説明

乗用溝切機

【課題】 旋回時に操作部材を操作し過ぎて思いがけない速度が出てしまうことがなく、しかも、旋回時における機体の支持安定性が良好な乗用溝切機を提供する。
【解決手段】 エンジン5の回転数を操作するための操作部材として、低速操作部材12と中高速操作部材13を設ける。前記低速操作部材12は、左右一対のグリップ部の内の所定の降車側グリップ部9を握りながら操作可能であって、エンジンを所定の低速回転域内でのみ操作し得る操作部材である。一方、前記中高速操作部材13は、前記降車側グリップ部9とは反対側の反降車側グリップ部10を握りながら操作可能であって、前記エンジン5を中高速回転域まで操作し得る速操作部材である。旋回時には、前記低速操作部材12を操作して旋回することで、思いがけない速度が出てしまうことが防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水田等の圃場に溝を形成するための乗用溝切機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1等に記載されているように、乗用溝切機は、水田等の圃場において、給排水を迅速円滑に行うため等の溝を形成するのに好適な装置である。
【0003】
前記乗用溝切機の一種として、特許文献2に記載のものも公知となっている。このものは、機体フレームと、該機体フレームを支持する駆動車輪と、該駆動車輪の後方位置で前記機体フレームに連結される溝切用のプラウと、前記駆動車輪を駆動するエンジンと、前記機体フレームに支持される着座シートと、前記機体フレームに支持される操作ハンドルと、該操作ハンドルを握った手の指で操作可能なスロットルレバーを備えている。該スロットルレバーは、前記エンジンのスロットル開度調整用(走行速度調整用)と、前記エンジンから駆動車輪への動力伝達断接用(クラッチ断接用)とに共用される。そして、前記スロットルレバーを揺動させることにより、前記スロットル開度調整と前記動力伝達断接の両方が同時に行える。
【0004】
また、前記の如き共用スロットルレバーを備えた乗用溝切機として、特許文献3及び4に記載のものも提案されている。これらの提案では、前記スロットルレバーの操作部が、乗用溝切機の操作ハンドルに寄り添うように配設される。前記スロットルレバーは、低速操作位置と高速操作位置とを取り得るようにされている。ここで、前記低速操作位置とは、非操作位置から前記操作ハンドル側に揺動せしめられて該操作ハンドルと同時に握られる操作位置であり、前記中高速操作位置とは、前記操作ハンドルを握っている手の指により前記低速操作位置からさらに大きく揺動せしめられる操作位置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−73540号公報
【特許文献2】特開2008−104425号公報
【特許文献3】特開2009−65931号公報
【特許文献4】特開2009−167722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2に記載のものは、特許文献3の0006段落にも記載されているように、溝切機を圃場内で旋回させる際に不具合が生ずるおそれがある。すなわち、旋回時には、運転者が着座シートから降り、前部の駆動車輪を支点として機体後部の溝切用プラウを一方の手で持ち上げるとともに、空いたほうの手で前記操作用ハンドルを握って、前記スロットルレバーを操作する必要がある。このため、旋回時にスロットルレバーを引きすぎて思いがけない速度が出てしまい、機体が倒れてしまう等の不具合が生ずるおそれがあった。
【0007】
一方、特許文献3に記載のものは、特許文献2に記載のものの前記不都合を解消すべく提案されたものである。
【0008】
しかし、特許文献3に記載のものには、次のような別の不都合がある。特許文献3のスロットルレバーは、旋回時に作業者が機体の左右いずれの側からでもスロットル低速操作ができるようにするために、前記操作ハンドルの左グリップ部付近から右グリップ部付近まで左右に長く延びるバータイプのものとされ、前記操作ハンドルに対して平行移動するものとされている。このため、スロットルレバーが部品として大きなものとなってしまうほか、操作性も悪い等の問題がある。
【0009】
さらに、特許文献3のものは、旋回時における機体の支持安定性に欠けるという問題もある。すなわち、特許文献3の0034段落にも記載されているように、圃場内で旋回する場合には、前記操作ハンドルと前記スロットルレバーとを低速操作位置となるように同時に握る。しかし、この時の握り位置は、前記操作ハンドルにおける本来のグリップ部よりも内側の位置となる[(特許文献3の図5(B)参照)]。このため、旋回時における機体前部の支持に大きな力が必要となり、機体の支持安定性に欠けることになる。
