説明

二次電池負極集電体用圧延銅箔、それを用いたリチウムイオン二次電池用負極材及びリチウムイオン二次電池

【課題】充放電を繰り返してもクラックや破断が抑制される二次電池負極集電体用圧延銅箔、Liイオン二次電池用負極材及びLiイオン二次電池を提供する。
【解決手段】結晶金属組織の測定点aに電子線照射して得られた結晶方位と、測定点aの周囲200nm離間した隣接測定点に電子線照射し得られた結晶方位の方位角度差平均値が0.4°未満である測定点aを中心とし、測定点aと各辺の距離が100nmである正六角形の面積A、面積Aの合計を面積ATとし、結晶金属組織の測定点bに電子線照射して得られた結晶方位と、測定点bの周囲200nm離間した隣接測定点に電子線照射して得られた結晶方位の方位角度差平均値が0.4°以上2.0°未満である測定点bを中心とし、測定点bと各辺の距離が100nmである正六角形の面積Bとし、面積Bの合計を面積BTとし、面積BT/面積AT×100(%)<20(%)を満たす二次電池負極集電体用圧延銅箔。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池負極集電体用圧延銅箔、それを用いたリチウムイオン二次電池用負極材及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池はエネルギー密度が高く、比較的高い電圧を得ることができるという特徴を有し、ノートパソコン、ビデオカメラ、デジタルカメラ、携帯電話等の小型電子機器に多用されている。また、リチウムイオン二次電池は、電気自動車や一般家庭の分散配置型電源といった大型機器の電源としても利用が始められており、他の二次電池と比較して軽量でエネルギー密度が高いことから、各種の電源を必要とする機器で広く使用されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の電極体は一般に、巻回構造又は各電極を積層されたスタック構造を有している。リチウムイオン二次電池の正極は、アルミニウム箔製の集電体とその表面に設けられたLiCoO2、LiNiO2及びLiMn24等のリチウム複合酸化物を材料とする正極活物質から構成され、負極は銅箔製の集電体とその表面に設けられたカーボン等を材料とする負極活物質から構成されるのが一般的である。
【0004】
ところで、電極体を巻回する構造の電池では、充放電に伴う活物質の膨張、収縮により、特に曲率半径が小さくなる巻回構造の内周部分近傍に応力が集中することで、集電体にクラックが生じたり、破断しやすく、電池のサイクル特性を劣化させる原因となる。このような不具合を回避する方法としては、負極集電体である銅箔の伸びを2〜15%に調整することで、破断を防止する方法が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−208149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、伸びの大きい銅箔を負極集電体に用いても、充放電によって銅箔にクラックや破断が発生する場合があることが判明した。詳細に調査した結果、充放電によって活物質が膨張、収縮することにより、集電体である銅箔が繰返しの応力集中を受けることで、疲労により転移セルを形成し、この転移セルが繰返しの応力負荷による疲労の進行に伴って回転することで、結晶粒内の結晶方位に微小な角度差を生じるようになり、やがて破壊に至ることが判明した。ここで、再結晶した銅箔を使用する場合はもとより、未再結晶の銅箔を使用して負極を製造する場合は、集電体である銅箔にスラリーを塗工し、これを乾燥させる熱処理工程において銅箔が再結晶し、再結晶後の銅結晶粒内は、ほぼ均一で微小な角度差もほとんどない。このように作製した負極材を電池に組み込んだ後、充放電による膨張収縮の繰返しにより、銅箔が受ける応力によって結晶方位に角度差が生じ、上記の応力集中によってクラック等が発生することが充放電性能低下の原因となっている。
【0007】
