説明

二段階編出し筒状編地およびその編成方法

【課題】 編出しの部分で外部に対しては閉じていて、内部に対しては連続するような、中空の空間を有する二段階編出し筒状編地およびその編成方法を提供する。
【解決手段】 前側筒状編地3および後側筒状編地4は、それぞれ筒状の内部に中空の空間を有する。編出し部2は、外側編出し部2aと内側編出し部2bとが周回しているので、編出し部2を挟む前側筒状編地3および後側筒状編地4の中空の空間は連続している。編終り部5も、伏せ目処理で、外側編地3a,4aと内側編地3b,4bとを分離し、それぞれを閉じる。前側筒状編地3内の中空の空間と、後側筒状編地4内の中空の空間とが、編出し部2と編終り部5との両方で連続し、閉じた環状の中空空間が形成される。環状の中空空間には、塞がっている部分がなく、クッション材や断熱材、保温材、充填材、綿などを空気流とともに均質に注入することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前後に針床を有する横編機で編成可能な二段階編出し筒状編地およびその編成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、前後に針床を有する横編機には、編出し装置も備えられ、編地の編出しも自動的に行うことが可能にされている(たとえば、特許文献1参照。)。前後の針床を使用すると、横編機では、編糸を周回させて、筒状編地を編成することもできる(たとえば、特許文献2参照。)。特許文献2には、編出しを前後の針床でそれぞれ編成する前編地と後編地とに対して二箇所で行い、各編出し部に続く編地の編み始めと編み終りの編地端部を管状に形成するパイピングと呼ばれる編地端縁の処理で、四層の筒状編地を形成する方法も開示されている。
【0003】
前後に針床を有する横編機では、筒状編地を内側と外側との二層に形成することもできる(たとえば、特許文献3および特許文献4参照。)。特許文献3には、内側と外側とを裏返して使用可能なリバーシブル編地として、編み終りの伏せ目処理を、内側と外側とで分離して行う技術が開示されている。特許文献4には、内側の筒状編地を、前後の針床に編糸を周回させて編成し、外側の筒状編地を、一端を開いたC字状に編糸を折返しながら編成し、内側の筒状編地の編成と干渉しないタイミングで閉じることを繰返す編成方法が開示されている。
【特許文献1】特開平2−210046号公報
【特許文献2】特開平8−144160号公報
【特許文献3】特開2004−204398号公報
【特許文献4】特開2006−188778号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2〜4に開示されるような二重の筒状編地でも、特許文献1のような一般的な編出し技術を適用するだけでは、各筒状編地の編出しの位置関係が平行となって、編出しが横に並ぶだけである。特許文献2に開示される筒状編地は、それぞれ独立した空間を形成するので、編出しを共通に行うことはできない。特許文献3や特許文献4に開示される二重の筒状編地の内側と外側との間に形成される隙間は、編出しの部分で外部に対して開いている。内側の筒状編地と外側の筒状編地との編出しを共通にすれば、筒状編地の間に形成される空間が編出しの部分で外部に対して閉じるようにすることができるけれども、空間自体も編出しの部分が終端になって、内部では連続しない。すなわち、二重の筒状編地の内側の編地と外側の編地との間に空間が形成されても、編出しの部分で外部に対して閉じていて、しかも内部に対しては連続するような空間が形成されない。編出しの部分が外部に対して開いていると、内部の空間に、充填物を留めておくことができない。内部の空間が連続していないと、たとえばクッション材などを均等に充填することの障害となる。また、編出しの部分を避けてクッション材などを充填することができても、編出しの部分にはクッション材が存在しなくなるので、部分的にクッション性が損われてしまう。
【0005】
