説明

亀裂面積率算出方法および装置

【課題】接合部など電気伝導性を有する導電部の亀裂面積率を定量的且つ連続的に測定することができる亀裂面積率算出方法および装置を提供する。
【解決手段】本発明の亀裂面積率算出方法は、電気伝導性を有する導電部の亀裂面積率を算出する亀裂面積率算出方法であって、予め求めた導電部の固有抵抗値に基づいて、抵抗変化と亀裂面積率の関係式を設定する関係式設定ステップと、導電部の抵抗変化を測定する抵抗変化測定ステップと、関係式設定ステップで設定された関係式に基づいて、抵抗変化測定ステップで測定された抵抗変化から導電部の亀裂面積率を算出する亀裂面積率算出ステップと、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、はんだ等の導電部の亀裂面積率を測定する方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば回路におけるはんだ接合部の寿命に関する評価方法が種々提案されている。接合部とは、回路中で例えば素子と基板を接合する電気伝導性を有するものである。接合部は、熱疲労等により亀裂が発生し、破断する虞がある。この接合部について、温度サイクル試験や寿命評価などが行われる。
【0003】
接合部の評価方法または評価装置として、例えば、特開2007−255925号公報(特許文献1)や特開2007−255926号公報(特許文献2)に開示されたものがある。これらの接合評価方法では、接合部の抵抗値を測定し、その抵抗値の著しい変化(変曲点)から破断に近い寿命を測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−255925号公報
【特許文献2】特開2007−255926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記評価方法では、変曲点以前の亀裂の進展特性を定量的に検知することができない。また、この亀裂の進展特性を調べるには、試験後に断面観察や破面観察により亀裂長さや亀裂面積を測定する事後評価(実測)を行う必要があり、その評価のたびに高度な技術や多大な労力および時間が必要であった。さらに、上記評価方法では、事後評価の結果得られるデータは特定のサイクル数の1点のデータに過ぎず、試験中の連続的な亀裂進展挙動を測定することは極めて困難であった。
【0006】
ここで、測定対象において亀裂は面状に進展し、亀裂の進展の度合いは、亀裂面積率(亀裂進展率)で表すことができる。亀裂面積率は、亀裂の経路に沿って切断した断面の全断面積のうち、亀裂面積の割合である。亀裂面積率が大きいほど、亀裂が進展していることになる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、はんだ接合部など電気伝導性を有する導電部の亀裂面積率を定量的且つ連続的に測定することができる亀裂面積率測定方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の亀裂面積率算出方法は、電気伝導性を有する導電部の亀裂面積率を算出する亀裂面積率算出方法であって、予め求めた導電部の固有抵抗値に基づいて、抵抗変化と亀裂面積率の関係式を設定する関係式設定ステップと、導電部の抵抗変化を測定する抵抗変化測定ステップと、関係式設定ステップで設定された関係式に基づいて、抵抗変化測定ステップで測定された抵抗変化から導電部の亀裂面積率を算出する亀裂面積率算出ステップと、 を含むことを特徴とする。
【0009】
抵抗変化と亀裂面積率の関係式を用いることにより、導電部の抵抗変化を実測するだけで、その時々の亀裂面積率を求めることができる。つまり、本方法によれば、導電部の亀裂面積率を定量的且つ連続的に測定することができる。なお、関係式に必要な導電部の固有抵抗値は、亀裂がない状態の導電部の初期抵抗値に相当する値であって、予備実験(関係式による計算や直接実測)や既知の値から計算により予め求められたものを用いる。
【0010】
