説明

二次電池の分極電圧演算装置及び充電状態推定装置

【課題】二次電池の分極電圧を精度よく算出する。
【解決手段】二次電池10の温度、電流、電圧をそれぞれ温度センサ32、電圧センサ34、電流センサ36で検出する。電池ECU20は、電流に基づいて分極電圧を算出するとともに、分極電圧の上限値及び下限値を二次電池10の温度特性に応じて適応的に設定する。算出した分極電圧を上限値及び下限値と比較して補正し、補正後の分極電圧を用いてSOCを推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の分極電圧を演算する装置、及び演算された分極電圧に基づいて二次電池の充電状態(SOC)を推定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機により駆動力を得ている電気自動車やハイブリッド自動車等の電動車両は、二次電池を搭載し、二次電池に蓄えられた電力により電動機を駆動する。電動車両は、回生制動、すなわち車両制動時に電動機を発電機として機能させ、車両の運動エネルギを電気エネルギに変換することにより制動する機能を備えている。変換された電気エネルギは二次電池に蓄えられ、加速を行う時などに再利用される。
【0003】
二次電池は過放電や過充電を行うと電池性能を劣化させることになるため、二次電池の充電状態SOCを把握して充電あるいは放電を調整する必要がある。特に、ハイブリッド自動車においては、二次電池が回生電力を受け入れられるように、また要求があれば直ちに電動機に対して電力を供給できるようにするために、その充電状態を満充電状態(100%)とか、まったく蓄電されていない状態(0%)のおおよそ中間付近(50〜60%)に制御されることが多く、この場合、SOCをより正確に検出ないし推定することが望まれる。
【0004】
特許文献1には、走行中のバッテリ電流を観測することにより局部的な電解液の濃度変化を予測することにより分極の度合いを推定し、充電状態に応じた補正項及び電圧値のマップを参照しつつ分極の影響が小さい時を狙って測定した電圧−電流特性から充電状態を推定することが開示されている。
【0005】
特許文献2には、電圧からバッテリの内部抵抗に起因するバッテリ内部の電圧降下を減算して得られる起電圧が所定値以上または以下になったことでSOCを判定する際に、起電圧に含まれるバッテリセルの分極に基づく分極起電圧を考慮することが開示されている。
【0006】
特許文献3には、バッテリ内の分極の指数が下限値以上で上限値以下となるように発電機の発電電力を制御し、このような分極の指数のもとにバッテリのSOCを推定することが開示されている。
【0007】
特許文献4には、バッテリを構成するバッテリ構成部材がそれぞれ有する異なる分極特性を考慮することにより、分極起電圧の推定演算をより正確に行うことが開示されている。
【0008】
特許文献5には、フィルタリング処理した積算容量の変化量から参照テーブルに基づいて分極電圧を求め、有効な無負荷電圧から分極電圧を減算して電池起電力を求め、電池起電力から参照テーブルに基づいてSOCを推定することが開示されている。
【0009】
特許文献6には、無負荷電圧から分極電圧を減算することで起電力を求め、前回演算された起電力と今回演算された起電力との変化量が、所定の制限値を超えないように今回演算された起電力に対して補正を行い、補正された起電力に基づいてSOCを推定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−319100号公報
【特許文献2】特開2000−258514号公報
【特許文献3】特開2001−97150号公報
【特許文献4】特開2003−68370号公報
【特許文献5】特開2003−197275号公報
【特許文献6】特開2008−180692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
二次電池の充電状態SOCは、上記のように、二次電池の無負荷電圧を算出し、無負荷電圧から分極電圧を減算することで二次電池の起電力を算出し、算出した二次電池の起電力から推定することができるが、この演算過程から明らかなように、分極電圧の算出精度がSOCの算出精度に大きく影響することになる。特許文献3には、分極の指数が下限値と上限値の間にあるように発電機を制御するとともに、この条件下でSOCを推定することが開示されているが、二次電池の特性は温度等により変化し得るものであり、分極電圧を演算する際に、このような二次電池の特性を考慮することは開示されていない。また、二次電池に流れる電流に基づいて分極電圧を演算する際、電流の計測値自体の誤差や計測タイミングのずれによって、誤った電流値を取得する場合がある。この誤った電流値から算出された分極電圧に基づいてSOCを算出すれば、二次電池が過放電や過充電になる場合が生じる。
