説明

二次電池用電極の製造方法

【課題】集電体と合材層との密着力の向上を実現すると共に合材層の表面側の剥離を防止し得る電極の製造方法を提供すること
【解決手段】本発明によって提供される電極の製造方法は、少なくとも1種の結着材125を所定の溶媒に混合してなる結着材溶液120を電極集電体82の表面に塗布すること、電極活物質150を少なくとも含み且つ結着材を含まないペースト状の第1の組成物140を上記結着材溶液上に塗布すること、電極活物質150及び少なくとも1種の結着材165を少なくとも含むペースト状の第2の組成物160を上記第1の組成物上に塗布すること、結着材溶液と第1の組成物と第2の組成物とを乾燥させて電極合材層を形成すること、を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用の電極を製造する方法に関する。詳しくは、電極活物質と結着材とを含む電極合材層が電極集電体上に保持された構成を有する電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池その他の二次電池は、例えば、電気を駆動源として利用する車両に搭載される電源、或いはパソコンや携帯端末その他の電気製品等に用いられる電源として重要性が高まっている。特に軽量で高エネルギー密度が得られるリチウムイオン二次電池は、車両搭載用高出力電源として好ましい。
【0003】
典型的な構成のリチウムイオン二次電池では、導電性部材(電極集電体)の上にリチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出し得る物質(電極活物質)を主体とする電極材料が層状に形成された構成(以下、かかる層状形成物を「電極合材層」という。)の電極を備える。かかる電極は、典型的には、電極活物質と結着材(バインダ)等とを適当な溶媒(例えば水)に分散させて混練したペースト状の組成物(ペースト状組成物にはスラリー状組成物及びインク状組成物が包含される。)を調製し、これを電極集電体上に塗布して乾燥することにより形成されている。
【0004】
ところで、電極集電体上に塗布されたペースト状の組成物を乾燥して電極合材層を形成する際、組成物の表面から該組成物中の溶媒が蒸発するため、溶媒の対流によって該組成物に含まれる結着材が移動して組成物の表面に結着材が偏在(マイグレーション)してしまう場合がある。この結果、電極集電体と電極合材層において十分な密着力が得られないという問題がある。かかる問題に対応すべく、従来技術として、特許文献1が挙げられる。特許文献1には、集電体上に結着材及び水系分散剤からなるプレコート層を形成したのち、該層上に活物質及び結着材を含むペースト状の組成物を塗布して合材層を形成することにより集電体と合材層との密着力を高めようとする技術が記載されている。その他従来技術として特許文献2〜4が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−238720号公報
【特許文献2】特開2010−182626号公報
【特許文献3】特開2007−242374号公報
【特許文献4】特開2003−260400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術は、プレコート層上に塗布する組成物に結着材が含まれているため、集電体の近傍で結着材同士が凝集し合材層の表面側に結着材が不足してしまい、合材層の表面側においてヒビ割れや剥離が発生してしまう虞がある。高出力を得るためには合材層中の結着材量を増やすことなく上記の課題を解決することが要求されている。
そこで、本発明は、上述した課題を解決すべく創出されたものであり、その目的は、電極合材層の全体に亘り結着材を良好に分散させることにより、集電体と合材層との密着力の向上を実現すると共に合材層の表面側の剥離を防止し得る電極の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を実現すべく、本発明により、電極活物質及び結着材を少なくとも含む電極合材層が電極集電体上に形成された二次電池用電極を製造する方法が提供される。即ちここで開示される二次電池用電極の製造方法は、少なくとも1種の結着材を所定の溶媒に混合してなる結着材溶液を上記電極集電体の表面に塗布すること、上記活物質を少なくとも含み、且つ結着材を含まないペースト状の第1の組成物を上記結着材溶液上に塗布すること、上記電極活物質及び少なくとも1種の結着材を少なくとも含むペースト状の第2の組成物を上記第1の組成物上に塗布すること、上記結着材溶液と上記第1の組成物と上記第2の組成物とを乾燥させて電極合材層を形成すること、を包含する。
なお、本明細書において「結着材溶液」とは、少なくとも1種の結着材を所定の溶媒(典型的には水系溶媒)に溶解させてなる溶液及び少なくとも1種の結着材を所定の溶媒に分散させてなる分散液を包含する用語である。
なお、本明細書において「結着材を含まない」とは、発明の効果を奏する範囲内にて結着材が微量に含有される場合を含む。
【0008】
本発明の二次電池用電極の製造方法では、結着材溶液を電極集電体に塗布し、該結着材溶液が乾燥する前(ウェットな状態にある)に結着材を含まない第1の組成物を塗布し、次いで、上記結着材溶液及び第1の組成物が乾燥する前に少なくとも1種の結着材を含む第2の組成物を該第1の組成物に塗布している。
塗布された結着材溶液と第1の組成物と第2の組成物とは、これら材料が乾燥する過程において相互に混ざり合う。ここで第1の組成物には結着材が含まれていないため、結着材溶液中の結着材及び第2の組成物中の結着材が第1の組成物中に移動(拡散)しても電極集電体付近での結着材同士の凝集の発生が防止され電極合材層と電極集電体との密着強度を十分に確保することができる。さらに、結着材溶液中の結着材及び第2の組成物中の結着材が第1の組成物中に拡散することにより、電極合材層の全体に亘って結着材が良好に分散され得る。これにより、電極合材層における柔軟性(例えば、電極を捲回した際に電極合材層にヒビや割れが発生するのを防止することができる柔軟性)を維持しつつ性能に優れた(例えば低抵抗)電極となり得る。
