予測的状態監視のための診断システムおよび方法
【課題】監視対象のシステムの状態を経験的に診断するためのシステム。
【解決手段】システム902のモデル922から得られた、監視されたパラメータ920の推定値が、残余値924をもたらす。この残余値を故障モードサイン認識916のために分析することができる。残余値はまた、アラート(0でない)条件についてテストすることもでき927、このように生成されたアラートのパターン914を、故障モードサインパターン916に対して分析する。システム902は、類似性演算子をサイン認識916に利用し、またパラメータ推定924にも利用する。故障モードは経験的に決定され、前兆データ930が自動的に分析されて、故障モードについての識別可能サインが決定される916。
【解決手段】システム902のモデル922から得られた、監視されたパラメータ920の推定値が、残余値924をもたらす。この残余値を故障モードサイン認識916のために分析することができる。残余値はまた、アラート(0でない)条件についてテストすることもでき927、このように生成されたアラートのパターン914を、故障モードサインパターン916に対して分析する。システム902は、類似性演算子をサイン認識916に利用し、またパラメータ推定924にも利用する。故障モードは経験的に決定され、前兆データ930が自動的に分析されて、故障モードについての識別可能サインが決定される916。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.発明の分野
本発明は一般に、初期マシン故障またはプロセス異常の早期検出および診断の分野に関する。より詳細には、本発明は、プロセスおよびマシンをモデルベースで監視すること、ならびに経験ベースで診断することを対象とする。
【背景技術】
【0002】
2.関連する技術の簡単な説明
従来のセンサ・しきい値ベースの制御および警報の欠点に対処するために、産業用プロセス制御、機械制御、システム監視、条件ベースの監視において、種々の新規かつ高度な技法が出現してきた。従来の技法は、プロセスまたはマシンの個々の計量値の大まかな変化に対して応答するだけでしかなく、予測できないシャットダウン、機器損傷、製品品質の損失、または大惨事を招く安全上の問題を防止するための、適切な警告を発することができない場合が多かった。
【0003】
新しい技法の一支流によれば、故障検出および制御において、監視対象のプロセスまたはマシンの経験モデルが使用される。このようなモデルは、監視センサデータの総合的な見方に効果的に影響を与えて、はるかに早い初期故障検出、およびはるかに精密なプロセス制御を達成する。プロセスまたはマシン上の多くのセンサを同時に、かつ相互を考慮してモデル化することにより、監視システムは、各センサ(およびその測定パラメータ)がどのように挙動すべきかに関する情報をより多く提供することができる。更に、これらの手法の利点として、通常は追加の機器が必要とされず、プロセスまたはマシン上の適所にあるセンサを使用することができる。
【0004】
このような経験的監視システムの例が、グロス(Gross)その他に付与された米国特許第5764509号に記載されており、この教示を参照により本明細書に組み込む。この特許には、監視されるプロセスの既知状態のリファレンスライブラリに対する類似性演算子と、高感度の統計仮説テストに結合される、類似性演算に基づいて現在のプロセス状態の推算値を生成するための推算エンジンとを使用して、現在のプロセス状態が正常状態か異常状態かを決定する経験モデルが記載されている。この経験的監視システムでの類似性演算子の役割は、リファレンスライブラリに含まれるセンサ示度(読取値)スナップショットの何れかに対する、現在のセンサ示度のセットの類似性の計量値を決定することである。従って、類似性計量値を使用して、リファレンスライブラリスナップショットの重み付き合成から、センサ示度がどの値をとるべきかの推算値を生成する。次いで、推算値を現在の示度(読取値)と比較して、初期プロセス異常やセンサ故障などを示す差分を監視することができる。当技術分野で知られている他の経験モデルベース監視システムでは、ニューラルネットワークを用いて監視対象のプロセスまたはマシンをモデル化する。
【0005】
センサ故障、プロセス異常、またはマシン故障の早期検出は、このような監視システムで、同じく前述のGross他に付与された特許に記載されている逐次確率比試験などの高感度の統計テストによってもたらされる。このようなテストを実際のセンサ信号と推算センサ信号との差分の残余に適用する結果として得られるのは、ユーザ選択可能な統計信頼度を用いての、実際の信号と推算信号が同じか異なるかの判定である。これ自体は有用な情報であり、正常からの変化を明示しているプロセス位置またはマシンのサブコンポーネントだけに対して、まばらに広げた保守資源を割り当てるものである。しかし、単に信号が正常に挙動していないことを知らせるアラートを提供するだけでなく、監視を診断結果にまで進めて、それにより、起こり得る故障モードを提供することが必要とされている。高感度の早期検出統計テストを構築容易な経験モデルと組み合わせて、早期警告を発するだけでなく、変化の原因と思われることを示す診断表示を提供することは、非常に価値ある監視システムまたは制御システムを構成し、現在さまざまな産業で強く求められている。
【0006】
多くのプロセスおよびマシンには複雑さが付きものであるため、故障を診断する作業は非常に困難である。診断システムの開発には、多大な労力が費やされてきた。診断手法の1つは、エキスパートシステムの使用を採り入れるものであった。これは、専門家によって開発された、監視または制御されるシステムのダイナミクスを記述したルールに従って、プロセスまたはマシンパラメータを分析するためのルールベースのシステムである。エキスパートシステムは、人間の専門家がシステムを理解して自分の知識をルールのセットに体系化するために、相当な学習プロセスが必要である。従って、エキスパートシステムの開発は多大な時間および資源を要する。エキスパートシステムは、プロセスまたはマシンの頻繁な設計変更に対応しない。設計が変更されればルールが変わり、そのため専門家は新しいルールを決定してシステムを再設計する必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
プロセスまたはマシンのモデルベースの監視および制御と組み合わせることのできる診断手法であって、マシンまたはプロセスの故障を診断するためのソフトウェアに実装されるルールを専門家が開発するのに何カ月も費やす必要のない診断手法が必要とされている。監視システムまたは制御システムの業界ユーザの領域知識の上に構築することのできる診断システムが理想的であろう。更に、マシンのユーザ変更やプロセスのパラメータ変更、ならびにマシンとプロセスとの設計変更に容易に適応される診断手法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の概要
本発明は、マシンおよびプロセスのためのモデルベース監視システムにおける診断機能を提供する。任意のタイプのセンサが装備された物理パラメータを介してマシンまたはプロセスを決まった課程でオンライン監視することの一部として、診断条件のライブラリを提供する。オンライン監視によって生成された出力を診断条件ライブラリと比較し、これらの出力の中に1つまたは複数の診断条件のサインが認識された場合、システムは、起ころうとしている可能性のある故障モードの診断を行う。
【0009】
診断機能は、監視対象のマシンまたはプロセスのセンサからの実際のセンサ値の受け取りに応答してセンサ値の推算値を生成する経験モデルベースのシステムと組み合わせることが好ましい。モデルによって生成された推算センサ値を実際のセンサ値から減算して、マシンまたはプロセスのセンサについての残余信号を提供する。経験モデルによってモデル化されたとおりにすべてが正常に動作しているときは、残余信号は本質的に0であり、基礎的な物理パラメータおよびセンサ雑音からの雑音がいくらか伴う。プロセスまたはマシンが、認識されモデル化された何らかの動作状態から逸脱したとき、即ち、その動作が異常になったときは、これらの残余は0でなくなる。逐次確率比試験(SPRT)などの高感度の統計テストを残余に適用して、残余が0付近のままであるか否かについて可能な限り早い判定を提供する。これはしばしば、残余が0から離れていく傾向がまだ雑音レベルに埋没しているほどの早い段階に判定される。残余が0でないと判定されたセンサがあれば、このセンサに対して当該問題の時間スナップショットに対してアラート(警報)を生成する。アラートを生成する別の方法としては、各パラメータごとに残余自体にしきい値を適用し、しきい値を超えたときにそのパラメータに対してアラートする。診断条件ライブラリは、残余データ自体を使用して参照することもでき、あるいは、SPRTアラート情報または残余しきい値アラート情報を使用して参照することもできる。診断条件ライブラリには、故障モードを、説明的記述、提案される調査ステップ、および提案される修復ステップと共に、記憶する。SPRTアラートまたは残余しきい値アラートのパターンがライブラリ中のサインと一致するときは、故障モードが認識され、診断が行われる。あるいは、類似性エンジンを使用した場合に残余データパターンがライブラリ中の残余データパターンに類似するときは、対応する故障モードが認識され、診断が行われる。
【0010】
この発明的なシステムは、経験モデル情報と診断条件ライブラリとを記憶するためのメモリを備えたコンピュータ上で稼動するソフトウェアを含むことができる。更に、監視されているプロセスまたはマシン上のセンサからデータを受け取るためのデータ獲得手段も有する。通常、このシステムは、産業環境でプロセス制御システムに接続または統合されて、ネットワーク接続を介してシステムからデータを獲得することができる。この発明的なシステムを使用するために新しいセンサを設置する必要はない。ソフトウェアの診断出力は、表示したり、ページャやファクスやその他のリモートデバイスへ送信したり、自動プロセス制御またはマシン制御のための診断に作用するよう配置できる制御システムへ出力したりすることができる。あるいは、本発明は少ない計算要件しか必要としないので、この発明的なシステムは、プロセッサおよびモデルおよびライブラリを記憶するための追加メモリと共にあるメモリチップ上の命令セットに縮小して、自動車や飛行機など監視対象のプロセスまたは機器上に物理的に配置することもできる。
【0011】
本発明の診断条件ライブラリは、マシンおよびプロセスの故障の分析およびそれらに関連する導入的なセンサデータに基づく経験的なものである。ライブラリ中の故障モードの数は、完全にユーザによって選択可能であり、また、前にライブラリ中で知られていなかった新しい故障が発生したときは、動作中にライブラリに追加することができる。
【0012】
本発明に特有と考えられる新規な特徴については特許請求の範囲に述べる。ただし、本発明自体、ならびに本発明の好ましい使用モード、他の目的および利点は、実施形態に関する以下の詳細な説明を添付の図面と共に参照することによって最もよく理解される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
ここで図面、特に図1を参照すると、本発明の好ましい実施形態の全体が示されている。
【0014】
図1では、リアルタイムデータ前処理モジュール110が、監視対象のマシンまたはプロセスからのセンサデータに対して監視動作を行い、変換されたデータを故障モードサイン認識モジュール120へ出力する。変換済みデータは、モジュール110の通常の監視活動から得られたアラートパターン、残余その他などとすることができる。認識モジュール120は、変換済みデータのサインと関連する故障モード情報とを含む故障モードデータベース140に接続される。例えば、変換済みデータが残余情報である場合、サインは、その特定の故障モードの前に現れることがわかっている複数の残余スナップショットを含むものとすることができ、関連する故障モード情報は、故障モードについての記述、尤度、故障モードを調査するための行動プラン、または初期故障を修復するための是正プランを含むものとすることができる。データベース140からのサインがモジュール120によって認識されたときは、関連する識別(アイデンティフィケーション)と、講じるべき是正行動があればそれを、故障モード診断および行動出力モジュール160へ出力する。故障モード診断および行動出力モジュール160は、これをディスプレイへ通信することができ、あるいは、自動化された行動が下流の制御システムなどによって行われるようにこの情報をオブジェクトベースの環境で呈示することができる。
【0015】
データ前処理モジュールは、任意のタイプの監視システムとすることができ、一般にはモデルベースのものであり、より好ましくは経験モデルベースのものである。これは 図2を参照すると最もよく理解される。 図2には、前述のGross他に付与された特許に記載されているような従来技術の経験モデルベース監視システムが示されている。この図では、マシンまたはプロセス210にセンサ215が装備されており、センサ215には、センサデータを任意の数のコンピューティングシステムへ提供するためのデータ獲得手段が関連している。マシンまたはプロセスの既知のまたは認識済みの動作状態を特徴付けるデータを含むリファレンスライブラリ230が提供される。リファレンスライブラリ230は、チップメモリ中にあってもよく、また、コンピュータディスク記憶デバイスに記憶されていてもよい。推算モデル240が、好ましくはコンピュータ中にソフトウェアとして実装され、センサ215からネットワークまたはデータ獲得ボードを介してセンサデータを受け取る。推算モデル240は、センサ215からのリアルタイムの値の受け取りに応答して、リファレンスライブラリ230を使用してセンサ値の推算値を生成する。これについては後で詳しく述べる。差分ユニット250が、センサ値の推算値と実際の値との両方を受け取り、各センサごとの残余を生成する。連続するスナップショットにわたり、これらの残余は残余信号を構成する。前述のように、マシンまたはプロセスが正常に(リファレンスライブラリデータ中で特徴付けられているように)動作している場合、残余信号は、センサおよびプロセスの雑音を除けば0付近に留まるはずである。SPRTモジュール260が、これらの残余を受け取り、残余が0でないという決定的な証拠を示す場合はアラートを生成する。従って、この従来技術のシステムの出力は、残余信号およびSPRTアラート(これらは実際、差があることの指標である)を含み、それぞれは、監視されているマシンまたはプロセス上の各センサごとに提供されるものである。
【0016】
図3に移ると、図2に示した従来技術のシステムの動作を、図に描かれた複数のリアルタイムセンサ信号に鑑みて更に理解することができる。縦軸310は、図示の6つのセンサ信号に対する複合的な軸であり、信号の振幅を表す。軸320は時間軸である。現在のほぼすべての産業環境では、センサ信号はデジタルでサンプリングされ、従って離散的な一連の値である。ある時点で「スナップショット」330を生成することができる。これは、実際、6つのセンサのそれぞれの値のセット340を表し、各値はその時のセンサ振幅を表す。当然、産業プロセスおよびマシンによっては、物理的に相関したプロセスパラメータを測定するセンサ間で原因と結果の間に時間的遅延がある場合もあり、時間相関しているが必ずしも同時ではない示度(読取値)をスナップショット330が表すように、時間調整をデータに加えることもできる。
【0017】
診断のための本発明で使用される経験モデルベースの監視システムでは、センサ推算値を生成するために正常な動作状態を「学習」するための履歴データが必要である。一般に、正常に稼動しており試験用機器を装備したマシンまたはプロセスから、その許容可能なすべてのダイナミックレンジにわたって、大量のデータを蓄積する。 図4に、収集したセンサデータを洗練して(distill)代表トレーニングデータセットを生み出すための、トレーニングセット・スナップショットの選択方法を図で示す。この簡単な例では、監視対象のプロセスまたはマシンについての5つのセンサ信号402、404、406、408、410が示されている。センサ信号402、404、406、408、410は連続的なものとして示されているが、通常は、各スナップショットでとられた離散的にサンプリングされた値である。先に示したように、スナップショットは何れかの特定の順番とする必要はなく、従って、時間順、パラメータによる昇順または降順、あるいはその他選択された任意の順番とすることができる。従って、横座標軸412は、データをデジタルでサンプリングして、センサデータを時間相関させた場合の、収集したセンサデータのサンプル数またはタイムスタンプである。縦座標軸414は、サンプルまたは「スナップショット」全体での各センサ示度の相対的な大きさを表す。
この例で、各スナップショットは、そのスナップショットにおける各センサにつき1つの、5つのエレメントのベクトルを表している。このトレーニング方法によれば、すべてのスナップショットから収集したすべてのセンサデータのうち、所与のセンサの大域的最小値または大域的最大値の何れかを含む5エレメント・スナップショットだけを、代表トレーニングセットに含める。従って、センサ402の大域的最大値416によって、線418と各センサ信号402、404、406、408、410との交点における5つのセンサ値(大域的最大値416を含む)を、5エレメントのベクトルとして、代表トレーニングセットに含めることが、容認される。同様に、センサ402の大域的最小値420により、線422と各センサ信号402、404、406、408、410との交点における5つのセンサ値が含められることが、容認される。このようなスナップショットの集合体は、システムがとった状態を表す。この事前収集したセンサデータをフィルタリングして、システムが「正常に」または「許容できる程度に」または「好ましく」動作している間にシステムがとるすべての状態を反映した「トレーニング」サブセットを生み出す。このトレーニングセットは、当該のセンサと同数の行と、冗長性なしにすべての許容可能な状態を取り込むのに必要な数の列(スナップショット)とを有する行列を形成する。
【0018】
図5のフローチャートに、代表データの選択を更に示す。ステップ500で収集したデータは、N個のセンサとL個の観察またはスナップショットを含む。即ち、N個の行とL個の列のアレイXを構成する、時間的に関係するセンサデータのセットを含む。ステップ505で、カウンタi(エレメント数またはセンサ数を表す)を0に初期設定し、観察カウンタまたはスナップショットカウンタtを1に初期設定する。更に、アレイmaxおよびmin(各センサごとの収集データにわたる最大値および最小値をそれぞれ含む)を、Xの第1行に等しく設定される、N個のエレメントをそれぞれ有するベクトルになるように初期設定する。追加のアレイTmaxおよびTmin(各センサごとの収集データにみられた最大値および最小値の観察数を保持する)を、N個のエレメントをそれぞれ有するすべて0のベクトルになるように初期設定する。
【0019】
ステップ510で、X中のスナップショットtにおけるセンサiのセンサ値が、収集したデータ中でこのセンサについてこれまでにみられた最大値よりも大きい場合は、ステップ515に示すように、max(i)を更新してセンサ値に等しい値に設定し、観察数tをTmax(i)に記憶する。センサ値が最大値よりも大きくない場合は、ステップ520および525に示すように、同様のテストをこのセンサの最小値について行う。次いでステップ530で、観察カウンタtをインクリメント(増分)する。ステップ535に示すように、所与のセンサについてすべての観察を検討し終えた場合(即ち観察カウンタtがスナップショット数Lに等しくなったとき)は、ステップ540に示すように、観察カウンタtを1にリセットし、カウンタiを増分する。この時点で、プログラムはステップ510へと継続し、次のセンサについて最大値および最小値を見つける。最後のセンサが終了すると、この時点でステップ545に示すようにi=nであり、冗長があれば除去し、アレイXからのベクトルのサブセットからアレイDを生成する。この生成プロセスについては後で論じる。