本発明の目的は、内側の編地と外側の編地との間に、編出しの部分で外部に対しては閉じていて、内部に対しては連続するような、中空の空間を有する二段階編出し筒状編地およびその編成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前後に針床を有する横編機で、内側の編地と外側の編地との間に隙間を有する筒状編地として編成され、
内側の編地および外側の編地は、二回に分けて行う編出しの処理部分を共通の編糸で繋げる二段階の編出しで、編幅の端部を除く中間部分または編幅の全体が共通の編糸の除去で分離する状態で編出され、
内側の編地と外側の編地との間は、共通の編糸の除去で分離する部分も含めて連続する中空の空間となっていることを特徴とする二段階編出し筒状編地である。
【0007】
また本発明で、前記内側の編地と前記外側の編地とは、前後の針床を使用する周回編成でコース方向の両端でも連結されて筒状に形成され、
内側の編地と外側の編地とで筒状に形成される編地は、編出しの部分からウエール方向が相互に逆方向に延びる二つの筒状の編地として編成され、
二つの筒状の編地は、ウエール方向の終端で、内側の編地同士と外側の編地同士とが相互に接合されて、二重の筒の形状を形成し、
二重の筒の形状は、軸線方向が内側の編地および外側の編地のコース方向に平行であることを特徴とする。
【0008】
また本発明では、前記中空の空間内に、充填材を含むことを特徴とする。
【0009】
さらに本発明は、前後に対向して配置される少なくとも一対の針床を有し、前後の針床の少なくとも一方が左右にラッキング可能で、前後の針床間での目移しが可能な横編機で筒状編地を編成する方法であって、
少なくとも二種の編糸を使用して、二重の筒の形状を形成する二種の編地を並行して編成し、
二重の筒の内側の編地と外側の編地との間に、編出しで分離している部分も含めて連続する中空の空間を形成するに際し、
編出しを、以下のステップを含む二段階で行うことを特徴とする二段階編出し筒状編地の編成方法である。
(1)二重の筒の編地を前後の針床間の歯口で引下げるために必要な捨て編地を編成するステップ、
(2)捨て編地の最終コースの任意の編目に、外側の編地の編出しを行うステップ、
(3)捨て編地の最終コースの編目のうち、外側の編地の編出しで未使用であった編目に対し、内側の編地の編出しを行うステップ。
【0010】
また本発明で、前記二種の編糸は、前記二段階の編出しの部分で接合しておき、
各編糸を前後の針床に周回させて形成される二つの筒状の編地を、編出し部分からウエール方向が相互に異なる方向に延びるように繰り返して編成し、筒状の編地内に、ウエール方向の両側に延びる中空の空間を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、二段階編出し筒状編地は、二回に分けて行う編出しの処理部分を共通の編糸で繋げる二段階の編出しで形成される。共通の編糸を除去すれば、編出し部分は、編幅の端部を除く中間部分または編幅の全体が分離し、内側の編地と外側の編地との間に、連続する中空の空間が形成される。形成される中空の空間は、外側の編地の編出し部分でも外部に対して閉じているので、広範囲に利用可能となり、中空の空間の有効性を高めることができる。
【0012】
また本発明によれば、横編機で、内側の編地と外側の編地とで筒状に形成される編地は、編出しの部分からウエール方向が相互に逆方向に延びる二つの筒状の編地として編成される。二つの筒状の編地は、ウエール方向の終端で、内側の編地同士と外側の編地同士とが相互に接合される。二つの筒状の編地によって形成される二重の筒は、周方向がウエール方向となって延びにくくなり、サポータなどとして好ましい特性を持たせることができる。二重の筒は、ウエール方向で環状に連結するので、環状の径を、横編機の針床の幅などの制限を受けず、自由に大きくすることができる。
【0013】
また本発明によれば、中空の空間内に、たとえばクッション材や断熱材、保温材などの充填材を含むので、クッション性、断熱性、保温性などを強化することができる。
【0014】