【0009】
ここで開示される製造方法の好適な一態様では、上記電極合材層の固形分全量を100質量%としたときに、該電極合材層に含まれる結着材の全量が該電極合材層の固形分全量の0.3質量%以下となるように該結着材の含有量を調整する。
このような割合の結着材を用いることにより、電極合材層における柔軟性を維持しつつ、電極集電体と電極合材層との間において十分な密着強度を有するとともに、結着材の低減による抵抗の低下を実現し得る負極を形成することができる。好ましい一態様では、上記結着材溶液に含まれる結着材及び上記第2の組成物に含まれる結着材として、スチレンブタジエンゴムを用いる。
【0010】
ここで開示される製造方法の好適な他の一態様では、上記結着材溶液に含まれる結着材と上記第2の組成物に含まれる結着材とは、相互にガラス転移温度(ガラス転移点)の異なるものを用いていることを特徴とする。
特に好ましい一態様では、上記結着材溶液に含まれる結着材としてガラス転移温度Tgが10℃以上(例えば凡そ10℃〜40℃)の結着材を用いる。また、上記第2の組成物に含まれる結着材としてガラス転移温度Tgが10℃未満(例えば凡そ−50℃〜0℃)の結着材を用いる。
このような組み合わせで、上記結着材溶液用途の結着材と上記第2の組成物用途の結着材とを用いることによって、電極合材層のうち電極集電体付近の合材層は比較的硬く、電極合材層の表面側は比較的柔らかくなり、硬さと柔軟性とのバランスがとれた電極合材層を形成することができる。
【0011】
また、本発明によると、ここで開示されるいずれかの方法により製造された二次電池用電極を用いて構築された二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)が提供される。かかる二次電池は、上記二次電池用電極を少なくとも一方の電極(好ましくは負極)に用いて構築されていることから、より良好な電池性能を示すものであり得る。
【0012】
このような二次電池は、例えば自動車等の車両に搭載される電池として好適である。従って本発明によると、ここで開示されるいずれかの二次電池を備える車両が提供される。特に、軽量で高出力が得られることから、上記二次電池がリチウムイオン二次電池であって、該リチウムイオン二次電池を動力源(典型的には、ハイブリッド車両または電気車両の動力源)として備える車両(例えば自動車)が好適である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の外形を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1中のII‐II線に沿う断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る電極の構造を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る二次電池用電極の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図5】本発明の一実施形態に係る電極の製造装置の概略構成を模式的に示す説明図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る電極の製造中間過程を説明するための断面図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る電極の製造中間過程を説明するための断面図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る電極の製造中間過程を説明するための断面図である。
【図9】初期抵抗(DCIR)と結着材量との関係を示すグラフである。
【図10】本発明に係る二次電池を備えた車両(自動車)を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事項は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識に基づいて実施することができる。
【0015】
ここで開示される二次電池用電極を製造する方法の好適な実施形態の一つとして、リチウムイオン二次電池用の負極を製造する方法を例にして詳細に説明するが、本発明の適用対象をかかる種類の二次電池及び電極(負極)に限定することを意図したものではない。本発明は、他の種類の二次電池(例えばリチウムイオン以外の金属イオンを電荷荷体とする二次電池や、リチウムイオンキャパシタ等の電気二重層キャパシタ(物理電池)を包含する。)に適用することができる。
【0016】
ここで開示されるリチウムイオン二次電池用電極(負極)の製造方法は、図4に示すように、結着材溶液塗布工程(ステップS10)と、第1の組成物塗布工程(ステップS20)と、第2の組成物塗布工程(ステップS30)と、乾燥工程(ステップS40)とを包含する。図5は、かかるリチウムイオン二次電池用電極(負極)の製造方法を具現化した製造装置を示す図である。図5に示すように、本実施形態に係る電極製造装置200は、大まかにいって、供給ロール210、結着材溶液塗布部220、組成物塗布部230、乾燥炉240及び回収ロール250を備えている。負極集電体82は、供給ロール210から供給され所定の経路に沿って走行し得るガイド215に案内されて上記工程を経て回収ロール250で回収される。
【0017】
まず、結着材溶液塗布工程(S10)について説明する。結着材溶液塗布工程には、少なくとも1種の結着材(好ましくはガラス転移温度Tgが10℃以上の結着材)と所定の溶媒とを混合して結着材溶液を用意すること、及び用意した結着材溶液を負極集電体の表面に塗布することが含まれている。
【0018】