【0020】
ステップ550で、カウンタiとjの両方を1に初期設定する。ステップ555に示すように、アレイTmaxとTminを連結して、単一のベクトルTtmpを形成する。好ましくは、Ttmpは、ステップ560に示すように昇順(または降順)にソートされた2N個のエレメントを有し、アレイTを形成する。ステップ565に示すように、ホルダtmpをTにおける第1の値(センサ最小値または最大値を含む観察数)に設定する。更に、アレイDの第1列を、Tの第1のエレメントである観察数に対応するアレイXの列に等しくなるように設定する。ステップ570の判定ボックスで開始するループ中で、Tのi番目のエレメントを、Tの以前のエレメントを含むtmpの値と比較する。これらが等しい場合(即ち対応する観察ベクトルが、複数のセンサについての最小値または最大値である場合)は、このベクトルはすでにアレイDに含まれており、再び含める必要はない。次いで、ステップ575に示すようにカウンタiを増分する。比較結果が等しくない場合は、ステップ580に示すように、T(i)の観察数に対応するXからの列を含めるようにアレイDを更新し、tmpをT(i)での値で更新する。次いで、ステップ585に示すようにカウンタjを増分し、更にカウンタi(ステップ575)も増分する。ステップ590で、Tのエレメントをすべてチェックし終えて、カウンタiがエレメントNの2倍の数に等しい場合は、トレーニングセット即ちアレイDの洗練が終了している。
【0021】
信号データは、センサによって監視される任意のマシン、プロセス、または生体システムから集めることができる。理想的には、使用するセンサの数は、一般に、計算オーバーヘッドにかかわるということ以上には、制限要因ではない。更に、本明細書に述べる方法は非常にスケーラブルである。ただしセンサは、基礎をなすシステムの主要な「ドライバ」を少なくともいくつか取り込むべきである。更に、基礎をなすシステムに投入されるセンサはすべて、何らかの形(即ち非線形または線形)の相互関係を有するべきである。
【0022】
信号データは、センサと同数のエレメントを有するベクトルとして表されることが好ましい。所与のベクトルは、特定の瞬間における、基礎をなすシステムの「スナップショット」を表す。連続的なセンサの原因と結果の性質の間に「遅延」を挿入することが必要なら、追加の処理を行ってもよい。即ち、センサAが、3つの「スナップショット」後にセンサBによって監視されることになる変化を検出する場合、所与のスナップショットが第1の時におけるセンサAの示度と3つの時の分だけ後のセンサBの示度とを含むように、ベクトルを再編成することができる。
【0023】
更に、各スナップショットは、基礎をなすシステムの「状態」と考えることができる。従って、このようなスナップショットの集合体が、システムの複数の状態を表すことが好ましい。前述のように、前に収集した任意のセンサデータをフィルタリングして、システムが「正常に」または「許容できる程度に」または「好ましく」動作しているときにシステムがとるすべての状態を特徴付ける「トレーニング」サブセット(リファレンスセットD)を生み出す。このトレーニングセットは、当該のセンサと同数の行と、冗長性なしに許容可能な状態を取り込むのに必要な数の列(スナップショット)とを有する行列を形成する。
【0024】
この類似性演算子ベースの経験モデル化技法によれば、リアルタイムで稼動している監視対象のプロセスまたはマシンから得られる同時のセンサデータの所与のセットについて、センサの推算値を以下の式
【0025】
【数1】
【0026】
に従って生成することができる。上式で、センサについての推算値のベクトルYは、行列D(リファレンスライブラリまたはリファレンスセット)を構成するように配置された同時のセンサ値のスナップショットの各々からの寄与に等しい。これらの寄与は、重みベクトルWによって決定される。この乗算演算は、標準的な行列/ベクトル乗算演算子である。ベクトルYは、監視対象のプロセスまたはマシンにある当該のセンサと同数のエレメントを有する。Wは、D中にあるリファレンススナップショットと同数のエレメントを有する。Wは、以下の式
【0027】
【数2】
【0028】
【数3】
【0029】
によって決定される。上式で、上付きのTは行列の転置を示し、Yinは実際のリアルタイムのセンサデータの現在スナップショットである。本発明の改良型の類似性演算子は、上記の式3で、円の中に「X」が配置された符号で表されている。更に、Dはこの場合も行列としてのリファレンスライブラリであり、DTはこの行列の標準的な転置を表す(即ち行が列になる)。Yinは、基礎をなすシステムからのリアルタイムのまたは実際のセンサ値であり、従ってベクトルスナップショットである。
【0030】
前述のように、記号
【0031】
【数4】
【0032】
は「類似性」演算子を表し、これは本発明で使用できるさまざまな演算子から選択することができる。好ましくは、本発明で使用される類似性演算は、2つの状態ベクトル間の尤度または差分の定量化された尺度を提供すべきであり、より好ましくは、同一性が上昇すると1に近づき、同一性が低下すると0に近づく数をもたらす。本発明のコンテキストでは、この記号は、他の意味を持つ通常の意味での
【0033】
【数5】
【0034】
の表示と混同すべきではない。言い換えれば、本発明では、
【0035】
【数6】
【0036】
は「類似性」演算を意味する。
この類似性演算子
【0037】
【数7】
【0038】
は、通常の行列乗算演算と同様に、行−列ベースで作用する。この類似性演算は、行と列のn番目の対応エレメントの対ごとのスカラー値と、その行と列の全体の比較のための全体的な類似性の値とをもたらす。これを、2つの行列について(上記のようにDとその転置に対する類似性演算におけるように)、行−列のすべての組合せにわたって行う。
【0039】
例として、使用できる類似性演算子の1つは、2つのベクトル(i番目の行とj番目の列)をエレメントごとに比較するものである。対応するエレメントだけを比較し、例えば、エレメント(i,m)をエレメント(m,j)と比較するが、エレメント(i,m)をエレメント(n,j)と比較することはしない。このような比較のそれぞれにつき、2つの値のうちの小さい方を大きい方で割った数の絶対値に等しい値が、類似性である。
【0040】
従って、値が同一である場合は類似性は1に等しく、値に大きく差がある場合は類似性は0に近づく。すべてのエレメント類似性を計算したとき、2つのベクトルの全体的な類似性は、エレメント類似性の平均値に等しい。平均の代わりに、エレメント類似性の別の統計的組み合わせ、例えばメジアンを使用してもよい。
【0041】
図6を参照すると、使用できる類似性演算子の別の例を理解することができる。この類似性演算子については、ウェゲリッチ(Wegerich)他に付与された米国特許第5987399号の教示が関係し、この教示を参照により本明細書に組み込む。各センサまたは物理パラメータごとに、三角形620を形成して、そのセンサまたはパラメータに関する2つの値の間の類似性を決定する。三角形の底辺622の長さは、トレーニングセット全体におけるこのセンサについて観察された最小値634と、トレーニングセット全体におけるこのセンサについて観察された最大値640との間の差に等しい長さに設定する。この底辺622の上に角度Ωを形成して、三角形620を生み出す。次いで、スナップショットごとの演算で、任意の2つのエレメント間の類似性を見つける。これは、一方の端を最小値634の値とし、他方の端を最大値640の値として、2つのエレメントの値の位置を底辺622に沿ってプロットして(図ではX0およびX1として示す)、底辺622をスケールすることによって見つける。
【0042】
底辺622上の位置X0とX1まで引いた線分658と660が、角度θを形成する。角度Ωに対する角度θの比が、当該のセンサについてのトレーニングセット中の値の範囲にわたるX0とX1の間の差の尺度を与える。この比、またはこの比をアルゴリズム的に変更したものを値1から引くと、0と1の間の数が得られ、これがX0とX1の類似性の尺度となる。
使用できる別の例示的な類似性演算子は、2つの観察ベクトルまたはスナップショットの2つの対応エレメントの絶対的な差を分子とし、予想されるエレメント範囲を分母とした量を、1から引くことにより、2つのエレメント間のエレメント類似性を決定するものである。予想される範囲は、例えば、すべてのリファレンスライブラリデータにわたってみられることになるそのエレメントの最大値と最小値の差によって決定することができる。次いで、エレメント類似性を平均することによってベクトル類似性を決定する。
【0043】
本発明で使用できる別の類似性演算子では、2つの観察ベクトルのベクトル類似性は、n次元空間における2つのベクトル間のユークリッド距離の大きさと1とを足した量の逆数に等しく、ここでnは各観察におけるエレメント数である。
エレメント類似性は、比較される2つのスナップショットの、対応するエレメント対それぞれについて計算する。次いで、エレメント類似性を何らかの統計的な方式で組み合わせて、ベクトルごとの比較に関する一つの類似性スカラー値を生成する。2つのスナップショットに関するこの全体的な類似性Sは、N個(エレメントカウント)のsc値の平均値
【0044】
【数8】
【0045】
に等しいことが好ましい。
【0046】
その他の類似性演算子も、当業者には知られているかまたは知られるようになるであろうし、本明細書に述べるように本発明で採用することができる。前述の演算子に関する詳述は例示的なものであり、特許請求する本発明の範囲を限定するものではない。類似性演算子を後述のように本発明で使用して、残余のスナップショットと、初期故障モードを隠している残余スナップショットの診断ライブラリとの間の類似性の値を計算する。類似性演算に関する上の記述は、残余を使用した故障モードサイン認識にも同様に適用されることを理解されたい。
【0047】
図7に移ると、推算値の生成が更にフローチャートで示されている。ステップ702で、入力スナップショットベクトルyinおよび計算のためのアレイAと共に、行列Dを提供する。ステップ704でカウンタiを1に初期設定し、トレーニング行列D中の観察の数をカウントするのに使用する。ステップ706で、別のカウンタkを1に初期設定し(あるスナップショットおよび観察におけるセンサの数を、通しでカウントするのに使用する)、アレイAを、エレメントごとに0を含むように初期設定する。
ステップ708で、yinのk番目のエレメントとD中の(i番目,k番目)のエレメントとの間で、エレメントごとの類似性演算を行う。これらのエレメントは対応するセンサ値であり、一つは実際の入力からのセンサ値であり、一つはトレーニング履歴D中の観察からのセンサ値である。類似性演算は、2つの値の類似性の尺度を返す。これは通常、0(類似性なし)と1(同一)との間の値であり、これを一時的変数rに代入する。ステップ710で、rをセンサ数Mで割った値を、1次元アレイA中のi番目の値に加える。従って、A中のi番目のエレメントは、D中のi番目の観察に対するyinのエレメント類似性についての平均類似性を保持する。ステップ712で、カウンタkを増分する。
ステップ714で、D中の特定の観察におけるすべてのセンサをyinの対応するエレメントと比較し終えている場合、kはこのときMよりも大きいことになり、ステップ716でiを増分することができる。そうでない場合、yin中の次のエレメントとD中のそれに対応するエレメントを類似性のために比較する。
現在の実際のスナップショットyinのすべてのエレメントをD中の観察のすべてのエレメントと比較し終えたときは、ステップ718で、これがD中の最後の観察であるかどうかをテストする。そうである場合は、カウンタiはこのときD中の観察数Nよりも大きく、処理はステップ720に進む。そうでない場合は、ステップ706に戻り、アレイAを0にリセットし、エレメント(センサ)カウンタkを1にリセットする。ステップ720では、ここに示す式から、重みベクトルW(キャレット付き)を計算するものであり、
【0048】
【数9】
【0049】
は類似性演算を表し、通常はステップ708で使用したのと同じ類似性演算子である。ステップ722で、W(キャレット付き)の重みエレメントすべての合計を使用してW(キャレット付き)を正規化し、正規化された重みベクトルWを生み出す。これにより、後続のステップでW(キャレット付き)中で特に大きいエレメントがあった場合にその影響が改善される。ステップ724でこれを使用して、Dを用いた推算出力youtを生成する。
本明細書に詳述するようにプロセスまたはマシンを監視した結果としての、診断に使用できるさまざまな前処理済みデータの例を、 図8A〜8Dに関して示す。 図8Aには、監視され、モデル化され、 図2からの推算モデル240で推算された潜在的に多くのセンサのうちの1つである所与のセンサについての、実際の信号と推算信号との両方を示す。
【0050】
図8Bには、 図2の差分モジュール250で行われるような、 図8Aの信号の差分を計算することによって得られる残余信号を示す。 図8Bをよく見ればわかるように、センサ残余は0でない一連の値をとり、最終的に故障に至る。別の故障モードでは、一連の値はこれらと異なる値をとることがある。従って、監視対象システム中のすべてのセンサについての残余は、ある種類の故障の始まりを別の種類の故障と区別するための情報を含み、これは本質的に診断の第1ステップである。図8Cのアラートインデックスおよび 図8Dのアラート判断については後で論じるが、これらもまた、起ころうとしている故障を診断するのに使用することのできる情報を提供する。図8Dで、下部の線810上の各星印は、所与の入力スナップショットに関して、このセンサについては実際の値と推算値とが同じであるという判断を示す。上部の線820上の星印は、一連のスナップショット中で、このセンサの推算値と実際の値とが異なって現れる点を示す。
所与のセンサ推算値に対してアラートするか否かを決定するための、本発明によって使用できる判断技法の1つは、そのセンサの残余に対してしきい値を採用するものである。従来技術で使用されているしきい値は、一般にセンサの大まかな値に対して使用され、従って、測定されたパラメータがその正常なダイナミックレンジにわたって動くときにアラートするのを回避するために、十分に広くまたは高く設定しなければならない。残余しきい値は、はるかに高感度かつ正確であり、センサ値推算を用いることによって可能になる。残余は、実際の観察されたセンサ値と、システム中の他のセンサの値に基づいた(本明細書で述べる類似性エンジンなどの経験モデルを使用する)その値の推算値との間の差分なので、残余しきい値は、予想される零平均残余のあたりに設定するとともに、そのセンサによって測定されるパラメータのダイナミックレンジよりもかなり狭い可能性のあるレベルに設定する。本発明によれば、残余しきい値は、各センサごとに別々に設定することができる。残余しきい値は、リアルタイム監視モードに入る前に決定および固定しておくことができる。通常の残余しきい値は、経験的に決定された分散または残余自体の標準偏差の倍数として設定することができる。例えば、所与の残余信号についてのしきい値は、正常動作の場合に生成された残余データのウィンドウにわたる、この残余について決定された標準偏差の2倍に設定することができる。あるいは、しきい値は、選択された数の先行サンプルの動くウィンドウから決定された分散の標準偏差の乗数に基づいて、各残余ごとに「オン・ザ・フライ」で決定することもできる。従って、所与の残余にその場で適用されるしきい値は、過去の100個の残余データ値から決定された標準偏差の2倍とすることができる。
所与のセンサ推算値に対してアラートするか否かを決定するための、本発明により使用できる別の判断技法は、逐次確率比試験(SPRT)と呼ばれるものであり、これは前述のGross他に付与された米国特許第5764509号に記載されている。これはまた、ワルド(Wald)およびウルフウィッツ(Wolfowitz)の理論「Optimum Character of the Sequential Probability Ratio Test(逐次確率比試験の最適の特徴)」、Ann.Math.Stat.19、326(1948)から、当技術分野では知られている。大まかに言えば、特定のセンサについての一連の推算値に対し、このテストでは、事前選択済みの外れおよび誤りのアラームの比率を用いて、推算値と実際値とが統計的に同じか異なるか、即ち、同じ確率分布に属するか異なる2つの確率分布に属するかを判断することができる。
【0051】
SPRT技法の基本的な手法は、サンプリングされたパラメータの連続的な観察を分析するものである。監視されるパラメータの推算値と実際値との間のサンプリングされた一連の差分は、何らかの種類の分布関数に従って零平均あたりに分布するはずである。通常これはガウス分布になるが、異なる分布になる場合もあり、例えば、2つの離散値だけをとるパラメータの場合の二項分布になる場合もある(これは遠隔通信およびネットワーキングのマシンおよびプロセスでよくみられる)。次いで、各観察ごとに、テスト統計を計算し、1または複数の判断限度またはしきい値と比較する。SPRTテスト統計は一般に尤度比lnであり、これは、仮説H1が真である確率と仮説H0が真である確率との比
【0052】
【数10】
である。上式で、Ynは個々の観察であり、Hnはこれらの仮説についての確率分布である。この一般的なSPRTテスト比を判断しきい値と比較して、任意の観察による判断に達することができる。例えば、結果が0.80よりも大きい場合、H1が当てはまると判断し、0.20よりも小さい場合、H0が当てはまると判断し、この間である場合は判断を行わない。
【0053】
SPRTテストは、それぞれの分布のさまざまな統計尺度に適用することができる。従って、ガウス分布の場合、第1のSPRTテストを平均に適用し、第2のSPRTテストを分散に適用することができる。例えば、0の周りで分布すべき残余などのデータについて、正の平均テストと負の平均テストとがあるものとすることができる。正の平均テストは、一連の値が0の周りの分布H0に属する尤度と、正の値(通常は0よりも上の1標準偏差)の周りの分布H1に属する尤度との比に関係する。負の平均テストは、H1が0から1標準偏差を引いた値の周りであることを除いては同様である。更に、分散SPRTテストは、一連の値が、既知の分散を有する第1の分布H0に属するか、既知の分散の倍数に等しい分散を有する第2の分布H2に属するかをテストするものとすることもできる。
【0054】
既知の正常動作から得られた残余では、平均は0であり、分散を決定することができる。次いでランタイム監視モードで、平均SPRTテストの場合、H0が真である尤度(平均は0であり分散はσ2)は、
【0055】
【数11】
以下の式によって得られる。同様に、H1の場合も、平均はMであり(正常動作からの残余について決定された分散を使用し、通常は0よりも1標準偏差だけ上か下)、分散はやはりσ2である(分散は同じと仮定する)。
【0056】
【数12】
この場合、式6および式7からの比lnは
【0057】
【数13】
のようになる。
【0058】
SPRT統計は、平均テストの場合、式8中の指数として定義することができる。
【0059】
【数14】
SPRTテストでは、ユーザによって選択可能な誤りアラーム確率αおよび外れアラーム確率βにより、以下の判断を行うためにSPRTmean(SPRT平均)をテストするのに使用できるしきい値を提供することができるので、有利である。
【0060】
1. SPRTmean≦ln(β/(1−α))の場合は、仮説H0を真として受け入れる、
