説明

二フッ化カルボニルの製造方法

【課題】一酸化炭素とフッ素との反応によって生じる反応容器内の局所的かつ急激な温度上昇を抑制し、反応温度の均一化を可能にするとともに、半導体CVD用の洗浄ガス等として有用な二フッ化カルボニル(COF2)を、高純度、高収率で、かつエネルギー効率
よく得ることができる、工業的に有利な製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の二フッ化カルボニルの製造方法は、循環している二フッ化カルボニルガスに一酸化炭素ガスとフッ素ガスとを供給し、一酸化炭素ガスとフッ素ガスとを反応させて二フッ化カルボニルを生成させるとともに、二フッ化カルボニルガスを取り出す工程を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二フッ化カルボニルの製造方法に関する。
さらに詳しくは、半導体用エッチングや半導体用クリ−ニングガス等として注目されている二フッ化カルボニルの工業的に有利な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二フッ化カルボニル(COF2)は、半導体用エッチングガスや半導体用クリ−ニング
ガス等として注目される重要な化合物である。従来、一酸化炭素とフッ素ガスとを原料とする二フッ化カルボニルの製造方法としては、以下の特許文献等に記載されている方法が知られている。
(1)非特許文献1には、火炎反応により一酸化炭素とフッ素とを直接反応させて二フッ化カルボニルを製造する方法が記載されている。
(2)特許文献1には、一酸化炭素とフッ素とを直接反応させ、連続的に二フッ化カルボニルを製造する方法において、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴンから選ばれる第三成分ガスを少なくとも1種類以上添加して、動的状態かつ減圧下で、一酸化炭素とフッ素とを反応させて二フッ化カルボニルを製造する方法が記載されている。
(3)特許文献2には、一酸化炭素とフッ素ガスとを、希釈ガスとしてフッ化水素あるいは二フッ化カルボニルとともに、反応容器内に連続的に供給し、一酸化炭素とフッ素ガスとを、反応させて二フッ化カルボニルを製造する方法が記載されている。
(4)特許文献3には、一酸化炭素と金属フッ化物(MFX:Mは、例えばCo(x=2
)、Ce(x=4)等を示す。)との反応による二フッ化カルボニルを製造する方法において、同一反応容器内で、一酸化炭素と金属フッ化物とを反応させる工程と、金属フッ化物とフッ素とを反応させる工程とを、交互に繰り返すことを特徴とする二フッ化カルボニルの製造方法が記載されている。
【0003】
しかしながら、上記の(1)〜(4)の二フッ化カルボニルの製造方法は、以下の点で依然として改善の余地がある。
(1)の方法は、二フッ化カルボニルが生成するのと同時に、副生成物として四フッ化炭素(CF4)も生成するために、反応の制御や副生成物の分離が困難である。
【0004】
(2)の方法は、反応系のガス量が大きくなり、目的物である二フッ化カルボニルを分離精製するための設備費等が増大する。
(3)の方法は、激しい発熱反応を制御するために、多量の希釈ガスが必要であるために、希釈ガスの分離や再利用に、多大なエネルギーやコスト等を要する。
【0005】
(4)の方法は、一酸化炭素と金属フッ化物(MFX:Mは、例えばCo(x=2)、
Ce(x=4)等を示す。)との反応によって、金属フッ化物が再フッ素化するため、設備費等の増大や再フッ素化時のフッ素ロス等に問題があり、経済的な課題を有している。
【0006】
なお、非特許文献2には、反応物(ガス)を含む供給ガスを連続的に供給するための導入口と、生成物(ガス)を含む抜出ガスを連続的に抜き出すための排出口とを備えるリサイクル反応容器が開示されているが、このリサイクル反応容器を二フッ化カルボニルの製造に基いる旨の記載はない。
【非特許文献1】Handbook of Preparative Inorganic Chemistry, vol.1,second Ed.,p.206−207, Georg Brauer ed., Academic Press, New York、London (1963)
