説明

乾式シリカ微粒子包装物

【課題】 乾式シリカは保存期間中に水分を吸着しやすく、これによりエポキシ樹脂などと混練した際の初期粘度が増大していく傾向がある。従って、保存期間が長くなっても樹脂への分散性に優れ、樹脂に充填した場合の粘度の上昇が抑えられる乾式シリカ微粒子包装物を提供する。
【解決手段】 保存期間中の水分の吸着を抑制するため、水蒸気透過率が1(g/(m・day)、40℃/90%RH)以下の包装容器に乾式シリカ微粒子を封入して保存する。このような乾式シリカ微粒子包装物は、長期間保存した後であってもエポキシ樹脂などと混練した際の粘度変化が少ない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾式シリカ微粒子を包装容器に封入してなる乾式シリカ微粒子包装物に関し、詳しくは凝集の発生抑制に優れた乾式シリカ微粒子包装物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高性能化、小型軽量化に伴い、搭載される半導体素子及び半導体パッケージの高集積化、小型化、薄型化が進んでいる。このため、半導体封止用樹脂に添加する充填材の粒子径が段々と小さくなっていく傾向にあり、平均粒子径が100nm程度の乾式シリカ微粒子が用いられることもある(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
微粒子であるか否かに限らず通常は、シリカ製造者と樹脂組成物等に調製する者(最終ユーザー)とは異なるため、製造されたシリカ粒子は、製造後に各種包装に小分け、シリカ製造業者や流通業者がいわゆる在庫として保管し、最終ユーザーからの注文に応じて必要量が出荷されることが多い。また最終ユーザーのもとで保管されることもある。この保管期間は、数日から長い場合には数年に及ぶこともある。
【0004】
【特許文献1】特開2008−19157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、前記のような平均粒子径が100nm程度の乾式シリカ微粒子は、他の製法や粒子径を有するシリカに比べると、保存期間が長くなると樹脂組成物にした時の粘度上昇幅が増大していく傾向にあり、ついには半導体封止用樹脂組成物として使用困難な状態に至ってしまう。
【0006】
従って本発明の目的は、保存期間が長くなっても樹脂への分散性に優れ、樹脂に充填した場合の粘度の上昇が抑えられる乾式シリカ微粒子包装物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記技術課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、乾式シリカ微粒子を保存する雰囲気中に存在する水蒸気が、乾式シリカ微粒子の凝集を促進し、樹脂組成物にした時の粘度上昇幅を増大させていくことに気付いた。そこで乾式シリカ微粒子を保存する時に、水蒸気透過率がある値以下の包装物にすることで、保存による粘度の上昇を抑制出来ることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の乾式シリカ微粒子包装物は、乾式シリカ微粒子を水蒸気透過率が1(g/(m・day)、40℃/90%RH)以下の包装容器に封入してなることを特徴とする。
【0009】
また、BET比表面積が20〜55m/gである乾式シリカ微粒子の包装物に特に好適である。さらには前記包装容器がアルミラミネート袋であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の乾式シリカ微粒子包装物は、水蒸気透過率が1(g/(m・day)、40℃/90%RH)以下の包装物にすることで、調湿などが行われていない倉庫などで、例えば6ヶ月以上の長期間に亘って保管しても、樹脂組成物にした時の粘度の保存による上昇を抑制出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明における乾式シリカとしては、Si原子を含む分子からなる気体又は噴霧した液体を気相中高温で熱分解して製造する熱分解法シリカや、金属ケイ素を火炎中や高温の電気炉中で酸化させて製造されるシリカ、あるいは粉砕石英等のシリカ質粉末を火炎中で一旦溶融させ、これを再凝固させることにより製造するシリカなどが挙げられる。
【0012】
Si原子を含む分子からなる気体又は液体としては、モノクロロシラン、ジクロロシラン、トリクロロシラン、テトラクロロシラン等のハロゲン化ケイ素類、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン等のシロキサン類が挙げられる。
【0013】
このような原料を用いた熱分解法シリカの製造方法は知られており、例えば、特開2008−19157号公報には、シロキサン類を原料とした熱分解法シリカの製造例が具体的に記載されている。
【0014】
本発明の乾式シリカ微粒子包装物において包装容器内に封入される乾式シリカ微粒子は、BET比表面積が20〜55m/gの乾式シリカ微粒子である場合によりその効果が大きい。即ち、BET比表面積が20〜55m/gの範囲にある乾式シリカ微粒子は、凝集の発生が極めて顕著であるため保存に伴う粘度上昇が起こり易く、本発明の如き包装形態がより重要となる。このような比表面積の範囲を有する乾式シリカとしては、上記特開2008−19157号公報に記載されたシリカが挙げられる。
【0015】
また本発明のまた本発明の乾式シリカ微粒子包装物において包装容器内に封入される乾式シリカ微粒子は、表面処理されているものでも、なんら処理されていないものでも構わないが、相対的に吸湿しやすく、よって保存に伴い凝集しやすい傾向が一段と強い点で、親水性シリカであることがより発明の効果を得られやすい。なおここで親水性シリカとは、シリカ濃度が1.5重量%となるように水と混合したとき、水と完全に混合できるシリカをいう。
【0016】