2. SPRTmean≧ln((1−β)/α)の場合は、仮説H1を真として受け入れる、
3. ln(β/(1−α))<SPRTmean<ln((1−β)/α)の場合は、判断を行わず、サンプリングを継続する。
【0061】
分散(variance)SPRTテストの場合、問題となるのは、2つの仮説、即ち平均0および分散Vσ2のガウス確率密度関数を残余が形成する仮説H2と、平均0および分散σ2のガウス確率密度関数を残余が形成する仮説H0との間で、判断することである。H2が真である尤度は、
【0062】
【数15】
によって得られる。
【0063】
次いで、分散SPRTテストの場合、比lnは式6に対する式10の比としてもたらされ、
【0064】
【数16】
がもたらされ、次いで、分散テストの場合のSPRT統計は
【0065】
【数17】
のようになる。
【0066】
この後、上記のテスト(1)〜(3)を前述のように適用することができる。
1. SPRTvariance≦ln(β/(1−α))の場合は、仮説H0を真として受け入れる、
2. SPRTvariance≧ln((1−β)/α)の場合は、仮説H2を真として受け入れる、
3. ln(β/(1−α))<SPRTvariance<ln((1−β)/α)の場合は、判断を行わず、サンプリングを継続する。
【0067】
SPRTテストモジュールへ渡される各スナップショットは、スナップショット中の各パラメータごとに、正の平均、負の平均、および分散についてのSPRTテスト判断を有することができる。本発明による経験モデルベースの監視システムでは、このような任意のパラメータに対して行われ、その結果としてH0以外の仮説が真として受け入れられることになるこのようなSPRTテストは何れも、実際上はそのパラメータに対するアラートである。当然、SPRTテストと出力アラートの間に論理を挿入し、それにより、アラートがパラメータに対して生成されるためには、平均SPRTテストと分散SPRTテストの両方に、H0でない結果の組合せが必要となるようにすること、またはこのような他の何らかのルールが必要となるようにすることも、本発明の範囲に含まれる。
【0068】
次に、モデルベース監視システムと組み合わせる診断機能に移る。 図9に実施形態902を示すが、この実施形態は、故障モード認識のために監視データを故障サイン認識モジュール916へ渡すための3つの代替経路906、910、914(破線)を示している。図では、対象のマシンまたはプロセス918に複数のセンサ920が装備されている。センサデータは、モデル922(好ましくはリファレンスライブラリまたはトレーニングセット923を備えた経験モデル)へ渡され(好ましくはリアルタイムで)、また差分モジュール924へも渡される。モデル922は推算値を生成し、推算値は差分モジュール924で実際のセンサ値と比較されて残余が生成され、残余はアラートテスト927へ渡される。アラートテスト927は、SPRTでもよく、また、前述の残余しきい値アラートでもよく、また、残余に基づく他の任意のアラート技法でもよい。前述のように、正常からの逸脱が検出されると、アラートが生成される。オプションで、アラートを、任意の診断情報に加えてシステムから出力することもできる。経路906は、実際のセンサスナップショットを故障サイン認識モジュール916へ渡すことができることを示し、これによりモジュール916は、実際のスナップショットを故障モードデータベース930中の記憶済みスナップショットと比較し、十分な一致がある場合(後述する)は、実際のセンサスナップショットによって隠されている故障モードに対応する故障モードを出力する。経路910は代替の実施形態を表し、この代替の実施形態では、残余スナップショット(監視される各センサごとに通常は0に近い値を含む)をモジュール916へ渡し、認識済みの故障モードに先行することが知られている記憶済み残余スナップショットと比較し、一致があれば(後述する)、対応する故障モードを出力する。第3の代替形態では、経路914により、テストアラート、より具体的にはSPRTアラートまたは残余しきい値アラートを、テスト927からモジュール916へ供給する。モジュール916は、これらのアラートまたは一定時間にわたる一連のこれらのアラートを、データベース930に記憶されたSPRTまたは残余しきい値アラートパターン(後述する)と比較し、一致があれば、対応する故障モードを出力する。本明細書で述べられているが、故障モードの出力は、1または複数の起こり得る故障モード、調査行動の提案、および解決行動の提案を表示または通知するものとすることができ、これらはすべて、関連する故障モードサインと共にデータベースに記憶されている。この発明的なシステムではまた、データベース930中の故障モードがどれも故障の前兆データと十分に一致しない場合に、実際のスナップショット、残余スナップショット、またはアラートパターンに基づいて、ユーザが新しい故障モードを追加することもできる。このように、故障サインについて3つのデータソースを認識することができ、これらは、1)対象のマシンまたはプロセスからくる実際のセンサデータ、2)差分モジュールからくる残余データ、3)SPRTまたはアラートテストパターンとして呈示される。
【0069】
図1の一般化されたモデルで、類似性エンジンを利用して故障モードサイン認識を行うことができ(最初のモデル化および推算値生成を行うのに類似性エンジンを使用するかどうかにかかわらず)、この故障モードサイン認識では、データベース140を使用して残余信号と実際の信号のどちらかに作用して、関連する故障モード確率を用いて、自動フィードバック制御のために起こり得る故障モードを識別する。サイン認識モジュール140には、既知のモードの歴史に残る故障まで至るサインの履歴データ(実際の値または残余)を提供することができる。故障モード認識は、従来の類似性演算子監視技法による進行中の通常動作と並行して、実行することができる。
【0070】
図10に移ると、オンボード自己診断機能を有するように設計された複数の同一マシンの生産工程に本発明を適用するために、サイン照合用の前兆データおよび関連する確率および行動提案を図9の故障モードデータベース930(または 図1のデータベース140)へ配するための実施方法が示されている。このようなマシンの例は、測量・記録・制御などのために器機を装備した電気モータである。ステップ1010で、複数の同一マシンに、当技術分野で行われるようにセンサを装備する。マシン設計のさまざまな故障モードを発見するために、これらのマシンを故障して壊れるまで稼動させる。従って、各故障モードの尤度に関する何らかの統計尺度を提供し、各故障モードについての十分な代表的前兆データを提供するために、十分に多くの数のものを使用すべきである。ステップ1015で、試験用器機を装備したマシンを日常業務の動作範囲にわたって稼動させて、データ収集を行う。経験モデルの監視方法を用いる場合は、ステップ1020で、経験モデル用のリファレンスライブラリを構築するのに使用するために少なくともいくらかのデータ(マシンが悪化し始める前の初期のマシン動作からのデータが好ましい)を取り込む。ステップ923で、マシンすべてを故障するまで稼動させ、故障するのに伴ってセンサからデータを取り込む。
【0071】
ステップ1031で、取り込んだデータを処理して、前兆データを故障モードごとに分離する。故障モードは、本発明のユーザによって選択されるものであり、各マシン故障の分析から得られた具体的な結果を論理的に分類したものである。分析結果を故障の「モード」へと論理的に分類することは、理にかなっているべきであり、その故障モードに至る前兆データが毎回同じまたは同様になる尤度に適合すべきである。ただし、この要件の他は、ユーザは適切と思われるように自由にモードを分類することができる。従って、例えば、電気モータの製造業者が、50個のモータを故障するまで稼動させ、分析のときに、結果を3つの主要な故障モード、即ち、固定子の問題と、機械回転部品と、絶縁巻線破壊とに関係する故障モードに分類することを選択することができる。これらがモータの故障モードの大部分を占める場合、製造業者は、他の故障モードを認識しないことを選択することができ、本質的に何らかの稀な故障の認識である故障モード認識を伴わずに、監視からのSPRTまたは残余しきい値アラートを受け入れることになる。
【0072】
本発明の別の方法によれば、当業者に知られている一般的に利用可能な分析方法を使用して、前兆データのストリームがどれくらい類似しているかに従って、故障の各インスタンスごとの前兆データを論理的グループへと自己編成することができる。例えば、ユーザは50個の故障したモータそれぞれにつき異なる前兆結果を予知したが、しかし、アラートの分析が、故障のうちの45個が明らかに、故障に至る3つの異なるアラートパターンのうちの1つを有することを示す場合(例えば、12個の故障が1つのパターンであり、19個の故障が別のパターンであり、14個の故障が第3のパターンであり、50個のうち残りの5個のパターンが、認識されないパターンに属しかつそれを定義される)、この異なる3つのパターンを故障モードとして扱うことができる。次いでユーザは、分析結果をどのような形で故障モードと一致させるかを決定し、かつ、それに基づいてこれらのグループに対してどの調査行動および解決行動を提案することができるか、および故障モードサイン情報と共に記憶するかを決定しなければならない。
【0073】
ステップ1031で前兆診断データを決定するために、1020の正常データを訓練し、リファレンスライブラリへと洗練し、そして前兆データストリームの入力に応答して推算値、残余、およびアラートを生成するようにオフラインで使用すべきである。
【0074】
最後にステップ1042で、診断前兆サイン、これらのサインの故障モード分類化と提案される行動とに関するユーザ入力、および経験モデルのリファレンスライブラリ(経験モデルを使用する場合)を、契約量の各マシンに付随するコンピューティングデバイスのオンボードメモリ記憶装置にロードする。こうして、分析された故障マシンの経験および経験的データを使用して自己診断結果を示すことのできるマシンを提供することができる。
【0075】
図11に移る。空の故障モードデータベースで開始することが望ましいかまたは必要な場合があり、これを実施する方法を示す。例えば、センサを有し、本発明の診断システムで改装されることになる産業プロセスの場合は、前兆データおよび故障モード情報を収集するために複数回にわたってこのプロセスを稼動させて故障させることができない場合がある。あるいは、このプロセス(またはマシン)のリアルタイム監視をアラート付きで開始し、故障モードが発生したときにそれらのモードを追加することが望ましい場合がある。ステップ1153で、センサがまだ適所に配置されていなければ、センサをプロセスに装備する。ステップ1157で、前と同様にセンサデータを収集し、プロセスを通常どおり動作させる。ステップ1161で、収集したデータを使用して、経験モデル化についてリファレンスライブラリを訓練する。ステップ1165で、得られたリファレンスライブラリを監視システムにロードし、ステップ1170で、プロセスをリアルタイムで監視する。ステップ1172で、故障(または初期故障アラートによって対処されて阻止された故障)が発生すると、ステップ1176でこの故障(または阻止された故障)を分析する。ステップ1180で、この故障の前の収集済みデータ(動作データをアーカイブするための履歴またはその他の記録機能から得られる)を検索し、ステップ1183で分析して(後述する)、この故障モードの前兆残余、アラート、または実際値を提供する。プロセスオペレータはまた、故障モード情報および関連する行動提案を故障モードデータベースに記憶するように促される。従って、故障に関する診断監視データが収集され、故障モードデータベースに記憶され、プロセスの監視を継続するにつれてますます改善される。
【0076】
故障モードデータベースにデータ配置する場合すべてにおいて、ユーザは故障の存在、タイプ、およびタイムスタンプを示す。プロセスまたはマシンが故障したことの指示は、何れの場合でもユーザの基準によって決まる。ある故障が、最初に、厳しい性能要件を有するユーザにとって発生したと見なされ、その後の2度目に、マシンまたはプロセス機械の消耗をいとわないユーザにとって発生したと見なされる場合もある。あるいは、故障の指示は、自動化されたシステムを使用して達成することもできる。例えば、当技術分野で知られているように実際のセンサ信号に適用される大まかなしきい値を使用して、故障の時を指示することができる。本発明のアラートは、故障を決定するために、しきい値を用いて処理するように又は何らかのベースラインと比較するようにすることもできる。従って、本発明によれば、故障タイムスタンプは、ユーザによって提供されるか、またはパラメータを故障しきい値に対して監視する別個の自動システムによって提供される。
【0077】
故障モードサイン分析のために、3つの一般的な可能性を提供することができる。それらは、例えば、残余スナップショット類似性、実際スナップショット類似性、またはアラートパターン相関である。本明細書で論じる残余スナップショット類似性は、前の残余スナップショットのライブラリ、即ち、識別された故障モードに先行して得られる差分信号のライブラリをもたらし、これを、前述の類似性エンジンおよび式4を使用して、現在の残余スナップショットと比較して、既知の故障モードの発生を決定することができる。残余診断を用いて、残余スナップショットを、既知の故障モードの前兆として識別し記憶する。ライブラリで使用される故障モード残余を表すスナップショットを選択し、故障モードの定義特性および故障モードの決定基準を決定するためには、さまざまな基準を採用することができる。
【0078】
診断に使用される実際スナップショット類似性も、残余スナップショット類似性と同一の様式で実施する。残余スナップショットを使用する代わりに、実際のスナップショットを前兆データとして使用する。次いで、後で更に詳しく述べるように、実際のスナップショットを前兆実際値の故障モードデータベースと比較し、これらの間の類似性が初期故障モードを示す。
【0079】
アラートモジュール出力は、それぞれの監視されるセンサの分解された入力について、その推算値が異なるか同じかについての判定を表す。これらを使用して、監視されているプロセスまたは機器の状態を診断することができる。いくつかの相違判断(センサに対するアラートあり)が、他の同一判断(センサに対するアラートなし)と共に、発生した場合、これらを、起こり得るマシン状態またはプロセス状態の指標として用いることができる。アラート判断によって診断ルックアップデータベースを索引付けして、本発明のシステムで監視されているプロセスまたは機器の状態を診断することができる。例えば、7つのセンサを使用してマシンを監視しており、前の分析経験に基づく場合には、特定の故障モードは、最初にセンサ#1および#3でアラートが生じることから明示され、更に、或る一般的有限範囲の時間後にセンサ#4に現れるアラートにより複合化し、次いで、このパターンの発生を記憶済みパターンと照合して故障モードを識別する。これらのような進展するセンサアラートパターンに従って故障モードを照合する手段の1つは、ベイズ信念ネットワーク(Bayesian Belief Networks)を使用することである。ベイズ信念ネットワークは、あるイベント連鎖を通じた確率の伝播を定量化する際に使用するものであり、当業者には知られている。しかし、これよりも単純に、単に、アラートしているセンサがデータベース中のセンサアラートといくつ対応するかを調べ、最良に一致したものを、識別された故障モード可能性として出力することで、照合を行うことができる。アラートパターンを記憶済みアラートパターンと照合するための別の方法によれば、アラートをピクセルの2次元アレイとして扱うことができ、当技術分野で知られている特徴認識技法を用いて、パターンと記憶済みパターンの類似を分析することができる。
【0080】
図12A、12B、12Cに移る。残余サイン手法および直接的なデータサイン手法の目的のために故障モード前兆スナップショットをライブラリへ組み込むときに、ユーザ指定の従来の故障点よりもどれだけ前に遡るかを自動的に選択するための、複数の方法が示されている。センサおよびモデル推算図(12A)、残余(12B)、およびSPRTアラート(12C)についてのグラフが示してある。従来技術の方法において理解されるであろう従来の故障点を、 図12Aおよび12Bでそれぞれ1207および1209として示す。従って、残余スナップショット類似性または実際スナップショット類似性の何れかのための故障モードライブラリを形成する代表セットを「トレーニング」するまたは代表セットへと純化するのに含める、指定の故障の前のスナップショットの数は、ユーザによって選択された固定数として、すべての故障または故障モードに全体的に、あるいは分析された各故障に特有に、決定することができる。言い換えれば、ユーザは単に、プロセスまたはマシンを監視するサンプリングレートに関する自分の知識に基づいて、故障時点に先行する例えば120個までのスナップショットを含めるように、指示するだけである。これにより、次いで、純化されることになる残余スナップショット(または実際のスナップショット)の範囲1224が決定される。
【0081】
範囲1224の長さを決定するための別の方法によれば、図12Cの線1220の位置を用いて、セット1224中で最も早いスナップショットを決定する。線1220は、最も早い一貫した、SPRTまたは残余しきい値方式でアラートされたスナップショットとして決定される。ここで「一貫した」とは、移動するウィンドウ中の少なくとも選択された数のスナップショットが、少なくとも選択された数のセンサについてアラートされることを意味する。従って、例えば、10個のセンサを備えるプロセスで、少なくとも2個のセンサが、7スナップショットの動くウィンドウ中で少なくとも3個のアラートを有していた場合、このウィンドウの開始(または終了)が範囲1224の開始を定める。しかしながら、これは、一貫したアラートがあるところまでのみ故障スナップショットよりも前へ遡って延びる。言い換えれば、少なくとも最低限の数のアラートが移動ウィンドウ中で時間Tに遡ってみられる場合であって、これ以前ではウィンドウが約T−50(スナップショット)付近になるまで最低限の数のアラートがみられない場合は、故障モード前兆選択のために延長される範囲は、T−50ではなくTまで遡って延長される。
【0082】
残余スナップショットまたは実際のスナップショットの範囲1224では、各スナップショットが各センサの残余値または実際値を含み、この範囲を、次いで、識別された故障モードについての代表セットに純化する。この純化プロセスは本質的に、図4および5で述べた、経験モデル化の場合のリファレンスライブラリを作り出すためのトレーニング方法と同じである。図5のフローチャートで述べたトレーニングプロセスを使用することができるが、当技術分野で知られているトレーニング方法や後に開発される他のトレーニング方法を使用することもできる。更に、故障のインスタンスが、すでに識別済みのモードであり前兆スナップショットのライブラリを保持している場合、このライブラリを増補することもできる。増補の方法の1つは、故障のすべての記録済みインスタンスから、その故障モードについての前兆スナップショットセットすべてを再び組み合わせ、この組み合わせに対してトレーニングプロセスを戻すものである。別の方法は、スナップショットの範囲1224を既存の純化済みライブラリに追加し、この組み合わせに対してトレーニングプロセスを戻すものである。
【0083】
この前兆データを処理して、前述の3つの故障診断技法から選択された発明的技法に適した代表データおよび関連する故障モードを提供する。このデータを故障モードに関する任意の既存のデータに追加し、システムを監視モードに設定し直す。システムは今や、特定の故障モードに至る前兆データに関してより多くのインテリジェンスを有する。
【0084】