【特許文献1】特開2003−267712号公報
【特許文献2】国際公開第05−56472号パンフレット
【特許文献3】特開2003−146620号公報
【非特許文献2】「反応工学」(橋本健治、培風館、2003年、91〜99頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一酸化炭素とフッ素との反応は、きわめて大きな反応熱(約530 KJ/mol)を伴うため、当モルの一酸化炭素とフッ素ガスとを断熱条件で反応させると、反応容器内は数千℃にまで温度が上昇し、目的物であるフッ化カルボニルを得ることは出来ない。また、反応温度が高すぎると、テトラフルオロメタン(CF4)を含む分解生成物が副生され
る。
【0008】
そのため、一酸化炭素とフッ素とを反応させ、高収率、高選択率(副生成物の生成が少なく)でフッ化カルボニルを得るには、可能な限り低い温度で反応を行うことが重要である。
【0009】
そこで、従来は、反応容器に希釈ガスを供給することにより反応熱による反応容器内の反応温度の上昇を緩和していた。この場合、希釈ガスを反応容器内に供給するとともに、一酸化炭素ガスとフッ素ガスとを熱交換器等により冷却することが一般的であった。
【0010】
しかし、これらの方法の工業上の欠点としては、反応温度を低く維持するためには、多量の希釈ガス(例えば、窒素、アルゴンなど)が必要であり、得られるフッ化カルボニルの濃度が低くなることが挙げられる。その結果、二フッ化カルボニルを生成した後に、希釈ガスと二フッ化カルボニルとを分離して、高純度の二フッ化カルボニルを精製するには、多大なコストが必要となる。フッ化カルボニルは、常圧で沸点−83℃であり、希釈ガスとの分離には、高圧低温での蒸留操作等の分離操作を要する。
【0011】
また、希釈ガスとして、生成物であるフッ化カルボニルを用いる方法も、生成ガスより単離精製したフッ化カルボニルのかなりの部分を希釈ガスとして反応に再使用する必要があるために、希釈ガスの分離や再利用において必要となるエネルギーやコスト(エネルギー効率)の点で望ましくない。
【0012】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題を解決しようとするものであって、一酸化炭素とフッ素との反応によって生じる反応容器内の局所的かつ急激な温度上昇を抑制し、反応温度の均一化を可能にするとともに、半導体CVD用の洗浄ガス等として有用な二フッ化カルボニル(COF2)を、高純度、高収率で、かつ大量の希釈ガスを使用し、希釈
ガスの分離や再利用に大量のエネルギーやコストを必要とする従来の製造方法に比べて、大量のエネルギーやコストを消費することなく(エネルギー効率よく)得ることができる、工業的に有利な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上述の課題を解決すべく鋭意検討した結果、循環型反応容器内で循環している二フッ化カルボニルガスに、一酸化炭素とフッ素ガスとを供給しながら反応させ、二フッ化カルボニルガスを取り出すことにより、高純度の二フッ化カルボニルを効率的に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[9]に関する。
[1]二フッ化カルボニルガスを循環型反応容器内で循環させ、循環している二フッ化カルボニルガスに、一酸化炭素ガスとフッ素ガスとを供給し、一酸化炭素ガスとフッ素ガス
とを反応させて二フッ化カルボニルを生成させるとともに、二フッ化カルボニルガスを取り出す工程を有することを特徴とする二フッ化カルボニルの製造方法。
[2]前記循環型反応容器が環状の循環型反応容器であることを特徴とする[1]に記載の二フッ化カルボニルの製造方法。
[3]前記循環型反応容器に、一酸化炭素ガスとフッ素ガスとを、連続的に供給することを特徴とする[1]または[2]に記載の二フッ化カルボニルの製造方法。
[4]前記循環型反応容器から、連続的に二フッ化カルボニルガスを取り出すことを特徴とする[1]〜[3]の何れかに記載の二フッ化カルボニルの製造方法。
[5]前記循環型反応容器から取り出された二フッ化カルボニルガスに含まれる未反応のフッ素ガスを除去する工程をさらに含むことを特徴とする[1]〜[4]の何れかに記載の二フッ化カルボニルの製造方法。