さらに本発明によれば、前後に針床を有する横編機で筒状編地を編成する際に、捨て編地を編成し、捨て編地の最終コースの編目から、外側の編地の編出しと、内側の編地の編出しとを、二つのステップで二回に分けて行う。二段階の編出しの部分は、編成後に捨て編地を除去すれば、内側の編地と外側の編地との編出しの部分を分離することができる。二段階の編出しに対して、少なくとも二種の編糸を使用して、少なくとも二つの筒状編地を並行して編成するので、全体としての筒状編地の編出しを、外部に対しては閉じていて、内部に対しては連続するように行うことができる。筒状編地内に中空部を形成するので、中空部が編出し部でも内部に対して連続するように編成することができ、中空部を有効に利用することができる。
【0015】
また本発明によれば、二種の編糸は、二段階の編出しの部分で接合しておく。各編糸を使用する周回編成を、相互に異なる方向に延びるように繰り返して、ウエール方向の両側に延びる中空の空間を形成するので、全体として一本の二重筒状の編地とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、本発明の実施の一形態としての二段階編出し筒状編地1の概略的な構成を示す。(a)は外観を斜視して示し、(b)は前後に針床を有する横編機で編成している途中の状態を示す。
【0017】
(a)に示すように、二段階編出し筒状編地1は、編出し部2から前側筒状編地3と後側筒状編地4との両方が編出され、前側筒状編地3と後側筒状編地4とは編終り部5で連結される。二段階編出し筒状編地1では、編出し部2、前側筒状編地3、編終り部5および後側筒状編地4が環状につながり、全体的に二重の筒によるパイプ状となる。この二重筒状のパイプ形状は、横編地としての前側筒状編地3および後側筒状編地4のコース方向3x,4xに平行な軸線1aを有し、軸線1aの両端が開口部6,7となる。なお、前側筒状編地3および後側筒状編地4の前後は、前後に針床を有する横編機での針床の前後方向に関連するけれども、後述するように、前側筒状編地3も後側筒状編地4も、ともに前後の針床の両方を使用して編成される。
【0018】
(b)に示すように、編出し部2に続く前側筒状編地3と後側筒状編地4とは、ともに筒状に編成される。編出し部2では、(a)に示すパイプ状の形状の外側となる外側編出し部2aと、内側となる内側編出し部2bとが周回して形成される。前側筒状編地3は、外側編出し部2aにウエール方向3yで続く外側編地3aと、内側編出し部2bにウエール方向3yで続く内側編地3bとが、コース方向3xで周回するように編成される。前側筒状編地3の外側編地3aは前針床、内側編地3bは後針床でそれぞれ編成され、この間に後側筒状編地4は後針床の編針に係止して保持する。後側筒状編地4は、外側編出し部2aにウエール方向4yで続く外側編地4aと、内側編出し部2bにウエール方向4yで続く内側編地4bとが、コース方向4xで周回するように編成される。後側筒状編地4の外側編地4aは後針床、内側編地4bは前針床でそれぞれ編成され、この間に前側筒状編地3は前針床の編針に係止して保持する。
【0019】
前側筒状編地3および後側筒状編地4は、それぞれ筒状の内部の隙間として中空の空間を有する。編出し部2は、外側編出し部2aと内側編出し部2bとが周回しているので、編出し部2を挟む前側筒状編地3および後側筒状編地4の中空の空間は連続している。(a)に示す編終り部5も、前述の特許文献2に開示されている伏せ目処理の技術を適用すれば、外側と内側とが分離されている状態で、前側筒状編地3と後側筒状編地4とを連結することができる。(a)に示す二段階編出し筒状編地1では、前側筒状編地3内の中空の空間と、後側筒状編地4内の中空の空間とが、編出し部2と編終り部5との両方で連続し、二段階編出し筒状編地1の内部には、閉じた環状の空間が形成されている。環状の空間内部には、塞がっている部分がなく、クッション材や断熱材、保温材などの充填材、たとえば綿などを空気流とともに均質に注入することができる。注入は、たとえば編終り部5の伏せ目処理を、一部を残して終了させて形成する開口から行うことができる。開口は、充填材の注入後に閉じればよい。また、編終り部5の伏せ目処理は全部終了させ、前側筒状編地3または後側筒状編地4などの編地の編目を広げて注入用のノズルを挿入し、ノズルから充填材を注入することもできる。
【0020】
