説明

乳癌を処置および予防するためのシステム

【課題】乳癌の危険性があるか、または乳癌を患っている個体を処置するためのシステムの提供。
【解決手段】乳癌関連抗原をコードする第1遺伝子またはその抗原部分を含有する第1のベクターを個体に投与する工程;その後、定期的に、乳癌関連抗原またはその抗原部分をコードする遺伝子を含有する、少なくとも第2のベクターを投与する工程を含む、ヒトにおいて乳癌関連抗原を発現する細胞に対する免疫応答を誘導する方法。さらに、少なくとも1つの共刺激分子、あるいは顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)を投与する工程をさらに含む。特に、組換えポックスウイルスを個体に投与する工程を含み、ここで、ポックスウイルスは、少なくとも1つの乳癌抗原をコードする外来核酸を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、免疫化の分野、および乳癌を処置しそして/またはそのような癌の進行を達成するための標的免疫療法の使用に関する。また本発明は、ベクターおよびヒト癌免疫療法が関わる方法に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本願は、2003年11月12日に出願された米国仮出願第60/519,427号の米国特許法第119条(e)項に基づく恩典を主張し、前記仮出願の内容は参照によりその全文が本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
乳癌は米国だけで毎年45,000人の女性を死亡させる疾患である。毎年新たに乳癌と診断される症例数は180,000例を超え、一年間に女性の8人に1人は乳癌を発症すると推定される。しかし「乳癌」という診断は遺伝的に多様ないくつかの癌細胞を含んでいる。その結果、異なる乳腫瘍は異なる予後を持ち、処置レジメンに対する応答が異なる。例えばHER-2/neuを発現させる乳腫瘍は、HER-2/neuを発現させない腫瘍よりも予後が悪い。さらにまた、公知の遺伝的不安定性ゆえに、癌細胞の遺伝子発現パターンは、病期が異なると変化する他、処置レジメンにも呼応して変化する。
【0004】
現在、病理学者は、cDNAマイクロアレイおよび他の遺伝子発現測定法を使用して、そして/または突然変異検出法によって(これらはいずれも市販されている)、腫瘍細胞をそれらの免疫組織学的パターンに従って分類している。その情報は腫瘍を分類するために用いられ、場合によっては、その腫瘍を有する患者について予後を判定するために用いられる。しかし、処置レジメンを決定する際にこの分類が何らかの実用性を有するのは、わずかな処置方法に限られる。なぜなら、現在利用することができる治療法の大半は無差別的であり、迅速に分裂する細胞全般に向けられるからである。現在、乳癌と診断された個体は、外科手術、ホルモン療法、化学療法、および/または放射線照射による処置を受け得る。患者が転移性疾患を発症する場合は、脳、骨、および肝臓などの遠隔領域にある癌を除去するために、放射線照射および高用量化学療法が必要になる。乳癌の処置に現在利用することができる治療法の大半は有毒であり、危険であり、非特異的であり、多大の費用を要し、特に転移性疾患の処置では、効果がないものも多い。
【0005】
したがって、乳癌の特定タイプの診断における正確さは著しく向上したが、異なるタイプの癌細胞における発現プロファイルおよび/または突然変異の相違を考慮することによって個々の患者の特定ニーズを満たすように個別設計することができる処置は、ほんのわずかしかない。例えば、癌細胞が発現させるエストロゲン受容体の数が増加している乳癌は、タモキシフェンなどのエストロゲン受容体遮断薬による処置に応答するのに対して、エストロゲン受容体の数が過剰でない細胞を有する癌はそのような処置に応答しないだろう。
【0006】
遺伝学の進歩の結果として、異なるタイプの乳癌に関与する遺伝子数は、例えばBRCA1(Online Mendelian Inheritance of Man(OMIM)#113705)、BRCA2(OMIM #600185)、BRCATA(OMIM #600048)、BRCA3(OMIM #605365)、BWSCR1A(OMIM #602631)、TP53遺伝子(OMIM #191170)、BRIP1遺伝子(OMIM #605882)、および8q11上のRB1CC1遺伝子(OMIM #606837)など、既にいくつか同定されている。男性乳癌の場合はX染色体上のアンドロゲン受容体遺伝子(AR;OMIM #313700)中に突然変異が見いだされている(OMIM #313700.0016)。家族性乳癌の患者にはRAD51遺伝子(OMIM #179617)中に突然変異が見いだされた(OMIM #179617.0001)。CHEK2遺伝子の1100delC対立遺伝子(OMIM #604373.0001)は、女性に、および特に男性に、乳癌に対する感受性の増加をもたらすことが示されている。さらに、20q上に位置するNCOA3(OMIM #601937)遺伝子およびZNF217(OMIM #602967)遺伝子は乳癌では増幅を起こす。過剰に発現した場合、これらの遺伝子は腫瘍形成における役割と合致する細胞表現型を付与する(Anzick et al.,Science 277:965-968,1997(非特許文献1)、Collins et al.,Proc. Nat. Acad. Sci. 95:8703-8708,1998(非特許文献2))。また、17q上のPPM1D遺伝子(OMIM #605100)は乳癌ではよく増幅され、p53(OMIM #191170)腫瘍抑制因子活性を打ち消すことによって細胞形質をもたらすようである(Bulavin et al.,Nature Genet. 31:210-215,2002(非特許文献3))。したがって、遺伝学的解析および発現解析から得ることができる詳しい情報を利用することが可能な処置システムを開発することが有利だろう。さらにまた、これに加えて、タイプの異なるあらゆる乳癌の処置に適合させることができるシステムを開発することも有用だろう。そのようなシステムは毒性が低く、今まで利用することができた非特異的レジメンよりも有効な処置になるだろう。
【0007】
癌の処置に対する最近のアプローチの一つは免疫療法である。これは、正常組織では全くまたはごくわずかしか発現されない様々な腫瘍関連抗原(TAA)をヒト腫瘍細胞が発現させるという知見に基づいている。ウイルス腫瘍抗原、細胞性癌遺伝子タンパク質、および組織特異的分化抗原を含むこれらの抗原は、宿主免疫系にとって標的として役立ち、腫瘍破壊をもたらす応答を惹起することができる。この免疫応答は主としてリンパ球によって媒介される。特にT細胞全般およびクラスI MHC拘束性細胞傷害性Tリンパ球は腫瘍拒絶に中心的な役割を果たす。残念なことに、人口に占める癌の高い発生率が明白に示すとおり、新生物細胞に対する免疫応答はしばしば腫瘍の除去に失敗する。能動癌免疫療法の目標は、より効果的に腫瘍減少をもたらすために、抗腫瘍応答、特にT細胞応答を強化することである。
【0008】
癌抗原に対する能動免疫化の試みでは、ほとんどの場合、免疫原として全腫瘍細胞または腫瘍細胞断片が利用されてきた。しかし、このアプローチは再現性に欠けるか、各免疫化に含まれる正確な抗原を制御することができない。
【0009】
腫瘍関連抗原をコードする遺伝子のクローニングは、組換えまたは合成抗癌ワクチンの使用に基づく癌の免疫療法に新しい可能性を切り開いた。Tsang et al.,J. Natl. Cancer Inst. 87:982-90(1995)(非特許文献4)、Kawakami et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:6458-62(1994)(非特許文献5)。近年、癌と闘うための手段として「遺伝子治療」に多くの努力が費やされるようになった。「遺伝子治療」という用語は、様々な異なる物質を細胞に送達するために組換え生物工学技術を用いる多種多様な方法を記述するために用いられている。そのような方法には、例えば、哺乳動物細胞、好ましくはヒト細胞への、インビボまたはエクスビボでの、ベクターによる遺伝子、アンチセンスRNA、細胞毒性薬などの送達が含まれる。初期の研究の大半は、レトロウイルスベクターを使ってこれらの細胞を形質転換させることに、その焦点が合わされていた。この焦点は、細胞に感染して自らの遺伝物質を宿主細胞に高い効率で組み込ませるというレトロウイルスの能力に由来していた。レトロウイルスベクターは通例、完全なレトロウイルスゲノムがパッケージングされないようにパッケージング配列が削除されているモロニーマウス白血病ウイルス(MMLV)などの改変ウイルスである。
【0010】
しかし、レトロウイルスについては数多くの問題が報告されている。発生した問題の一つは、当初は、レトロウイルスの重要な利点(主に染色体に組み込まれるというそれらの能力)であると見られていた。しかしそのような組込みは染色体のウイルス挿入部位によっては問題になる場合がある。当初は本質的に大部分がエピソームであると考えられていた他のいくつかのウイルス、例えばアデノ随伴ウイルス(AAV)なども、この性質を有することが判明した。長期発現を引き起こすには有利だが、望ましくない細胞形質転換などの問題が起こる可能性も生じる。患者の体細胞の安定な形質転換は、望ましくない副作用のためにその処置レジメンを停止しなければならなくなっても、処置レジメンを後戻りさせることを困難にする。
【0011】
一定の細胞を感染させる際にも困難に直面した。レトロウイルスは通例、細胞表面受容体を介して細胞に進入する。そのような受容体が細胞上に存在しないか、存在しても十分な数でない場合は、感染が不可能であるか、不完全になる可能性がある。これらのウイルスは他のウイルスと比較して相対的に不安定でもある。組換えウイルス産生細胞株から野生型ウイルスが大発生して、ベクター自体が疾患を引き起こした例も報告されている。さらにまた、これらのウイルスの多くは分裂細胞でしか遺伝子を発現させない。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)などのレンチウイルスに基づくウイルスベクターにはこれらの問題がないが、そのようなウイルスをベクターとして用いることに関する懸念は残る。
【0012】
ヘルペスウイルスなどの他のウイルスもベクターとして提案されている。また、リガンド-DNAコンジュゲートなどの様々な非ウイルスベクターも提案されている。にもかかわらず、これらのアプローチは全て、一定の問題を提起する。例えばベクターは、処置される個体に対して、それ自身が潜在的感染源になってはならない。しかし、既に述べたように、一部の細胞株では野生型レトロウイルスの大発生が報告されている。同様に、ヘルペスウイルスをベクターとして使用すると、ウイルスの残留が起こることが見いだされている。さらにまた、これらのベクターの多くは、比較的少量の遺伝物質を含有し、発現させることができるに過ぎない。多数の産物を発現させ得ることが好ましい多くの状況にとって、これは望ましくないことである。
【0013】
ポックスウイルスはベクターとして、特に宿主における免疫応答を引き起こすための外来抗原または自己抗原の提供に関して、長年にわたって使用されてきた。ポックスウイルスベクターの利点には、(i)作製および製造が容易であること、(ii)ゲノムのサイズが大きく、多数の遺伝子を挿入できること、(iii)抗原提示細胞を含む多数の細胞タイプに遺伝子を効率よく送達すること、(iv)高いタンパク質発現レベル、(v)免疫系に対する抗原の最適な提示、(vi)抗体応答だけでなく細胞性免疫応答も惹起できること、ならびに(vii)このベクターを天然痘ワクチンとしてヒトに使用することによって獲得された長期にわたる経験、が含まれる。
【0014】
Wyeth株、NYVAC(米国特許第5,364,773号(特許文献1))および改変ワクシニアAnkara(MVA)などのオルソポックスが注目を集めてきた。MVAは、1950年代に天然痘ワクチンとして使用されたAnkaraワクシニア株CVA-1から誘導されたものである。1958年に、Anton Mayr博士(ミュンヘン大学)の研究室で、ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)におけるCVAの限界希釈(terminal dilution)を含む弱毒化実験が開始され、最終的には継代数が500を超えた。その結果得られたMVAは、主として鳥類細胞での複製に限定される弱毒複製欠損ウイルスである。MVAゲノムをその親CVAと比較したところ、ゲノムDNAの6つの大きな欠失(欠失I、II、III、IV、V、およびVI)が明らかになり、それらは合計31,000塩基対に達した(Meyer et al.,J. Gen. Virol. 72:1031-8(1991)(非特許文献6))。MVAは、サル、マウス、ブタ、ヒツジ、ウシ、ウマおよびゾウを含む多くの動物種に投与されているが、局所的にも全身的にも有害作用は認められていない。120,000人を超えるヒトが、MVAを使ったワクチン接種を、皮内、皮下または筋肉内注射によって安全に受けている。MVAは正常動物および免疫抑制動物で非病原性であるとも報告されている(Mayr et al.,Zentralb. Bakteriol. 167:375-90(1978)(非特許文献7))。したがって、弱毒化が進んだこれらの株は、天然痘ワクチンとしての有用性に加えて、免疫調整用および遺伝子治療用のベクターとしての使用にも魅力的なポックスウイルスである。
【0015】
したがってポックスウイルスは、そのウイルスの複製能力を損なってまたは損なわずに、外来DNAを含有しそれを発現させるように、遺伝子操作することができる。そのような外来DNAは、そのような組換えポックスウイルスの接種を受けた宿主において免疫防御を誘導するタンパク質抗原をコードすることができる。例えば組換えワクシニアウイルスは、ヘルペスウイルス、B型肝炎、狂犬病、インフルエンザ、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、および他のウイルスの免疫抗原を発現させるように操作されている(Kieny et al.,Nature 312:163-6(1984)(非特許文献8)、Smith et al.,Nature 302:490-5(1983)(非特許文献9)、Smith et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80:7155-9(1983)(非特許文献10)、Zagury et al.,Nature 326:249-50(1987)(非特許文献11)、Cooney et al.,Lancet 337:567-72(1991)(非特許文献12)、Graham et al.,J. Infect. Dis. 166:244-52(1992)(非特許文献13)。組換えワクシニアウイルスは、インフルエンザウイルス、デングウイルス、呼吸器ウイルス、およびヒト免疫不全ウイルスに対する免疫応答を惹起することも示されている。ポックスウイルスは、CEA、PSAおよびMUCなどの腫瘍関連抗原に対する免疫反応を生じさせるためにも使用されている。米国特許第5,656,465号(特許文献2)も参照されたい。
【0016】
乳癌の改善された処置は今なお必要とされている。様々な乳癌で発現される腫瘍関連抗原に関する具体的情報を利用することができる処置システムを開発することは、特に有利だろう。さらにまた、特定個体の処置に適合させるまたは個別対応することができるシステムを含めて、タイプの異なるあらゆる乳癌の処置に適合させることができるシステムを開発することも有用だろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第5,364,773号
【特許文献2】米国特許第5,656,465号
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Anzick et al.,Science 277:965-968,1997
【非特許文献2】Collins et al.,Proc. Nat. Acad. Sci. 95:8703-8708,1998
【非特許文献3】Bulavin et al.,Nature Genet. 31:210-215,2002
【非特許文献4】Tsang et al.,J. Natl. Cancer Inst. 87:982-90(1995)
【非特許文献5】Kawakami et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:6458-62(1994)
【非特許文献6】Meyer et al.,J. Gen. Virol. 72:1031-8(1991)
【非特許文献7】Mayr et al.,Zentralb. Bakteriol. 167:375-90(1978)
【非特許文献8】Kieny et al.,Nature 312:163-6(1984)
【非特許文献9】Smith et al.,Nature 302:490-5(1983)
【非特許文献10】Smith et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80:7155-9(1983)
【非特許文献11】Zagury et al.,Nature 326:249-50(1987)
【非特許文献12】Cooney et al.,Lancet 337:567-72(1991)
【非特許文献13】Graham et al.,J. Infect. Dis. 166:244-52(1992)
【発明の概要】
【0019】
本発明者らは、ヒトの乳癌を処置する新しい方法であって、乳癌関連抗原(BCAA)および免疫調整分子を含有する組換えポックスウイルスの使用を伴う方法を、ここに発見した。したがって本発明は、乳癌を発症する危険性がある個体または乳癌を患っている個体を同定するために個体群をスクリーニングするためのシステムを提供し、好ましくは、前記スクリーニングには、その個体によって発現される特異的乳癌関連抗原を同定することが含まれる。好ましくは対象はヒトである。本システムは、乳癌を発症する危険性がある個体または乳癌を患っている個体に、少なくとも第1組換えポックスウイルス(またはポックスウイルスシステム)を投与すること、およびその後、定期的に、少なくとも第2組換えポックスウイルス(またはポックスウイルスシステム)を投与することも含み、前記組換えポックスウイルスは、乳癌関連抗原をコードする少なくとも1つの遺伝子を含む。好ましい乳癌関連抗原として、CEAおよびMUC-1、ならびにwCEA(6D)およびwMUC-1(6)を含むそれらの変異体が挙げられる。他の好ましい変異体は、免疫原性が増加したCTLエピトープを生成させるための配列変異および/または相同組換え時に起こる核酸配列の切除を減少させて遺伝子の安定性を増加させるための核酸改変を有する。好ましくは、第2組換えポックスウイルスは、第1組換えポックスウイルスとは異なる属に由来する。乳癌関連抗原をコードする遺伝子は、好ましくは、ポックスウイルスゲノムの非必須領域に挿入される。好ましいポックスウイルスには、ワクシニアなどのオルソポックス、ならびに鶏痘およびカナリア痘などのアビポックスが含まれる。ポックスウイルスシステムは、所望のBCAAおよび免疫調整分子が全て含有されるように1より多くのポックスウイルスベクターを使用する場合である。
【0020】
本発明は、顆粒球マクロファージ刺激因子(GM-CSF)の、組換えポックスウイルスとの同時投与、ならびに免疫調整分子、例えば少なくとも1つの共刺激分子(LFA-3、ICAM-1、およびB7.1など)の同時投与も提供する。好ましくは、LFA-3、ICAM-1、およびB7.1の組合せ(TRICOM(商標))を使用する。
【0021】
本発明のシステムは、高効率であるが標的化されたレジメンによる乳腫瘍の処置を可能にするために、同じ主要構成単位を使って異なる悪性細胞タイプを標的とするように適合させることができる、新規な処置ツールを提供する。本発明のシステムにより、処置を、特定の個体および疾患状態に個別対応させることが可能になる。一態様において、どの乳癌抗原がその患者の癌細胞中で高レベルに発現しているかを決定することにより、使用する乳癌抗原を、個々の患者に個別対応させることができる。好適な乳癌抗原として、MAGE-3、MAGE-6、NY-ESO-1、Her2neuおよびp53、ならびに新たに定義された乳癌抗原、例えばキネシン2、TATAエレメント調整因子1、腫瘍タンパク質D52およびMAGE D、ならびにその他の新しい遺伝子産物、例えばNY-BR-62、NY-BR-75、NY-BR-85、およびNY-BR-96を挙げることができる。上記に代えて、または上記に加えて、乳癌のタイプおよび現在の病期を、組織化学的方法、免疫組織化学的方法および遺伝学的方法を使って評価することもできる。このデータは、疾患が進行するにつれて予期され得る抗原発現に関して、追加情報を与えることができる。そのような追加抗原をポックスウイルスベクターに含めることができる。
【0022】
本発明の組換えポックスウイルスは、そのゲノムが大きいので、乳癌関連抗原および/または共刺激分子を含む治療上必要な分子の全てを同じベクターに入れて送達するための単一ビヒクルとして構築することができる。
【0023】
一態様において、本システムは、一つまたは複数の組換えポックスウイルスを含有する組成物による初期「プライム」を個体に投与した後、一つまたは複数の組換えポックスウイルスベクターを含有する組成物による1回または好ましくは複数回の「ブースト」を個体に投与することを含む。
【0024】
初期プライミングワクチン接種は一つまたは複数のポックスウイルスベクターを含み得る。好ましい一態様では、PTAAおよび共刺激分子の送達に、単一のポックスウイルスベクターを使用する。もう一つの態様では、1回の注射で同時に投与される2以上のポックスウイルスベクターが、プライミングワクチン接種を構成する。例えば2つのポックスウイルスベクター(そのうちの少なくとも一方は複製能を有するもの)の混合物を宿主に同時投与する。ベクターが両方とも複製欠損性である場合は、両方のウイルスによって形質導入される細胞が少なくなるだろう。混合戦略の一例は、少なくとも1つの乳癌関連抗原をコードするDNAを含む第1のベクターと、少なくとも1つの(好ましくは3つの)共刺激分子、例えばTRICOMなどをコードするDNAを含む第2のベクターとを使用することである。
【0025】
ブースティングワクチン接種は一つまたは複数のポックスウイルスベクターを含み得る。好ましい一態様では、ブースティングワクチン接種のPTAAおよび共刺激分子の送達に、単一のポックスウイルスベクターを使用する。もう一つの態様では、混合戦略として上述したように、1回の注射で同時に投与される2以上のポックスウイルスベクターが、ブースティングワクチン接種を構成する。
【0026】
好ましい一態様において、異なる間隔で接種される異なる治療分子セットを保有するポックスベクターを使った異種プライム/ブーストプロトコールとするために、異なるポックスウイルスを使用することができる。好ましい異種プライム/ブースト組合せの一つは、第1オルソポックスベクター組成物によるプライミングおよび第2アビポックスベクター組成物によるブースティングである。ブースティングベクターは、例えば2〜4週ごとに、ブースティングワクチン接種が合計で少なくとも5〜15回になるように投与することができる。例えば、定期的に(例えば毎月1回の間隔で)ワクシニアを3回投与した後、定期的に(例えば毎月1回の間隔で)鶏痘を複数回投与するプロトコールである。好ましい一態様では、オルソポックスがワクシニアであり、より好ましくはWyethまたはMVAまたはNYVACなどのワクシニアである。プロトコールには、他の構成要素、例えばDNAまたはタンパク質のさらなるブースティングまたはプライミング投与などを加えることもできる。代替態様において、遺伝子は、単一のベクターではなく、ほぼ同時に投与される複数のポックスウイルスベクター中に存在することもできる。
【0027】
使用する乳癌抗原は、好ましくは、その患者の癌細胞においてどの抗原が高レベルに発現しているかを決定することにより、個々の患者の必要に応じて個別対応させる。乳癌のタイプおよび現在の病期は、例えば、組織化学的および/または免疫組織化学的方法および/または癌細胞の転写パターンおよび/または突然変異解析などを使って評価される。
【0028】
本発明では任意のポックスウイルスを使用することができる。例えばアビポックス、豚痘、およびオルソポックスなどの弱毒ポックスウイルスまたは複製障害ポックスウイルスは好ましい。好ましい一態様では、ポックスベクターがワクシニアWyeth、MVA、またはNYVACである。
【0029】
もう一つの態様では、乳癌関連抗原をコードする組換えポックスウイルスが、少なくとも1つの共刺激分子もコードする。共刺激分子は当技術分野においては公知であり、B7ならびに他のCD4+およびCD8+活性化因子が、これに含まれる。好ましい態様では、共刺激分子がB7(例えばB7-1)、ICAM-1、およびLFA-3をコードする核酸の組合せであり、これらはCD4+T細胞の活性化もCD8+T細胞の活性化も誘導する。好ましい一態様では、TRICOM組合せの他に、OX40Lをコードする核酸をポックスウイルスベクターに加える。
【0030】
好ましい一態様では、選択された乳癌関連抗原をコードする核酸と共刺激分子をコードする核酸の両方が、同じポックスウイルスベクターに挿入される。
【0031】
代替態様では、腫瘍抗原をコードする核酸および共刺激分子をコードする核酸が、2つの異なるポックスウイルスベクターに挿入される。第1ポックスウイルスベクターおよび第2ポックスウイルスベクターは異なる属に由来することができる。これは、ウイルスベクターに対する潜在的な宿主免疫応答を呼び起こすことなく、それら2つの組換えベクターの連続的な接種を可能にする。第1組換えポックスウイルスベクターおよび第2組換えポックスウイルスベクターは、同時に、または数時間〜数日、さらには数週間の間隔を置いて、その必要がある個体に投与することができる。
【0032】
例えば、本システムの一態様では、疾患状態に個別対応させたプライム/ブーストを使用する。例えばプライムは、複数の外来遺伝子を収容することができるというポックスゲノムの能力を利用して、広範囲の乳癌関連抗原に向けることができる。ブーストは、特定病期に特異的な抗原に向けることができる。例えば疾患の進行を監視することにより、その特定病期の抗原発現を反映した特異的免疫反応を生じさせるように、ブーストを個別対応させることができるだろう。
【0033】
好ましい一態様では、腫瘍抗原をコードする組換えポックスウイルスベクターが最初に投与され、次に、TRICOMまたはTRICOMおよびOX40Lが投与される。もう一つの実施形態では、抗原含有ポックスウイルスベクターを投与する前に、共刺激分子含有組換えポックスウイルスベクターが投与される。
【0034】
