説明

乾式分析要素

【課題】 保存安定性に優れた乾式分析要素を提供すること。
【解決手段】 生体試料中のアナライトまたはアナライトから誘導される物質に共役酵素を作用させ、過酸化水素を生成させ、前記過酸化水素を利用して発色性物質を発色させて前記アナライトを定性または定量分析する乾式分析要素において、支持体上に、前記発色性物質を含む発色層と前記共役酵素を含む試薬層とが隣接して配置されるとともに、前記発色性物質の発色に関与するメディエータを含まないことを特徴とする乾式分析要素。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料中のアナライトを定性または定量分析する乾式分析要素に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査において、血液等の生体試料に含まれるアナライト(分析目標成分)を定量するために、乾式分析要素を用いることが知られている。例えば特許文献1には、オキシダーゼの存在下で生成する過酸化水素を定量することにより、水性液体試料中のアナライトを定量し得る呈色試薬組成物を含有する層を光透過性水不透過性支持体の上に有する乾式多層分析要素が開示されている。特許文献1の乾式多層分析要素は、アナライトまたはアナライトから誘導される物質に特異的に作用して過酸化水素を生成するオキシダーゼ、過酸化水素分解酵素、フェロシアン化アルカリ、色原体を必須成分とする呈色試薬組成物を前記支持体の片面上の層に乾燥状態で保持したものである。
【0003】
図3に、特許文献1の乾式多層分析要素の断面図を示す。図3に示す乾式多層分析要素500は、コレステロールを定量するためのものであり、光透過性水不透過性支持体100の上に色原体含有層200、その上にフェロシアン化アルカリおよび酸化チタン微粒子を含む光反射層400、その上にコレステロースエステラーゼ、過酸化水素分解酵素(ペルオキシダーゼ)およびコレステロールオキシダーゼを含む試薬展開層520が設けられている。
この乾式多層分析要素500を用いて、例えば血中の高密度リポタンパク(HDL)−コレステロールを分析するには、まず、血漿または血清に分画用試薬を添加して遠心し、遠心後の上清からHDL分画を採取する。そして、この検体を試薬展開層520に点着して供給し、発色した色原体の色濃度を反射測光法によって検出する。この測定原理は以下のようなものである。すなわち、コレステロールを含む血清は、ほぼその容量に比例した拡がりをもって試薬展開層520中に浸透する。試薬展開層520において、血清中のリポプロテインに含まれるコレステロールエステルは、コレステロースエステラーゼによってコレステロールと脂肪酸とに加水分解される。生成したコレステロールはそこに存在するコレステロールオキシダーゼによって酸化され、過酸化水素が生成する。この過酸化水素はペルオキシダーゼにより水に変換される際に、メディエータとしてのフェロシアンイオンを酸化し、フェリシアンイオンが生成する。このフェリシアンイオンは色原体層200に到達し、色原体を有色色素に酸化して色素を形成し、その色素生成量は血清中のHDL−コレステロールに相関する。
【0004】
【特許文献1】特開昭63−48457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような乾式分析要素は長期間保存されることが多いため、より一層の保存安定性の向上が求められている。しかしながら、従来の乾式分析要素を用いてHDL−コレステロールを測定すると、長期間保存後に、測定値が実際の値よりも低くなることが本発明者らの検討により明らかとなった。
したがって、本発明の目的は、保存安定性に優れた乾式分析要素を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のとおりである。
1. 生体試料中のアナライトまたはアナライトから誘導される物質に共役酵素を作用させて過酸化水素を生成させ、前記過酸化水素を利用して発色性物質を発色させて前記アナライトを定性または定量分析する乾式分析要素において、支持体上に、前記発色性物質を含む発色層と前記共役酵素を含む試薬層とがこの順に隣接して積層されるとともに、前記発色性物質の発色に関与するメディエータを含まないことを特徴とする乾式分析要素。
2. 前記試薬層がペルオキシダーゼおよびコレステロールオキシダーゼを少なくとも含有することを特徴とする上記1に記載の乾式分析要素。
3. 前記アナライトが、HDL−コレステロールであることを特徴とする上記1または2に記載の乾式分析要素。
4. 前記メディエータが、フェロシアンイオンであることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の乾式分析要素。
