乾燥生姜及びその製造方法
【課題】おろし金で摺りおろすことができず、製造工程が煩雑な従来の乾燥生姜の課題を解消する。
【解決手段】生の根茎生姜がフリーズドライされて得られた、多孔質状の乾燥生姜であって、前記生の根茎生姜の姿を維持できるように、前記乾燥生姜を形成する少なくとも一部の細胞の形状が保存されている。
【解決手段】生の根茎生姜がフリーズドライされて得られた、多孔質状の乾燥生姜であって、前記生の根茎生姜の姿を維持できるように、前記乾燥生姜を形成する少なくとも一部の細胞の形状が保存されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乾燥生姜及びその製造方法に関し、更に詳細には生の根茎生姜をフリーズドライして得た乾燥生姜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生姜は、天ぷら等の薬味や調理、或いは生姜湯等の飲料としても利用されている。この様に利用される生姜は、図11に示す様に、主として根茎生姜100であって、根茎生姜100から伸びている茎102、葉104及び根106は除去されることが一般的である。
かかる根茎生姜100(以下、単に生姜100と称することがある)を薬味等に利用する場合には、通常、生の生姜100をおろし金で摺りおろしたり、スライスして利用される。
しかし、生の生姜100は、形状が一定しておらず且つ硬いため、摺りおろし難い。更に、生の生姜100を摺りおろしている際に、汁が出てくると共に、繊維も現れる。摺りおろし生姜中の汁は、醤油等の調味料の味を薄めてしまい、繊維は食感を悪くする。
また、通常、家庭では、1本の生の生姜100を最後まで使用しきれず、冷蔵庫等で保管することになるが、生の生姜100の香味が著しく減少し、萎びたり或いはカビが発生したりして廃棄処分にせざる場合が多い。
このため、下記特許文献1には、生の生姜の香味を保持できる乾燥生姜を得るべく、生の生姜を2mm厚にスライスしたスライス生姜を、50℃、相対湿度30%の通風によって通風乾燥を開始し、乾燥開始から10時間経過して水分率が10%以下となった生姜を、シリカゲルを満たしたデシケータ中で50℃に保温して10時間かけて水分率を4%とすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−206504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前掲の特許文献1によれば、得られた乾燥生姜は、粉末化して利用でき、新鮮な生の生姜の風味を呈するものであった。
また、この粉末品を乾燥剤と共にポリエチレン袋に封入して2カ月間放置しても、充分に生姜の風味を楽しめるものであった。
しかしながら、特許文献1の乾燥生姜は、薄くスライスされており、非常に硬いため、おろし金で摺りおろすことはできず、乳鉢で粉砕化している。
一方、家庭では、乾燥生姜の必要量を、おろし金で簡単に摺りおろして使用できることが要望されている。
また、特許文献1の乾燥生姜は、生の生姜を薄くスライスした後、通風乾燥を10時間施した後、更に乾燥剤としてのシリカゲルによる乾燥を10時間施して得ている。この様に、特許文献1の乾燥生姜の製造工程は、二段階の乾燥を施すものであるため、その製造工程は煩雑であり、乾燥生姜の工業的な製造方法としては採用できない。
そこで、本発明の課題は、おろし金で摺りおろすことができず、製造工程が煩雑で且つ乾燥時間が長い従来の乾燥生姜及びその製造方法の課題を解消し、おろし金で摺りおろすことができ、且つ工業的に製造が可能な乾燥生姜及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、前記課題を解決するには、乾燥方法としてフリーズドライを採用することが有利であると考えて、生の生姜を急速凍結した凍結生姜に、フリーズドライを施したところ、得られた乾燥生姜は、著しく収縮しており、家庭での摺りおろしは困難となることが判った。
本発明者等は、フリーズドライを施す凍結生姜の凍結条件について種々検討したところ、生の生姜を凍結する際に、内部温度がー1〜―5℃となる最大氷晶生成温度帯をゆっくりと通過させる緩慢凍結を施した凍結生姜に、フリーズドライを施したところ、得られた乾燥生姜は、その収縮率が小さく、おろし金によって容易に摺りおろすことができることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、生の根茎生姜がフリーズドライされて得られた、多孔質状の乾燥生姜であって、前記生の根茎生姜の姿を維持できるように、前記乾燥生姜を形成する少なくとも一部の細胞の形状が保存されていることを特徴とする乾燥生姜にある。かかる本発明において、乾燥生姜の気孔率を65〜85%とすることが好適である。この乾燥生姜を、すりおろし可能の乾燥生姜とすることが好ましい。
また、本発明は、生の根茎生姜にフリーズドライを施して乾燥生姜を得る際に、前記生の根茎生姜の姿を維持できるように、少なくとも一部の細胞の形状が保存された多孔質状の乾燥生姜を得るべく、前記生の根茎生姜に、その細胞内に氷結晶を成長させて凍結する緩慢凍結を施して凍結生姜を得た後、前記凍結生姜にフリーズドライを施すことを特徴とする乾燥生姜の製造方法にある。かかる本発明において、緩慢凍結として、根茎生姜の内部温度が−1〜−5℃となる最大氷晶生成温度帯の通過時間を5時間以上とする緩慢凍結を好適に採用できる。