【0012】
本発明の目的は、二次電池の特性を考慮することで、SOCを推定するための前提となる二次電池の分極電圧を高精度に演算する装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、二次電池の分極電圧を演算する分極電圧演算装置であって、前記二次電池に流れる電流に基づいて分極電圧を算出する分極電圧算出手段と、前記分極電圧のしきい値を設定するしきい値設定手段と、算出された前記分極電圧と前記しきい値とを比較することで前記分極電圧を補正する分極電圧補正手段とを備え、前記しきい値は、前記二次電池の温度特性に応じ、温度が高くなるほどその絶対値が小さくなるように設定されることを特徴とする。
【0014】
本発明の1つの実施形態では、前記しきい値は、さらに前記二次電池の前回の充電状態SOCに応じ、前記充電状態SOCが相対的に低領域及び高領域において中領域よりもその絶対値が小さくなるように設定される。
【0015】
また、本発明の1つの実施形態では、前記しきい値は、さらに前記二次電池の端子電圧に応じ、端子電圧が相対的に低領域及び高領域において中領域よりもその絶対値が小さくなるように設定される。
【0016】
また、本発明の1つの実施形態では、前記分極電圧補正手段は、算出された前記分極電圧の絶対値が前記しきい値を超える場合に前記分極電圧を前記しきい値に置換し、算出された前記分極電圧の絶対値が前記しきい値以下の場合に前記分極電圧をそのまま維持する。
【0017】
また、本発明の1つの実施形態では、前記しきい値は、充電側しきい値と放電側しきい値からなる。
【0018】
また、本発明は、二次電池の充電状態SOCを推定する装置であって、前記二次電池に流れる電流に基づいて分極電圧を算出する分極電圧算出手段と、前記分極電圧のしきい値を設定するしきい値設定手段と、算出された前記分極電圧と前記しきい値とを比較することで前記分極電圧を補正する分極電圧補正手段と、前記二次電池に流れる電流がゼロの時における前記二次電池の端子電圧を表す無負荷電圧を算出する無負荷電圧算出手段と、算出された前記無負荷電圧と、算出された前記分極電圧とに基づいて前記二次電池の起電力を算出する起電力算出手段と、算出された前記起電力に基づいて前記二次電池の充電状態SOCを算出するSOC算出手段とを備え、前記しきい値は、前記二次電池の温度特性に応じ、温度が高くなるほどその絶対値が小さくなるように設定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、二次電池の分極電圧を高精度に演算できる。また、本発明によれば、高精度に演算された分極電圧を用いて二次電池の充電状態SOCを高精度に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態のハイブリッド自動車の概略構成図である。
【図2】実施形態の電池ECUの機能ブロック図である。
【図3】温度をパラメータとした充放電電流と分極電圧の関係を示すグラフ図である。
【図4A】実施形態の処理フローチャート(その1)である。
【図4B】実施形態の処理フローチャート(その2)である。
【図5】温度と分極電圧の上限値並びに下限値の関係を示すグラフ図である。
【図6】分極電圧の上限値及び下限値の二次元テーブルを示すグラフ図である。
【図7】変化容量と分極電圧の関係を示すグラフ図である。
【図8】無負荷電圧算出方法を示すグラフ図である。
【図9】起電力とSOC値の関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について、ハイブリッド自動車に搭載される場合を例にとり説明する。但し、本発明はハイブリッド自動車に搭載される場合に限定されるものではなく、駆動源としてモータジェネレータを備える他の電動車両にも同様に適用可能である。
【0022】
