二次元及び三次元パターン電極による細胞及び組織成長のための電気刺激
本発明は、全体として、細胞及び/又は組織の生理機能を調節するための方法、前記方法を実施するための装置、前記装置を製造するための方法に関する。通常、前記方法は、少なくとも1つのパターン電極を用意する工程と、少なくとも1つの細胞を用意する工程と、前記少なくとも1つの細胞と電気的に接続されるように前記少なくとも1つの電極を配置する工程と、前記電極に電圧を印加して有効な量のパターン電界又はパターン電流を供給し、前記少なくとも1つの細胞の生理機能及び/又は成長を調節する工程と、を含む。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本願は、2005年9月21日に出願された米国仮特許出願第60/719,236号に基づいて優先権を主張する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、全体として、パターン形成された電界又はパターン形成された電流を使用して細胞及び/又は組織の生理機能を電気的に調節するための装置及び方法に関する。また、本発明は、前記調節方法を実施するための装置及び前記装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
治癒や細胞成長に対する電気刺激の効果が長年にわたって研究されている。電界及び電磁界を使用することにより骨折の治癒力が高まることが臨床実験によって1970年代に証明されている。導電性ゲルを介して皮膚に接続することにより、広範囲かつ非侵襲的であって容量結合による均一な電界を生成し、該電界を骨折部位に印加するディスク電極が開発されている。外部から電界を生成する場合の問題点は、骨折部位に電界を選択的に印加することができず、通常は生体の広範な領域に電界が印加されてしまうことである。また、従来の外部電極によって生成される電界は通常の双極子電界であるため、電極の表面から離れるに従って電界強度が低下してしまう。そのため、対象となる細胞に効果的な電界強度を印加するためには大きな電力が必要となる。
【0004】
その他の技術では、埋込型電極を使用して電界を局所化することによって上記問題を解決しており、特定の位置における効率的な(低い振幅及び/又は周波数を有する波形による)電気的調節を行うことができる。この場合、フルオロカーボンで被覆された鋼等のポリマー被覆金属からなる電極を使用して電気的調節を行う。しかし、そのような電極は生分解性/生体吸収性を有していないため、電極を取り出すための手術が必要となる。そのため、従来の技術は局所的な電界又は電流を供給することができる外部電極が欠如している点で不十分である。また、治療に使用する電界及び/又は電流を生成するための生分解性/生体吸収性を有する埋込型装置は知られていない。
【0005】
本発明は、パターン電極を使用して必要とされる生体内の領域に選択的かつ局所的に電界又は電流を印加することによって従来技術の欠点を克服するものである。また、本発明の電極は、生分解性/生体吸収性導電性ポリマー(CP)を使用して製造することができる。そのため、本発明の電極は治療のために生体に埋め込むことができ、治療が完了した際に電極を取り出すための手術を行う必要はない。従って、本発明は従来技術の実質的な欠点を克服するものであって、新規かつ非自明であり、広範囲な特許の保護に値するものである。
【発明の開示】
【0006】
本発明は、全体として、生体内又は生体外の様々な細胞の生理機能を電気的に調節するための方法に関する。より詳細には、本発明は、パターン電界を供給するパターン電極を使用して、例えば細胞成長・代謝過程、生物学的産物の生成、組織治癒及び再生を含む細胞過程を促進又は抑制するための方法に関する。また、本発明は、前記調節方法を実施するための装置及び前記装置の製造方法に関する。
【0007】
本発明は、全体として、細胞及び組織の生理機能を調節するための方法に関し、前記方法は、少なくとも1つの電極を用意する工程と、少なくとも1つの細胞を用意する工程と、前記少なくとも1つの細胞と電気的に接続されるように前記電極を配置する工程と、前記電極に電圧を印加して前記少なくとも1つの細胞に有効な量のパターン電界又はパターン電流を供給し、前記パターン電界又はパターン電流によって前記少なくとも1つの細胞の生理機能又は成長を調節する工程と、を含む。
【0008】
また、本発明は、細胞又は組織の生理機能を調節するための装置であって、処置が必要な生体内の位置に有効な量のパターン電界又はパターン電流を供給することができる少なくとも1つの電極を含む装置に関する。また、本発明は、細胞及び組織の生理機能を調節するためのパターン電極を製造するための方法であって、非導電性基板を用意する工程と、導電性材料を用意する工程と、基板に付着したパターン導電膜を形成するように前記導電性材料を前記基板に塗布する工程と、を含む方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、全体として、生体内又は生体外の様々な細胞の生理機能を電気的に調節するための方法に関する。より詳細には、本発明は、パターン電界を供給するパターン電極を使用して、例えば成長・代謝過程、生物学的産物の生成、組織治癒・再生を含む細胞過程を促進又は抑制するための方法に関する。また、本発明は、前記調節方法を実施するための装置及び前記装置の製造方法に関する。
【0010】
本明細書で使用する「電気的な連絡」という用語は、静的及び動的電界、電磁放射線、電流による連絡を含む。
【0011】
本明細書で使用する「電極」という用語は、1又は複数の電極を意味する。従って、「電極」という記載は複数の電極にも同様に適用される。
【0012】
本明細書で使用する「二次元パターン電極」という用語は、非導電性基板に対してほぼ平行で互いに直交する2つの方向で実質的に延びる導電パターンを含む。また、二次元パターン電極は必然的に第3の空間的な次元を含むが、第3の次元は厚みである。
【0013】
本明細書で使用する「三次元パターン電極」という用語は、電界が重なり合うように一方の電極上に他方の電極が積層された二次元パターン電極の組み合わせを含む。通常、積層体は、誘電体層を介在させることによって分離することができる二次元パターン電極の層を含む。また、パターン層は同一又は異なるパターンを有していてもよく、整列させてもよく、様々な方法でオフセットさせてもよい。例えば、パターンを任意の角度だけ回転オフセットさせることができる。あるいは、パターンを適当な距離だけ直線的にオフセットさせてもよい。あるいは、パターンを平行ではなくなるようにオフセットしてもよい。上述したオフセットの組み合わせも本明細書で使用する三次元パターン電極の範囲に含まれる。
【0014】
(電気的調節プロセス)
本発明によれば、パターン電界又はパターン電流を様々な細胞に印加することにより、例えば、細胞増殖、治癒及び/又は再生を促進するといった様々な細胞及び組織の生理学的過程を調節することができる。パターン電界又はパターン電流を印加することによって調節することができる生理学的過程のその他の例としては、例えば、イオンチャネル機能、分泌過程、化学吸収過程、同化及び異化過程、質量輸送過程、細胞膜透過性、遺伝子産物の生成、細胞分裂等が挙げられる。一実施形態では、本発明の電界を印加することによって細胞の透過性を高める。図19に示す染料吸着試験は、透過効果の例を示している。
【0015】
パターン電界又は電流を印加することによって、様々な細胞及び組織の生理学的過程を調節することができる。そのような細胞としては、例えば、骨幹及び/又は幹細胞を含む骨細胞、血液細胞、心臓細胞、筋細胞、神経細胞、表皮及び内皮細胞をそれぞれ含む皮膚又は血管細胞が挙げられる。
【0016】
電圧と骨成長の関係は明らかになっているが、その関係は線形ではない。骨の成長率は、電圧の上昇に伴って著しく低下する。この場合、いくつかの理由が考えられている。複数の証拠によれば、細胞濃度が上昇し、電極に付着する細胞数が増加するに従って、電極表面の多数の細胞によって生じる遮蔽効果のために電界が減少することが示唆されている。具体的には、この理論では、表面に付着した細胞の膜によって、多数の細胞が電界の少なくとも一部から隔離されることが示唆されている。別の理論では、接触阻害による説明がなされる。すなわち、細胞密度が比較的高くなると、限られた栄養源及び空間を求める競合作用が生じ、これにより高い電圧が印加されていたとしても細胞の成長が遅くなるというものである。
【0017】
第3の理論としては、印加電圧が細胞成長因子の濃度に影響を与え、細胞増殖に影響を及ぼす可能性があるというものがある。さらに別の理論では、パルス電磁界(PEMF)に対するヒト細胞の挙動に着目している。さらに別の理論では、電界が、カルシウム/カルモジュリン経路を含むメカニズムを介して、1又は複数の成長因子の発現を引き起こすことが指摘されている。別の理論では、電界が電圧感受性の細胞膜間イオンチャネルに影響を与えることにより、カルシウムイオンの流入を増加させ、細胞増殖の増加を含む一連の事象が引き金となると説明される。以上の理論又はそれらの組み合わせにより、骨成長と印加電圧又は電界強度との関係が非線形である理由を説明することができる。完全な説明は未だなされていないが、骨折治癒/再生と電気刺激との関係は広く認識されている。
