説明

乳癌を治療するための組成物および方法

本発明は、A2254またはA5623の発現を阻害するsiRNAの組成物を細胞に接触させることによって癌細胞の増殖を阻害する方法を特徴とする。癌を治療する方法もまた本発明の範囲内である。本発明はまた、提供する方法において有用な、核酸配列およびベクターを含む生成物ならびにこれらを含む組成物を特徴とする。本発明はまた、腫瘍細胞、例えば乳癌細胞の増殖を阻害する方法、およびA5623とA2254との結合を減少させるまたは妨げる化合物を同定する方法を提供する。さらに本発明は、A2254とA5623との結合を阻害する化合物を投与する段階を含む、癌、特に乳癌を治療または予防する方法、およびそのような結合阻害剤を含む組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、生物科学の分野、より具体的には癌研究の分野に関する。特に、本発明は、A2254またはA5623をコードする遺伝子の発現を阻害し得る核酸を含む組成物に関する。いくつかの態様において、化合物は、これらの遺伝子由来の部分配列に対応する低分子干渉RNA(siRNA)である。本発明はまた、癌の治療および予防に有用な化合物を同定するための方法およびキットに関する。さらに、本発明は、A2254とA5623との結合を阻害する化合物を投与する段階を含む、癌、特に乳癌の治療または予防の方法、およびそのような結合阻害剤を含む組成物に関する。
【0002】
本出願は、2005年7月25日に出願した米国仮特許出願第60/702,446号の恩典を主張し、その内容は全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
背景技術
乳癌(BRC)は、多くの遺伝子における遺伝的および後成的変化の蓄積を特徴とする複合疾患である(Nathanson KL., et al., Nat Med, 7(5): 552-6, 2001(非特許文献1))。乳房発癌の多段階モデル、すなわち、異型乳管過形成、非浸潤性乳管癌(DCIS)、および浸潤性乳管癌(IDC)の段階を経る正常細胞の形質転換は、他組織の発癌の段階と類似しているが、乳癌を促進する正確な分子機構は依然として不明である。明らかに、原発乳癌の発症、その進行、およびその転移をもたらす分子的因子は、本疾患の予防および治療のより良い手段を開発するための有望な標的となると考えられる。
【0004】
cDNAマイクロアレイ解析によって得られる遺伝子発現プロファイルは、個々の癌の性質を特徴づけるためのかなり多くの情報を提供し得る;このような情報が有望視されるのは、新規薬剤の開発を通して新生物疾患を治療するための臨床的戦略を改善するその可能性にある(Petricoin, E. F., 3rd, et al., Nat Genet, 32 Suppl: 474-479, 2002(非特許文献2);Bange J,., et al., Nat Med, 7(5): 548-52, 2001(非特許文献3))。この目的のため、本発明者らは、レーザーマイクロビームマイクロダイセクション(LMM)と27,648遺伝子に相当するcDNAマイクロアレイの組み合わせを用いて、純化されたDCIS 12例およびIDC 69例を含む乳房腫瘍77例の発現プロファイルを解析した(Nishidate T, et al., Int J Oncol. 2004 Oct;25(4)797-819(非特許文献4))。これらの実験によるデータは、乳房腫瘍形成に関する重要な情報を提供するばかりでなく、その産物が診断マーカーおよび/または乳癌治療の分子標的となり得る候補遺伝子を同定するのに役立つはずである。
【0005】
【非特許文献1】Nathanson KL., et al., Nat Med, 7(5): 552-6, 2001
【非特許文献2】Petricoin, E. F., 3rd, et al., Nat Genet, 32 Suppl: 474-479, 2002
【非特許文献3】Bange J,., et al., Nat Med, 7(5): 548-52, 2001
【非特許文献4】Nishidate T, et al., Int J Oncol. 2004 Oct;25(4)797-819
【発明の開示】
【0006】
発明の開示
本発明は、A2254およびA5623が乳癌細胞において有意に過剰発現しており、A2254またはA5623の発現阻害が、BRCに関与する癌細胞を含む種々の癌細胞の細胞増殖の阻害に有効であるという発見に基づく。本出願に記載される本発明は、部分的にこの発見に基づく。
【0007】
乳癌治療のための新規分子標的を単離するため、本発明者らは、cDNAマイクロアレイとレーザーマイクロビームマイクロダイセクションの組み合わせを用いて、閉経前乳癌を有する77症例のゲノム全体の正確な発現プロファイルを調べた。上方制御された遺伝子のうち、本発明者らは、それぞれ、本発明者らが発現データを得ることができた乳癌症例60例中44例および58例中37例で発現が上方制御されていることが示された、キネシンファミリーメンバー2C(KIF2C)を示すA2254および細胞質分裂のタンパク質制御因子1(PRC1)を示すA5623を同定した。その後の半定量的RT-PCRおよびノーザンブロット解析から、A2254およびA5623が、乳管細胞または正常乳房を含む正常ヒト組織と比較して、臨床的乳癌試料および乳癌細胞株において有意に過剰発現していることが確認された。免疫細胞化学染色により、COS7細胞において、外来A2254およびA5623が細胞質および/または細胞小器官に局在することが示される。特に、外来A5623は、COS7細胞において中間フィラメント網に観察された。
【0008】
低分子干渉RNA(siRNA)を用いた乳癌細胞の処理は、A2254およびA5623の発現を効果的に阻害し、乳癌細胞であるそれぞれT47DおよびHBC5の細胞/腫瘍増殖を抑制した。加えて、本発明者らは、HT1080細胞においてA2254[およびA5623]の両方の一過性過剰発現によって、スクラッチアッセイにおいて細胞遊走が促進されることを見出し、このことからこれらの遺伝子が細胞遊走において重要な役割を果たすことが示唆された(データは示さず)。これらの知見から、A2254およびA5623の過剰発現が乳房腫瘍形成または転移に関与している可能性があり、乳癌患者専用の治療のための有望な戦略となり得ることが示唆される。
【0009】
さらに、本発明者らは、A5623がA2254にそのN末端側の一部を介して結合し得ること、ならびにA5623およびA2254が、分裂後期および細胞質分裂の間に中央体に共局在することを実証した。免疫細胞化学染色により、乳癌細胞において、内在性A2254は、分裂前期に紡錘体極に局在し、次いで分裂中期から分裂後期の初期段階にかけて紡錘体全体に局在することが示される。これらの知見から、A2254とA5623の複合体が乳房腫瘍形成に関与している可能性があり、乳癌患者専用の治療のための有望な戦略となり得ることが示唆される。
【0010】
キネシンファミリーメンバー2Cを示すA2254は、それぞれA2254V1(GenBank登録番号:AB264115、配列番号;35、36)およびA2254V2(GenBank登録番号;AY026505、配列番号;37、38)に相当する、21および20エキソンからなる2つの異なる転写変異体を有する(図3A、上パネル)。したがって、本発明において、A2254はA2254V1およびA2254V2を含む。V1変異体のエキソン1および2はそれぞれ185 bpおよび94 bpであり、一方、V2変異体はV1のエキソン1および2を有さず、エキソン1として346 bpからなる新たなエキソンを有する。V2変異体の最終エキソン(エキソン20)は、V1変異体の最終エキソン(エキソン21)の3'末端よりも537 bp短かった。A2254V1およびA2254V2変異体の全長cDNA配列は、それぞれ2886および2401ヌクレオチドを含んでいた。これらの変異体のORFは、それぞれのエキソン1内から開始する。最終的に、V1およびV2転写産物は、それぞれ725および671アミノ酸をコードする。
【0011】
細胞質分裂のタンパク質制御因子1を示すA5623も同様に、それぞれA5623V1(GenBank登録番号;NM_003981;配列番号;39、40)、A5623V2(GenBank登録番号;NM_199413;配列番号;41、42)、および5623V3(GenBank登録番号;NM_199414;配列番号;43、44)に相当する、15、14、および14のエキソンからなる3つの異なる転写変異体を有する(図3B、上パネル)。したがって、本発明において、A5623はA5623V1、A5623V2、およびA5623V3を含む。V1のエキソン13および14に選択的変化が存在し、その他の残りのエキソンは全変異体に共通していた。V2変異体はV1のエキソン14を有さず、最終エキソン内に新たな早期の終止コドンが生じている。V3変異体のエキソン14は完全に欠失しており、V3のエキソン13は3'末端においてV1のエキソン13よりも77 bp短く、同様に最終エキソン内に新たな早期の終止コドンが生じていた。A5623V1、A5623V2、およびA5623V3変異体の全長cDNA配列は、それぞれ3128、3091、および3011ヌクレオチドからなる。これらの変異体のORFは、それぞれのエキソン1内から開始する。最終的に、V1、V2、およびV3転写産物は、それぞれ620、606、および566アミノ酸をコードする。
【0012】
本発明は、細胞増殖を阻害する方法を提供する。提供する方法には、A2254またはA5623の発現を阻害する低分子干渉RNA(siRNA)を含む組成物を細胞に接触させる段階を含む方法がある。本発明はまた、対象における腫瘍細胞増殖を阻害する方法を提供する。このような方法は、A2254またはA5623由来の配列に特異的にハイブリダイズする低分子干渉RNA(siRNA)を含む組成物を対象に投与する段階を含む。本発明の別の局面は、生体試料の細胞におけるA2254またはA5623遺伝子の発現を阻害する方法を提供する。遺伝子の発現は、A2254またはA5623遺伝子の発現を阻害するのに十分な量の二本鎖リボ核酸(RNA)分子を細胞に導入することによって阻害することができる。本発明の別の局面は、例えば提供する方法において有用な、核酸配列およびベクターを含む生成物ならびにこれらを含む組成物に関する。提供する生成物には、A2254またはA5623遺伝子を発現している細胞に導入した場合に、それら遺伝子の発現を阻害する特性を有するsiRNA分子がある。このような分子には、センス鎖およびアンチセンス鎖を含み、センス鎖がA2254またはA5623標的配列に対応するリボヌクレオチド配列を含み、かつアンチセンス鎖がセンス鎖に相補的なリボヌクレオチド配列を含む分子がある。分子のセンス鎖およびアンチセンス鎖は互いにハイブリダイズして、二本鎖分子を形成する
【0013】
本発明のさらなる局面は、癌、特に乳癌の治療または予防に有用な化合物をスクリーニングする方法であって、以下の段階を含む方法である:
(a) 被験化合物の存在下において、A5623ポリペプチドのA2254結合ドメインを含むポリペプチドを、A2254ポリペプチドのA5623結合ドメインを含むポリペプチドと接触させる段階;
(b) ポリペプチド間の結合を検出する段階;および
(c) ポリペプチド間の結合を阻害する被験化合物を選択する段階。
【0014】
当業者であれば、タンパク質相互作用ドメインを決定するための当技術分野で公知の方法により、A5623ポリペプチドのA2254結合ドメインまたはA2254ポリペプチドのA5623結合ドメインを決定することができる。例えば、相互作用ドメインは、相互作用ドメインマッピングにより同定することができる。例えば、それぞれA2254またはA5623ポリペプチドの様々な部分を発現させ、例えば酵母ツーハイブリッドシステムを適用することによって、これらを相互作用に関してスクリーニングする。酵母ツーハイブリッドシステムによって同定された相互作用は、例えば、免疫沈降法またはカラムでの相互作用などの生化学的アッセイ法を適用することによって検証することができる。当業者であれば、相互作用ドメインの同定およびマッピングに当技術分野において公知のその他の方法も容易に適用することができるため、相互作用ドメインを同定および/またはマッピングするための上記方法は、決して限定的なものではない。
【0015】
好ましくは、A5623ポリペプチドとA2254ポリペプチドとの結合の阻害剤をスクリーニングする方法に適用するA2254結合ドメインを含むポリペプチドは、A5623V1(配列番号:40)、A5623V2(配列番号:42)、またはA5623V3(配列番号:44)などのA5623ポリペプチドを含む。
【0016】
別の好ましい局面において、A5623ポリペプチドとA2254ポリペプチドとの結合の阻害剤をスクリーニングする方法に適用するA5623結合ドメインを含むポリペプチドは、A2254V1(配列番号:36)またはA2254V1(配列番号:38)などのA2254ポリペプチドを含む。
【0017】
本発明のさらなる局面は、乳癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングするためのキットであり、以下のものを含むキットである:
(a) A5623ポリペプチドのA2254結合ドメインを含むポリペプチド、
(b) A2254ポリペプチドのA5623結合ドメインを含むポリペプチド、および
(c) ポリペプチド間の相互作用を検出する試薬。
【0018】
好ましくは、A2254結合ドメインを含むポリペプチドはA5623ポリペプチドを含む、またはA5623結合ドメインを含むポリペプチドはA2254ポリペプチドを含む。
【0019】
さらに別の局面において、本発明は、対象における乳癌を治療または予防する方法であって、A5623ポリペプチドとA2254ポリペプチドとの結合を阻害する化合物の薬学的有効量を投与する段階を含む方法に関する。
【0020】
さらに、本発明はまた、乳癌を治療または予防するための組成物であって、A5623ポリペプチドとA2254ポリペプチドとの結合を阻害する化合物の薬学的有効量、および薬学的に許容される担体を含む組成物に関する。
【0021】
本明細書で使用する「生物」という用語は、少なくとも1つの細胞からなる任意の生物体を指す。生物は、例えば真核単細胞のように単純なものであってよく、またはヒトを含む哺乳動物のように複雑なものであってもよい。
【0022】
本明細書で使用する「生体試料」という用語は、生物全体、またはその組織、細胞、もしくは構成部分の一部(例えば、血液、粘液、リンパ液、滑液、脳脊髄液、唾液、羊水、羊膜臍帯血、尿、膣液、および精液を含むがこれらに限定されない体液)を指す。「生体試料」はさらに、生物全体、またはその細胞、組織、もしくは構成部分の一部から調製されたホモジネート、溶解物、抽出物、細胞培養物、または組織培養物、あるいはその画分または一部を指す。最後に、「生体試料」は、タンパク質または核酸分子などの細胞成分を含み、その中で生物が増殖する栄養ブイヨンまたはゲルなどの培地を指す。
【0023】
本発明は、細胞増殖を阻害する方法を特徴とする。細胞増殖は、細胞をA2254またはA5623の低分子干渉RNA(siRNA)の組成物と接触させることによって阻害される。細胞をトランスフェクション促進剤とさらに接触させる。細胞は、インビトロ、インビボ、またはエキソビボで提供される。対象は哺乳動物であり、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、またはウシである。細胞は乳管細胞である。または、細胞は、癌腫細胞または腺癌細胞などの腫瘍細胞(すなわち、癌細胞)である。例えば、細胞は乳癌細胞である。細胞増殖の阻害とは、処理細胞が未処理細胞よりも低い速度で増殖するか、または生存率が減少することを意味する。細胞増殖は、当技術分野で公知の増殖アッセイ法によって測定される。
【0024】
「siRNA」という用語は、標的mRNAの翻訳を妨げる二本鎖RNA分子を意味する。DNAを鋳型としてそこからRNAを転写させる技法を含め、siRNAを細胞に導入する標準的な技法が用いられる。siRNAは、A2254もしくはA5623センス核酸配列、A2254もしくはA5623アンチセンス核酸配列、またはその両方を含む。siRNAは2つの相補的分子を含んでもよく、または単一の転写産物が標的遺伝子由来のセンス配列および相補的アンチセンス配列の両方を有するように構築されてもよく、その例としては、いくつかの態様においてマイクロRNA(miRNA)の産生をもたらすヘアピンがある。
【0025】
標的細胞においてA2254またはA5623転写産物にsiRNAが結合すると、細胞によるA2254またはA5623の産生が減少する。オリゴヌクレオチドの長さは少なくとも約10ヌクレオチドであり、天然のA2254またはA5623転写産物と同じ位の長さであってもよい。好ましくは、オリゴヌクレオチドは約19〜約25ヌクレオチド長である。最も好ましくは、オリゴヌクレオチドは約75、約50、または約25ヌクレオチド長未満である。哺乳動物細胞におけるA2254またはA5623の発現を阻害するA2254またはA5623のsiRNAオリゴヌクレオチドの例には、標的配列、例えばそれぞれ配列番号:21もしくは25または29もしくは33のヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドが含まれる。
【0026】