結着材溶液用途に用いる結着材(バインダ)としては、一般的なリチウムイオン二次電池の負極に使用される結着材と同様のものを適宜採用することができる。例えば、負極合材層を形成するために水系の溶媒を含む組成物を用いる場合には、水に溶解または分散するポリマー材料を好ましく採用し得る。水に溶解または分散するポリマー材料としては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)が挙げられる。ここでSBRとは、スチレンと1,3‐ブタジエンを含む共重合体のことであり、その共重合様式は特に限定されない。さらに不飽和カルボン酸や不飽和ニトリル化合物を共重合させた変性SBRであってもよい。その他のポリマー材料としては、ポリアクリレート(アクリル酸エステル単独重合体または共重合体)、ポリウレタン、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリエチレン等が挙げられる。かかる結着材は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせてもよい。
【0019】
また、上記結着材のガラス転移温度Tgは、10℃以上(例えば10℃〜40℃)であることが好ましい。このようにガラス転移温度Tgが10℃以上の結着材を用いることにより、負極合材層のうち負極集電体付近の硬さが適度に硬くなる。上記SBRのガラス転移温度Tgは、例えば、スチレン/ブタジエン共重合比を変えること、添加剤を加えること、架橋剤を加えること等によって調整することができる。また、ここで開示される結着材は、JIS K7127に準じて測定された破断伸びが110%以上のものを採用することが好ましい。
なお、ガラス転移温度(Tg:ガラス転移点ともいう。)は、種々の周知技術、例えば一般的な示差走査熱量測定装置(DSC:Difference Scanning Calorimeter)を採用することによって容易に求めることができる。
【0020】
また、結着材溶液を構成する溶媒は、使用する結着材との組み合わせを考慮して適宜採用することができる。環境負荷の軽減等を考慮すると水系の溶媒を好ましく用いることができる。ここで、水系の溶媒とは、水または水を主体とする混合溶媒(水系溶媒)を用いた組成物を指す概念である。該混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶媒(低級アルコール、低級ケトン等)の一種または二種以上を適宜選択して用いることができる。
【0021】
結着材溶液に含まれる上記結着材の含有量は、負極合材層の固形分全量を100質量%としたときに0.05質量%〜2.5質量%(例えば0.05質量%〜2.0質量%、好ましくは0.2質量%〜0.7質量%)の範囲内であり得る。
また、結着材溶液の固形分濃度(不揮発分、即ち結着材成分の割合。)は、凡そ5質量%〜30質量%の範囲内であることが適当であり、例えば8質量%〜20質量%(例えば10質量%)とすることが好ましい。固形分濃度が上記範囲よりも小さすぎると、第1の組成物が結着材溶液上で弾かれてしまい、均一な厚みに塗工できない場合がある。一方、固形分濃度が上記範囲よりも大きすぎると、結着材溶液の取扱性(例えば、該結着材溶液を負極集電体(特に箔状集電体)に塗布する際の塗工性等)が低下しやすくなることがある。
【0022】
上記負極集電体としては、従来のリチウムイオン二次電池の負極に用いられている集電体と同様、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、銅材やニッケル材或いはそれらを主体とする合金材を用いることができる。負極集電体の形状は、リチウムイオン二次電池の形状等に応じて異なり得るため、特に制限はなく、棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等の種々の形態であり得る。ここで開示される技術は、例えばシート状若しくは箔状の集電体を用いた電極の製造に好ましく適用することができる。
【0023】
上記結着材溶液を塗布する方法としては、従来公知の方法と同様の技法を適宜採用することができる。例えば、グラビアコーター、コンマコーター、スリットコーター、ダイコーター等の適当な塗布装置を使用することにより、負極集電体の表面に結着材溶液を塗布することができる。結着材溶液の塗布量は固形分基準で集電体の片面当たり凡そ0.01mg/cm〜0.5mg/cm(例えば0.02mg/cm〜0.3mg/cm)であることが好ましい。
図5に示すように、本実施形態に係る結着材溶液塗布部220はグラビアコーターであって、負極集電体82の表面に結着材溶液120を塗布(塗工)するグラビアロール222と結着材溶液120を貯留する貯留槽225とを備えている。貯留槽225に上記用意(調製)した結着材溶液120を供給して、グラビアロール222が供給ロール210から送り出された長尺状の負極集電体82の表面に該結着材溶液120を塗布する。本工程では、図6に示すように、負極集電体82の表面に少なくとも結着材125を含む結着材溶液120が塗布される。
【0024】
次に、第1の組成物塗布工程(S20)について説明する。第1の組成物塗布工程には、負極活物質を少なくとも含み、且つ結着材を(実質的に)含まないペースト状の第1の組成物(以下、単に「第1組成物」とする。)を用意すること、及び用意した第1組成物を上記結着材溶液上に塗布することが含まれている。
【0025】
ここで開示されるリチウムイオン二次電池の負極に用いられる負極活物質は、本発明の目的を実現し得る性状の負極活物質である限りにおいて、その組成や形状に特に制限はない。例えば、グラファイトカーボン、アモルファスカーボン等の炭素系材料、リチウム遷移金属複合酸化物(リチウムチタン複合酸化物等)、リチウム遷移金属複合窒化物等が例示される。中でも天然黒鉛(もしくは人造黒鉛)を主成分とする負極活物質(典型的には、実質的に天然黒鉛(もしくは人造黒鉛)からなる負極活物質の使用が好ましい。かかる黒鉛は鱗片状の黒鉛を球形化したものであり得る。例えば、平均粒径が凡そ5μm〜30μmの範囲にある球形化天然黒鉛(もしくは球形化人造黒鉛)を負極活物質として好ましく用いることができる。さらに、該黒鉛粒子の表面にアモルファスカーボン(非晶質炭素)がコートされた炭素質粉末を用いてもよい。
【0026】
