説明

二次電池用非水系電解液及びそれを用いた非水系電解液二次電池

【課題】長期耐久性と負荷特性に優れた二次電池用非水系電解液及び非水系電解液二次電池を提供する。
【解決手段】電解質及び非水系溶媒とともに、(A)分子内に少なくとも2以上のイソシアネート基を有する化合物と、(B)リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、下記一般式(1)及び(2)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する非水系電解液及び該非水系電解液を含有する非水系電解液二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用の非水系電解液及びそれを用いた二次電池に関するものであり、更に詳しくは、特定の成分を含有するリチウム二次電池用の非水系電解液及びそれを用いたリチウム二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近代の急速な産業の発達による電子機器の小型化に伴い、二次電池の更なる高容量化が切望されるようになった。そこで、ニッケル・カドミウム電池やニッケル・水素電池に比べてエネルギー密度の高いリチウム二次電池が開発され、また、現在に至るまでこれの性能向上への取り組みも繰り返し行われてきた。
【0003】
一方、近年では環境問題やエネルギー問題などの地球規模の課題を背景に、リチウム二次電池の車載用電源や定置型電源などの大型電源への応用にも大きな期待が集まっている。しかし、このような電池は一般に、長期に及ぶ充放電の繰り返しに対する安定性の確保が不可欠であり、さらには外気に晒される環境下での使用が見込まれているため、開発に当たっては氷点下のような低温環境下における電池特性、特に低温放電特性が重要視されている。
【0004】
リチウム二次電池を構成する成分は主に正極、負極、セパレータ、および電解液に大別される。これらのうち、電解液には一般に、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiCF3SO3、LiAsF6、LiN(CF3SO22、LiCF3(CF23SO3等の電解質を、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類;酢酸メチル、プロピオン酸メチル等の鎖状エステル類等の非水系溶媒に溶解させた非水系電解液が用いられている。
【0005】
リチウム二次電池の長期耐久性を向上させるための取り組みの一つとして、上記電解液に特定の化合物を加えることにより、電池の使用初期に不動態皮膜を負極上に形成し、主な劣化要因である溶媒の還元分解反応などの副反応を抑制させる取り組みがなされている。
【0006】
このような化合物の例として、分子内にイソシアネート基を含有する化合物が挙げられる。特許文献1、特許文献2及び特許文献3には、それぞれ電解液にイソシアネート基を有する低分子化合物、鎖状のイソシアネート化合物やジイソシアネート化合物を加えることにより、サイクル安定性を向上させることが開示されている。
【0007】
また、特許文献4にはサイクル特性の改善に対し、電解液に加える化合物として特定のスルホン化合物とイソシアネート化合物を併用して用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−259641号公報
【特許文献2】特開2006−164759号公報
【特許文献3】特開2007−242411号公報
【特許文献4】特開2010−225522号公報
【0009】
以上のように、分子内にイソシアネート基を含有する化合物を用いて電池の長期安定性を改善する試みがなされているが、イソシアネート化合物の種類やそれと組み合わせる添加剤の種類、若しくはそれらの配合量によっては十分な耐久性能とはならない。また、低温放電特性も含めた十分な電池特性を達成する為に更なる改善が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる背景技術に鑑みてなされたものであり、長期耐久性と負荷特性に優れた二次電池用非水系電解液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意研究した結果、
金属イオンを吸蔵・放出しうる正極及び負極を備える非水系電解液二次電池用の非水系電解液であって、
前記電解液が電解質及び非水系溶媒とともに、
(A)分子内に少なくとも2以上のイソシアネート基を有する化合物、並びに
(B)リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、下記一般式(1)及び(2)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする非水系電解液二次電池用非水系電解液、を用いることで、従来よりも優れたサイクル特性と低温放電特性が実現できることを見出し、本発明に到達した。
【化1】

(一般式(1)中、nは0〜4の整数である。)
【化2】

(一般式(2)中、M3は金属原子、リン、ホウ素、またはP=Oを表す。R1は炭素数1〜11のアルキルオキシ基、シリルオキシ基、または炭素数1〜11のアルキルシリルオキシ基を表す。nはM3に結合するR1の個数を表し、M3の価数によって決まる。nが2以上の場合、R1は同一でも異なってもよい。R2〜R4はそれぞれ独立に炭素数1〜11のアルキル基、または炭素数1〜11のアルケニル基、炭素数1〜11のアルキルオキシ基、または炭素数6〜11のアリール基を表す。)
【0012】
また、本発明は、金属イオンを吸蔵・放出しうる正極及び負極、並びに前記非水系電解液を備えることを特徴とする、非水系電解液二次電池を提供するものである。
【0013】
本発明の優れた効果は以下に説明する4つの作用が複合した相乗効果によるものと考えられる。第1の作用は化合物(A)を電解液に配合することにより得られる。これにより、負極表面上にこの化合物から誘導される不動態皮膜が形成され、溶媒の還元分解を効果的に抑制する。しかしながら、化合物(A)により生成した皮膜は金属イオンの吸蔵・放出時に高い抵抗成分となり、また、充放電の繰り返しで正極抵抗を増加させる、若しくはその抑制に寄与しないといった弱点を持つ。こうした性質は低温放電特性の著しい低下を招く。一方、(B)の群よりなる化合物を配合することによっても負極上に皮膜が生成する。これが第2の作用であって、この皮膜は充放電の繰り返しの初期においては、化合物(A)を凌駕する溶媒の還元分解抑制作用を示す。また、導入された皮膜の抵抗は、化合物(A)によるものよりも極めて低い特徴がある。この優れた性質は、皮膜の主成分が緻密な無機質であることによる。しかしながら、長期に及ぶ充放電の繰り返しにおいて、化合物(A)ほどの高耐久化効果は得られない。これは、この皮膜がどちらかと言えば剛直な無機質であるためで、充放電に伴う電極の膨張・収縮の物理的変形に対する耐性が低いためであると考えられる。しかしながら、化合物(B)には化合物(A)にはみられないもう一つ作用があって、それは正極上への吸着若しくは皮膜形成によって正極を保護する作用である。これによって、溶媒の酸化やその他の副次的な反応が抑えられ、正極抵抗増加の要因となる絶縁物の堆積が抑制される。これが第3の作用である。続く第4の作用は、化合物(A)が2以上の反応性に富んだイソシアネート基を含有することに起因する。すなわち化合物(A)が複数のイソシアネート基を持つことによって、上記の皮膜形成のみならず、その一部が化合物(B)からなる皮膜成分と一体化して変質する等、電極内に多様な結合をもたらし、化学的及び物理的強度を高める硬化剤的な効果を発揮する。特に負極が炭素質物を含んでいる場合には、一般にそうした炭素質物表面には活性な表面官能基が多数存在するため、同様の作用によって炭素質物間、若しくは炭素質物と被膜との結合強度をより高めることができる。
以上の4つの作用によって、良質な皮膜の形成とその皮膜を含めた電極構造全体の安定性が飛躍的に高まるので、化合物(A)及び(B)をそれぞれ単独で用いただけでは到達し得ない優れた耐久性と負荷特性を達成することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電極表面に抵抗の小さい不動態皮膜を形成させて、電池内の物質の化学的安定性を向上させるとともに、充放電に伴う電極の膨張収縮といった物理的変形に対する耐性を向上させることができるため、長期に及ぶ優れたサイクル特性と低温放電特性を兼ね備えた二次電池用の非水系電解液及び二次電池を提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定はされない。その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0016】
<1−1.電解質>
本発明の非水系電解液に用いられる電解質には制限はなく、目的とする非水系電解液二次電池に電解質として用いられる公知のものを任意に採用して含有させることができる。本発明の非水系電解液を非水系電解液二次電池に用いる場合には、電解質はリチウム塩が好ましい。
【0017】
電解質の具体例としては、例えば、LiClO4、LiAsF6、LiPF6、Li2CO3、LiBF4等の無機リチウム塩;
【0018】
LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiN(C25SO22、LiN(CF3SO2)(C49SO2)、LiC(CF3SO23、LiPF4(CF32、LiPF4(C252、LiPF4(CF3SO22、LiPF4(C25SO22、LiBF3(CF3)、LiBF3(C25)、LiBF2(CF32、LiBF2(C252、LiBF2(CF3SO22、LiBF2(C25SO22、LiPO22、Li2PO3F等の含フッ素有機リチウム塩;
【0019】
リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート、リチウムトリス(オキサラト)ホスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェート等の含ジカルボン酸錯体リチウム塩;
【0020】
KPF6、NaPF6、NaBF4、CF3SO3Na等のナトリウム塩又はカリウム塩;
等が挙げられる。
【0021】
これらのうち、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiN(C25SO22、LiPO22またはリチウムビス(オキサラト)ボレートが好ましく、さらにはLiPF6又はLiBF4が好ましい。
【0022】
電解質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。中でも、特定の無機リチウム塩の2種を併用したり、無機リチウム塩と含フッ素有機リチウム塩とを併用すると、連続充電時のガス発生が抑制され、若しくは高温保存後の劣化が抑制されるので好ましい。
【0023】
本発明の非水系電解液の最終的な組成中におけるリチウム塩の濃度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.5mol/L以上、好ましくは0.6mol/L以上、より好ましくは0.8mol/L以上、また、通常3mol/L以下、好ましくは2mol/L以下、より好ましくは1.5mol/L以下の範囲である。上記範囲であれば、荷電粒子であるリチウムが少なすぎず、かつ電解液の粘度が高すぎないため、良好な電気伝導率を確保することができる。
【0024】
<1−2.非水系溶媒>
本発明の非水系電解液が含有する非水系溶媒は、電池として使用した際に、電池特性に対して悪影響を及ぼさない溶媒であれば特に制限されないが、非水系電解液に用いられる以下の溶媒の内の1種以上であることが好ましい。通常使用される非水系溶媒の例としては、鎖状及び環状カーボネート、鎖状及び環状カルボン酸エステル、鎖状及び環状エーテル、含リン有機溶媒、含硫黄有機溶媒等が挙げられる。
【0025】
鎖状カーボネートの種類に制限は無く、通常使用されるものの例としては、ジアルキルカーボネートが好ましく、構成するアルキル基の炭素数は、それぞれ1〜5が好ましく、特に好ましくは1〜4である。具体的には、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチル−n−プロピルカーボネート、エチル−n−プロピルカーボネート、ジ−n−プロピルカーボネート等が挙げられる。これらの中でも、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートが、工業的な入手性や非水系電解液二次電池における種々の特性がよい点で好ましい。
【0026】
環状カーボネートの種類に制限は無く、通常使用されるものしては、環状カーボネートを構成するアルキレン基の炭素数は2〜6が好ましく、特に好ましくは2〜4である。具体的には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート(2−エチルエチレンカーボネート、シス及びトランス−2,3−ジメチルエチレンカーボネート)等が挙げられる。これらの中でも、エチレンカーボネート又はプロピレンカーボネートが、非水系電解液二次電池における種々の特性がよい点で好ましい。
【0027】
鎖状カルボン酸エステルの種類も制限は無く、通常使用されるものの例としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸−i−プロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸−i−ブチル、酢酸−t−ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸−n−プロピル、プロピオン酸−i−プロピル、プロピオン酸−n−ブチル、プロ
ピオン酸−i−ブチル、プロピオン酸−t−ブチル等が挙げられる。これらの中でも、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル又はプロピオン酸エチルが、工業的な入手性や非水系電解液二次電池における種々の特性がよい点で好ましい。
【0028】
また、環状カルボン酸エステルの種類も制限はないが、通常使用されるものの例としては、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。これらの中でも、γ−ブチロラクトンが、工業的な入手性や非水系電解液二次電池における種々の特性がよい点で好ましい。
【0029】
鎖状エーテルの種類も制限はないが、通常使用されるものの例としては、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエトキシメタン、ジエトキシエタン、エトキシメトキシメタン、エトキシメトキシエタン等が挙げられる。これらの中でも、ジメトキシエタン又はジエトキシエタンが、工業的な入手性や非水系電解液二次電池における種々の特性がよい点で好ましい。
【0030】
また、環状エーテルの種類も制限はないが、通常使用されるものの例としては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等が挙げられる。
【0031】
含リン有機溶媒の種類にも特に制限はないが、通常使用されるものの例としては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリフェニル等のリン酸エステル類;亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル等の亜リン酸エステル類;トリメチルホスフィンオキシド、トリエチルホスフィンオキシド、トリフェニルホスフィンオキシド等のホスフィンオキシド類;等が挙げられる。
【0032】
含硫黄有機溶媒の種類にも特に制限はないが、通常使用されるものの例としては、エチレンサルファイト、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、ブスルファン、スルホラン、スルホレン、ジメチルスルホン、ジフェニルスルホン、メチルフェニルスルホン、ジブチルジスルフィド、ジシクロヘキシルジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフイド、N,N−ジメチルメタンスルホンアミド、N,N−ジエチルメタンスルホンアミド等が挙げられる。
【0033】
これらの中でも、鎖状及び環状カーボネート又は鎖状及び環状カルボン酸エステルが、非水系電解液二次電池における種々の特性がよい点で好ましく、それらのなかでも、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ−ブチロラクトンがより好ましく、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、γ−ブチロラクトンが更に好ましい。
【0034】
これらは単独で用いても、2種類以上を併用してもよいが、2種以上の化合物を併用することが好ましい。例えば、環状カーボネート類のような高誘電率溶媒と、鎖状カーボネート類や鎖状エステル類等のような低粘度溶媒とを併用するのが好ましい。非水系溶媒の好ましい組合せの一つは、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類を主体とする組合せである。なかでも、非水系溶媒全体に占める環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との合計が、80体積%以上、好ましくは85体積%以上、より好ましくは90体積%以上であり、かつ環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との合計に対する環状カーボネート類の体積が5%以上、好ましくは10体積%以上、より好ましくは15%以上であり、通常50%以下、好ましくは35%以下、より好ましくは30%以下のものである。これらの非水系溶媒の組み合わせを用いると、これを用いて作製された電池のサイクル特性と高温保存特性(特に、高温保存後の残存容量及び高負荷放電容量)のバランスがよくなるので好ましい。
【0035】
環状カーボネート類と鎖状カーボネート類の好ましい組み合わせの具体例としては、エチレンカーボネートとジメチルカーボネート、エチレンカーボネートとジエチルカーボネート、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネート、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネート、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネート等のエチレンカーボネートと鎖状カーボネート類との組合せが挙げられる。
【0036】
これらのエチレンカーボネートと鎖状カーボネート類との組み合わせに、更にプロピレンカーボネートを加えた組み合わせも、好ましい組み合わせとして挙げられる。プロピレンカーボネートを含有する場合には、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートの体積比は、99:1〜40:60が好ましく、特に好ましくは95:5〜50:50である。更に、非水系溶媒全体に占めるプロピレンカーボネートの量を、0.1体積%以上、好ましくは1体積%、より好ましくは2体積%以上、通常10体積%以下、好ましくは8体積%以下、より好ましくは5体積%以下とすると、エチレンカーボネートと鎖状カーボネート類との組み合わせの特性を維持したまま、更に放電負荷特性が優れるので好ましい。
【0037】
これらの中で、非対称鎖状カーボネート類を含有するものが更に好ましく、特に、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネートといったエチレンカーボネートと対称鎖状カーボネート類と非対称鎖状カーボネート類を含有するもの、或いは更にプロピレンカーボネートを含有するものが、サイクル特性と放電負荷特性のバランスがよいので好ましい。これらの中でも、非対称鎖状カーボネート類がエチルメチルカーボネートであるものが好ましく、また、ジアルキルカーボネートを構成するアルキル基の炭素数は1〜2が好ましい。
【0038】
好ましい混合溶媒の他の例は、鎖状エステルを含有するものである。特に、上記、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類の混合溶媒に、鎖状エステルを含有するものが、電池の放電負荷特性向上の観点から好ましく、鎖状エステルとしては、酢酸エチル、プロピオン酸メチルが、特に好ましい。非水系溶媒に占める鎖状エステルの体積は、通常5%以上、好ましくは8%以上、より好ましくは15%以上であり、通常50%以下、好ましくは35%以下、より好ましくは30%以下、更に好ましくは25%以下である。
【0039】
他の好ましい非水系溶媒の例は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート及びブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン及びγ−バレロラクトンよりなる群から選ばれた1種の有機溶媒、又は該群から選ばれた2以上の有機溶媒からなる混合溶媒を全体の60体積%以上を占めるものである。こうした混合溶媒は引火点が50℃以上となることが好ましく、中でも70℃以上となることが特に好ましい。この溶媒を用いた非水系電解液は、高温で使用しても溶媒の蒸発や液漏れが少なくなる。中でも、非水系溶媒に占めるエチレンカーボネートとγ−ブチロラクトンとの合計が、80体積%以上、好ましくは90体積%以上であり、かつエチレンカーボネートとγ−ブチロラクトンとの体積比が5:95〜45:55であるもの、又はエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとの合計が、80体積%以上、好ましくは90体積%以上であり、かつエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートの体積比が30:70〜80:20であるものを用いると、一般にサイクル特性と放電負荷特性等のバランスがよくなる。
【0040】
<1−3.(A)分子内に少なくとも2以上のイソシアネート基を有する化合物>
本発明の非水系電解液は、分子内に少なくとも2以上のイソシアネート基を有する化合物(以下、「化合物(A)」と略す場合がある。)を含有することを特徴とする。本発明に係る化合物(A)は、分子内に2以上のイソシアネート基を有するものであれば、その他の構造については特に制限されないが、例えば直鎖状或いは分岐状のアルキレン構造、シクロアルキレン構造、芳香族炭化水素構造、エーテル構造(−O−)、またはこれらがハロゲン化された構造等を有するものが挙げられる。また、カルボニル基(−C(=O)−)や、カルボニル基とアルキレン基とが連結した構造等も挙げられる。
【0041】
一例としては、ジイソシアナトメタン、1,3−ジイソシアナトプロパン、1,4−ジイソシアナトブタン、1,5−ジイソシアナトペンタン、1,6−ジイソシアナトヘキサン、1,7−ジイソシアナトヘプタン、1,8−ジイソシアナトオクタン、1,12−ジイソシアナトドデカン、1,3−ジイソシアナト−2−フルオロプロパン、1,4−ジイソシアナト−2−ブテン、1,4−ジイソシアナト−2−フルオロブタン、1,4−ジイソシアナト−2,3−ジフルオロブタン、1,5−ジイソシアナト−2−ペンテン、1,5−ジイソシアナト−2−メチルペンタン、1,6−ジイソシアナト−2−ヘキセン、1,6−ジイソシアナト−3−ヘキセン、1,6−ジイソシアナト−3−フルオロヘキサン、1,6−ジイソシアナト−3,4−ジフルオロヘキサン、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、カルボニルジイソシアネート、1,4−ジイソシアナトブタン−1,4−ジオン、1,5−ジイソシアナトペンタン−1,5−ジオン、ジイソシアナトベンゼン、トルエンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、エチルジイソシアナトベンゼン、トリメチルジイソシアナトベンゼン、ジイソシアナトナフタレン、ジイソシアナトビフェニル、ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2−ビス(イソシアナトフェニル)ヘキサフルオロプロパン等の化合物が挙げられる。
【0042】
これらの中でも、下記一般式(3)で表される構造を有するジイソシアネート化合物は、充放電に伴う電極の膨張・収縮の物理的変形に対する耐性を効果的に高めることができるため好ましい。これは鎖状のメチレン基が皮膜及び/又は電極構造中に取り込まれることで、そうした構造体に適度な弾性を付与する為である。従って、この目的においてはメチレン基の長さが重要であって、一般式(3)中、xは4〜12が好ましく、さらに好ましくは4〜8であり、特に好ましくは6である。
【化3】