標的細胞における遺伝子発現を阻害する能力を有する二本鎖RNAを設計する方法は公知である。(例えば、その全体が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第6,506,559号を参照されたい)。例えば、siRNAを設計するコンピュータプログラムは、Ambionのウェブサイト(http://www.ambion.co.jp/techlib/tb/tb_506.html)から利用することができる。Ambion, Inc.より利用可能なコンピュータプログラムは、以下の手順に基づいてsiRNA合成のためのヌクレオチド配列を選択する。
【0027】
siRNA標定部位の選択
1. 転写産物のAUG開始コドンから開始して、AAジヌクレオチド配列について下流方向にスキャンする。潜在的siRNA標的部位として、各AAおよび3'隣接19ヌクレオチドの出現を記録する。Tuschl et al., Targeted mRNA degradation by double-stranded RNA in vitro. Genes Dev 13(24): 3191-7 (1999)は、5'および3'非翻訳領域(UTR)ならびに開始コドン近傍の領域(75塩基内)には制御タンパク質結合部位が豊富である可能性があるため、これらに対してsiRNAを設計しないよう推奨している。UTR結合タンパク質および/または翻訳開始複合体は、siRNAエンドヌクレアーゼ複合体の結合を妨げる可能性がある。
2. 潜在的標的部位を適切なゲノムデータベース(ヒト、マウス、ラットなど)と比較し、他のコード配列と有意な相同性を有するいかなる標的配列も検討から除外する。www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/のNCBIサーバーに見出される、BLAST(Altschul SF, et.al., Nucleic Acids Res. 1997;25: 3389-402;J Mol Biol. 1990;215:403-10.)を用いることが提唱される。
3. 合成するための適格な標的配列を選択する。評価するために、遺伝子の長さに沿っていくつかの標的配列を選択することが典型的である。
【0028】
標的配列、例えば、配列番号:21、25、29、および33のヌクレオチドの核酸配列を含む単離された核酸分子、または配列番号21、25、29、および33のヌクレオチドの核酸配列に相補的な核酸分子も本発明に含まれる。本明細書で使用する「単離された核酸」とは、元の環境(例えば、天然のものであれば自然環境)から取り出された核酸であり、したがって、その天然状態から人工的に変化した核酸である。本発明において、単離された核酸には、DNA、RNA、およびそれらの誘導体が含まれる。単離された核酸がRNAまたはその誘導体である場合には、ヌクレオチド配列において塩基「t」は「u」に置換されなければならない。本明細書で使用する「相補的な」という用語は、核酸分子のヌクレオチド単位間のワトソン-クリック型塩基対またはフーグスティーン型塩基対形成を指し、「結合する」という用語は、2つの核酸もしくは化合物、または関連する核酸もしくは化合物、またはそれらの組み合わせ間の物理的または化学的相互作用を意味する。相補的な核酸配列は適切な条件下でハイブリダイズして、ミスマッチをほとんど、または全く含まない安定した二重鎖を形成する。本発明の目的に関して、5個またはそれ未満のミスマッチを有する2つの配列は相補的であると見なされる。さらに、本発明の単離されたヌクレオチドのセンス鎖およびアンチセンス鎖は、ハイブリダイゼーションによって二本鎖ヌクレオチドまたはヘアピンループ構造を形成し得る。好ましい態様において、このような二重鎖は、10個の一致ごとにミスマッチを2つ以上含まない。二重鎖の鎖が完全に相補的である特に好ましい態様においては、そのような二重鎖はミスマッチを含まない。A2254またはA5623それぞれに関して、核酸分子は2886または3128ヌクレオチド長未満である。例えば、核酸分子は約500、約200、または約75ヌクレオチド長未満である。本明細書に記載の核酸の1つまたは複数を含むベクター、およびそのベクターを含む細胞もまた本発明に含まれる。本発明の単離された核酸は、A2254もしくはA5623に対するsiRAN、またはsiRNAをコードするDNAに有用である。核酸をsiRNAまたはそのコードDNAに使用する場合、センス鎖は好ましくは約19ヌクレオチドより長く、より好ましくは21ヌクレオチドより長い。
【0029】
本発明は部分的に、A2254またはA5623をコードする遺伝子が、非癌性乳房組織と比較して乳癌(BRC)において過剰発現しているという発見に基づく。A2254V1およびA2254V2のcDNAは、それぞれ2886および2401ヌクレオチド長である。A5623V1、A5623V2、およびA5623V3のcDNAは、それぞれ3128、3091、および3011ヌクレオチド長である。A2254V1およびA2254V2の核酸配列およびポリペプチド配列を、それぞれ配列番号:35および36ならびに配列番号:37および38に示す。A5623V1、A5623V2、およびA5623V3の核酸配列およびポリペプチド配列を、それぞれ配列番号:39および40、配列番号:41および42、ならびに配列番号:43および44に示す。配列データはまた、以下の登録番号により入手可能である。
A2254:AY026505
A5623:NM_003981、NM_199413、NM_199414
【0030】
細胞増殖を阻害する方法
本発明は、A2254またはA5623の発現を阻害することにより、細胞増殖、すなわち癌細胞増殖を阻害することに関する。または、A5623ポリペプチドとA2254ポリペプチドが相互作用し得ることが見出され、それらの相互作用が発癌、特に乳癌発癌において重要な役割を果たすと考えられることから、本発明は、それらのポリペプチド間の結合を阻害することにより、細胞増殖、すなわち癌細胞増殖、特に乳癌増殖を阻害することに関する。したがって、本発明は、A5623ポリペプチドとA2254ポリペプチドの結合を阻害することによって、対象における乳癌を治療または予防する手段および方法に関する。さらに、本発明は、癌を治療または予防するため、特に乳癌を治療または予防するための薬として使用するための、A5623ポリペプチドとA2254ポリペプチドとの結合の阻害剤を予想する。
【0031】
A2254またはA5623の発現は、例えば、A2254またはA5623遺伝子を特異的に標的とする低分子干渉RNA(siRNA)によって阻害される。A2254またはA5623の標的には、例えば、配列番号:21、25、29、および33のヌクレオチドが含まれる。
【0032】
非哺乳動物細胞において、二本鎖RNA(dsRNA)は遺伝子発現に対して強力かつ特異的なサイレンシング効果を及ぼすことが示されており、これはRNA干渉(RNAi)と呼ばれる(Sharp PA. Genes Dev. 1999;13(2):139-41.)。dsRNAは、RNアーゼIIIモチーフを含む酵素によって、低分子干渉RNA(siRNA)と呼ばれる20〜23ヌクレオチドのdsRNAへと処理される。siRNAは、多成分ヌクレアーゼ複合体と共に、相補的mRNAを特異的に標的とする(Hammond SM et. al., Nature. 2000; 404(6775):293- 6;Hannon GJ. Nature. 2002;418(6894):244-51.)。哺乳動物細胞において、19の相補的ヌクレオチド、および3'末端非相補的チミジンまたはウリジン二量体を有する、20または21-mer dsRNAから構成されるsiRNAは、遺伝子発現の全体的な変化を誘導することなく、遺伝子特異的ノックダウン効果を有することが示されている(Elbashir SM et al., Nature. 2001;411(6836):494-8.)。さらに、核内低分子RNA(snRNA) U6またはポリメラーゼIII H1-RNAプロモーターを含むプラスミドは、III型クラスのRNAポリメラーゼIIIを動員してこのような短いRNAを効率的に産生し、こうしてその標的mRNAを構成的に抑制することができる(Miyagishi M. et al., Nat Biotechnol. 2002;20(5):497-500.;Brummelkamp TR, et al., Science. 296(5567):550-3, 2002.)。
【0033】
細胞増殖は、細胞をA2254またはA5623のsiRNAを含む組成物と接触させることによって阻害される。細胞をトランスフェクション剤とさらに接触させる。適切なトランスフェクション剤は、当技術分野において公知である。細胞増殖の阻害とは、組成物に曝露していない細胞と比較して、細胞がより低い速度で増殖するか、または生存率が減少することを意味する。細胞増殖は、MTT細胞増殖アッセイ法などの当技術分野で公知の方法によって測定される。
【0034】
A2254またはA5623のsiRNAは、A2254またはA5623遺伝子配列の単一の標的を対象とする。または、siRNAは、A2254またはA5623遺伝子配列の複数の標的を対象とする。例えば、組成物は、A2254またはA5623の2つ、3つ、4つ、もしくは5つ、またはそれ以上の標的配列を対象とするA2254またはA5623のsiRNAを含む。A2254またはA5623標的配列とは、A2254またはA5623遺伝子の一部と同一であるヌクレオチド配列を意味する。標的配列は、ヒトA2254またはA5623遺伝子の5'非翻訳(UT)領域、オープンリーディングフレーム(ORF)、または3'非翻訳領域を含み得る。または、siRNAは、A2254またはA5623遺伝子発現の上流または下流モジュレーターと相補的な核酸配列である。上流または下流モジュレーターの例には、A2254またはA5623遺伝子プロモーターと結合する転写因子、A2254またはA5623ポリペプチドと相互作用するキナーゼまたはホスファターゼ、A2254またはA5623のプロモーターまたはエンハンサーが含まれる。標的mRNAとハイブリダイズするA2254またはA5623のsiRNAは、通常は一本鎖のmRNA転写産物と結合し、それによって翻訳を妨げ、こうしてタンパク質の発現を妨げることにより、A2254またはA5623遺伝子によってコードされるA2254またはA5623ポリペプチド産物の産生を減少させるかまたは阻害する。したがって、本発明のsiRNA分子は、ストリンジェントな条件下において、A2254またはA5623遺伝子由来のmRNAまたはcDNAと特異的にハイブリダイズする能力によって定義され得る。本発明において、「ハイブリダイズする」または「特異的にハイブリダイズする」という用語は、2つの核酸分子が「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」下においてハイブリダイズする能力を指すために用いられる。「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」という語句は、典型的には複雑な核酸混合物中で、核酸分子がその標的配列とハイブリダイズするが、他の配列とは検出可能にハイブリダイズしない条件を指す。ストリンジェントな条件は配列依存的であり、様々な状況において異なる。配列が長いほど、より高い温度で特異的にハイブリダイズする。核酸ハイブリダイゼーションの広範な手引きは、Tijssen, Techniques in Biochemistry and Molecular Biology--Hybridization with Nucleic Probes, 「Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid assays」 (1993)に見出される。一般的に、ストリンジェントな条件は、所定のイオン強度、pHにおいて、特定の配列に対する熱融点(Tm)より約5〜10℃低くなるよう選択される。Tmとは、平衡状態で、標的に相補的なプローブの50%が標的配列とハイブリダイズする(所定のイオン強度、pH、および核酸濃度における)温度である(標的配列が過剰に存在する場合、Tmでは、平衡状態でプローブの50%が占有される)。ストリンジェントな条件はまた、ホルムアミドなどの不安定化剤を添加することによって達成してもよい。選択的または特異的ハイブリダイゼーションに関して、陽性シグナルはバックグラウンドの少なくとも2倍、好ましくはバックグラウンドハイブリダイゼーションの10倍である。例示的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、以下のようなものであってよい:50%ホルムアミド、5x SSC、および1% SDS、42℃でのインキュベーション、または5x SSC、1% SDS、65℃でのインキュベーション、ならびに0.2x SSCおよび0.1 %SDS中での50℃での洗浄。
【0035】
本発明のsiRNAは、約500、約200、約100、約50、または約25ヌクレオチド長未満である。好ましくは、siRNAは約19〜約25ヌクレオチド長である。A2254またはA5623 siRNAを生成するための例示的な核酸配列には、それぞれ標的配列としての配列番号21もしくは25、または29もしくは33のヌクレオチド配列が含まれる。さらに、siRNAの阻害活性を増強するために、標的配列のアンチセンス鎖の3'末端にヌクレオチド「u」を付加することができる。付加する「u」の数は少なくとも約2個であり、一般的には約2〜約10個であり、好ましくは約2〜約5個である。付加された「u」は、siRNAのアンチセンス鎖の3'末端で一本鎖を形成する。
【0036】
細胞は、A2254またはA5623を発現または過剰発現する任意の細胞である。細胞は、乳管細胞などの上皮細胞である。または、細胞は、癌腫、腺癌、芽腫、白血病、骨髄腫、または肉腫などの腫瘍細胞である。細胞は乳癌である。
【0037】
A2254またはA5623のsiRNAは、mRNA転写産物に結合し得る形態で細胞に直接導入する。または、A2254またはA5623のsiRNAをコードするDNAがベクター中に存在する。
【0038】
ベクターは、例えば、A2254またはA5623標的配列を、両鎖の発現が(DNA分子の転写により)可能となるように、A2254またはA5623配列に隣接する機能的に連結された制御配列を有する発現ベクターにクローニングすることによって作製する(Lee, N.S., et al., (2002) Nature Biotechnology 20: 500-5)。A2254またはA5623 mRNAに対してアンチセンスであるRNA分子は、第1プロモーター(例えば、クローニングされたDNAの3'側にあるプロモーター配列)によって転写され、A2254またはA5623 mRNAのセンス鎖であるRNA分子は、第2プロモーター(例えば、クローニングされたDNAの5'側にあるプロモーター配列)によって転写される。センス鎖とアンチセンス鎖はインビボでハイブリダイズして、A2254またはA5623遺伝子をサイレンシングするためのsiRNA構築物が作製される。または、2つの構築物を利用して、siRNA構築物のセンス鎖およびアンチセンス鎖を作製する。クローニングされたA2254またはA5623は、単一の転写産物が標的遺伝子由来のセンス配列および相補的アンチセンス配列の両方を有する、例えばヘアピンなどの二次構造を有する構築物をコードしてもよい。
【0039】
ヘアピンループ構造を形成するために、任意のヌクレオチド配列からなるループ配列をセンス配列とアンチセンス配列との間に配置することができる。したがって、本発明はまた、一般式
5'-[A]-[B]-[A']-3'
を有するsiRNAを提供し、式中、[A]は、A2254またはA5623由来のmRNAまたはcDNAと特異的にハイブリダイズする配列に対応するリボヌクレオチド配列である。好ましい態様において、[A]は、配列番号:21、25、29、および33のヌクレオチドからなる群より選択される配列に対応するリボヌクレオチド配列であり、[B]は、3〜23ヌクレオチドからなるリボヌクレオチド配列であり、かつ[A']は、[A]の相補配列からなるリボヌクレオチド配列である。
【0040】
領域[A]は[A']とハイブリダイズし、次いで領域[B]からなるループが形成される。ループ配列は、好ましくは約3〜約23ヌクレオチド長であってよい。ループ配列は、例えば、以下の配列からなる群より選択され得る(http://www.ambion.com/techlib/tb/tb_506.html)。さらに、23ヌクレオチドからなるループ配列によっても、活性のあるsiRNAが得られる(Jacque, J.M. et al., (2002) Nature 418: 435-8.)。
CCC、CCACC、またはCCACACC:Jacque, J.M. et al., (2002) Nature, 418: 435-8.
UUCG:Lee, N.S. et al., (2002) Nature Biotechnology 20 : 500-5;Fruscoloni, P. et al., (2003) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100(4): 1639-44.
UUCAAGAGA:Dykxhoorn, D. M. et al., (2003) Nature Reviews Molecular Cell Biology 4: 457-67.