また、ここで開示されるリチウムイオン二次電池の負極は必要に応じて増粘材を含有することができる。かかる増粘材としては、水若しくは溶剤(有機溶媒)に溶解又は分散するポリマー材料を採用し得る。水に溶解する(水溶性の)ポリマー材料としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等のセルロース系ポリマー;ポリビニルアルコール(PVA);等が挙げられる。第1組成物の混練(調製)の際の作業性および安定性等の観点からCMC等のセルロース誘導体が好ましく使用される。
増粘材の添加量(含有量)は、負極活物質の種類や量に応じて適宜選択すればよく、例えば、負極合材層の固形分全量を100質量%としたときに凡そ0.3質量%〜2質量%(例えば凡そ0.5質量%〜1質量%)とすることができる。
【0027】
上記負極活物質と増粘材とを溶媒中で混ぜ合せる(混練)操作は、例えば、適当な混練機(プラネタリーミキサー、ホモディスパー、クレアミックス、フィルミックス等)を用いて行うことができる。上記ペースト状の組成物を調製するにあたっては、先ず、負極活物質と増粘材とを少量の水系の溶媒(例えば水)で固練りし、その後、得られた混練物を適量の溶媒で希釈してもよい。特に限定するものではないが、乾燥効率を向上させるために第1組成物の固形分濃度(不揮発分、即ち負極合材層形成成分の割合。以下「NV」とする。)は、例えば凡そ45質量%以上(典型的には50〜80質量%)であることが好ましい。
図5に示すように、本実施形態に係る組成物塗布部230は2層塗工(塗布)が可能なダイコーターである。該組成物塗布部230のダイ232は、上記第1組成物140を吐出する第1開口部234と、後述する第2組成物160を吐出する第2開口部236とを有している。ダイ232に上記用意した第1組成物140を供給して第1開口部234から第1組成物140を吐出し、負極集電体82の表面に塗布された結着材溶液120上に第1組成物140を塗布する。このように、負極集電体82の表面に塗布された結着材溶液120が乾燥する前に、第1組成物140が重ねて供給される。本工程では、図7に示すように、結着材溶液120が乾燥する前に該結着材溶液120上に少なくとも負極活物質150を含む第1組成物140が塗布される。
【0028】
次に、第2の組成物塗布工程(S30)について説明する。第2の組成物塗布工程には、負極活物質及び少なくとも1種の結着材を少なくとも含むペースト状の第2の組成物(以下、単に「第2組成物」とする。)を用意すること、及び用意した第2組成物を上記第1組成物上に塗布することが含まれている。
【0029】
ここで開示される第2組成物に含まれる負極活物質としては、第1組成物に使用される負極活物質と同様のものを適宜採用することができる。第1組成物に使用される負極活物質と同じ負極活物質を用いることが好ましい。
また、第2の組成物用途に用いる結着材としては、結着材溶液に使用される結着材と同様のものを適宜採用することもできるが、好ましくは、結着材溶液に含まれる結着材と第2組成物に含まれる結着材とは相互にガラス転移温度の異なるものを用いる。このとき、第2組成物に含まれる結着材のガラス転移温度Tgは、10℃未満(例えば−50℃〜0℃)であることが好ましい。このようにガラス転移温度Tgが10℃未満の結着材を用いることにより、負極合材層のうち表面側の硬さが適度に柔らかくなり負極合材層の柔軟性が向上する。
【0030】
第2組成物に含まれる結着材の含有量は、負極合材層の固形分全量を100質量%としたときに0.05質量%〜2.5質量%(例えば0.05質量%〜1質量%、好ましくは0.1質量%〜0.7質量%)の範囲内であり得る。
上述した第1組成物に含まれる結着材と第2組成物に含まれる結着材の合計含有量(全量)は、負極合材層の固形分全量を100質量%としたときに0.1質量%〜5質量%(例えば0.1質量%〜2質量%、好ましくは0.1質量%〜1質量%、より好ましくは0.2質量%〜0.7質量%)の範囲内であることが好ましい。
【0031】
図5に示すように、ダイ232に上記用意した第2組成物160を供給して第2開口部236から第2組成物160を吐出し、負極集電体82の表面に塗布された第1組成物140上に第2組成物160を塗布する。このように、負極集電体82の表面に塗布された結着材溶液120及び第1組成物140が乾燥する前に、第2組成物160が重ねて供給される。本工程では、図8に示すように、結着材溶液120及び第1組成物140が乾燥する前に、負極活物質150及び結着材165を少なくとも含む第2組成物160が第1組成物140上に塗布される。
【0032】
なお、本実施形態では第1組成物140及び第2組成物160を塗布するために、2層塗工(塗布)が可能なダイコーターを用いているが、第1組成物140が十分に乾燥する前に第2組成物160を該組成物140上に塗布することができる限り、かかる形態に限定されない。即ち、いわゆる「wet on wet」と称される状態で第1組成物及び第2組成物を塗布することができればよく、例えば、2つのダイコーターを使用して夫々から第1組成物及び第2組成物を塗布するような態様であってもよい。
【0033】
次に、乾燥工程(ステップS40)について説明する。乾燥工程では、負極集電体上に塗布された結着材溶液と第1組成物と第2組成物とを適当な乾燥手段で同時に乾燥させることにより負極合材層を形成することが含まれている。図5に示すように、結着材溶液120、第1組成物140及び第2組成物160が塗布された負極集電体82が乾燥炉240内を通過することによって、これら塗布物を連続して同時に乾燥させることができる。このときの乾燥温度は、例えば、凡そ70℃〜200℃(典型的には凡そ120℃〜150℃)である。乾燥時間は、例えば、凡そ10秒〜120秒(典型的には凡そ20秒〜60秒)である。上記塗布物から溶媒を除去することによって負極合材層90(図3参照)を形成する。その後、必要に応じて圧縮(プレス)する。これにより、負極集電体82と、該負極集電体上に形成された負極合材層90とを備える負極シート(負極)84を作製することができる。圧縮(プレス)方法としては、従来公知のロールプレス法、平板プレス法等の圧縮方法を採用することができる。
【0034】
次に、上記の製造方法により作製された負極の構造について説明する。
