乳癌の診断を目的としたPAX2の検出
対象における乳房状態をモニタリングするための方法が開示される。方法は、ペアードボックス2遺伝子対βデフェンシン−1遺伝子(PAX2対DEFB1)発現比率(「ドナルド予測計数」または「DPF」)が乳房の状態と相関することを特徴とする、対象の乳房から採取した細胞におけるPAX2対DEFB1発現比率を測定することを含む。乳房状態をモニタリングおよび薬物耐性を測定するためのキットも開示される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願とのクロスリファレンス)
本明細書は、2009年8月24日に出願した米国特許出願番号第12/546,292号の優先権を主張する。前述の明細書の全文は本明細書に参照文献として援用される。
【0002】
本明細書は全般的に医学的診断に関し、かつ具体的には多様な組織における癌状態を診断するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
乳癌は、米国において女性の癌の最も多い原因でありかつ2番目に多い女性の癌死亡原因である。新規乳癌の大多数はマンモグラム上に異常が見られた結果として診断される一方、乳房組織における塊または硬さの変化も疾患の警戒徴候となることがある。過去数十年間の乳癌リスクに対する認識の高まりによって、スクリーニングを目的としたマンモグラフィを受ける女性の数が増加し、より早いステージでの癌の検出および結果としての生存率の改善につながっている。それでもなお、乳癌は45〜55歳の女性における最も多い死因である。
【0004】
乳癌はいくつかのステージに分類することができる。ステージ0は原位置癌である(小葉癌および腺管癌を含む)。ステージIは浸潤性乳癌の初期ステージである。腫瘍は直径が2センチ以下である。癌細胞は乳房外に拡散しない。ステージII腫瘍は、直径は2センチ以下であるが腋窩リンパ節に拡散した腫瘍、2〜5センチであってかつ腋窩リンパ節に拡散した可能性のある腫瘍、および5センチ(2インチ)よりも大きいが腋窩リンパ節に拡散していない腫瘍を含む。ステージIIIは局所的に進行した癌である。さらにステージIIIA、IIIBおよびIIICに分類される。ステージIVは遠隔転移癌である。癌は身体の他の部分に拡散している。初期ステージ治療の選択肢は後期ステージの選択肢と異なる。
【0005】
多くの種類の癌が遺伝子の異常、すなわち突然変異によって引き起こされることが知られている。突然変異の蓄積および細胞の制御機能の低下は、正常な組織像から上皮内腫瘍(IEN)などの初期前癌、徐々に重度のIEN、表層癌さらに最終的に浸潤性疾患へと進行性の表現型変化を引き起こす。一部の症例においてはこの過程が比較的急激であることがあるものの、概して数年、さらには数十年にわたって比較的緩やかに発生する。癌遺伝子依存は、癌細胞が悪性表現型を維持するために単一癌遺伝子の持続的活性化または過剰発現に生理的に依存することである。この依存は、腫瘍進行を特徴付ける他の変化の状況において発生する。
【0006】
浸潤性癌への長い進行期間は臨床的介入の機会を提供する。したがって、浸潤性癌の発生を予防または遅延させるための治療手段を取ることができるよう、前癌状態を示すバイオマーカーを特定することが重要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの態様は、対象における乳癌状態をモニタリングするための方法に関する。方法は、ペアードボックス2遺伝子対βディフェンシン−1遺伝子(PAX2対DEFB1)の発現比率が乳房状態と相関しかつ治療の過程を決定するために用いられる予後決定因子として役立ちうることを特徴とする、対象の乳房から採取した細胞のPAX2対DEFB1発現比率を測定することを含む。
【0008】
1つの実施形態においては、100:1またはそれ以上のPAX2対DEFB1発現比率は対象における乳癌の存在を示し、かつ100:1未満のPAX2対DEFB1発現比率は対象における非癌または前癌乳房状態の存在を示す。
【0009】
他の実施形態においては、測定する手順は対照遺伝子の発現レベルに対するPAX2遺伝子の発現レベルを測定すること、同対照遺伝子の発現レベルに対するDEFB1遺伝子の発現レベルを測定すること;およびPAX2およびDEFB1の発現レベルに基づいてPAX2対DEFB1発現比率を測定することを含む。
【0010】
1つの実施形態においては、方法は乳房状態を有する乳房組織より採取した細胞におけるエストロゲン受容体/プロゲステロン受容体/ヒト上皮成長因子受容体(ER/PR/HER2)の状態を測定することをさらに含む。
【0011】
本発明の他の態様は、乳房状態をモニタリングするためのキットに関する。1つの実施形態においては、乳房状態をモニタリングするためのキットは:組織サンプルにおけるPAX2発現を検出するための1つまたはそれ以上のオリゴヌクレオチドプライマー対、組織サンプルにおけるDEFB1発現を検出するための1つまたはそれ以上のオリゴヌクレオチドプライマー対、およびプライマーを用いて組織サンプルにおけるPAX2対DEFB1発現比率を測定する方法についての説明書を含む。他の実施形態においては、PAX2発現を検出するための1つまたはそれ以上のオリゴヌクレオチドプライマー対は、配列番号:43および47、配列番号:44および48、ならびに配列番号:45および49からなる群より選択される1つのオリゴヌクレオチドプライマー対を含む。他の実施形態においては、配列番号:35および37を含むDEFB1発現を検出するための1つまたはそれ以上のオリゴヌクレオチドプライマー対。
【0012】
他の実施形態においては、キットはさらに1つまたはそれ以上の対照オリゴヌクレオチドプライマー対を含む。1つの実施形態においては、1つまたはそれ以上の対照オリゴヌクレオチドプライマー対は、βアクチン発現の発現を検出するためのオリゴヌクレオチドプライマーを含む。好ましい実施形態においては、βアクチン発現の発現を検出するためのオリゴヌクレオチドプライマーは配列番号34および36を含む。
【0013】
他の実施形態においては、1つまたはそれ以上の対照オリゴヌクレオチドプライマー対はGAPDH発現の発現を検出するためのオリゴヌクレオチドプライマーを含む。好ましい実施形態においては、GAPDH発現の発現を検出するためのオリゴヌクレオチドプライマーは配列番号42および46を含む。
【0014】
他の関連する実施形態においては、キットはさらに1つまたはそれ以上のPCR反応用試薬を含む。
【0015】
さらに他の実施形態においては、キットはさらに1つまたはそれ以上のRNA抽出用試薬を含む。
【0016】
他の実施形態においては、乳房状態をモニタリングするためのキットはPAX2およびDEFB1発現を検出するためのオリゴヌクレオチドプローブを有するオリゴヌクレオチドマイクロアレイ、およびオリゴヌクレオチドマイクロアレイを用いて組織サンプルにおけるPAX2対DEFB1発現比率を測定する方法についての説明書を含む。
【0017】
関連する実施形態においては、キットは組織サンプルよりRNAを抽出するための試薬をさらに含む。
【0018】
本発明の他の態様は、乳房状態を有する対象のための治療レジメンを決定するための方法に関する。方法は、前記対象の乳房状態を有する乳房組織より採取した細胞における対照遺伝子の発現レベルに対するPAX2遺伝子の発現レベルを測定し、かつPAX2遺伝子の相対的発現レベルに基づいて前記対象のための治療レジメンを決定する手順を含む。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本明細書に組み入れられかつその一部を構成する付属の図面は、開示された方法および構成要素の一定の実施形態を記載と共に例示し、開示された方法および構成要素の原理を説明するのに役立つ。
【0020】
【図1A−C】βディフェンシン−1(DBFB1)発現の定量的RT−PCR(QRT−PCR)分析を示す。DEFB1発現の導入を検証するためにQRT−PCRを実施した。図1Aは、根治的前立腺摘除術を受けた6例の患者より採取した臨床サンプルにおいて比較したDEFB1相対発現レベルを示す。図1Bは、DEFB1導入前後の良性および悪性前立腺臨床サンプル、hPrEC細胞ならびに前立腺細胞株において比較したDEFB1相対発現レベルを示す。図1Cは、単一の組織切片内にある良性組織、悪性組織、および前立腺上皮内腫瘍(PIN)において分析したDEFB1相対発現レベルを示す。
【図1D】図1Dは、良性組織に認められる平均DEFB1発現レベルと比較した、1例の患者における良性組織、悪性組織およびPIN組織DEFB1発現を示す。
【図2】膜完全性および細胞形態のDEFB1誘導性変化の顕微鏡分析を示す。48時間のDEFB1導入後にDU145、PC3およびLNCaPの細胞形態を位相差顕微鏡検査により分析した。膜ラフリングは黒い矢印で示され、かつアポトーシス小体は白い矢印で示される。
【図3】前立腺癌細胞におけるDEFB1細胞毒性の分析を示す。前立腺細胞株DU145、PC3およびLNCaPをPonAで1〜3日間処理してDEFB1発現を誘導し、その後MMT分析を実施して細胞の生存率を測定した。結果は平均±標準偏差、n=9に相当する。
【図4A】DU145およびPC3細胞におけるDEFB1による細胞死の誘導を示す。前立腺細胞株DU145(A)およびPC3(B)においてDEFB1発現を誘導し、さらにその後アネキシンV/FITC/ヨウ化プロピジウム染色およびフローサイトメトリー分析を実施した。ヨウ化プロピジウムおよびアネキシンV陽性の細胞をアポトーシス細胞と見なした。各パネルの下に誘導時間を示す。各測定時点のボックスの隣の数字はヨウ化プロピジウム(PI)−アネキシンV+細胞の割合(右下象限)およびPI+アネキシンV+細胞(右上象限)を示す。データは異なる3つの実験を代表する1回の実験に由来する。
【図4B】同上
【図5A−H】DEFB1導入後のパンカスパーゼ分析を示す。DU145およびPC3細胞をFAM−VAD−FMK標識フルオロメチルケトンで染色し、カスパーゼ活性を検出した。細胞は各条件においてDIC下で可視であった。共焦点顕微鏡分析では、対照DU145(B)、PC3細胞(F)およびLNCaP(J)のカスパーゼ染色は判明しなかった。PonAで24時間処理してDEFB1を誘導した細胞は、DU145(D)およびPC3(H)においてカスパーゼ活性を示した。LNCaP(L)ではカスパーゼ活性が検出されなかった。
【図5I−L】同上
【図6】PAX2 siRNA処理後のペアードボックスホメオチック遺伝子2(PAX2)タンパク質発現のサイレンシングを示す。図6Aは、PAX2 siRNAデュプレックスをトランスフェクトしたPC3およびDU145細胞の0日目(レーン1)、2日目(レーン2)および4日目(レーン3)のウェスタンブロット分析を示す。図6Bは、PAX2 siRNAデュプレックスをトランスフェクトしたPC3およびDU145細胞の0日目(レーン1)、2日目(レーン2)、4日目(レーン3)および6日目(レーン4)のウェスタンブロット分析を示す。PAX2タンパク質は、DU145細胞で処理より4日後(レーン3)およびPC3で処理より6日後と早期に検出不可能となった。ブロットを剥離し、内部対照としてのβアクチンについてリプローブした。
【図7】PAX2 siRNA処理後の前立腺癌細胞増殖の分析を示す。通常の増殖培地の存在下における6日目のDU145、PC3およびLNCaPの位相差顕微鏡分析。陰性対照siRNAによる処理は細胞に影響を示さなかった。しかし、PAX2 siRNAによる処理後には、3つ細胞株の全てに有意な細胞数減少があった。
【図8】PAX2のsiRNAサイレンシング後の細胞死の分析を示す。前立腺癌細胞株PC3、DU145およびLNCaPを、4つのPAX2 siRNAまたは4つの非特異的対照siRNAのプール0.5μgで2、4または6日間処理し太後、細胞生存率を測定するためにMTTアッセイを行った。結果は平均±標準偏差、n=9に相当する。
【図9】カスパーゼ活性の分析を示す。DU145、PC3およびLNCaP細胞をカルボキシフルオレセイン標識フルオロメチルケトンで染色し、PAX2 siRNA処理後のカスパーゼ活性を検出した。未処理および処理細胞の共焦点顕微鏡分析により、細胞がDICで可視であったことが示される。蛍光下での分析では対照DU145(B)、PC3細胞(F)およびLNCaP(J)のカスパーゼ染色は示されなかった。しかし、PAX2 siRNA処理した細胞はDU145(D)、PC3(H)およびLNCaP(L)においてカスパーゼ活性を誘導した。
【図10】PAX2 siRNA処理後のアポトーシス因子の分析を示す。未処理対照細胞およびPAX2 siRNAで6日間処理した細胞において、プロアポトーシス因子の発現の変化を比較した。図10Aは、DU145、PC3およびLNCaPにおいてBcl−2関連Xタンパク質(BAX)の発現レベルが増加したことを示す。図10Bは、DU145およびLNCaPにおいてBH3共役ドメインデスアゴニスト(BID)発現が増加したがPC3では変化したことを示す。図10Cは、3つの細胞株全てにおいてBcl−2関連デスプロモーター(BAD)の発現レベルが増加したことを示す。
【図11】PAX2とDNA認識配列の結合のモデルを示す。PAX2転写リプレッサーは、DEFB1 TATAボックスの直近のCCTTG(配列番号1)認識部位と結合し、かつ転写およびDEFB1タンパク質発現を妨害する。PAX2タンパク質発現の阻害により正常なDEFB1発現が可能となる。
【図12】DEFB1リポーター構築物を例示する。mRNA開始部位より上流の始めの160塩基から構成されるDEFB1プロモーターをDU145細胞からPCR増幅し、pGL3ルシフェラーゼリポータープラスミドにライゲーションした。
【図13】PAX2を阻害するとDEFB1が発現することを示す。DU145、PC3、LNCaPおよびHPrECをPAX2 siRNAで48時間処理した。処理前のQRT−PCR分析ではDU145、PC3およびLNCaPのDEFB1発現は示されなかった。しかし、全ての細胞株において処理後にDEFB1発現が回復した。PAX2欠損HprECのsiRNA処理後にDEFB1発現の変化はなかった。
【図14】PAX2阻害によってDEFB1プロモーター活性が増加することを示す。PC3プロモーター/pGL3およびDU145プロモーター/pGL3構築物を作製し、さらにそれぞれPC3およびDU145細胞にトランスフェクトした。siRNAによるPAX2阻害の前後のプロモーター活性を比較した。処理後のDEFB1プロモーター活性はDU145で2.65倍およびPC3で3.78倍増加した。
【図15A】DEFB1プロモーターと結合したPAX2のChIP分析を示す。DU145およびPC3細胞に対してChIP分析を実施した。抗PAX2抗体による免疫沈降後、PCRを実施してGTTCC(配列番号2)PAX2認識部位を含むDEFB1プロモーター領域を検出した。これにより、前立腺癌細胞株においてPAX2転写リプレッサーがDEFB1プロモーターと結合することが証明される。
【図15B】同上
【図16】DNAを有するPrdPDおよびPrdHDの予測構造を示す。DNAと結合したPrdPD(Xu et al.,1995)とDNAと結合したPrdHD(Wilson et al.,1995)の構造の座標を用い、2つのドメインがPH0部位と結合した際のそのモデルを構築した。個々の結合部位は指定された特定の向きで相互に隣接する。REDドメインは、PrdPD結晶構造に基づいて向きを決めた。
【図17】異なるペアードドメインのコンセンサス配列の比較を示す。図面の上部には、Prd−ペアードドメイン±DNA複合体の結晶構造分析で報告されているタンパク質±DNA接点の模式図を示す。白いボックスはaヘリックスを示し、網掛けボックスはb−シート、太線はb−ターンを示す。接触するアミノ酸は1文字コードで示す。直接的アミノ酸±塩基接点のみを示す。白丸は主溝接点を示す一方、赤い矢印は副溝接点を示す。このスキームを、ペアードドメインタンパク質の全既知のコンセンサス配列と整合する(トップスストランドのみを示す)。コンセンサス配列間の縦線は保存塩基対を示す。図の下部に位置番号を示す。
【図18】化学予防戦略としてのPAX2のターゲティングを示す。異常PAX2発現は、癌発生および進行の初期事象である。異形成または他の前癌段階中のPAX2阻害を癌予防のために用いることができる。
【図19】アンジオテンシンII(AngII)がDU145細胞のPAX2発現に及ぼす効果を示す。PAX2発現に対するAngIIの効果を測定するために、処理後のDEFB1タンパク質レベルをモニタリングした。この場合、PAX2発現レベルは4時間と早期に上昇し、48時間まで持続した。
【図20】図20Aは、DU145におけるPAX2発現に対するロサルタン(Los)の効果を示す。DU145細胞をアンジオテンシンIIタイプ1受容体(ATR1)遮断剤ロサルタンで処理した。QRT−PCRにより、処理後にPAX2メッセージレベルが少なくとも2分の1低下することが明らかとなった。図20Bは、DU145細胞におけるアンジオテンシンIIタイプ2(ATR2)阻害剤のPAX2発現への効果を示す。ATR2受容体のPAX2発現に対する効果を測定するため、DU145細胞をATR2受容体遮断剤PD123319で処理した。この場合、PAX2発現は7から8倍上昇した。
【図21】DU145においてLosがPAX2発現に対するAngIIの効果を遮断することを示す。DU145細胞を5μMのAngIIで72時間処理したところPAX2発現が2倍上昇した。さらに、10μMで72時間処理したところ発現は3倍以上上昇した。細胞を5μMロサルタンで処理したところ、増殖が50%抑制された。さらに、AngIIで処理する30分前にロサルタンで処理したところ、増殖に対するAngIIの効果が阻害された。
【図22】AngIIがDU145細胞増殖を増加させることを示す。DU145細胞を5μMのAngIIで72時間処理したところ増殖が2倍上昇した。さらに、10μMで72時間処理したところ増殖が3倍以上上昇した。
【図23】DU145細胞におけるLosおよびMAPキナーゼ阻害剤のPAX2発現に対する効果を示す。図23AはDU145細胞をロサルタンで処理するとホスホ−ERK1/2およびPAX2発現が抑制されることを示し;図23BはMEKキナーゼ阻害剤およびAICARがPAX2タンパク質発現を抑制することを示し;図23CはMEKキナーゼ阻害剤およびロサルタンがホスホ−STAT3タンパク質発現を抑制することを示す。
【図24】DU145細胞におけるLosおよびMEKキナーゼ阻害剤のPAX2活性化に対する効果を示す。図24Aは、DU145細胞をAT1Rシグナリング阻害物質で処理したところPAX2の活性型であるホスホ−PAX2タンパク質レベルが低下したことを示す。さらに、AMPキナーゼ誘導薬AICARで処理することによりPAX2発現が阻害された。図24Bは、AT1RシグナリングをLosで阻害したところホスホ−JNKレベルが低下したことを示す。しかし、AngIIはホスホ−JNKタンパク質レベルを上昇させた。
【図25】hPrEC細胞においてAngIIがPAX2を増加しかつDEFB1発現を減少することを示す。hPrECにおけるAngIIのPAX2レベルに対する効果を測定するために、細胞を72および96時間処理し、さらにPAX2およびDEFB1発現をQRT−PCRで検討した。この場合、AngII処理によってPAX2がPC3前立腺癌細胞と同様のレベルまで劇的に増加した。逆に、DEFB1発現はAngII処理後に有意に減少した。
【図26】AngIIシグナリングおよびPAX2前立腺癌の模式図を示す。前立腺癌細胞におけるPAX2発現は、AT1Rシグナリング経路によって調節される。具体的には、MEKキナーゼシグナリングカスケードはPAX2発現の増加につながる。さらに、AT1RおよびAngIIはJNKを介してPAX2をアップレギュレートする。
【図27】前立腺癌に対する治療法としてのPAX2発現遮断の模式図を示す。図27Aは、PAX2発現がAT1Rシグナリング経路によって調節されることを示す。PAX2発現を阻害するとDEFB1の再発現および癌細胞死が発生する。図27Bは下流のキナーゼAT1Rを遮断するか、またはPAX2を直接抑制する化合物が、前立腺癌を治療するための新規手法を提供することを示す。
【図28】DEFB1およびPAX2発現とグリーソンスコアの比較を示す。根治的前立腺摘除術を受けた6例の患者からの良性臨床サンプルにおいてDEFB1の相対発現レベルを比較した。この場合、グリーソンスコアは隣接する良性前立腺組織においてDEFB1発現レベルと逆相関した。相対DEFB1発現レベルが0.005を上回る患者のグリーソンスコアは6であった。しかし、発現レベルが0.005未満の者のグリーソンスコアは7であった。
【図29A】前立腺癌発生の予測因子としてのPAX2−DEFB1比率を示す。レーザーキャプチャーマイクロダイセクション(LCM)前立腺癌切片に対してQRT−PCRを実施し、相対的なDEFB1およびPAX2の発現レベルを測定した。DEFB1発現レベルは、正常からPIN、癌に向かって低下する。しかし、PAX2発現は正常からPINから癌に向かって増加する。さらに、グリーソンスコア6の癌の患者番号1457は、グリーソンスコア7の癌の患者番号1569と比較して、正常組織およびPIN内のDEFB1が多かった。逆に、患者番号1569は患者番号1457と比較して癌領域のPAX2レベルが高かった。
【図29B】同上
【図30】ドナルド予測係数(DPF)が相対PAX2−DEFB1発現比率に基づいていることを示す。前立腺組織のDPFが上昇すると前立腺癌が発生する確率が増加する。DPFに基づくPAX2−DEFB1比率が0〜39の組織は正常(良性)であった。PAX2−DEFB1比率が40〜99の組織は、DPFスケールに基づくPIN(前癌)を呈していた。最後に、PAX2−DEFB1比率が100〜500の組織は悪性(低から高グレードの癌)であった。
【図31】ヒト前立腺組織におけるhBD−1発現の分析を示す。根治的前立腺摘除術を受けた患者からの正常臨床サンプルにおいてhBD−1の相対発現レベルを比較した。破線は、肉眼的切除検体とLCM由来検体の間で得られた値を比較するための基準点として使用し、対応するグリーソンスコアを各棒グラフの上に示す。図31Aは、肉眼的切除で得られた組織において比較したhBD−1発現レベルを示す。図31Bは、レーザーキャプチャーマイクロダイセクションによって得られた組織において比較したhBD−1発現レベルを示す。
【図32】前立腺細胞株におけるhBD−1発現の分析を示す。図32Aは、hBD−1誘導前後の前立腺癌細胞株における、hPrEC細胞に対して比較したhBD−1発現レベルを示す。アスタリスクはhPrECと比較して統計的に高い発現レベルを示す。二重アスタリスクは、hBD−1誘導前の細胞株と比較して統計的に有意な水準の発現を示す(Studentのt検定、p<0.05)。図32Bは免疫細胞化学検査によって前立腺癌細胞株DU145において検証した異所性hBD−1発現を示す。hPrEC細胞を、陽性(ポジティブ)対照としてのhDB−1について染色した(a:DICおよびb:蛍光)。DU145細胞をhBD−1でトランスフェクトし、18時間誘導した(c:DICおよびd:蛍光)。スケールバー=20μM。
【図33】前立腺細胞におけるhBD−1細胞毒性の分析を示す。前立腺細胞株DU145、PC3、PC3/AR+およびLNCaPをPonAで1〜3日間処理してhBD−1発現を誘導し、その後MMTアッセイを実施して細胞の生存率を測定した。各棒グラフは、3回ずつ実施した独立した3つの実験の平均±標準誤差を示す。
【図34A】ヒト前立腺正常、PINおよび腫瘍のLCM組織切片におけるhBD−1およびcMYC発現のQRT−PCR分析を示す。各遺伝子の発現はβアクチンと比較した発現比率として示す。図34Aは正常、PINおよび腫瘍切片におけるhBD−1発現レベルの比較を示す。図34Bは正常、PINおよび腫瘍切片におけるcMYC発現レベルの比較を示す。
【図34B】同上
【図35】siRNAを用いたPAX2ノックダウン後のhBD1発現のQRT−PCR分析を示す。hBD−1発現レベルはβアクチンと比較した発現比率として示す。アスタリスクは、PAX2 siRNA処理前の細胞株と比較して統計的に高い発現水準を示す(Studentのt検定、p<0.05)。
【図36】PAX2 siRNA処理後のPAX2タンパク質発現のサイレンシングを示す。図36Aは、ウェスタンブロット分析によって検討したHPrEC前立腺一次細胞(レーン1)およびDU145(レーン2)、PC3(レーン3)およびLNCaP(レーン4)前立腺癌細胞におけるPAX2発現を示す。ブロットを剥離し、内部対照としてのβアクチンについてリプローブして装填が均一であることを確認した。図36Bは、DU145、PC3およびLNCaPのウエスタンブロット分析のいずれでも、PAX2 siRNAデュプレックスによるトランスフェクト後のPAX2発現のノックダウンが確認されたことを示す。ブロットを再度剥離し、内部対照としてのβアクチンについてリプローブした。
【図37】PAX2 siRNA処理後の前立腺癌細胞の増殖の分析を示す。通常のネガティブコントロール非特異的siRNAの存在下における6日目のHPrEC(A)、LNCaP(C)、DU145(E)およびPC3(G)の位相差顕微鏡分析。PAX2 siRNAによる処理の後には、DU145(D)、PC3(F)およびLNCaP(H)において細胞数の有意な減少があった。しかし、HPrEC(B)においては影響がなかった思われた。バー=20μM。
【図38】PAX2のsiRNAサイレンシング後の細胞死の分析を示す。前立腺癌細胞株PC3、DU145およびLNCaPをPAX2 siRNAまたは非特異的陰性対照siRNAで2、4または6日間処理し、その後MTTアッセイを実施した。PAX2のノックダウンにより、3つの細胞株全てにおいて相対細胞生存率が低下した。結果は平均±標準偏差、n=9に相当する。
【図39】カスパーゼ活性の分析を示す。DU145、PC3およびLNCaP細胞をカルボキシフルオレセイン標識フルオロメチルケトンで染色し、PAX2 siRNA処理後のカスパーゼ活性を検出した。蛍光分析では対照DU145(A)、PC3細胞(C)およびLNCaP(E)のカスパーゼ染色は示されなかった。しかし、PAX2 siRNA処理した細胞はDU145(B)、PC3(D)およびLNCaP(F)においてカスパーゼ活性を誘導した。バー=20μm。
【図40】PAX2 siRNA処理後のアポトーシス因子の分析を示す。未処理対照細胞およびPAX2 siRNAで6日間処理した細胞において、プロアポトーシス因子の発現の変化を比較した。図40Aは、DU145,PC3およびLNCaPにおけるPAX2ノックダウン後にBAD発現が上昇したことを示す。図40Bは、BID発現レベルがLNCaPおよびDU145において上昇したがPC3細胞では上昇しなかったことを示す。図40Cは、LNCaPおよびDU145においてAKT発現が低下したことを示す。しかし、PAX2ノックダウン後のPC3細胞のAKT発現に変化はなかった。結果は平均±標準偏差、n=9を表す。アスタリスクは統計的な差を示す(p<0.05)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
特に規定しない限り、本明細書で用いられる全ての技術的および科学的用語は、開示された方法および構成要素が属する技術分野における通常の知識を有する者によって共通して理解されるところと同じ意味を有する。本明細書および付属の請求項に用いるところの単数形「1つの」および「その」は、文脈によって明確に指示されない限り複数の内容を含む。したがって、たとえば、「1つのペプチド」への言及は複数のそのようなペプチドを含み、「そのペプチド」への言及は1つまたはそれ以上のペプチドおよび当業者に既知であるその同等物への言及である、などである。
【0022】
本発明の1つの態様は、癌の発生をモニタリングするための方法に関する。一定の実施形態においては、方法は、対象の前立腺または乳房における上皮内腫瘍などの前癌状態、および癌状態のモニタリングに関する。方法は、ペアードボックス2遺伝子対βデフェンシン−1遺伝子(PAX2対DEFB1)の発現比率が前立腺または乳房の状態と相関することを特徴とする、対象の前立腺または乳房から採取した細胞におけるPAX2対DEFB1の発現比率を測定することを含む。遺伝子発現比率はmRNAレベルで(例:RT−PCRまたはオリゴヌクレオチドアレイによる)またはタンパク質レベルで(例:ウェスタンブロットまたは抗体アレイ)測定してもよい。
【0023】
一定の実施形態においては、PAX2対DEFB1発現比率はmRNAレベルで測定し、本明細書においては「ドナルド予測係数」または「DPF」と呼ばれる。
【0024】
一定の実施形態においては、前立腺のPAX2対DEFB1発現比率(mRNAレベルで測定)は対象において正常、前癌性および癌性前立腺状態の間で識別するために用いられる。1つの実施形態においては、40:1未満のPAX2対DEFB1比率は正常な前立腺状態を示し、少なくとも40:1から100:1未満のPAX2対DEFB1比率は前立腺上皮内腫瘍(PIN)を示し、かつ少なくとも100:1のPAX2対DEFB1比率は前立腺癌を示す。
【0025】
対象における前立腺癌を診断するための方法も提供される。方法は、PAX2対βディフェンシン−1(DEFB1)の比率が少なくとも100:1であることを特徴とする、対象の前立腺からの細胞においてPAX2およびDEFB1レベルを検出することを含む。
【0026】
対象における前立腺上皮内腫瘍(PIN)を診断する方法も提供される。方法は、PAX2対DEFB1比率が少なくとも40:1でありかつ100:1未満であることを特徴とする、対象の前立腺からの細胞においてPAX2およびβDEFB1レベルを検出することを含む。
【0027】
他の一定の実施形態においては、乳房における(RNAレベルでの)PAX2対DEFB1発現比率は対象において非癌性(良性および/または前癌)乳房状態と癌性乳房状態を識別するために用いられる。1つの実施形態においては、100:1未満のPAX2対DEFB1比率は非癌(正常)状態および/または前癌(乳房上皮内腫瘍(MIN))を示し、少なくとも100:1のPAX2対DEFB1比率は乳癌を示す。
【0028】
対象において乳癌を診断するための方法も提供される。方法は、対象において少なくとも100:1のPAX2対DEFB1比率が乳癌を示すことを特徴とする、対象の乳房からの細胞においてPAX2およびDEFB1レベルを検出することを含む。対象における非癌生乳房状態(正常および/またはMIN)を診断するための方法も提供される。方法は、対象において100:1未満のPAX2対DEFB1比率が非癌乳房状体を示すことを特徴とする、対象の乳房からの細胞においてPAX2およびDEFB1のレベルを検出することを含む。
【0029】
1つの実施形態においては、方法は乳房状態を有する乳房組織より採取したエストロゲン受容体/プロゲステロン受容体(ER/PR)の状態を測定することをさらに含む。乳房組織のER/PR状態を、同一組織のPAX2対DEFB1比率と共に、対象の乳房状態の測定に用いてもよい。
【0030】
これ以降用いるところの用語「乳房上皮内腫瘍」は小葉上皮内腫瘍および腺管上皮内腫瘍を含む。
【0031】
本発明のモニタリングおよび診断方法は、臨床家に対して開始した組織または前癌組織についての予後決定因子を提供する。この検査の候補は(年齢、人種に基づく)癌のリスクの高い患者を含む。診断として、PAX2検査が次に陽性または陰性となった後でバイオマーカーによる追加的スクリーニングを実施して癌の部位を決定することができる。さらに、これらの患者はPAX2/DEFB1モジュレーターによる治療の候補とすることができる。代替的に、この検査をその癌治療法の有効性の指標として患者(すなわちトリプルネガティブ乳癌の者)に対して用いて、治療経過を決定するか、または癌の再発をモニタリングすることができる。
【0032】
他の例として、臨床家による直腸指診時の前立腺内結節の検出といった癌の潜在的な指標を呈した患者、またはPSAの突発的上昇を経験した者は、しばしば「監視すべき待機」状態にある。これらの患者が癌を発症しているか、あるいはこれから発症するか確認することはしばしば困難である。これらの患者からの血漿/血清などのサンプル中のPAX2対DEFB1比率の検出を、前立腺癌が疑われる男性からの生検資料の採取の決定を支援するために用いることが可能であり、これは不必要な前立腺生検件数の減少、および患者の疾患へのより早い介入につながる。
【0033】
(前立腺癌)
現在、前立腺癌スクリーニングは直腸診および前立腺特異抗原(PSA)レベルの測定からなる。直腸指診には相当な検査者間変動があり、かつPSAレベルは良性前立腺肥大(BPH)、前立腺炎および他の疾患において上昇することもあるため、これらの方法は特異性に欠ける。
【0034】
前立腺癌はグリーソンシステムを用いてスコアリングすることができる(Gleason et al.,1966)。これは細胞学的性質ではなく組織構成を用いる。1から5の等級を用い(良好から低分化度)を用い、最も頻繁かつより重度な病変領域の合計スコアを合計する。グリーソンスコアは、腫瘍ステージの評価(ステージング)の他にも有用となりうる予後情報を提供する。2〜4および8〜9のグリーソンスコアは良好な予測値を有するが、腫瘍の約3/4は中間的な数値を有する。
【0035】
前立腺癌のステージングには2種類の主要なシステム:TNMおよびジュウェットシステムを用いる(Benson and Olsson et al.,1989)。ステージングは腫瘍のあらゆる転移的な拡散を評価することを考慮し、かつ局所リンパ節転移であるかまたは局所的浸潤であるか評価することが困難であることから、これは困難である。肉眼で腫瘍組織を正常組織から識別することが難しく、かつ前立腺は明瞭な皮膜がなく線維脂肪組織層に囲まれているため、腫瘍のサイズを測定することも難しい。
【0036】
前立腺腫瘍(T)のステージはT1からT4までの4つのカテゴリーで表される。T1については、癌は顕微鏡的、片側性かつ触診不可能である。医師は腫瘍を触知することも、あるいは経直腸超音波検査などの撮影によって見ることもできない。BPHの治療によって疾患が明らかになることもあれば、PSAの上昇が原因で実施した針生検で確認されることもある。T2については、医師はDREにより癌を触知することができる。疾患は片側または両側前立腺に限局されると思われる。T3については、癌は前立腺のすぐ外側の組織まで進行している。T4については、癌は身体の他の部分に拡散している。
【0037】
したがって、現行のスクリーニング方法では不満足であり;前立腺癌を診断する、または大半の患者で主な死因となるその転移的拡散の可能性を予測または予防するための信頼できる方法がない。
【0038】
(乳癌)
乳癌のために一般的に用いられるスクリーニング法は自己および臨床的乳房検査、X線マンモグラフィ、および乳房磁気共鳴影像法(MRI)である。乳癌スクリーニングを目的とした最新技術は、X線マンモグラフィに用いられる危険な放射線照射を用いることなく、音波を用いて3次元画像を作製しかつ乳癌を検出する超音波コンピューター断層撮影法である。遺伝子検査を用いることもある。乳癌の遺伝子検査は、典型的にはBRCA遺伝子における突然変異の検査を包含する。乳癌のリスクが高い者を除き、一般的に推奨される技術ではない。
【0039】
米国において、女性に最も多い死因の1つである乳癌の発生率はこの30年の間に徐々に増加している。乳癌の病因が不明である一方で、特に30歳未満の女性では、正常乳房上皮の悪性表現型へのトランスフォーメーションは遺伝的因子の結果であることもある(Miki et al.,1994,Science,266:66−71)。最近では、BRCA1およびBRCA2の発見およびキャラクタライゼーションによって家族性乳癌に寄与することのある遺伝的因子についての我々の知見が拡大している。これら2つの座位内における生殖細胞系突然変異は、乳癌および/または卵巣癌の障害リスクの50〜85%と関連している(Casey,1997,Curr.Opin.Oncol.9:88−93;Marcus et al.,1996,Cancer 77:697−709)。しかし、他の非遺伝的因子も疾患の病因に対して著しい影響を有する可能性がある。その由来にかかわらず、乳癌がその進行における初期に検出されない場合、その罹患率および死亡率は有意に上昇する。したがって、乳房組織における細胞のトランスフォーメーションおよび腫瘍形成の早期検出には相当な労力が集中されている。
【0040】
現在、乳癌を鑑別するための主な方法は高密度腫瘍組織の存在の検出を介する。これは、乳房の外部の直接的検査によって、もしくはマンモグラフィまたは他のX線撮像法によって、異なる有効性の度合いで達成されうる(Jatoi,1999,Am.J.Surg.177:518−524)。しかし、後者の手法は相当な費用を伴う。マンモグラフを撮影するたびに、患者は検査時に用いる放射線の電離性によって乳房腫瘍が誘発されるというわずかなリスクを負う。さらに、当該プロセスは高価でありかつ技術者の主観的解釈が不正確さにつながることがあり、たとえばある研究では、調査対象の放射線科医群が1組のマンモグラムを個別に解釈したところ約3分の1に大きな臨床的不一致があったことが示されている。さらに、多くの女性がマンモグラムの受診は苦痛を伴う経験であると見なしている。したがって、米国国立癌研究所は、50歳未満の女性はこれより年長の女性ほど乳癌を発症する可能性が高くないので、この集団に対してマンモグラムを推奨していない。しかし、50歳未満の女性に発生する乳癌はわずかに約22%であるものの、閉経前女性における乳癌の方が悪性度が高いことがデータより示唆されていることは認めざるを得ない。
【0041】
(PAX2)
PAX遺伝子は、核転写因子をコードする9つの発生制御遺伝子のファミリーである。胚形成において重要な役割を果たし、かつ非常に整然とした時間的および空間的パターンで発現する。いずれも、進化の過程において高度に保持されるDNA結合ドメインをコードする384塩基対の「ペアードボックス」領域を含む(Stuart,ET et al.,1994)。発生プロセスに対するPAX遺伝子の影響は、PAX遺伝子におけるヘテロ接合性不全にも直接起因すると考えることのできる数多くの天然マウスおよびヒト症候群によって証明されている。PAX2配列はDressler他、1990に示されている。ヒトPAX2タンパク質およびその変異型のアミノ酸配列、さらには当該タンパク質をコードするDNA配列は、配列番号58〜69(配列番号58、ヒトPAX2のエクソン1によりコードされるアミノ酸配列;配列番号59、ヒトPAX2遺伝子プロモーターおよびエクソン1;配列番号60、ヒトPAX2のアミノ酸配列;配列番号61、ヒトPAX2遺伝子;配列番号62、ヒトPAX2遺伝子変異型bのアミノ酸配列;配列番号63、ヒトPAX2遺伝子変異型b;配列番号64、ヒトPAX2遺伝子変異型cのアミノ酸配列;配列番号65、ヒトPAX2遺伝子変異型c;配列番号66、ヒトPAX2遺伝子変異型dのアミノ酸配列;配列番号67、ヒトPAX2遺伝子変異型d;配列番号68、ヒトPAX2遺伝子変異型eのアミノ酸配列;配列番号69ヒトPAX2遺伝子変異型e)。
【0042】
PAX2発現が検出されている癌の例を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
(DEFB1)
βディフェンシンは、上皮および白血球の産生物である広域抗微生物活性スペクトラムを有する陽イオン性ペプチドである。単一遺伝子の産物であるこれら2つのエクソンは上皮表面に発現し、皮膚、角膜、舌、歯肉、唾液腺、食道、腸、腎臓、尿生殖路、および呼吸上皮を含む部位において分泌される。これまで、ヒトにおいては5つの上皮由来βディフェンシン遺伝子が同定およびキャラクタライゼーションされている:DEFB1(Bensch et al.,1995),DEFB2(Harder et al.,1997)、DEFB3(Harder et al.,2001;Jia et al.,2001)、DEFB4およびHE2/EP2。
【0045】
各βディフェンシン遺伝子産物の一次構造は、小さなサイズ、6個のシステインモチーフ、高い正電荷、およびこれらの特性以外は多様性が非常に大きいことを特徴とする。ディフェンシンタンパク質の最も特徴的な性質は、3個のジスルフィド結合ネットワークを形成するその6個のシステインモチーフである。βディフェンシンタンパク質における3個のジスルフィド結合はC1−C5,C2−C4およびC3−C6間にある。隣接するシステイン残基の最も一般的な間隔は6、4、9、6、0である。βディフェンシンタンパク質におけるシステインの間隔は、カルボキシ末端に最も近いC5およびC6を除いて1または2アミノ酸異なることがある。全ての公知の脊椎動物βディフェンシン遺伝子においては、これら2つのシステイン残基は互いに隣接している。
【0046】
βディフェンシンタンパク質の第2の特徴はその小さなサイズである。各βディフェンシン遺伝子はサイズの範囲が59〜80アミノ酸であり平均サイズが65アミノ酸であるプレプロタンパク質をコードする。次に、この遺伝子産物は未知の機構によって開裂され、サイズの範囲が36〜47アミノ酸であり平均サイズが45アミノ酸である成熟ペプチドを作製する。これらの範囲の例外は、βディフェンシンモチーフを含みかつ精巣上体に発現するEP2/HE2遺伝子産物である。
【0047】
βディフェンシンタンパク質の第3の特徴は、高い陽イオン残基濃度である。成熟ペプチドの正電荷残基(アルギニン、リジン、ヒスチジン)の個数の範囲は6〜14であり平均は9である。
【0048】
βディフェンシン遺伝子産物の最後の特徴は、その一次構造は多様であるが三次構造は見かけ上維持されることである。6個のシステイン以外には、このタンパク質ファミリーの全公知メンバーにおいて所与の位置に保持されているアミノ酸はない。しかし、二次および三次構造および機能にとって重要と見られる位置は維持されている。
【0049】
βディフェンシンタンパク質の一次アミノ酸配列の多様性は大きいものの、このタンパク質ファミリーの三次構造が維持されていることは限定的データによって示唆される。BNBD−12およびDEFB2によってコードされるタンパク質が例示するように、構造の中核は3本鎖逆平行βシートである。3本のβ鎖がβターンとαヘアピンループによって連結され、かつ2本目のβ鎖はβバルジも含む。これらの構造がその固有の三次構造に折りたたまれるとき、一見ランダムであった陽イオンおよび疎水性残基の配列が球状タンパク質の2つの面に集中する。一方の面は親水性でありかつ正電荷側鎖の多くを含み、もう一方は疎水性である。溶液中では、DEFB2遺伝子によってコードされるHBD−2タンパク質は、過去にα−ディフェンシンの溶液構造またはβディフェンシンBNDBD−12に帰せられていなかったN末端近傍のαヘリックスセグメントを示した。その側鎖がタンパク質の表面を向いたアミノ酸はβディフェンシンタンパク質間で保持されることがより少ない一方で、コアβシートの3本のβ鎖のアミノ酸残基はより高度に維持されている。
【0050】
βディフェンシンペプチドはプレプロペプチドとして産生された後、開裂してC末端活性ペプチドフラグメントを遊離するが;気道上皮のヒトβディフェンシンペプチドの細胞内プロセシング、貯蔵および遊離経路は未知である。
