説明

予圧関連量測定装置付回転機械

【課題】アンギュラ玉軸受9a〜9dに付与されている予圧荷重を測定可能な構造を実現する。
【解決手段】主軸8の一部で、1つのアンギュラ玉軸受9cを構成する内輪15cを軸方向両側から挟む位置に、1対のエンコーダ5a、5bを外嵌する。これら両エンコーダ5a、5bの外周面の磁気特性を、円周方向に関して交互に変化させると共に、円周方向に隣り合う異なる磁気特性同士の境界を軸方向に対して傾斜させる。ハウジング7に支持した1対のセンサユニット6a、6bを構成するセンサ21a、21bの検出部を、前記両エンコーダ5a、5bの外周面に対向させる。この状態で、前記予圧荷重が変化する事に伴い、前記各部材5a、5b、15cの軸方向の圧縮ひずみが変化すると、前記両センサ21a、21bの出力信号間の位相差が変化する。そこで、図示しない演算器に、この位相差に基づいて、前記予圧荷重を算出する機能を持たせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、工作機械の主軸装置等の回転機械を構成する、複数の転がり軸受に付与されている予圧荷重を受けて弾性変形する部材の軸方向の圧縮ひずみや、この予圧荷重を測定する為に利用する。
【背景技術】
【0002】
工作機械は、その先端部に工具又は被加工物を取り付けた状態で、この工具又は被加工物に高精度な回転運動を与える、主軸を備えている。この様な工作機械の運転時に、前記工具又は被加工物を介して前記主軸に加わる、加工抵抗に基づく荷重を測定できれば、最適な加工条件を把握する事が可能となる。即ち、前記主軸に加わる荷重は、加工送り速度等の加工条件によって変化する。従って、この荷重を観察しつつ、この荷重が所定範囲に収まる様に前記加工条件を調整すれば、効率的な加工を行う事ができ、延いては、省エネルギー化や前記工具の寿命延長を図れる。又、前記加工条件を一定とした場合に、前記主軸に加わる荷重は、前記工具の切削性(切れ味)が劣化する程大きくなる。従って、この荷重を前記加工条件と関連付けて観察すれば、前記工具が寿命に達した事を確認でき、寿命に達した不良工具で加工を継続する事による、歩留まりの悪化を防止できる。
【0003】
この様な目的で、工作機械の主軸に加わる荷重を測定する為の装置として、特許文献1には、水晶圧電式の荷重センサに比べて低コストで調達できる、磁気式のエンコーダ及びセンサにより構成した、荷重測定装置に関する発明が記載されている。この特許文献1に記載された荷重測定装置は、図7に示す様な、エンコーダ1と、6個のセンサ2、2とを備える。このうちのエンコーダ1は、鋼等の磁性金属により円筒状に造られたもので、被検出面である外周面に複数の凹部3、3を、円周方向に関して等ピッチに配置している。又、円周方向に隣り合う、前記各凹部3、3を配置した部分と配置していない部分との境界の形状を、前記被検出面の軸方向中央部に折れ曲がり部を有する、V字形状としている。一方、前記各センサ2、2は、検出部を構成するホールIC、ホール素子、MR素子、GMR素子等の磁気検知素子と、永久磁石とから成る。そして、前記エンコーダ1を、回転部材である、図示しない工作機械の主軸に外嵌固定すると共に、前記各センサ2、2を、静止部材である、図示しない工作機械のハウジングに支持している。又、この状態で、これら各センサ2、2の検出部を、図7に示す様に、前記エンコーダ1の被検出面の軸方向両半部の円周方向等間隔の3箇所位置(合計6箇所位置)に、それぞれ1つずつ近接対向させている。尚、前記主軸は、前記ハウジングの内径側に、予圧を付与された多列転がり軸受により回転自在に支持されている。
【0004】
上述の様な構成を有する、前記特許文献1に記載された荷重測定装置の場合、前記主軸の回転時に、この主軸に加工抵抗に基づく荷重が作用して、この主軸がこの荷重の作用方向に変位すると、前記エンコーダ1の被検出面と前記各センサ2、2の検出部との位置関係がずれる。この結果、これら各センサ2、2の出力信号同士の間の位相差比(位相差/周期)が変化する。これら各位相差比と前記変位との間には、前記被検出面の特性変化パターンや、前記荷重が作用していない中立状態に於ける前記各検出部による前記被検出面の走査位置等により定まる、第一の関係が成立する。この為、この第一の関係を利用して、前記各位相差比から前記変位を求める事ができる。又、この変位と前記荷重との間には、前記多列転がり軸受の剛性等により定まる、第二の関係が成立する。この為、この第二の関係を利用して、前記変位から前記荷重を求める事ができる。