【0010】
なお、特許文献4に記載のものは、スロットルレバーの非操作時には、駆動車輪が自由回転可能となるので、駆動車輪を支点として機体の後部を持ち上げて、手押しで機体を旋回させることもできるとされている(特許文献4の0046段落)。確かに、機体全体を持ち上げて旋回させることに比べれば、省力的な旋回ができる可能性がある。しかし、決して軽くはない乗用溝切機の機体の後部を片手で持ち上げるという不自然な姿勢で、ぬかるんだ圃場において機体を手押し旋回させることは、作業者にとって依然として重労働である。そのため、車輪を駆動させ、且つ、安全に旋回させることができる技術が必要となる。
【0011】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、前記いずれの不都合をも同時に解消することができる乗用溝切機を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明に係る乗用溝切機は、機体フレームと、該機体フレームを支持する駆動車輪と、該駆動車輪の後方位置で前記機体フレームに連結される溝切用のプラウと、前記駆動車輪を駆動するエンジンと、前記機体フレームに支持される着座シートと、前記機体フレームに支持される操作ハンドルと、該操作ハンドル上に配設される左右一対のグリップ部と、該グリップ部の内の所定の降車側グリップ部を握りながら操作可能であって、前記エンジンを所定の低速回転域内でのみ操作し得る低速操作部材と、前記降車側グリップ部とは反対側の反降車側グリップ部を握りながら操作可能であって、前記エンジンを中高速回転域まで操作し得る中高速操作部材と、降車した作業者が一方の手で前記降車側グリップ部を握った状態で前記駆動車輪を支点として他方の手で前記プラウを持ち上げるための旋回用ハンドルと、を備えることを特徴とする(請求項1)。
【0013】
本発明によれば、溝切作業時には、作業者が前記着座シートに跨り、前記左右一対のグリップ部を握ったままで、前記中高速操作部材を操作する。これにより、前記エンジンで前記駆動車輪が駆動され、前記溝切機が前進するので、前記プラウによって圃場に溝が形成される。
【0014】
圃場での旋回時には、作業者が着座シートから機体の左右いずれかの、所定の降車側に降りる。次に、一方の手で前記操作ハンドルの前記降車側グリップ部を握り、他方の手で前記旋回用ハンドルを握って、前記駆動車輪を支点として前記プラウを持ち上げる。そして、前記降車側グリップ部を握ったままで前記低速操作部材を操作し、前記駆動車輪を低速で回転駆動させて機体の旋回を行う。前記低速操作部材は、前記エンジンを所定の低速回転域内でのみ操作可能であるので、旋回時に思いがけずに前記駆動車輪が高速回転してしまうことはない。よって、足場が悪く通常は旋回スペースも狭い圃場の端でも、旋回を安全且つ確実に行うことができる。旋回時の安全が確保されることは、前記エンジンとして重量の大きい高出力のものを採用できることにもつながる。これにより、溝切作業時の高速走行が可能となり、作業性も向上する。
【0015】
また、本発明によれば、前記中高速操作部材が前記反降車側グリップ部を握りながら操作可能であり、且つ、前記低速操作部材が前記降車側グリップ部を握りながら操作可能であるので、中高速で走行しながら行う溝切作業時にも、低速で行う旋回時にも、作業者による機体の支持が確実に行える利点がある。
【0016】
さらに、本発明によれば、低速操作部材と中高速操作部材とを別部材として備えているので、各操作部材の具体的動作態様(例えば、揺動レバー式、回動操作式等)やサイズ等をそれぞれ適切なものに設計することができる。これにより、各操作部材の操作性を向上させることができる利点も得られる。
【0017】
好適な実施の一形態として、前記低速操作部材の操作量規制が、該低速操作部材と前記降車側グリップ部との間に配設される操作量規制部材によって行われる態様とすることもできる(請求項2)。この場合、前記低速操作部材側と前記降車側グリップ部側のいずれか一方に、前記低速操作部材の動作量を規制する何らかの障害物を設けるだけでよいので、簡単且つ安価に製造できる。
【0018】
他の好適な実施の一形態として、前記低速操作部材の操作量規制が、該低速操作部材と前記エンジンとを作動上連結する伝動部材の動作量を規制することにより行われる態様とすることもできる(請求項3)。
