説明

二塩基酸の製造方法。

【課題】1,2−ジヒドロキシ−5,9−シクロドデカジエンからドデカン二酸などの有用なニ塩基酸の前駆体となる2−ヒドロキシシクロドデカノンを製造する簡便で新規な方法を提供するものである。
【解決手段】1,2−ジヒドロキシ−5,9−シクロドデカジエンを
(a)白金族触媒の存在下、
(b)水素圧力0.01〜4Mpa、
(c)反応温度40〜230℃で、
水素還元して得られた2−ヒドロキシシクロドデカノンを酸化剤で酸化するニ塩基酸の製造方法により解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,2−ジヒドロキシ−5,9−シクロドデカジエンを白金族触媒の存在下に水素還元して2−ヒドロキシシクロドデカノンとする方法に関する。
2−ヒドロキシシクロドデカノンは容易に酸化されて有用な酸化物に誘導される。具体的にはドデカン二酸に誘導でき、得られるドデカン二酸は、塗料、接着剤などの樹脂成分となり得るばかりではなく、ポリアミド12、ポリエステル等の合成繊維、合成樹脂の原料となる重要な化合物である。
【背景技術】
【0002】
従来、シクロアルカンジオール類をタングステン触媒の存在下に過酸化水素により酸化して二塩基酸を製造する方法が知られている。(非特許文献1)
しかし、この方法は、炭素数の少ないシクロアルカンジオール類では高収率で対応する二塩基酸が得られているが、炭素数の多いシクロアルカンジオール類、例えば、シクロドデカンジオールを使用した場合には、ドデカン二酸は10数パーセントの低収率でしか得られない。
さらに、この方法では触媒を多量に用いるため、環境には好ましくなく、また、過酸化水素の使用量が理論的に3倍モル以上を使用するため、経済的ともいえない。
一方、ドデカン二酸の中間原料として使用する2−ヒドロキシシクロドデカノンは、シクロドデカノンを蟻酸の存在下に、t−ブチルハイドロパーオキサイドなどの有機ハイドロパーオキサイドにより酸化して製造する方法(特許文献1)が知られている。しかし、この方法では高価な有機過酸化物を使用する必要があり、経済的でない。
このように、1,2−ジヒドロキシ−5,9−シクロドデカジエンを水素還元して2−ヒドロキシシクロドデカノンを製造する方法について記述された報告は、これまで全く知られていない。
【特許文献1】USP3755453
【非特許文献1】J.Org.Chem.1986,51,1602−1604
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、1,2−ジヒドロキシ−5,9−シクロドデカジエンからドデカン二酸などの有用な酸化物が得られる前駆体となる2−ヒドロキシシクロドデカノンを製造する簡便で新規な方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の課題は、
1,2−ジヒドロキシ−5,9−シクロドデカジエンを
(a)白金族触媒の存在下、
(b)水素圧力0.01〜4Mpa、
(c)反応温度40〜230℃で,
水素還元することを特徴とする2−ヒドロキシシクロドデカノンの製造方法により解決される。
【発明の効果】
【0005】
本発明により、1,2−ジヒドロキシ−5,9−シクロドデカジエンからドデカン二酸の中間原料となる2−ヒドロキシシクロドデカノンを製造する簡便で新規な方法を提供することができる。さらに得られた2−ヒドロキシシクロドデカノンを酸化することによりニ塩基酸を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の反応において使用する1,2−ジヒドロキシ−5,9−シクロドデカジエンは、たとえば、酸触媒の存在下に1,2−エポキシ−5,9−シクロドデカジエンを水和することにより、容易に得ることができる。
なお、1,2−エポキシ−5,9−シクロドデカジエンは、例えばシクロドデカトリエンを過酸を用いてエポキシ化することで得ることができる。
1,2−ジヒドロキシ−5,9−シクロドデカジエンには、シス体およびトランス体の異性体が存在するが、これら異性体の使用については何ら制限はなく、単独でも混合して使用してもよい。
【0007】