【0041】
例として、本発明のヘアピンループ構造を有する好ましいsiRNAを以下に示す。以下の構造において、ループ配列は、CCC、UUCG、CCACC、CCACACC、およびUUCAAGAGAからなる群より選択され得る。好ましいループ配列はUUCAAGAGA(DNAでは「ttcaagaga」)である。
GAGAAGAAGGCCCAGAACU-[B]-AGUUCUGGGCCUUCUUCUC(配列番号:21の標的配列の場合)
CUCUAGGACUUGCAUGAUU-[B]-AAUCAUGCAAGUCCUAGAG(配列番号:25の標的配列の場合)
GGAAAGACUCAUCAAAAGC-[B]-GCUUUUGAUGAGUCUUUCC(配列番号:29の標的配列の場合)
GCAUAUCCGUCUGUCAGAA-[B]-UUCUGACAGACGGAUAUGC(配列番号:33の標的配列の場合)
【0042】
A2254またはA5623配列に隣接する制御配列は、それらの発現が独立して、または時間的もしくは空間的に調節され得るように、同一であるかまたは異なる。siRNAは、A2254またはA5623遺伝子鋳型を、例えば核内低分子RNA(snRNA) U6由来のRNAポリメラーゼIII転写単位またはヒトH1 RNAプロモーターを含むベクターにクローニングすることにより、細胞内で転写される。ベクターを細胞に導入するために、トランスフェクション促進剤を用いることができる。FuGENE(Roche Diagnostics)、Lipofectamine 2000(Invitrogen)、Oligofectamine(Invitrogen)、およびNucleofector(和光純薬工業)は、トランスフェクション促進剤として有用である。
【0043】
A2254またはA5623 mRNAの様々な部分のオリゴヌクレオチド、およびそれらの様々な部分に相補的なオリゴヌクレオチドを、腫瘍細胞において(例えば、乳癌(BRC)細胞株などの乳房細胞株を用いて)A2254またはA5623の産生を減少させる能力について、標準的な方法に従ってインビトロで試験した。候補組成物の非存在下で培養した細胞と比較して、候補siRNA組成物と接触させた細胞においてA2254またはA5623遺伝子産物が減少していることを、A2254もしくはA5623の特異的抗体またはその他の検出方法を用いて検出する。次いで、インビトロの細胞アッセイまたは無細胞アッセイにおいてA2254またはA5623の産生を減少させる配列を、細胞増殖に対するその阻害効果について試験する。インビトロ細胞アッセイにおいて細胞増殖を阻害する配列をラットまたはマウスにおいてインビボで試験して、A2254またはA5623産生の減少、および悪性新生物を有する動物における腫瘍細胞増殖の減少を確認する。
【0044】
悪性腫瘍を治療する方法
A2254またはA5623の過剰発現を特徴とする腫瘍を有する患者は、A2254またはA5623のsiRNAを投与することによって治療される。例えば乳癌(BRC)に罹患しているかまたはBRCを発症するリスクのある患者におけるA2254またはA5623の発現を阻害するために、siRNA療法が用いられる。このような患者は、特定の腫瘍型の標準的な方法によって特定される。乳癌(BRC)は、例えば、CT、MRI、ERCP、MRCP、コンピューター断層撮影、または超音波によって診断される。治療によって、対象におけるA2254もしくはA5623発現の減少、または腫瘍の大きさ、蔓延度、もしくは転移能の減少などの臨床的有益性がもたらされるならば、その治療は有効である。治療が予防的に行われる場合、「有効な」とは、治療によって、腫瘍の形成が遅延するかもしくは妨げられる、または腫瘍の臨床症状が妨げられるかもしくは軽減されることを意味する。有効性は、特定の腫瘍型を診断または治療する任意の公知の方法により決定される。
【0045】
siRNA療法は、本発明のsiRNAをコードする標準的なベクターにより、および/または合成siRNA分子の送達によるような遺伝子送達システムにより、患者にsiRNAを投与することによって行われる。典型的には、合成siRNA分子は、インビボでのヌクレアーゼ分解を妨げるために化学的に安定化される。化学的に安定化されたRNA分子を調製する方法は、当技術分野において周知である。典型的には、そのような分子は、リボヌクレアーゼの作用を妨げるために修飾された骨格およびヌクレオチドを含む。その他の修飾も可能であり、例えば、コレステロール結合siRNAは、薬理学的特性の改善が示されている(Song et al. Nature Med. 9:347-351 (2003))。適切な遺伝子送達システムには、リポソーム、受容体媒介送達システム、またはとりわけヘルペスウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルスのようなウイルスベクターが含まれ得る。治療用核酸組成物は、薬学的に許容される担体中に製剤化される。治療用組成物はまた、上記の遺伝子送達システムを含んでもよい。薬学的に許容される担体とは、動物への投与に適した生物学的に適合する賦形剤、例えば生理食塩水である。化合物の治療有効量とは、治療動物において、A2254もしくはA5623遺伝子産物の産生の減少、細胞成長、例えば増殖の減少、または腫瘍増殖の減少など、医学的に望ましい結果を生じ得る量である。
【0046】
静脈内、皮下、筋肉内、および腹腔内送達経路などの非経口投与を用いて、A2254またはA5623のsiRNA組成物を送達することができる。乳房腫瘍の治療には、腹腔動脈、脾動脈、または総肝動脈への直接注入が有用である。
【0047】
任意の患者への投与量は、患者の体格、体表面積、年齢、投与しようとする特定の核酸、性別、投与時間および投与経路、全身の健康状態、ならびに同時に投与するその他の薬物を含む、多くの要因に依存する。核酸を静脈内投与する場合の投与量は、核酸分子約106〜1022コピーである。
【0048】
ポリヌクレオチドは、筋肉もしくは皮膚などの組織の間隙への注射、循環もしくは体腔への導入、または吸入もしくは注入といった、標準的な方法で投与する。ポリヌクレオチドは、薬学的に許容される液体担体、例えば水溶性または部分的に水溶性の液体担体と共に動物に注射するか、または送達する。ポリヌクレオチドは、リポソーム(例えば、陽イオン性または陰イオン性リポソーム)と結合させる。ポリヌクレオチドは、プロモーターなどの、標的細胞による発現に必要な遺伝情報を含む。
【0049】
または、腫瘍、特に乳房腫瘍を有する患者は、A5623ポリペプチドとA2254ポリペプチドとの結合を阻害する化合物を投与することによって治療することができる。理論によって縛られることはないが、A5623ポリペプチドとA2254ポリペプチドとの相互作用の阻害剤は、それぞれA2254ポリペプチドに対するA5623ポリペプチドの結合またはA5623ポリペプチドに対するA2254ポリペプチドの結合を変化させる、相互作用する、調節する、妨げる、または消滅させると考えられる。これにより、両タンパク質は、もはや癌細胞において相互作用するように相互作用し得ないと考えられる。したがって、本発明者らの得た知見によって示唆されるような、発癌、特に乳癌発癌における両タンパク質の重要な役割は遮断することができ、こうして癌、特に乳癌の予防または治療を達成することができるとさらに考えられる。
【0050】
特記しない限り、本明細書で使用する専門用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。本発明の実施または試験において、本明細書に記載のものと類似のまたは同等の方法および材料を用いることができるが、適切な方法および材料は以下に記載するものである。本明細書において言及する出版物、特許出願、特許、およびその他の参考文献はすべて、その全体が参照により組み入れられる。抵触する場合、定義を含め、本明細書が優先する。さらに、材料、方法、および実施例は例示にすぎず、限定を意図するものではない。
【0051】
A5623とA2254との結合を減少させるまたは阻害する化合物の産生および同定
実施例において提供される事項を考慮すると、本発明の1つの局面はA5623とA2254との結合を減少させる、または妨げる被験化合物を同定する段階を含む。
【0052】
A5623/A2254の結合を決定するための方法には、2つのタンパク質の相互作用を決定するための任意の方法が含まれる。さらなる方法を以下に記載する。このようなアッセイとしては、従来のアプローチ、例えば、架橋、共免疫沈降、および勾配またはクロマトグラフィーカラムを通した同時精製が挙げられるが、これらに限定されない。加えて、タンパク質-タンパク質相互作用は、Fieldsと共同研究者によって述べられている酵母ベースの遺伝学的システム(Fields and Song, Nature 340:245-6 (1989); Chien et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88, 9578-82 (1991))を用い、Chevray and Nathans (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:5789-93 (1992))に開示されているようにモニターすることができる。酵母GALAなどの多くの転写アクチベーターは2個の物理的に別個のモジュラードメインからなり、片方がDNA結合ドメインとして働き、もう片方が転写活性化ドメインとして機能する。上記刊行物に記載の酵母発現システム(一般に「ツーハイブリッドシステム」と呼ばれる)はこの特性を利用して2つのハイブリッドタンパク質を使用しており、片方は標的タンパク質がGAL4のDNA結合ドメインに融合しており、もう片方は候補活性化タンパク質が活性化ドメインに融合している。GALA活性化プロモーターの制御下にあるGAL1-lacZレポーター遺伝子の発現は、タンパク質-タンパク質相互作用を介するGAL4活性の再構成に依存する。相互作用するポリペプチドを含むコロニーは、β-ガラクトシダーゼに対する色素産生性基質で検出される。ツーハイブリッド技術を用いて2つの特異的なタンパク質間のタンパク質-タンパク質相互作用を同定するための完全なキット(MATCHMAKER(商標))がClontechから市販されている。このシステムを拡張して、特異的タンパク質相互作用に関わるタンパク質ドメインをマッピングすることもできるし、これら相互作用に非常に重要なアミノ酸残基を正確に特定することもできる。
【0053】
本出願では「A5623」または「A2254」と言及していても、両者の相互作用が解析または操作される場合、これらタンパク質の片方または両方の結合部分を、これらタンパク質の全長コピーのかわりに用いることができることが理解される。A2254に結合するA5623の断片は、A5623の標準的な欠失解析および/または突然変異誘発を用いてA2254に結合する断片を同定することによって容易に同定しうる。類似の解析を用いてA2254のA5623結合断片を同定しうる。
【0054】
本明細書に開示されるように、例えば、タンパク質(抗体を含む)、ムテイン(mutein)、ポリヌクレオチド、核酸アプタマー、ならびにペプチドおよび非ペプチド有機低分子を含む任意の被験化合物が、本発明の被験化合物となりうる。被験化合物は、天然の供給源から単離されてもよく、合成的にもしくは組換えにより、またはこれらの任意の組み合わせで調製されてもよい。
【0055】
例えばペプチドは、"Solid Phase Peptide Synthesis" by G. Barany and R. B. Merrifield in Peptides, Vol. 2, edited by E. Gross and J. Meienhoffer, Academic Press, New York, N.Y., pp. 100-118 (1980) に記載されているような固相技術を用いて合成的に産生しうる。同様に核酸も、Beaucage, S.L., & Iyer, R.P. (1992) Tetrahedron, 48, 2223-311; および Matthes et al., EMBO J., 3:801-5 (1984) に記載されているように固相技術を用いて合成することができる。
【0056】
阻害ペプチドが同定されれば、インビボでのペプチドの安定性を増加させるために、様々なアミノ酸模倣体または非天然アミノ酸で本発明のペプチドを修飾することが特に有用である。安定性は数々の方法でアッセイできる。例えば、ペプチダーゼおよび様々な生物学的媒体、例えばヒト血漿および血清などを用いて安定性が試験されている。例えば、Verhoef et al., Eur. J. Drug Metab Pharmacokinet. 11:291-302 (1986) を参照されたい。当技術分野で公知の他の有用なペプチド修飾にはグリコシル化およびアセチル化が含まれる。
【0057】
組換えおよび化学的合成技術は両方とも、本発明の被験化合物を産生するために用いうる。例えば、被験化合物の核酸は適切なベクターへ挿入して産生することができ、これをコンピテント細胞にトランスフェクトして発現させうる。または、核酸はPCR技術または適した宿主中での発現を用いて増幅しうる(例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 1989, Cold Spring Harbor Laboratory, New York, USAを参照されたい)。
【0058】
ペプチドおよびタンパク質も、当技術分野において周知の組換え技術を用いて、例えば、Morrison, J. Bact., 132:349-51 (1977)および Clark-Curtiss & Curtiss, Methods in Enzymology, 101:347-362 (Wu et al., eds, 1983) に記載されているように適した宿主細胞を組換えDNA構築物で形質転換することによって、発現しうる。
【0059】
抗A5623および抗A2254抗体
本発明の一部の局面において、被験化合物は抗A5623または抗A2254抗体である。一部の態様において、これら抗体は、ヒト化抗体を含むがこれに限定されないキメラである。場合によっては、本発明の抗体の態様は、これらタンパク質の片方がもう一方に会合する境界面でA5623またはA2254のいずれかに結合する。一部の態様において、これら抗体は、生理的条件下で少なくとも約105 mol-1、106 mol-1以上、107 mol-1以上、108 mol-1以上、または109 mol-1以上のKaでA5623またはA2254に結合する。このような抗体は、例えばChemicon, Inc. (Temecula Calif.) などの商業的供給元から購入することができ、あるいは実質的に精製されたA5623またはA2254タンパク質、例えばヒトタンパク質またはその断片などを、免疫原として用いて作製することができる。提供された免疫原からモノクローナルおよびポリクローナル抗体の両方を調製する方法は、当技術分野において周知である。精製技術、および特定の免疫原に対する抗体を同定するための方法については、例えば、その内容が参照として本明細書に組み入れられるPCT/US02/07144 (WO/03/077838) を参照されたい。例えば親和性カラムを形成するために抗体親和性マトリックスを用いる抗体精製法も当技術分野において周知で、市販されている(AntibodyShop, Copenhagen, Denmark)。A5623/A2254の会合を阻害しうる抗体の同定は、被験化合物について全般的に以下に詳述するものと同じ試験アッセイを用いて行われる。
【0060】
変換酵素
変換酵素は本発明の被験化合物となりうる。本発明の文脈において、変換酵素とは、A5623もしくはA2254、またはそれら両方に対して共有結合性翻訳後修飾を行う分子触媒である。本発明の変換酵素は、A5623および/またはA2254の1つまたは複数のアミノ酸残基を、修飾タンパク質の構造中のアロステリック変化を引き起こすように、あるいはA5623とA2254との間の結合を妨害するようにA5623/A2254分子結合部位の化学的性質もしくは修飾タンパク質の構造を変えて、共有結合的に修飾する。これら2分子間の結合の妨害とは、結合のKaにおいて、30℃、イオン強度0.1、界面活性剤の非存在下で測定したこれらタンパク質間の結合のKaと比べて、少なくとも25%、30%、40%、50%、60%、70%またはそれ以上低下させることを指す。本発明の例示的な変換酵素には、キナーゼ、ホスファターゼ、アミダーゼ、アセチラーゼ、グリコシダーゼなどが含まれる。
【0061】
被験化合物ライブラリの構築
被験化合物ライブラリの構築は当技術分野において周知であるが、本セクションでは、被験化合物の同定と、A5623/A2254相互作用の有効な阻害剤をスクリーニングするためのこのような化合物のライブラリ構築とにおけるさらなるガイダンスを提供する。化合物ライブラリに関するさらなるガイダンスを本明細書中において、以下に提供する。
【0062】
分子モデリング
被験化合物ライブラリの構築は、求められる特性を有することが知られている化合物の分子構造、ならびに/または阻害する標的分子、すなわちA5623およびA2254の分子構造の知識によって促進される。さらなる評価に適した被験化合物の予備スクリーニングに対する1つのアプローチが、被験化合物とその標的との間の相互作用のコンピュータモデリングである。本発明において、A5623および/またはA2254の間の相互作用をモデリングすることにより、相互作用自体の詳細への洞察が提供され、また、可能性のある、相互作用の分子阻害剤を含む、相互作用を阻害するために可能な方法が示唆される。
【0063】
コンピュータモデリングテクノロジーにより、選択した分子の3次元原子構造の視覚化と、その分子と相互作用するであろう新しい化合物の合理的設計とが可能である。3次元構築物は典型的には、選択した分子のX線結晶構造解析またはNMRイメージングのデータに依存する。分子動態は力場データを必要とする。コンピュータグラフィックシステムは、新しい化合物がどのように標的分子と関連するかを予測することができ、結合特異性を完全にするように化合物および標的分子の構造を実験操作することが可能である。片方または両方に小さな変化を起こしたときに分子-化合物間相互作用がどうなるかの予測には、通常ユーザーが使いやすい、分子設計プログラムとユーザーとの間のメニュー駆動型インターフェースと連係した、分子力学ソフトウェアおよび計算集約型コンピュータが必要である。