【発明の効果】
【0006】
従来の生野菜のフリーズドライでは、生野菜に、その細胞の損傷を可及的に防止すべく、細胞内の氷結晶の成長を防止できる急速冷凍を施した後、得られた凍結生姜にフリーズドライを施している。
しかしながら、生の根茎生姜のフリーズドライでは、急速冷凍を施した後、得られた凍結生姜にフリーズドライを施すと、得られた乾燥生姜は、その細胞が破壊されて著しく収縮し、生の根茎生姜の姿を保持できない。
この点、本発明では、生の根茎生姜に、細胞内に氷結晶を成長させて凍結する緩慢凍結を施した後、得られた凍結生姜にフリーズドライを施すことによって、生の根茎生姜を形成する少なくとも一部の細胞の形状を保存して、生の根茎生姜の姿を維持する多孔質状の乾燥生姜を得ることができる。
この様にして得られた本願発明に係る乾燥生姜は、多孔質状であって、その細胞壁の形状が保存されており、生の根茎生姜の姿を維持できる。
かかる本願発明の乾燥生姜は、おろし金で容易に摺りおろして粉末状にでき、生の根茎生姜中の芳香成分及び辛味成分も保存できる。
ところで、生の根茎生姜に緩慢凍結を施した後に、フリーズドライすることによって、生の根茎生姜の姿を維持する多孔質状の乾燥生姜を得ることができることの詳細な理由は未だ充分に解明されていないが、以下のように考えられる。
つまり、生の根茎生姜に急速凍結を施して得た凍結生姜にフリーズドライを施した場合には、凍結生姜の細胞内の氷結晶が消滅したとき、細胞壁も乾燥されて収縮する。この細胞壁の収縮力は、損傷を受けない細胞壁では、損傷を受けた細胞壁よりも大きくなるため、細胞全体が収縮し、生姜全体も収縮する。
一方、本発明では、生の根茎生姜に、細胞内に氷結晶を成長させて凍結する緩慢凍結を施した後、得られた凍結生姜にフリーズドライを施している。
かかる緩慢凍結によって、生姜を形成する細胞の細胞壁の一部が、細胞内に形成される氷結晶によって破損される。このため、フリーズドライ中に細胞内の氷結晶が消滅したとき、一部が損傷を受けている細胞壁の収縮力は、損傷を受けていない細胞壁よりも弱いため、生姜全体の収縮を小さくでき、生の根茎生姜の姿を維持する多孔質状の乾燥生姜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に係る乾燥生姜の一例を示す写真である。
【図2】図1に示す乾燥生姜のSEM写真である。
【図3】図1に示す乾燥生姜の硬さを測定した結果を示すグラフである。
【図4】図1に示す乾燥生姜の摺りおろし面を示す写真である。
【図5】図1に示す乾燥生姜中の芳香成分を分析したガスマス(GSMS)分析の結果を示すチャートである。
【図6】図1に示す乾燥生姜中の辛味成分を分析した液体クロマトグラフィー分析(HPLC)の結果を示すチャートである。
【図7】生の根茎生姜に急速冷凍によって得た冷凍生姜に、フリーズドライを施して得られた乾燥生姜を示す写真である。
【図8】図7に示す乾燥生姜のSEM写真である。
【図9】図7に示す乾燥生姜の摺りおろし面を示す写真である。
【図10】根茎生姜の内部温度が−1〜−5℃となる最大氷晶生成温度帯の通過時間が1時間未満となる緩慢凍結を施して得られた凍結生姜に、フリーズドライを施して得た乾燥生姜の摺りおろし面を示す写真である。
【図11】生姜の一例を説明する説明図である。
【図12】実施例1で施した緩慢凍結での生姜の内部温度の経時変化を示す。
【図13】実施例5で施した緩慢凍結での生姜の内部温度の経時変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に係る乾燥生姜の一例を図1に示す。図1に示す乾燥生姜は、生の皮付の根茎生姜を、その姿を維持してフリーズドライして得られた乾燥生姜である。
かかる乾燥生姜は、皮付の生の根茎生姜に対して、細胞内に氷結晶を成長させて凍結する緩慢凍結を施して凍結生姜を得た後、この凍結生姜にフリーズドライを施して得たものである。
この凍結生姜として、細胞壁の破壊を可及的に防止すべく、細胞内での氷結晶を成長を可及的に防止できる急速冷凍を採用した場合、得られた冷凍生姜をフリーズドライして得た乾燥生姜では、その収縮が著しく且つ硬くなって、おろし金での摺りおろしが困難となる。特に、乾燥生姜中の繊維が他の部分と一緒に摺りおろしができず、得られた粉末中に長い繊維状体が混ざり込み、食感を低下させる。
【0009】
本発明で採用する緩慢凍結としては、根茎生姜の内部温度が−1〜−5℃となる最大氷晶生成温度帯の通過時間を5時間以上とすることが好ましい。
かかる緩慢凍結は、生の根茎生姜を―20℃に維持された冷凍庫内に、所定厚さの断熱材によって形成されたボックス内に、生の根茎生姜を所定時間載置することによって、緩慢冷凍を施すことができる。この場合、ボックスを形成する断熱材の厚さを調整することによって、緩慢凍結時間を調整できる。
尚、本発明で採用するフリーズドライとしては、公知のフリーズドライ装置を用いて公知の条件で行うことができる。
【0010】
この様にして得られた図1に示す乾燥生姜のSEM写真を図2に示す。図2に示すSEM写真では、生姜の細胞壁の形状が保存されている。このため、図1に示す乾燥生姜が多孔質状である。その気効率(アルキメデス法で測定)は、60〜85%であった。