5. 前記発色性物質がロイコ色素であることを特徴とする上記1〜4のいずれかに記載の乾式分析要素。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、乾式分析要素からフェロシアンイオンに代表されるメディエータを取り除き、かつ発色性物質を含む層と共役酵素を含む層とを隣接させることにより、保存安定性を大幅に向上した乾式分析要素が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の乾式分析要素は、生体試料中のアナライトまたはアナライトから誘導される物質に共役酵素を作用させ過酸化水素を生成させ、過酸化水素を利用して発色性物質を発色させて前記アナライトを定性または定量分析できる反応系であれば、アナライト、共役酵素および発色性物質は特に制限されるものではない。なお、本明細書において「発色性物質」とは、電子の授受によって可視光を吸収することができる色素前駆体を意味する。
以下では、本発明の好適な実施形態として、アナライトとしてコレステロール(特にHDL−コレステロール(高密度リポタンパク質コレステロール))、過酸化水素を生成させる共役酵素としてコレステロールオキシダーゼ、発色性物質としてロイコ色素を採用した形態について説明する。
図1に、本実施形態に係る乾式分析要素の一例を示す。図1に示す乾式分析要素10は、支持体11上に、ロイコ色素を含む発色層12が設けられている。さらに、この発色層12の上に隣接して、ペルオキシダーゼ、コレステロールエステラーゼ、およびコレステロールオキシダーゼを含む試薬層13が設けられている。
【0009】
図2に、上記実施形態に係る乾式分析要素10によるコレステロールの測定原理を示す。図2に示すように、HDL−コレステロールを含むリポプロテインを界面活性剤により、コレステロール+コレステロールエステル+タンパク質に分離する(反応2)。次に、生じたコレステロールエステルにコレステロールエステラーゼ(CE)を作用させ、脂肪酸と遊離コレステロールとに分離する(反応3)。これらの処理によって生じた遊離コレステロールを、コレステロールオキシダーゼ(CO)と接触させ、過酸化水素(酸化性物質)を生成させる(反応4)。この過酸化水素にペルオキシダーゼを作用させると同時に、ロイコ色素のような色原体を有色色素に酸化して色素を形成する(反応5)。この発色色素を定性分析するか、比色定量法により定量する。
【0010】
上記のように、本実施形態に係る乾式分析要素10は、発色層12と共役酵素を含む試薬層13とが隣接して配置されるとともに、フェロシアンイオンに代表されるメディエータを使用しない。すなわち、過酸化水素がペルオキシダーゼにより還元されて水に変換される際に、直接、ロイコ色素を酸化する。ここで、本明細書における「メディエータ」とは、ロイコ色素等の発色性物質の発色に関与し、過酸化水素と発色性物質との間で電子伝達体としての役割を担う物質をいう。
このように、本発明ではメディエータを使用しないことで、保存安定性が大幅に向上した乾式分析要素を得ることができる。また、本実施形態に係る乾式分析要素10は、支持体11上に発色層12と試薬層13とがこの順に隣接して積層されることで、発色性物質の酸化が防止され、保存安定性が向上する。
【0011】
以下、乾式分析要素10を構成する各層について説明する。
発色層12は、水浸透性を高くするために、多孔性媒体からなる多孔性層とするか、親水性ポリマーバインダーからなる層とするのが好ましく、親水性ポリマーバインダーからなる層とするのがより好ましい。
発色層12として多孔性層を用いる場合、その多孔性媒体は繊維質であってもよいし、非繊維質であってもよい。繊維質材料としては、例えば濾紙、不織布、織物布地(例えば平織布地)、編物布地(例えばトリコット編物布地)、ガラス繊維濾紙等を用いることができる。非繊維質材料としては、特開昭49-53888号公報等に記載の酢酸セルロース等からなるメンブランフィルター、特開昭49-53888号公報、特開昭55-90859号公報、特開昭58-70163号公報等に記載の無機物又は有機物微粒子からなる連続空隙含有粒状構造物層等のいずれでもよい。特開昭61-4959号公報、特開昭62-116258号公報、特開昭62-138756号公報、特開昭62-138757号公報、特開昭62-138758号公報等に記載の部分接着された複数の多孔性層の積層物も好適である。
【0012】
発色層12が多孔性層から形成される場合、発色層12の厚さは特に制限されないが、塗布層として設ける場合には、1μm〜50μm程度が好ましく、2μm〜30μmの範囲がより好ましい。ラミネートによる積層など、塗布以外の方法による場合、厚さは数十μmから数百μmの範囲で大きく変化し得る。