【0043】
また、本発明に係る化合物(A)の好ましい例として、分子内に下記一般式(4)で表される部分構造を1以上有する化合物が挙げられる。
【化4】

(一般式(4)中、Rは水素、又はイソシアネート基を有してもよい、水素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子、及びハロゲン原子からなる群より選ばれる原子で構成された炭素数1〜12の有機基を表す。)
【0044】
なお、水素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子、及びハロゲン原子からなる群より選ばれる原子で構成された炭素数1〜12の有機基とは、炭素原子及び水素原子から構成される有機基の他に、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子、又はハロゲン原子を含んでいてもよい有機基を意味する。窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子、又はハロゲン原子を含んでいてもよい有機基とは、骨格の炭素原子の一部がこれらの原子に置換されている有機基、或いはこれらの原子で構成された置換基を有する有機基を含むことを意味する。
【0045】
また、上記イソシアネート基を有してもよい、水素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子、及びハロゲン原子からなる群より選ばれる原子で構成された炭素数1〜12の有機基としては、イソシアネート基を有してもよい、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数4〜12のシクロアルキレン基、炭素数6〜12の芳香族炭化水素若しくはF、N、S、Oのいずれかの元素が1以上含まれる炭素数1〜12の有機基であることが好ましい。
また、有機物としての安定性から、一般式(4)の構造の両端のうち、一方は炭素原子と結合していることが好ましく、もう一方は窒素原子若しくは酸素原子と結合していることが好ましい。
【0046】
製造上の容易性から、一般式(4)で表される部分構造を1以上有する化合物(A)としては、ウレトジオン、オキサジアジトリオン、ビウレット、ウレタン、アロファネート、イソシアヌレートから選ばれる1種以上の骨格を有するものがさらに好ましい。各々の骨格は分子内に2以上含まれていてもよい。
【0047】
一般式(4)で表される部分構造を1以上有する化合物(A)のイソシアネート基の数は、2以上であれば特に制限されないが、好ましくは3以上、また、通常15以下、好ましくは10以下、より好ましくは8以下である。分子内中のイソシアネート基の数が上記範囲にあることにより、皮膜の安定性を高めることができ、また、官能基の増加による正極の電荷移動抵抗の増加を防ぐことができる。
【0048】
一般式(4)で表される部分構造を1以上有する化合物(A)の分子量は特に制限されないが、単純な分子構造で分子量の低い従来のイソシアネート化合物よりも高い効果が現れるために、数平均分子量は通常200以上、好ましくは300以上、また、通常10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは3000以下、更に好ましくは2000以下である。数平均分子量が上記範囲にあることにより、電解液への溶解性が確保できる傾向にある。また、上記と同じ理由により、平均官能基数は2以上、好ましくは3以上、また、通常12以下、好ましくは10以下、より好ましくは8以下である。
【0049】
一般式(4)で表される部分構造を1以上有する化合物(A)の末端のイソシアネート基は、原料のコスト面や製造の容易性、結着した皮膜の耐久性等の観点から、アルキレン基に結合していることが好ましい。末端のイソシアネート基が結合しているアルキレン基の炭素数は特に制限されないが、好ましくは4以上、また、好ましくは12以下、より好ましくは8以下である。
【0050】
一般式(4)で表される部分構造を1以上有する化合物(A)の具体例として、一般式(4−1)〜(4−4)で表される化合物が挙げられる。これらは、例えば一般式(3)で表されるジイソシアネート化合物等から誘導される三量体化合物、もしくはそれに多価アルコールを付加した脂肪族ポリイソシアネートであって、いずれも2官能以上のイソシアネート基を有している。上からそれぞれ(4−1)ビウレット、(4−2)イソシアヌレート、(4−3)アダクト(ウレタン)、(4−4)アダクト(ウレタン)と呼ばれる
タイプのポリイソシアネートである。一般式(4−1)〜(4−4)で表される化合物は市販されており、例えば旭化成ケミカルズ製のデュラネートTMTPA−100、デュラネートTMD101、デュラネートTM24A−100等が挙げられる。なお、一般式(4−1)〜(4−4)中のRは、原料となるジイソシアネート化合物に由来するものであり、炭素数4以上12以下のアルキレン基であることが好ましく、R’は多価アルコールに由来するものであり、炭素数2以上12以下のアルキレン基、またはnが1以上7以下のCn2n+1C(CH23で表される基であることが好ましい。
【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【0051】
一般式(4)で表される部分構造を1以上有する化合物(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、未反応の原料である脂肪族ジイソシアネートなどが含まれていてもよい。こうしたモノマー成分には作業者の安全衛生上好ましくないものがあり、適宜人体に悪影響を及ぼさない範囲に除去して用いることが好ましい。
【0052】
イソシアネート化合物に基づく反応を促進し、より高い効果を得る目的で、ジブチルスズジラウレート等のような金属触媒や、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7のようなアミン系触媒等を併用することも好ましい。
【0053】
以上説明した化合物(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わ
せ及び比率で併用してもよい。また、本発明の非水系電解液にはモノイソシアネート化合物が含まれていてもよい。特にアルキルモノイソシアネート類の添加は、低温放電特性を改善させる効果がある。
【0054】
本発明の非水系電解液の組成中における化合物(A)の濃度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.01質量%以上、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、また、3質量%未満、好ましくは2.5質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、更に好ましくは0.8質量%以下の範囲である。上記範囲であれば、電池内の化学的及び物理的安定性を十分に高めることができるとともに、皮膜形成による過度な抵抗増加を抑制することができる。
【0055】
<1−4.化合物(A)と併用する化合物(B)>
本発明の非水系電解液は、前述の分子内に少なくとも2以上のイソシアネート基を有する化合物(化合物(A))のほかに、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI、LiN(SO2F)2)、下記一般式(1)及び(2)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種(以下、「化合物(B)」と略す場合がある。)を含有することを特徴としている。これらの化合物は、直接的又は間接的に、正極及び負極表面上に抵抗の低い皮膜を形成させる効果(段落[0013]の化合物(B)の効果参照)を有する点で共通する。即ち、直接電極表面と反応して皮膜を形成させる、或いはその他の成分と反応し、生成した成分によって皮膜を形成させる作用を有する化合物である。
【0056】
一般式(1)で表される化合物としては、塩のアニオンのサイズが大きすぎると、イオン移動度が低下したり、皮膜抵抗が増大したりすることがあるため、nの値は0〜4の整数である。中でも、フルオロスルホン酸リチウム(n=0)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(n=1)、ペンタフルオロエタンスルホン酸リチウム(n=2)が好ましく、フルオロスルホン酸リチウム(n=0)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(n=1)がより好ましく、フルオロスルホン酸リチウム(n=0)がより低抵抗の皮膜を形成可能との観点から特に好ましい。
【化9】