[6]前記一酸化炭素ガスとフッ素ガスとの反応を、触媒を用いずに行うことを特徴とする[1]〜[5]の何れかに記載の二フッ化カルボニルの製造方法。
[7]前記循環型反応容器に単位時間当たりに供給されるフッ素ガス1モルに対する一酸化炭素ガスのモル比が0.8〜3.0であることを特徴とする[1]〜[6]の何れかに記載の二フッ化カルボニルの製造方法。
[8]前記一酸化炭素ガスとフッ素ガスとの反応を、50〜350℃の温度下で行うことを特徴とする[1]〜[7]の何れかに記載の二フッ化カルボニルの製造方法。
[9]前記一酸化炭素ガスとフッ素ガスとの反応を、0.01〜0.9MPaの圧力下で行うことを特徴とする[1]〜[8]の何れかに記載の二フッ化カルボニルの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、一酸化炭素ガスとフッ素との反応によって生じる反応容器内の局所的かつ急激な温度上昇を抑制し、反応温度の均一化を可能にするとともに、高純度、高収率で、かつ、エネルギー効率よく二フッ化カルボニルを製造できる方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の二フッ化カルボニルの製造方法は、二フッ化カルボニルガスを循環型反応容器内で循環させ、循環している二フッ化カルボニルガスに、一酸化炭素ガスとフッ素ガスとを供給し、当該一酸化炭素ガスとフッ素ガスとを反応させて二フッ化カルボニルを生成させるとともに、二フッ化カルボニルを取り出す工程を有している。
【0017】
また、二フッ化カルボニルを安定的に製造することができるという観点から、本発明の二フッ化カルボニルの製造方法において、循環型反応容器に、一酸化炭素ガスとフッ素ガスとを、連続的に供給することが好ましく、あるいは循環型反応容器から、連続的に二フッ化カルボニルガスを取り出すことが好ましい。
【0018】
また、本発明の二フッ化カルボニルの製造方法において、前記一酸化炭素ガスとフッ素ガスとの反応を、触媒を用いずに行うこともできる。
なお、循環型反応容器で二フッ化カルボニルガスが循環される前に、二フッ化カルボニルガスが循環型反応容器内部に充填されているが、一酸化炭素ガスとフッ素ガスとを反応させて二フッ化カルボニルを生成させている間にも、新たに二フッ化カルボニルガスを循環型反応容器内部に供給してもよい。
【0019】
また、上記反応容器内で生成された二フッ化カルボニルガスを連続的に取り出した後、該二フッ化カルボニルガスを再度、循環型反応容器に供給することによって反応容器内の反応条件を調節することができる。
【0020】
本発明で使用される循環型反応容器とは、管状の反応容器の端部同士が閉鎖的に連結され、この閉鎖的に連結した反応容器の内部に供給されたガスが、同一経路内で循環するよ
うに構成された反応容器である。
【0021】
また、反応容器内の反応ガスの濃度、圧力、温度等を均一化できる観点から、循環型反応容器としては、環状の循環型反応容器が好ましい。
循環型反応容器としては、例えば、橋本健治著の「反応工学」(培風館、2003年、91〜99頁)に記載されているような「リサイクル反応容器」が挙げられる。
【0022】
このような「リサイクル反応容器」について、図1の概念図に基づいて説明する。リサイクル反応容器10は、その内部にガス(供給ガス14a)を連続的に供給するための導入口12aを備え、その内部からガス(抜出ガス14c)を連続的に抜き出すための排出口12bを備えている。
【0023】
このリサイクル反応容器を二フッ化カルボニルの製造に用いる場合には、例えば、リサイクル反応容器10内に、二フッ化カルボニルガスを含む循環ガス14bを予め充填し、導入口12aから新たに供給ガス14a(一酸化炭素ガスおよびフッ素ガス)を供給し、予め充填された二フッ化カルボニルガスとともに、供給ガス14aを、ガスブロワーなどの循環手段(図示せず)によって、リサイクル反応容器内部にて循環させる。こうすることで、循環している二フッ化カルボニルガス中で一酸化炭素ガスとフッ素ガスとが反応して、二フッ化カルボニルが生成する。二フッ化カルボニルは、連続的に排出口12bから抜き出される。抜き出された二フッ化カルボニル(抜出ガス14c)には、未反応の一酸化炭素ガスやフッ素ガスが混ざっている場合もある。このようなリサイクル反応容器を使用することで、一酸化炭素ガスとフッ素ガスとを、定常的に反応させることができる。