ここで、上記関係式は、亀裂面積率をF、抵抗変化をΔR、導電部の固有抵抗値をRoとすると、F=1/(1+Ro/ΔR)であることが好ましい。この式は、抵抗変化と亀裂面積率の関係を等価回路モデルによる理論計算と実験による裏づけにより定量的に明らかにした独自の計算式である。これにより、より正確に亀裂面積率を算出することが可能となる。
【0011】
ここで、1つの回路中で複数(n個:nは2以上の自然数)の導電部が電気的に直列接続されている場合、亀裂面積率として実効亀裂面積率を算出することが好ましい。実効亀裂面積率は、回路で直列接続されたすべての導電部を1つの仮想導電部と仮定して算出した亀裂面積率である。仮想導電部の抵抗は、直列接続された複数の導電部の抵抗を等価的に1つの抵抗で表した値、すなわち、導電部全抵抗の合計である。従って、この実効亀裂面積率を算出する場合、上記関係式において、ΔRは回路中に在る各導電部の抵抗変化の合計であり、Roは回路中に在る各導電部の固有抵抗値の合計である。なお、回路中に在る各導電部の固有抵抗値Roi(i=1〜n)の合計ΣRoiは、実効固有抵抗値Roeとも呼ばれる。上記方法において、実効固有抵抗値Roeは、各導電部の材料が同じか否かに関わらず、各導電部の固有抵抗値から求めることができる。本方法において、抵抗変化は、複数の導電部が直列接続されている場合、それらすべての導電部の抵抗変化の合計値を用いる。
【0012】
ここで、1つの導電部の固有抵抗値が求まっている場合、その導電部と同じ材料からなる他の導電部の固有抵抗値は、亀裂経路に沿った断面の断面積の比を用いて求めることが好ましい。すなわち、本方法は、関係式設定ステップの前に、導電部の固有抵抗値を求める固有抵抗値算出ステップをさらに有し、第一の導電部の亀裂経路に沿った断面の断面積をA1、第一の導電部の固有抵抗値をRo1、第一の導電部と同じ材料からなる第二の導電部の亀裂経路に沿った断面の断面積をA2とすると、固有抵抗値算出ステップにおいて、第二の導電部の固有抵抗値Ro2は、Ro2=Ro1×(A1/A2)で算出されることが好ましい。これにより、固有抵抗値が既知の導電部と同じ材料の導電部に対しては、実測により固有抵抗値を求める必要がなく、作業労力および時間を大幅に削減することができる。
【0013】
ここで、回路中に複数の導電部が電気的に直列接続された状態で存在し、当該導電部がすべて同じ材料および同じ接続状態である場合を考える。同じ接続状態とは、例えば、複数の導電部が同一基板上で同一(同一種)のチップに対し、各導電部が接合面積を同じくして基板とチップとを接合している状態を意味する。この場合、先に各導電部の亀裂面積率が実測により求まっていれば、それを用いて実効亀裂面積率を求め、その実効亀裂面積率から実効固有抵抗値を算出することができる。
【0014】
すなわち、関係式設定ステップの前に、導電部の固有抵抗値を求める固有抵抗値算出ステップをさらに有し、材料および接続状態が同じn個の導電部が回路中で電気的に直列接続されており、各導電部の亀裂面積率Fi(i=1〜n)が実測により求まっている場合、固有抵抗値算出ステップは、実効亀裂面積率Feを、n/(1−Fe)=Σ{1/(1−Fi)}、(i=1〜n)により算出する実効亀裂面積率算出ステップと、実効亀裂面積率算出ステップで算出された実効亀裂面積率Feと、前記回路における全前記導電部の抵抗変化の合計である抵抗変化ΔR(実測値)から実効固有抵抗値Roeを、Fe=1/(1+Roe/ΔR)を用いて算出する実効固有抵抗値算出ステップと、を含む。これにより、実測による亀裂面積率から実効固有抵抗値を算出することができる。
【0015】
なお、導電部は、電気伝導性を有するものであればよく、本方法は、電気伝導性を有するあらゆるものの亀裂進展評価に用いることができる。導電部は、回路における接合部であってもよい。例えば、はんだにより半導体チップ等が装着された配線基板に対して、本方法ではんだの亀裂進展試験を行うこともできる。
【0016】