【0019】
本発明の他の実施の形態として、前記低速操作部材の配設位置を、前記旋回用ハンドルの近傍に変更したものを採用することもできる。すなわち、前記エンジンを所定の低速回転域内でのみ操作し得る低速操作部材を、前記旋回用ハンドルを握りながら操作可能な位置に配設する態様である。
【0020】
この場合の乗用溝切機は、次のように記述することができる。すなわち、機体フレームと、該機体フレームを支持する駆動車輪と、該駆動車輪の後方位置で前記機体フレームに連結される溝切用のプラウと、前記駆動車輪を駆動するエンジンと、前記機体フレームに支持される着座シートと、前記機体フレームに支持される操作ハンドルと、該操作ハンドル上に配設される左右一対のグリップ部と、該グリップ部の内の所定の降車側グリップ部とは反対側の反降車側グリップ部を握りながら操作可能であって、前記エンジンを中高速回転域まで操作し得る中高速操作部材と、降車した作業者が一方の手で前記降車側グリップ部を握った状態で前記駆動車輪を支点として他方の手で前記プラウを持ち上げるための旋回用ハンドルと、該旋回用ハンドルを握りながら操作可能であって、前記エンジンを所定の低速回転域内でのみ操作し得る低速操作部材と、を備える乗用溝切機である(請求項4)。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の一形態に係る乗用溝切機を左前方から見た斜視図である。
【図2】図1の乗用溝切機のスロットル操作系を示す説明図である。
【図3】本発明の他の実施の形態の要部を示す説明図である。
【図4】本発明のさらに他の実施の形態の要部を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0023】
図1に示すように、本発明の実施の一形態に係る乗用溝切機1は、機体フレーム2と、該機体フレーム2を支持する駆動車輪3と、該駆動車輪3の後方位置で前記機体フレーム2に連結される溝切用のプラウ4と、前記駆動車輪3を駆動するエンジン5と、前記機体フレーム2に支持される着座シート6と、ハンドルポスト8を介して前記機体フレーム2に支持される操作ハンドル7と、該操作ハンドル7上に配設される左右一対のグリップ部9,10と、前記駆動車輪3の後方位置で前記機体フレーム2に配設される旋回用ハンドル11と、を備える。前記エンジン5と前記駆動車輪3との間には、図示しないクラッチと減速装置が駆動上配設されている。ここまでの構成は、従来公知の乗用溝切機とほぼ同じである。
【0024】
本発明の実施の一形態に係る乗用溝切機1の特徴は、まず、前記左右一対のグリップ部9,10のいずれか一方を降車側グリップとし、いずれか他方を反降車側グリップとする点にある。すなわち、通常の作業者は、前記着座シート6から降りる際に、機体の左側に降りるか右側に下りるかがほぼ決まっている。それは、その作業者が右利きか左利きかで決まると思われるが、通常は自転車と同じく機体の左側に降りる人が多いと想定される。そこで、本実施の形態では、前記左側グリップ部を降車側グリップ部9とし、前記右側グリップ部を反降車側グリップ部10とする。
【0025】
次の特徴として、図1の実施の形態では、前記乗用溝切機1の走行速度、すなわち、前記エンジン5の回転速度を制御するための操作部材として、低速操作部材12と中高速操作部材13の二つが配設されている。しかも、前記低速操作部材12は、前記降車側グリップ部(左側グリップ部)9の近傍に配設され、前記中高速操作部材13は、前記反降車側グリップ部(右側グリップ部)10の近傍に配設される。
【0026】
前記低速操作部材12は、前記降車側グリップ部9を握りながら操作可能であって、前記エンジン5を所定の低速回転域内でのみ操作し得る操作部材である。したがって、前記低速操作部材12は、これを最も大きく操作した場合でも、前記エンジン5の回転速度は所定の低速回転域を超えることがない。
【0027】
一方、前記中高速操作部材13は、前記降車側グリップ部9とは反対側の反降車側グリップ部10を握りながら操作可能であって、前記エンジン5を中高速回転域まで操作し得る操作部材である。したがって、前記中高速操作部材13は、作業者がその操作量を加減することで、前記エンジン5の回転数を低速回転から高速回転まで自在に制御することができる。
【0028】
図1の例では、前記低速操作部材12として、自転車のブレーキレバーと同じく揺動レバー形式のものを、前記中高速操作部材13として、自動二輪車のアクセルと同じく回動操作式のものを採用しているが、操作部材としての具体的形式がこれらに限定されないことは勿論である。