【0013】
親水性ポリマーバインダーからなる水浸透性層で発色層12を構成する場合、使用できる親水性ポリマーとしては、例えば、以下のものがある。ゼラチン及びこれらの誘導体(例えばフタル化ゼラチン)、セルロース誘導体(例えばヒドロキシエチルセルロース)、アガロース、アルギン酸ナトリウム、アクリルアミド共重合体、メタアクリルアミド共重合体、アクリルアミド又はメタアクリルアミドと各種ビニル性モニマーとの共重合体、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル酸と各種ビニル性モノマーとの共重合体などである。
【0014】
親水性ポリマーバインダーで構成される層は、特公昭53-21677号公報、特開昭55-164356号公報、特開昭54-101398号公報、特開昭61-292063号公報等に記載の方法に従って、親水性ポリマーを含む水溶液又は水分散液を支持体又は他の層の上に塗布し乾燥することにより設けることができる。発色層12が親水性ポリマーをバインダーとする層から形成される場合、発色層12の乾燥時厚さは約2μm〜約50μmの範囲が好ましく、約4μm〜約30μmの範囲がより好ましく、被覆量では約2 g/m2〜約50g/m2の範囲であることが好ましく、約4g/m2〜約30g/m2の範囲であることがより好ましい。
【0015】
発色層12に含まれるロイコ色素は、例えば、ロイコ色素の酸化によって色素を生成する組成物(例、米国特許4,089,747号明細書)等に記載のトリアリールイミダゾールロイコ色素、特開昭59−193352号公報等に記載のジアリールイミダゾールロイコ色素)等が挙げられる。これとは別に、;酸化されたときに他の化合物とカップリングにより色素を生成する化合物を含む組成物(例えば4-アミノアンチピリン類とフェノール類又はナフトール類)などを使用することもできる。
発色層12におけるロイコ色素の配合量としては、特に限定されず、検出すべきアナライトのモル量を考慮して、適宜設定することができる。
【0016】
発色層12(図1)にロイコ色素を含有させるには、発色層12が多孔性層からなる場合は、多孔性層に発色性物質の溶液を塗布すればよい。また、発色層12が親水性ポリマーバインダーからなる層から形成される場合は、親水性ポリマーが溶解又は分散した溶液に、発色性物質を界面活性剤等により乳化又は分散させた塗布液を、支持体11上に塗布、乾燥することにより発色層12を形成することができる。発色性物質を乳化させる場合、発色性物質、界面活性剤、オイル等を親水性ポリマーに添加して、公知の乳化方法により乳化させることができる。一方、発色性物質を分散させる場合には、発色性物及び界面活性剤を親水性ポリマーに添加して公知の分散方法により分散させることができる。
【0017】
ここで、ロイコ色素等の発色性物質は、一般に水不溶性かつ有機溶媒可溶性であるので、発色性物質と共役酵素とを有機溶媒に溶解または分散して支持体上に塗布する必要があり、有機溶媒の使用により環境への負荷を増大させるという問題が生じる。これに対し、本発明に係る乾式分析要素の好適な実施形態においては、発色層を、前述のように、発色性物質、オイル成分(例えばN,N−ジメチルラウラミドやステアリルアルコール等)、界面活性剤および水を混合し、発色層を乳化液の状態で水性塗布する。発色層を水性塗布することにより、有機溶媒を使用せずに済むので環境への負荷を低減するとともに、作業性が改善される。
【0018】
発色層12には、塗布特性、拡散性、反応性、保存性等の諸性能の向上を目的として、酵素の活性化剤、補酵素、界面活性剤、pH緩衝剤組成物、微粉末、酸化防止剤、架橋剤、その他、有機物あるいは無機物からなる各種添加剤を加えることができる。発色層12に含有させることができる緩衝剤の例としては、日本化学会編「化学便覧 基礎編」(東京、丸善(株)、1966年発行)1312-1320 頁、R.M.C.Dawson et al編、「Data for Biochemical Research」第2版(Oxford at the Clarendon Press,1969 年発行) 476-508 頁、「Biochemistry」5,467-477頁 (1966年) 、「Analytical Biochemistry」 104,300-310 頁 (1980年) に記載のpH緩衝剤系がある。pH緩衝剤の具体例として硼酸塩を含む緩衝剤;クエン酸又はクエン酸塩を含む緩衝剤;グリシンを含む緩衝剤;ビシン(Bicine)を含む緩衝剤;HEPES を含む緩衝剤;MES を含む緩衝剤などのグッド緩衝剤等がある。