好ましい態様では、初期抗原投与の前に、GM-CSFが患者に投与される。GM-CSFは、ポックスベクターなどのウイルスベクターを使うか、薬学的製剤中の単離されたタンパク質を使って、投与することができる。Berlex,Inc.が米国においてLEUKINE(登録商標)ブランドで販売しているサルグラモスチムを含む数形態の組換えGM-CSF薬を、世界中で利用することができる。
【0035】
好ましい一態様では、本発明のポックスウイルスベクターが化学療法と組み合わせて使用される。好ましい一態様では化学療法剤がドセタキセルである。
【0036】
一態様において、本発明のシステムは、乳癌を処置する方法であって、個体から入手した腫瘍細胞試料の発現プロファイリングを行なうこと、第1処置段階での腫瘍細胞/タイプの解析に基づいて選択される腫瘍抗原および/または共刺激分子の第1セットを含む組換えポックスウイルスベクターを投与すること、およびその個体に前記ベクターを投与することを含む方法を含む。さらなる態様では、前記個体に投与するための腫瘍関連抗原および/または共刺激分子の第2セットを発現させる第2組換えポックスウイルスを構築するために、考えられる残存腫瘍細胞の発現プロファイリングを行う。
【0037】
好ましい一態様において、本発明は、例えばその個体に乳癌の素因を与える遺伝的突然変異を有するなどの理由で乳癌を発症する危険が高い個体(例えば乳癌スクリーニング検査を使って同定される個体)における乳癌の発症を予防するまたは遅延させるシステムを提供する。このシステムは、乳癌の素因を有する個体に、その素因に特異的な少なくとも1つの腫瘍抗原および/または一つまたは複数の共刺激分子をコードする組換えポックスウイルスベクターを投与することを含む。好ましい態様では、腫瘍抗原および共刺激分子が、同じ組換えポックスウイルスベクターによってコードされる。または、2以上のポックスウイルスベクターを含むシステムも使用することができる。
【0038】
一態様において、本発明は、薬学的に許容される担体中の、それぞれが少なくとも1つの共刺激分子をコードする一つまたは複数の組換えポックスウイルスベクター、および薬学的に許容される担体中の、少なくとも1つの乳癌関連抗原をコードする一つまたは複数の組換えポックスウイルスベクターを含むキットを提供する。本キットは、異なるタイプおよび病期の乳癌を処置するのに「準備済み(ready-to-go)」組換えポックスウイルスのどの組合せが適切であるかに関する指示を、さらに含む。または、本キットは、処置を必要とする個体から入手した生物学的試料から乳癌のタイプおよび/または病期を決定することができるように、例えば突然変異検出用DNAチップおよび/または発現パターン測定用cDNAチップなどを含む診断構成要素を含む。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】rV-MUC-1組換えワクチンの作製に使用したプラスミドpT2137の制限酵素地図を表す。
【図2】rV-MUC-1ベクターの概略図を表す。pT2137は、ワクシニアゲノムのHindIIIJ領域内に位置するTK遺伝子へのMUC-1コード配列の挿入を指示する。MUC-1遺伝子はワクシニア40Kプロモーターの転写制御下にある。また、組換え子孫用のスクリーンとして、鶏痘ウイルスC1プロモーターの制御下にある大腸菌lacZ遺伝子も含まれる。この組換えワクチンには、ワクシニアのWyeth(New York City Board of Health)株からのプラーク精製単離物を親ウイルスとして使用した。プラスミドベクターとウイルスDNAの間のインビトロ組換えにより、ワクシニアTK遺伝子配列が40Kプロモーターの転写指示下にあるMUC-1遺伝子およびC1プロモーターの制御下にあるlazZ遺伝子によって中断されている組換えウイルスが生成した。
【図3】rV-CEA(6D)/TRICOM組換えワクチンの作製に使用したプラスミドpT8016の制限酵素地図を表す。
【図4】rV-CEA(6D)/TRICOMベクターの概略図を表す。親ワクシニアDNAと、CEA(6D)、LFA-3、ICAM-1、およびB7.1遺伝子を含有するプラスミドベクターpT8016(図3参照)の間のインビボでの相同組換えによって、rV-CEA(6D)/TRICOMを構築した。このプラスミドベクターは大腸菌lacZ遺伝子も保有し、この遺伝子もCEA(6D)、LFA-3、ICAM-1、およびB7.1遺伝子と同時に組換えゲノム中に挿入された。lacZ遺伝子がコードするβ-ガラクトシダーゼに関する発色アッセイを使って最終ワクチン候補を選択し、それをゲノム解析およびタンパク質発現解析によって検証した。
【図5】rF-CEA(6D)/TRICOM組換えワクチンの作製に使用したプラスミドpT2187の制限酵素地図を表す。
【図6】rF-CEA(6D)/TRICOMベクターの概略図を表す。親鶏痘DNAと、CEA(6D)、LFA-3、ICAM-1、およびB7.1遺伝子を含有するプラスミドベクターの間のインビボでの相同組換えによって、rF-CEA(6D)/TRICOMを構築した。このプラスミドベクターは大腸菌lacZ遺伝子も保有し、この遺伝子もCEA(6D)、LFA-3、ICAM-1、およびB7.1遺伝子と同時に組換えゲノム中に挿入された。lacZ遺伝子がコードするβ-ガラクトシダーゼに関する発色アッセイを使って最終ワクチン候補を選択し、それをゲノム解析およびタンパク質発現解析によって検証した。
【図7】PANVAC-VFを含む本発明のベクターに使用したゆらぎ型MUC-1(wMUC-1(6)とも呼ばれる)のヌクレオチド配列を配列番号:1として表す。
【図8】PANVAC-VFを含む本発明のベクターに使用したゆらぎ型MUC-1(wMUC-1(6)とも呼ばれる)のアミノ酸配列を配列番号:2として表す。
【図9】PANVAC-VFを含む本発明のベクターに使用したゆらぎ型CEA(wCEA(6D)とも呼ばれる)のヌクレオチド配列を配列番号:3として表す。
【図10】PANVAC-VFを含む本発明のベクターに使用したゆらぎ型CEA(wMUC-1(6)とも呼ばれる)のアミノ酸配列を配列番号:4として表す。
【図11】PANVAC-F組換えベクターの概略図を表す。PANVAC-Fを作製するために、2つのプラスミドベクターを使用した。pT1154と呼ばれる第1のプラスミドは、鶏痘ウイルスゲノムのFP14領域へのwCEA(6D)およびwMUC-1(6)コード配列の挿入を指示する。pT8150と呼ばれる第2のプラスミドは、鶏痘ウイルスゲノムのBamHIJ領域へのLFA-3、ICAM-1、およびB7.1コード配列コード配列(全体としてTRICOMと呼ばれる)の挿入を指示する。wCEA(6D)遺伝子はワクシニア40Kプロモーターの転写制御下にある。wMUC-1(6)遺伝子は合成初期/後期(sE/L)プロモーターの転写制御下にある。LFA-3遺伝子はワクシニア30Kプロモーターの転写制御下にあり、ICAM-1遺伝子はワクシニアI3プロモーターの転写制御下にあり、B7.1遺伝子は合成初期/後期(sE/L)プロモーターの転写制御下にある。また、pT1154は組換え子孫用のスクリーンとして含められる大腸菌lacZ遺伝子をワクシニア40Kプロモーターの制御下に含有し、pT8150は組換え子孫のスクリーニングに使用されるGUS遺伝子を7.5プロモーターの制御下に含有する。
【図12】PANVAC-V組換えベクターの概略図を表す。この組換えワクシニアには、TBC-vTRICOMと呼ばれるワクシニアWyeth(New York City Board of Health)株の誘導株を、親ウイルスとして使用した。TBC-vTRICOMと呼ばれるこの親ウイルスは、ワクシニアゲノムのHindIIIF領域に挿入されたLFA-3、ICAM-1、およびB7.1コード配列を含有している。プラスミドベクターとウイルスDNAの間の組換えにより、ワクシニア40Kプロモーターの転写制御下にあるwCEA(6D)遺伝子、sE/Lプロモーターの転写制御下にあるwMUC-1(6)、および40Kプロモーターの制御下にあるlacZ遺伝子がワクシニアウイルスゲノムのHindIIIJ領域に挿入されている組換えウイルスが生成した。挿入された大腸菌lacZは重複したポックスウイルス配列に挟まれていた。これらの配列間での分子内組換えにより、lacZ遺伝子の欠失が起こった。lacZ遺伝子が欠失した組換えウイルスは無色のプラークを生じたので、これを選択し、プラーク精製した。最終精製組換えポックスウイルスは、CEA、MUC-1、LFA-3、ICAM-1およびB7.1タンパク質をコードする所望の遺伝子だけを含有し、マーカー(lacZ)遺伝子は含有していなかった。
【図13】PANVAC-V組換えワクチンの作製に使用したプラスミドpT1153の制限酵素地図を表す。プラスミドベクターpT1153は、TBC-vTRICOMウイルスゲノムのHindIIIJ領域への改変CEAおよびMUC-1コード配列の挿入を指示する。wCEA(6D)と呼ばれる改変CEA遺伝子は、ワクシニア40Kプロモーターの転写制御下にあり、wMUC-1(6)と呼ばれる改変MUC-1遺伝子は合成初期/後期(sE/L)プロモーターの転写制御下にある。このプラスミドは、チミジンキナーぜ(TK)遺伝子をコードするワクシニアHindIIIJ領域の一部も含有する。また、ワクシニア40Kプロモーターの制御下にある大腸菌lacZ遺伝子も、組換え子孫用の一過性スクリーンとして含まれる。
【図14】PANVAC-V親ウイルスTBC-vTRICOMの誘導過程を表す。このウイルスはWyethワクチン株から誘導された。まず、WyethワクチンはFlow Laboratoriesによってプラーク精製され、次にCV-1細胞で拡大することにより、TBC-Wyが作出された。次に、CV-1細胞を使ってプラスミドpT1068を挿入することにより、F13L(37K)を欠失させて、TBC-Wy-Delta37が作出された。次に、このウイルスにプラスミドpT5132を使ってCED細胞でLFA-3、ICAM-1、B7.1およびF13Lを挿入することにより、TBC-vTRICOMが作出された。
【図15】2004年の推定新症例数および推定5年生存率(SEER Cancer Statistics Review,1975-2001,NCDB,CoC,ACoS,American Cancer Society,AJCC Cancer Staging Manual,Fifth editionに基づく)を含む、乳癌の各病期に関する典型的処置選択肢の全体像を表す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
発明の詳細な説明
本発明者らは、ヒトの乳癌を処置する新しい方法であって、乳癌関連抗原および免疫調整分子を含有する組換えポックスウイルスの使用を伴う方法を、ここに発見した。したがって本発明は、乳癌を発症する危険性がある個体または乳癌を患っている個体を同定するために個体群をスクリーニングするためのシステムを提供し、好ましくは、前記スクリーニングには、その個体によって発現される特異的乳癌関連抗原を同定することが含まれる。好ましくは対象はヒトである。本システムは、乳癌を発症する危険性がある個体または乳癌を患っている個体に、少なくとも第1組換えポックスウイルスを投与すること、およびその後、定期的に、少なくとも第2組換えポックスウイルスを投与することも含み、前記組換えポックスウイルスは、乳癌関連抗原をコードする少なくとも1つの遺伝子を含む。好ましい乳癌関連抗原として、CEAおよびMUC-1、ならびにwCEA(6D)およびwMUC-1(6)を含むそれらの変異体が挙げられる。好ましい変異体は、免疫原性が増加したCTLエピトープを生成させるための配列変異および/または相同組換え時に起こる切除を減少させるための核酸配列の変異を有する。好ましくは、第2組換えポックスウイルスは、第1組換えポックスウイルスとは異なる属に由来する。乳癌関連抗原をコードする遺伝子は、好ましくは、ポックスウイルスゲノムの非必須領域に挿入される。好ましいポックスウイルスには、ワクシニアなどのオルソポックス、ならびに鶏痘およびカナリア痘などのアビポックスが含まれる。好適な乳癌抗原として、MAGE-3、MAGE-6、NY-ESO-1、Her2neuおよびp53、ならびに新たに定義された乳癌抗原、例えばキネシン2、TATAエレメント調整因子1、腫瘍タンパク質D52およびMAGE D、ならびに他の新しい遺伝子産物、例えばNY-BR-62、NY-BR-75、NY-BR-85、およびNY-BR-96を挙げることができる。
【0041】
本発明は、GM-CSF(例えばサルグラモスチム)などのアジュバントの、組換えポックスウイルスとの同時投与、ならびに免疫調整分子、例えば少なくとも1つの共刺激分子(LFA-3、ICAM-1、およびB7.1など)の同時投与も提供する。好ましくは、LFA-3、ICAM-1、およびB7.1の組合せ(TRICOM(商標))を使用する。
【0042】
好ましい態様では、乳癌関連抗原をコードする少なくとも1つの核酸を含むポックスウイルスが、少なくとも1つの共刺激分子または免疫賦活分子もコードする。または、共刺激分子および抗原は、複数の組換えポックスウイルスベクターを含むポックスベクターシステムによってコードされる。
【0043】
本発明のシステムは、高効率であるが標的化されたレジメンによる乳腫瘍の処置を可能にするために、同じ主要構成単位を使って異なる悪性細胞タイプを標的とするように適合させることができる、新規な処置ツールを提供する。本発明のシステムにより、処置を、特定の個体および疾患状態に個別対応させることが可能になる。一態様において、どの乳癌抗原がその患者の癌細胞中で高レベルに発現しているかを決定することにより、使用する乳癌抗原を、個々の患者に個別対応させることができる。異なる個体の癌細胞または前癌細胞では、異なる乳癌関連抗原が異常に発現されるか、または異常に高いレベルで発現される。本発明のシステムで有用な抗原は、患者の乳癌細胞のタイプおよび/または病期に従って選択することもできる。また、個体が発現させる抗原は、疾患が進行するにつれて変化する場合がある。乳癌のタイプおよび現在の病期は、組織化学的方法、免疫組織化学的方法および遺伝学的方法を使って評価することができる。このデータから追加情報を得ることができる。
【0044】
したがって、個々の患者が発現させる抗原、乳癌の病期、および/またはその患者の疾患が進行するにつれて発現される抗原を反映するように、ベクターを個別対応させることができる。一般に、本発明のシステムにおける好ましい乳癌関連抗原の選択を決定するために、個体の細胞から得られる薬理遺伝学データおよび薬理ゲノミクスデータならびに免疫組織化学データを使用することができる。好ましい一態様では、患者が1タイプより多くの癌を持ち、適切な抗原はその患者が発現させる特定の癌に基づいて選択される。
【0045】
乳腫瘍関連抗原
本ベクターシステムには任意の乳癌関連抗原を使用することができる。乳癌と関連する抗原は数多く存在し、それらを本明細書では乳癌関連抗原(BCAA)またはTAAという。特に好ましい乳癌関連抗原として、CEAおよびMUC-1、ならびにミニMUC(mini-MUC)およびMUC-4などの他のムチンが挙げられる。
【0046】
好適な乳癌抗原として、MAGE-3、MAGE-6、NY-ESO-1、Her2neuおよびp53、ならびに新たに定義された乳癌抗原、例えばキネシン2、TATAエレメント調整因子1、腫瘍タンパク質D52およびMAGE D、ならびにその他の新しい遺伝子産物、例えばNY-BR-62、NY-BR-75、NY-BR-85、およびNY-BR-96を挙げることができる。
【0047】
本発明で役立つ好ましい乳癌関連抗原の一部として、ミニMUC(ミニMUCとはタンデムリピート単位の数が減少しているMUCの変異体を指す)、MUC-1(Marshall et al.,J. Clin. Oncol. 18:3964-73(2000))、HER2/neu、HER2受容体(米国特許第5,772,997号)、マンモグロブリン(mammoglobulin)(米国特許第5,922,836号)、ラビリンチン(米国特許第6,166,176号)、SCP-1(米国特許第6,140,050号)、NY-ESO-1(米国特許第6,1400,50号)、SSX-2(米国特許第6,140,050号)、N末端ブロック可溶性サイトケラチン(米国特許第4,775,620号)、43kDヒト癌抗原(米国特許第6,077,950号)、ヒト腫瘍関連抗原(PRAT)(米国特許第6,020,478号)、ヒト腫瘍関連抗原(TUAN)(米国特許第5,922,566号)、L6抗原(米国特許第5,597,707号)、癌胎児性抗原(Clin Cancer Res 6:4176-85,2000における乳癌予後のためのRT-PCR解析)、ポリアデニル酸ポリメラーゼ(PAP)(Cancer Res 60:5427-33,2000における独立不良予後因子)、p53(Clin Cancer Res 6:3103-10,2000)、mdm-2(Clin Cancer Res 6:3103-10,2000)、p21(Clin Cancer Res 6:3103-10,2000)、CA15-3(Eur J Gynaecol Oncol 21:278-81,2000)、オンコプロテイン18/スタスミン(Op18)(Br J. Cancer 83:311-8,2000)、ヒト腺性カリクレイン(hK2)(Breat Cancer Res Treat 59:263-70,2000)、NY-BR抗原(Cancer Immun. Mar 30;1:4,2001)、腫瘍タンパク質D52(Cancer Immun. Mar 30;1:4,2001)、および前立腺特異抗原(Breast Cancer Res Treat 59:263-70,2000)が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。さらに他の好ましい乳癌関連抗原として、テロメラーゼペプチド、B899、およびSTn抗原、マンマグロビン、CA15-3、CA125、NY-ESO1、およびサイトケラチンフラグメント19(CYFRA21-1)が挙げられる。
【0048】
さらに、乳癌に関連する抗原の数は、特にゲノムプロファイリング技術を使った進歩を考慮すると、絶えず増えている。例えばEpstilは、ヒト乳癌で、上皮-間質相互作用によって誘導される遺伝子として同定された(2004年11月4日公開の米国特許出願公開第20040219551号)。同様に、ヒト乳癌組織の遺伝子発現プロファイルは、乳癌細胞においてアップレギュレートされる遺伝子(例えば50遺伝子)の群を同定するためにも使用されている(例えば2004年10月28日公開の米国特許出願公開第20040214179号、2004年10月21日公開の米国特許出願第20040209290号参照)。本発明のポックスウイルスベクターには乳癌に関連する任意の抗原を使用することができる。
【0049】
一態様において、本発明のベクターシステムは、少なくとも1つの乳癌関連抗原を有する。例えばMUC-1またはCEAである。より一層好ましくは少なくとも2つの乳癌関連抗原を有する。例えばMUC-1およびCEAである。
【0050】
所望によりCEA、MUC-1、ミニMUCなどを発現させるために単一のポックスベクターを使用するか、乳癌関連抗原を複数のベクター上で発現させることができる。一定の乳癌関連抗原の複数コピーを同じベクター中または複数のベクター中で発現させることもできる。
【0051】
特に好ましい乳癌関連抗原の一つはCEAである。CEAは、ヒトの結腸直腸癌、胃癌、および乳癌を含む消化管のほぼ全ての腫瘍ならびに多くの乳癌および肺腺癌の表面に高レベルに発現される癌胎児性糖タンパク質である。Muraro et al.,Cancer Res. 45:5769-89(1985)。一態様において、CEAは完全長CEAである。特に好ましいCEAは1つのHLA-A2拘束性免疫優性エピトープ中に改変を有する。CAP1-6dまたはCEA-6Dと呼ばれるこのエピトープは、天然エピトープより強い親和性で受容体に結合し、インビトロで天然エピトープより効率よくCTLを誘導する。これらのCTLは天然CEAを発現させるヒト腫瘍細胞を溶解する能力を有する。Zaremba et al.,Cancer Res. 57:4570-7(1997)。他の好ましい変異体として、CEAのうち特定のMHCクラスIまたはII応答を惹起する部分が挙げられる。一部の態様では、これらの配列を互いに連結することができる。特定のMHCクラスIまたはMHCクラスII反応を惹起する公知のパターンがある。また、遺伝子の安定性を増し、相同組換え時に切除を受けにくくするために、核酸配列中に変異を導入することもできる。
【0052】
特に好ましいCEA配列はwCEA(6D)と呼ばれ、図9に配列番号:3として記載する配列を有する。
【0053】
もう一つの好ましい乳癌関連抗原はムチンである。特に好ましいムチンの一つは、MUC-1と呼ばれるヒト多形上皮性ムチン(polymorphic epithelial mucin)である。MUC-1の多形性は、その糖タンパク質の細胞外部分に位置するタンデムリピートアミノ酸配列の数の変動に由来する。MUC-1は正常腺上皮細胞の頂端膜側に発現される。悪性乳腺癌および悪性卵巣腺癌ではMUC-1が異常に糖鎖付加されると共に、過剰発現される。異常な糖鎖付加はペプチドエピトープを露出させ、腫瘍由来ムチンを抗原的に正常ムチンとは異なるものにする。乳癌および卵巣癌を有する患者では、MUC-1に対するT細胞応答が同定されている。Jerome et al.,Cancer Res. 51:2908-16(1991)、Ioannides et al.,J. Immunol. 151:3693-3703(1993)。
【0054】
一態様において、本発明のポックスベクターは、ミニMUCと呼ばれる場合もあるMUC-1断片をコードするDNA断片を含有する。このMUC-1遺伝子断片は、MUC-1のうちMUC-1に対する免疫反応を生じさせるのに十分な部分をコードするが、相同組換えの結果として広範な切除を受けない。好ましくは、この断片はおよそ5〜25MUC-1タンデムリピート単位であり、より好ましくはおよそ6〜15MUC-1タンデムリピート単位であり、最も好ましくは約6〜12MUC-1タンデムリピート単位である。とりわけ好ましい免疫原性MUC-1断片は約6MUC-1タンデムリピート単位である。本明細書において使用する「およそ6〜15MUC-1タンデムリピート単位」という表現は、その範囲内でとり得る各反復数、すなわち6タンデムリピートを有する断片、7タンデムリピートを有する断片など、タンデムリピート数15まで(15を含む)の断片を包含するものとすると理解される。好ましいMUC-1断片はヒトMUC-1 DNA配列を有する。好ましいMUC-1断片は6つのタンデムリピートおよび組換え事象時に起こる配列の切除を減少させるために後述するように改変された核酸配列を有する。免疫原性を増進するように設計された変異など、任意の変異も好ましい。例示的なMUC-1 DNA配列は、例えばGendlerらが開示している反復単位を有するヒトMUC-1 cDNA配列である(J. Biol. Chem. 265:15286-93(1990))。
【0055】
乳癌関連抗原、例えばムチン反復配列は、アミノ酸配列を変えずにヌクレオチド相同性を最小限にするために、変化させる(ゆらがせる(wobbled)という場合もある)ことができる。例えば、ムチンタンデムリピートをコードするDNAセグメントのヌクレオチド配列を、コドンの重複が減少するような形で、天然配列から変化させる。例えば、アミノ酸は通例、同じ残基をコードするコドンを2つ以上持っている(例えばグリシンはGGT、GGA、GGG、またはGGCによってコードされる)。同じアミノ酸をコードする他のコドンを使用すれば、切除をもたらす望ましくない組換え事象の可能性を、核酸レベルで相同性を低下させることにより、さらに低下させることができる。また、望ましくない組換えをさらに減少させるために、免疫原性を低下させるような変異をペプチドに加えないように気をつけて、異なるタンデムリピート群内にいくつかの保存的アミノ酸変異(例えばグリシン/セリン、バリン/ロイシン)を導入することもできる。アミノ酸配列に変異(好ましくはタンデムリピートの一部に保存的アミノ酸置換)を導入することによって、ヌクレオチド相同性を低下させることもできる。
【0056】
免疫原性を増進するために他のアミノ酸に変異を導入することもできる。例えば、特に好ましいMUC-1配列の一つはwMUC-1(6)と呼ばれ、図7に配列番号:1として記載する配列を有する。この変異体は、免疫原性の増加したCTLエピトープを作出するためにスレオニンコドンをロイシンコドンに変換する変異、およびアミノ酸配列を変えずにMUC-1遺伝子の安定性を増加させる目的で反復領域中に導入された87個のサイレントヌクレオチドを含有する。また、wMUC-1(6)ヌクレオチド配列とMUC-1 Genbankヌクレオチド配列(アクセッション番号J05581)の間には、反復領域の最初および最後に、いくつかのヌクレオチド相違が認められる。これは、反復領域の最初および最後における、反復配列の縮重によるものである。これに対して、wMUC-1(6)遺伝子は、縮重を伴わない同一の反復を含有するように設計された。8コドン中の11ヌクレオチドからなる他のヌクレオチド相違はサイレント突然変異であり、アミノ酸変異をもたらさない。
【0057】
本明細書に記載の薬学的組成物は、以下に詳述するように、癌の処置、特に乳癌の免疫療法に使用することができる。好ましくは、まず、患者がどのタイプの癌を持っているか決定するために、腫瘍のスクリーニングを行なう。例えば、上述したCEAおよびMUC含有ベクターの場合、どちらかのTAAを発現させる乳癌を有する個体を選択することができる。その個体が乳癌以外の癌を有するか、乳癌の他にも癌を有する場合は、それらの状態に関連する他の腫瘍関連抗原を加えることができる。
【0058】
好ましくは、本薬学的組成物は、癌の発症を、特にその癌を発症する危険が他の個体よりも高い個体において、予防するために、または乳癌に苦しむ患者を処置するために、使用することができる。薬学的組成物およびワクチンは、原発腫瘍の外科的除去および/または放射線療法もしくは従来の化学療法薬の投与などの処置の前または後に、投与することができる。以下に議論するように、薬学的組成物の投与は、静脈内、腹腔内、筋肉内、腫瘍内、皮下、鼻腔内、皮内、肛門内、腟内、局所外用および経口経路投与を含む任意の適切な方法によって行なうことができる。
【0059】
乳癌患者/投与の対象
本明細書に記載の薬学的組成物は癌の処置、特に乳癌の免疫療法に使用することができる。本発明の方法では、乳癌の存在を決定するために、まず患者をスクリーニングする。好ましくは、その患者がどの病期の乳癌を持っているかを決定するために、患者をスクリーニングする。乳癌の各病期(病期0〜IV)に関して新症例の推定数を図12に示す。もう一つの好ましい態様では、処置を個別対応させるべく、その患者の腫瘍細胞がどの乳癌関連抗原を発現させているかを決定するために患者をスクリーニングする。
【0060】
本発明の薬学的組成物、ポックスウイルスベクター、および方法は、任意のタイプおよび/または病期の乳癌を有する個体を処置するために使用することができる。数タイプの乳癌がある。また、乳癌の病期も数段階ある。