【0018】
(電界)
本発明の範囲に含まれる電界としては、双極子直流電界を含む一定電界(例えば直流)、時間変動電界(例えば交流)及びそれらの組み合わせが挙げられる。直流電界と交流電界を組み合わせる場合には、直流電界は交流電界よりも小さい場合もあり、等しい場合もあり、大きい場合もある。また、交流電界と直流電界を組み合わせる場合には、直流電界の極性を変化させることができる。周波数依存電界は、例えば、正方形、正弦曲線、三角形、台形又はより複雑なパターンを含む様々な適当な波形のいずれかを含むことができる。また、適当な電界は、例えば誘導的又は容量的に結合されていてもよい。また、電界はパルス的又は連続的であってもよい。本発明の範囲に含まれる電界は、時間的及び空間的な調整を含む様々な方法で調節することができる。特定の位置で細胞及び/又は組織の生理学的過程を選択的に調節するために、本発明の範囲に含まれる電界を体内の特定の領域に局所的に印加できることが好ましい。本発明の範囲に含まれる電界を各細胞又は小さな細胞集合体に局所的に印加できることがより好ましい。一実施形態では、二次元パターン電極等の電極の表面において電界強度を最大にすることができる。別の実施形態では、三次元パターン電極等の電極の表面から離れた場所で電界強度を最大にすることができる。
【0019】
本発明によれば、細胞及び組織の生理学的過程は電界強度によって異なる反応を示す。例えば、電界強度が高いほど増殖並びにアルカリホスファターゼ活性及びカルシウム沈着の観点から骨成長が高まる傾向がある(図11及び図12)。しかし、高電圧時には増加が低下する(図11)。原因としては、接触阻害又は細胞膜の絶縁特性によって生じた過剰集密が考えられる。
【0020】
(電極)
本発明の範囲に含まれる電極は、例えば、二次元及び三次元パターン電極等の様々な適当な形態を有することができる。本発明の範囲に含まれるパターンとしては、例えば、櫛形、平行線、同心円又は規則的又は不規則的な外接形状が挙げられる。電極パターン部(feature)の符号(極性)は適切な方法で交互に異なるようにしなければならない。例えば、同心円の場合には、連続する円が内側及び外側の円と異なる符号を有するようにする。別の実施形態では、いくつかの円が内側又は外側あるいは内側及び外側の円と同一の符号を有することができる。上述したその他の形状の場合にも同様な方法を適用することができる。例えば、櫛形の実施形態では、一組の電極指(digit)を正とし、他の組の電極指を負とする。櫛形の実施形態の非限定的ないくつかの例を図16に示す。
【0021】
二次元パターン電極のパターン部の間隔は、形成されたパターンによって各細胞又は小さな細胞集合体に供給することができるパターン電界又はパターン電流を生成することができれば特に限定されない。一対のパターン部の間隔は、電極全体又は一部において一定であってもよい。また、パターン部の間隔は一対のパターン部毎に異なっていてもよく、及び/又は一対のパターン部に沿って異なっていてもよい。本発明の範囲に含まれるパターン部の間隔は、例えば約10nm〜約200μmである。また、本発明の範囲に含まれるパターン部の間隔は、例えば約100nm〜約100μmである。また、本発明の範囲に含まれるパターン部の間隔は、例えば約1μm〜約100μmである。また、本発明の範囲に含まれるパターン部の間隔は、例えば約1μm〜約100μmである。
【0022】
本発明では、上述したパターン部の間隔により、細胞及び/又は組織の生理学的過程を制御又は調節することができる電界又は電流を生成することができる。通常はパターン部の間隔が狭いほど、電界強度の繊細な制御が可能となる。そのため、パターン部の間隔を狭くすることは、細胞集合体よりも単一の細胞の生理学的過程に影響を与えるために要求される。同様に、異なるパターン部の間隔は、異なる大きさの細胞の生理学的過程に影響を与えるために用いられることができる。
【0023】
上述したように、三次元パターン電極は実質的に多層化された一組の二次元パターン電極であるため、特定の位置において1つの層から生成された電界を別の層から生成された電界によって打ち消したり、増強することができる。本発明は、このような電極パターンによって電極の表面から離れた場所で最大の電界強度を得ることができる。これは、電極の表面において最大の電界強度を有する二次元パターン電極と対照的である。そのため、本発明は、三次元パターン電極によって二次元パターン電極と同様なパターン電界又は電流を生成するにも関わらず、電極から離れた場所に位置する細胞に最大強度でパターン電界を印加することができる。具体的には、より効率的に上述した電極を(非埋込型)外部電極として使用することができる。ただし、二次元及び三次元パターン電極は埋め込まれていてもよく、外部に設けられていてもよい。
【0024】
また、一実施形態では、対象となる領域を二次元パターン電極で取り囲むことによって三次元パターン電界を生成することができる。
【0025】
本発明の電極は、二次元及び三次元パターンを有することに加えて、細胞接着に影響を与え得る制御された表面粗さを有することができる。通常、細胞は平滑な表面よりも粗い表面に付着する傾向がある。そのため、表面粗さを制御することが望ましい場合もある。一実施形態では、表面粗さは、織り目加工が施された表面を有する誘電性被覆を設けるか、誘電層を設けた後に例えばテンプレートを使用して誘電層上に織り目を形成することによって制御する。別の実施形態では、スタンピング(ソフトリソグラフィ)によって溝又はウェル内の上部誘電層をパターン化することによって表面粗さを得ることができる。
【0026】
本発明に係る電界は、様々な埋込型電極又は外部(非埋込型)電極によって生成することができる。そのような電極は、例えば、金属及びそれらの合金、フルオロカーボン被覆鋼又はチタニウム等の誘電性被覆金属及び金属合金、ドープ及び/又は非ドープ半導体、ドープ及び/又は非ドープ導電性ポリマー等の任意の導電性材料を含むことができる。別の実施形態では、本発明は導電性ポリマー電極を含む。別の実施形態では、本発明は生体吸収性/生分解性導電性ポリマー電極を含む。
【0027】
本発明の範囲に含まれる導電性ポリマーは、コポリマーの主鎖に導入するか、コポリマーのペンダント基とすることができる。本発明の範囲に含まれる導電性ポリマーとしては、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン及びポリアニリンが挙げられる。通常、そのような導電性ポリマーは導電性を高めるようにドープされており、例えば、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホネート)(例えば(バイトロンP)(Baytron P))及び完全にスルホン化されたポリアニリン(例えばNSPAN)が挙げられる。
【0028】
別の実施形態では、本発明の電極を自己ドープ型導電性ポリマーで製造する。本明細書で使用する自己ドープ型という用語は、ドーパントが例えば結合基となってポリマーに共有結合されている導電性ポリマーを含む。自己ドープ型導電性ポリマーは、幅広い効果的なドーパント濃度(アニリンの繰り返し単位当たりのスルホン酸基が約0.05〜約1.0)を有した電極パターンを形成するために使用することができる。また、そのようなポリマーは性能を低下させる拡散効果を緩和する。
【0029】
一実施形態では、本発明の電極をスルホン化ポリアニリン(SPAN)で製造する。SPANの利点の1つは、SO3Hを導入することによって、導電率を実質的に低下させることなくポリアニリンの水溶性及び環境安定性を向上させることができる点である。また、SPANの電気及び化学的特性は広範囲にわたってpH依存性を有していない。その性質は、埋込型用途において特に重要である。また、ポリアニリンは、広く安定した酸化状態(ロイコエメラルジン、エメラルジン、ペルニグルアニリンを含む)、様々な無機及び有機対イオン、多用途の酸塩基及び酸化還元化学特性を有する。成長因子、ホルモン、酵素等の生体分子をドーパントとして導電性ポリマー電極に導入し、生物学的適合性及び電気的活性度以外の特有の特性を与えることができる。
【0030】
様々なSPAN調製法を本発明において使用することができる。例えば、以下のようにSPANを調製することができる(図1を参照)。アニリン(0.05mol)を、酸化剤として過硫酸アンモニウム(APS)0.05モルを使用し、1M HClに溶解させたメタニル酸(メタアミノベンゼンスルホン酸)0.05モルと共重合させた。約6時間にわたって撹拌しながら氷浴中で反応を継続させた。次に、過剰量のアセトンを添加して生成物を沈殿させ、濾過によって生成物を回収した。濾過、洗浄、乾燥後、濃緑色の生成物をすり潰して粉末とし、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に1重量%未満の濃度で溶解させた。導電率を向上させ、電気的な連続性を確保するために、スピンコーティングの代わりにディップコーティングを使用してSPANフィルムをスライドガラス(2.5cm×2.5cm)に塗布した。過剰な溶媒は、ドラフト内においてフィルムを48時間にわたって室温で徐々に乾燥することによって除去した。形状測定によれば、得られたフィルムは約15±5μmの厚みを有していた。SPAN配合物の電気的特性を図15に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