【0057】
また、一般式(2)中、M3は、金属元素、リン、ホウ素、又はP=Oを表わす。R1は、炭素数1〜11のアルキルオキシ基、シリルオキシ基、又は炭素数1〜11のアルキルシリルオキシ基を表わす。nは、M3に結合するR1の個数を表わし、M3の価数によって決まる。nが2以上の場合、R1は同一でも異なってもよい。R2〜R4は、それぞれ独立に、炭素数1〜11のアルキル基、炭素数1〜11のアルケニル基、炭素数1〜11のアルキルオキシ基、または炭素数6〜11のアリール基を表わす。
【化10】

【0058】
前記M3として具体的には、マグネシウム、ホウ素、アルミニウム、珪素、リン、P=O、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ゲルマニウム、スズ、イットリウム、ジルコニウム、ニオブなどが例示できる。この中では特にアルミニウム、ホウ素、リン、P=O、チタン、ジルコニウムが好ましい。
【0059】
前記R1として具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ノルマルブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ベントキシ基、ヘキシルオキシ基、フエノキシ基、トリメチルシリルオキシ基、トリエチルシリルオキシ基、トリメトキシシリルオキシ基、トリエトキシシリルオキシ基等が例示できる。これらの中では、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシプロポキシ基、イソプロポキシ基、ノルマルブトキシ基、トリメチルシリルオキシ基が好ましい。
【0060】
前記R2、前記R3、前記R4として具体的には、メチル基、エチル基、ビニル基、プロピル基、イソプロピル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−プロビニル基、2−プロビニル基、ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、4−メチル−2−プロペニル基、1−メチレンプロピル基、1−メチル−2−プロペニル基、1,2−ジメチルビニル基、1−プチニル基、2−プチニル基、3−プチニル基、ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1−メチル−2−メチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基、フェニル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、ペンタメチルフェニル基、メトキシ基、エトキシ基、プロピロキシ基、イソプロピロキシ基、ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ベントキシ基、ヘキシルオキシ基、フエノキシ基等が例示できる。非水電解液への溶解性の点から、R1〜R4の炭素数は4以下であることが望ましく、具体的にはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ノルマルブチル、イソブチル、sec−ブチル、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ノルマルブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ基が好ましい。これらの中でも、最も好ましくはメチル基である。
【0061】
一般式(3)で表される化合物の具体例としては、例えば以下で示される化合物を挙げることができる。即ち、マグネシウムビス(トリメチルシロキサイド)、ホウ酸トリス(トリメチルシリル)、ホウ酸トリス(トリメトキシシリル)、ホウ酸トリス(トリエチルシリル)、ホウ酸トリス(トリエトキシシリル)、ホウ酸トリス(ジメチルビニルシリル)、ホウ酸トリス(ジエチルビニルシリル)、アルミニウムトリス(トリメチルシロキサイド)、ジメトキシアルミノキシトリメチルシラン、ジメトキシアルミノキシトリメトキシシラン、ジエトキシアルミノキシトリメチルシラン、ジエトキシアルミノキシトリエトキシシラン、ジプロピロキシアルミノキシトリメチルシラン、ジブトキシアルミノキシトリメチルシラン、ジブトキシアルミノキシトリメトキシシラン、ジブトキシアルミノキシトリエチルシラン、ジブトキシアルミノキシトリエトキシシラン、ジプロポキシアルミノキシトリエトキシシラン、ジブトキシアルミノキシトリプロピルシラン、ジブトキシアルミノキシトリメトキシシラン、ジブトキシアルミノキシトリエトキシラン、ジブトキシアルミノキシトリプロピロキシシラン、ジブトキシアルミノキシトリフエノキシシラン、リン酸トリス(トリメチルシリル)、リン酸トリス(トリエチルシリル)、リン酸トリス(トリプロピルシリル)、リン酸トリス(トリフェニルシリル)、リン酸トリス(トリメトキシシリル)、リン酸トリス(トリエトキシシリル)、リン酸トリス(トリフエノキシシリル)、リン酸トリス(ジメチルビニルシリル)、リン酸トリス(ジエチルビニルシリル)、スカンジウムトリス(トリメチルシロキシド)、チタンテトラキス(トリメチルシロキシド)、チタンテトラキス(トリエチルシロキシド)、チタンテトラキス(トリメトキシシロキシド)、チタンオキシビス(トリメチルシロキシド)、バナジウムオキシトリス(トリメチルシロキシド)、亜鉛ビス(トリメチルシロキシド)、ゲルマニウムテトラキス(トリメチルシロキシド)、スズテトラキス(トリメチルシロキシド)、イットリウムトリス(トリメチルシロキシド)、ジルコニウムテトラキス(トリメチルシロキシド)、ニオブペンタキス(トリメチルシロキシド)等が挙げられる。
【0062】
中でも、産業上の利用の利便性の観点から、ホウ酸トリス(トリメチルシリル)、ホウ酸トリス(トリメトキシシリル)、リン酸トリス(トリメチルシリル)、リン酸トリス(トリメトキシシリル)、ジメトキシアルミノキシトリメトキシシラン、ジエトキシアルミノキシトリエトキシシラン、ジプロポキシアルミノキシトリエトキシシラン、ジブトキシアルミノキシトリメトキシシラン、ジブトキシアルミノキシトリエトキシシラン、チタンテトラキス(トリメチルシロキシド)、チタンテトラキス(トリエチルシロキシド)が好ましく、ホウ酸トリス(トリメチルシリル)、リン酸トリス(トリメチルシリル)がより好ましい。
【0063】
以上で説明した化合物(B)は、本発明の非水電解液中に、1種単独で含まれていても、2種以上が含まれていてもよい。
【0064】
化合物(B)の非水系電解液中における含有量(化合物(B)を2種以上及び/又は化合物(B)と同様の効果を有する化合物を含有する場合にはこれら全ての合計含有量)は、0.01質量%以上、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、また、通常5質量%以下、好ましくは4質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらにこのましくは1.5質量%以下の範囲である。この濃度が低過ぎると、皮膜の化学的及び物理的安定性が不十分となる場合があり、濃度が高過ぎると、皮膜の絶縁性が高まり、抵抗増加により放電容量が低下する場合がある。化合物(B)の含有量が前記範囲であると、化合物(A)との相乗効果が得られ易く、充電時に起こる非水系溶媒の還元分解反応をより低く抑えることができ、高温保存特性やサイクル特性などの電池寿命の向上、電池の充放電効率の向上、および低温特性の改善を図ることができる。
【0065】
電解液中に化合物(B)を配合させる方法は、特に限定されないが、公知の手法で合成した化合物(B)を直接電解液に添加する方法の他に、電池内若しくは電解液中で化合物(B)を発生させる方法が挙げられる。化合物(B)を発生させる方法としては、化合物(B)以外の化合物を添加し、電解液等の電池構成要素を酸化又は加水分解等して発生させる方法が挙げられる。さらには、電池を作製して、充放電等の電気的な負荷をかけることによって、発生させる方法も挙げられる。
【0066】
非水系電解液、又は非水系電解液電池中における化合物(B)の含有量は、イオンクロマトグラフィーや、F核磁気共鳴分光法等により、定量することができる。
【0067】
化合物(A)及び化合物(B)の質量比は、通常1:500〜300:1、好ましくは1:80〜40:1、より好ましくは1:30〜1.5:1の範囲である。
【0068】
なお、化合物(B)と同様の効果を有する化合物、例えば、四フッ化ホウ素酸塩、下記一般式(5)で表される化合物と組み合せて含有させてもよい。
【化11】

