説明

乳酸の製造方法

【課題】セルロース系原料からの乳酸又は乳酸エステルの簡易な製造方法の提供。
【解決手段】炭水化物含有原料を、III族金属塩を含む水性溶媒又はアルコール系溶媒中、酸素の非存在下で加熱処理することにより、乳酸及び/又は乳酸エステルを製造することを特徴とする、炭水化物含有原料の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース等の炭水化物から乳酸等を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖類を原料として発酵法により生産される乳酸は、医薬品、化粧品、香料、農薬などの各種製品の中間原料あるいはポリマー原料として極めて有用である。そのため、従来から、乳酸を工業的に製造する方法がいくつか提案されている。
【0003】
現在、工業的に実施されている乳酸の製造法は糖類の乳酸発酵によるものである(特許文献1参照)。
【0004】
しかし、このような生物的な方法は一般に反応速度が遅く、巨大な発酵漕が必要となる他、生成する乳酸の濃度が低いため、精製のためのエネルギー消費量が大きくなるという問題がある。
【0005】
生物的な方法によらない乳酸の製造方法としては、炭水化物をアルカリの存在下で水熱処理する化学的な方法が知られている。例えば、糖類(非特許文献1、2)、セルロース(非特許文献3)、あるいは有機性廃棄物(非特許文献4)をこの方法で処理すれば、高温高圧の反応条件下で分解した炭水化物の一部が異性化して乳酸が生成することが知られている。しかし、この方法では、乳酸はアルカリと反応して乳酸塩となっているため、乳酸を酸として分離するためには反応液に何らかの無機酸を添加して酸性にしなければならず、アルカリと無機酸が量論的に消費されるという問題がある。
【0006】
アルカリを使わない乳酸の化学的な製造方法としては、スズ化合物を触媒として、デンプン、オリゴ糖、あるいは単糖を、アルコールと反応させることにより、乳酸エステルに変換する方法が知られている(特許文献1)。しかし、この方法では、セルロース系の原料を用いることができず、生成物も乳酸エステルに限られる。
【0007】
ところで、セルロース系の原料を化学的な反応により直接有用物質に変換する試みが行われている。例えば、バイオマス廃棄物を、メタノールを主成分とする溶媒中で250℃以上に加熱するとメチルグルコシド等の有用化合物に変換できることが知られている(特許文献2)。また、塩化ランタンを触媒として、セルロースを水溶液中で250℃に加熱するとHMFやレブリン酸が生成することが知られている(非特許文献5)。しかしこれらの方法による乳酸や乳酸エステルの生成は報告されていない。
【0008】
再生可能資源であるバイオマスからポリマー原料等として有用な乳酸を製造するためには、現在の工業的方法では、まずバイオマス中の炭水化物を単糖にまで加水分解し、乳酸発酵させる必要がある。しかし糖原料としてのデンプンは食料と競合するため、より豊富に存在し、食料との競合がないセルロースを利用して乳酸を製造する方法の開発が望まれている。しかし、セルロースの糖化は、まだ有効な加水分解法が開発されていないことからなお困難なのが実状である。セルロース系バイオマス原料から糖化過程を経由することなく直接乳酸を製造する方法を開発することができれば、その工業的な意義は計り知れないものがある。
【0009】
【特許文献1】特開2001−354616号公報
【特許文献2】特開2001−170601号公報
【非特許文献1】Byung Y.Y. and Montgomery R., Carbohydrate Research, Vol.280 (1996) p.27-45
【非特許文献2】Byung Y.Y. and Montgomery R., Carbohydrate Research, Vol.280(1996) p.47-57
【非特許文献3】Niemelae K. and Sjoestroem E., Biomass, 11 (1986) p.215-221
【非特許文献4】Armando T.Q. et al., Journal of Hazardous Materials, B93 (2002) p.209-220
【非特許文献5】Seri K.i. et al., Bioresource Technology,81 (2002) p.257-260