表1は、モノマー比を変更することによって導電率を調整することができることを示している。
【0033】
(パターン化及び製造)
一実施形態では、本発明の範囲に含まれる電極は、適当な基板上に導電性ポリマー又はその前駆体の溶液をスタンピングすることによって製造する。適当な基板としては、例えば電気絶縁材料が挙げられる。具体的には、そのような基板としては、例えば、金属酸化物ガラス、セラミック、有機ポリマー(ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、フェノール系ポリマー等)が挙げられる。
【0034】
本発明の電極を製造するために様々な公知のスタンピング法を使用することができる。例えば、一実施形態では、図6に示すようにスタンプを作製する。すなわち、基板600をネガ型フォトレジスト610の層で被覆し、所望のパターン620を有する適当なマスクを介してUV放射線を照射する。潜像630を現像する(未架橋フォトレジストを除去する)ことによって型を形成する。次に、プレポリマー640を型に入れ、硬化させ、剥離する。型から剥離した成形ポリマーがスタンプ642となる。次に、スタンプを導電性ポリマー650及び/又はその前駆体によって湿潤させ、適当な基板660に押し付けてスタンプ像652を得、スタンプ電極670を形成する。
【0035】
本発明の別の実施形態では、毛細管マイクロモールド法及び/又は装置700を使用して電極を製造することができる。具体的には、図7に示すように、空の型730を型の開口部720が露出するように基板710に配置する。次に、液状ポリマー及び/又はプレポリマーの一部を開口部に接触させる。液体は、型全体に液体を分散させる毛管力により型に導入される。液体を乾燥及び/又は硬化させた後、型を基板から除去し、パターン化された導電性ポリマーフィルム740を得る。
【0036】
別の実施形態では、本発明の電極は、適当な基板上に導電性ポリマー及び/又はプレポリマーを直接印刷することによって製造する。例えば、通常のレーザープリンタを特別に調合したインクと組み合わせて使用してパターン化された導電性ポリマーフィルムを形成する。適当なインク配合物は導電性ポリマー及び/又はそのプレポリマーを含むことができる。また、インクは、バインダー、界面活性剤及び/又は酸化剤(エチルベンゼンスルホン酸鉄等)を必要に応じて含むことができる。本実施形態の一例では、適当なインクを塗布した基板を過剰なモノマー蒸気に曝露し、酸化剤を含む領域内に像を形成する。これにより導電性ポリマー像が得られる。
【0037】
別の実施形態では、レーザープリンタを使用して、図4に示すような電極のネガ型像400を印刷する。次に、ネガ型像を導電性ポリマー成膜/塗布装置内に浸漬する。これにより、ネガ型像及び曝露された基板がポリマーで被覆される。次に、トナーを除去することにより像を形成する。本実施形態の一例では、櫛形電極(IDE)のネガ型像を、レーザープリンタを使用して通常のオーバーヘッドスライド(overhead transparency)に印刷する。以下の方法に従って導電性ポリマーを形成する。1M HCl中にメタニル酸モノマー0.05モル、アニリンモノマー0.05モル、過硫酸アンモニウム酸化剤0.05モルを含む反応系にスライドを浸漬する。氷浴中で約2〜3時間にわたって反応を継続させると、露出された領域及びトナーで被覆された領域にスルホン化ポリアニリンが徐々に堆積する。次に、スライドを除去し、脱イオン(DI)水で洗浄して反応物を冷却し、堆積しやすいSPAN粒子を除去する。最後に、アセトン中で約1分間にわたって超音波処理を行うことによってトナーを除去する。
【0038】
別の実施形態では、本発明の電極をフォトリソグラフィによって製造する(図8)。そのような実施形態では、ポジ型フォトレジスト820を基板810に塗布し、ネガ型マスク830を介してUV光を照射して潜像840を形成する。次に、導電性プレポリマーを潜像に塗布し、硬化させる(850)。最後に、超音波処理によってフォトレジストの残りを除去することによって画像860を形成する。
【0039】
本実施形態の範囲に含まれるマスクは通常のオーバーヘッドスライドで作製することができ、20μmの線幅が得られるレーザープリンタによってマスク上に像を印刷する。あるいは、本実施形態の範囲に含まれるマスクは、ナノメータレベルの解像度を含む高い解像度が得られるクロム画像を含むことができる。本実施形態の範囲に含まれる基板は、フォトリソグラフィ時に通常使用される化学物質及び高温に対する耐性を有する。本実施形態の範囲に含まれる基板としては、例えば、ポリイミド、特に「カプトン(KAPTON)(登録商標)」(デュポン社製)として市販されているポリイミドが挙げられる。
【0040】
本実施形態の一例では、ポリイミドフィルムを4インチのウェハに切断し、両面テープによってシリコンウェハに取り付ける(図9、右下)。次に、ポジ型フォトレジストの層をフィルム上にスピンコーティングによって塗布する。フォトレジストに、ネガ型IDE像を含むマスクを介してUV光を照射する。2〜3秒間にわたってUV光を照射した後、フィルムを現像し、脱イオン(DI)水で洗浄し、乾燥する。次に、フィルムをシリコンウェハから除去し、上記実施形態において説明したようなin situ重合装置内に浸漬する。最後に、アセトン中で約1分間にわたって超音波処理を行うことによってフォトレジストの残りを除去して電極を形成する。
【0041】
(被覆)
本発明の範囲に含まれる電極は、非導電性電気絶縁被覆を必要に応じて含むことができる。そのような被覆は、周囲の細胞及び/又は組織を電流から保護する効果を有する。そのため、そのような被覆を含む電極は電界効果のみに基づいて作用を与え、電流効果に基づいて作用を与えることはない。あるいは、本発明の範囲に含まれる電極は非導電性電気絶縁被覆を有していなくともよい。そのような被覆を有していない電極は、電界効果及び/又は電流効果に基づいて作用を与える。
【0042】
本発明の範囲内に含まれる被覆は、あらゆる生体適合性絶縁被覆を含む。具体的には、そのような被覆としては、例えばセラミック及び有機ポリマーが挙げられる。より詳細には、そのような被覆としては、例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸−ポリグリコール酸コポリマー(PLGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ無水物が挙げられる。PLA絶縁層の誘電特性を図14に示す。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
本発明の一実施例では、ヒト骨肉腫(HOS)細胞を公知の方法に従って培養した。本実施例では、細胞はAmerican Type Culture Collection(ATCC、cat#CRL−1543)から購入し、EAGLEという商品名でATCCから販売されている最小必須培地で培養した。培地に約10%の牛胎児血清及び1%の抗生物質/抗真菌剤を添加した。細胞を約5%のCO2を含む多湿の培養器内に保持し、約37℃に維持した。密集が生じた時点で培養物を1mM EDTA中の0.25%トリプシンによって一日おきに1:2に分割した。
【0044】
本実施例では、絶縁性プラスチック基板1020上に形成されたPLA被覆SPANフィルムを含む櫛形電極装置1000によって電界を生成した。図10に示すように、プラスチック製シリンダー1010を、櫛形電極1030がシリンダー1010内に露出するようにシリコーン接着剤によって基板1020に接着した。電極1030によりウェルの底部が形成され、シリンダー1010はウェルの側面を形成する。電極1030は、電極1030を電源に接続する電気接続部1032を形成する部分を含む。
【0045】
電極1030に細胞を配置する前に、ウェル全体をリン酸緩衝生理食塩水で二度洗浄し、30分間にわたって紫外線を照射することによって殺菌した。上記処理後、ウェルの底部にトリプシンで処理されたHOS細胞を均一に配置した。必要に応じて培地をウェルに添加した。血球計によって播種密度を測定し、ウェルあたりの細胞数が2×104未満であることを確認した。増殖研究では正確なLSC細胞計数を得るために播種密度の測定が必要となる。細胞を24時間にわたって培養した後、直流電力(0〜1V)又は交流電力(10〜100KHz、0〜1V)を使用して4時間にわたって電気刺激を与えた。いずれの場合も、電気刺激は培養器内で行った。刺激を与えた後、細胞をさらに24時間培養した。細胞成長に対する電気刺激の効果は、アルカリホスファターゼ活性、カルシウム沈着、細胞増殖を電気刺激を与えない適当な対照群と比較して評価した。