【0029】
前記低速操作部材12を、所定の低速回転域内でのみ前記エンジン5を操作し得る操作部材とせしめるための具体的な構成について説明する。
【0030】
第一の実施の形態は、図1、図2及び図3に示すように、前記低速操作部材としての操作レバー12と前記降車側グリップ部9との間に、操作量規制部材14,15を配設することである。図1及び図2の例では、前記降車側グリップ9の内端部付近に鍔部材14を固着してある。前記低速操作レバー12をエンジン増速方向へと揺動操作すると、所定量だけ揺動したところで前記低速操作レバー12が前記鍔部材14に当接して、それ以上の揺動が規制される。これにより、前記エンジン5の出力が所定の低速回転域以内に規制される。
【0031】
前記操作量規制部材として前記鍔部材14を用いると、前記操作ハンドル7上における前記低速操作レバー12の取付角度位置を変えた場合でも、前記鍔部材14が常に操作量規制部材として作用するという利点がある。この点では、前記鍔部材14は、前記操作ハンドル7の軸線に直角な方向の全方位に張り出す円形のものである必要はなく、前記操作ハンドル7上において前記低速操作レバー12の取付角度位置として想定される角度範囲のみをカバーする扇形の張り出し部材を採用することもできる。
【0032】
他の具体例として、図3の例では、前記操作量規制部材として、前記低速操作レバー12にストッパーボルト15を固着してある。前記低速操作レバー12をエンジン増速方向へと揺動操作すると、所定量だけ揺動したところで前記ストッパーボルト15が前記降車側グリップ部9に当接して、前記低速操作レバー12のそれ以上の揺動が規制される。これにより、前記エンジン5の出力が所定の低速回転域以内に規制される。
【0033】
なお、前記ストッパーボルト15は前記操作量規制部材の一例であり、これに限定されないことは勿論である。すなわち、前記操作量規制部材は、前記低速操作レバー12側にあって、該低速操作レバー12の揺動方向に突出する突起部材であればよい。
【0034】
図1の乗用溝切機1におけるスロットル操作系、すなわち、前記各操作部材12,13から前記エンジン5への操作力伝達系は、例えば、図2に示すように構成することができる。
【0035】
図2において、スロットル操作系には、中継部16が介装されている。該中継部16を構成する中継ケース17は、乗用溝切機1の適宜の箇所に固定される。前記中継ケース17内には、該中継ケース17の軸線方向に摺動自在な単一の中子18が嵌挿されている。該単一の中子18は、エンジン側ボーデンケーブル19を介して、前記エンジン5の図示しないスロットル弁に作動上連結されている。周知にように、該スロットル弁は、図示しないスロットル弁付勢ばねにより、最小開度(アイドル開度)に戻る方向に常時付勢されている。このため、前記エンジン側ボーデンケーブル19を介して前記単一の中子18も前記エンジン5側へと常時引張られており、前記単一の中子18は、前記各操作部材12,13の非操作時には、図2に示す非操作時位置にある。
【0036】
また、前記単一の中子18は、低速操作用ボーデンケーブル20を介して、前記低速操作部材12に作動上連結されている。同様に、前記単一の中子18は、中高速操作用ボーデンケーブル21を介して、前記中高速操作部材13に作動上連結されている。前記スロットル弁付勢ばねの付勢力は、前記単一の中子18と前記低速操作用及び中高速操作用のボーデンケーブル20,21を介して、前記各操作部材12,13にまで及んでいる。このため、該各操作部材12,13は、非操作時位置に戻る方向に常時付勢される。
【0037】
本実施の形態では、前記低速操作部材12と前記中高速操作部材13は、いずれも、クラッチ断接操作(前記エンジン5から前記駆動車輪3への動力伝達断接操作)を行うための操作部材を兼ねている。したがって、前記低速操作部材12を増速方向へと操作すると、クラッチがつながると共に前記エンジン5が所定の低速回転域内で増速される。同様に、前記中高速操作部材13を増速方向へと操作すると、クラッチがつながると共に前記エンジン5が所定の高速回転域まで増速される。前記低速操作部材12も前記中高速操作部材13も、作業者がこれらを解放すると、前記スロットル弁付勢ばねの付勢力により、所定の非操作時位置へと自動的に復帰する。
【0038】
なお、前記クラッチの形式は、遠心式でもベルトテンション式でもよい。しかし、ベルトテンション式とすると、スロットル用ボーデンケーブルとクラッチ用ボーデンケーブルを配設しなければならないので、遠心式クラッチを採用する方が操作力伝達系がシンプルになり、好適である。