図1に、ハイブリッド自動車の概略構成を示す。電池電子制御ユニット(電池ECU)20は、二次電池10から電池電圧、電池温度等のデータを受けて、二次電池10のSOCを推定し、推定したSOCや電池電圧、電池温度などのデータをハイブリッド電子制御ユニット(HV−ECU)40に出力する。HV−ECU40は、インバータ50、駆動力分配機構56、エンジン60を制御する。
【0023】
二次電池10は、複数の電池ブロックを直列に接続して構成される。各電池ブロックは、それぞれ複数の電池モジュールを電気的に直列接続して構成され、各電池モジュールは、それぞれ複数の単電池(セル)を電気的に直列接続して構成される。二次電池10は、例えばニッケル水素電池やリチウムイオン電池である。
【0024】
二次電池10は、リレー38、インバータ50を介してモータジェネレータ(M/G)52に接続される。モータジェネレータ52は、遊星ギア機構を含む駆動力分配機構56を介してエンジン60に接続される。
【0025】
温度センサ32は、二次電池10の少なくとも1箇所に設けられ、二次電池10の所定部位の電池温度Tbを検出する。温度センサ32を複数設ける場合、温度センサ32は、例えば比較的温度が近い複数の電池ブロックを1つのグループとしてグループ毎に1つずつ配置するのが好適である。
【0026】
電圧センサ34は、電池ブロック毎に設けられ、各電池ブロックの端子電圧Vbを検出する。
【0027】
電流センサ36は、二次電池10に流れる充放電電流Iを検出する。
【0028】
温度センサ32、電圧センサ34、電流センサ36で検出された温度データTb、端子電圧データVb、電流データIは、それぞれ所定のサンプリング周期、例えば100msecで電池ECU20に供給される。サンプリングタイミングで順次検出された温度データ、端子電圧データ、電流データをそれぞれTb(n)、Vb(n)、I(n)とする。電池ECU20は、各センサからのデータに基づいて二次電池10のSOCを経時的に推定する。
【0029】
図2に、電池ECU20の機能ブロック図を示す。電池ECU20は、無負荷電圧算出部、起電力算出部、SOC推定部、積算容量算出部、変化容量算出部及び分極電圧算出部を備える。
【0030】
電圧センサ34で検出された二次電池10の電圧データVb(n)は、無負荷電圧算出部に供給される。電流センサ36で検出された二次電池10の電流データI(n)は、無負荷電圧算出部に供給されるとともに、積算容量算出部に供給される。温度センサ32で検出された二次電池10の温度データTb(n)は、分極電圧算出部に供給される。
【0031】
積算容量算出部は、電流データI(n)を積算することで所定期間における積算容量Qを算出する。積算容量算出部は、算出した積算容量Qを変化容量算出部に出力する。
【0032】
変化容量算出部は、所定期間(例えば1分間)における積算容量Qの変化量ΔQを算出する。変化容量算出部は、算出した積算容量の変化量ΔQを分極電圧算出部に出力する。
【0033】
分極電圧算出部は、積算容量の変化量ΔQに基づいて分極電圧Vpを算出する。また、分極算出電圧部は、算出した分極電圧が上限値と下限値の間にあるか否かを判定することで算出した分極電圧が妥当な値であるか否かを判定し、妥当でない場合に算出した分極電圧を補正する。図3に、二次電池10の充放電電流と分極電圧の関係を、二次電池10の温度をパラメータとして示す。図において、横軸は充放電電流(プラス側を充電側、マイナス側を放電側とする)、縦軸は分極電圧(プラス側を充電側、マイナス側を放電側とする)を示し、二次電池10の温度が−10℃、20℃、40℃の場合の充放電電流と分極電圧の関係を示す。二次電池10の温度が高いほど、分極電圧の値(絶対値)は小さくなる。本実施形態では、このような二次電池10の温度特性を考慮して、ルックアップテーブルを参照して求めた分極電圧が妥当な値であるか否かを判定するための上限値及び下限値を固定とするのではなく適応的に変化させて補正する。上限値及び下限値については、さらに後述する。分極電圧算出部は、求めた分極電圧Vpを起電力算出部に出力する。
【0034】
無負荷電圧算出部は、組データとして検出された電圧データVb(n)と電流データI(n)を最小二乗法を用いた統計処理により一次の電圧−電流直線を求め、電流がゼロのときの電圧値(V切片)として無負荷電圧を算出する。無負荷電圧算出部は、算出した無負荷電圧を起電力算出部に出力する。
【0035】
起電力算出部は、算出された無負荷電圧と分極電圧算出部で算出された分極電圧から二次電池10の起電力を算出する。すなわち、無負荷電圧から分極電圧を減算することにより起電力を算出する。起電力は、充電時には無負荷電圧から分極電圧の絶対値分だけ小さくなり、放電時には無負荷電圧から分極電圧の絶対値分だけ大きくなる。起電力算出部は、算出した起電力をSOC推定部に出力する。