そこで、本発明は、リチウムイオン二次電池の集電体として用いられたときに、充放電を繰り返してもクラックや破断の発生が良好に抑制される二次電池負極集電体用圧延銅箔、それを用いたリチウムイオン二次電池用負極材及びリチウムイオン二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、リチウムイオン二次電池の集電体用銅箔として、再結晶焼鈍後に結晶内における結晶方位の角度差が所定の条件を満たすように制御された圧延銅箔を用いることで、充放電を繰返しても集電体のクラックや破断の発生を良好に制御することができることを見出した。
【0009】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、200℃で30分熱処理したときに、結晶の金属組織の測定点aに電子線を照射して得られた結晶方位と、前記測定点aの周囲に200nm離間して位置する複数の隣接測定点に電子線を照射して得られた結晶方位との方位角度差の平均値が0.4°未満である前記測定点aを中心とし、前記測定点aと各辺との距離がそれぞれ100nmである正六角形の面積を面積Aとし、前記面積Aの合計を面積ATとし、
結晶の金属組織の測定点bに電子線を照射して得られた結晶方位と、前記測定点bの周囲に200nm離間して位置する複数の隣接測定点に電子線を照射して得られた結晶方位との方位角度差の平均値が0.4°以上2.0°未満である前記測定点bを中心とし、前記測定点bと各辺との距離がそれぞれ100nmである正六角形の面積を面積Bとし、前記面積Bの合計を面積BTとしたときに、
面積BT/面積AT×100(%) < 20(%)
を満たす二次電池負極集電体用圧延銅箔である。
【0010】
本発明に係る二次電池負極集電体用圧延銅箔の一実施形態においては、JIS−C1100に規格するタフピッチ銅、又は、JIS−C1020に規格する無酸素銅を用いて形成されている。
【0011】
本発明に係る二次電池負極集電体用圧延銅箔の別の実施形態においては、さらにAgを10〜500質量ppm含む。
【0012】
本発明に係る二次電池負極集電体用圧延銅箔の更に別の実施形態においては、さらにSnを10〜100質量ppm含む、JIS−C1020に規格する無酸素銅を用いて形成されている。
【0013】
本発明に係る二次電池負極集電体用圧延銅箔の更に別の実施形態においては、さらにFe、In、Mg、Zn、Si、Ni、Pb、Cr及びZrよりなる群から選択される1種又は2種以上を合計で0〜0.01質量%含む。
【0014】
本発明に係る二次電池負極集電体用圧延銅箔の更に別の一実施形態においては、厚さが5〜20μmである。
【0015】
本発明は別の一側面において、本発明に係る圧延銅箔を備えたリチウムイオン二次電池用負極材である。
【0016】
本発明は更に別の一側面において、本発明の負極材を備えたリチウムイオン二次電池である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、リチウムイオン二次電池の集電体として用いられたときに、充放電を繰り返してもクラックや破断の発生が良好に抑制される二次電池負極集電体用圧延銅箔、それを用いたリチウムイオン二次電池用負極材及びリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】圧延銅箔の結晶方位の測定態様を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(圧延銅箔の組成)
二次電池負極集電体用圧延銅箔の材料としては、JIS−C1100に規格するタフピッチ銅、又は、JIS−C1020に規格する無酸素銅が好ましい。これらの組成は純銅に近いため、銅箔の導電率が低下せず、集電体に適する。銅箔に含まれる酸素濃度は、タフピッチ銅の場合は0.01〜0.02質量%、無酸素銅の場合は0.001質量%以下である。
さらに、Agを500質量ppm以下含んでもよく、Snを100質量ppm以下含んでもよい。銅箔にAg又はSnを添加すると、仕上げ圧延後の材料強度が高くなり、材料の取り扱い性が良好となるものの、Agの添加量が500質量ppm、Snの添加量が100質量ppmをそれぞれ超えると、導電率が低下すると共に再結晶温度が上昇し、銅合金の表面酸化を抑えつつ再結晶焼鈍することが困難、あるいは負極材の製造工程で、活物質塗工後の乾燥時に集電体である銅箔が再結晶し難くなる。従って、Agの添加量は500質量ppm以下、Snの添加量は100質量ppm以下がそれぞれ好ましい。なお、AgとSnの添加量の下限は特に限定されないが、通常、合計10ppm以上である。また、AgとSnを同時に添加しても良い。