また、二段階編出し筒状編地1は、内部には充填材などを注入しない状態でも、たとえばサポータなどとして利用することができる。開口部6,7間に腕や脚を挿入して装着すると、前側筒状編地3や後側筒状編地4のウエール方向3y,4yが全体としての筒形状に対する周方向となるので、延びにくくなり、装着部を充分に押さえて支持することができる。さらに、全体の筒形状に対する周長は、編成のコース数に応じて自在に延ばすことができる。また、編出し部2や編終り部5での前側筒状編地3と後側筒状編地4との接合では継ぎ目が生じないので、二段階編出し筒状編地1を無端のベルトとしても利用することができる。前側筒状編地3と後側筒状編地4とは、外側編地3a,4aと内側編地3b,4bとでそれぞれ表裏が二重に構成されているので、編地としての癖が相殺され、形状安定性が高いベルトを形成することができる。
【0021】
図2は、本発明の実施の他の形態としての二段階編出し筒状編地11の概略的な構成を示す。二段階編出し筒状編地11は、図1(b)に示すような前側筒状編地3と後側筒状編地4の二つの筒状編地を編成して、先端を接合する前に、編成する筒状編地カット部12で分岐するように編成する。すなわち、二つの編糸を使用する前側筒状編地3と後側筒状編地4とを編成し、さらに少なくとも二つの編糸を増やして、四つの筒状編地13a,13b,14a,14bを編成する。前後針床間で、相対する二つの筒状編地13a,14a;13b,14bの接合を二組の編終り部15a,15bでそれぞれ行う。開口部6,7の下側を閉じれば、下側を収納部とし、筒状編地13a,14aと筒状編地13b,14bとを取手部とするバッグのような形態とすることができる。また、開口部6,7を閉じないで、長尺物を挿入し、中空の空間にクッション材を充填し、筒状編地13a,14aと筒状編地13b,14bとを取手部として、長尺物の運搬に使用することもできる。
【0022】
図3および図4は、図1(b)に示すような編出し部2から前側筒状編地3と後側筒状編地4とを四枚ベッドの横編機で編成する方法の概要を示す。左側に記載しているa1からa19は、編成の手順を示す。ただし、一つの編成ステップは、必ずしも一つの編成コースに対応する訳ではなく、複数の編成コースに対応する場合もある。また、編成ステップ間で、編成コースが省略されている場合もある。
【0023】
中間の升目は、針床に設けられる編針の位置を示す。編針の数は、編幅としての必要に応じて適宜設定される。針床は、前後にそれぞれ二段ずつ設けられる。後針床の下段をBD、上段をBU、前針床の上段をFU、下段をFDで、それぞれ示す。丸印は編目を示す。V印は、掛け目を示す。太い線は、新たに形成される編目または掛け目を示す。丸印の内部の斜線は、右上がりと左上がりとの方向の違いで、給糸部材を区別する。ただし、二種の編糸は、材質や色は同一とすることが好ましい。斜線の実線と破線との種別は、編目の編成が前針床で行われるか後針床で行われるかの区別を示す。上下方向の矢印は、その位置の編針に係止していた編目を、目移しで矢印の示す方向に移動させていることを示す。
【0024】
右側に示される左右方向の矢印は、キャリッジの走行方向を示す。Kはキャリッジに搭載されるカムシステムを使用してニット編成を行うことを示す。三角形は、キャリッジに連行されて編針に編糸を供給するヤーンフィーダなどの給糸部材の停止位置を示す。上下方向の矢印は、キャリッジに搭載されるカムシステムを使用して行う目移しの方向を示す。Eは、カムシステムを使用しないで、単にキャリッジのみを走行させることを示す。
【0025】
ステップa1では、FDとBDとに、捨て糸編成を行う。ステップa2では、BDの編目をFDに目移しして、FDの各編針でそれぞれ編目を重ねる。ステップa3では、FDで捨て糸の編目を重ねた編針に、キャリッジを往復走行させ、抜き糸で編目を編成する。
【0026】