【0024】
なお、導入口12aや排出口12bは、本反応容器にそれぞれ複数設置されていてもよ
い。
下記式(1)で定義される循環比(F1/F2)は、循環型反応容器内で、二フッ化カルボニルガスおよび一酸化炭素ガスおよびフッ素ガスが循環する途上に設置されたガスブロワーなどの循環手段により、二フッ化カルボニルガス、一酸化炭素ガスおよびフッ素ガスの流量を調節することで、任意の値に設定できる。
【0025】
循環比=F1/F2 (1)
F1:循環型反応容器内で循環しているガス(二フッ化カルボニルガス、一酸化炭素ガスおよびフッ素ガス、さらに副成ガスが含まれることもある。)の流量(ml/分)
F2:循環型反応容器外に取出されるガスの流量(抜出ガス流量)(ml/分)
この循環比が大きいと、反応系の均一性が高まるので、一酸化炭素ガス、フッ素ガスおよび二フッ化カルボニルガスが均一に混合され、一酸化炭素ガスとフッ素ガスとの反応によって生じる熱を効率的に除くことができる。そして、循環型反応容器全体の温度分布が小さくなるために、循環型反応容器内での反応温度を均一に維持できるとともに、副反応を抑制することができる。このような点を考慮すると、循環比は、通常4以上、100以下であることが好ましく、7〜50であることがより好ましい。循環比が上記範囲よりも小さすぎると、循環型反応容器内の反応温度が不均一となる。一方、循環比が上記範囲よりも大きすぎると、生産効率が低下する。
【0026】
また、反応時間に相当する滞留時間(τ)は、循環型反応容器の容量(V)と抜出しガス量(F2)により決定され、τ=V/F2の関係が成り立つ。
二フッ化カルボニルの生成反応の反応速度はきわめて速いため、滞留時間(τ)は、30〜120秒程度で十分である。
【0027】
また、循環型反応容器の容量は、二フッ化カルボニルの反応熱によって内部温度が上昇した循環型反応容器が冷却されるのに必要な伝熱面積が確保できる程度の容量があればよ
い。
【0028】
一酸化炭素ガスやおよびフッ素ガスは、例えば、リサイクル循環型反応容器等の循環型反応容器の導入口から、それぞれ個別に供給されてもよく、また一箇所の導入口から混合された状態で供給されてもよい。
【0029】
一酸化炭素ガスとフッ素ガスとの反応である直接フッ素化反応は極めて大きな反応熱を伴い、混合部分や循環型反応容器内部でホットスポットが発生して異常発熱が引き起こされ、循環型反応容器内部の反応温度を一定に維持することができない場合がある。そこで、循環型反応容器内部の反応温度を一定に維持するために、循環型反応容器は、一部あるいは全体を冷却して、反応温度を制御できるように設計されていることが好ましい。例えば、循環ガス反応管の廻りに外套管を設置し、冷却水を通すことにより、反応熱を除去でき、循環型反応容器内の温度を一定に保つことができる。
【0030】
また、高温になると副反応が起こるため、それを防ぐという観点から、一酸化炭素ガスとフッ素ガスとの反応は、低温下で行うことが好ましく、50〜350℃の温度の下で行うことがより好ましく、100〜300℃とすることがさらに好ましい。
【0031】
循環型反応容器に単位時間当たりに供給されるフッ素ガス1モルに対する一酸化炭素ガスのモル比は、0.8〜3.0が好ましく、1.0〜2.0がより好ましい。この供給モル比が、上記範囲よりも小さすぎると、未反応フッ素ガスが多くなり、生成物中から未反応フッ素ガスを除去するための設備の費用が増大する。一方、供給モル比が、上記範囲よりも大きすぎると、過剰の一酸化炭素を分離するために要するエネルギーが増大する。
【0032】
一酸化炭素ガスとフッ素ガスとの反応は、0.01〜0.9MPaの圧力下で行うことが好ましく、0.1〜0.6MPaの圧力下で行うことがより好ましい。圧力が上記範囲よりも大きすぎると、耐圧設備の費用が増大する。一方、圧力が上記範囲よりも小さすぎると、生産性が低下する。
【0033】
循環型反応容器中の不均一な温度分布は、循環型反応容器内部で発生したホットスポットによる異常発熱に起因する。この循環型反応容器中の不均一な温度分布は、副反応の増大などを引き起こす点で、きわめて深刻であるが、上述の循環比、循環型反応容器の容量を設定したり、反応容器の冷却装置を設置したりすることにより、容易に循環型反応容器中の温度を制御することができる。
