説明

乾式光−化学二酸化炭素センサー

【課題】保存安定性を高めたCO2センサーを提供する。更に、改善された化学的安定性を特徴とするカチオン種を用いたCO2センサーを提供する。
【解決手段】気体または液体試料中の二酸化炭素を測定する装置に関し、ポリマーマトリクスおよびポリマーマトリクス中に埋め込まれた指示薬を含み、指示薬はpH感受性色素および親油性の金属カチオン‐イオノフォア錯体を含み、pH感受性色素のアニオンと金属カチオン‐イオノフォア錯体とがポリマーマトリクス中に可溶なイオン対を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体または液体試料中の二酸化炭素(CO2)を測定する装置および方法に関する。特に、本発明は二酸化炭素の分圧を測定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
気体試料または液体中のCO2測定はpH測定から推定され得る。当技術分野では、CO2または他の酸性の気体もしくは液体を測定するいくつかの装置が知られている。
【0003】
光-化学センサー(オプトードまたはオプトロードとも呼ばれる)はセンサーマトリクスを含み、センサーマトリクスは、光学特性が試料中に含まれる特定の検体の濃度と共に変化する指示薬を含む組成物である。センサーマトリクスは、一般に、透明な担体または基材上に設けられていてもよい無機および/または有機の、好ましくはポリマー性の物質の1つ以上の組成物からなり、少なくとも1つの組成物が指示薬を含む。担体は平面状、円筒状、または他のいずれの形状であってもよい。例えば、組成物は、マイクロタイタープレートの「ウェル」に、光ファイバー・バンドルの先端部に、または単一の光ファイバーもしくは導光構造体上に設けることができる層である。光-化学センサーは、通常可逆的に、しばしば継続的に測定することが可能である。この通則に対する例外としては、例えばある種の酵素担持生化学センサーがある。光-化学センサーは試料に接触して設置することができ、露光された場合、試料中に存在する対象の特定の検体についての光学的に読み取り可能な情報(例えば、濃度、活性、または分圧)を提供する。
【0004】
本発明によると、「光-化学二酸化炭素センサー」はセンサーマトリクスを含み、センサーマトリクスは、指示薬を含む組成物または指示薬が埋め込まれている組成物である。用語「センサー」は試料媒体と測定装置の構成要素とのインターフェースを指し、特に、透明な担体もしくは基材上に設けられた、無機および/または有機、好ましくはポリマー性の物質の1つ以上の層あるいは他の形態を指し、少なくとも1つの層は、光学的特性(吸光、発光、発光減衰時間および/または発光分極)が、試料中に含まれる二酸化炭素の濃度または分圧と共に変化する指示薬または指示薬系を含む。指示薬はセンサーマトリクスまたはその少なくとも1つの層内に均一に分布していることができる。あるいは、指示薬は、不均一な形態、例えばセンサーマトリクスまたはその少なくとも1つの層内に分散された粒子の形態で存在していてもよい。
【0005】
測定系または測定装置の構成要素は、光源、検出器、光学フィルター、電子シグナル増幅器、および評価ユニットのような光学部品および電子部品を含んでいてもよい。これらの構成要素は光学センサーの一部ではない。
【0006】
血液のCO2分圧の測定に有用な光-化学CO2センサーは、例えば米国特許第5,496,521号、Sensors and Actuators B29, 169-73 (1995);およびAnn. Biol. Clin. 61, 183-91, (2003)に開示されている。センサーは、CO2の外部分圧に応じて内部pHを所定値に維持するためのpH緩衝液の存在を必要とするSeveringhausタイプのセンサーである。緩衝液は、一般に、重炭酸塩、リン酸塩、またはHEPES等のような、ある種の弱酸の塩から構成され、多孔質層または親水性ポリマー等の中に存在している。従来のSeveringhausタイプのセンサーの欠点は、それらが水と平衡化するのに時間がかかること、したがって、湿潤条件下で保存しなければならないことである。さらに、センサーが乾燥した場合、塩が沈殿することがあり、このことは、急速かつ迅速なウェットアップ(wet-up)に関して問題を引き起こす。塩濃度は、気体試料の含水率および液体試料の浸透圧に依存し、センサーの応答性および安定性に関して、深刻な問題を引き起こす。
【0007】
CO2含有ガスと接触すると含浸した多孔質またはその他吸着性の表面がその光学特性を可逆的に変化させる光-化学センサーを用いて気体中の二酸化炭素を測定する方法が、Guentherらにより知られている(米国特許第3,694,164号および米国特許第3,754,867号)。一実施形態では、検出部の組成物は、ろ紙またはゲル化膜のような多孔質担体、フェノールレッド、水酸化カリウム、およびトリエチレングリコールまたは他の水混和性グリコールを含む。また、センサーには、高分子保護膜が含まれていてもよい。検出層中で使用される構成要素が吸湿性であるので、このようなセンサーは、気体中のCO2の検出のみに有用である。色素の応答性を改善し、向上させるために、Raemerら(米国特許第5,005,572号)には、両方とも固相支持体に添加されたpH感受性色素と相輸送促進剤との混合物が開示されている。
【0008】