コモディティマシンと同様、故障モードの細分性は完全にユーザ選択可能である。故障モードは厳密にユーザ定義とすることができ、その場合、ユーザは分析を行って原因を決定しなければならない。ユーザは更に、故障モードの名前および/またはIDも供給しなければならない。本発明のソフトウェア製品は、以下の項目を記憶するための空のデータ構造を提供することが好ましい。
【0085】
a.故障モードの名前またはID
b.原因は何かについての記述
c.講じるべき可能な防止ステップまたは治療ステップ
d.自動化された制御応答にリンクできる可能性
e.故障モードに関連する前兆サインデータ。
【0086】
図13に移る。図1からの故障モードデータベース140に含まれる故障モード前兆リファレンスライブラリ1305が、スナップショットのグループ1312、1315、1317を含んでいるのがわかる。これらのグループはそれぞれに故障モードA、B、Cに関連する前兆スナップショット(実際と残余の何れか)を表す。連続的な現在の入力スナップショット(実施される形態に応じて、実際または残余の何れか)のシーケンス1320を、パラメータ値に対するプレースホルダとしての点を有するベクトルとして示すが、これが、類似性エンジン1324(図1からの故障モードサイン認識モジュール120を備える)へ供給される。類似性エンジン1324は、モデル化および式4に使用される類似性演算子に関して先に述べたようにスナップショットごとの類似性を計算するように配置される。シーケンス1320のスナップショットはすべて、ライブラリ1305中のスナップショットがそうであるように、同一数のパラメータを有することが好ましい。推算値を生成するための前述の経験モデルとは異なり、エンジン1324は、前述の式1は実行せず、従って、何れの推算値も出力しない。しかし、その代わりに、現在の各スナップショットをライブラリ1305中の少なくともいくつかのモード、好ましくはすべてのモードについての各記憶済みスナップショットと比較したものである、スナップショット類似性スコアを出力する。
【0087】
図13の故障モード類似性エンジン1324は、 図14を考慮すればよりよく理解することができる。図14には、センサから得られた実際のデータか、又はセンサについての実際データと推算データとの差分から得られた残余データかの何れかの一つのスナップショット1407を、類似性演算子を使用してライブラリ1305中の故障モード前兆と比較したときの、比較結果が示されている。スナップショットごとの各比較から類似性の値が得られ、これらの値がグラフ1415に示されている。
【0088】
残余の類似性または実際信号の類似性を採用したときの本発明の診断システムの出力として示す1つまたは複数の故障モードを決定するために、このような識別される故障モードまたは起こり得る故障モードを選択する方法の1つを、図15に関して示す。リファレンスライブラリ1305は、複数の故障モード1312、1315、1317についての故障モードサインデータ(残余スナップショットまたは実際のスナップショットの何れか)を含む。類似性演算を用いて現在のスナップショットを比較し、リファレンスライブラリスナップショットとの各比較ごとに類似性スコアを生成する。リファレンスライブラリ中でのこのようなすべての比較の全体で最高の単一スナップショット類似性1550を有する故障モードを、示される故障モードとして指定する。示される故障モードを選択するための別の方法では、図16に示すように、所与の故障モードにおけるすべてのスナップショットのスナップショット類似性すべての平均を計算し、各故障モードの平均値1620、1630、1640を比較する。最高の平均類似性を有する故障モード1650を、現在のスナップショットに対して示される故障モードとして指定する。 図16に示した、所与の現在スナップショットに対して示される故障モードを指定する方法はどちらも、連続するスナップショットにわたっての示される故障モードを選択するためのいくつかの代替方法と組み合わせることができる。これにより、1つのスナップショットだけに基づいてユーザに故障モードが示されることはないが、 図15および 図16に従っての選択された故障モードのカウントが維持される、スナップショットの移動ウィンドウを使用して、ウィンドウにわたっての所与の故障モードについてのカウントが一定数を超えた場合に、初期故障の指示をユーザに出力することができる。例えば、最高の平均類似性を用いて故障モードを選択する方法(図16)を現在の各スナップショットに使用することができ、20スナップショットの移動ウィンドウを使用することができ、故障モードが初期故障モードとしてユーザに示されるためにはこのウィンドウ中で故障モードが少なくとも10回選択されなければならないというしきい値を採用する。20スナップショットのウィンドウにわたってシステム中のすべての故障モードについてのカウントを維持し、これらのうちの1つが10よりも高いカウントに達した場合、それを初期故障としてユーザに示す。
【0089】
所与の故障モードについてサインライブラリ中に記憶されたすべての残余スナップショットまたは実際スナップショットのセットにわたって類似性を統計的に組み合わせるための別の方法を使用して、「平均値」を得ることもできる。例えば、中間の2つの四分位数だけを使用してこれらを平均する方法(従って、極端な一致および極端な不一致を切り捨てる)や、最上位の四分位数だけを使用する方法などがある。各スナップショットにおいて1つまたは複数の示される「勝利した」故障モードを決定するために使用されるテストにかかわらず、「ビン(bins)」が、現在の各スナップショットごとに、示される故障モードに対する「投票(votes)」を、数十個から何百個ものスナップショットの移動ウィンドウにわたって適宜に累積する。また、しきい値を使用して、故障モードが「ラッチ」して人間のオペレータに例外状況として示されるようにすることもできる。
【0090】
別法として、このような何れのしきい値も使用せず、単に、移動ウィンドウについて、どの故障モードが、スナップショットからスナップショットにわたって、示される故障モードとして指定されるように最高のカウントを有するかを指示することも可能である。ユーザに示すことのできる別の有用なシステムの出力は、各故障モードごとのカウントを示し、ユーザがこの情報から、特定の故障モードがいつ優勢だと思われるかを決定できるようにするものである。正常動作時は、いくらかの雑音を伴って、ウィンドウ全体ですべての故障モードがほぼ等しいカウントを有する可能性が高い。しかし故障モードが正しく認識されるときは、その故障モードのカウントは上がり、他の故障モードのカウントは下がるはずであり、各故障モードが他の故障モードと比較してどれくらい可能性が高いかをユーザが測定するための計量値がもたらされる。
【0091】
図17に移る。示される故障モードがある場合にそれを指定するための複数の方法が、アラートパターンの使用に関して示されている。アラートテスト927(図9から)が、星印で示すように、連続するスナップショット1708のそれぞれで、信号線1704上にアラートを生成する。1つの方法によれば、所与のスナップショットでのアラートのパターン1715を、さまざまな故障モードについて記憶されたパターンと照合して、故障モードが示されるかどうかを決定することができる。別の方法によれば、アラートの累積パターン1720を記憶済みパターンと照合することができ、アラートの累積は、選択されたスナップショット数のウィンドウにわたって行う。更に別の方法は、シーケンス1730を照合するものであり、そこにおいて、センサはデータベース中のシーケンスに対してアラートするものであり、最初にセンサ1で生じ、次いでセンサ4、次いでセンサ9で生じたアラートが、最初にセンサ4で生じ、次いでセンサ1および9で生じたものとは異なるというものである。最後に、センサアラートのレート1740を記憶済みレートと照合することができる。これらの組み合わせを用いて、より複雑な故障モードサイン識別を実現することもできる。
【0092】
前述のアラートパターンの何れかに対するパターン照合は、いくつかの技法から選択することができる。例えば、記憶済みパターン中のすべてのアラートが瞬間パターン中にもみられ、かつ異質のアラートが瞬間パターン中にみられない限り、一致が示されないような、完全な一致を要求することができる。別法として、記憶済みパターン中でアラートを示すセンサの少なくとも例えば75%が瞬間パターン中でもアラートしているのがみられ、記憶済みパターン中に瞬間アラートの10%未満のものが見られないというような、実質的な一致を採用することもできる。一致するアラートおよび異質のアラートに対する厳密なしきい値を、全体的に設定してもよく、また、記憶済みの各パターンごとに設定してもよい。後者の場合、ある故障モードは、ちょうど65%の一致アラートおよび10%未満の異質アラートを許容することができ、第2の故障モードは、記憶済みアラートの少なくとも80%が一致し、瞬間パターン中で生じる5%未満の異質アラートが記憶済みパターン中にないときに、示されるものとすることができる。これらの限度は、認識することが望まれる故障モードを十分に区別するのに必要なように、また利益をもたらすのに十分な警告付きで、経験的に設定することができる。
【0093】
本発明によれば、パターン照合の結果として複数の潜在的な故障モードが得られた場合に、複数の故障モードを示すことも許容される。パターンを照合して一致の可能性の確率を提供する技法は、当技術分野で知られており、本発明の範囲内でこれらの何れかおよびすべてを採用することができる。
【0094】
図18に、本明細書に開示する発明的な診断手法の何れかのもののための物理的実施形態1820を示す。プロセスまたはマシン1822が、入力バス1824へセンサ出力を提供する。例えばプロセスは、化学処理プラントのプロセス制御システムとすることができ、バスは、業界で一般に使用されるフィールドバスタイプのアーキテクチャである。プロセッサ1826が、バス1824からの実際のパラメータの入力に応答してパラメータのモデル推算値を計算し、更に推算値を実際のセンサ値と比較してアラートテストを計算するように配置される。プロセッサ1826は更に、プログラムコードを記憶し且つモデルおよびサインデータがロードされたメモリ1828と結合されたときに、故障サイン認識を実行するようにも配置される。プロセッサは、故障が起ころうとしていると診断された場合の是正行動のために、プロセス制御システムへ制御コマンドを出力することができる。プロセッサはまた、得られた診断および付随するデータをディスプレイ1832へ出力することもでき、あるいはオプションで、送信機1830を介してリモート位置へ送信することもできる。送信機は、例えば、ウェブに接続されたデバイスや無線デバイスとすることができる。受信機(図示せず)は、ページャや、リモート位置にある別のデータ処理システムなどとすることができる。
【0095】
一般に、故障モードデータ記憶装置は、ハードディスクドライブ、不揮発性または揮発性メモリ、オンチップメモリなどの、任意の従来型のメモリデバイスとすることができる。実際のパラメータ値に応答してパラメータの推算値を生成するのに使用される経験モデル化データのためのデータ記憶装置は、故障モードサイン情報を含むデータ記憶装置と別でも同じでもよい。更に、故障モード行動提案を、前述の他のデータと一緒にまたは別に記憶することもできる。これは、本発明が、故障モードサイン認識システムを、自動的に保守要求を生成してこれらをスケジューリングする既存の保守動作リソースプランニングシステムと組み合わせることを含む場合に当てはまる。類似性ベースの残余または実際のセンサスナップショット故障モードサイン認識と、アラートパターンベースの故障モードサイン認識と、プロセスモデル化およびセンサ値推算と、実際値および推算値からの残余生成と、アラートテストとを行うための計算プログラムは、1つのプロセッサ上で実行してもよく、また、相互に同期または非同期で通信する複数のプロセッサにまたがって別々のタスクとして分散させてもよい。このようにして、本発明の診断システムは、監視対象のマシンに内蔵された単一のマイクロプロセッサを使用して実施する場合でも、あるいは、別々の位置にあってインターネットを介して通信し、監視対象のプロセスまたはマシンからおそらくリモートに位置するいくつかのコンピュータを使用して実施する場合でも、完全に本発明の範囲に含まれる。生データに応答して推算値を生成する類似性エンジンを備える計算プログラムはまた、残余スナップショットまたは実際スナップショットを故障モードに関連する記憶済みスナップショットと照合するのに使用するための類似性スコアを生成するプログラムされた類似性エンジンと同じでもよい。
【0096】
さまざまな態様で上記の好ましい実施形態に修正を加えることができることは、当業者には理解されるであろう。その他の変形も明らかに有効であり、本発明の範囲および趣旨に含まれる。本発明については特許請求の範囲に詳細に述べる。本発明の趣旨および範囲は、本発明の教示を熟知した当業者にとって明らかな、好ましい実施形態の修正および改変も含むものとする。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】図1は、本発明による、データベースを使用して、アラート信号または残余から、起こり得る故障モードを識別するための故障モードサイン認識の全体的な構成を示す。
【図2】図2は、SPRTアラートモジュールを備える従来技術の経験モデルベース監視システムを示す。
【図3】図3は、センサ信号のセットと、「スナップショット」の時間相関した観念とを示す。
【図4】図4は、本発明で用いられる経験モデルのトレーニング方法を示す。
【図5】図5は、 図4の本トレーニング方法のフローチャートである。
【図6】図6は、本発明で類似性エンジンにおける経験モデル化に使用することのできる類似性演算子を示す。
【図7】図7は、類似性演算を実施するためのフローチャートである。
【図8】図8Aないし図8Dは、本発明で使用される監視システムによる実際のセンサ信号、推定値、アラートインデックス、およびアラート判断を単一センサについて示す。
【図9】図9は、診断のために監視情報を使用する3つの代替経路を含む、本発明による監視システムのブロック図である。
【図10】図10は、同一マシンのセットのために診断ライブラリを確立するためのフローチャートである。
【図11】図11は、プロセスのために診断ライブラリを確立するためのフローチャートである。
【図12】図12Aないし図12Cは、故障モードサイン情報を選択するための代替範囲を示す。
【図13】図13は、類似性演算による故障モード認識を示す。
【図14】図14は、入力スナップショットに対する類似性スコア生成を示す。
【図15】図15は、診断される故障モードを最高の類似性スコアに基づいて選択することを示す。
【図16】図16は、診断される故障モードを最高の平均類似性スコアに基づいて選択することを示す。
【図17】図17は、アラートパターンに基づく故障モード認識を示す。
【図18】図18は、本発明のハードウェア実装形態の概略ブロック図である。
【技術分野】
【0001】
1.発明の分野
本発明は一般に、初期マシン故障またはプロセス異常の早期検出および診断の分野に関する。より詳細には、本発明は、プロセスおよびマシンをモデルベースで監視すること、ならびに経験ベースで診断することを対象とする。
【背景技術】
【0002】
2.関連する技術の簡単な説明
従来のセンサ・しきい値ベースの制御および警報の欠点に対処するために、産業用プロセス制御、機械制御、システム監視、条件ベースの監視において、種々の新規かつ高度な技法が出現してきた。従来の技法は、プロセスまたはマシンの個々の計量値の大まかな変化に対して応答するだけでしかなく、予測できないシャットダウン、機器損傷、製品品質の損失、または大惨事を招く安全上の問題を防止するための、適切な警告を発することができない場合が多かった。
【0003】
新しい技法の一支流によれば、故障検出および制御において、監視対象のプロセスまたはマシンの経験モデルが使用される。このようなモデルは、監視センサデータの総合的な見方に効果的に影響を与えて、はるかに早い初期故障検出、およびはるかに精密なプロセス制御を達成する。プロセスまたはマシン上の多くのセンサを同時に、かつ相互を考慮してモデル化することにより、監視システムは、各センサ(およびその測定パラメータ)がどのように挙動すべきかに関する情報をより多く提供することができる。更に、これらの手法の利点として、通常は追加の機器が必要とされず、プロセスまたはマシン上の適所にあるセンサを使用することができる。
【0004】
このような経験的監視システムの例が、グロス(Gross)その他に付与された米国特許第5764509号に記載されており、この教示を参照により本明細書に組み込む。この特許には、監視されるプロセスの既知状態のリファレンスライブラリに対する類似性演算子と、高感度の統計仮説テストに結合される、類似性演算に基づいて現在のプロセス状態の推算値を生成するための推算エンジンとを使用して、現在のプロセス状態が正常状態か異常状態かを決定する経験モデルが記載されている。この経験的監視システムでの類似性演算子の役割は、リファレンスライブラリに含まれるセンサ示度(読取値)スナップショットの何れかに対する、現在のセンサ示度のセットの類似性の計量値を決定することである。従って、類似性計量値を使用して、リファレンスライブラリスナップショットの重み付き合成から、センサ示度がどの値をとるべきかの推算値を生成する。次いで、推算値を現在の示度(読取値)と比較して、初期プロセス異常やセンサ故障などを示す差分を監視することができる。当技術分野で知られている他の経験モデルベース監視システムでは、ニューラルネットワークを用いて監視対象のプロセスまたはマシンをモデル化する。
【0005】
センサ故障、プロセス異常、またはマシン故障の早期検出は、このような監視システムで、同じく前述のGross他に付与された特許に記載されている逐次確率比試験などの高感度の統計テストによってもたらされる。このようなテストを実際のセンサ信号と推算センサ信号との差分の残余に適用する結果として得られるのは、ユーザ選択可能な統計信頼度を用いての、実際の信号と推算信号が同じか異なるかの判定である。これ自体は有用な情報であり、正常からの変化を明示しているプロセス位置またはマシンのサブコンポーネントだけに対して、まばらに広げた保守資源を割り当てるものである。しかし、単に信号が正常に挙動していないことを知らせるアラートを提供するだけでなく、監視を診断結果にまで進めて、それにより、起こり得る故障モードを提供することが必要とされている。高感度の早期検出統計テストを構築容易な経験モデルと組み合わせて、早期警告を発するだけでなく、変化の原因と思われることを示す診断表示を提供することは、非常に価値ある監視システムまたは制御システムを構成し、現在さまざまな産業で強く求められている。
【0006】
多くのプロセスおよびマシンには複雑さが付きものであるため、故障を診断する作業は非常に困難である。診断システムの開発には、多大な労力が費やされてきた。診断手法の1つは、エキスパートシステムの使用を採り入れるものであった。これは、専門家によって開発された、監視または制御されるシステムのダイナミクスを記述したルールに従って、プロセスまたはマシンパラメータを分析するためのルールベースのシステムである。エキスパートシステムは、人間の専門家がシステムを理解して自分の知識をルールのセットに体系化するために、相当な学習プロセスが必要である。従って、エキスパートシステムの開発は多大な時間および資源を要する。エキスパートシステムは、プロセスまたはマシンの頻繁な設計変更に対応しない。設計が変更されればルールが変わり、そのため専門家は新しいルールを決定してシステムを再設計する必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
