説明

乾湿式紡糸装置及び乾湿式紡糸方法

【課題】紡糸口金に穿設された多数の紡糸孔から紡出されたドープが凝固浴に充填された凝固液で凝固されるまでの間にドープ流が乱されることなく安定したドープ流を形成させることによって糸斑などが生じない乾湿式紡糸装置と乾湿式紡糸方法を提供する。
【解決手段】多数の紡糸孔群が穿設された紡糸口金のドープ吐出面と紡出されたドープが着液する凝固液の液面との間の間隙に、紡出されたドープが着液するまでの間に該ドープを包み込むようにドープ流を囲繞する気体を吹き出す筒状の気体吹出部材を設けたことを特徴とする乾湿式紡糸装置とこれを用いた乾湿式紡糸方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数の紡糸孔が穿設された紡糸口金より紡糸ドープを一旦空気中に紡出し、紡出した紡糸ドープを凝固浴中へ導入して繊維化する乾湿式紡糸装置と乾湿式紡糸方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高強度と高モジュラスを兼ね備えた全芳香族ポリアミド繊維を紡糸するための従来技術として、紡糸口金穿設された多数の紡糸孔より全芳香族ポリアミド重合体を含むドープを一旦気相部に紡出し、紡出したドープ流を凝固液により凝固させて繊維化することは周知である。
【0003】
しかしながら、紡糸口金から紡出されるドープ流が気相部へ紡出されてから凝固液中で凝固するまでの間に気相部および凝固浴の僅かな環境変化により紡出されたドープ流に乱れが生じ易い。そして、このようなドープ流の乱れが生じると、極端な場合には気相部で繊維同士が密着する事態さえ生じ、得られる繊維の品質もばらつきが大きくなるという問題が生じる。このような問題に対して、凝固液を整流してドープ流の乱れを抑制する方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1(特開平2−19508号公報)に開示された従来技術では、凝固浴内に整流筒を設置することが提案されている。確かに、この従来技術では、凝固浴内の液流が安定し、凝固液の乱れに起因するドープ流の大きな変動を抑制することができる。しかしながら、気相部で生じるドープ流の乱れに対しては、整流によって凝固液の乱れがある程度良好に保たれている凝固浴では効果がない。
【0005】
この気相部に起因するドープ流を安定化する点については、特許文献2(特開平5−44104号公報)において、紡糸口金と凝固液との間に形成される気相部の気体を滞留させずに、気体の風速が5m/分から50m/分の範囲内で一方向に流通させることが提案されている。そして、このようにして空気の流通によって、口金面に生じる結露を抑制し、単糸切れや単糸間密着を抑制している。
【0006】
確かに、この従来技術を採用すれば、口金面への結露の発生を抑制することができる。しかしながら、この従来技術では、紡出されたドープ流に対してほぼ直角に一方向から口金面を横切るようにして気体を5〜50m/分という速度で吹き付けることによって、気体を流通させなければならない。
【0007】
このため、紡糸口金に穿設された紡糸孔の数が例えば100個以上と多くなると、紡出されたドープ流群へ気体を貫流させる必要が生じる。そうすると、紡糸孔群から紡出されたドープ流の乱れをかえって助長したり、紡糸口金のドープ吐出面を冷やして温度斑を作り出してしまったりする。その結果、前記従来技術は、結露の抑制と言う点では効果があるが、製造される糸の品質と言う観点からは、かえって糸斑を大きくしてしまって糸品質を悪化させることが判った。
【0008】
【特許文献1】特開平2−19508号公報
【特許文献2】特開平5−44104号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上に述べた従来技術が有する諸問題に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、「乾湿式紡糸において、紡糸口金に穿設された多数の紡糸100から紡出されたドープ流が凝固浴に充填された凝固液で入るまでの間ドープ流が乱されることなく安定したドープ流を維持することができ、最終的に製造された糸品質を評価すると、糸斑などが生じていない品質に優れた糸を生産することができる乾湿式紡糸装置と乾湿式紡糸方法を提供すること」である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ここに、上記課題を解決する本発明として、
