説明

二軸延伸熱可塑性樹脂フィルム

【課題】耐薬品性に優れ、厚みムラが少なく、引張強度が向上し、且つ加熱環境下に放置した後の変形及び反りが少ない延伸熱可塑性樹脂フィルム、即ち、表面外観、機械的特性、及び加熱寸法安定性に優れた延伸熱可塑性樹脂フィルムの提供。
【解決手段】(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂が分散相、(B)ポリフェニレンスルフィドが連続相を形成しており、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂の平均分散径が0.1〜10μmであって、長手方向の平均分散径と幅方向の平均分散径の比が1〜4であり、フィルム長手方向断面及び幅方向のフィルムの厚み方向断面における分散相の平均アスペクト比が2〜125である二軸延伸熱可塑性樹脂フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンエーテル系樹脂及びポリフェニレンスルフィドからなる二軸延伸熱可塑性樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィドのフィルムは、耐熱性、耐薬品性、電気特性および耐加水分解性に優れているため電子機器、電子部品、自動車電装系部品、発電機部品の分野において単体のフィルムや複合フィルムとして、またはこれらのフィルムを賦型した形状で利用されている。しかしながら、ポリフェニレンスルフィドはそのガラス転移温度が約90℃と低いため、90℃以上の環境下で使用されるフィルムは熱収縮しやすい問題点を有している。
【0003】
この問題点を改良するため、既に多くの提案が成されており、例えば、ポリフェニレンスルフィドよりガラス転移温度が高いポリマーをポリフェニレンスルフィドに配合したポリマーアロイが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
この文献では、ポリフェニレンスルフィド/ポリフェニレンエーテルから成り、耐熱性、成形加工性、耐衝撃性に優れる樹脂組成物が提案されており、更にはポリフェニレンスルフィド/ポリフェニレンエーテル/熱可塑性エラストマーから成り、耐熱性、難燃性、耐溶剤性、成形加工性、機械的強度および耐衝撃性に優れた樹脂組成物が提案されており、そして更にポリフェニレンスルフィド/ポリフェニレンエーテルから成り、耐衝撃性の大幅な向上、ウェルド強度の改良された樹脂組成物が提案されている。しかし、射出成形体としてはその効果を奏するものの、フィルムに成形すると、厚みムラおよび表面外観の悪化等の問題がある。
【0004】
一方、ポリフェニレンスルフィドフィルムの靭性を改良する一方法として、ポリフェニレンスルフィド中に他の熱可塑性樹脂、例えばポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルイミドを30〜300nmの範囲に超微分散させた樹脂組成物、二軸配向フィルムが提案されている(例えば、特許文献2)。しかし、上述の他の熱可塑性樹脂を30〜300nmまで微分散するのに、かなりの手間や時間が掛かり、実用的ではない。また、この樹脂組成物は溶融混練時のせん断場で一旦相溶させ、非せん断下で再度不安定状態となり相分離するいわゆるせん断場依存型相溶解・相分離による構造形成をさせており、シートやフィルムを成形する場合、その構造安定性が十分ではないことがある。
【0005】
したがって、ポリフェニレンスルフィド/ポリフェニレンエーテルから成るポリマーアロイの最適なフィルム押出成形方法、及び延伸に関する技術的な開示が成されていないのが実状であり、さらに、それらフィルムの厚みムラ、表面外観等の問題点を改良する方法に関しては何ら技術的な情報も無いのが現状である。
【0006】
【特許文献1】特開平1−213361号公報
【特許文献2】特開2006−321977号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、耐薬品性に優れ、厚みムラが少なく、引張強度が向上し、且つ加熱環境下に放置した後の変形及び反りが少ない延伸熱可塑性樹脂フィルム、即ち、表面外観、機械的特性、及び加熱寸法安定性に優れた延伸熱可塑性樹脂フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を達成する技術を鋭意検討した結果、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂と、(B)ポリフェニレンスルフィドとを含む延伸してなるフィルムであって、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂が分散相、(B)ポリフェニレンスルフィドが連続相を形成しており、分散相のポリフェニレンエーテル系樹脂の平均分散径が0.1〜10μmであり、長手方向の平均分散径と幅方向の平均分散径の比が1〜4であり、且つ、フィルム長手方向及び幅方向のフィルムの厚み方向断面において、いずれの断面における分散相の平均アスペクト比も2〜125である延伸してなることを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムが、厚みムラが少なく、引張強度が向上し、且つ加熱環境下に放置した後の変形及び反りが少ない延伸熱可塑性樹脂フィルム、即ち、表面外観、機械的特性、及び加熱寸法安定性に優れている延伸熱可塑性樹脂フィルムと成ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、以下に記載する通りの延伸熱可塑性樹脂フィルム及びその成形体に係るものである。
(1)(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂が分散相、(B)ポリフェニレンスルフィドが連続相を形成しており、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂の平均分散径が0.1〜10μmであって、長手方向の平均分散径と幅方向の平均分散径の比が1〜4であり、フィルム長手方向断面及び幅方向のフィルムの厚み方向断面における分散相の平均アスペクト比が2〜125である二軸延伸熱可塑性樹脂フィルム。
(2)(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂からなる分散相中に(C)エラストマーが存在することを特徴とする(1)に記載の二軸延伸熱可塑性樹脂フィルム。
(3)(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂と(B)ポリフェニレンスルフィドの合計100重量部に対して、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂5〜55重量部、(B)ポリフェニレンスルフィド45〜95重量部並びに、(D)グリシジル基、オキサゾリル基のいずれか一つの官能基を有するスチレン系共重合体1〜5重量部を含有することを特徴とする(1)又は(2)に記載の二軸延伸熱可塑性樹脂フィルム。
(4)(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂と(B)ポリフェニレンスルフィドの合計100重量部に対して、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂5〜55重量部、(B)ポリフェニレンスルフィド45〜95重量部並びに、(C)エラストマー1〜15重量部、(D)グリシジル基、オキサゾリル基のいずれか一つの官能基を有するスチレン系共重合体1〜5重量部を含有することを特徴とする(3)に記載の二軸延伸熱可塑性樹脂フィルム。
(5)(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂が、ポリフェニレンエーテル100重量%またはポリフェニレンエーテル/スチレン系樹脂=50〜99重量%/50〜1重量%であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の二軸延伸熱可塑性樹脂フィルム。
(6)(B)ポリフェニレンスルフィドが、リニア型ポリフェニレンスルフィド、架橋型ポリフェニレンスルフィド、又はリニア型ポリフェニレンスルフィド及び架橋型ポリフェニレンスルフィドであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の二軸延伸熱可塑性樹脂フィルム。