【0005】
ところで、上述した変位と荷重との間に成立する第二の関係は、前記多列転がり軸受の剛性、即ち、この多列転がり軸受に付与されている予圧荷重によって変化する。一方、この予圧荷重は、例えば、運転時の温度変化に伴う各構成部材の熱膨張量変化によって変化する他、これら各構成部材の経年変形や、前記予圧荷重を付与する為のナット部材の締付力が低下する事によっても変化する。従って、前記変位から前記荷重を求める際に使用する、前記第二の関係は、前記予圧荷重の変化に合わせて補正する事が好ましい。但し、この様な補正を行う為には、前記予圧荷重を測定できる様にする必要がある。
又、この予圧荷重は、前記被加工物の加工精度に結び付く、前記主軸の回転精度を確保する為、適正範囲に維持されている必要がある。従って、前記工作機械が前記荷重測定装置を備えているか否かに拘らず、前記予圧荷重が適正範囲に維持されているかを見張る為に、この予圧荷重を測定できる様にする必要がある。
尚、本発明に関連する他の先行技術文献として、下記の特許文献2がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−216654号公報
【特許文献2】特開2006−317420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、例えば工作機械の主軸装置の如く、静止部材の内径側に回転部材を複数の転がり軸受により回転自在に支持して成る回転機械に関して、これら各転がり軸受に付与されている予圧荷重と、この予圧荷重を求める為に利用する、弾性部材の軸方向の圧縮ひずみとのうち、少なくともこの圧縮ひずみを測定可能な構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の予圧関連量測定装置付回転機械は、回転機械と、1対のエンコーダと、1対のセンサと、演算器とを備える。
このうちの回転機械は、使用時にも回転しない静止部材と、使用時に回転する回転部材と、これら静止部材と回転部材との互いに対向する周面同士の間に組み付けられた、それぞれが予圧を付与された複数の転がり軸受とを備える。又、前記回転部材の一部には、これら各転がり軸受に付与された予圧荷重を受けて、軸方向の圧縮ひずみを生じる、弾性部材が嵌合支持されている。
又、前記両エンコーダは、前記回転部材の一部で前記弾性部材を軸方向両側から挟む2箇所位置に、この弾性部材の軸方向の圧縮ひずみが変化する事に伴って軸方向に相対変位(遠近動)する状態で嵌合支持されている。そして、それぞれがこの回転部材と同心の円筒状の被検出面を有している。又、これら両被検出面の特性は、円周方向に関して交互に変化している。又、これら両被検出面のうちの少なくとも一方の被検出面に存在する、円周方向に隣り合う互いに異なる特性同士の境界は、当該被検出面の軸方向(前記回転部材の軸方向)に対して傾斜している。
又、前記両センサは、それぞれの検出部を前記両エンコーダの被検出面に対向させた状態で、前記静止部材に支持されている。そして、前記両エンコーダの被検出面のうちで自身の検出部が対向する部分の特性変化に対応して出力信号を変化させる。
又、前記演算器は、前記両センサの出力信号同士の間の位相差に基づいて、前記弾性部材の軸方向の圧縮ひずみを求める機能を有する。
【0009】
本発明を実施する場合に、好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、前記演算器に、前記弾性部材の軸方向の圧縮ひずみとこの弾性部材を構成する材料の弾性係数とに基づく応力の計算を行う事により、前記予圧荷重を求める機能を持たせる。
【0010】