かかる図1に示す乾燥生姜は、図3に示す様に、その硬さが、生の生姜に比較して、75〜80%減少している。図3に示す生姜の硬さは、直径2mmのピンを圧入したときの圧入力によって表している。かかる圧入力は、生姜の繊維に対して平行な部分と垂直な部分とについて測定しており、いずれの部分でも乾燥生姜では、生の生姜に対して、直径2mmのピンの圧入力は大幅に減少されている。
このため、図1に示す乾燥生姜を、おろし金で摺りおろすと、図4に示す様に、摺りおろし面が平坦である。このことは、図1に示す乾燥生姜は、乾燥生姜の繊維及び繊維以外の部分も同時に摺りおろすことができることを示しており、得られた生姜粉は、均一であった。
【0011】
また、図1に示す乾燥生姜の芳香成分について、生の根茎生姜に含有されている芳香成分と併せて、ガスマス(GSMS)分析を行った。その結果を図5に示す。図5に示す様に、乾燥生姜の芳香成分と生の根茎生姜の芳香成分との各ピーク位置は一致しており、そのピーク高さも略同じである。特に、生姜の芳香成分の主たる成分であるジンギベレン成分(図5の●印)については、乾燥生姜でも、生の根茎生姜と同程度の量が存在していた。このため、乾燥生姜でも、生の根茎生姜と同程度の芳香を呈している。
更に、図1に示す乾燥生姜の辛味成分についても、生の根茎生姜に含有されている辛味成分と併せて、液体クロマトグラフィー分析(HPLC法)を行った。その結果を図6に示す。図6に示す様に、乾燥生姜の辛味成分と生の根茎生姜の辛味成分との各ピーク位置は一致しており、そのピーク高さも略同じである。特に、生姜の辛味成分の主たる成分である6−ジンゲオール成分、8−ジンゲオール成分、10−ジンゲオール成分(図6の●印)については、乾燥生姜でも、生の根茎生姜と同程度の量が存在していた。このため、乾燥生姜でも、生の根茎生姜と同程度の辛味を呈している。
かかる図1に示す乾燥生姜の水分活性(自由水)は、0.2%程度である。このため、乾燥生姜、或いは乾燥生姜を摺りおろして得た生姜粉は、フィルム材から成る袋中に封入することによって、乾燥剤を封入することなく長期間保存できる。保存した乾燥生姜や生姜粉は、その呈する辛味や香りを充分に呈することができる。
かかる保存の際に、ガスバリアー性のフィルム材から成る袋を採用し、袋内に窒素を封入することによって、乾燥生姜や生姜粉の成分の酸化を防止できる。
尚、ガスバリア性のフィルム材としては、アルミ箔、アルミを少なくとも一面側に蒸着したポリエチレンテレフタレートフィルムやナイロンフィルムを用いることができる。
【0012】
一方、皮付の生の根茎生姜に対して、その細胞の破損を可及的に防止できるように、細胞内に氷結晶を可及的に成長することを防止して凍結する急速凍結を施して凍結生姜を得た後、この凍結生姜にフリーズドライを施した。
この急速冷凍は、生の根茎生姜を-20℃の雰囲気中に載置し、根茎生姜の内部温度が−1〜−5℃となる最大氷晶生成温度帯の通過時間を30分未満として根茎生姜を凍結させた。
得られた乾燥生姜は、図7に示す如く、著しく収縮しているものであった。この乾燥生姜の細胞は、図8に示すSEM写真に示す如く、著しく収縮して、その形状が全く保存されていない。
かかる乾燥生姜をおろし金で摺りおろすと、図9に示す如く、摺りおろし面から繊維が突出している。このことは、乾燥生姜の繊維は、繊維以外の部分と同時に摺りおろすことができないことを示している。このため、得られた生姜粉は、長い繊維状体が混入されており、不均一であった。
【0013】
ところで、緩慢凍結として、根茎生姜の内部温度が−1〜−5℃となる最大氷晶生成温度帯の通過時間が5時間未満の緩慢凍結を採用した場合には、図10に示す様に、最終的に得られる乾燥生姜に収縮が発生し、乾燥生姜の摺りおろし面には繊維が突出する。
しかし、収縮の程度は軽く、得られる生姜粉中にも繊維状体が混入するが、その長さが短いため、満足できる範囲内である。
また、図1に示す乾燥生姜は、皮付の生の根茎生姜を用いて得たものであるが、皮を除去した生の根茎生姜を用いてもよいことは勿論のことである。皮を除去した生の根茎生姜を用いることによって、綺麗な色彩の外感の乾燥生姜を得ることができる。更に、この乾燥生姜を摺りおろす際に、皮が飛散せず摺りおろし易い。
尚、皮の除去は、乾燥生姜にしてから行ってもよい。
【実施例1】
【0014】
図11に示す生姜から葉104、茎102、根106及び洗浄し難い小さな塊根茎を取り除いた根茎生姜100を、約60gの大きさとなるようにカットし水洗した後、次亜塩素酸ナトリウム水で殺菌した。
殺菌を施した根茎生姜に付着した水分を除去した後、皮付の根茎生姜に緩慢凍結を施して凍結生姜を得た。
かかる緩慢凍結は、複数個の生の根茎生姜が密閉された、所定厚さの断熱材から成る箱体を、雰囲気温度が-20℃に保持されている冷凍庫内に載置して行った。根茎生姜の内部温度を測定したところ、図12に示す様に、根茎生姜の内部温度が−1〜−5℃となる最大氷晶生成温度帯の通過時間(T)が5時間であった。
次いで、緩慢凍結を施して得られた凍結生姜を、フリーズドライ装置に供給してフリーズドライを施した。
得られた乾燥生姜は、図1に示す乾燥生姜と同様に、緩慢凍結に供した生の根茎生姜の形状を維持しているものであった。この乾燥生姜の収縮率は、生の根茎生姜に対して9.8%であり、アルキメデス法で測定した気孔率が75%の多孔質状のものであった。