当技術分野で知られている光学的二酸化炭素検出の別の類似の方法は、「乾燥した(‘dry’)」プラスチック膜のCO2センサーの概念に基礎を置いており、Millsおよび共同研究者(Anal. Chem., 1992, 64, 1383、米国特許第5,472,668号、および米国特許第5,480,611号)によって提案されている。この方法では、pH指示薬色素アニオン(Dye-)および有機第4級アンモニウムカチオン(Q)からなるイオン対を利用する。結果として生じる「乾燥した(‘dry’)」(緩衝液をベースとした、「湿った(‘wet’)」センサー化学とは対照的に)または「プラスチック」センサー膜は、第4級アンモニウムカチオンと共に固定化されたpH指示薬色素、およびある量の有機水酸化第4級アンモニウム(Q+OH)を適当な支持体上のポリマー層内に含む。このようなセンサーは、乾燥した気体中と(通常短い応答時間を有する)、および液体試料中との両方における二酸化炭素の光学的検出に適用可能である。一般に、センサーマトリクスは、可塑剤を有するまたは有しない、水非混和性で本質的に無極性であるポリマーから構成される。さらに、センサーマトリクスは、マトリクス中に存在するイオン性化合物と水和する少数の水分子を含んでいてもよい。このように、この方法の原則は、本質的に無極性であるポリマーから構成される層(プラスチック膜)に、適当な疎水性有機可塑剤および有機色素と共に有機カチオン物質を組み込むことである。最終的な層(プラスチック膜)は、有機液相の特性を有する。
【0009】
第4級水酸化アンモニウムは、
(a)有機可溶性イオン対を形成することにより、ポリマー層中での負に帯電した色素成分の溶解性を改善する、
(b)センサーが機能するのに重要な初期の塩基性環境をマトリクスに提供する、および
(c)色素層の疎水性を調節する追加の手段を提供する
ために添加される。
【0010】
このようなセンサーは、乾燥した膜中での気体状のCO2の良好な均一性に応答して一般に1秒未満から数秒の範囲での速い応答/回復、および含水液体が関与しないための設計の簡易性を含めて、優れた特性を有する。
【0011】
しかしながら、「プラスチック膜」センサーは、保存寿命が長くなく、一般に、大気にさらされた状態で数日間または数週間以内、または密閉容器以内で数ヶ月内であるという欠点を有する。保存中に、センサーのベースラインや傾きがずれるため、使用前に較正を頻繁に行う必要がある。センサーの保存不安定性は、有機塩基が次第に失われる結果であり、さらにこのことは、2つの事柄、すなわち、センサーが、ある種の酸性種によって「毒される(“poisoned”)」、および/または、塩基自体が特に上昇した温度においてホフマン型β‐水素脱離反応として知られる化学的分解を受けた結果であろう(Millsら、Anal. Chem. 64 (1992), 1388, col. 2, para 485、MillsおよびMonaf、Analyst 121 (1996), pg. 539 col. 2, line 15 ff.、WeiglおよびWolfbeis、Sensors and Actuators B28 (1995), pg. 155, col. 1, section 2、ならびにWaldnerら、米国特許第6,338,822号、col. 12, l. 64 ‐ col. 13, l. 41)。
【0012】
EP 0 837 327には、いわゆる蛍光共鳴エネルギー移動(FRET;以下参照)指示薬色素系を用いた、SeveringhausタイプとMillsタイプとの両方の光学的二酸化炭素センサーが提案されている。EP 0 837 327には、EP 0 105 870を参照して、イオン不浸透性でガス透過性のポリマーマトリクス内に分散された含水小滴環境(micro-droplet environment)内にアニオン性pH感受性発色団とカチオン性pH非感受性発光団からなるイオン対を用いたFRETタイプのCO2センサーが開示されている。EP 0 837 327には、Millsら、Anal. Chem. 64 (1992), 1383-1389を参照して、MillsタイプのFRET‐CO2センサーが開示されており、そのうちのいくつかでは、カチオン性発光団(例えば、ルテニウム(II)およびオスミウム(II)錯体)で、Millsの典型的な第4級アンモニウムカチオンQが置換されている。FRET系において、光学的に活性な物質(すなわち、発光供与体色素として作用するカチオン性発光団)による、光学的に不活性なカチオン物質[Q]の置換は、重大な欠点を有する。供与体および受容体分子が空間的に極めて接近していないと、無輻射エネルギー移動は起こらない。これは、pH感受性発色団とイオン対を形成しない発光団分子の場合に起こることが多い。さらに、好ましいセンサー組成物は、色素とカチオン種とのモル比が1:1よりもはるかに大きいことを必要とする。結果として、カチオン性発光団で光学的に不活性なカチオン物質[Q]を置換すると、容認できない高いベースラインが理由で実施不可能なセンサー組成物が得られるであろう。
【0013】
乾湿両方の光学的二酸化炭素センサーの包括的な概観は、A. MillsおよびS. Hodgen, ,Fluorescent Carbon Dioxide Sensors’ in ,Topics in Fluorescence Spectroscopy’, Volume 9, Advanced Concepts in Fluorescence Sensing, Part A: Small Molecule Sensing, C. D. Geddes and J. R. Lakowicz (eds.), Springer, 2005, p. 119-161によって提供されている。
【特許文献1】米国特許第5,496,521号
【特許文献2】米国特許第3,694,164号
【特許文献3】米国特許第3,754,867号
【特許文献4】米国特許第5,005,572号
【特許文献5】米国特許第5,472,668号
【特許文献6】米国特許第5,480,611号
【特許文献7】米国特許第6,338,822号
【特許文献8】EP 0 837 327
【特許文献9】EP 0 105 870
【非特許文献1】Sensors and Actuators B29, 169-73 (1995)
【非特許文献2】Ann. Biol. Clin. 61, 183-91, (2003)
【非特許文献3】Anal. Chem., 1992, 64, 1383
【非特許文献4】Millsら、Anal. Chem. 64 (1992), 1388, col. 2, para 485
【非特許文献5】MillsおよびMonaf、Analyst 121 (1996), pg. 539 col. 2, line 15 ff.