ところで、本発明は、上記した方法を用いて亀裂面積率を算出する装置としても記載できる。すなわち、本発明の亀裂面積率算出装置は、電気伝導性を有する導電部の亀裂面積率を算出する亀裂面積率算出装置であって、導電部の抵抗変化を測定する抵抗変化測定部と、抵抗変化と亀裂面積率の関係式であって予め求めた導電部の固有抵抗値を用いて設定される関係式に基づいて、抵抗変化測定部で測定された抵抗変化から導電部の亀裂面積率を算出する亀裂面積率算出部と、を備えることを特徴とする。そして、上記関係式は、F=1/(1+Ro/ΔR)であることが好ましい。これによっても、上記同様の効果が発揮される。
【0017】
また、本発明の亀裂面積率算出方法および装置は、電気抵抗の変化に基づき亀裂面積率(亀裂進展率)を算出するものであるが、電気抵抗の代わりに熱抵抗を用いてもよい。つまり、この場合、固有抵抗値は熱抵抗の固有抵抗値となり、抵抗変化は熱抵抗変化となる。これによれば、測定対象(亀裂発生部位、熱抵抗測定部位)は導電性を有するものに限られない。なお、熱抵抗の測定は一般的な方法が使用でき、例えば亀裂部位を挟む部位の温度変化から測定できる。ここでの関係式は、熱抵抗の固有抵抗値をRo、熱抵抗変化をΔRとして、F=1/(1+Ro/ΔR)であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の亀裂面積率算出方法および装置によれば、接合部など電気伝導性を有する導電部の亀裂面積率を定量的且つ連続的に測定することができる。また、上記方法および装置において、電気抵抗に代えて熱抵抗を用いることで、あらゆる測定対象物の亀裂面積率を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】接合面積率と抵抗変化の関係を示すグラフである。
【図2】亀裂面積率と抵抗変化の関係を示すグラフである。
【図3】亀裂面積率と抵抗変化(対数)の関係を示すグラフである。
【図4】第一実施形態の亀裂面積率算出方法の流れを示すフローチャートである。
【図5】第一実施形態の亀裂面積率算出装置を示す模式図である。
【図6】はんだ接合部品Zを示す模式図である。
【図7】第二実施形態の亀裂面積率算出方法の流れを示すフローチャートである。
【図8】第二実施形態における亀裂面積率と抵抗変化の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、実施形態を挙げ、本発明をより詳しく説明する。
【0021】
まず、電気伝導性を有する導電部としてはんだ接合部を例に、図1〜図3を参照して、抵抗変化と亀裂面積率の関係式について説明する。図1は、接合面積率と抵抗変化の関係を示すグラフである。図2は、亀裂面積率と抵抗変化の関係を示すグラフである。図3は、亀裂面積率と抵抗変化(対数)の関係を示すグラフである。
【0022】
一般に、抵抗Rは、電流経路の長さに比例し、断面積に反比例するとされている。この関係から、亀裂が生じると断面積がその分減少するため抵抗が大きくなると予想される。しかし、亀裂により遮断される電流経路の長さは、亀裂の幅が不明であるため求めることができない。また、亀裂の幅は通常、極めて小さいため、亀裂周辺の電気の流れは複雑であることが想定される。したがって、抵抗に関する上記一般的な関係が亀裂をもつ電流経路に対して適用できるかどうかは不明であった。
【0023】
そこで本発明では、導電部(亀裂進展部)の固有抵抗値という新たな概念を導入し、亀裂の幅が不明でも抵抗値が求められる次式(1)をまず構築した。
【0024】
R=Ro×(Ao/A)・・・(1)
ここで、Roははんだ接合部の固有抵抗値であり、Aは亀裂経路に沿ったはんだ接合部の断面積であり、Aoは亀裂がない場合の上記亀裂経路に沿ったはんだ接合部の断面積である。Aは、亀裂が発生した場合、その亀裂部分の断面積の分だけ小さくなる。亀裂の経路は、はんだ接合部の接合状態や予備実験などによって予め想定することができる。
【0025】
そして、抵抗変化ΔRは、ΔR=R−Roであり、この式は、式(1)から、
ΔR=Ro/(A/Ao)−Ro・・・(2)
と変形できる。ここで、A/Aoは接合面積率を表しており、接合面積率と抵抗変化の関係を図示すると図1のようになる。
【0026】
ここで、亀裂面積率Fと各断面積A、Aoとの関係は、
F=1−A/Ao・・・(3)
となる。式(2)および(3)より、亀裂面積率Fと抵抗変化ΔRとの間には、
F=1/(1+Ro/ΔR)・・・(4)