図3に示すように、本実施形態に係る負極84は、負極集電体82と、該集電体82上に形成された負極合材層90とを備えている。負極合材層90は、負極活物質150及びガラス転移温度Tgが相互に異なる2種類の結着材125,165を含んでいる。上記の製造方法によると、典型的には乾燥工程において、結着材溶液120に含まれている結着材125の多くは負極集電体82の近くに留まるものの一部は第1組成物140に拡散する。また、第2組成物160に含まれている結着材165の多くは負極合材層90の表面側に留まるものの一部は第1組成物140に拡散する。このことにより、負極合材層90において結着材125,165の分散状態が良好となるため負極集電体82と負極合材層90との間において十分な密着力が得られると共に、柔軟性(例えば、電極84を捲回した際に負極合材層90にヒビや割れが生じるのを防止し得る柔軟性)を備えた負極合材層90となり得る。なお、負極合材層90に含まれる結着材が1種類からなる合材層90であっても上記効果を奏し得る。即ち結着材溶液中の結着材と第2組成物中の結着材とが同じ材料であり且つ同じガラス転移温度Tgを有する結着材であってもよい。
【0035】
次に、ここで開示されるリチウムイオン二次電池の正極について説明する。ここで開示される正極は、少なくとも正極活物質と導電材と結着材とを含む正極合材層が正極集電体上に形成された構成をしており、上記負極を製造する方法と同様の方法によって作製することができる。
【0036】
ここで開示されるリチウムイオン二次電池の正極で用いられる正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な材料であって、リチウム元素と一種または二種以上の遷移金属元素を含むリチウム含有化合物(例えばリチウム遷移金属複合酸化物)が挙げられる。例えば、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLiNiO)、リチウムコバルト複合酸化物(例えばLiCoO)、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLiMn)、或いは、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(例えばLiNi1/3Co1/3Mn1/3)のような三元系リチウム含有複合酸化物が挙げられる。
また、一般式がLiMPO或いはLiMVO或いはLiMSiO(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種以上の元素)等で表記されるようなポリアニオン系化合物(例えばLiFePO、LiMnPO、LiFeVO、LiMnVO、LiFeSiO、LiMnSiO、LiCoSiO)を上記正極活物質として用いてもよい。
【0037】
上記導電材としては、従来この種のリチウムイオン二次電池で用いられているものであればよく、特定の導電材に限定されない。例えば、カーボン粉末やカーボンファイバー等のカーボン材料を用いることができる。カーボン粉末としては、種々のカーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック等)、グラファイト粉末等のカーボン粉末を用いることができる。これらのうち一種又は二種以上を併用してもよい。
【0038】
また、上記結着材(バインダ)としては、一般的なリチウムイオン二次電池の正極に使用される結着材と同様のものを適宜採用することができる。水系の溶媒を用いて組成物を調製する場合には、上記負極に使用されるものを適宜採用することができる。また、溶剤系の溶媒を用いて組成物を調製する場合には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)等の有機溶媒(非水溶媒)に溶解するポリマー材料を用いることができる。溶剤系の溶媒としては、例えばN−メチルピロリドン(NMP)等が挙げられる。
【0039】
上記正極集電体としては、従来のリチウムイオン二次電池の正極に用いられている集電体と同様、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、アルミニウム材又はアルミニウム材を主体とする合金材を用いることができる。正極集電体の形状は、負極集電体の形状と同様であり得る。
【0040】
以下、上記製造方法により作製された負極及び正極を用いて構築されるリチウムイオン二次電池の一形態を図面を参照しつつ説明するが、本発明をかかる実施形態に限定することを意図したものではない。即ち、上記製造方法により作製された負極及び正極が採用される限りにおいて、構築されるリチウムイオン二次電池の形状(外形やサイズ)には特に制限はない。以下の実施形態では、捲回電極体および電解液を角型形状の電池ケースに収容した構成のリチウムイオン二次電池を例にして説明する。
なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は、必ずしも実際の寸法関係を反映するものではない。
【0041】
図1は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池(二次電池)10を模式的に示す斜視図である。図2は、図1中のII−II線に沿う縦断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池10は、金属製(樹脂製又はラミネートフィルム製も好適である。)の電池ケース15を備える。このケース(外容器)15は、上端が開放された扁平な直方体状のケース本体30と、その開口部20を塞ぐ蓋体25とを備える。溶接等により蓋体25は、ケース本体30の開口部20を封止している。ケース15の上面(すなわち蓋体25)には、捲回電極体50の正極シート(正極)64と電気的に接続する正極端子60および該電極体の負極シート84と電気的に接続する負極端子80が設けられている。また、蓋体25には、従来のリチウムイオン二次電池のケースと同様に、電池異常の際にケース15内部で発生したガスをケース15の外部に排出するための安全弁40が設けられている。ケース15の内部には、正極シート64および負極シート84を計二枚のセパレータシート95とともに積層して捲回し、次いで得られた捲回体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって作製される扁平形状の捲回電極体50及び電解質(例えば非水電解液)が収容されている。