【非特許文献6】WeiglおよびWolfbeis、Sensors and Actuators B28 (1995), pg. 155, col. 1, section 2
【非特許文献7】A. MillsおよびS. Hodgen, ,Fluorescent Carbon Dioxide Sensors’ in ,Topics in Fluorescence Spectroscopy’, Volume 9, Advanced Concepts in Fluorescence Sensing, Part A: Small Molecule Sensing, C. D. Geddes and J. R. Lakowicz (eds.), Springer, 2005, p. 119-161
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このように、本発明の目的は、先行技術の欠点が少なくとも部分的に克服された、CO2を測定する光学センサーおよび検出装置を提供することであった。本発明の1つの目的は、保存安定性を高めたCO2センサーを提供することであった。本発明の特別な目的は、改善された化学的安定性を特徴とするカチオン種を用いたCO2センサーを提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、気体または液体試料中のCO2を測定する装置に関し、ポリマー、任意の可塑剤、指示薬、およびマトリクス中に分散された金属カチオン‐イオノフォア錯体を含むカチオン種を含むマトリクスを含み、指示薬は、pH感受性色素またはpH感受性色素系からなり、アニオン性色素種を形成することが可能であり、また、アニオン性色素種とカチオン種とがマトリクス中に可溶であるイオン対を形成することが可能である。
【0016】
特に、本発明は、気体または液体試料中の二酸化炭素を測定する光学センサーに関し、このセンサーは、
(a)ポリマー、
(b)任意の可塑剤、
(c)アニオン性色素種を形成することが可能なpH感受性色素を含む指示薬、
(d)カチオン種、および
(e)pH感受性色素のプロトン化体に対して塩基性であるアニオン種
の、好ましくは均一な混合物からなるマトリクスを含む。
【0017】
ここで、カチオン種は親油性金属カチオン‐イオノフォア錯体である。
【0018】
本発明の別の側面は、気体または液体試料中の二酸化炭素を測定する光学センサーに関し、
(a)ポリマー、
(b)任意の可塑剤、
(c)アニオン性色素種を形成することが可能なpH感受性色素を含む指示薬、
(d)カチオン種、および
(e)pH感受性色素のプロトン化体に対して塩基性であるアニオン種
の混合物からなるマトリクスを含む。
【0019】
ここで、カチオン種は親油性の金属カチオン‐イオノフォア錯体であり、また、カチオン種はアニオン性色素種の対イオンとして作用する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
色素または色素系のタイプに応じて、検体の濃度または分圧により引き起こされる応答は、非常に様々な光物理的メカニズムの影響を受けるであろう。以下で、好ましい色素および色素系の例を示す。
【0021】
色素は、吸収応答性(例えば光吸収)が、直接的または間接的な相互作用を介してCO2の濃度または分圧に依存する物質であってよい(例えば吸光色素、光度測定色素、または比色分析色素)。
【0022】
また、色素は、発光応答性(例えば、発光強度および/または発光減衰時間)が、直接的または間接的な相互作用を介してCO2の濃度または分圧に依存する物質であってもよい(例えば蛍光性またはリン光性の色素)。
【0023】
本発明は、好ましくは発光-光学センサーに関する。このようなセンサーは、少なくとも1つの発光性色素を、例えばセンサーマトリクスの少なくとも1つの層に含む。
【0024】
色素は、2つの色素、発光供与体色素および受容体色素、を含むFRET指示薬色素系(FRET= Fluorescence Resonance Energy Transfer)からなっていてもよい。供与体色素の発光は無輻射エネルギー移動を介して受容体色素により消光される。発光の消光は発光強度および発光減衰時間を変化させる。受容体色素は、検体と直接的または間接的に反応し、従って、その吸光値(吸光スペクトル)およびエネルギー移動速度を変化させる。供与体色素の発光強度または減衰時間から、検体に関する推論ができる。FRET系の利点は専門家が、既知の多くの非発光性指示薬色素(特にpH感受性吸光色素)の選択肢を有し、また、検体がより感受性の高い発光測定を通して測定され得るという事実にある。例は、米国特許第5,232,858 A号(Wolfbeisら)、米国特許第5,942,189 A号(Wolfbeisら)、Anal. Chim. Acta, 1998, 364, 143-151 (Huberら)に見出されるであろう。
【0025】
さらに、色素は、2つの発光性色素を含むDLR指示薬色素系(DLR = Dual Lifetime Referencing)からなっていてもよい。本発明によるCO2センサーの場合、第1の色素はpH感受性色素といわれ、短い減衰時間を有する。第2の色素は、参照色素として機能し、より長い減衰時間、例えばマイクロ秒またはミリ秒範囲、を有する。2つの発光団が、重複する励起スペクトルおよび発光スペクトルを有し、その結果、それらが同一の波長で励起されることが可能であり、また、それらの発光が同一の発光窓(emission window)および光検出器を用いて検出可能であることが理想的である。励起光の単変調周波数で得られる全発光の位相シフトは、両色素の発光強度の比に依存する。参照発光団は、一定のバックグラウンドシグナルを与え、pH感受性色素の発光シグナルは、CO2分圧に依存する。よって、位相シフトの平均は、pH指示薬色素の発光強度および結果的にCO2分圧と直接的な相関関係を有する。DLRセンサーは、例えば、EP-B-1 000 345、DE-A-198 29 657、Liebschら、Anal. Chem. 73 (2001), 4354-4363); Huberら、Anal. Chem. 73, (2001), 2097-2103、Bueltzingsloewenら、Analyst 127 (2002), 127, 1478-1483、Klimantら、Dual Lifetime Referencing (DLR) - a New Scheme for Converting Fluorescence Intensity into a Frequency-Domain or Time-Domain Information, in New Trends in Fluorescence Spectroscopy: Application to Chemical and Life Sciences, Valeur B. & Brochon J.C. (eds.) Springer Verlag, Berlin (2001). chap. 13, 257-275、およびHuberら、Fresenius J. Anal. Chem., 368 (2000), 196-202に記載されている。