【0046】
本実施例では、アルカリホスファターゼ活性は以下のように測定した。20μlの上澄み液を各ウェルから回収し、1mlのp−ニトロフェニルリン酸塩と混合し、室温で約30分間にわたって培養した。活性度は、アルカリホスファターゼ活性に比例する405nmの吸光度を測定することによって決定した。
【0047】
本実施例では、細胞外マトリックス(ECM)におけるカルシウム沈着は以下のように測定した。培地を各ウェルから除去し、1mlの0.1N HCIを添加してカルシウムを溶解した。室温で2時間にわたって培養した後、20μlの上澄み液を採取し、1mlのo−クレゾールフタレイン錯体と混合した。5分後、575nmにおける吸光度を測定した。測定値はカルシウム濃度に比例していた。
【0048】
本実施例では、細胞増殖は以下のように測定した。培地を除去した後、細胞層を70%のエタノールで固定し、ヨウ化プロピジウムで染色した。その後、レーザー走査サイトメトリー(LSC)を使用して蛍光下で細胞を観察した(図2を参照)。好ましくは、少なくとも5箇所の1.8mmの半径領域をランダムに採取し、細胞数を数えた。このようにして平均細胞数を算出した。
【0049】
(実施例2)
本発明の別の実施例では、1又は複数の電極を動物の体内に外科的に埋め込んだ。本実施例では、電極は生分解性及び/又は生体吸収性を有する成分を含むため、不要となった場合に動物の体内から電極を取り出す必要はない。具体的には、本実施例の電極は、ポリ乳酸で被覆された生分解性CP(導電性ポリマー)を含む。印加電位は、例えば、正弦、正方形、三角形又は定形等の任意の適当な波形を有することができる。印加電圧は、0〜1600mV、50〜1200mV、100〜1000mV、200〜800mVを含む適当な大きさとすることができる。いくつかの実施形態では、得られる電界を細胞の生理機能及び/又は成長に影響を及ぼすために有効な時間にわたって印加する。これらの実施形態には、本発明が部分的な治癒及び/又は再生のみに影響を与える実施形態も含まれる。
【0050】
上述した実施例は本発明の原理を説明するものであって、上記実施形態を網羅するものではない。また、当業者は多くの変形や変更に容易に想到するものと考えられるが、本発明は上述した構造及び動作のみに限定されるものではなく、あらゆる適当な変形及び均等物が本発明の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】異なるスルホン化率を有する一連の生体適合性導電性ポリマー(CP)の合成経路を示す図である。
【図2】標準ガラス及び合成したスルホン化ポリアニリン上での細胞の成長を比較する写真である。
【図3】基板が異なることが細胞成長に及ぼす影響を示すグラフである。基板の材質として、非被覆スルホン化ポリアニリン及びPLA被覆ポリアニリンを含んでいる。
【図4】印刷及びin situ重合によって導電性ポリマーを使用した櫛形電極を製造する工程を示す図である。
【図5】高性能レーザープリンタによって得られる解像度を通常のレーザープリンタと比較して示す一組の写真である。
【図6】ソフトリソグラフィ(例えばスタンピング)を使用して二次元パターン電極を製造する工程を示す図である。
【図7】毛細管マイクロモールド法(MIMIC)を示す図である。
【図8】ポジ型リゾグラフィ及びリフトオフによって二次元パターン電極を製造する工程を示す図である。
【図9】ポジ型リゾグラフィ及びリフトオフを使用して導電性ポリマーで製造した櫛型電極のSEM及び写真を含む一式の画像である。
【図10】パターン電極上の骨細胞に電気刺激を与えるための装置を示す。
【図11】直流電気刺激下における櫛形電極100上で成長させた細胞の電圧依存性を示すグラフである。
【図12】絶縁層の厚みと、直流電気刺激下における櫛形電極50上での細胞成長と、の間の関係を示すグラフである。
【図13】櫛形電極100上で成長させた細胞分布に及ぼす電気刺激の効果を示す一式の画像である。
【図14】PLA絶縁層の誘電性を示す一式のグラフである。
【図15】SPAN配合物の電気的特性の一例を示す一対のグラフである。
【図16】印刷及びin situ重合によって製造した複数の櫛形実施形態の寸法を示す表である。
【図17】実施例の電極の等電位線及び電気力線を示す一対の図である。
【図18A】実施例の電極の電位分布を示す図である。
【図18B】実施例の電極の電気力線を示す図である。
【図19】染料吸着試験における細胞膜透過性に対する印加電界の効果を示す一式のデータ図及び表である。
【関連出願の参照】
【0001】
本願は、2005年9月21日に出願された米国仮特許出願第60/719,236号に基づいて優先権を主張する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、全体として、パターン形成された電界又はパターン形成された電流を使用して細胞及び/又は組織の生理機能を電気的に調節するための装置及び方法に関する。また、本発明は、前記調節方法を実施するための装置及び前記装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
治癒や細胞成長に対する電気刺激の効果が長年にわたって研究されている。電界及び電磁界を使用することにより骨折の治癒力が高まることが臨床実験によって1970年代に証明されている。導電性ゲルを介して皮膚に接続することにより、広範囲かつ非侵襲的であって容量結合による均一な電界を生成し、該電界を骨折部位に印加するディスク電極が開発されている。外部から電界を生成する場合の問題点は、骨折部位に電界を選択的に印加することができず、通常は生体の広範な領域に電界が印加されてしまうことである。また、従来の外部電極によって生成される電界は通常の双極子電界であるため、電極の表面から離れるに従って電界強度が低下してしまう。そのため、対象となる細胞に効果的な電界強度を印加するためには大きな電力が必要となる。
【0004】
その他の技術では、埋込型電極を使用して電界を局所化することによって上記問題を解決しており、特定の位置における効率的な(低い振幅及び/又は周波数を有する波形による)電気的調節を行うことができる。この場合、フルオロカーボンで被覆された鋼等のポリマー被覆金属からなる電極を使用して電気的調節を行う。しかし、そのような電極は生分解性/生体吸収性を有していないため、電極を取り出すための手術が必要となる。そのため、従来の技術は局所的な電界又は電流を供給することができる外部電極が欠如している点で不十分である。また、治療に使用する電界及び/又は電流を生成するための生分解性/生体吸収性を有する埋込型装置は知られていない。
【0005】
本発明は、パターン電極を使用して必要とされる生体内の領域に選択的かつ局所的に電界又は電流を印加することによって従来技術の欠点を克服するものである。また、本発明の電極は、生分解性/生体吸収性導電性ポリマー(CP)を使用して製造することができる。そのため、本発明の電極は治療のために生体に埋め込むことができ、治療が完了した際に電極を取り出すための手術を行う必要はない。従って、本発明は従来技術の実質的な欠点を克服するものであって、新規かつ非自明であり、広範囲な特許の保護に値するものである。
【発明の開示】
【0006】
本発明は、全体として、生体内又は生体外の様々な細胞の生理機能を電気的に調節するための方法に関する。より詳細には、本発明は、パターン電界を供給するパターン電極を使用して、例えば細胞成長・代謝過程、生物学的産物の生成、組織治癒及び再生を含む細胞過程を促進又は抑制するための方法に関する。また、本発明は、前記調節方法を実施するための装置及び前記装置の製造方法に関する。
【0007】
本発明は、全体として、細胞及び組織の生理機能を調節するための方法に関し、前記方法は、少なくとも1つの電極を用意する工程と、少なくとも1つの細胞を用意する工程と、前記少なくとも1つの細胞と電気的に接続されるように前記電極を配置する工程と、前記電極に電圧を印加して前記少なくとも1つの細胞に有効な量のパターン電界又はパターン電流を供給し、前記パターン電界又はパターン電流によって前記少なくとも1つの細胞の生理機能又は成長を調節する工程と、を含む。
【0008】
また、本発明は、細胞又は組織の生理機能を調節するための装置であって、処置が必要な生体内の位置に有効な量のパターン電界又はパターン電流を供給することができる少なくとも1つの電極を含む装置に関する。また、本発明は、細胞及び組織の生理機能を調節するためのパターン電極を製造するための方法であって、非導電性基板を用意する工程と、導電性材料を用意する工程と、基板に付着したパターン導電膜を形成するように前記導電性材料を前記基板に塗布する工程と、を含む方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、全体として、生体内又は生体外の様々な細胞の生理機能を電気的に調節するための方法に関する。より詳細には、本発明は、パターン電界を供給するパターン電極を使用して、例えば成長・代謝過程、生物学的産物の生成、組織治癒・再生を含む細胞過程を促進又は抑制するための方法に関する。また、本発明は、前記調節方法を実施するための装置及び前記装置の製造方法に関する。