(一般式(5)中、l及びmは独立して1〜4の整数を表す。)
ここで、一般式(5)で表される化合物としては、より耐久性能に優れる皮膜が形成可能な点で、l=1、m=1であることが好ましい。
【0069】
<1−5.助剤>
本発明の非水系電解液には、上述の電解質、非水系溶媒、化合物(A)及び化合物(B)以外に、目的に応じて適宜助剤を配合してもよい。助剤としては、以下に示される不飽和結合を有する環状カーボネート、フッ素原子を有する環状カーボネート、フッ素原子を有する不飽和環状カーボネート、過充電防止剤、その他の助剤、等が挙げられる。
【0070】
(不飽和結合を有する環状カーボネート)
不飽和結合を有する環状カーボネート(以下、「不飽和環状カーボネート」と略す場合がある。)も、負極表面に皮膜を形成するため、電池の寿命を向上させる効果を有する。
【0071】
前記不飽和環状カーボネートとしては、炭素−炭素二重結合及び/又は炭素−炭素三重結合を有する環状カーボネートであれば、特に制限はなく、任意の不飽和カーボネートを用いることができる。なお、芳香環を有する環状カーボネートも、不飽和環状カーボネートに包含されることとする。
【0072】
不飽和環状カーボネートとしては、ビニレンカーボネート類;芳香環や炭素−炭素二重結合又は炭素−炭素三重結合を有する置換基で置換されたエチレンカーボネート類;フェニルカーボネート類;ビニルカーボネート類;アリルカーボネート類;カテコールカーボネート類;エチニルカーボネート類;プロパルギルカーボネート等が挙げられる。
【0073】
ビニレンカーボネート類としては、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、4,5−ジメチルビニレンカーボネート、フェニルビニレンカーボネート、4,5−ジフェニルビニレンカーボネート、ビニルビニレンカーボネート、4,5−ビニルビニレンカーボネート、アリルビニレンカーボネート、4,5−ジアリルビニレンカーボネート等が挙げられる。
【0074】
芳香環や炭素−炭素二重結合又は炭素−炭素三重結合を有する置換基で置換されたエチレンカーボネート類の具体例としては、ビニルエチレンカーボネート、4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4−メチル−5−ビニルエチレンカーボネート、4−アリル−5−ビニルエチレンカーボネート、フェニルエチレンカーボネート、4,5−ジフェニルエチレンカーボネート、4−フェニル−5−ビニルエチレンカーボネート、4−アリル−5−フェニルエチレンカーボネート、アリルエチレンカーボネート、4,5−ジアリルエチレンカーボネート、4−メチル−5−アリルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネート、プロパルギルエチレンカーボネート等が挙げられる。
【0075】
これらの中でも、化合物(A)及び化合物(B)と併用するのに好ましい不飽和環状カーボネートとしては、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、4,5−ジメチルビニレンカーボネート、ビニルビニレンカーボネート、4,5−ビニルビニレンカーボネート、アリルビニレンカーボネート、4,5−ジアリルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4−メチル−5−ビニルエチレンカーボネート、アリルエチレンカーボネート、4,5−ジアリルエチレンカーボネート、4−メチル−5−アリルエチレンカーボネート、4−アリル−5−ビニルエチレンカーボネートが、安定な界面保護被膜を形成するので、より好適に用いられる。
【0076】
不飽和環状カーボネートの分子量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常50以上、好ましくは80以上であり、通常250以下、好ましくは150以下である。上記範囲内であれば、非水系電解液に対する不飽和環状カーボネートの溶解性を確保しやすく、本発明の効果が十分に発現しやすい。不飽和環状カーボネートの製造方法は、特に制限されず、公知の方法を任意に選択して製造することが可能である。
【0077】
不飽和環状カーボネートは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有してもよい。また、不飽和環状カーボネートの含有量(2種以上の場合には合計の含有量)は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。不飽和環状カーボネートの含有量は、非水系電解液100質量%中、好ましくは、0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上であり、また、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。上記範囲であれば、非水系電解液二次電池のサイクル特性の向上を図ることができ、さらに高温保存特性の低下に伴う放電容量維持率の低下を抑制できる一方、過度な皮膜形成による抵抗の増加を抑制することができる。
【0078】
(フッ素原子を有する環状カーボネート)
フッ素原子を有する環状カーボネート(以下、「フッ素化環状カーボネート」と略す場合がある。)も、負極表面に皮膜を形成するため、電池の寿命を向上させる効果を有する。フッ素化環状カーボネートが有するフッ素原子の数は1以上があれば、特に制限されない。中でもフッ素原子が通常6以下、好ましくは4以下であり、1個又は2個のものが最も好ましい。
【0079】
フッ素化環状カーボネートの具体例としては、フルオロエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロエチレンカーボネート、4−フルオロ−4−メチルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−メチルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−メチルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−5−メチルエチレンカーボネート、4−(フルオロメチル)−エチレンカーボネート、4−(ジフルオロメチル)−エチレンカーボネート、4−(トリフルオロメチル)−エチレンカーボネート、4−(フルオロメチル)−4−フルオロエチレンカーボネート、4−(フルオロメチル)−5−フルオロエチレンカーボネート、4−フルオロ−4,5−ジメチルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4,5−ジメチルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−5,5−ジメチルエチレンカーボネートが挙げられる。
【0080】
これらの中でも、化合物(A)及び化合物(B)と併用するのに好ましいフッ素化環状カーボネートとしては、フルオロエチレンカーボネート、4−(フルオロメチル)−エチレンカーボネート、4,4−ジフルオロエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロエチレンカーボネートは、界面保護被膜を形成するので、より好適に用いられる。
【0081】
フッ素化環状カーボネートの分子量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常50以上、好ましくは100以上であり、通常250以下、好ましくは200以下である。上記範囲であれば、非水系電解液に対するフッ素化環状カーボネートの溶解性を確保しやすく、本発明の効果が発現しやすい。フッ素化環状カーボネートの製造方法は、特に制限されず、公知の方法を任意に選択して製造することが可能である。
【0082】
フッ素化環状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有してもよい。また、フッ素化環状カーボネートの含有量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。フッ素化環状カーボネートの含有量は、通常、非水系電解液100質量%中、好ましくは、0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上であり、また、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。上記範囲であれば、非水系電解液二次電池のサイクル特性の向上を図ることができ、さらに高温保存特性の低下に伴う放電容量維持率の低下を抑制できる一方、過度な抵抗増加を抑制することができる。
【0083】
(フッ素化不飽和環状カーボネート)
前述のフッ素化環状カーボネートとして、不飽和結合とフッ素原子とを有する環状カーボネート(以下、「フッ素化不飽和環状カーボネート」と略記する場合がある)を用いることも好ましい。フッ素化不飽和環状カーボネートにおけるフッ素原子の数は1以上があれば、特に制限されないが、通常6以下、好ましくは4以下であり、1つ又は2つ有するフッ素化不飽和環状カーボネートが最も好ましい。
【0084】
フッ素化不飽和環状カーボネートとしては、フッ素化ビニレンカーボネート誘導体、芳香環又は炭素−炭素二重結合を有する置換基で置換されたフッ素化エチレンカーボネート誘導体等が挙げられる。
【0085】
フッ素化ビニレンカーボネート誘導体としては、4−フルオロビニレンカーボネート、4−フルオロ−5−メチルビニレンカーボネート、4−フルオロ−5−フェニルビニレンカーボネート、4−アリル−5−フルオロビニレンカーボネート、4−フルオロ−5−ビニルビニレンカーボネート等が挙げられる。
【0086】
芳香環又は炭素−炭素二重結合を有する置換基で置換されたフッ素化エチレンカーボネート誘導体としては、4−フルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4−アリルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−ビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−アリルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−4−アリルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−アリルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4,5−ジアリルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4,5−ジアリルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4−フェニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−フェニルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−5−フェニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−フェニルエチレンカーボネート等が挙げられる。
【0087】
これら中でも、特に化合物(A)及び化合物(B)と併用するのに好ましいフッ素化不飽和環状カーボネートとしては、4−フルオロビニレンカーボネート、4−フルオロ−5−メチルビニレンカーボネート、4−フルオロ−5−ビニルビニレンカーボネート、4−アリル−5−フルオロビニレンカーボネート、4−フルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4−アリルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−ビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−アリルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−4−アリルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−アリルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4,5−ジアリルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4,5−ジアリルエチレンカーボネートが、安定な界面保護被膜を形成するので、より好適に用いられる。
【0088】
フッ素化不飽和環状カーボネートの分子量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常50以上、好ましくは100以上であり、通常250以下、好ましくは200以下である。上記範囲であれば、非水系電解液に対するフッ素化環状カーボネートの溶解性を確保しやすく、本発明の効果が発現しやすい。フッ素化不飽和環状カーボネートの製造方法は、特に制限されず、公知の方法を任意に選択して製造することが可能である。
【0089】
フッ素化不飽和環状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有してもよい。また、フッ素化不飽和環状カーボネートの含有量(2種以上の場合には合計の含有量)は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。フッ素化不飽和環状カーボネートの含有量は、通常、非水系電解液100質量%中、好ましくは、0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上であり、また、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。上記範囲であれば、非水系電解液二次電池のサイクル特性の向上を図ることができ、さらに高温保存特性の低下に伴う放電容量維持率の低下を抑制できる一方、過度な皮膜形成による抵抗増加を抑制することができる。
【0090】
(過充電防止剤)
本発明の非水系電解液において、非水系電解液二次電池が過充電等の状態になった際に電池の破裂・発火を効果的に抑制するために、過充電防止剤を用いることができる。
【0091】
過充電防止剤としては、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2−フルオロビフェニル、o−シクロヘキシルフルオロベンゼン、p−シクロヘキシルフルオロベンゼン等の上記芳香族化合物の部分フッ素化物;2,4−ジフルオロアニソール、2,5−ジフルオロアニソール、2,6−ジフルオロアニソール、3,5−ジフルオロアニソール等の含フッ素アニソール化合物等が挙げられる。これらの中でも、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物が好ましい。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。2種以上併用する場合は、特に、シクロヘキシルベンゼンとt−ブチルベンゼン又はt−アミルベンゼンとの組み合わせ、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン等の酸素を含有しない芳香族化合物から選ばれる少なくとも1種と、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の含酸素芳香族化合物から選ばれる少なくとも1種を併用するのが過充電防止特性と高温保存特性のバランスの点から好ましい。
【0092】
過充電防止剤の含有量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。過充電防止剤は、非水系電解液100質量%中、好ましくは、0.1質量%以上であり、5質量%以下である。また、より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.3質量%以上、特に好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。上記範囲でれば、過充電防止効果を十分に図ることができ、一方、高温保存特性等の電池特性を確保することができる。
【0093】
<その他の助剤>
本発明の非水系電解液には、公知のその他の助剤を用いることができる。その他の助剤としては、エリスリタンカーボネート、スピロ−ビス−ジメチレンカーボネート、メトキシエチル−メチルカーボネート等のカーボネート化合物;無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、無水ジグリコール酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物及びフェニルコハク酸無水物等のカルボン酸無水物;2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ジビニル−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン等のスピロ化合物;エチレンサルファイト、1,3−プロパンスルトン、1−フルオロ−1,3−プロパンスルトン、2−フルオロ−1,3−プロパンスルトン、3−フルオロ−1,3−プロパンスルトン、1−プロペン−1,3−スルトン、1−フルオロ−1−プロペン−1,3−スルトン、2−フルオロ−1−プロペン−1,3−スルトン、3−フルオロ−1−プロペン−1,3−スルトン、1,4−ブタンスルトン、1−ブテン−1,4−スルトン、3−ブテン−1,4−スルトン、フルオロスルホン酸メチル、フルオロスルホン酸エチル、メタンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル、ブスルファン、スルホレン、ジフェニルスルホン、N,N−ジメチルメタンスルホンアミド、N,N−ジエチルメタンスルホンアミド等の含硫黄化合物;1−メチル−2−ピロリジノン、1−メチル−2−ピペリドン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン及びN−メチルスクシンイミド、スクシノニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル等の含窒素化合物;ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘプタン等の炭化水素化合物、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、ベンゾトリフルオライド等の含フッ素芳香族化合物等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの助剤を添加することにより、高温保存後の容量維持特性やサイクル特性を向上させることができる。
【0094】
その他の助剤の含有量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。その他の助剤は、非水系電解液100質量%中、好ましくは、0.01質量%以上であり、また、5質量%以下である。その他の助剤の含有量は、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上であり、また、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。上記範囲であれば、助剤の効果を十分に発揮しつつ、電池への悪影響を抑制することができる。
【0095】
以上に記載してきた非水系電解液は、本発明に記載の非水系電解液電池の内部に存在するものも含まれる。具体的には、リチウム塩や溶媒、助剤等の非水系電解液の構成要素を別途合成し、実質的に単離されたものから非水系電解液を調整し、下記に記載する方法にて別途組み立てた電池内に注液して得た非水系電解液電池内の非水系電解液である場合や、本発明の非水系電解液の構成要素を個別に電池内に入れておき、電池内にて混合させることにより本発明の非水系電解液と同じ組成を得る場合、更には、本発明の非水系電解液を構成する化合物を該非水系電解液電池内で発生させて、本発明の非水系電解液と同じ組成を得る場合も含まれるものとする。
【0096】
[2.非水系電解液二次電池]
本発明の非水系電解液二次電池は、イオンを吸蔵及び放出し得る負極及び正極と前記の本発明非水系電解液とを備えるものである。
【0097】
<2−1.電池構成>