【0064】
一般的に述べた上記の分子モデリングシステムの一例は、CHARMmおよびQUANTAプログラム(Polygen Corporation, Waltham, Mass)からなる。CHARMmはエネルギー最小化および分子動態機能を行う。QUANTAは分子構造の構築、グラフィックモデリング、および解析を行う。QUANTAによって、分子の互いの挙動の相互的な構築、修飾、視覚化、および解析が可能である。
【0065】
特定のタンパク質と相互作用する薬物のコンピュータモデリングが多くの論文に概説されている。例えば、Rotivinen, et al. Acta Pharmaceutica Fennica 97, 159-166 (1988); Ripka, New Scientist 54-57 (Jun. 16, 1988); McKinlay and Rossmann, Annu. Rev. Pharmacol. Toxiciol. 29, 111-122 (1989); Perry and Davies, Prog Clin Biol Res.291:189-93(1989); Lewis and Dean, Proc. R. Soc. Lond B Biol Sci. 236, 125-40 and 141-62 (1989);および、核酸成分に対するモデル受容体に関しては、Askew, et al., J. Am. Chem. Soc. 111, 1082-90 (1989)。
【0066】
化学物質をスクリーニングし、画像として描写する他のコンピュータプログラムが、BioDesign, Inc., Pasadena, Calif.、Allelix, Inc, Mississauga, Ontario, Canada、およびHypercube, Inc., Cambridge, Ontarioなどの会社から利用可能である。例えば、DesJarlais et al. (1988) J. Med. Chem. 31:722-9; Meng et al. (1992) J. Computer Chem. 13:505-24; Meng et al. (1993) Proteins 17:266-78; Shoichet et al. (1993) Science 259:1445-50を参照されたい。
【0067】
A5623/A2254相互作用の推定阻害剤が同定されれば、以下に詳述するように、同定された推定阻害剤の化学構造に基づき、コンビナトリアル化学技術を使用して任意の数の変異体を構築することができる。こうして得られる推定阻害剤または「被験化合物」のライブラリを本発明の方法を用いてスクリーニングし、A5623/A2254の会合を阻害するライブラリの被験化合物を同定することができる。
【0068】
コンビナトリアル化学合成
被験化合物のコンビナトリアルライブラリは、A5623/A2254相互作用の公知の阻害剤に存在するコア構造の知識を含む合理的薬物設計プログラムの一部として産生しうる。このアプローチは、ライブラリを妥当なサイズに維持することが可能であり、ハイスループットスクリーニングを促進する。または、単純な、特に短いポリマー分子ライブラリは、ライブラリを構成する分子ファミリーの全ての並べ換えを単純に合成することによって構築しうる。この後者のアプローチの一例は、すべてのペプチドが6アミノ酸長のライブラリであろう。このようなペプチドライブラリは、全ての6アミノ酸配列の並べ換えを含みうる。このタイプのライブラリは直線的コンビナトリアル化学ライブラリと呼ばれる。
【0069】
コンビナトリアル化学ライブラリの調製は当業者に周知であり、化学的または生物学的合成によって生成されうる。コンビナトリアル化学ライブラリには、ペプチドライブラリ(例えば、米国特許第5,010,175号, Furka, Int. J. Pept. Prot. Res. 37:487-93 (1991) および Houghten et al., Nature 354:84-6 (1991) を参照されたい)が挙げられるが、これに限定されない。化学的多様性ライブラリを生成するための他の化学も用いることができる。このような化学としては以下のものが挙げられるが、これらに限定されない:ペプチド(例えばPCT公報WO91/19735)、コードされるペプチド(例えばPCT公報WO93/20242)、ランダムバイオオリゴマー(例えばPCT公報WO92/00091)、ベンゾジアゼピン(例えば米国特許第5,288,514号)、ヒダントイン、ベンゾジアゼピン、およびジペプチドなどのディバーソマー(diversomer)(DeWitt et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6909-13 (1993))、ビニル性(vinylogous)ポリペプチド(Hagihara et al., J. Amer. Chem. Soc. 114:6568 (1992))、グルコース骨格を有する非ペプチド性ペプチド模倣体(Hirschmann et al., J. Amer. Chem. Soc. 114:9217-8 (1992))、低分子化合物ライブラリの類似の有機合成(Chen et al., J. Amer. Chem. Soc. 116:2661 (1994))、オリゴカルバメート(Cho et al., Science 261:1303 (1993))、および/またはペプチジルホスホネート(Campbell et al., J. Org. Chem. 59:658 (1994))、核酸ライブラリ(Ausubel、およびSambrook(全て上記)を参照されたい)、ペプチド核酸ライブラリ(例えば米国特許第5,539,083号を参照されたい)、抗体ライブラリ(例えばVaughan et al., Nature Biotechnology, 14(3):309-14 (1996) およびPCT/US96/10287を参照されたい)、炭水化物ライブラリ(例えばLiang et al., Science, 274:1520-2 (1996) および米国特許第5,593,853号を参照されたい)、有機低分子ライブラリ(例えば、ベンゾジアゼピン、Gordon EM. Curr Opin Biotechnol. 1995 Dec 1; 6(6):624-31 ; イソプレノイド、米国特許第5,569,588号; チアゾリジノン(thiazolidinone)およびメタチアザノン(metathiazanone)、米国特許第5,549,974号; ピロリジン、米国特許第5,525,735号および第5,519,134号; モルホリノ化合物、米国特許第5,506,337号; ベンゾジアゼピン、米国特許第5,288,514号などを参照されたい)。コンビナトリアル化学合成に関するさらなるガイダンスを本明細書中において、以下に提供する。
【0070】
ファージディスプレイ
別のアプローチは、組換えバクテリオファージを用いてライブラリを産生する。この「ファージ法」(Scott and Smith, Science 249:386-90, 1990; Cwirla, et al, Proc. Natl. Acad. Sci., 87:6378-82, 1990; Devlin et al., Science, 249:404-6, 1990)を用いて、非常に大きなライブラリを構築することができる(例えば106〜108化学単位)。第二のアプローチは主に化学的方法を用いるものであり、Geysen法(Geysen et al., Molecular Immunology 23:709-15, 1986; Geysen et al. J. Immunologic Method 102:259-74, 1987)およびFodorらの方法(Science 251:767-73, 1991)がその例である。Furka et al. (14th International Congress of Biochemistry, Volume #5, Abstract FR:013, 1988; Furka, Int. J. Peptide Protein Res. 37:487-493, 1991)、Houghten (米国特許第4,631,211号、 December 1986 発行) 、およびRutter et al. (米国特許第5,010,175号、Apr. 23, 1991 発行)が、アゴニストまたはアンタゴニストとして試験されうるペプチドの混合物を産生するための方法を記載している。
【0071】
コンビナトリアルライブラリ調製用の装置が市販されている(例えば、357 MPS, 390 MPS, Advanced Chem Tech, Louisville KY, Symphony, Rainin, Woburn, MA, 433A Applied Biosystems, Foster City, CA, 9050 Plus, Millipore, Bedford, MAを参照されたい)。また、多数のコンビナトリアルライブラリ自体が市販されている(例えばComGenex, Princeton, N.J., Tripos, Inc., St. Louis, MO, 3D Pharmaceuticals, Exton, PA, Martek Biosciences, Columbia, MDなどを参照されたい)。
【0072】
被験化合物ライブラリのスクリーニング
本発明のスクリーニング方法は、A5623/A2254の会合を妨害する可能性が高い被験化合物の効率的で迅速な同定を提供する。一般に、A5623/A2254の会合を妨害する被験化合物の能力を決定する方法はいずれも本発明と共に使用するのに適する。例えば、ELISA形式の競合および非競合阻害アッセイを利用しうる。対照実験を行ってシステムの最大結合能を決定すべきである(例えば、下記の例においては、結合させたA5623をA2254と接触させ、A5623に結合するA2254の量を決定する)。被験化合物ライブラリのスクリーニングに関するさらなるガイダンスを本明細書中において、以下に提供する。
【0073】
競合アッセイ形式
本発明の被験化合物をスクリーニングするために競合アッセイを用いうる。例として、競合ELISA形式は、固体支持体に結合されたA5623(またはA2254)を含みうる。この結合されたA5623(またはA2254)は、A2254(またはA5623)および被験化合物とインキュベートされる。被験化合物および/またはA2254(もしくはA5623)をA5623(またはA2254)に結合させるのに十分な時間が経過した後、基質を洗浄して非結合物質を除く。次にA5623に結合したA2254の量を決定する。これは、当技術分野で公知の様々な方法のいずれか、例えば、検出可能な標識でタグ標識されたA2254(またはA5623)種を用いて、あるいは洗浄した基質を標識化抗A2254(またはA5623)抗体と接触させて行うことができる。A5623(またはA2254)に結合したA2254(またはA5623)の量は、A2254/A5623の会合を妨害する被験化合物の能力に反比例すると考えられる。抗体を含むがそれに限定されないタンパク質の標識は、Harlow & Lane, Antibodies, A Laboratory Manual (1988) に記載されている。
【0074】
ある変形態様では、A5623(またはA2254)は親和性タグで標識される。標識されたA5623(またはA2254)を次に被験化合物およびA2254(またはA5623)とインキュベートし、免疫沈降する。そして免疫沈降物を抗A2254(またはA5623)抗体を用いたウェスタンブロッティングに供する。前記の競合アッセイ形式のように、A5623(またはA2254)と会合することが見出されたA2254(またはA5623)の量は、A5623/A2254の会合を妨害する被験化合物の能力と反比例する。
【0075】
非競合アッセイ形式
非競合結合アッセイも、本明細書に記載されるような、競合アッセイを用いたスクリーニングに容易に適用できない形式で構築された化合物ライブラリを試験するための初期スクリーニングとして有用となる場合がある。このようなライブラリの一例は、ファージディスプレイライブラリである(例えば、Barret, et al. (1992) Anal. Biochem 204, 357-364を参照されたい)。
【0076】
ファージライブラリは、数多くの異なる組換えペプチドの作業量(working quantity)を素速く産生しうる点において有用である。ファージライブラリはそれ自体は本発明の競合アッセイに向いてはいないが、非競合形式で効率的にスクリーニングされ、どの組換えペプチド被験化合物がA5623またはA2254に結合するかを決定することができる。次いで、結合すると同定された被験化合物を産生し、競合アッセイ形式を用いてスクリーニングすることができる。ファージおよび細胞ディスプレイライブラリの産生およびスクリーニングは当技術分野において周知であり、例えば、Ladner et al., WO 88/06630; Fuchs et al. (1991) Biotechnology 9:1369-72; Goward et al. (1993) TIBS 18:136-40; Charbit et al. (1986) EMBO J 5, 3029-37; Cull et al. (1992) PNAS USA 89:1865-9; Cwirla, et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 87, 6378-82に考察されている。
【0077】
例示的な非競合アッセイは、成分の1つ(A5623またはA2254)の添加なしで、競合アッセイに関して記載したものと類似の手順に従う。しかしながら、非競合形式はA5623またはA2254に対する被験化合物の結合を決定するので、A5623およびA2254の両方に結合する被験化合物の能力を各候補について決定する必要がある。したがって、例として、固定化されたA5623への被験化合物の結合は、結合していない被験化合物を洗い流し、結合した被験化合物を支持体から溶出させた後に、例えば、質量分析、タンパク質測定(BradfordもしくはLowryアッセイ法、または280nmの吸光度測定)によって溶出物を解析することによって、決定しうる。または、溶出工程を省いて、支持体表面での有機層の分光学的特性における変化をモニターすることによって被験化合物の結合を決定してもよい。表面の分光学的特性をモニターするための方法としては以下のものが含まれるが、これらに限定されない:吸光度、反射率、透過率、複屈折、屈折率、回折、表面プラズモン共鳴、偏光解析法、共鳴ミラー法、格子共役導波管(grating coupled waveguide)技術、および多極共鳴分光法(これらは全て当業者に公知である)。溶出工程の必要を省くために、標識された被験化合物もアッセイに用いうる。この場合、非結合物質を洗い流した後に支持体に会合している標識の量が被験化合物の結合に直接比例する。
【0078】
多くの周知のロボットシステムが液相化学用に開発されてきた。これらシステムとしては、Takeda Chemical Industries, LTD.(Osaka, Japan)によって開発された自動合成器のような自動ワークステーションが挙げられ、多くのロボットシステムがロボットアーム(Zymate II, Zymark Corporation, Hopkinton, Mass.; Orca, Hewlett Packard, Palo Alto, Calif.)を利用しており、化学者によって行われるマニュアル合成操作を模倣する。上記装置はいずれも、本発明と共に使用するのに適している。本明細書に述べられるように操作することを可能とする、これら装置に対する修飾(必要であれば)の性質および実施は、関連技術分野の当業者には明らかであろう。加えて、多数のコンビナトリアルライブラリはそれ自体が市販されている(例えば、ComGenex, Princeton, N.J., Asinex, Moscow, Ru, Tripos, Inc., St. Louis, MO, ChemStar, Ltd, Moscow, RU, 3D Pharmaceuticals, Exton, PA, Martek Biosciences, Columbia, MDなどを参照されたい)。
【0079】
変換酵素のスクリーニング
変換酵素である被験化合物は、アッセイする変換酵素に特異的なコファクターおよび補助基質を用いて非競合形式でアッセイしうる。このようなコファクターおよび補助基質は、調べる変換酵素のタイプが与えられれば、当業者に公知である。
【0080】
変換酵素の1つの例示的なスクリーニング手順は、まず、変換酵素に特徴的なタンパク質の共有結合性修飾を行うのに必要なコファクターおよび補助基質の存在下、好ましくは生理的条件下で、A5623および/またはA2254を変換酵素と接触させることを含む。修飾されたタンパク質を次に、結合パートナーに結合する能力(すなわちA5623のA2254に対する結合)について試験する。次に、修飾されたタンパク質の結合パートナーに対する結合を、未修飾の対照対の結合と比較し、上記のKaにおいて要求される変化が達成されたかどうかを決定する。
【0081】
アッセイを行う上でタンパク質の検出を促進するために、当業者に周知の技術を用いて、1つまたは複数のタンパク質を上記のような検出可能な標識で標識してもよい。
【0082】
スクリーニング方法
上記のスクリーニングの態様は、さらなる調査に適する被験化合物のハイスループットな決定に適する。特に、本発明のスクリーニングは、好ましくは以下の検出段階を含む:
(a) 被験化合物の存在下において、A5623ポリペプチドのA2254結合ドメインを含むポリペプチドを、A2254ポリペプチドのA5623結合ドメインを含むポリペプチドと接触させる段階;
(b) ポリペプチド間の結合を検出する段階;および
(c) ポリペプチド間の結合を阻害する被験化合物を選択する段階。
【0083】
または、調査中の被験化合物を増殖中の細胞に加えて、被験化合物を与えていない対照集団の増殖に対する処置細胞の増殖をモニターしてもよい。被験化合物のスクリーニングに適した細胞株は、本明細書に提供される教示から当業者には明らかである。