プロセスまたはマシンのモデルベースの監視および制御と組み合わせることのできる診断手法であって、マシンまたはプロセスの故障を診断するためのソフトウェアに実装されるルールを専門家が開発するのに何カ月も費やす必要のない診断手法が必要とされている。監視システムまたは制御システムの業界ユーザの領域知識の上に構築することのできる診断システムが理想的であろう。更に、マシンのユーザ変更やプロセスのパラメータ変更、ならびにマシンとプロセスとの設計変更に容易に適応される診断手法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の概要
本発明は、マシンおよびプロセスのためのモデルベース監視システムにおける診断機能を提供する。任意のタイプのセンサが装備された物理パラメータを介してマシンまたはプロセスを決まった課程でオンライン監視することの一部として、診断条件のライブラリを提供する。オンライン監視によって生成された出力を診断条件ライブラリと比較し、これらの出力の中に1つまたは複数の診断条件のサインが認識された場合、システムは、起ころうとしている可能性のある故障モードの診断を行う。
【0009】
診断機能は、監視対象のマシンまたはプロセスのセンサからの実際のセンサ値の受け取りに応答してセンサ値の推算値を生成する経験モデルベースのシステムと組み合わせることが好ましい。モデルによって生成された推算センサ値を実際のセンサ値から減算して、マシンまたはプロセスのセンサについての残余信号を提供する。経験モデルによってモデル化されたとおりにすべてが正常に動作しているときは、残余信号は本質的に0であり、基礎的な物理パラメータおよびセンサ雑音からの雑音がいくらか伴う。プロセスまたはマシンが、認識されモデル化された何らかの動作状態から逸脱したとき、即ち、その動作が異常になったときは、これらの残余は0でなくなる。逐次確率比試験(SPRT)などの高感度の統計テストを残余に適用して、残余が0付近のままであるか否かについて可能な限り早い判定を提供する。これはしばしば、残余が0から離れていく傾向がまだ雑音レベルに埋没しているほどの早い段階に判定される。残余が0でないと判定されたセンサがあれば、このセンサに対して当該問題の時間スナップショットに対してアラート(警報)を生成する。アラートを生成する別の方法としては、各パラメータごとに残余自体にしきい値を適用し、しきい値を超えたときにそのパラメータに対してアラートする。診断条件ライブラリは、残余データ自体を使用して参照することもでき、あるいは、SPRTアラート情報または残余しきい値アラート情報を使用して参照することもできる。診断条件ライブラリには、故障モードを、説明的記述、提案される調査ステップ、および提案される修復ステップと共に、記憶する。SPRTアラートまたは残余しきい値アラートのパターンがライブラリ中のサインと一致するときは、故障モードが認識され、診断が行われる。あるいは、類似性エンジンを使用した場合に残余データパターンがライブラリ中の残余データパターンに類似するときは、対応する故障モードが認識され、診断が行われる。
【0010】
この発明的なシステムは、経験モデル情報と診断条件ライブラリとを記憶するためのメモリを備えたコンピュータ上で稼動するソフトウェアを含むことができる。更に、監視されているプロセスまたはマシン上のセンサからデータを受け取るためのデータ獲得手段も有する。通常、このシステムは、産業環境でプロセス制御システムに接続または統合されて、ネットワーク接続を介してシステムからデータを獲得することができる。この発明的なシステムを使用するために新しいセンサを設置する必要はない。ソフトウェアの診断出力は、表示したり、ページャやファクスやその他のリモートデバイスへ送信したり、自動プロセス制御またはマシン制御のための診断に作用するよう配置できる制御システムへ出力したりすることができる。あるいは、本発明は少ない計算要件しか必要としないので、この発明的なシステムは、プロセッサおよびモデルおよびライブラリを記憶するための追加メモリと共にあるメモリチップ上の命令セットに縮小して、自動車や飛行機など監視対象のプロセスまたは機器上に物理的に配置することもできる。
【0011】
本発明の診断条件ライブラリは、マシンおよびプロセスの故障の分析およびそれらに関連する導入的なセンサデータに基づく経験的なものである。ライブラリ中の故障モードの数は、完全にユーザによって選択可能であり、また、前にライブラリ中で知られていなかった新しい故障が発生したときは、動作中にライブラリに追加することができる。
【0012】
本発明に特有と考えられる新規な特徴については特許請求の範囲に述べる。ただし、本発明自体、ならびに本発明の好ましい使用モード、他の目的および利点は、実施形態に関する以下の詳細な説明を添付の図面と共に参照することによって最もよく理解される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
ここで図面、特に図1を参照すると、本発明の好ましい実施形態の全体が示されている。
【0014】
図1では、リアルタイムデータ前処理モジュール110が、監視対象のマシンまたはプロセスからのセンサデータに対して監視動作を行い、変換されたデータを故障モードサイン認識モジュール120へ出力する。変換済みデータは、モジュール110の通常の監視活動から得られたアラートパターン、残余その他などとすることができる。認識モジュール120は、変換済みデータのサインと関連する故障モード情報とを含む故障モードデータベース140に接続される。例えば、変換済みデータが残余情報である場合、サインは、その特定の故障モードの前に現れることがわかっている複数の残余スナップショットを含むものとすることができ、関連する故障モード情報は、故障モードについての記述、尤度、故障モードを調査するための行動プラン、または初期故障を修復するための是正プランを含むものとすることができる。データベース140からのサインがモジュール120によって認識されたときは、関連する識別(アイデンティフィケーション)と、講じるべき是正行動があればそれを、故障モード診断および行動出力モジュール160へ出力する。故障モード診断および行動出力モジュール160は、これをディスプレイへ通信することができ、あるいは、自動化された行動が下流の制御システムなどによって行われるようにこの情報をオブジェクトベースの環境で呈示することができる。
【0015】
データ前処理モジュールは、任意のタイプの監視システムとすることができ、一般にはモデルベースのものであり、より好ましくは経験モデルベースのものである。これは 図2を参照すると最もよく理解される。 図2には、前述のGross他に付与された特許に記載されているような従来技術の経験モデルベース監視システムが示されている。この図では、マシンまたはプロセス210にセンサ215が装備されており、センサ215には、センサデータを任意の数のコンピューティングシステムへ提供するためのデータ獲得手段が関連している。マシンまたはプロセスの既知のまたは認識済みの動作状態を特徴付けるデータを含むリファレンスライブラリ230が提供される。リファレンスライブラリ230は、チップメモリ中にあってもよく、また、コンピュータディスク記憶デバイスに記憶されていてもよい。推算モデル240が、好ましくはコンピュータ中にソフトウェアとして実装され、センサ215からネットワークまたはデータ獲得ボードを介してセンサデータを受け取る。推算モデル240は、センサ215からのリアルタイムの値の受け取りに応答して、リファレンスライブラリ230を使用してセンサ値の推算値を生成する。これについては後で詳しく述べる。差分ユニット250が、センサ値の推算値と実際の値との両方を受け取り、各センサごとの残余を生成する。連続するスナップショットにわたり、これらの残余は残余信号を構成する。前述のように、マシンまたはプロセスが正常に(リファレンスライブラリデータ中で特徴付けられているように)動作している場合、残余信号は、センサおよびプロセスの雑音を除けば0付近に留まるはずである。SPRTモジュール260が、これらの残余を受け取り、残余が0でないという決定的な証拠を示す場合はアラートを生成する。従って、この従来技術のシステムの出力は、残余信号およびSPRTアラート(これらは実際、差があることの指標である)を含み、それぞれは、監視されているマシンまたはプロセス上の各センサごとに提供されるものである。
【0016】
図3に移ると、図2に示した従来技術のシステムの動作を、図に描かれた複数のリアルタイムセンサ信号に鑑みて更に理解することができる。縦軸310は、図示の6つのセンサ信号に対する複合的な軸であり、信号の振幅を表す。軸320は時間軸である。現在のほぼすべての産業環境では、センサ信号はデジタルでサンプリングされ、従って離散的な一連の値である。ある時点で「スナップショット」330を生成することができる。これは、実際、6つのセンサのそれぞれの値のセット340を表し、各値はその時のセンサ振幅を表す。当然、産業プロセスおよびマシンによっては、物理的に相関したプロセスパラメータを測定するセンサ間で原因と結果の間に時間的遅延がある場合もあり、時間相関しているが必ずしも同時ではない示度(読取値)をスナップショット330が表すように、時間調整をデータに加えることもできる。
【0017】
診断のための本発明で使用される経験モデルベースの監視システムでは、センサ推算値を生成するために正常な動作状態を「学習」するための履歴データが必要である。一般に、正常に稼動しており試験用機器を装備したマシンまたはプロセスから、その許容可能なすべてのダイナミックレンジにわたって、大量のデータを蓄積する。 図4に、収集したセンサデータを洗練して(distill)代表トレーニングデータセットを生み出すための、トレーニングセット・スナップショットの選択方法を図で示す。この簡単な例では、監視対象のプロセスまたはマシンについての5つのセンサ信号402、404、406、408、410が示されている。センサ信号402、404、406、408、410は連続的なものとして示されているが、通常は、各スナップショットでとられた離散的にサンプリングされた値である。先に示したように、スナップショットは何れかの特定の順番とする必要はなく、従って、時間順、パラメータによる昇順または降順、あるいはその他選択された任意の順番とすることができる。従って、横座標軸412は、データをデジタルでサンプリングして、センサデータを時間相関させた場合の、収集したセンサデータのサンプル数またはタイムスタンプである。縦座標軸414は、サンプルまたは「スナップショット」全体での各センサ示度の相対的な大きさを表す。
この例で、各スナップショットは、そのスナップショットにおける各センサにつき1つの、5つのエレメントのベクトルを表している。このトレーニング方法によれば、すべてのスナップショットから収集したすべてのセンサデータのうち、所与のセンサの大域的最小値または大域的最大値の何れかを含む5エレメント・スナップショットだけを、代表トレーニングセットに含める。従って、センサ402の大域的最大値416によって、線418と各センサ信号402、404、406、408、410との交点における5つのセンサ値(大域的最大値416を含む)を、5エレメントのベクトルとして、代表トレーニングセットに含めることが、容認される。同様に、センサ402の大域的最小値420により、線422と各センサ信号402、404、406、408、410との交点における5つのセンサ値が含められることが、容認される。このようなスナップショットの集合体は、システムがとった状態を表す。この事前収集したセンサデータをフィルタリングして、システムが「正常に」または「許容できる程度に」または「好ましく」動作している間にシステムがとるすべての状態を反映した「トレーニング」サブセットを生み出す。このトレーニングセットは、当該のセンサと同数の行と、冗長性なしにすべての許容可能な状態を取り込むのに必要な数の列(スナップショット)とを有する行列を形成する。
【0018】
図5のフローチャートに、代表データの選択を更に示す。ステップ500で収集したデータは、N個のセンサとL個の観察またはスナップショットを含む。即ち、N個の行とL個の列のアレイXを構成する、時間的に関係するセンサデータのセットを含む。ステップ505で、カウンタi(エレメント数またはセンサ数を表す)を0に初期設定し、観察カウンタまたはスナップショットカウンタtを1に初期設定する。更に、アレイmaxおよびmin(各センサごとの収集データにわたる最大値および最小値をそれぞれ含む)を、Xの第1行に等しく設定される、N個のエレメントをそれぞれ有するベクトルになるように初期設定する。追加のアレイTmaxおよびTmin(各センサごとの収集データにみられた最大値および最小値の観察数を保持する)を、N個のエレメントをそれぞれ有するすべて0のベクトルになるように初期設定する。
【0019】
ステップ510で、X中のスナップショットtにおけるセンサiのセンサ値が、収集したデータ中でこのセンサについてこれまでにみられた最大値よりも大きい場合は、ステップ515に示すように、max(i)を更新してセンサ値に等しい値に設定し、観察数tをTmax(i)に記憶する。センサ値が最大値よりも大きくない場合は、ステップ520および525に示すように、同様のテストをこのセンサの最小値について行う。次いでステップ530で、観察カウンタtをインクリメント(増分)する。ステップ535に示すように、所与のセンサについてすべての観察を検討し終えた場合(即ち観察カウンタtがスナップショット数Lに等しくなったとき)は、ステップ540に示すように、観察カウンタtを1にリセットし、カウンタiを増分する。この時点で、プログラムはステップ510へと継続し、次のセンサについて最大値および最小値を見つける。最後のセンサが終了すると、この時点でステップ545に示すようにi=nであり、冗長があれば除去し、アレイXからのベクトルのサブセットからアレイDを生成する。この生成プロセスについては後で論じる。
【0020】
ステップ550で、カウンタiとjの両方を1に初期設定する。ステップ555に示すように、アレイTmaxとTminを連結して、単一のベクトルTtmpを形成する。好ましくは、Ttmpは、ステップ560に示すように昇順(または降順)にソートされた2N個のエレメントを有し、アレイTを形成する。ステップ565に示すように、ホルダtmpをTにおける第1の値(センサ最小値または最大値を含む観察数)に設定する。更に、アレイDの第1列を、Tの第1のエレメントである観察数に対応するアレイXの列に等しくなるように設定する。ステップ570の判定ボックスで開始するループ中で、Tのi番目のエレメントを、Tの以前のエレメントを含むtmpの値と比較する。これらが等しい場合(即ち対応する観察ベクトルが、複数のセンサについての最小値または最大値である場合)は、このベクトルはすでにアレイDに含まれており、再び含める必要はない。次いで、ステップ575に示すようにカウンタiを増分する。比較結果が等しくない場合は、ステップ580に示すように、T(i)の観察数に対応するXからの列を含めるようにアレイDを更新し、tmpをT(i)での値で更新する。次いで、ステップ585に示すようにカウンタjを増分し、更にカウンタi(ステップ575)も増分する。ステップ590で、Tのエレメントをすべてチェックし終えて、カウンタiがエレメントNの2倍の数に等しい場合は、トレーニングセット即ちアレイDの洗練が終了している。
【0021】
信号データは、センサによって監視される任意のマシン、プロセス、または生体システムから集めることができる。理想的には、使用するセンサの数は、一般に、計算オーバーヘッドにかかわるということ以上には、制限要因ではない。更に、本明細書に述べる方法は非常にスケーラブルである。ただしセンサは、基礎をなすシステムの主要な「ドライバ」を少なくともいくつか取り込むべきである。更に、基礎をなすシステムに投入されるセンサはすべて、何らかの形(即ち非線形または線形)の相互関係を有するべきである。
【0022】
信号データは、センサと同数のエレメントを有するベクトルとして表されることが好ましい。所与のベクトルは、特定の瞬間における、基礎をなすシステムの「スナップショット」を表す。連続的なセンサの原因と結果の性質の間に「遅延」を挿入することが必要なら、追加の処理を行ってもよい。即ち、センサAが、3つの「スナップショット」後にセンサBによって監視されることになる変化を検出する場合、所与のスナップショットが第1の時におけるセンサAの示度と3つの時の分だけ後のセンサBの示度とを含むように、ベクトルを再編成することができる。
【0023】
更に、各スナップショットは、基礎をなすシステムの「状態」と考えることができる。従って、このようなスナップショットの集合体が、システムの複数の状態を表すことが好ましい。前述のように、前に収集した任意のセンサデータをフィルタリングして、システムが「正常に」または「許容できる程度に」または「好ましく」動作しているときにシステムがとるすべての状態を特徴付ける「トレーニング」サブセット(リファレンスセットD)を生み出す。このトレーニングセットは、当該のセンサと同数の行と、冗長性なしに許容可能な状態を取り込むのに必要な数の列(スナップショット)とを有する行列を形成する。
【0024】
この類似性演算子ベースの経験モデル化技法によれば、リアルタイムで稼動している監視対象のプロセスまたはマシンから得られる同時のセンサデータの所与のセットについて、センサの推算値を以下の式
【0025】
【数1】
【0026】
に従って生成することができる。上式で、センサについての推算値のベクトルYは、行列D(リファレンスライブラリまたはリファレンスセット)を構成するように配置された同時のセンサ値のスナップショットの各々からの寄与に等しい。これらの寄与は、重みベクトルWによって決定される。この乗算演算は、標準的な行列/ベクトル乗算演算子である。ベクトルYは、監視対象のプロセスまたはマシンにある当該のセンサと同数のエレメントを有する。Wは、D中にあるリファレンススナップショットと同数のエレメントを有する。Wは、以下の式
【0027】
【数2】
【0028】
【数3】
【0029】
によって決定される。上式で、上付きのTは行列の転置を示し、Yinは実際のリアルタイムのセンサデータの現在スナップショットである。本発明の改良型の類似性演算子は、上記の式3で、円の中に「X」が配置された符号で表されている。更に、Dはこの場合も行列としてのリファレンスライブラリであり、DTはこの行列の標準的な転置を表す(即ち行が列になる)。Yinは、基礎をなすシステムからのリアルタイムのまたは実際のセンサ値であり、従ってベクトルスナップショットである。
【0030】
前述のように、記号
【0031】
【数4】
【0032】
は「類似性」演算子を表し、これは本発明で使用できるさまざまな演算子から選択することができる。好ましくは、本発明で使用される類似性演算は、2つの状態ベクトル間の尤度または差分の定量化された尺度を提供すべきであり、より好ましくは、同一性が上昇すると1に近づき、同一性が低下すると0に近づく数をもたらす。本発明のコンテキストでは、この記号は、他の意味を持つ通常の意味での
【0033】
【数5】
【0034】
の表示と混同すべきではない。言い換えれば、本発明では、
【0035】
【数6】
【0036】
は「類似性」演算を意味する。
この類似性演算子
【0037】
【数7】
【0038】
は、通常の行列乗算演算と同様に、行−列ベースで作用する。この類似性演算は、行と列のn番目の対応エレメントの対ごとのスカラー値と、その行と列の全体の比較のための全体的な類似性の値とをもたらす。これを、2つの行列について(上記のようにDとその転置に対する類似性演算におけるように)、行−列のすべての組合せにわたって行う。
【0039】
例として、使用できる類似性演算子の1つは、2つのベクトル(i番目の行とj番目の列)をエレメントごとに比較するものである。対応するエレメントだけを比較し、例えば、エレメント(i,m)をエレメント(m,j)と比較するが、エレメント(i,m)をエレメント(n,j)と比較することはしない。このような比較のそれぞれにつき、2つの値のうちの小さい方を大きい方で割った数の絶対値に等しい値が、類似性である。