本発明の非水系電解液二次電池は、非水系電解液以外の構成については、従来公知の非水系電解液二次電池と同様であり、通常は、本発明の非水系電解液が含浸されている多孔膜(セパレータ)を介して正極と負極とが積層され、これらがケース(外装体)に収納された形態を有する。従って、本発明の非水系電解液二次電池の形状は特に制限されるものではなく、円筒型、角形、ラミネート型、コイン型、大型等の何れであってもよい。
【0098】
<2−2.非水系電解液>
非水系電解液としては、上述の本発明の非水系電解液を用いる。なお、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、本発明の非水系電解液に対し、その他の非水系電解液を配合して用いることも可能である。
【0099】
<2−3.負極>
以下に負極に使用される負極活物質について述べる。負極活物質としては、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵・放出可能なものであれば、特に制限はない。具体例としては、炭素質材料、合金系材料、リチウム含有金属複合酸化物材料等が挙げられる。これらは1
種を単独で用いてもよく、また2種以上を任意に組み合わせて併用してもよい。
【0100】
(負極活物質)
負極活物質としては、炭素質材料、合金系材料、リチウム含有金属複合酸化物材料等が挙げられる。
負極活物質として用いられる炭素質材料としては、
(1)天然黒鉛、
(2)人造炭素質物質並びに人造黒鉛質物質を400〜3200℃の範囲で1回以上熱処理した炭素質材料、
(3)負極活物質層が少なくとも2種以上の異なる結晶性を有する炭素質からなり、かつ/又はその異なる結晶性の炭素質が接する界面を有している炭素質材料、
(4)負極活物質層が少なくとも2種以上の異なる配向性を有する炭素質からなり、かつ/又はその異なる配向性の炭素質が接する界面を有している炭素質材料、
から選ばれるものが、初期不可逆容量、高電流密度充放電特性のバランスがよく好ましい。また、(1)〜(4)の炭素質材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0101】
上記(2)の人造炭素質物質並びに人造黒鉛質物質としては、天然黒鉛、石炭系コークス、石油系コークス、石炭系ピッチ、石油系ピッチ及びこれらピッチを酸化処理したもの、ニードルコークス、ピッチコークス及びこれらを一部黒鉛化した炭素材、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ピッチ系炭素繊維等の有機物の熱分解物、炭化可能な有機物及びこれらの炭化物、又は炭化可能な有機物をベンゼン、トルエン、キシレン、キノリン、n−へキサン等の低分子有機溶媒に溶解させた溶液及びこれらの炭化物等が挙げられる。
【0102】
負極活物質として用いられる合金系材料としては、リチウムを吸蔵・放出可能であれば、リチウム単体、リチウム合金を形成する単体金属及び合金、又はそれらの酸化物、炭化物、窒化物、ケイ化物、硫化物若しくはリン化物等の化合物のいずれであってもよく、特に制限されない。リチウム合金を形成する単体金属及び合金としては、13族及び14族の金属・半金属元素(即ち炭素を除く)を含む材料であることが好ましく、より好ましくはアルミニウム、ケイ素及びスズ(以下、「特定金属元素」と略記する場合がある)の単体金属及びこれら原子を含む合金又は化合物である。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0103】
特定金属元素から選ばれる少なくとも1種の原子を有する負極活物質としては、いずれか1種の特定金属元素の金属単体、2種以上の特定金属元素からなる合金、1種又は2種以上の特定金属元素とその他の1種又は2種以上の金属元素とからなる合金、並びに、1種又は2種以上の特定金属元素を含有する化合物、及びその化合物の酸化物、炭化物、窒化物、ケイ化物、硫化物若しくはリン化物等の複合化合物が挙げられる。負極活物質としてこれらの金属単体、合金又は金属化合物を用いることで、電池の高容量化が可能である。
【0104】
また、これらの複合化合物が、金属単体、合金又は非金属元素等の数種の元素と複雑に結合した化合物も挙げられる。具体的には、例えばケイ素やスズでは、これらの元素と負極として動作しない金属との合金を用いることができる。例えば、スズの場合、スズとケイ素以外で負極として作用する金属と、さらに負極として動作しない金属と、非金属元素との組み合わせで5〜6種の元素を含むような複雑な化合物も用いることができる。
【0105】
これらの負極活物質の中でも、電池にしたときに単位質量当りの容量が大きいことから、いずれか1種の特定金属元素の金属単体、2種以上の特定金属元素の合金、特定金属元素の酸化物、炭化物、窒化物等が好ましく、特に、ケイ素及び/又はスズの金属単体、合金、酸化物や炭化物、窒化物等が、単位質量当りの容量及び環境負荷の観点から好ましい。
【0106】
負極活物質として用いられるリチウム含有金属複合酸化物材料としては、リチウムを吸蔵・放出可能であれば、特に制限されないが、高電流密度充放電特性の点からチタン及びリチウムを含有する材料が好ましく、より好ましくはチタンを含むリチウム含有複合金属酸化物材料が、さらに好ましくはリチウムとチタンの複合酸化物(以下、「リチウムチタン複合酸化物」と略記する場合がある)が挙げられる。即ちスピネル構造を有するリチウムチタン複合酸化物を、非水系電解液二次電池用負極活物質に含有させて用いると、出力抵抗が大きく低減するので特に好ましい。
【0107】
また、リチウムチタン複合酸化物のリチウムやチタンが、他の金属元素、例えば、Na、K、Co、Al、Fe、Ti、Mg、Cr、Ga、Cu、Zn及びNbからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素で置換されているものも好ましい。上記金属酸化物が、一般式(A)で表されるリチウムチタン複合酸化物であり、一般式(A)中、0.7≦x≦1.5、1.5≦y≦2.3、0≦z≦1.6であることが、リチウムイオンのドープ・脱ドープの際の構造が安定であることから好ましい。
【0108】
LixTiyMzO4 (A)
[一般式(A)中、Mは、Na、K、Co、Al、Fe、Ti、Mg、Cr、Ga、Cu、Zn及びNbからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表わす。]
上記の一般式(A)で表される組成の中でも、
(a)1.2≦x≦1.4、1.5≦y≦1.7、z=0
(b)0.9≦x≦1.1、1.9≦y≦2.1、z=0
(c)0.7≦x≦0.9、2.1≦y≦2.3、z=0
の構造が、電池性能のバランスが良好なため特に好ましい。
【0109】
上記化合物の特に好ましい代表的な組成は、(a)ではLi4/3Ti5/34、(b)ではLi1Ti24、(c)ではLi4/5Ti11/54である。また、Z≠0の構造については、例えば、Li4/3Ti4/3Al1/34が好ましいものとして挙げられる。
【0110】
<炭素質材料の物性>
負極活物質として炭素質材料を用いる場合、以下の物性を有するものであることが望ましい。
(X線パラメータ)
炭素質材料の学振法によるX線回折で求めた格子面(002面)のd値(層間距離)が、0.335nm以上であることが好ましく、また、通常0.360nm以下であり、0.350nm以下が好ましく、0.345nm以下がさらに好ましい。また、学振法によるX線回折で求めた炭素質材料の結晶子サイズ(Lc)は、1.0nm以上であることが好ましく、中でも1.5nm以上であることがさらに好ましい。
【0111】
(体積基準平均粒径)
炭素質材料の体積基準平均粒径は、レーザー回折・散乱法により求めた体積基準の平均粒径(メジアン径)であり、通常1μm以上であり、3μm以上が好ましく、5μm以上がさらに好ましく、7μm以上が特に好ましく、また、通常100μm以下であり、50μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましく、25μm以下が特に好ましい。
【0112】
体積基準平均粒径が上記範囲であれば、不可逆容量の増大による、初期の電池容量の損
失を抑制できるとともに、塗布による電極作製の工程を含む場合に、均一な電極塗布が可能となる。
体積基準平均粒径の測定は、界面活性剤であるポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの0.2質量%水溶液(約10mL)に炭素粉末を分散させて、レーザー回折・散乱式粒度分布計(堀場製作所社製LA−700)を用いて行なうことができる。該測定で求められるメジアン径を、本発明の炭素質材料の体積基準平均粒径と定義する。
【0113】
(ラマンR値、ラマン半値幅)
炭素質材料のラマンR値は、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトル法を用いて測定した値であり、通常0.01以上であり、0.03以上が好ましく、0.1以上がさらに好ましく、また、通常1.5以下であり、1.2以下が好ましく、1以下がさらに好ましく、0.5以下が特に好ましい。
また、炭素質材料の1580cm-1付近のラマン半値幅は特に制限されないが、通常10cm-1以上であり、15cm-1以上が好ましく、また、通常100cm-1以下であり、80cm-1以下が好ましく、60cm-1以下がさらに好ましく、40cm-1以下が特に好ましい。
【0114】
ラマンR値及びラマン半値幅は、炭素質材料表面の結晶性を示す指標であるが、炭素質材料は、化学的安定性の観点から適度な結晶性が有し、かつ充放電によってLiが入り込む層間のサイトを消失しない程度の結晶性であることが好ましい。なお、集電体に塗布した後のプレスによって負極を高密度化する場合には、電極板と平行方向に結晶が配向しやすくなるため、それを考慮することが好ましい。
【0115】
ラマンR値又はラマン半値幅が上記範囲であると、炭素質材料と非水系電解液との反応を抑制することができるとともに、サイトの消失による負荷特性の低下を抑制することができる。
【0116】
ラマンスペクトルの測定は、ラマン分光器(日本分光社製ラマン分光器)を用いて、試料を測定セル内へ自然落下させて充填し、セル内のサンプル表面にアルゴンイオンレーザー光を照射しながら、セルをレーザー光と垂直な面内で回転させることにより行なう。得られるラマンスペクトルについて、1580cm-1付近のピークPAの強度IAと、1360cm-1付近のピークPBの強度IBとを測定し、その強度比R(R=IB/IA)を算出する。該測定で算出されるラマンR値を、本発明の炭素質材料のラマンR値と定義する。また、得られるラマンスペクトルの1580cm-1付近のピークPAの半値幅を測定し、これを本発明の炭素質材料のラマン半値幅と定義する。
【0117】
また、上記のラマン測定条件は、次の通りである。
・アルゴンイオンレーザー波長 :514.5nm
・試料上のレーザーパワー :15〜25mW
・分解能 :10〜20cm-1
・測定範囲 :1100cm-1〜1730cm-1
・ラマンR値、ラマン半値幅解析:バックグラウンド処理
・スムージング処理 :単純平均、コンボリューション5ポイント
【0118】
(BET比表面積)
炭素質材料のBET比表面積は、BET法を用いて測定した比表面積の値であり、通常0.1m・g-1以上であり、0.7m2・g-1以上が好ましく、1.0m2・g-1以上がさらに好ましく、1.5m2・g-1以上が特に好ましく、また、通常100m2・g-1以下であり、25m2・g-1以下が好ましく、15m2・g-1以下がさらに好ましく、10m2・g-1以下が特に好ましい。
【0119】
BET比表面積の値が上記範囲であると、電極表面へのリチウムの析出を抑制することができる一方、非水系電解液との反応によるガス発生を抑制することができる。
【0120】
BET法による比表面積の測定は、表面積計(大倉理研製全自動表面積測定装置)を用いて、試料に対して窒素流通下350℃で15分間、予備乾燥を行なった後、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用いて、ガス流動法による窒素吸着BET1点法によって行う。該測定で求められる比表面積を、本発明の炭素質材料のBET比表面積と定義する。
【0121】
(円形度)
炭素質材料の球形の程度として円形度を測定した場合、以下の範囲に収まることが好ましい。なお、円形度は、「円形度=(粒子投影形状と同じ面積を持つ相当円の周囲長)/(粒子投影形状の実際の周囲長)」で定義され、円形度が1のときに理論的真球となる。炭素質材料の粒径が3〜40μmの範囲にある粒子の円形度は1に近いほど望ましく、また、0.1以上が好ましく、中でも0.5以上が好ましく、0.8以上がより好ましく、0.85以上がさらに好ましく、0.9以上が特に好ましい。
【0122】
炭素質材料の円形度が大きいほど、充填性が向上し、粒子間の抵抗を抑えることができるため、高電流密度充放電特性は向上する。従って、円形度が上記範囲のように高いほど好ましい。
【0123】
円形度の測定は、フロー式粒子像分析装置(シスメックス社製FPIA)を用いて行う。試料約0.2gを、界面活性剤であるポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの0.2質量%水溶液(約50mL)に分散させ、28kHzの超音波を出力60Wで1分間照射した後、検出範囲を0.6〜400μmに指定し、粒径が3〜40μmの範囲の粒子について測定する。該測定で求められる円形度を、本発明の炭素質材料の円形度と定義する。
【0124】
円形度を向上させる方法は、特に制限されないが、球形化処理を施して球形にしたものが、電極体にしたときの粒子間空隙の形状が整うので好ましい。球形化処理の例としては、せん断力、圧縮力を与えることによって機械的に球形に近づける方法、複数の微粒子をバインダーもしくは、粒子自身の有する付着力によって造粒する機械的・物理的処理方法等が挙げられる。
【0125】
(タップ密度)
炭素質材料のタップ密度は、通常0.1g・cm-3以上であり、0.5g・cm-3以上が好ましく、0.7g・cm-3以上がさらに好ましく、1g・cm-3以上が特に好ましく、また、2g・cm-3以下が好ましく、1.8g・cm-3以下がさらに好ましく、1.6g・cm-3以下が特に好ましい。タップ密度が上記範囲であると、電池容量を確保することができるとともに、粒子間の抵抗の増大を抑制することができる。
【0126】
タップ密度の測定は、目開き300μmの篩を通過させて、20cm3のタッピングセルに試料を落下させてセルの上端面まで試料を満たした後、粉体密度測定器(例えば、セイシン企業社製タップデンサー)を用いて、ストローク長10mmのタッピングを1000回行なって、その時の体積と試料の質量からタップ密度を算出する。該測定で算出されるタップ密度を、本発明の炭素質材料のタップ密度として定義する。
【0127】
(配向比)
炭素質材料の配向比は、通常0.005以上であり、0.01以上が好ましく、0.0
15以上がさらに好ましく、また、通常0.67以下である。配向比が、上記範囲であると、優れた高密度充放電特性を確保することができる。なお、上記範囲の上限は、炭素質材料の配向比の理論上限値である。
【0128】
配向比は、試料を加圧成型してからX線回折により測定する。試料0.47gを直径17mmの成型機に充填し58.8MN・m-2で圧縮して得た成型体を、粘土を用いて測定用試料ホルダーの面と同一面になるようにセットしてX線回折を測定する。得られた炭素の(110)回折と(004)回折のピーク強度から、(110)回折ピーク強度/(004)回折ピーク強度で表わされる比を算出する。該測定で算出される配向比を、本発明の炭素質材料の配向比と定義する。
【0129】
X線回折測定条件は次の通りである。なお、「2θ」は回折角を示す。
・ターゲット:Cu(Kα線)グラファイトモノクロメーター
・スリット :
発散スリット=0.5度
受光スリット=0.15mm
散乱スリット=0.5度
・測定範囲及びステップ角度/計測時間:
(110)面:75度≦2θ≦80度 1度/60秒
(004)面:52度≦2θ≦57度 1度/60秒
【0130】
(アスペクト比(粉))
炭素質材料のアスペクト比は、通常1以上、また、通常10以下であり、8以下が好ましく、5以下がさらに好ましい。アスペクト比が、上記範囲であると、極板化時のスジ引きを抑制し、さらに均一な塗布が可能となるため、優れた高電流密度充放電特性を確保することができる。なお、上記範囲の下限は、炭素質材料のアスペクト比の理論下限値である。
【0131】
アスペクト比の測定は、炭素質材料の粒子を走査型電子顕微鏡で拡大観察して行う。厚さ50μm以下の金属の端面に固定した任意の50個の黒鉛粒子を選択し、それぞれについて試料が固定されているステージを回転、傾斜させて、3次元的に観察した時の炭素質材料粒子の最長となる径Aと、それと直交する最短となる径Bを測定し、A/Bの平均値を求める。該測定で求められるアスペクト比(A/B)を、本発明の炭素質材料のアスペクト比と定義する。
【0132】
(副材混合)
副材混合とは、負極電極中及び/又は負極活物質中に性質の異なる炭素質材料が2種以上含有していることである。ここでいう性質とは、X線回折パラメータ、メジアン径、アスペクト比、BET比表面積、配向比、ラマンR値、タップ密度、真密度、細孔分布、円形度、灰分量の群から選ばれる1つ以上の特性を示す。
【0133】
これらの副材混合の、特に好ましい例としては、体積基準粒度分布がメジアン径を中心としたときに左右対称とならないこと、ラマンR値が異なる炭素質材料を2種以上含有していること、及びX線パラメータが異なること等が挙げられる。
【0134】
副材混合の効果の1例として、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト)、アセチレンブラック等のカーボンブラック、ニードルコークス等の無定形炭素等の炭素質材料を導電材として含有されることにより、電気抵抗を低減させることが挙げられる。
【0135】
副材混合として導電材を混合する場合には、1種を単独で混合してもよく、2種以上を
任意の組み合わせ及び比率で混合してもよい。また、導電材の炭素質材料に対する混合比率は、通常0.1質量%以上、0.5質量%以上がこのましく、0.6質量%以上が更に好ましく、また、通常45質量%以下であり、40質量%以下が好ましい。混合比が上記範囲であると、電気抵抗低減効果を確保することができるとともに、初期不可逆容量の増大を抑制することができる。
【0136】
<2−4.負極の構成と作製法負極>
電極の製造は、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のいずれの方法を用いることができる。例えば、負極活物質に、バインダー、溶媒、必要に応じて、増粘剤、導電材、充填材等を加えてスラリーとし、これを集電体に塗布、乾燥した後にプレスすることによって形成することができる。
【0137】
また、合金系材料を用いる場合には、蒸着法、スパッタ法、メッキ法等の手法により、上述の負極活物質を含有する薄膜層(負極活物質層)を形成する方法も用いられる。
【0138】
(集電体)
負極活物質を保持させる集電体としては、公知のものを任意に用いることができる。負極の集電体としては、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属材料が挙げられるが、加工し易さとコストの点から特に銅が好ましい。
【0139】
また、集電体の形状は、集電体が金属材料の場合は、例えば、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられる。中でも、好ましくは金属薄膜、より好ましくは銅箔であり、さらに好ましくは圧延法による圧延銅箔と、電解法による電解銅箔があり、どちらも集電体として用いることができる。
【0140】
集電体の厚さは、電池容量の確保、取扱い性の観点から、通常1μm以上、好ましくは5μm以上であり、通常100μm以下、好ましくは50μm以下である。
【0141】
(集電体と負極活物質層との厚さの比)
集電体と負極活物質層の厚さの比は特に制限されないが、「(非水系電解液注液直前の片面の負極活物質層厚さ)/(集電体の厚さ)」の値が、150以下が好ましく、20以下がさらに好ましく、10以下が特に好ましく、また、0.1以上が好ましく、0.4以上がさらに好ましく、1以上が特に好ましい。集電体と負極活物質層の厚さの比が、上記範囲であると、電池容量を確保することができるとともに、高電流密度充放電時における集電体の発熱を抑制することができる。
【0142】
(結着剤)
負極活物質を結着するバインダーとしては、非水系電解液や電極製造時に用いる溶媒に対して安定な材料であれば、特に制限されない。