また、発色層12は架橋剤を用いて適宜に架橋硬化された層とすることができる。架橋剤の例として、ゼラチンに対する1,2−ビス(ビニルスルホニルアセトアミド)エタン、ビス(ビニルスルホニルメチル)エーテル等の公知のビニルスルホン系架橋剤、アルデヒド等、メタリルアルコールコポリマーに対するアルデヒド、2個のグリシジル基含有エポキシ化合物等がある。
【0019】
試薬層13は、多孔性媒体からなる多孔性層とするか、親水性ポリマーバインダーからなる層とするのが好ましく、多孔性層とすることがより好ましい。試薬層13が多孔性層である場合は、展開層の機能を有する多孔性層であることが好ましい。展開層とは、供給される液体の量にほぼ比例した面積に液体を展開する、いわゆる計量作用を有する層である。
試薬層13に適用できる展開層としては、例えば、特開昭55−164356号、特開昭57−66359号の各公報等に記載の織物展開層(例えば、ブロード、ポプリン等の平織物)、特開昭60−222769号公報等に記載の編み物展開層(例えば、トリコット編、ダブルトリコット編、ミラニーズ編等)、特開昭57−148250号公報に記載の有機ポリマー繊維パルプ含有抄造紙からなる展開層、特公昭53−21677号公報、米国特許第3,992,158号明細書等に記載のメンブランフィルター(ブラッシュポリマー層)、ポリマーミクロビーズ、ガラスミクロビーズ、珪藻土が親水性ポリマーバインダーに保持されてなる連続微空隙含有多孔性層等の非繊維等方的多孔性展開層、特開昭55−90859号公報に記載のポリマーミクロビーズが水で膨潤しないポリマー接着剤で点接触状に接着されてなる連続微空隙含有多孔性層(三次元格子状粒状構造物層)からなる非繊維等方的多孔性展開層等を用いることができる。
なお、試薬層13の厚さは、特に制限されず、厚さは数十μmから数百μmの範囲で大きく変化し得る。
【0020】
試薬層13に含まれるコレステロールオキシダーゼ(COD,EC 1.1.3.6)は、市販のものを使用することができる。市販のコレステロールオキシダーゼとしては、例えば、東洋紡績(株)のCOO−311、旭化成(株)のCON、エフ・ホフマン・ラ・ロシュ社(F.Hoffmann-La Roche Ltd.)のCholesterol oxidase、天野エンザイム(株)のCHO−1等が挙げられる。
コレステロールオキシダーゼの使用量は、生体試料に含まれるコレステロールの推定量等により適宜変更できるが、例えば、該酵素が含まれる層における塗布量として、500〜32000U/m、好ましくは2000〜13000U/mである。なお、ここでいうユニット(U)は、25℃で1分間あたり1μmolのコレステロールを酸化させるのに必要な量を1Uとした。
【0021】
試薬層13に含まれるペルオキシダーゼ(POD,EC 1.11.1.7)は、市販のものを使用することができる。市販のペルオキシダーゼとしては、例えば、東洋紡績(株)のPEO−301等が挙げられる。
ペルオキシダーゼ、生体試料に含まれるコレステロールの推定量等により適宜変更できるが、例えば、該酵素が含まれる層における塗布量として、10000〜100000U/m、好ましくは、30000〜60000U/m、なお、ペルオキシダーゼにおいては、25℃でo−ジアニシジンを用いた国際単位の13.5倍を1Uとした。
【0022】
試薬層13に上記のコレステロールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ等の酵素を含有させるには、例えば上記で挙げた展開層に酵素を含む水溶液を塗布すればよい。なお、酵素を含む水溶液には、リポプロテインを分解する界面活性剤、生じたコレステロールエステルを脂肪酸と遊離コレステロールに分離するコレステロールエステラーゼ等を添加するのが好ましい。
コレステロールエステラーゼ(CE,EC 3.1.1.13)は、市販のものを使用することができる。市販のコレステロールエステラーゼとしては、例えば、天野エンザイム(株)のCHE−2等が挙げられる。また、リポプロテインを分解する界面活性剤としては、公知のものを使用することができ、例えば、Triton X−100等が挙げられる。
また、試薬層13には、アスコルビン酸オキシダーゼ(ASO)を含有させてもよい。 アスコルビン酸オキシダーゼとしては市販のものを使用することができ、例えば、ロシュ社、東洋紡績(株)より入手することができる。
【0023】
試薬層13の至適pHは、好ましくは7〜9の範囲であり、最も好ましいpH範囲は7.5〜8.5の範囲である。至適pHの調製には、必要に応じて緩衝剤などの試薬を用いることができる。
【0024】
