説明

二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法

【課題】 フィルム取り扱い性と外観に優れ、かつ優れた易引裂き性と取扱い性を有する二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】 ポリエステル樹脂を溶融押出後、冷却ロールで固化したシートをまず横方向に第1段目延伸を行い、次いで縦方向に第2段目延伸を行い、その後、少なくとも140〜200℃の温度範囲で1〜8%緩和処理を行うこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法に関し、さらに詳細には、フィルム取り扱い性や外観に優れ、かつスティック包装用途や蓋材料用途等に好適な易引裂き性と取扱い性を有する二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
引裂き性の優れたフィルムとして、透明性がよいセロハンが広く使用されてきた。しかしながら、セロハンは吸湿性を有するため特性が季節により変動し、一定の品質のものを常に供給することが困難であり、かつ厚みの不均一性に起因する加工性の悪さが欠点とされてきた。一方、ポリエチレンテレフタレートフィルムは強靱性、耐熱性、耐水性、透明性等の優れた特性の良さがある反面、引裂き性が劣るためスティック包装用途や蓋材料用途等に用いることができないという欠点があった。
【0003】
かかる欠点を解消する方法として、厚さが3〜9μmであり、かつ縦方向と横方向の破断伸度の合計が200%以下のポリエステルフィルムは易引裂き性を示すことが開示されている。(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、ポリエステルフィルムの縦方向と横方向の破断伸度の合計を190%以下に制御する方法として、縦方向に延伸し、次いで横方向に延伸して得たポリエステルフィルムの全面に微細孔を設ける方法が開示されている。(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、該方法は微細孔を設ける工程が必要なため、コストアップにつながるばかりでなく、微細孔の深さの不均一性に起因した引裂き性のバラツキが発生するという問題があった。
【特許文献1】特開2003−165174号公報
【特許文献2】特開2002−178450号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記従来技術の問題点を解消することを目的とするものである。即ち、フィルム取り扱い性と外観に優れ、かつ優れた易引裂き性と取扱い性を有する二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の発明は、ポリエステル樹脂を溶融押出後、冷却ロールで固化したシートをまず横方向に第1段目延伸を行い、次いで縦方向に第2段目延伸を行い、その後、少なくとも140〜200℃の温度範囲で1〜8%緩和処理を行うことを特徴とする厚さが3〜9μmである二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法である。
【0008】
この場合において、前記第1段目延伸としてポリエステルのガラス転移温度以上の温度で3.0〜4.5倍横方向に延伸し、前記第2段目延伸としてポリエステルのガラス転移温度以上の温度で2.5〜4.5倍縦方向に延伸することが好適である。
【0009】
さらにまた、この場合において前記フィルムの縦方向と横方向の破断伸度(TE)の合計が190%以下であることが好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリエステルフィルムの製造方法は、フィルム取り扱い性と外観に優れ、かつ優れた易引裂き性を有するため、スティック包装用途や蓋材料用途等に好適な二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法であるといえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明では、フィルムを構成するポリエステルは、エチレンテレフタレート成分を主たる構成成分とすることがフィルムの耐熱性、耐水性等を確保する点から好ましい。
【0012】
本発明では、フィルムを構成するポリエステルは、その目的を阻害しない範囲で他の共重合成分を含むことができる。使用できる他の共重合成分のうち、ジカルボン酸成分として、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸,コハク酸,アジピン酸,セバシン酸,デカンジカルボン酸,マレイン酸,フマル酸,ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、p−オキシ安息香酸等のオキシカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸が使用できる。
【0013】
また、グリコール成分として、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物,ビスフェノールSのエチレンオキサイド付加物等の芳香族グリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が使用できる。このほか少量のアミド結合、ウレタン結合、エーテル結合、カーボネート結合等を含有する化合物を含んでいてもよい。
【0014】
ポリエステルフィルムの厚さが3μm未満の場合、印刷加工および/またはラミネート加工での取扱い性が劣るため好ましくない。逆に、9μmを超える場合、引裂き性が劣るため好ましくない。
【0015】
ポリエステルフィルムの厚さが3〜9μmであっても、縦方向と横方向の破断伸度(TE)の合計が200%を越える場合、引裂き性が劣るため好ましくない。
【0016】