また、得られた乾燥生姜の細胞は、図2に示すSEM写真(倍率300倍)の様に、少なくとも一部の細胞の形状が保持されているものであった。
更に、得られた乾燥生姜を、市販されているおろし金を用いて摺りおろしたところ、容易に摺りおろすことができた。乾燥生姜の摺りおろし面は、図4に示すように平坦面であって、繊維を含めて同時に摺りおろすことができたことが判る。得られた生姜粉中には、繊維状物は殆ど見当たらなかった。
この得られた生姜粉を、豆腐に添加して醤油をかけて食したところ、従来の生の生姜の摺りおろしの如く、生姜汁によって醤油味を薄めることがなく、生姜の香りと適度な辛味とが相俟って美味しく食することができた。また、豆腐を食している際に、生姜中の繊維が食感を低下させることもなかった。
【実施例2】
【0015】
実施例1で得られた生姜粉を、アルミが一面側に蒸着されたポリエチレンテレフタレートフィルムから成る袋に、窒素と共に封入した。乾燥剤は、袋には封入しなかった。
この生姜粉を封入した袋を、37℃で湿度70%の雰囲気下に3月間載置し、袋内に封入した生姜粉に対する加速試験を施した。
加速試験を施した袋を開封したところ、封入されていた生姜粉は、袋に封入したときと同様な香りと辛味とを呈していた。
【実施例3】
【0016】
実施例1において、緩慢凍結に供する根茎生姜として、皮をピーラー又はスプーンによって除去した根茎生姜とした他は、実施例1と同様にして緩慢凍結及びフリーズドライを施して乾燥生姜を得た。
得られた乾燥生姜は、綺麗なクリーム色の外観であった。また、乾燥生姜を摺りおろして得た生姜粉も、クリーム色であった。
【実施例4】
【0017】
実施例1で得られた乾燥生姜の皮を、ピーラー又はスプーンによって除去した。得られた乾燥生姜は、綺麗なクリーム色の外観であった。また、この乾燥生姜を摺りおろして得た生姜粉も、クリーム色であった。
【比較例1】
【0018】
実施例1において、緩慢凍結に代えて、生の根茎生姜を雰囲気温度が-20℃に保持されている冷凍庫内に直接載置し、根茎生姜の内部温度が−1〜−5℃となる最大氷晶生成温度帯の通過時間を30分程度とする急速冷凍を採用した他は、実施例1と同様にして乾燥生姜を得た。得られた乾燥生姜の外感は、図7に示す如く、生の根茎生姜に比較して、収縮が著しく、皺が多く形成されている。その細胞は、図7に示す乾燥生姜のSEM写真(倍率300倍)の如く、著しく収縮しており、その形状を保持できないものである。
また、得られた乾燥生姜をおろし金で摺りおろしたとき、その摺りおろし面には、図9に示す如く、繊維が突出している。このため、乾燥生姜をおろし難く且つ得られた生姜粉中には、長い繊維状体が混在している。
得られた生姜粉を、豆腐に添加して醤油をかけて食したところ、従来の生の生姜の摺りおろしの如く、生姜汁によって醤油味を薄めることがなく、生姜の香りと適度な辛味とがしたものの、生姜中の繊維によって食感を低下させるものであった。
【実施例5】
【0019】
実施例1において、雰囲気温度が-20℃に保持されている冷凍庫内に載置した、複数個の生の根茎生姜を密閉した箱体の断熱材厚さを、図13に示す様に、根茎生姜の内部温度が−1〜−5℃となる最大氷晶生成温度帯の通過時間(T)が1時間となるように変更した他は、実施例1と同様にして乾燥生姜を得た。
得られた乾燥生姜には、収縮による皺が形成されていたが、比較例1で得た乾燥生姜よりも程度が軽く許容範囲内であった。
この乾燥生姜をおろし金で摺りおろしたとき、その摺りおろし面には、図10に示す様に、繊維が突出している。この繊維の突出長は、比較例1で得た乾燥生姜よりも短く、得られた生姜粉中に混在する繊維状体は許容範囲内であった。
【符号の説明】
【0020】
100 根茎生姜
102 茎
104 葉
106 根
T 最大氷晶生成温度帯の通過時間
【技術分野】
【0001】
本発明は乾燥生姜及びその製造方法に関し、更に詳細には生の根茎生姜をフリーズドライして得た乾燥生姜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生姜は、天ぷら等の薬味や調理、或いは生姜湯等の飲料としても利用されている。この様に利用される生姜は、図11に示す様に、主として根茎生姜100であって、根茎生姜100から伸びている茎102、葉104及び根106は除去されることが一般的である。
かかる根茎生姜100(以下、単に生姜100と称することがある)を薬味等に利用する場合には、通常、生の生姜100をおろし金で摺りおろしたり、スライスして利用される。
しかし、生の生姜100は、形状が一定しておらず且つ硬いため、摺りおろし難い。更に、生の生姜100を摺りおろしている際に、汁が出てくると共に、繊維も現れる。摺りおろし生姜中の汁は、醤油等の調味料の味を薄めてしまい、繊維は食感を悪くする。
また、通常、家庭では、1本の生の生姜100を最後まで使用しきれず、冷蔵庫等で保管することになるが、生の生姜100の香味が著しく減少し、萎びたり或いはカビが発生したりして廃棄処分にせざる場合が多い。