【0039】
図2から分かるように、前記低速操作部材12と前記中高速操作部材13を共に一杯まで操作した場合には、前記エンジン5は、前記中高速操作部材13の操作にしたがった作動をする。
【0040】
本実施の形態に係る乗用溝切機1は、次のようにして使用する。溝切作業時には、前記エンジン5をアイドル状態に始動させ、作業者が前記着座シート6に跨って座り、前記左右一対のグリップ部9,10を握ったままで、右側の前記中高速操作部材13を操作する。これにより、クラッチがつながるとともに前記エンジン5で前記駆動車輪3が駆動され、前記溝切機1が前進するので、前記プラウ4によって圃場に溝が形成される。作業者は、前記中高速操作部材13の操作量を調整することで、溝切時の走行速度を自在に制御することができる。前記中高速操作部材13を解放すると、前記エンジン5がアイドル状態に戻り、乗用溝切機1が停止する。
【0041】
本実施の形態では、前記中高速操作部材13として回動操作式のものを採用しているので、溝切作業時の走行速度を低速域から高速域まで広い範囲で操作しやすく、しかも、走行速度の微調整もしやすい等の利点がある。よって、前記エンジン5として高出力のものを採用することで、溝切作業時の高速走行と走行速度の微調整とが共に可能となり、作業性と操作性とに優れた溝切機となる。前記中高速操作部材13として、周知の揺動レバー式のものを採用できることは勿論である。
【0042】
圃場での旋回時には、作業者が前記着座シート6から機体の左側に降りる。作業者は、左手で前記降車側グリップ部9を握って機体を起立姿勢に支えながら、右手で前記旋回用ハンドル11を握って、前記駆動車輪3を支点として前記プラウ4を持ち上げる。そして、前記降車側グリップ部9を握っている手の指で前記低速操作部材12を揺動操作する。これにより、クラッチがつながるとともに前記駆動車輪3が低速で駆動されるので、機体の旋回を円滑に行うことができる。前記低速操作部材12は、前記エンジン5を所定の低速回転域内でのみ操作可能であるので、旋回時に思いがけずに前記駆動車輪3が高速回転してしまうことはない。よって、足場が悪く通常は旋回スペースも狭い圃場の端でも、旋回を安全且つ確実に行うことができる。
【0043】
本実施の形態によれば、前記低速操作部材12が常に前記降車側グリップ部9を握りながら操作可能であるので、低速で行う旋回時にも作業者による機体の支持が確実に行える利点がある。特に、前記エンジン5として高出力のものを採用すると、溝切作業時の高速走行が可能となる反面溝切機全体の重量も重くなるので、旋回時に作業者にかかる負担は大きくなるのが通常である。しかし、本実施の形態のものによれば、旋回を安全且つ確実に行えるので、作業者の負担も軽減される。
【0044】
次に、本発明の他の実施の形態として、前記低速操作部材12を所定の低速回転域内でのみ前記エンジン5を操作し得る操作部材とせしめるための、具体的な構成の他の例について説明する。
【0045】
この例は、図4に示すように、前記低速操作部材12の操作量規制が、該低速操作部材12と前記エンジン5とを作動上連結する伝動部材(ボーデンケーブル)の動作量を規制することにより行われるものである。
【0046】
図4のものは、図2のものとは異なり、操作量規制部材としての前記鍔部材14や前記ストッパーボルト15を備えていない。その代わりに、図2のものとは異なる中継部22を備えている。
【0047】
図4の中継部22の中継ケース23内には、二つの中子24,25が収容されている。一つは低速操作用中子24であり、もう一つが中高速操作用中子25である。該中高速操作用中子25は、エンジン側ボーデンケーブル19を介して、前記エンジン5の図示しないスロットル弁に作動上連結される。また、前記中高速操作用中子25は、中高速操作用ボーデンケーブル21を介して、前記中高速操作部材13に作動上連結される。
【0048】
一方、前記低速操作用中子24は、低速操作用ボーデンケーブル20を介して、前記低速操作部材12に作動上連結される。前記低速操作用中子24の移動可能量は、前記中継ケース23内に形成された段部26によって規制される。これにより、前記低速操作部材12を操作した場合の前記エンジン5の回転数が、所定の低速回転域内に規制される。これに対し、前記中高速操作用中子25には、前記低速操作用中子24の移動可能量よりも大きな移動量が許容される。これにより、前記中高速操作部材13を操作した場合の前記エンジン5の回転数が、中高速回転域まで増大する。