【0051】
(PAX2対DEFB1発現比率の測定)
組織におけるPAX2対DEFB1発現レベルは、技術上公知であるあらゆる方法によって測定することができる。一定の実施形態においては、標的組織におけるPAX2およびDEFB1発現のレベルは、生検サンプルといった標的組織から直接採取された1個または複数の細胞におけるPAX2およびDEFB1のレベルを測定することによって測定される。他の実施形態においては、標的組織におけるPAX2およびDEFB1発現のレベルは、血液または血漿といった一定の体液におけるPAX2およびDEFB1のレベルを測定することによって間接的に測定される。
【0052】
一定の実施形態においては、対象の前立腺または乳房におけるPAX2およびDEFB1発現のレベルは、前立腺または乳房からの細胞サンプルを用いて測定することができる。細胞サンプルは前立腺または乳房の生検サンプルおよび血液サンプルを含む。生検とは、標的器官より小さな組織サンプルを切除してさらに分析する手技である。前立腺生検は、典型的にはPSA血液検査からのスコアが前立腺癌が存在する可能性と関係するレベルまで上昇したときに実施する。同様に、乳房生検は、典型的には乳房の塊または疑わしいマンモグラムを有する患者において実施する。
【0053】
遺伝子発現のレベルはRNAおよびタンパク質レベルで評価することができる。RNAレベルは、たとえばDNAアレイ、RT−PCRおよびノーザンブロッティングで測定してもよい。タンパク質レベルはイムノアッセイおよび酵素分析で測定してもよい。一定の実施形態においては、PAX2対DEFB1発現比率は、対照遺伝子の発現レベルに対するPAX2遺伝子の発現レベルを測定し、同一の対照遺伝子の発現レベルに対するDEFB1遺伝子の発現レベルを測定し、かつPAX2およびDEFB1の発現レベルに基づいてPAX2対DEFB1発現比率を算出することによって測定される。1つの実施形態においては、対照遺伝子はグリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)遺伝子である。
【0054】
(オリゴヌクレオチドマイクロアレイ)
オリゴヌクレオチドマイクロアレイは、フィーチャーと呼ばれる、それぞれが少量(典型的にはピコモルの範囲)の特異的オリゴヌクレオチド配列を含む、整列した一連の複数のオリゴヌクレオチドの顕微鏡的スポットよりなる。特異的オリゴヌクレオチド配列は、厳密度の高い条件下でcDNAまたはcRNAサンプルをハイブリダイズするためのプローブとして用いられる短い遺伝子の切片または他のオリゴヌクレオチドエレメントとすることができる。通常、プローブ標的ハイブリダイゼーションは、標的における核酸配列の相対的な存在度を測定することを目的とした蛍光体標識した標的の蛍光ベース検出によって検出および定量される。
【0055】
プローブは、典型的には(エポキシ−シラン、アミノ−シラン、リジン、ポリアクリルアミドなどを介した)化学的マトリクスとの共有結合により固形物表面に結合する。固形物表面はガラスまたはシリコンチップまたは顕微鏡的ビーズとすることができる。オリゴヌクレオチドアレイは、ヌクレオチドを測定するのか、それともその検出系の一部としてオリゴヌクレオチドを用いるかという点でのみ、他の種類のマイクロアレイと異なる。
【0056】
オリゴヌクレオチドアレイを用いて標的組織または細胞における遺伝子発現を検出するために、目的の核酸を標的組織または細胞より精製する。ヌクレオチドは、発現プロファイリングを目的とした全RNA、比較ハイブリダイゼーションを目的としたDNAまたは後成的または調節研究を目的として免疫沈降させた(ChIPオンチップ)特定のタンパク質と結合したDNA/RNAである。
【0057】
1つの実施形態においては、全RNAはチオシアン酸グアニジウム−フェノール−クロロホルム抽出(例:トリゾール)によって分離される(核または細胞質そのままの全体)。精製されたRNAは品質(例:キャピラリー電気泳動により)および量(例:ナノドロップ分光器を用いてについて分析してもよい。全RNAとは、ポリTプライマーまたはランダムプライマーによりDNAに逆転写されるRNAである。PCRによってDNA産物を任意に増幅してもよい。RT手順において、または増幅後の追加的な手順がある場合はその手順において、増幅産物に標識を付加する。標識は蛍光標識または放射標識とすることができる。次に、標識DNA産物をマイクロアレイにハイブリダイズする。次にマイクロアレイを洗い、さらにスキャンする。目的の遺伝子の発現レベルは、技術上周知の方法を用いたハイブリダイゼーションの結果に基づいて測定される。
【0058】
(イムノアッセイ)
イムノアッセイは、その最も単純かつ直接的意味においては、抗体と抗原の間の結合を包含する結合分析である。多くのイムノアッセイの種類およびフォーマットが公知であり、いずれも開示されるバイオマーカーを検出するのに適している。イムノアッセイの例は酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、放射免疫沈降アッセイ(RIPA)、イムノビーズキャプチャーアッセイ、ウェスタンブロッティング、ドットブロッティング、ゲルシフトアッセイ、フローサイトメトリー、タンパク質アレイ、多重ビーズアレイ、磁気キャプチャー、インビボイメージング、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、およびフォトブリーチング後の蛍光回復/局在測定(FRAP/FLAP)である。
【0059】
一般的に、イムノアッセイは、免疫複合体の形成を可能とするのに有効な条件において、場合に応じ、(本明細書に開示されるバイオマーカーなどの)該当分子を含むと疑われるサンプルを該当分子に対する抗体と接触させること、または(本明細書に開示されるバイオマーカーに対する抗体などの)該当分子に対する抗体を当該抗体と結合することのできる分子と接触させることを包含する。多くの形態のイムノアッセイにおいて、その後に組織切片、ELISAプレート、ドットブロットまたはウェスタンブロットといったサンプル−抗体組成物を洗い、あらゆる非特異的結合抗体種を除去し、一次免疫複合体内で特異的に結合する抗体のみを検出することを可能とする。
【0060】
放射免疫沈降アッセイ(RIPA)は、放射標識した抗原を用いて血清中の特異抗体を検出する高感度測定法である。抗原を血清と反応させた後、たとえばプロテインAセファロースビーズなどの特殊な試薬を用いて沈降させる。結合した放射標識免疫沈降物は、その後一般的にはゲル電気泳動により測定する。放射免疫沈降アッセイ(RIPA)は、HIV抗体の存在を診断するための確認検査としてしばしば用いられる。RIPAは、当分野ではファールアッセイ、プレシピチンアッセイ、放射免疫プレシピチンアッセイ、放射免疫沈降分析、放射免疫沈降分析、および放射免疫沈降分析などとも呼ばれる。
【0061】
固形支持体(例:試験管、ウェル、ビーズ、またはセル)上のタンパク質またはタンパク質に対して特異的な抗体を検出する方法と組み合わせた、タンパク質またはタンパク質に対して特異的な抗体が支持体と結合してそれぞれ該当抗体またはタンパク質をサンプルから捕捉することを特徴とするイムノアッセイも考慮される。そのようなイムノアッセイの例はラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、フローサイトメトリー、タンパク質アレイ、多重ビーズ分析法、および磁気キャプチャーを含む。
【0062】
タンパク質アレイは、ガラス、膜、マイクロタイターウェル、質量分析計プレート、およびビーズまたは他の粒子を含む表面に固定したタンパク質を用いる固相リガンド結合アッセイである。アッセイは並列性が高く(多重)かつしばしば極小化される(マイクロアレイ、タンパク質チップ)。その利点は迅速かつ自動化可能である、高感度とすることができる、試薬に関して経済的、かつ1回の実験で豊富なデータが得られることなどを含む。バイオインフォルマティクス支援は重要であり;データハンドリングには高度なソフトウェアおよびデータ比較分析を要求される。しかし、多くのハードウェアおよび検出システムがそうであるように、ソフトウェアはDNAアレイに対して用いられるものから適合化することができる。
【0063】
キャプチャーアレイは診断チップおよび発現プロファイリング用アレイの基盤を形成する。従来の抗体、シングルドメイン、人工スカフォールド、ペプチドまたは核酸アプタマーなどの高親和性キャプチャー試薬を用いて、高スループットで特定の標的リガンドと結合およびこれを検出する。抗体アレイは市販されている。従来の抗体に加えて、FabおよびscFvフラグメント、ラクダまたは組換えヒト同等物由来のシングルVドメイン(ドマンティス、マサチューセッツ州ウォルサム)も、アレイにおいて有用となりうる。
【0064】
非タンパク質捕捉分子、特に高い特異性および親和性でタンパク質リガンドと結合する1本鎖核酸アプタマー(ソマロジック、コロラド州ボールダー)もアレイにおいて用いられる。アプタマーは、セレックス(商標)法によってオリゴヌクレオチドのライブラリから選択し、またそのタンパク質との相互作用は、ブロモデオキシウリジン取り込みおよびUV活性化架橋による共有結合によって強化することができる(フォトアプタマー)。リガンドとの光架橋によって、特異的立体要件によるアプタマーの交差反応性が低下する。アプタマーは、自動化オリゴヌクレオチド合成による精製の容易さおよびDNAの安定性および堅牢性という利点を有し;フォトアプタマーアレイ上では、汎用的蛍光タンパク質染色を用いることができる。
【0065】
キャプチャー分子のアレイの代替物は、ペプチド(例:タンパク質のC末端領域由来)を、重合可能なマトリクス内に構造的に相補的な配列特異的空隙を作製するための鋳型として用いる「分子インプリンティング」技術によって形成されるものであり;空隙はその後適切な一次アミノ酸配列を有する(変性)タンパク質を特異的に捕捉することができる(ProteinPrint(商標)、Aspira Biosystems、カリフォルニア州バーリンゲーム)。
【0066】
診断的にかつ発現プロファイリングにおいて用いることができる他の方法論は、固相クロマトグラフィー表面が血漿または腫瘍抽出物などの混合物に由来する同様の電荷または疎水性特性を有するタンパク質と結合し、さらにSELDI−TOF質量分析を用いて保持されたタンパク質を検出するProteinChip(登録商標)アレイ(Ciphergen、カリフォルニア州フリーモント)である。
【0067】
他の有用な方法論は、チップ上に多数の精製タンパク質を固定することによって構築される大スケール機能性チップ、および多重ビーズアッセイを含む。
【0068】
(抗体)
本明細書においては、用語「抗体」は広義に用いられかつポリクローナルおよびモノクローナル抗体を共に含む。無傷の免疫グロブリン分子に加えて、たとえばPAX2がDEFB1と相互作用することを妨げるよう、PAX2またはDEFB1と相互作用する能力について選択されている限り、それらの免疫グロブリン分子のフラグメントまたはポリマー、および免疫グロブリン分子のヒトまたはヒト化バージョンまたはそのフラグメントも用語「抗体」に含まれる。PAX2とDEFB1との相互作用に関与するPAX2またはDEFB1の開示領域と結合する抗体も開示される。抗体は、本明細書に記載のインビトロアッセイまたは類似の方法を用いて、その所望の活性について試験することができ、その後に公知の臨床的検査法に従ってインビボ治療および/または予防活性を試験する。
【0069】
本明細書のモノクローナル抗体は、所望の拮抗活性を示す限り、重鎖および/または軽鎖の一部が特定の種に由来するかまたは特定の抗体クラスまたはサブクラスに属する抗体の対応配列と同一または相同である一方で、残余の鎖が他の種に由来するかまたは他の抗体クラスまたはサブクラスに属する抗体の対応配列と同一または相同である「キメラ抗体」、さらにはこうした抗体のフラグメントを具体的に含む(米国特許第4,816,567号およびMorrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6851 6855(1984)を参照)。
【0070】
本明細書で用いるところの用語「抗体」または「複数の抗体」は、ヒト抗体および/またはヒト化抗体も指すことがある。多くの非ヒト抗体(例:マウス、ラットまたはウサギに由来するものなど)は天然ではヒトに対して抗原性であるので、ヒトに投与するとき望ましくない免疫応答を引き起こすことがある。したがって、方法においてヒトまたはヒト化抗体を使用することは、ヒトに投与された抗体が望ましくない免疫応答を惹起する確率を低下させるのに役立つ。非ヒト抗体をヒト化する方法は技術上周知である。
【0071】
(ゲノム薬理)
他の実施形態においては、乳癌のゲノム薬理を測定するためにPAX2および/またはDEFB1発現プロフィールが用いられる。ゲノム薬理は、個体の遺伝子型とその個体の外来化合物または薬剤に対する応答の関係を指す。薬理活性薬剤の用量と血中濃度の関係を変化させることによって、治療薬の代謝の差が重度の毒性または治療の失敗につながることがある。したがって、医師または臨床家は、抗癌薬を投与するか否か決定する際、さらには抗癌薬による治療の用量および/または治療レジメンを調節する際に、関連するゲノム薬理研究において得られた知見を適用することを考慮してもよい。
【0072】
ゲノム薬理は、患者における薬剤の処理および異常な作用が原因となる、薬剤に対する応答における臨床的に重大な遺伝的変異を扱う。一般的には、2種類のゲノム薬理的条件を識別することができる。薬剤が身体に作用する様式を変化させる単一の因子(薬剤作用の変化)として伝達される遺伝的条件または身体が薬剤に作用する様式を変化させる単一の因子(薬剤代謝の変化)として伝達される遺伝的条件。これらの遺伝薬理学的条件はまれな遺伝的欠損として、または天然に発生する遺伝多型として起こることがある。たとえば、グルコース6−リン酸デヒドロゲナーゼ欠損(G6FD)は、主な臨床的合併症が酸化薬剤(抗マラリア薬、スルホンアミド、鎮痛薬、ニトロフラン)摂取およびソラ豆の摂取後の溶血である一般的な遺伝性酵素病である。
【0073】
「ゲノムワイド関連」として知られる薬剤応答を予測する遺伝子を同定するための1つのゲノム薬理学的手法は、既知の遺伝子間連部位(例:それぞれが2つの変異型を有するヒトゲノム上の60,000〜100,000個の多型または可変部位からなる「両アレル」遺伝子マーカーマップなど)からなるヒトゲノムの高分解度マップに主として依拠している。そのような高分解度遺伝子マップは、第II/III相医薬品治験に参加する統計的に相当な数の被験者のそれぞれのゲノムのマップと比較し、具体的に観察される薬剤応答または副作用と関連する遺伝子を同定することができる。代替的に、ヒトゲノムにおける数千万個の公知の一塩基多型(SNP)の組合せからそのような高分解度マップを作製することができる。本明細書で用いるところの「SNP」は、DNAの全長内の単一のヌクレオチド塩基において発生する普通の変化である。たとえば、SNPはDNAの1,000塩基につき1回発生しうる。SNPは疾患の過程に関与することもある。しかし、大多数のSNPは疾患と関連しないと思われる。このようなSNPの発生に基づく遺伝子マップがある場合、個体はその個体ゲノムにおける特定のSNPパターンに応じて遺伝的カテゴリーに分類することができる。このようにして、遺伝的に類似した個体間に共通した特性を考慮に入れ、このような遺伝的に類似した個体集団に対して治療レジメンを適合化することができる。したがって、PAX2および/またはDEFB1を乳房患者のSNPマップに位置づけることにより、本明細書に記載の遺伝学的方法に従ってこれらの遺伝子をより容易に同定することが可能となりうる。
【0074】
代替的に、薬剤応答を予想する遺伝子を特定するために「候補遺伝子アプローチ」と呼ばれる方法を用いることができる。この方法によれば、薬剤の標的をコードする遺伝子が判明している場合、集団においてその遺伝子の全ての一般変異体を比較的容易に同定することができ、かつ他のバージョンの遺伝子に対してあるバージョンを有することが特定の薬剤応答に関連しているか決定することができる。
【0075】
1つの例示的実施形態として、薬剤代謝酵素の活性は薬剤作用の強度および持続時間の両者の主要な決定因子である。薬物代謝酵素(例:N−アセチルトランスフェラーゼ2(NAT2)およびチトクロームP450酵素CYP2D6およCYPZC19)の遺伝子多型の発見は、ある薬剤の標準的かつ安全な用量の摂取後に一部の対象が予測された薬剤効果を得ることができないか、または過大な薬剤応答および重篤な毒性を示す理由についての説明を提供している。これらの多型は、母集団において2つの表現型、高代謝群および低代謝群として表される。低代謝表現型の有病率は母集団によって異なる。たとえば、CYP2D6をコードする遺伝子は多型性が高く、かつ低代謝群において数種類の変異型が特定され、そのいずれもが機能的CYP2D6の欠損につながっている。CYP2D6およびCYP2C19の低代謝群は、標準用量を投与されるときに非常に高い頻度で過大な薬剤応答および副作用を経験する。CYP2D6が形成する代謝物モルヒネを介したコデインの鎮痛効果で示されているように、代謝物が活性治療成分である場合、低代謝群は治療応答を示さない。もう一方の極は標準用量に応答しない、いわゆる超高速代謝群である。最近、超高速代謝の分子的根拠はCYP2D6遺伝子増幅によることが確認されている。
【0076】
代替的に、「遺伝子発現プロファイリング」と呼ばれる方法を用いて薬剤応答を予想する遺伝子を特定することができる。たとえば、薬剤を投与された動物の遺伝子発現は毒性と関連する遺伝子系路が活性化したか否かの目安とすることができる。
【0077】
上記のゲノム薬理学的手法のうち2つ以上から得られた情報を用いて、個体の予防的または治療的処置のための適切な用量および治療レジメンを決定することができる。この知見を投与または薬剤の選択に適用するとき、副作用または治療の失敗を回避することができるため、乳房疾患を有する患者を治療する際に治療的または予防的有効性を向上させることができる。
【0078】
1つの実施形態においては、ある対象におけるPAX2および/またはDEFB1の発現プロフィール、さらにはER/PR状態を用いて、乳房疾患を有する個体に対する適切な治療レジメンを決定する。
【0079】
他の実施形態においては、トリプルネガティブ乳癌(すなわちエストロゲン受容体(ER)陰性、プロゲステロン受容体(PR)陰性、ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)陰性)の患者に対してPAX2発現レベル(典型的にはアクチン遺伝子またはGAPDH遺伝子のような対照遺伝子に対して測定)を用い、癌治療の有効性を測定するか、治療コースを決定するか、または癌の再発をモニタリングする。
【0080】
(診断キット)
本発明の他の態様は、乳房状態をモニタリングするためのキットに関する。1つの実施形態においては、乳房状態をモニタリングするためのキットは:組織サンプルにおけるPAX2発現を検出するための1つまたはそれ以上のオリゴヌクレオチドプライマー対、組織サンプルにおけるDEFB1発現を検出するための1つまたはそれ以上のオリゴヌクレオチドプライマー対、およびプライマーを用いて組織サンプル中のPAX2対DEFB1発現比率を測定する方法についての説明書を含む。他の実施形態においては、配列番号:43および47、配列番号:44および48、および配列番号:45および49からなる群より選択される1つのオリゴヌクレオチドプライマー対を含むPAX2発現を検出するための1つまたはそれ以上のオリゴヌクレオチドプライマー対。他の実施形態においては、配列番号:35および37を含むDEFB1発現を検出するための1つまたはそれ以上のオリゴヌクレオチドプライマー対。
【0081】
他の実施形態においては、キットはさらに1つまたはそれ以上の対照オリゴヌクレオチドプライマー対を含む。1つの実施形態においては、1つまたはそれ以上の対照オリゴヌクレオチドプライマー対は、βアクチン発現の発現を検出するためのオリゴヌクレオチドプライマーを含む。好ましい実施形態においては、βアクチン発現の発現を検出するためのオリゴヌクレオチドプライマーは配列番号34および36を含む。
【0082】
他の実施形態においては、1つまたはそれ以上の対照オリゴヌクレオチドプライマー対はGAPDH発現の発現を検出するためのオリゴヌクレオチドプライマーを含む。好ましい実施形態においては、GAPDH発現の発現を検出するためのオリゴヌクレオチドプライマーは配列番号42および46を含む。
【0083】
他の関連する実施形態においては、キットはさらに1つまたはそれ以上のPCR反応用試薬を含む。
【0084】
さらに他の実施形態においては、キットはさらに1つまたはそれ以上のRNA抽出用試薬を含む。
【0085】
他の実施形態においては、乳房状態をモニタリングするためのキットはPAX2およびDEFB1発現を検出するためのオリゴヌクレオチドプローブを有するオリゴヌクレオチドマイクロアレイ、およびオリゴヌクレオチドマイクロアレイを用いて組織サンプル中のPAX2対DEFB1発現比率を測定する方法についての説明書を含む。
【0086】
関連する実施形態においては、キットは組織サンプルよりRNAを抽出するための試薬をさらに含む。
【0087】
本発明は、制限的と解釈すべきでない以下の実施例によってさらに例示される。本明細書全体において引用された全ての参照文献、特許および公開特許明細書、さらには図面および表はその全体を本明細書に参照文献として援用する。
【実施例1】
【0088】
(ヒトβディフェンシン−1は後期ステージ前立腺癌に対して細胞毒性でありかつ前立腺癌腫瘍免疫において役割を果たす)
この実施例においては、DEFB1を誘導可能な発現系にクローニングし、正常な上皮細胞、およびアンドロゲン受容体陽性(AR+)およびアンドロゲン受容体陰性(AR−)前立腺癌細胞株に対してどのような効果を有するか検討した。DEFB1発現の誘導により、AR−細胞DU145およびPC3の細胞増殖は低下したが、AR+前立腺癌細胞LNCaPの増殖には影響しなかった。DEFB1はカスパーゼ介在性アポトーシスの迅速な誘発も引き起こした。本実施例に示したデータは、生得的腫瘍免疫におけるその役割のエビデンスを提供し、かつその低下が前立腺癌における腫瘍進行に寄与することを示す初めてのものである。
【0089】
(材料と方法)
細胞株:細胞株DU145はDMEM培地で培養し、PC3はF12培地で増殖させ、さらにLNCaPはRPMI培地で増殖させた(Life Technologies,Inc.、ニューヨーク州グランドアイランド)。3つの細胞株全ての増殖培地に10%(v/v)胎仔ウシ血清(Life Technologies)を添加した。hPrEC細胞を前立腺上皮基礎培地(Cambrex Bio Science,Inc.、メリーランド州ウォーカーズビル)中で培養した。全ての細胞株は37℃で5%CO2下に維持した。
【0090】
組織サンプルおよびレーザーキャプチャーマイクロダイセクション:施設内倫理委員会が承認したプロトコルに従い、Hollings癌センター腫瘍バンクを通じ、根治的前立腺切除術を受けた同意患者から採取した前立腺組織を入手した。これにはサンプルの処理、切片化、組織学的キャラクタライゼーション、RNA精製およびPCR増殖のガイドラインが含まれた。凍結組織切片の病理学的検査の後、アッセイする組織サンプルが純粋な良性前立腺細胞集団よりなることを確認するために、レーザーキャプチャーマイクロダイセクション(LCM)を実施した。分析した各組織切片について、良性組織を含めた3つの異なる領域でLCMを実施し、その後さらに採取した細胞をプールした。
【0091】
DEFB1遺伝子のクローニング:逆転写PCRを用いて、RNAからDEFB1 cDNAを作製した。PCRプライマーはClaIおよびKpnI制限部位を含むよう設計された。DEFB1 PCR産物をClaIおよびKpnIによって制限消化し、さらにTAクローニングベクターにライゲーションした。次に、TA/DEFB1ベクターを熱ショックによりE.coliにトランスフェクトし、さらに個々のクローンを選択して拡張した。Cell Culture DNA Midiprep(QIAGEN、カリフォルニア州バレンシア)でプラスミドを分離し、さらに自動シーケンシングで配列の完全性を検証した。次に、方向決定用の中間ベクターとして役立つClaIおよびKpnIで消化したpTRE2に、DEFB1遺伝子フラグメントをライゲーションした。次に、pTRE2/DEFB1構築物をApaIおよびKpnIで消化してDEFB1インサートを切り出し、これを同じくApaIおよびKpnIで二重消化したEcdysone Inducible Expression System(Invitrogen、カリフォルニア州カールズバッド)のpINDベクターにライゲーションした。構築物を再度E.coliにトランスフェクトし、さらに個々のクローンを選択して拡張した。プラスミドを分離し、さらに自動シーケンシングによりpIND/DEFB1の配列完全性を再検証した。
【0092】
トランスフェクション:100mmペトリ皿に細胞(1×106個)を播種し、1晩増殖させた。次に、Lipofectamine 2000(Invitrogen、カリフォルニア州カールズバッド)を用いて、ヘテロ二量体エクジソン受容体を発現するpVgRXRプラスミド1μgおよびpIND/DEFB1ベクター構築物または空のpIND対照ベクター1μgと共にオプティMEM培地(Life Technologies Inc.、ニューヨーク州グランドアイランド)中で細胞に同時トランスフェクトした。
【0093】
RNAの分離および定量的RT−PCR:DEFB1構築物をトランスフェクトした細胞におけるDEFB1タンパク質発現を検証するために、ポナステロンA(PonA)による24時間誘導後にRNAを採取した。簡潔に述べると、SV Total RNA Isolation System(Promega、ウィスコンシン州マジソン)を用いて、トリプシン処理により回収した約1×106個の細胞より全RNAを分離した。この場合、細胞を溶解させ、さらにスピンカラムで遠心分離することにより全RNAを分離した。LCMによって採取した細胞については、メーカーのプロトコルに従いPicoPure RNA Isolation Kit(Arcturus Biosciences、カリフォルニア州マウンテンビュー)を用いて全RNAを分離した。ランダムプライマー(Promega)を用いて、両採取源からの全RNA(各反応につき0.5μg)をcDNAに逆転写した。メーカーのプロトコルに従い、第1鎖の合成にはAMV逆転写酵素II酵素(各反応につき500単位;Promega)を、第2鎖の合成にはTfl DNAポリメラーゼ(各反応につき500単位;Promega)を用いた。それぞれの場合、各後続PCRにつきcDNAを50pg用いた。TaqMan Reverse Transcription SystemのMultiScribe Reverse TranscripataseおよびSYBR(登録商標)Green PCR Master Mix(Applied Biosystems)を用いて、作製したcDNAに対して2段階QRT−PCRを実施した。
【0094】
公開DEFB1配列(GenBankアクセション番号U50930)からDEFB1のプライマー対(表2:QRT−PCRプライマーの配列)を作製した。アニーリング温度56℃を用いて、標準的な条件下でPCRを40サイクル実施した。さらに、ハウスキーピング遺伝子としてβアクチン(表3)を増幅し、全cDNAの初期含有量を正規化した。DEFB1発現をDEFB1とβアクチンの相対発現比率として算出し、さらにDEFB1発現誘導細胞株と非誘導株、さらにはLCM良性前立腺組織と比較した。陰性対象として、cDNA鋳型を用いないQRT−PCR反応も実施した。全ての反応は3本ずつ3回実施した。
【0095】
【表2】
【0096】
MTT細胞生存率アッセイ:細胞の増殖に対するDEFB1の影響を検討するために、代謝3−[4,5−ジメチルチアゾール−2イル]−2,5ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)アッセイを実施した。pVgRXRプラスミドおよびpIND/DEFB1構築物または空のpINDベクターを同時トランスフェクトしたPC3、DU145およびLNCaPを、96ウェルプレート上に1〜5×103細胞/ウェルで播種した。播種より24時間後、10μMポナステロンAを含有する新鮮な増殖培地を毎日添加してDEFB1発現を24、48および72時間誘導した後、メーカーの取扱説明書(Promega)に従ってMTT分析を実施した。反応は3本ずつ3回実施した。
【0097】
フローサイトメトリー:DEFB1発現系を同時トランスフェクトしたPC3およびDU145細胞を60mmの皿で培養し、10μMポナステロンAにより12、24および48時間誘導した。各インキュベーション時間後、(非付着細胞があれば保持するために)プレートから培地を採取し、プレートを洗うのに用いたPBSと合わせた。残りの付着細胞をトリプシン処理により回収し、さらに非付着細胞およびPBSと合わせた。次に細胞を4℃で5分間ペレット化し(500×g)、PBSで2回洗い、アネキシンV−FITC 5μLおよびPI 5μLを含む1×アネキシン結合バッファー(pH7.4の0.1M Hepes/NaOH、1.4M NaCl、25mM CaCl2)100uLに再懸濁した。細胞を室温で遮光して15分間インキュベートし、その後1×アネキシン結合バッファー400μLで希釈し、FACスキャン(Becton Dickinson、カリフォルニア州サンホセ)で分析した。全ての反応は3回実施した。
【0098】
顕微鏡分析:位相差顕微鏡により細胞の形態を分析した。ベクターを含まないか、空のプラスミドまたはDEFB1プラスミドを含有するDU145、PC3およびLNCaP細胞を6ウェル培養プレートに播種した(BD FALCON、米国)。翌日、10μMポナステロンAを含有する培地でプラスミド含有細胞を48時間誘導する一方で、対照細胞には新鮮な培地を与えた。次に、細胞を倒立型Zeiss IM 35顕微鏡(Carl Zeiss、ドイツ)の下で観察した。SPOT Insight Mosaic 4.2カメラ(Diagnostic Instruments、米国)を用いて、細胞の1視野の位相差写真を撮影した。倍率32倍の位相差顕微鏡で細胞を検査し、デジタル画像を無圧縮TIFFファイルとし保存し、さらに画像処理およびハードコピーの提示のためにPhotoshop CSソフトウェア(Adobe Systems、カリフォルニア州サンホセ)にエクスポートした。
【0099】
カスパーゼの検出:APO LOGIX(商標)Carboxyfluorescin Caspase検出キット(Cell Technology、カリフォルニア州マウンテンビュー)を用いて、前立腺癌細胞株におけるカスパーゼ活性の検出を実施した。活性カスパーゼは、活性カスパーゼと不可逆的に結合するFAM−VAD−FMK阻害剤の使用によって検出した。簡便に述べると、DEFB1発現系を含有するDU145およびPC3細胞(1.5〜3×105)を35mmガラス底マクロウェル皿(Matek、マサチューセッツ州アッシュランド)に撒き、培地のみまたは前述したところのPonA含有培地で24時間処理した。次に、カルボキシフルオレセイン標識ペプチドフルオロメチルケトン(FAM−VAD−FMK)の30×作業希釈液10μLを培地300μLに添加し、35mm皿にそれぞれ加えた。次に、細胞を5%CO2下において37℃で1時間インキュベートした。次に、培地を吸引し、1×作業用洗浄バッファー希釈液2mLで細胞を2回洗った。細胞を、微分干渉コントラスト(DIC)または488nmのレーザー励起の下で観察した。共焦点顕微鏡(Zeiss LSM 5 Pascal)および63×DIC油浸レンズをVario 2RGB Laser Scanning Moduleで用いて蛍光信号を分析した。
【0100】
統計解析:統計的な差は、対応のない数値に対するスチューデントのt検定を用いて評価した。両側計算によりp値を決定し、p値が0.05未満であれば統計的に有意であると見なした。
【0101】
前立腺組織および細胞株におけるDEFB1発現:良性および悪性前立腺組織、hPrEC前立腺上皮細胞ならびにDU145、PC3およびLNCaP前立腺癌細胞におけるDEFB1発現レベルをQRT−PCRにより測定した。全ての良性臨床サンプルにおいてDEFB1発現が検出された。相対DEFB1発現の平均量は0.0073であった。さらに、hPrEC細胞におけるDEFB1相対発現は0.0089であった。良性前立腺組織サンプルとhPrECにおいて検出されたDEFB1発現には統計的な差がなかった(図1A)。前立腺癌細胞株における相対DEFB1発現レベルの分析により、DU145、PC3およびLNCaPにおけるレベルが有意に低いことが明らかとなった。さらなる基準点として、患者番号1215からの前立腺組織の隣接悪性切片における相対DEFB1発現を測定した。3つの前立腺癌細胞株に認められたDEFB1発現のレベルは、患者番号1215からの悪性前立腺組織と比較して有意差がなかった(図1B)。さらに、4サンプル全てにおける発現レベルは、内因性DEFB1発現がほとんど確認されない鋳型を含まない陰性対象に近かった(データは示さず)。DEFB1発現系をトランスフェクトした前立腺癌細胞株に対してもQRT−PCRを実施した。24時間の誘導時間後の相対発現レベルはDU145で0.01360、PC3で0.01503、かつLNCaPで0.138であった。ゲル電気泳動により増幅産物を検証した。
【0102】
良性、PINおよび癌を含むLCM組織領域に対してQRT−PCRを実施した。DEFB1の相対発現は良性領域で0.0146であるのに対し、悪性領域では0.0009であった(図1C)。これは94%の減少に相当し、有意な発現のダウンレギュレーションを再度証明する。さらに、PINの分析によりDEFB1発現レベルは70%の減少である0.044と判明した。患者番号1457における発現を、他の6例の患者の良性領域で認められた平均発現レベルと比較すると(図1A)、ほぼ2倍の発現に相当する比率1.997が明らかとなった(図1D)。しかし、良性組織における平均発現レベルと比較した発現比率はPINにおいて0.0595であり悪性組織において0.125であった。
【0103】
DEFB1は細胞膜透過性およびラフリングを引き起こす:前立腺癌細胞株におけるDEFB1発現を誘導したところDU145およびPC3の細胞数は低下したが、LNCaPの増殖には影響しなかった(図2)。陰性対照として、空のプラスミドを含有する全3種類の細胞株において増殖をモニタリングした。PonA添加後のDU145、PC3またはLnCaP細胞における細胞の形態には、観測可能な変化はなかった。さらに、DEFB1誘導の結果としてDu145およびPC3のいずれにも形態学的変化が発生した。この場合、細胞の外観はより円形でありかつ細胞死を示す膜ラフリングを呈した。両細胞株にはアポトーシス小体も存在していた。
【0104】
DEFB1発現により細胞生存率が低下する:MTTアッセイにより、PC3およびDU145細胞においてDEFB1による細胞生存率の低下が示されたが、LNCaP細胞に対する有意な影響は示されなかった(図3)。24時間後の相対的細胞生存率はDU145で72%およびPC3で56%であった。誘導から48時間後の分析ではDU145の細胞生存率が49%でありかつPC3における細胞生存率が37%であることが判明した。DEFB1発現から72時間後には、DU145およびPC3細胞における相対細胞生存率はそれぞれ44%および29%となった。
【0105】
DEFB1は後期前立腺癌細胞において迅速なカスパーゼ介在性アポトーシスを引き起こす:PC3およびDU145に対するDEFB1の作用が細胞分裂抑制性であるかあるいは細胞毒性であるか測定するためにFACS分析を実施した。通常の増殖条件下において、PC3およびDU145培養の90%以上が生存しておりかつ非アポトーシス(左下象限)でありかつアネキシンVまたはPIで染色されなかった(図4)。PC3細胞におけるDEFB1発現誘導後のアポトーシス細胞数(右下および右上象限)は12時間で合計10%、24時間で20%、かつ48時間で44%であった。DU145細胞については、アポトーシス細胞は誘導より12時間で合計12%、24時間で34%、かつ48時間で59%であった。PonAによる誘導後に空のプラスミドを含有する細胞においてアポトーシスの増加は認められなかった(データは示さず)。
【0106】
カスパーゼ活性は共焦点レーザー顕微鏡分析によって測定した(図5)。DU145およびPC3細胞のDEEFB1発現を誘導し、活発なアポトーシスを被る細胞における緑色蛍光FAM−VAD−FMKのカスパーゼとの結合に基づいて活性をモニタリングした。DIC下での細胞の分析により、0時間において生存可能な対照DU145(A)、PC3(E)およびLNCaP(I)細胞の存在が示された。488nmの共焦点レーザーによって励起すると、検出可能な緑色染色は生成されず、DU145(B)、PC3(F)またはLNCaP(J)にカスパーゼ活性がないことが示された。24時間の誘導後、DU145(C)、PC3(G)およびLNCaP(K)細胞はDIC下で再度可視となった。蛍光下の共焦点分析により、DU145(D)およびPC3(H)細胞においてカスパーゼ活性を示す緑色染色が判明した。しかし、LNCaP(L)においては緑色染色がなく、DEFB1によるアポトーシスの誘導がないことが示された。
【0107】
結論として、この研究により前立腺癌におけるDEFB1の機能的役割が提供される。さらに、これらの所見よりDEFB1が腫瘍免疫に関与する生得免疫系の一部であることが示される。本明細書に提示するデータは、生理的レベルで発現されるDEFB1はAR−ホルモン不応性前立腺癌細胞に対して細胞毒性であるが、AR+ホルモン感受性前立腺癌細胞または正常前立腺上皮細胞に対してはそうでないことを証明する。DEFB1が正常前立腺細胞において細胞毒性を伴わずに構造的に発現されることを考慮すると、末期AR−前立腺癌細胞は自らをDEFB1細胞毒性に対して感受性とするような異なる表現型特性を有するかもしれない。したがって、DEFB1は後期前立腺癌の治療に対して有効な治療薬であり、また他の癌に対しても同様である可能性がある。
【実施例2】
【0108】
(PAX2発現のsiRNA介在性ノックダウンによりp53状態に依存しない前立腺癌細胞死が起こる)
本実施例は、p53遺伝子の状態が異なる前立腺癌細胞におけるRNA干渉によるPAX2発現阻害の効果を検討する。結果より、PAX2阻害によってp53状態とは無関係に細胞死がもたらされることが証明され、前立腺癌においてはPAX2によって阻害される追加的な腫瘍抑制遺伝子または細胞死経路が存在することが示される。
【0109】
(材料と方法)
PAX2のsiRNAサイレンシング:効率的な遺伝子サイレンシングを達成するために、ヒトPAX2 mRNA(アクセション番号NM_003989.1)を標的とした4つの相補的短鎖干渉性リボヌクレオチド(siRNA)のプールを合成した(Dharmacon Research、米国コロラド州ラファイエット)。4つのsiRNAの第2プールを内部標準として用い、PAX2 siRNAの特異性を試験した。合成した配列のうち2つはGL2ルシフェラーゼmRNA(アクセション番号X65324)を標的とし、2つは非配列特異的であった(表3:PAX2 siRNA配列.PAX2タンパク質発現を阻害するために4つのsiRNAプールを用いた)。siRNAをアニーリングするために、35Mの1本鎖をアニーリングバッファー(100mM酢酸カリウム、30mM HEPES−KOH pH7.4、2mM酢酸マグネシウム)において90℃で1分間インキュベートした後、37℃で1時間インキュベートした。
【0110】
【表3】
【0111】
ウェスタン分析:簡潔に述べると、トリプシン処理により細胞を回収し、PSBで2回洗った。メーカーの取扱説明書(Sigma)に従って溶解バッファーを調製し、その後細胞に添加した。オービタルシェーカー上において4℃で15分間インキュベーション後、細胞ライセートを採取し、12000×gで10分間遠心分離して細胞デブリをペレット化した。その後タンパク質を含有する上清を採取して定量した。次に、タンパク質抽出物25μgを8〜16%グラジエントSDS−PAGE(Novex)に装填した。電気泳動後にタンパク質をPVDF膜に転写し、その後TTBS(0.05%Tween20および100mM Tris−Cl)中5%脱脂粉乳液で1時間ブロッキングした。次に、ブロットを1:2000希釈ウサギ抗PAX2一次抗体(Zymed、カリフォルニア州サンフランシスコ)でプローブした。洗浄後、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)とコンジュゲートした抗ウサギ抗体(1:5000希釈;Sigma)と共に膜をインキュベートし、Alpha Innotech Fluorchem 8900上で化学発光試薬(Pierce)を用いてシグナル検出を可視化した。対照として、ブロットを剥離し、マウス抗βアクチン一次抗体(1:5000,Sigma−Aldrich)およびHRPコンジュゲート抗マウス二次抗体(1:5000,Sigma−Aldrich)でリプローブし、シグナル検出を再度可視化した。
【0112】
位相差顕微鏡分析:位相差顕微鏡分析により、細胞増殖に対するPAX2ノックダウンの効果を分析した。この場合、1〜2×104細胞を6ウェル培養プレート(BD FALCON、米国)上に播種した。翌日、細胞を培地のみ、陰性対照非特異的siRNAまたはPAX2 siRNAで処理し、さらに6日間インキュベートした。次に、細胞を倒立型ZeissIM35顕微鏡(Carl Zeiss、ドイツ)により倍率32倍で観察した。SPOT Insight Mosaic 4.2カメラ(Diagnostic Instruments、米国)を用いて、細胞の1視野の位相差写真を撮影した。
【0113】
MTT細胞毒性アッセイ:メーカーのプロトコル(Promega)に従い、Codebreakerトランスフェクション試薬を用いてDU145、PC3およびLNCaP細胞(1×105)にPAX2 siRNAプールまたは対照siRNAプール0.5μgをトランスフェクトした。次に、細胞懸濁液を希釈し、さらに1〜5×103細胞/ウェルで96ウェルプレートに播種し、さらに2、4、または6日間増殖させた。培養後、3−[4,5−ジメチルチアゾール−2イル]−2,5ジフェニルテトラゾリウムブロミド、MTT(Promega)の着色ホルマザン生成物への変換を測定することにより細胞生存率を測定した。走査型マルチウェル分光光度計上で540nmにおける吸光度を読み取った。
【0114】
実施例1の記載に従い、前立腺癌細胞株におけるパンカスパーゼ検出および定量的リアルタイムPCRを実施した。公開配列からBAX、BIDおよびBADプライマー対を作製した(表4:定量的RT−PCRプライマー.PAX2およびGAPDHを増幅するために用いたプライマーのヌクレオチド配列)。反応はMicroAmp Optical 96ウェル反応プレート(PE Biosystems)中で実施した。アニーリング温度60℃を用いて、標準的な条件下でPCRを40サイクル実施した。定量値は、指数的増幅が始まったサイクル数(閾値)により決定し、さらに3回繰り返して得られた値を平均した。メッセージレベルと閾値の間には逆関係があった。さらにGAPDHをハウスキーピング遺伝子として用い、全cDNAの初期含有量を正規化した。遺伝子発現は、プロアポトーシス遺伝子とGAPDH間の相対発現比率として算出した。全ての反応は3本ずつ実施した。