【0036】
SOC推定部は、二次電池10の起電力とSOCとの関係をルックアップテーブルとして予めメモリに記憶しており、このメモリを参照することで、起電力算出部から供給された起電力に対応するSOCを求める。また、SOC推定部は、既に算出済みの前回のSOC推定値と変化容量とからSOCを算出し、両SOCに基づいて今回のSOCを推定してHV−ECU40に出力する。
【0037】
図4A及び図4Bに、本実施形態の電池ECU20での詳細処理フローチャートを示す。まず、図4Aにおいて、温度データTb(n)、電圧データVb(n)、電流データI(n)を入力する(S101)。次に、分極電圧算出部は、前回算出されたSOC値(算出されたSOC値は順次、分極電圧算出部のメモリに記憶しておく)と温度データTb(n)に基づいて、分極電圧の上限値Vpmax及び下限値Vpminを設定する(S102)。具体的には、予め前回SOC値と温度データTb(n)及び上限値Vpmax、下限値Vpminの関係を示すルックアップテーブルをメモリに記憶しておき、このメモリを参照することで、前回のSOC値及び今回の温度データTb(n)に応じた上限値Vpmax及び下限値Vpminを設定する。
【0038】
図5に、二次電池10の温度と上限値Vpmaxとの関係、及び二次電池10の温度と下限値Vpminとの関係を示す。上限値Vpmaxは充電側の分極電圧の上限値であり、下限値は放電側の分極電圧の下限値である。図3に示すように、二次電池10の温度が高くなるほど、分極電圧の値(絶対値)は小さくなる傾向にある。したがって、このことに対応して、二次電池10の温度が高いほど、上限値Vpmaxの絶対値を小さく設定するとともに、下限値Vpminの絶対値を小さく設定する。温度に応じて上限値Vpmax及び下限値Vpminを適応的に変化させることで、分極電圧Vpを二次電池10の温度特性に応じてより正確に算出することができる。
【0039】
図6に、ルックアップテーブルの一例を模式的に示す。ルックアップテーブルは二次元テーブル(マップ)であり、前回のSOC値及び今回の温度データTb(n)に対応する上限値Vpmaxと下限値Vpminが規定される。上限値Vpmax及び下限値Vpminの絶対値は、ともに温度が高いほど小さくなるように設定され、かつ、前回のSOC値に応じて変動させる。具体的には、SOC値が相対的に低領域及び高領域において中領域よりも小さくなるように設定される。温度が高いほど上限値Vpmax及び下限値Vpminの絶対値を小さくする理由は、上記のとおり温度が高いほど分極電圧の絶対値は小さくなるからである。また、SOC値が相対的に低領域及び高領域において中領域よりも上限値Vpmax及び下限値Vpminの絶対値を小さくする理由は、SOC値が相対的に低領域及び高領域において中領域よりも分極電圧は発生しにくくなることが実験により明らかとなっているからである。なお、電池種によっては、SOC値が高い程分極電圧が発生しにくくなるものがある。この場合には、SOC値が高い程上限値Vpmax及び下限値Vpminの絶対値を小さくしてもよい。
【0040】
再び図4に戻り、上限値Vpmax及び下限値Vpminを設定した後、分極電圧算出部は、電池温度Tb(n)及び変化容量ΔQを用いて分極発生量ΔVpを算出する(S103)。また、分極電圧算出部は、前回の分極の減衰量Vpdecを算出する(S104)。そして、分極電圧算出部は、分極発生量ΔVpと減衰処理値(減衰量)Vpdecとを加算することで、今回の分極電圧Vpを算出する(S105)。
【0041】
ここで、分極電圧の算出方法自体は、例えば特開2008−180692号公報に記載されているように公知であるが、以下に説明する。分極電圧Vpは、二次電池10の定電流による充電を継続すると、徐々に増加し、充電が終了した後も直ちに解消せず、徐々に減少しながらゼロに向かう。つまり、分極電圧Vpは、定電流による充電を開始してから終了するまでの成分である分極発生量ΔVpと、充電停止以降の成分である減衰量Vpdecとを含む。ハイブリッド自動車に搭載された二次電池10は、実際には定電流ではなく、短時間で充電または放電を頻繁に繰り返すため、分極発生量ΔVpは、近似的に一定時間内の充放電電流Iの積分量に係数hを乗算し、ある値で制限することで得られる。すなわち、分極発生量ΔVpは、