本発明の水素還元反応において使用する白金族触媒とは、ルレニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金から選ばれたすくなくとも一つの元素を含む化合物を不活性支持体に担持させた固体触媒、好ましくは粉末触媒、更に好ましくは平均粒径が数μm〜数百μmの粉末触媒である。前記不活性支持体としては、活性炭、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、ゼオライト、ズピネル等が好適に使用される。また、白金族元素の不活性支持体への担持量は、不活性支持体に対して0.1〜10重量%であるのが好ましく、さらに好ましくは0.2〜8重量%である。触媒中の白金族元素は、不活性支持体の表面又は内部、若しくは両方に担持されていても良い。好ましい白金族金属としては、パラジウムまたは白金、より好ましい白金族金属とは、パラジウムである。
【0008】
本発明の水素還元反応において使用する前記白金族触媒の量は、原料の1,2−ジヒドロキシ−5,9−シクロドデカジエンに対し白金族元素として、好ましくは0.00001〜0.1倍モル,さらに好ましくは0.00005〜0.05倍モルである。あまりに少なすぎると反応に長時間を要する。あまりに多いと目的物の収量が低下する傾向が生じ、好ましくない。
【0009】
本発明の水素還元反応では通常、有機溶媒を使用するが、使用する有機溶媒としては、例えば、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−テトラデカン、シクロヘキサン等の炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、メタノール、エタノール、t−ブタノール,t−アミルアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類が挙げられが、特にアルコール類を使用することが好ましい。
これら溶媒は単独でも、二種以上を混合して使用しても差し支えない。その使用量は、原料の1,2−ジヒドロキシ−5,9−シクロドデカジエンに対して、好ましくは0.1〜100重量倍、更に好ましくは0.2〜50重量倍である。
【0010】
本発明において、水素還元反応は、反応水素圧を0.01〜4MPaで反応温度は40〜230℃、好ましくは0.1〜3MPaで50〜200℃、より好ましくは、70〜200℃の条件下にて、初期は1MPa以下で2−ヒドロキシシクロドデカノンを収率でおよそ50モル%を得て、その後1〜3Mpaで水素化を行なう。
反応水素圧があまりに低いと、また反応温度があまりに低いと反応に長時間を要し好ましくない。また、反応水素圧が5MPa以上および反応温度があまりに高いと還元が進み目的物の収量が低下し、シクロドデカンジオールが多量に生成し、好ましくない。
本発明において得られた2−ヒドロキシシクロドデカノンは、通常は、溶媒を留去した後、2−ヒドロキシシクロドデカノンをそのまま蒸留するか晶析等によって高純度の2−ヒドロキシシクロドデカノンを得た後に、酸化反応工程に供与されニ塩基酸へ誘導される。
【0011】
2−ヒドロキシシクロドデカノンの酸化方法としては、一例としては、有機過酸や過酸化水素による酸化が行われる。
有機過酸や過酸化水素を用いた場合のニ塩基酸としては、ドデカン二酸やウンデカン二酸が挙げられる。
使用する有機過酸としては例えば、過酢酸、過プロピオン酸、過フタル酸、m−クロル過安息香酸などが挙げられる。
使用される過酸化水素は、特に制限はないが10〜70重量%、好ましくは30〜70重量%の水溶液である。
有機過酸や過酸化水素を使用してドデカン二酸を得る場合では、使用する酸化剤は、理論的には原料の2−ヒドロキシシクロドデカノンに対して2モル倍であるが、好ましくは1.5〜3.0モル倍、より好ましくは2.0〜2.8モル倍、さらに好ましくは2.1〜2.5モル倍である。使用量がこの範囲より少ないと未反応原料が増加し、多いと経済的ではない。
ドデカン二酸への酸化反応では触媒は特に使用しなくても良いが、過酸化水素を使用する場合には硫酸、トルエンスルホン酸、リン酸などの酸触媒あるいはタングステン化合物を使用することが望ましい。好ましくは硫酸、トルエンスルホン酸、リン酸などの酸触媒である。
使用する酸触媒の量は原料の2−ヒドロキシシクロドデカノンに対して、好ましくは5.0重量%以下、より好ましくは3.0重量%以下である。
【0012】