又、本発明を実施する場合には、例えば請求項3に記載した発明の様に、前記弾性部材を、前記各転がり軸受を構成する回転輪のうちの何れか1つの回転輪とする。これと共に、前記両エンコーダのうちの少なくとも一方のエンコーダを、前記各回転輪のうちで、軸方向に隣り合う、前記弾性部材となる回転輪と他の回転輪との間に挟持される間座として機能させる。
【0011】
又、本発明を実施する場合に、好ましくは、請求項4に記載した発明の様に、前記演算器に、前記両センサのうちの何れか一方のセンサの出力信号から取得した情報と前記回転部材の変位との間に成立する第一の関係を利用して、前記情報に基づいてこの変位を求めると共に、この変位と前記回転部材に作用する荷重との間に成立する第二の関係を利用して、前記求めた変位に基づいて前記荷重を求める機能を持たせる。これと共に、前記求めた予圧荷重に基づいて、前記第一の関係及び前記第二の関係を補正する機能を持たせる。
【発明の効果】
【0012】
上述の様に構成する本発明の予圧関連量測定装置付回転機械によれば、前記各転がり軸受に付与されている予圧荷重を求める為に利用可能な、前記弾性部材の軸方向の圧縮ひずみを求める事ができる。
又、請求項2に記載した発明の構成を採用すれば、前記弾性部材の軸方向の圧縮ひずみに基づいて、前記予圧荷重を求める事ができる。
又、請求項3に記載した発明の構成を採用すれば、前記弾性部材や前記両エンコーダを、前記回転輪や前記間座とは別個に設ける場合に比べて、部品点数の減少に伴う小型化及び低コスト化を図れる。
【0013】
又、請求項4に記載した発明の構成を採用すれば、前記回転部材の変位と、この回転部材に作用する荷重とを測定できる。又、これら変位や荷重を測定する為に使用するエンコーダ及びセンサを、前記両エンコーダ及び前記両センサとは別個に設ける場合に比べて、部品点数の減少に伴う小型化及び低コスト化を図れる。又、前記何れか一方のセンサの出力信号から取得した情報に基づいて前記変位を求める際に利用する第一の関係と、この変位に基づいて前記荷重を求める際に利用する第二の関係とを、それぞれ前記予圧荷重の変化に合わせて補正できる。この為、この予圧荷重が変化する事に拘らず、前記変位及び荷重を精度良く求める事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す断面図。
【図2】この第1例に組み込むエンコーダの斜視図。
【図3】予圧荷重が比較的大きい状態(A)と比較的小さい状態(B)とで示す、内輪及び1対のエンコーダの部分略断面図、及び、1対のセンサの出力信号を表す線図。
【図4】本発明の実施の形態の第2例を示す、図3と同様の図。
【図5】この第2例に組み込むエンコーダの斜視図。
【図6】本発明の実施の形態の第3例を示す、図3と同様の図。
【図7】従来構造の1例に組み込んだエンコーダ及び複数個のセンサの略斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施の形態の第1例]
図1〜3は、請求項1〜3に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例は、回転機械である、工作機械の主軸装置4と、1対のエンコーダ5a、5bと、1対のセンサユニット6a、6bと、図示しない演算器とを備える。
このうちの主軸装置4は、静止部材であるハウジング7の内径側に、回転部材である主軸8を、それぞれが予圧を付与された4個のアンギュラ玉軸受9a〜9dにより回転自在に支持すると共に、電動モータ10により、前記主軸8を回転駆動自在としている。
【0016】
前記各アンギュラ玉軸受9a〜9dを構成する、静止輪である外輪11a〜11dは、それぞれの軸方向端面同士の間に円筒状の外輪間座12a〜12cを挟持した状態で、前記ハウジング7に内嵌されている。又、この状態で、前記各外輪11a〜11d及び各外輪間座12a〜12cは、他の環状部材と共に、前記ハウジング7の内周面の基端(図1に於ける右端)寄り部分に設けられた段部13と、このハウジング7の先端部(図1に於ける左端部)に固定された環状の抑え蓋14との間で挟持されている。これにより、軸方向の位置決めと、前記ハウジング7に対する回転防止とを図られている。