【0026】
さらに、本発明は、
(a)CO2を含むと思われる気体または液体試料を提供するステップ、
(b)(i)ポリマー、(ii)任意の可塑剤、(iii)アニオン性色素種を形成することが可能なpH感受性色素を含む指示薬、(iv)カチオン種、および(v)pH感受性色素のプロトン化体に対して塩基性であるアニオン種、(ここで、カチオン種は親油性金属カチオン‐イオノフォア錯体である、)
の混合物を含むマトリクスを含む、気体または液体試料中の二酸化炭素を測定する装置に試料を接触させるステップ、
および
(c)pH感受性色素または色素系の光学特性を測定するステップ
を含む、気体または液体試料中のCO2を測定する方法に関する。
【0027】
ここで、光学特性(例えば、吸光度、発光強度、発光減衰時間および/または位相シフトの大きさ)は、試料中のCO2の存在および/または濃度または分圧と関連がある。
【0028】
本発明は、マトリクスおよびその中に埋め込まれている指示薬を含むセンサー装置を提供する。指示薬は、カチオン種としての金属カチオン‐イオノフォア錯体およびpH感受性色素のアニオンからなるイオン対を形成していてもよい。カチオンおよびアニオンはマトリクスに適合するように選択され、すなわちカチオンとアニオンとがマトリクス中に可溶性イオン対を形成することが可能である。好ましくは、マトリクスは、ポリマー、任意の可塑剤、アニオン種を形成することが可能である少なくとも1つのpH感受性色素またはpH感受性色素系を含む指示薬、およびカチオン種の均一な混合物からなる。マトリクスの構成要素であるポリマーは、好ましくは疎水性ポリマーである。
【0029】
センサーマトリクスに拡散するCO2は、水(マトリクス中に少量存在するであろう)と反応し、pH感受性色素または色素系のアニオン性色素種をプロトン化する弱酸H2CO3を生じるであろう。このプロトン化は、pH感受性色素または色素系の光学特性(例えば吸光度、発光強度、発光および/または発光減衰時間)の変化を引き起こす。個々の反応に関しては、上で引用した「プラスチック膜」のCOセンサーを記載している対応する文献を参照されたい。例えば、試料中のCOの濃度または分圧が増加すると、プロトン化されたpH感受性色素分子の数が増大し得、その結果、光学特性(例えば、吸光度、発光強度、および/または発光減衰時間の減少または増加)に対応する変化が生じる。光学特性の変化は、例えば視覚的手段または光学測定により、定性的および/または定量的に測定することができる。
【0030】
センサーマトリクス中での金属カチオン‐イオノフォア錯体/色素イオン対と二酸化炭素の反応は以下のように記述できる。
【数1】

【0031】
ここで{ }はイオン対を表し、M+は金属カチオン‐イオノフォア錯体、D-は色素アニオン、そしてHDはプロトン化された色素である。カチオン性金属カチオン‐イオノフォア錯体M+はアニオン性色素種D-に対する対イオンとして作用する。
【0032】
本発明によると、アニオン性色素種と異なる第2のアニオン種がマトリクス中に存在する。
【0033】
金属カチオン‐イオノフォア錯体の金属カチオンは、対応するイオノフォアと組み合わされた水酸化物としてそれぞれのセンサー形成用組成物に加えることができる。ここで、金属-カチオンイオノフォア錯体{M+OH-}の水酸化物はin situで生成する。あるいは、金属-カチオンは、塩基性金属塩、例えば重炭酸塩(HCO3-)または有機炭酸塩、好ましくはアルキル炭酸塩(RCO3-)、リン酸水素塩(HPO42-)およびリン酸塩(PO43-)、ならびにそれぞれの有機リン酸塩、好ましくは、対応するイオノフォアと組み合わされたモノ-またはジ-アルキルリン酸塩から選択される化合物として加えてもよい。ここで、それぞれの塩基性化合物、例えば{M+HCO3-}、{M+RCO3-}、{M+PO43-}は、in situで生成する。塩基性アニオン性対イオンを有する金属カチオン‐イオノフォア錯体を、対応するそれぞれのセンサー形成用組成物に直接加えることもできる。
【0034】
金属カチオン‐イオノフォア錯体の対イオンであるアニオン種は、pH感受性色素のプロトン化体に対して塩基性である。本明細書において、塩基性とは、{M+OH-}、{M+HCO3-}、{M+PO43-}等のイオン対の形態でマトリクス中に存在する物質がプロトン化された指示薬種HDからプロトンを取り除くことができる、すなわち、プロトン化された指示薬種HDよりも塩基性であることを意味する。
【0035】
好ましいセンサー形成用組成物は、過剰の塩基性化合物を含む。当業者は、ポリマー、可塑剤およびカチオン種の化学的性質ならびに所望のセンサーシグナルの傾きに応じて色素分子と塩基性アニオン性対アニオンを有する金属カチオン‐イオノフォア錯体とのモル比を選択するであろう。色素分子と金属カチオン‐イオノフォア錯体とのモル比は1:1から1:10000の範囲でよい。好ましい範囲は、1:10から1:1000であり、最も好ましい範囲は、1:10から1:200である。CO2および過剰の塩基性構成要素が関与する平衡は、Millsら、(Anal. Chem., 64 (1992)、1583-89)に要約されている。
【0036】
センサーマトリクスの塩基性特性は、塩基性の対アニオンが添加された過剰量の金属-カチオン-イオノフォア錯体によって決定される。イオノフォアの存在下、マトリクス中で、in situでイオン対{M+D-}を調製する代わりに、塩基性反応条件下、金属カチオンと共に錯体を形成しうるイオノフォアを含む適当な溶媒中での、金属カチオン化合物とそれぞれの色素とのイオン対(形成)反応により供給することができる。
【0037】