(7)(C)エラストマーが、ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物を共重合して得られるブロック共重合体及びこのブロック共重合体を水素添加反応して得られる水添ブロック共重合体及びエチレン/α−オレフィン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(2)〜(6)のいずれかに記載の二軸延伸熱可塑性樹脂フィルム。
(8)(B)ポリフェニレンスルフィドのガラス転移温度(Tg1)より60℃高い温度から(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂のガラス転移温度(Tg2)より60℃高い温度範囲内((Tg1+60℃)〜(Tg2+60℃))で延伸処理されてなることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の二軸延伸熱可塑性樹脂フィルム。
(9)フィルム長手方向および幅方向の少なくとも一方向の引張破断強度が80〜300MPaであることを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載の二軸延伸熱可塑性樹脂フィルム。
(10)(1)〜(9)のいずれかに記載の二軸延伸熱可塑性樹脂フィルムを賦形した成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、厚みムラが少なく、引張強度が向上し、且つ加熱環境下に放置した後の変形及び反りが少ない二軸延伸熱可塑性樹脂フィルム、即ち、表面外観、機械的特性、及び加熱寸法安定性に優れた二軸延伸熱可塑性樹脂フィルムを提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明の二軸延伸熱可塑性樹脂フィルム(以下単に「延伸熱可塑性フィルム」という)は、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂と、(B)ポリフェニレンスルフィドとを含む二軸延伸してなるフィルムである。また、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂が分散相、(B)ポリフェニレンスルフィドが連続相を形成しており、分散相のポリフェニレンエーテル系樹脂の平均分散径が0.1〜10μmであり、長手方向の平均分散径と幅方向の平均分散径の比が1〜4であり、且つ、フィルム長手方向及び幅方向のフィルムの厚み方向断面において、いずれの断面における分散相の平均アスペクト比も2〜125である熱可塑性樹脂フィルム。これにより、得られるフィルムには引張強度が向上し、層剥離がなく、厚みムラが少なく、加熱環境下に放置した後の変形及び反りが少ない特性を付与することが可能となる。
【0012】
(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂と(B)ポリフェニレンスルフィドの合計100重量部に対して、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂5〜55重量部、(B)ポリフェニレンスルフィド45〜95重量部含んでいることが好ましく、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂を10〜50重量部と(B)ポリフェニレンスルフィドを50〜90重量部含有するのがより好ましく、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂を20〜40重量部と(B)ポリフェニレンスルフィドを60〜80重量部含有するのが特に好ましい。相反転を防ぎ、良好な耐薬品性を得る観点で、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂は55重量部以下が好ましい。また、(B)ポリフェニレンスルフィドのガラス転移温度以上での加熱寸法安定性の観点で、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂は5重量部以上であるのが好ましい。
【0013】
本発明の延伸熱可塑性樹脂フィルムは、ポリフェニレンスルフィドフィルムが本来有する耐薬品性とともに、良好な表面外観、優れた機械的特性と加熱寸法安定性を有するものである。かかる特性を発現するには、ポリフェニレンスルフィドが連続相(マトリックス)を形成し、ポリフェニレンエーテル系樹脂が分散相(ドメイン)を形成することが重要である。ポリフェニレンスルフィドが連続相を形成することによりポリフェニレンスルフィドの耐薬品性等の優れた特性をフィルムに大きく反映させることができる。
【0014】
さらに分散相の平均分散径は、層剥離現象を起こさず、良好な表面外観のフィルムを得る観点で10μm以下であり、(B)ポリフェニレンスルフィドのガラス転移温度以上での加熱寸法安定性の観点で0.1μm以上であることが好ましい。平均分散径のより好ましい範囲は0.3〜8μmであり、さらに好ましくは0.3〜5μmである。平均分散径を上記の範囲にすることにより、表面外観、加熱寸法安定性および機械的特性のバランスに優れた延伸熱可塑性樹脂フィルムを得ることが可能となる。
ここでいう分散相の平均分散径とは、フィルム長手方向の分散径と幅方向の分散径と厚さ方向の分散径の平均値を意味する。
【0015】
該平均分散径は、透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡などを用いて測定することができる。例えば、サンプルを超薄切片法で作成し、透過型電子顕微鏡を用いて、加圧電圧100kVの条件下で観察し、1千倍〜2万倍で写真を撮影して、得られた写真をイメージアナライザーに画像として取り込み、必要に応じて、画像処理を行うことにより、平均分散径を計算することができる(測定法の詳細は後述する)。
【0016】
また、長手方向の平均分散径と幅方向の平均分散径の比が1〜4であり、且つ、フィルム長手方向及び幅方向のフィルムの厚み方向断面において、いずれの断面における分散相の平均アスペクト比も2〜125であることが好ましい。
長手方向の平均分散径と幅方向の平均分散径の比が1〜3がより好ましく、更に好ましい範囲は1〜2である。加熱環境下に放置した後の変形及び反りが少なく、良好な加熱寸法安定性を得る観点で、長手方向の平均分散径と幅方向の平均分散径の比を上記範囲にすることが望ましい。ここで、長手方向及び幅方向における平均分散径とは、それぞれフィルム長手方向の径の平均値及び幅方向の径の平均値を意味し、上述の分散相の平均分散径の測定と同様な方法で計算できる(測定法の詳細は後述する)。
【0017】
フィルム長手方向及び幅方向のフィルムの厚み方向断面において、いずれの断面における分散相の形状は特に制限はないが、細長い島状、小判状、板状、或は繊維状であることが好ましく、更に平均アスペクト比は3〜80がより好ましく、特に好ましい範囲は4〜50である。これら分散相のアスペクト比は引張強度の向上した延伸熱可塑性樹脂フィルムを得やすい観点で2以上であり、延伸工程時のフィルムの破れを防止する観点で125以下であることが好ましい。ここで、平均アスペクト比は、分散相の平均長径(長手方向又は幅方向)/平均短径(厚み方向の分散径)の比を意味するものである。該アスペクト比は、透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡などを用いて測定することができる。例えば、サンプルを超薄切片法で作成し、透過型電子顕微鏡を用いて、加圧電圧100kVの条件下で観察し、1千〜2万倍で写真を撮影して、得られた写真をイメージアナライザーに画像として取り込み、必要に応じて画像処理を行うことにより、アスペクト比を計算することができる(測定法の詳細は後述する)。
【0018】
本発明において、(A)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂は、下記の結合単位(式1)で示される繰返し単位からなり、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)を用いて測定したポリスチレン換算した数平均分子量が1000以上、好ましくは1500〜50000、より好ましくは1500〜30000の範囲にあるホモ重合体及び/または共重合体のポリフェニレンエーテル樹脂(以下、PPEと略記する。)である。
【0019】
【化1】

【0020】
(ここで、R,R,R及びRはそれぞれ、水素、ハロゲン、炭素数1〜7までの第一級または第二級低級アルキル基、フェニル基、ハロアルキル基、アミノアルキル基、炭化水素オキシ基または少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てているハロ炭化水素オキシ基からなる群から選択されるものであり、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0021】