Vp=h×∫Idt
で算出される。hは、電池温度をパラメータとして、予め実験などにより求められた関数に基づいて算出される。∫Idtは、電流データI(n)の積算値である。
【0042】
一方、減衰量Vpdecは、短期的に減衰する成分から長期的に減衰する成分までn個の成分(A1、A2、・・・、An)を合成したものである。各成分の減衰率は、exp(−t/Tn)で表されるため、各成分を合成した減衰率は、
減衰率=A1×exp(−t/T1)+A2×exp(−t/T2)+・・・
+An×exp(−t/Tn)
となる。ここで、(A1、A2、・・・An)>0であり、A1+A2+・・・+An=1である。また、A1〜An及びT1〜Tnは、電池特性により予め実験などにより求められる。tは、二次電池10の充電あるいは放電が終了してからの経過時間である。
【0043】
分極電圧は、充電あるいは放電の間に発生した分極電圧に対して減衰するので、減衰量Vpdecは、
Vpdec=Vp×減衰率
となる。分極電圧Vpは、以上のようにして算出される分極発生量ΔVpと減衰量Vpdecを加算することで算出される。
【0044】
分極電圧Vpを算出した後、分極電圧算出部は、S102でルックアップテーブルを参照することで設定した上限値Vpmaxと下限値Vpminをそれぞれ分極電圧Vpと大小比較する。すなわち、まず、Vp<Vpminであるか否かを判定する(S106)。Vp<Vpminであれば、下限値を下回る(Vpの絶対値が下限値の絶対値を超える)ことを意味するため、算出された分極電圧Vpを下限値Vpminに置換する(S107)。次に、Vp>Vpmaxであるか否かを判定する(S108)。Vp>Vpmaxであれば、上限値を超えることを意味するため、算出された分極電圧Vpを上限値Vpmaxに置換する(S109)。算出された分極電圧Vpが、下限値と上限値の間、つまりVpmin≦Vp≦Vpmaxであれば、置換することなくそのまま維持する。分極電圧算出部は、以上のようにして分極電圧Vpを算出する。分極電圧算出部は、電流データI(n)に基づき算出された分極電圧Vpを、上限値Vpmax及び下限値Vpminを用いて上限値と下限値の間に収まるように補正する。
【0045】
なお、分極電圧算出部は、二次電池10の温度をパラメータとして積算容量の変化容量ΔQと分極電圧Vpとの関係を示すルックアップテーブルをメモリに予め記憶しておき、このルックアップテーブルを参照することで、温度データと変化容量算出部で算出された変化容量ΔQから分極電圧Vpを求めてもよい。図7に、変化容量ΔQと分極電圧Vpの関係を一例として示す。電池温度が25℃の場合の例である。
【0046】
次に、図4Bに示すように、無負荷電圧算出部は、電圧データVb(n)と電流データI(n)の組データから無負荷電圧を算出する(S110)。
【0047】
図8に、電圧データVb(n)と電流データI(n)の組データをプロットした結果を示す。これらの組データから、最小二乗法を用いた統計処理により、一次の電圧−電流直線(近似直線)が求められ、電流がゼロの時の電圧値(V切片)として無負荷電圧V0が算出される。
【0048】
なお、無負荷電圧算出部は、組データのうち有効な組データのみを選択して無負荷電圧V0を算出してもよい。例えば、電流データI(n)の値が所定範囲内であり、組データ取得中の積算容量の変化量ΔQが所定の範囲内である場合に組データを有効とみなし、それ以外は排除するなどである。
【0049】
再び図4Bに戻り、無負荷電圧V0を算出した後、起電力算出部は、無負荷電圧V0と分極電圧Vpから起電力を算出する(S111)。具体的には、起電力算出部は、無負荷電圧V0から分極電圧Vpを減算することで起電力を算出する。
【0050】
次に、SOC推定部は、前回のSOC値に変化容量ΔQを加算することで電流積算のSOC値を算出する(S112)。また、SOC推定部は、起電力算出部で算出された起電力に基づき、予めメモリに記憶された起電力とSOCとの関係を示すルックアップテーブルを参照して、算出した起電力に対応するSOC値を求める。図9に、起電力VeとSOC値との関係を一例として示す。そして、電流積算のSOC値と、起電力から求めたSOC値から、今回のSOC値を推定する(S113)。具体的には、SOC推定部は、電流積算のSOC値と起電力から求めたSOC値の平均を算出して今回のSOC値を推定する。なお、SOC推定部は、電流積算のSOC値と起電力から求めたSOC値の重み付け平均により今回のSOC値を推定してもよく、あるいは起電力から求めたSOC値をそのまま今回のSOC値としてもよい。SOC推定部は、推定したSOC値をHV−ECU40に出力する。また、SOC推定部は、今回のSOC値を分極電圧算出部に出力する。分極電圧算出部は、SOC推定部から供給された今回のSOC値をメモリに記憶する。メモリに記憶した今回のSOC値は、次回の分極電圧を算出する際の上限値Vpmax及び下限値Vpminを設定するために用いられる。