【0017】
又、前記各アンギュラ玉軸受9a〜9dを構成する、回転輪である内輪15a〜15dは、それぞれの軸方向端面同士の間に、それぞれが円筒状である内輪間座16又は内輪間座としても機能する前記各エンコーダ5a、5bを挟持した状態で、前記主軸8に外嵌されている。又、この状態で、前記各内輪15a〜15d及び内輪間座16及び各エンコーダ5a、5bは、他の環状部材と共に、前記主軸8の外周面の基端寄り部分に設けられた段部17と、この主軸8の外周面の先端寄り部分に螺合し、更に締め付けたナット部材18との間で挟持されている。これにより、軸方向の位置決めと、前記主軸8に対する回転防止とを図られている。更に、この状態で、前記各アンギュラ玉軸受9a〜9dに、定位置予圧方式の予圧荷重が付与される様に、前記各外輪間座12a〜12cの軸方向寸法と、前記内輪間座16及び前記各エンコーダ5a、5bの軸方向寸法とを規制している。これと共に、先端側の2個のアンギュラ玉軸受9a、9bの接触角と、基端側の2個のアンギュラ玉軸受9c、9dの接触角とが、互いに逆向きとなる様に、これら各アンギュラ玉軸受9a〜9dの組み付け方向を規制している。尚、本例の場合には、前記各内輪15a〜15dのうち、前記両エンコーダ5a、5b同士の間に挟持された内輪15cが、特許請求の範囲に記載した弾性部材に相当する。
【0018】
又、前記両エンコーダ5a、5bはそれぞれ、図2に詳示する様に、鋼等の磁性金属により全体を円筒状に造られたもので、前記主軸8と同心の外周面を、被検出面としている。これら両エンコーダ5a、5bの被検出面には、複数の凹溝19、19を、円周方向に関して等ピッチに配置している。又、これら各凹溝19、19の形成方向は、前記両被検出面の軸方向に対して所定角度だけ傾斜した方向としている。従って、これら両被検出面の磁気特性は、前記各凹溝19、19の存在に基づいて、円周方向に関して交互に且つ等ピッチに変化しており、円周方向に隣り合う互いに異なる磁気特性同士の境界は、前記両被検出面の軸方向に対して傾斜している。尚、本例の場合には、前記両エンコーダ5a、5bの材質、径方向の肉厚、熱処理等、これら両エンコーダ5a、5bの軸方向の剛性に影響を及ぼす各要素の選択方法を規制する事により、これら両エンコーダ5a、5bの軸方向の剛性を、前記内輪15cの軸方向の剛性と同等以上に確保している。
【0019】
又、前記両センサユニット6a、6bは、合成樹脂製のホルダ20a、20bの先端部に、センサ21a、21bを包埋して成る。これら両センサ21a、21bは、検出部を構成するホールIC、ホール素子、MR素子、GMR素子等の磁気検知素子と、永久磁石とから成る。この様な両センサユニット6a、6bは、それぞれの先端部を、前記各外輪間座13b、13cの一部に設けた通孔を通じて、これら各外輪間座13b、13cの内径側に挿入すると共に、それぞれのセンサ21a、21bの検出部を、前記両エンコーダ5a、5bの被検出面に近接対向させた状態で、前記ハウジング7に支持固定されている。この状態で、前記主軸8と共に前記両エンコーダ5a、5bが回転すると、前記各センサ21a、21bの検出部が、これら両エンコーダ5a、5bの被検出面を走査する。これら両エンコーダ5a、5bの被検出面の磁気特性は、前記各凹溝19、19の存在により変化している為、前記両エンコーダ5a、5bの回転に伴って前記両センサ21a、21bの出力信号が変化する。
又、前記演算器は、後述する様に、前記両センサ21a、21bの出力信号を利用して、前記内輪15cの軸方向の圧縮ひずみと、前記各アンギュラ玉軸受9a〜9dに付与されている予圧荷重とを算出する機能を有する。
【0020】
