説明

乳酸飲料及びその製造方法

【課題】風味がよく、乳酸菌死菌体が沈降することなく分散している乳酸飲料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】乳酸発酵液と、糖液と、乳酸菌死菌体とを混合して、比重1.24〜1.32の混合液を調整した後、殺菌処理して乳酸飲料を製造する。こうして得られた乳酸飲料は、乳酸菌死菌体が沈降することなく分散した状態を安定して保持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌死菌体が沈降することなく分散している乳酸飲料、及び該乳酸飲料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌には、腸内の環境改善、免疫調節、下痢の改善予防、感染防御、炎症性腸疾患の改善、発癌抑制、コレステロール低下等、様々な生理活性効果を有することが知られている。また、このような生理活性効果は、生菌、死菌を問わず有効であることが知られており、エンテロコッカス・フェカリス、ラクトバチルス・ブレービスなどの乳酸菌の乾燥死菌体が市販されている。これらの乳酸菌乾燥死菌体は、乳酸菌を熱処理して水分を除いて乾燥しているため、保存性があって流通性に優れ、少量であっても、多数個の乳酸菌を摂取することができるという利点を有している。
【0003】
このような乳酸菌の死菌体を利用した発明として、下記特許文献1には、原乳100部に対してエンテロコッカス属に属する乳酸球菌の死菌体0.05乃至0.5部を混合して原料乳を調合する調合工程と、前記原料乳を加圧加温しつつそのクリーム層を砕いて均質化する均質工程と、前記原料乳を攪拌しながら加熱して殺菌する加熱殺菌工程と、前記殺菌した原料乳を発酵温度まで冷却する冷却工程と、前記発酵温度の原料乳にサーモフィルス菌及びブルガリカス菌の2種混合菌の乳酸菌を添加して植菌する植菌工程と、前記植菌された原料乳の発酵温度を維持して規定の酸度まで発酵させる発酵工程と、規定の酸度まで達したら前記発酵乳を冷却して所定温度を保持しつつ熟成させる熟成工程と、からなることを特徴とする乳酸菌発酵乳の製造方法が開示されている。
【0004】
また、下記特許文献2には、乳酸球菌の死菌と、コーンスターチを含む澱粉をアミラーゼで加水分解した糖化物を培地用基材とし、これに野菜汁および窒素源としてイーストを添加して発酵用培地を調整し、この培地に納豆菌であるバチルスズブチリスAK(FERM P−18291)および乳酸菌を含む発酵菌を接種し、発酵および熟成させた後、生成した液状成分を分取した食品用原液と、を混合したことからなる腸内菌叢の改善および免疫機能を高めるための栄養補助食品が開示されている。
【0005】
更に、下記特許文献3には、粉末状の多糖類または蛋白質からなる水溶性または水中分散性の希釈剤と、生体応答調節作用を有する乳酸球菌乾燥死菌体との均一混合物を、アラビアガム、グアガム、キサンタンガム、ロカストビーンガム、タマリンドガム、トラガントガム、カラヤガム、ペクチン、ゼラチン、カラギナン、アルギン酸ソーダ、カルボキシメチルセルロース、またはメチルセルロースから選ばれる糊料を用いて顆粒状に成形したものは、液状または高含水率の食品等に添加されたとき、菌体のゲル状凝集物を生じることなく添加対象物中に速やかに分散することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−105017号公報
【特許文献2】特開2007−209246号公報
【特許文献3】特開2000−189106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献3にも記載されているように、乳酸菌乾燥死菌体は、水中に添加すると、菌体が吸水し、それぞれの菌体が凝集してダマを形成し易かった。このため、特に飲料中に乾燥死菌体を添加した場合、乾燥死菌体の凝集物が、容器の底に沈殿し易いという問題があった。
また、上記特許文献3では、各種のガムや、ペクチン、ゼラチン、カラギナン等の糊料を用いて顆粒化することにより、水に対する分散性を向上させているが、飲料等に添加した場合には、分散安定性が充分だとは言えず、得られる飲料の風味やのどごしなどが損なわれ易いという問題があった。
