説明

乳製品用調味料及びその製造方法

【課題】特に低脂肪あるいは無脂肪の乳製品、それを利用した食品に添加するだけで、風味や食感を改善し、コク、脂肪感、濃厚感、乳感、甘味などを付与することのできる乳製品用調味料を提供する。
【解決手段】5’−グアニル酸ナトリウムを3重量%以上含有する酵母エキス、好ましくは酵母エキス中の全アミノ酸に対するペプチドの割合が90重量%以上、と、脱脂粉乳及び/又は脱脂乳を含む乳製品用調味料。特に該酵母エキスと脱脂粉乳とを水に溶解した後、乾燥した粉末状のものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳製品に添加して風味や食感を改善し、コク、脂肪感、濃厚感、乳感、甘味などを付与することのできる乳製品用調味料、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、毎日の生活習慣の積み重ねによって引き起こされる生活習慣病が注目されている。生活習慣病にはいくつかの原因が考えられている。例えば、食生活面を見ると、必要なカロリーを越えての摂取、特に脂肪は過剰に摂取すると脂肪細胞に蓄積しやすくなり、肥満の大きな原因となることが知られている。そのため、低カロリー化としては、体脂肪の蓄積を抑制・防止するための、脂肪酸ショ糖エステル、中鎖脂肪酸トリグリセライドあるいは油脂代替としてのデンプン、ホエー蛋白質、あるいは特定の粒子径、疎水度を持つ炭酸カルシウム等の微細粒子、等が報告されている。
【0003】
低カロリー化については乳製品についても例外ではなく、低脂肪、無脂肪という乳脂肪の含有量が少ないアイスクリームやヨーグルト等のダイエット食品も開発されている。これら食品のコク味あるいは濃厚感は乳脂肪分によるところが大きいことから、乳脂肪分にかえてそれらを補うための方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、フルクタンあるいはポリデキストロースを添加する方法が、特許文献2には、甘草、ステビアより抽出された高甘味度甘味物質とマルトデキストリン、グルコマンナンを併用する方法が、特許文献3には、果汁と酵母エキスを混合加熱した調味料を用いる方法が、特許文献4には、水溶性食物繊維、例えばガラクトマンナン、を配合する方法が、更に、特許文献5には、乳あるいは乳製品を原料として製造された呈味素材、たんぱく濃縮ホエイパウダー、カゼイン等の無脂乳固形分、糖アルコール等甘味素材及び呈味剤として酵母エキスを含有した乳化油脂組成物、が開示されている。
これら方法によると、一定の効果は得られるものの、製造方法が煩雑であったり、乳製品の風味や食感を改善し、コク、濃厚感などを付与する点で、まだまだ満足できるものではなかった。
【特許文献1】特開平10−179025号公報
【特許文献2】特開平11−299426号公報
【特許文献3】特開2006−61066号公報
【特許文献4】特開2005−245438号公報
【特許文献5】特開2004−147628号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、乳製品に添加するだけで、乳製品の風味や食感を改善し、コク、脂肪感、濃厚感、乳感、甘味などを付与することのできる乳製品用調味料及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究の結果、特定の酵母エキスと脱脂粉乳あるいは脱脂乳を用いることで課題が解決できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、
(1)5’−グアニル酸ナトリウムを3重量%以上含有する酵母エキスと脱脂粉乳及び/又は脱脂乳を含む乳製品用調味料、
(2)酵母エキス中の全アミノ酸に対するペプチドの割合が90重量%以上である、上記(1)記載の乳製品用調味料、
(3)乳製品が、低脂肪又は無脂肪の乳製品である、上記(1)乃至(2)記載の乳製品用調味料、
(4)乳製品がアイスクリーム様乳製品である、上記(1)乃至(3)のいずれか一に記載の乳製品用調味料、
(5)5’−グアニル酸ナトリウムを3重量%以上含有する酵母エキスと脱脂粉乳を水に溶解し乾燥する、粉末状の乳製品用調味料の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の乳製品用調味料は、乳あるいは乳製品、及びそれらを使用した食品、特に低脂肪あるいは無脂肪の製品に添加するだけで、風味や食感を改善し、コク、脂肪感、濃厚感、乳感、甘味などを付与することができる。更に、一度乾燥して粉末状としたものは、酵母臭、雑味が少なく、応用できる範囲も広く、取り扱いも容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に使用する酵母エキスは、5’−グアニル酸ナトリウム(以下、GMPと略称する。)を3重量%以上含有したものであり、更に5’−イノシン酸ナトリウム(以下、IMPと略称する。)を3重量%以上含有したものが好ましい。GMPの含有量がそれ未満であると、風味、コクや旨味を十分に付与することができない。