【0115】
【表4】
【0116】
PAX2タンパク質のsiRNA阻害:siRNAがPAX2 mRNAを有効にターゲティングしていることを確認するために、ウェスタン分析を実施して6日間の処理期間中のPAX2タンパク質発現レベルをモニタリングした。細胞に対してPAX2 siRNAのプールによるトランスフェクションを1ラウンド実施した。結果より、DU145(図6a)においては4日目まで、およびPC3においては6日目まで(図6b)にPAX2タンパク質のノックダウンが示されたことで、PAX2 mRNAの特異的ターゲティングが確認された。
【0117】
PAX2のノックダウンにより前立腺癌細胞の増殖が阻害される:培地のみ、陰性対照非特異的siRNAまたはPAX2 siRNAによる6日間処理後に細胞を分析した(図7)。DU145(a)、PC3(d)およびLNCaP(g)細胞は、培地のみを含む培養皿において全て少なくとも90%のコンフルエントに達した。DU145(b)、PC3(e)およびLNCaP(h)を陰性対照非特異的siRNAで処理しても細胞の増殖に影響せず、細胞はやはり6日後にコンフルエントに達した。しかし、PAX2 siRNAで処理したところ細胞数は有意に減少した。DU145細胞は約15%コンフルエント(c)であり、PC3は10%コンフルエントに過ぎなかった(f)。siRNA処理後のLNCaP細胞は5%コンフルエントであった。
【0118】
細胞毒性分析:2、4、および6日間曝露後に細胞生存率を測定し、さらに処理細胞の570〜630nm吸光度を未処理細胞のそれで割った比率として表す(図8)。2日間処理後の相対細胞生存率はLNCaPにおいて77%、DU145において82%、およびPC3において78%であった。4日後の相対的細胞生存率はLNCaPで46%、DU145で53%およびPC3で63%であった。6日間処理後の相対的細胞生存率はLNCaPで31%、PC3で37%およびDU145で53%まで低下した。陰性対照として、陰性対照非特異的siRNAまたはトランスフェクション試薬のみによる6日間処理後に細胞生存率を測定した。いずれの条件についても、通常増殖培地と比較して細胞生存率に統計的に有意な変化はなかった。
【0119】
パンカスパーゼ検出:カスパーゼ活性は共焦点レーザー顕微鏡分析法によって検出した。DU145、PC3およびLNCaP細胞をPAX2 siRNAで処理し、蛍光緑色となる活発なアポトーシスを被る細胞におけるFAM標識ペプチドとカスパーゼの結合に基づいて活性をモニタリングした。培地のみで処理した細胞のDIC分析により、0時間における生存可能なDU145(A)、PC3(E)およびLNCaP(I)細胞の存在が示される(図9)。488nmの共焦点レーザーによって励起したところ、検出可能な緑色染色は生成されず、未処理DU145(B)、PC3(F)またはLNCaP(J)にカスパーゼ活性がないことが示される。PAX2 siRANによる4日間処理後、DU145(C)、PC3(G)およびLNCaP(K)細胞はDIC下で再度可視となった。蛍光下で、処理されたDU145(D)、PC3(H)およびLNCaP(L)細胞は、カスパーゼ活性を示す緑色染色を呈した。
【0120】
PAX2阻害のプロアポトーシス因子に対する影響:DU145、PC3およびLNCaP細胞をPAX2に対するsiRNAで6日間処理し、p53転写調節依存性および非依存性プロアポトーシス遺伝子の発現を測定し、細胞死経路をモニタリングした。BAXについては、LNCaPにおいては1.81倍、DU145においては2.73倍、およびPC3においては1.87倍の増加があった(図10a)。BIDの発現レベルはLNCaPにおいて1.38倍およびDU145において1.77倍増加した(図10b)。しかしPC3においては、BID発現レベルは処理後に1.44分の1に低下した(図10c)。BADの分析により、LNCaPにおいては2.0倍、DU145については1.38倍、およびPC3については1.58倍の発現増加が判明した(図10a)。
【0121】
これらの結果より、前立腺癌細胞の生存がPAX2発現に依存性であることが証明される。p53発現細胞株LNCaP、p53突然変異株DU145、およびp53欠損株PC3においてPAX2ノックダウンの結果としてp53が活性化され、その後いずれの細胞株においてもカスパーゼ活性が検出され、プログラム細胞死が開始することが示された。BAX発現は、3細胞株のいずれにおいてもp53状態非依存的にアップレギュレートされた。プロアポトーシス因子BADの発現も、PAX2阻害後に3細胞株の全てにおいて増加した。PAX2 siRNA処理後、BID発現はLNCaPおよびDU145において増加したものの、実はPC3細胞において低下した。これらの結果より、前立腺癌において認められた細胞死はp53発現の影響は受けるもののこれに依存しないことが示された。前立腺癌細胞におけるアポトーシスはp53状態と無関係に他の細胞死経路によって開始することから、PAX2が他の腫瘍抑圧因子を阻害することが示される。
【0122】
配列番号3〜6以外の、他の抗PAX2 siRNAの例は以下の配列(5’から3’方向)を有するsiRNAを含むが、これに限定されない:
ACCCGACTATGTTCGCCTGG(配列番号7)、
AAGCTCTGGATCGAGTCTTTG(配列番号8)、
ATGTGTCAGGCACACAGACG(配列番号9)、
GUCGAGUCUAUCUGCAUCCUU(配列番号10)、
GGAUGCAGAUAGACUCGACUU(配列番号11)、
【0123】
PAXタンパク質は、進化の間に保持されていた転写因子のファミリーであり、かつ「ペアードドメイン(PD)」および「ホメオドメイン(HD)」と呼ばれるドメインを通じて特定のDNA配列と結合することができる。PDは一定のPAXタンパク質(例:PAX2とPAX6)によって共有されるコンセンサス配列である。PDは、DNA−タンパク質複合体を形成するα3−ヘリックス内に位置するアミノ酸のDNA結合の方向を決定する。PAX2については、HDのアミノ酸がCCTTG(配列番号1)DNAコア配列を認識し、かつこれと特異的に相互作用する。この配列を含むオリゴヌクレオチドまたはその相補体はPAX2タンパク質の阻害物質であると予測される。
【0124】
1つの実施形態において、オリゴヌクレオチドは、VがDEFB1の1〜35個の近接挟持ヌクレオチドでありかつWが1〜35個のヌクレオチドであることを特徴とする、V−CCTTG−Wの配列(配列番号12)を有する。ヌクレオチドは、通常はDEFB1のPAX2 DNA結合部位を挟む近接ヌクレオチドとすることができる。代替的に、DEFB1と無関係であり、かつ認識配列への干渉を回避するために定法により選択されることもできる。
【0125】
DEFB1プロモーターと結合するPAX2を阻害するオリゴヌクレオチドの他の例は以下の配列(5’から3’方向)を有するオリゴヌクレオチドを含むが、これに限定されない:
CTCCCTTCAGTTCCGTCGAC(配列番号13)
CTCCCTTCACCTTGGTCGAC(配列番号14)
ACTGTGGCACCTCCCTTCAGTTCCGTCGACGAGGTTGTGC(配列番号15)
ACTGTGGCACCTCCCTTCACCTTGGTCGACGAGGTTGTGC(配列番号16)
【実施例3】
【0126】
(PAX2癌遺伝子の阻害は前立腺癌細胞のDEFB1介在性細胞死をもたらす)
新規癌治療薬の開発の標的として役立つ腫瘍特異的分子の同定は、癌研究における主要な目標であると見なされている。実施例1は、前立腺癌において高頻度のDEFB1発現の低下があること、およびDEFB1発現の誘導はアンドロゲン受容体陰性ステージ前立腺癌において迅速なアポトーシスをもたらすことを証明した。これらのデータは、DEFB1が前立腺腫瘍抑制において役割を果たすことを示す。さらに、天然に発生する正常前立腺上皮の免疫系の成分であることを考慮すれば、DEFB1はほとんど副作用のない有効な治療薬となると期待される。実施例2は、PAX2発現阻害によりp53に非依存的な前立腺癌細胞死がもたらされることを証明した。これらのデータは、PAX2によって阻害される追加プロアポトーシス因子または腫瘍抑圧因子があることを示す。さらに、データより前立腺癌において過剰発現している発癌因子PAX2がDEFB1の転写リプレッサーであることが示される。本試験の目的は、DEFB1発現の低下がPAX2癌遺伝子の異常発現によるものであるか、およびPAX2を阻害することによってDEFB1介在性細胞死がもたらされるか否かを測定することである。
【0127】
(材料と方法)
RNAの分離および定量的RT−PCRは、実施例1の記載に従って実施した。DEFB1に対するプライマー対は公開DEFB1配列(目録番号U50930)から作製した。アニーリング温度56℃を用いて、標準的な条件下でPCRを40サイクル実施した。さらに、ハウスキーピング遺伝子としてGAPDHを増幅し、全cDNAの初期含有量を正規化した。DEFB1発現はDEFB1とGAPDHの相対発現比率として算出し、さらにPAX2発現のsiRNAノックダウンの前後に複数の細胞株において比較した。全ての反応は3本ずつ3回実施した。
【0128】
DEFB1レポーター構築物の作製:pGL3ルシフェラーゼレポータープラスミドを用いてDEFB1レポーター活性をモニタリングした。この場合、DEFB1転写開始部位から160塩基上流の領域はDEFB1 TATAボックスを含んだ。領域はPAX2結合に必要なGTTCC(配列番号2)配列も含んだ。PCRプライマーはKpn1およびNhe1制限部位を含むよう設計した。DEFB1プロモーターのPCR産物をKpnIおよびNheIで制限消化し、さらに同様に制限消化したpGL3プラスミドにライゲーションした(図2)。構築物をE.coliにトランスフェクトし、さらに個々のクローンを選択および拡張した。プラスミドを分離し、さらに自動シーケンシングによりDEFB1/pGL3構築物の配列完全性を再度検証した。
【0129】
ルシフェラーゼレポーター分析:この場合、DEFB1レポーター構築物または対照pGL3プラスミド1μgを1×106個のDU145細胞にトランスフェクトした。次に、0.5×103個の細胞を96ウェルプレートの各ウェルに播種し、1晩増殖させた。次に、PAX2 siRNAを含む新鮮培地または培地のみを添加し、細胞を48時間インキュベートした。メーカーのプロトコル(Promega)に従い、BrightGloキットによりルシフェラーゼを検出し、さらにプラスミドをVeritas自動96ウェルルミノメーターで読み取った。プロモーター活性は関連する発光として表した。
【0130】
膜透過性の分析:アクリジンオレンジ(AO)/臭化エチジウム(EtBr)二重染色を実施し、凝集クロマチン染色により細胞膜完全性の変化、およびアポトーシス細胞を鑑別した。AOは生存細胞および初期のアポトーシス細胞を染色する一方、EtBrは膜透過性を喪失した後期アポトーシス細胞を染色する。簡潔に述べると、細胞を2穴チャンバー培養スライド(BD FALCON、米国)に播種した。空のpINDプラスミド/pvgRXRまたはpIND DEFB1/pvgRXRをトランスフェクトした細胞を、10μMポナステロンAを含有する培地により24または48時間誘導した。対照細胞には24および48時間後に新鮮培地を供給した。膜完全性に対するPAX2阻害の効果を測定するために、DU145、PC3およびLNCaPを含む別個の培養スライドをPAX2 siRNAで処理しさらに4日間インキュベートした。この後、細胞をPBSで1回洗いさらにAO(Sigma、米国)とEtBr(Promega、米国)の混合溶液(1:1)(5ug/mL)2mLで5分間染色した。染色後、細胞を再度PBSで洗った。Zeiss LS M5 Pascal Vario 2レーザースキャニング共焦点顕微鏡(Carl Zeiss、ドイツ・イェナ)で蛍光を観察した。励起カラーホイールは、AOから発光した緑色光は緑色チャネルに、EtBrからの赤色光は赤色チャネルに分離させるためのBS505−540(緑色)およびLP560(赤色)フィルターブロックを含む。各個別の実験内のレーザー出力およびゲイン制御設定は対照とDEFB1誘導細胞の間で同一であった。AOについては波長543nmおよびEtBrについては488nmの波長でKr/Ar混合ガスレーザーにより励起を提供した。スライドを倍率40倍の位相差顕微鏡で分析し、デジタル画像を無圧縮TIFFファイルとし保存し、画像処理およびハードコピー提示のためにPhotoshop CSソフトウェア(Adobe Systems、カリフォルニア州サンホセ)にエクスポートした。
【0131】
PAX2のChIP分析:クロマチン免疫沈降(ChIP)により、転写因子によるプロモーターのインビボ占有および免疫沈降による転写因子結合クロマチンの集積に基づくDNA結合性タンパク質の結合部位の同定が可能となる。Farnham研究所が報告したプロトコルの変法を用いた;http://mcardle.oncology.wisc.edu/farnham/においてオンライン閲覧もできる)。DU145およびPC3細胞株はPAX2タンパク質を過剰発現するが、DEFB1は発現しない。細胞を1.0%ホルムアルデヒドを含有するPBSで10分間インキュベートし、タンパク質をDNAに架橋させた。その後サンプルを超音波処理して平均長600bpのDNAを得た。事前にプロテインAダイナビーズで清澄化した超音波処理クロマチンをPAX2特異抗体または「無抗体」対照[アイソタイプでマッチングした対照抗体]と共にインキュベートした。その後洗った免疫沈降物を採取した。架橋を元に戻した後、プロモーター特異的プライマーを用いてDNAをPCRで分析し、PAX2免疫沈降サンプル中にDEFB1が示されるか否か測定した。プライマーは、DEFB1 TATAボックスおよび機能的GTTCC(配列番号2)PAX2認識部位を含むDEFB1 mRNA開始部位よりすぐ上流の160bp領域を増幅するよう設計された。これらの研究については、陽性対照に(免疫沈降の前であるが架橋は戻してある)入力クロマチンの一部のPCRを含めた。全ての手順はプロテアーゼ阻害剤の存在下で実施した。
【0132】
PAX2のsiRNA阻害はDEFB1発現を増加する:siRNA処理前のDEFB1発現のQRT−PCR分析により、相対発現レベルがDU145で0.00097、PC3で0.00001、およびLNCaPでは0.00004であることが判明した(図13)。PAX2のsiRNAノックダウン後は、相対発現はDU145で0.03294(338倍増加)、PC3で0.00020(22.2倍増加)およびLNCaPにおいて0.00019(4.92倍増加)であった。陰性対照として、PAX2欠損株であるヒト前立腺上皮細胞株(hPrEC)は処理前の発現レベルが処理前は0.00687かつsiRNA処理後は0.00661と判明し、DEFB1発現に統計的変化がないことが確認された。
【0133】
DEFB1は細胞膜透過性を引き起こす:共焦点レーザー顕微鏡分析法によって膜完全性をモニタリングした(図14)。この場合、無傷の細胞は膜透過性であるAOにより緑色に染色される。さらに、原形質膜が崩壊した細胞は膜非透過性であるEtBrによって赤色に染色されるであろう。この場合、非誘導DU145(A)およびPC3(D)細胞はAO染色陽性でかつ緑色発光したが、EtBrでは染色されなかった。しかしDU145(B)およびPC3(E)におけるDEFB1の誘導は、いずれも24時間後に赤色染色で示される細胞質へのEtBrの蓄積をもたらした。48時間後までに、DU145(C)およびPC3(F)は核が凝集し見かけ上黄色となるが、これはそれぞれAOおよびEtBrの蓄積が原因で緑色および赤色染色が共存することによる。
【0134】
PAX2の阻害によって膜透過性がもたらされる:細胞をPAX2 siRNAで4日間処理し、さらに共焦点分析により膜完全性を再度モニタリングした。この場合、DU145およびPC3は共に凝集した核を有し、見かけ上黄色となった。しかし、LNCaP細胞の細胞質および核はsiRNA処理後も緑色のままであった。細胞周辺部の赤色染色も、細胞膜の完全性の維持を示す。これらの所見は、PAX2の阻害によって、DU1145およびPC3においては特異的にDEFB1介在性細胞死が起こるが、LNCaP細胞では起こらないことを示す。LNCaPにおいて認められる死は、LNCaPにおけるPAX2阻害後の既存の野生型p53のトランス活性化によるものである。
【0135】
PAX2のsiRNA阻害はDEFB1プロモーター活性を増加する:DEFB1/pGL3構築物を含むDU145細胞におけるDEFB1プロモーター活性の分析により、48時間処理後の相対的発光量は未処理細胞と比較して2.65倍増加することが判明した。PC3細胞において、未処理細胞と比較した相対発光量は3.78倍増加した。
【0136】
PAX2はDEFB1プロモーターと結合する:DU145およびPC3細胞に対してChIP分析を実施し、PAX2転写リプレッサーがDEFB1プロモーターと結合するか測定した(図15)。レーン1は分子量100bpのマーカーを含む。レーン2は、架橋および免疫沈降前にDU145から増幅したDEFB1プロモーターの160bp領域を表す陽性対照である。レーン3は、DNAを用いずに実施したPCRを表す陰性対照である。レーン4および5は、それぞれ架橋したDU145およびPC3由来のIgGを用いて実施した免疫沈降物からのPCRを表す陰性対照である。架橋後に抗PAX2抗体で免疫沈降したDNA25pg(レーン6および8)および50pg(レーン7および9)のPCR増幅は、それぞれDU145およびPC3において160bpのプロモーターフラグメントを示す。
【0137】
これらの結果は、発癌因子PAX2がDEFB1発現を抑制することを証明する。抑制は転写レベルで発生する。さらに、DEFB1プロモーターのコンピュータ分析により、DEFB1 TATAボックスに隣接するPAX2転写リプレッサーに対するGTTCC(配列番号2)DNA結合部位の存在が明らかとなった(図1)。ディフェンシン細胞毒性の証拠の1つは、膜完全性の破壊である。これらの結果より、前立腺癌細胞においてDEFB1が異所性発現すると、細胞膜の崩壊が原因となって膜電位が減少することが示される。同じ現象はPAX2タンパク質発現の阻害後にも認められる。したがって、PAX2発現または機能の抑制によって、DEFB1発現が再確立し、かつその後DEFB1介在性細胞死が発生する。また、この結果より、生得免疫を介した前立腺癌治療、および潜在的に他の癌治療のための治療法としてのDEFB1の有用性が確立される。
【実施例4】
【0138】
(移植腫瘍細胞におけるDEFB1発現の影響)
DEFB1の抗腫瘍能力を、DEFB1を過剰発現した腫瘍細胞をヌードマウスに注射することによって評価する。両方向テトラサイクリン応答性プロモーターを有するpBI−EGFPベクターにDEFB1をクローニングする。Tet−Off細胞株は、pTet−OffをDU145、PC3およびLNCaP細胞にトランスフェクトし、さらにG418で選択することによって作製される。pBI−EGFP−DEFB1プラスミドはpTK−Hygと共にTet−off細胞株に同時トランスフェクトし、ハイグロマイシンによって選択する。生存率>90%の単一細胞懸濁液のみを用いた。各動物に対し、約500,000個の細胞を雌性ヌードマウスの右側腹部に皮下投与する。ベクターのみのクローンを投与された対照群およびDEFB1を過剰発現するクローンを注射された群の2群がある。統計学者の決定に従い、各群マウス35匹とする。動物は週2回体重測定し、キャリパーで腫瘍増殖をモニタリングし、さらに以下の式を用いてに腫瘍体積を決定する:体積=0.5×(幅)2×長さ。全ての動物は、腫瘍のサイズが2mm3に達した時または移植より6ヶ月後にCO2過剰投与によって屠殺し;腫瘍を切除し、秤量し、病理検査のために中性緩衝化ホルマリンに保存する。腫瘍の成長の群間差を、要約統計量および図面表示により記述的にキャラクタライゼーションする。統計的有意性は、t検定またはノンパラメトリックな同等法のいずれかで評価する。
【実施例5】
【0139】
(移植腫瘍細胞に対するPAX2 siRNAの影響)
インビトロ試験で用いたヘアピンPAX2 siRNA鋳型オリゴヌクレオチドを用いて、インビボでDEFB1発現アップレギュレーションの影響を検討する。センスおよびアンチセンス鎖(表4参照)をアニーリングし、ヒトU6 RNA pol IIIプロモーターの制御の下で、pSilencer2.1 U6 hygro siRNA発現ベクター(Ambion)にクローニングする。クローン化プラスミドをシーケンシングし、検証し、PC3、Du145およびLNCap細胞株にトランスフェクトする。スクランブルshRNAをクローニングし、本試験における陰性対照として用いる。ハイグロマイシン耐性コロニーを選択し、マウスに細胞を皮下導入し、さらに腫瘍の成長を上述の通りにモニタリングする。
【実施例6】
【0140】
(小分子PAX2結合阻害剤の移植腫瘍細胞に対する作用)
PAX2についてのDNA認識配列は、ヌクレオチド−75と−71の間のDEFB1プロモーター内に存在する[+1は転写開始部位を表す]。PAX2 DNA結合ドメインに相補的な短鎖オリゴヌクレオチドが提供される。そのようなオリゴヌクレオチドの例は、以下で提供されるGTTCC(配列番号2)認識配列を含む20量体および40量体オリゴヌクレオチドを含む。これらの鎖長は無作為に選択したが、他の鎖長は結合遮断剤として有効であると予測される。陰性対照としてスクランブル配列−(CTCTG)(配列番号17)を有するオリゴヌクレオチドを設計して特異性を検証した。オリゴヌクレオチドは、Lipofectamine試薬またはCodebreakerトランスフェクション試薬(Promega Inc.)によって前立腺癌細胞およびHPrEc細胞にトランスフェクトする。DNA−タンパク質相互作用を確認するために、2本鎖オリゴヌクレオチドを[32P]dCTPで標識し、電気泳動移動度シフトアッセイを実施する。さらに、オリゴヌクレオチドで処理した後にQRT−PCRおよびウェスタン分析によりDEFB1発現をモニタリングする。最後に、前述のようにMTTアッセイおよびフローサイトメトリーにより細胞死を検出する。
認識配列No.1:CTCCCTTCAGTTCCGTCGAC(配列番号13)
認識配列No.2:CTCCCTTCACCTTGGTCGAC(配列番号14)
スクランブル配列No.1:CTCCCTTCACTCTGGTCGAC(配列番号18)
認識配列No.3:ACTGTGGCACCTCCCTTCAGTTCCGTCGACGAGGTTGTGC(配列番号15)
認識配列No.4:ACTGTGGCACCTCCCTTCACCTTGGTCGACGAGGTTGTGC(配列番号16)
スクランブル配列No.2:ACTGTGGCACCTCCCTTCACTCTGGTCGACGAGGTTGTGC(配列番号19)
【0141】
本発明のオリゴヌクレオチドのさらなる例は:
認識配列No.1:5’−AGAAGTTCACCCTTGACTGT−3’(配列番号20)
認識配列No.2:5’−AGAAGTTCACGTTCCACTGT−3’(配列番号21)
スクランブル配列No.1:5’−AGAAGTTCACGCTCTACTGT−3’(配列番号22)
認識配列No.3:
5’−TTAGCGATTAGAAGTTCACCCTTGACTGTGGCACCTCCC−3’(配列番号23)
認識配列No.4:
5’−GTTAGCGATTAGAAGTTCACGTTCCACTGTGGCACCTCCC−3’(配列番号24)
スクランブル配列No.2:
5’−GTTAGCGATTAGAAGTTCACGCTCTACTGTGGCACCTCCC−3’(配列番号25)
を含む。
【0142】
この代替的阻害オリゴヌクレオチドのセットは、(CCTTG(配列番号1)コア配列と共に)PAX2結合ドメインおよびホメオボックスに対する認識配列に相当する。これらはDEFB1プロモーターに由来する実際の配列を含む。
【0143】
PAX2遺伝子は、前立腺を含む多様な癌細胞の増殖および生存のために必要とされる。さらに、PAX2発現の阻害によって生得的免疫成分DEFB1を介した細胞死が起こる。DEFB1発現および活性の抑制は、PAX2タンパク質とDEFB1プロモーター内のGTTCC(配列番号2)認識部位との結合によって完遂される。したがって、この経路は前立腺癌の治療に有効な治療的標的を提供する。この方法においては、配列はPAX2 DNA結合部位と結合し、さらにPAX2とDEFB1プロモーターの結合を遮断することによって、DEFB1発現および活性を可能とする。上述のオリゴヌクレオチド配列および実験は、さらなるPAX2阻害薬の設計のための実施例でありかつそのためのモデルを示す。
【0144】
インターロイキン−3、インターロイキン−4、インスリン受容体などにGTTCC(配列番号2)配列が存在することを考慮すれば、PAX2はそれらの発現および活性も同様に制御する。したがって、本明細書に開示のPAX2阻害剤は、前立腺炎などの炎症および良性前立腺肥大(BPH)と関連した方向のものを含む数多くの他の疾患においても有用性を有する。
【実施例7】
【0145】
(DEFB1発現の減少によって発癌が増加する)
機能低下マウスの作製:Cre/loxPシステムは、前立腺発癌の基盤をなす分子的機構の解明において有用となっている。この場合、前立腺内における誘導崩壊にDEFB1 Cre条件付きKOが用いられている。DEFB1 Cre条件付きKOは、DEFB1コードエクソンを挟むloxP部位を含むターゲティングベクターの作製、このベクターを有する標的ES細胞、およびのこれらの標的ES細胞からの生殖細胞系列キメラマウスの作製を包含する。ヘテロ接合体を前立腺特異的Creトランスジェニック体と交配し、ヘテロ接合体交雑雑種を用いて前立腺特異的DEFB1 KOマウスを作製する。4つの遺伝毒性化学化合物がげっ歯類に前立腺癌を誘発することが確認されている:N−メチル−N−ニトロソ尿素(MNU)、N−ニトロソビス2−オキソプロピルアミン(BOP)、3,2X−ジメチル−4−アミノ−ビフェニル(MAB)および2−アミノ−1−メチル−6−フェニルイミダゾール4,5−ビピリジン(PhIP)。DEFB1−トランスジェニックマウスは、前立腺腫および腺癌誘発試験用にこれらの発癌化合物を胃内投与または静脈内注射して処理する。組織学、免疫組織学、mRNAおよびタンパク質分析により腫瘍増殖の差異および遺伝子発現の変化について前立腺サンプルを試験する。
【0146】
GOFマウスの作製:PAX2誘導可能GOFマウスについては、PAX2 GOF(バイトランスジェニック)および野生型(モノトランスジェニック)の同腹仔に対し、5週齢よりドキシサイクリン(Dox)を投与して前立腺特異性PAX2発現を誘発する。簡潔に述べると、PROBASIN−rtTAモノトランスジェニックマウス(tet依存性rtTA誘導物質の前立腺細胞特異性発現)を我々のPAX2トランスジェニック応答動物系と交配した。バイトランスジェニックマウスに対し、誘導のために飲料水よりDoxを給餌した(週2回500μg/Lを新たに調製して投与)。バイトランスジェニックマウスにおけるトランスジェニックファウンダー系統を用い、初回の実験で低いバックグラウンドレベル、良好な誘導性ならびにPAX2およびEGFPレポーターの細胞型特異的発現を確認する。実験群のサイズについては、各群(野生型およびGOF)において年齢および性別でマッチングした5〜7個体によって統計的有意性を考慮する。本試験における全動物について、始めに分析および比較のために前立腺組織を1週間おきに採取し、発癌時間パラメーターを決定する。
【0147】
PCR遺伝子型決定、RT−PCRおよびqPCR:以下のPCRプライマーおよび条件を用いて、PROBASIN−rtTAトランスジェニックマウスの遺伝子型を決定する:
PROBASIN5(フォワード)5’−ACTGCCCATTGCCCAAACAC−3’(配列番号26);
RTTA3(リバース)5’−AAAATCTTGCCAGCTTTCCCC−3’(配列番号27);
95℃で5分間変性、その後95℃で30秒、57℃で30秒、72℃で30秒の30サイクル、その後72℃で5分間伸長し、600bp産物を回収。
【0148】
以下のPCRプライマーおよび条件を用いて、PAX2誘導可能トランスジェニックマウスの遺伝子型を決定する:PAX2フォワード5’−GTCGGTTACGGAGCGGACCGGAG−3’(配列番号28);
逆5’IRES 5’−TAACATATAGACAAACGCACACCG−3’(配列番号29);
95℃で5分間変性、その後95℃で30秒、63℃で30秒、72℃で30秒の34サイクル、その後72℃で5分間伸長し、460bp産物を回収。
【0149】
以下のPCRプライマーおよび条件を用いて、immortoマウスヘミ接合体の遺伝子型を決定する:Immol1、5’−GCGCTTGTGTC GCCATTGTATTC−3’(配列番号30);Immol2,5’−GTCACACCACAGAAGTAAGGTTCC−3’(配列番号31);
94℃で30秒、58℃で1分、72℃で1分30秒、30サイクルで約1kb導入遺伝子バンドを得る。PAX2ノックアウトマウスの遺伝子型を決定するために、以下のPCRプライマーおよび条件を用いる:PAX2フォワード5’−GTCGGTTACGGAGCGGACCGGAG−3’(配列番号32);
PAX2リバース5’−CACAGAGCATTGGCGATCTCGATGC−3’(配列番号33);
94℃1分、65℃1分、72℃30秒、36サイクルで280bpバンドを得る。
【0150】
DEFB1ペプチド動物試験:Charles River Laboratoriesより購入した6週齢の雄性胸腺欠損(ヌード)マウスの肩甲骨皮下に、106個の生存PC3細胞を注射する。注射より1週間後、動物を3群のうち1群に無作為割り付けする−I群:対照;II群:DEFB1を100μg/日、週5日、2〜14週間腹腔内注射;III群:DEFB1を100μg/日、週5日、8〜14週間腹腔内注射。動物は、1ケージにつき4匹として無菌飼育で維持し、毎日観察する。腫瘍は10日おきにキャリパーを用いて測定し、腫瘍の体積はV=(L×W2)/2を用いて算出した。
【実施例8】
【0151】
(上皮内腫瘍および癌の化学予防を目的としたPAX2発現のターゲティング)
癌化学予防は、癌の予防、もしくは前癌状態またはさらにより早期における治療と定義される。侵襲性癌への進行期間が長いことは重要な科学的機会であるが、化学予防薬候補の臨床的利点を示すことに対する経済的な障害でもある。したがって、近年の化学予防薬開発研究の重要な構成要素は、薬剤の臨床的利益または癌発生率減少効果を正確に予測する(癌より)早期のエンドポイントまたはバイオマーカーを特定することとなっている。多くの癌において、IENは前立腺癌などの早期エンドポイントである。PAX2/DEFB1経路がIEN中に、およびおそらくより早期の病理組織学的状態で調節解除されることを考慮すれば、これは強力な予測的バイオマーカーかつ癌化学予防のためのすぐれた標的となる。前立腺癌に対する化学予防薬としての有用性を有しうる、PAX2を抑制しかつDEFB1発現を高める数多くの化合物が示される。
【0152】
表1に示すように、PAX2遺伝子は数多くの癌において発現される。さらに、数種類の癌が異常PAX2発現を有することが示されている(図18)。標的PXA2発現を介した化学予防は、癌関連死亡に対して大きな影響をもたらしうる。アンジオテンシンII(AngII)は、血圧および心血管系恒常性の主な調節因子であり、かつ強力なマイトジェンとして認識されている。AngIIは、G−タンパク質共役受容体スーパーファミリーに属するが組織分布および分子内シグナリング経路が異なる2つの受容体サブタイプ、アンジオテンシンI型受容体(AT1R)およびアンジオテンシンII型受容体(AT2R)と結合することより、その生物学的効果を媒介する。AngIIは、その血圧に対する効果に加えて、創傷治癒などの組織リモデリング、心肥大および発生を包含する多様な病理的状況においてある役割を果たすことが示されている。実際に、前立腺を含む多様な癌細胞および組織におけるレニンーアンジオテンシン系(RAS)のいくつかの成分の局所的発現が、最近の研究で明らかになっている。AT1Rのアップレギュレーションは、アポトーシスおよび増殖調節因子を回避することを学習した癌細胞に対して相当な利点をもたらす。
【0153】
(材料と方法)
試薬および処理:細胞は、5または10uM AngII、5uM ATR1拮抗剤Los、5uM ATR2拮抗剤PD123319、25uM MEK阻害剤U0126、20uM MEK/ERK阻害剤PD98059もしくは250μM AMPキナーゼ誘発物質AICARで処理した。
【0154】
ウェスタン分析は実施例2の記載に従って実施した。次にブロットを、1:1000〜2000希釈の一次抗体(抗PAX2、抗ホスホPAX2、抗JNK、抗ホスホJNK、抗ERK1/2または抗ホスホERK1/2)(Zymed、カリフォルニア州サンフランシスコ)でプローブした。洗浄後、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)(1:5000希釈;Sigma)とコンジュゲートした抗ウサギ抗体と共に膜をインキュベートし、アルファイノテックフルオロケム8900上で化学発光試薬(Pierce)を用いてシグナル検出を可視化した。対照として、ブロットを剥離し、マウス抗βアクチン1次抗体(1:5000,Sigma−Aldrich)およびHRPコンジュゲート抗マウス二次抗体(1:5000,Sigma−Aldrich)でリプローブし、シグナル検出を再度可視化した。
【0155】
QRT−PCR分析は実施例1の記載にしたがって実施した。反応はMicroAmp Optical 96ウェル反応プレート(PE Biosystems)中で実施した。アニーリング温度60℃を用いて、標準的な条件下でPCRを40サイクル実施した。定量値は、指数的増幅が始まったサイクル数(閾値)により決定し、さらに3回繰り返して得られた値を平均した。メッセージレベルと閾値の間には逆相関があった。さらにGAPDHをハウスキーピング遺伝子として用い、全cDNAの初期含有量を正規化した。相対発現は、各遺伝子とGAPDHの比率として算出した。全ての反応は3本ずつ実施した。
【0156】
チミジン取り込み:細胞の増殖は、[3H]チミジンリボチド[3H]TdR)のDNAへの取り込みによって測定した。DU145細胞の0.5×106個/ウェル懸濁液をその適切な培地に撒いた。細胞は、指示された濃度のAngIIの存在下または非存在下で72時間インキュベートした。細胞を同一培地中で37kBq/mL[メチル−3H]チミジンに6時間曝露した。付着細胞は5%トリクロロ酢酸で固定し、SDS/NaOH溶解バッファーで1晩溶解した。Beckman LS3801液体シンチレーションカウンター(カナダ)で放射能を測定した。懸濁細胞培養は、セルハーベスター(Packard instrument Co.、コネティカット州メリデン)で回収し、また1450 microbeta液体シンチレーションカウンター(PerkinElmer Life Sciences)で放射能を測定した。
【0157】
DU145前立腺癌細胞におけるPAX2に対するAngIIの影響を検討するために、AngIIで30分から48時間にわたって処理した後にPAX2発現を検討した。図19に示すように、PAX2発現はAngII処理後に時間と共に徐々に増加した。DU145をLosによって処理することでRASシグナリングを遮断すると、PAX2発現は有意に低下した(図20A)。この場合、未処理DU145細胞と比較したLos処理より48時間後のPAX2発現は37%であり、72時間後は50%であった(図21)。AT2R受容体がAT1Rの作用を妨害することは公知である。したがって、AT2R受容体の遮断がPAX2発現にもたらす影響を検討した。DU145をAT2R遮断剤PD123319で処理することにより、PAX2発現は48時間処理後に7倍、96時間後に8倍上昇した(図20B)。まとめると、これらの所見よりPAX2発現はATR1受容体によって調節されることが証明される。
【0158】
AngIIがAT1R介在性MAPK活性化およびSTAT3のリン酸化を経て前立腺癌細胞の増殖に直接影響することは公知である。DU145をAngIIで処理したところ増殖率は2から3倍増加した(図21)。しかし、Losで処理することによって増殖率は50%低下した。さらに、Losで30分間前処理することでAT1R受容体を遮断したところ、AngIIの増殖に対する影響が抑制された。
【0159】
PAX2発現および活性化の調節におけるAT1Rシグナリングの役割をさらに検討するために、多様なMAPキナーゼシグナリング経路成分の遮断によるPAX2発現への影響を検討した。この場合、MEK阻害剤U0126でDU145細胞を処理したところPAX2発現が有意に低下した(図22)。さらに、MEK/ERK阻害剤PD98059で処理してもPAXは低下した。DU145細胞をLosで処理してもERKタンパク質レベルには影響がないが、ホスホERKの量は低下した(図23A)。しかし、DU145をLosで処理するとPAX2発現は有意に減少した。U0126およびPD98059によっても同様の結果が認められた。PAX2発現はERKの下流の標的であるSTAT3によって調節されることも公知である。DU145をLos、U0126、およびPD98059で処理したところホスホSTAT3タンパク質レベルが低下した(図23C)。これらの結果は、前立腺癌細胞においてPAX2はAT1Rを介して調節されることを証明する。
【0160】
さらに、JNKによるPAX2活性化に対するAT1Rシグナリングの影響を検討した。DU145をLos、U0126、およびPD98059で処理したところ、いずれもホスホPAX2タンパク質レベルが有意に低下するかまたは抑制された(図24A)。しかし、LosおよびU0126はホスホJNKタンパク質レベルを低下させなかった(図24B)。したがって、ホスホPAX2の低下はPAX2レベルの低下よるものであって、リン酸化の低下によるものではないとみられる。
【0161】
5−アミノイミダゾール−4−カルボキサミド−1−β−4−リボフラノシド(AICAR)は、エネルギー恒常性および代謝ストレスに対する応答を調節するAMPキナーゼ活性化物質として幅広く用いられる。最近の報告では、活性化AMPKの抗増殖およびプロアポトーシス作用が、薬剤またはAMPK過剰発現を用いて示されている。AMPK活性化は、脂肪酸シンターゼ経路の阻害ならびにストレスキナーゼおよびカスパーゼ3の誘導を含む多様な機構によって、ヒト胃癌細胞、肺癌細胞、前立腺癌、膵臓細胞および肝臓癌細胞においてアポトーシスを誘導し、かつマウス神経芽細胞において酸化ストレス誘導アポトーシスを亢進させることが示されている。さらに、PC3前立腺癌細胞を処理したところ、p21,p27およびp53タンパク質の発現およびPI3K−Akt経路の阻害が増加した。これらの経路はいずれもPAX2によって直接的または間接的に調節される。前立腺癌細胞をAICARで処理したところ、PAX2発現(図23B)、さらにはその活性化対ホスホPAX2(図24A)が抑制された。さらに、PAX2発現を調節するホスホSTAT3も抑制された(図23C)。
【0162】
最後に、PAX2のアップレギュレーションおよび過剰発現につながる異常RASシグナリングがDEFB1腫瘍抑制因子遺伝子の発現を抑制するという仮説が立てられた。これを検討するために、正常前立腺上皮一次培養hPrECをAngIIで処理し、さらにPAX2およびDEFB1発現レベルを検討した。前立腺癌細胞に対する正常前立腺細胞において、DEFB1とPAX2発現の間の逆関係が発見された。未処理hPrECは、PC3前立腺癌細胞における発現と比較して10%の相対PAX2発現を示した。逆に、未処理PAX2は、hPrECにおける発現と比較してわずか2%の相対DEFB1発現を示した。10uM AngIIによる72時間処理後、DEFB1発現は未処理hPrECと比較して35%低下し、96時間後までにDEFB1発現は未処理hPrECと比較して50%低下した。しかし、未処理hPrEC細胞と比較して、PAX2発現は72時間で66%増加し、96時間後までにPAX2発現は79%増加した。さらに、hPrECにおける72時間後のPAX2発現の増加は、PC3前立腺癌細胞で認められたPAX2レベルの77%となった。AngII処理より96時間後のPAX2発現は、PC3におけるPAX2発現の89%となった。これらの結果より、調節解除されたRASシグナリングは前立腺細胞においてPAX2発現のアップレギュレーションを介してDEFB1発現を抑制することが証明される。
【0163】
アポトーシスの阻害は、癌の発生に寄与する重要な病態生理学的因子である。癌治療の顕著な進歩にもかかわらず、進行性疾患の治療においてはほとんど進歩していない。発癌は多年にわたる多段階、多経路の疾患進行であることを考慮し、この過程を阻害、遅延、または逆行させるための医薬品または他の薬剤の使用による化学予防は癌研究において非常に有望な領域であると認識される。この前立腺癌の化学予防を目的とした薬物療法の成功には、癌発生を抑制するという全般的な目標を有し、宿主に対する臨床的影響を最小限に維持しながら、標的細胞に対する特異的効果を有する治療薬を用いることが必要とされる。したがって、早期ステージ発癌の機構を理解することは特定の治療法の有効性を決定する上で重要である。異常PAX2発現およびそのアポトーシスの抑止の重要性は、その後の腫瘍形成に対する寄与と共に、これが前立腺癌治療のための適切な標的となりうることを示唆している。前立腺癌においてPAX2はAT1Rにより調節される(図26)。この場合、RASシグナリングが調節解除されるとPAX2癌遺伝子発現が増加し、さらにDEFB1腫瘍抑制因子の発現が減少する。したがって、AT1R拮抗剤の使用によりPAX2発現が低下しかつDEFB1の再発現を介した前立腺癌細胞死が増加する(図27)。これらの結果によって、レニン−アンジオテンシンシグナリング経路、AMPキナーゼ経路またはPAX2タンパク質の不活性化(すなわち抗PAX2抗体接種)を包含する他の方法を介したPAX2発現のターゲティングは、癌予防にとって有用な標的となりうるという新たな所見が提供される(表5:化学予防を目的としてPAX2発現を阻害するために用いられる化合物)。
【0164】
【表5】
【0165】
この研究より、前立腺癌におけるPAX2癌遺伝子のアップレギュレーションはRASシグナリングの調節解除によるものであることが証明される。PAX2発現は、アンジオテンシンI型受容体によって媒介されるERK1/2シグナリング経路によって調節される。さらに、ロサルタン(Los)によってAT1Rを遮断することによりPAX2発現が抑制される。さらに、AMPK活性化剤であるAICARもPAX2阻害剤の候補として有望性を示している。まとめると、これらの試験より、これらの薬剤クラスがPAX2発現阻害剤の候補として関係付けられ、かつ最終的に新規化学予防剤として役立ちうることが強く指摘される。