このPPEの具体的な例としては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)が挙げられ、さらに2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類(例えば、2,3,6−トリメチルフェノールや2−メチル−6−ブチルフェノール)との共重合体のごときポリフェニレンエーテル共重合体も挙げられる。中でもポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体が好ましく、さらにポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)が好ましい。
【0022】
かかるPPEの製造方法は公知の方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、米国特許第3306874号記載のHayによる第一銅塩とアミンのコンプレックスを触媒として用い、2,6−キシレノールを酸化重合することにより容易に製造でき、そのほかにも米国特許第3306875号、同第3257357号および同第3257358号、特公昭52−17880号および特開昭50−51197号および同63−152628号等に記載された方法で容易に製造できる。
【0023】
(A)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂は、加熱寸法安定性の観点で上記したPPE成分100重量%が望ましいが、PPEとスチレン系樹脂から構成されたものも好ましく用いることができる。PPEとスチレン系樹脂との混合物を用いる場合は、ポリフェニレンスルフィドのガラス転移温度以上での加熱寸法安定性の観点から、PPEとスチレン系樹脂との合計量に対して、PPEが50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。
【0024】
かかるスチレン系樹脂とは、スチレン系化合物の単独重合体、2種以上のスチレン系化合物の共重合体およびスチレン系化合物の重合体よりなるマトリックス中にゴム状重合体が粒子状に分散してなるゴム変性スチレン樹脂(ハイインパクトポリスチレン)等があげられる。これら重合体をもたらすスチレン系化合物としては、例えばスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、α−メチルスチレン、エチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、モノクロルスチレン、p−tert−ブチルスチレンが挙げられる。
【0025】
これらスチレン系化合物は2種以上を用いて得られる共重合体でも良いが、中でもスチレンを単独で用いて重合して得られるポリスチレンが好ましい。これらの重合体はアタクチックポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン等の立体規則構造を有するポリスチレンが有効に利用できる。なお、このPPEと併用して用いるスチレン系樹脂には、下記に示す(D)成分の共重合体として挙げてあるスチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、スチレン−グリシジルメタクリレート−メチルメタクリレート共重合体、スチレン−グリシジルメタクリレート−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ビニルオキサゾリン共重合体およびスチレン−ビニルオキサゾリン−アクリロニトリル共重合体等のスチレン系共重合体や、(C)成分のエラストマーとして挙げてあるビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物を共重合して得られるブロック共重合体およびこのブロック共重合体をさらに水素添加反応して得られる水添ブロック共重合体で代表されるスチレン−ブタジエンブロック共重合体やその水素添加物である水添ブロック共重合体は含まれない。
【0026】
この(A)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂は、(B)成分のポリフェニレンスルフィドのマトリックス中に分散する粒子として存在し、ポリフェニレンスルフィドの非晶部分のガラス転移温度以上での耐熱性を補強する上で重要な役割を示し、その分散平均粒子径は0.1μm〜10μm以下であることが望ましい。
【0027】
つぎに、(B)成分のポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略記する。)は、下記一般式(式2)で示されるアリーレンスルフィドの繰返し単位を通常50モル%、好ましくは70モル%更に好ましくは90モル%以上を含む重合体である。
[−Ar−S−] (式2)
(ここで、Arはアリーレン基を示す。)
【0028】
アリーレン基として、例えばp−フェニレン基、m−フェニレン基、置換フェニレン基(置換基としては炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基が好ましい。)、p,p′−ジフェニレンスルホン基、p,p′−ビフェニレン基、p,p′−ジフェニレンカルボニル基、ナフチレン基が挙げられる。
なお、PPSは構成単位であるアリーレン基が1種であるホモポリマーであっても良く、加工性や耐熱性の観点から、2種以上の異なるアリーレン基を有するコポリマーであっても良い。中でも、主構成要素としてp−フェニレンスルフィドの繰り返し単位を有するPPSが、加工性、耐熱性に優れ、かつ、工業的に入手が容易なことから好ましい。
【0029】
このPPSの製造方法は、通常、ハロゲン置換芳香族化合物、例えばp−ジクロルベンゼンを硫黄と炭酸ソーダの存在下で重合させる方法、極性溶媒中で硫化ナトリウムあるいは硫化水素ナトリウムと水酸化ナトリウムまたは硫化水素と水酸化ナトリウムあるいはナトリウムアミノアルカノエートの存在下で重合させる方法、p−クロルチオフェノールの自己縮合等が挙げられるが、中でもN−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒やスルホラン等のスルホン系溶媒中で硫化ナトリウムとp−ジクロルベンゼンを反応させる方法が適当である。これらの製造方法は公知の方法であり、例えば、米国特許第2513188号明細書、特公昭44−27671号公報、特公昭45−3368号公報、特公昭52−12240号公報、特開昭61−225217号および米国特許第3274165号明細書、さらに特公昭46−27255号公報、ベルギー特許第29437号明細書、特開平5−222196号公報、等に記載された方法やこれら特許等に例示された先行技術の方法でPPSを得ることが出来る。この重合で得られるPPSは通常リニア型PPSであり、このPPSを重合した後に、さらに酸素の存在下でPPSの融点以下の温度(例えば200〜250℃)で加熱処理し酸化架橋を促進してポリマー分子量、粘度を適度に高めたものが架橋型PPSとして分類される。なお、ここで分類される架橋型PPSには、その架橋程度を微少に留めた半架橋PPSも含まれる。
【0030】
(B)成分のポリフェニレンスルフィドは、上記したリニアPPS、架橋PPSのいずれか1種または2種を含有することができる。そして溶融粘度は、溶融混練が可能であれば特に限定されないが、剪断速度100sec−1における300℃の溶融粘度が、100〜1000Pa・secであることが好ましく、より好ましくは150〜500Pa・secの特性を有するポリフェニレンスルフィドである。この溶融粘度が100Pa・sec以上のPPSを用いることによりポリマーアロイのフィルム化する際の押出加工時のドローダウン(加熱によるフィルムのたれ)が防止できる。溶融粘度が1000Pa・sec以下のPPSを用いることにより押出加工時のダイのノズル付近に発生する「目ヤニ」と呼ばれる炭化物を防止することができる。ノズル部に発生する目ヤニは、押出量とともに成長し、所定時間後にノズルから脱離して製品中に混入して、異物となる為、好ましくない。
なお、溶融粘度は、キャピラリー式のレオメータによって測定でき、例えば、キャピログラフ((株)東洋精機製作所製)を用い、キャピリーは、キャピラリー長=10mm、キャピラリー径=1mmを用いて、温度300℃、剪断速度100sec−1にて測定することができる。
