説明

二液分別塗布型速硬化性水性接着剤及び該水性接着剤を用いた接着方法

【課題】短時間接着が可能であると同時に、耐煮沸繰り返し接着性能に極めて優れた、新規な接着剤及び接着方法を提供する。
【解決手段】ポリビニルアルコールを含有する水性樹脂エマルジョン混合物(a1)100質量部に、イソシアネート化合物(a2)を3〜50質量部を混合したA液と、第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を分子内に有し、分子量が300以上である水溶性ポリアミン化合物(b1)を0.5〜30質量%含有する水溶液であるB液とからなる二液分別塗布型速硬化性水性接着剤であって、接着方法として、上記A液を、上記B液を予め塗布しておいた被着材に塗布し、他の被着材を接触、圧締することにより接着するか、または上記A液を表面に塗布した被着材と上記B液を塗布した被着材とを両被着材のA液又はB液の塗布面同士を接触、圧締することにより接着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコールを含有する水性樹脂エマルジョンとイソシアネート化合物とを含有するA液と、第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を分子内に有し、分子量が300以上である水溶性ポリアミン化合物を含有するB液(プライマー組成物)とからなる二液分別塗布型速硬化性水性接着剤及び該水性接着剤を用いた接着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
戸建て住宅等に用いられる壁パネルを工場生産する場合、さまざまなサイズのパネルを製造することになる。これらを効率よく製造するには短時間で接着する接着剤が必要不可欠である。
また、構造用部材として用いられる壁パネルや集成材の接着においては、JIS K 6806第1種1号の耐煮沸繰り返し接着性試験に合格することが求められる。しかし、このJIS K 6806第1種1号の耐煮沸繰り返し接着性試験は非常に苛酷な試験であり(試験条件は後述する)、水性接着剤を用いてこの試験に合格することは非常に難しい課題であった。
【0003】
従来、短時間接着性と高耐久性能の二つの性能を併せ持つ接着剤としては、改質イソバン(イミド化変性した無水マレイン酸―イソブチレン樹脂)水溶液に架橋剤を混合した第一液と、グリオキザールを含有する第二液とからなる二液分別塗布型の接着剤が知られている(例えば特許文献1)。しかし、この接着剤はグリオキザールの毒性が欠点としてあげられる。
【0004】
JIS K 6806第1種1号の耐煮沸繰り返し接着性試験に合格する水性接着剤としては、一般に「水性ビニルウレタン系接着剤」と呼ばれる接着剤が知られている。
従来の水性ビニルウレタン系接着剤はエチレン−酢酸ビニルエマルジョン、アクリルエマルジョン、酢酸ビニルアクリルエマルジョン、アクリルスチレンエマルジョン、SBRラテックス等の樹脂エマルジョンを成膜成分とし、それにポリビニルアルコール(PVA)水溶液を配合し硬化剤であるイソシアネート化合物を混合して使用する接着系である。PVAの水酸基とイソシアネート化合物のイソシアネート基が反応して三次元架橋することにより高度の耐久性をもつ接着が得られると考えられている。
【0005】
一方、アセトアセチル化ポリビニルアルコール(以下「AA化PVA」と表記することがある)とヒドラジド化合物とが接触すると、短時間でゲル化する性質を利用した短時間接着性を持つ接着剤も知られている(例えば、特許文献2〜4)。しかし、この接着剤は耐水接着性を付与するために金属塩等を混合しているが、上述のような構造用部材である壁パネルにおいては、その耐久性(特に煮沸耐水性能)は十分ではなかった。
【0006】
例えば、水性ビニルウレタン系接着剤にAA化PVAを使用し分別塗布型のシステムを採ることにより高速接着性(初期立ち上がり接着強度に優れた)の性質を付与する試みは特許文献2に開示されている。この中ではヒドラジド化合物をプライマーとして使用している。
この特許の実施例に記載される接着剤においては、JIS K 6852で規定される耐水接着性(冷水3時間浸漬後測定)の試験を行っているが、より高度の耐水性能であるJIS K 6806第1種1号の耐煮沸繰り返し接着性試験には到底合格するものではなかった。従って、構造用部材に用いる接着剤としては不十分な性能であり、未だ満足のできるものではなかった。
【0007】