【0008】
したがって、本願発明の目的は、風味がよく、乳酸菌死菌体が沈降することなく分散している乳酸飲料及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の乳酸飲料は、乳酸発酵液と、糖液と、乳酸菌死菌体とを含有し、比重1.24〜1.32で、殺菌処理されていて、乳酸菌死菌体が沈降することなく分散していることを特徴とする。
本発明の乳酸飲料は、ブリックスが53.5〜65であることが好ましい。
本発明の乳酸飲料の前記乳酸菌死菌体は、ラクトバチルス属及び/又はエンテロコッカス属に属する乳酸菌の乾燥死菌体であることが好ましく、ラクトバチルス・ブレービス・サブスピーシーズ・コアグランンスの乾燥死菌体であることがさらに好ましい。
本発明の乳酸飲料は、乳酸飲料1g中に前記乳酸菌死菌体が1000万〜14億含まれていることが好ましい。
【0010】
また、本発明の乳酸飲料の製造方法は、乳酸発酵液と、糖液と、乳酸菌死菌体とを混合して、比重1.24〜1.32の混合液を調整した後、殺菌処理することを特徴とする。
本発明の乳酸飲料の製造方法は、前記乳酸発酵液又は前記混合液を均質化する工程を含むことが好ましい。
本発明の乳酸飲料の製造方法は、前記混合液のブリックスが53.5〜65となるように調製することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の乳酸飲料によれば、乳酸発酵液と、糖液と、乳酸菌死菌体とを含有し、比重を1.24〜1.32としたことで、飲料中に乳酸菌死菌体が安定してほぼ均一分散しており、長期間の保存であっても、乳酸菌死菌体による沈殿物が生じ難く、貯蔵安定性に優れている。また、特に増粘多糖類などを使用しなくてもよいので、乳酸飲料の風味やのどごし等を損なうことが無く、風味やのどごしがよいものである。
【0012】
また、本発明の乳酸飲料の製造方法によれば、乳酸発酵液と、糖液と、乳酸菌死菌体とを混合して、比重1.24〜1.32の混合液を調整したことにより、該混合液中に乳酸菌死菌体を、安定してほぼ均一に分散することができる。そして、この混合液を殺菌処理することで、乳酸菌死菌体がほぼ均一に分散しており、長期間の保存であっても、乳酸菌死菌体による沈殿物が生じ難く、貯蔵安定性に優れた乳酸飲料を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の乳酸飲料に用いられる各原料について説明する。
【0014】
(乳酸発酵液)
本発明の乳酸飲料において、乳酸発酵液は、少なくとも乳原料と糖類とを含む原料を乳酸発酵して得られたものである。
【0015】
ここで、乳原料としては、例えば牛乳、粉乳、ホエーなどが挙げられるが、特に脱脂粉乳が好ましい。糖類としては、例えば砂糖、ブドウ糖、乳糖、異性化糖、転化糖、イソマルトオリゴ糖などが挙げられるが、特にブドウ糖と砂糖が好ましい。乳酸発酵の原料液としてより具体的には、脱脂粉乳を8〜15質量部、ブドウ糖を2〜4質量部、砂糖を6〜8質量部、水を残部含むものが好ましい。また、乳酸発酵に用いる乳酸菌は、特に限定はなく、食用に適したものであればよい。例えば、ストレプトコッカス・ラクチス、ストレプトコッカス・サーモフィルス、ストレプトコッカス・クレモリス、ストレプトコッカス・フェカリス等の乳酸球菌、ラクトバチルス・ブルガリクス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・サリバリウス、ラクトバチルス・アシドフィルス等の乳酸桿菌などの公知のものが使用される。これらはいずれも容易に入手できる菌である。
【0016】
前記少なくとも乳原料と糖類とを含む培地原料を、90〜95℃程度で、30〜40分間殺菌処理した後、30〜50℃まで冷まして上記乳酸菌を植菌し、嫌気状態で、30〜50℃、好ましくは35〜45℃で数分撹拌し、培養するのが好ましい。培養時間は、24〜170時間が好ましく、より好ましくは72〜170時間である。
【0017】
(糖液)