【0031】
つぎに(D)成分として用いる官能基を有するスチレン系共重合体は、グリシジル基及び/又はオキサゾリル基を有するスチレン系共重合体であり、(A)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂と(B)成分のポリフェニレンスルフィドとを混合する際の乳化分散剤として作用して、分散相である(A)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂の分散平均粒子径を(B)成分のポリフェニレンスルフィド中に10μm以下に制御し、熱可塑性樹脂フィルムの樹脂組成物の溶融粘度を高くするのに優れた効果を奏するものである。
【0032】
かかる(D)成分の共重合体は、グリシジル基及び/又はオキサゾリル基を有する不飽和モノマーとスチレンを主たる成分とするモノマーとの共重合体が好ましく利用できる。ここで言うスチレンを主たる成分とするモノマーとは、スチレン成分が100重量%は何ら問題ないが、スチレンと共重合可能な他のモノマーが存在する場合は、その共重合体鎖が(A)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂との混和性を保持する上で、少なくともスチレンモノマーを65重量%以上、より好ましくは75〜95重量%含むことが必要である。
【0033】
グリシジル基、オキサゾリル基のいずれか一つの官能基を有する不飽和モノマーの例として具体的には、グリシジルメタアクリレート、グリシジルアクリレート、ビニルグリシジルエーテル、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートのグリシジルエーテル、グリシジルイタコネートが挙げられ、中でもグリシジルメタアクリレートが好ましい。また、上記のオキサゾリル基含有不飽和モノマーとしては、例えば2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的に入手でき好ましく使用できる。
グリシジル基及び/又はオキサゾリル基を有する不飽和モノマーと共重合する他の不飽和モノマーとしては、必須成分のスチレンの他に、共重合成分としてアクリロニトリル等のシアン化ビニルモノマー、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル等が挙げられる。また、グリシジル基及び/又はオキサゾリル基を有する不飽和モノマーは(D)成分の共重合体中に0.3〜20重量%含まれるのが好ましく、より好ましくは1〜15重量%、更に好ましくは3〜10重量%含まれる。かかる(D)成分の共重合体のグリシジル基及び/又はオキサゾリル基を有する不飽和モノマー量は、(A)成分と(B)成分の混和性を十分に得る観点で0.3重量%以上が好ましく、(A)成分の分散平均粒子径を小さくし過ぎない観点で20重量%以下が好ましい。
【0034】
これら共重合可能な不飽和モノマーを共重合して得られる(D)成分の共重合体の例として、スチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、スチレン−グリシジルメタクリレート−メチルメタクリレート共重合体、スチレン−グリシジルメタクリレート−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ビニルオキサゾリン共重合体およびスチレン−ビニルオキサゾリン−アクリロニトリル共重合体等が挙げられるが、(D)成分の共重合体として更に、エチレン系共重合体にスチレン系モノマー等がグラフトした共重合体であっても良く、例えばエチレン−グリシジルメタクリレート共重合体にスチレンモノマーがグラフトしたグラフト共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体にスチレンモノマーおよびアクリロニトリルがグラフトしたグラフト共重合体等が挙げられる。
【0035】
この(D)成分の共重合体の配合量は、上記した(A)〜(B)成分の合計100重量部に対して、1〜5重量部が望ましい。より好ましくは2〜4重量部、更に好ましくは2〜3重量部である。かかる(D)成分の配合量を上記範囲にすることにより、(A)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂と(B)成分のポリフェニレンスルフィドとの混和性が良くなり、所定の分散径に乳化分散させることが可能となる。
【0036】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、上記した(A)成分、(B)成分および(D)成分からなるが、フィルムの靱性、柔軟性のために、下記に述べる(C)成分のエラストマーを含むことがより好ましい。
(C)成分として用いるエラストマーは、例えば、ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物を共重合して得られるブロック共重合体およびこのブロック共重合体をさらに水素添加反応して得られる水添ブロック共重合体、エチレン/α−オレフィン共重合体の中から目的に応じ少なくとも1種を(C)成分であるエラストマーとして選択して用いることができる。
【0037】
ここで、供する(C)成分のビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体およびその水素添加物である水添ブロック共重合体の構造に関して言及する。一般にビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体は、ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物とを各々のモノマー単位でブロック共重合し、ビニル芳香族化合物を主体とする(ビニル芳香族化合物の含有量が少なくとも70%以上有する)重合体ブロックAと、共役ジエン化合物を主体とする(共役ジエン化合物の含有量が少なくとも70%以上有する)重合体ブロックBとからなるブロック共重合体の構造で示されるものである。そしてブロック共重合体中には、ランダム共重合部分のビニル芳香族化合物は均一に分布していても、またはテーパー状に分布していてもよい。
【0038】
また該共重合体ブロックには、ビニル芳香族化合物が均一に分布している部分および/またはテーパー状に分布している部分がそれぞれ複数個共存していてもよい。さらに該共重合体ブロックには、ビニル芳香族化合物含有量が異なる部分が複数個共存していてもよい。このビニル芳香族化合物を主体とする(ビニル芳香族化合物の含有量が少なくとも70%以上有する)重合体ブロックAと、共役ジエン化合物を主体とする(共役ジエン化合物の含有量が少なくとも70%以上有する)重合体ブロックBとからなるブロック共重合体とは、一般に下記構造を有するブロック共重合体が例示される。
(A−B)、A−(B−A)−B、B−(A−B)n+1、[(A−B)m+1−Z、[(A−B)−A]m+1−Z、[(B−A)m+1−Z、[(B−A)−B]m+1−Z
(上式において、Zはカップリング剤の残基または多官能有機リチウム化合物の開始剤の残基を示す。n、kおよびmは1以上の整数、一般的には1〜5である。)
【0039】
このビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体に用いるビニル芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−tert−ブチルスチレン、ジフェニルエチレン等のうちから1種または2種以上が選択でき、特にスチレンが好ましい。そして、ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体におけるビニル芳香族化合物の含有量は通常1〜70重量%の中から好適に選ぶことが可能であり、好ましくは5〜55重量%、より好ましくは10〜55重量%である。さらに、かかるブロック共重合体における共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンのうちから1種または2種以上が選ばれ、特にブタジエン、イソプレンおよびこれらの組み合わせが好ましい。
【0040】