【0034】
また、未反応のフッ素ガスを含む二フッ化カルボニルを、公知の蒸留装置に導入すると、フッ素ガスの濃縮等により、爆発や発熱などの危険性が高まる可能性がある。そのため、本発明の二フッ化カルボニルの製造方法は、循環型反応容器から取り出された二フッ化カルボニルに含まれる未反応のフッ素ガスを除去する工程をさらに含むことが好ましい。
【0035】
二フッ化カルボニルに含まれる未反応のフッ素ガスを除去する方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
(1)一定温度に保たれた別の循環型反応容器に接続して、さらに二フッ化カルボニルに含まれる未反応のフッ素ガスと一酸化炭素と反応させることによって、未反応のフッ素ガスを除去する方法
(2)未反応のフッ素ガスを含む二フッ化カルボニルをアルミナ等と接触させて除去する方法、が挙げられる。例えば、循環型反応容器の排出口にアルミナ等の金属化合物を含むフィルターを設置し、循環型反応容器から取り出された二フッ化カルボニルをこのフィルターに通過させて、未反応のフッ素ガスを除去してもよい。
【0036】
これらのいずれの方法も好適に使用することができるが、経済的であるという観点から、(2)の方法が好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の二フッ化カルボニルの製造方法について実施例を示して説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
[実施例1]
(循環型反応容器)
SUS316管(長さ:120cm、内径:1/2インチ)の端部同士を連結して環状の循環型反応容器を作成した。この循環反応容器内に送風機(ガスブロワ−)を取り付け、管内でガスが循環できるようにし、該容器内の循環速度を測定するためのフローメーターを設置した。また、この循環型反応容器に3箇所のノズルを取り付けた。これらのノズルのうち、2箇所のノズルは、導入口であり、原料の一酸化炭素ガス(CO)およびフッ素ガス(F2)を、該導入口に設置されたマスフロー装置によって定量的に供給できるよ
うになっている。他の1箇所は、排出口であり、二フッ化カルボニルガスを、該排出口に設置されたマスフロー装置によって定量的に取り出せるようになっている。また、この循環型反応容器の一部分(120cmのうち50cm)を外套管(ジャケット式)で覆い、この外套管に冷却水を流すことによって、循環型反応容器内を冷却して温度を制御できるようにした。
(フッ素化反応)
循環型反応容器内の2箇所の導入口のうち1箇所の導入口から、二フッ化カルボニルを、該反応容器内の圧力が0.1MPaとなるまで、充填し、ガスブロワ−で3L/min
の循環速度で循環型反応容器内を循環させた。
【0038】
ついで、前記反応容器の外套管に冷却水を流し、2箇所の導入口のうち、一方の導入口からフッ素ガス(F2)を、250 ml/minでの導入量で連続的に導入し、もう一
方の導入口から一酸化炭素ガス(CO)を、300 ml/minの導入量で連続的に導入し、循環型反応容器内のガスを、上記ガスブロワーにより、3L/minの循環速度で、循環させながら、フッ素ガスと一酸化炭素ガスとを反応させた。また、排出ノズル(排出口)から約300ml/minの抜出し量で、ガスを取り出した。この時の反応容器内の温度は135℃、反応容器内の圧力は0.1MPaに維持されていた。さらに、この温度条件および圧力条件で、フッ素ガスと一酸化炭素ガスとの反応を継続し、一酸化炭素ガスとフッ素ガスとを循環型反応容器内に導入し始めてから約1時間経過後、排出口から抜き出されたガスを評価のために採取した。
(評価)
評価のために採取したガスを、ガスクロマトグラフィーを用いて、分析したところ、二フッ化カルボニル(COF2)が82体積%(標準状態、以下同様)、COが16体積%
、テトラフルオロメタン(CF4)が0.3体積%、その他の成分が1.7体積%であっ
た。
【0039】
また、以下の計算式(2)より求めた二フッ化カルボニルの収率は、98.4%であった。
収率=二フッ化カルボニルの実収量(体積%)/二フッ化カルボニルの理論収量(体積%