【0051】
以上説明したように、本実施形態では、SOC値を推定するために必要な二次電池10の起電力を算出するための分極電圧Vpを算出する際に、二次電池10の特性を考慮した上限値及び下限値を用いることで、分極電圧Vpの算出精度を向上することができる。起電力は、無負荷電圧V0から分極電圧Vpを減算して算出されるものであり、分極電圧Vpを高精度に算出することで起電力の算出精度が向上し、結果としてSOC値の算出精度も向上する。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【0053】
例えば、本実施形態では、図6に示すように、分極電圧Vpの上限値Vpmax及び下限値Vpminを設定するためのテーブルを、今回の温度と前回のSOC値の二次元テーブルとしているが、SOC値と端子電圧との間には正の相関があることから、今回の温度と前回の端子電圧の二次元テーブルとしてもよい。すなわち、温度が高い程、及び端子電圧が相対的に低領域及び高領域において中領域よりも上限値Vpmax及び下限値Vpminの絶対値を小さく設定する。なお、電池種によっては温度が高い程、及び端子電圧が高い程、上限値Vpmax及び下限値Vpminの絶対値を小さく設定してもよい。
【0054】
また、本実施形態では、無負荷電圧算出部で組データを最小二乗法で統計処理することで無負荷電圧V0を算出しているが、算出された無負荷電圧V0に対し、その近似直線に対する組データの分散値を求め、この分散値が所定の範囲内にあるか、あるいは近似直線と組データの相関係数を求め、この相関係数が所定値以上ある場合に、無負荷電圧V0が有効とすることで、無負荷電圧の算出精度を確保してもよい。起電力は、無負荷電圧V0と分極電圧Vpから算出されるものであり、本実施形態により分極電圧Vpの精度が確保され、さらに無負荷電圧V0の精度も併せて確保することで、起電力の算出精度が向上する。
【0055】
また、本実施形態では、分極電圧Vpの上限値Vpmax及び下限値Vpminを二次元テーブルを用いて設定しているが、ある基準温度に対する基準上限値及び基準下限値を設定しておき、この基準温度からの温度変化量に応じて基準上限値及び基準下限値を変化させることで、温度に応じて上限値及び下限値を適応的に設定してもよい。例えば、温度25℃を基準とし、このときの基準上限値及び基準下限値を予め設定しておくとともに、25℃からの温度変化量に応じて基準上限値及び基準下限値を増減調整する。温度が25℃以上であれば基準上限値および基準下限値の絶対値を減少調整し、温度が25℃以下であれば基準上限値および基準下限値の絶対値を増大調整する。また、本実施形態では、上限値及び下限値と表現しているが、上限値を充電側のしきい値、下限値を放電側のしきい値とし、充電時及び放電時それぞれの分極電圧のしきい値あるいは許容値を設定すると表現することもできる。
【0056】
また、本実施形態では充電状態SOCを推定しているが、充電状態SOCには二次電池10の残存容量も含まれる。
【0057】
さらに、本実施形態では、起電力算出部で算出された起電力に基づいてSOC値を推定しているが、特開2008−180692号公報に示されるように、起電力算出部で算出された起電力に対し、前回の起電力を基準として許容できる変化量を超えないように補正を行い、補正後の起電力に基づいてSOC値を推定してもよい。但し、本実施形態では、分極電圧Vpを高精度に算出することが可能であり、これによって起電力の算出精度も確保されることから、このような起電力の補正は一般的に不要となろう。起電力補正処理を省略し得ることは本実施形態の効果の一つである。
【符号の説明】
【0058】
10 二次電池、20 電池ECU、32 温度センサ、34 電圧センサ、36 電流センサ、38 リレー、50 インバータ、52 モータジェネレータ、56 駆動力分配機構、60 エンジン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の分極電圧を演算する分極電圧演算装置であって、