【0061】
本発明は、任意のタイプの乳癌を有する患者を処置するために使用することができる。乳癌には、上皮内癌、浸潤性(または侵襲性)導管癌、浸潤性(または侵襲性)小葉癌、髄様癌、膠様癌、管状癌、および炎症性癌が含まれる。
【0062】
上皮内癌の場合、癌はまだ、それが出現した導管または小葉内にあり、乳房内の周囲の脂肪組織または体内の他の器官には拡がっていない。2タイプの上皮内乳癌がある。上皮内小葉癌(LCIS)(小葉新生物とも呼ばれる)は、小葉に出現するが、小葉壁を貫いて成長することはない。ほとんどの乳癌専門家は、LCISそれ自体は通常は侵襲性癌にならないが、この状態にある女性はどちらかの乳房に侵襲性癌を発症する危険が高くなっていると考えている。導管上皮内癌は最も一般的なタイプの非侵襲性乳癌である。導管内の癌細胞が導管の壁を貫いて乳房の脂肪組織に拡がることはない。これらは外科手術および時には放射線照射によって処置され、通常はそれによって治癒する。DCISを処置しないでおくと、侵襲性乳癌の危険が著しく増加する。
【0063】
浸潤性(または侵襲性)導管癌は乳房の乳路または乳管中に出現するが、続いて癌細胞は導管の壁を貫き、乳房の脂肪組織内に拡がる。次に、それらは乳房のリンパ管または血管に侵入し、身体の他の部分に拡がることができる。全乳癌の約80%が浸潤性または侵襲性導管癌である。
【0064】
浸潤性(または侵襲性)小葉癌(ILC)は乳汁産生腺中に出現する。浸潤性導管癌と同様に、この癌も乳房を超えて身体の他の部分に拡がり得る。侵襲性乳癌の約10%〜15%は侵襲性小葉癌である。
【0065】
髄様癌は、腫瘍組織と正常乳房組織との間に比較的輪郭のはっきりした明瞭な境界を有する特殊なタイプの浸潤性導管癌である。これは、癌細胞のサイズが大きいことおよび腫瘍辺縁部に免疫系細胞が存在することなど、他にも特殊な特徴をいくつか持っている。これは全乳癌の約5%を占める。
【0066】
膠様癌は、粘液産生癌細胞によって形成される稀なタイプの侵襲性導管乳癌であり、粘液癌とも呼ばれる。膠様癌は同じサイズの侵襲性小葉癌または侵襲性導管癌および珍しいタイプの侵襲性導管乳癌よりもわずかに予後がよく、転移の可能性がわずかに低い。
【0067】
管状癌は特殊なタイプの浸潤性導管乳癌である。全乳癌の約2%は管状癌である。このタイプの乳癌を有する女性は、同じサイズの侵襲性小葉癌または侵襲性導管癌と比較すると、乳房の外に拡がる可能性が低いので、良い見通しを有する。
【0068】
炎症性乳癌は全乳癌の約1〜3%を占める珍しいタイプの侵襲性乳癌である。冒された乳房の皮膚は赤く、温かく感じ、オレンジの皮に似た外観を有する。これらの変化は炎症によって起こるのではなく、皮膚中のリンパ管を遮断する癌細胞によって起こる。炎症性乳癌は、典型的な侵襲性導管癌または小葉癌よりも伝播の可能性が高く、予後が悪い。炎症性乳癌の病期は、診断の時点で既に他の器官に拡がっている場合(この場合は病期IVになる)を除き、常にIIIBと分類される。
【0069】
異なるタイプの乳癌に加えて、病期0〜IVと呼ばれる異なる病期の乳癌もある。乳癌の成長および伝播を記述するために最もよく用いられるシステムは、American Joint Committee on Cancer(AJCC)システムとも呼ばれているTNM病期分類システムである。TNM病期分類では、腫瘍、近接リンパ節、および遠隔器官転移に関する情報が組み合わされて、特定のTNM分類に病期が割り当てられる。分類された病期はI〜IVのローマ数字を使って記述される。臨床病期は検診および検査の結果によって決定される。病理学的病期には、手術後の病理学者の所見が含まれる。ほとんどの場合、病理学的病期が最も重要な病期である。なぜなら通常、癌がリンパ節に拡がっていることは、病理学者が顕微鏡でそれらを検査するまでわからないからである。TNM病期分類システムにおいて、Tは癌のサイズを意味し(センチメートルの単位で測定される;2.54センチメートル=1インチ)、Nは乳房領域中のリンパ節への伝播を意味し、Mは転移(身体の遠隔器官への伝播)をあらわす。
【0070】
Tカテゴリーは元の(原発)腫瘍を記述する。Tis:Tisは上皮内癌または導管上皮内癌(DCIS)もしくは上皮内小葉癌(LCIS)などの非侵襲性乳癌だけに使用される。T1:この癌は直径2cm(約3/4インチ)以下である。T2:この癌は直径が2cmより多いが5cmは超えない。T3:この癌は直径が5cmより多い。T4:この癌は任意のサイズであり、胸壁、皮膚、またはリンパ管まで拡がっている。
【0071】
Nカテゴリーは乳房近くのリンパ節が癌に冒されているとすればどのリンパ節が癌に冒されているかに基づく。N0:癌はリンパ節には拡がっていない。N1:癌は乳癌と同側の腕下のリンパ節に拡がっている。リンパ節はまだ互いにまたは周辺組織に付着していない。N2:癌は乳癌と同側の腕下のリンパ節に拡がっており、互いにもしくは周辺組織に付着しているか、または拡大している。または、癌は、内乳房リンパ節(胸骨に隣接)まで拡がっているが、腕下のリンパ節までは拡がっていないように見えてもよい。N3:癌は癌と同側の鎖骨の上または直下にあるリンパ節まで拡がっており、腕下のリンパ節には拡がっていても拡がっていなくてもよい。または、癌は、癌と同側の内乳房リンパ節および腕下のリンパ節の両方まで拡がっている。
【0072】
Mカテゴリー:
Mカテゴリーは癌が何らかの遠隔組織および遠隔器官に拡がっているかどうかに依存する。M0:遠隔癌伝播なし。M1:癌は遠隔器官まで拡がっている。
【0073】
乳癌に関する病期分類
T、N、およびMカテゴリーが割り当てられたら、この情報を組み合わせて、0、I、II、III、またはIVの総合的病期を割り当てる。T、N、およびMを決定したら、それらを組み合わせて、I、II、IIIまたはIVの総合的「病期」が割り当てられる。(これらの病期はIIIAおよびIIIBなどの文字を使って細分される場合もある)。病期Iの癌は、最も進行度が低く、予後(生存の見通し)は良好であることが多い。これより病期の進んだ癌はより進行していることが多いが、多くの場合、まだうまく処置することができる。乳癌の各病期(病期0〜IV)に関する2004年の推定新症例数を図15に示す。

【0074】
異なるタイプの病期分類がある。臨床病期分類では、どれぐらいの癌が存在するかを、検診、画像検査(x線、CTスキャンなど)、そして時には患部領域の生検の結果に基づいて推定する。一定の癌については、他の検査、例えば血液検査などの結果も、病期分類に使用する。病理学的病期分類は、外科手術を受けて癌を除去した患者または癌の程度を調査した患者だけに行なうことができる。これは臨床病期分類(検診、画像検査など)の結果を外科手術で得られる結果と組み合わせる。場合により、病理学的病期が臨床病期と異なることもある(例えば事前に考えられていたよりも癌が広範囲であることを外科手術が示す場合など)。処置後に癌が再発(復活)した場合は、疾患の程度を決定するために、再病期分類が用いられることがある。これは、その時点で最適な処置選択肢の決定を助けるために行なわれる。
【0075】
好ましい一態様では、病期IIIBの乳癌を有する患者、すなわち重症な局所腫瘍を有する患者を処置するために、本発明のポックスウイルスベクターを使用する。本発明のポックスウイルスベクターは、以下に詳述する他の処置と一緒に使用することができる。例えば病期IIIBの患者は、腫瘍サイズを減少させるためにネオアジュバント化学療法を受け、次に乳腺腫瘤摘出または非定型的根治的乳房切除術を受け、次に化学療法、放射線療法、または化学療法およびホルモン療法を受けることができる。
【0076】
もう一つの好ましい態様では、病期IVの乳癌を有する患者、すなわち転移癌を有する患者を処置するために、本発明のポックスウイルスベクターを使用する。
【0077】
ある態様では、乳癌を有する患者は既に他の処置レジメン、例えば化学療法が不成功に終わっている。
【0078】
その個体が他の癌を有する場合は、好ましくは、その状態に関連する追加の腫瘍関連抗原が加えられるだろう。そのような方法では、本明細書に記載の薬学的組成物は、患者、通例、温血動物、好ましくはヒトに投与される。
【0079】
一態様において、本薬学的組成物は、癌の発症を予防するために、特に他の個体よりもそのような癌を発症する危険が高い個体における癌の発症を予防するために、または乳癌に冒されている患者を処置するために使用することができる。
【0080】
薬学的組成物およびワクチンは、原発腫瘍の外科的除去および/または放射線療法もしくは従来の化学療法薬の投与などの処置の前または後に、投与することができる。以下に議論するように、薬学的組成物の投与は、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、鼻腔内、皮内、肛門内、腟内、局所外用および経口経路投与を含む任意の適切な方法によって行なうことができる。
【0081】
本明細書に記載の組換えポックスウイルスを用いる乳癌処置システムは任意の宿主に使用することができる。好ましくは宿主は哺乳動物である。好ましい哺乳動物には、ヒトおよびチンパンジーなどの霊長類、馬、牛、豚などの家畜、ならびにイヌおよびネコなどのペットが含まれる。より好ましくは、宿主哺乳動物は霊長類または家畜である。より一層好ましくは、宿主哺乳動物はヒトである。
【0082】
カスタムベクター
一態様において、本発明のシステムは、処置を特定の個体および疾患状態に個別対応させることを可能にする。この態様では、どんな抗原がその患者の癌細胞で高レベルに発現しているかを決定することにより、使用する乳癌関連抗原を、個々の患者に個別対応させることができる。
【0083】
薬理遺伝学および薬理ゲノミクスの発達に伴い、ある個体を冒している乳癌のタイプに関して詳細な情報を得ることが、今では可能になっている(Hedenfalk, I. et al. J. Trent. 2001「Gene-expression profiles in hereditary breast cancer」New England Journal of Medicine 344(Feb.22):539)。
【0084】
個々の患者の必要を満たすように乳癌抗原をカスタム設計することは、例えば乳腫瘍生検の免疫組織化学的解析などから得られる情報を使って行なうことができる。または、Pollackら(Proc Natl Acad Sci. USA 99:12963-12968,2002)に記載されているように、乳癌組織試料から単離されたmRNAを使って、特定乳腫瘍試料の発現プロファイルの核酸アレイ解析を行なうこともできる。
【0085】
薬理遺伝学および薬理ゲノミクスの発達に伴い、ある個体を冒している乳癌のタイプに関して詳細な情報を得ることが、今では可能になっている。したがって乳癌のタイプおよび現在の病期は、組織化学的方法、免疫組織化学的方法および遺伝学的方法を使って評価することができる。このデータから、疾患の進行と共に予想され得る抗原発現に関して、追加情報を得ることができる。このようにして、免疫応答を最大化するために、疾患が進行するにつれて発現されると予想される追加の乳癌関連抗原を加えることができる。
【0086】
本発明で有用な乳癌抗原は、好ましくは、その個体の癌細胞または前癌細胞でどのような抗原が異常に発現されるかまたは異常な高レベルで発現されているかを決定することにより、個々の患者に個別対応させる。本発明のシステムで有用な抗原は癌細胞の病期に従って選択することもできる。一般に、本発明のシステムにおける好ましい乳癌関連抗原の選択を決定するために、個体の細胞から得られる薬理遺伝学データおよび薬理ゲノミクスデータならびに免疫組織化学データを使用することができる。好ましい一態様では、患者が1タイプより多くの癌を持ち、適切な抗原はその患者が発現させる特定の癌に基づいて選択される。
【0087】
個々の患者の必要を満たすように乳癌抗原をカスタム設計することは、例えば乳腫瘍生検の免疫組織化学的解析などから得られる情報を使って行なうことができる。または、乳癌組織試料から単離されたmRNAを使って、特定乳腫瘍試料の発現プロファイルの核酸アレイ解析を行なうこともできる。
【0088】
ポックスウイルスベクターを用いる本発明の方法のために抗原をカスタム設計するのに適した他の有用な核酸アレイとしては、例えば乳癌に関与する遺伝子の発現プロファイルの特徴付けを可能にする癌アレイなどが挙げられる。
【0089】
本発明の組換えポックスウイルスの投与は、対象に応じて、予防的または治療的であることができる。予防的に与えられる場合、本発明の組換えポックスウイルスは、その個体の免疫系がその個体が発症しやすい腫瘍と戦うことができるように、腫瘍形成に先だって与えられる。例えば、遺伝的な癌感受性を有する個体は、そのような予防的免疫化によって処置される好ましい患者群であり、もう一つの群は、そのような癌に関連づけられる環境要因にばく露されたことがあるか、「ホットスポット」または乳腫瘍クラスターで生きている群である。そのような個体として、例えば17q上のBRCA1(Online Mendelian Inheritance of Man(OMIM)#113705)、13q12上のBRCA2(OMIM #600185)、11q上のBRCATA(OMIM #600048)、13q21上のBRCA3(OMIM #605365)、11p15.5上のBWSCR1A(OMIM #602631)、17p上のTP53遺伝子(OMIM #191170)、17q22上のBRIP1遺伝子(OMIM #605882)、および8q11上のRB1CC1遺伝子(OMIM #606837)を含む突然変異の保因者などが挙げられる。X染色体上のアンドロゲン受容体遺伝子(AR;OMIM #313700)中の突然変異は、男性乳癌の症例で見いだされている(OMIM #313700.0016)。RAD51遺伝子(OMIM #179617)中の突然変異は家族性乳癌を有する患者に見いだされた(OMIM #179617.0001)。CHEK2遺伝子の1100delC対立遺伝子(OMIM #604373.0001)は、女性に、および特に男性に、乳癌に対する感受性の増加をもたらすことが示されている。20q上に位置するNCOA3(OMIM #601937)遺伝子およびZNF217(OMIM #602967)遺伝子は、乳癌では増幅を起こす。過剰に発現した場合、これらの遺伝子は腫瘍形成における役割と合致する細胞表現型を付与する(Anzick et al.,Science 277:965-968,1997、Collins et al.,Proc. Nat. Acad. Sci. 95:8703-8708,1998)。
【0090】
共刺激分子
もう一つの特に好ましい態様は、LFA-3、ICAM-1、およびB7.1を含む少なくとも1つの共刺激分子の同時投与を提供する。好ましくは2つの共刺激分子を同時投与する。より一層好ましくは3つの共刺激分子を同時投与する。PTAAをLFA-3、ICAM-1、およびB7.1(TRICOM)と同時投与することが最も好ましい。OX40Lなどの追加免疫調整分子を使用することもできる。さらに代替態様において、共刺激分子(例えばB7、LFA-3、ICAM-1)を1つだけ投与するか、それらの組合せ、例えばB7.1およびLFA-3、B7.1およびICAM-1、ならびにLFA-3およびICAM-1を投与することもできる。
【0091】
好ましい態様では、乳癌関連抗原をコードする少なくとも1つの核酸を含むポックスウイルスが、少なくとも1つの共刺激分子または免疫賦活分子もコードする。または、共刺激分子および抗原は、複数の組換えポックスウイルスベクターを含むポックスベクターシステムによってコードされる。
【0092】
ポックスウイルスに挿入される好ましい核酸の一群には、共刺激分子、アクセサリー分子、および/またはサイトカインをコードする遺伝子が含まれる。「共刺激」および「免疫賦活」という用語は、本明細書においては互換的に用いられる。共刺激分子の例には、B7-1、B7-2、ICAM-1、LFA-3、CD72、OX40L(OX40有りまたはOX40無し)などがあるが、これらに限定されるわけではない。本発明によって包含されるサイトカインの例には、IL-2、GM-CSF、TNF-α、IFN-γ、IL-12、RANTESなどがあるが、これらに限定されるわけではない。共刺激分子は、共刺激分子をコードする組換えポックスウイルスベクターを使って投与するか、ベクターを使わずに薬学的に許容される担体中のタンパク質として投与することができる。例えばOX40アゴニストは、OX40LおよびOX40に対する抗体を含めて、提示された抗原に対する免疫反応により、寛容の形成を防止する(Weinberg et al.J Immunol. 164:2160-2169,2000)。したがって、抗原に対する免疫反応を増加させるために、本発明のシステムでは、OX40Lを発現させる組換えポックスウイルス、または薬学的に許容される担体中のOX40に対する抗体を、癌関連抗原をコードする組換えポックスウイルスベクターを送達する前に、送達した後に、またはその送達と同時に、送達する。OX40Lの効果を増進するために、OX40をコードする核酸をポックスウイルスベクターに加えてもよい。OX40の核酸配列は、Entrez Nucleic Acid Databaseからアクセッション番号AJ277151として容易に入手することができ、OX40L配列はEntrez Nucleic Acid Databaseからアクセッション番号SEG_AB042987Sとして容易に入手することができる。ホモサピエンス(Homo sapiens)OX40...[gi:14279071]。
【0093】
共刺激タンパク質全体または乳癌関連抗原全体をコードする遺伝子を使用する必要はなく、所望のドメインだけでよい。例えば免疫反応を望む場合、コードされる必要があるのは、免疫反応を刺激するのに必要な断片だけである。
【0094】
好ましい一態様では、腫瘍関連抗原と一緒にB7、LFA-3およびICAM-1を含有するポックスウイルスベクターを投与する。
【0095】
B7-1、ICAM-1、およびLFA-3を発現させるポックスウイルスは、CD4+T細胞の活性化もCD8+T細胞の活性化も誘導する(米国特許第6,045,802号、Hodge et al.,J. Natl. Cancer Inst. 92:1228-39(2000)、Hodge et al.,Cancer Research 59:5800-07(1999))。OX40は、ナイーブT細胞ではなく抗原に遭遇した後のT細胞の一次共刺激因子であり、T細胞寛容が誘導された後にT細胞拡大を促進する(Bansal-Pakal et al.,Nature Med. 7:907-12(2001))。OX40LはT細胞活性化時に、a)CD4+およびCD8+T細胞の長期増殖を持続させること、b)CD4+およびCD8+T細胞の両方からのIL-2、IGN-γ、およびTNF-αなどのTh1サイトカインの産生をIL-4発現を変化させずに増進すること、c)T細胞をアポトーシスから保護することによって、その役割を果たす。B7-1、ICAM-1、LFA-3、およびOX40Lの組合せは、初期活性化を増進し、次いで、ナイーブおよびエフェクターT細胞の持続的活性化を強化する。
【0096】
アジュバント
本発明のワクチン製剤は任意のアジュバント組成物を含むことができる。本発明の共刺激分子、アクセサリー分子、およびサイトカインは、それらをコードする核酸を同じまたは異なる組換えポックスウイルスベクターに挿入することによって宿主に全身投与することができる生物学的アジュバントとして有用である。または、他の非ベクター手段によってアジュバントを投与することもできる。
【0097】
アジュバントはウイルスベクターを使って投与するか、薬学的製剤中の単離されたタンパク質として投与することができる。好ましい一態様では、組換えタンパク質などの単離されたタンパク質として、アジュバントを投与する。
【0098】
好ましい一態様において、本発明の方法は、ポックスウイルスベクターが患者に投与される時とほぼ同時にアジュバントが患者に投与されると規定する。本発明の方法は、ポックスウイルスベクターの投与前または投与後の数日間にわたるアジュバントの投与も規定する。例えば患者にポックスウイルスベクターを投与する各日にアジュバントを投与し、その後約1〜約5日間にわたって毎日投与することができる。好ましくは約3日間である。
【0099】
もう一つの好ましい態様では、初期抗原投与の前にアジュバントを患者に投与する。
【0100】
任意のアジュバントを本ベクターシステムと一緒に使用することができる。特に好ましいアジュバントは、樹状細胞による抗原プロセシングおよび抗原提示を増進するので有効なワクチンアジュバントであることが示されているGM-CSFである。実験的研究および臨床的研究により、組換えGM-CSFは様々な免疫原に対する宿主免疫を増強できることが示唆されている。Morrissey,J. Immunol. 139:113-119(1987)、Dranoff,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:3539-40(1983)、Vieweg,Cancer Res. 54:1760-65(1994)。もう一つの好ましいアジュバントはサポニンおよび/または非メチル化CGジヌクレオチドを含有する免疫賦活分子である(米国特許第6,544,518号)。
【0101】
好ましい一態様は、アジュバントとしてのGM-CSFの使用を提供する。例えばBerlex Labs,Inc.がLEUKINE(登録商標)という商標で販売している組換えGM-CSF(サルグラモスチム)である。GM-CSFはウイルスベクターを使って投与するか、薬学的製剤中の単離されたタンパク質として投与することができる。特に好ましい態様では、ポックスウイルスベクターによるワクチン接種の各日およびその後の3日間(すなわち合計4日間)にわたって、組換えGM-CSFタンパク質を患者に投与する。好ましくは、1日につき50〜500μgの組換えGM-CSF、例えば1日につき100μgを投与する。好ましくは、組換えGM-CSFを皮下に、またはポックスウイルスのワクチン接種部位近くに投与する。
【0102】
もう一つの態様では、宿主に遺伝子を送達するためのポックスウイルスまたは他のベクターに、GM-CSFまたはその公知の活性変異体をコードする遺伝子を挿入する。
【0103】
ポックスウイルスベクター
本明細書においては本発明のポックスウイルスをウイルスベクターまたはベクターシステムまたは単にベクターと呼ぶ場合がある。本発明に役立つポックスウイルスには複製ベクターおよび非複製ベクターが含まれる。そのようなポックスウイルスとして、ワクシニアなどのオルソポックス、アビポックス、例えば鶏痘およびカナリア痘、ラクーンポックス(raccoon pox)、家兎痘など、スイポックス、例えば豚痘、カプリポックス、例えば羊痘、レポリポックス、およびイリドウイルスなどが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。他のDNAウイルスとしてイリドウイルスなどが挙げられる。
【0104】
本発明の方法に有用な親ポックスウイルスとして、オルソポックスウイルス、例えば複製ワクシニアウイルス(Perkus et al Science 229:981-984,1985、Kaufman et al Int. J. Cancer 48:900-907,1991、Moss Science 252:1662,1991)、ワクシニアWyeth、および改変ワクシニアAnkara(MVA)(SutterおよびMoss,Proc. Nat'l Acad. Sci. U.S.A.,89:10847-10851、Sutter et al Virology 1994)またはNYVACなどの高度に弱毒化されたワクシニアウイルス;アビポックスウイルス、例えば鶏痘ウイルス、ALVACなどのカナリア痘ウイルス(BaxbyおよびPaoletti,Vaccine 10:8-9,1992、Rinns,M.M.et al (Eds)「Recombinant Poxviruses」(CRC Press,Inc,ボカラトン,1992)、Paoletti,E.Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 93:113491-11353,1996)、スイポックスウイルス、カプリポックスウイルスなどが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0105】
好ましいワクシニアウイルスの一つはWyeth株またはその誘導株である。Wyeth株の誘導株としては、機能的K1L遺伝子を欠く誘導株などが挙げられるが、それに限定されるわけではない。さらにもう一つの態様では、ウイルスが、ジョージア州アトランタのCenters for Disease Controlから天然痘ワクチンとして入手することができるDryVaxである。もう一つの態様では、親ポックスウイルスが鶏痘の株、例えばPOXVAC-TC(Schering-Plough Corporation)などである。
【0106】
本発明のポックスウイルスは、宿主内の宿主細胞に感染、トランスフェクトまたは形質導入することができる。宿主としては、ヒトを含む哺乳動物、鳥、魚などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。宿主細胞は、ポックスウイルスによる感染、トランスフェクションまたは形質導入を受け入れ、ポックスウイルスをそこに挿入されている任意の外来遺伝子を含めて機能的なレベルに発現させる能力を有する、任意の細胞である。
【0107】
本発明のポックスウイルスは、好ましくは、標的細胞中で低い複製効率を有する。これは、好ましくは、1細胞あたり約1を超えない子孫が産生されること、より一層好ましくは1細胞あたり0.1を超えない子孫が産生されることを意味する。複製効率は、標的細胞の感染後にウイルス力価を決定することにより、実験的に容易に決定することができる。
【0108】
ベクターが有する低い複製効率および組込みを起こさない細胞質性の結果として、本ベクターシステムは持続的複製および他の細胞の感染をもたらさないだろう。したがってポックスベクターおよび形質転換細胞は、標的細胞から離れた位置にある宿主動物内の細胞には、悪影響を及ぼさないだろう。
【0109】
特定の宿主動物に使用されるポックスウイルスベクターがその動物内で非病原性であることをさらに確実にするために、ウイルスの宿主域および組織特異性を見ることにより、ウイルスベクターを容易に選別することができる。例えばある方法では、ウイルスの天然宿主域を見る。好ましくは、選択されるウイルスベクターは、主要感染域がその遺伝子送達システムを使用する予定である動物とは異なる宿主動物であるウイルスに由来する。例えば豚痘は、宿主がヒトなどの霊長類である場合にウイルスベクターとして使用することができる。しかし、宿主が豚である獣医学的用途には、これは好ましくないだろう。ただし、通常の宿主域において病原性でない改変オルソポックスウイルスなどの一部の高度に弱毒化または改変された株(例えばワクシニアのMVAもしくはNYVAC株、または遺伝子改変された株、または通常の宿主域においてもしくは所望の宿主細胞において非病原性であるように選択された株)は、使用することができる。感染性および複製効率に関する予備的な選別を行なうために、組織特異性を用いることもできる。。