の関係式が成立する。つまり、抵抗変化と亀裂面積率の関係式は式(4)で表すことができる。この関係を図示すると図2のようになる。なお、図1および図2において、Roは0.8mΩである。
【0027】
また、図2における縦軸の抵抗変化を対数で表示し、種々の固有抵抗値Ro(0.8mΩ、0.2mΩ、0.05mΩ)について上記関係を図示すると図3のようになる。図3に示すように、微小な抵抗変化を示す抵抗変化の対数値(縦軸)と亀裂面積率(横軸)との間には、大部分においてほぼ直線的な関係があることが分かる。したがって、この微小な抵抗変化の測定値から亀裂面積率を求めることができる。なお、図3には固有抵抗値が16倍異なる場合が例示されている。ここから、抵抗変化と亀裂面積率の関係は固有抵抗値に依存するが、固有抵抗値の僅かな違いでは亀裂面積率の算出精度に大きな違いが出ないことが分かる。つまり、上記関係は、Roの僅かな違いには鈍感であり、高精度に測定した固有抵抗値を用いる必要はない。また、例えば、接合部の亀裂経路が変わってしまった場合でも亀裂面積率の誤差は小さい。
【0028】
はんだ接合部の固有抵抗値Roは、亀裂面積率Fと抵抗変化ΔRの実測データの関係から式(4)を用いて求めることができる。また、簡易的には、直接実測により求めることもできる。誤差の観点では、式(4)から求めることが好ましい。
【0029】
また、複数のはんだ接合部を直列接続してそれらの抵抗を測定した場合、実効亀裂面積率Feは、
Fe=1/(1+Roe/ΔR)・・・(5)
となる。ここで、Roeは固有抵抗値の実効値(実効固有抵抗値)であり、直列接続であることから、
Roe=ΣRoi、(i=1〜n)・・・(6)
の関係が成り立つ。これらの実効値FeとRoeは、直列接続した複数の抵抗(接合部)を有する回路を1つの抵抗回路(仮想接合部)に置き換えた場合の値を意味する。式(5)で用いる接合部全体の実効固有抵抗値Roeは、式(6)に基づき、接合部の各固有抵抗値Roiから求めることができる。各固有抵抗値Roiは、直接実測により、または、亀裂面積率と抵抗変化の実測データの関係から式(4)を用いて求めることができる。
【0030】
また、材料および接合状態が同じ複数の接合部が直列接続されている場合、下記の式(7)を用いて各接合部の亀裂面積率Fi(実測値)から求められる実効固有抵抗値Feと、抵抗変化ΔRの実測値の関係(式(5))から、実効固有抵抗値Roeを求めてもよい。
【0031】
n/(1−Fe)=Σ{1/(1−Fi)}、(i=1〜n)・・・(7)
また、亀裂経路に沿った断面積のみ異なる同じ材料の接合部に対しては、その固有抵抗値Rojを実測ではなく、
Roj=Roi×(A1/A2)・・・(8)
を用いて算出することができる。
【0032】
以上、上記の関係式により、接合部の亀裂面積率を定量的および連続的に算出することができる。なお、上記関係式は、接合部に限らず、電気伝導性を有するものに対して適用することができる。
【0033】
<第一実施形態>
ここで、本発明を試験片の亀裂進展試験に適用した場合について図4および図5を参照して説明する。図4は、第一実施形態の亀裂面積率算出方法の流れを示すフローチャートである。図5は、亀裂面積率算出装置1を示す模式図である。
【0034】
試験片(本発明における「導電部」に相当する)は、電気伝導性を有するものであって、ここではアルミニウムからなっている。試験片の亀裂面積率の算出方法は以下のとおりである。
【0035】
図4に示すように、まず、試験片の固有抵抗値Roを実測により予め求める(S401)。具体的に固有抵抗値は、予備試験により試験片の亀裂面積率と抵抗変化を実測して式(4)から求める。また、簡易的には、亀裂がない状態の試験片の亀裂進展が予想される部位の初期抵抗値を実測して固有抵抗値としてもよい。ここでは、亀裂面積率Fと抵抗変化ΔRの実測データの関係から式(4)を用いて求めている。
【0036】
亀裂がない状態の試験片の初期抵抗値を測定してもよく、あるいは、予備試験により試験片の亀裂面積率と抵抗変化を実測して式(5)から算出してもよい。ここでは、試験片の一端から他端に電流を流した場合の抵抗を測定する。