なお、ステップa1からステップa3までで編成される編地は、編糸として捨て糸と抜き糸とを使用し、図1および図2に示す二段階編出し筒状編地1,11からは編成後に除去されるけれども、二段階編出しを行うためには必要な共通の捨て編地の一例である。二段階の編出しを行うと、内側の編地の編出しと外側の編地の編出しとが、歯口に対して上下の関係に重なるように形成される。歯口で上下二段に形成される編出しに対して、共通の捨て編地は、下部側は当然のことながら、上部側に対しても、歯口から編み下げるために作用し、編出しに連なる編地の編成を円滑に進行させることができる。同様な捨て編地は、内側となる編地および外側となる編地を、二回に分けて編出し、共通の編糸で繋げることが可能であれば、他の方法で編成することもできる。
【0027】
ステップa4では、後側筒状編地4を編成する編糸で、抜き糸の編目に対して一目飛ばしで外側編地4aの編出しを行う。FDに抜き糸の編目を残す編針の位置に対向するBDの編針には掛け目を行う。この状態を、前針床と後針床とが対向する歯口上から見れば、編糸はジグザグ状に掛け渡される。この編出しは、二段階の編出しのうちの一段階目となる。
【0028】
ステップa5では、前側筒状編地3を編成する編糸で、ステップa4で一目飛ばしの編出しを行ったFDの編針に編目を形成する。外側編地4a,3aの編目形成で二種の編糸を接合し、図1(b)に示す外側編出し部2aを形成する。ステップa6では、後側筒状編地4を編成する編糸で、ステップa4での編出しに続き、BDに形成した掛け目を編目にするための編成を行う。
【0029】
ステップa7では、二段階の編出しのうち、二段目の準備工程として、FDに残っている抜き糸の編目をBUに目移しする。ステップa4と共通の抜き糸を使うことで、歯口での編地の引下げなどを共通に行うことができ、効率の良い編出しが可能となる。
【0030】
ステップa8では、二段階の編出しのうちの二段階目を行う。二段階目の編出しでは、前側筒状編地3を編成する編糸を、FUの編針へ掛け目し、BUに移動させた抜き糸の編目へ編目形成することを交互に繰返してジグザグ状に掛け渡す。BUでは、前側筒状編地3の内側編地3bの編出しを行うことになる。ステップa9では、ステップa8でFUに形成した掛け目を編目にするための編成を行う。ステップa10で、FUの編目をBDに、BUの編目をFDにそれぞれ目移しする。FDには前側筒状編地3の外側編地3aの編目と内側編地3bの編目とが交互に係止されるので、前側筒状編地3が保持されることになる。BDには後側筒状編地4の外側編地4aの編目と前側筒状編地3を編成する編糸で形成される編目とが交互に係止される状態となる。
【0031】
なお、ステップa10以降では、前側筒状編地3を係止する状態を、針床の各枡目に縦方向の波形線を施して示す。また、後側筒状編地4を係止する状態を、針床の各枡目に横方向の波形線を施して示す。
【0032】
ステップa11では、FDの編針に一本おきに係止されている前側筒状編地3の内側編地3bの編目をBUに目移しし、後側筒状編地4を編成する編糸を使用して編目を形成する。図1(b)に示す内側編出し部2bへ、後側筒状編地4を編成する編糸を結合することになる。ステップa12では、後側筒状編地4を編成する編糸によるBUの編目を、目移しでFDに移動させる。次に、BDの編針に一本おきに係止されている前側筒状編地3を編成する編糸で形成される編目をFUに目移しする。FUに目移しした編目には、後側筒状編地4を編成する編糸を使用して、内側編地4bとなる編目を形成し、図1(b)に示す内側編出し部2bへ結合される。
【0033】
ステップa13では、後側筒状編地4を編成する編糸で、BDの編針で編目を係止する編針に対して編目を形成し、外側編地4aを編成する。ステップa14では、FUの編針で係止している後側筒状編地4の内側編地4bの編目をBDに目移しする。次に、FDの編針で係止している後側筒状編地4を編成する編糸による編目を、BUに目移しする。BUに目移しした編目に対しては、前側筒状編地3を編成する編糸を使用して編目を形成し、後側筒状編地4を編成する編糸との接合を行う。これは、図1(b)に示す内側編出し部2bに続く、前側筒状編地3の内側編地3bの編成となる。ステップa15では、前側筒状編地3を編成する編糸を使用し、FDで外側編地3aを係止する編針に対して編目を形成し、外側編地3aの新たな編目を形成する。
【0034】