(1)多数の紡糸孔群が穿設された紡糸口金のドープ吐出面と紡出されたドープが着液する凝固液の液面との間の間隙に、紡出されたドープが着液するまでの間に該ドープを包み込むようにドープ流を囲繞する気体を吹き出す筒状の気体吹出部材を設けたことを特徴とする乾湿式紡糸装置、
(2)前記気体吹出部材から吹き出される気体を一定の温度に制御する温度制御装置を備えた(1)に記載の乾湿式紡糸装置、
(3)前記気体吹出部材を気体が通過する際の圧力損失によって背圧を生じさせて吹出気体を均一にする均圧室を備えた(1)又は(2)に記載の乾湿式紡糸装置、
(4)前記紡出ドープを横切る方向であって、かつ口金のドープ吐出面と平行となる方向へ気体吹出部材から吹出す気体の方向を制御する整流部材を備えた(1)〜(3)の何れかに記載の乾湿式紡糸装置、
(5)前記気体の吹出速度が0.01〜0.5m/分に制御されていることを特徴とする(1)〜(4)の何れかに記載の乾湿式紡糸装置、
(6)前記口金に穿設された紡糸孔の数が100〜3000個である(1)〜(5)の何れかに記載の乾湿式紡糸装置、
(7)全芳香族ポリアミドを乾湿式紡糸することを特徴とする(1)〜(6)の何れかに記載の乾湿式紡糸装置、
(8)前記(1)〜(7)の何れかに記載の装置を用いて乾湿式紡糸を行うことを特徴とする乾湿式紡糸方法、
(9)紡出ドープに吹き付ける気体の温度を紡糸孔から吐出されたドープ温度よりも0〜150℃低くした(8)に記載の乾湿式紡糸方法、
(10)紡出ドープ吹き付ける気体が空気である(8)又は(9)に記載の乾湿式紡糸方法、そして、
(11)紡出されたドープが凝固液で凝固されて引き取られる紡糸速度が10〜300m/分である(8)〜(10)の何れかに記載の乾湿式紡糸方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明の乾湿式紡糸方法とその装置によれば、気体吹出装置から吹き出される気体が微風とされるために、エアギャップGを走行する紡出ドープの走行状態を乱すことがなく、常に安定した紡出ドープの走行状態を維持させることができる。
【0012】
しかも、定常速度かつ一定温度の気体を吹き出してエアギャップ中を流通させることによって、エアギャップの雰囲気を常に安定した状態に維持することができる。このため、糸斑の発生がきわめて少ない高品質の糸を乾湿式紡糸によって得ることができるといる極めて顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る乾湿式紡糸装置の一実施形態を模式的に例示した概略構成図である。この図1において、Dは全芳香族ポリアミドからなるポリマーを含むドープを示す。ここで、本発明で言う「ドープ」とは、例えば、次に述べるような工程を経て調整されたものである。
【0014】
すなわち、水分率が100ppm以下のN−メチル−2−ピロリドン(以下NMPという)112.9部、パラフェニレンジアミン1.506部、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル2.789部を常温下で反応容器に入れ、窒素中で溶解した後、攪拌しながらテレフタル酸クロライド5.658部を添加する。そして、最終的に85℃で60分間反応させ、透明の粘稠なポリマー溶液を得る。次いで、22.5重量%の水酸化カルシウムを含有するNMPスラリー9.174部を添加し、中和反応を行って得ることができる。
【0015】
さらに、前記図1において、1は多数の紡糸孔(図示せず)が穿設された紡糸口金、2は凝固浴、3は気体吹出装置、Gはエアギャップ、Lは凝固液、そして、Sは前記凝固浴2に充填された凝固液Lよって形成された液面をそれぞれ表す。
【0016】
以上に説明した乾湿式紡糸装置の実施形態例において、多数の紡糸孔が穿設された口金1からエアギャップGへ繊維状に紡出されたドープDの細流群は、気体吹出装置3から気体を吹き付けられた状態でエアギャップGを通過する。そして、このようにしてエアギャップGを通過したドープDは、常法にしたがって凝固浴2に充填された凝固液Lの液面Sに着液した後、凝固液L内で凝固されて繊維化される。
【0017】