また、特許文献4においては、樹脂エマルジョン及びAA化PVAを含有する第1剤とヒドラジド誘導体を含有する第2剤から成る速硬化接着剤であって、前記第1剤における前記樹脂エマルジョンの樹脂分と、前記AA化PVAの樹脂分との合計が45〜65質量%の範囲にあると共に、前記AA化PVAの重合度が1000〜2500の範囲にあることを特徴とする速硬化接着剤が開示される。また、前記第1剤にイソシアネート化合物を添加することも開示されている。
しかしながら、イソシアネート化合物を添加した実施例に記載される接着剤においてすら、より高度の耐水性能であるJIS K 6806第1種1号の耐煮沸繰り返し接着性試験には合格するものではなかった。つまり、ここに示される接着剤は初期接着の高速化を主目的としており、最終接着の耐久性までは考慮されておらず、初期接着と耐久性の両立は出来ていないことから、構造用部材に用いる接着剤としては不十分な性能であり、未だ満足のできるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平3−24511号公報
【特許文献2】特公平1−60192号公報
【特許文献3】特許第2939324号公報
【特許文献4】特許第3181048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、短時間接着が可能であると同時に、構造用部材で必要とされる高耐水性能、具体的にはJIS K 6806第1種1号の耐煮沸繰り返し接着性試験をクリアする、二液分別塗布型で硬化速度の極めて速い水性接着剤及び該水性接着剤を用いた接着方法を開示するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決する接着剤の開発を鋭意検討してきた。その結果、第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を分子内に有し、分子量が300以上である水溶性ポリアミン化合物を含有する水溶液をプライマーに使用することで、驚くべきことに初期の接着性を維持しつつも耐水性が大きく向上することを見出した。なお、本発明においては、貼り合わせ直後を「初期」と表記する。本発明者らはこれらの知見をもとに本発明を完成させるに至った。すなわち本発明は次の第1〜6の発明から構成される。
【0011】
すなわち、第1の発明は、ポリビニルアルコールを含有する水性樹脂エマルジョン混合物(a1)100質量部に、イソシアネート化合物(a2)を3〜50質量部を混合したA液と、第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を分子内に有し、分子量が300以上である水溶性ポリアミン化合物(b1)を0.5〜30質量%含有する水溶液であるB液とからなる二液分別塗布型速硬化性水性接着剤に関するものである。
プライマー(B液)として、特定の構造を有する水溶性ポリアミン化合物を使用することで、初期の接着性を維持しつつも、JIS K 6806第1種1号煮沸繰り返し耐水試験に合格する耐水性を有する接着剤を得ることができる。
【0012】
第2の発明は、上記水性樹脂エマルジョン混合物(a1)が、少なくともアセトアセチル化ポリビニルアルコール(以下「AA化PVA」と表記することがある)を含有することを特徴とする、第1の発明に係る二液分別塗布型速硬化性水性接着剤に関するものである。
水性樹脂エマルジョン混合物が、AA化PVAを含有すると、上記水溶性ポリアミン化合物によって短時間でゲル化させることができるとともに、高い耐煮沸繰り返し接着強度を発現させることができる。
【0013】
第3の発明は、上記イソシアネート化合物(a2)が、芳香族イソシアネートであることを特徴とする、第1又は第2のいずれかの発明に係る二液分別塗布型速硬化性水性接着剤に関するものである。
イソシアネート化合物が、芳香族イソシアネートであると、より短い時間で最終接着強度及び耐煮沸繰り返し接着強度を発現させることができる。
【0014】
第4の発明は、上記水溶性ポリアミン化合物(b1)が、アリルアミン系化合物及び/又はジアリルアミン系化合物から選ばれる一種以上の化合物の重合体であることを特徴とする、第1〜3のいずれかの発明に係る二液分別塗布型速硬化性水性接着剤に関するものである。
水溶性ポリアミン化合物が、アリルアミン系化合物及び/又はジアリルアミン系化合物から選ばれる一種以上の化合物の重合体であると、充分な初期接着性と極めて高い耐煮沸繰り返し接着強度を発現させることができる。
【0015】