【0110】
宿主がヒトである場合、好ましいベクターとしては、ポックスベクター、例えば豚痘などのスイポックス、鶏痘、カナリア痘、または鳩痘などのアビポックス、およびカプリポックスウイルスなどが挙げられる。また、カエルウイルスなどのイリドウイルス、およびアフリカブタ熱ウイルスも好ましい。一態様において、ヒト細胞への使用に好ましいウイルスベクターは、アビポックス(Taylor et al.,Vaccine,6:497-503(1985)、Jenkins et al.,AIDS Research And Human Retroviruses 7:991-998(1991))およびスイポックス(Feller et al.,Virology 183:578-585(1991))などの非溶解性非病原性ポックスウイルスである。
【0111】
本発明によれば、乳癌関連抗原および/または免疫賦活分子をコードする任意の核酸をポックスウイルスベクターに挿入することができる。ポックスウイルスは大きいゲノムを有するので、複数の遺伝子を含む広範囲にわたる遺伝物質を送達するために(すなわち、多価ベクターとして作用するように)、それらを容易に用いることができる。ポックスウイルスゲノムのサイズはそのウイルスの株に依存して約130〜300kbpの範囲であり、300個までの遺伝子を有する。したがって、これらのウイルスには外来DNAの大きな断片を挿入することができ、それでもなおウイルスゲノムの安定性を維持することができる。異なるタイプまたは病期の乳癌を有する個体にカスタム設計された処置を提供するために、個別化された抗原/免疫賦活分子の組合せをコードするカスタム設計された「レインボウ(rainbow)」ベクターを構築することが、ポックスウイルスゲノムのサイズによって可能になる。
【0112】
ある態様では、乳癌の処置において治療的価値を有する分子をコードする少なくとも1つの核酸断片を、ポックスウイルスベクターに挿入する。もう一つの態様では、異なる分子をコードする少なくとも2つの、そして約10個までの異なる核酸を、ポックスウイルスベクターに挿入する。
【0113】
したがって、本発明で有用な組換えポックスウイルスベクターは、一つまたは複数の乳癌関連抗原をコードし、そして好ましくは一つまたは複数の共刺激分子を、本願に記載の方法によって評価または処置することができる。例えば、乳癌に関連する抗原をコードする遺伝子を、組換えポックスウイルスゲノムまたはその一部に、一つまたは複数の免疫賦活分子をコードする遺伝子と共に組み込む。または、乳癌に関連する抗原をコードする遺伝子および一つまたは複数の免疫賦活分子をコードする遺伝子を別個の組換えポックスウイルスに組み込む。乳癌に関連する抗原は癌細胞の表面上に発現されるものであってもよいし、細胞内抗原であってもよい。ある態様では、乳癌に関連する抗原が腫瘍関連抗原(TAA)またはその一部である。
【0114】
本発明のPTAA、共刺激分子、アクセサリー分子、およびサイトカインをコードする遺伝子については、タンパク質全体をコードする遺伝子または核酸を使用する必要はなく、所望のドメインだけをコードしていればよい。例えば、免疫反応を望む場合、コードされている必要があるのは、免疫反応を刺激するのに必要な断片だけである。
【0115】
プライム-ブーストプロトコール
本発明はプライム-ブーストレジメンを使用する。このレジメンでは、一つまたは複数のポックスウイルスベクターを含有する組成物を使って患者に初期「プライム」を与えた後、一つまたは複数のポックスウイルスベクターを含有する組成物を使って1回または好ましくは複数回の「ブースト」を患者に与える。
【0116】
プライムの一例では、PTAAおよび共刺激分子の送達に、単一のポックスウイルスベクターを使用する。もう一つの態様では、1回の注射で同時に投与される2以上のポックスウイルスベクターが、プライミングワクチン接種を構成する。例えば、2つのポックスウイルスベクター(そのうちの少なくとも一方は複製能を有するもの)の混合物を宿主に同時投与する。ベクターが両方とも複製欠損性である場合は、両方のウイルスによって形質導入される細胞が少なくなるだろう。混合戦略の一例は、少なくとも1つの乳癌関連抗原をコードするDNAを含む第1のベクターと、少なくとも1つの(好ましくは3つの)共刺激分子、例えばTRICOMなどをコードするDNAを含む第2のベクターとを使用することである。
【0117】
ブースティングワクチン接種も一つまたは複数のポックスウイルスベクターを含み得る。好ましい一態様では、ブースティングワクチン接種のPTAAおよび共刺激分子の送達に、単一のポックスウイルスベクターを使用する。もう一つの態様では、1回の注射で同時に投与される2以上のポックスウイルスベクターが、ブースティングワクチン接種を構成する。例えば2つのポックスウイルスベクター(そのうちの少なくとも一方は複製能を有するもの)の混合物を宿主に同時投与する。ベクターが両方とも複製欠損性である場合は、両方のウイルスによって形質導入される細胞が少なくなるだろう。混合戦略の一例は、少なくとも1つの乳癌関連抗原をコードするDNAを含む第1のベクターと、少なくとも1つの(好ましくは3つの)共刺激分子、例えばTRICOMなどをコードするDNAを含む第2のベクターとを使用することである。
【0118】
例えば、PTAAと好ましくは少なくとも1つの免疫調整分子または共刺激分子とを保有するポックスウイルスベクターなどの第1組換えポックスウイルスベクター(プライム)で、少なくとも1回、個体を免疫化することができる。好ましい態様において、TRICOMまたはTRICOMおよびOX40LまたはTRICOMおよびOX40LおよびOX40を使用する。以降の免疫化はブースティングプロトコールの一部とみなされる。好ましくは、抗原をコードし、好ましくは共刺激分子もコードする異なるタイプのポックスウイルスを使って、第2組換えポックスウイルスベクターによるブーストを行なう。接種は通例少なくとも1ヶ月の間隔を置いて行なわれる。このプロトコールには、PTAAもしくはその免疫原性部分をコードするDNA、PTAAもしくはその免疫原性部分の直接投与、またはそのような分子を含有する他のベクターの使用など、他の変形を含めることができる。そのようなプロトコールではブーストとしてペプチドを投与することができる。
【0119】
好ましくは、複製障害ベクターまたは非複製ベクターを、プライムまたはブーストに使用することができる。好ましい組合せの一つでは、プライムがオルソポックス、例えばワクシニア、好ましくはWyethワクチン株などのワクシニアである。ブーストは、好ましくはアビポックスベクター、例えば鶏痘またはALVACなどのカナリア痘である。
【0120】
ヒトでは、MVAおよびNYVACなどの弱毒ワクチンベクターを含むワクシニアベクターを、数回投与することができる。他のポックスウイルス、例えばアビポックスは、ヒトでは中和抗体応答を惹起しないので、有害作用を伴わずに繰り返し投与することができる。プロトコールを計画する際は、これを考慮しなければならない。通例、これらのタイプの癌では、反復投与が必要である。したがって、対象が(例えば天然痘ワクチンなどで)ワクシニアにばく露された経歴があるかどうかを決定し、それを考慮に入れることができる。
【0121】
あるプロトコールは、PTAAおよび少なくとも1つの共刺激分子をコードするWyethまたはMVAなどのワクシニアによる1回のプライム、続いて、PTAAおよび好ましくは少なくとも1つの共刺激分子をコードする鶏痘などのアビポックスによる少なくとも6回のブーストである。
【0122】
または、ポックスウイルスベクターを使わずに薬学的に許容される担体に入れて免疫賦活分子を投与することもできる。例えば、癌関連抗原をコードする組換えポックスウイルスによる接種の前、後またはその接種と同時に、OX40に対する抗体を個体に投与することができる。
【0123】
好ましい一態様では、本発明のシステムは、少なくとも1つの乳癌関連抗原および少なくとも1つの共刺激分子をコードするDNAを含む組換えポックスウイルスを宿主に投与することを含む。
【0124】
以下に実施例11として詳述する特に好ましい一態様では、プライミングベクターが、wMUC-1(6)、wCEA(6D)、LFA-3、ICAM-1、およびB7.1の遺伝子を保有するワクシニアWyethであり、ブースティングベクターがwMUC-1(6)、wCEA(6D)、LFA-3、ICAM-1、およびB7.1の遺伝子を保有する鶏痘である。
【0125】
もう一つの態様において、本発明は、2つのポックスウイルスベクター(そのうちの一方は複製能を有するもの)の混合物を宿主に同時投与することを含むシステムを提供する。ベクターが両方とも複製欠損性である場合は、両方のウイルスによって形質導入される細胞が少なくなるだろう。混合戦略の一例は、少なくとも1つの乳癌関連抗原をコードするDNAを含む第1のベクターと、少なくとも1つの共刺激分子をコードするDNAを含む第2のベクターとを使用することである。好ましい態様では、それら2つの異なるDNAが、異なる属に由来するポックスウイルスベクターに挿入される。例えば、乳癌関連抗原をコードするDNAはスイポックス由来のベクターに挿入され、共刺激分子をコードするDNAはアビポックス由来のベクターに挿入される。
【0126】
プライミングポックスウイルスおよびブースティングウイルスを投与するスケジュールは、通例、定期的な反復投与を含む。ブースティングベクターは、例えばブースティングワクチン接種が合計で少なくとも5〜15回になるように、その後2〜4週間ごとに投与することができる。この場合、ブーストの数には、例えば少なくとも5回、少なくとも6回、少なくとも7回など、5〜15ブーストの範囲内の全ての数値が含まれる。好ましい一態様では、対象にプラミングベクターによるワクチン接種を1回行い、その後2週間ごとにブースティングベクターによるワクチン接種を6回行い、その後は4週間ごとのブーストを疾患の進行に応じて続ける。
【0127】
本発明のシステムは癌細胞に対する細胞性免疫反応を生じさせるのに特に有用である。したがって本発明は、薬学的に許容される担体中の、乳癌細胞特異抗原をコードする遺伝子がそのゲノムまたはその一部に組み込まれている第1組換えポックスウイルスを少なくとも有するキットを、さらに提供する。第1組換えポックスウイルスは、一つまたは複数の免疫賦活分子または共刺激分子をコードする一つまたは複数の遺伝子も含むことができる。もう一つの態様は、薬学的に許容される担体中の、一つまたは複数の免疫賦活分子をコードする一つまたは複数の遺伝子を含む第2組換えポックスウイルスを、第1組換えポックスウイルスに加えて有するキットを提供する。本キットはさらに容器、注射針およびキットの使用に関する指示を提供する。加えて、本キットは、突然変異検出システムおよび/または発現プロファイリングシステムなどの診断構成要素も含むことができる。もう一つの態様において、本キットは、GM-CSFなどのアジュバント、および/または購入したキット構成要素と市販されているアジュバントとの併用に関する指示を、さらに提供する。
【0128】
両方の組換えウイルスに感染した宿主細胞は、乳癌抗原および免疫賦活分子を両方とも発現させる。抗原は感染宿主細胞の細胞表面に発現され得る。免疫賦活分子は細胞表面に発現されるか、宿主細胞によって能動的に分泌され得る。抗原および免疫賦活分子が両方とも発現されることにより、特異的T細胞に対して必要なMHC拘束性ペプチドが提供され、抗原認識および抗原特異的T細胞の増殖またはクローン拡大を助けるためにT細胞に適切なシグナルが提供される。全体としての結果は免疫系のアップレギュレーションである。好ましい態様では、免疫応答のアップレギュレーションが、乳癌細胞を殺すかその成長を阻害することができる抗原特異的Tヘルパーリンパ球および/または細胞傷害性リンパ球の増加である。好ましい態様では、免疫賦活分子および乳癌抗原が、同じポックスウイルスベクターで提供される。
【0129】
ウイルスベクターの構築
ウイルスに遺伝子を挿入する基本的技術は当業者には公知であり、例えば、ドナープラスミド中の遺伝子に隣接するウイルスDNA配列と、親ウイルス中に存在する相同配列との間の組換えを伴う(Mackett, et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 79:7415-7419(1982))。例えば、遺伝子送達用のポックスウイルスなどの組換えウイルスは、米国特許第5,093,258号(その開示は参照により本明細書に組み入れられる)に記載の鶏痘ウイルスの合成組換え体を作出する方法と同様の当技術分野において公知の2段階で、構築することができる。他の技術として、親ウイルスベクター中に天然に存在するまたは人工的に挿入された固有の制限酵素部位を使用することが挙げられる。
【0130】
第1に、ウイルスに挿入すべき核酸は、DNA(例えばポックスウイルスのDNA)の一部に相同なDNAが既に挿入されているプラスミド、例えば大腸菌(E. coli)プラスミド構築物に入れることができる。別途、挿入すべきDNA遺伝子配列をプロモーターにライゲートする。プロモーター-遺伝子連鎖は、所望の挿入領域であるポックスDNAの領域に隣接しているDNA配列と相同なDNAが当該プロモーター-遺伝子連鎖の両端に隣接するような形で、プラスミド構築物中に配置される。次に、得られたプラスミド構築物を、大腸菌細菌内で成長させることによって増幅し、単離する。好ましくは、プラスミドは大腸菌複製起点などの複製起点、ならびに大腸菌における選択および増殖のためのマーカー、例えば抗生物質耐性遺伝子なども含有する。
【0131】
第2に、挿入すべきDNA遺伝子配列を含有する単離されたプラスミドを、ニワトリ胚線維芽細胞などの細胞培養物に、ポックスウイルスと共にトランスフェクトする。プラスミド中の相同ポックスDNAとウイルスゲノムの間の組換えが、そのゲノム中のウイルスの生存能に影響を及ぼさない部位にプロモーター-遺伝子構築物が存在することによって改変されたポックスウイルスをもたらす。
【0132】
遺伝子は、得られた組換えウイルスのウイルス生存能に影響を及ぼさないようなウイルス中の部位または領域(挿入領域)に挿入される。当業者であれば、例えば、組換え体のウイルス生存能に重大な影響を及ぼさずに組換え体を形成させることができる領域についてウイルスDNAのセグメントを無作為に調べることなどにより、ウイルス中のそのような領域を容易に同定することができる。
【0133】
容易に使用することができ、多くのウイルス中に存在する挿入領域の一つは、チミジンキナーゼ遺伝子であり、本明細書においてはこれをTK遺伝子ともいう。例えばこれは調べられたポックスウイルスゲノムの全てに見いだされている[レポリポックスウイルス:Upton, et al.,J. Virology,60:920(1986)(ショープ線維腫ウイルス);カプリポックスウイルス:Gershon, et al.,J. Gen. Virol.,70:525(1989)(ケニアシープ-1);オルソポックスウイルス:Weir, et al.,J. Virol.,46:530(1983)(ワクシニア);Esposito, et al.,Virology,135:561(1984)(サル痘および痘瘡ウイルス);Hruby, et al.,PNAS,80:3411(1983)(ワクシニア);Kilpatrick, et al.,Virology,143:399(1985)(ヤバサル腫瘍ウイルス);アビポックスウイルス:Binns, et al.,J. Gen. Virol. 69:1275(1988)(鶏痘);Boyle, et al.,Virology,156:355(1987)(鶏痘);Schnitzlein, et al.,J. Virological Methods,20:341(1988)(鶏痘、ウズラ痘);エンドモポックス(Lytvyn, et al.,J. Gen. Virol. 73:3235-3240(1992)]。
【0134】
鶏痘の場合、TK領域に加えて、他の挿入領域として、例えば以下の領域が挙げられるが、これらに限定されるわけではない:BamHI J断片[Jenkins, et al.,AIDS Research and Human Retroviruses 7:991-998(1991)]、EPO出願第0 308 220 A1に記載のEcoRI-HindIII断片、BamHI断片、EcoRV-HindIII断片、BamHI断片およびHindIII断片(Calvert, et al.,J. of Virol. 67:3069-3076(1993)、Taylor, et al.,Vaccine 6:497-503(1988)、Spehnerら(1990)およびBoursnell, et al.,J. of Gen. Virol. 71:621-628(1990))。本発明の処置システムで有用なもう一つの好ましいポックスウイルスは、鶏痘およびALVACなどのカナリア痘を含む(ただしこれらに限定されるわけではない)アビポックスである。特に好ましいアビポックスウイルスは鶏痘である。
【0135】
他の特に好ましい本発明の鶏痘挿入部位は、LUS挿入部位、FP14挿入部位、および43K挿入部位と呼ばれる。これらの部位は、FPV006/FPV007(LUS挿入部位)、FPV254/FPV255(LUS挿入部位)、FPV060/FPV061(FP14挿入部位)、およびFPV107/FPV108(43K挿入部位)と呼ばれる場合もある。
【0136】
好ましい一態様では鶏痘中の挿入部位をLUS挿入部位という。鶏痘では、2つの長い固有配列(LUS)がウイルスゲノムの両端にあるので(Genbankアクセッション番号AF198100)、各ゲノム中に2つのLUS挿入部位が存在する。ゲノムの左端のLUS挿入部位は鶏痘ゲノム配列中の位置7470〜7475にあって、FPV006の3'側およびFPV007 125Lの5'側に位置する。ゲノムの右端のLUS挿入部位は鶏痘ゲノム配列中の位置281065〜281070にあって、FPV254の5'側およびFPV255の3'側に位置する。この態様では、関心対象の配列に相当するインサートを、指定した挿入部位内の任意の位置に挿入することができる。
【0137】
もう一つの好ましい態様では鶏痘中の挿入部位がFP14挿入部位と呼ばれる。この部位は鶏痘ゲノム配列中の位置67080〜67097にあって、FPV060の5'側およびFPV061の3'側に位置する。この態様では、指定した挿入部位(すなわち上記ヌクレオチド間)にあるDNA配列が、組換えウイルスでは削除され、関心対象の配列に相当する所定のインサートで置き換えられる。
【0138】
さらにもう一つの好ましい態様では鶏痘中の新規挿入部位が43K挿入部位と呼ばれる。この部位は鶏痘ゲノム配列中の位置128178にあり、FPV107の5'側およびFPV108の5'側に位置する。これらの遺伝子は分岐転写され、挿入部位は、それら2つのORFのための2つのプロモーターエレメントの間に位置する。この態様では、関心対象に相当するインサートを、鶏痘ゲノム内のこの位置に挿入することができる。
【0139】
特に好ましい鶏痘挿入領域はFP14領域およびBamHI J領域である。好ましいベクターの一つでは、乳癌関連抗原CEAおよびMUC-1をFP14領域に挿入し、共刺激因子LFA-3、ICAM-1、およびB7.1をBamHI J領域に挿入する。
【0140】
好ましい一態様ではワクシニア中の挿入部位が挿入部位44/45と呼ばれる。この挿入部位が初めて同定されたのはMVAで、MVAの場合、挿入部位44/45はORF 044Lと045Lの間に位置し、この挿入部位はMVAゲノム配列(Genbankアクセッション番号U94848)中の位置37346〜37357にある。この領域はMVA 044Lの翻訳開始コドンの5'側およびMVA 045Lの翻訳停止コドンの3'側にある。ワクシニアCopenhagenの場合、挿入部位44/45に関して、相当するORFはF14L(MVA 044Lに相同)およびF15L(MVA 045L)であり、挿入部位はワクシニアF14Lの翻訳開始コドンの5'側およびワクシニアF15Lの翻訳停止コドンの3'側にある。この領域を含有し、Genbankアクセッション番号M35027として入手できるその配列を有するワクシニアCopenhagenは、原型ワクシニアである。44/45などの部位に類似する挿入部位は、ワクシニアWyeth、NYVAC(この場合、改変された挿入部位は知られていない)およびTROYVACを含む他のワクシニア株でも使用することができる。この態様では、指定した挿入部位(すなわち上記ヌクレオチド間)にあるDNA配列が、組換えウイルスでは削除され、関心対象の配列に相当する所定のインサートで置き換えられる。
【0141】
本発明で有用なもう一つの挿入部位は、挿入部位49/50と呼ばれるワクシニア中の挿入部位である。この挿入部位が初めて同定されたのはMVAで、MVAの場合、挿入部位49/50はORF 049Lと050Lの間に位置し、この挿入部位はMVAゲノム配列(Genbankアクセッション番号U94848)中の位置42687〜42690にある。この領域はMVA 049Lの翻訳開始コドンの5'側およびMVA 050Lの翻訳停止コドンの3'側にある。ワクシニアCopenhagenの場合、挿入部位49/50に関して、相当するORFはE2L(MVA 049Lに相同)およびE3L(MVA 050L)であり、挿入部位はワクシニアE2Lの翻訳開始コドンの5'側およびワクシニアE3Lの翻訳停止コドンの3'側にある。ワクシニアCopenhagenは原型ワクシニアである。同様に、NYVAC(この場合、改変された挿入部位は知られていない)およびTROYVACを含む他のワクシニア株でも、挿入部位49/50を使用することができる。この態様では、指定した挿入部位(すなわち上記ヌクレオチド間)にあるDNA配列が、組換えウイルスでは削除され、関心対象の配列に相当する所定のインサートで置き換えられる。
【0142】
さらにもう一つの好ましい態様では、ワクシニア中の挿入部位が挿入部位124/125と呼ばれる。この挿入部位が初めて同定されたのはMVAで、MVAの場合、挿入部位124/125はORF 124Lと125Lの間に位置し、この挿入部位はMVAゲノム配列(Genbankアクセッション番号U94848)中の位置118481〜118482にある。この領域はMVA 124Lの翻訳開始コドンの5'側およびMVA 125Lの翻訳停止コドンの3'側にある。ワクシニアCopenhagenの場合、挿入部位124/125に関して、相当するORFはA13L(MVA 124Lに相同)およびA14L(MVA 125L)であり、挿入部位はワクシニアA13Lの翻訳開始コドンの5'側およびワクシニアA14Lの翻訳停止コドンの3'側にある。同様に、NYVAC(この場合、改変された挿入部位は知られていない)およびTROYVACを含む他のワクシニア株でも、挿入部位124/125を使用することができる。この態様では、指定した挿入部位(すなわち上記ヌクレオチド間)にあるDNA配列が、組換えウイルスでは削除され、関心対象の配列に相当する所定のインサートで置き換えられる。
【0143】
遺伝子を挿入部位に挿入するという要件に加えて、挿入された遺伝子の改変組換えポックスウイルスによる発現の成功には、所望の遺伝子に作動可能に連結された(すなわち挿入された遺伝子に対して適正な関係にある)プロモーターの存在が必要である。プロモーターは、発現される遺伝子の上流に位置するように置かれる必要がある。プロモーターは当技術分野においては周知であり、標的とする宿主および細胞タイプに応じて容易に選択することができる。
【0144】
例えばポックスウイルスでは、ワクシニア7.5Kプロモーター、ワクシニア30Kプロモーター、ワクシニア40Kプロモーター、ワクシニアI3プロモーターなど(ただしこれらに限定されるわけではない)のポックスウイルスプロモーターを使用することができる。他の好ましいプロモーターとして、合成初期/後期(sE/L)プロモーターおよび7.5プロモーターが挙げられる。発現レベルを増加させるために、エンハンサーエレメントも併用することができる。さらにまた、当技術分野においてやはり周知である誘導性プロモーターに使用も、一部の態様では好ましい。
【0145】
本発明で有用なプロモーターには、ポックスウイルスプロモーター、例えばエントモポックスプロモーター、アビポックスプロモーター、またはワクシニアプロモーターなどのオルソポックスプロモーター、例えばHH、11KまたはPiなどがあるが、これらに限定されるわけではない。例えば、ワクシニアのAvaIH領域に由来するPiプロモーターは、Wachsman et al.,J. of Inf. Dis. 155,1188-1197(1987)に記載されている。より具体的には、このプロモーターは、L変異体WRワクシニア株のAvaIH(XhoIG)断片に由来し、そこではこのプロモーターが右から左への転写を指示している。このプロモーターの地図位置は、AvaIHの5'末端から約1.3Kbp(キロ塩基対)、ワクシニアゲノムの5'末端から約12.5Kbp、およびHindIIIC/N接合部の約8.5Kbp5'側である。HindIIIHプロモーター(本明細書においては「HH」および「H6」ともいう)配列は、Rosel et al.,J. Virol. 60,436-449(1986)によるオープンリーディングフレームH6の上流である。11KプロモーターはWittek,J. Virol. 49,371-378(1984)およびBertholet,C. et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82,2096-2100(1985)に記載されているとおりである。特定遺伝子の発現時期を指定するために、プロモーターが初期または後期プロモーターであるかどうかを利用することができる。また、後述するように、誘導性プロモーターを使用することもできる。
【0146】
本発明は、プロモーターが外部因子または外部キューによって調整されるので、当該ベクターによって産生されるポリペプチドのレベルを前記外部因子または外部キューを活性化することによって制御することができるポックスウイルスベクターも提供する。例えば熱ショックタンパク質は、プロモーターが温度によって調節される遺伝子によってコードされるタンパク質である。金属含有タンパク質メタロチオネインをコードする遺伝子のプロモーターは、Cd+イオンに応答する。このプロモーターまたは外部キューの影響を受ける他のプロモーターを組み込むことによっても、タンパク質の産生を調節することが可能になる。
【0147】