本発明の金属-イオノフォア-錯体の重要な特性は、それらが二酸化炭素の光学的測定に干渉するべきではないことである。一般に、本発明のセンサーのカチオン種は、pH感受性色素またはpH感受性色素系の光学特性の測定に光学的に干渉するべきではない。好ましい色素または色素系は可視光領域で光を吸収し、反射し、発光する。それゆえに、好ましい金属-イオノフォア錯体は、可視光領域(おおよそ400 nmと800 nmとの間)で、光を吸収し、反射し、発光すべきではなく、少なくとも実質的に、光を吸収し、反射し、発光しない。結果的に、本発明の好ましい金属-イオノフォア錯体は上記の領域で発光または吸光を示さない。
【0038】
本発明によるカチオン種は、イオノフォアと錯体を形成する金属カチオンであり、イオノフォアは、好ましくは= 2000 Dの分子量を有し、また、金属イオンとのイオノフォア-イオン錯体を形成して、マトリクス中での金属カチオン種の溶解性を提供することができる環状、特に大環状、または非環状の化合物である。典型的には、これらの金属カチオン‐イオノフォア錯体は光学的に指示薬、pH感受性色素またはpH感受性色素系に干渉しない。
【0039】
イオノフォアは、大環状化合物、すなわち好ましくは少なくとも13から40までの環原子を有する化合物でよい。大環状化合物の例は、クラウンエーテルであり、これは、その中でO原子がアルキレン、例えばエチレン基、により結合している環状ポリエーテルである。大環状構造は、カチオンの大きさ、および大環中の酸素原子の数に応じて、カチオンを捕獲できる、いわゆる空洞(hole)を呈する。錯体は、カチオンが酸素原子の自由電子対と配位することにより、安定化される。さらに、本発明は、O原子が部分的または完全に、N、PまたはSのような他のヘテロ原子で置換されたクラウンエーテルを含む。これらの化合物は、アザクラウンエーテル、ホスファクラウンエーテルまたはチアクラウンエーテルと呼ばれる。適切な配位子のさらなる例は、クリプタンド、すなわちアザポリエーテル化合物であり、クラウンエーテル中に存在する空洞は架橋されており、例えば架橋している2つの窒素原子は1つまたはいくつかのO-アルキレン(例えばO-エチレンを含む架橋)で接続されている。さらなる例は、ポーダンド(クラウンエーテルまたはクリプタンドの非環状アナログである)、カリックスアレーン、catapinatesまたは抗生物質、(例えばペプチドまたはマクロライド系抗生物質(例えばバリノマイシン、enniatrine、またはnonactrine))、またはポリエーテル系抗生物質(例えばラサロシド、モネンシン、ナイジェリシン、またはサリノマイシン)である。本発明によると、イオノフォアは、金属カチオン‐イオノフォア錯体に親油性特性を提供する。
【0040】
一般に、親油性という用語は、化合物の、脂肪、オイル、脂質、および実質的に無極性の溶媒(例えば、ヘキサン、トルエン、およびテトラヒドロフラン)に溶解する能力に関する。これらの物質は、それ自体が親油性である。この文脈では、用語「親油性イオノフォア」および「親油性金属カチオン‐イオノフォア錯体」は、さらに、これらの化合物が実質的に無極性ポリマーおよび任意に疎水性有機可塑剤からなる液相に溶解する能力に関する。
【0041】
イオノフォアの具体的な例としては、次表のものがある。
【0042】
が含まれる。
【表1】

【0043】
イオノフォアと錯形成する金属カチオンは、小さいサイズのカチオン、すなわち150 pm未満のイオン半径を有するカチオンであってよく、さらに好ましくは、アルカリまたはアルカリ土類金属カチオン、特にLi、Na、K、CaまたはMgから選択される。さらに、金属カチオンは遷移金属カチオンであってもよく、例えばCu、Fe、Co、NiまたはAgからなる群から選択される。さらに、キレート化または錯形成される金属カチオンは、大きいサイズの金属カチオン(= 150 pm)であってもよく、例えばRb+またはCs+であってもよい。
【0044】
本発明の好ましいカチオン種、すなわちアルカリまたはアルカリ土類金属のカチオン金属カチオン‐イオノフォア錯体の特別な利点は、それらが、遷移金属塩錯体(例えばEP 0 837 327に提案されている)と比較して、レドックス活性化合物(例えば、酸化剤)に対し、またはMillsらにより提案されている(例えばAnal. Chem.64 (1992) 1388および上記の他の引用文献を参照のこと)第4級アンモニウムイオンと比較して、分解に対して高い安定性を有することである。
【0045】
また、金属カチオン‐イオノフォア錯体と色素アニオンとのイオン対は改良された溶解性も示す。
【0046】
pH感受性色素または色素系は、H2O存在下、酸性反応成分(例えば二酸化炭素)との反応によりプロトン化されることが可能な化合物を含む。
【0047】
適切なpH感受性色素の例は、湿った環境で、5から10、好ましくは7から9の範囲のpK値を有するフェノール基および/またはカルボン酸基のような酸性反応基を有する色素である。pK値は、脱プロトン化反応の熱力学的平衡定数の負の対数である。
pH感受性色素は、すくなくとも2つの形態、すなわち、少なくとも1つのプロトン化された種 Aおよび少なくとも1つの脱プロトン化された種 Bとして存在し、2つの種およびプロトン(すなわち、それぞれ-H+またはH3O+)は、熱力学的に平衡な状態にある。
【数2】

【0048】
本発明のCO2センサーの場合、pH感受性色素は、CO2との直接的または間接的な相互作用により、すなわち、式(1)で示される平衡反応によって、可逆的にプロトン化される。脱プロトン化は色素種の正電荷を減少させ(例えば、0から-1、-1から-2、等)、それにより、アニオン種を生成させる、または既存のアニオン種の電荷を増加させる。生成したアニオン電荷は、カチオン種の正電荷により補償されなければならない。
【0049】
本発明のセンサーの場合、カチオン種およびイオン対 (アニオン性色素種およびカチオン種からなる) の両方がマトリクスに可溶であることが必要とされる。
【0050】