【0049】
前記低速操作用中子24と前記中高速操作用中子25は、相互間に形成された段部27,28で互いに係合している。この係合により、次の二つの動作が保証される。第一に、前記低速操作用中子24がエンジン増速方向へと移動すると、前記中高速操作用中子25もそれにつられて同方向へ同量だけ移動せしめられる。第二に、前記スロットル弁付勢ばねの付勢力によって前記中高速操作用中子25が非操作時位置へと引き戻されると、それにつられて前記低速操作用中子24も非操作時位置へと引き戻される。
【0050】
次に、本発明のさらに他の実施の形態について説明する。この実施の形態は、前記低速操作部材12に代えて、前記旋回用ハンドル11の近傍に低速操作部材29を配設するものである。すなわち、図1に仮想線で示すように、前記エンジン5を所定の低速回転域内でのみ操作し得る低速操作部材29を、前記旋回用ハンドル11を握りながら操作可能な位置に配設する態様である。この場合、前記旋回用ハンドル11を握って前記プラウ4を地面から持ち上げながらでも前記低速操作部材29の操作が可能なように、指一本で操作できるトリガー形式の操作部材を採用すると好適である。この実施の形態においても、既に述べた様々な効果と同等の効果が奏される。
【符号の説明】
【0051】
2 機体フレーム
3 駆動車輪
4 溝切用プラウ
5 エンジン
6 着座シート
7 操作ハンドル
9 グリップ部(降車側グリップ部)
10 グリップ部(降車側グリップ部)
11 旋回用ハンドル
12 低速操作部材
13 中高速操作部材
14 操作量規制部材(鍔部材)
15 操作量規制部材(ストッパーボルト)
20 伝動部材(ボーデンケーブル)
29 低速操作部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体フレーム(2)と、該機体フレーム(2)を支持する駆動車輪(3)と、該駆動車輪(3)の後方位置で前記機体フレーム(2)に連結される溝切用のプラウ(4)と、前記駆動車輪(3)を駆動するエンジン(5)と、前記機体フレーム(2)に支持される着座シート(6)と、前記機体フレーム(2)に支持される操作ハンドル(7)と、該操作ハンドル(7)上に配設される左右一対のグリップ部(9,10)と、該グリップ部の内の所定の降車側グリップ部(9)を握りながら操作可能であって、前記エンジン(5)を所定の低速回転域内でのみ操作し得る低速操作部材(12)と、前記降車側グリップ部(9)とは反対側の反降車側グリップ部(10)を握りながら操作可能であって、前記エンジン(5)を中高速回転域まで操作し得る中高速操作部材(13)と、降車した作業者が一方の手で前記降車側グリップ部(9)を握った状態で前記駆動車輪(3)を支点として他方の手で前記プラウ(4)を持ち上げるための旋回用ハンドル(11)と、を備える、乗用溝切機。
【請求項2】
前記低速操作部材(12)の操作量規制が、該低速操作部材(12)と前記降車側グリップ部(9)との間に配設される操作量規制部材(14,15)によって行われる、請求項1に記載の乗用溝切機。
【請求項3】
前記低速操作部材(12)の操作量規制が、該低速操作部材(12)と前記エンジン(5)とを作動上連結する伝動部材(20)の動作量を規制することにより行われる、請求項1に記載の乗用溝切機。
【請求項4】
機体フレーム(2)と、該機体フレーム(2)を支持する駆動車輪(3)と、該駆動車輪(3)の後方位置で前記機体フレーム(2)に連結される溝切用のプラウ(4)と、前記駆動車輪(3)を駆動するエンジン(5)と、前記機体フレーム(2)に支持される着座シート(6)と、前記機体フレーム(2)に支持される操作ハンドル(7)と、該操作ハンドル(7)上に配設される左右一対のグリップ部(9,10)と、該グリップ部の内の所定の降車側グリップ部(9)とは反対側の反降車側グリップ部(10)を握りながら操作可能であって、前記エンジン(5)を中高速回転域まで操作し得る中高速操作部材(13)と、降車した作業者が一方の手で前記降車側グリップ部(9)を握った状態で前記駆動車輪(3)を支点として他方の手で前記プラウ(4)を持ち上げるための旋回用ハンドル(11)と、該旋回用ハンドル(11)を握りながら操作可能であって、前記エンジン(5)を所定の低速回転域内でのみ操作し得る低速操作部材(29)と、を備える、乗用溝切機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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