装着された溝切作業体(30)と、
前記機体フレーム(20)上に搭載されて前記車軸(11)と平行に出力軸(40A)を配置したエンジン(40)と、
前記エンジン(40)の出力軸(40A)から前記走行車輪(10)の車軸(11)に動力を伝達する動力伝達機構部(50)と、
前記機体フレーム(20)に支持されて前記走行車輪(10)又は前記機体フレーム(20)上に形成された着座シート(60)と、
前記機体フレーム(20)の前方に配備された操作ハンドル(70)とを備え、
前記エンジン(40)と前記着座シート(60)とを前記機体フレーム(20)の中心に沿って配置し、
前記走行車輪(10)が機体の旋回操作時又は非作業時に前記軸支部(21)の周りに自由回転可能であり、前記軸支部(21)を中心に前記操作ハンドル(70)を前傾させるように機体の後方を持ち上げて、前記溝切作業体(30)を地上から浮かせることができることを特徴とする乗用溝切機。
【請求項2】
前記動力伝達機構部(50)は、前記出力軸(40A)と中間軸(53)間の動力伝達を担うベルト伝動機構(51)と前記中間軸(53)と前記車軸(11)間の動力伝達を担う平歯車列による歯車伝動機構(52)とからなり、前記ベルト伝動機構(51)は動力伝達を断接するためのクラッチ機構を有することを特徴とする請求項1に記載の乗用溝切機。
【請求項3】
前記操作ハンドル(70)には単一の操作レバー(80)が設けられ、該操作レバー(80)は、前記エンジン(40)のスロットル開度調整と前記動力伝達機構部(50)の動力伝達断接とに共用されていることを特徴とする請求項1又は2に記載された乗用溝切機。
【請求項4】
前記操作レバー(80)を揺動させることにより、前記スロットル開度調整と前記動力伝達断接の両方を一連の操作で行えるようにしたことを特徴とする請求項3に記載の乗用溝切機。
【請求項5】
前記操作レバー(80)を非操作とすることで、前記操作レバー(80)はエンジン(40)のアイドリング位置及び動力伝達機構部(50)の動力伝達切断位置に付勢され、前記走行車輪(10)を自由回転可能にすることを特徴とする請求項3又は4に記載の乗用溝切機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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