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、セルロース系原料から乳酸又は乳酸エステルを簡易に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ルイス酸触媒として作用するIII族金属塩の存在下で、セルロース等の炭水化物系原料に水性溶媒等を加えて酸素の非存在下で加熱することにより、乳酸を他の有機酸よりも高収率で生成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下を包含する。
炭水化物含有原料を、III族金属塩を含む水性溶媒又はアルコール系溶媒中、酸素の非存在下で加熱処理することにより、乳酸及び/又は乳酸エステルを生成させることを特徴とする、炭水化物含有原料の処理方法。
【0013】
この方法においては、試料を200℃〜300℃で加熱することによって上記加熱処理を行うことが好ましい。
【0014】
この方法においてより好適な炭水化物含有原料は、セルロース、ヘミセルロース、セロビオース、デンプン、マルトース、グルコース、マンノース、フルクトース、ガラクトース、グロース、アラビノース、若しくはキシロース、又はそれらの少なくとも1つを含有する原料である。
【0015】
この方法において好適なIII族金属塩は、III族金属のトリフルオロメタンスルホン酸塩又はハロゲン化物である。
【0016】
この方法においては、処理する炭水化物含有原料中の炭水化物量に対して質量比で7倍以上の量の水性溶媒若しくはアルコール系溶媒を、III族金属塩を含める水性溶媒又はアルコール系溶媒として用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の方法では、より温和な条件下で、乳酸又は乳酸エステルを高効率で簡便に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の乳酸又は乳酸エステルの製造方法について詳細に説明する。
本発明では、ルイス酸触媒であるIII族金属塩の存在下で、炭水化物含有原料(例えば、セルロース系バイオマス原料等)を、水性溶媒中、酸素の非存在下で加熱処理することにより、炭水化物から乳酸が生成される反応に基づき、乳酸を含む反応生成物を取得することができる。この方法を用いれば、炭水化物含有原料から容易に乳酸を製造することができる。
【0019】
本発明ではまた、ルイス酸触媒であるIII族金属塩の存在下で、炭水化物含有原料(例えば、セルロース系バイオマス原料等)を、アルコール系溶媒中、酸素の非存在下で加熱処理することにより、炭水化物から乳酸を経由することなく、直接乳酸エステルを含む反応生成物を取得することができる。この方法では、アルコール系溶媒が水を含む場合には、乳酸も生成されうる。さらに、この方法では乳酸エステルとともにレブリン酸エステルも生成されうる。
【0020】
本発明に係る炭水化物からの乳酸又は乳酸エステルの生成反応は、例えば、セルロースを原料とする場合には、以下のように進行する。
【0021】
【化1】

【0022】
上記で、Rは水素あるいはアルキル基を示す。セルロースは、水性溶媒又はアルコール系溶媒中で、ルイス酸であるIII族金属塩の作用により分解され、結果として、グルコース、乳酸を含む各種の有機酸、HMF(ヒドロキシメチルフルフラール)、及びフルフラールが生成する。本発明はこれらの乳酸又は乳酸エステルの製造を可能にする炭水化物含有原料の処理方法を提供する。
【0023】
本発明の方法において原料として使用できる炭水化物含有原料は、炭水化物を含有する任意の原料であってよく、特に限定されないが、例えば、炭水化物を主成分として含むバイオマス原料が好ましい。限定するものではないが、炭水化物含有原料は、単糖類、二糖類、多糖類などの任意の炭水化物であってよい。炭水化物含有原料は、例えば、セルロース、ホロセルロース、セロビオース、デンプン(例えば、可溶性デンプン)、マルトース、グルコース、マンノース、フルクトース、ガラクトース、グロース等の六炭糖を含む炭水化物、ヘミセルロース、キシロース、アラビノース等の五炭糖を含むヘミセルロース系物質、又はそれらの少なくとも1つを含有する、例えばリグノセルロース系の原料であってもよい。そのような原料としては、例えば、古紙、製材残材、麦藁、コーンストーバー、コーンコブ、トウモロコシの穂などの農産廃棄物をはじめとするリグノセルロース系バイオマス原料、デンプンやグルコース等の糖類を含む食品廃棄物等であってもよい。
【0024】
