説明

乳化装置、連続乳化装置、及び乳化方法

【課題】 エマルションの製造を行なう場合に、従来に比べて生産性を向上させ、分散微粒子の小径化を図る。
【解決手段】 互いに対向する壁面11a、12a間の空間である流路14と壁面11aに基板11を貫通して複数設けられた小孔15とを有する乳化装置1と、連続相22及び分散相23とを用意する。次に、流路14中に連続相22を矢印32方向に流し、この流れに小孔15から分散相23を導入して、連続相22の流れによる剪断力により分散相23を連続相22中に微粒子24として分散させてエマルションとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続相の流れの剪断力により連続相中に分散相を分散させてエマルションを製造する乳化装置、連続乳化装置、及び乳化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳化けん濁物や乳化けん濁物より得られる微粒子は、産業上様々な用途に用いられている。例えば機能性微粒子としては、液晶スペーサ、電子写真用のトナー、化粧品、化粧品用改質剤、医療用診断検査用微粒子、FRP用低収縮剤、プラスチック樹脂改質剤、電子写真用のトナー添加剤、電気泳動カプセルなどに用いられている。
乳化技術に関し、多孔質ガラス膜を用いた技術としては特許文献1のものが知られている。この技術は、分散相と連続相とを多孔質ガラス膜により仕切り、分散相を連続相側へ押し出すことにより、分散相が膜を通過して連続相に接触し、表面張力がせん断力となって最終的に分散相が微粒子化し、乳化分散体を得る技術である。
また、化粧品、液晶スペーサ、重合トナー、電子ペーパー用表示素子などとして利用する微粒子を製造する場合、微粒子の単分散性が求められる。このような高度な単分散性を備えた乳化分散体や微粒子を製造する技術としては、特許文献2、非特許文献1に開示されているマイクロチャネル乳化技術が知られている。
このうち、特許文献2の技術は、分散相と連続相とを区切る膜に人工的に一様な構造を与えて、“微粒子の直径の標準偏差/微粒子の平均直径”が0.03以下の非常に単分散の高い微粒子を得られるようにしている。
【特許文献1】特許第2733729号公報
【特許文献2】特開2000−273188公報
【非特許文献1】西迫他 Lab on a Chip, vol.2, 24-26, 2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前述の特許文献1に開示の技術では、油相に油に双溶性の無い微粒子を含む場合、しばしば多孔質ガラス膜の孔の閉塞が発生する問題がある。
また、特許文献2に開示の技術では、所望の大きさの粒子を得るためには粒子径に対して数分の一の幅の孔径を必要とするため、粒子径を小さくしようとすると極めて小さな孔を膜に形成しなければならず、このような小孔の形成は困難であるため、微粒子の更なる小粒径化が困難であるという問題がある。
さらに、特許文献3に開示の技術では、単分散な微粒子を得られるものの、チャネル数の増加や、マイクロチャネルチップを並列にして生産効率を向上させる際、全てのチャネルに均等に送液することが困難であり、生産性に限界があるという問題がある。
そこで、本発明は、エマルションの製造を行なう場合に、従来に比べて生産性を向上させ、分散微粒子の小径化を図ること等を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1に記載の発明は、互いに対向する壁面間の空間であり内部を連続相が流れる流路と、前記壁面に複数設けられた孔であり前記流路中の連続相に分散相を導入する導入路と、を備えていることを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記壁面間の間隔は、1〜1000μmの範囲内であることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記流路中には前記連続相の流れを制御する制御部材が設けられていることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発明において、前記壁面は、ガラス、金属、樹脂、シリコンのうちの1又は複数種類の材料により形成されていることを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の発明において、前記壁面には、親水性処理又は疎水性処理が施されていることを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の発明において、前記複数の導入路は前記壁面に複数列形成されていることを特徴とする。
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載の発明において、前記導入路の径方向断面形状は楕円形であることを特徴とする。