また、このビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体における共役ジエン化合物の重合形式であるミクロ構造は任意に選ぶことができ、例えば、ブタジエンにおいては、1,2−ビニル結合が2〜85%、好ましくは100〜85%、さらに好ましくは35〜85%である。また、イソプレンにおいては、1,2−ビニル結合と3,4−ビニル結合の合計量が2〜85%、好ましくは3〜75%、さらに好ましくは3〜60%である。1,2−ビニル結合と3,4−ビニル結合は該共役ジエン化合物重合体ブロック中に均一に分布していても、またはテーパー状に分布していてもよい。また、該共役ジエン化合物重合体は、1,2−ビニル結合含量又は1,2−ビニル結合と3,4−ビニル結合の合計量が異なる重合体部分、例えば1,2−ビニル結合含量又は1,2−ビニル結合と3,4−ビニル結合の合計量が30%未満の重合体部分と30%以上の重合体部分が存在してもよく、更にこれらの異なるビニル結合量が異なる重合体部分が複数個共存していてもよい。
そして、これらの前駆体であるビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体の数平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィによるポリスチレン換算の分子量)は、通常、1000〜1000000、好ましくは10000〜500000、更に好ましくは30000〜300000である。
【0041】
上記したブロック共重合体は、炭化水素溶媒中で、有機リチウム化合物を重合開始剤として共役ジエン化合物、ビニル芳香族化合物をアニオン重合して得られる。かかる炭化水素溶媒としては、脂肪族、脂環式および芳香族炭化水素使用することができ、例えば、プロパン、イソブタン、n−ヘキサン、イソオクタン、シクローペンタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等が挙げられ、特に好ましい溶媒はn−ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼンであり、これらの溶媒は1種または2種以上の混合溶媒として用いても構わない。また、重合に使用する重合開始剤である有機リチウム化合物としては、n−プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム等のモノ有機リチウム化合物や、ジリチオメタン、1,4−ジリチオブタン、1,4−ジリチオ−2−エチルシクロヘキサン、1,2−ジリチオ−1,2−ジフェニルメタン、1,3,5−トリリチオベンゼン等の多官能性有機リチウム化合物が使用でき、これらは単独、または二種以上の混合物で使用することができる。
【0042】
これらの有機リチウム化合物の使用量は、目的とする共役ジエン化合物を含む重合体の数平均分子量に応じ、単分散ポリマー(重量平均分子量/数平均分子量=1)を前提とした計算で適宜選択できる。そして、上記した共役ジエン化合物の重合形式であるミクロ構造の1,2−ビニル結合量、3,4−ビニル結合量の増加調整、あるいはビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体鎖中のランダム性を調整するために、通常、エーテル類、第3級アミン類、アルカリ金属アルコキシド等の極性化合物を使用することができる。例えば、ジエチルエーテル、エチレングリコール・ジメチルエーテル、エチレングリコール・ジn−ブチルエーテル、エチレングリコール・n−ブチル−tert−ブチルエーテル、エチレングリコール・ジ−tert−ブチルエーテル、ジエチレングリコール・ジメチルエーテル、トリエチレングリコール・ジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、α−メトキシメチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシベンゼン、トリエチルアミン、N,N,N‘,N’−テトラメチルエチレンジアミン、カリウム−tert−アミルオキシド、カリウム−tert−ブチルオキシド等が挙げられ、これらの化合物は単独または2種以上の混合物として使用できる。かかる極性化合物の使用量は、有機リチウム化合物1モルに対して0モル以上、好ましくは0〜300モルである。
【0043】
このようにビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物を有機リチウム化合物を用いてアニオン重合することによってビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体が得られる。
さらに、ここで得たビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体は、炭化水素溶媒中で、水素添加触媒および水素ガスを添加し、水素添加反応を行うことにより、重合体中に存在する共役ジエン化合物に由来するオレフィン性不飽和結合を90%以下、好ましくは55%以下、より好ましくは20%以下まで低減化することにより、水添ブロック共重合体を得ることができる。かかる水添反応は、ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体に存在する共役ジエン化合物に由来するオレフィン性不飽和結合を低減化できるものであれば、その製法に制限は無く、いかなる製造方法でも良い。
【0044】
この(C)成分のビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体およびその水素添加物である水添ブロック共重合体は上記した構造を有するブロック共重合体である。一般に、これらブロック共重合体をさらに官能基を有する化合物と反応させて得られる官能基を有するビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体およびその水素添加物である官能基を有する水添ブロック共重合体等が知られているが、熱可塑性樹脂フィルムの(C)成分として用いることは好ましくない。なぜならば、官能基を有するエラストマーを(C)成分として用いた場合、フィルムの外観を悪化させるので好ましくない。
【0045】
そして更に(C)成分のエチレン/α−オレフィン共重合体は、エチレンと炭素原子数3〜20のα−オレフィンの少なくとも1種以上との共重合体であり、上記の炭素数3〜20のα−オレフィンとしては、具体的にはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、9−メチル−1−デセン、11−メチル−1−ドデセン、12−エチル−1−テトラデセンおよびこれらの組み合わせが挙げられる。これらα−オレフィンの中でも、炭素数3〜12のα−オレフィンを用いた共重合体が好ましい。このエチレン/α−オレフィン系共重合体は、α−オレフィンの含量が好ましくは1〜30モル%、より好ましくは2〜25モル%、さらに好ましくは3〜20モル%である。
更に1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、2,5−ノルボルナジエン、5−エチリデンノルボルネン、5−エチル−2,5−ノルボルナジエン、5−(1′−プロペニル)−2−ノルボルネンなどの非共役ジエンの少なくとも1種が共重合されていてもよい。
【0046】
この(C)成分のエチレン/α−オレフィン共重合体は上記で示した構造を有する共重合体である。一般に、これらエチレン/α−オレフィン共重合体をさらに官能基を有する化合物と反応させて得られる官能基を有するエチレン/α−オレフィン共重合体や、エチレンと官能基含有モノマーとの共重合体およびエチレン/α−オレフィン/官能基含有モノマーの共重合体等が知られているが、フィルム用のポリマーアロイの(C)成分として用いることは好ましくない。なぜならば、これらの官能基を有するエラストマーを(C)成分として用いた場合、フィルムの外観を悪化させるので好ましくない。
【0047】
上記したこれらの(C)成分のエラストマーの配合量は、上記した(A)〜(B)成分の合計100重量部に対して、1〜15重量部、より好ましくは3〜12重量部である。かかる配合量が1重量部以上であれば、延伸熱可塑性樹脂フィルムは、靱性および柔軟性を有するフィルムとなり、配合量が15重量部以下において、機械的強度および耐熱性に優れたフイルムとなり得る。
【0048】