【実施例9】
【0166】
(前立腺組織の等級付け手段および前立腺癌発生の予測因子としてのPAX2−DEFB1発現レベル)
(材料と方法)
QRT−PCR分析:根治的前立腺切除術を受けた患者から前立腺切片を採取した。病理検査後、レーザーキャプチャーマイクロダイセクションを実施して正常、増殖性上皮内腫瘍(PIN)および癌組織の領域を分離した。前述の方法によりQRT−PCR分析を実施して発現を評価した。各領域のDEFB1およびPAX2発現およびGAPDHを内部標準として用いた。
【0167】
採血およびRNA分離:メーカーのプロトコルに従い、QRT−PCR用に各個人よりPAXgene(商標)Blood RNA試験管(QIAGEN)に血液(2.5mL)を採取した。全血をPAX gene安定化剤と完全に混合し、RNA抽出前に6時間室温保存した。次に、メーカーの指示書(QIAGEN)に従い、PAXgene(商標)Blood RNAキットを用いて全RNAを抽出した。汚染ゲノムDNAを除去するために、PAXgene(商標)Blood RNA Systemスピンカラムに吸収させた全RNAサンプルをDNase I(QIAGEN)と共に25℃で20分間インキュベートし、ゲノムDNAを除去した。全RNAは溶離、定量し、さらにPAX2とDEFB1発現比率を比較するために前述の方法に従ってQRT−PCRを実施する。
【0168】
LCM正常組織のQRT−PCR分析により、相対DEFB1発現レベルが0.005を上回る患者は、0.005未満の発現レベルを有する者と比較してグリーソンスコアが低いことが証明された(図28A)。したがって、DEFB1発現とグリーソンスコアの間には逆関係がある。逆に、悪性前立腺組織およびPINにおけるPAX2発現とグリーソンスコアの間には正の相関があった(図28B)。
【0169】
別個の患者からの正常、PINおよび癌組織におけるPAX2およびDEFB1発現レベルを算出および比較した(図29)。全般的に、GAPDH内部対照に対するPAX2発現レベルの範囲は、正常(良性)組織では0と0.2の間、PINにおいては0.2と0.3の間、および癌(悪性)組織においては0.3と0.5の間であった(図30)。DEFB1については、PAX2と比較して逆関係があった。この場合、GAPDH内部対照に対するDEFB1発現レベルの範囲は、正常(良性)組織で0.06と0.005の間、PINにおいて0.005と0.003の間、および癌(悪性)組織において0.003と0.001の間であった。したがって、良性、前癌(PIN)および悪性前立腺組織の予後決定因子として、PAX2−DEFB1発現比率を用いた予測スケール(「ドナルド予測因子」または「DPF」)と命名)が開示される。DPFに基づくPAX2−DEFB1比率が0〜39である組織は正常(病理学的に良性)に相当するであろう。PAX2−DEFB1比率が40〜99の組織は、DPFスケールに基づきPIN(前癌)に相当するであろう。最後に、PAX2−DEFB1比率が100〜500の組織は悪性(低〜高度の癌)となるであろう。
【0170】
現在、前立腺癌発生の予測バイオマーカーに対する決定的なニーズがある。前立腺癌の発症がPSA検査または直腸指診といった現行のスクリーニング法によって疾患が検出可能となるはるか以前に起こることは公知である。前立腺癌の進行および早期発生のモニタリングが可能な信頼度の高い検査法であれば、より有効な疾患管理によって死亡率を大きく低下させると考えられる。本明細書には、医師が前立腺の病理学的状態を事前に十分に知ることを可能とする予測指標が開示される。DPFは、前立腺疾患の進行と関連するPAX2−DEFB1発現比率の低下を測定する。この強力な指標は、患者が前立腺癌を発症する可能性を予測できるのみならず、前悪性癌の初期発症を特定することもある。最終的に、この手段は、医師がより悪性度の高い疾患を有する患者をそうでない患者から識別することを可能とする。
【0171】
癌特異的マーカーの同定は、循環腫瘍細胞(CTC)の同定を支援するために用いられている。末梢血中に播種された腫瘍細胞を検出することにより、腫瘍のステージング、予後判定、および補助療法の有効性を初期評価する代替的マーカーを同定するための臨床的に重要なデータを提供することができることを証明する新たなエビデンスも得られている。さらに、全循環細胞の遺伝子発現プロフィールを比較することにより、前立腺癌の早期検出のための予後決定因子として、それぞれ「免疫監視」および「癌生存」において重要な役割を果たすDEFB1およびPAX2遺伝子の発現を検討することができる。
【実施例10】
【0172】
(宿主防御ペプチドヒトβディフェンシン−1の機能分析:癌におけるその潜在的役割についての新たな洞察)
(材料と方法)
組織サンプルおよびレーザーキャプチャーマイクロダイセクション:根治的前立腺切除術を受ける前にインフォームド・コンセントを提出した患者より前立腺組織を採取した。施設内倫理委員会が承認したプロトコルに従い、Hollings癌センター腫瘍バンクよりサンプルを入手した。これにはサンプルの処理、切片化、組織学的キャラクタラーぜーション、RNA精製およびPCR増殖のガイドラインが含まれた。外科医および病理学者より受領した前立腺検体は、OCTコンパウンド中で速やかに凍結させた。各OCTブロックを切り出して連続切片とし、染色して検査した。良性細胞、前立腺上皮内腫瘍(PIN)および癌を含む領域を同定し、我々がArcturus Pix Cell IIシステム(カリフォルニア州、サニーヴェール)を用いて未染色スライドから領域を選択する際の指標とするために用いた。キャプチャーした材料を収容するカップを、Arcturus Pico Pure RNA分離キットのライセート20μLに曝露し、速やかに処理した。RNAの量および品質は、5’アンプリコンを生成するプライマーセットを用いて評価した。セットはリボソームタンパク質L32用(3’アンプリコンと5’アンプリコンの間隔は298塩基)、グルコースリン酸イソメラーゼ用(391塩基間隔)、およびグルコースリン酸イソメラーゼ用(843塩基間隔)のものを含む。通常、多様な調製組織に由来するサンプルを用いるとき、これらのプライマーセットについては0.95から0.80の比率が得られた。病理学者が追加的な腫瘍および正常サンプルを肉眼で切り出し、液体窒素で瞬間凍結してhBD−1およびcMYC発現について評価した。
【0173】
hBD−1遺伝子のクローニング:hBD−1 cDNAは、公開hBD−1配列(アクセション番号U50930)から作製したプライマーを用いて逆転写PCRによりRNAから作製した(Ganz,2004)。PCRプライマーはClaIおよびKpnI制限部位を含むよう設計された。hBD−1 PCR産物はClaIおよびKpnIによって制限消化され、さらにTAクローニングベクターにライゲーションされた。次に、TA/hBD1ベクターを熱ショックによりE.coliのXL−1 Blue株にトランスフェクトし、さらに個々のクローンを選択して拡張した。Cell Culture DNA Midiprep(QIAGEN、カリフォルニア州バレンシア)でプラスミドを分離し、さらに配列の完全性を自動シーケンシングで検証した。次に、hBD−1遺伝子フラグメントを、方向決定を目的とした中間ベクターとして役立つ、ClaIおよびKpnIで消化したpTRE2にライゲーションした。pTRE2/hBD−1構築物をApaIおよびKpnIで消化してhBD−1インサートを切り取った。インサートを、これもApaIおよびKpnIで二重消化したエクジソーム誘導発現系(Invitrogen、カリフォルニア州カールズバッド)のpINDベクターにライゲーションした。構築物をE.coliにトランスフェクトし、さらに個々のクローンを選択して拡張した。プラスミドを分離し、さらに自動シーケンシングによりpIND/hBD−1の配列完全性を再度検証した。
【0174】
トランスフェクション:100mmペトリ皿に細胞(1×106個)を播種し、1晩増殖させた。次に、Opti−MEM培地(Life Technologies Inc.)中で、Lipofectamine 2000(Invitrogen)を用いて、ヘテロ二量体エクジソン受容体を発現しているpvgRXRプラスミド1μg、およびpIND/hBD−1ベクター構築物またはpIND/β−ガラクトシダーゼ(β−gal)対照ベクター1μgで細胞を同時トランスフェクトした。トランスフェクション効率は、ポナステロンA(PonA)によりβ−gal発現を誘導し、さらに細胞をβ−ガラクトシダーゼ検出キット(Invitrogen)で染色することによって測定した。細胞株について60〜85%の細胞がβガラクトシダーゼを発現していることを証明した陽性染色(青色)コロニーを計数することによるトランスフェクション効率の評価。
【0175】
免疫細胞化学:hBD−1タンパク質発現を検証するために、DU145およびhPrEC細胞を1.5〜2×104細胞/チャンバーで2穴チャンバー培養スライド(BD FALCON、米国)に播種した。pvgRXRのみ(対照)またはhBD−1プラスミドをトランスフェクトしたDU145細胞を10μM PonAを含む培地で18時間誘導する一方で、非トランスフェクト細胞には新鮮な増殖培地を与えた。誘導後、細胞を1×PBSで洗い、4%パラホルムアルデヒドにより室温で1時間固定した。次に、細胞を1×PBSで6回洗い、さらに2%BSA、0.8%正常ヤギ血清(Vector Laboratories Inc.、カリフォルニア州バーリングゲーム)および0.4%Triton−X100を添加した1×PBSを用いて室温で1時間ブロッキングした。次に、ブロッキング溶液で1:1000に希釈したウサギ抗ヒトBD−1一次ポリクローナル抗体(PeproTech Inc.、ニュージャージー州ロッキーヒル)内で細胞を1晩インキュベートした。この後、細胞をブロッキング液で6回洗い、ブロッキング液で1:1000希釈したAlexa Fluor 488ヤギ抗ウサギIgG(H+L)二次抗体中で1時間室温でインキュベートした。細胞をブロッキング液で6回洗った後、カバースリップをGel Mount (Biomeda、カリフォルニア州フォスターシティ)で載置した。最後に、微分干渉コントラスト(DIC)および488nmのレーザー励起の下で細胞を観察した。Vario 2RGBレーザースキャニングモジュールで63×DIC油浸レンズを用いて、共焦点顕微鏡分析(Zeiss LSM 5 Pascal)により蛍光信号を分析した。デジタル画像は、画像処理およびハードコピー提示のためにPhotoshop CSソフトウェア(Adobe Systems)にエクスポートした。
【0176】
RNAの分離および定量的RT−PCRは、実施例1の記載に従って実施した。公開配列からhBD−1およびc−MYCのプライマー対を作製した(表6)。hBD−1およびc−MYCに56.4℃およびPAX2に55℃のアニーリング温度を用いて、標準的な条件下でPCRを40サイクル実施した。さらに、ハウスキーピング遺伝子としてβアクチン(表6:QRT−PCRプライマーの配列)を増幅し、全cDNAの初期含有量を正規化した。良性前立腺組織サンプルにおける遺伝子発現を、βアクチンと比較した発現比率として算出した。誘導前後の悪性前立腺組織、hPREC前立腺一次培養、および前立腺癌細胞株におけるhBD−1発現のレベルを、hPrEC細胞におけるhBD−1発現の平均レベルに対して算出した。陰性対象として、cDNA鋳型を用いないQRT−PCR反応も実施した。全ての反応は最低3回実施した。
【0177】
MTT細胞生存率アッセイは実施例1の記載に従って実施した。
【0178】
膜完全性分析は実施例3の記載に従って実施した。空のプラスミドまたはhBD−1プラスミドでトランスフェクトした細胞を、10μM PonAを含む培地で24または48時間誘導する一方で、非トランスフェクト細胞には測定時点毎に新鮮な培地を与えた。
【0179】
【表6】
【0180】
フローサイトメトリーおよびカスパーゼ検出は実施例1の記載に従って実施した。
【0181】
PAX2のsiRNAサイレンシングは実施例2の記載にしたがって実施した。処理前に、メーカーの指示書にしたがってCodebreakerトランスフェクション試薬(Promega Inc.)でsiRNA分子をコーティングした。
【0182】
統計解析:統計解析は、対応のない数値に対するスチューデントのt検定を用いることによって実施した。両側計算によりp値を決定し、p値が0.05未満であれば統計的に有意であると見なした。統計的な差はアスタリスクで示す。
【0183】
前立腺組織におけるhBD−1発現:分析した前立腺癌凍結組織切片のうち82%はhBD−1発現をほとんど示さなかった(Donald et al.,2003)。hBD1−1発現レベルを比較するために、無作為選択した悪性領域に隣接する正常前立腺組織の肉眼的切除またはLCMによって採取した正常前立腺組織に対し、QRTPCR分析を実施した。この場合、肉眼的に切除した正常臨床サンプルの全てにおいて、約6.6倍の発現レベルの差に相当する発現の範囲でhBD−1が検出された(図31A)。LCMでキャプチャーした正常組織サンプルは、発現における32倍の差に相当する範囲のレベルでhBD−1を発現した(図31B)。サンプル数を対応する患者プロフィールに対してマッチングしたところ、大半の症例において、グリーソンスコア6の患者サンプルにおけるhBD−1発現レベルはグリーソンスコア7の患者サンプルにおけるよりも高いことが判明した。さらに、同一の患者番号1343より肉眼的切除およびLCMによって採取した組織においてhBD−1発現レベルを比較したところ、2つの分離法の間に854倍の発現差があることが証明された。したがって、これらの結果よりLCMは前立腺組織におけるhBD−1発現を評価するより高感度の技術を提供することが示される。
【0184】
前立腺細胞株におけるhBD−1発現:前立腺癌細胞株においてhBD−1発現系をトランスフェクトした後のhBD−1アップレギュレーションを検証するために、QRTPCRを実施した。さらに、鋳型のない陰性対照も実施し、また増幅産物をゲル電気泳動法により検証した。この場合、前立腺癌細胞株におけるhBD−1発現はhPrEC細胞と比較して有意に低くなった。DU145、PC3およびLNCaPにおける24時間誘導後のhBD−1相対発現レベルは、hBD−1誘導前の当該細胞株と比較して有意に上昇した(図32A)。
【0185】
次に、免疫細胞化学により、PonAによる誘導後にhBD−1発現系でトランスフェクトしたDUC145細胞において、hBD−1のタンパク質発現を検証した。陽性対照として、hBD−1を発現しているhPrEC前立腺上皮細胞も検討した。細胞をhBD−1に対する1次抗体で染色し、さらにタンパク質発現を二次抗体の緑色蛍光に基づいてモニタリングした(図32B)。DIC下で細胞を分析することにより、18時間後にhBD−1発現が誘導されたhPrEC細胞およびDU145細胞の存在を検証する。488nmの共焦点レーザーの生成による励起によって、陽性対照としてのhPrCEにおけるhBD−1タンパク質の存在を示す緑色蛍光が判明した。しかし、対照DU145細胞および空のプラスミドを導入したDU145細胞においては検出可能な緑色蛍光はなく、hBD−1発現は示されなかった。hBD−1発現を誘導したDU145細胞の共焦点分析により、PonAによる誘導後のhBD−1タンパク質の存在を示す緑色蛍光が判明した。
【0186】
hBD−1発現により細胞生存率が低下する:DU145、PC3、PC3/AR+およびLNCaP前立腺癌細胞株における相対細胞生存率に対するhBD−1発現の影響を評価するために、MTTアッセイを実施した。空のベクターによるMTT分析では細胞生存率に統計的に有意な変化は示されなかった。hBD−1誘導より24時間後の相対的細胞生存率はDU145細胞で72%およびPC3細胞で56%であり、また48時間後の細胞生存率はDU145において49%およびPC3細胞において37%低下した(図33A)。hBD−1誘導より72時間後の相対的細胞生存率はDU145細胞で44%およびPC3細胞で29%までさらに低下した。逆に、LNCaP細胞の生存率には有意な影響はなかった。LNCaPに認められたhBD−1細胞毒性に対する耐性がアンドロゲン受容体(AR)の存在によるものであるか否か評価するために、異所性AR発現(PC3/AR+)を用いてPC3細胞におけるhBD−1細胞毒性を検討した。この場合、PC3/AR+とPC3細胞の間に差はなかった。したがって、データよりhBD−1は後期ステージ前立腺癌細胞に対して特異的な細胞毒性を有することが示される。
【0187】
PC3およびDU145に対するhBD−1の影響が細胞分裂抑制性であるか、あるいは細胞毒性であるか測定するために、FACS分析を実施して細胞死を測定した。正常増殖条件において、PC3およびDU145培養の90%以上が生存しておりかつ非アポトーシス(左下象限)でありかつアネキシンVまたはPIで染色されなかった(図4)。PC3細胞においてhBD−1発現を誘導した後、初期アポトーシスおよび後期アポトーシス/壊死を被った細胞の個数(それぞれ右下および右上象限)は12時間で合計10%、24時間で20%、かつ48時間で44%であった。DU145細胞については、初期アポトーシスおよび後期アポトーシス/壊死を被った細胞の個数は誘導12時間後で合計12%、24時間で34%、かつ48時間で59%であった。PonAによる誘導後の空のプラスミドを含有する細胞においては、アポトーシスの増加は認められなかった。アネキシンVおよびヨウ化プロピジウム取り込み試験より、hBD−1はDU145およびPC3前立腺癌細胞に対して細胞毒性を有することが判明しており、また結果より細胞死の機構としてのアポトーシスが示される。
【0188】
hBD−1は膜完全性およびカスパーゼ活性の変化を引き起こす:hBD−1誘導後の前立腺癌細胞に認められた細胞死がカスパーゼ介在性アポトーシスであるか否かを検討した。hBD−1発現に関与する細胞機構をより良く理解するために、hBD−1発現を誘導したDU145およびLNCaP細胞に対して共焦点レーザー顕微鏡分析を実施した(図5)。活発なアポトーシスを被る細胞における緑色蛍光FAM−VAD−FMKのカスパーゼとの結合および開裂に基づいてパンカスパーゼ活性をモニタリングした。DIC下での細胞の分析により、0時間における生存対照DU145(図5A)およびLNCaP(図5E)細胞の存在が示された。488nmの共焦点レーザーで励起したところ検出可能な緑色染色は生成されず、DU145(図5B)またはLNCaP(図5F)にカスパーゼ活性がないことが示された。24時間の誘導後、DU145(図5C)およびLNCaP(図5G)細胞をDIC下で再度可視化した。蛍光下の共焦点分析により、hBD−1発現後のパンカスパーゼ活性を示すDU145(図5D)細胞の染色が判明した。しかし、hBD−1発現を誘導したLNCaP(図5H)細胞においては緑色染色はなかった。したがって、hBD−1誘導後に認められた細胞死はカスパーゼ介在性アポトーシスであった。
【0189】
提唱されているディフェンシンペプチドの抗微生物活性は、細孔形成による微生物膜の崩壊である(Papo and Shai、2005)。hBD−1発現が膜完全性を変化させたか測定するために、共焦点分析によりEtBr取り込みを検討した。無傷の細胞は膜透過性であるAOによって緑色に染まる一方で、原形質膜が崩壊した細胞のみが膜不透過性EtBrの取り込みによって赤色に染まった。対照DU145およびPC3細胞はAO染色陽性でかつ緑色発光したが、EtBrでは染色されなかった。しかしDU145およびPC3においてhBD−1を誘導したところ、いずれも細胞質において24時間で赤色染色で示されるEtBr蓄積が見られた。48時間までに、DU145およびPC3は凝集した核を有し、それぞれAOおよびEtBrによる緑色および赤色染色の共存によって見かけ上黄色となった。逆に、AOによって緑色蛍光が陽性であるが赤色EtBr蛍光がないことで示されるように、誘導48時間後のLNCaP細胞の膜完全性には観測可能な変化はなかった。この所見より、hBD−1発現に応答した膜完全性および透過性の変化は初期と後期ステージ前立腺癌細胞の間で異なることが示される。
【0190】
hBD−1とcMYCの発現レベルの比較:3例の患者より採取したLCM前立腺組織切片に対してQRT−PCR分析を実施した(図34)。患者番号1457においては、hBD−1発現により正常からPINまで2.7分の1の減少、PINから腫瘍まで3.5分の1の減少、および正常から腫瘍まで9.3分の1の減少を示した(図34A)。同様に、患者番号1457においてcMYC発現は正常からPINまで1.7分の1に減少、PINから腫瘍まで1.7分の1に減少、および正常から腫瘍まで2.8分の1に減少という同様の発現パターンに従った(図34B)。さらに、他の2例の患者におけるcMYC発現には統計的に有意な減少があった。患者番号1569は正常からPINまで2.3分の1の減少があったのに対し、患者番号1586では正常からPINまで1.8分の1の減少、PINから腫瘍まで4.3分の1の減少および正常から腫瘍まで7.9分の1の減少があった。
【0191】
PAX2阻害後のhBD−1発現の誘導:hBD−1発現を調節する際のPAX2の役割をさらに検討するために、siRNAを用いてPAX2発現をノックダウンし、さらにhBD−1発現をモニタリングするためにQRT−PCRを実施した。PAX2 siRNAでhPrEC細胞を処理したところ、hBD−1発現に対して影響を示さなかった(図35)。しかし、PAX2をノックダウンしたところhBD−1発現は未処理細胞と比較してLNCaPは42倍、PC3は37倍、およびDU145は1026倍増加した(図10a)。陰性対照として、細胞を非特異的siRNAで処理したところ、hBD−1発現には有意な影響を示さなかった。
【実施例11】
【0192】
(p53状態の異なる前立腺癌細胞においてPAX2発現を阻害すると代替的な細胞死経路が誘導される)
(材料と方法)
細胞株:いずれもp53変異状態が異なる癌細胞株PC3、DU145およびLNCaP(表7:前立腺癌細胞株におけるp53遺伝子変異)を、実施例1に記載の方法で培養した。
【0193】
PAX2のsiRNAサイレンシングおよびウェスタン分析は実施例2の記載に従って実施した。次に、ブロットを1:1000希釈ウサギ抗PAX2一次抗体(Zymed、カリフォルニア州サンフランシスコ)でプローブした。洗浄後、膜をセイヨウワサビペルオキシダーゼコンジュゲート抗ウサギ抗体(HRP)(1:5000希釈;Sigma)と共にインキュベートし、シグナル検出をAlpha Innotech Fluorchem 8900上で化学発光試薬(Pierce)を用いて可視化した。対照として、ブロットを剥離し、マウス抗βアクチン一次抗体(1:5000,Sigma−Aldrich)およびHRPコンジュゲート抗マウス二次抗体(1:5000,Sigma−Aldrich)でリプローブし、シグナル検出を再度可視化した。
【0194】
【表7】
【0195】
位相差顕微鏡分析およびMTT細胞毒性アッセイは実施例2の記載に従って実施した。
【0196】
パンカスパーゼ検出および定量的RT−PCRは、実施例1の記載に従って実施した。公開配列からBAX、BID、BCL−2,AKTおよびBADのプライマー対を作製した(表8:定量的RT−PCRプライマー)。反応はMicroAmp Optical 96ウェル反応プレート(PE BIOSYSTEMS)中で実施した。アニーリング温度60℃を用いて、標準的な条件下でPCRを40サイクル実施した。定量値は、指数的増幅が始まったサイクル数(閾値)により決定し、さらに3回の反復より得られた値を平均した。メッセージレベルと閾値の間には逆関係があった。さらにGAPDHをハウスキーピング遺伝子として用い、全cDNAの初期含有量を正規化した。相対発現は、各遺伝子とGAPDHの比率として算出した。全ての反応は3本ずつ実施した。
【0197】
【表8】
【0198】
膜透過性アッセイは実施例3の記載にしたがって実施した。PC3およびLNCaP細胞をPAX2 siRNA、非特異的siRNAまたは培地のみでトランスフェクトした。
【0199】
前立腺細胞におけるPAX2タンパク質発現の分析:HPrEC前立腺一次培養およびLNCaP、DU145およびPC3前立腺癌細胞株において、ウェスタン分析によりPAX2タンパク質発現を検討した。この場合、全ての前立腺癌細胞株においてPAX2タンパク質が検出された(図36A)。しかし、HPrECに検出可能なPAX2タンパク質はなかった。ブロットを剥離し、内部対照としてβアクチンについてリプローブして装填が均一であることを確認した。DU145、PC3およびLNCaP前立腺癌細胞株において、PAX2特異的siRNAによる選択的ターゲティングおよび阻害後のPAX2タンパク質発現もモニタリングした。細胞には、PAX2 siRNAのプールによるトランスフェクションを6日間の処理期間にわたって1ラウンド実施した。PAX2タンパク質は培地のみで処理した対照細胞に発現していた。3つの細胞株全てにおいて、PAX2タンパク質のノックダウンを観察することによりPAX2 mRNAの特異的ターゲティングを確認した(図36B)。
【0200】
PAX2ノックダウンの前立腺癌細胞増殖に対する影響:光学顕微鏡分析およびMTT分析により、PAX2 siRNAの細胞数および細胞生存率に対する影響を分析した。PAX2 siRNAの細胞数に対する影響を検討するために、PC3、DU145およびLNCaP細胞株を培地のみ、非特異的siRNA、またはPAX2 siRNAで6日間トランスフェクトした。各細胞株は培地のみを含む60mm培養皿において80〜90%コンフルエントに到達した。HPrEC、DU145、PC3およびLNCaP細胞の非特異的siRNAによる処理は、培地のみで処理した細胞と比較して細胞増殖にほとんど影響がないようであった(それぞれ図38A、38Cおよび38E)。PAX2−欠損細胞株HPrECをPAX2 siRNAで処理したところ、細胞増殖に有意な影響がないようであった(図37B)。しかし、前立腺癌細胞株DU145、PC3およびLNCaPをPAX2 siRNAで処理したところ細胞数が有意に減少した(それぞれ38D、38Fおよび38H)。
【0201】
PAX2ノックダウンの前立腺癌細胞生存率に対する影響:細胞生存率は2、4および6日間曝露後に測定した。生存百分率は、PAX2 siRNAで処理した細胞の570〜630nmの吸光度を未処理対照細胞で割った比率として算出した。陰性対照として、陰性対照非特異的siRNAまたはトランスフェクション試薬のみによる各処理期間後に細胞生存率を測定した。相対細胞生存率は、PAX2 siRNA処理後の生存百分率を非特異的shRNAによる処理後の生存百分率で割ることにより算出した(図38)。2日間処理後の相対細胞生存率はDU145において116%、PC3において81%、およびLNCaPにおいて98%であった。4日間処理後の相対細胞生存率はDU145で69%、PC3で79%およびLNCaPで80%まで低下した。最終的に、6日までの相対的細胞生存率はDU145で63%、PC3で43%およびLNCaPで44%であった。さらに、トランスフェクション試薬のみで処理した後の細胞生存率も測定した。この場合、各細胞株は細胞生存率の有意な低下を示さなかった。
【0202】
パンカスパーゼ活性の検出:カスパーゼ活性は共焦点レーザー顕微鏡分析法によって検出した。LNCaP、DU145およびPC3細胞をPAX2 siRNAで処理し、蛍光緑色となる活発なアポトーシスを被る細胞におけるFAM標識ペプチドのカスパーゼとの結合に基づいて活性をモニタリングした。培地のみの細胞を分析したところ、生存LNCaP、DU145およびPC3細胞の存在がそれぞれ示された。488nmの共焦点レーザーによって励起したところ検出可能な緑色染色は生成されず、このことより未処理細胞にカスパーゼ活性がないことが示された(それぞれ39A、39Cおよび39E)。PAX2 siRANによる4日間処理後、LNCaP、DU145およびPC3細胞は蛍光下でカスパーゼ活性を示す緑色染色を呈した(それぞれ図39B、39Dおよび39F)。
【0203】
PAX2阻害のアポトーシス因子に対する影響:LNCaP、DU145およびPC3細胞をPAX2に対するsiRNAで4日間処理し、さらにQRTPCRによりプロおよび抗アポトーシス因子を共に測定した。PAX2ノックダウン後にBADを分析したところ、LNCaPで2倍、DU145で1.58倍およびPC3で1.375倍であることが明らかとなった(図40A)。BIDの発現レベルはLNCaPでは1.38倍かつDU145では1.78倍増加したが、PAX2発現抑制後のPC3に認められたBIDには統計的有意差はなかった(図40B)。抗アポトーシス因子AKTを分析したところ、処理後の発現はLNCaPにおいては1.25分の1にかつDU145においては1.28分の1に低下することが判明したが、PC3では変化が認められなかった(図40C)。
【0204】
膜完全性および壊死の分析:LNCaP、DU145およびPC3細胞において共焦点分析により膜完全性をモニタリングした。この場合、無傷の細胞は膜透過性であるAOによって緑色に染まる一方で、原形質膜が崩壊した細胞は膜不透過性EtBrの細胞質への取り込みによって赤色に、かつ核内はAOとEtBrの共存により黄色に染まるであろう。未処理LNCaP、DU145およびPC3細胞はAO染色陽性でかつ緑色発光したが、EtBrでは染色されなかった。PAX2ノックダウン後は、AOによる緑色蛍光が陽性であるが赤色EtBr蛍光がないことで示されるように、LNCaP細胞の膜完全性に観測可能な変化はなかった。これらの所見より、LNCaP細胞はPAX2ノックダウン後にアポトーシス性ではあるが壊死性ではない細胞死を被ることがあることがさらに示される。逆に、DU145およびPC3におけるPAX2ノックダウンの結果、赤色染色で示されるようにEtBrが細胞質に蓄積した。さらに、DU145およびPC3は共に凝集した核を有し、それぞれAOおよびEtBrによる緑色および赤色染色の共存によって見かけ上黄色であった。これらの結果より、DU145およびPC3は、LNCaPと比較して、壊死的細胞死を包含する代替的な細胞死経路を被ることを示している。
【実施例12】
【0205】
(乳癌細胞株および腺管または小葉上皮内腫瘍を有する乳房組織におけるPAX2およびDEFB−1発現)
PAX2およびDEFB−1発現は、腺管または小葉上皮内腫瘍の乳癌生検サンプル、および以下の乳癌細胞株において測定されるであろう:
【0206】
BT−20:原発性浸潤性腺管癌より分離され;細胞はE−カドヘリン、ER、EGFRおよびuPAを発現する。
【0207】
BT−474:原発性浸潤性腺管癌より分離され;細胞はE−カドヘリン、ER、PRを発現し、かつHER2/neuが増幅されている。
【0208】
Hs578T:原発性浸潤性腺管癌より分離され;Hs578Bstと呼ばれる正常隣接組織からも細胞株が確立された。
【0209】
MCF−7:胸水より確立された。細胞はERを発現しかつエストロゲン反応性乳癌細胞の最も一般的な例である。
【0210】
MDA−MB−231:胸水より確立された。細胞はER陰性であり、E−カドヘリン陰性でありかつインビトロ分析において浸潤性が高い。
【0211】
MDA−MB−361:脳転移より確立された。細胞はER、PR、EGFRおよびHER2/neuを発現する。
【0212】
MDA−MB−435:胸水より確立された。細胞はER陰性であり、E−カドヘリン陰性でありかつ免疫不全マウスにおいて浸潤性が高くかつ転移性である。
【0213】
MDA−MB−468:胸水より確立された。細胞はEGFRが増幅されかつER陰性である。
【0214】
SK−BR−3:胸水より確立された。細胞はHER/2neuが増幅され、EGFRを発現し、かつER陰性である。
【0215】
T−47D:胸水より確立された。細胞はE−カドヘリン、ERおよびPRの発現を保持する。
【0216】
ZR−75−1:腹水より確立された。細胞はER、E−カドヘリン、HER2/neuおよびVEGFを発現する。
【0217】
PAX2対DEFB1発現比率は、実施例9に記載の方法を用いて測定されるであろう。
【実施例13】
【0218】
(乳癌細胞におけるDEFB1の発現)
DEFB1は、実施例1に記載の方法を用いて乳癌細胞に発現されるであろう。細胞生存率およびカスパーゼ活性は、実施例1に記載の方法を用いて測定されるであろう。
【実施例14】
【0219】
(乳癌細胞におけるPAX2発現の阻害)
乳癌細胞におけるPAX2発現は、実施例2に記載のsiRNAを用いて阻害されるであろう。BAX、BIDおよびBADなどのプロアポトーシス遺伝子の発現レベル、細胞生存率およびカスパーゼ活性は、実施例2の記載に従って測定されるであろう。
【実施例15】
【0220】
(インビボにおけるDEFB1発現の腫瘍増殖に対する影響)
DEFB1の抗腫瘍能力は、DEFB1を過剰発現した乳癌細胞をヌードマウスに注射することによって評価されるであろう。乳癌細胞は、DEFB1遺伝子を担持する発現ベクターによってトランスフェクトされるであろう。外因性DEFB1遺伝子を発現する細胞を選択およびクローニングするであろう。生存率>90%の単一細胞懸濁液のみを用いる。各動物に対し、約500,000個の細胞を雌性ヌードマウスの右側腹部に皮下投与する。ベクターのみのクローンを注射された対照群およびDEFB1を過剰発現するクローンを注射された群の2群がある。統計学者の決定に従い、各群マウス35匹とする。動物は週2回体重測定し、キャリパーで腫瘍増殖をモニタリングし、さらに以下の式を用いてに腫瘍体積を測定する:体積=0.5×(幅)2×長さ。全ての動物は、腫瘍のサイズが2mm3に達した時または移植より6ヶ月後にCO2過剰投与によって屠殺し;腫瘍を切除し、秤量し、病理検査のために中性緩衝化ホルマリンに保存する。腫瘍の増殖の群間差を、要約統計量および図面表示により記述的にキャラクタライゼーションする。統計的有意性は、t検定またはノンパラメトリックな同等法のいずれかで評価する。
【実施例16】
【0221】
(インビボにおけるPAX2 siRNAの腫瘍増殖に対する影響)
インビトロ試験で用いたヘアピンPAX2 siRNA鋳型オリゴヌクレオチドを用いて、インビボでDEFB1発現アップレギュレーションの影響を検討する。センスおよびアンチセンス鎖(表3参照)をアニーリングし、ヒトU6 RNA pol IIIプロモーターの制御の下で、pSilencer2.1 U6 hygro siRNA発現ベクター(Ambion)にクローニングする。クローン化プラスミドをシーケンシングし、検証し、さらに乳癌細胞株にトランスフェクトする。スクランブルshRNAをクローニングし、本試験における陰性対照として用いる。ハイグロマイシン耐性コロニーを選択し、マウスに細胞を皮下導入し、さらに腫瘍の増殖を上述の通りにモニタリングする。
【実施例17】
【0222】
(小分子量PAX2結合阻害剤の乳癌細胞に対する影響)
実施例6に記載された代替的な阻害性オリゴヌクレオチドは、Lipofectamine試薬またはCodebreakerトランスフェクション試薬(Promega Inc.)を用いて乳癌細胞にトランスフェクトされるであろう。DNA−タンパク質相互作用を確認するために、2本鎖オリゴヌクレオチドを[32P]dCTPで標識し、電気泳動移動度シフト分析を実施する。オリゴヌクレオチド処理後にQRT−PCRおよびウェスタン分析によりDEFB1発現をモニタリングするであろう。最後に、前述のようにMTTアッセイおよびフローサイトメトリーにより細胞死を検出するであろう。
【0223】
上記の記載は、当業者に対して本発明をどのように実践するか教示することを目的としており、当業者が本記述を読む際に明白となるであろうそれらの明白な変更およびその変法の詳細を述べることは意図していない。しかし、全てのそのような明白な変更および変法は、以下の請求項に定義される本発明の範囲内に含まれることを意図する。請求項は、文脈が具体的に反対のことを示さない限り、そこに意図された目的にかなうために有効なあらゆる順序にある請求された構成要素および手順を包含することを意図する。
【技術分野】
【0001】
(関連出願とのクロスリファレンス)
本明細書は、2009年8月24日に出願した米国特許出願番号第12/546,292号の優先権を主張する。前述の明細書の全文は本明細書に参照文献として援用される。
【0002】
本明細書は全般的に医学的診断に関し、かつ具体的には多様な組織における癌状態を診断するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
乳癌は、米国において女性の癌の最も多い原因でありかつ2番目に多い女性の癌死亡原因である。新規乳癌の大多数はマンモグラム上に異常が見られた結果として診断される一方、乳房組織における塊または硬さの変化も疾患の警戒徴候となることがある。過去数十年間の乳癌リスクに対する認識の高まりによって、スクリーニングを目的としたマンモグラフィを受ける女性の数が増加し、より早いステージでの癌の検出および結果としての生存率の改善につながっている。それでもなお、乳癌は45〜55歳の女性における最も多い死因である。
【0004】
乳癌はいくつかのステージに分類することができる。ステージ0は原位置癌である(小葉癌および腺管癌を含む)。ステージIは浸潤性乳癌の初期ステージである。腫瘍は直径が2センチ以下である。癌細胞は乳房外に拡散しない。ステージII腫瘍は、直径は2センチ以下であるが腋窩リンパ節に拡散した腫瘍、2〜5センチであってかつ腋窩リンパ節に拡散した可能性のある腫瘍、および5センチ(2インチ)よりも大きいが腋窩リンパ節に拡散していない腫瘍を含む。ステージIIIは局所的に進行した癌である。さらにステージIIIA、IIIBおよびIIICに分類される。ステージIVは遠隔転移癌である。癌は身体の他の部分に拡散している。初期ステージ治療の選択肢は後期ステージの選択肢と異なる。
【0005】
多くの種類の癌が遺伝子の異常、すなわち突然変異によって引き起こされることが知られている。突然変異の蓄積および細胞の制御機能の低下は、正常な組織像から上皮内腫瘍(IEN)などの初期前癌、徐々に重度のIEN、表層癌さらに最終的に浸潤性疾患へと進行性の表現型変化を引き起こす。一部の症例においてはこの過程が比較的急激であることがあるものの、概して数年、さらには数十年にわたって比較的緩やかに発生する。癌遺伝子依存は、癌細胞が悪性表現型を維持するために単一癌遺伝子の持続的活性化または過剰発現に生理的に依存することである。この依存は、腫瘍進行を特徴付ける他の変化の状況において発生する。
【0006】
浸潤性癌への長い進行期間は臨床的介入の機会を提供する。したがって、浸潤性癌の発生を予防または遅延させるための治療手段を取ることができるよう、前癌状態を示すバイオマーカーを特定することが重要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの態様は、対象における乳癌状態をモニタリングするための方法に関する。方法は、ペアードボックス2遺伝子対βディフェンシン−1遺伝子(PAX2対DEFB1)の発現比率が乳房状態と相関しかつ治療の過程を決定するために用いられる予後決定因子として役立ちうることを特徴とする、対象の乳房から採取した細胞のPAX2対DEFB1発現比率を測定することを含む。
【0008】
1つの実施形態においては、100:1またはそれ以上のPAX2対DEFB1発現比率は対象における乳癌の存在を示し、かつ100:1未満のPAX2対DEFB1発現比率は対象における非癌または前癌乳房状態の存在を示す。
【0009】
他の実施形態においては、測定する手順は対照遺伝子の発現レベルに対するPAX2遺伝子の発現レベルを測定すること、同対照遺伝子の発現レベルに対するDEFB1遺伝子の発現レベルを測定すること;およびPAX2およびDEFB1の発現レベルに基づいてPAX2対DEFB1発現比率を測定することを含む。
【0010】
1つの実施形態においては、方法は乳房状態を有する乳房組織より採取した細胞におけるエストロゲン受容体/プロゲステロン受容体/ヒト上皮成長因子受容体(ER/PR/HER2)の状態を測定することをさらに含む。
【0011】
本発明の他の態様は、乳房状態をモニタリングするためのキットに関する。1つの実施形態においては、乳房状態をモニタリングするためのキットは:組織サンプルにおけるPAX2発現を検出するための1つまたはそれ以上のオリゴヌクレオチドプライマー対、組織サンプルにおけるDEFB1発現を検出するための1つまたはそれ以上のオリゴヌクレオチドプライマー対、およびプライマーを用いて組織サンプルにおけるPAX2対DEFB1発現比率を測定する方法についての説明書を含む。他の実施形態においては、PAX2発現を検出するための1つまたはそれ以上のオリゴヌクレオチドプライマー対は、配列番号:43および47、配列番号:44および48、ならびに配列番号:45および49からなる群より選択される1つのオリゴヌクレオチドプライマー対を含む。他の実施形態においては、配列番号:35および37を含むDEFB1発現を検出するための1つまたはそれ以上のオリゴヌクレオチドプライマー対。
【0012】
他の実施形態においては、キットはさらに1つまたはそれ以上の対照オリゴヌクレオチドプライマー対を含む。1つの実施形態においては、1つまたはそれ以上の対照オリゴヌクレオチドプライマー対は、βアクチン発現の発現を検出するためのオリゴヌクレオチドプライマーを含む。好ましい実施形態においては、βアクチン発現の発現を検出するためのオリゴヌクレオチドプライマーは配列番号34および36を含む。
【0013】
他の実施形態においては、1つまたはそれ以上の対照オリゴヌクレオチドプライマー対はGAPDH発現の発現を検出するためのオリゴヌクレオチドプライマーを含む。好ましい実施形態においては、GAPDH発現の発現を検出するためのオリゴヌクレオチドプライマーは配列番号42および46を含む。
【0014】
他の関連する実施形態においては、キットはさらに1つまたはそれ以上のPCR反応用試薬を含む。
【0015】
さらに他の実施形態においては、キットはさらに1つまたはそれ以上のRNA抽出用試薬を含む。
【0016】
他の実施形態においては、乳房状態をモニタリングするためのキットはPAX2およびDEFB1発現を検出するためのオリゴヌクレオチドプローブを有するオリゴヌクレオチドマイクロアレイ、およびオリゴヌクレオチドマイクロアレイを用いて組織サンプルにおけるPAX2対DEFB1発現比率を測定する方法についての説明書を含む。
【0017】
関連する実施形態においては、キットは組織サンプルよりRNAを抽出するための試薬をさらに含む。
【0018】
本発明の他の態様は、乳房状態を有する対象のための治療レジメンを決定するための方法に関する。方法は、前記対象の乳房状態を有する乳房組織より採取した細胞における対照遺伝子の発現レベルに対するPAX2遺伝子の発現レベルを測定し、かつPAX2遺伝子の相対的発現レベルに基づいて前記対象のための治療レジメンを決定する手順を含む。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本明細書に組み入れられかつその一部を構成する付属の図面は、開示された方法および構成要素の一定の実施形態を記載と共に例示し、開示された方法および構成要素の原理を説明するのに役立つ。
【0020】
