説明

乾燥山菜の製造方法

【課題】この発明は、塩蔵山菜を塩抜きして乾燥した乾燥山菜に注湯したときの復元性が良好で、しかも食感も乾燥前と同じように柔らかく、また良好な食感を有する具材に適した乾燥山菜を製造しようとするものである。
【解決手段】注湯復元性の良好な乾燥山菜の製造法であって、水で塩抜きした塩蔵山菜を、アルカリ環境下で加温処理後水洗いし、乾燥することを特徴とする乾燥山菜の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、塩蔵山菜を用いて注湯復元性の良好な乾燥山菜を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウド、ワラビ、タケノコ、フキ、キノコ、その他の山菜類(以下、単に「山菜」という。)は、季節の句の食材として昔から日本人に親しまれている。
【0003】
これらの山菜はおひたし、炊き込みご飯、みそ汁、天ぷらなどいろいろな料理に用いられているが、一般の野菜と比べ生産収量が多くないために、近年では中国や台湾など海外からの輸入も行われている。
【0004】
これらの句の時期に国内で採取された山菜や海外から輸入された山菜は、長期間の貯蔵や輸送ができるようにするため、採取後すみやかに塩蔵処理が行われるのが一般的である。ここにおける塩蔵処理は、ブランチング処理した山菜を高濃度な食塩水と接触させることにより、細菌が原形質分離を起こし、また食材中の水分が除かれ細菌が繁殖するのに必要な水分が不足することで細菌の繁殖を抑える保存加工である。
【0005】
また、最近はインスタント加工技術の発達と食生活の変化により、簡単ですぐに調理できる即席麺、即席みそ汁、スープ、炊き込みご飯の素など乾燥食品が多く普及している。こうした乾燥食品の具材としても、キノコ、タケノコなどの山菜が利用されることも多い。これらの乾燥食品は原料の句の時期とは関係なく大量生産されるために、これらに用いられる山菜は貯蔵保管された塩蔵品が原料として用いられることが非常に多い。
【0006】
この種の乾燥食品は、注湯後の復元性が良好であるとともに、その風味および外観の優れていることが肝要である。しかし、こうしたものに用いる従来の山菜は、これまで塩蔵山菜を塩抜き後に乾燥処理を行った乾燥山菜が用いられてきたので、注湯後の復元性は悪く、また乾燥処理前のものと比べ食感が悪いといった問題点を抱えていた。
【0007】
塩蔵品を塩抜きし乾燥させた乾燥食材の注湯後の食感改善の技術は、これまで塩蔵ワカメについて開示されている(特許文献1)が、塩蔵山菜の乾燥食材の注湯後の食感改善技術はこれまでは知られていなかった。
【特許文献1】特開平5−292923号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、上記のような従来の問題点を解決しようとしたもので、塩蔵山菜を塩抜きして乾燥した乾燥山菜に注湯したときの復元性が良好で、しかも食感も乾燥前と同じように柔らかく、また良好な食感を有する具材に適した乾燥山菜を製造しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、注湯復元性の良好な乾燥山菜の製造法であって、水で塩抜きした塩蔵山菜を、アルカリ環境下で加温処理後水洗いし、乾燥することを特徴とする乾燥山菜の製造方法(請求項1)および前記アルカリ環境のpHが9以上である請求項1記載の乾燥山菜の製造方法(請求項2)である。
【0010】
である。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、塩蔵して長期に保存された塩蔵山菜が、注湯によって良く復元されるとともに、乾燥される前のものと同じような風味で、しかも柔らかい食感を有する乾燥山菜を得ることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この発明で用いる山菜は特に制限されるものではないが、食品工業製品に有用に利用されるもは、例えばゼンマイ、ワラビ、シメジ、フキ、クサソテツ、スギナ、タケノコなどである。これらの山菜を通常の方法でブランチング処理し、高濃度な食塩水と接触させることにより得られる塩蔵山菜を出発原料として用いる。
【0013】
まず、本発明では上記の塩蔵山菜を塩抜き工程にかける。ここにおける塩抜き工程は、塩蔵山菜の内部から塩分が抜ければその方法は問わない。例えば、原料の塩蔵山菜を流水及び/又は水を張った容器に浸漬し、この水を数回取り替えることで塩分を抜くことができるものである。塩抜きの程度は、山菜の塩濃度や浸漬水中の塩濃度を測定することで、また塩抜き後の山菜を食して塩味をみることで判断することができる。塩抜き後の山菜は軽く水切りを行う。
【0014】
次に、上記の塩抜きした山菜をアルカリ環境下で加温処理を行う。ここでの処理は、例えばアルカリ溶液に山菜を浸漬して加温するなどの方法がある。アルカリ溶液は、食品の安全性などから、例えば塩化カルシウム、炭酸ナトリウム、塩化マグネシウム、炭酸マグネシウム又はそれらの塩から選ばれる1種又は2種以上を水に溶解したものを用いる。処理温度、処理時間、処理溶液のpHについては、次のように実験を行った。
【0015】
塩蔵シメジ300gを流水に1時間浸漬させ脱塩処理を行い、軽く脱水したのちに鍋に入れ、さらに炭酸ナトリウム水溶液1000gを加え加温処理を行った。加温処理後に中和するために水洗いし、真空凍結乾燥処理を施して乾燥シメジを得た。このときのアルカリ溶液のpH、処理温度、処理時間の検討を行った。異なる条件設定で得られた乾燥シメジを10名のパネラーによって官能試験を行い、評価は熱湯を注湯して30秒後の食感を下記の基準で行った。10名のパネラーの平均を表1〜3に示した。
【0016】
食感の評価
5:生鮮品と同様で極めて良好な品質
4:生鮮品と同様で良好な品質
3:やや硬いが、違和感のない程度の品質
2:硬く不自然な食感の品質
1:硬くしまっていて、復元していない品