第5の発明は、(x1)被着材に対して、B液を塗布する工程、(x2)当該被着材のB液塗布面に、さらにA液を重ねて塗布する工程、(x3)工程x1及びx2によりB液及びA液が塗布された被着材塗布面に、他の被着材を接触、圧締することにより接着する工程、を含む第1〜4のいずれかの発明に係る二液分別塗布型速硬化性水性接着剤を用いた接着方法に関するものである。
【0016】
また、第6の発明は、(y1)被着材に対して、B液を塗布する工程、(y2)他方の被着材に対して、A液を塗布する工程、(y3)工程y1で得られたB液塗布面と、工程y2で得られたA液塗布面とを接触、圧締することにより接着する工程、を含む第1〜4のいずれかの発明に係る二液分別塗布型速硬化性水性接着剤を用いた接着方法に関するものである。
これらの接着方法を採用すると、本発明の二液分別塗布型速硬化性水性接着剤の性能を最大限に引き出すことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る二液分別塗布型速硬化性水性接着剤又は該水性接着剤を用いた接着方法は、常態での接着性能は勿論のこと、短時間接着が可能であると同時に、耐煮沸繰り返し接着性能に極めて優れるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例示にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0019】
本発明における「A液」は、ポリビニルアルコールを含有する水性樹脂エマルジョン混合物(a1)と、イソシアネート化合物(a2)とを混合したものである。以下、各成分の詳細を説明する。
【0020】
[ポリビニルアルコールを含有する水性樹脂エマルジョン混合物(a1)について]
本発明における水性樹脂エマルジョン混合物(a1)は、ポリビニルアルコール(以下「PVA」と表記することがある)を含有している。PVAのヒドロキシル基と後述するイソシアネート化合物(a2)が有するイソシアネート基とが反応して架橋することで、高い耐煮沸繰り返し接着強度が発現する。
【0021】
[水性樹脂エマルジョンについて]
上記水性樹脂エマルジョン混合物(a1)中に含有される水性樹脂エマルジョンとしては、酢酸ビニルエマルジョン、酢酸ビニルアクリルエマルジョン、エチレン−酢酸ビニルエマルジョン、アクリルエマルジョン、アクリルスチレンエマルジョン、SBR(スチレン−ブタジエン共重合体)ラテックス、クロロプレンラテックス、天然ゴムラテックス等を用いることができる。コストと接着性能の観点から用途により使いわけられるが、エチレン−酢酸ビニルエマルジョンとアクリルスチレンエマルジョンの併用がコストと性能のバランス上好ましい。
【0022】
[ポリビニルアルコールについて]
上記水性樹脂エマルジョン混合物(a1)中に含有されるポリビニルアルコールは、イソシアネート化合物と架橋することで高い耐煮沸繰り返し接着強度を発現させる。そのためポリビニルアルコールの配合量は、水性樹脂エマルジョン混合物(a1)中の含有率(水等も含めた有り姿全体の量に占める割合)が0.5〜30質量%であることが好ましく、1〜25質量%であることがさらに好ましく、2〜20質量%であることが特に好ましい。ポリビニルアルコールの含有率が0.5質量%未満であると耐煮沸繰り返し接着強度が充分に発現しないことがあり、30質量%を超えると粘度が高くなりすぎることがあるため好ましくない。
【0023】
また、本発明においては、PVAとしてAA化PVAを使用、又は併用することができる。AA化PVAについては、特許文献2で製造方法などを説明している。又、高重合度のPVAは接着強度が向上するが水溶液粘度が上昇して流動性が低くなり取り扱い難くなる。ケン化度については高いケン化度の方が耐水接着強度は強くなるが、低温になると流動性が低くなり取り扱い難くなる。そのため、重合度500〜2500、ケン化度約85〜96%のPVAをアセトアセチル化したAA化PVAが好ましい。
このようなAA化PVAの市販品としては、ゴーセファイマーZ210、Z220、Z320(日本合成化学工業社製商品名)等があり、これらを使用できる。
【0024】
[イソシアネート化合物(a2)について]
本発明におけるイソシアネート化合物(a2)としては、芳香族、脂肪族、脂環族又は芳香脂肪族イソシアネート化合物を用いることができる。ここで、芳香脂肪族イソシアネート化合物とは、芳香族環とイソシアネート基とがアルキル基を介して結合した一連の化合物をいう。
【0025】