【0040】
従って、値が同一である場合は類似性は1に等しく、値に大きく差がある場合は類似性は0に近づく。すべてのエレメント類似性を計算したとき、2つのベクトルの全体的な類似性は、エレメント類似性の平均値に等しい。平均の代わりに、エレメント類似性の別の統計的組み合わせ、例えばメジアンを使用してもよい。
【0041】
図6を参照すると、使用できる類似性演算子の別の例を理解することができる。この類似性演算子については、ウェゲリッチ(Wegerich)他に付与された米国特許第5987399号の教示が関係し、この教示を参照により本明細書に組み込む。各センサまたは物理パラメータごとに、三角形620を形成して、そのセンサまたはパラメータに関する2つの値の間の類似性を決定する。三角形の底辺622の長さは、トレーニングセット全体におけるこのセンサについて観察された最小値634と、トレーニングセット全体におけるこのセンサについて観察された最大値640との間の差に等しい長さに設定する。この底辺622の上に角度Ωを形成して、三角形620を生み出す。次いで、スナップショットごとの演算で、任意の2つのエレメント間の類似性を見つける。これは、一方の端を最小値634の値とし、他方の端を最大値640の値として、2つのエレメントの値の位置を底辺622に沿ってプロットして(図ではX0およびX1として示す)、底辺622をスケールすることによって見つける。
【0042】
底辺622上の位置X0とX1まで引いた線分658と660が、角度θを形成する。角度Ωに対する角度θの比が、当該のセンサについてのトレーニングセット中の値の範囲にわたるX0とX1の間の差の尺度を与える。この比、またはこの比をアルゴリズム的に変更したものを値1から引くと、0と1の間の数が得られ、これがX0とX1の類似性の尺度となる。
使用できる別の例示的な類似性演算子は、2つの観察ベクトルまたはスナップショットの2つの対応エレメントの絶対的な差を分子とし、予想されるエレメント範囲を分母とした量を、1から引くことにより、2つのエレメント間のエレメント類似性を決定するものである。予想される範囲は、例えば、すべてのリファレンスライブラリデータにわたってみられることになるそのエレメントの最大値と最小値の差によって決定することができる。次いで、エレメント類似性を平均することによってベクトル類似性を決定する。
【0043】
本発明で使用できる別の類似性演算子では、2つの観察ベクトルのベクトル類似性は、n次元空間における2つのベクトル間のユークリッド距離の大きさと1とを足した量の逆数に等しく、ここでnは各観察におけるエレメント数である。
エレメント類似性は、比較される2つのスナップショットの、対応するエレメント対それぞれについて計算する。次いで、エレメント類似性を何らかの統計的な方式で組み合わせて、ベクトルごとの比較に関する一つの類似性スカラー値を生成する。2つのスナップショットに関するこの全体的な類似性Sは、N個(エレメントカウント)のsc値の平均値
【0044】
【数8】
【0045】
に等しいことが好ましい。
【0046】
その他の類似性演算子も、当業者には知られているかまたは知られるようになるであろうし、本明細書に述べるように本発明で採用することができる。前述の演算子に関する詳述は例示的なものであり、特許請求する本発明の範囲を限定するものではない。類似性演算子を後述のように本発明で使用して、残余のスナップショットと、初期故障モードを隠している残余スナップショットの診断ライブラリとの間の類似性の値を計算する。類似性演算に関する上の記述は、残余を使用した故障モードサイン認識にも同様に適用されることを理解されたい。
【0047】
図7に移ると、推算値の生成が更にフローチャートで示されている。ステップ702で、入力スナップショットベクトルyinおよび計算のためのアレイAと共に、行列Dを提供する。ステップ704でカウンタiを1に初期設定し、トレーニング行列D中の観察の数をカウントするのに使用する。ステップ706で、別のカウンタkを1に初期設定し(あるスナップショットおよび観察におけるセンサの数を、通しでカウントするのに使用する)、アレイAを、エレメントごとに0を含むように初期設定する。
ステップ708で、yinのk番目のエレメントとD中の(i番目,k番目)のエレメントとの間で、エレメントごとの類似性演算を行う。これらのエレメントは対応するセンサ値であり、一つは実際の入力からのセンサ値であり、一つはトレーニング履歴D中の観察からのセンサ値である。類似性演算は、2つの値の類似性の尺度を返す。これは通常、0(類似性なし)と1(同一)との間の値であり、これを一時的変数rに代入する。ステップ710で、rをセンサ数Mで割った値を、1次元アレイA中のi番目の値に加える。従って、A中のi番目のエレメントは、D中のi番目の観察に対するyinのエレメント類似性についての平均類似性を保持する。ステップ712で、カウンタkを増分する。
ステップ714で、D中の特定の観察におけるすべてのセンサをyinの対応するエレメントと比較し終えている場合、kはこのときMよりも大きいことになり、ステップ716でiを増分することができる。そうでない場合、yin中の次のエレメントとD中のそれに対応するエレメントを類似性のために比較する。
現在の実際のスナップショットyinのすべてのエレメントをD中の観察のすべてのエレメントと比較し終えたときは、ステップ718で、これがD中の最後の観察であるかどうかをテストする。そうである場合は、カウンタiはこのときD中の観察数Nよりも大きく、処理はステップ720に進む。そうでない場合は、ステップ706に戻り、アレイAを0にリセットし、エレメント(センサ)カウンタkを1にリセットする。ステップ720では、ここに示す式から、重みベクトルW(キャレット付き)を計算するものであり、
【0048】
【数9】
【0049】
は類似性演算を表し、通常はステップ708で使用したのと同じ類似性演算子である。ステップ722で、W(キャレット付き)の重みエレメントすべての合計を使用してW(キャレット付き)を正規化し、正規化された重みベクトルWを生み出す。これにより、後続のステップでW(キャレット付き)中で特に大きいエレメントがあった場合にその影響が改善される。ステップ724でこれを使用して、Dを用いた推算出力youtを生成する。
本明細書に詳述するようにプロセスまたはマシンを監視した結果としての、診断に使用できるさまざまな前処理済みデータの例を、 図8A〜8Dに関して示す。 図8Aには、監視され、モデル化され、 図2からの推算モデル240で推算された潜在的に多くのセンサのうちの1つである所与のセンサについての、実際の信号と推算信号との両方を示す。
【0050】
図8Bには、 図2の差分モジュール250で行われるような、 図8Aの信号の差分を計算することによって得られる残余信号を示す。 図8Bをよく見ればわかるように、センサ残余は0でない一連の値をとり、最終的に故障に至る。別の故障モードでは、一連の値はこれらと異なる値をとることがある。従って、監視対象システム中のすべてのセンサについての残余は、ある種類の故障の始まりを別の種類の故障と区別するための情報を含み、これは本質的に診断の第1ステップである。図8Cのアラートインデックスおよび 図8Dのアラート判断については後で論じるが、これらもまた、起ころうとしている故障を診断するのに使用することのできる情報を提供する。図8Dで、下部の線810上の各星印は、所与の入力スナップショットに関して、このセンサについては実際の値と推算値とが同じであるという判断を示す。上部の線820上の星印は、一連のスナップショット中で、このセンサの推算値と実際の値とが異なって現れる点を示す。
所与のセンサ推算値に対してアラートするか否かを決定するための、本発明によって使用できる判断技法の1つは、そのセンサの残余に対してしきい値を採用するものである。従来技術で使用されているしきい値は、一般にセンサの大まかな値に対して使用され、従って、測定されたパラメータがその正常なダイナミックレンジにわたって動くときにアラートするのを回避するために、十分に広くまたは高く設定しなければならない。残余しきい値は、はるかに高感度かつ正確であり、センサ値推算を用いることによって可能になる。残余は、実際の観察されたセンサ値と、システム中の他のセンサの値に基づいた(本明細書で述べる類似性エンジンなどの経験モデルを使用する)その値の推算値との間の差分なので、残余しきい値は、予想される零平均残余のあたりに設定するとともに、そのセンサによって測定されるパラメータのダイナミックレンジよりもかなり狭い可能性のあるレベルに設定する。本発明によれば、残余しきい値は、各センサごとに別々に設定することができる。残余しきい値は、リアルタイム監視モードに入る前に決定および固定しておくことができる。通常の残余しきい値は、経験的に決定された分散または残余自体の標準偏差の倍数として設定することができる。例えば、所与の残余信号についてのしきい値は、正常動作の場合に生成された残余データのウィンドウにわたる、この残余について決定された標準偏差の2倍に設定することができる。あるいは、しきい値は、選択された数の先行サンプルの動くウィンドウから決定された分散の標準偏差の乗数に基づいて、各残余ごとに「オン・ザ・フライ」で決定することもできる。従って、所与の残余にその場で適用されるしきい値は、過去の100個の残余データ値から決定された標準偏差の2倍とすることができる。
所与のセンサ推算値に対してアラートするか否かを決定するための、本発明により使用できる別の判断技法は、逐次確率比試験(SPRT)と呼ばれるものであり、これは前述のGross他に付与された米国特許第5764509号に記載されている。これはまた、ワルド(Wald)およびウルフウィッツ(Wolfowitz)の理論「Optimum Character of the Sequential Probability Ratio Test(逐次確率比試験の最適の特徴)」、Ann.Math.Stat.19、326(1948)から、当技術分野では知られている。大まかに言えば、特定のセンサについての一連の推算値に対し、このテストでは、事前選択済みの外れおよび誤りのアラームの比率を用いて、推算値と実際値とが統計的に同じか異なるか、即ち、同じ確率分布に属するか異なる2つの確率分布に属するかを判断することができる。
【0051】
SPRT技法の基本的な手法は、サンプリングされたパラメータの連続的な観察を分析するものである。監視されるパラメータの推算値と実際値との間のサンプリングされた一連の差分は、何らかの種類の分布関数に従って零平均あたりに分布するはずである。通常これはガウス分布になるが、異なる分布になる場合もあり、例えば、2つの離散値だけをとるパラメータの場合の二項分布になる場合もある(これは遠隔通信およびネットワーキングのマシンおよびプロセスでよくみられる)。次いで、各観察ごとに、テスト統計を計算し、1または複数の判断限度またはしきい値と比較する。SPRTテスト統計は一般に尤度比lnであり、これは、仮説H1が真である確率と仮説H0が真である確率との比
【0052】
【数10】
である。上式で、Ynは個々の観察であり、Hnはこれらの仮説についての確率分布である。この一般的なSPRTテスト比を判断しきい値と比較して、任意の観察による判断に達することができる。例えば、結果が0.80よりも大きい場合、H1が当てはまると判断し、0.20よりも小さい場合、H0が当てはまると判断し、この間である場合は判断を行わない。
【0053】
SPRTテストは、それぞれの分布のさまざまな統計尺度に適用することができる。従って、ガウス分布の場合、第1のSPRTテストを平均に適用し、第2のSPRTテストを分散に適用することができる。例えば、0の周りで分布すべき残余などのデータについて、正の平均テストと負の平均テストとがあるものとすることができる。正の平均テストは、一連の値が0の周りの分布H0に属する尤度と、正の値(通常は0よりも上の1標準偏差)の周りの分布H1に属する尤度との比に関係する。負の平均テストは、H1が0から1標準偏差を引いた値の周りであることを除いては同様である。更に、分散SPRTテストは、一連の値が、既知の分散を有する第1の分布H0に属するか、既知の分散の倍数に等しい分散を有する第2の分布H2に属するかをテストするものとすることもできる。
【0054】
既知の正常動作から得られた残余では、平均は0であり、分散を決定することができる。次いでランタイム監視モードで、平均SPRTテストの場合、H0が真である尤度(平均は0であり分散はσ2)は、
【0055】
【数11】
以下の式によって得られる。同様に、H1の場合も、平均はMであり(正常動作からの残余について決定された分散を使用し、通常は0よりも1標準偏差だけ上か下)、分散はやはりσ2である(分散は同じと仮定する)。
【0056】
【数12】
この場合、式6および式7からの比lnは
【0057】
【数13】
のようになる。
【0058】
SPRT統計は、平均テストの場合、式8中の指数として定義することができる。
【0059】
【数14】
SPRTテストでは、ユーザによって選択可能な誤りアラーム確率αおよび外れアラーム確率βにより、以下の判断を行うためにSPRTmean(SPRT平均)をテストするのに使用できるしきい値を提供することができるので、有利である。
【0060】
1. SPRTmean≦ln(β/(1−α))の場合は、仮説H0を真として受け入れる、
2. SPRTmean≧ln((1−β)/α)の場合は、仮説H1を真として受け入れる、
3. ln(β/(1−α))<SPRTmean<ln((1−β)/α)の場合は、判断を行わず、サンプリングを継続する。
【0061】
分散(variance)SPRTテストの場合、問題となるのは、2つの仮説、即ち平均0および分散Vσ2のガウス確率密度関数を残余が形成する仮説H2と、平均0および分散σ2のガウス確率密度関数を残余が形成する仮説H0との間で、判断することである。H2が真である尤度は、
【0062】
【数15】
によって得られる。
【0063】
次いで、分散SPRTテストの場合、比lnは式6に対する式10の比としてもたらされ、
【0064】
【数16】
がもたらされ、次いで、分散テストの場合のSPRT統計は
【0065】
【数17】
のようになる。
【0066】
この後、上記のテスト(1)〜(3)を前述のように適用することができる。
1. SPRTvariance≦ln(β/(1−α))の場合は、仮説H0を真として受け入れる、
2. SPRTvariance≧ln((1−β)/α)の場合は、仮説H2を真として受け入れる、
3. ln(β/(1−α))<SPRTvariance<ln((1−β)/α)の場合は、判断を行わず、サンプリングを継続する。
【0067】
SPRTテストモジュールへ渡される各スナップショットは、スナップショット中の各パラメータごとに、正の平均、負の平均、および分散についてのSPRTテスト判断を有することができる。本発明による経験モデルベースの監視システムでは、このような任意のパラメータに対して行われ、その結果としてH0以外の仮説が真として受け入れられることになるこのようなSPRTテストは何れも、実際上はそのパラメータに対するアラートである。当然、SPRTテストと出力アラートの間に論理を挿入し、それにより、アラートがパラメータに対して生成されるためには、平均SPRTテストと分散SPRTテストの両方に、H0でない結果の組合せが必要となるようにすること、またはこのような他の何らかのルールが必要となるようにすることも、本発明の範囲に含まれる。
【0068】
次に、モデルベース監視システムと組み合わせる診断機能に移る。 図9に実施形態902を示すが、この実施形態は、故障モード認識のために監視データを故障サイン認識モジュール916へ渡すための3つの代替経路906、910、914(破線)を示している。図では、対象のマシンまたはプロセス918に複数のセンサ920が装備されている。センサデータは、モデル922(好ましくはリファレンスライブラリまたはトレーニングセット923を備えた経験モデル)へ渡され(好ましくはリアルタイムで)、また差分モジュール924へも渡される。モデル922は推算値を生成し、推算値は差分モジュール924で実際のセンサ値と比較されて残余が生成され、残余はアラートテスト927へ渡される。アラートテスト927は、SPRTでもよく、また、前述の残余しきい値アラートでもよく、また、残余に基づく他の任意のアラート技法でもよい。前述のように、正常からの逸脱が検出されると、アラートが生成される。オプションで、アラートを、任意の診断情報に加えてシステムから出力することもできる。経路906は、実際のセンサスナップショットを故障サイン認識モジュール916へ渡すことができることを示し、これによりモジュール916は、実際のスナップショットを故障モードデータベース930中の記憶済みスナップショットと比較し、十分な一致がある場合(後述する)は、実際のセンサスナップショットによって隠されている故障モードに対応する故障モードを出力する。経路910は代替の実施形態を表し、この代替の実施形態では、残余スナップショット(監視される各センサごとに通常は0に近い値を含む)をモジュール916へ渡し、認識済みの故障モードに先行することが知られている記憶済み残余スナップショットと比較し、一致があれば(後述する)、対応する故障モードを出力する。第3の代替形態では、経路914により、テストアラート、より具体的にはSPRTアラートまたは残余しきい値アラートを、テスト927からモジュール916へ供給する。モジュール916は、これらのアラートまたは一定時間にわたる一連のこれらのアラートを、データベース930に記憶されたSPRTまたは残余しきい値アラートパターン(後述する)と比較し、一致があれば、対応する故障モードを出力する。本明細書で述べられているが、故障モードの出力は、1または複数の起こり得る故障モード、調査行動の提案、および解決行動の提案を表示または通知するものとすることができ、これらはすべて、関連する故障モードサインと共にデータベースに記憶されている。この発明的なシステムではまた、データベース930中の故障モードがどれも故障の前兆データと十分に一致しない場合に、実際のスナップショット、残余スナップショット、またはアラートパターンに基づいて、ユーザが新しい故障モードを追加することもできる。このように、故障サインについて3つのデータソースを認識することができ、これらは、1)対象のマシンまたはプロセスからくる実際のセンサデータ、2)差分モジュールからくる残余データ、3)SPRTまたはアラートテストパターンとして呈示される。
【0069】
図1の一般化されたモデルで、類似性エンジンを利用して故障モードサイン認識を行うことができ(最初のモデル化および推算値生成を行うのに類似性エンジンを使用するかどうかにかかわらず)、この故障モードサイン認識では、データベース140を使用して残余信号と実際の信号のどちらかに作用して、関連する故障モード確率を用いて、自動フィードバック制御のために起こり得る故障モードを識別する。サイン認識モジュール140には、既知のモードの歴史に残る故障まで至るサインの履歴データ(実際の値または残余)を提供することができる。故障モード認識は、従来の類似性演算子監視技法による進行中の通常動作と並行して、実行することができる。
【0070】