もう一つの好ましい態様では、「誘導性」プロモーターに作動可能に連結された乳癌関連抗原をコードする核酸を保有するように、ポックスウイルスゲノムを改変する。そのような誘導システムにより、遺伝子発現を注意深く調節することが可能になる。MillerおよびWhelan,Human Gene Therapy,8:803-815(1997)参照。本明細書において使用する「誘導性プロモーター」または「誘導システム」という表現には、外部から送達される作用因を使ってプロモーター活性を調節することのできるシステムが包含される。そのようなシステムには、例えば、lacオペレーターを保持する哺乳動物細胞プロモーターからの転写を調節するために転写調整因子として大腸菌由来のlacリプレッサーを使用するシステム(Brown et al.Cell,49:603-612,1987);テトラサイクリンリプレッサー(tetR)を使用するシステム(GossenおよびBujard,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:5547-5551,1992、Yao et al.,Human Gene Ther. 9:1939-1950,1998、Shokelt et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:6522-6526,1995)などがある。他のそのようなシステムには、カストラジオール(castradiol)、RU486/ミフェプリストン、ジフェノールムリステロン(diphenol muristerone)またはラパマイシンを用いるFK506二量体、VP16またはp65がある(前記MillarおよびWhelanの図2参照)。さらにもう一つの例はエクジソン誘導システムである(例えばKarns et al,MBC Biotechnology 1:11,2001参照)。誘導システムは例えばInvitrogen、Clontech、およびAriadなどから入手することができる。リプレッサーをオペロンと共に用いるシステムは好ましい。これらのプロモーターは、哺乳類プロモーターに代えてポックスプロモーターの一部を用いることによって、改造されるだろう。
【0148】
本発明の一態様は、転写調節エレメントまたはエンハンサーなどの調節エレメントの使用を提供する。
【0149】
本発明の好ましい一態様では、関心対象の遺伝子を調節するために「転写調節エレメント」または「TRE」が導入される。本明細書にいうTREは、作動可能に連結されたポリヌクレオチド配列がRNAポリメラーゼで転写されて起こるRNAの形成を調節(すなわち制御)するポリヌクレオチド配列、好ましくはDNA配列である。本明細書にいうTREは、そのTREが機能することを許す宿主細胞内で、作動可能に連結されたポリヌクレオチドの転写を増加させる。TREは、同じ遺伝子に由来しても同じ遺伝子に由来しなくてもよいエンハンサーエレメントおよび/またはポックスプロモーターエレメントを含む。TREのプロモーターおよびエンハンサー構成要素は、所望の転写活性が得られる限り、関心対象のコード配列に対して任意の向きおよび/または距離にあることができ、上述したものの多量体を含み得る。本明細書において議論するように、TREは、サイレンサーエレメントを欠いてもよいし、サイレンサーエレメントを欠かなくてもよい。例えば、乳腺特異的調節エレメントは本発明で有用なTRE群になる。一例はヒトα-ラクトアルブミン(ALA)プロモーターである(具体的構築物については、例えばAnderson et al.Cancer Gene Ther 7:845-852,2000を参照されたい)。
【0150】
本発明のもう一つの好ましい態様は、関心対象の遺伝子を調節するための「エンハンサー」を提供する。エンハンサーは、当技術分野においてはよく理解されている用語であり、プロモーターに作動可能に連結された遺伝子に作動可能に連結された場合に、その遺伝子の転写を、プロモーターだけで達成される転写活性化を超える程度にまで増加させる、遺伝子由来のポリヌクレオチド配列である。すなわちエンハンサーはプロモーターからの転写を増加させる。
【0151】
転写活性化は、当技術分野において公知の(そして以下に詳述する)いくつかの方法で測定することができるが、一般的には、調節エレメントの制御下にある(すなわち調節エレメントに作動的に連結されている)コード配列のmRNAまたはタンパク質産物の検出および/または量子化によって測定される。本明細書において議論するように、調節エレメントは、様々な長さおよび様々な配列組成を有することができる。転写活性化とは、標的細胞内で転写が基礎レベルを超えて、少なくとも約2倍、好ましくは少なくとも約5倍、好ましくは少なくとも約10倍、より好ましくは少なくとも約20倍増加することを意味する。より好ましくは少なくとも約50倍、さらに好ましくは少なくとも約100倍、より一層好ましくは少なくとも約200倍、より一層好ましくは少なくとも約400倍〜約500倍、より一層好ましくは少なくとも約1000倍である。基礎レベルとは、一般に、非標的細胞内での活性レベルであるか、標的細胞タイプで試験した、関心対象のTREを欠くレポーター構築物の活性レベル(活性がある場合)である。
【0152】
本発明において、特異的癌標的細胞に向けられるポックスウイルスベクターは、標的腫瘍細胞中で優先的に機能するTREの使用によって作製することもできる。この態様では、ポックスウイルスベクターが腫瘍部位に直接投与(すなわち腫瘍内注射)され、直接局所反応が望ましい。腫瘍細胞特異的な異種TREの限定でない例およびそれぞれの潜在的標的乳癌細胞の限定でない例として、以下の遺伝子に由来するTREが挙げられる:ムチン様糖タンパク質DF3(MUC-1)、癌胎児性抗原(CEA)、プラスミノゲン活性化因子ウロキナーゼ(uPA)およびその受容体遺伝子(乳癌、結腸癌、および肝癌)、ならびにHER-2/neu(c-erbB2/neu)。
【0153】
本発明では、腫瘍特異的TREを、血管内皮増殖因子受容体などの組織特異的TREと一緒に使用することができる。他の組織特異的TREも当技術分野においては公知である。
【0154】
他の遺伝子
本発明で有用なポックスウイルスベクターに挿入するための好ましい核酸群の一つは抗体をコードする。抗体は、生物医科学においては、標的抗原の同定、精製および機能操作を行なうためのインビトロツールとして、長年にわたって使用されてきた。抗体はインビボでは診断用途と治療用途の両方に利用されてきた。多くの場合、モノクローナル抗体の重鎖および軽鎖の関連部分の特異的アミノ酸、そしてさらには特異的ヌクレオチド配列が公知である。例えば、モノクローナル抗体抗癌薬リツキシマブ、トラスツズマブおよびセツキシマブの少なくともCDRをコードするポックスウイルスを作製することができる。ポックスウイルスは完全長四量体抗体または一本鎖抗体をコードすることができる。一態様において、抗体工学の最近の進歩により、抗体をコードする遺伝子を、抗原結合ドメインを細胞内で発現させることもできるように操作することが、今では可能になっている。これらの細胞内抗体は「イントラボディー(intrabodies)」と呼ばれる(Marasco et al.,Gene Therapy,4:11-15,1997、米国特許第5,965,371号、第5,851,829号、第6,329,173号、および第6,072,036号)。好ましくは、イントラボディーをコードする核酸は、一本鎖ヒト化抗体をコードする。好ましい抗体の一つは上述したOX40に対する抗体(OX40イントラボディー)である。
【0155】
ポックスウイルスベクターの投与
標的宿主細胞に送達されるべき遺伝子を保有するウイルスベクターの導入は、当業者に公知の任意の方法によって達成することができる。
【0156】
本発明の組換えポックスウイルスの投与は、対象に依存して、「予防的」または「治療的」であることができる。予防的に与える場合、本発明の組換えポックスウイルスは、個体の免疫系が、その個体が発達し得る腫瘍と戦うことができるように、腫瘍形成に先だって与えられる。例えば、遺伝的癌感受性を有する個体は、そのような予防的免疫化によって処置される好ましい患者群であり、もう一つの群は、そのような癌に関連づけられる環境要因にばく露されたことがあるか、「ホットスポット」または乳腫瘍クラスターで生きている群である。
【0157】
組換えポックスウイルスの予防的投与は、乳癌を予防、改善、または遅延させるのに役立つ。治療的に与えられる場合、組換えポックスウイルスは、乳癌の診断時または診断後に与えられる。したがって本発明は、予想される乳癌に先だって与えられるか、または乳腫瘍形成の開始後に与えられる。
【0158】
対象に投与するために、本発明のポックスウイルスは接種材料として製造される。接種材料は通例、水性の薬学的組成物を形成させるために食塩水、リン酸緩衝食塩水または他の生理学的に認容できる希釈剤などといった認容できる(許容できる)希釈剤中の溶液として製造される。多くのウイルス調製物は凍結状態での保存を必要とするので、製剤は安定剤または凍結保護物質として10%グリセロールも含有することができる。
【0159】
接種経路は、病原体に対する防御応答の惹起をもたらす乱切、静脈内(I.V.)、筋肉内(I.M.)、皮下(S.C.)、皮内(I.D.)、腹腔内(I.P.)、腫瘍内などの経路であることができる。好ましい一態様では皮下投与を使用する。投薬は少なくとも1回は行なわれる。その後の投薬は、表示どおりに行なうことができる。
【0160】
直接局所反応が望ましい場合は、ポックスウイルスを腫瘍内に例えば腫瘍内注射などによって直接投与することができる。または、ポックスウイルスを、例えば皮下注射などによって、腫瘍以外の部位に投与することができる。皮下注射は便利であり、特に好ましい投与経路である。
【0161】
哺乳動物(好ましくはヒト)に本発明の組換えポックスウイルスを与える場合、投与される組換えポックスウイルスの投薬量は、その哺乳動物の年齢、体重、身長、性別、一般医学的状態、過去の病歴、疾患の進行、腫瘍量などの因子に依存して変動するだろう。
【0162】
接種材料に関して「単位用量(unit dose)」という用語は、哺乳動物に対する単位投薬に適した物理的に不連続な単位を指し、各単位は所望の免疫原効果をもたらすように計算された所定量の組換えポックスウイルスを必要な希釈剤と共に含有する。本発明の接種材料の新規1回量に関する詳細は、組換えウイルスの固有の特徴および達成されるべき特定の免疫原効果によって決まり、それらに依存する。
【0163】
一般的には、約105〜約1010プラーク形成単位(pfu)の範囲の組換えウイルス用量を受容者に与えることが望ましいが、これより低いまたは高い用量を投与することもできる。好ましい用量の一つは、例えば約0.5mlの体積中の、約2×108pfuである。
【0164】
関心対象の器官における当該タンパク質の血清濃度を約1pg/ml〜20μg/mlの範囲にするのに十分な量のウイルスベクターが注射されるだろう。より好ましくは約0.1μg/ml〜10μ/mlである。さらに一層好ましくは約0.5μg/ml〜10μg/mlである。
【0165】
哺乳動物に組換えポックスウイルスを投与する方法の例として、腫瘍細胞をエクスビボで組換えウイルスにばく露すること、またはウイルスの静脈内投与、S.C.投与、I.D.投与、またはI.M.投与によって冒された宿主に組換えポックスウイルスを注射することが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。または、組換えポックスウイルスもしくは組換えベクターの組合せを、癌病巣もしくは腫瘍への直接注射または薬学的に許容される担体を使った局所外用によって、局所投与することもできる。一つまたは複数の抗原の核酸配列を複数の共刺激分子をコードする核酸配列と組み合わせて保有する組換えポックスウイルスの投与すべき量は、ウイルス粒子の力価に基づく。投与すべき免疫原の好ましい範囲は1対象あたり約105〜1012(例えば約107〜1010)プラーク形成単位(pfu)である。ウイルス粒子に対するpfuの等価性は使用する特異的pfu滴定方法に応じて異なるが、1pfuは通常、5〜100ウイルス粒子に等しい。免疫化すべき哺乳動物が既に癌または転移癌に冒されている場合は、ワクチンを他の治療的処置、例えば化学療法または放射線照射と一緒に投与することができる。
【0166】
ポックスウイルスベクターの投与スケジュールは、通例、上述のように、ブースティングベクターの反復投与を伴う。例えば、初期プライミングベクターを1〜3回、例えば2〜4週間ごとに、合計6〜12週間かけて投与する。次に、ブースティングベクターを、その後、2〜4週間ごとに、例えばブースティングワクチン接種が合計で少なくとも5〜15回になるように投与する。好ましい一態様では、対象に、プライミングベクターによるワクチン接種を1回行い、その後2週間ごとに、ブースティングベクターによるワクチン接種を6回行い、その後は4週間ごとに疾患の進行に応じて継続する。
【0167】
本発明のシステムは、乳癌の他の任意の処置レジメンと組合せて、有利に使用することができる。乳癌の処置は当技術分野においては周知であり、開発が続けられている。処置には、腋窩リンパ節郭清、センチネルリンパ節生検、再建外科手術、進行癌の症状を緩和するための外科手術、乳腺腫瘤摘出(乳房温存療法ともいう)、乳房部分(区分)切除術、単純乳房切除術または乳房全切除術、非定型的根治的乳房切除術、および根治的乳房切除術を含む外科手術;エストロゲンの作用を遮断するタモキシフェンなどの薬物を用いるホルモン療法;身体によるエストロゲンの産生を停止させるアロマターゼ阻害剤;HER2受容体を遮断するために開発された抗HER2ヒト化モノクローナル抗体であるHerceptin(商標)(トラスツズマブ)などを使った免疫療法;骨髄移植;末梢血幹細胞療法;ビスホスホネート類;他の化学療法剤;放射線療法;指圧療法;および鍼治療などがあるが、これらに限定されるわけではない。治療法の任意の組合せを本発明と一緒に使用することができる。
【0168】
図12に、2004年の推定新症例数および推定5年生存率(SEER Cancer Statistics Review,1975-2001,NCDB,CoC,ACoS,American Cancer Society,AJCC Cancer Staging Manual,Fifth editionに基づく)を含めて、乳癌の各病期について、典型的な処置選択肢の全体像を記載する。
【0169】
乳癌を含む癌の新しい治療は開発され続けている。本発明のポックスウイルスベクターは、任意のそのような新しい治療法と共に使用することができる。例えば、ジェムザール、タルセバ、アバスチン、およびタルグレチンがある。
【0170】
本発明のポックスウイルスベクターとの併用が特に好ましい化学療法剤には、ドキソルビシン、パクリタキセル、5-フルオロウラシル、シクロホスファミド、およびタモキシフェンなどがある。
【0171】
特に好ましい一態様では、下記実施例11および表1に記載のポックスウイルスベクターシステムPANVAC(商標)-VFを、化学療法と組み合わせて使用する。好ましい一態様では化学療法剤がドセタキセルである。
【0172】
本発明のシステムは、ホルモン感受性ではない癌を有する個体、そしてそれゆえにタモキシフェン処置または卵巣切除術などに応答しない癌細胞を有する個体を処置するのに、特に有利である。本発明は、HER2を過剰発現させない癌、そしてそれゆえに抗HER2処置に応答しない癌の処置にも使用することができる。本発明は、初期段階の癌および再発癌にとって有用な処置選択肢を提供する。もう一つの有用な標的癌は、上述した突然変異などの突然変異によって引き起こされる遺伝型の乳癌である。
【0173】
さらにまた、当技術分野においては公知であるとおり、乳癌の診断は様々な病期、炎症性乳癌および再発癌に分類される。初期段階は病期0と呼ばれ、これには導管上皮内癌(DCIS)および上皮内小葉癌(LCIS)またはより適切には「小葉新生物」が包含される。DCISは、導管起源の非侵襲性新生物であり、侵襲性癌に進行する場合もあり得る。DCISの処置には、伝統的には、乳房切除術が用いられてきた。最近、乳腺腫瘤摘出(乳房温存手術)とその後の放射線照射療法も用いられるようになった。LCISは前悪性病変であるとは考えられておらず、むしろ後に侵襲性乳癌を発症する危険が増加している女性を同定するマーカーであると考えらている。患者は危険群における癌の発生を予防することが示されているタモキシフェンで処置されることが多い。場合によっては乳房全切除術を行なうことができる。
【0174】
例えば、患者がDCISと診断されたら、本発明のシステムを放射線照射有りまたは放射線照射無しの乳腺腫瘤摘出術(好ましくは放射線照射無し)と組み合わせて使用することができる。本発明のシステムは、新生物がエストロゲン応答性前癌細胞に関係しない場合のLCISの処置には特に有用である。本発明のシステムは、LCISと診断された患者にタモキシフェン療法と組み合わせて、またはタモキシフェン療法の代わりに、好ましくはタモキシフェンと組み合わせて、根治手術的介入ならびにそれに伴う患者の肉体的および精神的苦痛を回避するために、使用することができる。
【0175】
転移乳癌の処置では、通常、ホルモン療法および/または化学療法がトラスツズマブを使ってまたはトラスツズマブを使わずに行なわれる。限局的な症候性転移巣を有する患者には、放射線療法および/または外科手術が適応となり得る。本発明は、腫瘍細胞に対する宿主自身の免疫系を挑発するシステムを提供することにより、より高い毒性を有する化学療法的介入に対して追加ツールまたは代替ツールを提供する。本発明のシステムは、抗血管新生剤および/またはホルモン療法と一緒に、進行期の乳癌(転移性)を処置するのに特に有用である。なぜなら、それらの薬剤および治療法は、化学療法剤とは異なり、免疫系に悪影響を与えないからである。
【0176】
本発明の薬学的組成物および剤形ならびにキットを含む本発明の様々な態様で使用することができる抗癌薬の他の例には以下に挙げるものがあるが、これらに限定されるわけではない:アシビシン;アクラルビシン;塩酸アコダゾール;アクロニン;アドゼレシン;アルデスロイキン;アルトレタミン;アンボマイシン(ambomycin);酢酸アメタントロン;アミノグルテチミド;アムサクリン;アナストロゾール;アントラマイシン(anthramycin);アスパラギナーゼ;アスペルリン(asperlin);アザシチジン;アゼテパ(azetepa);アゾトマイシン(azotomycin);バチマスタット;ベンゾデパ;ビカルタミド;塩酸ビサントレン;ビスナフィドジメシラート;ビゼレシン;硫酸ブレオマイシン;ブレキナルナトリウム;ブロピリミン;ブスルファン;カクチノマイシン;カルステロン;カラセミド;カルベチマー;カルボプラチン;カルムスチン;塩酸カルビシン(carubicin hydrochloride);カルゼレシン;セデフィンゴール;クロラムブシル;シロレマイシン(cirolemycin);シスプラチン;クラドリビン;クリンスナトールメシラート(crisnatol mesylate);シクロホスファミド;シタラビン;ダカルバジン;ダクチノマイシン;塩酸ダウノルビシン;デシタビン;デキソルマプラチン;デザグアニン;デザグアニンメシラート;ジアジコン;ドセタキセル;ドキソルビシン;塩酸ドキソルビシン;ドロロキシフェン;クエン酸ドロロキシフェン;プロピオン酸ドロモスタノロン;デュアゾマイシン(duazomycin);エダトレキセート;塩酸エフロールニチン;エルサミトルシン(elsamitrucin);エンロプラチン;エンプロマート;エピプロピジン;塩酸エピルビシン;エルブロゾール(erbulozole);塩酸エソルビシン(esorubicin);エストラムスチン;リン酸ナトリウムエストラムスチン;エタニダゾール;エトポシド;リン酸エトポシド;エトプリン;塩酸ファドロゾール;ファザラビン;フェンレチニド;フロクスウリジン;リン酸フルダラビン;フルオロウラシル;フルロシタビン;ホスキドン ;ホストリエシンアトリウム;ゲムシタビン;塩酸ゲムシタビン;ヒドロキシウレア;塩酸イダルビシン;イホスファミド;イルモホシン;インターロイキンII(組換えインターロイキンIIまたはrIL2を含む)、インターフェロンα-2a;インターフェロンα-2b;インターフェロンα-n1;インターフェロンα-n3;インターフェロンβ-Ia;インターフェロンγ-Ib;イプロプラチン;塩酸イリノテカン;酢酸ランレオチド;レトロゾール;酢酸ロイプロリド;塩酸リアロゾール;ロメトレキソールナトリウム;ロムスチン;塩酸ロソキサントロン;マソプロコール;メイタンシン;メクロルエタミン、塩酸メクロルエタミンオキシド、塩酸メクロルエタミン;酢酸メゲストロール;酢酸メレンゲストロール;メルファラン;メノガリル;メルカプトプリン;メトトレキサート;メトトレキサートナトリウム;メトプリン(metoprine);メツレデパ;ミチンドミド;マイトカルシン(mitocarcin);マイトクロミン(mitocromin);マイトギリン(mitogillin);マイトマルシン(mitomalcin);マイトマイシン;マイトスパー(mitosper);ミトタン;塩酸ミトキサントロン;ミコフェノール酸;ノコダゾール;ノガラマイシン;オルマプラチン;オキシスラン;パクリタキセル;ペガスパルガーゼ;ペリオマイシン(peliomycin);ペンタムスチン(pentamustine);硫酸ペプロマイシン;ペルホスファミド;ピポブロマン;ピポスルファン;塩酸ピロキサントロン;プリカマイシン;プロメスタン;ポルフィマーナトリウム;ポルフィロマイシン;プレドニムスチン(prednimustine);塩酸プロカルバジン;ピューロマイシン;塩酸ピューロマイシン;ピラゾフリン;リボプリン;ログレチミド;サフィンゴール;塩酸サフィンゴール;セムスチン;シムトラゼン;スパルフォセートナトリウム;スパルソマイシン;塩酸スピロゲルマニウム;スピロムスチン;スピロプラチン;ストレプトニグリン;ストレプトゾシン;スロフェヌル;タリソマイシン(talisomycin);テコガランナトリウム;テガフル;塩酸テロキサントロン;テモポルフィン;テニポシド;テロキシロン;テストラクトン;チアミプリン(thiamiprine);チオグアニン;チオテパ;チアゾフリン;チラパザミン;クエン酸トレミフェン;酢酸トレストロン(trestolone acetate);リン酸トリシリビン;トリメトレキセート;グルクロン酸トリメトレキセート;トリプトレリン;塩酸ツブロゾール;ウラシルマスタード;ウレデパ;バプレオチド;ベルテポルフィン;硫酸ビンブラスチン;硫酸ビンクリスチン;ビンデシン;硫酸ビンデシン;硫酸ビネピジン(vinepidine sulfate);硫酸ビングリシネート(vinglycinate sulfate);硫酸ビンリューロシン(vinleurosine sulfate);酒石酸ビノレルビン;硫酸ビンロシジン(vinrosidine sulfate);硫酸ビンゾリジン(vinzolidine sulfate);ボロゾール;ゼニプラチン;ジノスタチン;塩酸ゾルビシン、インプロスルファン、ベンゾデパ、カルボコン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホルホルアミド、トリメチロロメラミン(trimethylolomelamine)、クロルナファジン、ノベムビチン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、トロホスファミド、エステルムスチン(estermustine)、クロロゾトシン、ジェムザール、ニムスチン、ラニムスチン、ダカルバジン、マンノムスチン、ミトブロニトール、アクラシノマイシン、アクチノマイシンF(1)、アザセリン、ブレオマイシン、カルビシン(carubicin)、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダウノルビシン、ダウノマイシン、6-ジアゾ-5-オキソ-1-ノルロイシン、ドキソルビシン、オリボマイシン、プリカマイシン、ポルフィロマイシン、ピューロマイシン、ツベルシジン、ゾルビシン、デノプテリン、プテロプテリン、6-メルカプトプリン、アンシタビン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、エノシタビン、パルモザイム、アセグラトン、アルドホスファミドグリコシド、ベストラブシル、デホファミド(defofamide)、デメコルチン、エルホルニチン(elfornithine)、酢酸エリプチニウム(elliptinium acetate)、エトグルシド、フルタミド、ヒドロキシウレア、レンチナン、フェナメト(phenamet)、ポドフィリン酸(podophyllinic acid)、2-エチルヒドラジド、ラゾキサン、スピロゲルマニウム、タモキシフェン、テヌアゾン酸、トリアジコン(triaziquone)、2,2',2''-トリクロロトリエチルアミン、ウレタン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシンおよび関連薬剤、20-エピ-1,25-ジヒドロキシビタミンD3;5-エチニルウラシル;アビラテロン;アクラルビシン;アシルフルベン;アデシペノール(adecypenol);アドゼレシン;アルデスロイキン;ALL-TKアンタゴニスト;アルトレタミン;アンバムスチン;アミドックス(amidox);アミフォスチン;アミノレブリン酸;アムルビシン;アムサクリン;アナグレリド;アナストロゾール;アンドログラフォリド;血管新生阻害剤;アンタゴニストD;アンタゴニストG;アンタレリクス;抗背方化形態形成タンパク質-1;抗アンドロゲン、前立腺癌;抗エストロゲン;アンチネオプラストン;アンチセンスオリゴヌクレオチド;グリシン酸アフィディコリン;アポトーシス遺伝子調整因子;アポトーシス調節因子;アプリン酸;ara-CDP-DL-PTBA;アルギニンデアミナーゼ;アスラクリン(asulacrine);アタメスタン;アトリムスチン;アキシナスタチン(axinastatin)1;アキシナスタチン2;アキシナスタチン3;アザセトロン;アザトキシン(azatoxin);アザチロシン;バッカチンIII誘導体;バラノール(balanol);バチマスタット;BCR/ABLアンタゴニスト;ベンゾクロリン(benzochlorin);ベンゾイルスタウロスポリン;βラクタム誘導体;β-アレチン(beta-alethine);ベタクラマイシン(betaclamycin)B;ベツリン酸;bFGF阻害剤;ビカルタミド;ビサントレン;ビスアジリジニルスペルミン;ビスナフィド;ビストラテン(bistratene)A;ビゼレシン;ブレフレート(breflate);ブロピリミン;ブドチタン;ブチオニンスルホキシミン;カルシポトリオール;カルホスチンC;カンプトテシン誘導体;カナリア痘IL-2;カペシタビン;カルボキサミド-アミノ-トリアゾール;カルボキシアミドトリアゾール;CaRest M3;CARN 700;軟骨由来阻害因子;カルゼレシン;カゼインキナーゼ阻害剤(ICOS);カスタノスペルミン;セクロピンB;セトロレリクス;クロリン類;クロロキノキサリンスルホンアミド;シカプロスト;シス-ポルフィリン;クラドリビン;クロミフェン類似体;クロトリマゾール;コリスマイシン(collismycin)A;コリスマイシンB;コンブレタスタチンA4;コンブレタスタチン類似体;コナゲニン;クランベシジン816;クリスナトール;クリプトフィシン(cryptophycin)8;クリプトフィシンA誘導体;キュラシンA;シクロペンタントラキノン類;シクロプラタム(cycloplatam);シペマイシン(cypemycin);シタラビンオクフォスファート;細胞溶解因子;サイトスタチン(cytostatin);ダクリキシマブ(dacliximab);デシタビン;デヒドロダイデムニンB;デスロレリン;デキサメタゾン;デクスイホスファミド;デクスラゾキサン;デクスバラパミル;ジアジコン;ダイデムニンB;ジドクス(didox);ジエチルノルスペルミン;ジヒドロ-5-アザシチジン;ジヒドロタキソール,9-;ジオキサマイシン(dioxamycin);ジフェニルスピロムスチン;ドセタキセル;ドコサノール;ドラセトロン;ドキシフルリジン;ドロロキシフェン;ドロナビノール;デュオカルマイシンSA;エブセレン;エコムスチン;エデルホシン;エドレコロマブ;エフロルニチン;エレメン;エミテフル;エピルビシン;エプリステリド;エストラムスチン類似体;エストロゲンアゴニスト;エストロゲンアンタゴニスト;エタニダゾール;リン酸エトポシド;エクセメスタン;ファドロゾール;ファザラビン;フェンレチニド;フィルグラスチム;フィナステリド;フラボピリドール;フレゼラスチン;フルアステロン(fluasterone);フルダラビン;塩酸フルオロダウノルニシン(fluorodaunorunicin hydrochloride);ホルフェニメクス;フォルメスタン;ホストリエシン;ホテムスチン;ガドリニウムテキサフィリン;硝酸ガリウム;ガロシタビン;ガニレリックス;ゼラチナーゼ阻害剤;ゲムシタビン;グルタチオン阻害剤;ヘプスルファム(hepsulfam);ヘレグリン;ヘキサメチレンビスアセトアミド;ヒペリシン;イバンドロン酸;イダルビシン;イドキシフェン;イドラマントン;イルモホシン;イロマスタット;イミダゾアクリドン類;イミキモド;免疫賦活ペプチド;インスリン様成長因子-1受容体阻害剤;インターフェロンアゴニスト;インターフェロン;インターロイキン;イオベングアン;ヨードドキソルビシン;イポメアノール,4-;イロプラクト(iroplact);イルソグラジン;イソベンガゾール(isobengazole);イソホモハリコンドリンB;イタセトロン;ジャスプラキノリド;カハラライドF;三塩酸ラメラリン-N;ランレオチド;レイナマイシン;レノグラスチム;硫酸レンチナン;レプトルスタチン(leptolstatin);レトロゾール;白血病阻害因子;白血球αインターフェロン;ロイプロリド+エストロゲン+プロゲステロン;リュープロレリン;レバミソール;リアロゾール;線状ポリアミン類似体;親油性二糖ペプチド;親油性白金化合物;リソクリナミド(lissoclinamide)7;ロバプラチン;ロンブリシン;ロメトレキソール;ロニダミン;ロソキサントロン;ロバスタチン;ロキソリビン;ラートテカン(lurtotecan);ルテチウムテキサフィリン;リソフィリン(lysofylline);溶解ペプチド;マイタンシン;マンノスタチンA;マリマスタット;マソプロコール;マスピン;マトリライシン阻害剤;マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤;メノガリル;メルバロン(merbarone);メテレリン;メチオニナーゼ;メトクロプラミド;MIF阻害剤;ミフェプリストン;ミルテホシン;ミリモスチム;ミスマッチ二本鎖RNA;ミトグアゾン;ミトラクトール;マイトマイシン類似体;ミトナフィド(mitonafide);ミトトキ