請求項8に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載の発明において、前記導入路の径方向断面形状は多角形であることを特徴とする。
請求項9に記載の発明は、請求項1〜8のいずれか一項に記載の乳化装置を複数備え、前記各乳化装置は、1つの乳化装置の前記連続相の前記導入路より下流側と他の一つの乳化装置の前記導入路とが接続されていることを特徴とする。
請求項10に記載の発明は、互いに対向する壁面間の空間である流路と前記壁面に複数設けられた孔である導入路とを有する乳化装置と、連続相及び分散相とを用意する第1工程と、前記流路中に前記連続相を流し、この流れに前記導入路から前記分散相を導入して、前記流れによる剪断力により前記分散相を前記連続相中に微粒子として分散させてエマルションとする第2工程と、を備えていることを特徴とする。
【0005】
請求項11に記載の発明は、請求項10に記載の発明において、前記第1工程は、前記壁面間の間隔が1〜1000μmの範囲内にある前記乳化装置を用意することを特徴とする。
請求項12に記載の発明は、請求項10又は11に記載の発明において、前記第1工程は、前記流路中には前記連続相の流れを制御する制御部材が設けられている前記乳化装置を用意することを特徴とする。
請求項13に記載の発明は、請求項10〜12のいずれか一項に記載の発明において、前記第1工程は、前記壁面には親水性処理又は疎水性処理が施されている前記乳化装置を用意することを特徴とする。
請求項14に記載の発明は、請求項10〜13のいずれか一項に記載の発明において、前記第1工程は、前記複数の導入路は前記壁面に複数列形成されている前記乳化装置を用意することを特徴とする。
請求項15に記載の発明は、請求項10〜14のいずれか一項に記載の発明において、前記第1工程は、前記導入路の径方向断面形状は楕円形である前記乳化装置を用意することを特徴とする。
請求項16に記載の発明は、請求項10〜15のいずれか一項に記載の発明において、前記第1工程は、前記導入路の径方向断面形状は多角形である前記乳化装置を用意することを特徴とする。
請求項17に記載の発明は、請求項10〜16のいずれか一項に記載の乳化方法で用意する乳化装置を2つ備え、前記各乳化装置は、1つの乳化装置の前記連続相の前記導入路より下流側と他の一つの乳化装置の前記導入路とが接続されている連続乳化装置と、前記1つの乳化装置の連続相及び分散相並びに前記他の一つの乳化装置の連続相とを用意する第1工程と、前記1つの乳化装置で請求項1に記載の乳化方法の第2工程と同様の工程によりエマルションを製造し、このエマルションを分散相として前記他の一つの乳化装置に前記導入路を介して導き、当該他の一つの乳化装置で請求項1に記載の乳化方法の第2工程と同様の工程によりダブルエマルションを製造する第2工程と、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
請求項1、10記載の発明によれば、流路中に連続相を流し、この流れに導入路から分散相を導入して、連続相の流れによる剪断力により分散相を連続相中に微粒子として分散させてエマルションを製造することができる。導入路は壁面に複数設けられているので、分散相は各導入路からいっせいに連続相中に導入することができ、エマルションの生産性を高めることができる。
請求項2、11記載の発明によれば、流路の間隔がマイクロメートルオーダーで十分に狭いので、連続相の圧力により大きな剪断力を分散相に与え、小径の微粒子を効果的に製造することができる。
請求項3、12記載の発明によれば、制御部材により各導入路近傍の連続相流体の上流側、下流側で連続相流体の流れを均一に制御することが可能となり、また、制御部材により連続相流体の流れの調整により小粒径な微粒子を安定的に生成することが可能となる。
請求項4記載の発明によれば、光造形などの複雑な手法を用いることなく、既存の2次元微細加工技術を用いて低製造コストで乳化装置を製造することができる。
請求項5、13記載の発明によれば、壁面に対する流体の濡れ性を制御して、エマルションの製造を制御することができる。
請求項6、14記載の発明によれば、壁面の狭い面積に多数の導入路を配置することができ、更にエマルションの生産性を高めることができる。
請求項7、15記載の発明によれば、連続相流体の流れる方向に対する楕円形の長径の方向を様々に選択することで、分散相微粒子の径の大きさを制御することができる。
請求項8、16記載の発明によれば、多角形形状を様々に選択することで、分散相に与える剪断力を調整して、微粒子の粒子径を様々に小さくすることができる。