)×100 (2)
(ここで、「二フッ化カルボニルの理論収量」は、以下の式によって得られた数値である。「二フッ化カルボニルの理論収量」=[化学量論上生成し得る二フッ化カルボニル量(体積)]/[化学量論上生成し得る二フッ化カルボニル量(体積)+化学量論上反応しないCOまたはF2量(体積)]×100)
この条件では、「二フッ化カルボニルの理論収量」は、250(ml/min)×導入時間/[250(ml/min)×導入時間+(300−250)(ml/min)×導入時間]=8
3.3体積%である。
[実施例2]
(循環型反応容器)
SUS316管(長さ:250cm、内径:1/2インチ)の端部同士を連結して環状の循環型反応容器を作成し、循環型反応容器の一部分(250cmのうち100cm)を外套管(ジャケット式)で覆って、この外套管に冷却水を流した以外は、実施例1の場合と同様の循環型反応容器を使用し、同一の反応条件で、一酸化炭素ガスとフッ素ガスとの反応を実施した。
(フッ素化反応)
循環型反応容器内の温度を175℃に維持し、循環型反応容器内のガスの循環速度を6L/minとし、一酸化炭素ガスの導入量を500ml/min、フッ素ガスの導入量を600ml/min、排出口の抜出し量を約595ml/minとした以外は、実施例1と同様の条件で反応を実施した。
(評価)
評価のために得たガスを実施例1と同様に、分析したところ、COF2が81.9体積
%(標準状態、以下同様)、COが0.02体積%、F2が15.9体積%、CF4が0.9体積%、その他の成分が1.3体積%であった。
【0040】
また、実施例1と同様に、二フッ化カルボニルの収率を計算したところ、97.498.3%であった。なお、この条件では、「二フッ化カルボニルの理論収量」は、500(ml/min)×導入時間/[500(ml/min)×導入時間+(600−500)(ml/min)×導入時間]=83.3体積%である。
[実施例3]
(循環型反応容器)
実施例2で使用した循環型反応容器と同様の循環型反応容器2基用意し、一方を第一循環型反応容器、もう一方を第二循環型反応容器とした。この第一循環型反応容器の排出口と第二循環型反応容器の導入口とを接続して、第一循環型反応容器の排出口からの抜出ガスが、第二循環型反応容器の導入口から第二循環型反応容器内に導入されるような構造とした。
(フッ素化反応)
第一循環型反応容器において、実施例2と同様の条件でフッ素化反応を実施した。
【0041】
また、第二循環型反応容器の外套管に冷却水を流し、循環型反応容器内の温度を135℃に維持した。
この第二循環型反応容器の導入口に、第一循環型反応容器の排出口から、第一循環型反応容器からの抜出ガスを約590ml/minの導入量で連続的に導入した。次いで、第二循環型反応容器の別の導入口から一酸化炭素ガスを95ml/minの導入量で連続的に導入し、該反応容器内で、導入された抜出ガスと一酸化炭素ガスとを、ガスブロワ−により2L/minの循環速度で循環させた。この時、排出ノズル(排出口)から約595ml/minの抜出し量で、該反応容器からガスを連続的に抜き出すことによって、第二循環型反応容器内の圧力を0.08MPaに、外套管への冷却水の供給量を調節することによって、この循環型反応容器内の温度を135℃に、それぞれ維持しつつ、循環している一酸化炭素ガスとフッ素ガスとを反応させた。
【0042】
さらに、この反応を継続し、一酸化炭素ガスとフッ素ガスとを循環型反応容器内に導入し始めてから、約1時間経過後、排出口から抜き出されたガスを採取した。
(評価)
評価のために得たガスを実施例1と同様に、分析したところ、COF2が97.7体積
%(標準状態、以下同様)、COが0.1体積%、CF4が0.9体積%、その他の成分
が1.3体積%であった。また、得られたガス中に含まれるフッ素ガス量は約1,200
体積ppmであった。
【0043】
また、実施例1と同様に、二フッ化カルボニルの収率を計算したところ、96.198.5%であった。なお、この条件では、「二フッ化カルボニルの理論収量」は、595(ml/min)×導入時間/[595(ml/min)×導入時間+(600−595)(ml/min)×導入時間]=99.2体積%である。
(フッ素ガスの除去)