シン(mitotoxin)線維芽細胞成長因子-サポリン;ミトキサントロン;モファロテン;モルグラモスチム;モノクローナル抗体、ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン;モノホスホリル脂質A+マイコバクテリア細胞壁sk;モピダモール;多剤耐性遺伝子阻害剤;MTS(multiple tumor suppressor)1に基づく治療法;マスタード抗癌剤;マイカペルオキシド(mycaperoxide)B;マイコバクテリア細胞壁抽出物;ミリアポロン(myriaporone);N-アセチルジナリン(N-acetyldinaline);N置換ベンズアミド;ナファレリン;ナグレスチプ(nagrestip);ナロキソン+ペンタゾシン;ナパビン(napavin);ナフテルピン;ナルトグラスチム;ネダプラチン;ネモルビシン(nemorubicin);ネリドロン酸;中性エンドペプチダーゼ;ニルタミド;ニサマイシン(nisamycin);一酸化窒素調整因子;ニトロキシド抗酸化剤;ニトルリン(nitrullyn);O6-ベンジルグアニン;オクトレオチド;オキセノン(okicenone);オリゴヌクレオチド;オナプリストン;オンダンセトロン;オンダンセトロン;オラシン(oracin);経口サイトカイン誘導物質;オルマプラチン;オサテロン;オキサリプラチン;オキサウノマイシン(oxaunomycin);タキセル;タキセル類似体;タキセル誘導体;パラウアミン;パルミトイルリゾキシン;パミドロン酸;パナキシトリオール;パノミフェン;パラバクチン(parabactin);パゼリプチン;ペグアスパルガーゼ;ペルデシン;ペントサンポリ硫酸ナトリウム;ペントスタチン;ペントロゾール(pentrozole);ペルフルブロン;ペルホスファミド;ペリリルアルコール;フェナジノマイシン;フェニルアセテート;ホスファターゼ阻害剤;ピシバニール;塩酸ピロカルピン;ピラルビシン;ピリトレキシウム;プラセチン(placetin)A;プラセチンB;プラスミノゲン活性化因子阻害剤;白金錯体;白金化合物;白金-トリアミン錯体;ポルフィマーナトリウム;ポルフィロマイシン;プレドニゾン;プロピルビス-アクリドン;プロスタグランジンJ2;プロテアソーム阻害剤;プロテインAに基づく免疫調整因子;プロテインキナーゼC阻害剤;プロテインキナーゼC阻害剤,微細藻類;タンパク質チロシンホスファターゼ阻害剤;プリンヌクレオシドホスホリラーゼ阻害剤;プルプリン類;ピラゾロアクリジン;ピリドキシル化ヘモグロビンポリオキシエチレンコンジュゲート;rafアンタゴニスト;ラルチトレキセド;ラモセトロン;rasファルネシルプロテイントランスフェラーゼ阻害剤;ras阻害剤;ras-GAP阻害剤;レテリプチン,脱メチル化;エチドロン酸レニウムRe186;リゾキシン;リボザイム;RIIレチンアミド;ログレチミド;ロヒツカイン(rohitukine);ロムルチド;ロキシメクス;ルビギノン(rubiginone)B1;ルボキシル(ruboxyl);サフィンゴール;セイントピン(saintopin);SarCNU;サルコフィトールA;サルグラモスチム;Sdi1ミメティック;セムスチン;老化由来阻害因子(senescence derived inhibitor)1;センスオリゴヌクレオチド;シグナル伝達阻害剤;シグナル伝達調整剤;一本鎖抗原結合タンパク質;シゾフィラン;ソブゾキサン;ナトリウムボロカプテイト;フェニル酢酸ナトリウム;ソルベロール(solverol);ソマトメジン結合タンパク質;ソネルミン;スパルホス酸;スピカマイシンD;スピロムスチン;スプレノペンチン;スポンジスタチン1;スクアラミン;幹細胞阻害剤;幹細胞分裂阻害剤;スチピアミド(stipiamide);ストロメライシン阻害剤;スルフィノシン(sulfinosine);超活性血管作動性腸ペプチドアンタゴニスト;スラジスタ(suradista);スラミン;スワンソニン;合成グリコサミノグリカン;タリムスチン;タモキシフェンメチオジド;タウロムスチン;タザロテン;テコガランナトリウム;テガフール;テルラピリリウム;テロメラーゼ阻害剤;テモポルフィン;テモゾロミド;テニポシド;テトラクロロデカオキシド;テトラゾミン(tetrazomine);タリブラスチン(thaliblastine);チオコラリン;トロンボポエチン;トロンボポエチンミメティック;チマルファシン;チモポエチン受容体アゴニスト;チモトリナン;甲状腺刺激ホルモン;スズエチルエチオプルプリン(tin ethyl etiopurpurin);チラパザミン;二塩化チタノセン;トプセンチン(topsentin);トレミフェン;全能性幹細胞因子;翻訳阻害剤;トレチノイン;トリアセチルウリジン;トリシリビン;トリメトレキセート;トリプトレリン;トロピセトロン;ツロステリド;チロシンキナーゼ阻害剤;チルフォスチン類;UBC阻害剤;ウベニメクス;尿生殖洞由来成長阻害因子;ウロキナーゼ受容体アンタゴニスト;バプレオチド;バリオリンB;ベクターシステム,赤血球遺伝子治療;ベラレソール;ベラミン(veramine);ベルジン類;ベルテポルフィン;ビノレルビン;ビンキサルチン;ビタキシン;ボロゾール;ザノテロン(zanoterone);ゼニプラチン;ジラスコルブ;およびジノスタチンスチマラマー。好ましい追加抗癌薬は5-フルオロウラシルおよびロイコボリンである。さらなる癌治療薬には、リツキシマブ、トラスツズマブおよびセツキシマブなどのモノクローナル抗体がある。
【0177】
固形腫瘍を有する患者の処置における各活性成分の予防的または治療的用量の大きさは通例、その活性成分、腫瘍の重症度およびタイプ、ならびに投与経路によって変動するだろう。用量および投与頻度は、患者の年齢、体重、応答、および過去の病歴に応じて変動する場合があり、転移性再発の可能性も考慮しなければならない。当業者は、そのような因子を十分に考慮して、例えば文献に報告されPhysician's Desk Reference(登録商標)(第54版,2000)で推奨されている投薬量などに従うことによって、好適な投薬レジメンを容易に選択することができる。別段の表示がない限り、本発明の態様で使用される各医薬品の予防的用量または治療的用量の大きさは、安全かつ有効であることが当業者に公知であるもの、または規制当局に承認されているものになるだろう。
【0178】
本発明は、組換えポックスウイルス(組換えポックスウイルスを含む)および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物も提供する。
【0179】
実用上毒性副作用がない処置システムであることに加えて、本発明のシステムを使って送達される遺伝物質の作用は、容易にかつ注意深く監視し、調節することができる。豚痘などの好ましいポックスウイルスベクターは約2週間しか遺伝物質を発現させない。したがって有効な処置がこの時間枠内に得られるのであれば、そしてベクターシステムは自己制限的であるので、不必要な物質がこの期間後に産生されることはないだろう。追加の投薬が必要な場合は、注射を繰り返すことによって当該物質の追加投与を達成することができる。上述のように、一定の場合には、以後のベクターを使って、例えば第2、第3の抗原性または免疫賦活物質を追加することもできる。
【0180】
本明細書で引用する参考文献は参照によりその全文が本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0181】
実施例1:rV-MUC-1
rV-MUC-1は、ヒトMUC-1腫瘍抗原を発現させる生組換えワクシニアウイルスからなる。MUC-1は、乳癌、卵巣癌、および膵癌を含むいくつかの癌で過剰発現される。また、癌細胞におけるMUC-1の異常な糖鎖付加は、腫瘍由来MUC-1を、抗原的に正常MUC-1とは異なるものにしている。
【0182】
要約すると、rV-MUC-1ワクチンの作製に使用した親ウイルスは、認可されたDryvax(登録商標)天然痘ワクチンを製造するためにWyethが使用したウイルスの種ストックから得たプラーク単離物である。親ワクシニアウイルスDNAとMUC-1遺伝子を含有するプラスミドベクターとのインビボ相同組換えによってrV-MUC-1を構築した。プラスミドベクターは大腸菌lacZ遺伝子も保有し、この遺伝子はMUC-1遺伝子と同時に組換えゲノム中に挿入された。lacZ遺伝子がコードするβ-ガラクトシダーゼに関する発色アッセイを使って最終ワクチン候補を選択し、それをゲノム解析およびタンパク質発現解析によって検証した。次に、その組換えウイルスを使ってマスターウイルスストックを作製し、それをゲノム解析およびタンパク質発現解析によって特徴づけると共に、効力、無菌性、マイコプラズマ、および逆転写酵素活性について検査することによって特徴づけた。全ての検査結果が、ワクチン製造用組換えウイルスの同一性および安全性を裏付けた。
【0183】
インビボ組換えによる親ワクシニアウイルスゲノムへのMUC-1遺伝子の挿入に使用したプラスミドベクター(pT2137)を図1に図解する。このベクターは以下のエレメントを含有する:(1)細菌宿主におけるベクターの増幅を可能にするための原核生物複製起点、(2)本プラスミドを含有する原核宿主細胞の選択を可能にするための、抗生物質アンピシリンに対する耐性をコードする遺伝子、(3)ワクシニアゲノムのHindIIIJ領域に相同なDNA配列(これは相同組換えによるこの領域への外来配列の挿入を指示する)、(4)MUC-1遺伝子に連結されたワクシニア40K転写プロモーターを含むキメラ遺伝子、(5)大腸菌lacZ遺伝子に連結された鶏痘C1転写プロモーターを含む第2キメラ遺伝子。
【0184】
細菌複製起点およびアンピシリン耐性遺伝子を含むプラスミド骨格は、pUC8ポリリンカーおよびlacZ遺伝子を含有する442塩基対(bp)HaeII断片の欠失によって、プラスミドベクターpUC8から誘導された。追加クローニングが容易になるように、単一のHindIII部位を含有するリンカーを、このベクター中の固有のNdeI部位に挿入した。ワクシニアHindIIIJ配列および40Kプロモーターは、ワクシニアウイルスのWR株(Panicali et al.,1981)から調製したゲノムDNAから単離された。MUC-1およびlacZ遺伝子に隣接するHindIIIJ領域由来の配列は、40K-MUC-1配列の上流に508bp DraI-EcoRI断片を、またC1-lacZ遺伝子の下流に633bp EcoRI-DraI断片を含む。40KプロモーターエレメントはワクシニアウイルスのHindIIIH領域から161bp DraI-FnuDII断片として単離された(Rosel et al.,J. Virol. 60:436-49(1986))。C1プロモーターエレメントは鶏痘ウイルスから240bp Sau3AI断片として単離された(Jenkins et al.,1991)。大腸菌lacZ遺伝子は、pDP500から3100bp BamHI断片として単離された(Panicali et al.,1986)。
【0185】
MUC-1をコードする遺伝子は、Dana-Farber Cancer Instituteにおいて、ヒトMCF-7乳癌細胞株由来のRNAから誘導されたcDNAライブラリーより単離された(Siddiqui et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:2320-23(1989))。シグナル配列、6個の関連するが同一ではないタンデムリピート配列、および固有の3'コード配列からなる、この遺伝子の切断型を使用した。この遺伝子は、切断型コード配列、5'非翻訳領域の6ヌクレオチド、および3'非翻訳領域の298ヌクレオチドを含む1831bp断片上に含有されていた(Gendler et al.,J. Biol. Chem. 265:15286-93(1990))。
【0186】
プラスミドトランスファーベクターの構造を、HindIIIおよびXbaIを使った制限酵素消化によって検証した。さらに、これらの酵素による消化産物を、MUC-1遺伝子およびワクシニアHindIIIJ配列に対応する標識プローブを使ったサザンブロット解析にかけた。これらの方法によって可視化されたDNA断片は予想されるサイズを持ち、MUC-1遺伝子の存在が疑いの余地なく証明されたので、予想したプラスミドの構造が確認された。
【0187】
この組換えワクチンには親ウイルスとしてワクシニアのWyeth(New York City Board of Health)株からのプラーク精製単離物を使用した。プラスミドベクターとウイルスDNAとのインビボ組換えにより、図2に図解するように、40Kプロモーターの転写指示を受けるMUC-1遺伝子およびC1プロモーターの制御下にあるlacZ遺伝子によって、ワクシニアTK遺伝子配列が中断されている組換えウイルスの形成が起こった。
【0188】
β-ガラクトシダーゼに関する発色アッセイを使って、lacZ配列およびMUC-1配列を含有する組換えウイルスを同定し、単離した。この方法では、許容細胞単層で生育させた時にワクシニアウイルスが明瞭なプラークを形成できることを利用する。インビボ組換え後に、細胞を子孫ウイルスに明瞭なプラークが見えるようになるまで感染させ、その時点でプラークにβ-ガラクトシダーゼの発色性基質(Bluo-Gal(商標))を重層した。lacZを発現させるウイルスプラークは透明な背景に対して青色に見えた。陽性プラークを細胞単層から拾い、それらの子孫をさらに増殖させた。プラーク単離およびBluo-Galの存在下での再播種を繰り返すことによって所望の組換え体の精製が達成され、次にそれを増幅し、ゲノム解析およびタンパク質発現解析にかけた。
【0189】
rV-MUC-1組換えウイルスの作製に用いた宿主細胞株は、American Type Culture Collection(ATCC # CCL70)から入手したアフリカミドリザル腎臓細胞株CV-1である。マスター細胞バンクおよび作業細胞バンク(MCBおよびWCB)を樹立し、Points to Consider勧告に従って特徴づけた。全てのデータがワクチン製造用細胞株の安全性を裏付けた(BB-MF6587,Volume 1,p.40-49およびAmendement #2)。
【0190】
特定病原体非含有ニワトリから得た初代ニワトリ胚皮膚(CED)細胞の感染によってrV-MUC-1を製造した。CED細胞をローラーボトルに接種し、マスターウイルスストックに感染させた。感染期の終了時に、細胞を収集し、試料を中間検査のために取り出した。次に、ウイルスを放出させるために、細胞を凍結融解によって溶解した。細胞溶解物を低速遠心分離によって清澄化し、36%ショ糖クッションを通した遠心分離によってウイルスを精製した。精製ウイルス原体を−70℃以下の温度で力価を決定するまで保存した。次に、精製ウイルス原体を融解し、濃度を相応に調節した。製品は滅菌バイアル中に無菌的に搬送し、−70℃以下の温度で保存した。
【0191】
rV-MUC-1の中間検査および最終製品検査は、21 CFR Part 610およびPoints to Consider勧告に従って行なった。粗製製品原体を、細菌および真菌、マイコプラズマ、結核菌(M. tuberculosis)、および迷入ウイルスを含む様々な夾雑物の存在について分析した。迷入ウイルスに関するインビトロアッセイには、製品ワクシニアウイルスによる妨害を排除するために、試験材料の特殊な処理(希釈および中和)が必要だった。最終容器を無菌性、同一性(ゲノム解析およびタンパク質発現解析)、効力(ウイルス価測定)、一般安全性、外観、および純度について試験した。一般安全性検査は、ここでも製品ワクシニアウイルスによる妨害を排除するために、最終容器材料の1:10希釈液を使って行なった。さらなる製品の特徴づけには、最終製品中に存在する血清および細胞性DNAの定量、ならびにワクチン安定性の評価を含めた。
【0192】
rV-MUC-1の前臨床安全性検査には、離乳マウスにおける標準的頭蓋内LD50検査によって評価した神経毒性の評価を含めた。その結果、本製品は、認可されたDryvax天然痘ワクチンよりも神経毒性が低いことが示され、ヒト投与に関するこのワクチンの安全性が裏付けられた。
【0193】
実施例2:rV-CEA(6D)/TRICOM
rV-CEA(6D)/TRICOMは、改変型癌胎児性抗原(CEA)、白血球機能関連抗原-3(LFA-3)、細胞間接着分子-1(ICAM-1)、およびB7.1を同時発現させる生組換えワクシニアウイルスからなる。CEAは、ヒト結腸直腸癌、胃癌、膵癌、乳癌、および非小細胞肺癌で過剰発現される癌胎児性タンパク質である。LFA-3、ICAM-1、およびB7.1は抗原提示細胞に発現される共刺激分子であり、T細胞の効率のよい活性化に要求される。
【0194】
要約すると、このワクチンの作製に用いた親ウイルスは、認可されたDryvax(登録商標)天然痘ワクチンを製造するためにWyethが使用したウイルスの種ストックから得たプラーク単離物である。図4に示すように、rV-CEA(6D)/TRICOMは、親ワクシニアDNAと、CEA(6D)、LFA-3、ICAM-1、およびB7.1遺伝子を含有するプラスミドベクターpT8016(図3参照)とのインビボ相同組換えによって構築された。プラスミドベクターは大腸菌lacZ遺伝子も保有し、この遺伝子はCEA(6D)、LFA-3、ICAM-1、およびB7.1遺伝子と同時に組換えゲノム中に挿入された。lacZ遺伝子がコードするβ-ガラクトシダーゼに関する発色アッセイを使って最終ワクチン候補を選択し、それをゲノム解析およびタンパク質発現解析によって検証した。次に、その組換えウイルスを使ってマスターウイルスストックを作製し、それをゲノム解析およびタンパク質発現解析によって特徴づけると共に、効力、無菌性、マイコプラズマ、および逆転写酵素活性について検査することによって特徴づけた。全ての検査結果が、ワクチン製造用組換えウイルスの同一性および安全性を裏付けた。
【0195】
インビボ組換えによる親ワクシニアウイルスゲノムへのCEA(6D)、LFA-3、ICAM-1、およびB7.1遺伝子の挿入に使用したプラスミドベクター(pT8016)を図3に図解する。このベクターは以下のエレメントを含有する:(1)細菌宿主におけるベクターの増幅を可能にするための原核生物複製起点、(2)本プラスミドを含有する原核宿主細胞の選択を可能にするための、抗生物質アンピシリンに対する耐性をコードする遺伝子、(3)ワクシニアゲノムのHindIIIJ領域に相同なDNA配列(これは相同組換えによるこの領域への外来配列の挿入を指示する)、(4)CEA(6D)遺伝子に連結されたワクシニア40K転写プロモーターを含むキメラ遺伝子、(5)LFA-3遺伝子に連結されたワクシニア30K転写プロモーターを含む第2キメラ遺伝子、(6)ICAM-1遺伝子に連結されたワクシニアI3転写プロモーターを含む第3キメラ遺伝子、(7)B7.1遺伝子に連結されたsE/L転写プロモーターを含む第4キメラ遺伝子、(8)大腸菌lacZ遺伝子に連結された鶏痘C1転写プロモーターを含む第5キメラ遺伝子。
【0196】
細菌複製起点およびアンピシリン耐性遺伝子を含むpT8016のプラスミド骨格は、pUC8ポリリンカーおよびlacZ遺伝子を含有する442塩基対(bp)HaeII断片の欠失によって、プラスミドベクターpUC8から誘導された。追加クローニングが容易になるように、単一のHindIII部位を含有するリンカーを、このベクター中の固有のNdeI部位に挿入した。ワクシニアHindIIIJ配列およびワクシニアプロモーター配列は、ワクシニアWR株(Panicali et al.,J. Virol. 37:1000-10(1981))またはTBC-Wyから調製したゲノムDNAから単離された。CEA(6D)、LFA-3、ICAM-1、B7.1およびlacZ遺伝子に隣接するHindIIIJ領域由来の配列は、40K-CEA(6D)配列の上流に508bp DraI-EcoRI断片を、またC1-lacZ遺伝子の下流に633bp EcoRI-DraI断片を含む。40KプロモーターエレメントはワクシニアウイルスWR株のHindIIIH領域20から161bp DraI-FnuDII断片として単離された。30K(M2L)プロモーターエレメントは、ワクシニアゲノムのHindIIIM領域から415bp SalI-RsaI断片として単離された(Goebel et al.,Virology 179:247-66(1990))。I3プロモーターエレメントは、I3遺伝子の翻訳開始コドンのすぐ5'側にある201bp配列のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅によって単離された(Schmitt et al.,J. Virol. 62:1889-97)。sE/LプロモーターはpSC65の誘導体であるpJS-8から60bp HindIII-SalI断片として単離された(Chakrabarti et al.,BioTechniques 23:1094-97(1997))。C1プロモーターエレメントは鶏痘ウイルスから240bp Sau3AI断片として単離された(Jenkins et al.,AIDS Res. Hum. Retrovir. 7:991-9(1991))。大腸菌lacZ遺伝子は、pDP500から3100bp BamHI断片として単離された(Panicali et al.,Gene 47:193-9(1986))。
【0197】
CEA配列は、National Cancer Instituteで構築された結腸癌細胞cDNAライブラリーのヒトcDNAクローンから単離された(Kaufman et al.,Int. J. Cancer 48:900-7(1991))。次に、CEA遺伝子を、インビトロ突然変異導入により、1つの改変エピトープを含有する完全長タンパク質を発現させるように変化させた。この突然変異は、位置609(この場合、アミノ酸の番号付与はリーダー配列を含めて第1メチオニンから始める)にコードされるアミノ酸をアスパラギンからアスパラギン酸に変化させた。CEA(6D)と呼ばれるこの改変遺伝子は、CEAの免疫原性が増進するように設計された。CEA(6D)遺伝子は、CEAの全コード配列を含みかつ5'または3'非翻訳領域を含まない2109bp断片上に含有されていた。LFA-3をコードする遺伝子は、公表された配列を使ったヒト脾臓Quick-Clone cDNA(Clontech Inc.)のPCR増幅によって、National Cancer Instituteで単離された(Wallner et al.,J. Exp. Med. 166:923-32(1987))。この遺伝子は、LFA-3の全コード配列、5'非翻訳領域の2ヌクレオチド、および3'非翻訳領域の4ヌクレオチドを含む759bp断片上に含有されていた。ICAM-1をコードする遺伝子は、公表された配列を使って、健常男性由来のエプスタイン・バーウイルス形質転換B細胞株からのRNAから逆転写されたcDNAのPCR増幅により、National Cancer Instituteで単離された(Staunton et al.,Cell 52:925-33(1988))。この遺伝子は、ICAM-1の全コード配列、5'非翻訳領域の29ヌクレオチド、および3'非翻訳領域の93ヌクレオチドを含む1721bp断片上に含有されていた。B7.1をコードする遺伝子は、公表された配列を使って、ヒトRaji細胞株(ATCC番号CCL86)からのRNAに由来するcDNAのPCR増幅によって、National Cancer Instituteで単離された(Chen et al.,Cell 71:1093-1102(1992))。この遺伝子は、B7.1の全コード配列、5'非翻訳領域の22ヌクレオチド、および3'非翻訳領域の291ヌクレオチドを含む1180bp断片上に含有されていた。
【0198】