【図1A−C】βディフェンシン−1(DBFB1)発現の定量的RT−PCR(QRT−PCR)分析を示す。DEFB1発現の導入を検証するためにQRT−PCRを実施した。図1Aは、根治的前立腺摘除術を受けた6例の患者より採取した臨床サンプルにおいて比較したDEFB1相対発現レベルを示す。図1Bは、DEFB1導入前後の良性および悪性前立腺臨床サンプル、hPrEC細胞ならびに前立腺細胞株において比較したDEFB1相対発現レベルを示す。図1Cは、単一の組織切片内にある良性組織、悪性組織、および前立腺上皮内腫瘍(PIN)において分析したDEFB1相対発現レベルを示す。
【図1D】図1Dは、良性組織に認められる平均DEFB1発現レベルと比較した、1例の患者における良性組織、悪性組織およびPIN組織DEFB1発現を示す。
【図2】膜完全性および細胞形態のDEFB1誘導性変化の顕微鏡分析を示す。48時間のDEFB1導入後にDU145、PC3およびLNCaPの細胞形態を位相差顕微鏡検査により分析した。膜ラフリングは黒い矢印で示され、かつアポトーシス小体は白い矢印で示される。
【図3】前立腺癌細胞におけるDEFB1細胞毒性の分析を示す。前立腺細胞株DU145、PC3およびLNCaPをPonAで1〜3日間処理してDEFB1発現を誘導し、その後MMT分析を実施して細胞の生存率を測定した。結果は平均±標準偏差、n=9に相当する。
【図4A】DU145およびPC3細胞におけるDEFB1による細胞死の誘導を示す。前立腺細胞株DU145(A)およびPC3(B)においてDEFB1発現を誘導し、さらにその後アネキシンV/FITC/ヨウ化プロピジウム染色およびフローサイトメトリー分析を実施した。ヨウ化プロピジウムおよびアネキシンV陽性の細胞をアポトーシス細胞と見なした。各パネルの下に誘導時間を示す。各測定時点のボックスの隣の数字はヨウ化プロピジウム(PI)−アネキシンV+細胞の割合(右下象限)およびPI+アネキシンV+細胞(右上象限)を示す。データは異なる3つの実験を代表する1回の実験に由来する。
【図4B】同上
【図5A−H】DEFB1導入後のパンカスパーゼ分析を示す。DU145およびPC3細胞をFAM−VAD−FMK標識フルオロメチルケトンで染色し、カスパーゼ活性を検出した。細胞は各条件においてDIC下で可視であった。共焦点顕微鏡分析では、対照DU145(B)、PC3細胞(F)およびLNCaP(J)のカスパーゼ染色は判明しなかった。PonAで24時間処理してDEFB1を誘導した細胞は、DU145(D)およびPC3(H)においてカスパーゼ活性を示した。LNCaP(L)ではカスパーゼ活性が検出されなかった。
【図5I−L】同上
【図6】PAX2 siRNA処理後のペアードボックスホメオチック遺伝子2(PAX2)タンパク質発現のサイレンシングを示す。図6Aは、PAX2 siRNAデュプレックスをトランスフェクトしたPC3およびDU145細胞の0日目(レーン1)、2日目(レーン2)および4日目(レーン3)のウェスタンブロット分析を示す。図6Bは、PAX2 siRNAデュプレックスをトランスフェクトしたPC3およびDU145細胞の0日目(レーン1)、2日目(レーン2)、4日目(レーン3)および6日目(レーン4)のウェスタンブロット分析を示す。PAX2タンパク質は、DU145細胞で処理より4日後(レーン3)およびPC3で処理より6日後と早期に検出不可能となった。ブロットを剥離し、内部対照としてのβアクチンについてリプローブした。
【図7】PAX2 siRNA処理後の前立腺癌細胞増殖の分析を示す。通常の増殖培地の存在下における6日目のDU145、PC3およびLNCaPの位相差顕微鏡分析。陰性対照siRNAによる処理は細胞に影響を示さなかった。しかし、PAX2 siRNAによる処理後には、3つ細胞株の全てに有意な細胞数減少があった。
【図8】PAX2のsiRNAサイレンシング後の細胞死の分析を示す。前立腺癌細胞株PC3、DU145およびLNCaPを、4つのPAX2 siRNAまたは4つの非特異的対照siRNAのプール0.5μgで2、4または6日間処理し太後、細胞生存率を測定するためにMTTアッセイを行った。結果は平均±標準偏差、n=9に相当する。
【図9】カスパーゼ活性の分析を示す。DU145、PC3およびLNCaP細胞をカルボキシフルオレセイン標識フルオロメチルケトンで染色し、PAX2 siRNA処理後のカスパーゼ活性を検出した。未処理および処理細胞の共焦点顕微鏡分析により、細胞がDICで可視であったことが示される。蛍光下での分析では対照DU145(B)、PC3細胞(F)およびLNCaP(J)のカスパーゼ染色は示されなかった。しかし、PAX2 siRNA処理した細胞はDU145(D)、PC3(H)およびLNCaP(L)においてカスパーゼ活性を誘導した。
【図10】PAX2 siRNA処理後のアポトーシス因子の分析を示す。未処理対照細胞およびPAX2 siRNAで6日間処理した細胞において、プロアポトーシス因子の発現の変化を比較した。図10Aは、DU145、PC3およびLNCaPにおいてBcl−2関連Xタンパク質(BAX)の発現レベルが増加したことを示す。図10Bは、DU145およびLNCaPにおいてBH3共役ドメインデスアゴニスト(BID)発現が増加したがPC3では変化したことを示す。図10Cは、3つの細胞株全てにおいてBcl−2関連デスプロモーター(BAD)の発現レベルが増加したことを示す。
【図11】PAX2とDNA認識配列の結合のモデルを示す。PAX2転写リプレッサーは、DEFB1 TATAボックスの直近のCCTTG(配列番号1)認識部位と結合し、かつ転写およびDEFB1タンパク質発現を妨害する。PAX2タンパク質発現の阻害により正常なDEFB1発現が可能となる。
【図12】DEFB1リポーター構築物を例示する。mRNA開始部位より上流の始めの160塩基から構成されるDEFB1プロモーターをDU145細胞からPCR増幅し、pGL3ルシフェラーゼリポータープラスミドにライゲーションした。
【図13】PAX2を阻害するとDEFB1が発現することを示す。DU145、PC3、LNCaPおよびHPrECをPAX2 siRNAで48時間処理した。処理前のQRT−PCR分析ではDU145、PC3およびLNCaPのDEFB1発現は示されなかった。しかし、全ての細胞株において処理後にDEFB1発現が回復した。PAX2欠損HprECのsiRNA処理後にDEFB1発現の変化はなかった。
【図14】PAX2阻害によってDEFB1プロモーター活性が増加することを示す。PC3プロモーター/pGL3およびDU145プロモーター/pGL3構築物を作製し、さらにそれぞれPC3およびDU145細胞にトランスフェクトした。siRNAによるPAX2阻害の前後のプロモーター活性を比較した。処理後のDEFB1プロモーター活性はDU145で2.65倍およびPC3で3.78倍増加した。
【図15A】DEFB1プロモーターと結合したPAX2のChIP分析を示す。DU145およびPC3細胞に対してChIP分析を実施した。抗PAX2抗体による免疫沈降後、PCRを実施してGTTCC(配列番号2)PAX2認識部位を含むDEFB1プロモーター領域を検出した。これにより、前立腺癌細胞株においてPAX2転写リプレッサーがDEFB1プロモーターと結合することが証明される。
【図15B】同上
【図16】DNAを有するPrdPDおよびPrdHDの予測構造を示す。DNAと結合したPrdPD(Xu et al.,1995)とDNAと結合したPrdHD(Wilson et al.,1995)の構造の座標を用い、2つのドメインがPH0部位と結合した際のそのモデルを構築した。個々の結合部位は指定された特定の向きで相互に隣接する。REDドメインは、PrdPD結晶構造に基づいて向きを決めた。
【図17】異なるペアードドメインのコンセンサス配列の比較を示す。図面の上部には、Prd−ペアードドメイン±DNA複合体の結晶構造分析で報告されているタンパク質±DNA接点の模式図を示す。白いボックスはaヘリックスを示し、網掛けボックスはb−シート、太線はb−ターンを示す。接触するアミノ酸は1文字コードで示す。直接的アミノ酸±塩基接点のみを示す。白丸は主溝接点を示す一方、赤い矢印は副溝接点を示す。このスキームを、ペアードドメインタンパク質の全既知のコンセンサス配列と整合する(トップスストランドのみを示す)。コンセンサス配列間の縦線は保存塩基対を示す。図の下部に位置番号を示す。
【図18】化学予防戦略としてのPAX2のターゲティングを示す。異常PAX2発現は、癌発生および進行の初期事象である。異形成または他の前癌段階中のPAX2阻害を癌予防のために用いることができる。
【図19】アンジオテンシンII(AngII)がDU145細胞のPAX2発現に及ぼす効果を示す。PAX2発現に対するAngIIの効果を測定するために、処理後のDEFB1タンパク質レベルをモニタリングした。この場合、PAX2発現レベルは4時間と早期に上昇し、48時間まで持続した。
【図20】図20Aは、DU145におけるPAX2発現に対するロサルタン(Los)の効果を示す。DU145細胞をアンジオテンシンIIタイプ1受容体(ATR1)遮断剤ロサルタンで処理した。QRT−PCRにより、処理後にPAX2メッセージレベルが少なくとも2分の1低下することが明らかとなった。図20Bは、DU145細胞におけるアンジオテンシンIIタイプ2(ATR2)阻害剤のPAX2発現への効果を示す。ATR2受容体のPAX2発現に対する効果を測定するため、DU145細胞をATR2受容体遮断剤PD123319で処理した。この場合、PAX2発現は7から8倍上昇した。
【図21】DU145においてLosがPAX2発現に対するAngIIの効果を遮断することを示す。DU145細胞を5μMのAngIIで72時間処理したところPAX2発現が2倍上昇した。さらに、10μMで72時間処理したところ発現は3倍以上上昇した。細胞を5μMロサルタンで処理したところ、増殖が50%抑制された。さらに、AngIIで処理する30分前にロサルタンで処理したところ、増殖に対するAngIIの効果が阻害された。
【図22】AngIIがDU145細胞増殖を増加させることを示す。DU145細胞を5μMのAngIIで72時間処理したところ増殖が2倍上昇した。さらに、10μMで72時間処理したところ増殖が3倍以上上昇した。
【図23】DU145細胞におけるLosおよびMAPキナーゼ阻害剤のPAX2発現に対する効果を示す。図23AはDU145細胞をロサルタンで処理するとホスホ−ERK1/2およびPAX2発現が抑制されることを示し;図23BはMEKキナーゼ阻害剤およびAICARがPAX2タンパク質発現を抑制することを示し;図23CはMEKキナーゼ阻害剤およびロサルタンがホスホ−STAT3タンパク質発現を抑制することを示す。
【図24】DU145細胞におけるLosおよびMEKキナーゼ阻害剤のPAX2活性化に対する効果を示す。図24Aは、DU145細胞をAT1Rシグナリング阻害物質で処理したところPAX2の活性型であるホスホ−PAX2タンパク質レベルが低下したことを示す。さらに、AMPキナーゼ誘導薬AICARで処理することによりPAX2発現が阻害された。図24Bは、AT1RシグナリングをLosで阻害したところホスホ−JNKレベルが低下したことを示す。しかし、AngIIはホスホ−JNKタンパク質レベルを上昇させた。
【図25】hPrEC細胞においてAngIIがPAX2を増加しかつDEFB1発現を減少することを示す。hPrECにおけるAngIIのPAX2レベルに対する効果を測定するために、細胞を72および96時間処理し、さらにPAX2およびDEFB1発現をQRT−PCRで検討した。この場合、AngII処理によってPAX2がPC3前立腺癌細胞と同様のレベルまで劇的に増加した。逆に、DEFB1発現はAngII処理後に有意に減少した。
【図26】AngIIシグナリングおよびPAX2前立腺癌の模式図を示す。前立腺癌細胞におけるPAX2発現は、AT1Rシグナリング経路によって調節される。具体的には、MEKキナーゼシグナリングカスケードはPAX2発現の増加につながる。さらに、AT1RおよびAngIIはJNKを介してPAX2をアップレギュレートする。
【図27】前立腺癌に対する治療法としてのPAX2発現遮断の模式図を示す。図27Aは、PAX2発現がAT1Rシグナリング経路によって調節されることを示す。PAX2発現を阻害するとDEFB1の再発現および癌細胞死が発生する。図27Bは下流のキナーゼAT1Rを遮断するか、またはPAX2を直接抑制する化合物が、前立腺癌を治療するための新規手法を提供することを示す。
【図28】DEFB1およびPAX2発現とグリーソンスコアの比較を示す。根治的前立腺摘除術を受けた6例の患者からの良性臨床サンプルにおいてDEFB1の相対発現レベルを比較した。この場合、グリーソンスコアは隣接する良性前立腺組織においてDEFB1発現レベルと逆相関した。相対DEFB1発現レベルが0.005を上回る患者のグリーソンスコアは6であった。しかし、発現レベルが0.005未満の者のグリーソンスコアは7であった。
【図29A】前立腺癌発生の予測因子としてのPAX2−DEFB1比率を示す。レーザーキャプチャーマイクロダイセクション(LCM)前立腺癌切片に対してQRT−PCRを実施し、相対的なDEFB1およびPAX2の発現レベルを測定した。DEFB1発現レベルは、正常からPIN、癌に向かって低下する。しかし、PAX2発現は正常からPINから癌に向かって増加する。さらに、グリーソンスコア6の癌の患者番号1457は、グリーソンスコア7の癌の患者番号1569と比較して、正常組織およびPIN内のDEFB1が多かった。逆に、患者番号1569は患者番号1457と比較して癌領域のPAX2レベルが高かった。
【図29B】同上
【図30】ドナルド予測係数(DPF)が相対PAX2−DEFB1発現比率に基づいていることを示す。前立腺組織のDPFが上昇すると前立腺癌が発生する確率が増加する。DPFに基づくPAX2−DEFB1比率が0〜39の組織は正常(良性)であった。PAX2−DEFB1比率が40〜99の組織は、DPFスケールに基づくPIN(前癌)を呈していた。最後に、PAX2−DEFB1比率が100〜500の組織は悪性(低から高グレードの癌)であった。
【図31】ヒト前立腺組織におけるhBD−1発現の分析を示す。根治的前立腺摘除術を受けた患者からの正常臨床サンプルにおいてhBD−1の相対発現レベルを比較した。破線は、肉眼的切除検体とLCM由来検体の間で得られた値を比較するための基準点として使用し、対応するグリーソンスコアを各棒グラフの上に示す。図31Aは、肉眼的切除で得られた組織において比較したhBD−1発現レベルを示す。図31Bは、レーザーキャプチャーマイクロダイセクションによって得られた組織において比較したhBD−1発現レベルを示す。
【図32】前立腺細胞株におけるhBD−1発現の分析を示す。図32Aは、hBD−1誘導前後の前立腺癌細胞株における、hPrEC細胞に対して比較したhBD−1発現レベルを示す。アスタリスクはhPrECと比較して統計的に高い発現レベルを示す。二重アスタリスクは、hBD−1誘導前の細胞株と比較して統計的に有意な水準の発現を示す(Studentのt検定、p<0.05)。図32Bは免疫細胞化学検査によって前立腺癌細胞株DU145において検証した異所性hBD−1発現を示す。hPrEC細胞を、陽性(ポジティブ)対照としてのhDB−1について染色した(a:DICおよびb:蛍光)。DU145細胞をhBD−1でトランスフェクトし、18時間誘導した(c:DICおよびd:蛍光)。スケールバー=20μM。
【図33】前立腺細胞におけるhBD−1細胞毒性の分析を示す。前立腺細胞株DU145、PC3、PC3/AR+およびLNCaPをPonAで1〜3日間処理してhBD−1発現を誘導し、その後MMTアッセイを実施して細胞の生存率を測定した。各棒グラフは、3回ずつ実施した独立した3つの実験の平均±標準誤差を示す。
【図34A】ヒト前立腺正常、PINおよび腫瘍のLCM組織切片におけるhBD−1およびcMYC発現のQRT−PCR分析を示す。各遺伝子の発現はβアクチンと比較した発現比率として示す。図34Aは正常、PINおよび腫瘍切片におけるhBD−1発現レベルの比較を示す。図34Bは正常、PINおよび腫瘍切片におけるcMYC発現レベルの比較を示す。
【図34B】同上
【図35】siRNAを用いたPAX2ノックダウン後のhBD1発現のQRT−PCR分析を示す。hBD−1発現レベルはβアクチンと比較した発現比率として示す。アスタリスクは、PAX2 siRNA処理前の細胞株と比較して統計的に高い発現水準を示す(Studentのt検定、p<0.05)。
【図36】PAX2 siRNA処理後のPAX2タンパク質発現のサイレンシングを示す。図36Aは、ウェスタンブロット分析によって検討したHPrEC前立腺一次細胞(レーン1)およびDU145(レーン2)、PC3(レーン3)およびLNCaP(レーン4)前立腺癌細胞におけるPAX2発現を示す。ブロットを剥離し、内部対照としてのβアクチンについてリプローブして装填が均一であることを確認した。図36Bは、DU145、PC3およびLNCaPのウエスタンブロット分析のいずれでも、PAX2 siRNAデュプレックスによるトランスフェクト後のPAX2発現のノックダウンが確認されたことを示す。ブロットを再度剥離し、内部対照としてのβアクチンについてリプローブした。
【図37】PAX2 siRNA処理後の前立腺癌細胞の増殖の分析を示す。通常のネガティブコントロール非特異的siRNAの存在下における6日目のHPrEC(A)、LNCaP(C)、DU145(E)およびPC3(G)の位相差顕微鏡分析。PAX2 siRNAによる処理の後には、DU145(D)、PC3(F)およびLNCaP(H)において細胞数の有意な減少があった。しかし、HPrEC(B)においては影響がなかった思われた。バー=20μM。
【図38】PAX2のsiRNAサイレンシング後の細胞死の分析を示す。前立腺癌細胞株PC3、DU145およびLNCaPをPAX2 siRNAまたは非特異的陰性対照siRNAで2、4または6日間処理し、その後MTTアッセイを実施した。PAX2のノックダウンにより、3つの細胞株全てにおいて相対細胞生存率が低下した。結果は平均±標準偏差、n=9に相当する。
【図39】カスパーゼ活性の分析を示す。DU145、PC3およびLNCaP細胞をカルボキシフルオレセイン標識フルオロメチルケトンで染色し、PAX2 siRNA処理後のカスパーゼ活性を検出した。蛍光分析では対照DU145(A)、PC3細胞(C)およびLNCaP(E)のカスパーゼ染色は示されなかった。しかし、PAX2 siRNA処理した細胞はDU145(B)、PC3(D)およびLNCaP(F)においてカスパーゼ活性を誘導した。バー=20μm。
【図40】PAX2 siRNA処理後のアポトーシス因子の分析を示す。未処理対照細胞およびPAX2 siRNAで6日間処理した細胞において、プロアポトーシス因子の発現の変化を比較した。図40Aは、DU145,PC3およびLNCaPにおけるPAX2ノックダウン後にBAD発現が上昇したことを示す。図40Bは、BID発現レベルがLNCaPおよびDU145において上昇したがPC3細胞では上昇しなかったことを示す。図40Cは、LNCaPおよびDU145においてAKT発現が低下したことを示す。しかし、PAX2ノックダウン後のPC3細胞のAKT発現に変化はなかった。結果は平均±標準偏差、n=9を表す。アスタリスクは統計的な差を示す(p<0.05)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
特に規定しない限り、本明細書で用いられる全ての技術的および科学的用語は、開示された方法および構成要素が属する技術分野における通常の知識を有する者によって共通して理解されるところと同じ意味を有する。本明細書および付属の請求項に用いるところの単数形「1つの」および「その」は、文脈によって明確に指示されない限り複数の内容を含む。したがって、たとえば、「1つのペプチド」への言及は複数のそのようなペプチドを含み、「そのペプチド」への言及は1つまたはそれ以上のペプチドおよび当業者に既知であるその同等物への言及である、などである。
【0022】
本発明の1つの態様は、癌の発生をモニタリングするための方法に関する。一定の実施形態においては、方法は、対象の前立腺または乳房における上皮内腫瘍などの前癌状態、および癌状態のモニタリングに関する。方法は、ペアードボックス2遺伝子対βデフェンシン−1遺伝子(PAX2対DEFB1)の発現比率が前立腺または乳房の状態と相関することを特徴とする、対象の前立腺または乳房から採取した細胞におけるPAX2対DEFB1の発現比率を測定することを含む。遺伝子発現比率はmRNAレベルで(例:RT−PCRまたはオリゴヌクレオチドアレイによる)またはタンパク質レベルで(例:ウェスタンブロットまたは抗体アレイ)測定してもよい。
【0023】
一定の実施形態においては、PAX2対DEFB1発現比率はmRNAレベルで測定し、本明細書においては「ドナルド予測係数」または「DPF」と呼ばれる。
【0024】
一定の実施形態においては、前立腺のPAX2対DEFB1発現比率(mRNAレベルで測定)は対象において正常、前癌性および癌性前立腺状態の間で識別するために用いられる。1つの実施形態においては、40:1未満のPAX2対DEFB1比率は正常な前立腺状態を示し、少なくとも40:1から100:1未満のPAX2対DEFB1比率は前立腺上皮内腫瘍(PIN)を示し、かつ少なくとも100:1のPAX2対DEFB1比率は前立腺癌を示す。
【0025】
対象における前立腺癌を診断するための方法も提供される。方法は、PAX2対βディフェンシン−1(DEFB1)の比率が少なくとも100:1であることを特徴とする、対象の前立腺からの細胞においてPAX2およびDEFB1レベルを検出することを含む。
【0026】
対象における前立腺上皮内腫瘍(PIN)を診断する方法も提供される。方法は、PAX2対DEFB1比率が少なくとも40:1でありかつ100:1未満であることを特徴とする、対象の前立腺からの細胞においてPAX2およびβDEFB1レベルを検出することを含む。
【0027】
他の一定の実施形態においては、乳房における(RNAレベルでの)PAX2対DEFB1発現比率は対象において非癌性(良性および/または前癌)乳房状態と癌性乳房状態を識別するために用いられる。1つの実施形態においては、100:1未満のPAX2対DEFB1比率は非癌(正常)状態および/または前癌(乳房上皮内腫瘍(MIN))を示し、少なくとも100:1のPAX2対DEFB1比率は乳癌を示す。
【0028】
対象において乳癌を診断するための方法も提供される。方法は、対象において少なくとも100:1のPAX2対DEFB1比率が乳癌を示すことを特徴とする、対象の乳房からの細胞においてPAX2およびDEFB1レベルを検出することを含む。対象における非癌生乳房状態(正常および/またはMIN)を診断するための方法も提供される。方法は、対象において100:1未満のPAX2対DEFB1比率が非癌乳房状体を示すことを特徴とする、対象の乳房からの細胞においてPAX2およびDEFB1のレベルを検出することを含む。
【0029】
1つの実施形態においては、方法は乳房状態を有する乳房組織より採取したエストロゲン受容体/プロゲステロン受容体(ER/PR)の状態を測定することをさらに含む。乳房組織のER/PR状態を、同一組織のPAX2対DEFB1比率と共に、対象の乳房状態の測定に用いてもよい。
【0030】
これ以降用いるところの用語「乳房上皮内腫瘍」は小葉上皮内腫瘍および腺管上皮内腫瘍を含む。
【0031】
本発明のモニタリングおよび診断方法は、臨床家に対して開始した組織または前癌組織についての予後決定因子を提供する。この検査の候補は(年齢、人種に基づく)癌のリスクの高い患者を含む。診断として、PAX2検査が次に陽性または陰性となった後でバイオマーカーによる追加的スクリーニングを実施して癌の部位を決定することができる。さらに、これらの患者はPAX2/DEFB1モジュレーターによる治療の候補とすることができる。代替的に、この検査をその癌治療法の有効性の指標として患者(すなわちトリプルネガティブ乳癌の者)に対して用いて、治療経過を決定するか、または癌の再発をモニタリングすることができる。
【0032】
他の例として、臨床家による直腸指診時の前立腺内結節の検出といった癌の潜在的な指標を呈した患者、またはPSAの突発的上昇を経験した者は、しばしば「監視すべき待機」状態にある。これらの患者が癌を発症しているか、あるいはこれから発症するか確認することはしばしば困難である。これらの患者からの血漿/血清などのサンプル中のPAX2対DEFB1比率の検出を、前立腺癌が疑われる男性からの生検資料の採取の決定を支援するために用いることが可能であり、これは不必要な前立腺生検件数の減少、および患者の疾患へのより早い介入につながる。
【0033】
(前立腺癌)
現在、前立腺癌スクリーニングは直腸診および前立腺特異抗原(PSA)レベルの測定からなる。直腸指診には相当な検査者間変動があり、かつPSAレベルは良性前立腺肥大(BPH)、前立腺炎および他の疾患において上昇することもあるため、これらの方法は特異性に欠ける。
【0034】
前立腺癌はグリーソンシステムを用いてスコアリングすることができる(Gleason et al.,1966)。これは細胞学的性質ではなく組織構成を用いる。1から5の等級を用い(良好から低分化度)を用い、最も頻繁かつより重度な病変領域の合計スコアを合計する。グリーソンスコアは、腫瘍ステージの評価(ステージング)の他にも有用となりうる予後情報を提供する。2〜4および8〜9のグリーソンスコアは良好な予測値を有するが、腫瘍の約3/4は中間的な数値を有する。
【0035】
前立腺癌のステージングには2種類の主要なシステム:TNMおよびジュウェットシステムを用いる(Benson and Olsson et al.,1989)。ステージングは腫瘍のあらゆる転移的な拡散を評価することを考慮し、かつ局所リンパ節転移であるかまたは局所的浸潤であるか評価することが困難であることから、これは困難である。肉眼で腫瘍組織を正常組織から識別することが難しく、かつ前立腺は明瞭な皮膜がなく線維脂肪組織層に囲まれているため、腫瘍のサイズを測定することも難しい。
【0036】
前立腺腫瘍(T)のステージはT1からT4までの4つのカテゴリーで表される。T1については、癌は顕微鏡的、片側性かつ触診不可能である。医師は腫瘍を触知することも、あるいは経直腸超音波検査などの撮影によって見ることもできない。BPHの治療によって疾患が明らかになることもあれば、PSAの上昇が原因で実施した針生検で確認されることもある。T2については、医師はDREにより癌を触知することができる。疾患は片側または両側前立腺に限局されると思われる。T3については、癌は前立腺のすぐ外側の組織まで進行している。T4については、癌は身体の他の部分に拡散している。
【0037】
したがって、現行のスクリーニング方法では不満足であり;前立腺癌を診断する、または大半の患者で主な死因となるその転移的拡散の可能性を予測または予防するための信頼できる方法がない。
【0038】
(乳癌)
乳癌のために一般的に用いられるスクリーニング法は自己および臨床的乳房検査、X線マンモグラフィ、および乳房磁気共鳴影像法(MRI)である。乳癌スクリーニングを目的とした最新技術は、X線マンモグラフィに用いられる危険な放射線照射を用いることなく、音波を用いて3次元画像を作製しかつ乳癌を検出する超音波コンピューター断層撮影法である。遺伝子検査を用いることもある。乳癌の遺伝子検査は、典型的にはBRCA遺伝子における突然変異の検査を包含する。乳癌のリスクが高い者を除き、一般的に推奨される技術ではない。
【0039】
米国において、女性に最も多い死因の1つである乳癌の発生率はこの30年の間に徐々に増加している。乳癌の病因が不明である一方で、特に30歳未満の女性では、正常乳房上皮の悪性表現型へのトランスフォーメーションは遺伝的因子の結果であることもある(Miki et al.,1994,Science,266:66−71)。最近では、BRCA1およびBRCA2の発見およびキャラクタライゼーションによって家族性乳癌に寄与することのある遺伝的因子についての我々の知見が拡大している。これら2つの座位内における生殖細胞系突然変異は、乳癌および/または卵巣癌の障害リスクの50〜85%と関連している(Casey,1997,Curr.Opin.Oncol.9:88−93;Marcus et al.,1996,Cancer 77:697−709)。しかし、他の非遺伝的因子も疾患の病因に対して著しい影響を有する可能性がある。その由来にかかわらず、乳癌がその進行における初期に検出されない場合、その罹患率および死亡率は有意に上昇する。したがって、乳房組織における細胞のトランスフォーメーションおよび腫瘍形成の早期検出には相当な労力が集中されている。
【0040】
現在、乳癌を鑑別するための主な方法は高密度腫瘍組織の存在の検出を介する。これは、乳房の外部の直接的検査によって、もしくはマンモグラフィまたは他のX線撮像法によって、異なる有効性の度合いで達成されうる(Jatoi,1999,Am.J.Surg.177:518−524)。しかし、後者の手法は相当な費用を伴う。マンモグラフを撮影するたびに、患者は検査時に用いる放射線の電離性によって乳房腫瘍が誘発されるというわずかなリスクを負う。さらに、当該プロセスは高価でありかつ技術者の主観的解釈が不正確さにつながることがあり、たとえばある研究では、調査対象の放射線科医群が1組のマンモグラムを個別に解釈したところ約3分の1に大きな臨床的不一致があったことが示されている。さらに、多くの女性がマンモグラムの受診は苦痛を伴う経験であると見なしている。したがって、米国国立癌研究所は、50歳未満の女性はこれより年長の女性ほど乳癌を発症する可能性が高くないので、この集団に対してマンモグラムを推奨していない。しかし、50歳未満の女性に発生する乳癌はわずかに約22%であるものの、閉経前女性における乳癌の方が悪性度が高いことがデータより示唆されていることは認めざるを得ない。
【0041】
(PAX2)
PAX遺伝子は、核転写因子をコードする9つの発生制御遺伝子のファミリーである。胚形成において重要な役割を果たし、かつ非常に整然とした時間的および空間的パターンで発現する。いずれも、進化の過程において高度に保持されるDNA結合ドメインをコードする384塩基対の「ペアードボックス」領域を含む(Stuart,ET et al.,1994)。発生プロセスに対するPAX遺伝子の影響は、PAX遺伝子におけるヘテロ接合性不全にも直接起因すると考えることのできる数多くの天然マウスおよびヒト症候群によって証明されている。PAX2配列はDressler他、1990に示されている。ヒトPAX2タンパク質およびその変異型のアミノ酸配列、さらには当該タンパク質をコードするDNA配列は、配列番号58〜69(配列番号58、ヒトPAX2のエクソン1によりコードされるアミノ酸配列;配列番号59、ヒトPAX2遺伝子プロモーターおよびエクソン1;配列番号60、ヒトPAX2のアミノ酸配列;配列番号61、ヒトPAX2遺伝子;配列番号62、ヒトPAX2遺伝子変異型bのアミノ酸配列;配列番号63、ヒトPAX2遺伝子変異型b;配列番号64、ヒトPAX2遺伝子変異型cのアミノ酸配列;配列番号65、ヒトPAX2遺伝子変異型c;配列番号66、ヒトPAX2遺伝子変異型dのアミノ酸配列;配列番号67、ヒトPAX2遺伝子変異型d;配列番号68、ヒトPAX2遺伝子変異型eのアミノ酸配列;配列番号69ヒトPAX2遺伝子変異型e)。
【0042】
PAX2発現が検出されている癌の例を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
(DEFB1)
βディフェンシンは、上皮および白血球の産生物である広域抗微生物活性スペクトラムを有する陽イオン性ペプチドである。単一遺伝子の産物であるこれら2つのエクソンは上皮表面に発現し、皮膚、角膜、舌、歯肉、唾液腺、食道、腸、腎臓、尿生殖路、および呼吸上皮を含む部位において分泌される。これまで、ヒトにおいては5つの上皮由来βディフェンシン遺伝子が同定およびキャラクタライゼーションされている:DEFB1(Bensch et al.,1995),DEFB2(Harder et al.,1997)、DEFB3(Harder et al.,2001;Jia et al.,2001)、DEFB4およびHE2/EP2。
【0045】
各βディフェンシン遺伝子産物の一次構造は、小さなサイズ、6個のシステインモチーフ、高い正電荷、およびこれらの特性以外は多様性が非常に大きいことを特徴とする。ディフェンシンタンパク質の最も特徴的な性質は、3個のジスルフィド結合ネットワークを形成するその6個のシステインモチーフである。βディフェンシンタンパク質における3個のジスルフィド結合はC1−C5,C2−C4およびC3−C6間にある。隣接するシステイン残基の最も一般的な間隔は6、4、9、6、0である。βディフェンシンタンパク質におけるシステインの間隔は、カルボキシ末端に最も近いC5およびC6を除いて1または2アミノ酸異なることがある。全ての公知の脊椎動物βディフェンシン遺伝子においては、これら2つのシステイン残基は互いに隣接している。
【0046】
βディフェンシンタンパク質の第2の特徴はその小さなサイズである。各βディフェンシン遺伝子はサイズの範囲が59〜80アミノ酸であり平均サイズが65アミノ酸であるプレプロタンパク質をコードする。次に、この遺伝子産物は未知の機構によって開裂され、サイズの範囲が36〜47アミノ酸であり平均サイズが45アミノ酸である成熟ペプチドを作製する。これらの範囲の例外は、βディフェンシンモチーフを含みかつ精巣上体に発現するEP2/HE2遺伝子産物である。
【0047】
βディフェンシンタンパク質の第3の特徴は、高い陽イオン残基濃度である。成熟ペプチドの正電荷残基(アルギニン、リジン、ヒスチジン)の個数の範囲は6〜14であり平均は9である。
【0048】
βディフェンシン遺伝子産物の最後の特徴は、その一次構造は多様であるが三次構造は見かけ上維持されることである。6個のシステイン以外には、このタンパク質ファミリーの全公知メンバーにおいて所与の位置に保持されているアミノ酸はない。しかし、二次および三次構造および機能にとって重要と見られる位置は維持されている。
【0049】
βディフェンシンタンパク質の一次アミノ酸配列の多様性は大きいものの、このタンパク質ファミリーの三次構造が維持されていることは限定的データによって示唆される。BNBD−12およびDEFB2によってコードされるタンパク質が例示するように、構造の中核は3本鎖逆平行βシートである。3本のβ鎖がβターンとαヘアピンループによって連結され、かつ2本目のβ鎖はβバルジも含む。これらの構造がその固有の三次構造に折りたたまれるとき、一見ランダムであった陽イオンおよび疎水性残基の配列が球状タンパク質の2つの面に集中する。一方の面は親水性でありかつ正電荷側鎖の多くを含み、もう一方は疎水性である。溶液中では、DEFB2遺伝子によってコードされるHBD−2タンパク質は、過去にα−ディフェンシンの溶液構造またはβディフェンシンBNDBD−12に帰せられていなかったN末端近傍のαヘリックスセグメントを示した。その側鎖がタンパク質の表面を向いたアミノ酸はβディフェンシンタンパク質間で保持されることがより少ない一方で、コアβシートの3本のβ鎖のアミノ酸残基はより高度に維持されている。
【0050】
βディフェンシンペプチドはプレプロペプチドとして産生された後、開裂してC末端活性ペプチドフラグメントを遊離するが;気道上皮のヒトβディフェンシンペプチドの細胞内プロセシング、貯蔵および遊離経路は未知である。
【0051】
(PAX2対DEFB1発現比率の測定)
組織におけるPAX2対DEFB1発現レベルは、技術上公知であるあらゆる方法によって測定することができる。一定の実施形態においては、標的組織におけるPAX2およびDEFB1発現のレベルは、生検サンプルといった標的組織から直接採取された1個または複数の細胞におけるPAX2およびDEFB1のレベルを測定することによって測定される。他の実施形態においては、標的組織におけるPAX2およびDEFB1発現のレベルは、血液または血漿といった一定の体液におけるPAX2およびDEFB1のレベルを測定することによって間接的に測定される。
【0052】
一定の実施形態においては、対象の前立腺または乳房におけるPAX2およびDEFB1発現のレベルは、前立腺または乳房からの細胞サンプルを用いて測定することができる。細胞サンプルは前立腺または乳房の生検サンプルおよび血液サンプルを含む。生検とは、標的器官より小さな組織サンプルを切除してさらに分析する手技である。前立腺生検は、典型的にはPSA血液検査からのスコアが前立腺癌が存在する可能性と関係するレベルまで上昇したときに実施する。同様に、乳房生検は、典型的には乳房の塊または疑わしいマンモグラムを有する患者において実施する。
【0053】
遺伝子発現のレベルはRNAおよびタンパク質レベルで評価することができる。RNAレベルは、たとえばDNAアレイ、RT−PCRおよびノーザンブロッティングで測定してもよい。タンパク質レベルはイムノアッセイおよび酵素分析で測定してもよい。一定の実施形態においては、PAX2対DEFB1発現比率は、対照遺伝子の発現レベルに対するPAX2遺伝子の発現レベルを測定し、同一の対照遺伝子の発現レベルに対するDEFB1遺伝子の発現レベルを測定し、かつPAX2およびDEFB1の発現レベルに基づいてPAX2対DEFB1発現比率を算出することによって測定される。1つの実施形態においては、対照遺伝子はグリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)遺伝子である。
【0054】
(オリゴヌクレオチドマイクロアレイ)
オリゴヌクレオチドマイクロアレイは、フィーチャーと呼ばれる、それぞれが少量(典型的にはピコモルの範囲)の特異的オリゴヌクレオチド配列を含む、整列した一連の複数のオリゴヌクレオチドの顕微鏡的スポットよりなる。特異的オリゴヌクレオチド配列は、厳密度の高い条件下でcDNAまたはcRNAサンプルをハイブリダイズするためのプローブとして用いられる短い遺伝子の切片または他のオリゴヌクレオチドエレメントとすることができる。通常、プローブ標的ハイブリダイゼーションは、標的における核酸配列の相対的な存在度を測定することを目的とした蛍光体標識した標的の蛍光ベース検出によって検出および定量される。
【0055】
プローブは、典型的には(エポキシ−シラン、アミノ−シラン、リジン、ポリアクリルアミドなどを介した)化学的マトリクスとの共有結合により固形物表面に結合する。固形物表面はガラスまたはシリコンチップまたは顕微鏡的ビーズとすることができる。オリゴヌクレオチドアレイは、ヌクレオチドを測定するのか、それともその検出系の一部としてオリゴヌクレオチドを用いるかという点でのみ、他の種類のマイクロアレイと異なる。
【0056】
オリゴヌクレオチドアレイを用いて標的組織または細胞における遺伝子発現を検出するために、目的の核酸を標的組織または細胞より精製する。ヌクレオチドは、発現プロファイリングを目的とした全RNA、比較ハイブリダイゼーションを目的としたDNAまたは後成的または調節研究を目的として免疫沈降させた(ChIPオンチップ)特定のタンパク質と結合したDNA/RNAである。
【0057】
1つの実施形態においては、全RNAはチオシアン酸グアニジウム−フェノール−クロロホルム抽出(例:トリゾール)によって分離される(核または細胞質そのままの全体)。精製されたRNAは品質(例:キャピラリー電気泳動により)および量(例:ナノドロップ分光器を用いてについて分析してもよい。全RNAとは、ポリTプライマーまたはランダムプライマーによりDNAに逆転写されるRNAである。PCRによってDNA産物を任意に増幅してもよい。RT手順において、または増幅後の追加的な手順がある場合はその手順において、増幅産物に標識を付加する。標識は蛍光標識または放射標識とすることができる。次に、標識DNA産物をマイクロアレイにハイブリダイズする。次にマイクロアレイを洗い、さらにスキャンする。目的の遺伝子の発現レベルは、技術上周知の方法を用いたハイブリダイゼーションの結果に基づいて測定される。
【0058】
(イムノアッセイ)
イムノアッセイは、その最も単純かつ直接的意味においては、抗体と抗原の間の結合を包含する結合分析である。多くのイムノアッセイの種類およびフォーマットが公知であり、いずれも開示されるバイオマーカーを検出するのに適している。イムノアッセイの例は酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、放射免疫沈降アッセイ(RIPA)、イムノビーズキャプチャーアッセイ、ウェスタンブロッティング、ドットブロッティング、ゲルシフトアッセイ、フローサイトメトリー、タンパク質アレイ、多重ビーズアレイ、磁気キャプチャー、インビボイメージング、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、およびフォトブリーチング後の蛍光回復/局在測定(FRAP/FLAP)である。
【0059】
一般的に、イムノアッセイは、免疫複合体の形成を可能とするのに有効な条件において、場合に応じ、(本明細書に開示されるバイオマーカーなどの)該当分子を含むと疑われるサンプルを該当分子に対する抗体と接触させること、または(本明細書に開示されるバイオマーカーに対する抗体などの)該当分子に対する抗体を当該抗体と結合することのできる分子と接触させることを包含する。多くの形態のイムノアッセイにおいて、その後に組織切片、ELISAプレート、ドットブロットまたはウェスタンブロットといったサンプル−抗体組成物を洗い、あらゆる非特異的結合抗体種を除去し、一次免疫複合体内で特異的に結合する抗体のみを検出することを可能とする。
【0060】
放射免疫沈降アッセイ(RIPA)は、放射標識した抗原を用いて血清中の特異抗体を検出する高感度測定法である。抗原を血清と反応させた後、たとえばプロテインAセファロースビーズなどの特殊な試薬を用いて沈降させる。結合した放射標識免疫沈降物は、その後一般的にはゲル電気泳動により測定する。放射免疫沈降アッセイ(RIPA)は、HIV抗体の存在を診断するための確認検査としてしばしば用いられる。RIPAは、当分野ではファールアッセイ、プレシピチンアッセイ、放射免疫プレシピチンアッセイ、放射免疫沈降分析、放射免疫沈降分析、および放射免疫沈降分析などとも呼ばれる。
【0061】
固形支持体(例:試験管、ウェル、ビーズ、またはセル)上のタンパク質またはタンパク質に対して特異的な抗体を検出する方法と組み合わせた、タンパク質またはタンパク質に対して特異的な抗体が支持体と結合してそれぞれ該当抗体またはタンパク質をサンプルから捕捉することを特徴とするイムノアッセイも考慮される。そのようなイムノアッセイの例はラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、フローサイトメトリー、タンパク質アレイ、多重ビーズ分析法、および磁気キャプチャーを含む。
【0062】