上述の様に構成する本例の予圧関連量測定装置付回転機械の場合、前記各アンギュラ玉軸受9a〜9dに付与された予圧荷重は、前記両エンコーダ5a、5b及び前記内輪15cに軸方向の圧縮荷重として作用し、これら各部材5a、5b、15cに軸方向の圧縮ひずみを生じさせる。一方、前記予圧荷重は、運転時の温度変化に伴う各構成部材の熱膨張量変化や、これら各構成部材の経年変形、或いは、前記ナット部材18の締付力の低下等の要因に基づいて変化する。従って、前記各部材5a、5b、15cの軸方向の圧縮ひずみも、前記予圧荷重の変化に伴って変化する。即ち、この予圧荷重が小→大(又は大→小)に変化すると、前記各部材5a、5b、15cの軸方向の圧縮ひずみが増大(又は減少)し、前記各部材5a、5b、15cの軸方向寸法が、図3の(A)の左半部→(B)の左半部{又は(B)の左半部→(A)の左半部}に示す様な順で減少(又は増大)する。尚、図3(及び後述する図4、6)では、便宜上、前記内輪15cの軸方向寸法のみが変化した状態を示しているが、実際には、前記両エンコーダ5a、5bの軸方向寸法にも、前記内輪15cの軸方向寸法と同方向の変化が生じる。何れにしても、この際に、前記両エンコーダ5a、5bは、前記内輪15cの軸方向寸法が変化する事に伴い、軸方向に相対変位(遠近動)する。この結果、前記両センサ21a、21bの検出部が走査する、前記両エンコーダ5a、5bの被検出面の軸方向位置が、互いに逆方向に変化する。そして、前記両センサ21a、21bの出力信号同士の間の位相差比(位相差δ/周期T)が、図3の(A)の右半部→(B)の右半部{又は(B)の右半部→(A)の右半部}に示す様な順で変化する。
【0021】
ここで、前記位相差比と、前記内輪15cの軸方向の圧縮ひずみとの間には、所定の関係が成立する。そして、この所定の関係は、予め、実験を行う事により求められる他、前記各部材5a、5b、15cに軸方向の圧縮ひずみが生じる直前の状態に於ける、前記両被検出面と前記両検出部との空間的位置関係や、前記各部材5a、5b、15cに生じる軸方向の圧縮ひずみの相対比率や、前記両エンコーダ5a、5bの軸方向の圧縮ひずみの変化に伴う、これら両エンコーダ5a、5bの被検出面の特性変化パターンの形状変化等を考慮した、理論計算を行う事によっても求められる。そこで、本例の場合には、前記演算器に、前記所定の関係を勘案した、前記内輪15cの軸方向の圧縮ひずみを算出する為の演算式を組み込んだソフトウェアをインストールしている。これによって、前記演算器により、前記位相差比に基づいて、前記内輪15cの軸方向の圧縮ひずみを算出できる様にしている。一方、前記予圧荷重は、この内輪15cの軸方向の圧縮ひずみと、この内輪15cを構成する材料の弾性係数(ヤング率)とに基づく応力の計算を行う事により求められる。そこで、本例の場合には、前記演算器に、この際の計算式を組み込んだソフトウェアをインストールしている。これによって、この演算器により、前記内輪15cの軸方向の圧縮ひずみに基づいて、前記予圧荷重を算出できる様にしている。
【0022】
上述した様に、本例の予圧関連量測定装置付回転機械によれば、前記各アンギュラ玉軸受9a〜9dに付与されている予圧荷重を測定できる。この為、この予圧荷重が適正範囲に維持されているか否かを確認する事ができる。又、本例の場合には、前記両エンコーダ5a、5bを内輪間座として使用し、且つ、これら両エンコーダ5a、5b同士の間に配置する弾性部材を前記内輪15cとしている。この為、これらエンコーダ5a、5bや弾性部材を、前記内輪間座や前記内輪15cとは別個に設ける場合に比べて、部品点数の減少に伴う小型化及び低コスト化を図れる。
【0023】
尚、上述した実施の形態の第1例では、前記両エンコーダ5a、5bとも、自身の被検出面に存在する、円周方向に隣り合う互いに異なる特性同士の境界を、当該被検出面の軸方向に対して傾斜させている。但し、本発明を実施する場合には、1対のエンコーダのうちの何れか一方のエンコーダに関してのみ、自身の被検出面の軸方向に対して前記境界を傾斜させる(他方のエンコーダに関しては、自身の被検出面の軸方向に対して前記境界を平行にする)構成を採用する事もできる。即ち、この様な構成を採用する場合でも(1対のエンコーダの被検出面の特性変化パターンが、これら両エンコーダの中心軸に直交する仮想平面を挟んで鏡面対称になる構成さえ採用しなければ)、これら両エンコーダが軸方向に相対変位する事に伴い、1対のセンサの出力信号同士の間の位相差比が変化する。この為、上述した第1例の場合と同様、この位相差比に基づいて、弾性部材の軸方向の圧縮ひずみと、複数の転がり軸受に付与されている予圧荷重とを求められる。