具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、芳香族ポリアミド、ポリイミド、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂系高分子;SBR(スチレン・ブタジエンゴム)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム、NBR(アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、エチレン・プロピレンゴム等のゴム状高分子;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物;EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体)、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子;シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体等の軟質樹脂状高分子;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエ
チレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体等のフッ素系高分子;アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0143】
負極活物質に対するバインダーの割合は、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましく、0.6質量%以上が特に好ましく、また、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、8質量%以下が特に好ましい。負極活物質に対するバインダーの割合が、上記範囲を上回ると、バインダー量が電池容量に寄与しないバインダー割合が増加して、電池容量の低下を招く場合がある。また、上記範囲を下回ると、負極電極の強度低下を招く場合がある。
【0144】
特に、SBRに代表されるゴム状高分子を主要成分に含有する場合には、負極活物質に対するバインダーの割合は、通常0.1質量%以上であり、0.5質量%以上が好ましく、0.6質量%以上がさらに好ましく、また、通常5質量%以下であり、3質量%以下が好ましく、2質量%以下がさらに好ましい。また、ポリフッ化ビニリデンに代表されるフッ素系高分子を主要成分に含有する場合には負極活物質に対する割合は、通常1質量%以上であり、2質量%以上が好ましく、3質量%以上がさらに好ましく、また、通常15質量%以下であり、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がさらに好ましい。
【0145】
(スラリー形成溶媒)
スラリーを形成するための溶媒としては、負極活物質、バインダー、並びに必要に応じて使用される増粘剤及び導電材を溶解又は分散することが可能な溶媒であれば、その種類に特に制限はなく、水系溶媒と有機系溶媒のどちらを用いてもよい。
水系溶媒としては、水、アルコール等が挙げられ、有機系溶媒としてはN−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、アセトン、ジエチルエーテル、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスファルアミド、ジメチルスルホキシド、ベンゼン、キシレン、キノリン、ピリジン、メチルナフタレン、ヘキサン等が挙げられる。
【0146】
特に水系溶媒を用いる場合、増粘剤に併せて分散剤等を含有させ、SBR等のラテックスを用いてスラリー化することが好ましい。なお、これらの溶媒は、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0147】
(増粘剤)
増粘剤は、通常、スラリーの粘度を調製するために使用される。増粘剤としては、特に制限されないが、具体的には、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン及びこれらの塩等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0148】
さらに増粘剤を用いる場合には、負極活物質に対する増粘剤の割合は、通常0.1質量%以上であり、0.5質量%以上が好ましく、0.6質量%以上がさらに好ましく、また、通常5質量%以下であり、3質量%以下が好ましく、2質量%以下がさらに好ましい。負極活物質に対する増粘剤の割合が、上記範囲であると、電池容量の低下や抵抗の増大を抑制できるとともに、適度な塗布性を確保することができる。
【0149】
(電極密度)
負極活物質を電極化した際の電極構造は特に制限されないが、集電体上に存在している負極活物質の密度は、1g・cm-3以上が好ましく、1.2g・cm-3以上がさらに好ましく、1.3g・cm-3以上が特に好ましく、また、2.2g・cm-3以下が好ましく、2.1g・cm-3以下がより好ましく、2.0g・cm-3以下がさらに好ましく、1.9g・cm-3以下が特に好ましい。集電体上に存在している負極活物質の密度が、上記範囲であると、負極活物質粒子の破壊を防止して、初期不可逆容量の増加や、集電体/負極活物質界面付近への非水系電解液の浸透性低下による高電流密度充放電特性悪化を抑制することができる一方、電池容量の低下や抵抗の増大を抑制することができる。
【0150】
(負極板の厚さ)
負極板の厚さは用いられる正極板に合わせて設計されるものであり、特に制限されないが、芯材の金属箔厚さを差し引いた合材層の厚さは通常15μm以上、好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上、また、通常300μm以下、好ましくは280μm以下、より好ましくは250μm以下が望ましい。
【0151】
(負極板の表面被覆)
また、上記負極板の表面に、これとは異なる組成の物質が付着したものを用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等の酸化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩等が挙げられる。
【0152】
<2−5.正極>
(正極活物質)
正極活物質としては、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵・放出可能なものであれば特に制限されないが、例えば、リチウムと少なくとも1種の遷移金属を含有する物質が好ましい。具体例としては、リチウム遷移金属複合酸化物、リチウム含有遷移金属リン酸化合物が挙げられる。
【0153】
リチウム遷移金属複合酸化物の遷移金属としてはV、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等が好ましく、具体例としては、LiCoO2等のリチウム・コバルト複合酸化物、LiNiO2等のリチウム・ニッケル複合酸化物、LiMnO2、LiMn24、Li2MnO4等のリチウム・マンガン複合酸化物、これらのリチウム遷移金属複合酸化物の主体となる遷移金属原子の一部をAl、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Si等の他の金属で置換したもの等が挙げられる。置換されたものの具体例としては、例えば、LiNi0.5Mn0.52、LiNi0.85Co0.10Al0.052、LiNi0.33Co0.33Mn0.332、LiMn1.8Al0.24、LiMn1.5Ni0.54等が挙げられる。
【0154】
リチウム含有遷移金属リン酸化合物の遷移金属としては、V、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等が好ましく、具体例としては、例えば、LiFePO4、Li3Fe2(PO43、LiFeP27等のリン酸鉄類、LiCoPO4等のリン酸コバルト類、これらのリチウム遷移金属リン酸化合物の主体となる遷移金属原子の一部をAl、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Nb、Si等の他の金属で置換したもの等が挙げられる。
【0155】
(表面被覆)
また、上記正極活物質の表面に、これとは異なる組成の物質が付着したものを用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニ
ウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等の酸化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、炭素等が挙げられる。
【0156】
これら表面付着物質は、例えば、溶媒に溶解又は懸濁させて該正極活物質に含浸添加、乾燥する方法、表面付着物質前駆体を溶媒に溶解又は懸濁させて該正極活物質に含浸添加後、加熱等により反応させる方法、正極活物質前駆体に添加して同時に焼成する方法等により該正極活物質表面に付着させることができる。なお、炭素を付着させる場合には、炭素質を、例えば、活性炭等の形で後から機械的に付着させる方法も用いることもできる。
【0157】
表面付着物質の量としては、該正極活物質に対して質量で、下限として好ましくは0.1ppm以上、より好ましくは1ppm以上、さらに好ましくは10ppm以上、上限として、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下で用いられる。表面付着物質により、正極活物質表面での電解液の酸化反応を抑制することができ、電池寿命を向上させることができる。上記範囲であると、リチウムイオンの出入りの阻害に伴う抵抗の増加を抑制することができる一方、上記効果を十分に発現することができる。
【0158】
本発明においては、正極活物質の表面に、これとは異なる組成の物質が付着したものをも「正極活物質」という。
(形状)
正極活物質の粒子の形状は、従来用いられるような、塊状、多面体状、球状、楕円球状、板状、針状、柱状等が挙げられるが、中でも一次粒子が凝集して、二次粒子を形成して成り、その二次粒子の形状が球状ないし楕円球状であるものが好ましい。通常、電気化学素子はその充放電に伴い、電極中の活物質が膨張収縮をするため、そのストレスによる活物質の破壊や導電パス切れ等の劣化がおきやすい。そのため一次粒子のみの単一粒子活物質であるよりも、一次粒子が凝集して、二次粒子を形成したものである方が膨張収縮のストレスを緩和して、劣化を防ぐため好ましい。また、板状等軸配向性の粒子であるよりも球状ないし楕円球状の粒子の方が、電極の成形時の配向が少ないため、充放電時の電極の膨張収縮も少なく、また電極を作製する際の導電材との混合においても、均一に混合されやすいため好ましい。
【0159】
(タップ密度)
正極活物質のタップ密度は、好ましくは0.5g/cm3以上、より好ましくは1.0g/cm3以上、さらに好ましくは1.5g/cm3以上、最も好ましくは1.7g/cm3以上である。該正極活物質のタップ密度が上記範囲であると、正極活物質層形成時に必要な分散媒量及び導電材や結着剤の必要量を抑えることができ、結果正極活物質の充填率及び電池容量を確保することができる。タップ密度の高い複合酸化物粉体を用いることにより、高密度の正極活物質層を形成することができる。タップ密度は一般に大きいほど好ましく、特に上限はないが、好ましくは2.7g/cm3以下、より好ましくは2.5g/cm3以下である。上記範囲であると負荷特性の低下を抑制することができる。
【0160】
なお、本発明では、タップ密度は、正極活物質粉体5〜10gを10mlのガラス製メスシリンダーに入れ、ストローク約20mmで200回タップした時の粉体充填密度(タップ密度)g/ccとして求める。
【0161】
(メジアン径d50)
正極活物質の粒子のメジアン径d50(一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には二次粒子径)は好ましくは0.3μm以上、より好ましくは1.2μm以上、さら
に好ましくは1.5μm以上、最も好ましくは2μm以上であり、上限は、好ましくは20μm以下、より好ましくは18μm以下、さらに好ましくは16μm以下、最も好ましくは15μm以下である。上記範囲であると、高タップ密度品が得られ、電池性能の低下を抑制できる一方、電池の正極作製、即ち活物質と導電材やバインダー等を溶媒でスラリー化して、薄膜状に塗布する際に生じるスジを引く等の問題を防止することができる。ここで、異なるメジアン径d50をもつ該正極活物質を2種類以上混合することで、正極作製時の充填性をさらに向上させることができる。
【0162】
なお、本発明では、メジアン径d50は、公知のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置によって測定される。粒度分布計としてHORIBA社製LA−920を用いる場合、測定の際に用いる分散媒として、0.1質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用い、5分間の超音波分散後に測定屈折率1.24を設定して測定される。
【0163】
(平均一次粒子径)
一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には、該正極活物質の平均一次粒子径としては、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは0.2μm以上であり、上限は、好ましくは2μm以下、より好ましくは1.6μm以下、さらに好ましくは1.3μm以下、最も好ましくは1μm以下である。上記範囲であると、粉体充填性及び比表面積を確保し、電池性能の低下を抑制することができる一方、適度な結晶性が得られることによって、充放電の可逆性を確保することができる。
【0164】
なお、本発明では、一次粒子径は、走査電子顕微鏡(SEM)を用いた観察により測定される。具体的には、10000倍の倍率の写真で、水平方向の直線に対する一次粒子の左右の境界線による切片の最長の値を、任意の50個の一次粒子について求め、平均値をとることにより求められる。
【0165】
(BET比表面積)
正極活物質のBET比表面積は、好ましくは0.4m2/g以上、より好ましくは0.5m2/g以上、さらに好ましくは0.6m2/g以上であり、上限は50m2/g以下、好ましくは40m2/g以下、さらに好ましくは30m2/g以下である。BET比表面積が上記範囲であると、電池性能を確保できるとともに、正極活性物質の塗布性を良好に保つことができる。
【0166】
なお、本発明では、BET比表面積は、表面積計(例えば、大倉理研製全自動表面積測定装置)を用い、試料に対して窒素流通下150℃で30分間、予備乾燥を行なった後、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET1点法によって測定した値で定義される。
【0167】
(正極活物質の製造法)
正極活物質の製造法としては、無機化合物の製造法として一般的な方法が用いられる。特に球状ないし楕円球状の活物質を作製するには種々の方法が考えられるが、例えば、リン酸等のリン原料物質と、組成式(1)におけるMの原料物質を水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、攪拌をしながらpHを調節して球状の前駆体を作製回収し、これを必要に応じて乾燥した後、LiOH、Li2CO3、LiNO3等のLi源を加えて高温で焼成して活物質を得る方法等が挙げられる。
【0168】
正極の製造のために、組成式(1)の正極活物質及び/又は前記表面付着物質で被覆された組成式(1)の正極活物質を単独で用いてもよく、異なる組成の1種以上とを、任意の組み合わせ又は比率で併用してもよい。この場合の好ましい組み合わせとしては、LiMn24若しくはこのMnの一部を他の遷移金属等で置換したものとの組み合わせ、ある
いは、LiCoO2若しくはこのCoの一部を他の遷移金属等で置換したものとの組み合わせが挙げられる。ここで、組成式(1)の正極活物質及び/又は前記表面付着物質で被覆された組成式(1)の正極活物質は、正極活物質全体の30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。組成式(1)の正極活物質及び/又は前記表面付着物質で被覆された組成式(1)の正極活物質の使用割合が少なくなると、電池容量が小さくなる場合がある。なお、「組成式(1)の正極活物質及び/又は前記表面付着物質で被覆された組成式(1)の正極活物質」と「組成式(1)の正極活物質及び/又は前記表面付着物質で被覆された組成式(1)の正極活物質以外の正極活物質」を総称して「正極活物質」という。
【0169】
<2−6.正極の構成と作製法>
以下に、正極の構成について述べる。本発明において、正極は、正極活物質と結着剤とを含有する正極活物質層を、集電体上に形成して作製することができる。正極活物質を用いる正極の製造は、常法により行うことができる。即ち、正極活物質と結着剤、並びに必要に応じて導電材及び増粘剤等を乾式で混合してシート状にしたものを正極集電体に圧着するか、又はこれらの材料を液体媒体に溶解又は分散させてスラリーとして、これを正極集電体に塗布し、乾燥することにより、正極活物質層を集電体上に形成されることにより正極を得ることができる。
【0170】
正極活物質の、正極活物質層中の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは82質量%以上、特に好ましくは84質量%以上である。また上限は、好ましくは95質量%以下、より好ましくは93質量%以下である。上記範囲であると、正極活物質層中の正極活物質の電気容量を確保できるとともに、正極の強度を保つことができる。
【0171】
塗布、乾燥によって得られた正極活物質層は、正極活物質の充填密度を上げるために、ハンドプレス、ローラープレス等により圧密化することが好ましい。正極活物質層の密度は、下限として好ましくは1.5g/cm3以上、より好ましくは2g/cm3、さらに好ましくは2.2g/cm3以上であり、上限としては、好ましくは3.5g/cm3以下、より好ましくは3g/cm3以下、さらに好ましくは2.8g/cm3以下の範囲である。この範囲を上回ると集電体/活物質界面付近への電解液の浸透性が低下し、特に高電流密度での充放電特性が低下し高出力が得られない場合がある。また下回ると活物質間の導電性が低下し、電池抵抗が増大し高出力が得られない場合がある。
【0172】
(導電材)
導電材としては、公知の導電材を任意に用いることができる。具体例としては、銅、ニッケル等の金属材料;天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト);アセチレンブラック等のカーボンブラック;ニードルコークス等の無定形炭素等の炭素材料等が挙げられる。なお、これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。導電材は、正極活物質層中に、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上であり、また上限は、通常50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下含有するように用いられる。上記範囲であると、十分な導電性と電池容量を確保することができる。
【0173】
(結着剤)
正極活物質層の製造に用いる結着剤としては、特に限定されず、塗布法の場合は、電極製造時に用いる液体媒体に対して溶解又は分散される材料であればよいが、具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリイミド、芳香族ポリアミド、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂系高分子;SBR(スチレン−ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、フッ素ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム等のゴム状高分子;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体)、スチレン・エチレン・ブタジエン・エチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子;シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体等の軟質樹脂状高分子;ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体等のフッ素系高分子;アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物等が挙げられる。なお、これらの物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0174】