このため、下記特許文献1には、生の生姜の香味を保持できる乾燥生姜を得るべく、生の生姜を2mm厚にスライスしたスライス生姜を、50℃、相対湿度30%の通風によって通風乾燥を開始し、乾燥開始から10時間経過して水分率が10%以下となった生姜を、シリカゲルを満たしたデシケータ中で50℃に保温して10時間かけて水分率を4%とすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−206504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前掲の特許文献1によれば、得られた乾燥生姜は、粉末化して利用でき、新鮮な生の生姜の風味を呈するものであった。
また、この粉末品を乾燥剤と共にポリエチレン袋に封入して2カ月間放置しても、充分に生姜の風味を楽しめるものであった。
しかしながら、特許文献1の乾燥生姜は、薄くスライスされており、非常に硬いため、おろし金で摺りおろすことはできず、乳鉢で粉砕化している。
一方、家庭では、乾燥生姜の必要量を、おろし金で簡単に摺りおろして使用できることが要望されている。
また、特許文献1の乾燥生姜は、生の生姜を薄くスライスした後、通風乾燥を10時間施した後、更に乾燥剤としてのシリカゲルによる乾燥を10時間施して得ている。この様に、特許文献1の乾燥生姜の製造工程は、二段階の乾燥を施すものであるため、その製造工程は煩雑であり、乾燥生姜の工業的な製造方法としては採用できない。
そこで、本発明の課題は、おろし金で摺りおろすことができず、製造工程が煩雑で且つ乾燥時間が長い従来の乾燥生姜及びその製造方法の課題を解消し、おろし金で摺りおろすことができ、且つ工業的に製造が可能な乾燥生姜及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、前記課題を解決するには、乾燥方法としてフリーズドライを採用することが有利であると考えて、生の生姜を急速凍結した凍結生姜に、フリーズドライを施したところ、得られた乾燥生姜は、著しく収縮しており、家庭での摺りおろしは困難となることが判った。
本発明者等は、フリーズドライを施す凍結生姜の凍結条件について種々検討したところ、生の生姜を凍結する際に、内部温度がー1〜―5℃となる最大氷晶生成温度帯をゆっくりと通過させる緩慢凍結を施した凍結生姜に、フリーズドライを施したところ、得られた乾燥生姜は、その収縮率が小さく、おろし金によって容易に摺りおろすことができることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、生の根茎生姜がフリーズドライされて得られた、多孔質状の乾燥生姜であって、前記生の根茎生姜の姿を維持できるように、前記乾燥生姜を形成する少なくとも一部の細胞の形状が保存されていることを特徴とする乾燥生姜にある。かかる本発明において、乾燥生姜の気孔率を65〜85%とすることが好適である。この乾燥生姜を、すりおろし可能の乾燥生姜とすることが好ましい。
また、本発明は、生の根茎生姜にフリーズドライを施して乾燥生姜を得る際に、前記生の根茎生姜の姿を維持できるように、少なくとも一部の細胞の形状が保存された多孔質状の乾燥生姜を得るべく、前記生の根茎生姜に、その細胞内に氷結晶を成長させて凍結する緩慢凍結を施して凍結生姜を得た後、前記凍結生姜にフリーズドライを施すことを特徴とする乾燥生姜の製造方法にある。かかる本発明において、緩慢凍結として、根茎生姜の内部温度が−1〜−5℃となる最大氷晶生成温度帯の通過時間を5時間以上とする緩慢凍結を好適に採用できる。
【発明の効果】
【0006】
従来の生野菜のフリーズドライでは、生野菜に、その細胞の損傷を可及的に防止すべく、細胞内の氷結晶の成長を防止できる急速冷凍を施した後、得られた凍結生姜にフリーズドライを施している。
しかしながら、生の根茎生姜のフリーズドライでは、急速冷凍を施した後、得られた凍結生姜にフリーズドライを施すと、得られた乾燥生姜は、その細胞が破壊されて著しく収縮し、生の根茎生姜の姿を保持できない。
この点、本発明では、生の根茎生姜に、細胞内に氷結晶を成長させて凍結する緩慢凍結を施した後、得られた凍結生姜にフリーズドライを施すことによって、生の根茎生姜を形成する少なくとも一部の細胞の形状を保存して、生の根茎生姜の姿を維持する多孔質状の乾燥生姜を得ることができる。
この様にして得られた本願発明に係る乾燥生姜は、多孔質状であって、その細胞壁の形状が保存されており、生の根茎生姜の姿を維持できる。
かかる本願発明の乾燥生姜は、おろし金で容易に摺りおろして粉末状にでき、生の根茎生姜中の芳香成分及び辛味成分も保存できる。
ところで、生の根茎生姜に緩慢凍結を施した後に、フリーズドライすることによって、生の根茎生姜の姿を維持する多孔質状の乾燥生姜を得ることができることの詳細な理由は未だ充分に解明されていないが、以下のように考えられる。
つまり、生の根茎生姜に急速凍結を施して得た凍結生姜にフリーズドライを施した場合には、凍結生姜の細胞内の氷結晶が消滅したとき、細胞壁も乾燥されて収縮する。この細胞壁の収縮力は、損傷を受けない細胞壁では、損傷を受けた細胞壁よりも大きくなるため、細胞全体が収縮し、生姜全体も収縮する。
一方、本発明では、生の根茎生姜に、細胞内に氷結晶を成長させて凍結する緩慢凍結を施した後、得られた凍結生姜にフリーズドライを施している。