【0037】
続いて、求まった固有抵抗値Roを式(4)に代入し、抵抗変化と亀裂面積率の関係式を設定ずる(S402)。続いて、試験片に冷熱サイクル試験を加え、試験片の抵抗変化ΔRを測定する(S403)。続いて、式(4)に基づいて、抵抗変化ΔRから亀裂面積率Fを算出する(S404)。そして、亀裂面積率の算出を続行する場合(S405:No)、引き続き抵抗変化をモニターし、抵抗変化から亀裂面積率を算出する。亀裂面積率は、例えば冷熱サイクル試験中であっても、実際に部品として使用している使用中であっても、試験片の抵抗変化さえ分かれば算出することができる。ただし、抵抗値に温度依存性がある場合、当然、同一温度下における抵抗変化を求めることが必要となる。
【0038】
本方法によれば、亀裂面積率を連続的且つ定量的に算出することができる。なお、1度固有抵抗値Roが求まれば、同じ試験片に対してその値を用いることができ、S401を行う必要はない。また、亀裂経路に沿った断面積のみ異なる場合、固有抵抗値は、式(8)を用いて算出することができる。
【0039】
また、亀裂面積率は、上記方法を用いた亀裂面積率算出装置で算出することができる。図5に示すように、亀裂面積率算出装置1は、抵抗変化測定部2と、亀裂面積率算出部3と、を備えている。抵抗変化測定部2は、測定対象(ここでは試験片)の抵抗変化を測定するものであって、公知の測定器である。亀裂面積率算出部3は、コンピュータ等の演算装置であって、上記関係式を演算するように設定されている。亀裂面積率算出装置1によれば、本方法を実行でき、上記同様の効果が発揮される。
【0040】
<第二実施形態>
次に、本発明について、図6〜図8を参照し、はんだ接合部の熱疲労による亀裂進展測定を例に説明する。図6は、はんだ接合部品Zを示す模式図である。図7は、第二実施形態の亀裂面積率算出方法の流れを示すフローチャートである。図8は、第二実施形態における亀裂面積率と抵抗変化の関係を示すグラフである。
【0041】
図6に示すように、はんだ接合部品Zは、基板4と、基板4上に配置された銅配線51、52と、はんだ接合部61、62と、チップ抵抗7と、を有している。
【0042】
はんだ接合部61は、はんだであって、銅配線51とチップ抵抗7とを接合している。はんだ接合部62は、はんだであって、銅配線52とチップ抵抗7とを接合している。つまり、はんだ接合部61、62は、同じ材料からなり、同じ接続状態となっている。具体的に、はんだ接合部61、62は、チップ抵抗7に対してはその端部下面と側面に接触し、銅配線51、52に対してはその上面に接触している。はんだ接合部61、62の他部材への接合面積は、ほぼ同じである。
【0043】
はんだ接合部61、62は、それぞれ同様に、チップ抵抗7の下にある部分と半山状のフィレット部分を有する形状となっている。また、はんだ接合部品Zにおいて、はんだ接合部61とはんだ接合部62とは電気的に直列接続されている。なお、例として、はんだ接合部61で想定される亀裂経路を破線で示す。
【0044】
第二実施形態において、抵抗は、はんだ接合部61、62を直列接続した回路(はんだ接合部品Z)全体で測定する。はんだ接合部61、62以外には、亀裂が入らないため、配線経路にあるその他の抵抗成分は一定とみなされる。従って、回路全体の抵抗変化を測定することで、はんだ接合部61、62の抵抗変化の和を測定できる。
【0045】
具体的に、銅配線51(52)の抵抗をRa(Rb)、はんだ接合部61(62)の抵抗をR1(R2)、チップ抵抗7の抵抗Rcとすると、はんだ接合部品Zの抵抗は、R=Ra+R1+Rc+R2+Rbとなる。そして、はんだ接合部61、62の抵抗変化ΔR1、ΔR2は、はんだ接合部品Zの抵抗変化ΔRで測定することができる(ΔR=ΔR1+ΔR2)。なお、はんだ接合部61、62以外の部位(例えば、銅配線)に亀裂が発生し、抵抗が変化する虞がある場合、はんだ接合部61、62の各両端で抵抗を測定し(すなわちR1、R2をそれぞれ測定し)、その抵抗変化を合計してもよい。
【0046】
第二実施形態では、冷熱サイクル試験を例に説明する。はんだ接合部品Zに冷熱サイクルを加えると、基板4とチップ抵抗7との熱膨張差によって、はんだ接合部61、62に熱疲労による亀裂が発生しうる。