また、AgやSnを過剰に添加した場合と同様に、銅中の不純物であるFe、In、Mg、Zn、Si、Ni、Pb、Cr及びZrにつき、これらの元素が合計で0.01質量%を超えると、導電率が低下すると共に再結晶温度が上昇してしまうため、これら元素の合計につき0.01質量%以下とするのが好ましい。
ここで、AgはCuよりも酸化しにくいので、タフピッチ銅および無酸素銅のどちらの溶湯中でも添加可能である。ただし、酸素濃度が500質量ppmを超えると酸化銅粒子が増大し、電池の充放電サイクル試験における銅箔の亀裂発生の起点となるなどの悪影響が考えられるため、500質量ppm以下に調整することが好ましい。
また、SnはCuよりも酸化しやすいので、銅箔中で酸化物を形成して電池の充放電サイクル試験における亀裂発生の起点となるなどの悪影響が考えられるため、無酸素銅の溶湯中に添加するのが一般的である。
なお、本明細書において用語「銅箔」を単独で用いたときには銅合金箔も含むものとし、「タフピッチ銅及び無酸素銅」を単独で用いたときにはタフピッチ銅及び無酸素銅をベースとした銅合金箔を含むものとする。
【0020】
(圧延銅箔の厚さ)
本発明に用いることのできる圧延銅箔の厚さとしては、5〜20μmが好ましい。銅箔の厚さが5μm未満であると銅箔のハンドリングが悪くなるため、5μm以上が好ましい。箔が厚くなる場合、電池の単位重量あたりのエネルギー密度が低下し、さらに材料のコストも上昇するため、20μm以下が好ましい。
【0021】
(結晶方位制御)
本発明の圧延銅箔は、リチウムイオン二次電池用負極材用の集電体である銅箔を再結晶させた状態、例えば、銅箔が充分再結晶する条件である200℃で30分熱処理したときに、異なる測定点における結晶方位の方位角度差が下記に示す所定の条件となるように制御されている。当該方位角度差に関する条件について具体的に説明する。
まず、結晶の金属組織の測定点aを決定する。この測定点aは、電子線を照射して得られた結晶方位と、測定点aの周囲に200nm離間して位置する6点の隣接測定点に電子線を照射して得られた結晶方位との方位角度差の平均値が0.4°未満である。また、結晶の金属組織の測定点bを決定する。この測定点bは、電子線を照射して得られた結晶方位と、測定点bの周囲に200nm離間して位置する6点の隣接測定点に電子線を照射して得られた結晶方位との方位角度差の平均値が0.4°以上2.0°未満である。なお、測定点と隣接測定点の結晶方位との方位角度差が2.0°以上である隣接測定点は結晶粒界であると判定し、上記方位角度差の平均値の算出においては考慮しなかった。そのため、例えば6点の隣接測定点の内、2点が結晶粒界であると判定された場合、測定点に電子線を照射して得られた結晶方位と結晶粒界以外の残りの4点の隣接測定点の結晶方位との方位角度差の平均値が、測定点に電子線を照射して得られた結晶方位と隣接測定点に電子線を照射して得られた結晶方位との方位角度差の平均値となる。
本発明の圧延銅箔は、200℃で30分熱処理したときに、測定点aを中心とし、測定点aと各辺との距離がそれぞれ100nmである正六角形の面積Aとし、前記面積Aの合計面積ATとし、測定点bを中心とし、測定点bと各辺の距離がそれぞれ100nmである正六角形の面積を面積Bとし、前記面積Bの合計を面積BTとしたときに
面積BT/面積AT×100(%) < 20(%)
を満たす。
【0022】
図1に、本発明の圧延銅箔の結晶方位の測定態様を表す模式図を示す。まず測定点を決定する。図1では、測定点a又はbを、No.1(以下、測定点1という)と記載している。また、測定点1を中心とし、測定点1と各辺との距離がそれぞれ100nmである正六角形を決定する。隣接測定点(測定点2〜7)は、この測定点1を中心にして、周囲に200nm離間して位置する。そして、測定点1〜7について電子線を照射して得られた結晶方位を測定し、測定点1と、測定点2〜7の方位角度差をそれぞれ求める。このようにして求めた方位角度差の平均値が0.4°未満であるとき、その測定点1を測定点aとし、測定点aを中心とする正六角形の面積を面積Aとする。また、方位角度差の平均値が0.4°以上2.0°未満であるとき、その測定点1を測定点bとし、測定点bを中心とする正六角形の面積を面積Bとする。