プラスミドトランスファーベクターの構造を、制限酵素消化によって検証した。さらに、消化産物を、CEA(6D)、LFA-3、ICAM-1、およびB7.1遺伝子に対応する標識プローブならびにワクシニアHindIIIJ配列に対応する標識プローブを使ったサザンブロット解析にかけた。これらの方法によって可視化されたDNA断片は予想されるサイズを持ち、CEA(6D)、LFA-3、ICAM-1、およびB7.1遺伝子の存在が疑いの余地なく証明されたので、予想したプラスミドの構造が確認された。
【0199】
この組換えワクチンには親ウイルスとしてワクシニアのWyeth(New York City Board of Health)株からのプラーク精製単離物を使用した。プラスミドベクターとウイルスDNAとのインビボ組換えにより、図4に図解するように、ワクシニア40Kプロモーターの転写制御下にあるCEA(6D)遺伝子、ワクシニア30Kプロモーターの転写制御下にあるLFA-3遺伝子、ワクシニアI3プロモーターの転写制御下にあるICAM-1遺伝子、sE/Lプロモーターの転写制御下にあるB7.1遺伝子、およびC1プロモーターの制御下にあるlacZ遺伝子によって、チミジンキナーゼ遺伝子が中断されている組換えウイルスの形成が起こった。
【0200】
lacZ、CEA(6D)、LFA-3、ICAM-1、およびB7.1配列を含有する組換えウイルスを同定し、単離するために、上記実施例1に記載の発色β-ガラクトシダーゼ法(Bluo-Gal(商標))を使用した。
【0201】
上記実施例1に詳述したようにrV-CEA(6D)/TRICOM組換えウイルスの作製に使用した宿主細胞株は、アフリカミドリザル腎臓細胞株CV-1である。
【0202】
実施例1に詳述したように、初代ニワトリ胚皮膚(CED)細胞を組換えウイルスに感染させることにより、中間および最終製品安全性検査を含めて、rV-CEA(6D)/TRICOMを製造した。
【0203】
実施例3:rF-CEA(6D)/TRICOM
rF-CEA(6D)/TRICOMは、改変型癌胎児性抗原(CEA)、白血球機能関連抗原-3(LFA-3)、細胞間接着分子-1(ICAM-1)、およびB7.1を同時発現させる生組換え鶏痘ウイルスからなる。CEAは、ヒト結腸直腸癌、胃癌、膵癌、乳癌、および非小細胞肺癌で過剰発現される癌胎児性タンパク質である。LFA-3、ICAM-1、およびB7.1は抗原提示細胞に発現される共刺激分子であり、T細胞の効率のよい活性化に要求される。
【0204】
要約すると、このワクチンの作製に用いた親ウイルスは、FPVの組織培養適合ワクチン株からプラーク精製された。rF-CEA(6D)/TRICOMは、親鶏痘DNAと、CEA(6D)、LFA-3、ICAM-1、およびB7.1遺伝子を含有するプラスミドベクターとのインビボ相同組換えによって構築された。プラスミドベクターは大腸菌lacZ遺伝子も保有し、この遺伝子はCEA(6D)、LFA-3、ICAM-1、およびB7.1遺伝子と同時に組換えゲノム中に挿入された。lacZ遺伝子がコードするβ-ガラクトシダーゼに関する発色アッセイを使って最終ワクチン候補を選択し、それをゲノム解析およびタンパク質発現解析によって検証した。次に、その組換えウイルスを使ってマスターウイルスストックを作製し、それをゲノム解析およびタンパク質発現解析によって特徴づけると共に、効力、無菌性、マイコプラズマ、および逆転写酵素活性について検査することによって特徴づけた。全ての検査結果が、ワクチン製造用組換えウイルスの同一性および安全性を裏付けた。
【0205】
組換え鶏痘ウイルスの作製は、鶏痘DNAと、挿入すべき異種配列を保有するプラスミドベクターとのインビボ相同組換えによって達成される。プラスミドは、それぞれがタンパク質コード配列に連結されたポックスウイルスプロモーターを含んでいる一つまたは複数のキメラ遺伝子を含有し、それに鶏痘ウイルスゲノムの非必須領域に由来するウイルス配列が隣接している。親鶏痘ウイルスに感染させた細胞にプラスミドをトランスフェクトすると、プラスミド上の鶏痘配列とウイルスゲノム中の対応するDNAとの組換えにより、プラスミド上のキメラ遺伝子の、ウイルスゲノムへの挿入が起こる。
【0206】
インビボ組換えによる親鶏痘ウイルスゲノムへのCEA(6D)、LFA-3、ICAM-1、およびB7.1遺伝子の挿入に使用したプラスミドベクター(pT2187)を図5に図解する。このベクターは以下のエレメントを含有する:(1)細菌宿主におけるベクターの増幅を可能にするための原核生物複製起点、(2)本プラスミドを含有する原核宿主細胞の選択を可能にするための、抗生物質アンピシリンに対する耐性をコードする遺伝子、(3)鶏痘ゲノムのBamHIJ領域に相同なDNA配列(これは相同組換えによるこの領域への外来配列の挿入を指示する)、(4)CEA(6D)遺伝子に連結されたワクシニア40K転写プロモーターを含むキメラ遺伝子、(5)LFA-3遺伝子に連結されたワクシニア30K転写プロモーターを含む第2キメラ遺伝子、(6)ICAM-1遺伝子に連結されたワクシニアI3転写プロモーターを含む第3キメラ遺伝子、(7)B7.1遺伝子に連結されたsE/L転写プロモーターを含む第4キメラ遺伝子、(8)大腸菌lacZ遺伝子に連結された鶏痘C1転写プロモーターを含む第5キメラ遺伝子。
【0207】
細菌複製起点およびアンピシリン耐性遺伝子を含むプラスミド骨格は、pUC8ポリリンカーおよびlacZ遺伝子を含有する442塩基対(bp)HaeII断片の欠失によって、プラスミドベクターpUC8から誘導された。追加クローニングが容易になるように、単一のBamHI部位を含有するリンカーを、このベクター中の固有のNdeI部位に挿入した。鶏痘BamHIJ配列(Jenkins et al.,1991)は、鶏痘ウイルスのPOXVAC-TCワクチン株(Schering Corporation)から調製したゲノムDNAから単離された。CEA(6D)、LFA-3、ICAM-1、B7.1およびlacZ遺伝子に隣接するBamHIJ領域由来の配列は、40K-CEA(6D)配列の上流に850bp BamHI-BglII断片を、またC1-lacZ遺伝子の下流に750bp BglII-XbaI断片を含む。40KプロモーターエレメントはワクシニアウイルスWR株(Panicali et al.,1981)のHindIIIH領域(Rosel et al.,1986)から161bp DraI-FnuDII断片として単離された。30K(M2L)プロモーターエレメントは、ワクシニアゲノムのHindIIIM領域から415bp SalI-RsaI断片として単離された(Goebel et al.,1990)。I3プロモーターエレメントは、I3遺伝子の翻訳開始コドンのすぐ5'側にある201bp配列のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅によって単離された(Schmitt et al.,J. Virol. 62:1889-97(1988))。sE/LプロモーターはpSC65の誘導体であるpJS-8から60bp HindIII-SalI断片として単離された(Chakrabarti et al.,1997)。C1プロモーターエレメントは鶏痘ウイルスから240bp Sau3AI断片として単離された(Jenkins et al.,1991)。大腸菌lacZ遺伝子は、pDP500から3100bp BamHI断片として単離された(Panicali et al.,1986)。
【0208】
CEA配列は、National Cancer Instituteで構築された結腸癌細胞cDNAライブラリーのヒトcDNAクローンから単離された(Kaufman et al.,1991)。次に、CEA遺伝子を、インビトロ突然変異導入により、1つの改変エピトープを含有する完全長タンパク質を発現させるように変化させた。この突然変異は、位置609(この場合、アミノ酸の番号付与はリーダー配列を含めて第1メチオニンから始める)にコードされるアミノ酸をアスパラギンからアスパラギン酸に変化させた。CEA(6D)と呼ばれるこの改変遺伝子は、CEAの免疫原性が増進するように設計された。CEA(6D)遺伝子は、CEAの全コード配列を含みかつ5'または3'非翻訳領域を含まない2109bp断片上に含有されていた。LFA-3をコードする遺伝子は、公表された配列を使ったヒト脾臓Quick-Clone cDNA(Clontech Inc.)のPCR増幅によって、National Cancer Instituteで単離された(Wallner et al.,1987)。この遺伝子は、LFA-3の全コード配列、5'非翻訳領域の2ヌクレオチド、および3'非翻訳領域の4ヌクレオチドを含む759bp断片上に含有されていた。ICAM-1をコードする遺伝子は、公表された配列を使って、健常男性由来のエプスタイン・バーウイルス形質転換B細胞株からのRNAから逆転写されたcDNAのPCR増幅により、National Cancer Instituteで単離された(Staunton et al.,1988)。この遺伝子は、ICAM-1の全コード配列、5'非翻訳領域の29ヌクレオチド、および3'非翻訳領域の93ヌクレオチドを含む1721bp断片上に含有されていた。B7.1をコードする遺伝子は、公表された配列を使って、ヒトRaji細胞株(ATCC番号CCL86)からのRNAに由来するcDNAのPCR増幅によって、National Cancer Instituteで単離された(Chen et al.,1992)。この遺伝子は、B7.1の全コード配列、5'非翻訳領域の22ヌクレオチド、および3'非翻訳領域の291ヌクレオチドを含む1180bp断片上に含有されていた。
【0209】
プラスミドトランスファーベクターの構造を、制限酵素消化によって検証した。さらに、消化産物を、CEA(6D)、LFA-3、ICAM-1、およびB7.1遺伝子に対応する標識プローブならびに鶏痘BamHIJ配列に対応する標識プローブを使ったサザンブロット解析にかけた。これらの方法によって可視化されたDNA断片は予想されるサイズを持ち、CEA(6D)、LFA-3、ICAM-1、およびB7.1遺伝子の存在が疑いの余地なく証明されたので、予想したプラスミドの構造が確認された。
【0210】
この組換えワクチンには親ウイルスとして鶏痘ウイルスのPOXVAC-TCワクチン株からのプラーク精製単離物を使用した。プラスミドベクターとウイルスDNAとのインビボ組換えにより、図6に図解するように、ワクシニア40Kプロモーターの転写制御下にあるCEA(6D)遺伝子、ワクシニア30Kプロモーターの転写制御下にあるLFA-3遺伝子、ワクシニアI3プロモーターの転写制御下にあるICAM-1遺伝子、sE/Lプロモーターの転写制御下にあるB7.1遺伝子、およびC1プロモーターの制御下にあるlacZ遺伝子が、鶏痘ウイルスゲノムのBamHI領域に挿入されている組換えウイルスの形成が起こった。
【0211】
lacZ、CEA(6D)、LFA-3、ICAM-1、およびB7.1配列を含有する組換えウイルスを同定し、単離するために、上記実施例1に記載の発色β-ガラクトシダーゼ法(Bluo-Gal(商標))を使用した。
【0212】
上記実施例1に詳述したようにrF-CEA(6D)/TRICOM組換えウイルスの作製に使用した宿主細胞株は、アフリカミドリザル腎臓細胞株CV-1である。
【0213】
実施例1に詳述したように、初代ニワトリ胚皮膚(CED)細胞を組換えウイルスに感染させることにより、中間および最終製品安全性検査を含めて、rF-CEA(6D)/TRICOMを製造した。
【0214】
実施例4:PANVAC(商標)-F
PANVAC-Fは、改変(ゆらぎ(wobbled))型MUC-1、すなわちwMUC-1(6)、改変(ゆらぎ)型癌胎児性抗原wCEA(6D)、白血球機能関連抗原-3(LFA-3)、細胞間接着分子-1(ICAM-1)、およびB7.1を同時発現させる生組換え鶏痘ウイルスからなる。PANVAC-Fに用いられるゆらぎ型MUC-1(wMUC-1(6)ともいう)のヌクレオチド配列を図7に配列番号:1として示し、wMUC-1(6)の対応するアミノ酸配列を図8に配列番号:2として示す。PANVAC-Fに用いられるゆらぎ型CEA(wCEA(6D)ともいう)のヌクレオチド配列を図9に配列番号:3として示し、wCEA(6D)の対応するアミノ酸配列を図10に配列番号:4として示す。
【0215】
組換え鶏痘ウイルスの作製は、鶏痘DNAと、挿入すべき異種配列を保有するプラスミドベクターとのインビボ相同組換えによって達成される。上述のように、プラスミドは、それぞれがタンパク質コード配列に連結されたポックスウイルスプロモーターを含んでいる一つまたは複数のキメラ遺伝子を含有し、それに鶏痘ウイルスゲノムの非必須領域に由来するウイルス配列が隣接している。親鶏痘ウイルスに感染させた細胞にプラスミドをトランスフェクトすると、プラスミド上の鶏痘配列とウイルスゲノム中の対応するDNAとの組換えにより、プラスミド上のキメラ遺伝子の、ウイルスゲノムへの挿入が起こる。
【0216】
PANVAC-F組換えワクチンの作製には、2つのプラスミドベクターを使用した。pT1154と呼ぶ第1のプラスミドは、鶏痘ウイルスゲノムのFP14領域への、wCEA(6D)コード配列およびwMUC-1(6)コード配列の挿入を指示する。pT8150と呼ぶ第2のプラスミドは、鶏痘ウイルスゲノムのBamHIJ領域への、LFA-3、ICAM-1、およびB7.1コード配列(全体としてTRICOMと呼ばれる)の挿入を指示する。wCEA(6D)遺伝子はワクシニア40Kプロモーターの転写制御下にある。wMUC-1(6)遺伝子は合成初期/後期(sE/L)プロモーターの転写制御下にある。LFA-3遺伝子はワクシニア30Kプロモーターの転写制御下にあり、ICAM-1遺伝子はワクシニアI3プロモーターの転写制御下にあり、そしてB7.1遺伝子は合成初期/後期(sE/L)プロモーターの転写制御下にある。さらにpT1154は、組換え子孫のスクリーンとして含まれるワクシニア40Kプロモーター制御下の大腸菌lacZ遺伝子を含有し、pT8150は、組換え子孫のスクリーニング用に、7.5プロモーターの制御下にあるGUS遺伝子を含有する。
【0217】
この組換えワクチンには親ウイルスとして鶏痘のPOXVAC-TCワクチン株からのプラーク精製単離物を使用した。プラスミドベクターとウイルスDNAとのインビボ組換えにより、図11に図解するように、pT1154由来の配列がFP14に挿入され、pT8150由来の配列がBamHIJ領域に挿入されている組換えウイルスの形成が起こった。
【0218】
PANVAC-Fは、膵臓の転移性(病期IV)腺癌を有する患者の処置に関する継続中の臨床試験で、PANVAC-Vと一緒に使用されている。この治験の結果および更なる説明は下記実施例11に記載する。
【0219】
実施例5:PANVAC(商標)-V
PANVAC-Vは、改変(ゆらぎ)型MUC-1、すなわちwMUC-1(6)、改変(ゆらぎ)型癌胎児性抗原wCEA(6D)、白血球機能関連抗原-3(LFA-3)、細胞間接着分子-1(ICAM-1)、およびB7.1を同時発現させる生組換えワクシニアウイルスからなる。PANVAC-Vに用いられるゆらぎ型MUC-1(wMUC-1(6)ともいう)のヌクレオチド配列を図7に配列番号:1として示す。PANVAC-Vに用いられるゆらぎ型CEA(wCEA(6D)ともいう)のヌクレオチド配列を図9に配列番号:3として示す。
【0220】
PANVAC-V組換えワクチンの作製には、所望の外来遺伝子を含有するが選択可能マーカーをコードする遺伝子を含有しない組換えウイルスの単離をもたらす新たに開発した手法を使用した。この手法では、ポックスウイルスゲノム内での重複配列の遺伝的不安定性が、重複配列の間に位置するヌクレオチド配列の欠失をもたらすことを利用する。この手法を使った場合、組換えウイルスは、最初は、関心対象の外来遺伝子と共に大腸菌lacZ遺伝子を含有する。これらの組換えウイルスは、lacZ遺伝子産物に関する比色スクリーニングを使って同定され、精製される。組換えウイルスのその後の増殖時に、lacZ遺伝子に隣接する重複配列間の相同組換えがこの遺伝子の欠失をもたらし、関心対象の遺伝子だけを含有する組換えウイルスが残される。
【0221】
この組換えワクチンには親ウイルスとしてTBC-vTRICOMと呼ばれるワクシニアのWyeth(New York City Board of Health)株の誘導株を使用した。TBC-vTRICOMと呼ぶこの親ウイルスは、ワクシニアゲノムのHindIIIF領域に挿入されたLFA-3、ICAM-1、およびB7.1コード配列を含有する。図14にTBC-vTRICOMの誘導過程を示す。まず、WyethワクチンがFlow Laboratoriesによってプラーク精製され、次にCV-1細胞で拡大することにより、TBC-Wyが作出された。次に、CV-1細胞を使ってプラスミドpT1068を挿入することにより、F13L(37K)が削除されて、TBC-Wy-Delta37が作出された。次に、プラスミドpT5132を使ってCED細胞でこのウイルスにLFA-3、ICAM-1、B7.1およびF13Lを挿入することにより、TBC-vTRICOMが作出された。
【0222】
TBC-vTRICOMウイルスゲノムのHindIIIJ領域への改変CEAおよびMUC-1コード配列の挿入を指示するpT1153と呼ばれるプラスミドベクターを使って、PANVAC-V組換えワクチンを作製した。wCEA(6D)と呼ぶ改変CEA遺伝子はワクシニア40Kプロモーターの転写制御下にあり、wMUC-1(6)と呼ぶ改変MUC-1遺伝子は合成初期/後期(sE/L)プロモーターの転写制御下にある。このプラスミドはチミジンキナーゼ(TK)遺伝子をコードするワクシニアHindIIIJ領域の一部も含有する。また、ワクシニア40Kプロモーターの制御下にある大腸菌lacZ遺伝子も、組換え子孫の一過性スクリーンとして含まれる。プラスミドベクターとウイルスDNAとの組換えは、図12に図解するように、ワクシニア40Kプロモーターの転写制御下にあるwCEA(6D)遺伝子、sE/Lプロモーターの転写制御下にあるwMUC-1(6)遺伝子、および40Kプロモーターの制御下にあるlacZ遺伝子がワクシニアウイルスゲノムのHindIIIJ領域に挿入されているワクシニアウイルスの形成をもたらした。
【0223】
一過性lacZ選択のためにlacZ遺伝子には反復配列が隣接している。この反復配列は上述の161bpワクシニア40Kプロモータ全体からなっている。
【0224】
CEA配列は、National Cancer Instituteで構築された結腸癌細胞cDNAライブラリーのヒトcDNAクローンから単離された(Kaufman et al.,Int. J. Cancer 48:900-7(1991))。次に、CEA遺伝子を、インビトロ突然変異導入により、1つの改変エピトープを含有する完全長タンパク質を発現させるように変化させた。この突然変異は、位置609(この場合、アミノ酸の番号付与はリーダー配列を含めて第1メチオニンから始める)にコードされるアミノ酸をアスパラギンからアスパラギン酸に変化させた。CEA(6D)と呼ばれるこの改変遺伝子は、CEAの免疫原性が増進するように設計された。
【0225】
TBC-vTRICOM親ワクシニアウイルスゲノムへの改変CEAおよびMUC-1コード配列の挿入に使用したプラスミドベクター(pT1153)を図13に図解する。このベクターは以下のエレメントを含有する:(1)細菌宿主におけるベクターの増幅を可能にするための原核生物複製起点、(2)本プラスミドを含有する原核宿主細胞の選択を可能にするための、抗生物質アンピシリンに対する耐性をコードする遺伝子、(3)ワクシニアゲノムのHindIIIJ領域に相同なDNA配列(これは相同組換えによるこの領域への外来配列の挿入を指示する)、(4)lacZ遺伝子に連結されたワクシニア40K転写プロモーターを含むキメラ遺伝子、(5)wCEA(6D)遺伝子に連結されたワクシニア40K転写プロモーターを含む第2キメラ遺伝子、(6)wMUC-1(6)遺伝子に連結されたsE/L転写プロモーターを含む第3キメラ遺伝子。
【0226】
細菌複製起点およびアンピシリン耐性遺伝子を含むpAG3と呼ばれるプラスミド骨格は、pUC8ポリリンカーおよびlacZ遺伝子を含有する442塩基対(bp)HaeII断片の欠失によって、プラスミドベクターpUC8(Vieira,Gene 19:259-268(1982))から誘導された。追加クローニングが容易になるように、単一のHindIII部位を含有するリンカーを、このベクター中の固有のNdeI部位に挿入した。ワクシニアHindIIIJ配列およびワクシニアプロモーター配列は、ワクシニアWR株(Panicali,J. Virol. 37:1000-1010(1981))またはTBC-Wyから調製したゲノムDNAから単離された。lacZ、CEAおよびMUC-1遺伝子に隣接するHindIIIJ領域由来の配列は、40K-lacZ配列の上流に508bp DraI-EcoRI断片を、またsE/L-MUC-1配列の下流に633bp EcoRI-DraI断片を含む。40KプロモーターエレメントはワクシニアウイルスHindIIIH領域(Rosel,60:436-449(1986))から161bp DraI-FnuDII断片として単離された。sE/LプロモーターはpSC65の誘導体であるpJS-8から60bp HindIII-SalI断片として単離された(Chakrabarti ,BioTechniques 23:1094-1097(1997))。大腸菌lacZ遺伝子は、pDP500から3100bp BamHI断片として単離された(Panicali,47:193-199(1986))。
【0227】
上記実施例1で述べたように、β-ガラクトシダーゼに関する発色アッセイを使って、lacZ配列、CEAおよびMUC-1配列を含有する組換えウイルスを同定し、単離した。
【0228】
挿入された大腸菌lacZ遺伝子には重複したポックスウイルス配列が隣接していた。これらの配列間での分子内組換えにより、lacZ遺伝子の欠失が起こった。lacZ遺伝子が欠失している組換えウイルスは無色のプラークを生じたので、これを選択し、プラーク精製した。最終精製組換えポックスウイルスはCEA、MUC-1、LFA-3、ICAM-1およびB7.1タンパク質をコードする所望の遺伝子だけを含有し、マーカー(lacZ)遺伝子は含有していなかった。陽性組換え体をCED細胞で増幅することにより、種ストックを作った。次に、その種ストックを力価測定、無菌性検査、ならびにゲノム解析およびタンパク質発現解析にかけた。
【0229】
実施例6:Pan1-1
第I相試験では、切除不能膵癌を有する患者に、最小限の毒性で妥当な免疫応答および臨床応答を生じることが先の研究から予想される用量で、rV-CEA(6D)/TRICOM(商標)(上記実施例2参照)とrV-MUC-1(上記実施例1参照)の混合物を投与し、次にrF-CEA(6D)/TRICOM(上記実施例3参照)を投与した。したがって第1相試験では、1×108pfu rV-MUC-1と混合した1×108pfu rV-CEA(6D)/TRICOM(商標)の「プライム」用量を、皮下(SC)送達した後、2週間後に、1×109pfu rF-CEA(6D)/TRICOM(商標)の「ブースト」用量を、SC投与した。SC投与による1×109pfu rF-CEA(6D)/TRICOM(商標)の「ブースト」を、「ブースト」回数が合計3回になるように、2週間おきに繰り返した。各免疫化時点およびその後3日間連続して、組換えヒトサグラモスチム(sagramostim)(100μg)をワクチン注射部位にアジュバントとしてSC投与した。各ワクチン接種外来時および最終「ブースト」の4週間後に、検診ならびに検査室データおよび有害事象情報の収集について患者を調べた。
【0230】
Pan1-1第I相試験の結果を下記実施例11に記載する。
【0231】
実施例7:他のワクチン
実施例1〜6に記載した手法を使って、一連のワクチンベクターを作製することができる。鶏痘ベクター中およびMVAベクターを含むワクシニアベクター中の好ましい挿入部位は上述した。好ましい鶏痘挿入部位は43K、FP14および長い固有配列(Long Unique Sequence:LUS)である。好ましいワクシニア挿入部位はMVA44/45、MVA49/50およびMVA124/125である。
【0232】
例えば、CEA抗原が除かれるように実施例2のワクシニアベクター(rV-CEA(6D)/TRICOM)を改変して、rV-TRICOMを作製することができる。これはネズミ配列(すなわちrV-TRICOM-murine)またはヒト配列(すなわちrV-TRICOM-human)を含むことができる。同様に、もう一つの例において、CEA抗原が除かれるように実施例3のワクチンベクター(rF-CEA(6D)/TRICOM)を改変して、ヒト配列またはネズミ配列であることができるrF-TRICOMを作製することができる。
【0233】
もう一つの例において、実施例4のベクター(PANVAC-F)はヒト配列だけでなくネズミ配列を使って作製することもできる。PANVAC抗原、wMUC-1(6)、wCEA(6D)、LFA-3、ICAM-1、およびB7.1を、MVAベクターの部位MVA44/45、MVA49/50、およびMVA124/125に含めることもできる。
【0234】
例えば、rF-MUC-1と呼ばれる組換え鶏痘ウイルスは、40Kプロモーターの制御下にある上述のヒトMUC-1遺伝子またはヒトMUC-1の一つまたは複数の反復領域をコードする核酸(配列番号:1)を含有し、既に記載されている(Grosenbach,D.W.,Barrientos,J.C.,Schlom,J.およびHodge,J.W.,Cancer Res 61,4497-505,2001)。ヒトMUC-1をコードする核酸およびネズミB7-1、ICAM-1、およびLFA-3遺伝子を含有する組換え鶏痘ウイルスは、rF-MUC-1-TRICOMと呼ばれ、CEA抗原の代わりにMUC-1抗原を有する点以外はGrosenbachらが記載したベクターと同じである(Grosenbach,D.W.,Barrientos,J.C.,Schlom,J.およびHodge,J.W.,Cancer Res 61,4497-505,2001)。rF-OX40Lとよばれる組換え鶏痘ウイルスは、40Kプロモーターの制御下にあるネズミOX40L遺伝子を、rF-CEAゲノムのFP14部位に挿入することによって作製された。OX40L cDNAは、抗CD40/抗IgM活性化ネズミB細胞から、オープンリーディングフレームの5'末端

および3'末端

に特異的なプライマーを使用して、RT-PCRによって増幅された。cDNAをポックスウイルストランスファーベクターにクローニングした。配列解析により、クローニング工程で突然変異は導入されていないことを確認した。rF-MUC-1-TRICOM/OX40Lと呼ばれる組換え鶏痘ウイルスは、40Kプロモーターの制御下にあるネズミOX40L遺伝子を、rF-TRICOMゲノムのFP14部位に挿入することによって作製された。OX40Lを発現させる組換え鶏痘ウイルスはどちらも、以前記載された方法によって作製された((Gritz,L.,Destree,A.,Cormier,N.,Day,E.,Stallard,V.,Caiazzo,T.,Mazzara,G.およびPanicali,D.,J Virol 64,5948-57,1990)。これらのウイルスはヒトMUC-1遺伝子および細菌β-ガラクトシダーゼ遺伝子も発現させる。