【0047】
ここで、図7を参照して、本方法のフローを説明する。はんだ接合部品Zの亀裂面積率を求めるにあたり、まず、予備試験を行い、実効固有抵抗値Roeを以下のように求める。各はんだ接合部61、62の亀裂面積率Fiを破面観察により求める(S701)。
【0048】
はんだ接合部61、62は、チップ下部分とフィレット部分からなるため、破面観察も両部位について行う。各はんだ接合部61、62について、当該両部位(チップ下部分とフィレット部分)を合わせたはんだ接合部全体に対する亀裂面積率F1、F2を求める。そして、これら実測値F1、F2を用いて、式(7)に基づき、実効亀裂面積率Feを求める(S702)。このときの式は、2/(1−Fe)=Σ{1/(1−Fi)}、(i=1、2)となる。
【0049】
続いて、はんだ接合部品Zの抵抗変化ΔRを交流4端子法により求める(S703)。求められたFeとΔRの実測データから、式(5)に基づき、実効固有抵抗値Roeを算出する(S704)。このように、予備試験から、実効固有抵抗値Roeを求めることができる。図8に示すように、このRoeを用いた式(5)の関係(計算式)と、予備試験において実測されたFeの実測値は、ほぼ一致している。なお、ここでのRoeは0.09mΩである。
【0050】
以上の予備試験によって、まず、実効固有抵抗値Roeが求められる。そして、冷熱サイクル試験または実際の使用中において、はんだ接合部の実効亀裂面積率を算出する場合、以下のステップが行われる。
【0051】
はじめに、実行固有抵抗値Roeを用いて、抵抗変化ΔRと実効亀裂面積率Feの関係式を設定する(S705)。具体的には、式(5)に基づいて設定する。続いて、はんだ接合部品Zの抵抗変化ΔRを測定する(S706)。続いて、式(5)に基づいて、抵抗変化ΔRから実効亀裂面積率Feを算出する(S707)。これにより、はんだ接合部61、62の実効亀裂面積率Feを連続的且つ定量的に求めることができる。なお、S701〜S704については、1度実効固定抵抗値Roeが求められたものと同じもの(ここでは、はんだ接合部品)に対しては、同じ値Roeを用いることができるため省略できる。
【0052】
ところで、上記方法において、はんだ接合部の亀裂経路に沿った断面積のみが異なる場合、一方のはんだ接合部の固有抵抗値が求まっていれば、他方のはんだ接合部の固有抵抗値は式(8)を用いて計算により求めることができる。このように断面積を補正して換算した固有抵抗値を用いて算出した亀裂面積率と、破面観察により求めた亀裂面積率は、ほぼ一致した。
【0053】
以上、第二実施形態によっても、測定対象の亀裂面積率を連続的且つ定量的に算出することができる。なお、回路における測定対象(接合部)は、はんだ接合部に限られず、亀裂が発生する虞がある導電部であればよく、例えば導電性の接着剤や銀ろう等でもよい。また、亀裂には界面剥離(界面亀裂)等も含まれる。また、電気抵抗に代えて熱抵抗を用いることで、電気伝導性がない物に対しても上記方法により亀裂面積率を算出することができる。
【符号の説明】
【0054】
1:亀裂面積率算出装置、 2:抵抗変化測定部、 3:亀裂面積率算出部、
4:基板、 51、52:銅配線、 61、62:はんだ接合部、 7:チップ抵抗、
Z:はんだ接合部品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気伝導性を有する導電部の亀裂面積率を算出する亀裂面積率算出方法であって、
予め求めた前記導電部の固有抵抗値に基づいて、抵抗変化と亀裂面積率の関係式を設定する関係式設定ステップと、
前記導電部の抵抗変化を測定する抵抗変化測定ステップと、
前記関係式設定ステップで設定された前記関係式に基づいて、前記抵抗変化測定ステップで測定された抵抗変化から前記導電部の亀裂面積率を算出する亀裂面積率算出ステップと、
を含むことを特徴とする亀裂面積率算出方法。
【請求項2】
前記亀裂面積率をF、前記抵抗変化をΔR、前記導電部の固有抵抗値をRoとすると、
前記関係式は、F=1/(1+Ro/ΔR)である請求項1に記載の亀裂面積率算出方法。