【0023】
さらに、これらの隣接測定点(測定点2〜7)について、測定点1と同様に、それぞれを中心として各辺との距離がそれぞれ100nmである正六角形を決定する。このように正六角形を順に決定していくと、図1に示すように互いに接し合う複数の正六角形で銅箔の金属組織が埋められていく。そして、各測定点についても上述と同様にして測定点aかbかを判定し、面積A又はBを求める。このようにして銅箔の測定面全体を測定することで得られた各測定点における面積Aの合計を面積ATとし、各測定点における面積Bの合計を面積BTとしたとき、面積BT/面積AT×100(%)<20(%)を満たしている、すなわち、面積ATに対する面積BTが20%未満となっている。疲労前の圧延銅箔において、結晶方位の方位角度差の平均値が0.4°以上2.0°未満である領域の面積が、0.4°未満である領域の面積よりも小さければ小さいほど、耐疲労特性が良好となることを発明者は見出している。この点、本発明の圧延銅箔はこのような構成により0.4°以上2.0°未満である領域の面積BTが0.4°未満である領域の面積ATに対して20%未満と小さいため、良好な耐疲労特性を有している。面積BTは、より好ましくは面積ATに対して15%未満である。
【0024】
上述の結晶方位の測定は、EBSP(Electron BackScattering Pattern)のいわゆるKAM(Kernel Average Misorientation)値で200nmステップによるものが挙げられる。方位角度差が2°以上ある場所は結晶粒界としたため省いている。KAM値はEBSPを測定するステップ間隔により大きく変化するが、ステップ間隔を短くしていくと徐々に変化しなくなり、本発明の圧延銅箔では200nm以下であればほぼ一定の値となる。このため、200nmステップで測定したKAM値を用いることができる。
【0025】
(リチウムイオン二次電池用負極材及びリチウムイオン二次電池)
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材は、上述の本発明の圧延銅箔を材料とした負極集電体と、その集電体の表面に設けられた負極活物質とを備えている。負極活物質は、例えばカーボン等を主材料とするものを用いることができるが、特に限定されず、リチウムを吸蔵・放出する性質を有するものであればよい。負極集電体の表面に負極活物質を設ける方法としては、公知の方法を用いることが可能である。例えば、一般的な活物質、バインダー及び溶媒(水系バインダーではさらに増粘剤を加える)との混合物からなるスラリーを集電体上に塗布、乾燥する方法に加えて、スパッタリング、蒸着、CVDなどの真空成膜技術、鍍金、ゾルゲル法のような化学的成膜技術、インクジェット、グラビア印刷、スクリーン印刷、スピンコートなどの塗布技術などの多様な手法を採用することができる。
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極と、本発明の負極材と、これらの間に介在する多孔質ポリエチレンフィルム等で形成されたセパレータとで構成される電極群を有しており、電極群には、リチウムイオン伝導性を有する電解質が含浸されている。本発明のリチウムイオン二次電池についても、本発明の負極材を用いて公知の方法で作製することができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0027】
(実施例1〜20、比較例1〜6)