正極活物質層中の結着剤の割合は、通常0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上であり、上限は、通常80質量%以下、好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下、最も好ましくは10質量%以下である。上記範囲であると、正極の機械的強度を確保し、かつサイクル特性等の電池性能の悪化を抑制することができる一方電池容量や導電性の低下を抑制することができる。
【0175】
(スラリー形成溶媒)
スラリーを形成するための溶媒としては、正極活物質、導電材、結着剤、並びに必要に応じて使用される増粘剤を溶解又は分散することが可能な溶媒であれば、その種類に特に制限はなく、水系溶媒と有機系溶媒のどちらを用いてもよい。水系媒体としては、例えば、水、アルコールと水との混合媒等が挙げられる。有機系媒体としては、例えば、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルナフタレン等の芳香族炭化水素類;キノリン、ピリジン等の複素環化合物;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸メチル、アクリル酸メチル等のエステル類;ジエチレントリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン等のアミン類;ジエチルエーテル、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル類;N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;ヘキサメチルホスファルアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。
【0176】
特に水系媒体を用いる場合、増粘剤と、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)等のラテックスを用いてスラリー化するのが好ましい。増粘剤は、通常、スラリーの粘度を調製するために使用される。増粘剤としては、特に制限はないが、具体的には、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン及びこれらの塩等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。さらに増粘剤を添加する場合には、活物質に対する増粘剤の割合は、0.1質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.6質量%以上であり、また、上限としては5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下の範囲である。上記範囲であると、良好な塗布性が得られるとともに、電池容量の低下や抵抗の増大を抑制することができる。
【0177】
(集電体)
正極集電体の材質としては特に制限されず、公知のものを任意に用いることができる。具体例としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ、チタン、タンタル等の金属材料;カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が挙げられる。中でも金属材料、特にアルミニウムが好ましい。
【0178】
集電体の形状としては、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金
属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられ、炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。これらのうち、金属薄膜が好ましい。なお、薄膜は適宜メッシュ状に形成してもよい。薄膜の厚さは任意であるが、集電体としての強度及び取扱い性の観点から、通常1μm以上、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、また上限は、通常1mm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。
【0179】
また、集電体の表面に導電助剤が塗布されていることも、集電体と正極活物質層の電子接触抵抗を低下させる観点で好ましい。導電助剤としては、炭素や、金、白金、銀等の貴金属類が挙げられる。
【0180】
集電体と正極活物質層の厚さの比は特には限定されないが、(電解液注液直前の片面の正極活物質層の厚さ)/(集電体の厚さ)の値が20以下であることが好ましく、より好ましくは15以下、最も好ましくは10以下であり、下限は、0.5以上が好ましく、より好ましくは0.8以上、最も好ましくは1以上の範囲である。上記範囲であると、高電流密度充放電時の集電体の発熱を抑制し、電池容量を確保することができる。
【0181】
(電極面積)
本発明の非水系電解液を用いる場合、高出力かつ高温時の安定性を高める観点から、正極活物質層の面積は、電池外装ケースの外表面積に対して大きくすることが好ましい。具体的には、二次電池の外装の表面積に対する正極の電極面積の総和が面積比で15倍以上とすることが好ましく、さらに40倍以上とすることがより好ましい。外装ケースの外表面積とは、有底角型形状の場合には、端子の突起部分を除いた発電要素が充填されたケース部分の縦と横と厚さの寸法から計算で求める総面積をいう。有底円筒形状の場合には、端子の突起部分を除いた発電要素が充填されたケース部分を円筒として近似する幾何表面積である。正極の電極面積の総和とは、負極活物質を含む合材層に対向する正極合材層の幾何表面積であり、集電体箔を介して両面に正極合材層を形成してなる構造では、それぞれの面を別々に算出する面積の総和をいう。
【0182】
(正極板の厚さ)
正極板の厚さは特に限定されないが、高容量かつ高出力の観点から、芯材の金属箔厚さを差し引いた合材層の厚さは、集電体の片面に対して下限として、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上で、上限としては、好ましくは500μm以下、より好ましくは450μm以下である。
【0183】
(正極板の表面被覆)
また、上記正極板の表面に、これとは異なる組成の物質が付着したものを用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等の酸化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、炭素等が挙げられる。
【0184】
<2−7.セパレータ>
正極と負極との間には、短絡を防止するために、通常はセパレータを介在させる。この場合、本発明の非水系電解液は、通常はこのセパレータに含浸させて用いる。
【0185】
セパレータの材料や形状については特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のものを任意に採用することができる。中でも、本発明の非水系電解液に対し安定な材料で形成された、樹脂、ガラス繊維、無機物等が用いられ、保液性に優れた多孔
性シート又は不織布状の形態の物等を用いるのが好ましい。
【0186】
樹脂、ガラス繊維セパレータの材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、芳香族ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン、ガラスフィルター等を用いることができる。中でも好ましくはガラスフィルター、ポリオレフィンであり、さらに好ましくはポリオレフィンである。これらの材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0187】
セパレータの厚さは任意であるが、通常1μm以上であり、5μm以上が好ましく、8μm以上がさらに好ましく、また、通常50μm以下であり、40μm以下が好ましく、30μm以下がさらに好ましい。上記範囲であると、絶縁性及び機械的強度を確保できる一方、レート特性等の電池性能及びエネルギー密度を確保することができる。
【0188】
さらに、セパレータとして多孔性シートや不織布等の多孔質のものを用いる場合、セパレータの空孔率は任意であるが、通常20%以上であり、35%以上が好ましく、45%以上がさらに好ましく、また、通常90%以下であり、85%以下が好ましく、75%以下がさらに好ましい。空孔率が、上記範囲であると、絶縁性及び機械的強度を確保できる一方、膜抵抗を抑え良好なレート特性を得ることができる。
【0189】
また、セパレータの平均孔径も任意であるが、通常0.5μm以下であり、0.2μm以下が好ましく、また、通常0.05μm以上である。平均孔径が、上記範囲であると、短絡を防止ししつつ、膜抵抗を抑え良好なレート特性を得ることができる。一方、無機物の材料としては、例えば、アルミナや二酸化ケイ素等の酸化物、窒化アルミや窒化ケイ素等の窒化物、硫酸バリウムや硫酸カルシウム等の硫酸塩が用いられ、粒子形状もしくは繊維形状のものが用いられる。
【0190】
形態としては、不織布、織布、微多孔性フィルム等の薄膜形状のものが用いられる。薄膜形状では、孔径が0.01〜1μm、厚さが5〜50μmのものが好適に用いられる。上記の独立した薄膜形状以外に、樹脂製の結着剤を用いて上記無機物の粒子を含有する複合多孔層を正極及び/又は負極の表層に形成させてなるセパレータを用いることができる。例えば、正極の両面に90%粒径が1μm未満のアルミナ粒子を、フッ素樹脂を結着剤として多孔層を形成させることが挙げられる。
【0191】
<2−8.電池設計>
(電極群)
電極群は、上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介してなる積層構造のもの、及び上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介して渦巻き状に捲回した構造のもののいずれでもよい。電極群の体積が電池内容積に占める割合(以下、電極群占有率と称する)は、通常40%以上であり、50%以上が好ましく、また、通常90%以下であり、80%以下が好ましい。
【0192】
電極群占有率が、上記範囲であると、電池容量を確保できるとともに内部圧力の上昇に伴う充放電繰り返し性能や高温保存等の特性低下を抑制し、さらにはガス放出弁の作動を防止することができる。
【0193】
(集電構造)
集電構造は、特に制限されないが、本発明の非水系電解液による高電流密度の充放電特性の向上をより効果的に実現するには、配線部分や接合部分の抵抗を低減する構造にすることが好ましい。この様に内部抵抗を低減させた場合、本発明の非水系電解液を使用した効果は特に良好に発揮される。
【0194】
電極群が上記の積層構造のものでは、各電極層の金属芯部分を束ねて端子に溶接して形成される構造が好適に用いられる。一枚の電極面積が大きくなる場合には、内部抵抗が大きくなるので、電極内に複数の端子を設けて抵抗を低減することも好適に用いられる。電極群が上記の捲回構造のものでは、正極及び負極にそれぞれ複数のリード構造を設け、端子に束ねることにより、内部抵抗を低くすることができる。
【0195】
(外装ケース)
外装ケースの材質は用いられる非水系電解液に対して安定な物質であれば特に制限されない。具体的には、ニッケルめっき鋼板、ステンレス、アルミニウム又はアルミニウム合金、マグネシウム合金等の金属類、又は、樹脂とアルミ箔との積層フィルム(ラミネートフィルム)が用いられる。軽量化の観点から、アルミニウム又はアルミニウム合金の金属、ラミネートフィルムが好適に用いられる。
【0196】
金属類を用いる外装ケースでは、レーザー溶接、抵抗溶接、超音波溶接により金属同士を溶着して封止密閉構造とするもの、若しくは、樹脂製ガスケットを介して上記金属類を用いてかしめ構造とするものが挙げられる。上記ラミネートフィルムを用いる外装ケースでは、樹脂層同士を熱融着することにより封止密閉構造とするもの等が挙げられる。シール性を上げるために、上記樹脂層の間にラミネートフィルムに用いられる樹脂と異なる樹脂を介在させてもよい。特に、集電端子を介して樹脂層を熱融着して密閉構造とする場合には、金属と樹脂との接合になるので、介在する樹脂として極性基を有する樹脂や極性基を導入した変成樹脂が好適に用いられる。
【0197】
(保護素子)
保護素子として、異常発熱や過大電流が流れた時に抵抗が増大するPTC(Positive Temperature Coefficient)、温度ヒューズ、サーミスター、異常発熱時に電池内部圧力や内部温度の急激な上昇により回路に流れる電流を遮断する弁(電流遮断弁)等を使用することができる。上記保護素子は高電流の通常使用で作動しない条件のものを選択することが好ましく、保護素子がなくても異常発熱や熱暴走に至らない設計にすることがより好ましい。
【0198】
(外装体)
本発明の非水系電解液二次電池は、通常、上記の非水系電解液、負極、正極、セパレータ等を外装体内に収納して構成される。この外装体は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のものを任意に採用することができる。具体的に、外装体の材質は任意であるが、通常は、例えばニッケルメッキを施した鉄、ステンレス、アルミニウム又はその合金、ニッケル、チタン等が用いられる。
【0199】
また、外装体の形状も任意であり、例えば円筒型、角形、ラミネート型、コイン型、大型等のいずれであってもよい。
【実施例】
【0200】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0201】
[実施例1]
<非水系電解液電池の製造>
(非水系電解液の調製)
乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体積比30:30:40)に、
非水系電解液中の含有量として1,6−ジイソシアナトヘキサン(HDI)0.5質量%並びにLiN(SO2F)2(以下、LiFSIと略す場合がある。)0.5質量%を混合し、次いで十分に乾燥したLiPF6を1.0mol/Lの割合となるように溶解して電解液を調製した。
【0202】
(正極の製造)
正極活物質としてニッケルマンガンコバルト酸リチウム(LiNi1/3Mn1/3Co1/32)90質量部を用い、導電材としてカーボンブラック7質量部と、結着材としてポリフッ化ビニリデン3質量部を混合し、N−メチル−2−ピロリドンを加えスラリー化し、これを厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に均一に塗布、乾燥した後、正極活物質層の密度が2.6g・cm-3になるようにプレスして正極とした。
【0203】
(負極の製造)
アルゴンイオンレーザーラマンスペクトル法における1580cm-1のピーク強度に対する1360cm-1のピーク強度の比として定義されるラマンR値が0.33である黒鉛に、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウムの水性ディスパージョン(カルボキシメチルセルロースナトリウムの濃度1質量%)と、バインダーとしてスチレン−ブタジエンゴムの水性ディスパージョン(スチレン−ブタジエンゴムの濃度50質量%)を加え、ディスパーザーで混合してスラリー化した。得られたスラリーを厚さ12μmの銅箔の片面に均一に塗布して乾燥し、その後、負極活物質層の密度が1.4g・cm-3になるようにプレスして負極とした。尚、乾燥後の負極において、黒鉛:カルボキシメチルセルロースナトリウム:スチレン−ブタジエンゴム=98:1:1の質量比となるように作製した。
【0204】
(非水系電解液電池の作製)
上記の正極、負極、及びポリエチレン製のセパレータ(厚さ25μm)を、負極、セパレータ、正極の順に積層して電池要素を作製した。この電池要素をアルミニウム(厚さ40μm)の両面を樹脂層で被覆したラミネートフィルムからなる袋内に正・負極の端子を突設させながら挿入した後、非水系電解液を袋内に注入し、真空封止を行ない、シート状の非水系電解液電池を作製した。更に、電極間の密着性を高めるために、ガラス板でシート状電池を挟んで加圧した。
【0205】
<初期フォーメーション>
25℃の恒温槽中、シート状の非水系電解液電池を0.2Cで4.1VまでCCCV充電した後、0.2Cで3.0Vまで放電した。これを5回繰り返し初期のフォーメーションを行なった。ここで、1Cとは電池の基準容量を1時間で放電する電流値を表し、例えば、0.2Cとはその1/5の電流値を表す。
【0206】
<サイクル特性評価>
初期フォーメーションを行った後の非水系電解液電池を、60℃の恒温槽に入れ、2Cで4.1Vまで定電流充電後、2Cで3.0Vまで定電流放電する過程を1サイクルとして、500サイクル実施した。そして、(500サイクル目の放電容量)÷(1サイクル目の放電容量)×100の計算式から、500サイクル目の容量維持率を求めた。
この非水系電解液電池を用いて、サイクル特性評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0207】
[実施例2]
実施例1の電解液において、LiFSIに代えてフルオロスルホン酸リチウム(LiSO3F)を用いた以外、実施例1と同様にして非水系電解液電池を作製し、サイクル特性評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0208】
[実施例3]
実施例1の電解液において、LiFSIに代えてホウ酸トリス(トリメチルシリル)(以下、「TMSB」と略す場合がある。)を用いた以外、実施例1と同様にして非水系電解液電池を作製し、サイクル特性評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0209】
[実施例4]
実施例1の電解液において、HDIに代えて基本構造が上記式(4−2)で表されるデュラネートTMTPA−100(旭化成ケミカルズ製、以下、TPA−100と称する場合がある)を用いた以外、実施例1と同様にして非水系電解液電池を作製し、サイクル特性評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0210】
[実施例5]
実施例4の電解液において、LiFSIに代えてLiSO3Fを用いた以外、実施例4と同様にして非水系電解液電池を作製し、サイクル特性評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0211】
[実施例6]
実施例4の電解液において、LiFSIに代えてTMSBを用いた以外、実施例4と同様にして非水系電解液電池を作製し、サイクル特性評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0212】
[比較例1]
実施例1の電解液において、HDIならびにLiFSIを含まない電解液を用いた以外、実施例1と同様にして非水系電解液電池を作製し、サイクル特性評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0213】
[比較例2]
実施例1の電解液において、LiFSIを含まない電解液を用いた以外、実施例1と同様にして非水系電解液電池を作製し、サイクル特性評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0214】
[比較例3]
実施例4の電解液において、LiFSIを含まない電解液を用いた以外、実施例4と同様にして非水系電解液電池を作製し、サイクル特性評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0215】
[比較例4]
実施例1の電解液において、HDIを含まない電解液を用いた以外、実施例1と同様にして非水系電解液電池を作製し、サイクル特性評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0216】
[比較例5]
実施例2の電解液において、HDIを含まない電解液を用いた以外、実施例2と同様にして非水系電解液電池を作製し、サイクル特性評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0217】
[比較例6]
実施例3の電解液において、HDIを含まない電解液を用いた以外、実施例3と同様にして非水系電解液電池を作製し、サイクル特性評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0218】
【表1】