本発明の方法では、ルイス酸触媒としてIII族金属塩(希土類金属塩)を使用する。III族金属塩としては、特に限定されないが、サマリウム(Sm)、ランタン(La)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、イッテリビウム(Yb)、セリウム(Ce)、ネオジム(Nd)等のIIIa族遷移金属、インジウム(In)等のIIIb族典型金属の塩を少なくとも1種類用いることが好ましい。塩としては、ハロゲン化物やトリフルオロメタンスルホン酸塩が特に好ましい。ハロゲン化物としては、限定されるものではないが、塩化物、臭化物、ヨウ化物などが挙げられる。
【0025】
III族金属塩の使用量は、限定するものではないが、炭水化物含有原料中の炭素量に対して質量比で1/1000〜1/1、好ましくは1/100〜1/3である。
【0026】
本発明の方法で用いる水性溶媒は、水であってもよいし、他の水溶性成分を含む水ベースの溶媒であってもよい。水としては、蒸留水、イオン交換水、又は工業用水等を使用することが好ましい。また水性溶媒は、特に、乳酸等の生成物を分離した後の触媒を含有するか、あるいは含有しない水を循環して使用することも好ましい。
【0027】
本発明の方法で用いるアルコール系溶媒とは、メタノール、エタノール、ブタノールなどの任意のアルコール又はそれらのアルコールを主成分とする溶媒(例えば含水アルコールなど)である。本発明の方法で用いるアルコール系溶媒はまた、1種類のアルコールからなる100%アルコールであってもよいし、複数種のアルコールからなるアルコール混合物であってもよい。またアルコール性溶媒は、特に、乳酸等の生成物を分離した後の触媒を含有するか、あるいは含有しないアルコールを循環して使用することも好ましい。
【0028】
これらの水性溶媒又はアルコール系溶媒としては、炭水化物含有原料中の炭水化物量に対して質量比で少なくとも3倍以上、好ましくは7〜1000倍、より好ましくは10〜500倍、さらに好ましくは20〜100倍の量の水性溶媒又はアルコール系溶媒を用いることが好ましい。特に、水性溶媒を使用する場合には7〜1000倍、典型的には20〜100倍の量を用いることがより好ましい。またアルコール系溶媒を使用する場合には3〜1000倍、典型的には20〜100倍の量を用いることがより好ましい。溶媒量が少ないと乳酸あるいは乳酸エステルの生成量が低下し、あまり多いと溶媒の加熱や生成物の分離のためのエネルギー消費量が多くなる点で好ましくない。
【0029】
本発明の方法では、炭水化物含有原料を、III族金属塩を含む水性溶媒又はアルコール系溶媒中、酸素の非存在下で加熱処理する。加熱条件は、限定するものではないが、少なくとも150℃以上、好ましくは180℃〜300℃まで加熱することである。特に、水性溶媒を使用する場合には200〜300℃、典型的には250〜300℃の加熱温度を用いることがより好ましい。またアルコール系溶媒を使用する場合には150〜250℃、典型的には200〜250℃の加熱温度を用いることがより好ましい。
【0030】
酸素の非存在条件にするためには、不活性ガスで空気をパージ(排除)することが好適である。不活性ガスとしては、二酸化炭素、アルゴンガス等を用いることができる。効率よく空気をパージするために、加熱前に加圧(例えば50気圧に)することもできるが、空気を除くことができれば特に加圧しなくてもよい。
【0031】
本発明方法における水性溶媒又はアルコール系溶媒中での反応は、限定するものではないが、例えばオートクレーブ中で行うことが好ましい。本発明の方法は、例えば、電磁撹拌式オートクレーブにルイス酸触媒であるIII族金属塩、原料である炭水化物含有原料、及び水性溶媒若しくはアルコール系溶媒を仕込み、不活性ガスで空気をパージした後、上記加熱温度まで加熱して所定時間反応させればよい。
【0032】
この方法により、乳酸又は乳酸エステルを、原料とする炭水化物含有原料中の炭素基準で20%〜50%の収率で得ることができる。
【0033】
その後、得られる生成物から所望の乳酸あるいは乳酸エステルを分離することが好ましい。この分離方法は、液体クロマトグラフィー等の当業者に公知の有機酸分離方法によって行うことができる。
【0034】
本発明において、ルイス酸触媒であるIII族金属塩の存在下で、炭水化物含有原料を、アルコール系溶媒中、酸素の非存在下で加熱処理する上記方法では、乳酸エステルとともにレブリン酸エステルも生成されうる。従って本発明は、炭水化物含有原料を、III族金属塩を含むアルコール系溶媒中、酸素の非存在下で加熱処理することにより、乳酸及び/又は乳酸エステルとともにレブリン酸エステルを生成させることを特徴とする、炭水化物含有原料の処理方法にも関する。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0036】