発光性pH感受性色素は、pH感受性ヒドロキシピレン、フルオレセイン、ローダミン、ウンベリフェロン、クマリン、およびそれらのアルキルエステルまたはアミドのような誘導体から選択することが可能である。特に好ましい発光性色素は、7-ヒドロキシクマリン-3-カルボン酸、8-ヒドロキシピレン-1,3,6-トリスルホン酸、5(6)-カルボキシフルオレセイン、5(6)-カルボキシナフトフルオレセイン(C652、Invitrogen)、カルボキシSNARF-1(C1270、Invitrogen)、カルボキシSNARF-4F(S23920、Invitrogen)、カルボキシSNARF-5F(S23922、Invitrogen)、カルボキシSNAFL-1(C1255、Invitrogen)、2’-クロロフルオレセイン、2’-クロロ-7’-ヘキシルフルオレセイン、2’,7’-ジクロロフルオレセイン、2’-クロロフルオレセイン ヘキシルエステル、2’-クロロフルオレセインオクタデシルエステル、および2’,7’-ジクロロフルオレセインオクタデシルエステルのプロトン化体および/または脱プロトン化体である。
【0051】
吸光ベースのpH感受性色素は、pH感受性のトリフェニルメタン色素、アゾ色素、等から選択することが可能である。
【0052】
好ましい吸光ベースのpH感受性色素には、ブロモチモールブルー、チモールブルー、m-クレゾール パープル、クレゾールレッド、フェノールレッド、キシレノールブルーおよびブリリアントイエローが含まれる。
【0053】
本発明で有用な追加のpH感受性色素は、A. MillsおよびS. Hodgen,"Fluorescent Carbon Dioxide Sensors" in "Topics in Fluorescence Spectroscopy",Volume 9,Advanced Concepts in Fluorescence Sensing,Part A: Small Molecule Sensing,C. D. Geddes and J. R. Lakowicz (eds.),Springer,2005,p. 119-161に見出されるであろう。
【0054】
指示薬色素のアニオン性形態は、マトリクス中での溶解性を高めるためにイオン対を形成することにより親油化されていてよい。色素の水溶性ナトリウム塩は、水溶液から、適切な金属カチオンクラウンエーテル錯体と共に有機溶媒中に抽出することにより、所望の金属カチオンイオン対に変換されるであろう。
【0055】
本発明によるセンサーは、いずれの適切な形態であってよく、例えば指示薬を含むセンサーマトリクスは、粒子として、基材ベースの被膜または小型の基材として存在してもよい。好ましくは、センサーマトリクスは基材(例えば不透明または透明な不活性基材、好ましくはプラスチック基材)上にフィルムとして提供される。好ましくは、フィルムは、1〜200 μm、好ましくは10〜100 μmの厚さを有する。ポリマーマトリクスは、好ましくは透明である。さらに、センサーマトリクスは、加水分解安定性、および、二酸化炭素透過性を有するべきである。
【0056】
本発明のセンサーは、好ましくは実質的に乾燥しており、すなわちセンサーマトリクスは、低い含水量、例えば約10% (w/w)以下、好ましくは約5% (w/w)以下の含水量を有する。約0.01% (w/w)から約1% (w/w)の含水量が好ましい。
【0057】
センサーマトリクスは、好ましくは、ポリビニルベースのポリマー、アクリルベースのポリマー、スチレンベースのポリマー、セルロースベースのポリマー、ポリウレタンベースのポリマー、ポリエステルベースのポリマー、またはポリシロキサンベースのポリマー、ならびにそれらの組み合わせからなる群から選択されるポリマーを含む。好ましくは、ポリマーは実質的に疎水性のポリマーである。
【0058】
さらに、ポリマーは、ポリエステルまたはポリシロキサン(例えばテトラメトキシシランまたはテトラエトキシシラン前駆体から誘導されたゾルゲル、ポリジメチルシロキサンおよび他の有機的に変性されたシロキサン)に基づくことができる。
【0059】
特に好ましいポリマーは、セルロースベースのポリマー(例えばエチルセルロース、メチルセルロース、アミノセルロース等)、ポリウレタン、ポリシロキサン(例えばテトラメトキシシランまたはテトラエトキシシラン前駆体から誘導されたゾルゲル、ポリジメチルシロキサンおよび他の有機的に変性されたシロキサン)、シリコーンゴム等である。
【0060】
さらに、センサーマトリクスは、追加の可塑剤を含んでいてよい。適切な可塑剤は、例えば(例えば、第2級または第3級アルコール、スルファミド等と)リン酸のアルキルトリエステル、カルボン酸のエステルを含む疎水性可塑剤である。可塑剤の具体的な例は、セバシン酸ジオクチル(DOS)、リン酸トリオクチル(TOP)、シアノフェニルオクチルエステル(CPOE)、ニトロフェニルオクチルエステル(NPOE)、2‐オクチルオキシベンゾニトリル(OBN)、リン酸トリブチル(TBP)、等である。
【0061】
本発明のセンサーおよび方法は、例えば工業的(産業的)または医学的応用において、気体または液体試料中のCO2の濃度または分圧を測定するのに適切である。例えば、本発明は血液または呼気中の二酸化炭素量を測定するのに適切である。
【0062】
本発明の方法は、光学センサーのセンサーマトリクス中に存在する指示薬の光学特性の測定に基づく。
【0063】
好ましい応用(例)は、例えば体液中のCO2測定等医療診断方法におけるCO2測定であり、特にCO2分圧(pCO2)を単独、または、酸素分圧(pO2)、pH、および電解質(K+、Na+、Ca2+および/またはCl-等)のような他のパラメーターと組み合わせて測定するためのものである。さらに好ましい応用(例)は、医療または非医療生命工学、特に、分析、モニタリング、品質管理、および/または生命工学的工程の最適化である。特に好ましい応用(例)は、人間医学および獣医学における、血液もしくは呼気分析、または気体もしくは液体の経皮的(transcutaneous)分析診断のための、神経系(例えば脳)中におけるCO2測定、細胞培養増殖、発酵、または代謝活性のモニタリングにおけるCO2測定、薬剤スクリーニング、および食物もしくは飲料包装中のCO2測定、あるいは環境試料(例えば、淡水、海水、または廃水試料)中のCO2測定である。
【0064】
結果として、本発明のさらなる側面は、二酸化炭素を測定するセンサーの使用である。特に、二酸化炭素を測定するセンサーの使用は、特に生命工学的応用における工程を制御および/または最適化するための、血液もしくは呼気、生命工学的工程、細胞培養増殖、発酵、または代謝活性のモニタリングにおける、工程品質を制御するもしくは工程を最適化するための、食物もしくは飲料包装おける、環境試料(淡水、海水または排水)における、CO2測定を含む。
【0065】