ステップa16では、BUの編針で係止する前側筒状編地3の内側編地3bの編目をFDに目移しする。前側筒状編地3の外側編地3aの編目と内側編地3bの編目とがFDの編針に交互に係止される状態となる。また、後側筒状編地4の外側編地4aの編目と内側編地4bの編目とがFDの編針に交互に係止される状態となる。ステップa17では、BDの編針に係止されている後側筒状編地4の内側編地4bの編目をFUに目移しする。次に、後側筒状編地4を編成する編糸を、BDとFUとで周回させて、外側編地4aと内側編地4bとを筒状に編成する。ステップa18では、FUの編針に係止されている後側筒状編地4の内側編地4bの編目をBDに目移しする。次に、FDの編針に係止されている前側筒状編地3の内側編地3bの編目を、BUに目移しする。さらに、前側筒状編地3の編成に使用する編糸を、BUとFDとで周回させて、内側編地3bと外側編地3aとを筒状に編成する。ステップa19では、BUの編針に係止されている前側筒状編地3の内側編地3bの編目を、目移しでFDに戻す。ステップa19で、FDでは前側筒状編地3、BDでは後側筒状編地4をそれぞれ係止する状態は、ステップ16の状態と同様になる。
【0035】
以下、ステップa16からステップa19の編成手順を繰返すと、後側筒状編地4と前側筒状編地3とを、交互に一コースずつ筒状に編成する図1(b)に示す状態となる。前側筒状編地3と後側筒状編地4との編成を繰返すと、二段階編出し筒状編地1の元になる中空編地を、ウエール方向に両側で延すことになる。必要な長さまで編成したら、伏せ目処理で両端をつないで、編終り部5を形成し、環状の二段階編出し筒状編地1を得ることができる。
【0036】
図5は、本発明の実施のさらに他の形態としての編成方法で形成する二段階編出し筒状編地21の概略的な構成を示す。(a)は二段階編出し筒状編地21の外観を示し、(b)は編出し部22の平面構成を示し、(c)は編出し部22の側面構成を示す。二段階編出し筒状編地21は、外側筒状編地23と内側筒状編地24とで形成される。二段階編出し筒状編地21のパイプ形状は、軸線方向21aが外側筒状編地23および内側筒状編地24のウエール方向23y,24yと平行になり、コース方向23x,24xがそれぞれ外周および内周の方向となる点では、特許文献3および特許文献4と同様である。
二段階編出し筒状編地21の外側筒状編地23と内側筒状編地24は、(b)に示すように、前側編地23a,24aと後側編地23b,24bとを、編出し部22でそれぞれ接合している。(c)に示すように、外側筒状編地23の編出し部23cと内側筒状編地24の編出し部24cとは上下に分離している。外側筒状編地23と内側筒状編地24とを、編終り部25では閉じないようにすれば、内部に中空部を形成し、編出し部22側では閉じ、編終り部25側には開口部26が形成される二段階編出し筒状編地21が得られる。
【0037】
なお、このような二段階編出し筒状編地21は、編み終り部25側も伏せ目処理などで閉じることができる。内側筒状編地24と外側筒状編地23とを編み終り部25でそれぞれ閉じれば、内側筒状編地24で囲まれる閉じた空間と、内側筒状編地24および外側筒状編地23との間の閉じた空間とが形成される。
【0038】
図6および図7は、図5(a)に示すような二段階編出し筒状編地21を編成する方法の概要を示す。編成状態の記載は、図3および図4と同様である。ただし、図3および図4では、前側筒状編地3と後側筒状編地4とで使用する編糸を異なる給糸部材から供給するようにしている代りに、図6および図7では、外側筒状編地23と内側筒状編地24とで使用する編糸を異なる給糸部材から供給させる。
【0039】
ステップb1からステップb4までは、基本的に、図3のステップa1からステップa4までと同様である。すなわち、ステップb4では、二段階の編出しのうちの一段階目が行われる。ステップb5では、外側筒状編地23を編成する編糸を使用してのステップb4の編出しに続く編成で、BDで編目を係止している編針に編目を形成する。ステップb6では、さらにBDで編目を係止している編針に、編目を形成する。ステップb5およびステップb6は、通常、袋回しと呼ばれる処理であり、編出し部22の解れ止めが行われる。ステップb7では、FDに残っている抜き糸の編目を、BUに目移しする。
【0040】