タンパク質アレイは、ガラス、膜、マイクロタイターウェル、質量分析計プレート、およびビーズまたは他の粒子を含む表面に固定したタンパク質を用いる固相リガンド結合アッセイである。アッセイは並列性が高く(多重)かつしばしば極小化される(マイクロアレイ、タンパク質チップ)。その利点は迅速かつ自動化可能である、高感度とすることができる、試薬に関して経済的、かつ1回の実験で豊富なデータが得られることなどを含む。バイオインフォルマティクス支援は重要であり;データハンドリングには高度なソフトウェアおよびデータ比較分析を要求される。しかし、多くのハードウェアおよび検出システムがそうであるように、ソフトウェアはDNAアレイに対して用いられるものから適合化することができる。
【0063】
キャプチャーアレイは診断チップおよび発現プロファイリング用アレイの基盤を形成する。従来の抗体、シングルドメイン、人工スカフォールド、ペプチドまたは核酸アプタマーなどの高親和性キャプチャー試薬を用いて、高スループットで特定の標的リガンドと結合およびこれを検出する。抗体アレイは市販されている。従来の抗体に加えて、FabおよびscFvフラグメント、ラクダまたは組換えヒト同等物由来のシングルVドメイン(ドマンティス、マサチューセッツ州ウォルサム)も、アレイにおいて有用となりうる。
【0064】
非タンパク質捕捉分子、特に高い特異性および親和性でタンパク質リガンドと結合する1本鎖核酸アプタマー(ソマロジック、コロラド州ボールダー)もアレイにおいて用いられる。アプタマーは、セレックス(商標)法によってオリゴヌクレオチドのライブラリから選択し、またそのタンパク質との相互作用は、ブロモデオキシウリジン取り込みおよびUV活性化架橋による共有結合によって強化することができる(フォトアプタマー)。リガンドとの光架橋によって、特異的立体要件によるアプタマーの交差反応性が低下する。アプタマーは、自動化オリゴヌクレオチド合成による精製の容易さおよびDNAの安定性および堅牢性という利点を有し;フォトアプタマーアレイ上では、汎用的蛍光タンパク質染色を用いることができる。
【0065】
キャプチャー分子のアレイの代替物は、ペプチド(例:タンパク質のC末端領域由来)を、重合可能なマトリクス内に構造的に相補的な配列特異的空隙を作製するための鋳型として用いる「分子インプリンティング」技術によって形成されるものであり;空隙はその後適切な一次アミノ酸配列を有する(変性)タンパク質を特異的に捕捉することができる(ProteinPrint(商標)、Aspira Biosystems、カリフォルニア州バーリンゲーム)。
【0066】
診断的にかつ発現プロファイリングにおいて用いることができる他の方法論は、固相クロマトグラフィー表面が血漿または腫瘍抽出物などの混合物に由来する同様の電荷または疎水性特性を有するタンパク質と結合し、さらにSELDI−TOF質量分析を用いて保持されたタンパク質を検出するProteinChip(登録商標)アレイ(Ciphergen、カリフォルニア州フリーモント)である。
【0067】
他の有用な方法論は、チップ上に多数の精製タンパク質を固定することによって構築される大スケール機能性チップ、および多重ビーズアッセイを含む。
【0068】
(抗体)
本明細書においては、用語「抗体」は広義に用いられかつポリクローナルおよびモノクローナル抗体を共に含む。無傷の免疫グロブリン分子に加えて、たとえばPAX2がDEFB1と相互作用することを妨げるよう、PAX2またはDEFB1と相互作用する能力について選択されている限り、それらの免疫グロブリン分子のフラグメントまたはポリマー、および免疫グロブリン分子のヒトまたはヒト化バージョンまたはそのフラグメントも用語「抗体」に含まれる。PAX2とDEFB1との相互作用に関与するPAX2またはDEFB1の開示領域と結合する抗体も開示される。抗体は、本明細書に記載のインビトロアッセイまたは類似の方法を用いて、その所望の活性について試験することができ、その後に公知の臨床的検査法に従ってインビボ治療および/または予防活性を試験する。
【0069】
本明細書のモノクローナル抗体は、所望の拮抗活性を示す限り、重鎖および/または軽鎖の一部が特定の種に由来するかまたは特定の抗体クラスまたはサブクラスに属する抗体の対応配列と同一または相同である一方で、残余の鎖が他の種に由来するかまたは他の抗体クラスまたはサブクラスに属する抗体の対応配列と同一または相同である「キメラ抗体」、さらにはこうした抗体のフラグメントを具体的に含む(米国特許第4,816,567号およびMorrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6851 6855(1984)を参照)。
【0070】
本明細書で用いるところの用語「抗体」または「複数の抗体」は、ヒト抗体および/またはヒト化抗体も指すことがある。多くの非ヒト抗体(例:マウス、ラットまたはウサギに由来するものなど)は天然ではヒトに対して抗原性であるので、ヒトに投与するとき望ましくない免疫応答を引き起こすことがある。したがって、方法においてヒトまたはヒト化抗体を使用することは、ヒトに投与された抗体が望ましくない免疫応答を惹起する確率を低下させるのに役立つ。非ヒト抗体をヒト化する方法は技術上周知である。
【0071】
(ゲノム薬理)
他の実施形態においては、乳癌のゲノム薬理を測定するためにPAX2および/またはDEFB1発現プロフィールが用いられる。ゲノム薬理は、個体の遺伝子型とその個体の外来化合物または薬剤に対する応答の関係を指す。薬理活性薬剤の用量と血中濃度の関係を変化させることによって、治療薬の代謝の差が重度の毒性または治療の失敗につながることがある。したがって、医師または臨床家は、抗癌薬を投与するか否か決定する際、さらには抗癌薬による治療の用量および/または治療レジメンを調節する際に、関連するゲノム薬理研究において得られた知見を適用することを考慮してもよい。
【0072】
ゲノム薬理は、患者における薬剤の処理および異常な作用が原因となる、薬剤に対する応答における臨床的に重大な遺伝的変異を扱う。一般的には、2種類のゲノム薬理的条件を識別することができる。薬剤が身体に作用する様式を変化させる単一の因子(薬剤作用の変化)として伝達される遺伝的条件または身体が薬剤に作用する様式を変化させる単一の因子(薬剤代謝の変化)として伝達される遺伝的条件。これらの遺伝薬理学的条件はまれな遺伝的欠損として、または天然に発生する遺伝多型として起こることがある。たとえば、グルコース6−リン酸デヒドロゲナーゼ欠損(G6FD)は、主な臨床的合併症が酸化薬剤(抗マラリア薬、スルホンアミド、鎮痛薬、ニトロフラン)摂取およびソラ豆の摂取後の溶血である一般的な遺伝性酵素病である。
【0073】
「ゲノムワイド関連」として知られる薬剤応答を予測する遺伝子を同定するための1つのゲノム薬理学的手法は、既知の遺伝子間連部位(例:それぞれが2つの変異型を有するヒトゲノム上の60,000〜100,000個の多型または可変部位からなる「両アレル」遺伝子マーカーマップなど)からなるヒトゲノムの高分解度マップに主として依拠している。そのような高分解度遺伝子マップは、第II/III相医薬品治験に参加する統計的に相当な数の被験者のそれぞれのゲノムのマップと比較し、具体的に観察される薬剤応答または副作用と関連する遺伝子を同定することができる。代替的に、ヒトゲノムにおける数千万個の公知の一塩基多型(SNP)の組合せからそのような高分解度マップを作製することができる。本明細書で用いるところの「SNP」は、DNAの全長内の単一のヌクレオチド塩基において発生する普通の変化である。たとえば、SNPはDNAの1,000塩基につき1回発生しうる。SNPは疾患の過程に関与することもある。しかし、大多数のSNPは疾患と関連しないと思われる。このようなSNPの発生に基づく遺伝子マップがある場合、個体はその個体ゲノムにおける特定のSNPパターンに応じて遺伝的カテゴリーに分類することができる。このようにして、遺伝的に類似した個体間に共通した特性を考慮に入れ、このような遺伝的に類似した個体集団に対して治療レジメンを適合化することができる。したがって、PAX2および/またはDEFB1を乳房患者のSNPマップに位置づけることにより、本明細書に記載の遺伝学的方法に従ってこれらの遺伝子をより容易に同定することが可能となりうる。
【0074】
代替的に、薬剤応答を予想する遺伝子を特定するために「候補遺伝子アプローチ」と呼ばれる方法を用いることができる。この方法によれば、薬剤の標的をコードする遺伝子が判明している場合、集団においてその遺伝子の全ての一般変異体を比較的容易に同定することができ、かつ他のバージョンの遺伝子に対してあるバージョンを有することが特定の薬剤応答に関連しているか決定することができる。
【0075】
1つの例示的実施形態として、薬剤代謝酵素の活性は薬剤作用の強度および持続時間の両者の主要な決定因子である。薬物代謝酵素(例:N−アセチルトランスフェラーゼ2(NAT2)およびチトクロームP450酵素CYP2D6およCYPZC19)の遺伝子多型の発見は、ある薬剤の標準的かつ安全な用量の摂取後に一部の対象が予測された薬剤効果を得ることができないか、または過大な薬剤応答および重篤な毒性を示す理由についての説明を提供している。これらの多型は、母集団において2つの表現型、高代謝群および低代謝群として表される。低代謝表現型の有病率は母集団によって異なる。たとえば、CYP2D6をコードする遺伝子は多型性が高く、かつ低代謝群において数種類の変異型が特定され、そのいずれもが機能的CYP2D6の欠損につながっている。CYP2D6およびCYP2C19の低代謝群は、標準用量を投与されるときに非常に高い頻度で過大な薬剤応答および副作用を経験する。CYP2D6が形成する代謝物モルヒネを介したコデインの鎮痛効果で示されているように、代謝物が活性治療成分である場合、低代謝群は治療応答を示さない。もう一方の極は標準用量に応答しない、いわゆる超高速代謝群である。最近、超高速代謝の分子的根拠はCYP2D6遺伝子増幅によることが確認されている。
【0076】
代替的に、「遺伝子発現プロファイリング」と呼ばれる方法を用いて薬剤応答を予想する遺伝子を特定することができる。たとえば、薬剤を投与された動物の遺伝子発現は毒性と関連する遺伝子系路が活性化したか否かの目安とすることができる。
【0077】
上記のゲノム薬理学的手法のうち2つ以上から得られた情報を用いて、個体の予防的または治療的処置のための適切な用量および治療レジメンを決定することができる。この知見を投与または薬剤の選択に適用するとき、副作用または治療の失敗を回避することができるため、乳房疾患を有する患者を治療する際に治療的または予防的有効性を向上させることができる。
【0078】
1つの実施形態においては、ある対象におけるPAX2および/またはDEFB1の発現プロフィール、さらにはER/PR状態を用いて、乳房疾患を有する個体に対する適切な治療レジメンを決定する。
【0079】
他の実施形態においては、トリプルネガティブ乳癌(すなわちエストロゲン受容体(ER)陰性、プロゲステロン受容体(PR)陰性、ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)陰性)の患者に対してPAX2発現レベル(典型的にはアクチン遺伝子またはGAPDH遺伝子のような対照遺伝子に対して測定)を用い、癌治療の有効性を測定するか、治療コースを決定するか、または癌の再発をモニタリングする。
【0080】
(診断キット)
本発明の他の態様は、乳房状態をモニタリングするためのキットに関する。1つの実施形態においては、乳房状態をモニタリングするためのキットは:組織サンプルにおけるPAX2発現を検出するための1つまたはそれ以上のオリゴヌクレオチドプライマー対、組織サンプルにおけるDEFB1発現を検出するための1つまたはそれ以上のオリゴヌクレオチドプライマー対、およびプライマーを用いて組織サンプル中のPAX2対DEFB1発現比率を測定する方法についての説明書を含む。他の実施形態においては、配列番号:43および47、配列番号:44および48、および配列番号:45および49からなる群より選択される1つのオリゴヌクレオチドプライマー対を含むPAX2発現を検出するための1つまたはそれ以上のオリゴヌクレオチドプライマー対。他の実施形態においては、配列番号:35および37を含むDEFB1発現を検出するための1つまたはそれ以上のオリゴヌクレオチドプライマー対。
【0081】
他の実施形態においては、キットはさらに1つまたはそれ以上の対照オリゴヌクレオチドプライマー対を含む。1つの実施形態においては、1つまたはそれ以上の対照オリゴヌクレオチドプライマー対は、βアクチン発現の発現を検出するためのオリゴヌクレオチドプライマーを含む。好ましい実施形態においては、βアクチン発現の発現を検出するためのオリゴヌクレオチドプライマーは配列番号34および36を含む。
【0082】
他の実施形態においては、1つまたはそれ以上の対照オリゴヌクレオチドプライマー対はGAPDH発現の発現を検出するためのオリゴヌクレオチドプライマーを含む。好ましい実施形態においては、GAPDH発現の発現を検出するためのオリゴヌクレオチドプライマーは配列番号42および46を含む。
【0083】
他の関連する実施形態においては、キットはさらに1つまたはそれ以上のPCR反応用試薬を含む。
【0084】
さらに他の実施形態においては、キットはさらに1つまたはそれ以上のRNA抽出用試薬を含む。
【0085】
他の実施形態においては、乳房状態をモニタリングするためのキットはPAX2およびDEFB1発現を検出するためのオリゴヌクレオチドプローブを有するオリゴヌクレオチドマイクロアレイ、およびオリゴヌクレオチドマイクロアレイを用いて組織サンプル中のPAX2対DEFB1発現比率を測定する方法についての説明書を含む。
【0086】
関連する実施形態においては、キットは組織サンプルよりRNAを抽出するための試薬をさらに含む。
【0087】
本発明は、制限的と解釈すべきでない以下の実施例によってさらに例示される。本明細書全体において引用された全ての参照文献、特許および公開特許明細書、さらには図面および表はその全体を本明細書に参照文献として援用する。
【実施例1】
【0088】
(ヒトβディフェンシン−1は後期ステージ前立腺癌に対して細胞毒性でありかつ前立腺癌腫瘍免疫において役割を果たす)
この実施例においては、DEFB1を誘導可能な発現系にクローニングし、正常な上皮細胞、およびアンドロゲン受容体陽性(AR+)およびアンドロゲン受容体陰性(AR−)前立腺癌細胞株に対してどのような効果を有するか検討した。DEFB1発現の誘導により、AR−細胞DU145およびPC3の細胞増殖は低下したが、AR+前立腺癌細胞LNCaPの増殖には影響しなかった。DEFB1はカスパーゼ介在性アポトーシスの迅速な誘発も引き起こした。本実施例に示したデータは、生得的腫瘍免疫におけるその役割のエビデンスを提供し、かつその低下が前立腺癌における腫瘍進行に寄与することを示す初めてのものである。
【0089】
(材料と方法)
細胞株:細胞株DU145はDMEM培地で培養し、PC3はF12培地で増殖させ、さらにLNCaPはRPMI培地で増殖させた(Life Technologies,Inc.、ニューヨーク州グランドアイランド)。3つの細胞株全ての増殖培地に10%(v/v)胎仔ウシ血清(Life Technologies)を添加した。hPrEC細胞を前立腺上皮基礎培地(Cambrex Bio Science,Inc.、メリーランド州ウォーカーズビル)中で培養した。全ての細胞株は37℃で5%CO2下に維持した。
【0090】
組織サンプルおよびレーザーキャプチャーマイクロダイセクション:施設内倫理委員会が承認したプロトコルに従い、Hollings癌センター腫瘍バンクを通じ、根治的前立腺切除術を受けた同意患者から採取した前立腺組織を入手した。これにはサンプルの処理、切片化、組織学的キャラクタライゼーション、RNA精製およびPCR増殖のガイドラインが含まれた。凍結組織切片の病理学的検査の後、アッセイする組織サンプルが純粋な良性前立腺細胞集団よりなることを確認するために、レーザーキャプチャーマイクロダイセクション(LCM)を実施した。分析した各組織切片について、良性組織を含めた3つの異なる領域でLCMを実施し、その後さらに採取した細胞をプールした。
【0091】
DEFB1遺伝子のクローニング:逆転写PCRを用いて、RNAからDEFB1 cDNAを作製した。PCRプライマーはClaIおよびKpnI制限部位を含むよう設計された。DEFB1 PCR産物をClaIおよびKpnIによって制限消化し、さらにTAクローニングベクターにライゲーションした。次に、TA/DEFB1ベクターを熱ショックによりE.coliにトランスフェクトし、さらに個々のクローンを選択して拡張した。Cell Culture DNA Midiprep(QIAGEN、カリフォルニア州バレンシア)でプラスミドを分離し、さらに自動シーケンシングで配列の完全性を検証した。次に、方向決定用の中間ベクターとして役立つClaIおよびKpnIで消化したpTRE2に、DEFB1遺伝子フラグメントをライゲーションした。次に、pTRE2/DEFB1構築物をApaIおよびKpnIで消化してDEFB1インサートを切り出し、これを同じくApaIおよびKpnIで二重消化したEcdysone Inducible Expression System(Invitrogen、カリフォルニア州カールズバッド)のpINDベクターにライゲーションした。構築物を再度E.coliにトランスフェクトし、さらに個々のクローンを選択して拡張した。プラスミドを分離し、さらに自動シーケンシングによりpIND/DEFB1の配列完全性を再検証した。
【0092】
トランスフェクション:100mmペトリ皿に細胞(1×106個)を播種し、1晩増殖させた。次に、Lipofectamine 2000(Invitrogen、カリフォルニア州カールズバッド)を用いて、ヘテロ二量体エクジソン受容体を発現するpVgRXRプラスミド1μgおよびpIND/DEFB1ベクター構築物または空のpIND対照ベクター1μgと共にオプティMEM培地(Life Technologies Inc.、ニューヨーク州グランドアイランド)中で細胞に同時トランスフェクトした。
【0093】
RNAの分離および定量的RT−PCR:DEFB1構築物をトランスフェクトした細胞におけるDEFB1タンパク質発現を検証するために、ポナステロンA(PonA)による24時間誘導後にRNAを採取した。簡潔に述べると、SV Total RNA Isolation System(Promega、ウィスコンシン州マジソン)を用いて、トリプシン処理により回収した約1×106個の細胞より全RNAを分離した。この場合、細胞を溶解させ、さらにスピンカラムで遠心分離することにより全RNAを分離した。LCMによって採取した細胞については、メーカーのプロトコルに従いPicoPure RNA Isolation Kit(Arcturus Biosciences、カリフォルニア州マウンテンビュー)を用いて全RNAを分離した。ランダムプライマー(Promega)を用いて、両採取源からの全RNA(各反応につき0.5μg)をcDNAに逆転写した。メーカーのプロトコルに従い、第1鎖の合成にはAMV逆転写酵素II酵素(各反応につき500単位;Promega)を、第2鎖の合成にはTfl DNAポリメラーゼ(各反応につき500単位;Promega)を用いた。それぞれの場合、各後続PCRにつきcDNAを50pg用いた。TaqMan Reverse Transcription SystemのMultiScribe Reverse TranscripataseおよびSYBR(登録商標)Green PCR Master Mix(Applied Biosystems)を用いて、作製したcDNAに対して2段階QRT−PCRを実施した。
【0094】
公開DEFB1配列(GenBankアクセション番号U50930)からDEFB1のプライマー対(表2:QRT−PCRプライマーの配列)を作製した。アニーリング温度56℃を用いて、標準的な条件下でPCRを40サイクル実施した。さらに、ハウスキーピング遺伝子としてβアクチン(表3)を増幅し、全cDNAの初期含有量を正規化した。DEFB1発現をDEFB1とβアクチンの相対発現比率として算出し、さらにDEFB1発現誘導細胞株と非誘導株、さらにはLCM良性前立腺組織と比較した。陰性対象として、cDNA鋳型を用いないQRT−PCR反応も実施した。全ての反応は3本ずつ3回実施した。
【0095】
【表2】
【0096】
MTT細胞生存率アッセイ:細胞の増殖に対するDEFB1の影響を検討するために、代謝3−[4,5−ジメチルチアゾール−2イル]−2,5ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)アッセイを実施した。pVgRXRプラスミドおよびpIND/DEFB1構築物または空のpINDベクターを同時トランスフェクトしたPC3、DU145およびLNCaPを、96ウェルプレート上に1〜5×103細胞/ウェルで播種した。播種より24時間後、10μMポナステロンAを含有する新鮮な増殖培地を毎日添加してDEFB1発現を24、48および72時間誘導した後、メーカーの取扱説明書(Promega)に従ってMTT分析を実施した。反応は3本ずつ3回実施した。
【0097】
フローサイトメトリー:DEFB1発現系を同時トランスフェクトしたPC3およびDU145細胞を60mmの皿で培養し、10μMポナステロンAにより12、24および48時間誘導した。各インキュベーション時間後、(非付着細胞があれば保持するために)プレートから培地を採取し、プレートを洗うのに用いたPBSと合わせた。残りの付着細胞をトリプシン処理により回収し、さらに非付着細胞およびPBSと合わせた。次に細胞を4℃で5分間ペレット化し(500×g)、PBSで2回洗い、アネキシンV−FITC 5μLおよびPI 5μLを含む1×アネキシン結合バッファー(pH7.4の0.1M Hepes/NaOH、1.4M NaCl、25mM CaCl2)100uLに再懸濁した。細胞を室温で遮光して15分間インキュベートし、その後1×アネキシン結合バッファー400μLで希釈し、FACスキャン(Becton Dickinson、カリフォルニア州サンホセ)で分析した。全ての反応は3回実施した。
【0098】
顕微鏡分析:位相差顕微鏡により細胞の形態を分析した。ベクターを含まないか、空のプラスミドまたはDEFB1プラスミドを含有するDU145、PC3およびLNCaP細胞を6ウェル培養プレートに播種した(BD FALCON、米国)。翌日、10μMポナステロンAを含有する培地でプラスミド含有細胞を48時間誘導する一方で、対照細胞には新鮮な培地を与えた。次に、細胞を倒立型Zeiss IM 35顕微鏡(Carl Zeiss、ドイツ)の下で観察した。SPOT Insight Mosaic 4.2カメラ(Diagnostic Instruments、米国)を用いて、細胞の1視野の位相差写真を撮影した。倍率32倍の位相差顕微鏡で細胞を検査し、デジタル画像を無圧縮TIFFファイルとし保存し、さらに画像処理およびハードコピーの提示のためにPhotoshop CSソフトウェア(Adobe Systems、カリフォルニア州サンホセ)にエクスポートした。
【0099】
カスパーゼの検出:APO LOGIX(商標)Carboxyfluorescin Caspase検出キット(Cell Technology、カリフォルニア州マウンテンビュー)を用いて、前立腺癌細胞株におけるカスパーゼ活性の検出を実施した。活性カスパーゼは、活性カスパーゼと不可逆的に結合するFAM−VAD−FMK阻害剤の使用によって検出した。簡便に述べると、DEFB1発現系を含有するDU145およびPC3細胞(1.5〜3×105)を35mmガラス底マクロウェル皿(Matek、マサチューセッツ州アッシュランド)に撒き、培地のみまたは前述したところのPonA含有培地で24時間処理した。次に、カルボキシフルオレセイン標識ペプチドフルオロメチルケトン(FAM−VAD−FMK)の30×作業希釈液10μLを培地300μLに添加し、35mm皿にそれぞれ加えた。次に、細胞を5%CO2下において37℃で1時間インキュベートした。次に、培地を吸引し、1×作業用洗浄バッファー希釈液2mLで細胞を2回洗った。細胞を、微分干渉コントラスト(DIC)または488nmのレーザー励起の下で観察した。共焦点顕微鏡(Zeiss LSM 5 Pascal)および63×DIC油浸レンズをVario 2RGB Laser Scanning Moduleで用いて蛍光信号を分析した。
【0100】
統計解析:統計的な差は、対応のない数値に対するスチューデントのt検定を用いて評価した。両側計算によりp値を決定し、p値が0.05未満であれば統計的に有意であると見なした。
【0101】
前立腺組織および細胞株におけるDEFB1発現:良性および悪性前立腺組織、hPrEC前立腺上皮細胞ならびにDU145、PC3およびLNCaP前立腺癌細胞におけるDEFB1発現レベルをQRT−PCRにより測定した。全ての良性臨床サンプルにおいてDEFB1発現が検出された。相対DEFB1発現の平均量は0.0073であった。さらに、hPrEC細胞におけるDEFB1相対発現は0.0089であった。良性前立腺組織サンプルとhPrECにおいて検出されたDEFB1発現には統計的な差がなかった(図1A)。前立腺癌細胞株における相対DEFB1発現レベルの分析により、DU145、PC3およびLNCaPにおけるレベルが有意に低いことが明らかとなった。さらなる基準点として、患者番号1215からの前立腺組織の隣接悪性切片における相対DEFB1発現を測定した。3つの前立腺癌細胞株に認められたDEFB1発現のレベルは、患者番号1215からの悪性前立腺組織と比較して有意差がなかった(図1B)。さらに、4サンプル全てにおける発現レベルは、内因性DEFB1発現がほとんど確認されない鋳型を含まない陰性対象に近かった(データは示さず)。DEFB1発現系をトランスフェクトした前立腺癌細胞株に対してもQRT−PCRを実施した。24時間の誘導時間後の相対発現レベルはDU145で0.01360、PC3で0.01503、かつLNCaPで0.138であった。ゲル電気泳動により増幅産物を検証した。
【0102】
良性、PINおよび癌を含むLCM組織領域に対してQRT−PCRを実施した。DEFB1の相対発現は良性領域で0.0146であるのに対し、悪性領域では0.0009であった(図1C)。これは94%の減少に相当し、有意な発現のダウンレギュレーションを再度証明する。さらに、PINの分析によりDEFB1発現レベルは70%の減少である0.044と判明した。患者番号1457における発現を、他の6例の患者の良性領域で認められた平均発現レベルと比較すると(図1A)、ほぼ2倍の発現に相当する比率1.997が明らかとなった(図1D)。しかし、良性組織における平均発現レベルと比較した発現比率はPINにおいて0.0595であり悪性組織において0.125であった。
【0103】
DEFB1は細胞膜透過性およびラフリングを引き起こす:前立腺癌細胞株におけるDEFB1発現を誘導したところDU145およびPC3の細胞数は低下したが、LNCaPの増殖には影響しなかった(図2)。陰性対照として、空のプラスミドを含有する全3種類の細胞株において増殖をモニタリングした。PonA添加後のDU145、PC3またはLnCaP細胞における細胞の形態には、観測可能な変化はなかった。さらに、DEFB1誘導の結果としてDu145およびPC3のいずれにも形態学的変化が発生した。この場合、細胞の外観はより円形でありかつ細胞死を示す膜ラフリングを呈した。両細胞株にはアポトーシス小体も存在していた。
【0104】
DEFB1発現により細胞生存率が低下する:MTTアッセイにより、PC3およびDU145細胞においてDEFB1による細胞生存率の低下が示されたが、LNCaP細胞に対する有意な影響は示されなかった(図3)。24時間後の相対的細胞生存率はDU145で72%およびPC3で56%であった。誘導から48時間後の分析ではDU145の細胞生存率が49%でありかつPC3における細胞生存率が37%であることが判明した。DEFB1発現から72時間後には、DU145およびPC3細胞における相対細胞生存率はそれぞれ44%および29%となった。
【0105】
DEFB1は後期前立腺癌細胞において迅速なカスパーゼ介在性アポトーシスを引き起こす:PC3およびDU145に対するDEFB1の作用が細胞分裂抑制性であるかあるいは細胞毒性であるか測定するためにFACS分析を実施した。通常の増殖条件下において、PC3およびDU145培養の90%以上が生存しておりかつ非アポトーシス(左下象限)でありかつアネキシンVまたはPIで染色されなかった(図4)。PC3細胞におけるDEFB1発現誘導後のアポトーシス細胞数(右下および右上象限)は12時間で合計10%、24時間で20%、かつ48時間で44%であった。DU145細胞については、アポトーシス細胞は誘導より12時間で合計12%、24時間で34%、かつ48時間で59%であった。PonAによる誘導後に空のプラスミドを含有する細胞においてアポトーシスの増加は認められなかった(データは示さず)。
【0106】
カスパーゼ活性は共焦点レーザー顕微鏡分析によって測定した(図5)。DU145およびPC3細胞のDEEFB1発現を誘導し、活発なアポトーシスを被る細胞における緑色蛍光FAM−VAD−FMKのカスパーゼとの結合に基づいて活性をモニタリングした。DIC下での細胞の分析により、0時間において生存可能な対照DU145(A)、PC3(E)およびLNCaP(I)細胞の存在が示された。488nmの共焦点レーザーによって励起すると、検出可能な緑色染色は生成されず、DU145(B)、PC3(F)またはLNCaP(J)にカスパーゼ活性がないことが示された。24時間の誘導後、DU145(C)、PC3(G)およびLNCaP(K)細胞はDIC下で再度可視となった。蛍光下の共焦点分析により、DU145(D)およびPC3(H)細胞においてカスパーゼ活性を示す緑色染色が判明した。しかし、LNCaP(L)においては緑色染色がなく、DEFB1によるアポトーシスの誘導がないことが示された。
【0107】
結論として、この研究により前立腺癌におけるDEFB1の機能的役割が提供される。さらに、これらの所見よりDEFB1が腫瘍免疫に関与する生得免疫系の一部であることが示される。本明細書に提示するデータは、生理的レベルで発現されるDEFB1はAR−ホルモン不応性前立腺癌細胞に対して細胞毒性であるが、AR+ホルモン感受性前立腺癌細胞または正常前立腺上皮細胞に対してはそうでないことを証明する。DEFB1が正常前立腺細胞において細胞毒性を伴わずに構造的に発現されることを考慮すると、末期AR−前立腺癌細胞は自らをDEFB1細胞毒性に対して感受性とするような異なる表現型特性を有するかもしれない。したがって、DEFB1は後期前立腺癌の治療に対して有効な治療薬であり、また他の癌に対しても同様である可能性がある。
【実施例2】
【0108】
(PAX2発現のsiRNA介在性ノックダウンによりp53状態に依存しない前立腺癌細胞死が起こる)
本実施例は、p53遺伝子の状態が異なる前立腺癌細胞におけるRNA干渉によるPAX2発現阻害の効果を検討する。結果より、PAX2阻害によってp53状態とは無関係に細胞死がもたらされることが証明され、前立腺癌においてはPAX2によって阻害される追加的な腫瘍抑制遺伝子または細胞死経路が存在することが示される。
【0109】
(材料と方法)
PAX2のsiRNAサイレンシング:効率的な遺伝子サイレンシングを達成するために、ヒトPAX2 mRNA(アクセション番号NM_003989.1)を標的とした4つの相補的短鎖干渉性リボヌクレオチド(siRNA)のプールを合成した(Dharmacon Research、米国コロラド州ラファイエット)。4つのsiRNAの第2プールを内部標準として用い、PAX2 siRNAの特異性を試験した。合成した配列のうち2つはGL2ルシフェラーゼmRNA(アクセション番号X65324)を標的とし、2つは非配列特異的であった(表3:PAX2 siRNA配列.PAX2タンパク質発現を阻害するために4つのsiRNAプールを用いた)。siRNAをアニーリングするために、35Mの1本鎖をアニーリングバッファー(100mM酢酸カリウム、30mM HEPES−KOH pH7.4、2mM酢酸マグネシウム)において90℃で1分間インキュベートした後、37℃で1時間インキュベートした。
【0110】
【表3】
【0111】
ウェスタン分析:簡潔に述べると、トリプシン処理により細胞を回収し、PSBで2回洗った。メーカーの取扱説明書(Sigma)に従って溶解バッファーを調製し、その後細胞に添加した。オービタルシェーカー上において4℃で15分間インキュベーション後、細胞ライセートを採取し、12000×gで10分間遠心分離して細胞デブリをペレット化した。その後タンパク質を含有する上清を採取して定量した。次に、タンパク質抽出物25μgを8〜16%グラジエントSDS−PAGE(Novex)に装填した。電気泳動後にタンパク質をPVDF膜に転写し、その後TTBS(0.05%Tween20および100mM Tris−Cl)中5%脱脂粉乳液で1時間ブロッキングした。次に、ブロットを1:2000希釈ウサギ抗PAX2一次抗体(Zymed、カリフォルニア州サンフランシスコ)でプローブした。洗浄後、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)とコンジュゲートした抗ウサギ抗体(1:5000希釈;Sigma)と共に膜をインキュベートし、Alpha Innotech Fluorchem 8900上で化学発光試薬(Pierce)を用いてシグナル検出を可視化した。対照として、ブロットを剥離し、マウス抗βアクチン一次抗体(1:5000,Sigma−Aldrich)およびHRPコンジュゲート抗マウス二次抗体(1:5000,Sigma−Aldrich)でリプローブし、シグナル検出を再度可視化した。
【0112】
位相差顕微鏡分析:位相差顕微鏡分析により、細胞増殖に対するPAX2ノックダウンの効果を分析した。この場合、1〜2×104細胞を6ウェル培養プレート(BD FALCON、米国)上に播種した。翌日、細胞を培地のみ、陰性対照非特異的siRNAまたはPAX2 siRNAで処理し、さらに6日間インキュベートした。次に、細胞を倒立型ZeissIM35顕微鏡(Carl Zeiss、ドイツ)により倍率32倍で観察した。SPOT Insight Mosaic 4.2カメラ(Diagnostic Instruments、米国)を用いて、細胞の1視野の位相差写真を撮影した。
【0113】
MTT細胞毒性アッセイ:メーカーのプロトコル(Promega)に従い、Codebreakerトランスフェクション試薬を用いてDU145、PC3およびLNCaP細胞(1×105)にPAX2 siRNAプールまたは対照siRNAプール0.5μgをトランスフェクトした。次に、細胞懸濁液を希釈し、さらに1〜5×103細胞/ウェルで96ウェルプレートに播種し、さらに2、4、または6日間増殖させた。培養後、3−[4,5−ジメチルチアゾール−2イル]−2,5ジフェニルテトラゾリウムブロミド、MTT(Promega)の着色ホルマザン生成物への変換を測定することにより細胞生存率を測定した。走査型マルチウェル分光光度計上で540nmにおける吸光度を読み取った。
【0114】
実施例1の記載に従い、前立腺癌細胞株におけるパンカスパーゼ検出および定量的リアルタイムPCRを実施した。公開配列からBAX、BIDおよびBADプライマー対を作製した(表4:定量的RT−PCRプライマー.PAX2およびGAPDHを増幅するために用いたプライマーのヌクレオチド配列)。反応はMicroAmp Optical 96ウェル反応プレート(PE Biosystems)中で実施した。アニーリング温度60℃を用いて、標準的な条件下でPCRを40サイクル実施した。定量値は、指数的増幅が始まったサイクル数(閾値)により決定し、さらに3回繰り返して得られた値を平均した。メッセージレベルと閾値の間には逆関係があった。さらにGAPDHをハウスキーピング遺伝子として用い、全cDNAの初期含有量を正規化した。遺伝子発現は、プロアポトーシス遺伝子とGAPDH間の相対発現比率として算出した。全ての反応は3本ずつ実施した。
【0115】
【表4】
【0116】
PAX2タンパク質のsiRNA阻害:siRNAがPAX2 mRNAを有効にターゲティングしていることを確認するために、ウェスタン分析を実施して6日間の処理期間中のPAX2タンパク質発現レベルをモニタリングした。細胞に対してPAX2 siRNAのプールによるトランスフェクションを1ラウンド実施した。結果より、DU145(図6a)においては4日目まで、およびPC3においては6日目まで(図6b)にPAX2タンパク質のノックダウンが示されたことで、PAX2 mRNAの特異的ターゲティングが確認された。
【0117】
PAX2のノックダウンにより前立腺癌細胞の増殖が阻害される:培地のみ、陰性対照非特異的siRNAまたはPAX2 siRNAによる6日間処理後に細胞を分析した(図7)。DU145(a)、PC3(d)およびLNCaP(g)細胞は、培地のみを含む培養皿において全て少なくとも90%のコンフルエントに達した。DU145(b)、PC3(e)およびLNCaP(h)を陰性対照非特異的siRNAで処理しても細胞の増殖に影響せず、細胞はやはり6日後にコンフルエントに達した。しかし、PAX2 siRNAで処理したところ細胞数は有意に減少した。DU145細胞は約15%コンフルエント(c)であり、PC3は10%コンフルエントに過ぎなかった(f)。siRNA処理後のLNCaP細胞は5%コンフルエントであった。
【0118】
細胞毒性分析:2、4、および6日間曝露後に細胞生存率を測定し、さらに処理細胞の570〜630nm吸光度を未処理細胞のそれで割った比率として表す(図8)。2日間処理後の相対細胞生存率はLNCaPにおいて77%、DU145において82%、およびPC3において78%であった。4日後の相対的細胞生存率はLNCaPで46%、DU145で53%およびPC3で63%であった。6日間処理後の相対的細胞生存率はLNCaPで31%、PC3で37%およびDU145で53%まで低下した。陰性対照として、陰性対照非特異的siRNAまたはトランスフェクション試薬のみによる6日間処理後に細胞生存率を測定した。いずれの条件についても、通常増殖培地と比較して細胞生存率に統計的に有意な変化はなかった。
【0119】
パンカスパーゼ検出:カスパーゼ活性は共焦点レーザー顕微鏡分析法によって検出した。DU145、PC3およびLNCaP細胞をPAX2 siRNAで処理し、蛍光緑色となる活発なアポトーシスを被る細胞におけるFAM標識ペプチドとカスパーゼの結合に基づいて活性をモニタリングした。培地のみで処理した細胞のDIC分析により、0時間における生存可能なDU145(A)、PC3(E)およびLNCaP(I)細胞の存在が示される(図9)。488nmの共焦点レーザーによって励起したところ、検出可能な緑色染色は生成されず、未処理DU145(B)、PC3(F)またはLNCaP(J)にカスパーゼ活性がないことが示される。PAX2 siRANによる4日間処理後、DU145(C)、PC3(G)およびLNCaP(K)細胞はDIC下で再度可視となった。蛍光下で、処理されたDU145(D)、PC3(H)およびLNCaP(L)細胞は、カスパーゼ活性を示す緑色染色を呈した。
【0120】
PAX2阻害のプロアポトーシス因子に対する影響:DU145、PC3およびLNCaP細胞をPAX2に対するsiRNAで6日間処理し、p53転写調節依存性および非依存性プロアポトーシス遺伝子の発現を測定し、細胞死経路をモニタリングした。BAXについては、LNCaPにおいては1.81倍、DU145においては2.73倍、およびPC3においては1.87倍の増加があった(図10a)。BIDの発現レベルはLNCaPにおいて1.38倍およびDU145において1.77倍増加した(図10b)。しかしPC3においては、BID発現レベルは処理後に1.44分の1に低下した(図10c)。BADの分析により、LNCaPにおいては2.0倍、DU145については1.38倍、およびPC3については1.58倍の発現増加が判明した(図10a)。
【0121】
これらの結果より、前立腺癌細胞の生存がPAX2発現に依存性であることが証明される。p53発現細胞株LNCaP、p53突然変異株DU145、およびp53欠損株PC3においてPAX2ノックダウンの結果としてp53が活性化され、その後いずれの細胞株においてもカスパーゼ活性が検出され、プログラム細胞死が開始することが示された。BAX発現は、3細胞株のいずれにおいてもp53状態非依存的にアップレギュレートされた。プロアポトーシス因子BADの発現も、PAX2阻害後に3細胞株の全てにおいて増加した。PAX2 siRNA処理後、BID発現はLNCaPおよびDU145において増加したものの、実はPC3細胞において低下した。これらの結果より、前立腺癌において認められた細胞死はp53発現の影響は受けるもののこれに依存しないことが示された。前立腺癌細胞におけるアポトーシスはp53状態と無関係に他の細胞死経路によって開始することから、PAX2が他の腫瘍抑圧因子を阻害することが示される。
【0122】
配列番号3〜6以外の、他の抗PAX2 siRNAの例は以下の配列(5’から3’方向)を有するsiRNAを含むが、これに限定されない:
ACCCGACTATGTTCGCCTGG(配列番号7)、
AAGCTCTGGATCGAGTCTTTG(配列番号8)、
ATGTGTCAGGCACACAGACG(配列番号9)、
GUCGAGUCUAUCUGCAUCCUU(配列番号10)、
GGAUGCAGAUAGACUCGACUU(配列番号11)、
【0123】
PAXタンパク質は、進化の間に保持されていた転写因子のファミリーであり、かつ「ペアードドメイン(PD)」および「ホメオドメイン(HD)」と呼ばれるドメインを通じて特定のDNA配列と結合することができる。PDは一定のPAXタンパク質(例:PAX2とPAX6)によって共有されるコンセンサス配列である。PDは、DNA−タンパク質複合体を形成するα3−ヘリックス内に位置するアミノ酸のDNA結合の方向を決定する。PAX2については、HDのアミノ酸がCCTTG(配列番号1)DNAコア配列を認識し、かつこれと特異的に相互作用する。この配列を含むオリゴヌクレオチドまたはその相補体はPAX2タンパク質の阻害物質であると予測される。
【0124】
1つの実施形態において、オリゴヌクレオチドは、VがDEFB1の1〜35個の近接挟持ヌクレオチドでありかつWが1〜35個のヌクレオチドであることを特徴とする、V−CCTTG−Wの配列(配列番号12)を有する。ヌクレオチドは、通常はDEFB1のPAX2 DNA結合部位を挟む近接ヌクレオチドとすることができる。代替的に、DEFB1と無関係であり、かつ認識配列への干渉を回避するために定法により選択されることもできる。
【0125】
DEFB1プロモーターと結合するPAX2を阻害するオリゴヌクレオチドの他の例は以下の配列(5’から3’方向)を有するオリゴヌクレオチドを含むが、これに限定されない:
CTCCCTTCAGTTCCGTCGAC(配列番号13)
CTCCCTTCACCTTGGTCGAC(配列番号14)
ACTGTGGCACCTCCCTTCAGTTCCGTCGACGAGGTTGTGC(配列番号15)
ACTGTGGCACCTCCCTTCACCTTGGTCGACGAGGTTGTGC(配列番号16)
【実施例3】
【0126】
(PAX2癌遺伝子の阻害は前立腺癌細胞のDEFB1介在性細胞死をもたらす)