本発明の酸化反応で通常使用する有機溶媒としては、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸などの低級脂肪酸、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、t−ブタノール,t−アミルアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類が挙げられが、特に低級脂肪酸を使用することが好ましい。有機溶媒ではないが、水を使用することもできる。
これら溶媒は単独でも、二種以上を混合して使用しても差し支えない。その使用量は、原料の2−ヒドロキシシクロドデカノンに対して、好ましくは0.2〜50重量倍、更に好ましくは0.3〜10重量倍である。
反応温度は使用する酸化剤、溶媒によっても異なるが、好ましくは50〜150℃、より好ましくは60〜120℃である。
【0013】
2−ヒドロキシシクロドデカノンから誘導されるドデカン二酸は、通常、酸化反応液から再結晶にて分離・精製される。
【実施例】
【0014】
以下に実施例及び比較例を用いて、本発明を具体的に説明する。
【0015】
実施例1(2−ヒドロキシシクロドデカノンの合成)
攪拌機を備えた内容積100mlのSUS製オートクレーブに、1,2−ジヒドロキシ−5,9−シクロドデカジエン2.5g(12.8ミリモル)、イソプロピルアルコール50ml、及び5wt%Pd/C触媒0.03g(エヌイーケムキャット製;Pd原子として0.014ミリモル)を加え、窒素ガス雰囲気下に170℃に加熱した後、常圧で水素ガスを通気した。2時間反応した後、室温にて新たに5wt%Pd/C触媒0.06gを追加し、水素圧3MPa、100℃で1時間反応した。
反応終了後、室温にて触媒をろ過し、ガスクロマトグラフィーGCにより分析した結果、2−ヒドロキシシクロドデカノンの収率は91.9モル%であり、副生成物として1,2−シクロドデカンジオンが4.6モル%、1,2−シクロドデカンジオールが1.9モル%であった。
【0016】
比較例1
攪拌機を備えた内容積100mlのSUS製オートクレーブに、1,2−ジヒドロキシ−5,9−シクロドデカジエン2.5g(12.8ミリモル)、イソプロピルアルコール50ml、及び5wt%Pd/C触媒0.03gを加え、水素圧 5MPa、80℃で3時間反応した。反応終了後、室温にて触媒をろ過し、GCにより分析した結果、1,2−シクロドデカンジオールが96モル%生成しており、2−ヒドロキシシクロドデカノンは生成していなかった。
【0017】
実施例2(ドデカン二酸およびウンデカン二酸の合成)
内容積50mlのガラス製フラスコに2−ヒドロキシシクロドデカノン(純度98%)1.0g(5.0ミリモル)、酢酸1.4ml、60重量%過酸化水素水0.70g(12.4ミリモル)、濃硫酸0.012g(0.12ミリモル)を仕込み、撹拌しながら90℃で3時間反応した。反応後、室温まで冷却し、生成した結晶をろ別し,結晶および濾液をLCにより分析した。その結果、原料の2−ヒドロキシシクロドデカノンは100%転化しており、ドデカン二酸の収率は82.0モル%であり、副生物としてウンデカン二酸が1.7モル%生成していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,2−ジヒドロキシ−5,9−シクロドデカジエンを
(a)白金族触媒の存在下、
(b)水素圧力0.01〜4Mpa、
(c)反応温度40〜230℃で、
水素還元して得られた2−ヒドロキシシクロドデカノンを酸化剤で酸化するニ塩基酸の製造方法。
【請求項2】
(a)白金族触媒がパラジウムである、請求項1記載のニ塩基酸の製造方法。
【請求項3】
ニ塩基酸がドデカン二酸やウンデカン二酸であるニ塩基酸の製造方法。

【公開番号】特開2007−119501(P2007−119501A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34176(P2007−34176)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【分割の表示】特願2002−194584(P2002−194584)の分割
【原出願日】平成14年7月3日(2002.7.3)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】