[実施例1]
50mL容のステンレス製オートクレーブ(日東高圧製)中に、微結晶セルロース約0.324g(12mg原子の炭素分を含む)、表1に示すルイス酸触媒0.1mmol(セルロース中のグルコース単位に対して1/20当量に相当する)、及び水20mL(質量比でセルロースの約62倍に相当する)を仕込み、オートクレーブの蓋を閉めた後、アルゴンガスで空気をパージし、常温で50気圧まで昇圧した。昇圧後にオートクレーブを加熱し、加熱を開始してから約16分後に250℃に達したところで加熱を止め、オートクレーブを冷却した。冷却後、オートクレーブ中の反応液を取り出した。次いでこの反応液中の各種生成物を液体クロマトグラフィーにより定量分析した。その分析結果に基づく各生成物の収量を表1に示す。なお各収量は、炭素基準で、すなわち、原料の微結晶セルロースに含まれる炭素量に対する、各生成物中の炭素量の割合(%)で表した。
【0037】
【表1】

【0038】
表1中、「OTf」はトリフルオロメタンスルホン酸基(トリフラート)を表す。HMFはヒドロキシメチルフルフラールである。表1に示すルイス酸触媒は、いずれも、III族金属のトリフルオロメタンスルホン酸塩又はハロゲン化物である。なおこれらのルイス酸触媒はアルドリッチ社あるいは東京化成社の製品である。
【0039】
これらのルイス酸触媒は、いずれも乳酸の生成に有効であった。これらのルイス酸触媒を用いることにより、原料の炭水化物に対して炭素基準で13%以上の量の乳酸を得ることができた。
【0040】
[実施例2]
50mL容の上記オートクレーブ中に、表2に示す所定量の微結晶セルロース、トリフルオロメタンスルホン酸イッテルビウム0.1mmol、及び水20mLを仕込み、オートクレーブの蓋を閉めた後、二酸化炭素で空気をパージし、常温で50気圧まで昇圧した。昇圧後にオートクレーブを加熱し、加熱を開始してから約16分後に250℃に達したところで加熱を止め、オートクレーブを冷却した。冷却後、オートクレーブ中の反応液を取り出した。次いでこの反応液中の各種生成物を液体クロマトグラフィーにより定量分析した。その分析結果に基づく各生成物の収量(原料に含まれる炭素量に対する収率)を表2に示す。なお各収量は、炭素基準で、すなわち、原料の微結晶セルロースに含まれる炭素量に対する、各生成物中の炭素量の割合(%)で表した。また、炭素質の生成量は、反応液を濾過して得られた固形分の乾燥重量で表した。
【0041】
【表2】

【0042】
表2に示すように、水に対する微結晶セルロースの量が多くなるにつれて乳酸の収量が低下し、水に不溶の炭素質物質の収量が増加した。
【0043】
[実施例3]
50mL容の上記オートクレーブ中に、表3に示すバイオマス原料の所定量(炭水化物として6mg原子の炭素分を含む、ただし、キシロースの場合は5mg原子の炭素分を含む)、トリフルオロメタンスルホン酸イッテルビウム0.1mmol、及び水20mLを仕込み、オートクレーブの蓋を閉めた後、二酸化炭素で空気をパージし、常温で50気圧まで昇圧した。昇圧後にオートクレーブを加熱し、オートクレーブの加熱を開始してから約16分後に250℃に達したところで加熱を止め、オートクレーブを冷却した。冷却後、オートクレーブ中の反応液を取り出した。次いでこの反応液中の各種生成物を液体クロマトグラフィーにより定量分析した。その分析結果に基づく各生成物の収量(原料に含まれる炭素量に対する収率)を表3に示す。なお各収量は、炭素基準で、すなわち、原料中の炭水化物に含まれる炭素量に対する、各生成物の炭素量の割合(%)で表した。
【0044】
【表3】

【0045】
[実施例4]
50mL容の上記オートクレーブ中に、微結晶セルロース約0.324g(12mg原子の炭素分を含む)、トリフルオロメタンスルホン酸サマリウム0.1mmol、及び表4に示すアルコール10mLを仕込み、オートクレーブの蓋を閉めた後、アルゴンガスで空気をパージし、常温で50気圧まで昇圧した。昇圧後にオートクレーブを加熱し、加熱を開始してから約1時間後に220℃に達したところで加熱を止め、オートクレーブを冷却した。冷却後、オートクレーブ中の反応液を取り出した。次いでこの反応液中の各種生成物をガスクロマトグラフィーにより定量分析した。その分析結果に基づく各生成物の収量(原料に含まれる炭素量に対する収率)を表4に示す。なお各収量は、炭素基準で、すなわち、原料の微結晶セルロースに含まれる炭素量に対する、各生成物の微結晶セルロースに由来する炭素量の割合(%)で表した。