次に、凝固されて繊維化が終了した糸条を定法に従って、引取ローラ(図1には図示省略)で引き取った後に凝固浴から引き出す。そして、糸条に付着した凝固液Lを取り除く水洗工程、水洗工程で付着した水分を乾燥させる乾燥工程などからなる一連の製糸プロセスを経た後に、高性能及び/又は高機能を有する繊維を巻き取る。
【0018】
なお、図1の実施形態例では凝固液が実質的に静止しているような凝固浴を一例として取り上げている。しかしながら、本発明の乾湿式紡糸装置と乾湿式紡糸方法では、その詳細説明は省略するが、一般に流管紡糸と称される公知の乾湿式紡糸によって、流管中を流下する凝固液と共にドープを走行させて凝固させる動的な凝固浴も使用できる。
【0019】
ここで、本発明の一大特徴とするところは、乾湿式紡糸装置のエアギャップGが設けられた箇所に気体吹出装置3を設けたことにある。このとき、前記エアギャップGは、口金1のドープ吐出面から凝固液Lの液面Sまでの距離であって、通常条件では2〜100mmとするのが望ましい。
【0020】
何故ならば、このエアギャップGが2mmと小さ過ぎると、口金1のドープ吐出面に凝固液Lが接触する事態が発生し、紡糸口金1から吐出されたドープが紡糸口金1の直下で凝固を起こし、単繊維切れを生じるからである。また、100mmよりも大き過ぎると紡糸口金1内の隣接する糸同士が密着を起し、密着の無い独立した繊維を得ることができない。
【0021】
ただし、本発明においては、後述する気体吹出装置の設置スペースを考慮しなければならないため、口金1下に形成するエアギャップGの最小値は10mmとしておくことが好ましい。
【0022】
ここで、前記口金1から吐出されたドープDは凝固液面Sに着液するが、凝固液Lに着液するとドープDから溶剤が凝固液L中に抽出されて、紡出ドープは凝固して繊維化してしまう。このような理由から、口金1と凝固液液面Sの間に形成されたエアギャップG中において、紡出された状態の未凝固ドープDの細化が急激に進行する。
【0023】
特に、口金1から吐出されるドープDが凝固後に引取ローラ(図1には示さず)に引き取られる紡糸速度が高速となればなるほどエアギャップGでのドープDの細化が急激に起こることはいうまでも無い。したがって、本発明においては、紡糸速度を50m/分以上の乾湿式紡糸に適用する場合に奏する効果が大きくなる。また、紡糸速度の上限は特に限定する必要は無いが、実用的には300m/分とすることが製糸を安定して行えることから好ましい。
【0024】
以上に説明したように、本発明においては、エアギャップG中におけるドープDの走行安定性が非常に重要である。それ故に、前述の紡糸速度に係る条件に加えて、エアギャップGの雰囲気温度(気相部温度)が何らかの原因で変化したり、変動したりすると、ドープDの流動性が不安定となり紡糸安定性が得られなくなる。また、気相部の温度を最適な値に設定できないと、口金1に穿設された各紡糸孔から吐出される各ドープに斑を生じ、これが最終的な糸斑(各単繊維間での繊度バラツキ)の発生に直結する。
【0025】
しかも、口金1に穿設する紡糸孔の数が多くなればなるほど、各紡糸孔から吐出されるドープDの吐出斑を解消することが困難である。したがって、更に、エアギャップGを形成する雰囲気の流動条件や温度条件などにかかわる条件変動が付け加わると、最終的な糸斑(各単繊維間での繊度バラツキ)の発生がより助長されることとなる。
【0026】
また、前掲の特許文献2(特開平5−44104号公報)に記載されているような比較的高速の気体を一方向から口金下へ流通させるようにすれば、紡出ドープDの走行不安定を惹起する。その結果、細化が急激に進行するドープDの流動性が不安定となりドープDに斑を生じ、これが口金1内のドープD間で斑を生じさせる。そうすると、斑が生じたまま凝固液面Sに着液したドープDが凝固液L中で凝固してしまい、最終的に後続の製糸プロセスを経た後に得られる繊維にも斑を生じて、品質上のバラツキが大きいものとなる。
【0027】
したがって、本発明においては、エアギャップGにおけるドープDの細化を安定に行わせることを目的として、口金1の直下に気体吹出装置3を設けることを必須の要件とするものである。そこで、以下、本発明の必須の要件である気体吹出装置3について、図1を参照しながら詳細に説明する。
【0028】