【0084】
インビボ試験に関しては、認められた動物モデルに被験化合物を投与すればよい。遺伝子を動物細胞へ導入して外来遺伝子を発現させることは、任意の方法、例えば、エレクトロポレーション法(Chu, et al., Nucleic Acids Res 15: 1311-26 (1987))、リン酸カルシウム法(Chen and Okayama, Mol Cell Biol 7: 2745-52 (1987))、DEAEデキストラン法(Lopata et al., Nucleic Acids Res 12: 5707-17 (1984); Sussman and Milman, Mol Cell Biol 4: 1641-3 (1984))、リポフェクチン法(Derijard B, et al. Cell 7: 1025-37 (1994); Lamb et al., Nature Genetics 5: 22-30 (1993): Rabindran et al., Science 259: 230-4 (1993))などに従って行うことができる。遺伝子はタグ(例えばHAまたはMyc)と融合されたタンパク質を発現しうる。
【0085】
A5623およびA2254の細胞内局在は免疫組織化学的染色によって調べることができる。細胞を、タグ標識したA5623、タグ標識したA2254、またはそれらの組み合わせでトランスフェクトする。局在化の画像は蛍光顕微鏡などの顕微鏡を用いて得ることができる。
【0086】
好ましい態様において、A2254およびA5623の両方を発現する細胞は、適した細胞株にA2254およびA5623遺伝子の発現ベクターをトランスフェクトすることによって得ることができる。例えば、HEK293、SW480、またはCOS7細胞を細胞株として用いうる。さらに、検出試薬は好ましくはA2254を認識する抗体である。または、A2254またはA5623をタグとの融合タンパク質として発現させる場合、タンパク質と融合されたタグを認識する抗体も検出試薬として用いうる。本発明のキットにおいて、抗体を蛍光物質(例えば、FITC、TAMRA、またはGFP)で標識してもよい。
【0087】
特に、本明細書において言及したように、本発明者らは、A5623ポリペプチドとA2254ポリペプチドが互いに相互作用することを認めた。したがって、両ポリペプチドの相互作用は、発癌、特に乳癌発癌において重要な役割を果たしていると考えられる。よって、A5623ポリペプチドとA2254ポリペプチドとの相互作用またはその逆の相互作用を阻害する、癌、特に乳癌の治療または予防に有用な化合物をスクリーニングすることが意図される。すなわち、被験化合物の存在下において、A5623ポリペプチドのA2254結合ドメインを含むポリペプチドを、A2254ポリペプチドのA5623結合ドメインを含むポリペプチドと接触させ、2つのポリペプチドの結合を検出し、2つのポリペプチド間の結合を阻害する被験化合物を選択する。当然のことながら、別法として、被験化合物の存在下において、A2254ポリペプチドのA5623結合ドメインを含むポリペプチドを、A5623ポリペプチドのA2254結合ドメインを含むポリペプチドと接触させることも可能である。
【0088】
好ましくは、A2254結合ドメインを含むポリペプチドはA5623ポリペプチドを含み、A5623結合ドメインを含むポリペプチドはA2254ポリペプチドを含む。
【0089】
「接触させる」という用語は、被験化合物を用いる当技術分野で公知の任意の手段および方法により、被験化合物の存在下において、A5623ポリペプチドのA2254結合ドメインを含むポリペプチドを、A2254ポリペプチドのA5623結合ドメインを含むポリペプチドと接触させること、またはA2254ポリペプチドのA5623結合ドメインを含むポリペプチドを、A5623ポリペプチドのA2254結合ドメインを含むポリペプチドと接触させることを包含する。
【0090】
例えば、A5623ポリペプチドとA2254ポリペプチドとの結合の阻害剤をスクリーニングするために、細胞アッセイまたは無細胞アッセイを適用することができる。細胞アッセイの例では、A5623結合ドメインを含むポリペプチドおよびA2254結合ドメインを含むポリペプチドを発現する細胞を、スクリーニングに用いることができる。無細胞アッセイの例では、A5623結合ドメインを含む部分的または完全に精製されたポリペプチド、およびA2254結合ドメインを含む部分的または完全に精製されたポリペプチドを用いることができる。当然のことながら、A5623結合ドメインを含むポリペプチドおよびA2254結合ドメインを含むポリペプチドを発現する細胞の細胞抽出物を用いることも可能である。
【0091】
試験アッセイ法または試験方法のさらなる例は、本明細書に上記した。
【0092】
「被験化合物」または「試験する化合物」とは、A5623とA2254との相互作用の推定阻害剤として、本発明の1つまたは複数のスクリーニング法により試験する分子もしくは物質もしくは化合物もしくは組成物もしくは薬剤、またはそれらの任意の組み合わせを指す。被験化合物は、無機化学物質、有機化学物質、タンパク質、ペプチド、炭水化物、脂質、もしくはそれらの組み合わせなどの任意の化学物質、または本明細書に記載の化合物、組成物、もしくは薬物のいずれかであってよい。「被験化合物」という用語は、本発明との関連で使用する場合、「被験分子」、「被験物質」、「潜在的候補」、「候補」という用語、または本明細書において上記の用語と互換的に用いられることが理解される。
【0093】
したがって、相互作用の阻害剤をスクリーニングする方法において、低分子ペプチドまたはペプチド様分子を用いることが想定される。そのような低分子ペプチドまたはペプチド様分子は、A5623結合ドメインもしくはA2254結合ドメインのいずれか一方またはその両方の相互作用ドメインに結合して占有し、それによってA5623またはA2254結合ドメインがそれぞれA2254ポリペプチドまたはA5623ポリペプチドに接近できないようにする。さらに、任意の生物学的または化学的な組成物または物質も、相互作用阻害剤として想定され得る。阻害剤の阻害機能は、当技術分野において公知の方法により測定することができる。そのような方法は、免疫沈降アッセイ法、ELISA法、RIA法のような相互作用アッセイ法を含む。A5623とA2254との結合またはその逆の結合の阻害剤をスクリーニングする場合に用いる好ましい潜在的候補分子または候補分子混合物は、とりわけ、化学的もしくは生物学的起源の、天然の、ならびに/または合成により、組換えにより、および/もしくは化学的に生成された物質、化合物、または組成物であってよい。したがって、候補分子は、A5623および/またはA2254ポリペプチドに結合するおよび/またはそれと相互作用するタンパク質、タンパク質断片、ペプチド、アミノ酸、および/もしくはそれらの誘導体、またはイオンなどのその他の化合物であってよい。合成化合物ライブラリは、Maybridge Chemical Co.(英国、コーンウォール州、トレビレット)、Comgenex(ニュージャージー州、プリンストン)、Brandon Associates(ニューハンプシャー州、メリマック)、およびMicrosource(コネチカット州、ニューミルフォード)から市販されている。希少化学ライブラリは、Aldrich(ウィスコンシン州、ミルウォーキー)から入手することができる。または、細菌、真菌、植物、および動物抽出物形態の天然化合物のライブラリは、例えばPan Laboratories(ワシントン州、ボセル)またはMycoSearch(ノースカロライナ州)から入手することができ、または容易に作製することができる。さらに、天然のおよび合成により作製されたライブラリおよび化合物は、従来の化学的、物理的、および生化学的手段により容易に改変される。
【0094】
さらに、化学ライブラリの作製は当技術分野において周知である。例えば、コンビナトリアル化学を用いて、本明細書に記載のアッセイ法でスクリーニングする化合物のライブラリを作製する。コンビナトリアル化学ライブラリは、化学合成または生物学的合成により、いくつかの化学「構成単位」反応物を組み合わせることによって作製された多様な化合物の集合である。例えば、ポリペプチドライブラリなどの直線的コンビナトリアル化学ライブラリは、起こり得るすべての組み合わせでアミノ酸を組み合わせて所与の長さのペプチドを得ることによって形成される。化学構成単位のそのような組み合わせ混合により、理論的に何百万という化合物を合成することができる。例えば、互換性のある100個の化学構成単位を系統的に組み合わせて混合することにより、理論的に1億個の四量体化合物または100億個の五量体化合物が合成されることが認められている。(Gallop A, et al. Journal of Medicinal Chemistry, 37(9) 1233-51 (1994))。天然物ライブラリを含む、当業者に公知のその他の化学ライブラリもまた使用することができる。ひとたび作製されたならば、コンビナトリアルライブラリを、所望の生物学的特性を有する化合物についてスクリーニングする。
【0095】
本発明との関連においては、化合物のライブラリをスクリーニングして、A5623ポリペプチドとA2254ポリペプチドとの結合の阻害剤として機能する化合物を同定する。例えば、最初に、当技術分野において周知のコンビナトリアルライブラリ形成方法を用いて、低分子のライブラリを作製する。米国特許第5,463,564号および第5,574,656号は、そのような2つの教示例である。次いで、ライブラリ化合物をスクリーニングして、所望の構造特性および機能特性を有する化合物を同定する。米国特許第5,684,711号は、ライブラリをスクリーニングする方法について考察している。スクリーニング工程を証明すると、A2254結合ドメインを含むポリペプチドおよびA5623結合ドメインを含むポリペプチド、ならびにライブラリの化合物を混合し、互いに相互作用させる。さらに、化合物が2つのポリペプチドの結合を阻害するかどうかを次に観察する。例として、両ポリペプチドの相互作用が蛍光シグナルを発し、被験化合物がポリペプチド間の結合を阻害する場合にその蛍光シグナルが減少するおよび/または消失する限りにおいて、FRET技術を適用することができる。したがって、両ポリペプチドは、FRETに適した標識を含み得る。そのような標識は、当技術分野において一般に公知である。
【0096】
各ライブラリ化合物の特徴は、ポリペプチドの結合の阻害において活性を示す化合物を解析することができ、同定された種々の化合物に共通する特徴を分離して、ライブラリのその後の反復物に組み合わせることができるようにコード化される。化合物のライブラリをスクリーニングしたら、第1ラウンドのスクリーニングで示された、相互作用に対する活性を有するという特徴を有する化学構成単位を用いて、次のライブラリを作製する。この方法を用いることで、候補化合物のその後の反復物は、相互作用の阻害に必要な構造的および機能的特徴をより多く有するようになり、最終的に、2つのポリペプチド間の結合の阻害に関して高い特異性を有する一群の阻害剤を見出すことができる。次いで、これらの化合物を、哺乳動物などの動物において使用するための薬としての安全性および有効性についてさらに試験することができる。この特定のスクリーニング方法が例示にすぎないことは容易に理解されると考えられる。その他の方法は当業者に周知である。
【0097】
例えば、候補薬剤は多くの化学種を包含するが、典型的にはそれらは有機分子であり、好ましくは、50ダルトンを上回り、かつ約2,500ダルトン未満、好ましくは約750ダルトン未満、より好ましくは約350ダルトン未満の分子量を有する低分子有機化合物である。
【0098】
候補薬剤はまた、タンパク質との構造的相互作用、特に水素結合に必要な官能基を含み、典型的には少なくとも1つのアミン基、カルボニル基、ヒドロキシル基、またはカルボキシル基を含み、好ましくは少なくとも2つの化学官能基を含み得る。候補薬剤は、1つまたは複数の上記の官能基で置換された炭素環もしくは複素環構造、および/または芳香族もしくは多環芳香族構造を含む場合が多い。
【0099】
候補薬剤の例示的な種類には、複素環、ペプチド、糖類、ステロイドなどが含まれ得る。化合物は、有効性、安定性、薬学的適合性などを増強するために修飾することができる。薬剤の構造同定を用いて、さらなる薬剤を同定、作製、またはスクリーニングすることができる。例えば、ペプチド剤が同定される場合、D-アミノ酸、特にD-アラニンなどの非天然アミノ酸を用いる、アミノ末端またはカルボキシル末端に官能性をもたせる、例えば、アミノ基に関してはアシル化またはアルキル化、カルボキシル基に関してはエステル化またはアミド化するなどといった種々の方法でこれを修飾して、その安定性を増強することができる。安定化のその他の方法には、例えばリポゾーム内への封入などが含まれ得る。
【0100】
上記の通り、候補薬剤はまた、ペプチド、アミノ酸、糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、核酸、およびそれらの誘導体、構造類似体、または組み合わせを含む生体分子中に見出される。候補薬剤は、合成化合物または天然化合物のライブラリを含む多種多様な供給源から得られる。例えば、多種多様な有機化合物および生体分子のランダム合成および指向合成には、ランダム化されたオリゴヌクレオチドおよびオリゴペプチドの発現を含む、多くの手段が利用できる。または、細菌、真菌、植物、および動物抽出物形態の天然化合物のライブラリを入手することができ、または容易に作製することができる。さらに、天然のまたは合成により作製されたライブラリおよび化合物を、従来の化学的、物理的、および生化学的手段によって容易に改変し、コンビナトリアルライブラリを作製するために使用することができる。構造類似体を作製するために、公知の薬理学的薬剤を、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド形成などの指向性またはランダム化学修飾に供してもよい。その他の被験化合物は、アプタマー、抗体、アフィボディ(affybody)、Trinectin、Anticalin、または同様の化合物であってよい。当然のことながら、A5623またはA2254に特異的なアプタマー、抗体、アフィボディ、Trinectin、またはAnticalinは既にそれ自体、A5623とA2254との結合の阻害剤である可能性があり、したがって、癌、特に乳癌を治療または予防する方法において容易に用いることができると考えられる。
【0101】
本明細書に記載するA5623ポリペプチドとA2254ポリペプチドとの結合の阻害剤をスクリーニングする方法によって同定された化合物は、癌、特に乳癌の予防または治療に有効であり得る。したがって、阻害剤は、A2254結合ドメインおよび/またはA5623結合ドメインと直接または間接的に相互作用する特性を有し、したがって、本明細書に記載するように、これらのドメインがもはや癌細胞、特に乳癌細胞において相互作用するように相互作用し得ないように、これらのドメインの相互作用に影響を及ぼす。
【0102】
例えば、阻害剤は、A2256結合ドメインまたはA5623結合ドメインに対する抗体であってよい。そのような阻害剤の別の例は、アフィボディ、アプタマー、Anticalin、またはTrinectinであってよい。
【0103】
スクリーニングおよび治療のキット
1つの態様において、本発明は、乳癌の治療もしくは予防に有用な化合物をスクリーニングするための製品またはキットであって、以下のものを含むキットを提供する:(a)A5623ポリペプチドのA2254結合ドメイン;(b)A2254ポリペプチドのA5623結合ドメイン、および(c)これら2つのポリペプチド間の相互作用を検出する試薬。上記のように、A2254結合ドメインを含むポリペプチドは、全長A5623ポリペプチドまたはそのA2254結合部分を含みうる。同様に、A5623結合ドメインを含むポリペプチドは、全長A2254ポリペプチドまたはそのA5623結合部分を含みうる。
【0104】
本発明のさらなる態様において、本明細書に記載の病理学的状態を治療するのに有用な物質を含む製品およびキットが提供される。この製品は、本明細書に記載されるような薬剤の容器をラベルと共に含みうる。適した容器には、例えば、ボトル、バイアル、および試験管が含まれる。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの様々な材料から形成されうる。本発明の文脈において、容器とは、細胞増殖性疾患、例えば乳癌を治療するために有効な活性物質を有する組成物を保持するものである。ある態様においては、組成物中の活性物質は、インビボでA5623/A2254の会合を阻害しうると同定された被験化合物(例えば、抗体、低分子など)である。容器上のラベルは、異常な細胞増殖によって特徴付けられる1つまたは複数の状態を治療するために組成物が用いられることを示すべきである。ラベルはまた、本明細書に記載されるようなものの投与およびモニタリング技術に関する指示を表示してもよい。
【0105】
上記の容器に加え、本発明のキットは、任意で薬学的に許容される希釈剤を収容する第二の容器を含んでもよい。さらに、使用説明書と共に、他のバッファー、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、およびパッケージ挿入物を含む、商業的およびユーザーの立場から望ましい他の材料を含みうる。
【0106】
組成物は、必要に応じて、活性成分を含む1つまたは複数の単位用量形態を含むパックまたはディスペンサー装置で提供されてもよい。パックは、例えば、ブリスターパック(blister pack)などの金属またはプラスチックのフォイルを含みうる。パックまたはディスペンサー装置は投与のための説明書を伴ってもよい。また、適合性の薬学的担体中に製剤化された本発明の化合物を含む組成物は、治療が必要な状態の治療のために調製し、適切な容器に入れてラベルすることができる。
【0107】
本発明を実施するための最良の形態
本発明を以下の実施例においてさらに説明するが、これらの実施例は特許請求の範囲に記載される本発明の範囲を限定するものではない。
【0108】
[一般的方法]
細胞株および臨床材料