【0010】
本明細書で使用する「電気的な連絡」という用語は、静的及び動的電界、電磁放射線、電流による連絡を含む。
【0011】
本明細書で使用する「電極」という用語は、1又は複数の電極を意味する。従って、「電極」という記載は複数の電極にも同様に適用される。
【0012】
本明細書で使用する「二次元パターン電極」という用語は、非導電性基板に対してほぼ平行で互いに直交する2つの方向で実質的に延びる導電パターンを含む。また、二次元パターン電極は必然的に第3の空間的な次元を含むが、第3の次元は厚みである。
【0013】
本明細書で使用する「三次元パターン電極」という用語は、電界が重なり合うように一方の電極上に他方の電極が積層された二次元パターン電極の組み合わせを含む。通常、積層体は、誘電体層を介在させることによって分離することができる二次元パターン電極の層を含む。また、パターン層は同一又は異なるパターンを有していてもよく、整列させてもよく、様々な方法でオフセットさせてもよい。例えば、パターンを任意の角度だけ回転オフセットさせることができる。あるいは、パターンを適当な距離だけ直線的にオフセットさせてもよい。あるいは、パターンを平行ではなくなるようにオフセットしてもよい。上述したオフセットの組み合わせも本明細書で使用する三次元パターン電極の範囲に含まれる。
【0014】
(電気的調節プロセス)
本発明によれば、パターン電界又はパターン電流を様々な細胞に印加することにより、例えば、細胞増殖、治癒及び/又は再生を促進するといった様々な細胞及び組織の生理学的過程を調節することができる。パターン電界又はパターン電流を印加することによって調節することができる生理学的過程のその他の例としては、例えば、イオンチャネル機能、分泌過程、化学吸収過程、同化及び異化過程、質量輸送過程、細胞膜透過性、遺伝子産物の生成、細胞分裂等が挙げられる。一実施形態では、本発明の電界を印加することによって細胞の透過性を高める。図19に示す染料吸着試験は、透過効果の例を示している。
【0015】
パターン電界又は電流を印加することによって、様々な細胞及び組織の生理学的過程を調節することができる。そのような細胞としては、例えば、骨幹及び/又は幹細胞を含む骨細胞、血液細胞、心臓細胞、筋細胞、神経細胞、表皮及び内皮細胞をそれぞれ含む皮膚又は血管細胞が挙げられる。
【0016】
電圧と骨成長の関係は明らかになっているが、その関係は線形ではない。骨の成長率は、電圧の上昇に伴って著しく低下する。この場合、いくつかの理由が考えられている。複数の証拠によれば、細胞濃度が上昇し、電極に付着する細胞数が増加するに従って、電極表面の多数の細胞によって生じる遮蔽効果のために電界が減少することが示唆されている。具体的には、この理論では、表面に付着した細胞の膜によって、多数の細胞が電界の少なくとも一部から隔離されることが示唆されている。別の理論では、接触阻害による説明がなされる。すなわち、細胞密度が比較的高くなると、限られた栄養源及び空間を求める競合作用が生じ、これにより高い電圧が印加されていたとしても細胞の成長が遅くなるというものである。
【0017】
第3の理論としては、印加電圧が細胞成長因子の濃度に影響を与え、細胞増殖に影響を及ぼす可能性があるというものがある。さらに別の理論では、パルス電磁界(PEMF)に対するヒト細胞の挙動に着目している。さらに別の理論では、電界が、カルシウム/カルモジュリン経路を含むメカニズムを介して、1又は複数の成長因子の発現を引き起こすことが指摘されている。別の理論では、電界が電圧感受性の細胞膜間イオンチャネルに影響を与えることにより、カルシウムイオンの流入を増加させ、細胞増殖の増加を含む一連の事象が引き金となると説明される。以上の理論又はそれらの組み合わせにより、骨成長と印加電圧又は電界強度との関係が非線形である理由を説明することができる。完全な説明は未だなされていないが、骨折治癒/再生と電気刺激との関係は広く認識されている。
【0018】
(電界)
本発明の範囲に含まれる電界としては、双極子直流電界を含む一定電界(例えば直流)、時間変動電界(例えば交流)及びそれらの組み合わせが挙げられる。直流電界と交流電界を組み合わせる場合には、直流電界は交流電界よりも小さい場合もあり、等しい場合もあり、大きい場合もある。また、交流電界と直流電界を組み合わせる場合には、直流電界の極性を変化させることができる。周波数依存電界は、例えば、正方形、正弦曲線、三角形、台形又はより複雑なパターンを含む様々な適当な波形のいずれかを含むことができる。また、適当な電界は、例えば誘導的又は容量的に結合されていてもよい。また、電界はパルス的又は連続的であってもよい。本発明の範囲に含まれる電界は、時間的及び空間的な調整を含む様々な方法で調節することができる。特定の位置で細胞及び/又は組織の生理学的過程を選択的に調節するために、本発明の範囲に含まれる電界を体内の特定の領域に局所的に印加できることが好ましい。本発明の範囲に含まれる電界を各細胞又は小さな細胞集合体に局所的に印加できることがより好ましい。一実施形態では、二次元パターン電極等の電極の表面において電界強度を最大にすることができる。別の実施形態では、三次元パターン電極等の電極の表面から離れた場所で電界強度を最大にすることができる。
【0019】
本発明によれば、細胞及び組織の生理学的過程は電界強度によって異なる反応を示す。例えば、電界強度が高いほど増殖並びにアルカリホスファターゼ活性及びカルシウム沈着の観点から骨成長が高まる傾向がある(図11及び図12)。しかし、高電圧時には増加が低下する(図11)。原因としては、接触阻害又は細胞膜の絶縁特性によって生じた過剰集密が考えられる。
【0020】
(電極)
本発明の範囲に含まれる電極は、例えば、二次元及び三次元パターン電極等の様々な適当な形態を有することができる。本発明の範囲に含まれるパターンとしては、例えば、櫛形、平行線、同心円又は規則的又は不規則的な外接形状が挙げられる。電極パターン部(feature)の符号(極性)は適切な方法で交互に異なるようにしなければならない。例えば、同心円の場合には、連続する円が内側及び外側の円と異なる符号を有するようにする。別の実施形態では、いくつかの円が内側又は外側あるいは内側及び外側の円と同一の符号を有することができる。上述したその他の形状の場合にも同様な方法を適用することができる。例えば、櫛形の実施形態では、一組の電極指(digit)を正とし、他の組の電極指を負とする。櫛形の実施形態の非限定的ないくつかの例を図16に示す。
【0021】
二次元パターン電極のパターン部の間隔は、形成されたパターンによって各細胞又は小さな細胞集合体に供給することができるパターン電界又はパターン電流を生成することができれば特に限定されない。一対のパターン部の間隔は、電極全体又は一部において一定であってもよい。また、パターン部の間隔は一対のパターン部毎に異なっていてもよく、及び/又は一対のパターン部に沿って異なっていてもよい。本発明の範囲に含まれるパターン部の間隔は、例えば約10nm〜約200μmである。また、本発明の範囲に含まれるパターン部の間隔は、例えば約100nm〜約100μmである。また、本発明の範囲に含まれるパターン部の間隔は、例えば約1μm〜約100μmである。また、本発明の範囲に含まれるパターン部の間隔は、例えば約1μm〜約100μmである。
【0022】
本発明では、上述したパターン部の間隔により、細胞及び/又は組織の生理学的過程を制御又は調節することができる電界又は電流を生成することができる。通常はパターン部の間隔が狭いほど、電界強度の繊細な制御が可能となる。そのため、パターン部の間隔を狭くすることは、細胞集合体よりも単一の細胞の生理学的過程に影響を与えるために要求される。同様に、異なるパターン部の間隔は、異なる大きさの細胞の生理学的過程に影響を与えるために用いられることができる。
【0023】
上述したように、三次元パターン電極は実質的に多層化された一組の二次元パターン電極であるため、特定の位置において1つの層から生成された電界を別の層から生成された電界によって打ち消したり、増強することができる。本発明は、このような電極パターンによって電極の表面から離れた場所で最大の電界強度を得ることができる。これは、電極の表面において最大の電界強度を有する二次元パターン電極と対照的である。そのため、本発明は、三次元パターン電極によって二次元パターン電極と同様なパターン電界又は電流を生成するにも関わらず、電極から離れた場所に位置する細胞に最大強度でパターン電界を印加することができる。具体的には、より効率的に上述した電極を(非埋込型)外部電極として使用することができる。ただし、二次元及び三次元パターン電極は埋め込まれていてもよく、外部に設けられていてもよい。
【0024】
また、一実施形態では、対象となる領域を二次元パターン電極で取り囲むことによって三次元パターン電界を生成することができる。
【0025】