【0235】
rF-CEAと呼ばれる組換え鶏痘ウイルスは、40Kプロモーターの制御下にヒトCEA遺伝子をコードする核酸または配列番号:2に示すその任意の抗原性反復を含有し、既に記載されている(Grosenbach,D.W.,Barrientos,J.C.,Schlom,J.およびHodge,J.W.,Cancer Res 61,4497-505,2001)。ヒトCEA遺伝子およびネズミB7-1、ICAM-1、およびLFA-3遺伝子を含有する組換え鶏痘ウイルスは、この研究ではrF-TRICOMと呼び、既に記載されている(同上)。rF-OX40Lと呼ばれる組換え鶏痘ウイルスは上述のように作製された。rF-CEA-TRICOM/OX40Lと呼ばれる組換え鶏痘ウイルスは、40Kプロモーターの制御下にあるネズミOX40L遺伝子を、rF-TRICOMゲノムのFP14部位に挿入することによって作製された。OX40Lを発現させる組換え鶏痘ウイルスはどちらも以前記載された方法によって作製された(Gritz,L.,Destree,A.,Cormier,N.,Day,E.,Stallard,V.,Caiazzo,T.,Mazzara,G.およびPanicali,D.,J Virol 64,5948-57,1990)。これらのウイルスはヒトCEA遺伝子および細菌β-ガラクトシダーゼ遺伝子も発現させる。
【0236】
実施例8:組換えポックスウイルスが発現させるTAAに対するネズミモデルにおける免疫応答
CEAまたはMUC-1を発現させる組換えポックスウイルスに対する免疫応答を評価するために、これらの抗原を単独で発現させる組換えウイルスで、またはこれらの抗原をB7.1のネズミホモログもしくはネズミTRICOMを含む3つの共刺激分子(それぞれmuB7.1、muTRICOM(商標))と合わせて発現させる組換えウイルスで、マウスを免疫化した。これらの研究でネズミ共刺激分子を使用することにより、T細胞応答の発達における共刺激の効果を評価することができた。
【0237】
ある実験では、ワクシニアが発現させるMUC-1によって惹起される免疫応答に対するmuB7.1の効果を評価した。1つのC57BL/6マウス群にrV-MUC-1と非組換えワクシニアウイルスとの混合物(107pfuの各ウイルス)を、0日目、14日目、および28日目にワクチン接種した。第2のマウス群には、rV-MUC-1とrV-muB7.1との混合物(107pfuの各ウイルス)を、0日目にワクチン接種した後、rV-MUC-1と非組換えワクシニアウイルスとの混合物(107pfuの各ウイルス)を、14日目および28日目にワクチン接種した。35日目にマウスを安楽死させ、細胞傷害性T細胞活性を標準的インジウム遊離アッセイで評価した。MUC-1特異的CTLはどちらの群にも検出されたが、特異的溶解百分率は、rV-MUC-1/rV-muB7.1混合物を与えたマウスの方が約1.5倍高かった(Akagi et al.,J. Immunother. 20:38-47(1997))。
【0238】
もう一つの実験では、ワクシニアが発現させたCEAによって惹起される免疫応答に対するmuB7.1の効果とmuTRICOM(商標)の効果を比較した。この研究では、ヒトでの組織分布に似た組織分布でヒトCEAを発現させるC57BL/6 CEAトランスジェニックマウスに、3つの免疫原のうちの1つをワクチン接種した:(1)rV-CEA、(2)rV-muB7.1と混合したrV-CEA、または(3)rV-CEA/muTRICOM。動物を22日目に屠殺し、CEA特異的リンパ増殖応答を測定した。rV-CEA/muTRICOM(商標)で免疫化したマウスの応答は、rV-CEA+rV-muB7.1をワクチン接種したマウスより2倍強く、rV-CEAだけをワクチン接種したマウスより4倍強かった。ポックスウイルスが発現させたCEAに対するマウスにおける免疫応答は、いくつかの他の研究でも評価されている(Hodge et al.,J. Natl. Cancer Inst. 92:1228-39(2000)、Hodge et al.,Cancer Research 59:5800-07(1999))。
【0239】
実施例9:共刺激分子を発現させるワクチンの、マウスモデルにおける抗腫瘍活性
ネズミモデルでは、癌ワクチンによって惹起される免疫応答の測定だけでなく、これらのワクチンによって刺激される予防的または治療的抗腫瘍効果の評価も行なうことができる。例えば、ポックスウイルスに基づくワクチンの、腫瘍チャレンジに対する防御能力を評価するために、マウスを尾乱切法によりrV-CEAおよびrV-muB7.1の混合物で免疫化した。CEAを発現させるMC-38細胞を免疫化マウスにチャレンジした場合、腫瘍は定着することができなかった。これは、免疫化が腫瘍チャレンジに対する防御を生じさせたことを示している。この防御は対応するCEA特異的T細胞応答を伴った(Hodge et al.,Cancer Res 55:3598-3603(1995))。CEAとmuB7.1の両方を発現させる単一の組換えワクシニアウイルスでマウスを免疫化した後にも、同様の結果が報告された(Kalus,1999)。次に、混合物(rV-CEA+rV-muB7.1)が、腫瘍防御モデルで、二重遺伝子構築物(rV-CEA/muB7.1)と比較された。混合物と単一組換え体はどちらも抗腫瘍応答を惹起したが、単一組換え体を使って得られるものに匹敵する免疫応答を得るには、混合ウイルスの方が高用量を必要とした。
【0240】
muB7.1を使った防御の成功は、共刺激分子の組合せを評価する研究につながった。もう一つの腫瘍チャレンジ実験では、C57BL/6マウスに、rV-CEAまたはrV-CEA/muTRICOM(商標)をSCにワクチン接種した後、100日後にCEAを発現させるMC-38大腸癌細胞をチャレンジした。rV-CEAをワクチン接種したマウスは全て腫瘍に屈したが、rV-CEA/muTRICOM(商標)をワクチン接種したマウスは全て腫瘍チャレンジに耐えて生き残った。rV-CEA/muTRICOMをワクチン接種した動物ではT細胞応答も有意に高かった(Hodge et al.,Cancer Research 59:5800-07(1999))。
【0241】
以前に記述された腫瘍防御研究において、CEAは、ネズミ腫瘍細胞株上に発現したものではあるものの、ワクチン接種を受けたマウスにおいては外来抗原に相当した。CEAが「自己」抗原に相当するような状況でも同様の抗腫瘍応答が惹起され得るかどうかを決定するために、CEAトランスジェニックマウスを使って腫瘍免疫療法研究が行なわれた。ある実験では、CEAを発現させるMC-38細胞をまず動物に接種した後、4日後に、rV-CEA、rV-CEA/muB7.1、またはrV-CEA/muTRICOM(商標)で免疫化した。rV-CEA/muTRICOM(商標)を与えたマウスだけが無腫瘍状態を保った。これらのマウスは高いCEA特異的T細胞応答も持っていた(Hodge et al.,Cancer Research 59:5800-07(1999))。
【0242】
より厳密な免疫療法モデルでは、定着したCEA陽性肝癌転移巣を有するCEAトランスジェニックマウスが、4週間にわたって、rV-muCEA/TRICOM(商標)+ネズミGM-CSFおよびIL-2による週1回のワクチン接種を受けた。処置された16匹のマウスのうち、9匹(56%)は25週間生き残った。対照的に、対照群(非組換えワクシニア+サイトカイン類を与えたもの)では、16週間で19匹中1匹(5%)しか生き残らなかった(Grosenbach, 2001)。
【0243】
実施例10:ネズミモデルにおける抗原提示細胞でのTRICOM(商標)発現
樹状細胞(DC)はCD4+Tリンパ球の活性化にもCD8+Tリンパ球の活性化にも重要な関与をする。T細胞活性化の度合いは、少なくとも部分的には、DC上の一定の共刺激分子の発現レベルに関係しているようである。rV-muTRICOMまたはrF-muTRICOM(商標)に感染させたネズミDCは、ナイーブT細胞、同種異系T細胞、およびペプチド特異的T細胞の増殖をインビトロで有意に増進させることが示された。さらに、rV-またはrF-muTRICOM(商標)に感染させたペプチドパルスDCは、対応する非感染ペプチドパルスDCよりも高いCTL活性をインビボで誘導した(Hodge et al.,J Natl Cancer Inst. 92:1228-1239(2000))。
【0244】
ヒトDCを使った場合も同様の結果が得られている。ヒトDCの起源および成熟段階は、これらの細胞が示す共刺激分子のレベルに影響する。Zhuとその共同研究者は、rF-TRICOM(商標)による感染の数時間後に、ヒトDCが、3つの共刺激分子全てを効率よく過剰発現させることを実証している(Zhu,2001)。また、rF-muTRICOM(商標)に感染させたペプチドパルス自家DCは、24時間インキュベートした後のインターフェロン-γ産生量で測定すると、インビトロでのT細胞の活性化に関して、非感染ペプチドパルスDCよりも強力だった。これらの結果は、強いウイルス抗原および弱いウイルス抗原の両方からのペプチドならびに自己腫瘍関連抗原(CEAおよびPSA)からのペプチドを使って得られた。増進したT細胞活性化は、T細胞アポトーシスの増加を伴わなかった。
【0245】
骨髄前駆細胞(BMPC)などの他の抗原提示細胞(APC)の効力も、TRICOM(商標)を発現させるポックスウイルスベクターを使って増加させることができる(Rad,2001)。rV-またはrF-muTRICOM(商標)に感染したネズミBMPCは、ナイーブならびにエフェクターCD4+およびCD8+T細胞集団両方の活性化を、有意に増進した。ジェネリックなAPC集団ネズミ脾細胞は、TRICOM(商標)ベクターのどちらかに感染させることにより、より効率よく抗原提示するようにすることもできた(Hodge et al.,Vaccine 19:3552-3567(2001))。感染した脾細胞は、ナイーブT細胞を活性化するのに必要なコンカナバリンA(シグナル1として作用)が少なかった。さらにまた、一定量のコンカナバリンAをアッセイに使用した場合、感染細胞の方がT細胞の活性化に必要な量が少なかった。TRICOM(商標)感染脾細胞は、非感染脾細胞よりも強い抗原特異的T細胞活性化を誘導し、インターフェロン-γ産生量によって測定すると、そのレベルは非感染DCによって達成されるレベルに迫るレベルだった。
【0246】
実施例11:臨床試験データ
膵腫瘍細胞の90%以上に見いだされる2つのタンパク質(または抗原)、すなわち癌胎児性抗原(CEA)およびムチン-1(MUC-1)を発現させる癌細胞を標的とし、破壊するための免疫系を刺激するために、PANVAC-VFを設計した。Therionのワクチンは、ワクシニアをプライミングベクターとして使用した後、鶏痘ベクターによる逐次的投与を行なうことにより、「プライム-ブースト」方式で、皮下注射によって投与された。これらのワクチンには、腫瘍細胞に対する標的免疫応答を増進し持続させることを意図したTRICOMも組み込まれている。
【0247】
それぞれに安全性を主目的としてPAN1-1およびTBC-PAN-002という2つのオープンラベル第I相臨床試験が行なわれた。要約すると、この試験には、進行(病期IIIまたはIV)膵癌を有する合計22人の患者が登録され、そのうちの20人は転移性疾患(病期IV)を持っていた。全ての患者は事前に化学療法を受けていた。他の化学療法剤が関係する複数の第III相試験の再検討に基づいて、この患者集団の予想生存期間中央値は約3ヶ月である。
【0248】
PAN1-1
PAN1-1は、膵臓の腺癌を有する患者の処置における、rV-MUC-1と混合されたrV-CEA(6D)/TRICOM、続いてサグラモスチムと組み合わされたrF-CEA(6D)/TRICOMの安全性および認容性を評価するためのオープンラベル試験だった。試験集団には、組織学的に確認された膵臓の腺癌を持ち、その疾患は研究者の意見によると切除不能であり、かつECOGパフォーマンスステータスが2以下である、18歳以上の患者が含まれた。
【0249】
患者には、1×108pfu rV-MUC-1と混合された1×108pfu rV-CEA(6D)/TRICOMのプライミング用量が、0日目にSC投与され、続いて14日目、28日目、および42日目に、1×109pfu rF-CEA(6D)/TRICOMのブースティング用量がSC投与された。各ワクチン投与日およびその後の連続3日間、注射部位にサグラモスチム(100μg)がSC投与された。研究者の判断で、患者は、70日目以降の延長処置期間に入って継続することが許された。3人の患者が延長期間に入った。試験は、最後の患者の中止後、2003年12月11日に完了した。
【0250】
この試験の過程で評価された安全性パラメータには、病歴、バイタルサイン、検診、検体検査(血液検査、化学検査、および尿検査)、ECG、ECOGパーフォーマンスステータスならびに併用薬の記述が含まれた。
【0251】
12人の患者がこの試験に登録され、プライミングワクチン接種を受けた。これら12人のうち2人は、毒性以外の理由で早期に試験を中止した患者の代替者だった。9人の患者がプロトコールどおりの処置の全課程(プライミング注射1回およびブースティング注射3回)を完了した。5人の患者は最終追跡外来(70日目:最後の投与の28日後)を完了した。したがって、最初に計画した40回のワクチン接種(患者10人;それぞれ4回)のうち、42回のワクチン接種がこの試験に登録された12人の患者に投与された。これらの患者のうち3人は延長期間に入って、さらに5ヶ月間にわたって月1回のワクチン接種を受けた。したがって、延長期間に登録された3人の患者については、それぞれ約7ヶ月間にわたって合計9回のワクチン接種を受けた(基本期間+延長期間)。
【0252】
利用できるデータによれば、サグラモスチムと組み合わせたrV-CEA(6D)/TRICOM、rV-MUC-1、およびrF-CEA(6D)/TRICOMは、認容性が高かった。用量制限毒性(DLT)または処置レジメンが原因として関係している重篤な有害事象はなく、DLT、接種関連事象、または他の処置関連有害事象が理由で中止した患者はなかった。処置レジメンが原因と関係している有害反応は、局所皮膚注射部位反応に関係するグレード1および2の事象、ならびに疲労、悪寒および発熱の全身事象に限定された。
【0253】
上述のように、70日間の基本処置期間の終了時に、3人の患者は延長試験期間に入った。これら3人の患者はrF-CEA(6D)/TRICOMのブーストをさらに5回受けた後、疾患が進行したために試験を中止した。試験中の患者はもういない。延長期間である5ヶ月間の間に、3人の患者には、ワクチンに関係する可能性があるまたはワクチンに明確に関係する21のAEが報告された。ワクチン[rF-CEA(6D)/TRICOM]に関係するAEは全てグレード1の重篤度だった。最も一般的なAEは月1回のブースト後に起こる注射部位のグレード1紅斑だった。これらのデータは、少数の患者においてではあるが、鶏痘に基づくワクチンによる月1回の継続的ブーストが6ヶ月以上にわたって十分な認容性であったことを示唆している。
【0254】
試験PAN1-1に登録された患者は全員、生存期間データを得るための追跡が続けられている。試験PAN1-1に登録された試験12人の患者のうち8人は死亡した。全生存期間(OS)中央値は7.9ヶ月である。注目すべきことに、これらの患者は全員、ベースライン時に転移性疾患を持っており、全員が一次化学療法に失敗している。歴史的対照データによれば、この患者集団における予想OS中央値は3〜4ヶ月である(Heinemann,Semin Oncol. 2002 Dec;29(6 Suppl 20):9-16)。標本の大きさが小さく、歴史的対照データとの比較による解析に限界はあるが、これらのデータは期待を持てるものである。
【0255】
TBC-PAN-002
臨床試験プロトコールTBC-PAN-002は、膵臓の腺癌を有する患者の処置における、サグラモスチムと組み合わされたPANVAC-VFの安全性および認容性を評価するための第I相オープンラベル試験だった。試験集団には、組織学的に確認された膵臓の腺癌を持ち、その疾患は研究者の意見によると切除不能であり、かつカルノフスキーのパフォーマンスステータスが80以上である、18歳以上の患者が含まれる。試験患者は、事前にワクシニア(天然痘免疫化)も受けていなければならず、少なくとも4ヶ月は生存すると予想されなければならない。
【0256】
TBC-PAN-002では、患者に2×108pfu PANVAC-Vの「プライム」用量が0日目にSC投与され、続いて14日目、28日目、および42日目に、1×109pfu PANVAC-Fの「ブースト」用量が、SC投与された。各ワクチン投与日およびその後の連続3日間、注射部位にサグラモスチム(100μg)がSC投与された。
【0257】
70日目以降は、研究者の判断で、臨床的に安定している患者が、継続ワクチン接種の延長期間に入ることが許された。延長期間中の患者は、疾患が進行したと研究者が決定するまで、サグラモスチムと共に1×109pfuのPANVAC-Fの月1回のブーストを、毎月投与された。延長期間中は、安全性データの収集が続けられるだろう。
【0258】
この試験の過程で評価された安全性パラメータには、病歴、バイタルサイン、検診、検体検査(血液検査、化学検査、および尿検査)、ならびに併用薬が含まれた。安全性は、これらのパラメータを検討し、ベースライン時と14日目、28日目、42日目および70日目の間に起こる試験治療下に発現した有害事象を要約することによって評価する。加えて、ECG測定値をベースライン時、28日目、および70日目に収集し、カルノフスキーのパフォーマンスステータスの評価をベースライン時、28日目および70日目に決定した。ベースライン時から臨床的に有意な変化であると評価されなかった範囲外検体検査結果または他の事象は、有害事象として報告しない。
【0259】
これらのワクチンに関係するAEで最も一般的なもの(43%)はワクチン投与部位での注射部位反応だった。これらのAEは全てグレード1であり、紅斑、腫脹、心因性そう痒、水疱、硬結、および疼痛が含まれる。注目すべきことに、10回のワクシニアウイルス(PANVAC-V)投与のうち、グレード1のAE(水疱、紅斑、および心因性掻痒)は3回だった。注目すべきことに、この試験におけるワクチン接種は全て皮下投与だった(今後行なわれるPANVAC-VFの試験においてもそうだろう)。これらのデータは、本ワクチンの皮下投与に関係するAEプロファイルが、乱切による皮内投与後のAEプロファイルよりも有意に良性であることを実証している。ワクシニアの皮下投与は古典的には小水疱、膿疱、および瘢痕の形成と関連づけられており、これらは全て感染性ウイルスを含有し得る。したがって、本研究では注射部位を培養しなかったが、PANVAC-Vワクチン接種後のAEプロファイルは、PANVAC-Vがワクチン接種後の患者から排出されないであろうことを示唆している。PANVAC-Fの投与にはより一般的に注射部位反応が付随した。10人の患者に投与された28回のPANVAC-Fワクチン接種のうち、20回にはAEが付随し、これら20回のうちの15回(75%)はグレード1の紅斑に限定された。
【0260】
ワクチンに関係するAEの大半(74中63;85%)はグレード1の重篤度だった。グレード2のワクチン関連AEは10(疲労5、頭痛3、嘔吐1、悪心1)あった。グレード3の発熱が1つあり、これは用量制限毒性だった(下記参照)。注射部位反応後は、最も一般的なAEは疲労、食欲不振、悪心、嘔吐、発熱、頭痛、および筋肉痛だった。これらのAEのいくつかはワクチン関連症候群を反映している可能性がある。
【0261】
5人の患者において23の重篤有害事象(SAE)が報告された。SAEは全て、研究者によりワクチンとは無関係であると分類された。これらの事象のうちの3つ(肝機能障害/肝不全、膵癌疾患進行、および肺炎の再発)は死をもたらした。ある患者はグレード3の発熱DLTを経験したが、続発症を起こさずに回復した。この患者は0日目にプライムワクチン注射を受け、14日目および28日目にブーストワクチン接種を受けた。プロトコールに従って0日目および14日目のワクチン接種後にサグラモスチムが投与された。28日目の夕方には、PANVAC-Fの2回目の投与およびサグラモスチムの1回投与後に、患者が104.5°Fの体温を示した。これはグレード3の反応であり、研究者はこの事象をワクチンに明確に関係すると分類したので、この事象はDLTだった。患者を500mgの経口アセトアミノフェンで処置したところ、続発症を起こさずにこの事象は消失した。この患者は試験を続けた。
【0262】
利用可能な予備データによれば、サグラモスチムと組み合わされたPANVAC-VFは認容性が高いようであり、処置レジメンが原因として関係している重篤有害事象は今までのところは観察されていない。OS中央値は6.3ヶ月である。
【0263】
TBC-PAN-003
臨床試験プロトコールTBC-PAN-003は、ゲムシタビン含有化学療法レジメンに失敗した膵臓の転移性(病期IV)腺癌を有する患者における、対症療法または緩和的化学療法と比較した、サルガルモスチム(sargarmostim)と組み合わされたPANVAC-VFの安全性および効力を評価するための第III相無作為化対照試験である。この臨床試験における患者の処置に関するプロトコールは、上記TBC-PAN-002のプロトコールに従う。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳癌を有するか、またはそのような乳癌腫瘍を発症する危険性があるヒトを選択する工程;
乳癌関連抗原をコードする第1遺伝子またはその抗原部分を含有する第1のベクターを個体に投与する工程;および
その後、定期的に、乳癌関連抗原またはその抗原部分をコードする遺伝子を含有する、少なくとも第2のベクターを投与する工程
を含む、ヒトにおいて乳癌関連抗原を発現する細胞に対する免疫応答を誘導する方法であって、第2のベクターが第1のベクターと同じか、または異なる供給源に由来する、方法。
【請求項2】
少なくとも1つの共刺激分子を投与する工程をさらに含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項3】
顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)を投与する工程をさらに含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
共刺激分子が、乳癌関連抗原をコードする遺伝子を含有するベクターと同じベクター内に含有される遺伝子として投与される、請求項2記載の方法。
【請求項5】
ベクターが、少なくともB7.1、LFA-3、およびICAM-1を共刺激遺伝子として含有する、請求項2記載の方法。
【請求項6】
乳癌関連抗原またはその抗原部分がポックスウイルスベクターに含有される、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
ポックスウイルスベクターが、オルソポックスウイルスベクター、アビポックスウイルスベクター、スイポックスウイルスベクター、カプリポックスウイルスベクター、レポリポックスウイルスベクター、およびイリドウイルスベクターからなる群より選択される、請求項7記載の方法。
【請求項8】
ポックスウイルスベクターの少なくとも1つが複製障害ポックスウイルスベクターまたは非複製ポックスウイルスベクターである、請求項6記載の方法。
【請求項9】
第1のポックスウイルスベクターがオルソポックスベクターである、請求項7記載の方法。
【請求項10】
オルソポックスウイルスベクターがWyethワクシニア、MVA、またはNYVACである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
乳癌関連抗原が、癌胎児性抗原、ムチン、HER-2/neu、uPA、NY-BR-1、NY-BR-62、NY-BR-85、それらの抗原部分、およびそれらの改変型からなる群より選択される、請求項1〜10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
ムチンがMUC-1である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
改変型が、ゆらぎ型MUCであり、かつ5〜15個のタンデムリピートを含有する、請求項11記載の方法。
【請求項14】
ベクターが、少なくとも2つの乳癌関連抗原またはそれらの抗原部分をコードする遺伝子を含有する、請求項1〜11のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
乳癌関連抗原がCEAおよびムチンである、請求項14記載の方法。
【請求項16】
ムチンがゆらぎ型MUC-1、または、6個のタンデムリピートを有するゆらぎ型ミニMUC-1である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1つの乳癌関連抗原またはその抗原部分を含有するオルソポックスベクターによって、所定の間隔で1〜3回の投与が行なわれ、かつ少なくとも1つの乳癌関連抗原またはその抗原部分を含有するアビポックスベクターによって、所定の間隔で複数回の投与が行なわれる、請求項1〜16のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
オルソポックスベクターがワクシニアである、請求項17記載の方法。
【請求項19】
ワクシニアがワクシニアWyethまたは弱毒ワクシニアである、請求項18記載の方法。
【請求項20】
弱毒ワクシニアがMVAまたはNYVACである、請求項19記載の方法。
【請求項21】
アビポックスベクターが投与される前にオルソポックスベクターが投与される、請求項17、18、19、または20記載の方法。
【請求項22】
所定の間隔が20日〜90日である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
少なくとも2つの乳癌関連抗原またはその抗原部分をコードする少なくとも1つのポックスベクターを含む、乳癌腫瘍に対する防御免疫反応を増強するためのキット。
【請求項24】
1つの乳癌関連抗原がCEAであり、少なくとも第2の乳癌関連抗原が、ゆらぎ型MUC-1またはゆらぎ型ミニMUC-1である、請求項23記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−25753(P2012−25753A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179768(P2011−179768)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【分割の表示】特願2006−539904(P2006−539904)の分割
【原出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【出願人】(506161522)アメリカ合衆国 (4)
【Fターム(参考)】