ヒト乳癌細胞株HBC4、HBC5、MDA-MB-231はYamori博士(財団法人癌研究会、東京)より提供していただき、BT-549、MCF-7、T47D、SKBR3、HCC1937、MDA-MB-435S、YMB1、HBL100、およびCOS-7はATCCから入手した。細胞はすべて適切な培地中で培養した;すなわち、BT549、HBC4、HBC5、SKBR3、T47D、YMB1、およびHCC1937に対してRPMI-1640(Sigma、ミズーリ州、セントルイス)を使用し(2mM L-グルタミンを添加);HBL100、COS7に対してダルベッコ変法イーグル培地(Invitrogen、カリフォルニア州、カールズバッド)を使用し;MCF-7に対して、0.1 mM必須アミノ酸(Roche)、1 mMピルビン酸ナトリウム(Roche)、0.01 mg/mlインスリン(Sigma)を添加したEMEM(Sigma)を使用し;MDA-MB-231およびMDA-MB-435Sに対してL-15(Roche)を使用した。各培地には、10%ウシ胎仔血清(Cansera)および1%抗菌/抗真菌溶液(Sigma)を添加した。MDA-MB-231およびMDA-MB-435S細胞は、CO2を含まない加湿環境下で37℃で維持した。その他の細胞株は、5% CO2を含む加湿環境下で37℃で維持した。臨床試料(乳癌および正常乳管)は、すべての患者にインフォームドコンセントを行った上で、手術標本から採取した。
【0109】
本発明者らのcDNAマイクロアレイ上でスポットA2254およびA5623により示される新規ヒト遺伝子の単離
乳癌において共通して上方制御された遺伝子を検出するため、マイクロアレイ上の27,648遺伝子の全体的な発現パターンをスクリーニングして、i) 閉経前乳癌症例77例のすべて、ii) 浸潤性腺管癌69例、iii) 高分化型障害31例、iv) 中分化型障害14例、またはv) 低分化型傷害24例それぞれの>50%において発現比>3.0を有する遺伝子を選択した。腫瘍細胞で上方制御された全部で493個の遺伝子のうち、情報のある乳癌症例の50%超において発現比が3.0を超え、正常ヒト組織の発現プロファイルにより、心臓、肺、肝臓、腎臓、および骨髄を含む正常器官において低発現を示したという理由で、施設内識別番号A2254およびA5623を有する遺伝子に注目した。
【0110】
半定量的RT-PCR解析
レーザー捕獲した細胞の各集団から全RNAを抽出し、次いで、以前に記載されている通りにT7に基づく増幅および逆転写を行った(Ono K, et al., Cancer Res., 60, 5007-11, 2000)。定量的内部対照としてグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(GAPDH)をモニターすることにより、その後のPCR増幅のために、各一本鎖cDNAの適切な希釈物を調製した。PCRプライマー配列は以下の通りである。
GAPDHに対する
5'-CGACCACTTTGTCAAGCTCA-3' (配列番号:1) および
5'-GGTTGAGCACAGGGTACTTTATT-3' (配列番号:2)、
β2MGに対する
5'-AACTTAGAGGTGGGAGCAG-3' (配列番号:45) および
5'-CACAACCATGCCTTACTTTATC-3' (配列番号:46)、
A2254V1に対する
5'-ACTCTAGGACTTGCATGATTGCC-3' (配列番号:3) および
5'-TGGGTGTCAAACCAAACAGA-3' (配列番号:4)、
A2254V2に対する
5'-GTTAGAACTTGTTTCCTCCTCCG-3' (配列番号:5) および
5'-ATCCTCAATGGTATTTCAGC-3' (配列番号:6)、
A5623共通領域に対する
5'-GTGGTCCTAGGAGACTTGGTTTT-3' (配列番号:7) および
5'-TACATGCATACCCCCAACAA-3' (配列番号:8)、
A5623V1に対する
5'-GCTTCAGCGAGAACTTTC-3' (配列番号:9) および
5'-CAACTGTAACACTCATTCACATC-3' (配列番号:10)、
A5623V2に対する
5'-CTATTCTGAGTTTGCGCGAGAAC-3' (配列番号:11) および
5'-CAACTGTAACACTCATTCACATC-3' (配列番号:10)、
A5623V3に対する
5'-CATCCTGAGTGCGAGAACTTTC-3' (配列番号:12) および
5'-CAACTGTAACACTCATTCACATC-3' (配列番号:10)。
【0111】
ノーザンブロット解析
製造業者の説明書に従ってRNeasyキット(QIAGEN)を用いて、すべての乳癌細胞株から全RNAを抽出した。DNアーゼI(ニッポンジーン、日本、大阪)で処理した後、製造業者の説明書に従ってmRNA精製キット(Amersham Biosciences)を用いてmRNAを単離した。正常成人ヒト乳房(Biochain)、肺、心臓、肝臓、腎臓、骨髄(BD, Clontech、カリフォルニア州、パロアルト)から単離されたポリA(+) RNAと共に各mRNAの1μg分割量を1%変性アガロースゲルで分離し、ナイロン膜に転写した(乳癌ノーザンブロット)。乳癌ノーザンブロットおよびヒト多組織ノーザンブロット(Clontech、カリフォルニア州、パロアルト)を、RT-PCRにより調製したA2254およびA5623の[α32P]-dCTP標識PCR産物とハイブリダイズさせた(以下を参照されたい)。プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーション、および洗浄は、供給業者の推奨に従って行った。ブロットのオートラジオグラフィーは、増感スクリーンを用いて-80℃で14日間行った。A2254(548 bp)およびA5623(454 bp)に対する特異的プローブは、以下のプライマーセットを用いてPCRにより調製した:
A2254共通領域に対する
5'-ACTCTAGGACTTGCATGATTGCC-3' (配列番号:3) および
5'-TGGGTGTCAAACCAAACAGA-3' (配列番号:4)、
A5623共通領域に対する
5'-GTGGTCCTAGGAGACTTGGTTTT-3' (配列番号:7) および
5'-TACATGCATACCCCCAACAA-3' (配列番号:8)。
さらに、特異的A2254V1プローブ(350 bp)を、以下の特異的プライマーセットを用いてPCRにより調製した:
5'-CTGGAAGAGCAGGCTAGCAG-3' (配列番号:13) および
5'-GCTGCGGAGAAAGCTCTATG-3' (配列番号:14)。
【0112】
発現ベクターの構築
A5623およびA2254発現ベクターを構築するため、PRC1 cDNAの全コード配列を、KOD-Plus DNAポリメラーゼ(東洋紡、日本、大阪)を用いてPCRにより増幅した。プライマーセットは以下の通りであった:
A5623-フォワード、
5'-CCGGAATTCTCCGCCATGAGGAGAAGTGA-3' (配列番号:47)
(下線はEcoRI部位を示す)および、
A5623-リバース、
5'-TTGCCGCTCGAGGGACTGGATGTTGGTTGAA-3' (配列番号:48)
(下線はXhoI部位を示す)、
A2254-フォワード、
5'-CCGGAATTCATGGCCATGGACTCGTCG-3' (配列番号:49)および
A2254-リバース、
5'-GCTCCGCTCGAGCTGGGGCCGTTTCTT-3' (配列番号:50)。
PCR産物を、pCAGGS-nHAまたはpCAGGS-Flag発現ベクターのEcoRIおよびXhoI部位に挿入した。
【0113】
抗A5623特異的ポリクローナル抗体および抗A2254特異的ポリクローナル抗体
C末端にHisタグ標識されたエピトープを有するA5623(179〜360および234〜360 a.a.)またはA2254(86〜239および124〜239 a.a.)の2つの断片を発現するように設計したプラスミドを、それぞれpET21ベクター(Novagen、ウィスコンシン州、マディソン)を用いて調製した。組換えペプチドをそれぞれ大腸菌(Escherichia coli)、BL21コドン-プラス株(Stratagene、カリフォルニア州、ラホーヤ)で発現させ、供給業者のプロトコルに従ってNi-NTA樹脂アガロース(Qiagen)を用いて精製した。精製組換えタンパク質を混合し、次いでウサギに免疫した。標準的な方法に従って、免疫血清をアフィニティーカラムで精製した。アフィニティー精製した抗A5623抗体または抗A2254抗体を、以下に記載するようにウェスタンブロッティング、免疫沈降、および免疫細胞染色に使用した。ウェスタンブロット解析により、これらの抗体が、それぞれMCF7乳癌細胞中の内在性A5623タンパク質またはA2254タンパク質を特異的に認識し得ることを確認した。
【0114】
免疫細胞化学染色
乳癌細胞株、MCF7、HBC4、およびHBC5における内在性A5623タンパク質またはA2254タンパク質の細胞内局在を調べるため、細胞を1x105細胞/ウェルで播種した(Lab-Tek IIチャンバースライド、Nalgen Nunc International、イリノイ州、ネーパービル)。インキュベーションの24時間後、細胞は15分間4%パラホルムアルデヒドを含むPBS(-)を用いて固定され、4℃で2.5分間0.1% Triton X-100を含むPBS(-)を用いて透過性を与えられた。続いて、細胞を4℃で12時間、3% BSAのPBS(-)で被覆し、非特異的ハイブリダイゼーションをブロッキングし、その後、1/1000希釈のウサギ抗A5623ポリクローナル抗体または1/1000希釈の抗A2254ポリクローナル抗体と共にインキュベートした。PBS(-)で洗浄した後、1/1000希釈のAlexa488結合抗ウサギ二次抗体(Molecular Probe、オレゴン州、ユージーン)により細胞を染色した。4',6'-ジアミジノ-2'-フェニルインドール二塩酸(DAPI)で核を対比染色した。TCS SP2 AOBS顕微鏡(ライカ、日本、東京)下で蛍光像を取得した。
【0115】
ウェスタンブロッティング解析
製造業者の説明書に従ってFuGENE 6トランスフェクション試薬(Roche)を用いて、COS7細胞にそれぞれ1μgのpCAGGS-A2254-HA、pCAGGS-A5623V1-HA、pCAGGS-A5623V2-HA、またはpCAGGS-A5623V3-HAを一過的にトランスフェクトした。細胞溶解物を10% SDSポリアクリルアミドゲルで分離し、ニトロセルロース膜に転写し、次いで1/1000希釈の一次抗体としてのマウス抗HA抗体(Roche)と共にインキュベートした。二次抗体としてのヒツジ抗マウスIgG-HRP(Amersham Biosciences)と共にインキュベートした後、ECLキット(Amersham Biosciences)を用いてシグナルを可視化した。
【0116】
さらに、乳癌細胞株(BT-474、BT-549、HBC4、HBC5、HBL-100、MCF-7、MDA-MB-231、SKBR3、およびT47D)およびHMEC(ヒト乳腺上皮細胞)における内在性A5623タンパク質またはA2254タンパク質を検出するため、細胞を、0.1%プロテアーゼ阻害剤カクテルIII(Calbiochem、カリフォルニア州、サンディエゴ)を含む溶解緩衝液(50 mM Tris-HCl、pH 8.0/150 mM NaCl/0.5% NP-40)中で溶解した。全タンパク質の量をタンパク質アッセイキット(Bio-Rad、カリフォルニア州、ハーキュリーズ)により測定し、次いでタンパク質をSDS試料緩衝液と混合し、煮沸してから10% SDS-PAGEゲルに添加した。電気泳動後、タンパク質をニトロセルロース膜(GE Healthcare)上にブロットした。タンパク質を含む膜をブロッキング溶液によりブロッキングし、内在性A5623タンパク質またはA2254タンパク質を検出するために、抗A5623ポリクローナル抗体または抗A2254ポリクローナル抗体と共にインキュベートした。最終的に、膜をHRP結合二次抗体と共にインキュベートし、ECL検出試薬(GE Healthcare)によりタンパク質バンドを可視化した。β-アクチンについても試験し、これを添加対照とした。
【0117】
免疫細胞化学染色
A2254、またはA5623V1、A5623V2、およびA5623V3の細胞内局在を調べるため、COS7細胞を全4つの構築物について1x105細胞/ウェルで播種した。24時間後、製造業者の説明書に従ってFuGENE 6トランスフェクション試薬(Roche)を用いて、COS7細胞にそれぞれ1μgのpCAGGS-A2254-HA、pCAGGS-A5623V1-HA、pCAGGS-A5623V2-HA、またはpCAGGS-A5623V3-HAを一過的にトランスフェクトした。次いで、細胞は15分間4%パラホルムアルデヒドを含むPBSを用いて固定され、4℃で2.5分間、0.1% Triton X-100を含むPBSを用いて透過性を与えられた。続いて、細胞を4℃で12時間3% BSAのPBSで被覆し、非特異的ハイブリダイゼーションをブロッキングした。次に、トランスフェクトして構築した各COS7細胞を、1/1000希釈のラット抗HA抗体(Roche)と共にインキュベートした。PBSで洗浄した後、いずれのトランスフェクト細胞も、1/1000希釈のAlexa594結合抗ラット二次抗体(Molecular Probe)により染色した。4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール二塩酸(DAPI)で核を対比染色した。TCS SP2 AOBS顕微鏡(ライカ、日本、東京)下で蛍光像を取得した。
【0118】
psiU6X3.0を用いたA2254およびA5623特異的siRNA発現ベクターの構築
以前の報告(WO2004/076623)に従ってpsiU6BX siRNA発現ベクターを用いて、ベクターに基づくRNAiシステムを確立した。psiU6BX3.0ベクターのBbsI部位に表1の二本鎖オリゴヌクレオチドをクローニングすることにより、A2254(psiU6BX-A2254)およびA5623(psiU6BX-A5623)に対するsiRNA発現ベクターを調製した。psiU6BX3.0ベクターのBbsI部位に
5'-CACCGAAG CAGCACGACTTCTTCTTCAAGAGAGAAGAAGTCGTGCTGCTTC-3' (配列番号:15)、および
5'-AAAAGAAGCAGCACGACTTCTTCTCTCTTGAAGAAGAAGTCGTGCTGCTTC-3' (配列番号:16)
の二本鎖オリゴヌクレオチドをクローニングすることにより、対照プラスミド、psiU6BX-Mockを調製した。
【0119】
siRNAのためのオリゴヌクレオチド配列
A2254およびA5623の低分子干渉RNAのために使用したオリゴヌクレオチド配列を以下に示す。
【0120】
(表1)A2254およびA5623の低分子干渉RNAのためのオリゴヌクレオチド配列

下線は特異的siRNA配列を示す。
【0121】
A2254およびA5623の遺伝子サイレンシング効果
ヒト乳癌細胞株、T47DおよびHBC5を10cmシャーレにプレーティングし(1x 106細胞/シャーレ)、供給業者の推奨に従ってFuGENE6試薬(Roche)を用いて、陰性対照としてのpsiU6BX-Mock、psiU6BX-A2254、またはpsiU6BX-A5623をトランスフェクトした。各構築物のトランスフェクションの7日後に、細胞から全RNAを抽出し、次いで上記のA2254およびA5623の共通領域に対する特異的プライマーを用いて半定量的RT-PCRにより、siRNAのノックダウン効果を確認した。内部対照としてのGAPDHに対するプライマーは以下の通りである:
5'-CGACCACTTTGTCAAGCTCA-3' (配列番号:1)および
5'-GGTTGAGCACAGGGTACTTTATT-3' (配列番号:2)。
さらに、T47DおよびHBC5細胞株を用いた、siRNAを発現するトランスフェクタントを、0.7 mg/mlネオマイシンを含む選択培地中で28日間培養した。4%パラホルムアルデヒドで固定した後、トランスフェクト細胞をギムザ液で染色して、コロニー形成を評価した。細胞生存率を定量するために、MTTアッセイを行った。ネオマイシン含有培地中で12日間培養した後、MTT溶液(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロマイド)(Sigma)を0.5 mg/mlの濃度で添加した。37℃で2.5時間インキュベートした後、酸-SDS(0.01N HCl/10% SDS)を添加した;紺青色の結晶を溶解させるために、この懸濁液を激しく混合し、次いで37℃で一晩インキュベートした。570 nmでの吸光度をMicroplate Reader 550(BioRad)で測定した。
【0122】
免疫沈降およびウェスタンブロッティング
細胞を溶解緩衝液(50 mM Tris-HCL (pH 8.0)、150 mM NaCl、0.5% NP-40、およびプロテアーゼ阻害剤カクテルセットIII(Calbiochem、カリフォルニア州、サンディエゴ))中で溶解させた。等量の全タンパク質を、1 mgのラット抗HA抗体(Roche)またはマウス抗Flag抗体(Santa Cruz)と共に4℃で1時間インキュベートした。免疫複合体をプロテインG-Sepharose(Zymed Laboratories、カリフォルニア州、サウスサンフランシスコ)と共に1時間インキュベートし、次いで溶解緩衝液で洗浄した。共沈したタンパク質をSDS-PAGEによって分離した。SDS-PAGEによって分離したタンパク質をニトロセルロース膜に転写し、次いでラット抗HA抗体またはマウス抗Flag抗体と共にインキュベートし、HRP結合二次抗体と共にインキュベートした後に、ECLキット(Amersham Biosciences)を用いてシグナルを可視化した。
【0123】
A5623またはA2254を安定して発現するNIH3T3細胞の確立