本発明の電極は、二次元及び三次元パターンを有することに加えて、細胞接着に影響を与え得る制御された表面粗さを有することができる。通常、細胞は平滑な表面よりも粗い表面に付着する傾向がある。そのため、表面粗さを制御することが望ましい場合もある。一実施形態では、表面粗さは、織り目加工が施された表面を有する誘電性被覆を設けるか、誘電層を設けた後に例えばテンプレートを使用して誘電層上に織り目を形成することによって制御する。別の実施形態では、スタンピング(ソフトリソグラフィ)によって溝又はウェル内の上部誘電層をパターン化することによって表面粗さを得ることができる。
【0026】
本発明に係る電界は、様々な埋込型電極又は外部(非埋込型)電極によって生成することができる。そのような電極は、例えば、金属及びそれらの合金、フルオロカーボン被覆鋼又はチタニウム等の誘電性被覆金属及び金属合金、ドープ及び/又は非ドープ半導体、ドープ及び/又は非ドープ導電性ポリマー等の任意の導電性材料を含むことができる。別の実施形態では、本発明は導電性ポリマー電極を含む。別の実施形態では、本発明は生体吸収性/生分解性導電性ポリマー電極を含む。
【0027】
本発明の範囲に含まれる導電性ポリマーは、コポリマーの主鎖に導入するか、コポリマーのペンダント基とすることができる。本発明の範囲に含まれる導電性ポリマーとしては、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン及びポリアニリンが挙げられる。通常、そのような導電性ポリマーは導電性を高めるようにドープされており、例えば、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホネート)(例えば(バイトロンP)(Baytron P))及び完全にスルホン化されたポリアニリン(例えばNSPAN)が挙げられる。
【0028】
別の実施形態では、本発明の電極を自己ドープ型導電性ポリマーで製造する。本明細書で使用する自己ドープ型という用語は、ドーパントが例えば結合基となってポリマーに共有結合されている導電性ポリマーを含む。自己ドープ型導電性ポリマーは、幅広い効果的なドーパント濃度(アニリンの繰り返し単位当たりのスルホン酸基が約0.05〜約1.0)を有した電極パターンを形成するために使用することができる。また、そのようなポリマーは性能を低下させる拡散効果を緩和する。
【0029】
一実施形態では、本発明の電極をスルホン化ポリアニリン(SPAN)で製造する。SPANの利点の1つは、SO3Hを導入することによって、導電率を実質的に低下させることなくポリアニリンの水溶性及び環境安定性を向上させることができる点である。また、SPANの電気及び化学的特性は広範囲にわたってpH依存性を有していない。その性質は、埋込型用途において特に重要である。また、ポリアニリンは、広く安定した酸化状態(ロイコエメラルジン、エメラルジン、ペルニグルアニリンを含む)、様々な無機及び有機対イオン、多用途の酸塩基及び酸化還元化学特性を有する。成長因子、ホルモン、酵素等の生体分子をドーパントとして導電性ポリマー電極に導入し、生物学的適合性及び電気的活性度以外の特有の特性を与えることができる。
【0030】
様々なSPAN調製法を本発明において使用することができる。例えば、以下のようにSPANを調製することができる(図1を参照)。アニリン(0.05mol)を、酸化剤として過硫酸アンモニウム(APS)0.05モルを使用し、1M HClに溶解させたメタニル酸(メタアミノベンゼンスルホン酸)0.05モルと共重合させた。約6時間にわたって撹拌しながら氷浴中で反応を継続させた。次に、過剰量のアセトンを添加して生成物を沈殿させ、濾過によって生成物を回収した。濾過、洗浄、乾燥後、濃緑色の生成物をすり潰して粉末とし、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に1重量%未満の濃度で溶解させた。導電率を向上させ、電気的な連続性を確保するために、スピンコーティングの代わりにディップコーティングを使用してSPANフィルムをスライドガラス(2.5cm×2.5cm)に塗布した。過剰な溶媒は、ドラフト内においてフィルムを48時間にわたって室温で徐々に乾燥することによって除去した。形状測定によれば、得られたフィルムは約15±5μmの厚みを有していた。SPAN配合物の電気的特性を図15に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
表1は、モノマー比を変更することによって導電率を調整することができることを示している。
【0033】
(パターン化及び製造)
一実施形態では、本発明の範囲に含まれる電極は、適当な基板上に導電性ポリマー又はその前駆体の溶液をスタンピングすることによって製造する。適当な基板としては、例えば電気絶縁材料が挙げられる。具体的には、そのような基板としては、例えば、金属酸化物ガラス、セラミック、有機ポリマー(ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、フェノール系ポリマー等)が挙げられる。
【0034】
本発明の電極を製造するために様々な公知のスタンピング法を使用することができる。例えば、一実施形態では、図6に示すようにスタンプを作製する。すなわち、基板600をネガ型フォトレジスト610の層で被覆し、所望のパターン620を有する適当なマスクを介してUV放射線を照射する。潜像630を現像する(未架橋フォトレジストを除去する)ことによって型を形成する。次に、プレポリマー640を型に入れ、硬化させ、剥離する。型から剥離した成形ポリマーがスタンプ642となる。次に、スタンプを導電性ポリマー650及び/又はその前駆体によって湿潤させ、適当な基板660に押し付けてスタンプ像652を得、スタンプ電極670を形成する。
【0035】
本発明の別の実施形態では、毛細管マイクロモールド法及び/又は装置700を使用して電極を製造することができる。具体的には、図7に示すように、空の型730を型の開口部720が露出するように基板710に配置する。次に、液状ポリマー及び/又はプレポリマーの一部を開口部に接触させる。液体は、型全体に液体を分散させる毛管力により型に導入される。液体を乾燥及び/又は硬化させた後、型を基板から除去し、パターン化された導電性ポリマーフィルム740を得る。
【0036】
別の実施形態では、本発明の電極は、適当な基板上に導電性ポリマー及び/又はプレポリマーを直接印刷することによって製造する。例えば、通常のレーザープリンタを特別に調合したインクと組み合わせて使用してパターン化された導電性ポリマーフィルムを形成する。適当なインク配合物は導電性ポリマー及び/又はそのプレポリマーを含むことができる。また、インクは、バインダー、界面活性剤及び/又は酸化剤(エチルベンゼンスルホン酸鉄等)を必要に応じて含むことができる。本実施形態の一例では、適当なインクを塗布した基板を過剰なモノマー蒸気に曝露し、酸化剤を含む領域内に像を形成する。これにより導電性ポリマー像が得られる。
【0037】
別の実施形態では、レーザープリンタを使用して、図4に示すような電極のネガ型像400を印刷する。次に、ネガ型像を導電性ポリマー成膜/塗布装置内に浸漬する。これにより、ネガ型像及び曝露された基板がポリマーで被覆される。次に、トナーを除去することにより像を形成する。本実施形態の一例では、櫛形電極(IDE)のネガ型像を、レーザープリンタを使用して通常のオーバーヘッドスライド(overhead transparency)に印刷する。以下の方法に従って導電性ポリマーを形成する。1M HCl中にメタニル酸モノマー0.05モル、アニリンモノマー0.05モル、過硫酸アンモニウム酸化剤0.05モルを含む反応系にスライドを浸漬する。氷浴中で約2〜3時間にわたって反応を継続させると、露出された領域及びトナーで被覆された領域にスルホン化ポリアニリンが徐々に堆積する。次に、スライドを除去し、脱イオン(DI)水で洗浄して反応物を冷却し、堆積しやすいSPAN粒子を除去する。最後に、アセトン中で約1分間にわたって超音波処理を行うことによってトナーを除去する。
【0038】
別の実施形態では、本発明の電極をフォトリソグラフィによって製造する(図8)。そのような実施形態では、ポジ型フォトレジスト820を基板810に塗布し、ネガ型マスク830を介してUV光を照射して潜像840を形成する。次に、導電性プレポリマーを潜像に塗布し、硬化させる(850)。最後に、超音波処理によってフォトレジストの残りを除去することによって画像860を形成する。
【0039】
本実施形態の範囲に含まれるマスクは通常のオーバーヘッドスライドで作製することができ、20μmの線幅が得られるレーザープリンタによってマスク上に像を印刷する。あるいは、本実施形態の範囲に含まれるマスクは、ナノメータレベルの解像度を含む高い解像度が得られるクロム画像を含むことができる。本実施形態の範囲に含まれる基板は、フォトリソグラフィ時に通常使用される化学物質及び高温に対する耐性を有する。本実施形態の範囲に含まれる基板としては、例えば、ポリイミド、特に「カプトン(KAPTON)(登録商標)」(デュポン社製)として市販されているポリイミドが挙げられる。
【0040】