支持体11としては、光透過性が高く、かつ水に対しては不透過性の支持体を用いることが好ましい。光透過性かつ水不透過性の支持体は、従来の乾式分析要素に用いられる公知のものを用いることができる。その具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ビスフエノールAのポリカルボネート、ポリスチレン、セルロースエステル(例えば、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート等)等のポリマーからなる厚さ約50μmから約1mm、好ましくは約80μmから約300μmの範囲の透明な、例えば、波長約200nmから約900nmの範囲内の少なくとも一部の範囲の波長の電磁輻射線を透過させる、平滑平面状の支持体を用いることができる。支持体の表面には公知の下塗層又は接着層を設けることができる。
【0025】
本発明の乾式分析要素は、発色性物質を含む発色層と共役酵素を含む試薬層とが隣接して配置されていればよく、必要に応じてその他の層を積層することができる。その他の層としては、展開層、検出層、光反射層、接着層、吸水層、下塗り層等が挙げられる。このような乾式分析要素として、例えば特開昭49-53888号公報、特開昭51-40191号公報、及び特開昭55-164356号公報、特開昭61-4959号公報に開示されたものを本発明に適用することができる。
【0026】
また、本発明の乾式分析要素には、試薬層13に光反射性又は光吸収性を有する微粒子を添加することにより試薬層13に反射層の機能を持たせることができる。反射層は、光反射性又は光吸収性を有する微粒子または微粒子が少量の被膜形成能を有する親水性ポリマーバインダーに分散保持されている水透過性または水浸透性の層である。反射層は発色性物質の検出可能な変化(色変化、発色等)を支持体11(図1)側から反射測光する際に、供給された水性液体の色、特に試料が全血である場合のヘモグロビンの赤色等、を遮蔽する機能も有する。
光反射性を有する微粒子の例としては、二酸化チタン微粒子(ルチル型、アナターゼ型またはブルカイト型の粒子径が約0.1μmから約1.2μmの微結晶粒子等)、硫酸バリウム微粒子、アルミニウム微粒子または微小フレーク等を挙げることができ、光吸収性微粒子の例としては、カーボンブラック、ガスブラック、カーボンミクロビーズ等を挙げることができ、これらのうちでは二酸化チタン微粒子、硫酸バリウム微粒子が好ましい。 特に好ましいのは、アナターゼ型二酸化チタン微粒子である。
【0027】
本発明の乾式分析要素は、前述の各特許公報に記載の公知の方法により調製することができる。本発明の乾式分析要素は一辺約10mmから約30mmの正方形またはほぼ同サイズの円形等の小片に裁断し、特公昭57-28331、実開昭56-142454、特開昭57-63452、実開昭58-32350、特表昭58-501144号の各公報等に記載のスライド枠に収めて化学分析スライドとして用いることが、製造,包装,輸送,保存,測定操作等の観点で好ましい。使用目的によっては、長いテープ状でカセットまたはマガジンに収めて用いたり、又は小片を開口のあるカードに貼付または収めて用いたり、あるいは裁断した小片をそのまま用いることなどもできる。
【0028】
本発明の乾式分析要素は前述の各特許公報等に記載の操作と同様の操作によりアナライトの定性または定量分析ができる。例えば約2μL〜約30μL、好ましくは4〜15μLの範囲の血漿、血清、尿などの水性液体試料液を試薬層13に点着する。点着した乾式分析要素を約20℃〜約45℃の範囲の一定温度で、好ましくは約30℃〜約40℃の範囲内の一定温度で1〜10分間インキュベーションする。要素内の発色又は変色を支持体側から反射測光し、予め作成した検量線を用いて比色測定法の原理により検体中のアナライトの量を求めることができる。点着する液体試料の量、インキュベーション時間及び温度を一定にすることにより定量分析を高精度に実施できる。
なお、血中HDL−コレステロールを測定する場合には、乾式分析要素に点着する前に予め分画用試薬を用いて血漿または血清からHDL−コレステロールの分画液を調製することが望ましい。具体的には、図2の反応(1)に示すように、血漿または血清に分画用試薬を添加して混合した後、この混合液を遠心分離し、その上清をHDL分画として得ることができる。なお、遠心分離後は、低密度リポタンパク(LDL)及び超低密度リポタンパク(VLDL)が沈殿物として得られる。
分画用試薬としては、例えば、リンタングステン酸−Mg、ヘパリン−Mn、デキストラン硫酸−Mg、ヘパリン−Ca、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
また、遠心分離は、2000〜10000rpmで5〜20分間行うことが好ましい。
【0029】