先ず、図1に例示した気体吹出装置3は、温度調整された気体が流れる気体供給管3a、均圧室3b、気体吹出部材3c、そして、断熱部材3dを含んで構成されている。この図1に例示した気体吹出装置3では、通常、空気、窒素ガス、水蒸気ガスなどからなる気体(中でも空気が最も好ましい)が気体供給管3aから均圧室3bへ供給される。次いで、均圧室3bから吹出部材3cを介して口金1に穿設された紡糸孔群(図示せず)から繊維状に紡出されたドープDへ微風状態で均一に全周方向から吹き付けられる。なお、気体吹出装置3からドープDの外周部に吹き付けられた気体は、気体吹出装置3と液面Sとの間に形成された空間から流出し、系外へ排出される。
【0029】
このとき、前記吹出部材3cは、図示したように、紡出されたドープDの外周を取り囲むように筒状の形状を有している。また、この吹出部材3cは、気体供給管3aから供給された気体を均圧室3bで均圧化すると共に、繊維状に紡出されたドープDを横切る方向へ吹出方向が揃えられ、紡出されたドープDを包み込むように、全周から風速0.01〜0.5m/分という微風状態で均一に吹き出すことができる機能を備えている。そこで、吹出部材3cが備えるべき前記機能を具現化するために、通常、この吹出部材3cは後述するような筒状の均圧板で構成されている。
【0030】
ここで、上記のように構成される吹出部材3cの作用について説明すると、先ず気体が吹出部材3cの内部を通過すると所定の圧力損失が均等に生じるように、均圧板で構成された吹出部材3cの気体通過抵抗を予め設定しておく。そうすると、このように吹出部材3cの気体通過抵抗を所定量に設定することによって、均圧室3bの内部に背圧を生じさせることができる。
【0031】
なお、この背圧は、気体供給管3aから供給される気体の圧力変動レベルを吸収できる程度に大きくしておくことが必要であって、予想される圧力変動値に対して数倍から数十倍程度の値(実用的には、3倍から10倍程度)となるように設定しておけば充分である。
【0032】
そうすると、均圧室3b内へ供給された気体に僅かな圧力変動や圧力分布斑が生じたとしても、生成された背圧と比較すると、圧力変動や圧力分布斑の値は無視できる程度に小さくできる。このように吹出部材3cによって一定の背圧を生じさせると、背圧がない場合と比較して、均圧室3bの内部に一時的あるいは局所的な圧力変動が生じても、その変動は背圧によって緩衝吸収されて、均圧室3b内の圧力が殆ど変化しなくなる。
【0033】
その結果、単位時間における単位面積当りに吹出部材3cを通過する気体の風量は、経時的にも瞬間的にも変動することなく常に一定に保たれる。したがって、当然のことながら吹出部材3cから吹き出される気体の風速も経時的にも瞬間的にも変動せず常に一定に保たれる。
【0034】
この吹出部材3cは、極めて重要な部材であり、これを構成する材料としては、周知のエアーフィルターに使用されているようなものを好適に使用でき、例えば、市販されている紙やプラスチックを素材を積層して形成した積層多孔質体、焼結金属を材料とした多孔質体、あるいは金網を積層した通気性部材、更には多数の細孔を所定の圧力損失が生じるように設計して穿設したパンチングプレートなどを挙げることができる。また、これらの複数種の材料を組み合わせて、単体としての吹出部材3cとしても良い。
【0035】
本発明においては、前記吹出部材3cの内側に整流部材(図示せず)を設けることによって、吹出部材3cから吹き出される気体を整流して気体の吹出方向を、紡出されたドープDの中心方向へ向かって放射状に吹き出すことが好ましい。
【0036】
このとき、前記整流部材32cは、均圧室3bから吹き出す気体の吹出方向を所定の方向へ揃える機能(風向制御)を果たす。したがって、このような整流部材32cとして、例えば、気体が通過するための僅かな間隙を形成して上下に平行に重なり合った平行板、更に、該平行板に加えて鉛直方向にも気体が通過する間隙を形成して格子状に積層された格子状板、あるいはハニカム(蜂の巣状)板などを例示することができる。
【0037】
以上に述べたように、本発明の気体吹出装置3によると、ドープDに対して吹き出す気体は、前記吹出部材3cによって、その吹出速度と吹出方向とを紡出されたドープDの内部方向へと一定に揃えることができる。しかも、紡出されたドープDを包み込むようにして気体吹出装置3から気体を吹き出すことができる。
【0038】