【0042】
上記積層の際には、図2に示すように、正極シート64の正極合材層非形成部分(即ち正極合材層66が形成されずに正極集電体62が露出した部分)と負極シート84の負極合材層非形成部分(即ち負極合材層90が形成されずに負極集電体82が露出した部分)とがセパレータシート95の幅方向の両側からそれぞれはみ出すように、正極シート64と負極シート84とを幅方向にややずらして重ね合わせる。その結果、捲回電極体50の捲回方向に対する横方向において、正極シート64および負極シート84の電極合材層非形成部分がそれぞれ捲回コア部分(すなわち正極シート64の正極合材層形成部分と負極シート84の負極合材層形成部分と二枚のセパレータシート95とが密に捲回された部分)から外方にはみ出ている。かかる正極側はみ出し部分に正極端子60を接合して、上記扁平形状に形成された捲回電極体50の正極シート64と正極端子60とを電気的に接続する。同様に負極側はみ出し部分に負極端子80を接合して、負極シート84と負極端子80とを電気的に接続する。なお、正負極端子60,80と正負極集電体62,82とは、例えば、超音波溶接、抵抗溶接等によりそれぞれ接合することができる
【0043】
上記電解質としては、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる非水電解液と同様のものを特に限定なく使用することができる。かかる非水電解液は、典型的には、適当な非水溶媒(有機溶媒)に支持塩を含有させた組成を有する。上記非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等から選択される一種又は二種以上を用いることができる。また、上記支持塩(支持電解質)としては、例えば、LiPF,LiBF等のリチウム塩を用いることができる。さらに上記非水電解液に、ジフルオロリン酸塩(LiPO)やリチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)を溶解させてもよい。
また、上記セパレータシートとしては、従来公知のものを特に制限なく使用することができる。例えば、樹脂からなる多孔性シート(微多孔質樹脂シート)を好ましく用いることができる。ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)等の多孔質ポリオレフィン系樹脂シートが好ましい。
【0044】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0045】
[負極シートの作製]
<例1>
負極活物質としての平均粒径10μmの天然黒鉛と、増粘材としてのCMCとの質量比が98.8:1となるようにこれら材料を水に分散させ、5L容量の2軸プラネタリ混練機で混練してNVが50質量%の例1に係る第1組成物を調製した。
また、負極活物質としての平均粒径10μmの天然黒鉛と、増粘材としてのCMCと、結着材としてのSBR(ガラス転移温度Tg:−40℃)との質量比が98.8:1:0.1となるようにこれら材料を水に分散させ、5L容量の2軸プラネタリ混練機で混練して固形分濃度(NV)が50質量%の例1に係る第2組成物を調製した。
さらに、結着材としてのSBR(ガラス転移温度Tgは30℃)と水とを混合して、固形分濃度が10質量%となる例1に係る結着材溶液を調製した。
そして、例1に係る結着材溶液を厚さ10μmの負極集電体(銅箔)の両面にグラビアコーターを用いて片面当たり塗布量0.08mg/cmで塗布した後、該結着材溶液が乾燥する前に、ダイコーターを用いて例1に係る第1組成物を該結着材溶液上に片面当たり4mg/cm(固形分基準)となるように塗布した。その後、上記結着材溶液及び上記第1組成物が乾燥する前に、ダイコーターを用いて例1に係る第2組成物を上記第1組成物上に片面当たり4mg/cm(固形分基準)となるように塗布した(3層塗工)。次いで、150℃で20秒乾燥させた後プレスして合材密度が1.5g/cmの負極合材層が負極集電体上に形成された例1に係る負極シートを作製した。最終的に形成された負極合材層において、天然黒鉛とCMCとSBR(Tg:−40℃)とSBR(Tg:30℃)との質量比が98.8:1:0.1:0.1となるように調整した。
【0046】
<例2>
天然黒鉛とCMCとSBR(Tg:−40℃)との質量比が98.7:1:0.15となるようにこれら材料を水に分散させ、固形分濃度が50%の例2に係る第2組成物を調製した。最終的に形成された負極合材層の固形分全量を100質量%としたときに、0.15質量%のSBR(Tg:30℃)を含む例2に係る結着材溶液を調製した。例2に係る第2組成物及び結着材溶液を用いた他は例1と同様にして、例2に係る負極シートを作製した。
<例3>
天然黒鉛とCMCとSBR(Tg:−40℃)との質量比が98.6:1:0.2となるようにこれら材料を水に分散させ、固形分濃度が50%の例3に係る第2組成物を調製した。最終的に形成された負極合材層の固形分全量を100質量%としたときに、0.2質量%のSBR(Tg:30℃)を含む例3に係る結着材溶液を調製した。例3に係る第2組成物及び結着材溶液を用いた他は例1と同様にして、例3に係る負極シートを作製した。
<例4>
天然黒鉛とCMCとSBR(Tg:−40℃)との質量比が98.4:1:0.3となるようにこれら材料を水に分散させ、固形分濃度が50%の例4に係る第2組成物を調製した。最終的に形成された負極合材層の固形分全量を100質量%としたときに、0.3質量%のSBR(Tg:30℃)を含む例4に係る結着材溶液を調製した。例4に係る第2組成物及び結着材溶液を用いた他は例1と同様にして、例4に係る負極シートを作製した。
<例5>