請求項9、17記載の発明によれば、1つの乳化装置でエマルションを製造し、このエマルションを分散相として他の乳化装置でダブルエマルションを製造することを、1台の装置で連続的に行なうことができる。各乳化装置は請求項1〜8、10〜17で用いているものであるため、ダブルエマルションの生産性の向上等を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
まず、本実施形態の乳化装置の構造について説明する。
図1(a)は、本実施形態の乳化装置1の分解斜視図、図1(b)は、同平面図である。図1に示すように、乳化装置1は、基板11と、平板状のガラス蓋12と、この基板11とガラス蓋12との間に介装される板状のスペーサ13とを備えている。スペーサ13は基板11の周部分とガラス蓋12の周部分との間にのみ介装されていて、基板11とガラス蓋12との互いに向き合う板面の中央部分は空間が形成され、この空間は流路14(後述)を構成する。この流路14を構成する基板11の壁面11aとガラス蓋12の壁面12aとは平行であってもよいし、所定の傾きをもっていてもよい(図1、図2の例では平行である)。その間隔は、例えば、マイクロメートルオーダー、すなわち1〜1000μmの範囲内にある。
基板11の空間14に面した部分には、基板11を貫通する導入路となる複数の小孔15が貫通している。また、ガラス蓋12には、小孔15より径の大きな孔16、17が形成されている。複数の小孔15は一列に形成され、孔16と17を結ぶラインは小孔15が一列に配列されたラインの中央部を通って交差し、この両ラインはほぼ直交している。
【0008】
次に、上記のような装置構成の乳化装置1を用いて実施する本実施形態の乳化方法について説明する。
この乳化方法は、次の第1工程、第2工程を順次実行することにより実施する。
(1)第1工程
まず、前述の乳化装置1を用意する。この乳化装置1は、次の第2工程で詳細に説明するとおり、分散相23に連続相22(いずれも図2参照)により剪断力を与え、連続相22中に分散相23の微粒子24を分散させて乳化を行なう装置であるので、分散相23、連続相22となる材料も用意する。なお、「分散相」とは、乳化工程で微粒子として分散させたい材料をいい、「連続相」とは、乳化工程で分散相に剪断力を与える流体であり、分散相微粒子を安定的に分散させる分散媒としても機能する。また、「流体」とは、気体若しくは液体、又は固体微粒子若しくは双溶性の無い液体の微粒子が分散した気体若しくは液体のことである。
(2)第2工程
第1工程で、乳化装置1並びに分散相23及び連続相22となる材料を用意したら、次のような操作を行なう。
まず、乳化装置1において基板11の壁面11aとガラス蓋12の壁面12aとの間の空間である流路14には、連続相22となる流体を入口となる孔16から流入させる。この連続相22は流路14を流れ、小孔15上を通過して出口となる孔17から外部に流出する。この流路14中の連続相22は、例えば、0.01〜10m/sの範囲内の線速度で流すようにする。
このような流路14中の連続相22の流れの中に小孔15から分散相23となる材料を押し出して流入させる。図2は、このときの状態を説明する乳化装置1の部分拡大縦断面図である。図2において、矢印32は連続相22の流れの方向を示しており、図2は矢印21の方向に小孔15を切断した断面図である。
連続相22中に流入した分散相23は小孔15の近傍で連続相22の流れにより剪断力を受け、微粒子24となって連続相22中に分散する。この微粒子24が分散した連続相22(エマルション)は、そのまま孔17から外部に流出する。
この場合に、連続相22の線速度を制御することにより、微粒子24の直径を所望に制御することが可能である。すなわち、連続相22の速度を増加させれば微粒子24の平均粒子径を減少させることができる。
また、基板11の壁面11aとガラス蓋12の壁面12aとが所定の傾きを有していて、流路14の間隔に広狭を設けているときは、連続相22の速度を連続的に増加又は減少させることができ、これにより微粒子24の直径を制御することができる。
【0009】
このような乳化装置1を用いた乳化方法によれば、流路14は、いずれも板材である基板11とガラス蓋12との間に形成されるので、対向する基板11、ガラス蓋12間にマイクロメートルオーダーの間隔で設けられた流路14は広幅である。そして、この広幅の流路14に面して多数の小孔15を設け、各小孔15からいっせいに分散相23を押し出すことができるので、流路14を多数のマイクロ流路の集合体とすることができる。
よって、本乳化装置1を用いた乳化方法によれば、微粒子24を一度に大量に製造することができ、微粒子24の生産性を向上させることができる。
また、従来の膜乳化法や貫通型MC乳化法は孔径の数倍の直径を有する微粒子を作成することができるにとどまるが、本実施形態によれば小孔15の孔径の2倍以下の、従来に比べて小粒径な微粒子24を製造することが可能となった。
この場合に、基板11の壁面11aとガラス蓋12の壁面12aとの間隔が1〜1000μmの範囲内にあるときは、流路14の間隔が十分に狭いので、連続相22の圧力により大きな剪断力を分散相23に与え、小径の微粒子24を効果的に製造することができる。