測定操作は特開昭60-125543、同60-220862、同61-294367、同58-161867号の各公報などに記載の化学分析装置により極めて容易な操作で高精度の定量分析を実施できる。なお、目的や必要精度によっては、目視により発色の度合いを判定して、定性または半定量的な測定を行なってもよい。
なお、本発明によって分析可能な生体試料としては、生体から採取可能な液体であることが望ましく、例えば、血液、尿、ずい液等が挙げられる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。
[実施例1]
ゼラチン下塗りされている180μmのポリエチレンテレフタレ−ト無色透明平滑フィルムに、下記組成の発色層水溶液−aを塗布し乾燥して発色層を形成した。なお、乾燥後の発色層の厚さは30μmとした。
(発色層用水溶液−a)
ゼラチン 25.0g/m
界面活性剤 0.8g/m
ロイコ色素 0.5g/m
N,N−ジメチルラウラミド 7.5g/m
ステアリルアルコール 1.1g/m
【0031】
ここで、界面活性剤は、α-オレフィンスルホン酸ナトリウム(OS-14、日光ケミカル社製)を、ロイコ色素は、2−(3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシフェニル)−4−(4−ジメチルアミノフェニル)−5−フェネチルイミダゾール酢酸塩を用いた。
【0032】
次に、上記発色層上に、約30g/mの供給量で水を全面に供給して湿潤させた後50デニール相当のポリエチレンテレフタレート紡績糸を36ゲージ編みしたトリコット編み物布地を軽く圧力をかけて積層し、乾燥させた。乾燥させた布地上に、下記組成の試薬層用水溶液−aを塗布、乾燥し、試薬層を形成して、乾式分析要素を作製した。なお、乾燥後の試薬層の厚さは10μmとした。
(試薬層用水溶液−a)
リン酸1K 0.3g/m
リン酸2K 5.1g/m
界面活性剤1 0.5g/m
界面活性剤2 1.1g/m
デオキシコール酸 3.7g/m
スクロース 4.7g/m
メトロース90SH100 0.3g/m
ペルオキシダーゼ 46000U/m
コレステロールオキシダーゼ 4300U/m
コレステロールエステラーゼ 2500U/m
ASO 14000U/m
【0033】
界面活性剤1は、ポリオキシ(2−ヒドロキシ)プロピレンノニルフェニルエーテル(Surfactant 10G、オーリン社製)を、界面活性剤2は、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(HS240、日本油脂製)を用いた。またASOとはアスコルビン酸オキシダーゼを意味し、ここではロシュ社製のアスコルビン酸オキシダーゼを用いた。ペルオキシダーゼは東洋紡績(株)のPEO−301を、コレステロールオキシダーゼはロシュ社のCholesterol oxidaseを、コレステロールエステラーゼは天野エンザイム(株)のCHE−2を用いた。
【0034】
上記の乾式分析要素を12mmX13mm四方のチップに切断し、スライド枠(特開昭57−63452号公報に記載)に収めて、本発明に従うコレステロール測定用乾式スライドを作製した。
【0035】
[比較例1]
ゼラチン下塗りされている180μmのポリエチレンテレフタレ−ト無色透明平滑フィルムに、下記組成の発色層水溶液−bを塗布し乾燥して発色層を形成した。なお、乾燥後の発色層の厚さは30μmとした。
(発色層用水溶液−b)
ゼラチン 25.0g/m
界面活性剤 0.8g/m
ロイコ色素 0.5g/m
N,N−ジメチルラウラミド 7.5g/m
ステアリルアルコール 1.1g/m
【0036】
ここで、界面活性剤は、α−オレフィンスルホン酸ナトリウム(OS-14、日光ケミカル社製)を、ロイコ色素は、2−(3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシフェニル)−4−(4−ジメチルアミノフェニル)−5−フェネチルイミダゾール酢酸塩を用いた。
【0037】
次に、上記発色層上に、下記組成の水溶液を塗布し乾燥して、メディエータであるフェロシアン化カリウムを含む層を形成した。この層の乾燥後の厚さは5μmとした。
ゼラチン 3.3g/m
二酸化チタン 0.9g/m
界面活性剤 0.3g/m
フェロシアン化カリウム 0.7g/m
【0038】
ここで、界面活性剤は、ポリオキシ(2−ヒドロキシ)プロピレンノニルフェニルエーテル(Surfactant 10G、オーリン社製)を用いた。
次に、上記の層上に、約30g/mの供給量で水を全面に供給して湿潤させた後50デニール相当のポリエチレンテレフタレート紡績糸を36ゲージ編みしたトリコット編み物布地を軽く圧力をかけて積層し、乾燥させた。乾燥させた布地上に、下記組成の試薬層用水溶液−bを塗布、乾燥し、試薬層を形成して、乾式分析要素を作製した。なお、乾燥後の試薬層の厚さは10μmとした。