従来用いられてきたヒドラジド化合物の水溶液をプライマーに使用しAA化PVAを含有する水性樹脂エマルジョンを主剤に使用すると、MDI系に代表される芳香族イソシアネート硬化剤では、主剤の樹脂分を高くしAA化PVAの含有量を高くしても、十分な耐煮沸繰り返し接着性能が発現しなかった(例えば、特許文献4の段落0016〜0017を参照)。これは芳香族イソシアネートの反応性が高いため、水と素早く反応してしまい三次元架橋に十分な量のイソシアネートが残らないためと推察される。
しかし、本発明においては、プライマーとして後述する水溶性ポリアミン化合物(b1)を含有する水溶液を使用することで、芳香族を含むイソシアネート化合物を硬化剤に使用することができる。水溶性ポリアミン化合物(a2)が有する第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基は、イソシアネート基との反応性が高く架橋しやすいため、これを含む水溶液をプライマーに使用すると、木材にしみ込んだ第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基とイソシアネート基とが反応し、さらにイソシアネート基は、エマルジョン混合物(a1)中のPVAが有するヒドロキシル基とも反応して三次元架橋することによって最終の耐煮沸繰り返し強さが充分高くなると推察されるのである。
【0026】
イソシアネート化合物(a2)の配合量は、性能とコストのバランスから水性樹脂エマルジョン混合物(a1)100質量部に対して3〜50質量部が好ましく、5〜25質量部がさらに好ましく、10〜20質量部が特に好ましい。ここで、水性樹脂エマルジョン混合物(a1)の量は、混合物全体の量(水等も含めた有り姿全体の量)である。イソシアネート化合物(a2)の配合量が3質量部未満であると充分な耐煮沸繰り返し接着強度が発現しないことがあり、50質量部を超えるとコストが高いので実用的でない。
【0027】
本発明で用いることができるイソシアネート化合物(a2)としては、具体的には、
芳香族イソシアネート化合物:m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−又は2,6−トリレンジイソシアネート、4,4′−トルイジンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルエーテルジイソシアネート等、
脂肪族イソシアネート化合物:トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2−プロピレンジイソシアネート、1,2−ブチレンジイソシアネート、2,3−ブチレンジイソシアネート、1,3−ブチレンジイソシアネート、2,4,4−又は2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,6−ジイソシアネートメチルカプロエート等、
脂環族ジイソシアネート化合物:1,3−シクロペンテンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、4,4′−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート{1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン}、イソホロンジイソシアネート等、
芳香脂肪族イソシアネート化合物:1,3−若しくは1,4−キシリレンジイソシアネート又はそれらの混合物、ω,ω′−ジイソシアネート−1,4−ジエチルベンゼン、1,3−若しくは1,4−ビス(1−イソシアネート−1−メチルエチル)ベンゼン又はそれらの混合物等、
芳香族ポリイソシアネート化合物:トリフェニルメタン−4,4′,4″−トリイソシアネート、1,3,5−トリイソシアネートベンゼン、2,4,6−トリイソシアネートトルエン、4,4′−ジフェニルメタン−2,2′,5,5′−テトライソシアネート等。
その他のポリイソシアネート化合物:フェニルジイソチオシアネート等硫黄原子を含むジイソシアネート類等、
脂肪族ポリイソシアネート化合物:リジンエステルトリイソシアネート、1,4,8−トリイソシアネートオクタン、1,6,11−トリイソシアネートウンデカン、1,8−ジイソシアネート−4−イソシアネートメチルオクタン、1,3,6−トリイソシアネートヘキサン、2,5,7−トリメチル−1,8−ジイソシアネート−5−イソシアネートメチルオクタン等、