本実施形態の一例では、ポリイミドフィルムを4インチのウェハに切断し、両面テープによってシリコンウェハに取り付ける(図9、右下)。次に、ポジ型フォトレジストの層をフィルム上にスピンコーティングによって塗布する。フォトレジストに、ネガ型IDE像を含むマスクを介してUV光を照射する。2〜3秒間にわたってUV光を照射した後、フィルムを現像し、脱イオン(DI)水で洗浄し、乾燥する。次に、フィルムをシリコンウェハから除去し、上記実施形態において説明したようなin situ重合装置内に浸漬する。最後に、アセトン中で約1分間にわたって超音波処理を行うことによってフォトレジストの残りを除去して電極を形成する。
【0041】
(被覆)
本発明の範囲に含まれる電極は、非導電性電気絶縁被覆を必要に応じて含むことができる。そのような被覆は、周囲の細胞及び/又は組織を電流から保護する効果を有する。そのため、そのような被覆を含む電極は電界効果のみに基づいて作用を与え、電流効果に基づいて作用を与えることはない。あるいは、本発明の範囲に含まれる電極は非導電性電気絶縁被覆を有していなくともよい。そのような被覆を有していない電極は、電界効果及び/又は電流効果に基づいて作用を与える。
【0042】
本発明の範囲内に含まれる被覆は、あらゆる生体適合性絶縁被覆を含む。具体的には、そのような被覆としては、例えばセラミック及び有機ポリマーが挙げられる。より詳細には、そのような被覆としては、例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸−ポリグリコール酸コポリマー(PLGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ無水物が挙げられる。PLA絶縁層の誘電特性を図14に示す。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
本発明の一実施例では、ヒト骨肉腫(HOS)細胞を公知の方法に従って培養した。本実施例では、細胞はAmerican Type Culture Collection(ATCC、cat#CRL−1543)から購入し、EAGLEという商品名でATCCから販売されている最小必須培地で培養した。培地に約10%の牛胎児血清及び1%の抗生物質/抗真菌剤を添加した。細胞を約5%のCO2を含む多湿の培養器内に保持し、約37℃に維持した。密集が生じた時点で培養物を1mM EDTA中の0.25%トリプシンによって一日おきに1:2に分割した。
【0044】
本実施例では、絶縁性プラスチック基板1020上に形成されたPLA被覆SPANフィルムを含む櫛形電極装置1000によって電界を生成した。図10に示すように、プラスチック製シリンダー1010を、櫛形電極1030がシリンダー1010内に露出するようにシリコーン接着剤によって基板1020に接着した。電極1030によりウェルの底部が形成され、シリンダー1010はウェルの側面を形成する。電極1030は、電極1030を電源に接続する電気接続部1032を形成する部分を含む。
【0045】
電極1030に細胞を配置する前に、ウェル全体をリン酸緩衝生理食塩水で二度洗浄し、30分間にわたって紫外線を照射することによって殺菌した。上記処理後、ウェルの底部にトリプシンで処理されたHOS細胞を均一に配置した。必要に応じて培地をウェルに添加した。血球計によって播種密度を測定し、ウェルあたりの細胞数が2×104未満であることを確認した。増殖研究では正確なLSC細胞計数を得るために播種密度の測定が必要となる。細胞を24時間にわたって培養した後、直流電力(0〜1V)又は交流電力(10〜100KHz、0〜1V)を使用して4時間にわたって電気刺激を与えた。いずれの場合も、電気刺激は培養器内で行った。刺激を与えた後、細胞をさらに24時間培養した。細胞成長に対する電気刺激の効果は、アルカリホスファターゼ活性、カルシウム沈着、細胞増殖を電気刺激を与えない適当な対照群と比較して評価した。
【0046】
本実施例では、アルカリホスファターゼ活性は以下のように測定した。20μlの上澄み液を各ウェルから回収し、1mlのp−ニトロフェニルリン酸塩と混合し、室温で約30分間にわたって培養した。活性度は、アルカリホスファターゼ活性に比例する405nmの吸光度を測定することによって決定した。
【0047】
本実施例では、細胞外マトリックス(ECM)におけるカルシウム沈着は以下のように測定した。培地を各ウェルから除去し、1mlの0.1N HCIを添加してカルシウムを溶解した。室温で2時間にわたって培養した後、20μlの上澄み液を採取し、1mlのo−クレゾールフタレイン錯体と混合した。5分後、575nmにおける吸光度を測定した。測定値はカルシウム濃度に比例していた。
【0048】
本実施例では、細胞増殖は以下のように測定した。培地を除去した後、細胞層を70%のエタノールで固定し、ヨウ化プロピジウムで染色した。その後、レーザー走査サイトメトリー(LSC)を使用して蛍光下で細胞を観察した(図2を参照)。好ましくは、少なくとも5箇所の1.8mmの半径領域をランダムに採取し、細胞数を数えた。このようにして平均細胞数を算出した。
【0049】
(実施例2)
本発明の別の実施例では、1又は複数の電極を動物の体内に外科的に埋め込んだ。本実施例では、電極は生分解性及び/又は生体吸収性を有する成分を含むため、不要となった場合に動物の体内から電極を取り出す必要はない。具体的には、本実施例の電極は、ポリ乳酸で被覆された生分解性CP(導電性ポリマー)を含む。印加電位は、例えば、正弦、正方形、三角形又は定形等の任意の適当な波形を有することができる。印加電圧は、0〜1600mV、50〜1200mV、100〜1000mV、200〜800mVを含む適当な大きさとすることができる。いくつかの実施形態では、得られる電界を細胞の生理機能及び/又は成長に影響を及ぼすために有効な時間にわたって印加する。これらの実施形態には、本発明が部分的な治癒及び/又は再生のみに影響を与える実施形態も含まれる。
【0050】
上述した実施例は本発明の原理を説明するものであって、上記実施形態を網羅するものではない。また、当業者は多くの変形や変更に容易に想到するものと考えられるが、本発明は上述した構造及び動作のみに限定されるものではなく、あらゆる適当な変形及び均等物が本発明の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】異なるスルホン化率を有する一連の生体適合性導電性ポリマー(CP)の合成経路を示す図である。
【図2】標準ガラス及び合成したスルホン化ポリアニリン上での細胞の成長を比較する写真である。
【図3】基板が異なることが細胞成長に及ぼす影響を示すグラフである。基板の材質として、非被覆スルホン化ポリアニリン及びPLA被覆ポリアニリンを含んでいる。
【図4】印刷及びin situ重合によって導電性ポリマーを使用した櫛形電極を製造する工程を示す図である。
【図5】高性能レーザープリンタによって得られる解像度を通常のレーザープリンタと比較して示す一組の写真である。
【図6】ソフトリソグラフィ(例えばスタンピング)を使用して二次元パターン電極を製造する工程を示す図である。
【図7】毛細管マイクロモールド法(MIMIC)を示す図である。
【図8】ポジ型リゾグラフィ及びリフトオフによって二次元パターン電極を製造する工程を示す図である。
【図9】ポジ型リゾグラフィ及びリフトオフを使用して導電性ポリマーで製造した櫛型電極のSEM及び写真を含む一式の画像である。
【図10】パターン電極上の骨細胞に電気刺激を与えるための装置を示す。
【図11】直流電気刺激下における櫛形電極100上で成長させた細胞の電圧依存性を示すグラフである。
【図12】絶縁層の厚みと、直流電気刺激下における櫛形電極50上での細胞成長と、の間の関係を示すグラフである。
【図13】櫛形電極100上で成長させた細胞分布に及ぼす電気刺激の効果を示す一式の画像である。
【図14】PLA絶縁層の誘電性を示す一式のグラフである。
【図15】SPAN配合物の電気的特性の一例を示す一対のグラフである。
【図16】印刷及びin situ重合によって製造した複数の櫛形実施形態の寸法を示す表である。
【図17】実施例の電極の等電位線及び電気力線を示す一対の図である。
【図18A】実施例の電極の電位分布を示す図である。
【図18B】実施例の電極の電気力線を示す図である。
【図19】染料吸着試験における細胞膜透過性に対する印加電界の効果を示す一式のデータ図及び表である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞及び組織の生理機能を調節するための方法であって、
少なくとも1つのパターン電極を用意する工程と、
少なくとも1つの細胞を用意する工程と、
前記少なくとも1つの細胞と電気的に連絡するように前記少なくとも1つの電極を配置する工程と、
前記電極に電圧を印加して、前記少なくとも1つの細胞に有効な量のパターン電界又はパターン電流を供給し、前記パターン電界によって前記細胞の生理機能又は成長を調節する工程と、を含む方法。
【請求項2】
請求項1において、前記パターン電極が、さらに少なくとも1つの二次元又は三次元パターン電極を含む、方法。
【請求項3】