タフピッチ銅あるいは無酸素銅に表1に記載の元素を添加して作製したインゴットを熱間圧延で厚さ7mmの板に加工し、表面研削で酸化物を取り除いた後、冷間圧延、焼鈍、酸洗を繰り返して、厚さ1.0mmにした。この後、表1記載の厚さまでの冷間圧延を各パスの平均加工度が10%以下となるように表1に記載の条件で冷間圧延を行って加工した。また、0.1mm以下の冷間圧延で1パスの加工度が10%を超えた場合、そのパスの後に80〜120℃で焼鈍した後に次のパスに移った。ここで、「パス」とは、一対のロール間に材料を通過させて所望の厚みに仕上げる操作を示す。例えば、「1パス目」とは、上記の操作で所望の厚みに仕上げる操作における1回目の操作を示す。
なお、各パスの平均加工度は、下記式のように、各パスの加工度の合計をパス回数で除した値とした。
各パスの平均加工度(%)=(1パス目加工度(%)+2パス目加工度(%)+…+最終パス加工度(%))/(パス回数)
仕上げ圧延後、脱脂した銅箔を負極集電体として使用した。なお、実施例15〜18では、銅箔を非酸化性雰囲気中で180℃で60分焼鈍して予め再結晶させた後、これを集電体として用いた。
【0028】
[面積BT/面積AT]
得られた銅箔を、下記の負極材作製後に、活物質が塗工されていない部分を切り出し、電子顕微鏡JEOL FE−SEMを用い、TSL社製の解析ソフトを用いてEBSPをとってKAM値を算出した。これによって銅箔表面の500μm×500μmの範囲を測定し、当該測定面における上述の面積AT及び面積BTを求め、それらを用いて面積ATに対する面積BTの割合を算出した。
【0029】
[充放電サイクル寿命]
得られた銅箔を負極集電体に用い、定格容量が1Ahの18650サイズの円筒電池型リチウムイオン二次電池を以下の手順で作成し、充放電サイクル寿命を測定した。
負極活物質として平均粒径15μmの天然黒鉛、バインダーとしてPVDFを重量比92:8の比率でNMP(N−メチル−2−ピロリドン)に分散させてスラリーを調整した。このスラリーを銅箔上に塗布後、90℃で30分間乾燥させ、更に120℃で10分乾燥させた。これを銅箔の片面あたり2回繰返し、銅箔両面に負極活物質層を形成した。更に、加圧プレスにより、活物質の密度1.4g/cm3、活物質の厚み80μmの電極を形成した。また、水分を充分蒸発させる目的で、真空中にて200℃で30分間、負極材を乾燥した。
正極活物質としてコバルト酸リチウム(LiCoO2)、バインダーとしてPVDF、導電助剤としてアセチレンブラックを重量比92:4:4の比率でNMPに分散させてスラリーを調整した。このスラリーを厚み20μmのアルミ箔上に塗布後、120℃で30分乾燥させた。これをアルミ箔の片面あたり2回繰返し、アルミ箔両面に正極活物質層を形成した。さらに、加圧プレスにより、活物質の密度3.2g/cm3、活物質の厚み75μmの電極を作製した。
以上のように作製した正極と負極の間に、厚さ20μmの多孔質ポリエチレンフィルムからなるセパレータを介在させた状態で巻回し、電池ケースに収納した。
上記電池ケースの蓋に、正極の電極リードを接続した後、溶媒としてエチレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比2:3、電解質として1mol/LのLiPF6を溶解した非水電解液を電池ケース内に注液し、電池缶の蓋をかしめて封口して円筒型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0030】
作製した18650サイズの円筒型電池につき、25℃の環境下で充電と放電のサイクルを繰返し、容量維持率を調べた。2回目の充放電を初期容量とし、初期容量に対して放電容量が80%以下に低下するまでの充放電サイクル数につき、100回未満を「×」、100〜300回を「△」、300回を超えたものを「○」としてサイクル特性を評価した。サイクル寿命の評価が○、△であれば実用上問題はない。
充放電条件は、1A定電流で4.2Vまで充電してから4.2Vの定電流で、充電時間が2時間となるまでとし、放電は1Aの定電流で3.0Vまでとした。
【0031】
得られた結果を表1に示す。なお、表1の組成において、「OFC」及び「TPC」は、それぞれ無酸素銅(JIS−C1020)及びタフピッチ銅(JIS−C1100)を示し、例えば「Ag100ppmTPC」は、タフピッチ銅にAgを100重量ppm添加したものを示す。




