天然黒鉛とCMCとSBR(Tg:−40℃)との質量比が98.2:1:0.4となるようにこれら材料を水に分散させ、固形分濃度が50%の例5に係る第2組成物を調製した。最終的に形成された負極合材層の固形分全量を100質量%としたときに、0.4質量%のSBR(Tg:30℃)を含む例5に係る結着材溶液を調製した。例5に係る第2組成物及び結着材溶液を用いた他は例1と同様にして、例5に係る負極シートを作製した。
【0047】
<例6>
負極活物質としての平均粒径10μmの天然黒鉛と、増粘材としてのCMCと、結着材としてのSBR(ガラス転移温度Tg:−10℃)との質量比が98.8:1:0.2となるように秤量し、天然黒鉛とCMCとを水に分散させ、5L容量の2軸プラネタリ混練機で混練してNVが50%の例6に係る負極合材層形成用組成物を調製した。
また、上記SBRと水とを混合して、固形分濃度が10質量%の例6に係る結着材溶液を調製した。
そして、例6に係る結着材溶液を厚さ10μmの負極集電体(銅箔)の両面にグラビアコーターを用いて片面当たり塗布量0.16mg/cmで塗布した(2層塗工)後、該結着材溶液が乾燥する前に、ダイコーターを用いて例6に係る負極合材層形成用組成物を該結着材溶液上に片面当たり8mg/cm2(固形分基準)となるように塗布した。次いで、150℃で20秒乾燥させた後プレスして合材密度が1.5g/cmの負極合材層が負極集電体上に形成された例6に係る負極シートを作製した。
【0048】
<例7>
天然黒鉛と、CMCと、SBR(Tg:−10℃)との質量比が98.7:1:0.3となるように秤量し、天然黒鉛とCMCとを水に分散させ、NVが50%の例7に係る負極合材層形成用組成物を調製した。また、上記SBRと水とを混合して、固形分濃度が10質量%の例7に係る結着材溶液を調製した。例7に係る組成物及び結着材溶液を用いた他は例6と同様にして、例7に係る負極シートを作製した。
<例8>
天然黒鉛と、CMCと、SBR(Tg:−10℃)との質量比が98.6:1:0.4となるように秤量し、天然黒鉛とCMCとを水に分散させ、NVが50%の例8に係る負極合材層形成用組成物を調製した。また、上記SBRと水とを混合して、固形分濃度が10質量%の例8に係る結着材溶液を調製した。例8に係る組成物及び結着材溶液を用いた他は例6と同様にして、例8に係る負極シートを作製した。
<例9>
天然黒鉛と、CMCと、SBR(Tg:−10℃)との質量比が98.4:1:0.6となるように秤量し、天然黒鉛とCMCとを水に分散させ、NVが50%の例9に係る負極合材層形成用組成物を調製した。また、上記SBRと水とを混合して、固形分濃度が10質量%の例9に係る結着材溶液を調製した。例9に係る組成物及び結着材溶液を用いた他は例6と同様にして、例9に係る負極シートを作製した。
<例10>
天然黒鉛と、CMCと、SBR(Tg:−10℃)との質量比が98.2:1:0.8となるように秤量し、天然黒鉛とCMCとを水に分散させ、NVが50%の例10に係る負極合材層形成用組成物を調製した。また、上記SBRと水とを混合して、固形分濃度が10質量%の例10に係る結着材溶液を調製した。例10に係る組成物及び結着材溶液を用いた他は例6と同様にして、例10に係る負極シートを作製した。
【0049】
[リチウムイオン二次電池の構築]
正極活物質としてのLiNi1/3Mn1/3Co1/3と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、結着材としてのPVDFとの質量比が90:5:5となるように秤量し、これら材料をNMPに分散させてペースト状の正極合材層形成用組成物を調製した。該ペーストを厚さ15μmの正極集電体(アルミニウム箔)上に片面当たり塗布量6mg/cmで塗布し乾燥させた後、プレス処理を行って正極集電体上に正極合材層が形成された正極シートを作製した。
そして、上記作製した正極シート及び例1に係る負極シートを厚さ25μmのセパレータシート(ポリプロピレン/ポリエチレン複合体多孔質膜)を挟んで対向配置させ(積層させ)、これを電解液と共にラミネート型のケース(ラミネートフィルム)に収容することにより例1に係るリチウムイオン二次電池を構築した。電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との体積比3:3:4の混合溶媒に1mol/LのLiPFを溶解させたものを使用した。また、例2から例10に係る負極シートを用いて、上記例1に係るリチウムイオン二次電池と同様にして例2から例10に係るリチウムイオン二次電池を構築した。
【0050】
<初期抵抗(DCIR)測定試験>
上記のように作製した例1から例10に係るリチウムイオン二次電池に対して、初期抵抗(DCIR、直流内部抵抗)を算出した。即ち、定電流定電圧(CC‐CV)充電によって各電池をSOC(State of Charge)60%の充電状態に調整した。その後、25℃において、4Cの電流値で10秒間の放電を行い、放電開始から10秒後の電圧降下量から初期抵抗[mΩ]を算出した。測定結果を表1、表2及び図9に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
表1、表2及び図9に示すように、負極合材層中のSBR(結着材)の合計含有量が0.4質量%以上(0.4質量%〜0.8質量%)のときには、塗工方法による差はほとんどないことが確認された。しかしながら、2層塗工により作製した負極シートを備える二次電池では、負極合材層中のSBRの合計含有量が0.3質量%以下(0.2質量%〜0.3質量%)のときに初期抵抗が大きく上昇していることが確認された。これは負極において負極合材層の柔軟性が低下したことによって負極合材層にヒビや割れが発生したためと考えられる。一方、3層塗工により作製した負極シートを備える二次電池では、負極合材層中のSBRの合計含有量が0.3質量%以下(0.2質量%〜0.3質量%)のときでも十分な柔軟性を備えているため上記のような不具合が確認されず、また、結着材の減少により初期抵抗が低下していることが確認された。
【0054】
[負極シートの作製]
<例11>
結着材溶液中のSBRのガラス転移温度Tgが30℃のSBRを用いると共に、第2組成物中のSBRのガラス転移温度Tgが−42℃のSBRを用いた点以外は例3と同様にして、例11に係る負極シートを作製した。
<例12>