センサーは、発光性光学センサー、例えば参照として本明細書に組み入れられているAnn. Biol. Clin. 2003,61: 183-191に記載されているようなオプトードであってよい。センサーは、吸光ベースの光学センサー、FRETベースの光学-センサー、またはDLRベースの光学センサーであることも可能である。吸光ベースのセンサーは、例えばMills A.およびChang Q. (Sensors and Actuators B21 (1994), 83-89)ならびにMillsら(Sensors and Actuators B38-39 (1997), 419-425)により記載されている。FRETベースのセンサーは、例えばLiebschら(Applied Spectroscopy 54/4 (2000), 548-559)およびNeurauterら(Analytica Chimica Acta 382 (1999), 67-75)により記載されている。DLRベースのセンサーは、例えばBueltzingsloewen C. von (Analyst 127 (2002),1478-1483)およびBorisovら(Applied Spectroscopy 60/10 (2006), 1167-1173)により記載されている。
【0066】
好ましいセンサーは、上記の指示薬を含むセンサーマトリクス(例えば光学的に透明な基材(例えばポリエステルホイル)上の検出または検知層)を含む。
【0067】
検出(検知)層は、測定しようとする酸性化合物に対して透過性を有する、不透明(例えば黒または白)な保護膜(オーバーコート)層で被覆されていることが好ましい。保護膜層は、試料中の構成要素による光学および/または化学的干渉から検出層を保護するための予防装置として機能する。基材の底部は、カートリッジ中に取り付けるために光学的透過性および粘着性を有する層で被覆されていてよい。
【0068】
さらに、装置は、上記のセンサー、およびpH感受性色素を励起することが可能な光で検出層を照射するための光源(例えばLED)を含むことが好ましい。その上、さらに、装置は、指示薬色素からの放出光を検出する手段(例えばフォトダイオード)を含むことが好ましい。放出光は、励起光より高い波長を有することが好ましい。
【0069】
本発明のセンサーマトリクスは、従来技術(例えばキャスティング技術)によって製造することができ、マトリクスの構成要素、すなわち、ポリマー、カチオン種(すなわち金属カチオン‐イオノフォア錯体)、pH感受性色素、および任意の可塑剤を、有機または含水有機溶媒中に溶解し、適切な基材上にキャストする。
【0070】
Li+、Na+、K+ のようなカチオンは、イオノフォアとの錯体として添加されることが好ましい。この場合、対イオンは、OH-、pH感受性色素のアニオン、および/または、有機アニオン、特に有機リン酸もしくは炭酸(例えば、アルキルリン酸および/またはアルキル炭酸)から独立に選択されることが好ましい。
【0071】
以下、添付の図および実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0072】
可溶化された金属カチオンの使用を含むセンサー
一般的な形成用組成物:エチルセルロース/HPTS 三(K-クラウン 6)塩/ (Z-クラウン 6) 水酸化物/白いテフロン(登録商標)保護膜(テフロン(登録商標)AF中TiO2)
溶液I: 10 mg HPTS
34.7 mg 18-クラウン-6
955.3 mg メタノール
溶液II: 15.0 mg KOH
157.9 mg 18-クラウン-6 (アルドリッチ 34682)
1326.7 mg メタノール
光学センサーの製造
エチルセルロースの10%(w/w)トルエン/エタノール(4/1 v/v)溶液1 gに26 mgの溶液Iを加えた。この混合物に56.2 mgの溶液IIを加え、このキャスティング溶液を充分に混合した。ナイフコーティング装置(Zehntner ZAA2300)を用いて、各均一コーティング溶液を125 μmポリエステルフォイル(Mylar foil、Goodfellow ES301425)上に厚さ150 μmの湿ったフィルムで被覆した。乾いたセンサーフィルムは半透明であった。さらに、シグナル向上のために、センサーフィルムを、厚さ150 μmの湿ったフィルムである白いテフロン(登録商標)で被覆した。
【0073】
直径5 mmのディスクを型抜き、Yタイプに分岐した光学的導光路の遠端部に固定した。導光路の他の接続部を、それぞれ青色発光ダイオード(λmax=470 nm)およびPMTに接続した。これらは、両方ともデュアルロックイン増幅器(Stanford Research SR830)で制御される。光学セットアップには、青色励起フィルター(BG12、Schott AG)および橙色発光フィルター(OG530、Schott AG)を用いた。導光路の端部を含むセンサーを、20±1℃の水浴中に設置した自製測定槽中に設置した。槽の入口部を、異なる二酸化炭素含有量の湿気を含む気体が1 L/minの流速でその中を流れるように特別に設計した気体混合装置に接続した。
【0074】
結果:
図2は、それぞれ0、1、3、5、10、20、30、50、および100%の異なる二酸化炭素含有量を有する気体にさらされた条件下での、可溶化した金属カチオンを用いたセンサーの応答を示す。得られた較正グラフを図3に示す。金属カチオンを可溶化することが二酸化炭素感受性物質の生成に適していることは明らかである。被覆フィルムの均一性および透明性は、イオン対を形成した色素と金属カチオン錯体の良好な溶解度、したがって、成分の良好な適合性を示している。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】図1は、本発明によるCO2センサーを概略的に示す図である。センサーは、支持体(T)、指示薬層(H)、および遮光層(O)を含む。支持体(T)の上に、指示薬層(H)は、直接または接着層を介して設置される。遮光層(O)は、任意に指示薬層(H)の上に設置することができる。遮光層(O)は気体浸透性およびイオン非浸透性であることが好ましく、この中に光吸収性および光反射性(合わせて「遮光性(“light‐blocking”)」粒子が分散している。遮光層(O)は、試料(P)とのいかなる光学的干渉から保護する。
【図2】図2は、金属カチオンとして可溶化されたKを使用する乾式CO2センサーの経時変化を示す図である。それぞれ0、1、3、5、10、20、30、50および100%の二酸化炭素含有量を有する湿った気体中で蛍光強度を測定した。