延伸熱可塑性樹脂フィルムは、上記成分の他に、効果を損なわない範囲で必要に応じて、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の安定剤、結晶核剤、帯電防止剤、導電物質(カーボン、グラファイト、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ)、難燃剤、顔料や染料等の着色剤、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、モンタン酸塩ワックス、ステアリン酸塩ワックス等の公知の離形剤等の添加剤も適宜添加することができる。また、フィルム表面に易滑性や耐磨耗性や耐スクラッチ性等を付与するために、延伸熱可塑性樹脂フィルムに、無機粒子や有機粒子などを添加することもできる。そのような添加物としては、例えば、クレー、マイカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、湿式または乾式シリカ、コロイド状シリカ、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナおよびジルコニア等の無機粒子、アクリル酸類、スチレン等を構成成分とする有機粒子、ポリフェニレンスルフィドの重合反応時に添加する触媒等によって析出する、所謂内部粒子や、界面活性剤などが挙げられる。
【0049】
延伸熱可塑性樹脂フィルムの厚さは、用途等により異なるが500μm以下が好ましく、薄膜用途や作業性などの観点からは、より好ましくは10〜300μmの範囲であり、さらに好ましくは20〜200μmの範囲である。
延伸熱可塑性樹脂フィルムは、これにポリフェニレンスルフィドやその他のポリマー層、例えば、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリ塩化ビニリデンまたはアクリル系ポリマーからなる層を直接、あるいは接着剤などの層を介して、さらに積層させて用いてもよい。
また、延伸熱可塑性樹脂フィルムは、必要に応じて、熱処理、成形、表面処理、ラミネート、コーティング、印刷、エンボス加工およびエッチングなどの任意の加工を行ってもよい。
【0050】
本発明の延伸熱可塑性樹脂フィルムは、プリント基板材料、プリント基板周辺部品、半導体パッケージ、半導体搬送トレイ、データ系磁気テープ、APS写真フィルム、フィルムコンデンサー、絶縁フィルム、モーターやトランスなどの絶縁材料、スピーカー振動板、自動車用フィルムセンサー、ワイヤーケーブルの絶縁テープ、TABテープ、層間絶縁材料、トナーアジテーター、リチウムイオン電池内部の絶縁ワッシャー、成形材料、回路基板材料、回路・光学部材などの工程・離型フィルムや保護フィルム、などに好適に使用できる。
【0051】
次いで、本発明の延伸熱可塑性樹脂フィルムを製造する方法について説明する。
本発明において、(A)〜(D)成分を混練する場合、混練する順番は特に限定はないが、一括して混練することが、プロセスの簡略性や物性向上の観点から望ましい。
樹脂組成物は種々の方法で製造することができる。例えば、単軸押出機、二軸押出機、ロール、ニーダー、ブラベンダープラストグラフ、バンバリーミキサー等による加熱溶融混練方法が挙げられるが、中でも二軸押出機を用いた溶融混練方法が最も好ましい。この際の溶融混練温度は特に限定されるものではないが、通常150〜350℃の中から任意に選ぶことができる。特に好ましい製造方法は、少なくとも2個のベント口および少なくとも1個のサイド供給口を有し、280℃〜350℃に温度設定した二軸押出機を用いて、押出機のトップより(A)成分〜(D)成分の全量を供給し溶融混練した後に、該二軸押出機の一つ以上のベント口を絶対真空圧95kPa以下で脱気して溶融混練する方法。
【0052】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、上記で得られた樹脂組成物を原料とし、押出シート成形により得ることもできるし、本発明の成分を押出シート成形機に直接投入し、ブレンドとシート成形を同時に実施して得ることもできる。
その後、上記溶融混練作業により得られた樹脂組成物ペレットを用いて公知の各種押出成形方法によって無配向状態の未延伸フィルムを得ることが可能であり、また上記した(A)〜(D)成分を溶融混練する工程とフィルム化する工程を同時に併せ持つ押出フィルム成形機を用いて無配向状態の未延伸フィルムを得ることもできる。無配向状態の未延伸フィルムを得るための具体的な押出成形方法としては、Tダイ押出成形方法が挙げられる。
【0053】
次に、この未延伸フィルムを二軸延伸し、二軸配向させる。延伸方法としては、逐次二軸延伸法(長手方向に延伸した後に幅方向に延伸を行う方法などの一方向ずつの延伸を組み合わせた延伸法)、同時二軸延伸法(長手方向と幅方向を同時に延伸する方法)、又はそれらを組み合わせた方法を用いることができる。
【0054】
ここでは、最初に長手方向、次に幅方向の延伸を行う逐次二軸延伸法を用いる。好ましい延伸温度については、(A)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂と(B)成分のポリフェニレンスルフィドの組成比により異なり、延伸温度が、(B)成分のポリフェニレンスルフィドのガラス転移温度(Tg1)より60℃高い温度から(A)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂のガラス転移温度(Tg2)より60℃高い温度範囲内((Tg1+60℃)〜(Tg2+60℃))で延伸処理するのが好ましく、より好ましくはTg1+80℃〜Tg2+50℃の温度範囲である。
【0055】
熱可塑性樹脂フィルム中の(A)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量が低い場合、(B)成分のポリフェニレンスルフィドのガラス転移温度から延伸できるが、(A)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量が増えると、延伸温度も徐々に上げていく必要がある。また、延伸倍率については、未延伸熱可塑性樹脂フィルムを加熱ロール群で加熱し、長手方向に1.5 〜5倍、好ましくは2〜4倍、さらに好ましくは2〜3倍に1段もしくは2段以上の多段で延伸する(MD延伸)。MD延伸に続く幅方向の延伸方法としては、例えば、テンターを用いる方法が一般的である。このフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、幅方向の延伸を行う(TD延伸)。延伸倍率は、1.5 〜5倍が好ましく、より好ましくは2〜4倍、さらに好ましくは2〜3倍の範囲である。
【0056】
フィルム長手方向断面及び幅方向のフィルムの厚み方向断面における分散相の平均アスペクト比を2〜125にして、引張強度の向上したフィルムを得る観点で、MD延伸とTD延伸の延伸倍率を上記範囲にすることが望ましい。また、長手方向の平均分散径と幅方向の平均分散径の比を1〜4にして、良好な加熱寸法安定性を有する熱可塑性樹脂フィルムを得る観点で、MD延伸とTD延伸の延伸倍率の比を上記延伸倍率の範囲にすることが望ましい。
【0057】
次に、この延伸フィルムを緊張下または幅方向に弛緩しながら熱固定してもよい。熱固定温度には特に制限はないが、好ましい熱固定温度は、200〜270℃ 、より好ましくは210〜260℃ 、さらに好ましくは220〜255℃の範囲である。熱固定は温度を変更して2段で実施するのも好ましい。その場合、2段目の熱固定温度を1段目より5〜20℃温度を高くするのが好ましい。熱固定時間は0.2〜30秒の範囲で行うことが好ましい。さらにこのフィルムを40〜180℃の温度ゾーンで幅方向に弛緩しながら冷却する。弛緩率は、幅方向の熱収縮率を低下させる観点から1〜10%であることが好ましく、より好ましくは2〜8%、さらに好ましくは3〜7%の範囲である。
さらに、フィルムを室温まで、必要ならば、長手および幅方向に弛緩処理を施しながら、フィルムを冷やして巻き取り、目的とする延伸熱可塑性樹脂フィルムを得る。
【0058】
こうして得られた延伸熱可塑性樹脂フィルムは、ポリフェニレンスルフィドフィルムが本来有する耐薬品性とともに、表面外観、機械的特性、加熱寸法安定性に優れている。従って、本発明の延伸熱可塑性樹脂フィルムは、これらの特性が要求される用途に用いることができる。例えば、プリント基板材料、プリント基板周辺部品、半導体パッケージ、半導体搬送トレイ、データ系磁気テープ、APS写真フィルム、フィルムコンデンサー、絶縁フィルム、モーターやトランスなどの絶縁材料、スピーカー振動板、自動車用フィルムセンサー、ワイヤーケーブルの絶縁テープ、TABテープ、層間絶縁材料、トナーアジテーター、リチウムイオン電池内部の絶縁ワッシャー、などが挙げられる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例によって、本発明を説明する。
なお、使用した原料は下記の通りである。
【0060】
<(A)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂>