A5623もしくはA2254発現ベクターまたはモック(mock)ベクターを、上記の通りにFUGENE6を用いてNIH3T3細胞にトランスフェクトした。トランスフェクト細胞を、0.9 mg/mlジェネティシン(G418)(Invitrogen)を含む培地中でインキュベートした。限界希釈により、クローンNIH3T3細胞をサブクローニングした。HAタグ標識したA5623またはA2254の発現を、抗HAモノクローナル抗体を用いてウェスタンブロット解析により評価した。最終的にクローン数個が確立され、A5623-NIH3T3またはA2254-NIH3T3と命名した。
【0124】
A2254の増殖促進効果を調べるため、4つの独立したA2254-NIH3T3細胞および3つの独立したMOCK-NIH3T3細胞のそれぞれ5000個の細胞を播種し、6日間にわたり毎日、MTTアッセイにより細胞数を計数した。これらの実験は3回行った。
【0125】
さらに、マトリゲルによりA2254-NIH3T3細胞(A2254-NIH3T3-3および-4)の浸潤について調べた。簡潔に説明すると、2つの独立したA2254-NIH3T3細胞(A2254-NIH3T3-3および-4)および1つの独立したMOCK-NIH3T3細胞のそれぞれ10000個の細胞を播種し、10% FCSを含むDMEM中でコンフルエント段階まで培養した。トリプシン処理により細胞を回収し、血清およびプロテアーゼ阻害剤を添加していないDMEMで洗浄し、1X 105細胞/mLの濃度でDMEMに懸濁した。細胞懸濁液を調製する前に、マトリゲルマトリックス(Becton Dickinson Labware、マサチューセッツ州、ベッドフォード)の乾燥した層を、DMEMにより室温で2時間再水和した。10% FBSを含むDMEMを、24ウェルマトリゲル浸潤チャンバーの各下部チャンバーに添加し、細胞懸濁液 0.5 mL(5X104細胞)を上部チャンバーの各インサートに添加した。プレートを37℃で22時間インキュベートした。インキュベーション後、供給業者(Bection Dickinson Labware)による指示通りにチャンバーを処理し、マトリゲル被覆インサートを介して浸潤した細胞を固定してギムザにより染色した。
【0126】
免疫組織化学染色
乳癌組織および正常組織におけるA5623タンパク質の発現パターンを、抗A5623ウサギポリクローナル抗体を用いて調べた。簡潔に説明すると、パラフィン包埋標本をキシレンおよびエタノールで処理し、タンパク質ブロッキング試薬(Dako Cytomation、カリフォルニア州、カーピンテリア)によりブロッキングした。抗体希釈溶液中のポリクローナル抗体(1/100)を添加し、次いで基質-色素原(DAKO液体DAB色素原、DakoCytomation)で染色した。最終的に、核と細胞質を識別するために、組織標本をヘマトキシリンで染色した。
【0127】
[結果]
乳癌細胞において上方制御される遺伝子としてのA2254およびA5623の同定
27,648個のヒト遺伝子に相当するcDNAマイクロアレイを用いて、閉経前乳癌患者77名に由来する癌細胞の遺伝子発現プロファイルを解析して、乳癌細胞において共通して上方制御されていた493遺伝子を同定した。そのうち、キネシンファミリーメンバー2C(KIF2C)を表す、施設内コードA2254を有する遺伝子(配列番号;35、36)、および細胞質分裂のタンパク質制御因子1(PRC1)を表す、施設内コードA5623を有する遺伝子(Genbank登録番号NM_003981;配列番号;39、40)に注目した。A2254およびA5623遺伝子の発現は、正常乳管細胞と比較して、それぞれマイクロアレイにおいて乳癌症例の細胞60例中44例および58例中37例で上昇していた。これらの上方制御された遺伝子の発現を確認するため、半定量的RT-PCR解析を行って、乳癌試料と、正常乳管細胞を含む正常ヒト組織との発現レベルを比較した。最初に、A2254の発現が、正常乳管細胞、ならびに乳腺、肺、心臓、肝臓、腎臓、および骨髄を含む正常ヒト組織と比較して、臨床的乳癌試料12例(低分化型)のうち7例において発現上昇を示すことを見出した(図1A、上パネル)。さらに、この遺伝子は、9種の乳癌細胞株のすべてにおいて同様に過剰発現していた(図1A、下パネル)。次に、A5623の発現が、正常ヒト組織、特に正常乳管細胞と比較して、臨床的乳癌試料12例(低分化型)のうち7例において発現上昇を示し(図1B、上パネル)、調べた9種の乳癌細胞株のすべてにおいて過剰発現している(図1B、下パネル)ことを同様に見出した。
【0128】
これらの遺伝子の発現パターンをさらに調べるため、プローブとしてA2254およびA5623のcDNA断片を用いて、複数のヒト組織および乳癌細胞株でノーザンブロット解析を行った(材料および方法を参照されたい)。A2254は、精巣および胸腺を除く正常ヒト組織において全く発現していないかまたは検出不可能であるのに対して(図2A;上パネル)、骨髄を除く他の正常組織と比較して、乳癌細胞株のすべてにおいて驚くほど過剰発現していた(図2A;下パネル)。A5623も同様に精巣でのみ発現しているのに対して(図2B、上パネル)、骨髄を除く他の正常組織、特に正常ヒト乳房と比較して、乳癌細胞株のすべてにおいて有意に過剰発現していた(図2B、下パネル)。したがって、本発明者らは、乳癌特異的に発現する転写産物に注目した。
【0129】
A2254およびA5623のゲノム構造
A2254およびA5623の全cDNA配列を得るために、乳癌細胞株、T47Dを鋳型として用いてRT-PCRを行った。A2254は21エキソンからなり、キネシンファミリーメンバー2C(KIF2C)を示し、染色体1p34.1に位置する。A2254の全長mRNA配列は2886ヌクレオチドを含み、725アミノ酸をコードしていた。
【0130】
A2254は、それぞれA2254V1(GenBank登録番号;AB264115、配列番号;35、36)およびA2254V2(GenBank登録番号;AY026505、配列番号;37、38)に相当する、21および20エキソンからなる2つの異なる転写変異体を有する(図3A、上パネル)。V1変異体のエキソン1および2はそれぞれ185 bpおよび94 bpであり、一方、V2変異体はV1のエキソン1および2を有さず、エキソン1として346 bpからなる新たなエキソンを有している。V2変異体の最終エキソン(エキソン20)は、V1変異体の最終エキソン(エキソン21)の3'末端よりも537 bp短かった。A2254V1およびA2254V2変異体の全長cDNA配列は、それぞれ2886および2401ヌクレオチドを含んでいた。これらの変異体のORFは、それぞれのエキソン1内から開始する。最終的に、V1およびV2転写産物は、それぞれ725および671アミノ酸をコードする。乳癌試料および正常ヒト組織における各変異体の発現パターンをさらに確認するため、各変異体と反応するプライマーセットを用いて半定量的RT-PCRを行った。その結果、A2254 V1変異体が、V2変異体の発現と比較して乳癌細胞において顕著に発現しているのに対し、V2変異体は精巣でのみ発現していることが認められた(図3A;下パネル)。したがって、本発明者らはA2254 V1変異体に注目した。
【0131】
A5623も同様に、それぞれA5623V1(GenBank登録番号;NM_003981;配列番号;39、40)、A5623V2(GenBank登録番号;NM_199413;配列番号;41、42)、および5623V3(GenBank登録番号;NM_199414;配列番号;43、44)に相当する、15、14、および14エキソンからなる3つの異なる転写変異体を有する(図3B、上パネル)。V1のエキソン13および14に選択的変化が存在し、その他の残りのエキソンは全変異体に共通していた。V2変異体はV1のエキソン14を有さず、最終エキソン内に新たな早期の終止コドンが生じている。V3変異体のエキソン14は完全に欠失しており、V3のエキソン13は3'末端においてV1のエキソン13よりも77 bp短く、同様に最終エキソン内に新たな早期の終止コドンが生じていた。A5623V1、A5623V2、およびA5623V3変異体の全長cDNA配列は、それぞれ3128、3091、および3011ヌクレオチドからなる。これらの変異体のORFは、それぞれのエキソン1内から開始する。最終的に、V1、V2、およびV3転写産物は、それぞれ620、606、および566アミノ酸をコードする。乳癌試料および正常ヒト組織における各変異体の発現パターンをさらに確認するため、各変異体と反応するプライマーセットを用いて半定量的RT-PCRを行った。その結果、すべての変異体が、正常ヒト組織と比較して乳癌細胞において高度に過剰発現していることが認められた(図3B、下パネル)。したがって、A5623の全変異体について機能解析をさらに行う。
【0132】
A2254およびA5623の細胞内局在
A2254およびA5623の特徴をさらに調べるため、COS7細胞におけるこれらの遺伝子産物の細胞内局在を調べた。最初に、A2254タンパク質を発現するプラスミド(pCAGGS-A2254-HA)をCOS7細胞に一過的にトランスフェクトしたところ、81 KD-A2254タンパク質が、ウェスタンブロット解析により予測される大きさとして認められた(図4A)。加えて、免疫細胞化学染色により、外来A2254がトランスフェクト細胞において原形質膜下に位置したことが明らかにされる(図4B)。驚くべきことには、免疫細胞化学染色における陽性シグナルは細胞と細胞が付着する膜において消失し、これにより、この遺伝子が細胞間の相互作用または細胞極性の重要な役割を果たし得ることが示唆される。
【0133】
次に、A5623V1、V2、およびV3タンパク質を発現するプラスミド(pCAGGS-A5623-HA)をCOS7およびT47D細胞に同様に一過的にトランスフェクトしたところ、外来A5623 V1、V2、およびV3タンパク質が、ウェスタンブロット解析によりそれぞれ予測される大きさとして認められた(図4C)。さらに免疫細胞化学染色により、全変異体のA5623タンパク質が、トランスフェクト細胞において中間径フィラメントとして細胞小器官に局在したことが明らかにされ(図4D、E、F)、これにより、A5623もまた細胞間の相互作用の重要な役割を果たし得ることが示唆される。
【0134】
A5623またはA2254に対するポリクローナル抗体を作製した後、実験対照としてHMEC(ヒト哺乳動物上皮細胞)を用いて、乳癌細胞株、BT-474、BT-549、HBC4、HBC5、HBL-100、MCF-7、MDA-MB-231、SKBR3、およびT47D由来の細胞溶解物中のA5623タンパク質またはA2254タンパク質の内在性発現をウェスタンブロット解析により調べた(図7A)。HMEC細胞が非常に弱い発現を示したのに対して、乳癌細胞株はすべて高レベルのA5623またはA2254発現を示した。抗A5623ポリクローナル抗体を用いた乳癌細胞株、HBC4、HBC5、およびMCF7のその後の免疫細胞化学的解析から、内在性A5623が間期細胞の細胞質および/または核器官に主に局在することが示された。特に、内在性A5623は、すべての乳癌細胞株において中間フィラメント網に認められた。細胞が有糸分裂を経て進行すると、A5623は顕著な再分布を起こした。A5623は分裂前期に紡錘体極と共に局在し、次いで分裂中期から分裂後期の初期段階にかけて紡錘体全体と共に局在した。分裂後期の半ばまでに、A5623は細胞において、分裂後期紡錘体中間帯に一連の細い棒のように集中した(図7B)。抗A2254ポリクローナル抗体を用いた乳癌細胞株、HBC5のその後の免疫細胞化学的解析から、トランスフェクト細胞において外来A2254は原形質膜下に位置したものの、内在性A2254は主に間期細胞の細胞小器官に局在することが認められることが示された。細胞が有糸分裂に進行すると、A2254は顕著な再分布を起こした。A2254は分裂中期細胞では細胞質になお局在していたが、細胞の分裂後期紡錘体中間帯に一連の細い棒のように集中した(図7B)。最終的に、分裂終期細胞においてこのタンパク質は中央体に蓄積した。これらの知見から、以前に記載されたHeLa細胞と同様に、乳癌細胞での細胞質分裂におけるA5623およびA2254の重要な役割が示唆される(Mollinari C, et al. J Cell Biol, 2002;157; 1175-86.;Mollinari C, et al. Mol Biol Cell. 2005;16;1043-55.)。
【0135】
乳癌組織切片および正常組織切片におけるA5623発現についてさらに調べるため、抗A5623抗体を用いて免疫組織化学染色を行った。乳癌の3つの異なる組織学的亜型である分泌管内癌、乳頭腺管癌、および硬癌の細胞質および核に強力な染色が同定されたが、その発現は正常乳房組織においてほとんど検出不可能であった(図7C、上パネル)。さらに、ノーザンブロット解析の結果と一致して、その発現は精巣で検出され、心臓、肺、肝臓、および腎臓のいずれにおいても発現は認められなかった(図7C、下パネル)。
【0136】
A2254およびA5623の発現を減少させるように設計された低分子干渉RNA(siRNA)の増殖阻害効果
A2254およびA5623の増殖促進の役割を評価するため、哺乳動物ベクターに基づくRNA干渉(RNAi)技法により、A2254およびA5623の過剰発現を示した乳癌細胞株T47DおよびHBC5において、内在性A2254およびA5623の発現をノックダウンした(上記を参照されたい)。A2254およびA5623の発現レベルを、半定量的RT-PCR実験により調べた。図5および6に示されるように、各遺伝子の2つのsiRNA構築物、A2254(si2およびsi5)およびA5623(si1およびsi2)特異的siRNAは、対照siRNA構築物(psiU6BX-Mock)と比較して、それぞれの遺伝子の発現を有意に抑制した(図5A、6A)。A2254およびA5623特異的siRNAによる細胞増殖阻害を確認するため、コロニー形成アッセイおよびMTTアッセイをそれぞれ実施した。A2254構築物(si2およびsi5)(図5B、C)およびA5623構築物(si1およびsi2)(図6B、C)を導入すると、上記の発現減少の結果と一致して、T47DおよびHBC5細胞の増殖が抑制された。結果はそれぞれ、独立した3回の実験によって確認した。これらの知見から、A2254およびA5623が乳癌の細胞増殖において重要な機能を有することが示唆される。
【0137】
A2254の発癌活性
A2254の増殖促進効果をさらに確認するため、外来A2254を安定して発現するNIH3T3派生細胞(NIH3T3-A2254-1、-2、-3、および4)を確立した。ウェスタンブロット解析から、3つの派生クローン(NIH3T3-A2254-1、-2、および-3)における高レベルの外来A2254タンパク質、および1つのクローン(A2254-4)における低レベルのA2254が示された(図9A)。続くMTTアッセイにより、外来A2254の過剰発現が細胞増殖を有意に増強しないことが示された(図9B)。これらの知見から、A2254遺伝子産物の欠如は乳癌細胞の生存に重大な影響を及ぼすものの、この遺伝子のみを過剰発現させても増殖増強活性がないことが示唆される。
【0138】
さらに、外来A2254がトランスフェクト細胞において原形質膜下に位置することが初めに認められたため、マトリゲル浸潤アッセイを行って、A2254が細胞運動性において何らかの役割を有するかどうかを判定した。外来A2254を安定して発現するNIH3T3派生細胞(NIH3T3-A2254-3および-4)のマトリゲルを介した浸潤は、ウェスタンブロットの結果によるA2254タンパク質発現に依存して、Mock安定トランスフェクト細胞(NIH3T3-Mock)と比較して有意に増強され(図9C)、このことからA2254遺伝子が腫瘍細胞の浸潤においても重要な役割を有することが示唆される。
【0139】
A5623のA2254との相互作用
乳癌細胞におけるA5623の生理的機能についてさらに調べるため、その相互作用タンパク質を同定することを試みた。考えられ得る候補A5623相互作用タンパク質として、キネシンファミリーメンバー2C/有糸分裂動原体結合キネシン(KIF2c/MCAK)タンパク質(A2254)を見出した。その理由は、このタンパク質が、分裂後期の後期または分裂終期の細胞において中央体または収縮環近傍に局在すること、ならびに中間帯形成および細胞質分裂において機能することが知られているからである。加えて、A5623は、いくつかのキネシンファミリータンパク質と相互作用することが報告されている(Kurasawa Y, et al. EMBO J 2004;23; 3237-48.;Zhu C, et al. Proc Natl Acad Sci USA 2005;102;343-8.;Gruneberg U, et al. 2006; 172; 363-72.)。
【0140】
最初に、半定量的RT-PCR解析により乳癌症例におけるA2254の発現パターンを調べ、乳癌症例においてA2254とA5623が同時に上方制御されることを見出した(図8A)。続いて、COS7細胞に同時トランスフェクトしたFlagタグ標識A5623およびHAタグ標識A2254を用いて、共免疫沈降実験を行った。抗Flag抗体および抗HA抗体を用いて、Flagタグ標識A5623がHAタグ標識A2254と共沈すること(図8B)、および逆にHAタグ標識A2254がFlagタグ標識A5623と共沈することが同様に確認され(図8C)、よってこれらの2つのタンパク質の相互作用が示された。
【0141】
次に、外来A5623およびA2254を安定して発現するNIH3T3派生細胞(NIH3T3-A5623およびNIH3T3-A2254)を確立した。免疫細胞化学的解析から、NIH3T3細胞中の内在性マウスA5623と安定に発現された外来A2254が、分裂後期の後期の中間帯形成物に共局在すること(図8D、左パネル)、およびNIH3T3細胞中の内在性A2254と安定に発現された外来A5623が、分裂後期の後期の中間帯形成物に共局在すること(図8D)が明らかになった。乳癌細胞中の内在性A5623と内在性A2254の共局在に関するさらなる調査が必要ではあるものの、これらの結果から、A5623とA2254のコンホメーションが癌細胞の細胞質分裂において重要な役割を果たすことが強く示唆される。
【0142】
[考察]
cDNAマイクロアレイによるゲノム全体の乳癌の正確な発現プロファイルによって、本発明者らは、正常ヒト組織と比較して乳癌細胞において有意に過剰発現する新規遺伝子としてA2254およびA5623を単離した。