【0024】
[実施の形態の第2例]
図4〜5は、請求項1〜4に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合には、内輪15cを軸方向両側から挟む位置に配置した、1対のエンコーダ5c、5dの被検出面の特性変化パターンが、上述した第1例の場合と異なる。即ち、本例の場合、前記両エンコーダ5c、5dの被検出面には、それぞれが1対ずつの凹溝22a、22bから成る、複数の特性変化組み合わせ部23、23を、円周方向に関して等ピッチに配置している。これら各特性変化組み合わせ部23、23を構成する、前記両凹溝22a、22bの、前記両被検出面の軸方向に対する傾斜角度は、絶対値が互いに等しく、且つ、正負の符号(傾斜方向)が互いに逆になっている。
【0025】
この様な本例の予圧関連量測定装置付回転機械の場合も、4個のアンギュラ玉軸受9a〜9d(図1参照)に付与された予圧荷重が変化すると、図4の(A)(B)の左半部に示す様に、前記両エンコーダ5c、5d及び前記内輪15cの軸方向の圧縮ひずみが変化する。これに伴い、1対のセンサ21a、21bの検出部が走査する、前記両エンコーダ5c、5dの被検出面の軸方向位置が、互いに逆方向に変化する。この結果、図4の(A)(B)の右半部に示す様に、前記両センサ21a、21bの出力信号同士の間の位相差比(例えば、位相差δ/全周期Tβ)が変化する。従って、上述した第1例の場合と同様、図示しない演算器により、前記位相差比に基づいて、前記内輪15cの軸方向の圧縮ひずみと、前記予圧荷重とを算出できる。
【0026】
又、本例の場合、前記センサ21a(21b)の出力信号から取得される情報である、パルス周期比{部分周期Tα1/全周期Tβ(部分周期Tα2/全周期Tβ)}は、このセンサ21a(21b)の検出部が走査する、前記エンコーダ5c(5d)の被検出面の軸方向位置により変化する。そして、この軸方向位置は、前記エンコーダ5c(5d)を固定した主軸8(図1参照)の軸方向変位により変化する。即ち、前記センサ21a(21b)の出力信号のパルス周期比と、前記主軸8の軸方向変位との間には、第一の関係が成立する。そして、この第一の関係は、予め、実験を行う事により求められる他、前記主軸8にアキシアル荷重が作用していない中立状態に於ける、前記被検出面と前記検出部との軸方向の相対位置や、前記エンコーダ5c(5d)の被検出面の特性変化パターン等を考慮した、理論計算を行う事によっても求められる。そこで、本例の場合には、前記演算器に、この第一の関係を勘案した、前記軸方向変位を算出する為の演算式を組み込んだソフトウェアをインストールしている。これによって、前記演算器により、何れか一方のセンサ21a(21b)の出力信号のパルス周期比に基づいて、前記主軸8の軸方向変位量を算出できる様にしている。又、この主軸8の軸方向変位量は、この主軸8に加わるアキシアル荷重の大きさに応じて変化する。即ち、これらアキシアル荷重と軸方向変位量との間には、前記各アンギュラ玉軸受9a〜9dの剛性等により定まる、第二の関係が成立する。そして、この第二の関係は、予め、実験を行う事により求められる他、転がり軸受の分野で広く知られている弾性接触理論に基づく計算を行う事によっても求められる。そこで、本例の場合には、前記演算器に、この第二の関係を勘案した、前記アキシアル荷重を算出する為の式を組み込んだソフトウェアをインストールしている。これによって、前記演算器により、前記軸方向変位量に基づいて、前記アキシアル荷重を算出できる様にしている。
【0027】
