説明

乾湿交番試験装置

【課題】停電による試験不良のリスクを低コストで回避できるようにするとともに、乾燥状態から湿潤状態あるいはその逆への移行速度を速くし、複数の試験片の環境条件を時間的にも空間的にも均質化することができる乾湿交番試験装置を提供すること。
【解決手段】所定条件に保たれた試験用水を貯留する湿潤用槽1と、この湿潤用槽1の上に連続して設けられ、所定温度に保たれた空気を保持する乾燥用槽2と、この乾燥用槽2と湿潤用槽1との間で塗料試験片3を所定の乾湿交番時間間隔で移動させ、塗料試験片3の乾燥と湿潤を繰り返す試験片移動装置4とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾湿交番試験装置に関し、特に、停電による試験不良のリスクを低コストで回避できるようにするとともに、乾燥状態から湿潤状態あるいはその逆への移行速度を速くし、複数の試験片の環境条件を時間的にも空間的にも均質化することができる乾湿交番試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、船体は、海水に浸かったり乾燥したりする乾湿状態を繰り返すことから、こうした厳しい環境から保護するために重防食塗料等で塗装されている。
これらの塗料は、さまざまな気候や塗装条件に合わせて種々開発されているが、その被膜の耐久性や耐候性を調べるために乾湿交番試験に供される。
【0003】
従来の乾湿交番試験装置として、塗料試験片を入れた試験水槽と、別の空の揚水水槽とを設置するとともに、これら試験水槽と揚水水槽とをポンプを備えた配管で連絡したものがある。
そして、この乾湿交番試験装置は、試験水槽と揚水水槽との間で、ポンプによって海水を入れ替えることにより、試験水槽を乾燥状態と湿潤状態とに所定の時間間隔で切り替えるようにしている。
【0004】
しかしながら、上記従来の乾湿交番試験装置は、試験水槽を乾湿交番状態にするために、海水をポンプで入れ替えなければならないことから、ポンプを駆動する大きな動力電源が必要となり、このため、無停電電源装置を利用しようとしても実質的には使用することができず、停電による試験不良のリスクを回避することが困難で継続的な実験が行えなくなるという問題があった。
また、試験水槽の海水はポンプによって入れ替えられるため、乾燥状態から湿潤状態あるいはその逆への移行速度が遅く、上下に位置する試験片の環境条件が時間的にも空間的にも均質化されにくいという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の乾湿交番試験装置が有する問題点に鑑み、停電による試験不良のリスクを低コストで回避できるようにするとともに、乾燥状態から湿潤状態あるいはその逆への移行速度を速くし、複数の試験片の環境条件を時間的にも空間的にも均質化することができる乾湿交番試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の乾湿交番試験装置は、試験用水を貯留する湿潤用槽と、該湿潤用槽の上に連続して設けられた空気室からなる乾燥用槽と、該乾燥用槽と湿潤用槽との間で塗料試験片を所定の乾湿交番時間間隔で移動させ、塗料試験片の乾燥と湿潤を繰り返す試験片移動装置とを備えたことを特徴とする。
【0007】
この場合において、試験片移動装置を、塗料試験片を取り付ける枠体と、該枠体を上下動させるエアシリンダと、該エアシリンダを駆動するエアタンクを備えたコンプレッサと、コンプレッサのエアタンクからエアシリンダに作動空気を送る電磁弁を備えた給気機構と、エアシリンダを所定の乾湿交番時間間隔で作動させるための乾湿交番時間間隔決定タイマーシステムと、無停電電源装置とから構成し、少なくとも、前記給気機構の電磁弁及び乾湿交番時間間隔決定タイマーシステムを無停電電源装置で稼働できるように構成することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の乾湿交番試験装置によれば、試験用水を貯留する湿潤用槽と、該湿潤用槽の上に連続して設けられた空気室からなる乾燥用槽と、該乾燥用槽と湿潤用槽との間で塗料試験片を所定の乾湿交番時間間隔で移動させ、塗料試験片の乾燥と湿潤を繰り返す試験片移動装置とを備えることから、試験片移動装置に、小さな動力電源で制御できるエアシリンダを使用することができ、これにより、無停電電源装置を利用して、停電による試験不良のリスクを低コストで回避することができる。