ステップb8では、二段階編出しの二段階目として、編糸を、内側筒状編地24を編成する編糸に切換え、FUの空き針とBUに目移しした抜き糸の編目を係止する編針とに、ジグザグ状に掛け渡して内側筒状編地24の編出しを行う。ステップb9では、編出しに続く編成で、FUで掛け目を係止する編針に編目を形成するように、袋回しを行う。ステップb10では、BUで編目を係止する編針に対して編目を形成し、内側筒状編地24を編成する袋回しを行う。
【0041】
このようにして、外側筒状編地23の編出しと、内側筒状編地24の編出しとを、二段階に行うことができる。外側筒状編地23を編成する編糸と、内側筒状編地24を編成する編糸とは、直接は接続されないで、抜き糸を介してのみ接続されている。二段階編出し筒状編地21の編成終了後、抜き糸を除去すれば、外側筒状編地23の編出し部と、内側筒状編地24の編出し部とを、分離することができる。
【0042】
ステップb11で、FUの編目をBDに、BUの編目をFDに、それぞれ目移しする。FDには外側筒状編地23および内側筒状編地24の前側編地23a,24aの編目が交互に係止される。BDには外側筒状編地23および内側筒状編地24の後側編地23b,24bの編目が交互に係止される。
【0043】
ステップb12では、BDの編針で係止される内側筒状編地24の後側編地24bの編目を、FUの編針に目移しする。次に、BDで外側筒状編地23の後側編地23bの編目を係止する編針に対して、外側筒状編地23を編成する編糸を使用して編目を形成する。後側編地23bの端部、たとえば右端の編目よりも外部には、FDで係止する前側編地23aの右端の編目に重ね目するための掛け目を形成する。ステップb13では、BDで編目を係止する編針に対して、引返し編みでさらに編目を形成する。次に、FUの編目をBDに戻し、FDで内側筒状編地24の前側編地24aの編目を係止する編針からBUへの目移しを行う。ステップb14では、FDの編針に係止される外側筒状編地23の前側編地23aの編目に対して編目を形成する。ステップb15では、FDで編目を係止する編針に対して、さらに編目を形成する。編目形成後、BUに移動していた内側筒状編地24の前側編地24aの編目をFDに戻すように、目移しを行う。
【0044】
ステップb12からステップb15までの手順で、外側筒状編地23の後側編地23bと前側編地23aとを、左端を中心とする引返し編みでC字状に編成することができる。
【0045】
ステップb16では、BDで内側筒状編地24の後側編地24bを係止する編針に、内側筒状編地24を編成する編糸を使用して編目を形成する。ステップb17では、FDで内側筒状編地24の前側編地24aを係止する編針に編目を形成する。内側筒状編地24は、BDとFDとに編糸を周回させて筒状に編成される。ステップb18に示すように、給糸部材が左側に抜けているタイミングで、外側筒状編地23の右側を閉じる処理を行う。まず後針床を前針床に対して左に一ピッチ分振り、ステップb12で形成した掛け目に続くステップb13の編目を、FDで係止されている外側筒状編地23の前側編地23aの右端に重ねるように移動させる。
【0046】
以下、ステップb12からステップb18を繰返すことで、外側筒状編地23と内側筒状編地24とをウエール方向に延すことができる。なお、ステップb12からステップb15までの外側筒状編地23の編成コース数と、ステップb16からステップb18までの内側筒状編地24の編成コース数とは、同数になるように調整する。これによって、ステップb19に示す状態の編成を、続けることができる。
【0047】
なお、図3および図4と、図6および図7とで、本発明の二段階編出し筒状編地1,21は、それぞれ四枚ベッド横編機で編成する方法の概要で説明している。しかしながら、たとえば、前後に一対の針床が対向する二枚ベッド横編機でも、針抜き編成で、四枚ベッド横編機と同樣な編成が可能となる。二段階の編出しでは、下部側の編出しの上に上部側の編出しが重なるように形成される。二段階の編出しの前に編成する共通の捨て編地は、下部側の編出しに連なる編地とともに、上部側の編出しに連なる編地をも歯口から編み下げるように形成すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施の一形態としての二段階編出し筒状編地1の概略的な外観構成と編成途中の状態とを示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の他の形態としての二段階編出し筒状編地11の概略的な外観構成を示す斜視図である。