また、酵母エキス中のペプチドの割合が、全アミノ酸に対して90重量%以上のものが、食感、脂肪感、濃厚感をより強く与えるため、特に好ましい。
かかる酵母エキスは、酵母菌体内の酵素を失活させ、酵母を熱水等により抽出した抽出物、あるいは酵母に細胞壁溶解酵素などを添加して得られた抽出物を、核酸分解酵素、必要に応じてアデニル酸分解酵素を作用させることにより容易に製造することができる。
また、酵母エキス中のペプチドの割合が高いものは、蛋白質を分解できる蛋白質分解酵素等を使用することなく製造することが好ましいことはいうまでもない。
これら酵母エキスに用いられる酵母としては、食品あるいは食品添加物として用いられる酵母で、例えば、パン酵母、ビール酵母、トルラ酵母などを挙げることができ、中でもトルラ酵母が好ましい。
なお、本発明でいうペプチドとは、ペプチド結合によってアミノ酸が2個以上が酸アミド結合したものをいい、全アミノ酸量より遊離のアミノ酸量を引くことにより算出した。
【0008】
本発明に使用する脱脂粉乳、脱脂乳は、生乳、牛乳又は特別牛乳から乳脂肪分を除去したもの、あるいはそれからほとんどの水分を除去して粉末状にしたものをいう。
【0009】
本発明の乳製品用調味料は、GMPを3重量%以上含有した酵母エキスと、脱脂粉乳あるいは脱脂乳を含むものである。
酵母エキスと脱脂粉乳(脱脂乳)との混合割合は、固形分の重量比で、酵母エキス:脱脂粉乳(脱脂乳)=0.1〜20:99.9〜80、好ましくは1〜20:99〜80、更に好ましくは5〜20:95〜80、が望ましい。
本発明の乳製品用調味料は、両者を混合するだけでもよいが、酵母エキスと脱脂粉乳を水に溶解し、次いで乾燥することにより、粉末状にすることが、酵母臭、雑味の低減、乳製品・食品への応用の範囲の広さ、取り扱いやすさ、から、好ましい。
乾燥は、水溶液をスプレードライ、ドラムドライ、フリーズドライ、バキュームドライなどの方法により実施することができ、乾燥条件は公知の条件に準じて行うことができる。
【0010】
本発明の乳製品用調味料は、乳及び乳製品、及びそれらを使用した飲食品に利用することができ、例えば、低脂肪乳、ラクトアイス、アイスミルク、アイスクリーム、チーズ、ヨーグルト、ミルクプリン、チョコレート、スナック菓子、菓子パン、バター、マーガリン、紅茶飲料、コーヒー飲料、クリームシチュー、クリームスープ、グラタン等に添加して利用することができ、低脂肪、無脂肪の乳製品に用いることが望ましく、例えば、アイスクリーム様乳製品(アイスミルク、ラクトアイス)が特に好ましい。
添加量は、添加する乳製品、あるいは食品に応じて大きく変動し得るが、概ね、乳製品あるいは食品に対して、少なくとも0.1%程度添加すれば明らかな効果を生じさせることができ、一般には0.05〜0.1%程度添加される。
本発明の乳製品用調味料は、乳製品、あるいは食品の製造工程のどの工程においても添加することができる。
【実施例】
【0011】
以下、実施例を挙げて、本発明を詳細に説明する。
製造例1
キャンディダ・ウチルスKJS−0582株(FERM P−7396)の10%菌体懸濁液1000mlを硫酸でpH3.5に調整し、60℃、30分間処理した後、遠心分離で菌体を回収し水で洗浄した。本菌体を水で菌体濃度10%に調整、懸濁した後、90℃、30分間加熱し、菌体内酵素を完全に失活させ、40℃、pH7.0で細胞壁溶解酵素(ツニカーゼ大和化成製)0.5gを加え4時間反応した。遠心分離により菌体残渣を除去し、得られた上澄液をpH5に調整し、リボヌクレアーゼアマノD(天野エンザイム製)0.1gを加え65℃で5時間反応、次いでデアミナーゼ(天野エンザイム製)0.3gを加え50℃で4時間反応した。反応終了後、反応液を加熱し添加した酵素を失活させた後、濃縮、スプレードライし、酵母エキス30gを得た。
本酵母エキスは、GMP5.5重量%、IMP5.5重量%を含有していた。また、酵母エキス中のペプチドの含有量は92.7重量%(全アミノ酸量:17.8重量%、遊離アミノ酸量:1.3重量%)であった。
【0012】
実施例1
脱脂粉乳(北海道乳業製)90gと製造例1で得た酵母エキス10gを、500mlの脱イオン水に溶かした。次に、この溶液を、入口温度200℃、出口温度110℃の条件でスプレードライヤーにかけ、82.2%の回収率で、本発明の粉末状の乳製品用調味料を得た。
【0013】
試験例1
脱脂粉乳(北海道乳業製)2.7g/100ml溶液と、同溶液に製造例1で得た酵母エキス0.3gを添加溶解した溶液とを用い、パネラー3名により官能評価を行った。
評価は、脱脂粉乳単独(対照区)及び酵母エキス添加区のうち、強く感じる方を挙げることにより行った。
結果を表1に示す。なお、表中の数字は人数を示す。
【0014】
【表1】