【請求項3】
回路中で複数の前記導電部が電気的に直列接続されており、前記回路について、すべての前記導電部を1つの仮想導電部と仮定して求められる実効亀裂面積率を算出する場合、
前記関係式において、ΔRは前記回路に在る各前記導電部の抵抗変化の合計であり、Roは前記回路に在る各前記導電部の固有抵抗値の合計である請求項2に記載の亀裂面積率算出方法。
【請求項4】
前記関係式設定ステップの前に、前記導電部の固有抵抗値を求める固有抵抗値算出ステップをさらに有し、
第一の導電部の亀裂経路に沿った断面の断面積をA1、前記第一の導電部の固有抵抗値をRo1、前記第一の導電部と同じ材料からなる第二の導電部の亀裂経路に沿った断面の断面積をA2とすると、
前記固有抵抗値測定ステップにおいて、前記第二の導電部の固有抵抗値Ro2は、Ro2=Ro1×(A1/A2)で算出される請求項2または3に記載の亀裂面積算出方法。
【請求項5】
前記関係式設定ステップの前に、前記導電部の固有抵抗値を求める固有抵抗値算出ステップをさらに有し、
材料および接続状態が同じn個(nは2以上の自然数)の前記導電部が回路中で電気的に直列接続されており、各前記導電部の亀裂面積率Fi(i=1〜n)が実測により求まっている場合、
前記固有抵抗値算出ステップは、
前記回路のすべての前記導電部を1つの仮想導電部と仮定して求められる実効亀裂面積率Feを、n/(1−Fe)=Σ{1/(1−Fi)}、(i=1〜n)により算出する実効亀裂面積率算出ステップと、
前記実効亀裂面積率算出ステップで算出された実効亀裂面積率Feと、前記回路における全前記導電部の抵抗変化の合計である抵抗変化ΔRから実効固有抵抗値Roeを、Fe=1/(1+Roe/ΔR)を用いて算出する実効固有抵抗値算出ステップと、
を含み、
前記関係式設定ステップは、前記実効固有抵抗値算出ステップで算出された実効固有抵抗値に基づいて、前記抵抗変化ΔRと前記実効亀裂面積率Feの関係式を設定し、
前記亀裂面積率算出ステップは、前記関係式設定ステップで設定された前記関係式に基づいて、前記抵抗変化測定ステップで測定された抵抗変化ΔRから前記実効亀裂面積率Feを算出する請求項2に記載の亀裂面積率算出方法。
【請求項6】
前記導電部は、回路における接合部である請求項1〜5の何れか一項に記載の亀裂面積率算出方法。
【請求項7】
電気伝導性を有する導電部の亀裂面積率を算出する亀裂面積率算出装置であって、
前記導電部の抵抗変化を測定する抵抗変化測定部と、
抵抗変化と亀裂面積率の関係式であって予め求めた前記導電部の固有抵抗値を用いて設定される前記関係式に基づいて、前記抵抗変化測定部で測定された抵抗変化から前記導電部の亀裂面積率を算出する亀裂面積率算出部と、
を備えることを特徴とする亀裂面積率算出装置。
【請求項8】
前記亀裂面積率をF、前記抵抗変化をΔR、前記導電部の固有抵抗値をRとすると、
前記関係式は、F=1/(1+R/ΔR)である請求項7に記載の亀裂面積率算出装置。
【請求項9】
測定対象物の亀裂面積率を算出する亀裂面積率算出方法であって、
予め求めた前記測定対象物の固有抵抗値に基づいて、熱抵抗変化と亀裂面積率の関係式を設定する関係式設定ステップと、
前記測定対象物の熱抵抗変化を測定する熱抵抗変化測定ステップと、
前記関係式設定ステップで設定された前記関係式に基づいて、前記熱抵抗変化測定ステップで測定された熱抵抗変化から前記測定対象物の亀裂面積率を算出する亀裂面積率算出ステップと、
を含むことを特徴とする亀裂面積率算出方法。
【請求項10】
前記亀裂面積率をF、前記熱抵抗変化をΔR、前記測定対象物の固有抵抗値をRoとすると、
前記関係式は、F=1/(1+Ro/ΔR)である請求項9に記載の亀裂面積率算出方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−58952(P2011−58952A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208854(P2009−208854)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】