本発明では、二軸延伸後のポリエステルフィルムの厚さを3〜9μmとし、溶融押出して得たポリエステルシートを横方向に第1段目延伸を行い、次いで縦方向に第2段目延伸を行い、その後、少なくとも140〜200℃の温度範囲で1〜8%緩和処理を行うことにより、ポリエステルフィルムの縦方向と横方向の破断伸度(TE)の合計を190%以下とすることができる。
【0017】
さらに横方向の5%伸長強度(F5)を95MPa以上、かつ105℃での熱収縮率(HS)を0.5%以下に制御することが好ましい。
【0018】
ポリエステルフィルムの横方向の5%伸長強度(F5)が95MPa以上、かつ105℃の熱収縮率(HS)が0.5%以下とすることで、印刷加工またはドライラミネート加工での乾燥時や押出ラミネート加工時にシワが発生しにくくなるため好ましい。
【0019】
本発明では、第1段目から第2段目または第3段目の延伸の後、巾方向を一定長とした熱固定(例えば、フィルムの両端をクリップで把持して行う熱固定)を200以上の温度範囲で実施し、次いで、巾方向に緩和処理を行うが、この緩和処理では少なくとも140〜200℃の温度範囲で1〜8%緩和させることがポリエステルフィルムの横方向の5%伸長強度(F5)の低下を抑制しつつ、横方向の105℃での熱収縮率(HS)を0.5%以下の範囲に制御することができる。
【0020】
140℃未満の温度範囲で緩和処理した場合、ポリエステルフィルムの横方向の105℃での熱収縮率(HS)を0.5%以下の範囲に制御することが難しいばかりでなく、緩和率が大きい場合には、緩和処理後にポリエステルフィルムが弛み、熱固定装置に接触してポリエステルフィルムにキズが入りやすくなるため好ましくない。また緩和温度が低い場合には、緩和処理後にポリエステルフィルムが弛み、熱固定装置に接触してポリエステルフィルムにキズが入りやすいため好ましくない。
逆に、200℃を超える温度範囲で緩和処理した場合、ポリエステルフィルムの横方向の5%伸長強度(F5)を95MPa以上の範囲に制御することが難しいため好ましくない。
【0021】
また、上記温度範囲であっても緩和率が1%未満の場合、ポリエステルフィルムの横方向の105℃での熱収縮率(HS)を0.5%以下の範囲に制御することが難しいため好ましくない。逆に、緩和率が8%を超える場合、ポリエステルフィルムの横方向の105℃での熱収縮率(HS)を0.5%以下の範囲に制御できるが、5%伸長強度(F5)を95MPa以上の範囲に制御することが難しい。
【0022】
本発明では、上記緩和の効果を妨げない限り、さらに200℃を超える温度範囲での緩和処理を併用してもかまわない。
【0023】
本発明では、第1段目延伸としてポリエステルのガラス転移温度以上の温度で3.0〜4.5倍横方向に延伸し、第2段目延伸としてポリエステルのガラス転移温度以上の温度で2.5〜4.5倍縦方向に延伸することが好ましい。第1段目延伸倍率が3.0未満の場合、および/または第2段目延伸倍率が2.5未満の場合、易引裂き性二軸延伸ポリエステルフィルムの平面性が悪く、印刷加工でのピッチずれを生じやすいため好ましくない。逆に、第1段目延伸倍率が4.5倍を超える場合、および/または第2段目延伸倍率が4.5倍を超える場合、第2段目延伸でシワが発生することが多いため好ましくない。
【0024】
本発明では、第3段目延伸としてポリエステルのガラス転移温度以上の温度で1.05〜1.50倍横方向に延伸して5%伸長強度(F5)をさらに増加させることは好ましい。
【0025】
本発明では、ポリエステルフィルムの極限粘度は、0.50〜0.65dl/gであるのが好ましい。
【0026】
極限粘度が0.50dl/g未満の場合、ポリエステルフィルム製造時に破断が発生しやすくなるため好ましくない。逆に、極限粘度が0.65dl/gを超える場合、所定の製品巾への裁断工程で寸法不良が起こりやすく好ましくない。
【0027】
本発明では、巾方向の緩和処理を行った後、巻取るまでに、ポリエステルフィルムの片面または両面にコロナ処理を実施して、濡れ張力を44〜58mN/mに調整してもかまわない。
【0028】
本願発明の製造方法で得られた二軸延伸ポリエステルフィルムは、スティック包装や蓋材の構成材料として他の基材と組み合わせたり、あるいは単独で使用することができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例をもとに本発明を説明する。まず、実施例および比較例に用いた評価方法について説明する。
【0030】
(1)ポリエステルフィルムの厚さ
JIS−Z−1702に準拠して測定する。
【0031】
(2)ポリエステルフィルムの破断伸度(TE)および横方向の5%伸長強度(F5)
JIS−C−2151に準拠して測定する。
【0032】
(3)ポリエステルフィルムの横方向の105℃での熱収縮率(HS)
JIS−C−2151に準拠して測定する。
【0033】
(4)ポリエステルの極限粘度
ポリエステル0.1gをフェノール/テトラクロロエタン(容積比で3/2)の混合溶媒25ml中に溶解させ、30℃でオストワルド粘度計を用いて測定する。
【0034】
(5)ポリエステルフィルムの引裂き性
引裂く方向に20cm、その直交方向に4cmのポリエステルフィルム片を切り出す。このフィルム片の一方の短辺の中央部に長さ5mmの切りこみを入れた試料を縦方向と横方向各々10本作成する。次に、切り込みより手で引裂き、引裂き伝播端の状況が○のものを実用性ありと評価する。
○:伝播端が切り込みを入れた辺に向い合う短辺の中央部から5mm以内に到達
△:伝播端が切り込みを入れた辺に向い合う短辺の中央部から5mm以上で到達
×:伝播端が向い合う短辺に未到達
【0035】
(6)ポリエステルフィルムの取扱い性
乾燥温度を140℃に設定したドライラミネーターで80N/mの張力をかけ、120m/分で走行させたときの目視観察によるシワの発生状況が○のものを実用性ありと評価する。
○:シワなし
△:端部にシワあり
×:全面にシワあり
【0036】
(8)キズ
フィルムの両面のキズの有無を目視で確認した。
【0037】