その上、従来技術のように、5〜50m/分といった比較的高速の気体を紡出ドープDに吹き付ける必要が無く、紡出ドープDに吹き付ける気体の風速を0.01〜0.5m/分といった微風にしても、その効果を充分に発揮することができる。このため、本発明の気体吹出装置を用いれば、紡出されたドープに対する吹付気体の影響を軽微にすることができる。
【0039】
すなわち、本発明の気体吹出装置3によれば、一方向から気体を5〜50m/分といった比較的大きな風速で吹き付ける従来技術と比較して、ドープがエアギャップ中を走行する際の走行状態を格段に安定化させることができる。したがって、気体吹出装置3から吹き出される気体によってエアギャップGを走行する紡出ドープDの走行状態を乱すことがない。
【0040】
しかも、本発明では、気体吹出装置3から吹き出す気体の温度を一定温度に制御することも大きな特徴である。そこで、以下、この点について説明する。
気体吹出装置3から吹き出される気体を一定温度に制御するための温度制御装置としては、図1には図示省略したが、この例を挙げるならば、気体供給管3aを二重管構造にし、内部管中に吹き出す気体を流通させ、外部管中に熱媒及び/又は冷媒を流通させることによって気体温度をコントロールすることができる。なお、このような媒体循環方式とは別に、例えば電気ヒータ、高周波加熱などといった周知の加熱手段を設けることによってもドープDに吹き付ける気体温度を一定温度に制御することができる。
【0041】
このようにして、エアギャップG中を走行する紡出ドープDを包み込むようにして吹き出される気体の温度を常に一定に維持すれば、一定温度に維持された気体の作用によって、エアギャップGの雰囲気温度が外乱によって乱されることが無い。そうすると、エアギャップGの温度は経時的あるいは偶発的に変化しないように常に一定温度に維持することができる。
【0042】
しかも、エアギャップGを一定速度で移動する紡出ドープ方向へ流通する一定温度の気体を吹き出すことによって、エアギャップGの雰囲気を常に安定した定常状態に維持することができる。そうすると、エアギャップGの雰囲気が擾乱されて生じる糸斑の発生要因を無くすことができる。このため、糸斑がきわめて少ない高品質の糸を乾湿式紡糸によって得ることができる。
【0043】
その際、ドープDに対して吹き出す気体の温度は、口金1から紡出されるドープ温度よりも、0〜150℃低くした温度範囲とすることが望ましいが、口金下面が冷却されて口金1のドープ吐出面に温度斑が出現するのを回避して紡糸孔からの吐出斑を抑制するには、ドープ温度より50℃〜130℃低いの範囲に設定することがより望ましい。特に、本発明が好ましく適用される全芳香族ポリアミドからなるポリマーを含んだドープについては、そのドープ温度は、100〜130℃に維持されているので、この温度に対応させて、気体温度を0〜60℃に設定することが好ましい。
【0044】
なお、本発明においては、一つの口金1に穿設する紡糸孔の数が100個以上とすることが好ましく、その個数が多ければ多いほどその効果を発揮する。しかしながら、本発明が好ましく適用される全芳香族ポリアミドからなるポリマーを含んだドープを安定かつ良好に口金1から吐出させて乾湿式紡糸を行うためには、紡糸孔の数を3000個以下とすることが好ましい。
以下、実施例に基づいて、本発明の乾湿式紡糸方法について説明する。
【実施例】
【0045】
前述のようにして、既に述べたような調整方法によって全芳香族ポリアミドからなるポリマーを含むドープを調整した。そして、このようにして調整したドープを、先ずギアポンプからなる計量供給手段を使用して、ドープの供給量を連続的に計量しながらスピンブロックへ分配供給した。
【0046】
次いで、スピンブロックに備えられた紡糸口金から図1に例示した乾湿式紡糸装置を使用して、120℃に温度制御したドープを紡出した。このとき、紡糸口金1として外径100mmの円形状円板に孔直径がφ0.5mmの紡糸孔群を1000個穿設したものを使用し、エアギャップGを20mmに設定した。
【0047】
以上に述べたようにして、紡糸口金1に穿設された多数の紡糸孔から吐出されたドープDは、一旦空気中に紡出し、気体吹出装置3を構成する筒状の吹出部材3cの全周から30℃の温度に制御した空気を紡出し、紡出したドープDの走行方向に対してほぼ直角に風速0.022m/分で吹き付けた。このとき、筒状の吹出部材3cの内径をφ100mmとし、その高さを15mmとした。