また、塗料試験片を上下に移動させることによって乾湿交番を繰り返すことから、乾燥状態から湿潤状態あるいはその逆への移行速度を速くし、上下に位置する複数の試験片の環境条件を時間的にも空間的にも均質化することができる。
【0009】
また、試験片移動装置を、塗料試験片を取り付ける枠体と、該枠体を上下動させるエアシリンダと、該エアシリンダを駆動するエアタンクを備えたコンプレッサと、コンプレッサのエアタンクからエアシリンダに作動空気を送る電磁弁を備えた給気機構と、エアシリンダを所定の乾湿交番時間間隔で作動させるための乾湿交番時間間隔決定タイマーシステムと、無停電電源装置とから構成し、少なくとも、前記給気機構の電磁弁及び乾湿交番時間間隔決定タイマーシステムを無停電電源装置で稼働できるように構成することにより、停電時もエアタンクに貯留した圧縮空気によってエアシリンダを駆動させることができ、短時間の停電による試験不良のリスクを低コストで回避することができる。
また、塗料試験片を上下に移動させることによって乾湿交番を繰り返すことから、乾燥状態から湿潤状態あるいはその逆への移行速度を速くし、上下に位置する複数の試験片の環境条件を時間的にも空間的にも均質化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の乾湿交番試験装置の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0011】
図1〜図2に、本発明の乾湿交番試験装置の第1実施例を示す。
この乾湿交番試験装置は、所定条件に保たれた試験用水を貯留する湿潤用槽1と、この湿潤用槽1の上に連続して設けられ、所定温度に保たれた空気を保持する乾燥用槽2と、この乾燥用槽2と湿潤用槽1との間で塗料試験片3を所定の乾湿交番時間間隔で移動させ、塗料試験片3の乾燥と湿潤を繰り返す試験片移動装置4とを備えている。
【0012】
湿潤用槽1は所要の容積を有するプラスチック等の水槽からなり、貯留する試験用水は、塗料劣化を促進させ評価することを目的として、所定の温度や塩分濃度、pH等に保たれた試験用人工海水が使用されている。
試験用人工海水は、リザーブタンク11にも貯留されており、試験用水を、フィルタ装置12、ポンプPを介して、湿潤用槽1に補充できるようにしている。
【0013】
乾燥用槽2は、湿潤用槽1の上に連続して一体に設けられたプラスチック等の箱体からなり、この乾燥用槽2と湿潤用槽1とで直方体状の閉塞された空間を形成している。
乾燥用槽2には、所定温度に保たれた乾燥空気が保持されており、この乾燥用槽2に移動した塗料試験片3は、透明の窓部(図示省略)から目視により確認できるようになっている。
また、乾燥用槽2には、ブロア21から温風が導入できるようになっている。
【0014】
試験片移動装置4は、多数の塗料試験片3を取り付ける枠体5と、この枠体5を外部のロッド61を介して上下動させるエアシリンダ6と、このエアシリンダ6を駆動するエアタンク71を備えたコンプレッサ7と、無停電電源装置に接続され、エアシリンダ6を所定の乾湿交番時間間隔で作動させる乾湿交番時間間隔決定タイマーシステム(図示省略)とを備えている。
乾湿交番時間間隔決定タイマーシステムは、エアシリンダ6の制御部62に設置されており、タイマーによりエアシリンダ6に作動空気を送る給気機構の電磁弁63を切り替えて、エアシリンダ6のシリンダロッドを上下に駆動する。
この場合、給気機構の電磁弁63及び乾湿交番時間間隔決定タイマーシステムは、大きな動力電源を必要とせず、停電時には、無停電電源装置によって給気機構の電磁弁63を切り替え、コンプレッサ7のエアタンク71に貯留した圧縮空気によってエアシリンダ6を駆動させることができる。
【0015】
乾湿交番試験は、例えば40℃の塩水中に6時間、40℃の温風に6時間を1サイクルとした繰り返しで、試験期間は例えば3ヶ月という長いスパンで継続して行われる。
塩水は、例えば、塩分濃度30±3g/L、pH6.5〜7.2の条件で、水量計、温度計、塩分濃度計、pHメータ及び屈折率計で調べて過不足がないように常に管理して調整される。
試験期間後の調査項目は膜厚、目視及び付着力試験の3種類などとし、3ヶ月経過後には、乾湿交番試験機から取り外した試験片は、例えば25℃で24時間乾燥放置した後、評価される。