【図3】図3は、可溶化された金属カチオンとしての(K‐クラウン6)の使用を含む図2に示したセンサーの較正グラフである。破線は、単一測定のためのボルツマン近似(Boltzmann‐Fit)を表し、補正係数R2=0.9997である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体または液体試料中の二酸化炭素を測定する光学センサーであって、
(i)ポリマー、
(ii)任意の可塑剤、
(iii)アニオン性色素種を形成することが可能なpH感受性色素を含む指示薬、
(iv)カチオン種、および
(v)pH感受性色素のプロトン化体に対して塩基性であるアニオン種
の混合物からなるマトリクスを含んでおり、カチオン種が親油性金属カチオン‐イオノフォア錯体である、前記光学センサー。
【請求項2】
気体または液体試料中の二酸化炭素を測定する光学センサーであって、
(i)ポリマー、
(ii)任意の可塑剤、
(iii)アニオン性色素種を形成することが可能なpH感受性色素を含む指示薬、
(iv)カチオン種、および
(v)pH感受性色素のプロトン化体に対して塩基性であるアニオン種、
の混合物からなるマトリクスを含んでおり、カチオン種が親油性の金属カチオン‐イオノフォア錯体であり、カチオン種がアニオン性色素種の対イオンとして機能する、前記光学センサー。
【請求項3】
カチオン種が、アルカリ金属カチオン、特にLi+、Na+、K+、Rb+、またはCs+から選択されるアルカリ金属カチオンの金属カチオン‐イオノフォア錯体である、請求項1または2に記載のセンサー。
【請求項4】
イオノフォアが、ポーダンド、クラウンエーテル、クリプタンド、カリックスアレーン、およびバリノマイシンからなる群から選択される、請求項1〜3のいずれかに記載のセンサー。
【請求項5】
色素または色素系のpH活性部分が、プロトン化体と脱プロトン化体との両方で存在し、プロトン化体と脱プロトン化体との比率が気体または液体試料のpCO2に依存し、脱プロトン化体とカチオン種とがイオン対を形成する、請求項1〜4のいずれかに記載のセンサー。
【請求項6】
pH感受性色素または色素系が、マトリクス中に溶解している、請求項1〜5のいずれかに記載のセンサー。
【請求項7】
pH感受性色素または色素系が、ポリマーに結合している、請求項1〜6のいずれかに記載のセンサー。
【請求項8】
pH感受性色素または色素系が、可塑剤に結合している、請求項1〜6のいずれかに記載のセンサー。
【請求項9】
pH感受性色素または色素系が、ポリマーマトリクス中に分散した粒子の表面に結合している、請求項1〜6のいずれかに記載のセンサー。
【請求項10】
pH感受性色素が、フルオレセイン、ウンベリフェロン、7-ヒドロキシクマリン-3-カルボン酸、ブロモチモールブルーおよび8-ヒドロキシピレン-1,3,6-トリスルホネート、5(6)-カルボキシフルオレセイン、5(6)-カルボキシナフトフルオレセイン、カルボキシSNARF-1、カルボキシSNARF-4F、カルボキシSNARF-5F、カルボキシSNAFL-1、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1〜9のいずれかに記載のセンサー。
【請求項11】
マトリクスが、水酸化物、重炭酸、有機炭酸、および有機リン酸の群から選択されるカチオン種の対アニオンを含む、請求項1〜10のいずれかに記載のセンサー。
【請求項12】
マトリクスが基材上のフィルムの形態である、請求項1〜11のいずれか1項に記載のセンサー。
【請求項13】
マトリクスが基材上の不活性フィルム内に分散した粒子の形態である、請求項1〜12のいずれか1項に記載のセンサーであって、請求項1〜12のいずれかに記載のセンサー。
【請求項14】
マトリクスが、ビニルベースのポリマー、アクリルベースのポリマー、スチレンベースのポリマー、セルロースベースのポリマー、ポリウレタンベースのポリマー、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1〜13のいずれかに記載のセンサー。
【請求項15】
マトリクスが、ポリシロキサンをベースとするポリマー、例えばテトラメトキシシランもしくはテトラエトキシシラン前駆体から誘導されたゾルゲル、ポリジメチルシロキサン、および他の有機的に変性されたシロキサン(ormosils)、フルオロポリマーを含むポリマー、例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリジエン、ポリエステル、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1〜13のいずれかに記載のセンサー。
【請求項16】
ポリマーマトリクスが、エチルセルロースを含む、請求項14に記載のセンサー。
【請求項17】
マトリクスが、10%(w/w)以下、好ましくは5%(w/w)以下の含水量を有する、請求項1〜16のいずれかに記載のセンサー。
【請求項18】
色素分子と金属カチオン‐イオノフォア錯体とのモル比が、1:1〜1:10000の範囲、好ましくは1:10〜1:1000の範囲、最も好ましくは1:10〜1:200の範囲である、請求項1〜17のいずれかに記載のセンサー。
【請求項19】
二酸化炭素を測定するための請求項1〜18のいずれかに記載のセンサーの使用。
【請求項20】
(a)二酸化炭素を含有していると疑われる気体または液体試料を提供するステップ、
(b)試料を、請求項1〜18のいずれかに記載のセンサーに接触させるステップ、および
(c)センサーの光学特性を決定するステップ
を含んでなり、
光学特性が試料中の二酸化炭素の存在および/または量に関連する、気体または液体試料中の二酸化炭素を測定する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−249696(P2008−249696A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−46448(P2008−46448)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【出願人】(500050387)プレセンス プレシジョン センシング ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】