脂環式ポリイソシアネート化合物:1,3,5−トリイソシアネートシクロヘキサン、1,3,5−トリメチルイソシアネートシクロヘキサン、3−イソシアネート−3,3,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、2−(3−イソシアネートプロピル)−2,5−ジ(イソシアネートメチル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2−(3−イソシアネートプロピル)−2,6−ジ(イソシアネートメチル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、5−(2−イソシアネートエチル)−2−イソシアネートメチル−3−(3−イソシアネートプロピル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、6−(2−イソシアネートエチル)−2−イソシアネートメチル−3−(3−イソシアネートプロピル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、5−(2−イソシアネートエチル)−2−イソシアネートメチル−2−(3−イソシアネートプロピル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、6−(2−イソシアネートエチル)−2−(3−イソシアネートプロピル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタン等、
芳香脂肪族ポリイソシアネート化合物:1,3,5−トリイソシアネートメチルベンゼン等、
が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。上記イソシアネート化合物は、使用目的や求められる性能に応じて、適宜単独あるいは複数混合して用いればよい。また、物性調整等のため、上に例示した多量体(例えば、二量体、三量体)や、モノイソシアネート化合物を併用してもよい。
このなかでも芳香族イソシアネート化合物が、反応性の高さ、コストの点から特に好ましい。さらにイソシアネート基の反応性を向上させる3級アミン等の各種塩基性触媒、有機スズ化合物、金属塩化合物等の触媒を適宜用いることができる。
【0028】
[B液について]
本発明における「B液」は、後述する水溶性ポリアミン化合物(b1)の水溶液である。なお、以下では「B液」のことを「プライマー」と表記することもある。
水溶性ポリアミン化合物(b1)は、その分子内に第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有し、分子量は300以上のものである。
第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基はイソシアネート基との反応性が高く、A液中のイソシアネート化合物(a2)と反応して架橋することによって初期接着性が発現する。さらにアミノ基とイソシアネート基、及びPVAが有するヒドロキシル基とイソシアネート基とが三次元架橋することによって、耐煮沸繰り返し接着強度にも寄与していると推察される。また、水溶性ポリアミン化合物(b1)は揮発性、安全性の面から分子量300以上であるのが好ましい。
なお、ここでいう「水溶性」とは、後述するB液を調製するのに必要な量、すなわち水に対して少なくとも0.5質量%以上溶解させることができればよい。また、本発明におけるB液は、求められる性能に応じてpHを適宜調整し、使用してもよい。
【0029】
水溶性ポリアミン化合物(b1)の水溶液中の濃度としては、0.5〜30質量%が好ましく、1〜20質量%がさらに好ましく、2〜15質量%が特に好ましく、3〜10質量%が最も好ましい。アミン化合物の濃度が0.5質量%未満であると初期接着性や耐煮沸繰り返し接着強度が充分に発現せず、求められる塗布量に合わせるための複数回の重ね塗りが必要となる場合があり、30質量%を超えると化合物によっては粘度が高くなり作業性が低下する場合がある。
【0030】
水溶性ポリアミン化合物(b1)としては、アリルアミン系化合物及び/又はジアリルアミン系化合物から選ばれる一種以上の化合物の重合体、アミノシラン及び/又はその縮合化合物、アミン変性ポリビニルアルコール、アミノエチル化アクリルポリマー、ポリビニルアミン、ポリアクリルアミド等の合成高分子やポリオルニチン、ポリリジン等のポリアミノ酸が知られている。これらのなかでも、アリルアミン系化合物及び/又はジアリルアミン系化合物から選ばれる一種以上の化合物の重合体であると、初期接着性、耐煮沸繰り返し接着強度の点から好ましい。