図10に移ると、オンボード自己診断機能を有するように設計された複数の同一マシンの生産工程に本発明を適用するために、サイン照合用の前兆データおよび関連する確率および行動提案を図9の故障モードデータベース930(または 図1のデータベース140)へ配するための実施方法が示されている。このようなマシンの例は、測量・記録・制御などのために器機を装備した電気モータである。ステップ1010で、複数の同一マシンに、当技術分野で行われるようにセンサを装備する。マシン設計のさまざまな故障モードを発見するために、これらのマシンを故障して壊れるまで稼動させる。従って、各故障モードの尤度に関する何らかの統計尺度を提供し、各故障モードについての十分な代表的前兆データを提供するために、十分に多くの数のものを使用すべきである。ステップ1015で、試験用器機を装備したマシンを日常業務の動作範囲にわたって稼動させて、データ収集を行う。経験モデルの監視方法を用いる場合は、ステップ1020で、経験モデル用のリファレンスライブラリを構築するのに使用するために少なくともいくらかのデータ(マシンが悪化し始める前の初期のマシン動作からのデータが好ましい)を取り込む。ステップ923で、マシンすべてを故障するまで稼動させ、故障するのに伴ってセンサからデータを取り込む。
【0071】
ステップ1031で、取り込んだデータを処理して、前兆データを故障モードごとに分離する。故障モードは、本発明のユーザによって選択されるものであり、各マシン故障の分析から得られた具体的な結果を論理的に分類したものである。分析結果を故障の「モード」へと論理的に分類することは、理にかなっているべきであり、その故障モードに至る前兆データが毎回同じまたは同様になる尤度に適合すべきである。ただし、この要件の他は、ユーザは適切と思われるように自由にモードを分類することができる。従って、例えば、電気モータの製造業者が、50個のモータを故障するまで稼動させ、分析のときに、結果を3つの主要な故障モード、即ち、固定子の問題と、機械回転部品と、絶縁巻線破壊とに関係する故障モードに分類することを選択することができる。これらがモータの故障モードの大部分を占める場合、製造業者は、他の故障モードを認識しないことを選択することができ、本質的に何らかの稀な故障の認識である故障モード認識を伴わずに、監視からのSPRTまたは残余しきい値アラートを受け入れることになる。
【0072】
本発明の別の方法によれば、当業者に知られている一般的に利用可能な分析方法を使用して、前兆データのストリームがどれくらい類似しているかに従って、故障の各インスタンスごとの前兆データを論理的グループへと自己編成することができる。例えば、ユーザは50個の故障したモータそれぞれにつき異なる前兆結果を予知したが、しかし、アラートの分析が、故障のうちの45個が明らかに、故障に至る3つの異なるアラートパターンのうちの1つを有することを示す場合(例えば、12個の故障が1つのパターンであり、19個の故障が別のパターンであり、14個の故障が第3のパターンであり、50個のうち残りの5個のパターンが、認識されないパターンに属しかつそれを定義される)、この異なる3つのパターンを故障モードとして扱うことができる。次いでユーザは、分析結果をどのような形で故障モードと一致させるかを決定し、かつ、それに基づいてこれらのグループに対してどの調査行動および解決行動を提案することができるか、および故障モードサイン情報と共に記憶するかを決定しなければならない。
【0073】
ステップ1031で前兆診断データを決定するために、1020の正常データを訓練し、リファレンスライブラリへと洗練し、そして前兆データストリームの入力に応答して推算値、残余、およびアラートを生成するようにオフラインで使用すべきである。
【0074】
最後にステップ1042で、診断前兆サイン、これらのサインの故障モード分類化と提案される行動とに関するユーザ入力、および経験モデルのリファレンスライブラリ(経験モデルを使用する場合)を、契約量の各マシンに付随するコンピューティングデバイスのオンボードメモリ記憶装置にロードする。こうして、分析された故障マシンの経験および経験的データを使用して自己診断結果を示すことのできるマシンを提供することができる。
【0075】
図11に移る。空の故障モードデータベースで開始することが望ましいかまたは必要な場合があり、これを実施する方法を示す。例えば、センサを有し、本発明の診断システムで改装されることになる産業プロセスの場合は、前兆データおよび故障モード情報を収集するために複数回にわたってこのプロセスを稼動させて故障させることができない場合がある。あるいは、このプロセス(またはマシン)のリアルタイム監視をアラート付きで開始し、故障モードが発生したときにそれらのモードを追加することが望ましい場合がある。ステップ1153で、センサがまだ適所に配置されていなければ、センサをプロセスに装備する。ステップ1157で、前と同様にセンサデータを収集し、プロセスを通常どおり動作させる。ステップ1161で、収集したデータを使用して、経験モデル化についてリファレンスライブラリを訓練する。ステップ1165で、得られたリファレンスライブラリを監視システムにロードし、ステップ1170で、プロセスをリアルタイムで監視する。ステップ1172で、故障(または初期故障アラートによって対処されて阻止された故障)が発生すると、ステップ1176でこの故障(または阻止された故障)を分析する。ステップ1180で、この故障の前の収集済みデータ(動作データをアーカイブするための履歴またはその他の記録機能から得られる)を検索し、ステップ1183で分析して(後述する)、この故障モードの前兆残余、アラート、または実際値を提供する。プロセスオペレータはまた、故障モード情報および関連する行動提案を故障モードデータベースに記憶するように促される。従って、故障に関する診断監視データが収集され、故障モードデータベースに記憶され、プロセスの監視を継続するにつれてますます改善される。
【0076】
故障モードデータベースにデータ配置する場合すべてにおいて、ユーザは故障の存在、タイプ、およびタイムスタンプを示す。プロセスまたはマシンが故障したことの指示は、何れの場合でもユーザの基準によって決まる。ある故障が、最初に、厳しい性能要件を有するユーザにとって発生したと見なされ、その後の2度目に、マシンまたはプロセス機械の消耗をいとわないユーザにとって発生したと見なされる場合もある。あるいは、故障の指示は、自動化されたシステムを使用して達成することもできる。例えば、当技術分野で知られているように実際のセンサ信号に適用される大まかなしきい値を使用して、故障の時を指示することができる。本発明のアラートは、故障を決定するために、しきい値を用いて処理するように又は何らかのベースラインと比較するようにすることもできる。従って、本発明によれば、故障タイムスタンプは、ユーザによって提供されるか、またはパラメータを故障しきい値に対して監視する別個の自動システムによって提供される。
【0077】
故障モードサイン分析のために、3つの一般的な可能性を提供することができる。それらは、例えば、残余スナップショット類似性、実際スナップショット類似性、またはアラートパターン相関である。本明細書で論じる残余スナップショット類似性は、前の残余スナップショットのライブラリ、即ち、識別された故障モードに先行して得られる差分信号のライブラリをもたらし、これを、前述の類似性エンジンおよび式4を使用して、現在の残余スナップショットと比較して、既知の故障モードの発生を決定することができる。残余診断を用いて、残余スナップショットを、既知の故障モードの前兆として識別し記憶する。ライブラリで使用される故障モード残余を表すスナップショットを選択し、故障モードの定義特性および故障モードの決定基準を決定するためには、さまざまな基準を採用することができる。
【0078】
診断に使用される実際スナップショット類似性も、残余スナップショット類似性と同一の様式で実施する。残余スナップショットを使用する代わりに、実際のスナップショットを前兆データとして使用する。次いで、後で更に詳しく述べるように、実際のスナップショットを前兆実際値の故障モードデータベースと比較し、これらの間の類似性が初期故障モードを示す。
【0079】
アラートモジュール出力は、それぞれの監視されるセンサの分解された入力について、その推算値が異なるか同じかについての判定を表す。これらを使用して、監視されているプロセスまたは機器の状態を診断することができる。いくつかの相違判断(センサに対するアラートあり)が、他の同一判断(センサに対するアラートなし)と共に、発生した場合、これらを、起こり得るマシン状態またはプロセス状態の指標として用いることができる。アラート判断によって診断ルックアップデータベースを索引付けして、本発明のシステムで監視されているプロセスまたは機器の状態を診断することができる。例えば、7つのセンサを使用してマシンを監視しており、前の分析経験に基づく場合には、特定の故障モードは、最初にセンサ#1および#3でアラートが生じることから明示され、更に、或る一般的有限範囲の時間後にセンサ#4に現れるアラートにより複合化し、次いで、このパターンの発生を記憶済みパターンと照合して故障モードを識別する。これらのような進展するセンサアラートパターンに従って故障モードを照合する手段の1つは、ベイズ信念ネットワーク(Bayesian Belief Networks)を使用することである。ベイズ信念ネットワークは、あるイベント連鎖を通じた確率の伝播を定量化する際に使用するものであり、当業者には知られている。しかし、これよりも単純に、単に、アラートしているセンサがデータベース中のセンサアラートといくつ対応するかを調べ、最良に一致したものを、識別された故障モード可能性として出力することで、照合を行うことができる。アラートパターンを記憶済みアラートパターンと照合するための別の方法によれば、アラートをピクセルの2次元アレイとして扱うことができ、当技術分野で知られている特徴認識技法を用いて、パターンと記憶済みパターンの類似を分析することができる。
【0080】
図12A、12B、12Cに移る。残余サイン手法および直接的なデータサイン手法の目的のために故障モード前兆スナップショットをライブラリへ組み込むときに、ユーザ指定の従来の故障点よりもどれだけ前に遡るかを自動的に選択するための、複数の方法が示されている。センサおよびモデル推算図(12A)、残余(12B)、およびSPRTアラート(12C)についてのグラフが示してある。従来技術の方法において理解されるであろう従来の故障点を、 図12Aおよび12Bでそれぞれ1207および1209として示す。従って、残余スナップショット類似性または実際スナップショット類似性の何れかのための故障モードライブラリを形成する代表セットを「トレーニング」するまたは代表セットへと純化するのに含める、指定の故障の前のスナップショットの数は、ユーザによって選択された固定数として、すべての故障または故障モードに全体的に、あるいは分析された各故障に特有に、決定することができる。言い換えれば、ユーザは単に、プロセスまたはマシンを監視するサンプリングレートに関する自分の知識に基づいて、故障時点に先行する例えば120個までのスナップショットを含めるように、指示するだけである。これにより、次いで、純化されることになる残余スナップショット(または実際のスナップショット)の範囲1224が決定される。
【0081】
範囲1224の長さを決定するための別の方法によれば、図12Cの線1220の位置を用いて、セット1224中で最も早いスナップショットを決定する。線1220は、最も早い一貫した、SPRTまたは残余しきい値方式でアラートされたスナップショットとして決定される。ここで「一貫した」とは、移動するウィンドウ中の少なくとも選択された数のスナップショットが、少なくとも選択された数のセンサについてアラートされることを意味する。従って、例えば、10個のセンサを備えるプロセスで、少なくとも2個のセンサが、7スナップショットの動くウィンドウ中で少なくとも3個のアラートを有していた場合、このウィンドウの開始(または終了)が範囲1224の開始を定める。しかしながら、これは、一貫したアラートがあるところまでのみ故障スナップショットよりも前へ遡って延びる。言い換えれば、少なくとも最低限の数のアラートが移動ウィンドウ中で時間Tに遡ってみられる場合であって、これ以前ではウィンドウが約T−50(スナップショット)付近になるまで最低限の数のアラートがみられない場合は、故障モード前兆選択のために延長される範囲は、T−50ではなくTまで遡って延長される。
【0082】
残余スナップショットまたは実際のスナップショットの範囲1224では、各スナップショットが各センサの残余値または実際値を含み、この範囲を、次いで、識別された故障モードについての代表セットに純化する。この純化プロセスは本質的に、図4および5で述べた、経験モデル化の場合のリファレンスライブラリを作り出すためのトレーニング方法と同じである。図5のフローチャートで述べたトレーニングプロセスを使用することができるが、当技術分野で知られているトレーニング方法や後に開発される他のトレーニング方法を使用することもできる。更に、故障のインスタンスが、すでに識別済みのモードであり前兆スナップショットのライブラリを保持している場合、このライブラリを増補することもできる。増補の方法の1つは、故障のすべての記録済みインスタンスから、その故障モードについての前兆スナップショットセットすべてを再び組み合わせ、この組み合わせに対してトレーニングプロセスを戻すものである。別の方法は、スナップショットの範囲1224を既存の純化済みライブラリに追加し、この組み合わせに対してトレーニングプロセスを戻すものである。
【0083】
この前兆データを処理して、前述の3つの故障診断技法から選択された発明的技法に適した代表データおよび関連する故障モードを提供する。このデータを故障モードに関する任意の既存のデータに追加し、システムを監視モードに設定し直す。システムは今や、特定の故障モードに至る前兆データに関してより多くのインテリジェンスを有する。
【0084】
コモディティマシンと同様、故障モードの細分性は完全にユーザ選択可能である。故障モードは厳密にユーザ定義とすることができ、その場合、ユーザは分析を行って原因を決定しなければならない。ユーザは更に、故障モードの名前および/またはIDも供給しなければならない。本発明のソフトウェア製品は、以下の項目を記憶するための空のデータ構造を提供することが好ましい。
【0085】
a.故障モードの名前またはID
b.原因は何かについての記述
c.講じるべき可能な防止ステップまたは治療ステップ
d.自動化された制御応答にリンクできる可能性
e.故障モードに関連する前兆サインデータ。
【0086】
図13に移る。図1からの故障モードデータベース140に含まれる故障モード前兆リファレンスライブラリ1305が、スナップショットのグループ1312、1315、1317を含んでいるのがわかる。これらのグループはそれぞれに故障モードA、B、Cに関連する前兆スナップショット(実際と残余の何れか)を表す。連続的な現在の入力スナップショット(実施される形態に応じて、実際または残余の何れか)のシーケンス1320を、パラメータ値に対するプレースホルダとしての点を有するベクトルとして示すが、これが、類似性エンジン1324(図1からの故障モードサイン認識モジュール120を備える)へ供給される。類似性エンジン1324は、モデル化および式4に使用される類似性演算子に関して先に述べたようにスナップショットごとの類似性を計算するように配置される。シーケンス1320のスナップショットはすべて、ライブラリ1305中のスナップショットがそうであるように、同一数のパラメータを有することが好ましい。推算値を生成するための前述の経験モデルとは異なり、エンジン1324は、前述の式1は実行せず、従って、何れの推算値も出力しない。しかし、その代わりに、現在の各スナップショットをライブラリ1305中の少なくともいくつかのモード、好ましくはすべてのモードについての各記憶済みスナップショットと比較したものである、スナップショット類似性スコアを出力する。
【0087】
図13の故障モード類似性エンジン1324は、 図14を考慮すればよりよく理解することができる。図14には、センサから得られた実際のデータか、又はセンサについての実際データと推算データとの差分から得られた残余データかの何れかの一つのスナップショット1407を、類似性演算子を使用してライブラリ1305中の故障モード前兆と比較したときの、比較結果が示されている。スナップショットごとの各比較から類似性の値が得られ、これらの値がグラフ1415に示されている。
【0088】
残余の類似性または実際信号の類似性を採用したときの本発明の診断システムの出力として示す1つまたは複数の故障モードを決定するために、このような識別される故障モードまたは起こり得る故障モードを選択する方法の1つを、図15に関して示す。リファレンスライブラリ1305は、複数の故障モード1312、1315、1317についての故障モードサインデータ(残余スナップショットまたは実際のスナップショットの何れか)を含む。類似性演算を用いて現在のスナップショットを比較し、リファレンスライブラリスナップショットとの各比較ごとに類似性スコアを生成する。リファレンスライブラリ中でのこのようなすべての比較の全体で最高の単一スナップショット類似性1550を有する故障モードを、示される故障モードとして指定する。示される故障モードを選択するための別の方法では、図16に示すように、所与の故障モードにおけるすべてのスナップショットのスナップショット類似性すべての平均を計算し、各故障モードの平均値1620、1630、1640を比較する。最高の平均類似性を有する故障モード1650を、現在のスナップショットに対して示される故障モードとして指定する。 図16に示した、所与の現在スナップショットに対して示される故障モードを指定する方法はどちらも、連続するスナップショットにわたっての示される故障モードを選択するためのいくつかの代替方法と組み合わせることができる。これにより、1つのスナップショットだけに基づいてユーザに故障モードが示されることはないが、 図15および 図16に従っての選択された故障モードのカウントが維持される、スナップショットの移動ウィンドウを使用して、ウィンドウにわたっての所与の故障モードについてのカウントが一定数を超えた場合に、初期故障の指示をユーザに出力することができる。例えば、最高の平均類似性を用いて故障モードを選択する方法(図16)を現在の各スナップショットに使用することができ、20スナップショットの移動ウィンドウを使用することができ、故障モードが初期故障モードとしてユーザに示されるためにはこのウィンドウ中で故障モードが少なくとも10回選択されなければならないというしきい値を採用する。20スナップショットのウィンドウにわたってシステム中のすべての故障モードについてのカウントを維持し、これらのうちの1つが10よりも高いカウントに達した場合、それを初期故障としてユーザに示す。
【0089】
所与の故障モードについてサインライブラリ中に記憶されたすべての残余スナップショットまたは実際スナップショットのセットにわたって類似性を統計的に組み合わせるための別の方法を使用して、「平均値」を得ることもできる。例えば、中間の2つの四分位数だけを使用してこれらを平均する方法(従って、極端な一致および極端な不一致を切り捨てる)や、最上位の四分位数だけを使用する方法などがある。各スナップショットにおいて1つまたは複数の示される「勝利した」故障モードを決定するために使用されるテストにかかわらず、「ビン(bins)」が、現在の各スナップショットごとに、示される故障モードに対する「投票(votes)」を、数十個から何百個ものスナップショットの移動ウィンドウにわたって適宜に累積する。また、しきい値を使用して、故障モードが「ラッチ」して人間のオペレータに例外状況として示されるようにすることもできる。
【0090】
別法として、このような何れのしきい値も使用せず、単に、移動ウィンドウについて、どの故障モードが、スナップショットからスナップショットにわたって、示される故障モードとして指定されるように最高のカウントを有するかを指示することも可能である。ユーザに示すことのできる別の有用なシステムの出力は、各故障モードごとのカウントを示し、ユーザがこの情報から、特定の故障モードがいつ優勢だと思われるかを決定できるようにするものである。正常動作時は、いくらかの雑音を伴って、ウィンドウ全体ですべての故障モードがほぼ等しいカウントを有する可能性が高い。しかし故障モードが正しく認識されるときは、その故障モードのカウントは上がり、他の故障モードのカウントは下がるはずであり、各故障モードが他の故障モードと比較してどれくらい可能性が高いかをユーザが測定するための計量値がもたらされる。