【0032】
【表1】

【0033】
(評価)
実施例1〜14、19、20は、いずれも面積BT/面積ATが20%未満であり、電池のサイクル寿命が良好であった。
実施例15〜18は、負極集電体作製前に、予め再結晶焼鈍した銅箔を使用しているが、いずれについても負極材作製後の面積BT/面積ATが20%未満であり、電池のサイクル寿命が良好であった。
比較例1、2は、厚さ0.1mm以下の圧延時の平均加工度が10%を超えており、さらに、圧延時に1パスの加工度が10%を超えたときに焼鈍を実施していないため、面積BT/面積ATが20%を超えており、電池のサイクル寿命が悪かった。
比較例3は、厚さ0.1mm以下の圧延時の平均加工度が10%以下となっているが、圧延時に1パスの加工度が10%を超えたときに焼鈍を実施していないため、面積BT/面積ATが20%を超えており、電池のサイクル寿命が悪かった。
比較例4は、圧延時に1パスの加工度が10%を超えたときに焼鈍を実施しているが、厚さ0.1mm以下の圧延時の平均加工度が10%を超えているため、面積BT/面積ATが20%を超えており、電池のサイクル寿命が悪かった。
比較例5は、Sn濃度が100質量ppmを超えており、負極の電極作製工程で充分に再結晶しなかったため、面積BT/ATが20%を超えており、電池のサイクル寿命が悪かった。
比較例6は、Ag濃度が500質量ppmを超えており、負極の電極作製工程で充分に再結晶しなかったため、面積BT/ATが20%を超えており、電池のサイクル寿命が悪かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
200℃で30分熱処理したときに、結晶の金属組織の測定点aに電子線を照射して得られた結晶方位と、前記測定点aの周囲に200nm離間して位置する複数の隣接測定点に電子線を照射して得られた結晶方位との方位角度差の平均値が0.4°未満である前記測定点aを中心とし、前記測定点aと各辺との距離がそれぞれ100nmである正六角形の面積を面積Aとし、前記面積Aの合計を面積ATとし、
結晶の金属組織の測定点bに電子線を照射して得られた結晶方位と、前記測定点bの周囲に200nm離間して位置する複数の隣接測定点に電子線を照射して得られた結晶方位との方位角度差の平均値が0.4°以上2.0°未満である前記測定点bを中心とし、前記測定点bと各辺との距離がそれぞれ100nmである正六角形の面積を面積Bとし、前記面積Bの合計を面積BTとしたときに、
面積BT/面積AT×100(%) < 20(%)
を満たす二次電池負極集電体用圧延銅箔。
【請求項2】
JIS−C1100に規格するタフピッチ銅、又は、JIS−C1020に規格する無酸素銅を用いて形成された請求項1に記載の二次電池負極集電体用圧延銅箔。
【請求項3】
Agを10〜500質量ppm含む請求項2に記載の二次電池負極集電体用圧延銅箔。
【請求項4】
さらにSnを10〜100質量ppm含む、JIS−C1020に規格する無酸素銅を用いて形成された請求項1又は3に記載の二次電池負極集電体用圧延銅箔。
【請求項5】
さらにFe、In、Mg、Zn、Si、Ni、Pb、Cr及びZrよりなる群から選択される1種又は2種以上を合計で0〜0.01質量%含む請求項2〜4のいずれかに記載の二次電池負極集電体用圧延銅箔。
【請求項6】
厚さが5〜20μmである請求項1〜5のいずれかに記載の二次電池負極集電体用圧延銅箔。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の圧延銅箔を備えたリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項8】
請求項7に記載の負極材を備えたリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2013−54866(P2013−54866A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191090(P2011−191090)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】