また、水溶性ポリアミン化合物(b1)は、市販品を用いてもよい。アミン変性ポリビニルアルコールの市販品としては、AGI−001L、AGI−002L(株式会社クラレ製商品名)等が、アミノエチル化アクリルポリマーの市販品としては、ポリメントNK−100PM、NK−200PM(日本触媒株式会社製商品名)等が、アリルアミン系化合物及び/又はジアリルアミン系化合物から選ばれる一種以上の化合物の重合体の市販品としては、PAA−01、PAA−03、PAA−05、PAA−08、PAA−15、PAA−15C、PAA−25、PAA−1112、PAA−HCl−01、PAA−HCl−03、PAA−HCl−05、PAA−HCl−3L,PAA−HCl−10L、PAA−SA、PAA−N5000、PAS21Cl、PAS−21、PAS−92A(日東紡績株式会社製商品名)等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。これらの中では、特に、単位質量当たりのアミノ基の濃度が高い点から、アリルアミン系化合物の重合体が好ましい。
【0031】
[二液分別塗布型速硬化性水性接着剤及びその使用方法について]
本発明における「二液分別塗布型速硬化性水性接着剤」は、二通りの使用方法が採用でき、このような使用方法で用いるのが好ましい。
予め本発明におけるB液を塗布しておいた被着材の上に本発明におけるA液を塗布し、他の被着材を接触、圧締することによって瞬時にゲル化する。これにより短時間で接着強さが発現するよう接着することができる。具体的には、(x1)被着材に対して、B液を塗布する工程、(x2)当該被着材のB液塗布面に、さらにA液を重ねて塗布する工程、(x3)工程x1及びx2によりB液及びA液が塗布された被着材塗布面に、他の被着材を接触、圧締することにより接着する工程、からなる接着方法が採用できる。
また、被着材の接着すべき両表面に各々異なる液、すなわち本発明におけるA液とB液を各々塗布しておき、これらの塗布面同士を接触させ圧締することによって瞬時にゲル化し、短時間で接着強さが発現するような水性接着剤をも指す。具体的には、(y1)被着材に対して、B液を塗布する工程、(y2)他方の被着材に対して、A液を塗布する工程、(y3)工程y1で得られたB液塗布面と、工程(y2)で得られたA液塗布面とを接触、圧締することにより接着する工程、からなる接着方法が採用できる。
上記の塗布方法のいずれも、A液の塗布量は50〜500g/mが好ましく、100〜400g/mがさらに好ましく、150〜350g/mが特に好ましい。B液の塗布量は水溶液中の不揮発分の塗布量として0.2〜20g/mが好ましく、0.5〜10g/mがさらに好ましく、1〜5g/mが特に好ましい。
【0032】
[その他の成分について]
本発明の二液分別塗布型速硬化性水性接着剤には、本発明の効果を損なわない範囲において、従来公知の化合物又は物質を配合することができる。例えば、A液にその安定性を付与するために苛性ソーダなどの塩基性物質、重亜硫酸ソーダなどの還元性物質を添加することができる。また、接着工程の作業性、コストなどの面から様々な充てん剤、例えば、炭酸カルシウム、カオリンクレーなどをA液に添加することができる。
さらに、粘度、粘性を改質するための増粘剤、また充てん剤を分散させるための分散剤、接着性を改善するための有機溶剤を添加することもできる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0034】
〔耐煮沸繰り返し接着強度試験〕
JIS K 6806に準じ、以下のように圧縮せん断接着強さ試験を行った。
[標準の試験体の作成方法]
被着材のカバ材にB液を刷毛で塗布量40g/mで塗布し、室温で30〜60分間、乾燥する。
その同じ面にA液の接着剤を塗布量250g/mで塗布した後、他のカバ材を貼り合わせ、圧力約1MPaで24時間圧締する。その後4日間、標準状態で養生する。
[標準の試験方法]
上記で得られた試験体を養生後、試験片を煮沸水中に4時間浸漬した後、60℃の空気中で20時間乾燥し、更に煮沸水中に4時間浸漬してから、室温の水中に冷めるまで浸し、濡れたままの状態で、圧縮せん断接着強さ試験を行った。
JIS K 6806第1種1号の合格条件は耐煮沸繰り返し接着強さが5.88N/mm(60kgf/cm)以上である。
【0035】
〔初期接着強度試験〕
[標準の試験体の作成方法と試験方法]
被着材のホワイトウッドにB液のプライマー組成物を刷毛で塗布量40g/mで塗布し、室温で30〜60分間、乾燥する。その同じ面にA剤を塗布量250g/mで塗布し、ラワン合板を貼り合わせ、1分間置き、その後、圧力約1MPaで2分間圧締する。その後、直ちに割裂接着強さ試験を行った。