かかる緩慢凍結によって、生姜を形成する細胞の細胞壁の一部が、細胞内に形成される氷結晶によって破損される。このため、フリーズドライ中に細胞内の氷結晶が消滅したとき、一部が損傷を受けている細胞壁の収縮力は、損傷を受けていない細胞壁よりも弱いため、生姜全体の収縮を小さくでき、生の根茎生姜の姿を維持する多孔質状の乾燥生姜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に係る乾燥生姜の一例を示す写真である。
【図2】図1に示す乾燥生姜のSEM写真である。
【図3】図1に示す乾燥生姜の硬さを測定した結果を示すグラフである。
【図4】図1に示す乾燥生姜の摺りおろし面を示す写真である。
【図5】図1に示す乾燥生姜中の芳香成分を分析したガスマス(GSMS)分析の結果を示すチャートである。
【図6】図1に示す乾燥生姜中の辛味成分を分析した液体クロマトグラフィー分析(HPLC)の結果を示すチャートである。
【図7】生の根茎生姜に急速冷凍によって得た冷凍生姜に、フリーズドライを施して得られた乾燥生姜を示す写真である。
【図8】図7に示す乾燥生姜のSEM写真である。
【図9】図7に示す乾燥生姜の摺りおろし面を示す写真である。
【図10】根茎生姜の内部温度が−1〜−5℃となる最大氷晶生成温度帯の通過時間が1時間未満となる緩慢凍結を施して得られた凍結生姜に、フリーズドライを施して得た乾燥生姜の摺りおろし面を示す写真である。
【図11】生姜の一例を説明する説明図である。
【図12】実施例1で施した緩慢凍結での生姜の内部温度の経時変化を示す。
【図13】実施例5で施した緩慢凍結での生姜の内部温度の経時変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に係る乾燥生姜の一例を図1に示す。図1に示す乾燥生姜は、生の皮付の根茎生姜を、その姿を維持してフリーズドライして得られた乾燥生姜である。
かかる乾燥生姜は、皮付の生の根茎生姜に対して、細胞内に氷結晶を成長させて凍結する緩慢凍結を施して凍結生姜を得た後、この凍結生姜にフリーズドライを施して得たものである。
この凍結生姜として、細胞壁の破壊を可及的に防止すべく、細胞内での氷結晶を成長を可及的に防止できる急速冷凍を採用した場合、得られた冷凍生姜をフリーズドライして得た乾燥生姜では、その収縮が著しく且つ硬くなって、おろし金での摺りおろしが困難となる。特に、乾燥生姜中の繊維が他の部分と一緒に摺りおろしができず、得られた粉末中に長い繊維状体が混ざり込み、食感を低下させる。
【0009】
本発明で採用する緩慢凍結としては、根茎生姜の内部温度が−1〜−5℃となる最大氷晶生成温度帯の通過時間を5時間以上とすることが好ましい。
かかる緩慢凍結は、生の根茎生姜を―20℃に維持された冷凍庫内に、所定厚さの断熱材によって形成されたボックス内に、生の根茎生姜を所定時間載置することによって、緩慢冷凍を施すことができる。この場合、ボックスを形成する断熱材の厚さを調整することによって、緩慢凍結時間を調整できる。
尚、本発明で採用するフリーズドライとしては、公知のフリーズドライ装置を用いて公知の条件で行うことができる。
【0010】
この様にして得られた図1に示す乾燥生姜のSEM写真を図2に示す。図2に示すSEM写真では、生姜の細胞壁の形状が保存されている。このため、図1に示す乾燥生姜が多孔質状である。その気効率(アルキメデス法で測定)は、60〜85%であった。
かかる図1に示す乾燥生姜は、図3に示す様に、その硬さが、生の生姜に比較して、75〜80%減少している。図3に示す生姜の硬さは、直径2mmのピンを圧入したときの圧入力によって表している。かかる圧入力は、生姜の繊維に対して平行な部分と垂直な部分とについて測定しており、いずれの部分でも乾燥生姜では、生の生姜に対して、直径2mmのピンの圧入力は大幅に減少されている。
このため、図1に示す乾燥生姜を、おろし金で摺りおろすと、図4に示す様に、摺りおろし面が平坦である。このことは、図1に示す乾燥生姜は、乾燥生姜の繊維及び繊維以外の部分も同時に摺りおろすことができることを示しており、得られた生姜粉は、均一であった。
【0011】
また、図1に示す乾燥生姜の芳香成分について、生の根茎生姜に含有されている芳香成分と併せて、ガスマス(GSMS)分析を行った。その結果を図5に示す。図5に示す様に、乾燥生姜の芳香成分と生の根茎生姜の芳香成分との各ピーク位置は一致しており、そのピーク高さも略同じである。特に、生姜の芳香成分の主たる成分であるジンギベレン成分(図5の●印)については、乾燥生姜でも、生の根茎生姜と同程度の量が存在していた。このため、乾燥生姜でも、生の根茎生姜と同程度の芳香を呈している。
更に、図1に示す乾燥生姜の辛味成分についても、生の根茎生姜に含有されている辛味成分と併せて、液体クロマトグラフィー分析(HPLC法)を行った。その結果を図6に示す。図6に示す様に、乾燥生姜の辛味成分と生の根茎生姜の辛味成分との各ピーク位置は一致しており、そのピーク高さも略同じである。特に、生姜の辛味成分の主たる成分である6−ジンゲオール成分、8−ジンゲオール成分、10−ジンゲオール成分(図6の●印)については、乾燥生姜でも、生の根茎生姜と同程度の量が存在していた。このため、乾燥生姜でも、生の根茎生姜と同程度の辛味を呈している。