塩抜きした塩蔵シメジを、表1に示すように異なるpHの炭酸ナトリウム水溶液に浸漬し、100℃で30分加温後に中和して乾燥した。この乾燥シメジの注湯復元後の食感の官能試験をし、その結果を同表に示した。また、塩抜きした塩蔵シメジを、pH9の炭酸ナトリウム水溶液に浸漬し、表2に示すように異なる温度で30分加温後に中和して乾燥した。この乾燥シメジの注湯復元後の食感の官能試験をし、その結果を同表に示した。さらに、塩抜きした塩蔵シメジを、pH9の炭酸ナトリウム水溶液に浸漬し、100℃で表3に示すように異なる時間加温後に中和して乾燥した。この乾燥シメジの注湯復元後の食感の官能試験をし、その結果を同表に示した。
【表1】

【0017】
【表2】

【0018】
【表3】

【0019】
表1の結果から、シメジをアルカリ処理することにより柔らく食感のよい乾燥シメジの得られることが確認された。また、アルカリ処理ではpHを9以上とするとさらに効果のあることも認められた。表2からは50℃以上の加温で有効な効果が認められることが分かった。さらに、表3の結果から、加温時間が15分未満では良好な食感は得られなかったが、30分以上で良好な食感の得れることがわかった。これらのことから、塩蔵シメジにおいては処理時のアルカリ溶液の処理が有効で、その場合にpH9以上がさらに好ましく、加温温度は50℃以上、加温時間は30分以上が好ましく、これによって得られた乾燥シメジは、注湯して戻したものが乾燥前と同じように柔らかい食感を有するものとすることができる。これらの条件は、塩蔵山菜によって一律ではない。
【0020】
アルカリ処理後の山菜は、水または熱湯で洗うことで中和する。中和後は乾燥処理を行うが、乾燥は通風乾燥、真空乾燥、凍結乾燥など任意でよい。これによって注湯後の復元性のよい乾燥山菜を得ることができる。
【0021】
(実施例1)
塩蔵シメジ300gを流水で洗い、水2000gに一晩浸漬してから脱水し、pH10の炭酸ナトリウム水溶液1000gと一緒に鍋に加え30分間煮沸した。煮沸後水洗いして真空凍結乾燥を行い乾燥シメジを得た。比較例として上記のアルカ溶液に変えて水で煮沸し、それ以外は実施例と同様として比較品を得た。
【0022】
(実施例2)
塩蔵マイタケ300gを流水で洗い軽く脱水した後、予め80℃に加温したpH11の塩化カルシウム水溶液1000gと一緒に容器に移し、80℃の恒温室で30分間静置した。その後、中和及び殺菌するために熱湯で5分間煮沸後通風を行い乾燥マイタケを得た。比較例として上記のアルカ溶液に変えてpH8の塩化カルシウム水溶液で煮沸し、それ以外は実施例と同様として比較品を得た。
【0023】
(実施例3)
塩蔵ゼンマイ300gを流水に1時間さらし軽く脱水した後、pH10の炭酸ナトリウム水溶液1000gと一緒に鍋に加え30分間煮沸した。煮沸後水洗いし通風乾燥を行い乾燥ゼンマイを得た。比較例として上記の炭酸溶液に変えてpH7.8の炭酸ナトリウム水溶液を用いて煮沸し、それ以外は実施例と同様として比較品を得た。
【0024】
(実施例4)
塩蔵タケノコ300gを流水に1時間さらし軽く脱水した後、pH11の炭酸ナトリウム水溶液1000gと一緒に鍋に加え30分間煮沸した。煮沸後水洗いし真空乾燥を行い乾燥タケノコを得た。上記の炭酸溶液に変えて水を用いて煮沸し、それ以外は実施例と同様として比較品を得た。
【0025】
実施例1ないし4で得られた乾燥山菜と各比較例の乾燥山菜について10名のパネラーによって官能試験を行った。評価は乾燥山菜に注湯して30分後の食感を前述した1〜5の基準で行ない、10名のパネラーの平均を求めた。その結果を表4に示した。
【表4】

【0026】
表4の結果ら明らかなように、本発明の乾燥山菜はいずれも注湯復元性がよく、乾燥前と同じように柔らかい食感で風味もよいものであることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
注湯復元性の良好な乾燥山菜の製造法であって、水で塩抜きした塩蔵山菜を、アルカリ環境下で加温処理後水洗いし、乾燥することを特徴とする乾燥山菜の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ環境のpHが9以上である請求項1記載の乾燥山菜の製造方法。

【公開番号】特開2006−174706(P2006−174706A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−368037(P2004−368037)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(592061902)株式会社永谷園 (12)
【Fターム(参考)】