本発明の乳酸飲料において、糖液としては、例えば、砂糖、ブドウ糖、マルトース、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、α,α−トレハロース、転化糖、異性化糖などの糖類を溶解したシロップ状の溶液であればよいが、特にイソマルトオリゴ糖が好ましい。糖液のブリックスは、75以上のものが好ましい。これによれば、乳酸飲料の比重を目的の範囲に調整し易くなる。
【0018】
(乳酸菌死菌体)
本発明の乳酸飲料において、乳酸菌死菌体は、食用に適した乳酸菌の死菌体であれば特に限定なく、いずれの種類のものであっても好ましく使用でき、ラクトバチルス属、エンテロコッカス属に属する乳酸菌の死菌体、特には乾燥死菌体が好ましく用いられる。これらの属の乳酸菌は、乳酸飲料中に均一分散させ易く、また、より優れた生理活性効果が期待できる。例えば、エンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・フェシウムなどの乳酸球菌や、ラクトバチルス・ブレービスなどの乳酸桿菌などが好ましく使用され、なかでも、ラクトバチルス・ブレービス・サブスピーシーズ・コアグランンスの死菌体は、免疫活性、発癌抑制、アレルギー改善などのより優れた生理活性効果が期待できるので、特に好ましく用いられる。ラクトバチルス・ブレービス・サブスピーシーズ・コアグランンスの乾燥死菌体は、例えば協和薬品株式会社などから市販されており、容易に入手することができる。
【0019】
(その他成分)
本発明の乳酸飲料は、さらに、酸味料、保存料、香料、色素などを含んでいてもよい。
【0020】
[乳酸飲料の製造方法]
次に、本発明の乳酸飲料の製造方法について説明する。
【0021】
まず、前述したような乳原料と糖類とを含む原料液を乳酸発酵して、前述したような培養方法で、乳酸発酵液を調製する。乳酸発酵を終えた後、均質化して、殺菌処理を行ってもよい。
【0022】
次に、得られた乳酸発酵液に、糖液と、乳酸菌死菌体と、必要に応じてさらに酸味料、保存料、香料などのその他添加物を加え、比重1.24〜1.32の混合液を調整する。混合液の比重が1.24未満であると、乳酸菌死菌体を、液中に均一に分散させることができず、乳酸菌死菌体が凝集して沈殿物が生じ易くなり、前記混合液の比重が1.32を超えると、糖液を多量に入れることとなるので、コスト的に不利であり、更には、甘みが強くなり、酸味とのバランスが悪くなる。
【0023】
また、混合液は、ブリックスが53.5〜65となるように調製することが好ましく、より好ましくはブリックスが53.5〜60である。混合液のブリックスが53.5未満であると、乳酸菌死菌体を、液中に均一に分散させることができない場合があり、前記混合液のブリックスが65を超えると、甘みが強くなり、酸味とのバランスが悪くなる傾向にある。
【0024】
また、乳酸菌死菌体は、混合液1g中に1000万〜14億個含まれているように添加することが好ましく、10億〜14億個含まれているように添加することがより好ましい。乳酸菌死菌体が上記個数含有していれば、乳酸菌死菌体による生理活性効果が効率よく得られる。
【0025】
次に、上記混合液を均質化する。ただし、乳酸発酵液を予め均質化してある場合は、再度均質化する必要はない。均質化は、乳業用ホモゲナイザー等を使用して行うことができる。均質化条件は、50〜200Kg/cmがで、1〜3μm程度に細分化されるように均質化すること好ましい。
【0026】
次に、均質化した混合液を、殺菌処理し、容器に充填することで、本発明の乳酸飲料を製造できる。殺菌処理方法としては、特に限定はなく、プレート式熱交換機、チューブ全自動減菌機などを用いた処理方法などが挙げられる。例えば、チューブ全自動減菌機を用いる場合は、85〜95℃で、2〜3分行う。
【0027】
[乳酸飲料]
こうして得られる本発明の乳酸飲料は、乳酸発酵液と、糖液と、乳酸菌死菌体とを含有し、殺菌処理されているものである。
【0028】