(PPE−1):2,6−キシレノールを酸化重合し、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)を用いて測定し、ポリスチレン換算した数平均分子量が24000、Tgが215℃のポリフェニレンエーテルを(PPE−1)とした。
<(B)成分のポリフェニレンスルフィド>
(PPS−1):キャピログラフ(株)東洋精機製作所製)を用い、剪断速度100sec−1における300℃の溶融粘度が470Pa・sec、Tgが90℃のp−フェニレンスルフィドの繰り返し単位を有するリニアタイプのPPSを(PPS−1)とした。
<(C)成分のエラストマー>
(エラストマー):ポリスチレンブロック−水素添加されたポリブタジエン−ポリスチレンブロックの構造を持ち、結合スチレン量が33%、ポリブタジエン部分の1,2−ビニル結合量が47%、ポリスチレン鎖の数平均分子量が29000、ポリブタジエン部の水素添加率が99.8%の水添ブロック共重合体を(エラストマー)とした。
<(D)成分のスチレン系共重合体>
(スチレン系共重合体):グリシジルメタクリレートを5重量%含有するスチレン−グリシジルメタクリレート共重合体(重量平均分子量110,000)を(スチレン系共重合体)とした。
【0061】
特性値の測定方法ならびに効果の評価を、以下の方法に従って実施した。
(1)分散相の平均分散径、アスペクト比
フィルムを(ア)長手方向に平行かつフィルム面に垂直な方向、(イ)幅方向に平行かつフィルム面に垂直な方向、(ウ)フィルム面に対して平行な方向に切断し、サンプルを超薄切片法で作成した。分散相のコントラストを明確にするために、オスミウム酸やルテニウム酸、リンタングステン酸などで染色してもよい。切断面を透過型電子顕微鏡( 日立製H−7100FA型)を用いて、加圧電圧100kVの条件下で観察し、分散径の大きさにもよるが1千倍〜2万倍で写真を撮影した。得られた写真をイメージアナライザーに画像として取り込み、分散径によって変わるが5μm×5μm〜100μm×100μmの範囲から最適な範囲の分散相を選択し、必要に応じて画像処理を行うことにより、次に示すようにして分散相の大きさを求めた。(ア)の切断面に現れる個々の分散相のフィルム厚み方向の最大長さ(la)と長手方向の最大長さ(lb)、(イ)の切断面に現れる個々の分散相のフィルム厚み方向の最大長さ(lc)と幅方向の最大長さ(ld)、(ウ)の切断面に現れる個々の分散相のフィルム長手方向の最大長さ(le)と幅方向の最大長さ(lf)を求めた。
【0062】
次いで、分散相の形状指数I=(lbの平均値+leの平均値)/2、形状指数J=(ldの平均値+lfの平均値)/2、形状指数K=(laの平均値+lcの平均値)/2とした場合、分散相の平均分散径を(I+J+K)/3とした。さらに、分散相の長手方向の平均分散径と幅方向の平均分散径の比が1以上になるように、長手方向平均分散径が幅方向分散径より大きい場合はI/J、逆の場合はJ/Iとした。
また、フィルム長手方向及び幅方向のフィルムの厚み方向断面における分散相の平均アスペクト比については、I、J、Kを其々長手方向、幅方向、厚み方向の平均分散径と決定し、フィルム長手方向の厚み方向断面における分散相の平均アスペクト比をI/K、フィルム幅方向の厚み方向断面における分散相の平均アスペクト比をJ/Kとした。
【0063】
(2)ガラス転移温度(Tg)
擬似等温法にて下記装置および条件で比熱測定を行い、JIS K7121(1987年)に従って決定した。試料数3にて、それぞれについてその測定をして、平均値をとった。
装置: TA Instrument社製温度変調DSC
測定条件:
加熱温度: 270〜570K(RCS冷却法)
温度校正: 高純度インジウムおよびスズの融点
温度変調振幅: ±1K
温度変調周期: 60秒
昇温ステップ: 5K
試料重量: 5mg
試料容器: アルミニウム製開放型容器(22mg)
参照容器: アルミニウム製開放型容器(18mg)
なお、ガラス転移温度(Tg)は下記式により算出した。
ガラス転移温度=(補外ガラス転移開始温度+補外ガラス転移終了温度)/2
【0064】
(3)層剥離の有無
得られたフィルムのエッジ部分を、5mm間隔で長さ約10mmの切り込みをはさみで10本入れ、切れ込んだフィルムの断面の20カ所を目視で観察し、以下の判定基準に基づき、層剥離の有無を評価した。
○:全く剥離が認められない。
×:1カ所以上、層剥離が認められた。
【0065】
(4)表面外観1(厚みムラ)
フィルム幅中央部の厚みが125μmとなるように延伸処理の調整を行い、フィルムを作製し、フィルム長さ10mの範囲で2m毎に、フィルム幅中央部およびフィルム幅中央部より左右10cmの位置の厚みをデジタルシックネスゲージ(尾崎製作所製:G2−205)を用いて測定し、(フィルム幅中央部より左右10cmの位置のフィルム厚みの平均値−フィルム幅中央部の厚み平均値)/(フィルム幅中央部の厚み平均値)の値を%で表した数値を厚みムラ(%)として評価した。厚みムラが5%以下のものを○、5%を超えるものを×とした。
【0066】
(5)表面外観2(色ムラ)
目視でフィルムの色ムラが目立たないものを○、目立つものを×とした。
(6)加熱寸法安定性(加熱後変形・反り)
得られたフィルムを180℃の熱風乾燥機に1時間放置し、フィルムの反り・変形、を確認した。目視で変形しているものを×、変形していないものを○とした。
【0067】
(7)機械的特性(引張破断強度・伸度(チャック間))
JIS−C2151に規定された方法に従って測定を行なった。測定は下記の条件で行い、試料数10にて、それぞれについてその測定をして、平均値をとった。
測定装置: インストロン・コーポレーション製試験機“ インストロン 5581 ”
試料サイズ: 幅20mm×チャック間100mm
引張り速度: 50mm/分
測定環境: 温度23℃、湿度50%RH
【0068】
[実施例1]
(A)成分であるポリフェニレンエーテル(PPE−1)と(B)成分であるポリフェニレンスルフィド(PPS−1)、(C)成分であるエラストマー、(D)成分であるスチレン共重合体を表1に示す割合(重量部)で、250〜320℃に設定したベントポート付き二軸押出機(ZSK−25;WERNER&PFLEIDERER社製)を用いて溶融混練し、ペレットとして得た。このペレットを用い、単軸押出し成形機(ユニオンプラスチック(株)製、スクリュー径40mm、L/D28)と地面に垂直に位置するコートハンガーダイ(幅400mm、ダイリップ1.0mm)を用い、シリンダー温度およびダイ温度300℃にてフィルム状に押出した。コートハンガーダイより押し出された溶融フィルムは温度120℃の冷却ロールを介して冷却固化し、未延伸フィルムを作製した。なお、フィルムの厚み調整はスクリューおよび引き取りロールの回転数で調整した。
この未延伸フィルムを、加熱された複数のロール群からなる縦延伸機を用い、ロールの周速差を利用して、175℃の温度でフィルムの縦方向に2.0倍の倍率で延伸した(MD延伸)。その後、このフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、延伸温度180℃、延伸倍率2.0倍でフィルムの幅方向に延伸を行い(TD延伸)、120℃にコントロールされた冷却ゾーンで横方向に4%弛緩処理を行い、室温まで冷却した後、フィルムエッジを除去し、厚さ125μmの延伸熱可塑性樹脂フィルムを作製した。
得られた延伸熱可塑性樹脂フィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示した通りである。
【0069】
[実施例2]
(D)成分であるスチレン系共重合体の添加量を表1に示した通り変更した以外は、実施例1と同様にして延伸熱可塑性樹脂フィルムを得た。得られた延伸熱可塑性樹脂フィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示した通りである。
【0070】
[実施例3]
(A)成分であるPPE−1及び(C)成分であるエラストマーの添加量を表1に示した通り変更した以外は、実施例1と同様にして延伸熱可塑性樹脂フィルムを得た。得られた延伸熱可塑性樹脂フィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示した通りである。
【0071】
[実施例4]
縦方向の延伸(MD延伸)の倍率を5.0倍に変更した以外は、実施例3と同様にして延伸熱可塑性樹脂フィルムを得た。得られた延伸熱可塑性樹脂フィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示した通りである。
【0072】
[実施例5]