新規癌治療薬の開発の標的として役立つ腫瘍特異的分子の同定は、癌研究における主要な目標であると見なされている。実施例1は、前立腺癌において高頻度のDEFB1発現の低下があること、およびDEFB1発現の誘導はアンドロゲン受容体陰性ステージ前立腺癌において迅速なアポトーシスをもたらすことを証明した。これらのデータは、DEFB1が前立腺腫瘍抑制において役割を果たすことを示す。さらに、天然に発生する正常前立腺上皮の免疫系の成分であることを考慮すれば、DEFB1はほとんど副作用のない有効な治療薬となると期待される。実施例2は、PAX2発現阻害によりp53に非依存的な前立腺癌細胞死がもたらされることを証明した。これらのデータは、PAX2によって阻害される追加プロアポトーシス因子または腫瘍抑圧因子があることを示す。さらに、データより前立腺癌において過剰発現している発癌因子PAX2がDEFB1の転写リプレッサーであることが示される。本試験の目的は、DEFB1発現の低下がPAX2癌遺伝子の異常発現によるものであるか、およびPAX2を阻害することによってDEFB1介在性細胞死がもたらされるか否かを測定することである。
【0127】
(材料と方法)
RNAの分離および定量的RT−PCRは、実施例1の記載に従って実施した。DEFB1に対するプライマー対は公開DEFB1配列(目録番号U50930)から作製した。アニーリング温度56℃を用いて、標準的な条件下でPCRを40サイクル実施した。さらに、ハウスキーピング遺伝子としてGAPDHを増幅し、全cDNAの初期含有量を正規化した。DEFB1発現はDEFB1とGAPDHの相対発現比率として算出し、さらにPAX2発現のsiRNAノックダウンの前後に複数の細胞株において比較した。全ての反応は3本ずつ3回実施した。
【0128】
DEFB1レポーター構築物の作製:pGL3ルシフェラーゼレポータープラスミドを用いてDEFB1レポーター活性をモニタリングした。この場合、DEFB1転写開始部位から160塩基上流の領域はDEFB1 TATAボックスを含んだ。領域はPAX2結合に必要なGTTCC(配列番号2)配列も含んだ。PCRプライマーはKpn1およびNhe1制限部位を含むよう設計した。DEFB1プロモーターのPCR産物をKpnIおよびNheIで制限消化し、さらに同様に制限消化したpGL3プラスミドにライゲーションした(図2)。構築物をE.coliにトランスフェクトし、さらに個々のクローンを選択および拡張した。プラスミドを分離し、さらに自動シーケンシングによりDEFB1/pGL3構築物の配列完全性を再度検証した。
【0129】
ルシフェラーゼレポーター分析:この場合、DEFB1レポーター構築物または対照pGL3プラスミド1μgを1×106個のDU145細胞にトランスフェクトした。次に、0.5×103個の細胞を96ウェルプレートの各ウェルに播種し、1晩増殖させた。次に、PAX2 siRNAを含む新鮮培地または培地のみを添加し、細胞を48時間インキュベートした。メーカーのプロトコル(Promega)に従い、BrightGloキットによりルシフェラーゼを検出し、さらにプラスミドをVeritas自動96ウェルルミノメーターで読み取った。プロモーター活性は関連する発光として表した。
【0130】
膜透過性の分析:アクリジンオレンジ(AO)/臭化エチジウム(EtBr)二重染色を実施し、凝集クロマチン染色により細胞膜完全性の変化、およびアポトーシス細胞を鑑別した。AOは生存細胞および初期のアポトーシス細胞を染色する一方、EtBrは膜透過性を喪失した後期アポトーシス細胞を染色する。簡潔に述べると、細胞を2穴チャンバー培養スライド(BD FALCON、米国)に播種した。空のpINDプラスミド/pvgRXRまたはpIND DEFB1/pvgRXRをトランスフェクトした細胞を、10μMポナステロンAを含有する培地により24または48時間誘導した。対照細胞には24および48時間後に新鮮培地を供給した。膜完全性に対するPAX2阻害の効果を測定するために、DU145、PC3およびLNCaPを含む別個の培養スライドをPAX2 siRNAで処理しさらに4日間インキュベートした。この後、細胞をPBSで1回洗いさらにAO(Sigma、米国)とEtBr(Promega、米国)の混合溶液(1:1)(5ug/mL)2mLで5分間染色した。染色後、細胞を再度PBSで洗った。Zeiss LS M5 Pascal Vario 2レーザースキャニング共焦点顕微鏡(Carl Zeiss、ドイツ・イェナ)で蛍光を観察した。励起カラーホイールは、AOから発光した緑色光は緑色チャネルに、EtBrからの赤色光は赤色チャネルに分離させるためのBS505−540(緑色)およびLP560(赤色)フィルターブロックを含む。各個別の実験内のレーザー出力およびゲイン制御設定は対照とDEFB1誘導細胞の間で同一であった。AOについては波長543nmおよびEtBrについては488nmの波長でKr/Ar混合ガスレーザーにより励起を提供した。スライドを倍率40倍の位相差顕微鏡で分析し、デジタル画像を無圧縮TIFFファイルとし保存し、画像処理およびハードコピー提示のためにPhotoshop CSソフトウェア(Adobe Systems、カリフォルニア州サンホセ)にエクスポートした。
【0131】
PAX2のChIP分析:クロマチン免疫沈降(ChIP)により、転写因子によるプロモーターのインビボ占有および免疫沈降による転写因子結合クロマチンの集積に基づくDNA結合性タンパク質の結合部位の同定が可能となる。Farnham研究所が報告したプロトコルの変法を用いた;http://mcardle.oncology.wisc.edu/farnham/においてオンライン閲覧もできる)。DU145およびPC3細胞株はPAX2タンパク質を過剰発現するが、DEFB1は発現しない。細胞を1.0%ホルムアルデヒドを含有するPBSで10分間インキュベートし、タンパク質をDNAに架橋させた。その後サンプルを超音波処理して平均長600bpのDNAを得た。事前にプロテインAダイナビーズで清澄化した超音波処理クロマチンをPAX2特異抗体または「無抗体」対照[アイソタイプでマッチングした対照抗体]と共にインキュベートした。その後洗った免疫沈降物を採取した。架橋を元に戻した後、プロモーター特異的プライマーを用いてDNAをPCRで分析し、PAX2免疫沈降サンプル中にDEFB1が示されるか否か測定した。プライマーは、DEFB1 TATAボックスおよび機能的GTTCC(配列番号2)PAX2認識部位を含むDEFB1 mRNA開始部位よりすぐ上流の160bp領域を増幅するよう設計された。これらの研究については、陽性対照に(免疫沈降の前であるが架橋は戻してある)入力クロマチンの一部のPCRを含めた。全ての手順はプロテアーゼ阻害剤の存在下で実施した。
【0132】
PAX2のsiRNA阻害はDEFB1発現を増加する:siRNA処理前のDEFB1発現のQRT−PCR分析により、相対発現レベルがDU145で0.00097、PC3で0.00001、およびLNCaPでは0.00004であることが判明した(図13)。PAX2のsiRNAノックダウン後は、相対発現はDU145で0.03294(338倍増加)、PC3で0.00020(22.2倍増加)およびLNCaPにおいて0.00019(4.92倍増加)であった。陰性対照として、PAX2欠損株であるヒト前立腺上皮細胞株(hPrEC)は処理前の発現レベルが処理前は0.00687かつsiRNA処理後は0.00661と判明し、DEFB1発現に統計的変化がないことが確認された。
【0133】
DEFB1は細胞膜透過性を引き起こす:共焦点レーザー顕微鏡分析法によって膜完全性をモニタリングした(図14)。この場合、無傷の細胞は膜透過性であるAOにより緑色に染色される。さらに、原形質膜が崩壊した細胞は膜非透過性であるEtBrによって赤色に染色されるであろう。この場合、非誘導DU145(A)およびPC3(D)細胞はAO染色陽性でかつ緑色発光したが、EtBrでは染色されなかった。しかしDU145(B)およびPC3(E)におけるDEFB1の誘導は、いずれも24時間後に赤色染色で示される細胞質へのEtBrの蓄積をもたらした。48時間後までに、DU145(C)およびPC3(F)は核が凝集し見かけ上黄色となるが、これはそれぞれAOおよびEtBrの蓄積が原因で緑色および赤色染色が共存することによる。
【0134】
PAX2の阻害によって膜透過性がもたらされる:細胞をPAX2 siRNAで4日間処理し、さらに共焦点分析により膜完全性を再度モニタリングした。この場合、DU145およびPC3は共に凝集した核を有し、見かけ上黄色となった。しかし、LNCaP細胞の細胞質および核はsiRNA処理後も緑色のままであった。細胞周辺部の赤色染色も、細胞膜の完全性の維持を示す。これらの所見は、PAX2の阻害によって、DU1145およびPC3においては特異的にDEFB1介在性細胞死が起こるが、LNCaP細胞では起こらないことを示す。LNCaPにおいて認められる死は、LNCaPにおけるPAX2阻害後の既存の野生型p53のトランス活性化によるものである。
【0135】
PAX2のsiRNA阻害はDEFB1プロモーター活性を増加する:DEFB1/pGL3構築物を含むDU145細胞におけるDEFB1プロモーター活性の分析により、48時間処理後の相対的発光量は未処理細胞と比較して2.65倍増加することが判明した。PC3細胞において、未処理細胞と比較した相対発光量は3.78倍増加した。
【0136】
PAX2はDEFB1プロモーターと結合する:DU145およびPC3細胞に対してChIP分析を実施し、PAX2転写リプレッサーがDEFB1プロモーターと結合するか測定した(図15)。レーン1は分子量100bpのマーカーを含む。レーン2は、架橋および免疫沈降前にDU145から増幅したDEFB1プロモーターの160bp領域を表す陽性対照である。レーン3は、DNAを用いずに実施したPCRを表す陰性対照である。レーン4および5は、それぞれ架橋したDU145およびPC3由来のIgGを用いて実施した免疫沈降物からのPCRを表す陰性対照である。架橋後に抗PAX2抗体で免疫沈降したDNA25pg(レーン6および8)および50pg(レーン7および9)のPCR増幅は、それぞれDU145およびPC3において160bpのプロモーターフラグメントを示す。
【0137】
これらの結果は、発癌因子PAX2がDEFB1発現を抑制することを証明する。抑制は転写レベルで発生する。さらに、DEFB1プロモーターのコンピュータ分析により、DEFB1 TATAボックスに隣接するPAX2転写リプレッサーに対するGTTCC(配列番号2)DNA結合部位の存在が明らかとなった(図1)。ディフェンシン細胞毒性の証拠の1つは、膜完全性の破壊である。これらの結果より、前立腺癌細胞においてDEFB1が異所性発現すると、細胞膜の崩壊が原因となって膜電位が減少することが示される。同じ現象はPAX2タンパク質発現の阻害後にも認められる。したがって、PAX2発現または機能の抑制によって、DEFB1発現が再確立し、かつその後DEFB1介在性細胞死が発生する。また、この結果より、生得免疫を介した前立腺癌治療、および潜在的に他の癌治療のための治療法としてのDEFB1の有用性が確立される。
【実施例4】
【0138】
(移植腫瘍細胞におけるDEFB1発現の影響)
DEFB1の抗腫瘍能力を、DEFB1を過剰発現した腫瘍細胞をヌードマウスに注射することによって評価する。両方向テトラサイクリン応答性プロモーターを有するpBI−EGFPベクターにDEFB1をクローニングする。Tet−Off細胞株は、pTet−OffをDU145、PC3およびLNCaP細胞にトランスフェクトし、さらにG418で選択することによって作製される。pBI−EGFP−DEFB1プラスミドはpTK−Hygと共にTet−off細胞株に同時トランスフェクトし、ハイグロマイシンによって選択する。生存率>90%の単一細胞懸濁液のみを用いた。各動物に対し、約500,000個の細胞を雌性ヌードマウスの右側腹部に皮下投与する。ベクターのみのクローンを投与された対照群およびDEFB1を過剰発現するクローンを注射された群の2群がある。統計学者の決定に従い、各群マウス35匹とする。動物は週2回体重測定し、キャリパーで腫瘍増殖をモニタリングし、さらに以下の式を用いてに腫瘍体積を決定する:体積=0.5×(幅)2×長さ。全ての動物は、腫瘍のサイズが2mm3に達した時または移植より6ヶ月後にCO2過剰投与によって屠殺し;腫瘍を切除し、秤量し、病理検査のために中性緩衝化ホルマリンに保存する。腫瘍の成長の群間差を、要約統計量および図面表示により記述的にキャラクタライゼーションする。統計的有意性は、t検定またはノンパラメトリックな同等法のいずれかで評価する。
【実施例5】
【0139】
(移植腫瘍細胞に対するPAX2 siRNAの影響)
インビトロ試験で用いたヘアピンPAX2 siRNA鋳型オリゴヌクレオチドを用いて、インビボでDEFB1発現アップレギュレーションの影響を検討する。センスおよびアンチセンス鎖(表4参照)をアニーリングし、ヒトU6 RNA pol IIIプロモーターの制御の下で、pSilencer2.1 U6 hygro siRNA発現ベクター(Ambion)にクローニングする。クローン化プラスミドをシーケンシングし、検証し、PC3、Du145およびLNCap細胞株にトランスフェクトする。スクランブルshRNAをクローニングし、本試験における陰性対照として用いる。ハイグロマイシン耐性コロニーを選択し、マウスに細胞を皮下導入し、さらに腫瘍の成長を上述の通りにモニタリングする。
【実施例6】
【0140】
(小分子PAX2結合阻害剤の移植腫瘍細胞に対する作用)
PAX2についてのDNA認識配列は、ヌクレオチド−75と−71の間のDEFB1プロモーター内に存在する[+1は転写開始部位を表す]。PAX2 DNA結合ドメインに相補的な短鎖オリゴヌクレオチドが提供される。そのようなオリゴヌクレオチドの例は、以下で提供されるGTTCC(配列番号2)認識配列を含む20量体および40量体オリゴヌクレオチドを含む。これらの鎖長は無作為に選択したが、他の鎖長は結合遮断剤として有効であると予測される。陰性対照としてスクランブル配列−(CTCTG)(配列番号17)を有するオリゴヌクレオチドを設計して特異性を検証した。オリゴヌクレオチドは、Lipofectamine試薬またはCodebreakerトランスフェクション試薬(Promega Inc.)によって前立腺癌細胞およびHPrEc細胞にトランスフェクトする。DNA−タンパク質相互作用を確認するために、2本鎖オリゴヌクレオチドを[32P]dCTPで標識し、電気泳動移動度シフトアッセイを実施する。さらに、オリゴヌクレオチドで処理した後にQRT−PCRおよびウェスタン分析によりDEFB1発現をモニタリングする。最後に、前述のようにMTTアッセイおよびフローサイトメトリーにより細胞死を検出する。
認識配列No.1:CTCCCTTCAGTTCCGTCGAC(配列番号13)
認識配列No.2:CTCCCTTCACCTTGGTCGAC(配列番号14)
スクランブル配列No.1:CTCCCTTCACTCTGGTCGAC(配列番号18)
認識配列No.3:ACTGTGGCACCTCCCTTCAGTTCCGTCGACGAGGTTGTGC(配列番号15)
認識配列No.4:ACTGTGGCACCTCCCTTCACCTTGGTCGACGAGGTTGTGC(配列番号16)
スクランブル配列No.2:ACTGTGGCACCTCCCTTCACTCTGGTCGACGAGGTTGTGC(配列番号19)
【0141】
本発明のオリゴヌクレオチドのさらなる例は:
認識配列No.1:5’−AGAAGTTCACCCTTGACTGT−3’(配列番号20)
認識配列No.2:5’−AGAAGTTCACGTTCCACTGT−3’(配列番号21)
スクランブル配列No.1:5’−AGAAGTTCACGCTCTACTGT−3’(配列番号22)
認識配列No.3:
5’−TTAGCGATTAGAAGTTCACCCTTGACTGTGGCACCTCCC−3’(配列番号23)
認識配列No.4:
5’−GTTAGCGATTAGAAGTTCACGTTCCACTGTGGCACCTCCC−3’(配列番号24)
スクランブル配列No.2:
5’−GTTAGCGATTAGAAGTTCACGCTCTACTGTGGCACCTCCC−3’(配列番号25)
を含む。
【0142】
この代替的阻害オリゴヌクレオチドのセットは、(CCTTG(配列番号1)コア配列と共に)PAX2結合ドメインおよびホメオボックスに対する認識配列に相当する。これらはDEFB1プロモーターに由来する実際の配列を含む。
【0143】
PAX2遺伝子は、前立腺を含む多様な癌細胞の増殖および生存のために必要とされる。さらに、PAX2発現の阻害によって生得的免疫成分DEFB1を介した細胞死が起こる。DEFB1発現および活性の抑制は、PAX2タンパク質とDEFB1プロモーター内のGTTCC(配列番号2)認識部位との結合によって完遂される。したがって、この経路は前立腺癌の治療に有効な治療的標的を提供する。この方法においては、配列はPAX2 DNA結合部位と結合し、さらにPAX2とDEFB1プロモーターの結合を遮断することによって、DEFB1発現および活性を可能とする。上述のオリゴヌクレオチド配列および実験は、さらなるPAX2阻害薬の設計のための実施例でありかつそのためのモデルを示す。
【0144】
インターロイキン−3、インターロイキン−4、インスリン受容体などにGTTCC(配列番号2)配列が存在することを考慮すれば、PAX2はそれらの発現および活性も同様に制御する。したがって、本明細書に開示のPAX2阻害剤は、前立腺炎などの炎症および良性前立腺肥大(BPH)と関連した方向のものを含む数多くの他の疾患においても有用性を有する。
【実施例7】
【0145】
(DEFB1発現の減少によって発癌が増加する)
機能低下マウスの作製:Cre/loxPシステムは、前立腺発癌の基盤をなす分子的機構の解明において有用となっている。この場合、前立腺内における誘導崩壊にDEFB1 Cre条件付きKOが用いられている。DEFB1 Cre条件付きKOは、DEFB1コードエクソンを挟むloxP部位を含むターゲティングベクターの作製、このベクターを有する標的ES細胞、およびのこれらの標的ES細胞からの生殖細胞系列キメラマウスの作製を包含する。ヘテロ接合体を前立腺特異的Creトランスジェニック体と交配し、ヘテロ接合体交雑雑種を用いて前立腺特異的DEFB1 KOマウスを作製する。4つの遺伝毒性化学化合物がげっ歯類に前立腺癌を誘発することが確認されている:N−メチル−N−ニトロソ尿素(MNU)、N−ニトロソビス2−オキソプロピルアミン(BOP)、3,2X−ジメチル−4−アミノ−ビフェニル(MAB)および2−アミノ−1−メチル−6−フェニルイミダゾール4,5−ビピリジン(PhIP)。DEFB1−トランスジェニックマウスは、前立腺腫および腺癌誘発試験用にこれらの発癌化合物を胃内投与または静脈内注射して処理する。組織学、免疫組織学、mRNAおよびタンパク質分析により腫瘍増殖の差異および遺伝子発現の変化について前立腺サンプルを試験する。
【0146】
GOFマウスの作製:PAX2誘導可能GOFマウスについては、PAX2 GOF(バイトランスジェニック)および野生型(モノトランスジェニック)の同腹仔に対し、5週齢よりドキシサイクリン(Dox)を投与して前立腺特異性PAX2発現を誘発する。簡潔に述べると、PROBASIN−rtTAモノトランスジェニックマウス(tet依存性rtTA誘導物質の前立腺細胞特異性発現)を我々のPAX2トランスジェニック応答動物系と交配した。バイトランスジェニックマウスに対し、誘導のために飲料水よりDoxを給餌した(週2回500μg/Lを新たに調製して投与)。バイトランスジェニックマウスにおけるトランスジェニックファウンダー系統を用い、初回の実験で低いバックグラウンドレベル、良好な誘導性ならびにPAX2およびEGFPレポーターの細胞型特異的発現を確認する。実験群のサイズについては、各群(野生型およびGOF)において年齢および性別でマッチングした5〜7個体によって統計的有意性を考慮する。本試験における全動物について、始めに分析および比較のために前立腺組織を1週間おきに採取し、発癌時間パラメーターを決定する。
【0147】
PCR遺伝子型決定、RT−PCRおよびqPCR:以下のPCRプライマーおよび条件を用いて、PROBASIN−rtTAトランスジェニックマウスの遺伝子型を決定する:
PROBASIN5(フォワード)5’−ACTGCCCATTGCCCAAACAC−3’(配列番号26);
RTTA3(リバース)5’−AAAATCTTGCCAGCTTTCCCC−3’(配列番号27);
95℃で5分間変性、その後95℃で30秒、57℃で30秒、72℃で30秒の30サイクル、その後72℃で5分間伸長し、600bp産物を回収。
【0148】
以下のPCRプライマーおよび条件を用いて、PAX2誘導可能トランスジェニックマウスの遺伝子型を決定する:PAX2フォワード5’−GTCGGTTACGGAGCGGACCGGAG−3’(配列番号28);
逆5’IRES 5’−TAACATATAGACAAACGCACACCG−3’(配列番号29);
95℃で5分間変性、その後95℃で30秒、63℃で30秒、72℃で30秒の34サイクル、その後72℃で5分間伸長し、460bp産物を回収。
【0149】
以下のPCRプライマーおよび条件を用いて、immortoマウスヘミ接合体の遺伝子型を決定する:Immol1、5’−GCGCTTGTGTC GCCATTGTATTC−3’(配列番号30);Immol2,5’−GTCACACCACAGAAGTAAGGTTCC−3’(配列番号31);
94℃で30秒、58℃で1分、72℃で1分30秒、30サイクルで約1kb導入遺伝子バンドを得る。PAX2ノックアウトマウスの遺伝子型を決定するために、以下のPCRプライマーおよび条件を用いる:PAX2フォワード5’−GTCGGTTACGGAGCGGACCGGAG−3’(配列番号32);
PAX2リバース5’−CACAGAGCATTGGCGATCTCGATGC−3’(配列番号33);
94℃1分、65℃1分、72℃30秒、36サイクルで280bpバンドを得る。
【0150】
DEFB1ペプチド動物試験:Charles River Laboratoriesより購入した6週齢の雄性胸腺欠損(ヌード)マウスの肩甲骨皮下に、106個の生存PC3細胞を注射する。注射より1週間後、動物を3群のうち1群に無作為割り付けする−I群:対照;II群:DEFB1を100μg/日、週5日、2〜14週間腹腔内注射;III群:DEFB1を100μg/日、週5日、8〜14週間腹腔内注射。動物は、1ケージにつき4匹として無菌飼育で維持し、毎日観察する。腫瘍は10日おきにキャリパーを用いて測定し、腫瘍の体積はV=(L×W2)/2を用いて算出した。
【実施例8】
【0151】
(上皮内腫瘍および癌の化学予防を目的としたPAX2発現のターゲティング)
癌化学予防は、癌の予防、もしくは前癌状態またはさらにより早期における治療と定義される。侵襲性癌への進行期間が長いことは重要な科学的機会であるが、化学予防薬候補の臨床的利点を示すことに対する経済的な障害でもある。したがって、近年の化学予防薬開発研究の重要な構成要素は、薬剤の臨床的利益または癌発生率減少効果を正確に予測する(癌より)早期のエンドポイントまたはバイオマーカーを特定することとなっている。多くの癌において、IENは前立腺癌などの早期エンドポイントである。PAX2/DEFB1経路がIEN中に、およびおそらくより早期の病理組織学的状態で調節解除されることを考慮すれば、これは強力な予測的バイオマーカーかつ癌化学予防のためのすぐれた標的となる。前立腺癌に対する化学予防薬としての有用性を有しうる、PAX2を抑制しかつDEFB1発現を高める数多くの化合物が示される。
【0152】
表1に示すように、PAX2遺伝子は数多くの癌において発現される。さらに、数種類の癌が異常PAX2発現を有することが示されている(図18)。標的PXA2発現を介した化学予防は、癌関連死亡に対して大きな影響をもたらしうる。アンジオテンシンII(AngII)は、血圧および心血管系恒常性の主な調節因子であり、かつ強力なマイトジェンとして認識されている。AngIIは、G−タンパク質共役受容体スーパーファミリーに属するが組織分布および分子内シグナリング経路が異なる2つの受容体サブタイプ、アンジオテンシンI型受容体(AT1R)およびアンジオテンシンII型受容体(AT2R)と結合することより、その生物学的効果を媒介する。AngIIは、その血圧に対する効果に加えて、創傷治癒などの組織リモデリング、心肥大および発生を包含する多様な病理的状況においてある役割を果たすことが示されている。実際に、前立腺を含む多様な癌細胞および組織におけるレニンーアンジオテンシン系(RAS)のいくつかの成分の局所的発現が、最近の研究で明らかになっている。AT1Rのアップレギュレーションは、アポトーシスおよび増殖調節因子を回避することを学習した癌細胞に対して相当な利点をもたらす。
【0153】
(材料と方法)
試薬および処理:細胞は、5または10uM AngII、5uM ATR1拮抗剤Los、5uM ATR2拮抗剤PD123319、25uM MEK阻害剤U0126、20uM MEK/ERK阻害剤PD98059もしくは250μM AMPキナーゼ誘発物質AICARで処理した。
【0154】
ウェスタン分析は実施例2の記載に従って実施した。次にブロットを、1:1000〜2000希釈の一次抗体(抗PAX2、抗ホスホPAX2、抗JNK、抗ホスホJNK、抗ERK1/2または抗ホスホERK1/2)(Zymed、カリフォルニア州サンフランシスコ)でプローブした。洗浄後、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)(1:5000希釈;Sigma)とコンジュゲートした抗ウサギ抗体と共に膜をインキュベートし、アルファイノテックフルオロケム8900上で化学発光試薬(Pierce)を用いてシグナル検出を可視化した。対照として、ブロットを剥離し、マウス抗βアクチン1次抗体(1:5000,Sigma−Aldrich)およびHRPコンジュゲート抗マウス二次抗体(1:5000,Sigma−Aldrich)でリプローブし、シグナル検出を再度可視化した。
【0155】
QRT−PCR分析は実施例1の記載にしたがって実施した。反応はMicroAmp Optical 96ウェル反応プレート(PE Biosystems)中で実施した。アニーリング温度60℃を用いて、標準的な条件下でPCRを40サイクル実施した。定量値は、指数的増幅が始まったサイクル数(閾値)により決定し、さらに3回繰り返して得られた値を平均した。メッセージレベルと閾値の間には逆相関があった。さらにGAPDHをハウスキーピング遺伝子として用い、全cDNAの初期含有量を正規化した。相対発現は、各遺伝子とGAPDHの比率として算出した。全ての反応は3本ずつ実施した。
【0156】
チミジン取り込み:細胞の増殖は、[3H]チミジンリボチド[3H]TdR)のDNAへの取り込みによって測定した。DU145細胞の0.5×106個/ウェル懸濁液をその適切な培地に撒いた。細胞は、指示された濃度のAngIIの存在下または非存在下で72時間インキュベートした。細胞を同一培地中で37kBq/mL[メチル−3H]チミジンに6時間曝露した。付着細胞は5%トリクロロ酢酸で固定し、SDS/NaOH溶解バッファーで1晩溶解した。Beckman LS3801液体シンチレーションカウンター(カナダ)で放射能を測定した。懸濁細胞培養は、セルハーベスター(Packard instrument Co.、コネティカット州メリデン)で回収し、また1450 microbeta液体シンチレーションカウンター(PerkinElmer Life Sciences)で放射能を測定した。
【0157】
DU145前立腺癌細胞におけるPAX2に対するAngIIの影響を検討するために、AngIIで30分から48時間にわたって処理した後にPAX2発現を検討した。図19に示すように、PAX2発現はAngII処理後に時間と共に徐々に増加した。DU145をLosによって処理することでRASシグナリングを遮断すると、PAX2発現は有意に低下した(図20A)。この場合、未処理DU145細胞と比較したLos処理より48時間後のPAX2発現は37%であり、72時間後は50%であった(図21)。AT2R受容体がAT1Rの作用を妨害することは公知である。したがって、AT2R受容体の遮断がPAX2発現にもたらす影響を検討した。DU145をAT2R遮断剤PD123319で処理することにより、PAX2発現は48時間処理後に7倍、96時間後に8倍上昇した(図20B)。まとめると、これらの所見よりPAX2発現はATR1受容体によって調節されることが証明される。
【0158】
AngIIがAT1R介在性MAPK活性化およびSTAT3のリン酸化を経て前立腺癌細胞の増殖に直接影響することは公知である。DU145をAngIIで処理したところ増殖率は2から3倍増加した(図21)。しかし、Losで処理することによって増殖率は50%低下した。さらに、Losで30分間前処理することでAT1R受容体を遮断したところ、AngIIの増殖に対する影響が抑制された。
【0159】
PAX2発現および活性化の調節におけるAT1Rシグナリングの役割をさらに検討するために、多様なMAPキナーゼシグナリング経路成分の遮断によるPAX2発現への影響を検討した。この場合、MEK阻害剤U0126でDU145細胞を処理したところPAX2発現が有意に低下した(図22)。さらに、MEK/ERK阻害剤PD98059で処理してもPAXは低下した。DU145細胞をLosで処理してもERKタンパク質レベルには影響がないが、ホスホERKの量は低下した(図23A)。しかし、DU145をLosで処理するとPAX2発現は有意に減少した。U0126およびPD98059によっても同様の結果が認められた。PAX2発現はERKの下流の標的であるSTAT3によって調節されることも公知である。DU145をLos、U0126、およびPD98059で処理したところホスホSTAT3タンパク質レベルが低下した(図23C)。これらの結果は、前立腺癌細胞においてPAX2はAT1Rを介して調節されることを証明する。
【0160】
さらに、JNKによるPAX2活性化に対するAT1Rシグナリングの影響を検討した。DU145をLos、U0126、およびPD98059で処理したところ、いずれもホスホPAX2タンパク質レベルが有意に低下するかまたは抑制された(図24A)。しかし、LosおよびU0126はホスホJNKタンパク質レベルを低下させなかった(図24B)。したがって、ホスホPAX2の低下はPAX2レベルの低下よるものであって、リン酸化の低下によるものではないとみられる。
【0161】
5−アミノイミダゾール−4−カルボキサミド−1−β−4−リボフラノシド(AICAR)は、エネルギー恒常性および代謝ストレスに対する応答を調節するAMPキナーゼ活性化物質として幅広く用いられる。最近の報告では、活性化AMPKの抗増殖およびプロアポトーシス作用が、薬剤またはAMPK過剰発現を用いて示されている。AMPK活性化は、脂肪酸シンターゼ経路の阻害ならびにストレスキナーゼおよびカスパーゼ3の誘導を含む多様な機構によって、ヒト胃癌細胞、肺癌細胞、前立腺癌、膵臓細胞および肝臓癌細胞においてアポトーシスを誘導し、かつマウス神経芽細胞において酸化ストレス誘導アポトーシスを亢進させることが示されている。さらに、PC3前立腺癌細胞を処理したところ、p21,p27およびp53タンパク質の発現およびPI3K−Akt経路の阻害が増加した。これらの経路はいずれもPAX2によって直接的または間接的に調節される。前立腺癌細胞をAICARで処理したところ、PAX2発現(図23B)、さらにはその活性化対ホスホPAX2(図24A)が抑制された。さらに、PAX2発現を調節するホスホSTAT3も抑制された(図23C)。
【0162】
最後に、PAX2のアップレギュレーションおよび過剰発現につながる異常RASシグナリングがDEFB1腫瘍抑制因子遺伝子の発現を抑制するという仮説が立てられた。これを検討するために、正常前立腺上皮一次培養hPrECをAngIIで処理し、さらにPAX2およびDEFB1発現レベルを検討した。前立腺癌細胞に対する正常前立腺細胞において、DEFB1とPAX2発現の間の逆関係が発見された。未処理hPrECは、PC3前立腺癌細胞における発現と比較して10%の相対PAX2発現を示した。逆に、未処理PAX2は、hPrECにおける発現と比較してわずか2%の相対DEFB1発現を示した。10uM AngIIによる72時間処理後、DEFB1発現は未処理hPrECと比較して35%低下し、96時間後までにDEFB1発現は未処理hPrECと比較して50%低下した。しかし、未処理hPrEC細胞と比較して、PAX2発現は72時間で66%増加し、96時間後までにPAX2発現は79%増加した。さらに、hPrECにおける72時間後のPAX2発現の増加は、PC3前立腺癌細胞で認められたPAX2レベルの77%となった。AngII処理より96時間後のPAX2発現は、PC3におけるPAX2発現の89%となった。これらの結果より、調節解除されたRASシグナリングは前立腺細胞においてPAX2発現のアップレギュレーションを介してDEFB1発現を抑制することが証明される。
【0163】
アポトーシスの阻害は、癌の発生に寄与する重要な病態生理学的因子である。癌治療の顕著な進歩にもかかわらず、進行性疾患の治療においてはほとんど進歩していない。発癌は多年にわたる多段階、多経路の疾患進行であることを考慮し、この過程を阻害、遅延、または逆行させるための医薬品または他の薬剤の使用による化学予防は癌研究において非常に有望な領域であると認識される。この前立腺癌の化学予防を目的とした薬物療法の成功には、癌発生を抑制するという全般的な目標を有し、宿主に対する臨床的影響を最小限に維持しながら、標的細胞に対する特異的効果を有する治療薬を用いることが必要とされる。したがって、早期ステージ発癌の機構を理解することは特定の治療法の有効性を決定する上で重要である。異常PAX2発現およびそのアポトーシスの抑止の重要性は、その後の腫瘍形成に対する寄与と共に、これが前立腺癌治療のための適切な標的となりうることを示唆している。前立腺癌においてPAX2はAT1Rにより調節される(図26)。この場合、RASシグナリングが調節解除されるとPAX2癌遺伝子発現が増加し、さらにDEFB1腫瘍抑制因子の発現が減少する。したがって、AT1R拮抗剤の使用によりPAX2発現が低下しかつDEFB1の再発現を介した前立腺癌細胞死が増加する(図27)。これらの結果によって、レニン−アンジオテンシンシグナリング経路、AMPキナーゼ経路またはPAX2タンパク質の不活性化(すなわち抗PAX2抗体接種)を包含する他の方法を介したPAX2発現のターゲティングは、癌予防にとって有用な標的となりうるという新たな所見が提供される(表5:化学予防を目的としてPAX2発現を阻害するために用いられる化合物)。
【0164】
【表5】
【0165】
この研究より、前立腺癌におけるPAX2癌遺伝子のアップレギュレーションはRASシグナリングの調節解除によるものであることが証明される。PAX2発現は、アンジオテンシンI型受容体によって媒介されるERK1/2シグナリング経路によって調節される。さらに、ロサルタン(Los)によってAT1Rを遮断することによりPAX2発現が抑制される。さらに、AMPK活性化剤であるAICARもPAX2阻害剤の候補として有望性を示している。まとめると、これらの試験より、これらの薬剤クラスがPAX2発現阻害剤の候補として関係付けられ、かつ最終的に新規化学予防剤として役立ちうることが強く指摘される。
【実施例9】
【0166】
(前立腺組織の等級付け手段および前立腺癌発生の予測因子としてのPAX2−DEFB1発現レベル)
(材料と方法)
QRT−PCR分析:根治的前立腺切除術を受けた患者から前立腺切片を採取した。病理検査後、レーザーキャプチャーマイクロダイセクションを実施して正常、増殖性上皮内腫瘍(PIN)および癌組織の領域を分離した。前述の方法によりQRT−PCR分析を実施して発現を評価した。各領域のDEFB1およびPAX2発現およびGAPDHを内部標準として用いた。
【0167】
採血およびRNA分離:メーカーのプロトコルに従い、QRT−PCR用に各個人よりPAXgene(商標)Blood RNA試験管(QIAGEN)に血液(2.5mL)を採取した。全血をPAX gene安定化剤と完全に混合し、RNA抽出前に6時間室温保存した。次に、メーカーの指示書(QIAGEN)に従い、PAXgene(商標)Blood RNAキットを用いて全RNAを抽出した。汚染ゲノムDNAを除去するために、PAXgene(商標)Blood RNA Systemスピンカラムに吸収させた全RNAサンプルをDNase I(QIAGEN)と共に25℃で20分間インキュベートし、ゲノムDNAを除去した。全RNAは溶離、定量し、さらにPAX2とDEFB1発現比率を比較するために前述の方法に従ってQRT−PCRを実施する。
【0168】
LCM正常組織のQRT−PCR分析により、相対DEFB1発現レベルが0.005を上回る患者は、0.005未満の発現レベルを有する者と比較してグリーソンスコアが低いことが証明された(図28A)。したがって、DEFB1発現とグリーソンスコアの間には逆関係がある。逆に、悪性前立腺組織およびPINにおけるPAX2発現とグリーソンスコアの間には正の相関があった(図28B)。
【0169】
別個の患者からの正常、PINおよび癌組織におけるPAX2およびDEFB1発現レベルを算出および比較した(図29)。全般的に、GAPDH内部対照に対するPAX2発現レベルの範囲は、正常(良性)組織では0と0.2の間、PINにおいては0.2と0.3の間、および癌(悪性)組織においては0.3と0.5の間であった(図30)。DEFB1については、PAX2と比較して逆関係があった。この場合、GAPDH内部対照に対するDEFB1発現レベルの範囲は、正常(良性)組織で0.06と0.005の間、PINにおいて0.005と0.003の間、および癌(悪性)組織において0.003と0.001の間であった。したがって、良性、前癌(PIN)および悪性前立腺組織の予後決定因子として、PAX2−DEFB1発現比率を用いた予測スケール(「ドナルド予測因子」または「DPF」)と命名)が開示される。DPFに基づくPAX2−DEFB1比率が0〜39である組織は正常(病理学的に良性)に相当するであろう。PAX2−DEFB1比率が40〜99の組織は、DPFスケールに基づきPIN(前癌)に相当するであろう。最後に、PAX2−DEFB1比率が100〜500の組織は悪性(低〜高度の癌)となるであろう。
【0170】
現在、前立腺癌発生の予測バイオマーカーに対する決定的なニーズがある。前立腺癌の発症がPSA検査または直腸指診といった現行のスクリーニング法によって疾患が検出可能となるはるか以前に起こることは公知である。前立腺癌の進行および早期発生のモニタリングが可能な信頼度の高い検査法であれば、より有効な疾患管理によって死亡率を大きく低下させると考えられる。本明細書には、医師が前立腺の病理学的状態を事前に十分に知ることを可能とする予測指標が開示される。DPFは、前立腺疾患の進行と関連するPAX2−DEFB1発現比率の低下を測定する。この強力な指標は、患者が前立腺癌を発症する可能性を予測できるのみならず、前悪性癌の初期発症を特定することもある。最終的に、この手段は、医師がより悪性度の高い疾患を有する患者をそうでない患者から識別することを可能とする。
【0171】
癌特異的マーカーの同定は、循環腫瘍細胞(CTC)の同定を支援するために用いられている。末梢血中に播種された腫瘍細胞を検出することにより、腫瘍のステージング、予後判定、および補助療法の有効性を初期評価する代替的マーカーを同定するための臨床的に重要なデータを提供することができることを証明する新たなエビデンスも得られている。さらに、全循環細胞の遺伝子発現プロフィールを比較することにより、前立腺癌の早期検出のための予後決定因子として、それぞれ「免疫監視」および「癌生存」において重要な役割を果たすDEFB1およびPAX2遺伝子の発現を検討することができる。
【実施例10】
【0172】
(宿主防御ペプチドヒトβディフェンシン−1の機能分析:癌におけるその潜在的役割についての新たな洞察)
(材料と方法)
組織サンプルおよびレーザーキャプチャーマイクロダイセクション:根治的前立腺切除術を受ける前にインフォームド・コンセントを提出した患者より前立腺組織を採取した。施設内倫理委員会が承認したプロトコルに従い、Hollings癌センター腫瘍バンクよりサンプルを入手した。これにはサンプルの処理、切片化、組織学的キャラクタラーぜーション、RNA精製およびPCR増殖のガイドラインが含まれた。外科医および病理学者より受領した前立腺検体は、OCTコンパウンド中で速やかに凍結させた。各OCTブロックを切り出して連続切片とし、染色して検査した。良性細胞、前立腺上皮内腫瘍(PIN)および癌を含む領域を同定し、我々がArcturus Pix Cell IIシステム(カリフォルニア州、サニーヴェール)を用いて未染色スライドから領域を選択する際の指標とするために用いた。キャプチャーした材料を収容するカップを、Arcturus Pico Pure RNA分離キットのライセート20μLに曝露し、速やかに処理した。RNAの量および品質は、5’アンプリコンを生成するプライマーセットを用いて評価した。セットはリボソームタンパク質L32用(3’アンプリコンと5’アンプリコンの間隔は298塩基)、グルコースリン酸イソメラーゼ用(391塩基間隔)、およびグルコースリン酸イソメラーゼ用(843塩基間隔)のものを含む。通常、多様な調製組織に由来するサンプルを用いるとき、これらのプライマーセットについては0.95から0.80の比率が得られた。病理学者が追加的な腫瘍および正常サンプルを肉眼で切り出し、液体窒素で瞬間凍結してhBD−1およびcMYC発現について評価した。
【0173】
hBD−1遺伝子のクローニング:hBD−1 cDNAは、公開hBD−1配列(アクセション番号U50930)から作製したプライマーを用いて逆転写PCRによりRNAから作製した(Ganz,2004)。PCRプライマーはClaIおよびKpnI制限部位を含むよう設計された。hBD−1 PCR産物はClaIおよびKpnIによって制限消化され、さらにTAクローニングベクターにライゲーションされた。次に、TA/hBD1ベクターを熱ショックによりE.coliのXL−1 Blue株にトランスフェクトし、さらに個々のクローンを選択して拡張した。Cell Culture DNA Midiprep(QIAGEN、カリフォルニア州バレンシア)でプラスミドを分離し、さらに配列の完全性を自動シーケンシングで検証した。次に、hBD−1遺伝子フラグメントを、方向決定を目的とした中間ベクターとして役立つ、ClaIおよびKpnIで消化したpTRE2にライゲーションした。pTRE2/hBD−1構築物をApaIおよびKpnIで消化してhBD−1インサートを切り取った。インサートを、これもApaIおよびKpnIで二重消化したエクジソーム誘導発現系(Invitrogen、カリフォルニア州カールズバッド)のpINDベクターにライゲーションした。構築物をE.coliにトランスフェクトし、さらに個々のクローンを選択して拡張した。プラスミドを分離し、さらに自動シーケンシングによりpIND/hBD−1の配列完全性を再度検証した。