乳酸飲料の比重は、1.24〜1.32であることが必要である。乳酸飲料の比重が1.24未満であると、乳酸菌死菌体を、液中に均一に分散させることができず、乳酸菌死菌体が凝集して沈殿物が生じ易くなる。また、乳酸飲料の比重が1.32を超えると、糖液を多量に入れることとなるので、コスト的に不利であり、更には、甘みが強くなり、酸味とのバランスが悪くなる。
【0029】
乳酸飲料のブリックスは、好ましくは53.5〜65であり、より好ましくは53.5〜60である。乳酸飲料のブリックスが53.5未満であると、乳酸菌死菌体を、液中に均一に分散させることができない場合がある。また、乳酸飲料のブリックスが65を超えると、甘みが強くなり、酸味とのバランスが悪くなる傾向にある。
【0030】
乳酸菌死菌体は、乳酸飲料1g中に1000万〜14億個含まれていることが好ましく、10億〜14億個含まれていることがより好ましい。乳酸菌死菌体が上記個数含有していれば、乳酸菌死菌体による生理活性効果が効率よく得られる。
【0031】
このようにして得られた乳酸飲料は、乳酸菌死菌体がほぼ均一に分散しており、長期間の保存であっても、乳酸菌死菌体による沈殿物が生じ難く、貯蔵安定性に優れている。また、甘み、酸味ともにバランスが良く、そのまま無希釈で飲んでもよく、2〜5倍希釈して飲んでもよい。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
(乳酸発酵液の製造)
脱脂粉乳10質量部と、ブドウ糖2質量部と、砂糖6質量部と、水82質量部とを混合して原料液を調製した。この原料液を95℃で30分間殺菌処理したのち、37℃まで冷まし、乳酸菌(ラクトバチルス・ブルガリクス)を0.02質量部加え、37℃で72時間、タンク培養して、乳酸発酵液を得た。
【0034】
(乳酸飲料の製造)
表1に示す配合量で乳酸飲料原料を混合し、ホモゲナイザーを用いて、150Kg/cmの圧力により1〜3μm程度の粒子に粉砕して均質化した後、チューブ式殺菌冷却装置にて90〜95℃で殺菌処理し、容器に充填して乳酸飲料を得た。
【0035】
【表1】

【0036】
乳酸発酵液を含み、比重が1.24〜1.32である、実施例1,2の乳酸飲料は、甘み、酸味共にバランスが良く、極めて風味の良いものであった。また、6ヵ月間静置しても、沈殿物が生じず、貯蔵安定性に優れていた。
【0037】
一方、乳酸発酵液を含まず、比重が1.24未満である比較例1〜4の乳酸飲料は、製造後約1〜2日で、沈殿物が生じた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸発酵液と、糖液と、乳酸菌死菌体とを含有し、比重1.24〜1.32で、殺菌処理されていて、乳酸菌死菌体が沈降することなく分散していることを特徴とする乳酸飲料。
【請求項2】
ブリックスが53.5〜65である請求項1記載の乳酸飲料。
【請求項3】
前記乳酸菌死菌体は、ラクトバチルス属及び/又はエンテロコッカス属に属する乳酸菌の乾燥死菌体である、請求項1又は2に記載の乳酸飲料。
【請求項4】
前記乳酸菌死菌体は、ラクトバチルス・ブレービス・サブスピーシーズ・コアグランンスの乾燥死菌体である、請求項1〜3のいずれか1つに記載の乳酸飲料。
【請求項5】
乳酸飲料1g中に前記乳酸菌死菌体が1000万〜14億個含まれている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の乳酸飲料。
【請求項6】
乳酸発酵液と、糖液と、乳酸菌死菌体とを混合して、比重1.24〜1.32の混合液を調整した後、殺菌処理することを特徴とする乳酸飲料の製造方法。
【請求項7】
前記乳酸発酵液又は前記混合液を均質化する工程を含む請求項6記載の乳酸飲料の製造方法。
【請求項8】
前記混合液のブリックスが53.5〜65となるように調製する請求項6又は7記載の乳酸飲料の製造方法。

【公開番号】特開2010−273657(P2010−273657A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132050(P2009−132050)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【出願人】(309025915)南アルプス食品株式会社 (1)
【Fターム(参考)】