(A)成分であるPPE−1、(C)成分であるエラストマーの添加量を表1に示した通り変更した以外は、実施例1と同様にして延伸熱可塑性樹脂フィルムを得た。得られた延伸熱可塑性樹脂フィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示した通りである。
【0073】
[比較例1]
(D)成分であるスチレン系共重合体の添加量を表1に示した通り変更した以外は、実施例1と同様にして延伸熱可塑性樹脂フィルムの作製を試みたが、延伸処理工程において、フィルムに層剥離、破れが発生し、フィルム延伸をすることができなかった。
【0074】
[比較例2]
(D)成分であるスチレン系共重合体の添加量を表1に示した通り変更した以外は、実施例1と同様にして延伸熱可塑性樹脂フィルムを得た。得られた延伸熱可塑性樹脂フィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示した通りである。
【0075】
[比較例3]
延伸処理工程を表1に示した通り省略した以外は、実施例1と同様にして未延伸熱可塑性樹脂フィルムを得た。ただし、フィルム厚みは実施例1の延伸フィルムと同様、125μmである。得られた未延伸熱可塑性樹脂フィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示した通りである。
【0076】
[比較例4]
縦方向延伸(MD延伸)の倍率を5.5倍に、横方向延伸(TD延伸)の倍率を1.5倍に変更した以外は、実施例1と同様にして延伸熱可塑性樹脂フィルムを得た。得られた延伸熱可塑性樹脂フィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示した通りである。
【0077】
[比較例5]
フィルム組成を表1に示した通り、(B)成分であるPPS−1以外は配合しないことに変更した以外は、実施例1と同様にして延伸ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た。得られた延伸ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示した通りである。
【0078】
【表1】

【0079】
表1から、本発明の延伸熱可塑性樹脂フィルムは、厚みムラが少なく、且つ加熱環境下に放置した後の変形及び反りが少ないことが判る。単一延伸ポリマーである延伸ポリフェニレンスルフィドフィルムと比べても、加熱環境下に放置した後の変形及び反りが少ないことに加え、驚くべきことに、引張強度・伸度にも優れることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の延伸熱可塑性樹脂フィルムは、プリント基板材料、プリント基板周辺部品、半導体パッケージ、半導体搬送トレイ、データ系磁気テープ、APS写真フィルム、フィルムコンデンサー、絶縁フィルム、モーターやトランスなどの絶縁材料、スピーカー振動板、自動車用フィルムセンサー、ワイヤーケーブルの絶縁テープ、TABテープ、層間絶縁材料、トナーアジテーター、リチウムイオン電池内部の絶縁ワッシャー、成形材料、回路基板材料、回路・光学部材などの工程・離型フィルムや保護フィルム、などに好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂が分散相、(B)ポリフェニレンスルフィドが連続相を形成しており、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂の平均分散径が0.1〜10μmであって、長手方向の平均分散径と幅方向の平均分散径の比が1〜4であり、フィルム長手方向断面及び幅方向のフィルムの厚み方向断面における分散相の平均アスペクト比が2〜125であることを特徴とする二軸延伸熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項2】
(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂からなる分散相中に(C)エラストマーが存在することを特徴とする請求項1に記載の二軸延伸熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項3】
(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂と(B)ポリフェニレンスルフィドの合計100重量部に対して、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂5〜55重量部、(B)ポリフェニレンスルフィド45〜95重量部並びに、(D)グリシジル基、オキサゾリル基のいずれか一つの官能基を有するスチレン系共重合体1〜5重量部を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の二軸延伸熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項4】
(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂と(B)ポリフェニレンスルフィドの合計100重量部に対して、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂5〜55重量部、(B)ポリフェニレンスルフィド45〜95重量部並びに、(C)エラストマー1〜15重量部、(D)グリシジル基、オキサゾリル基のいずれか一つの官能基を有するスチレン系共重合体1〜5重量部を含有することを特徴とする請求項3に記載の二軸延伸熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項5】
(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂が、ポリフェニレンエーテル100重量%またはポリフェニレンエーテル/スチレン系樹脂=50〜99重量%/50〜1重量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の二軸延伸熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項6】
(B)ポリフェニレンスルフィドが、リニア型ポリフェニレンスルフィド、架橋型ポリフェニレンスルフィド、又はリニア型ポリフェニレンスルフィド及び架橋型ポリフェニレンスルフィドであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の二軸延伸熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項7】
(C)エラストマーが、ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物とを共重合して得られるブロック共重合体及びこのブロック共重合体を水素添加反応して得られる水添ブロック共重合体及びエチレン/α−オレフィン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載の二軸延伸熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項8】
(B)ポリフェニレンスルフィドのガラス転移温度(Tg1)より60℃高い温度から(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂のガラス転移温度(Tg2)より60℃高い温度の範囲内((Tg1+60℃)〜(Tg2+60℃))で延伸処理されてなることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の二軸延伸熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項9】
フィルム長手方向および幅方向の少なくとも一方向の引張破断強度が80〜300MPaであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の二軸延伸熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の二軸延伸熱可塑性樹脂フィルムを賦形した成形体。

【公開番号】特開2009−179766(P2009−179766A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22245(P2008−22245)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】