かかる図1に示す乾燥生姜の水分活性(自由水)は、0.2%程度である。このため、乾燥生姜、或いは乾燥生姜を摺りおろして得た生姜粉は、フィルム材から成る袋中に封入することによって、乾燥剤を封入することなく長期間保存できる。保存した乾燥生姜や生姜粉は、その呈する辛味や香りを充分に呈することができる。
かかる保存の際に、ガスバリアー性のフィルム材から成る袋を採用し、袋内に窒素を封入することによって、乾燥生姜や生姜粉の成分の酸化を防止できる。
尚、ガスバリア性のフィルム材としては、アルミ箔、アルミを少なくとも一面側に蒸着したポリエチレンテレフタレートフィルムやナイロンフィルムを用いることができる。
【0012】
一方、皮付の生の根茎生姜に対して、その細胞の破損を可及的に防止できるように、細胞内に氷結晶を可及的に成長することを防止して凍結する急速凍結を施して凍結生姜を得た後、この凍結生姜にフリーズドライを施した。
この急速冷凍は、生の根茎生姜を-20℃の雰囲気中に載置し、根茎生姜の内部温度が−1〜−5℃となる最大氷晶生成温度帯の通過時間を30分未満として根茎生姜を凍結させた。
得られた乾燥生姜は、図7に示す如く、著しく収縮しているものであった。この乾燥生姜の細胞は、図8に示すSEM写真に示す如く、著しく収縮して、その形状が全く保存されていない。
かかる乾燥生姜をおろし金で摺りおろすと、図9に示す如く、摺りおろし面から繊維が突出している。このことは、乾燥生姜の繊維は、繊維以外の部分と同時に摺りおろすことができないことを示している。このため、得られた生姜粉は、長い繊維状体が混入されており、不均一であった。
【0013】
ところで、緩慢凍結として、根茎生姜の内部温度が−1〜−5℃となる最大氷晶生成温度帯の通過時間が5時間未満の緩慢凍結を採用した場合には、図10に示す様に、最終的に得られる乾燥生姜に収縮が発生し、乾燥生姜の摺りおろし面には繊維が突出する。
しかし、収縮の程度は軽く、得られる生姜粉中にも繊維状体が混入するが、その長さが短いため、満足できる範囲内である。
また、図1に示す乾燥生姜は、皮付の生の根茎生姜を用いて得たものであるが、皮を除去した生の根茎生姜を用いてもよいことは勿論のことである。皮を除去した生の根茎生姜を用いることによって、綺麗な色彩の外感の乾燥生姜を得ることができる。更に、この乾燥生姜を摺りおろす際に、皮が飛散せず摺りおろし易い。
尚、皮の除去は、乾燥生姜にしてから行ってもよい。
【実施例1】
【0014】
図11に示す生姜から葉104、茎102、根106及び洗浄し難い小さな塊根茎を取り除いた根茎生姜100を、約60gの大きさとなるようにカットし水洗した後、次亜塩素酸ナトリウム水で殺菌した。
殺菌を施した根茎生姜に付着した水分を除去した後、皮付の根茎生姜に緩慢凍結を施して凍結生姜を得た。
かかる緩慢凍結は、複数個の生の根茎生姜が密閉された、所定厚さの断熱材から成る箱体を、雰囲気温度が-20℃に保持されている冷凍庫内に載置して行った。根茎生姜の内部温度を測定したところ、図12に示す様に、根茎生姜の内部温度が−1〜−5℃となる最大氷晶生成温度帯の通過時間(T)が5時間であった。
次いで、緩慢凍結を施して得られた凍結生姜を、フリーズドライ装置に供給してフリーズドライを施した。
得られた乾燥生姜は、図1に示す乾燥生姜と同様に、緩慢凍結に供した生の根茎生姜の形状を維持しているものであった。この乾燥生姜の収縮率は、生の根茎生姜に対して9.8%であり、アルキメデス法で測定した気孔率が75%の多孔質状のものであった。
また、得られた乾燥生姜の細胞は、図2に示すSEM写真(倍率300倍)の様に、少なくとも一部の細胞の形状が保持されているものであった。
更に、得られた乾燥生姜を、市販されているおろし金を用いて摺りおろしたところ、容易に摺りおろすことができた。乾燥生姜の摺りおろし面は、図4に示すように平坦面であって、繊維を含めて同時に摺りおろすことができたことが判る。得られた生姜粉中には、繊維状物は殆ど見当たらなかった。
この得られた生姜粉を、豆腐に添加して醤油をかけて食したところ、従来の生の生姜の摺りおろしの如く、生姜汁によって醤油味を薄めることがなく、生姜の香りと適度な辛味とが相俟って美味しく食することができた。また、豆腐を食している際に、生姜中の繊維が食感を低下させることもなかった。
【実施例2】
【0015】
実施例1で得られた生姜粉を、アルミが一面側に蒸着されたポリエチレンテレフタレートフィルムから成る袋に、窒素と共に封入した。乾燥剤は、袋には封入しなかった。
この生姜粉を封入した袋を、37℃で湿度70%の雰囲気下に3月間載置し、袋内に封入した生姜粉に対する加速試験を施した。
加速試験を施した袋を開封したところ、封入されていた生姜粉は、袋に封入したときと同様な香りと辛味とを呈していた。
【実施例3】
【0016】
実施例1において、緩慢凍結に供する根茎生姜として、皮をピーラー又はスプーンによって除去した根茎生姜とした他は、実施例1と同様にして緩慢凍結及びフリーズドライを施して乾燥生姜を得た。
得られた乾燥生姜は、綺麗なクリーム色の外観であった。また、乾燥生姜を摺りおろして得た生姜粉も、クリーム色であった。
【実施例4】
【0017】
実施例1で得られた乾燥生姜の皮を、ピーラー又はスプーンによって除去した。得られた乾燥生姜は、綺麗なクリーム色の外観であった。また、この乾燥生姜を摺りおろして得た生姜粉も、クリーム色であった。
【比較例1】
【0018】