(試薬層用水溶液−b)
リン酸1K 0.3g/m
リン酸2K 5.1g/m
界面活性剤1 0.5g/m
界面活性剤2 1.1g/m
デオキシコール酸 3.7g/m
スクロース 4.7g/m
メトロース90SH100 0.3g/m
ペルオキシダーゼ 46000U/m
コレステロールオキシダーゼ 4300U/m
コレステロールエステラーゼ 2500U/m
ASO 14000U/m
【0039】
界面活性剤1は、ポリオキシ(2−ヒドロキシ)プロピレンノニルフェニルエーテル(Surfactant 10G、オーリン社製)を、界面活性剤2は、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(HS240、日本油脂製)を用いた。ここで、上記ペルオキシダーゼ等は実施例1と同様のものを用いた。
【0040】
上記の乾式分析要素を12mmX13mm四方のチップに切断し、スライド枠(特開昭57−63452号公報に記載)に収めて、コレステロール測定用乾式スライドを作製した。
【0041】
[測定例1]
両者の保存安定性を比較するために、実施例1および比較例1で作製したスライドをそれぞれ45℃で、0,1,4,7日間保存した。一方、HDL−コレステロール濃度が39、68、102mg/dLの人血清と分画用試薬(リンタングステン酸/塩化マグネシウム)とを体積比1:1で混合後、10分間静置し、その後3000rpmX10分間遠心して、HDL分画を得た。この分画液10μLを上記スライドに点着し、37℃にて6分間インキュベートして、600nmにおける反射濃度(ODr)を富士ドライケム5000(富士写真フイルム(株)製)により測定した。測定した反射濃度をあらかじめ作成された検量線(反射濃度とコレステロール濃度の関係式)より、HDL−コレステロール濃度に換算した。
実施例1の結果を表1に、比較例1の結果を表2に示す。なお表中、HDL-CとはHDL-コレステロールを意味し、HDL-C濃度の単位は、mg/dLである。変化率とは、保存日数が0日に対する45℃7日間保存での測定値の変化率を意味する。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
上記の結果に示すように、本発明の乾式分析要素はHDL−コレステロール値の低値化を防止することができ、保存安定性に優れていることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の乾式分析要素の一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の乾式分析要素によるHDL−コレステロールの測定原理を説明するための図である。
【図3】特許文献1の乾式多層分析要素を示す断面図である。
【符号の説明】
【0046】
10 乾式分析要素
11 支持体
12 発色層
13 試薬層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料中のアナライトまたはアナライトから誘導される物質に共役酵素を作用させて過酸化水素を生成させ、前記過酸化水素を利用して発色性物質を発色させて前記アナライトを定性または定量分析する乾式分析要素において、支持体上に、前記発色性物質を含む発色層と前記共役酵素を含む試薬層とがこの順に隣接して積層されるとともに、前記発色性物質の発色に関与するメディエータを含まないことを特徴とする乾式分析要素。
【請求項2】
前記試薬層がペルオキシダーゼおよびコレステロールオキシダーゼを少なくとも含有することを特徴とする請求項1に記載の乾式分析要素。
【請求項3】
前記アナライトが、HDL−コレステロールであることを特徴とする請求項1または2に記載の乾式分析要素。
【請求項4】
前記メディエータが、フェロシアンイオンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の乾式分析要素。
【請求項5】
前記発色性物質がロイコ色素であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の乾式分析要素。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−87356(P2006−87356A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−277412(P2004−277412)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】