【0010】
さらに、図3、図4に拡大平面図で示すように、流路14中には連続相22の流れを制御する制御部材31を設けてもよい。すなわち、各小孔15の近傍には、小孔15ごとに流路14を分けるように複数の制御部材31を等ピッチで設ける。
これにより、各小孔15の近傍上流側、下流側における連続相22流体の流れ(各マイクロチャンネルにおける連続相22の流体の流れ)の流動方向及び速度を均一に制御することができ、また、小粒径な微粒子24をより安定的に製造することができる。
図3には、連続相22の流れの方向を矢印32で示し(a)(c)、また、分散相23や生成された微粒子24を示している(b)(d)。
まず、図3(a)(b)に示すように、制御部材31の矢印32方向の切断断面形状を、矢印32方向を長辺とする長方形に設計した場合、連続相22は制御部材31の切断断面形状の長辺方向と平行に流れるため、分散相23にかかる連続相22の圧力はそれほど大きくはなく、小孔15の幅と同程度又はそれ以上の径を持つ微粒子24を得ることが可能である(図3(a))。
一方、図3(c)(d)に示すように、制御部材31の矢印32方向の切断断面形状を小孔15の下流側で幅が漸次拡大するように、すなわち各小孔15の下流側の流れを徐々に絞る形状とした場合、小孔15の近傍を流れる連続相22が小孔15の下流位置で絞られるため、分散相23にかかる連続相22の圧力は大きく、小孔15の幅と同程度又はそれ以下の径を持つ微粒子24を製造することができる(図3(d))。
【0011】
また、図4(a)(b)(c)に示すように、制御部材31により小孔15の上流側では小孔15に接近するに従って連続相22の流れが絞られ、小孔15の下流側では、その絞られた状態を維持するようにすれば(図4においても、連続相22の流れの方向を矢印32で示し、制御部材31は矢印32方向の切断断面図で示している)、連続相22が分散相23を絞り込むため、小粒径な微粒子24を生成することができる。この場合は、分散相23の生成速度の増大も可能になる。
基板11、スペーサ13の流路14に面している壁面11a、12a等は、ガラス、金属、樹脂、シリコンのうちの1又は複数種類の材料で形成することができる。また、ガラス蓋12も、前述の例ではガラスで形成されているが、その流路14に面している壁面11a、12a等は、ガラス、金属、樹脂、シリコンのうちの1又は複数種類の材料で形成することができる。
基板11、ガラス蓋12、スペーサ13は、このようなシリコンやガラスなどの材質の基板を用い、これをフォトリソグラフィ及びウェットエッチング又はドライエッチングにより加工して製造することができる。また、小孔15はニッケルの電析によって形成することもできる。
より具体的には、例えば、ガラス又はシリコンの板材にウェットエッチング、ドライエッチング、プラズマエッチングなどにより、基板11の小孔15、ガラス蓋12の孔16、17、スペーサ13の中央部の空間(流路14)を形成し、これらを接着剤による接合、陽極酸化接合、熱融着接合、フッ素酸接合などの手法で接合して、乳化装置1を製造するのが望ましい。また、電析により小孔15、孔16、17を形成し、レジストパターンで壁構造、制御部材31を自由に設計することができる。
これにより、例えば光造形などの複雑な手法を用いることなく、既存の2次元微細加工技術を用いて低製造コストで乳化装置1を製造することができる。
【0012】
ところで、基板11、ガラス蓋12、スペーサ13を樹脂で製造した場合は、その壁面11a、12a等は油に親和性が高いことになる。しかし、O/W(Oil in Water)型エマルションを製造する場合、壁面11a、12a等を親水性にすると乳化が容易になる。そこで、この場合は基板11、ガラス蓋12、スペーサ13の流路14に面した壁面11a、12a等に親水性処理を施すのが望ましい。具体的には、プラズマ処理、アルカリ処理などを用いることができる。
もちろん、製造しようとするエマルションに応じて、基板11、ガラス蓋12、スペーサ13の流路14に面した壁面11a、12a等が水に親和性が高い場合に、疎水性処理を施すようにしてもよい。
また、図1の例では、小孔15が1列だけ形成されているが、図5に示すように、小孔15を複数列(図5の例では2列)形成して、連続相22及び分散相23の供給量を各小孔15に対して均一にしてもよい。
このように、小孔15の列数を増やすことにより、更なる微粒子24の生産量の増加が可能になる。
小孔15の形状は、径方向断面形状を円形又は楕円形とすることができる。楕円形状とする場合は、図6の(a)と(b)とに対比して示すように、連続相22の流れる方向(矢印32)に対する、小孔15の楕円形状の長径方向の違いにより、流体の速度バランスなどの条件を変更することなく、微粒子24の径の大きさを細かく制御することができる。図6(a)は、小孔15の楕円形状の長径方向を矢印32方向に一致させている例で、比較的小径の微粒子24を得ることができる。これに対し、図6(b)は、小孔15の楕円形状の長径方向を矢印32方向と直交させている例で、比較的大径の微粒子24を得ることができる。