又、本例の場合、前記演算器には、前記第一の関係と、前記第二の関係とを、それぞれ前記予圧荷重の変化に合わせて補正する機能を持たせている。即ち、この予圧荷重が変化する事に伴い、前記内輪15c及び前記両エンコーダ5c、5dの軸方向の圧縮ひずみが変化すると、前記主軸8にアキシアル荷重が作用していない中立状態に於ける、前記エンコーダ5c(5d)の被検出面と前記センサ21a(21b)の検出部との軸方向の相対位置が変化する。これと共に、このエンコーダ5c(5d)の被検出面の特性変化パターンの形状が変化する。この結果、前記第一の関係(零点及びゲイン)が変化する。一方、前記予圧荷重が変化する事に伴い、前記各アンギュラ玉軸受9a〜9dの剛性が変化すると、前記第二の関係(零点及びゲイン)が変化する。そこで、本例の場合には、前記予圧荷重が変化した場合の、前記第一、第二の各関係の変化の態様を、予め、実験や理論計算により調べておき、これらを前記演算器に記憶させている。これによって、この演算器により、前記予圧荷重が変化した場合に、この変化後の予圧荷重に見合った第一、第二の各関係を、それまでに演算で利用していた第一、第二の各関係と置き換える補正を行える様にしている。
【0028】
上述の様に、本例の予圧関連量測定装置付回転機械によれば、前記何れか一方のセンサ21a(21b)と、何れか一方のエンコーダ5c(5d)との組み合わせを利用して、前記主軸8の軸方向変位量と、この主軸8に加わるアキシアル荷重とを測定できる。従って、これら軸方向変位及びアキシアル荷重を測定する為に使用するエンコーダ及びセンサを、前記両エンコーダ5c、5d及び前記両センサ21a、21bとは別個に設ける場合に比べて、部品点数の減少に伴う小型化及び低コスト化を図れる。又、本例の場合には、前記パルス周期比に基づいて前記軸方向変位を算出する際に利用する第一の関係と、この変位に基づいて前記アキシアル荷重を算出する際に利用する第二の関係とを、それぞれ前記予圧荷重の変化に合わせて補正できる。この為、この予圧荷重の変化に拘らず、前記軸方向変位及びアキシアル荷重を精度良く算出できる。その他の構成及び作用は、前述した第1例の場合と同様である。
【0029】
[実施の形態の第3例]
図6は、請求項1〜4に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の場合には、内輪15cを軸方向両側から挟む位置に配置した、1対のエンコーダ5c、5bのうち、一方(図6の左方)のエンコーダ5cとして、上述の図4〜5に示した第2例と同様のものを使用し、他方(図6の右方)のエンコーダ5bとして、前述の図2〜3に示した第1例と同様のものを使用している。
【0030】
この様な本例の予圧関連量測定装置付回転機械の場合も、4個のアンギュラ玉軸受9a〜9d(図1参照)に付与された予圧荷重が変化すると、図6の(A)(B)の左半部に示す様に、前記両エンコーダ5c、5b及び前記内輪15cの軸方向の圧縮ひずみが変化する。これに伴い、1対のセンサ21a、21bの検出部が走査する、前記両エンコーダ5c、5bの被検出面の軸方向位置が、互いに逆方向に変化する。この結果、図6の(A)(B)の右半部に示す様に、前記両センサ21a、21bの出力信号同士の間の位相差比(例えば、位相差δ/周期T、位相差δ/全周期Tβ)が変化する。従って、上述した第1〜2例の場合と同様、図示しない演算器により、前記位相差比に基づいて、前記内輪15cの軸方向の圧縮ひずみと、前記予圧荷重とを算出できる。
【0031】
又、本例の場合も、前記演算器により、前記一方のエンコーダ5cの被検出面にその検出部を対向させた、一方(図6の左方)のセンサ21aの出力信号のパルス周期比(部分周期Tα/全周期Tβ)に基づいて、主軸8(図1参照)の軸方向変位と、この主軸8に加わるアキシアル荷重とを算出できる。又、これら軸方向変位及びアキシアル荷重を算出する際に利用する第一、第二の各関係を、前記予圧荷重の変化に合わせて補正できる。この為、この予圧荷重の変化に拘らず、前記軸方向変位及びアキシアル荷重を精度良く算出できる。その他の構成及び作用は、上述した第1〜2例の場合と同様である。
【0032】