実施例および比較例の製膜条件、フィルムの厚さ、破断伸度(TE)、5%伸長強度(F5)、105℃での熱収縮率(HS)、引裂き性、取扱い性を表1に示す。
【0038】
[実施例1]
ポリエチレンテレフタレート(極限粘度:0.58dl/g、平均粒径:1.3μmの凝集シリカを1000ppm配合)を、120℃で24時間減圧乾燥(1.3hPa)し、単軸押出機を用いて280℃で溶融させた後、45cm幅のTダイより冷却ロール(周速50m/分)上へキャストして(冷却ロール周面に対向するように設置した直径が30μmのタングステンワイヤー電極から7.2kVの電圧を印加し、0.2mAの電流を流して静電密着させて)未延伸シートを得た。該未延伸シートをテンターで予熱温度95℃、延伸温度92℃で横方向に4.0倍延伸し(第1段目延伸)、予熱温度80℃、延伸温度105℃で縦方向に4.1倍延伸し(第2段目延伸)、216℃で定長巾熱処理した後、216℃で横方向に1.0%、次いで、170℃で横方向に2.0%緩和処理して、厚さ7μmのポリエステルフィルムを得た。
本実施例の方法は、表1からわかるように、引裂き性に優れた二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法であるといえる。
【0039】
[実施例2]
第1段目延伸倍率を3.5倍とし、150℃で1.2倍の第3段目延伸を実施した以外は実施例1と同様にして厚さ7μmのポリエステルフィルムを得た。
本実施例の方法は、表1からわかるように、優れた易引裂き性二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法であるといえる。
【0040】
[実施例3]
第2段目延伸倍率を3.85とした以外は実施例1と同様にして厚さ7μmのポリエステルフィルムを得た。
本実施例の方法は、表1からわかるように、優れた易引裂き性二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法であるといえる。
【0041】
[比較例1]
実施例1と同様にして厚さ2.5μmのポリエステルフィルムを得た。
この方法は、表1からわかるように、取扱い性が劣るため、易引裂き性二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法として好ましくない。
【0042】
[比較例2]
実施例1と同様にして厚さ12μmのポリエステルフィルムを得た。
この方法は、表1からわかるように、引裂き性が劣るため、易引裂き性二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法として好ましくない。
【0043】
[比較例3]
定長巾熱処理後の緩和処理を216℃で横方向に1.0%、次いで、170℃で横方向に10.0%とした以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得ようとしたが、熱固定装置内でポリエステルフィルムが緩和処理後に弛み、熱固定装置と接触してポリエステルフィルムにキズが入った。
この方法は、易引裂き性二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法として好ましくない。
【0044】
[比較例4]
定長巾熱処理後の緩和処理を216℃で3.0%とした以外は実施例1と同様にして厚さ7μmのポリエステルフィルムを得た。
この方法は、表1からわかるように、5%伸長強度が小さく、取扱い性が劣るため、易引裂き性二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法として好ましくない。
【0045】
[比較例5]
定長巾熱処理後の緩和処理を216℃で1.0%、次いで130℃で2.0%とした以外は実施例1と同様にして厚さ7μmのポリエステルフィルムを得た。
この方法は、表1からわかるように、破断伸度と熱収縮率が大きく、引裂き性と取扱い性が劣るため、易引裂き性二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法として好ましくない。
【0046】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のポリエステルフィルムの製造方法は、フィルム取り扱い性と外観に優れ、かつ引裂き性と取扱い性に優れており、易引裂き性二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法として極めて有用であるといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂を溶融押出後、冷却ロールで固化したシートをまず横方向に第1段目延伸を行い、次いで縦方向に第2段目延伸を行い、その後、少なくとも140〜200℃の温度範囲で1〜8%緩和処理を行うことを特徴とする厚さが3〜9μmである二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法であって、前記第1段目延伸としてポリエステルのガラス転移温度以上の温度で3.0〜4.5倍横方向に延伸し、前記第2段目延伸としてポリエステルのガラス転移温度以上の温度で2.5〜4.5倍縦方向に延伸することを特徴とする二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法であって、前記フィルムの縦方向と横方向の破断伸度(TE)の合計が190%以下であることを特徴とする二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2007−283696(P2007−283696A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−115522(P2006−115522)
【出願日】平成18年4月19日(2006.4.19)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】