実施例1において、緩慢凍結に代えて、生の根茎生姜を雰囲気温度が-20℃に保持されている冷凍庫内に直接載置し、根茎生姜の内部温度が−1〜−5℃となる最大氷晶生成温度帯の通過時間を30分程度とする急速冷凍を採用した他は、実施例1と同様にして乾燥生姜を得た。得られた乾燥生姜の外感は、図7に示す如く、生の根茎生姜に比較して、収縮が著しく、皺が多く形成されている。その細胞は、図7に示す乾燥生姜のSEM写真(倍率300倍)の如く、著しく収縮しており、その形状を保持できないものである。
また、得られた乾燥生姜をおろし金で摺りおろしたとき、その摺りおろし面には、図9に示す如く、繊維が突出している。このため、乾燥生姜をおろし難く且つ得られた生姜粉中には、長い繊維状体が混在している。
得られた生姜粉を、豆腐に添加して醤油をかけて食したところ、従来の生の生姜の摺りおろしの如く、生姜汁によって醤油味を薄めることがなく、生姜の香りと適度な辛味とがしたものの、生姜中の繊維によって食感を低下させるものであった。
【実施例5】
【0019】
実施例1において、雰囲気温度が-20℃に保持されている冷凍庫内に載置した、複数個の生の根茎生姜を密閉した箱体の断熱材厚さを、図13に示す様に、根茎生姜の内部温度が−1〜−5℃となる最大氷晶生成温度帯の通過時間(T)が1時間となるように変更した他は、実施例1と同様にして乾燥生姜を得た。
得られた乾燥生姜には、収縮による皺が形成されていたが、比較例1で得た乾燥生姜よりも程度が軽く許容範囲内であった。
この乾燥生姜をおろし金で摺りおろしたとき、その摺りおろし面には、図10に示す様に、繊維が突出している。この繊維の突出長は、比較例1で得た乾燥生姜よりも短く、得られた生姜粉中に混在する繊維状体は許容範囲内であった。
【符号の説明】
【0020】
100 根茎生姜
102 茎
104 葉
106 根
T 最大氷晶生成温度帯の通過時間
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生の根茎生姜がフリーズドライされて得られた、多孔質状の乾燥生姜であって、
前記生の根茎生姜の姿を維持できるように、前記乾燥生姜を形成する少なくとも一部の細胞の形状が保存されていることを特徴とする乾燥生姜。
【請求項2】
乾燥生姜の気孔率が、65〜85%である請求項1記載の乾燥生姜。
【請求項3】
乾燥生姜が、すりおろし可能の乾燥生姜である請求項1又は請求項2記載の乾燥生姜。
【請求項4】
生の根茎生姜にフリーズドライを施して乾燥生姜を得る際に、
前記生の根茎生姜の姿を維持できるように、少なくとも一部の細胞の形状が保存された多孔質状の乾燥生姜を得るべく、前記生の根茎生姜に、その細胞内に氷結晶を成長させて凍結する緩慢凍結を施して凍結生姜を得た後、
前記凍結生姜にフリーズドライを施すことを特徴とする乾燥生姜の製造方法。
【請求項5】
緩慢凍結として、根茎生姜の内部温度が−1〜−5℃となる最大氷晶生成温度帯の通過時間を5時間以上となる緩慢凍結を採用する請求項4記載の乾燥生姜の製造方法。
【請求項1】
生の根茎生姜がフリーズドライされて得られた、多孔質状の乾燥生姜であって、
前記生の根茎生姜の姿を維持できるように、前記乾燥生姜を形成する少なくとも一部の細胞の形状が保存されていることを特徴とする乾燥生姜。
【請求項2】
乾燥生姜の気孔率が、65〜85%である請求項1記載の乾燥生姜。
【請求項3】
乾燥生姜が、すりおろし可能の乾燥生姜である請求項1又は請求項2記載の乾燥生姜。
【請求項4】
生の根茎生姜にフリーズドライを施して乾燥生姜を得る際に、
前記生の根茎生姜の姿を維持できるように、少なくとも一部の細胞の形状が保存された多孔質状の乾燥生姜を得るべく、前記生の根茎生姜に、その細胞内に氷結晶を成長させて凍結する緩慢凍結を施して凍結生姜を得た後、
前記凍結生姜にフリーズドライを施すことを特徴とする乾燥生姜の製造方法。
【請求項5】
緩慢凍結として、根茎生姜の内部温度が−1〜−5℃となる最大氷晶生成温度帯の通過時間を5時間以上となる緩慢凍結を採用する請求項4記載の乾燥生姜の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−193734(P2010−193734A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39806(P2009−39806)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【特許番号】特許第4350795号(P4350795)
【特許公報発行日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【出願人】(391063075)アスザックフーズ株式会社 (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【特許番号】特許第4350795号(P4350795)
【特許公報発行日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【出願人】(391063075)アスザックフーズ株式会社 (3)
【Fターム(参考)】
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