第2組成物中のSBRのガラス転移温度Tgが−22℃のSBRを用いた点以外は例11と同様にして、例12に係る負極シートを作製した。
<例13>
第2組成物中のSBRのガラス転移温度Tgが−5℃のSBRを用いた点以外は例11と同様にして、例13に係る負極シートを作製した。
<例14>
第2組成物中のSBRのガラス転移温度Tgが10℃のSBRを用いた点以外は例11と同様にして、例14に係る負極シートを作製した。
<例15>
第2組成物中のSBRのガラス転移温度Tgが30℃のSBRを用いた点以外は例11と同様にして、例15に係る負極シートを作製した。
【0055】
<例16>
負極合材層形成用組成物中のSBRのガラス転移温度Tgが−42℃のSBRを用いた点以外は例8と同様にして、例16に係る負極シートを作製した。
<例17>
負極合材層形成用組成物中のSBRのガラス転移温度Tgが−22℃のSBRを用いた点以外は例8と同様にして、例17に係る負極シートを作製した。
<例18>
負極合材層形成用組成物中のSBRのガラス転移温度Tgが−5℃のSBRを用いた点以外は例8と同様にして、例18に係る負極シートを作製した。
<例19>
負極合材層形成用組成物中のSBRのガラス転移温度Tgが10℃のSBRを用いた点以外は例8と同様にして、例19に係る負極シートを作製した。
<例20>
負極合材層形成用組成物中のSBRのガラス転移温度Tgが30℃のSBRを用いた点以外は例8と同様にして、例20に係る負極シートを作製した。
【0056】
<耐屈曲性評価試験>
上記のように作製した例11から例20に係る負極シートに対して、JIS K5600‐5‐1に準じて耐屈曲性(柔軟性)評価試験を行った。即ち、円筒形の芯材に各負極シートを巻き付けたときに、負極シートの負極合材層に亀裂が入らない芯材の直径(芯径)の最小値を測定した。測定結果を表3及び表4に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
【表4】

【0059】
表3及び表4に示すように、3層塗工によって作製した負極シートは2層塗工によって作製した負極シートよりも芯材の直径の最小値が小さい、即ち、柔軟性に優れていることが確認された。特に組成物中のSBRのガラス転移温度Tgが−5℃以上のときにその差が顕著に現れていることが確認された。
【0060】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明に係る電極(典型的には負極)を含むリチウムイオン二次電池10は、初期抵抗が低く電池性能に優れることから、特に自動車等の車両に搭載されるモーター(電動機)用電源として好適に使用し得る。従って本発明は、図10に模式的に示すように、かかるリチウムイオン二次電池10(典型的には当該電池10を複数個直列接続してなる組電池)を電源として備える車両(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車、燃料自動車のような電動機を備える自動車)100を提供する。
【符号の説明】
【0062】
10 リチウムイオン二次電池(二次電池)
15 電池ケース
20 開口部
25 蓋体
30 ケース本体
40 安全弁
50 捲回電極体
60 正極端子
62 正極集電体
64 正極シート(正極)
66 正極合材層
80 負極端子
82 負極集電体
84 負極シート(負極)
90 負極合材層
95 セパレータシート
100 車両(自動車)
120 結着材溶液
125 結着材
140 第1組成物
150 負極活物質
160 第2組成物
165 結着材
200 電極製造装置
210 供給ロール
215 ガイド
220 結着材溶液塗布部
222 グラビアロール
225 貯留槽
230 組成物塗布部
232 ダイ
234 第1開口部
236 第2開口部
240 乾燥炉
250 回収ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質及び結着材を少なくとも含む電極合材層が電極集電体上に形成された二次電池用電極を製造する方法であって、
少なくとも1種の結着材を所定の溶媒に混合してなる結着材溶液を前記電極集電体の表面に塗布すること、
前記電極活物質を少なくとも含み、且つ結着材を含まないペースト状の第1の組成物を前記結着材溶液上に塗布すること、
前記電極活物質及び少なくとも1種の結着材を少なくとも含むペースト状の第2の組成物を前記第1の組成物上に塗布すること、
前記結着材溶液と前記第1の組成物と前記第2の組成物とを乾燥させて電極合材層を形成すること、
を包含する、二次電池用電極の製造方法。
【請求項2】
前記電極合材層の固形分全量を100質量%としたときに、該電極合材層に含まれる結着材の全量が該電極合材層の固形分全量の0.3質量%以下となるように該結着材の含有量を調整する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記結着材溶液に含まれる結着材及び前記第2の組成物に含まれる結着材として、スチレンブタジエンゴムを用いる、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記結着材溶液に含まれる結着材と前記第2の組成物に含まれる結着材とは、相互にガラス転移温度の異なるものを用いており、
ここで前記結着材溶液に含まれる結着材としてガラス転移温度が10℃以上の結着材を用い、前記第2の組成物に含まれる結着材としてガラス転移温度が10℃未満の結着材を用いる、請求項1から3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の製造方法により得られた二次電池用電極を備える二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−256544(P2012−256544A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129518(P2011−129518)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】