【0174】
トランスフェクション:100mmペトリ皿に細胞(1×106個)を播種し、1晩増殖させた。次に、Opti−MEM培地(Life Technologies Inc.)中で、Lipofectamine 2000(Invitrogen)を用いて、ヘテロ二量体エクジソン受容体を発現しているpvgRXRプラスミド1μg、およびpIND/hBD−1ベクター構築物またはpIND/β−ガラクトシダーゼ(β−gal)対照ベクター1μgで細胞を同時トランスフェクトした。トランスフェクション効率は、ポナステロンA(PonA)によりβ−gal発現を誘導し、さらに細胞をβ−ガラクトシダーゼ検出キット(Invitrogen)で染色することによって測定した。細胞株について60〜85%の細胞がβガラクトシダーゼを発現していることを証明した陽性染色(青色)コロニーを計数することによるトランスフェクション効率の評価。
【0175】
免疫細胞化学:hBD−1タンパク質発現を検証するために、DU145およびhPrEC細胞を1.5〜2×104細胞/チャンバーで2穴チャンバー培養スライド(BD FALCON、米国)に播種した。pvgRXRのみ(対照)またはhBD−1プラスミドをトランスフェクトしたDU145細胞を10μM PonAを含む培地で18時間誘導する一方で、非トランスフェクト細胞には新鮮な増殖培地を与えた。誘導後、細胞を1×PBSで洗い、4%パラホルムアルデヒドにより室温で1時間固定した。次に、細胞を1×PBSで6回洗い、さらに2%BSA、0.8%正常ヤギ血清(Vector Laboratories Inc.、カリフォルニア州バーリングゲーム)および0.4%Triton−X100を添加した1×PBSを用いて室温で1時間ブロッキングした。次に、ブロッキング溶液で1:1000に希釈したウサギ抗ヒトBD−1一次ポリクローナル抗体(PeproTech Inc.、ニュージャージー州ロッキーヒル)内で細胞を1晩インキュベートした。この後、細胞をブロッキング液で6回洗い、ブロッキング液で1:1000希釈したAlexa Fluor 488ヤギ抗ウサギIgG(H+L)二次抗体中で1時間室温でインキュベートした。細胞をブロッキング液で6回洗った後、カバースリップをGel Mount (Biomeda、カリフォルニア州フォスターシティ)で載置した。最後に、微分干渉コントラスト(DIC)および488nmのレーザー励起の下で細胞を観察した。Vario 2RGBレーザースキャニングモジュールで63×DIC油浸レンズを用いて、共焦点顕微鏡分析(Zeiss LSM 5 Pascal)により蛍光信号を分析した。デジタル画像は、画像処理およびハードコピー提示のためにPhotoshop CSソフトウェア(Adobe Systems)にエクスポートした。
【0176】
RNAの分離および定量的RT−PCRは、実施例1の記載に従って実施した。公開配列からhBD−1およびc−MYCのプライマー対を作製した(表6)。hBD−1およびc−MYCに56.4℃およびPAX2に55℃のアニーリング温度を用いて、標準的な条件下でPCRを40サイクル実施した。さらに、ハウスキーピング遺伝子としてβアクチン(表6:QRT−PCRプライマーの配列)を増幅し、全cDNAの初期含有量を正規化した。良性前立腺組織サンプルにおける遺伝子発現を、βアクチンと比較した発現比率として算出した。誘導前後の悪性前立腺組織、hPREC前立腺一次培養、および前立腺癌細胞株におけるhBD−1発現のレベルを、hPrEC細胞におけるhBD−1発現の平均レベルに対して算出した。陰性対象として、cDNA鋳型を用いないQRT−PCR反応も実施した。全ての反応は最低3回実施した。
【0177】
MTT細胞生存率アッセイは実施例1の記載に従って実施した。
【0178】
膜完全性分析は実施例3の記載に従って実施した。空のプラスミドまたはhBD−1プラスミドでトランスフェクトした細胞を、10μM PonAを含む培地で24または48時間誘導する一方で、非トランスフェクト細胞には測定時点毎に新鮮な培地を与えた。
【0179】
【表6】
【0180】
フローサイトメトリーおよびカスパーゼ検出は実施例1の記載に従って実施した。
【0181】
PAX2のsiRNAサイレンシングは実施例2の記載にしたがって実施した。処理前に、メーカーの指示書にしたがってCodebreakerトランスフェクション試薬(Promega Inc.)でsiRNA分子をコーティングした。
【0182】
統計解析:統計解析は、対応のない数値に対するスチューデントのt検定を用いることによって実施した。両側計算によりp値を決定し、p値が0.05未満であれば統計的に有意であると見なした。統計的な差はアスタリスクで示す。
【0183】
前立腺組織におけるhBD−1発現:分析した前立腺癌凍結組織切片のうち82%はhBD−1発現をほとんど示さなかった(Donald et al.,2003)。hBD1−1発現レベルを比較するために、無作為選択した悪性領域に隣接する正常前立腺組織の肉眼的切除またはLCMによって採取した正常前立腺組織に対し、QRTPCR分析を実施した。この場合、肉眼的に切除した正常臨床サンプルの全てにおいて、約6.6倍の発現レベルの差に相当する発現の範囲でhBD−1が検出された(図31A)。LCMでキャプチャーした正常組織サンプルは、発現における32倍の差に相当する範囲のレベルでhBD−1を発現した(図31B)。サンプル数を対応する患者プロフィールに対してマッチングしたところ、大半の症例において、グリーソンスコア6の患者サンプルにおけるhBD−1発現レベルはグリーソンスコア7の患者サンプルにおけるよりも高いことが判明した。さらに、同一の患者番号1343より肉眼的切除およびLCMによって採取した組織においてhBD−1発現レベルを比較したところ、2つの分離法の間に854倍の発現差があることが証明された。したがって、これらの結果よりLCMは前立腺組織におけるhBD−1発現を評価するより高感度の技術を提供することが示される。
【0184】
前立腺細胞株におけるhBD−1発現:前立腺癌細胞株においてhBD−1発現系をトランスフェクトした後のhBD−1アップレギュレーションを検証するために、QRTPCRを実施した。さらに、鋳型のない陰性対照も実施し、また増幅産物をゲル電気泳動法により検証した。この場合、前立腺癌細胞株におけるhBD−1発現はhPrEC細胞と比較して有意に低くなった。DU145、PC3およびLNCaPにおける24時間誘導後のhBD−1相対発現レベルは、hBD−1誘導前の当該細胞株と比較して有意に上昇した(図32A)。
【0185】
次に、免疫細胞化学により、PonAによる誘導後にhBD−1発現系でトランスフェクトしたDUC145細胞において、hBD−1のタンパク質発現を検証した。陽性対照として、hBD−1を発現しているhPrEC前立腺上皮細胞も検討した。細胞をhBD−1に対する1次抗体で染色し、さらにタンパク質発現を二次抗体の緑色蛍光に基づいてモニタリングした(図32B)。DIC下で細胞を分析することにより、18時間後にhBD−1発現が誘導されたhPrEC細胞およびDU145細胞の存在を検証する。488nmの共焦点レーザーの生成による励起によって、陽性対照としてのhPrCEにおけるhBD−1タンパク質の存在を示す緑色蛍光が判明した。しかし、対照DU145細胞および空のプラスミドを導入したDU145細胞においては検出可能な緑色蛍光はなく、hBD−1発現は示されなかった。hBD−1発現を誘導したDU145細胞の共焦点分析により、PonAによる誘導後のhBD−1タンパク質の存在を示す緑色蛍光が判明した。
【0186】
hBD−1発現により細胞生存率が低下する:DU145、PC3、PC3/AR+およびLNCaP前立腺癌細胞株における相対細胞生存率に対するhBD−1発現の影響を評価するために、MTTアッセイを実施した。空のベクターによるMTT分析では細胞生存率に統計的に有意な変化は示されなかった。hBD−1誘導より24時間後の相対的細胞生存率はDU145細胞で72%およびPC3細胞で56%であり、また48時間後の細胞生存率はDU145において49%およびPC3細胞において37%低下した(図33A)。hBD−1誘導より72時間後の相対的細胞生存率はDU145細胞で44%およびPC3細胞で29%までさらに低下した。逆に、LNCaP細胞の生存率には有意な影響はなかった。LNCaPに認められたhBD−1細胞毒性に対する耐性がアンドロゲン受容体(AR)の存在によるものであるか否か評価するために、異所性AR発現(PC3/AR+)を用いてPC3細胞におけるhBD−1細胞毒性を検討した。この場合、PC3/AR+とPC3細胞の間に差はなかった。したがって、データよりhBD−1は後期ステージ前立腺癌細胞に対して特異的な細胞毒性を有することが示される。
【0187】
PC3およびDU145に対するhBD−1の影響が細胞分裂抑制性であるか、あるいは細胞毒性であるか測定するために、FACS分析を実施して細胞死を測定した。正常増殖条件において、PC3およびDU145培養の90%以上が生存しておりかつ非アポトーシス(左下象限)でありかつアネキシンVまたはPIで染色されなかった(図4)。PC3細胞においてhBD−1発現を誘導した後、初期アポトーシスおよび後期アポトーシス/壊死を被った細胞の個数(それぞれ右下および右上象限)は12時間で合計10%、24時間で20%、かつ48時間で44%であった。DU145細胞については、初期アポトーシスおよび後期アポトーシス/壊死を被った細胞の個数は誘導12時間後で合計12%、24時間で34%、かつ48時間で59%であった。PonAによる誘導後の空のプラスミドを含有する細胞においては、アポトーシスの増加は認められなかった。アネキシンVおよびヨウ化プロピジウム取り込み試験より、hBD−1はDU145およびPC3前立腺癌細胞に対して細胞毒性を有することが判明しており、また結果より細胞死の機構としてのアポトーシスが示される。
【0188】
hBD−1は膜完全性およびカスパーゼ活性の変化を引き起こす:hBD−1誘導後の前立腺癌細胞に認められた細胞死がカスパーゼ介在性アポトーシスであるか否かを検討した。hBD−1発現に関与する細胞機構をより良く理解するために、hBD−1発現を誘導したDU145およびLNCaP細胞に対して共焦点レーザー顕微鏡分析を実施した(図5)。活発なアポトーシスを被る細胞における緑色蛍光FAM−VAD−FMKのカスパーゼとの結合および開裂に基づいてパンカスパーゼ活性をモニタリングした。DIC下での細胞の分析により、0時間における生存対照DU145(図5A)およびLNCaP(図5E)細胞の存在が示された。488nmの共焦点レーザーで励起したところ検出可能な緑色染色は生成されず、DU145(図5B)またはLNCaP(図5F)にカスパーゼ活性がないことが示された。24時間の誘導後、DU145(図5C)およびLNCaP(図5G)細胞をDIC下で再度可視化した。蛍光下の共焦点分析により、hBD−1発現後のパンカスパーゼ活性を示すDU145(図5D)細胞の染色が判明した。しかし、hBD−1発現を誘導したLNCaP(図5H)細胞においては緑色染色はなかった。したがって、hBD−1誘導後に認められた細胞死はカスパーゼ介在性アポトーシスであった。
【0189】
提唱されているディフェンシンペプチドの抗微生物活性は、細孔形成による微生物膜の崩壊である(Papo and Shai、2005)。hBD−1発現が膜完全性を変化させたか測定するために、共焦点分析によりEtBr取り込みを検討した。無傷の細胞は膜透過性であるAOによって緑色に染まる一方で、原形質膜が崩壊した細胞のみが膜不透過性EtBrの取り込みによって赤色に染まった。対照DU145およびPC3細胞はAO染色陽性でかつ緑色発光したが、EtBrでは染色されなかった。しかしDU145およびPC3においてhBD−1を誘導したところ、いずれも細胞質において24時間で赤色染色で示されるEtBr蓄積が見られた。48時間までに、DU145およびPC3は凝集した核を有し、それぞれAOおよびEtBrによる緑色および赤色染色の共存によって見かけ上黄色となった。逆に、AOによって緑色蛍光が陽性であるが赤色EtBr蛍光がないことで示されるように、誘導48時間後のLNCaP細胞の膜完全性には観測可能な変化はなかった。この所見より、hBD−1発現に応答した膜完全性および透過性の変化は初期と後期ステージ前立腺癌細胞の間で異なることが示される。
【0190】
hBD−1とcMYCの発現レベルの比較:3例の患者より採取したLCM前立腺組織切片に対してQRT−PCR分析を実施した(図34)。患者番号1457においては、hBD−1発現により正常からPINまで2.7分の1の減少、PINから腫瘍まで3.5分の1の減少、および正常から腫瘍まで9.3分の1の減少を示した(図34A)。同様に、患者番号1457においてcMYC発現は正常からPINまで1.7分の1に減少、PINから腫瘍まで1.7分の1に減少、および正常から腫瘍まで2.8分の1に減少という同様の発現パターンに従った(図34B)。さらに、他の2例の患者におけるcMYC発現には統計的に有意な減少があった。患者番号1569は正常からPINまで2.3分の1の減少があったのに対し、患者番号1586では正常からPINまで1.8分の1の減少、PINから腫瘍まで4.3分の1の減少および正常から腫瘍まで7.9分の1の減少があった。
【0191】
PAX2阻害後のhBD−1発現の誘導:hBD−1発現を調節する際のPAX2の役割をさらに検討するために、siRNAを用いてPAX2発現をノックダウンし、さらにhBD−1発現をモニタリングするためにQRT−PCRを実施した。PAX2 siRNAでhPrEC細胞を処理したところ、hBD−1発現に対して影響を示さなかった(図35)。しかし、PAX2をノックダウンしたところhBD−1発現は未処理細胞と比較してLNCaPは42倍、PC3は37倍、およびDU145は1026倍増加した(図10a)。陰性対照として、細胞を非特異的siRNAで処理したところ、hBD−1発現には有意な影響を示さなかった。
【実施例11】
【0192】
(p53状態の異なる前立腺癌細胞においてPAX2発現を阻害すると代替的な細胞死経路が誘導される)
(材料と方法)
細胞株:いずれもp53変異状態が異なる癌細胞株PC3、DU145およびLNCaP(表7:前立腺癌細胞株におけるp53遺伝子変異)を、実施例1に記載の方法で培養した。
【0193】
PAX2のsiRNAサイレンシングおよびウェスタン分析は実施例2の記載に従って実施した。次に、ブロットを1:1000希釈ウサギ抗PAX2一次抗体(Zymed、カリフォルニア州サンフランシスコ)でプローブした。洗浄後、膜をセイヨウワサビペルオキシダーゼコンジュゲート抗ウサギ抗体(HRP)(1:5000希釈;Sigma)と共にインキュベートし、シグナル検出をAlpha Innotech Fluorchem 8900上で化学発光試薬(Pierce)を用いて可視化した。対照として、ブロットを剥離し、マウス抗βアクチン一次抗体(1:5000,Sigma−Aldrich)およびHRPコンジュゲート抗マウス二次抗体(1:5000,Sigma−Aldrich)でリプローブし、シグナル検出を再度可視化した。
【0194】
【表7】
【0195】
位相差顕微鏡分析およびMTT細胞毒性アッセイは実施例2の記載に従って実施した。
【0196】
パンカスパーゼ検出および定量的RT−PCRは、実施例1の記載に従って実施した。公開配列からBAX、BID、BCL−2,AKTおよびBADのプライマー対を作製した(表8:定量的RT−PCRプライマー)。反応はMicroAmp Optical 96ウェル反応プレート(PE BIOSYSTEMS)中で実施した。アニーリング温度60℃を用いて、標準的な条件下でPCRを40サイクル実施した。定量値は、指数的増幅が始まったサイクル数(閾値)により決定し、さらに3回の反復より得られた値を平均した。メッセージレベルと閾値の間には逆関係があった。さらにGAPDHをハウスキーピング遺伝子として用い、全cDNAの初期含有量を正規化した。相対発現は、各遺伝子とGAPDHの比率として算出した。全ての反応は3本ずつ実施した。
【0197】
【表8】
【0198】
膜透過性アッセイは実施例3の記載にしたがって実施した。PC3およびLNCaP細胞をPAX2 siRNA、非特異的siRNAまたは培地のみでトランスフェクトした。
【0199】
前立腺細胞におけるPAX2タンパク質発現の分析:HPrEC前立腺一次培養およびLNCaP、DU145およびPC3前立腺癌細胞株において、ウェスタン分析によりPAX2タンパク質発現を検討した。この場合、全ての前立腺癌細胞株においてPAX2タンパク質が検出された(図36A)。しかし、HPrECに検出可能なPAX2タンパク質はなかった。ブロットを剥離し、内部対照としてβアクチンについてリプローブして装填が均一であることを確認した。DU145、PC3およびLNCaP前立腺癌細胞株において、PAX2特異的siRNAによる選択的ターゲティングおよび阻害後のPAX2タンパク質発現もモニタリングした。細胞には、PAX2 siRNAのプールによるトランスフェクションを6日間の処理期間にわたって1ラウンド実施した。PAX2タンパク質は培地のみで処理した対照細胞に発現していた。3つの細胞株全てにおいて、PAX2タンパク質のノックダウンを観察することによりPAX2 mRNAの特異的ターゲティングを確認した(図36B)。
【0200】
PAX2ノックダウンの前立腺癌細胞増殖に対する影響:光学顕微鏡分析およびMTT分析により、PAX2 siRNAの細胞数および細胞生存率に対する影響を分析した。PAX2 siRNAの細胞数に対する影響を検討するために、PC3、DU145およびLNCaP細胞株を培地のみ、非特異的siRNA、またはPAX2 siRNAで6日間トランスフェクトした。各細胞株は培地のみを含む60mm培養皿において80〜90%コンフルエントに到達した。HPrEC、DU145、PC3およびLNCaP細胞の非特異的siRNAによる処理は、培地のみで処理した細胞と比較して細胞増殖にほとんど影響がないようであった(それぞれ図38A、38Cおよび38E)。PAX2−欠損細胞株HPrECをPAX2 siRNAで処理したところ、細胞増殖に有意な影響がないようであった(図37B)。しかし、前立腺癌細胞株DU145、PC3およびLNCaPをPAX2 siRNAで処理したところ細胞数が有意に減少した(それぞれ38D、38Fおよび38H)。
【0201】
PAX2ノックダウンの前立腺癌細胞生存率に対する影響:細胞生存率は2、4および6日間曝露後に測定した。生存百分率は、PAX2 siRNAで処理した細胞の570〜630nmの吸光度を未処理対照細胞で割った比率として算出した。陰性対照として、陰性対照非特異的siRNAまたはトランスフェクション試薬のみによる各処理期間後に細胞生存率を測定した。相対細胞生存率は、PAX2 siRNA処理後の生存百分率を非特異的shRNAによる処理後の生存百分率で割ることにより算出した(図38)。2日間処理後の相対細胞生存率はDU145において116%、PC3において81%、およびLNCaPにおいて98%であった。4日間処理後の相対細胞生存率はDU145で69%、PC3で79%およびLNCaPで80%まで低下した。最終的に、6日までの相対的細胞生存率はDU145で63%、PC3で43%およびLNCaPで44%であった。さらに、トランスフェクション試薬のみで処理した後の細胞生存率も測定した。この場合、各細胞株は細胞生存率の有意な低下を示さなかった。
【0202】
パンカスパーゼ活性の検出:カスパーゼ活性は共焦点レーザー顕微鏡分析法によって検出した。LNCaP、DU145およびPC3細胞をPAX2 siRNAで処理し、蛍光緑色となる活発なアポトーシスを被る細胞におけるFAM標識ペプチドのカスパーゼとの結合に基づいて活性をモニタリングした。培地のみの細胞を分析したところ、生存LNCaP、DU145およびPC3細胞の存在がそれぞれ示された。488nmの共焦点レーザーによって励起したところ検出可能な緑色染色は生成されず、このことより未処理細胞にカスパーゼ活性がないことが示された(それぞれ39A、39Cおよび39E)。PAX2 siRANによる4日間処理後、LNCaP、DU145およびPC3細胞は蛍光下でカスパーゼ活性を示す緑色染色を呈した(それぞれ図39B、39Dおよび39F)。
【0203】
PAX2阻害のアポトーシス因子に対する影響:LNCaP、DU145およびPC3細胞をPAX2に対するsiRNAで4日間処理し、さらにQRTPCRによりプロおよび抗アポトーシス因子を共に測定した。PAX2ノックダウン後にBADを分析したところ、LNCaPで2倍、DU145で1.58倍およびPC3で1.375倍であることが明らかとなった(図40A)。BIDの発現レベルはLNCaPでは1.38倍かつDU145では1.78倍増加したが、PAX2発現抑制後のPC3に認められたBIDには統計的有意差はなかった(図40B)。抗アポトーシス因子AKTを分析したところ、処理後の発現はLNCaPにおいては1.25分の1にかつDU145においては1.28分の1に低下することが判明したが、PC3では変化が認められなかった(図40C)。
【0204】
膜完全性および壊死の分析:LNCaP、DU145およびPC3細胞において共焦点分析により膜完全性をモニタリングした。この場合、無傷の細胞は膜透過性であるAOによって緑色に染まる一方で、原形質膜が崩壊した細胞は膜不透過性EtBrの細胞質への取り込みによって赤色に、かつ核内はAOとEtBrの共存により黄色に染まるであろう。未処理LNCaP、DU145およびPC3細胞はAO染色陽性でかつ緑色発光したが、EtBrでは染色されなかった。PAX2ノックダウン後は、AOによる緑色蛍光が陽性であるが赤色EtBr蛍光がないことで示されるように、LNCaP細胞の膜完全性に観測可能な変化はなかった。これらの所見より、LNCaP細胞はPAX2ノックダウン後にアポトーシス性ではあるが壊死性ではない細胞死を被ることがあることがさらに示される。逆に、DU145およびPC3におけるPAX2ノックダウンの結果、赤色染色で示されるようにEtBrが細胞質に蓄積した。さらに、DU145およびPC3は共に凝集した核を有し、それぞれAOおよびEtBrによる緑色および赤色染色の共存によって見かけ上黄色であった。これらの結果より、DU145およびPC3は、LNCaPと比較して、壊死的細胞死を包含する代替的な細胞死経路を被ることを示している。
【実施例12】
【0205】
(乳癌細胞株および腺管または小葉上皮内腫瘍を有する乳房組織におけるPAX2およびDEFB−1発現)
PAX2およびDEFB−1発現は、腺管または小葉上皮内腫瘍の乳癌生検サンプル、および以下の乳癌細胞株において測定されるであろう:
【0206】
BT−20:原発性浸潤性腺管癌より分離され;細胞はE−カドヘリン、ER、EGFRおよびuPAを発現する。
【0207】
BT−474:原発性浸潤性腺管癌より分離され;細胞はE−カドヘリン、ER、PRを発現し、かつHER2/neuが増幅されている。
【0208】
Hs578T:原発性浸潤性腺管癌より分離され;Hs578Bstと呼ばれる正常隣接組織からも細胞株が確立された。
【0209】
MCF−7:胸水より確立された。細胞はERを発現しかつエストロゲン反応性乳癌細胞の最も一般的な例である。
【0210】
MDA−MB−231:胸水より確立された。細胞はER陰性であり、E−カドヘリン陰性でありかつインビトロ分析において浸潤性が高い。
【0211】
MDA−MB−361:脳転移より確立された。細胞はER、PR、EGFRおよびHER2/neuを発現する。
【0212】
MDA−MB−435:胸水より確立された。細胞はER陰性であり、E−カドヘリン陰性でありかつ免疫不全マウスにおいて浸潤性が高くかつ転移性である。
【0213】
MDA−MB−468:胸水より確立された。細胞はEGFRが増幅されかつER陰性である。
【0214】
SK−BR−3:胸水より確立された。細胞はHER/2neuが増幅され、EGFRを発現し、かつER陰性である。
【0215】
T−47D:胸水より確立された。細胞はE−カドヘリン、ERおよびPRの発現を保持する。
【0216】
ZR−75−1:腹水より確立された。細胞はER、E−カドヘリン、HER2/neuおよびVEGFを発現する。
【0217】
PAX2対DEFB1発現比率は、実施例9に記載の方法を用いて測定されるであろう。
【実施例13】
【0218】
(乳癌細胞におけるDEFB1の発現)
DEFB1は、実施例1に記載の方法を用いて乳癌細胞に発現されるであろう。細胞生存率およびカスパーゼ活性は、実施例1に記載の方法を用いて測定されるであろう。
【実施例14】
【0219】
(乳癌細胞におけるPAX2発現の阻害)
乳癌細胞におけるPAX2発現は、実施例2に記載のsiRNAを用いて阻害されるであろう。BAX、BIDおよびBADなどのプロアポトーシス遺伝子の発現レベル、細胞生存率およびカスパーゼ活性は、実施例2の記載に従って測定されるであろう。
【実施例15】
【0220】
(インビボにおけるDEFB1発現の腫瘍増殖に対する影響)
DEFB1の抗腫瘍能力は、DEFB1を過剰発現した乳癌細胞をヌードマウスに注射することによって評価されるであろう。乳癌細胞は、DEFB1遺伝子を担持する発現ベクターによってトランスフェクトされるであろう。外因性DEFB1遺伝子を発現する細胞を選択およびクローニングするであろう。生存率>90%の単一細胞懸濁液のみを用いる。各動物に対し、約500,000個の細胞を雌性ヌードマウスの右側腹部に皮下投与する。ベクターのみのクローンを注射された対照群およびDEFB1を過剰発現するクローンを注射された群の2群がある。統計学者の決定に従い、各群マウス35匹とする。動物は週2回体重測定し、キャリパーで腫瘍増殖をモニタリングし、さらに以下の式を用いてに腫瘍体積を測定する:体積=0.5×(幅)2×長さ。全ての動物は、腫瘍のサイズが2mm3に達した時または移植より6ヶ月後にCO2過剰投与によって屠殺し;腫瘍を切除し、秤量し、病理検査のために中性緩衝化ホルマリンに保存する。腫瘍の増殖の群間差を、要約統計量および図面表示により記述的にキャラクタライゼーションする。統計的有意性は、t検定またはノンパラメトリックな同等法のいずれかで評価する。
【実施例16】
【0221】
(インビボにおけるPAX2 siRNAの腫瘍増殖に対する影響)
インビトロ試験で用いたヘアピンPAX2 siRNA鋳型オリゴヌクレオチドを用いて、インビボでDEFB1発現アップレギュレーションの影響を検討する。センスおよびアンチセンス鎖(表3参照)をアニーリングし、ヒトU6 RNA pol IIIプロモーターの制御の下で、pSilencer2.1 U6 hygro siRNA発現ベクター(Ambion)にクローニングする。クローン化プラスミドをシーケンシングし、検証し、さらに乳癌細胞株にトランスフェクトする。スクランブルshRNAをクローニングし、本試験における陰性対照として用いる。ハイグロマイシン耐性コロニーを選択し、マウスに細胞を皮下導入し、さらに腫瘍の増殖を上述の通りにモニタリングする。
【実施例17】
【0222】
(小分子量PAX2結合阻害剤の乳癌細胞に対する影響)
実施例6に記載された代替的な阻害性オリゴヌクレオチドは、Lipofectamine試薬またはCodebreakerトランスフェクション試薬(Promega Inc.)を用いて乳癌細胞にトランスフェクトされるであろう。DNA−タンパク質相互作用を確認するために、2本鎖オリゴヌクレオチドを[32P]dCTPで標識し、電気泳動移動度シフト分析を実施する。オリゴヌクレオチド処理後にQRT−PCRおよびウェスタン分析によりDEFB1発現をモニタリングするであろう。最後に、前述のようにMTTアッセイおよびフローサイトメトリーにより細胞死を検出するであろう。
【0223】
上記の記載は、当業者に対して本発明をどのように実践するか教示することを目的としており、当業者が本記述を読む際に明白となるであろうそれらの明白な変更およびその変法の詳細を述べることは意図していない。しかし、全てのそのような明白な変更および変法は、以下の請求項に定義される本発明の範囲内に含まれることを意図する。請求項は、文脈が具体的に反対のことを示さない限り、そこに意図された目的にかなうために有効なあらゆる順序にある請求された構成要素および手順を包含することを意図する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における乳房状態をモニタリングするための方法であって:
前記対象の前記乳房から採取した細胞におけるペアードボックス2遺伝子対βディフェンシン−1遺伝子(PAX2体DEFB1)発現比率を測定することであって、
前記のPAX2対DEFB1発現比率が乳房状態と相関する、前記方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、100:1またはそれ以上のPAX2対DEFB1発現比率が前記対象における乳癌の存在を示し、かつ100:1未満のPAX2対DEFB1発現比率が前記対象における非癌または前癌乳房状態の存在を示すことを特徴とする前記方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、前記前癌乳房状態が乳房上皮内腫瘍であることを特徴とする前記方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、前記の測定する手順が:
対照遺伝子の発現レベルに対して相対的な前記PAX2遺伝子発現レベルを測定すること;
同対照遺伝子の前記発現レベルに対して相対的な前記DEFB1遺伝子発現レベルを測定すること;および
前記PAX2およびDEFB1発現レベルに基づいて前記PAX2対DEFB1発現比率を測定することを含む前記方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、PAX2、DEFB1および前記対照遺伝子の前記発現レベルが定量的リアルタイムRT−PCRによって測定されることを特徴とする前記方法。
【請求項6】
請求項4に記載の方法であって、PAX2、DEFB1および前記対照遺伝子の前記発現レベルが発現マイクロアレイによって測定されることを特徴とする前記方法。
【請求項7】
請求項4に記載の方法であって、前記対照遺伝子がグリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)遺伝子であることを特徴とする前記方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、前記乳房組織より採取した細胞におけるエストロゲン受容体/プロゲステロン受容体/ヒト上皮成長因子受容体2(ER/PR/HER2)の状態を測定することをさらに含む前記方法。
【請求項9】
対象における乳房状態をモニタリングするためのキットであって:
組織サンプルにおけるPAX2発現を検出するための1つまたはそれ以上のオリゴヌクレオチドプライマー対;
前記組織サンプルにおけるDEFB1発現を検出するための1つまたはそれ以上のオリゴヌクレオチドプライマー対;および
前記プライマーを用いて組織サンプルにおける前記PAX2対DEFB1発現比率をどのように測定するかについての説明書を含む前記キット。
【請求項10】
請求項9に記載のキットであって、前記のPAX2発現を検出するための1つまたはそれ以上のオリゴヌクレオチドプライマー対が配列番号43および47、配列番号44および48、および配列番号45および49からなる群より選択される1つのオリゴヌクレオチドプライマー対を含むことを特徴とする前記キット。
【請求項11】
請求項9に記載のキットであって、前記のDEFB1発現を検出するための1つまたはそれ以上のオリゴヌクレオチド対が配列番号35および37を含むことを特徴とする前記キット。
【請求項12】
請求項9に記載のキットであって、1つまたはそれ以上の対照オリゴヌクレオチドプライマー対をさらに含む前記キット。
【請求項13】
請求項12に記載のキットであって、前記の1つまたはそれ以上の対照オリゴヌクレオチドプライマー対がβアクチン発現の発現を検出するためのオリゴヌクレオチドプライマーを含むことを特徴とする前記キット。
【請求項14】
請求項13に記載のキットであって、βアクチン発現の発現を検出するための前記オリゴヌクレオチドプライマーが配列番号34および36を含むことを特徴とする前記キット。
【請求項15】
請求項12に記載のキットであって、前記の1つまたはそれ以上の対照オリゴヌクレオチドプライマー対がGAPDH発現の発現を検出するためのオリゴヌクレオチドプライマーを含むことを特徴とする前記キット。
【請求項16】
請求項15に記載のキットであって、GAPDH発現の発現を検出するための前記オリゴヌクレオチドプライマーが配列番号42および46を含むことを特徴とする前記キット。
【請求項17】
請求項9に記載のキットであって、1つまたはそれ以上のPCR反応用試薬をさらに含む前記キット。
【請求項18】
請求項9に記載のキットであって、1つまたはそれ以上のRNA抽出用試薬をさらに含む前記キット。
【請求項19】
対象における乳房状態をモニタリングするためのキットであって:
PAX2およびDEFB1発現を検出するためのオリゴヌクレオチドプローブを有するオリゴヌクレオチドマイクロアレイ;および
前記オリゴヌクレオチドマイクロアレイを用いて組織サンプルにおける前記PAX2対DEFB1発現比率をどのように測定するかについての説明書を含む前記キット。
【請求項20】
請求項19に記載のキットであって、組織サンプルよりRNAを抽出するための試薬をさらに含む前記キット。
【請求項21】
乳房状態を有する対象のための治療レジメンを決定するための方法であって:
前記対象における前記乳房状態を有する乳房組織から採取した細胞において対照遺伝子の発現レベルに対して相対的な前記PAX2遺伝子発現レベルを測定すること;および
前記PAX2遺伝子の前記相対発現レベルに基づいて前記対象に対する治療レジメンを決定することを含む前記方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法であって、前記対照遺伝子がアクチン遺伝子またはGAPDH遺伝子であることを特徴とする前記方法。
【請求項23】
請求項21に記載の方法であって、前記乳房状態がエストロゲン受容体陰性および/またはプロゲステロン受容体陰性および/またはヒト上皮成長因子受容体2陰性乳癌であることを特徴とする前記方法。
【請求項24】
請求項21に記載の方法であって、前記乳房状態がエストロゲン受容体陽性および/またはプロゲステロン受容体陽性および/またはヒト上皮成長因子受容体2陽性乳癌であることを特徴とする前記方法。
【請求項1】
対象における乳房状態をモニタリングするための方法であって:
前記対象の前記乳房から採取した細胞におけるペアードボックス2遺伝子対βディフェンシン−1遺伝子(PAX2体DEFB1)発現比率を測定することであって、
前記のPAX2対DEFB1発現比率が乳房状態と相関する、前記方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、100:1またはそれ以上のPAX2対DEFB1発現比率が前記対象における乳癌の存在を示し、かつ100:1未満のPAX2対DEFB1発現比率が前記対象における非癌または前癌乳房状態の存在を示すことを特徴とする前記方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、前記前癌乳房状態が乳房上皮内腫瘍であることを特徴とする前記方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、前記の測定する手順が:
対照遺伝子の発現レベルに対して相対的な前記PAX2遺伝子発現レベルを測定すること;
同対照遺伝子の前記発現レベルに対して相対的な前記DEFB1遺伝子発現レベルを測定すること;および
前記PAX2およびDEFB1発現レベルに基づいて前記PAX2対DEFB1発現比率を測定することを含む前記方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、PAX2、DEFB1および前記対照遺伝子の前記発現レベルが定量的リアルタイムRT−PCRによって測定されることを特徴とする前記方法。
【請求項6】
請求項4に記載の方法であって、PAX2、DEFB1および前記対照遺伝子の前記発現レベルが発現マイクロアレイによって測定されることを特徴とする前記方法。
【請求項7】
請求項4に記載の方法であって、前記対照遺伝子がグリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)遺伝子であることを特徴とする前記方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、前記乳房組織より採取した細胞におけるエストロゲン受容体/プロゲステロン受容体/ヒト上皮成長因子受容体2(ER/PR/HER2)の状態を測定することをさらに含む前記方法。
【請求項9】
対象における乳房状態をモニタリングするためのキットであって:
組織サンプルにおけるPAX2発現を検出するための1つまたはそれ以上のオリゴヌクレオチドプライマー対;
前記組織サンプルにおけるDEFB1発現を検出するための1つまたはそれ以上のオリゴヌクレオチドプライマー対;および
前記プライマーを用いて組織サンプルにおける前記PAX2対DEFB1発現比率をどのように測定するかについての説明書を含む前記キット。
【請求項10】
請求項9に記載のキットであって、前記のPAX2発現を検出するための1つまたはそれ以上のオリゴヌクレオチドプライマー対が配列番号43および47、配列番号44および48、および配列番号45および49からなる群より選択される1つのオリゴヌクレオチドプライマー対を含むことを特徴とする前記キット。
【請求項11】
請求項9に記載のキットであって、前記のDEFB1発現を検出するための1つまたはそれ以上のオリゴヌクレオチド対が配列番号35および37を含むことを特徴とする前記キット。
【請求項12】
請求項9に記載のキットであって、1つまたはそれ以上の対照オリゴヌクレオチドプライマー対をさらに含む前記キット。
【請求項13】
請求項12に記載のキットであって、前記の1つまたはそれ以上の対照オリゴヌクレオチドプライマー対がβアクチン発現の発現を検出するためのオリゴヌクレオチドプライマーを含むことを特徴とする前記キット。
【請求項14】
請求項13に記載のキットであって、βアクチン発現の発現を検出するための前記オリゴヌクレオチドプライマーが配列番号34および36を含むことを特徴とする前記キット。
【請求項15】
請求項12に記載のキットであって、前記の1つまたはそれ以上の対照オリゴヌクレオチドプライマー対がGAPDH発現の発現を検出するためのオリゴヌクレオチドプライマーを含むことを特徴とする前記キット。
【請求項16】
請求項15に記載のキットであって、GAPDH発現の発現を検出するための前記オリゴヌクレオチドプライマーが配列番号42および46を含むことを特徴とする前記キット。
【請求項17】
請求項9に記載のキットであって、1つまたはそれ以上のPCR反応用試薬をさらに含む前記キット。
【請求項18】
請求項9に記載のキットであって、1つまたはそれ以上のRNA抽出用試薬をさらに含む前記キット。
【請求項19】
対象における乳房状態をモニタリングするためのキットであって:
PAX2およびDEFB1発現を検出するためのオリゴヌクレオチドプローブを有するオリゴヌクレオチドマイクロアレイ;および
前記オリゴヌクレオチドマイクロアレイを用いて組織サンプルにおける前記PAX2対DEFB1発現比率をどのように測定するかについての説明書を含む前記キット。
【請求項20】
請求項19に記載のキットであって、組織サンプルよりRNAを抽出するための試薬をさらに含む前記キット。
【請求項21】
乳房状態を有する対象のための治療レジメンを決定するための方法であって:
前記対象における前記乳房状態を有する乳房組織から採取した細胞において対照遺伝子の発現レベルに対して相対的な前記PAX2遺伝子発現レベルを測定すること;および
前記PAX2遺伝子の前記相対発現レベルに基づいて前記対象に対する治療レジメンを決定することを含む前記方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法であって、前記対照遺伝子がアクチン遺伝子またはGAPDH遺伝子であることを特徴とする前記方法。
【請求項23】
請求項21に記載の方法であって、前記乳房状態がエストロゲン受容体陰性および/またはプロゲステロン受容体陰性および/またはヒト上皮成長因子受容体2陰性乳癌であることを特徴とする前記方法。
【請求項24】
請求項21に記載の方法であって、前記乳房状態がエストロゲン受容体陽性および/またはプロゲステロン受容体陽性および/またはヒト上皮成長因子受容体2陽性乳癌であることを特徴とする前記方法。
【図1A−C】
【図1D】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5A−H】
【図5I−L】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29A】
【図29B】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34A】
【図34B】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図1D】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5A−H】
【図5I−L】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29A】
【図29B】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34A】
【図34B】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【公表番号】特表2013−510558(P2013−510558A)
【公表日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526698(P2012−526698)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【国際出願番号】PCT/US2009/054913
【国際公開番号】WO2011/025475
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(512044714)ファイジェニクス インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【国際出願番号】PCT/US2009/054913
【国際公開番号】WO2011/025475
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(512044714)ファイジェニクス インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】
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