請求項1において、前記パターン電極のパターンが、櫛型、平行線及び同心円のうちの少なくとも1種の形状を有する、方法。
【請求項4】
請求項1において、前記パターン電極のパターン部の間隔は、10nm〜200μmである、方法。
【請求項5】
請求項1において、各パターン電極のパターン部の極性が隣接する1又は複数のパターン部の極性と逆である方法。
【請求項6】
請求項1において、前記パターン電極は、基板を有し、
前記基板は、有機ポリマー、生体ポリマー、生体吸収性ポリマー、生分解性ポリマー、金属酸化物ガラス、およびセラミックの少なくとも1種を含む、方法。
【請求項7】
請求項1において、前記パターン電極は、細胞接着を促進させるために十分な表面粗さを有する、方法。
【請求項8】
請求項7において、前記表面粗さは、前記パターン電極に誘電体被覆を施すことによって形成される、方法。
【請求項9】
請求項1において、前記パターン電極は、導電性ポリマーを含み、
前記導電性ポリマーは、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホネート)、および、完全にスルホン化されたポリアニリンから選択される少なくとも1種である、方法。
【請求項10】
請求項9において、前記導電性ポリマーは、ドーパントとして、アニリン繰り返し単位当たり約0.05〜約1.0の濃度のスルホン酸基を有する、方法。
【請求項11】
細胞及び組織の生理機能を調節するための装置であって、
処置が必要な生体内の位置に、有効な量のパターン電界又はパターン電流を供給することができる少なくとも1つのパターン電極を含む装置。
【請求項12】
請求項11において、前記パターン電極は、二次元又は三次元パターン電極である、装置。
【請求項13】
請求項11において、前記パターン電極は、櫛型電極である、装置。
【請求項14】
請求項11において、前記パターン電極は、前記パターン電極から離れた位置で最大の電界強度を有する電界を生成することができる、装置。
【請求項15】
細胞及び組織の生理機能を調節するためのパターン電極を製造するための方法であって、
非導電性基板を用意する工程と、
導電性材料を用意する工程と、
前記非導電性基板に接着したパターン導電膜が形成されるように、前記導電性材料を前記非導電性基板に塗布する工程と、
を含む方法。
【請求項16】
請求項15において、前記パターン導電膜上に第2の非導電性基板を配置し、前記第2の基板に接着した第2のパターン導電膜が形成されるように、前記第2の非導電性基板に前記導電性材料を塗布することをさらに含む、方法。
【請求項17】
請求項15において、前記非導電性基板は、有機ポリマー、生体ポリマー、生体吸収性ポリマー、生分解性ポリマー、金属酸化物ガラス及びセラミックから選択される少なくとも1種からなる、方法。
【請求項18】
請求項15において、前記導電性材料は、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホネート)、および、完全にスルホン化されたポリアニリンから選択される少なくとも1種からなる、方法。
【請求項1】
細胞及び組織の生理機能を調節するための方法であって、
少なくとも1つのパターン電極を用意する工程と、
少なくとも1つの細胞を用意する工程と、
前記少なくとも1つの細胞と電気的に連絡するように前記少なくとも1つの電極を配置する工程と、
前記電極に電圧を印加して、前記少なくとも1つの細胞に有効な量のパターン電界又はパターン電流を供給し、前記パターン電界によって前記細胞の生理機能又は成長を調節する工程と、を含む方法。
【請求項2】
請求項1において、前記パターン電極が、さらに少なくとも1つの二次元又は三次元パターン電極を含む、方法。
【請求項3】
請求項1において、前記パターン電極のパターンが、櫛型、平行線及び同心円のうちの少なくとも1種の形状を有する、方法。
【請求項4】
請求項1において、前記パターン電極のパターン部の間隔は、10nm〜200μmである、方法。
【請求項5】
請求項1において、各パターン電極のパターン部の極性が隣接する1又は複数のパターン部の極性と逆である方法。
【請求項6】
請求項1において、前記パターン電極は、基板を有し、
前記基板は、有機ポリマー、生体ポリマー、生体吸収性ポリマー、生分解性ポリマー、金属酸化物ガラス、およびセラミックの少なくとも1種を含む、方法。
【請求項7】
請求項1において、前記パターン電極は、細胞接着を促進させるために十分な表面粗さを有する、方法。
【請求項8】
請求項7において、前記表面粗さは、前記パターン電極に誘電体被覆を施すことによって形成される、方法。
【請求項9】
請求項1において、前記パターン電極は、導電性ポリマーを含み、
前記導電性ポリマーは、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホネート)、および、完全にスルホン化されたポリアニリンから選択される少なくとも1種である、方法。
【請求項10】
請求項9において、前記導電性ポリマーは、ドーパントとして、アニリン繰り返し単位当たり約0.05〜約1.0の濃度のスルホン酸基を有する、方法。
【請求項11】
細胞及び組織の生理機能を調節するための装置であって、
処置が必要な生体内の位置に、有効な量のパターン電界又はパターン電流を供給することができる少なくとも1つのパターン電極を含む装置。
【請求項12】
請求項11において、前記パターン電極は、二次元又は三次元パターン電極である、装置。
【請求項13】
請求項11において、前記パターン電極は、櫛型電極である、装置。
【請求項14】
請求項11において、前記パターン電極は、前記パターン電極から離れた位置で最大の電界強度を有する電界を生成することができる、装置。
【請求項15】
細胞及び組織の生理機能を調節するためのパターン電極を製造するための方法であって、
非導電性基板を用意する工程と、
導電性材料を用意する工程と、
前記非導電性基板に接着したパターン導電膜が形成されるように、前記導電性材料を前記非導電性基板に塗布する工程と、
を含む方法。
【請求項16】
請求項15において、前記パターン導電膜上に第2の非導電性基板を配置し、前記第2の基板に接着した第2のパターン導電膜が形成されるように、前記第2の非導電性基板に前記導電性材料を塗布することをさらに含む、方法。
【請求項17】
請求項15において、前記非導電性基板は、有機ポリマー、生体ポリマー、生体吸収性ポリマー、生分解性ポリマー、金属酸化物ガラス及びセラミックから選択される少なくとも1種からなる、方法。
【請求項18】
請求項15において、前記導電性材料は、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホネート)、および、完全にスルホン化されたポリアニリンから選択される少なくとも1種からなる、方法。
【図1】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図9】
【図11】
【図13】
【図18A】
【図19】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図9】
【図11】
【図13】
【図18A】
【図19】
【公表番号】特表2009−508651(P2009−508651A)
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−532369(P2008−532369)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際出願番号】PCT/US2006/036767
【国際公開番号】WO2007/035849
【国際公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(508084283)オハイオ ステイト ユニバーシティ (2)
【氏名又は名称原語表記】OHIO STATE UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】OFFICE OF TECHNOLOGY TRANSFER,200 Research Road, Columbus, OH 43210, U.S.A.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際出願番号】PCT/US2006/036767
【国際公開番号】WO2007/035849
【国際公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(508084283)オハイオ ステイト ユニバーシティ (2)
【氏名又は名称原語表記】OHIO STATE UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】OFFICE OF TECHNOLOGY TRANSFER,200 Research Road, Columbus, OH 43210, U.S.A.
【Fターム(参考)】
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