【0046】
【表4】

【0047】
表4中、「その他」はジメトキシメタンと1,1,2−トリメトキシエタンの合計収量を指す。また「−」は未分析の項目である。
【0048】
表4に示すように、100%アルコールを溶媒として使用した場合、乳酸エステルが上記炭素基準で20%前後の収量で生成した。
【0049】
[比較例1]
50mL容の上記オートクレーブ中に、微結晶セルロース約0.324g(12mg原子の炭素分を含む)と水20mLを仕込み、オートクレーブの蓋を閉めた後、アルゴンガスで空気をパージし、常温で50気圧まで昇圧した。昇圧後にオートクレーブを加熱し、加熱を開始してから約16分後に250℃に達したところで加熱を止め、オートクレーブを冷却した。冷却後、オートクレーブ中の反応液を取り出した。次いでこの反応液中の各種生成物を液体クロマトグラフィーにより定量分析した。その結果、炭素基準で、すなわち、原料の微結晶セルロースに含まれる炭素量に対する各生成物の炭素量の割合(%)で、グルコース5%、HMF2%が生成したが、乳酸等の有機酸は生成しなかった。
【0050】
[比較例2]
50mL容の上記オートクレーブ中に、微結晶セルロース約0.324g(12mg原子の炭素分を含む)、トリフルオロメタンスルホン酸イッテルビウム0.1mmol(又は触媒を添加せず)、及び水20mLを仕込み、オートクレーブの蓋を閉めた後、空気を常温で50気圧まで圧入した。昇圧後にオートクレーブを加熱し、加熱を開始してから約16分後に250℃に達したところで加熱を止め、オートクレーブを冷却した。冷却後、オートクレーブ中の反応液を取り出した。次いでこの反応液中の各種生成物を液体クロマトグラフィーにより定量分析した。その結果、炭素基準で、すなわち、原料の微結晶セルロースに含まれる炭素量に対する各生成物の炭素量の割合(%)で、ギ酸21%、酢酸12%、グリコール酸4%が生成したことが示された。このように、他の条件が同じでも空気の存在下では乳酸は全く生成しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の方法を用いれば、自然界に多量に存在し、環境に優しく、また再資源化が要望されているリグノセルロース系バイオマスから、医薬品、化粧品、香料、農薬などの各種製品の中間原料あるいはポリマー原料として極めて有用な乳酸あるいは乳酸エステルを一工程で簡便かつ安価に製造することが可能となる。また、廃棄物系の有機性炭素資源を利用することが可能となるので、環境浄化、資源の有効利用及び省エネルギーの観点からみても、極めて有効な乳酸あるいは乳酸エステルの合成法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭水化物含有原料を、III族金属塩を含む水性溶媒又はアルコール系溶媒中、酸素の非存在下で加熱処理することにより、乳酸及び/又は乳酸エステルを生成させることを特徴とする、炭水化物含有原料の処理方法。
【請求項2】
加熱処理が、200℃〜300℃で加熱することによるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
炭水化物含有原料が、セルロース、セロビオース、デンプン、マルトース、グルコース、マンノース、フルクトース、ガラクトース、アラビノース、若しくはキシロース、又はそれらの少なくとも1つを含有する原料である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
III族金属塩が、III族金属のトリフルオロメタンスルホン酸塩又はハロゲン化物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記水性溶媒又はアルコール系溶媒が、炭水化物含有原料中の炭水化物量に対して質量比で7倍以上の量である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。

【公開番号】特開2008−120796(P2008−120796A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−271508(P2007−271508)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】