上述の排出口より抜き出されたガス中に含まれるフッ素ガスを除去するために、内容積100mlの円筒形SUS容器(長さ:約15cm)にアルミナ約70mlを充填し、アルミナを充填した容器に、室温条件下で、第二循環型反応容器から得られた抜出ガスを、約95ml/minの導入量で導入し、約15分間、ガスをアルミナに接触させた。
【0044】
次いで、アルミナに接触させた後の出口ガスを採取し、実施例1と同様に、分析をしたところ、このガス中に含まれるフッ素ガス濃度は、10体積ppm以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の二フッ化カルボニルの製造方法によれば、一酸化炭素とフッ素との反応によって生じる反応容器内の局所的かつ急激な温度上昇を抑制し、反応温度の均一化を可能にするとともに、高純度、高収率で、かつエネルギー効率よく二フッ化カルボニルを製造できる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、本発明の二フッ化カルボニルの製造方法に使用される循環型反応容器を示す概念図である。
【符号の説明】
【0047】
10:リサイクル反応容器
12a:導入口
12b:排出口
14a:供給ガス;一酸化炭素ガスおよびフッ素ガス、または二フッ化カルボニルガス
14b:循環ガス(F1);反応容器内に供給されたガス、反応で生成したガスおよび未反応ガス
14c:抜出ガス(F2)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二フッ化カルボニルガスを循環型反応容器内で循環させ、循環している二フッ化カルボニルガスに、一酸化炭素ガスとフッ素ガスとを供給し、一酸化炭素ガスとフッ素ガスとを反応させて二フッ化カルボニルを生成させるとともに、二フッ化カルボニルガスを取り出す工程を有することを特徴とする二フッ化カルボニルの製造方法。
【請求項2】
前記循環型反応容器が環状の循環型反応容器であることを特徴とする請求項1に記載の二フッ化カルボニルの製造方法。
【請求項3】
前記循環型反応容器に、一酸化炭素ガスとフッ素ガスとを、連続的に供給することを特徴とする請求項1または2に記載の二フッ化カルボニルの製造方法。
【請求項4】
前記循環型反応容器から、連続的に二フッ化カルボニルガスを取り出すことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の二フッ化カルボニルの製造方法。
【請求項5】
前記循環型反応容器から取り出された二フッ化カルボニルガスに含まれる未反応のフッ素ガスを除去する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の二フッ化カルボニルの製造方法。
【請求項6】
前記一酸化炭素ガスとフッ素ガスとの反応を、触媒を用いずに行うことを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の二フッ化カルボニルの製造方法。
【請求項7】
前記循環型反応容器に単位時間当たりに供給されるフッ素ガス1モルに対する一酸化炭素ガスのモル比が0.8〜3.0であることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の二フッ化カルボニルの製造方法。
【請求項8】
前記一酸化炭素ガスとフッ素ガスとの反応を、50〜350℃の温度下で行うことを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の二フッ化カルボニルの製造方法。
【請求項9】
前記一酸化炭素ガスとフッ素ガスとの反応を、0.01〜0.9MPaの圧力下で行うことを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載の二フッ化カルボニルの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−95394(P2010−95394A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−265306(P2008−265306)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】