このような親水性シリカとしては、全く表面処理をしていないもの、主にγ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン等のエポキシ官能基を有するシランカップリング剤やγ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤等の極性官能基を有するシランカップリング剤で処理したものなどが挙げられる。
【0017】
本発明の乾式シリカ微粒子包装物は、上記の如き乾式シリカ微粒子を水蒸気透過率が1(g/(m・day)、40℃/90%RH)以下の包装容器に封入してなる。即ち、水蒸気透過率が1(g/(m・day)、40℃/90%RH)を超える場合には、乾式シリカ微粒子の凝集を抑制出来ず、保存期間が長くなると樹脂組成物にした時の粘度上昇幅が増大していく傾向にあり、ついには半導体封止用樹脂組成物として使用困難な状態に至ってしまう。換言すれば、水蒸気透過率が上記値を超える包装容器では、初期の性能を維持した状態での長期の保存が困難となる。なお当該水蒸気透過率はJIS-Z-0208に準じて測定する値である。
【0018】
水蒸気透過率が小さいほど、より長期の保存に耐えうるが、一般に要求される保存期間と水蒸気透過率を低減するに必要なコスト及び包装物の取扱い性等を勘案すれば、通常は0.001〜1(g/(m・day)、40℃/90%RH)であればよく、なかでも0.2(g/(m・day)、40℃/90%RH)以下であればより好ましい。
【0019】
かかる包装容器の例としては、アルミラミネート袋、金属製ペール缶などが挙げられるが、経済性、包装容器の取扱い易さ、保管スペースを小さく出来る点でアルミラミネート袋が好ましい。当該アルミラミネート袋の具体例としては、例えば、株式会社生産日本社製ラミジップALシリーズ、カイト化学工業株式会社製アルミラミネート袋、株式会社サンライズ製ハイバリアー袋等が挙げられる。
【0020】
包装容器への乾式シリカ微粒子の充填方法は、スクリューフィーダーやテーブルフィーダー等の定量供給装置を備えた自動計量器を用いた方法、作業者が計量スコップ等の器具を用いて包装容器に所定の重量になるまで乾式シリカ微粒子を充填する方法等、公知の充填方法が何らの制限無く採用できる。
【0021】
包装容器の封止方法は、包装容器が内袋入りペール缶の場合、内袋の開口部を持つ端を捻じった後、ビニールテープや輪ゴム等で留め、次いでペール缶の蓋を所定の留め金具で固定する方法が採用できる。この封止作業の際、内袋やペール缶内部を封止前に露点−20℃以下の空気や窒素で置換すれば本発明の効果がより発揮される。また、包装容器がアルミラミネート袋の場合、開口部をヒートシールする方法が採用できる。この封止作業の際、アルミラミネート袋内部を封止前に露点−20℃以下の空気や窒素で置換すれば本発明の効果がより発揮される。
【0022】
上述の方法で作製された乾式シリカ微粒子包装物の保存は、通常の工業製品が保存される環境下、即ち風雨や直射日光に曝されない環境下での保存であれば何ら問題ない。但し、包装容器がアルミラミネート袋の場合、積み重ねると荷重により乾式シリカ微粒子が圧密し凝集粒子が生成する恐れがあるため、積み重ねを好ましくは10重ね以下、より好ましくは5重ね以下にすると良い。
【実施例】
【0023】
本発明を具体的に説明するために実施例及び比較例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
なお、以下の実施例及び比較例における各種の物性測定等は以下の方法による。
【0025】
(1)BET比表面積測定:
柴田理化学社製比表面積測定装置(SA−1000)を用い、窒素吸着BET1点法により測定した。
【0026】
(2)平均粒子径
堀場製作所製レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(LA−920)を用い測定した。
【0027】
(3)樹脂組成物の粘度特性
下記のようにエポキシ樹脂組成物を調製し、樹脂組成物の粘度特性評価を行った。
【0028】
(エポキシ樹脂組成物の調製)
ダウケミカル社製エポキシ樹脂ERL−4221と、乾式シリカ微粒子を1:1(重量比)の割合で配合し、自転公転式プラネタリーミキサー(シンキー社製AR−250)を用いて、攪拌時間3分の条件で混練しエポキシ樹脂組成物を得た。
【0029】
(粘度測定)
ブルックフィールド粘度計(BROOKFIELD社製 DV−2+VISCOMETER、スピンドル:S51)を用いて、温度25℃、スピンドル回転数3rpmの条件で測定した。
【0030】
実施例1
特開2008−19157号公報記載の方法で製造したBET比表面積が30m/g、平均粒子径が0.11μm、エポキシ樹脂組成物粘度が4800mPa・sの乾式シリカ微粒子を水蒸気透過率が0.1(g/(m・day)、40℃/90%RH)のアルミラミネート袋に封入し、6ヶ月間大気雰囲気中に静置した。6ヶ月経過後のBET比表面積は30m/g、平均粒子径は0.11μm、エポキシ樹脂組成物粘度は4800mPa・sであり、保存による経時的な変化は見られなかった。
【0031】
比較例1
実施例1と同じ乾式シリカ微粒子を水蒸気透過率が4(g/(m・day)、40℃/90%RH)のポリエチレン袋に封入し、6ヶ月間大気雰囲気中に静置した。6ヶ月経過後のBET比表面積は30m/g、平均粒子径は0.21μm、エポキシ樹脂組成物粘度は11000mPa・sであり、保存による凝集の発生と樹脂組成物の粘度上昇が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾式シリカ微粒子を水蒸気透過率が1(g/(m・day)、40℃/90%RH)以下の包装容器に封入してなる乾式シリカ微粒子包装物。
【請求項2】
前記乾式シリカ微粒子のBET比表面積が20〜55m/gである請求項1に記載の乾式シリカ微粒子包装物。
【請求項3】
前記包装容器がアルミラミネート袋である請求項1に記載の乾式シリカ微粒子包装物。

【公開番号】特開2009−298461(P2009−298461A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−157675(P2008−157675)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】