【0091】
図17に移る。示される故障モードがある場合にそれを指定するための複数の方法が、アラートパターンの使用に関して示されている。アラートテスト927(図9から)が、星印で示すように、連続するスナップショット1708のそれぞれで、信号線1704上にアラートを生成する。1つの方法によれば、所与のスナップショットでのアラートのパターン1715を、さまざまな故障モードについて記憶されたパターンと照合して、故障モードが示されるかどうかを決定することができる。別の方法によれば、アラートの累積パターン1720を記憶済みパターンと照合することができ、アラートの累積は、選択されたスナップショット数のウィンドウにわたって行う。更に別の方法は、シーケンス1730を照合するものであり、そこにおいて、センサはデータベース中のシーケンスに対してアラートするものであり、最初にセンサ1で生じ、次いでセンサ4、次いでセンサ9で生じたアラートが、最初にセンサ4で生じ、次いでセンサ1および9で生じたものとは異なるというものである。最後に、センサアラートのレート1740を記憶済みレートと照合することができる。これらの組み合わせを用いて、より複雑な故障モードサイン識別を実現することもできる。
【0092】
前述のアラートパターンの何れかに対するパターン照合は、いくつかの技法から選択することができる。例えば、記憶済みパターン中のすべてのアラートが瞬間パターン中にもみられ、かつ異質のアラートが瞬間パターン中にみられない限り、一致が示されないような、完全な一致を要求することができる。別法として、記憶済みパターン中でアラートを示すセンサの少なくとも例えば75%が瞬間パターン中でもアラートしているのがみられ、記憶済みパターン中に瞬間アラートの10%未満のものが見られないというような、実質的な一致を採用することもできる。一致するアラートおよび異質のアラートに対する厳密なしきい値を、全体的に設定してもよく、また、記憶済みの各パターンごとに設定してもよい。後者の場合、ある故障モードは、ちょうど65%の一致アラートおよび10%未満の異質アラートを許容することができ、第2の故障モードは、記憶済みアラートの少なくとも80%が一致し、瞬間パターン中で生じる5%未満の異質アラートが記憶済みパターン中にないときに、示されるものとすることができる。これらの限度は、認識することが望まれる故障モードを十分に区別するのに必要なように、また利益をもたらすのに十分な警告付きで、経験的に設定することができる。
【0093】
本発明によれば、パターン照合の結果として複数の潜在的な故障モードが得られた場合に、複数の故障モードを示すことも許容される。パターンを照合して一致の可能性の確率を提供する技法は、当技術分野で知られており、本発明の範囲内でこれらの何れかおよびすべてを採用することができる。
【0094】
図18に、本明細書に開示する発明的な診断手法の何れかのもののための物理的実施形態1820を示す。プロセスまたはマシン1822が、入力バス1824へセンサ出力を提供する。例えばプロセスは、化学処理プラントのプロセス制御システムとすることができ、バスは、業界で一般に使用されるフィールドバスタイプのアーキテクチャである。プロセッサ1826が、バス1824からの実際のパラメータの入力に応答してパラメータのモデル推算値を計算し、更に推算値を実際のセンサ値と比較してアラートテストを計算するように配置される。プロセッサ1826は更に、プログラムコードを記憶し且つモデルおよびサインデータがロードされたメモリ1828と結合されたときに、故障サイン認識を実行するようにも配置される。プロセッサは、故障が起ころうとしていると診断された場合の是正行動のために、プロセス制御システムへ制御コマンドを出力することができる。プロセッサはまた、得られた診断および付随するデータをディスプレイ1832へ出力することもでき、あるいはオプションで、送信機1830を介してリモート位置へ送信することもできる。送信機は、例えば、ウェブに接続されたデバイスや無線デバイスとすることができる。受信機(図示せず)は、ページャや、リモート位置にある別のデータ処理システムなどとすることができる。
【0095】
一般に、故障モードデータ記憶装置は、ハードディスクドライブ、不揮発性または揮発性メモリ、オンチップメモリなどの、任意の従来型のメモリデバイスとすることができる。実際のパラメータ値に応答してパラメータの推算値を生成するのに使用される経験モデル化データのためのデータ記憶装置は、故障モードサイン情報を含むデータ記憶装置と別でも同じでもよい。更に、故障モード行動提案を、前述の他のデータと一緒にまたは別に記憶することもできる。これは、本発明が、故障モードサイン認識システムを、自動的に保守要求を生成してこれらをスケジューリングする既存の保守動作リソースプランニングシステムと組み合わせることを含む場合に当てはまる。類似性ベースの残余または実際のセンサスナップショット故障モードサイン認識と、アラートパターンベースの故障モードサイン認識と、プロセスモデル化およびセンサ値推算と、実際値および推算値からの残余生成と、アラートテストとを行うための計算プログラムは、1つのプロセッサ上で実行してもよく、また、相互に同期または非同期で通信する複数のプロセッサにまたがって別々のタスクとして分散させてもよい。このようにして、本発明の診断システムは、監視対象のマシンに内蔵された単一のマイクロプロセッサを使用して実施する場合でも、あるいは、別々の位置にあってインターネットを介して通信し、監視対象のプロセスまたはマシンからおそらくリモートに位置するいくつかのコンピュータを使用して実施する場合でも、完全に本発明の範囲に含まれる。生データに応答して推算値を生成する類似性エンジンを備える計算プログラムはまた、残余スナップショットまたは実際スナップショットを故障モードに関連する記憶済みスナップショットと照合するのに使用するための類似性スコアを生成するプログラムされた類似性エンジンと同じでもよい。
【0096】
さまざまな態様で上記の好ましい実施形態に修正を加えることができることは、当業者には理解されるであろう。その他の変形も明らかに有効であり、本発明の範囲および趣旨に含まれる。本発明については特許請求の範囲に詳細に述べる。本発明の趣旨および範囲は、本発明の教示を熟知した当業者にとって明らかな、好ましい実施形態の修正および改変も含むものとする。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】図1は、本発明による、データベースを使用して、アラート信号または残余から、起こり得る故障モードを識別するための故障モードサイン認識の全体的な構成を示す。
【図2】図2は、SPRTアラートモジュールを備える従来技術の経験モデルベース監視システムを示す。
【図3】図3は、センサ信号のセットと、「スナップショット」の時間相関した観念とを示す。
【図4】図4は、本発明で用いられる経験モデルのトレーニング方法を示す。
【図5】図5は、 図4の本トレーニング方法のフローチャートである。
【図6】図6は、本発明で類似性エンジンにおける経験モデル化に使用することのできる類似性演算子を示す。
【図7】図7は、類似性演算を実施するためのフローチャートである。
【図8】図8Aないし図8Dは、本発明で使用される監視システムによる実際のセンサ信号、推定値、アラートインデックス、およびアラート判断を単一センサについて示す。
【図9】図9は、診断のために監視情報を使用する3つの代替経路を含む、本発明による監視システムのブロック図である。
【図10】図10は、同一マシンのセットのために診断ライブラリを確立するためのフローチャートである。
【図11】図11は、プロセスのために診断ライブラリを確立するためのフローチャートである。
【図12】図12Aないし図12Cは、故障モードサイン情報を選択するための代替範囲を示す。
【図13】図13は、類似性演算による故障モード認識を示す。
【図14】図14は、入力スナップショットに対する類似性スコア生成を示す。
【図15】図15は、診断される故障モードを最高の類似性スコアに基づいて選択することを示す。
【図16】図16は、診断される故障モードを最高の平均類似性スコアに基づいて選択することを示す。
【図17】図17は、アラートパターンに基づく故障モード認識を示す。
【図18】図18は、本発明のハードウェア実装形態の概略ブロック図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
システムにおける故障を診断するための監視装置であって、
前記システムに装備された複数のセンサ(215)から動作データスナップショットを受け取る手段と、
前記複数のセンサと同数の行と、所定の数の列とを有する行列を形成するリファレンスセット(D)を複数の前記動作データスナップショットから生成する手段と、
リアルタイムの動作データスナップショット(Yin)と前記リファレンスセット(D)との類似性演算に基づいて前記複数のセンサの推算値を生成する手段と、
前記複数のセンサの推算値に基づいて故障の診断を行う手段と、
を備える装置。
【請求項2】
前記複数のセンサの推算値と前記リアルタイムの動作データスナップショット(Yin)との差分を求めて残余データを生成する手段と、
を含み、
前記故障の診断が前記残余データに基づいて行われる、
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
各センサごとに別々に残余しきい値が設定されており、
前記残余データ及び前記残余しきい値に基づいてアラートが生成される、
請求項2に記載の装置。
【請求項4】
故障モード情報を含む故障モードデータベース(140)と、
前記リアルタイムの動作データスナップショット(Yin)と前記故障モード情報との類似性演算に基づいてスナップショット類似性スコアを出力する手段と、
前記スナップショット類似性スコアに応答して、故障モードを決定するための故障識別手段を更に備える請求項1乃至3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
故障モード情報を含む故障モードデータベース(140)と、
前記残余データと前記故障モード情報との類似性演算に基づいてスナップショット類似性スコアを出力する手段と、
前記スナップショット類似性スコアに応答して、故障モードを決定するための故障識別手段を備える請求項2または3に記載の装置。
【請求項6】
前記動作データスナップショットを受け取る手段が、故障した前記システムから故障した動作データスナップショットを受け取り、
前記システムは、複数の前記故障した動作データスナップショットから前記故障モードデータベース(140)を生成する手段を備える請求項4または5に記載の装置。
【請求項7】
決定された前記故障モードに応じて、講じるべき是正行動の情報を出力する行動出力モジュール(160)を備える請求項4乃至6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
システムにおける故障を診断する方法であって、
前記システムに装備された複数のセンサ(215)から動作データスナップショットを受け取る段階と、
前記複数のセンサと同数の行と、所定の数の列とを有する行列を形成するリファレンスセット(D)を複数の前記動作データスナップショットから生成する段階と、
リアルタイムの動作データスナップショット(Yin)と前記リファレンスセット(D)との類似性演算に基づいて前記複数のセンサの推算値を生成する段階と、
前記複数のセンサの推算値に基づいて故障の診断を行う段階と、
を備える方法。
【請求項9】
前記複数のセンサの推算値と前記リアルタイムの動作データスナップショット(Yin)との差分を求めて残余データを生成する段階と、
を含み、
前記故障の診断が前記残余データに基づいて行われる、
請求項8に記載の方法。
【請求項10】
各センサごとに別々に残余しきい値が設定されており、
前記残余データ及び前記残余しきい値に基づいてアラートが生成される、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
故障モード情報を含む故障モードデータベース(140)と、
前記リアルタイムの動作データスナップショット(Yin)と前記故障モード情報との類似性演算に基づいてスナップショット類似性スコアを出力する段階と、
前記スナップショット類似性スコアに応答して、故障モードを決定するための故障識別段階を更に備える請求項8乃至10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
故障モード情報を含む故障モードデータベース(140)と、
前記残余データと前記故障モード情報との類似性演算に基づいてスナップショット類似性スコアを出力する段階と、
前記スナップショット類似性スコアに応答して、故障モードを決定するための故障識別段階を備える請求項9または10に記載の方法。
【請求項13】
前記動作データスナップショットを受け取る段階が、故障した前記システムから故障した動作データスナップショットを受け取る工程を含み、
更に、複数の前記故障した動作データスナップショットから前記故障モードデータベース(140)を生成する段階を備える請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
決定された前記故障モードに応じて、講じるべき是正行動の情報を出力する行動出力モジュール(160)を備える請求項11乃至13のいずれかに記載の方法。
【請求項1】
システムにおける故障を診断するための監視装置であって、
前記システムに装備された複数のセンサ(215)から動作データスナップショットを受け取る手段と、
前記複数のセンサと同数の行と、所定の数の列とを有する行列を形成するリファレンスセット(D)を複数の前記動作データスナップショットから生成する手段と、
リアルタイムの動作データスナップショット(Yin)と前記リファレンスセット(D)との類似性演算に基づいて前記複数のセンサの推算値を生成する手段と、
前記複数のセンサの推算値に基づいて故障の診断を行う手段と、
を備える装置。
【請求項2】
前記複数のセンサの推算値と前記リアルタイムの動作データスナップショット(Yin)との差分を求めて残余データを生成する手段と、
を含み、
前記故障の診断が前記残余データに基づいて行われる、
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
各センサごとに別々に残余しきい値が設定されており、
前記残余データ及び前記残余しきい値に基づいてアラートが生成される、
請求項2に記載の装置。
【請求項4】
故障モード情報を含む故障モードデータベース(140)と、
前記リアルタイムの動作データスナップショット(Yin)と前記故障モード情報との類似性演算に基づいてスナップショット類似性スコアを出力する手段と、
前記スナップショット類似性スコアに応答して、故障モードを決定するための故障識別手段を更に備える請求項1乃至3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
故障モード情報を含む故障モードデータベース(140)と、
前記残余データと前記故障モード情報との類似性演算に基づいてスナップショット類似性スコアを出力する手段と、
前記スナップショット類似性スコアに応答して、故障モードを決定するための故障識別手段を備える請求項2または3に記載の装置。
【請求項6】
前記動作データスナップショットを受け取る手段が、故障した前記システムから故障した動作データスナップショットを受け取り、
前記システムは、複数の前記故障した動作データスナップショットから前記故障モードデータベース(140)を生成する手段を備える請求項4または5に記載の装置。
【請求項7】
決定された前記故障モードに応じて、講じるべき是正行動の情報を出力する行動出力モジュール(160)を備える請求項4乃至6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
システムにおける故障を診断する方法であって、
前記システムに装備された複数のセンサ(215)から動作データスナップショットを受け取る段階と、
前記複数のセンサと同数の行と、所定の数の列とを有する行列を形成するリファレンスセット(D)を複数の前記動作データスナップショットから生成する段階と、
リアルタイムの動作データスナップショット(Yin)と前記リファレンスセット(D)との類似性演算に基づいて前記複数のセンサの推算値を生成する段階と、
前記複数のセンサの推算値に基づいて故障の診断を行う段階と、
を備える方法。
【請求項9】
前記複数のセンサの推算値と前記リアルタイムの動作データスナップショット(Yin)との差分を求めて残余データを生成する段階と、
を含み、
前記故障の診断が前記残余データに基づいて行われる、
請求項8に記載の方法。
【請求項10】
各センサごとに別々に残余しきい値が設定されており、
前記残余データ及び前記残余しきい値に基づいてアラートが生成される、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
故障モード情報を含む故障モードデータベース(140)と、
前記リアルタイムの動作データスナップショット(Yin)と前記故障モード情報との類似性演算に基づいてスナップショット類似性スコアを出力する段階と、
前記スナップショット類似性スコアに応答して、故障モードを決定するための故障識別段階を更に備える請求項8乃至10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
故障モード情報を含む故障モードデータベース(140)と、
前記残余データと前記故障モード情報との類似性演算に基づいてスナップショット類似性スコアを出力する段階と、
前記スナップショット類似性スコアに応答して、故障モードを決定するための故障識別段階を備える請求項9または10に記載の方法。
【請求項13】
前記動作データスナップショットを受け取る段階が、故障した前記システムから故障した動作データスナップショットを受け取る工程を含み、
更に、複数の前記故障した動作データスナップショットから前記故障モードデータベース(140)を生成する段階を備える請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
決定された前記故障モードに応じて、講じるべき是正行動の情報を出力する行動出力モジュール(160)を備える請求項11乃至13のいずれかに記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2012−150820(P2012−150820A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−36903(P2012−36903)
【出願日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【分割の表示】特願2002−584179(P2002−584179)の分割
【原出願日】平成14年1月11日(2002.1.11)
【出願人】(502327355)スマートシグナル・コーポレーション (6)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【分割の表示】特願2002−584179(P2002−584179)の分割
【原出願日】平成14年1月11日(2002.1.11)
【出願人】(502327355)スマートシグナル・コーポレーション (6)
【Fターム(参考)】
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