【0016】
かくして、この乾湿交番試験装置は、所定条件に保たれた試験用水を貯留する湿潤用槽1と、この湿潤用槽1の上に連続して設けられ、所定温度に保たれた空気を保持する乾燥用槽2と、この乾燥用槽2と湿潤用槽1との間で塗料試験片3を所定の乾湿交番時間間隔で移動させ、塗料試験片3の乾燥と湿潤を繰り返す試験片移動装置4とを備えることから、試験片移動装置4に、小さな動力電源で制御できるエアシリンダ6を使用することができ、これにより、無停電電源装置を利用して、停電による試験不良のリスクを低コストで回避することができる。
また、塗料試験片3を上下に移動させることによって乾湿交番を繰り返すことから、乾燥状態から湿潤状態あるいはその逆への移行速度を速くし、上下に位置する複数の試験片3の環境条件を時間的にも空間的にも均質化することができる。
【0017】
また、試験片移動装置4を、塗料試験片3を取り付ける枠体5と、この枠体5を上下動させるエアシリンダ6と、このエアシリンダ6を駆動するエアタンク71を備えたコンプレッサ7と、コンプレッサ7のエアタンク71からエアシリンダ6に作動空気を送る電磁弁63を備えた給気機構と、エアシリンダ6を所定の乾湿交番時間間隔で作動させるための乾湿交番時間間隔決定タイマーシステムと、無停電電源装置とから構成し、少なくとも、給気機構の電磁弁63及び乾湿交番時間間隔決定タイマーシステムを無停電電源装置で稼働できるように構成することにより、停電時もエアタンク71に貯留した圧縮空気によってエアシリンダ6を駆動させることができ、短時間の停電による試験不良のリスクを低コストで回避することができる。
また、塗料試験片3を上下に移動させることによって乾湿交番を繰り返すことから、乾燥状態から湿潤状態あるいはその逆への移行速度を速くし、上下に位置する複数の試験片の環境条件を時間的にも空間的にも均質化することができる。
【0018】
以上、本発明の乾湿交番試験装置について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、実施例に記載した構成を適宜組み合わせるなど、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の乾湿交番試験装置は、停電による試験不良のリスクを低コストで回避するとともに、乾燥状態から湿潤状態あるいはその逆への移行速度を速くし、複数の試験片の環境条件を時間的にも空間的にも均質化するという特性を有していることから、塗料をはじめとするあらゆる乾湿交番試験装置の用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の乾湿交番試験装置の一実施例を示す断面図である。
【図2】同乾湿交番試験装置の乾燥状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0021】
1 湿潤用槽
11 リザーブタンク
2 乾燥用槽
21 ブロア
3 塗料試験片
4 試験片移動装置
5 枠体
6 エアシリンダ
61 ロッド
62 制御部
63 電磁弁
7 コンプレッサ
71 エアタンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験用水を貯留する湿潤用槽と、該湿潤用槽の上に連続して設けられた空気室からなる乾燥用槽と、該乾燥用槽と湿潤用槽との間で塗料試験片を所定の乾湿交番時間間隔で移動させ、塗料試験片の乾燥と湿潤を繰り返す試験片移動装置とを備えたことを特徴とする乾湿交番試験装置。
【請求項2】
試験片移動装置を、塗料試験片を取り付ける枠体と、該枠体を上下動させるエアシリンダと、該エアシリンダを駆動するエアタンクを備えたコンプレッサと、コンプレッサのエアタンクからエアシリンダに作動空気を送る電磁弁を備えた給気機構と、エアシリンダを所定の乾湿交番時間間隔で作動させるための乾湿交番時間間隔決定タイマーシステムと、無停電電源装置とから構成し、少なくとも、前記給気機構の電磁弁及び乾湿交番時間間隔決定タイマーシステムを無停電電源装置で稼働できるようにしたことを特徴とする請求項1記載の乾湿交番試験装置。

【図1】
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【図2】
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