【0048】
ついで、凝固浴2に充填された凝固液Lへと浸漬した。そして、凝固浴2に存在する凝固液Lと紡出されたドープDとが接触することによって、ドープDに含有される有機溶剤が凝固液L中へ抽出される。その結果、全芳香族ポリアミドからなるポリマーからなる多数の単繊維群(マルチフィラメント)で構成される糸条を形成させた。
【0049】
更に、このようにして形成させた糸条は、定法に従って、引取ローラ(図1には図示省略)で引き取った後に凝固浴から出し、糸条に付着した凝固液Lを取り除く水洗工程、水洗工程で付着した水分を乾燥させる乾燥工程などからなる一連の製糸プロセスを行った後に、高強度と高モジュラスを兼ね備えた全芳香族ポリアミド繊維を150m/分で巻き取った。
【0050】
なお、このようにして本願発明の乾湿式紡糸方法で得られた繊維は、従来法で得られた繊維と比較して、各単繊維間の繊度斑(繊度のバラツキ)が明らかに改善されていた。さらに、乾湿式紡糸中を実施している期間内で発生する単繊維切れの発生については、従来法と比較して2/3〜1/2程度に減少していた。なお、これらの原因は、エアギャップの雰囲気擾乱、口金への結露の発生などの不安定要因が除去されたため、これら要因に起因する単繊維切れの発生やドープの細化斑の発生が抑制されたことによるものと推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る乾湿式紡糸装置の一実施形態を模式的に例示した概略構成図である。
【符号の説明】
【0052】
1 :口金
2 :凝固浴
3 :気体吹出装置
3a:気体供給管
3b:均圧室
3c:気体吹出部材
3d:断熱部材
D :ドープ
G :エアギャップ
L :凝固液
S :凝固浴液面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の紡糸孔群が穿設された紡糸口金のドープ吐出面と紡出されたドープが着液する凝固液の液面との間の間隙に、紡出されたドープが着液するまでの間に該ドープを包み込むようにドープ流を囲繞する気体を吹き出す筒状の気体吹出部材を設けたことを特徴とする乾湿式紡糸装置。
【請求項2】
前記気体吹出部材から吹き出される気体を一定の温度に制御する温度制御装置を備えた請求項1に記載の乾湿式紡糸装置。
【請求項3】
前記気体吹出部材を気体が通過する際の圧力損失によって背圧を生じさせて吹出気体を均一にする均圧室を備えた請求項1又は請求項2に記載の乾湿式紡糸装置。
【請求項4】
前記紡出ドープを横切る方向であって、かつ口金のドープ吐出面と平行となる方向へ気体吹出部材から吹出す気体の方向を制御する整流部材を備えた請求項1〜3の何れかに記載の乾湿式紡糸装置。
【請求項5】
前記気体の吹出速度が0.01〜0.5m/分に制御されていることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の乾湿式紡糸装置。
【請求項6】
前記口金に穿設された紡糸孔の数が100〜3000個である請求項1〜5の何れかに記載の乾湿式紡糸装置。
【請求項7】
全芳香族ポリアミドを乾湿式紡糸することを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の乾湿式紡糸装置。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の装置を用いて乾湿式紡糸を行うことを特徴とする乾湿式紡糸方法。
【請求項9】
紡出ドープに吹き付ける気体の温度を紡糸孔から吐出されたドープ温度よりも0〜150℃低くした請求項8に記載の乾湿式紡糸方法。
【請求項10】
紡出ドープ吹き付ける気体が空気である請求項8又は請求項9に記載の乾湿式紡糸方法。
【請求項11】
紡出されたドープが凝固液で凝固されて引き取られる紡糸速度が10〜300m/分である請求項8〜10の何れかに記載の乾湿式紡糸方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−119973(P2007−119973A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−316079(P2005−316079)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】