前記二次電池に流れる電流に基づいて分極電圧を算出する分極電圧算出手段と、
前記分極電圧のしきい値を設定するしきい値設定手段と、
算出された前記分極電圧と前記しきい値とを比較することで前記分極電圧を補正する分極電圧補正手段と、
を備え、前記しきい値は、前記二次電池の温度特性に応じ、温度が高くなるほどその絶対値が小さくなるように設定されることを特徴とする二次電池の分極電圧演算装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記しきい値は、さらに前記二次電池の前回の充電状態SOCに応じ、前記充電状態SOCが相対的に低領域及び高領域において中領域よりもその絶対値が小さくなるように設定されることを特徴とする二次電池の分極電圧演算装置。
【請求項3】
請求項1記載の装置において、
前記しきい値は、さらに前記二次電池の端子電圧に応じ、端子電圧が相対的に低領域及び高領域において中領域よりもその絶対値が小さくなるように設定されることを特徴とする二次電池の分極電圧演算装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の装置において、
前記分極電圧補正手段は、算出された前記分極電圧が前記しきい値の絶対値を超える場合に前記分極電圧を前記しきい値に置換し、算出された前記分極電圧が前記しきい値の絶対値以下の場合に前記分極電圧をそのまま維持する
ことを特徴とする二次電池の分極電圧演算装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の装置において、
前記しきい値は、充電側しきい値と放電側しきい値からなることを特徴とする二次電池の分極電圧演算装置。
【請求項6】
二次電池の充電状態SOCを推定する装置であって、
前記二次電池に流れる電流に基づいて分極電圧を算出する分極電圧算出手段と、
前記分極電圧のしきい値を設定するしきい値設定手段と、
算出された前記分極電圧と前記しきい値とを比較することで前記分極電圧を補正する分極電圧補正手段と、
前記二次電池に流れる電流がゼロの時における前記二次電池の端子電圧を表す無負荷電圧を算出する無負荷電圧算出手段と、
算出された前記無負荷電圧と、算出された前記分極電圧とに基づいて前記二次電池の起電力を算出する起電力算出手段と、
算出された前記起電力に基づいて前記二次電池の充電状態SOCを算出するSOC算出手段と、
を備え、前記しきい値は、前記二次電池の温度特性に応じ、温度が高くなるほどその絶対値が小さくなるように設定されることを特徴とする二次電池の充電状態推定装置。
【請求項7】
請求項6記載の装置において、
前記しきい値は、さらに前記二次電池の前回の充電状態SOCに応じ、前記充電状態SOCが相対的に低領域及び高領域において中領域よりもその絶対値が小さくなるように設定されることを特徴とする二次電池の充電状態推定装置。
【請求項8】
請求項6記載の装置において、
前記しきい値は、さらに前記二次電池の端子電圧に応じ、端子電圧が相対的に低領域及び高領域において中領域よりもその絶対値が小さくなるように設定されることを特徴とする二次電池の充電状態推定装置。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれかに記載の装置において、
前記分極電圧補正手段は、算出された前記分極電圧が前記しきい値の絶対値を超える場合に前記分極電圧を前記しきい値に置換し、算出された前記分極電圧が前記しきい値の絶対値以下の場合に前記分極電圧をそのまま維持する
ことを特徴とする二次電池の充電状態推定装置。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれかに記載の装置において、
前記しきい値は、充電側しきい値と放電側しきい値からなることを特徴とする二次電池の充電状態推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−133414(P2011−133414A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−294440(P2009−294440)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(399107063)プライムアースEVエナジー株式会社 (193)
【Fターム(参考)】