尚、図示は省略するが、本発明を実施する場合には、予圧荷重を測定する為に利用する1対のエンコーダと1対のセンサとの組み合わせとは別個に、回転部材の変位と、この回転部材に加わる荷重とを測定する為のエンコーダとセンサとの組み合わせを設ける事もできる。この様なエンコーダとセンサとの組み合わせとしては、前述の図7に示したものや、特許文献1、2等に記載されて従来から知られている各種のものを採用する事ができる。そして、この様な構成を採用する場合も、前記変位及び荷重を求める際に利用する第一、第二の各関係を、演算器が測定した予圧荷重の変化に合わせて補正できる。この為、この予圧荷重の変化に拘らず、前記軸方向変位及びアキシアル荷重を精度良く求められる。
【符号の説明】
【0033】
1 エンコーダ
2 センサ
3 凹部
4 主軸装置
5a〜5d エンコーダ
6a、6b センサユニット
7 ハウジング
8 主軸
9a〜9d アンギュラ玉軸受
10 電動モータ
11a〜11d 外輪
12a〜12c 外輪間座
13 段部
14 抑え蓋
15a〜15d 内輪
16 内輪間座
17 段部
18 ナット部材
19 凹溝
20a、20b ホルダ
21a、21b センサ
22a、22b 凹溝
23 特性変化組み合わせ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械と、1対のエンコーダと、1対のセンサと、演算器とを備え、
このうちの回転機械は、使用時にも回転しない静止部材と、使用時に回転する回転部材と、これら静止部材と回転部材との互いに対向する周面同士の間に組み付けられた、それぞれが予圧を付与された複数の転がり軸受とを備えたものであり、前記回転部材の一部には、これら各転がり軸受に付与された予圧荷重を受けて軸方向の圧縮ひずみを生じる弾性部材が嵌合支持されており、
前記両エンコーダは、前記回転部材の一部で前記弾性部材を軸方向両側から挟む2箇所位置に、この弾性部材の軸方向の圧縮ひずみが変化する事に伴って軸方向に相対変位する状態で嵌合支持されていて、それぞれがこの回転部材と同心の円筒状の被検出面を有し、且つ、これら両被検出面の特性を、円周方向に関して交互に変化させると共に、これら両被検出面のうちの少なくとも一方の被検出面に存在する、円周方向に隣り合う互いに異なる特性同士の境界を、当該被検出面の軸方向に対して傾斜させており、
前記両センサは、それぞれの検出部を前記両エンコーダの被検出面に対向させた状態で、前記静止部材に支持されていて、前記両エンコーダの被検出面のうちで自身の検出部が対向する部分の特性変化に対応して出力信号を変化させるものであり、
又、前記演算器は、前記両センサの出力信号同士の間の位相差に基づいて、前記弾性部材の軸方向の圧縮ひずみを求める機能を有するものである
予圧関連量測定装置付回転機械。
【請求項2】
前記演算器は、前記弾性部材の軸方向の圧縮ひずみとこの弾性部材を構成する材料の弾性係数とに基づく応力の計算を行う事により、前記予圧荷重を求める機能を有する、請求項1に記載した予圧関連量測定装置付回転機械。
【請求項3】
前記弾性部材が、前記各転がり軸受を構成する回転輪のうちの何れか1つの回転輪であると共に、前記両エンコーダのうちの少なくとも一方のエンコーダが、前記各回転輪のうちで、軸方向に隣り合う、前記弾性部材となる回転輪と他の回転輪との間に挟持される間座として機能している、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載した予圧関連量測定装置付回転機械。
【請求項4】
前記演算器が、前記両センサのうちの何れか一方のセンサの出力信号から取得した情報と前記回転部材の変位との間に成立する第一の関係を利用して、前記情報に基づいてこの変位を求めると共に、この変位と前記回転部材に作用する荷重との間に成立する第二の関係を利用して、前記求めた変位に基づいて前記荷重を求める機能と、前記求めた予圧荷重に基づいて、前記第一の関係及び前記第二の関係を補正する機能とを有している、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載した予圧関連量測定装置付回転機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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