【0143】
さらに、ノーザンブロット解析から、A5623およびA2254の発現が、精巣および骨髄を除く、調べたいずれの正常ヒト組織においてもほとんど検出不可能であることが示された。さらに、抗A5623ポリクローナル抗体または抗A2254ポリクローナル抗体を用いた免疫組織化学染色実験から、乳癌組織切片におけるA5623またはA2254発現の上方制御が明らかに示された。これらの結果から、この遺伝子が、乳癌に対する抗癌剤を開発する上で有用な標的となることが示された。
【0144】
本発明者らの免疫細胞化学染色実験により、A5623は、間期に乳癌細胞の細胞質および/または核に局在し、分裂後期の後期に中間帯に局在し、ならびに分裂終期に収縮環に局在することが示された。
【0145】
さらに、乳癌細胞をsiRNAで処理することにより、全3つの標的遺伝子、A2254およびA5623の発現が有効に阻害され、乳癌の細胞/腫瘍増殖が有意に抑制されることが実証された。これらの知見から、A2254およびA5623が腫瘍細胞増殖において重要な役割を果たし、抗癌剤を開発するための有望な標的となり得ることが示唆される。
【0146】
本発明者らは、siRNAにより内在性A5623をノックダウンすると、乳癌細胞で細胞質分裂が起こらなくなり、結果として多核細胞の蓄積およびそれに続く細胞死が起こることを実証した。これらの知見から、A5623が乳癌細胞の細胞質分裂において役割を担うこともまた示唆される。A5623はまた、いくつかのキネシンファミリータンパク質と相互作用することが報告されている(Kurasawa Y, et al. EMBO J 2004;23; 3237-48.;Zhu C, et al. Proc Natl Acad Sci USA 2005;102;343-8.;Gruneberg U, et al. 2006; 172; 363-72.)。A5623がいくつかの分子、例えば有糸分裂事象、特に細胞質分裂と関連のあるKIF4またはKIF14と相互作用し得ることも報告されている(Kurasawa Y, et al. EMBO J 2004;23; 3237-48.;Zhu C, et al. Proc Natl Acad Sci USA 2005; 102;343-8.)。しかしながら、本発明者らの乳癌の発現プロファイルによると、KIF4およびKIF14はいずれも乳癌において発現していなかった(データは示さず)。したがって、その相互作用タンパク質を同定することにより乳癌細胞におけるA5623の生物学的役割をさらに調べ、候補相互作用タンパク質として、A2254(キネシンファミリーメンバー2C/有糸分裂動原体結合キネシン)タンパク質を同定した。その理由は、このタンパク質が、分裂後期の後期または分裂終期の細胞において中央体または収縮環近傍に局在すること、ならびに中間帯形成および細胞質分裂において機能することが知られているからである。図8に示されるように、細胞周期中、特に分裂終期細胞の細胞質分裂時の中央体におけるA2254とA5623のインビボ相互作用および共局在が実証された。乳癌症例におけるこのような証拠から、それらが相互作用して乳房発癌において重要な役割を果たすことが示唆された。さらに、A5623のA2254との結合領域を決定した(51〜70および200〜490アミノ酸)(データは示さず)。A5623の機能のさらなる解析が必要ではあるものの、提供したデータは、乳癌発癌のより深い理解および乳癌に対する新規治療法の開発に寄与するはずである。
【0147】
産業上の利用可能性
本発明者らは、A2254またはA5623遺伝子を特異的に標的とする低分子干渉RNA(siRNA)により、細胞増殖が抑制されることを示した。したがって、この新規siRNAは、抗癌薬の開発にとって有用な標的である。例えば、A2254もしくはA5623の発現を遮断する、またはその活性を妨げる物質は、抗癌剤、特に乳癌(BRC)治療のための抗癌剤として治療上有用である可能性がある。
【0148】
本発明をその特定の態様に関して詳細に説明してきたが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、様々な変更および修正がなされ得ることは、当業者にとって明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1】乳癌患者由来の腫瘍細胞(上パネル)(3T、31T、149T、175T、431T、453T、491T、554T、571T、709T、772T、および781T)、乳癌細胞株(HBC4、HBC5、HBL100、HCC1937、MCF7、MDA-MB-231、SKBR3、T47D、YMB1)(下パネル)、および正常ヒト組織における、(A) A2254および(B) A5623の発現に関する半定量的RT-PCRの結果を示す。
【図2】種々のヒト組織(上パネル)ならびに乳癌細胞株および正常ヒト重要器官(下パネル)における、(A) A2254および(B) A5623転写産物のノーザンブロット解析の写真を示す。
【図3】(A) A2254および(B) A5623のゲノム構造を示す。A2254は、V1およびV2と称される2つの異なる変異体を有し、A5623も同様に3つの異なる変異体(V1、V2、およびV3)を有する。上パネル;ゲノム構造、下パネル;各変異体特異的半定量的RT-PCRの結果。
【図4】図4Aは、ウェスタンブロット解析によるA2254タンパク質の外来発現を示す。図4Bは、A2254タンパク質の細胞内局在を示す。図4Cは、ウェスタンブロット解析によるA5623V1、A5623V2、およびA5623V3タンパク質の外来発現を示す。図4D〜Fは、(D) A5623V1、(E) A5623V2、および(F) A5623V3タンパク質の細胞内局在を示す。
【図5】乳癌細胞における、A2254の発現を減少させるように設計された低分子干渉RNA(siRNA)の増殖阻害効果を示す。図5Aは、乳癌細胞株であるT47D(左パネル)およびHBC5(右パネル)におけるA2254の内在性発現の抑制を示す半定量的RT-PCRを示す。GAPDHを内部対照として使用した。図5Bは、T47D細胞(左パネル)およびHBC5細胞(右パネル)における、A2254のノックダウンによるコロニー数の減少を示すMTTアッセイを示す。図5Cは、T47D細胞(左パネル)およびHBC5細胞(右パネル)における、A2254のノックダウンによるコロニー数の減少を示すコロニー形成アッセイを示す。
【図6】乳癌細胞における、A5623の発現を減少させるうように設計された低分子干渉RNA(siRNA)の増殖阻害効果を示す。図6Aは、乳癌細胞株であるT47D細胞(左パネル)およびHBC5細胞(右パネル)におけるA5623の内在性発現の抑制を示す半定量的RT-PCRを示す。GAPDHを内部対照として使用した。図6Bは、T47D細胞(左パネル)およびHBC5細胞(右パネル)における、A5623のノックダウンによるコロニー数の減少を示すMTTアッセイを示す。図6Cは、T47D細胞(左パネル)およびHBC5細胞(右パネル)における、A5623のノックダウンによるコロニー数の減少を示すコロニー形成アッセイを示す。
【図7】乳癌細胞株および組織切片におけるA5623およびA2254の発現。図7A、抗A5623抗体または抗A2254抗体を用いてウェスタンブロット解析により調べた、HMEC細胞株と比較した乳癌細胞株における内在性A5623およびA2254タンパク質の発現。図7B、細胞周期中の乳癌細胞における内在性A5623タンパク質またはA2254タンパク質の細胞内局在。A5623に関してはHBC4、HBC5、およびMCF7細胞を、ならびにA2254に関してはHBC5細胞を、アフィニティー精製した抗A5623ポリクローナル抗体または抗A2254ポリクローナル抗体(緑色)および核を識別するためのDAPI(青色)を用いて免疫細胞化学染色した(材料および方法を参照されたい)。白矢印は、分裂終期細胞の中央体におけるA5623の局在を示す。図7C、乳癌組織切片および正常組織切片(正常乳房組織、肺、心臓、肝臓、腎臓、および精巣)の免疫組織化学染色の結果。抗A5623抗体を用いて内在性A5623タンパク質を染色した。正常乳房組織(試料番号10441)では発現はほとんど検出されなかったが、充実腺管癌(試料番号234)、乳頭腺管癌(試料番号240)、および硬癌(試料番号179)を含む調べた癌組織のすべてにおいて、癌細胞は強く染色された。代表的な図は、最初の倍率、x200での顕微鏡観察による。
【図8】A5623とA2254との相互作用。図8A、半定量的RT-PCRによる、乳癌細胞株(HBC4、HBC5、HBL100、HCC1937、MCF7、MDA-MB-231、SKBR3、T47D、YMB1)および正常ヒト組織(N;正常乳管細胞、MG;乳腺、LUN;肺、LIV;肝臓、HEA;心臓、KID;腎臓、およびBM;骨髄)におけるA5623およびA2254の発現。図8B、C、A5623とA2254の共免疫沈降。HAタグ標識A2254タンパク質およびFlagタグ標識A5623タンパク質をトランスフェクトしたCOS7細胞の細胞溶解物を、抗HAまたは抗Flagで免疫沈降した。免疫沈降物を、モノクローナル抗HA抗体または抗Flag抗体を用いて免疫ブロットした。図8D、安定発現細胞における内在性A5623またはA2254の細胞内局在。左パネルは、安定A2254発現細胞において、内在性A5623タンパク質(赤色)が外来A2254タンパク質(緑色)と共局在したことを示し、右パネルは、安定A5623細胞における内在性A2254(赤色)と外来A5623(緑色)の共局在を示す。内在性A2254タンパク質(赤色)は、外来A5623タンパク質と共局在した(右パネル)。
【図9】NIH3T3細胞における外来A2254の増殖促進効果または浸潤効果。図9A、高レベルもしくは中レベルの外来A2254を発現する細胞、またはモックベクターをトランスフェクトした細胞のウェスタンブロット解析。A2254発現の外因的誘導は、抗HAタグモノクローナル抗体により確認した。β-アクチンを添加対照とした。図9B、NIH3T3-A2254細胞のインビトロ増殖。MTTアッセイにより測定した、A2254(NIH3T3-A2254-#1、-#2、-#3、および-#4)およびモック(NIH3T3-Mock-#1、-#2、-#3)をトランスフェクトしたNIH3T3細胞。図9C、NIH3T3-A2254--#3および-#4ならびにNIH3T3-Mock-#1の浸潤性の増強を示すマトリゲル浸潤アッセイ。マトリゲル被覆フィルターを介して遊走する細胞の数を計数した。アッセイは3つ組のウェルで3回行った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A2254(配列番号:35または37)またはA5623(配列番号:39、41、または43)の発現を阻害する低分子干渉RNA(siRNA)を含む組成物を対象に投与する段階を含む、対象における乳癌を治療または予防する方法。
【請求項2】
siRNAが、A2254またはA5623由来の配列に特異的にハイブリダイズするセンス核酸配列およびアンチセンス核酸配列を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
siRNAが、標的配列として配列番号:21、25、29、および33からなる群より選択される配列に対応するリボヌクレオチド配列を含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
siRNAが一般式
5'-[A]-[B]-[A']-3'
を有し、式中、
[A]は、配列番号:21、25、29、および33のヌクレオチドからなる群より選択される配列に対応するリボヌクレオチド配列であり、
[B]は、3〜23ヌクレオチドからなるリボヌクレオチドループ配列であり、かつ
[A']は、[A]の相補配列からなるリボヌクレオチド配列である、
請求項3記載の方法。
【請求項5】
組成物がトランスフェクション促進剤を含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
センス鎖およびアンチセンス鎖を含む二本鎖分子であって、センス鎖が配列番号:21、25、29、および33からなる群より選択される標的配列に対応するリボヌクレオチド配列を含み、かつアンチセンス鎖が該センス鎖に相補的なリボヌクレオチド配列を含み、該センス鎖と該アンチセンス鎖が互いにハイブリダイズして形成される二本鎖分子であって、A2254またはA5623遺伝子を発現する細胞に導入した場合に該遺伝子の発現を阻害する、二本鎖分子。
【請求項7】
標的配列が、配列番号:35、37、39、41、および43の群より選択されるヌクレオチド配列に由来する少なくとも約10個の連続したヌクレオチドを含む、請求項6記載の二本鎖分子。
【請求項8】
標的配列が、配列番号:35、37、39、41、および43の群より選択されるヌクレオチド配列に由来する約19〜約25個の連続したヌクレオチドを含む、請求項7記載の二本鎖分子。
【請求項9】
一本鎖リボヌクレオチド配列を介して連結されたセンス鎖およびアンチセンス鎖を含む単一のリボヌクレオチド転写産物である、請求項8記載の二本鎖分子。
【請求項10】
約100ヌクレオチド長未満のオリゴヌクレオチドである、請求項7記載の二本鎖分子。
【請求項11】
約75ヌクレオチド長未満のオリゴヌクレオチドである、請求項10記載の二本鎖分子。
【請求項12】
約50ヌクレオチド長未満のオリゴヌクレオチドである、請求項11記載の二本鎖分子。
【請求項13】
約25ヌクレオチド長未満のオリゴヌクレオチドである、請求項12記載の二本鎖分子。
【請求項14】
二本鎖分子が約19〜約25ヌクレオチド長のオリゴヌクレオチドである、請求項13記載の二本鎖ポリヌクレオチド。
【請求項15】
請求項7記載の二本鎖分子をコードするベクター。
【請求項16】
二次構造を有する転写産物をコードし、かつセンス鎖およびアンチセンス鎖を含む、請求項15記載のベクター。
【請求項17】
転写産物が、センス鎖とアンチセンス鎖を連結する一本鎖リボヌクレオチド配列をさらに含む、請求項16記載のベクター。
【請求項18】
センス鎖核酸およびアンチセンス鎖核酸の組み合わせを含むポリヌクレオチドを含むベクターであって、該センス鎖核酸が配列番号:21、25、29、および33のヌクレオチド配列を含み、かつ該アンチセンス鎖核酸がセンス鎖と相補的な配列からなる、ベクター。
【請求項19】
ポリヌクレオチドが一般式
5'-[A]-[B]-[A']-3'
を有し、式中、
[A]は配列番号:21、25、29、および33のヌクレオチド配列であり;
[B]は3〜23ヌクレオチドからなるヌクレオチド配列であり;かつ
[A']は[A]に相補的なヌクレオチド配列である
請求項18記載のベクター。
【請求項20】
活性成分としての、A2254またはA5623の発現を阻害する低分子干渉RNA(siRNA)の薬学的有効量、および薬学的に許容される担体を含む、乳癌を治療または予防するための薬学的組成物。
【請求項21】
siRNAが、標的配列として配列番号:21、25、29、および33からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項20記載の薬学的組成物。
【請求項22】
siRNAが一般式
5'-[A]-[B]-[A']-3'
を有し、式中、
[A]は配列番号:21、25、29、および33のヌクレオチド配列に対応するリボヌクレオチド配列であり;
[B]は3〜23ヌクレオチドからなるリボヌクレオチド配列であり;かつ
[A']は[A]に相補的なヌクレオチド配列である
請求項21記載の組成物。
【請求項23】
乳癌の治療または予防に有用な化合物をスクリーニングする方法であって、以下の段階を含む方法:
(a) 被験化合物の存在下において、A5623ポリペプチドのA2254結合ドメインを含むポリペプチドを、A2254ポリペプチドのA5623結合ドメインを含むポリペプチドと接触させる段階;
(b) ポリペプチド間の結合を検出する段階;および
(c) ポリペプチド間の結合を阻害する被験化合物を選択する段階。
【請求項24】
A2254結合ドメインを含むポリペプチドがA5623ポリペプチドを含む、請求項23記載の方法。
【請求項25】
A5623結合ドメインを含むポリペプチドがA2254ポリペプチドを含む、請求項23記載の方法。
【請求項26】
乳癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングするためのキットであり、以下のものを含むキット:
(a) A5623ポリペプチドのA2254結合ドメインを含むポリペプチド、
(b) A2254ポリペプチドのA5623結合ドメインを含むポリペプチド、および
(c) ポリペプチド間の相互作用を検出する試薬。
【請求項27】
A2254結合ドメインを含むポリペプチドがA5623ポリペプチドを含む、請求項26記載のキット。
【請求項28】
A5623結合ドメインを含むポリペプチドがA2254ポリペプチドを含む、請求項26記載のキット。
【請求項29】
対象における乳癌を治療または予防する方法であって、A5623ポリペプチドとA2254ポリペプチドとの結合を阻害する化合物の薬学的有効量を投与する段階を含む方法。
【請求項30】
乳癌を治療または予防するための組成物であって、A5623ポリペプチドとA2254ポリペプチドとの結合を阻害する化合物の薬学的有効量、および薬学的に許容される担体を含む組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図4F】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−502113(P2009−502113A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−503305(P2008−503305)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【国際出願番号】PCT/JP2006/314945
【国際公開番号】WO2007/013574
【国際公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】