【0219】
表1より、化合物(A)及び化合物(B)の両方を含有する実施例1〜6の非水系電解液を用いると、化合物(A)及び化合物(B)を含まない場合(比較例1)に比べ、500サイクル後の容量維持率に優れていることが分かる。また、化合物(A)又は化合物(B)が単独で添加されている場合(比較例2〜6)には一部サイクル容量維持率の向上は見られるものの、効果が不十分であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0220】
本発明の非水系電解液や非水系電解液二次電池の用途は特に限定されず、公知の各種の用途に用いることが可能である。具体例としては、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、バイク、原動機付自転車、自転車、照明器具、玩具、ゲーム機器、時計、電動工具、ストロボ、カメラ等を挙げることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンを吸蔵・放出しうる正極及び負極を備える非水系電解液二次電池用の非水系電解液であって、
前記電解液が電解質及び非水系溶媒とともに、
(A)分子内に少なくとも2以上のイソシアネート基を有する化合物、並びに
(B)リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、下記一般式(1)及び(2)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする非水系電解液二次電池用非水系電解液。
【化1】

(一般式(1)中、nは0〜4の整数である。)
【化2】

(一般式(2)中、M3は金属原子、リン、ホウ素、またはP=Oを表す。R1は炭素数1〜11のアルキルオキシ基、シリルオキシ基、または炭素数1〜11のアルキルシリルオキシ基を表す。nはM3に結合するR1の個数を表し、M3の価数によって決まる。nが2以上の場合、R1は同一でも異なってもよい。R2〜R4はそれぞれ独立に炭素数1〜11のアルキル基、または炭素数1〜11のアルケニル基、炭素数1〜11のアルキルオキシ基、または炭素数6〜11のアリール基を表す。)
【請求項2】
前記電解質として、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を非水系電解液全体中に0.5〜3mol/Lの濃度で含有する、請求項1に記載の非水系電解液。
【請求項3】
前記(A)として、下記一般式(3)で表される構造を有するジイソシアネート化合物を少なくとも含有する、請求項1又は2に記載の非水系電解液。
【化3】

(一般式(3)中、xは4〜12である)
【請求項4】
前記(A)として、1,6−ジイソシアナトヘキサン(HDI)を少なくとも含有する、請求項3に記載の非水系電解液。
【請求項5】
前記(A)として、分子内に下記一般式(4)で表される部分構造を1以上及びイソシアネート基を2以上有する化合物を少なくとも含有する、請求項1〜4の何れか1項に記載の非水系電解液。
【化4】

(一般式(4)中、Rは水素、又はイソシアネート基を有してもよい、水素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子、及びハロゲン原子からなる群より選ばれる原子で構成された炭素数1〜12の有機基を表す。)
【請求項6】
前記分子内に一般式(4)で表される部分構造を1以上及びイソシアネート基を2以上有する化合物が、ウレトジオン、オキサジアジトリオン、ビウレット、ウレタン、アロファネート、イソシアヌレートから選ばれる1種以上の骨格を有するものである、請求項5に記載の非水系電解液。
【請求項7】
前記分子内に一般式(4)で表される部分構造を1以上及びイソシアネート基を2以上有する化合物が、数平均分子量200以上5000以下の化合物である、請求項5又は6に記載の非水系電解液。
【請求項8】
電解質、非水系溶媒、前記(A)及び前記(B)のほかに、四フッ化ホウ素酸塩及び下記一般式(5)で表される化合物を少なくとも含有する、請求項1〜7の何れか1項に記載の非水系電解液。
【化5】

(一般式(5)中、l及びmは独立して1〜4の整数を表す。)
【請求項9】
前記(A)を0.01質量%以上3質量%未満含有する、請求項1〜8の何れか1項に記載の非水系電解液。
【請求項10】
一般式(1)で表される化合物が、フルオロスルホン酸リチウム(LiSO3F)又はトリフルオロメタンスルホン酸リチウムである、請求項1〜9の何れか1項に記載の非水系電解液。
【請求項11】
一般式(2)で表される化合物が、ホウ酸トリス(トリメチルシリル)(TMSB)又はリン酸トリス(トリメチルシリル)である、請求項1〜9の何れか1項に記載の非水系電解液。
【請求項12】
前記(B)を0.01〜5質量%含有する、請求項1〜11の何れか1項に記載の非水系電解液。
【請求項13】
電解質、非水系溶媒、前記(A)及び前記(B)のほかに、不飽和環状カーボネート及びフッ素化環状カーボネートからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項1〜12の何れか1項に記載の非水系電解液。
【請求項14】
炭素を負極活物質として含む非水系電解液二次電池用である、請求項1〜13の何れか1項に記載の非水系電解液。
【請求項15】
金属イオンを吸蔵・放出しうる正極及び負極、並びに請求項1〜14の何れか1項に記載の非水系電解液を備えることを特徴とする、非水系電解液二次電池。
【請求項16】
炭素を負極活物質として含む請求項15に記載の非水系電解液二次電池であって、前記負極活物質が、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトル法における1580cm-1のピーク強度に対する1360cm-1のピーク強度の比として定義されるラマンR値が、0.1以上である炭素質材料を少なくとも1種を含有する、非水系電解液二次電池。

【公開番号】特開2012−182130(P2012−182130A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−26184(P2012−26184)
【出願日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】