また、図7に示すように、小孔15の径方向断面形状を長方形(小孔41)、台形(小孔42)、三角形(小孔43)などの多角形形状とし、連続相22の流れる方向(矢印32)と、その多角形の任意の辺の方向又は辺の方向と直行する方向とを揃えた場合、その形状に応じて分散相23に与える剪断力を調整して、微粒子24の粒子径を様々に小さくすることができる。
以上のような手段を用い、分散相23として樹脂又はモノマー及び微粒子の分散混合物で構成されているものを、連続相22としてイオン交換水又はイオン交換水に界面活性剤、増粘剤若しくはこの両者が添加された混合物をそれぞれ用意してO/W系エマルション製造すれば、その製造後に分散相23を固化し、粉体として利用することが可能となる。
また、連続相22として油相を、分散相23としてイオン交換水又はイオン交換水に界面活性剤、水溶性物質若しくはこの両者が添加された混合物をそれぞれ用意してW/O(Water in Oil)系エマルションを製造すれば、油に難溶性の物質を油中に分散させることが可能となる。
さらに、製造したエマルションの微粒子24に外部エネルギー、例えば熱又は電磁波(マイクロウェーブ、UV光、可視光)を与えて硬化すれば、エマルションから固体微粒子を製造することができる。
【0013】
次に、本実施形態の連続乳化装置の装置構成について説明する。
図8は、本実施形態の連続乳化装置101の分解斜視図である。また、図9は、連続乳化装置101の縦断面構造を模式的に示している。この連続乳化装置101は、図示のパネル102〜104を重ね合わせ、接合して形成され、前述した乳化装置1と同様の構造を複数層、図8の例で2層形成し、複数回、この例で2回の乳化を連続的に実施する装置である。図8、図9において、図1〜図7と同一符号の部材等は、前述した乳化装置1と同様の構成、機能であるため、詳細な説明は省略する。
連続乳化装置101を構成する2つの乳化装置1のうち、図9において下層の乳化装置1は、その導入路となる小孔15より連続相22の流れの下流側が、その上層の乳化装置1の導入路となる小孔15と接続されている。これにより、下層の乳化装置1で製造されたエマルションは上層の乳化装置1の分散相23となって、この上層の乳化装置1で更に別のエマルションが製造される。符号111は、下層の乳化装置1で製造された微粒子24を示し、符号112は、上層の乳化装置1で製造された微粒子24を示す。
【0014】
次に、連続乳化装置101を用いて実施する本実施形態の乳化方法について説明する。
ここでは、この連続乳化装置101を用いたダブルエマルションの製造例について説明する。
(1)第1工程
まず、連続乳化装置101と、下層の乳化装置1で用いる連続相22及び分散相23並びに上層の乳化装置1で用いる連続相22を用意する。
(2)第2工程
第1工程終了後、連続乳化装置101の下層の乳化装置1で、用意した連続相22及び分散相23を用いて前述の乳化方法の第2工程と同様の手段によりエマルションを製造する。
この例では、油相を連続相22とし、水相を分散相23としてエマルションを製造する。このとき、小孔15を設けたパネル104は疎水性であることが望ましい。
そして、この製造したエマルションを分散相23として、上層の乳化装置1において、前述の乳化方法の第2工程と同様の手段によりエマルションを製造する。
この例では、水相を連続相22とし、下層の乳化装置1において水相を分散されたW/O型エマルションを分散相23として乳化を行う。このとき小孔15を設けたパネル103は親水性であることが望ましい。このようにして製造された最終的なエマルションは、W/O/W型のダブルエマルションとなる。
以上の乳化方法によれば、連続乳化装置101を構成する各乳化装置1は前述した機能を奏するものであるため、ダブルエマルションを製造する際に生産性の向上、微粒子24の小径化等を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態である乳化装置の分解斜視図、平面図である。
【図2】乳化装置の部分拡大縦断面図である。
【図3】制御部材を備えた乳化装置の部分拡大平面図である。
【図4】制御部材を備えた乳化装置の部分拡大平面図である。
【図5】小孔を2列形成した乳化装置の平面図である。
【図6】楕円形状の小孔近傍の部分拡大平面図である。
【図7】多角形状の小孔近傍の部分拡大平面図である。
【図8】本発明の一実施形態である連続乳化装置の分解斜視図である。
【図9】連続乳化装置の縦断面図である。
【符号の説明】
【0016】
1 乳化装置
11a 壁面
12a 壁面
14 流路
15 小孔
22 連続相