実用条件として、初期の割裂接着強さが100N/40mm以上あれば作業上問題が少ないといえる。
【0036】
〔実施例1〕
水性樹脂エマルジョン混合物(a1)として、「ボンド CU11」(コニシ社製:アクリル−スチレン樹脂とエチレン酢酸ビニル樹脂との混合エマルジョン/PVA含有率3.4質量%)を用意した。この「ボンド CU11」100質量部に対して、イソシアネート化合物(a2)として「ルプラネートM5S」(BASF社製:クルードMDI)15質量部を混合して「A液」とした。
ビーカー中、70gの水に対して、水溶性ポリアミン化合物(b1)として、「PAA−03」(日東紡績社製:ポリアリルアミン、平均分子量:3000、20質量%水溶液)を30g溶解し、6質量%水溶液を作成してこれを「B液」とした。この構成で上記に示した標準の試験体作成と耐煮沸繰り返し強度試験、及び初期接着強度試験を行った。その結果を表1に示す。
【0037】
〔実施例2〕
ビーカー中、60gの水に対して、水溶性ポリアミン化合物(b1)として、「PAA−15C」(日東紡績社製:ポリアリルアミン/平均分子量:15000/15質量%水溶液)を40g溶解し、6質量%水溶液を作成してこれを「B液」とした。この他は実施例1と同様に試験体作成と耐煮沸繰り返し強度試験、及び初期接着強度試験を行った。その結果を表1に示す。
【0038】
〔実施例3〕
コンデンサーと撹拌装置付き1リットルフラスコにアクリル−スチレン樹脂エマルジョン(樹脂分:50.1質量%、pH:7.4、粘度:60mPa・s)600質量部を仕込んだ。その後、撹拌しながら水を150質量部添加した。さらに撹拌しつつ粉末の「ゴーセファイマーZ220」(日本合成化学工業社製:AA化PVA/重合度約1100/ケン化度90.5〜92.5%)100質量部を徐々に添加した。添加終了後、撹拌しながら徐々に加温して液温を90℃以上にした。約2時間、90℃以上で撹拌してゴーセファイマーZ220を溶解した。次に撹拌しながらエチレン酢酸ビニル樹脂エマルジョン(住友化学製、商品名「スミカフレックスS-480HQ」、樹脂分:55質量%)150質量部を混合した。その後冷却して、亜硫酸水素ナトリウム2質量部を添加し撹拌して溶解した。出来た水性樹脂エマルジョン混合物の粘度は47.7Pa・s(B型粘度計12rpm、23℃)、pHは3.4、樹脂分は47.8質量%であった。このAA化PVAを含有した水性樹脂エマルジョン混合物(a1)を「EX−1」(AA化PVA含有率10質量%)とした。
このEX−1の100質量部に対して、イソシアネート化合物(a2)として「ルプラネートM5S」(BASF社製:クルードMDI)を15質量部混合して、これを「A液」とした。
ビーカー中、70gの水に水溶性ポリアミン化合物(b1)として、「PAA−03」(日東紡績社製:ポリアリルアミン/平均分子量3000/20質量%水溶液)を30g溶解し、6質量%水溶液を作成してこれを「B液」とした。この構成で上記に示す標準の試験体作成と耐煮沸繰り返し強度試験、及び初期接着強度試験を行った。その結果を表1に示す。
【0039】
〔実施例4〕
ビーカー中、60gの水に対して、水溶性ポリアミン化合物(b1)として「PAA−15C」(日東紡績社製:ポリアリルアミン/平均分子量15000/15質量%水溶液)を40g溶解し、6質量%水溶液を作成してこれを「B液」とした。この他は実施例3と同様に試験体作成と耐煮沸繰り返し強度試験、及び初期接着強度試験を行った。その結果を表1に示す。
【0040】
〔実施例5〕
ビーカー中、82gの水に対して、水溶性ポリアミン化合物(b1)として「PAA−03」(日東紡績社製:ポリアリルアミン/平均分子量3000/20質量%水溶液)を15g、及びアジピン酸ジヒドラジドを3g溶解し、ポリアリルアミン3質量%、及びアジピン酸ジヒドラジド3質量%の混合水溶液を作成してこれを「B液」とした。この他は実施例3と同様に試験体作成と耐煮沸繰り返し強度試験、及び初期接着強度試験を行った。その結果を表1に示す。
【0041】
〔比較例1〕
実施例1と同様に「A液」を用意した。その後「B液」を使用せずに実施例1と同様に試験体作成と耐煮沸繰り返し強度試験、及び初期接着強度試験を行った。その結果を表1に示す。
【0042】
〔比較例2〕
ビーカー中、94gの水に対して、アジピン酸ジヒドラジドを6g溶解し、アジピン酸ジヒドラジド6質量%の混合水溶液を作成してこれを「B液」とした。この他は実施例1と同様に試験体作成と耐煮沸繰り返し強度試験、及び初期接着強度試験を行った。その結果を表1に示す。