【図3】図1(b)に示すような編出し部2から前側筒状編地3と後側筒状編地4とを四枚ベッドの横編機で編成する方法の概要を示す編成図である。
【図4】図1(b)に示すような編出し部2から前側筒状編地3と後側筒状編地4とを四枚ベッドの横編機で編成する方法の概要を示す編成図である。
【図5】本発明の実施のさらに他の形態としての編成方法で形成する二段階編出し筒状編地21の概略的な構成を示す斜視図および編出し部の構成を示す平面図および側面図である。
【図6】図5(a)に示すような二段階編出し筒状編地21を編成する方法の概要を示す編成図である。
【図7】図5(a)に示すような二段階編出し筒状編地21を編成する方法の概要を示す編成図である。
【符号の説明】
【0049】
1,11,21 二段階編出し筒状編地
2,22,23c,24c 編出し部
3 前側筒状編地
4 後側筒状編地
5,25 編終り部
6,7,26 開口部
23 外側筒状編地
24 内側筒状編地

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後に針床を有する横編機で、内側の編地と外側の編地との間に隙間を有する筒状編地として編成され、
内側の編地および外側の編地は、二回に分けて行う編出しの処理部分を共通の編糸で繋げる二段階の編出しで、編幅の端部を除く中間部分または編幅の全体が共通の編糸の除去で分離する状態で編出され、
内側の編地と外側の編地との間は、共通の編糸の除去で分離する部分も含めて連続する中空の空間となっていることを特徴とする二段階編出し筒状編地。
【請求項2】
前記内側の編地と前記外側の編地とは、前後の針床を使用する周回編成でコース方向の両端でも連結されて筒状に形成され、
内側の編地と外側の編地とで筒状に形成される編地は、編出しの部分からウエール方向が相互に逆方向に延びる二つの筒状の編地として編成され、
二つの筒状の編地は、ウエール方向の終端で、内側の編地同士と外側の編地同士とが相互に接合されて、二重の筒の形状を形成し、
二重の筒の形状は、軸線方向が内側の編地および外側の編地のコース方向に平行であることを特徴とする請求項1記載の二段階編出し筒状編地。
【請求項3】
前記中空の空間内に、充填材を含むことを特徴とする請求項1または2記載の二段階編出し筒状編地。
【請求項4】
前後に対向して配置される少なくとも一対の針床を有し、前後の針床の少なくとも一方が左右にラッキング可能で、前後の針床間での目移しが可能な横編機で筒状編地を編成する方法であって、
少なくとも二種の編糸を使用して、二重の筒の形状を形成する二種の編地を並行して編成し、
二重の筒の内側の編地と外側の編地との間に、編出しで分離している部分も含めて連続する中空の空間を形成するに際し、
編出しを、以下のステップを含む二段階で行うことを特徴とする二段階編出し筒状編地の編成方法;
(1)二重の筒の編地を前後の針床間の歯口で引下げるために必要な捨て編地を編成するステップ、
(2)捨て編地の最終コースの任意の編目に、外側の編地の編出しを行うステップ、
(3)捨て編地の最終コースの編目のうち、外側の編地の編出しで未使用であった編目に対し、内側の編地の編出しを行うステップ。
【請求項5】
前記二種の編糸は、前記二段階の編出しの部分で接合しておき、
各編糸を前後の針床に周回させて形成される二つの筒状の編地を、編出し部分からウエール方向が相互に異なる方向に延びるように繰り返して編成し、筒状の編地内に、ウエール方向の両側に延びる中空の空間を形成することを特徴とする請求項4記載の二段階編出し筒状編地の編成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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