23 分散相
31 制御部材
41、42、43 小孔
101 連続乳化装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する壁面間に形成される空間であり且つ内部を連続相が流れる流路と、
前記壁面に複数設けられた孔であり前記流路中の連続相に分散相を導入する導入路と、
を備えていることを特徴とする乳化装置。
【請求項2】
前記壁面間の間隔は、1〜1000μmの範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の乳化装置。
【請求項3】
前記流路中には前記連続相の流れを制御する制御部材が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の乳化装置。
【請求項4】
前記壁面は、ガラス、金属、樹脂、シリコンのうちの1又は複数種類の材料により形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の乳化装置。
【請求項5】
前記壁面には、親水性処理又は疎水性処理が施されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の乳化装置。
【請求項6】
前記複数の導入路は、前記壁面に複数列形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の乳化装置。
【請求項7】
前記導入路の径方向断面形状は楕円形であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の乳化装置。
【請求項8】
前記導入路の径方向断面形状は多角形であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の乳化装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の乳化装置を複数備え、
前記各乳化装置は、1つの乳化装置の前記連続相の前記導入路より下流側と他の一つの乳化装置の前記導入路とが接続されていることを特徴とする連続乳化装置。
【請求項10】
対向する壁面間に形成される空間である流路と前記壁面に複数設けられた孔である導入路とを有する乳化装置と、連続相及び分散相とを用意する第1工程と、
前記流路中に前記連続相を流し、この流れに前記導入路から前記分散相を導入して、前記流れによる剪断力により前記分散相を前記連続相中に微粒子として分散させてエマルションとする第2工程と、
を備えていることを特徴とする乳化方法。
【請求項11】
前記第1工程では、前記壁面間の間隔が1〜1000μmの範囲内にある前記乳化装置を用いることを特徴とする請求項10に記載の乳化方法。
【請求項12】
前記第1工程では、前記流路中に前記連続相の流れを制御する制御部材が設けられている前記乳化装置を用いることを特徴とする請求項10又は11に記載の乳化方法。
【請求項13】
前記第1工程では、前記壁面には親水性処理又は疎水性処理が施されている前記乳化装置を用いることを特徴とする請求項10〜12のいずれか一項に記載の乳化方法。
【請求項14】
前記第1工程では、前記複数の導入路が前記壁面に複数列形成されている前記乳化装置を用いることを特徴とする請求項10〜13のいずれか一項に記載の乳化方法。
【請求項15】
前記第1工程では、前記導入路の径方向断面形状は楕円形である前記乳化装置を用いることを特徴とする請求項10〜14のいずれか一項に記載の乳化方法。
【請求項16】
前記第1工程では、前記導入路の径方向断面形状は多角形である前記乳化装置を用いることを特徴とする請求項10〜15のいずれか一項に記載の乳化方法。
【請求項17】
請求項10〜16のいずれか一項に記載の乳化方法で用いる乳化装置を2つ備え、前記各乳化装置は、1つの乳化装置の前記連続相の前記導入路より下流側と他の一つの乳化装置の前記導入路とが接続されている連続乳化装置と、前記1つの乳化装置の連続相及び分散相並びに前記他の一つの乳化装置の連続相とを用いる第1工程と、
前記1つの乳化装置で請求項1に記載の乳化方法の第2工程と同様の工程によりエマルションを製造し、このエマルションを分散相として前記他の一つの乳化装置に前記導入路を介して導き、当該他の一つの乳化装置で請求項1に記載の乳化方法の第2工程と同様の工程によりダブルエマルションを製造する第2工程と、
を備えていることを特徴とする乳化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−239594(P2006−239594A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−59726(P2005−59726)
【出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】