【0043】
〔比較例3〕
ビーカー中、94gの水に対して、アジピン酸ジヒドラジドを6g溶解し、アジピン酸ジヒドラジド6質量%の混合水溶液を作成してこれを「B液」とした。この他は実施例3と同様に試験体作成と耐煮沸繰り返し強度試験、及び初期接着強度試験を行った。その結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に示すとおり、本発明の要件を備える実施例の接着剤は、いずれも実用上十分な初期接着性を有するとともに、JIS K 6806第1種1号の耐煮沸繰り返し接着試験、すなわち5.88N/mm以上の接着強度を満たすものであった。実施例1及び2が示す様なPVAを含有する水性樹脂エマルジョン混合物の他、実施例3及び4が示すとおりPVAに代わりAA化PVAを含有する水性樹脂エマルジョン混合物に対しても、実用上十分な初期接着性、及び耐煮沸繰り返し接着強度が発現している。さらに実施例5が示すとおり、水溶性ポリアミン化合物(b1)とアジピン酸ジヒドラジドを併用しても全く問題なく初期接着性、及び耐煮沸繰り返し接着強度が発現している。
一方、水溶性ポリアミン化合物(b1)が存在しないと、例えば比較例1が示すとおり初期接着性が発現しない。また、プライマーがアジピン酸ジヒドラジドのみであると耐煮沸繰り返し接着強度が発現しない。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係る二液分別塗布型速硬化性水性接着剤及び該水性接着剤を用いた接着方法は、短時間接着が可能であると同時に、JIS K 6806第1種1号の耐煮沸繰り返し接着強さ試験にも合格する接着剤を得ることができ、構造用部材製造用の速硬化性かつ高耐久性水性接着剤及び接着方法に特に有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコールを含有する水性樹脂エマルジョン混合物(a1)100質量部に、イソシアネート化合物(a2)を3〜50質量部を混合したA液と、
第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を分子内に有し、分子量が300以上である水溶性ポリアミン化合物(b1)を0.5〜30質量%含有する水溶液であるB液とからなる二液分別塗布型速硬化性水性接着剤。
【請求項2】
上記水性樹脂エマルジョン混合物(a1)が、少なくともアセトアセチル化ポリビニルアルコールを含有することを特徴とする、請求項1に記載の二液分別塗布型速硬化性水性接着剤。
【請求項3】
上記イソシアネート化合物(a2)が、芳香族イソシアネートであることを特徴とする、請求項1又は2のいずれか一項に記載の二液分別塗布型速硬化性水性接着剤。
【請求項4】
上記水溶性ポリアミン化合物(b1)が、アリルアミン系化合物及び/又はジアリルアミン系化合物から選ばれる一種以上の化合物の重合体であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の二液分別塗布型速硬化性水性接着剤。
【請求項5】
(x1)被着材に対して、B液を塗布する工程、
(x2)当該被着材のB液塗布面に、さらにA液を重ねて塗布する工程、
(x3)工程x1及びx2によりB液及びA液が塗布された被着材塗布面に、他の被着材を接触、圧締することにより接着する工程、
を含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の二液分別塗布型速硬化性水性接着剤を用いた接着方法。
【請求項6】
(y1)被着材に対して、B液を塗布する工程、
(y2)他方の被着材に対して、A液を塗布する工程、
(y3)工程y1で得られたB液塗布面と、工程y2で得られたA液塗布面とを接触、圧締することにより接着する工程、
を含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の二液分別塗布型速硬化性水性接着剤を用いた接着方法。


【公開番号】特開2011−162630(P2011−162630A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25529(P2010−25529)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(000105648)コニシ株式会社 (217)
【Fターム(参考)】