【0015】
試験例2
脱脂粉乳(北海道乳業製)0.045gと製造例1で得た酵母エキス0.005gとを100mlの低脂肪乳(日本ミルクコミュニティ製)に溶解した液(対照区)と、実施例1で得た乳製品用調味料0.05gを100mlの低脂肪乳(日本ミルクコミュニティ製)に溶解した液(試験区)について、パネラー3名により官能評価を行った。
評価は、対照区及び試験区のうち、強く感じる方を挙げることにより行った。
結果を表2に示す。なお、表中の数字は人数を示す。
【0016】
【表2】

【0017】
評価例1
製造例1で得た酵母エキスを添加したラクトアイス(無脂乳固形分10%、乳脂肪分0%)を常法に準じて作製し、酵母エキス無添加品(対照区)と酵母エキス添加品(添加区)で比較官能検査を行った。
官能評価はパネラー14名により2点嗜好法で行った。
ラクトアイスの組成を表3に、官能評価の結果を表4に示す。
【0018】
【表3】

【0019】
【表4】

【0020】
評価例2
実施例1で得た乳製品用調味料を添加したホワイトソースを常法に準じて作製し、無添加品(対照区)と調味料添加品(添加区)で比較官能検査を行った。
官能評価はパネラー14名により2点嗜好法で行った。
ホワイトソースの組成を表5に、官能評価の結果を表6に示す。
【0021】
【表5】

【0022】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0023】
以上説明してきた通り、本発明によると、特に低脂肪あるいは無脂肪の乳製品、それを利用した食品に添加するだけで、風味や食感を改善し、コク、脂肪感、濃厚感、乳感、甘味などを付与することのできる乳製品用調味料が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5’−グアニル酸ナトリウムを3重量%以上含有する酵母エキスと脱脂粉乳及び/又は脱脂乳を含む乳製品用調味料。
【請求項2】
酵母エキス中の全アミノ酸に対するペプチドの割合が90重量%以上である、請求項1記載の乳製品用調味料。
【請求項3】
乳製品が、低脂肪又は無脂肪の乳製品である、請求項1乃至2記載の乳製品用調味料。
【請求項4】
乳製品がアイスクリーム様乳製品である、請求項1乃至3のいずれか1項記載の乳製品用調味料。
【請求項5】
5’−グアニル酸ナトリウムを3重量%以上含有する酵母エキスと脱脂粉乳を水に溶解し、乾燥することを特徴とする、粉末状の乳製品用調味料の製造方法。

【公開番号】特開2008−237037(P2008−237037A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−78350(P2007−78350)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000142252)株式会社興人 (182)
【Fターム(参考)】