説明

二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムおよびその製造方法

【課題】 ポリフェニレンスルフィドの優れた特性を維持しながら熱寸法安定性および破断伸度を改善し加工性に優れ、電気絶縁用、太陽電池用、包装用、インクリボン用、回路基板用、コンデンサー用などの各種工業材料用フィルムに好適に使用できる二軸配向フィルムを提供する。
【解決手段】 ポリフェニレンスルフィド樹脂にエチレンテレフタレート単位を主成分するポリエステル樹脂をポリフェニレンスルフィド樹脂重量とポリエステル樹脂重量の和を100重量%としたとき0.1重量%以上8重量%以下含有し、かつ、フィルムの長手方向および幅方向の破断伸度が70%以上であることを特徴とする二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
優れた耐熱性、耐加水分解性、バリア性、耐薬品性、電気絶縁性などを有するポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略すこともある)はエンジニアリングプラスチックとしては好適な性質を有しており、各種電気・電子部品、機械部品および自動車部品などに使用されている。しかしながら、PPSは靱性が不足しており加工時に曲げなどを必要とする給湯器モーター用電気絶縁材料や、ハイブリッド車などに使用されるカーエアコン用モーターや駆動モーター用などの電気絶縁材料用途などでは破断伸度が十分とはいえず、また、加工時に割れの発生があるといった靱性の不足も指摘されておりその用途展開には限界があるのが現状である。また、太陽電池バックシートや回路基板の用途といった異素材と貼り合わせて使用する用途では、寸法安定性の向上が要求されており、その改善が求められているが、未だこの要求に応えるPPSフィルムは無かった。
【0003】
また、PPSの結晶融解温度は280℃と高温であるため、製膜する際には十分な流動性を持たせるために溶融押出の際の加熱温度を320℃以上の高温とする必要があり、多くのエネルギーを必要とするため、環境的観点からエネルギー消費量の少ない製膜法が求められている。
【0004】
PPS樹脂に他の樹脂を混合せしめて、その性能改善をはかる試みは幾つか知られている。
【0005】
例えば、特許文献1ではPPSにポリエチレンテレフタレート(以下PETと略す)をブレンドし熱寸法安定性の向上したPPSフィルムが提案されているが、PETの含有量が多いために溶融押出の際の加熱温度を下げることはできず、このため、PETの熱分解を誘発してその機械特性は十分なものではなく、また、寸法安定性も不十分なものであった。また特許文献2ではPPS中にPETを微分散し、両相連続構造を形成させることで靱性の向上がなされた例が知られている。しかし、これもPETの含有量が多いために前記例と同様の問題を抱えていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−88954号公報
【特許文献2】特開2004−231909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題とするところは、PPSの優れた特性を維持しながら熱寸法安定性および破断伸度を改善し加工性を向上した二軸配向PPSフィルムを提供するところにある。また、環境にも優しいPPSフィルムの製造を行う手段を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するため、本発明は以下の構成を有する。すなわち、ポリフェニレンスルフィド樹脂にエチレンテレフタレート単位を主成分とするポリエステル樹脂をポリフェニレンスルフィド樹脂重量と該ポリエステル樹脂重量の和を100重量%としたとき0.1重量%以上8重量%以下含有し、かつ、フィルムの長手方向および幅方向の破断伸度が70%以上である二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルム、であることを骨子とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、PPSの優れた特性を維持しながら熱寸法安定性および破断伸度を改善し、加工性を向上させることができるので、電気絶縁用、太陽電池用、包装用、インクリボン用、回路基板用、コンデンサー用などの各種工業材料用フィルム、詳しくは、給湯器モーター用電気絶縁材料や、ハイブリッド車などに使用されるカーエアコン用モーターや駆動モーター用などの電気絶縁材料、また異素材との貼り合わせで使用される太陽電池バックシートや回路基板用フィルムとして好適に使用できる。また、溶融押出時の流動性を改善し、溶融押出の際の温度も300℃以下とすることができるので、環境にも優しい。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の二軸配向積層フィルムについて説明する。
【0011】
本発明の二軸配向PPSフィルムはポリフェニレンスルフィド樹脂重量とポリエステル樹脂重量の和を100重量%としたときエチレンテレフタレート単位を主成分とするポリエステル樹脂が0.1重量%以上8重量%以下含有されたものである。
【0012】
本発明者らは、PPS樹脂とエチレンテレフタレート単位を主成分とするポリエステル樹脂の混合物の溶融流動特性を研究している中で、非常に興味深い事実を発見した。すなわち、該ポリエステルの含有量を0重量%から次第に高めてゆくと溶融粘度は低下傾向を示し、含有量が3%を超えた時点で反転上昇し、含有量が10%を超えると当初のPPSの溶融粘度は下回るもののほとんど当初のPPSの溶融粘度程度の流動性しか示さないという現象である。すなわち、含有量が10%を超えたところでは安定的に製膜するためには320℃程度の加熱が必要である。溶融粘度の低下はより低い温度での押出成形が可能となることを意味する。また、驚くべきことに、前記ポリエステルの含有量がポリフェニレンスルフィド樹脂重量とポリエステル樹脂重量の和を100重量%としたとき0.1重量%以上8重量%以下の範囲であるときは、破断伸度および熱寸法安定性の改善されたフィルムを得ることができ、成形加工に好適であるということを見出したのである。
【0013】
この理由は明らかではないが、PPS分子間にエチレンテレフタレート単位を主成分とするポリエステルが入り込み樹脂組成物を可塑化し流動化していると推測している。エチレンテレフタレート単位を主成分とするポリエステル樹脂の含有量が0.1重量%より少ないと流動性は良くなく、また、ポリエステル樹脂の物性への寄与は小さいためにフィルム物性としても十分なものは得られない。また、8重量%より多い場合にも流動性の改善をはかることはできず、このため高い温度での溶融押出を余儀なくされて、ポリエステルの熱分解が進行し機械特性の低下や製膜時の破れを誘発したり、また、PPSの特性(耐薬品性や耐熱性や難燃性など)をポリエステルが希釈してしまうためにフィルム物性としても十分なものは得られない。エチレンテレフタレート単位を主成分とするポリエステル樹脂の含有量は、給湯器モーター用電気絶縁材料や、ハイブリッド車などに使用されるカーエアコン用モーターや駆動モーター用などの電気絶縁材料の加工時に割れを抑制させる観点から、より好ましくは0.1重量%以上5重量%未満、更に好ましくは0.5重量%以上5重量%未満である。
【0014】
本発明においてPPS樹脂とエチレンテレフタレート単位を主成分とするポリエステル樹脂との混合物の溶融粘度は、温度290℃で剪断速度100sec−1のもとで、100〜700Pa・sの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは200〜500Pa・sの範囲である。
【0015】
本発明において、ポリフェニレンスルフィド樹脂にエチレンテレフタレート単位を主成分とするポリエステル樹脂を含有せしめる時期は、特に限定されないが、ポリフェニレンスルフィドとエチレンテレフタレート単位を主成分とするポリエステルの混合物を予備溶融混練(ペレタイズ)してマスターチップ化する方法や、溶融押出時に混合して溶融混練させる方法などがある。予備溶融混練を行うと高い分散性を実現できるので、二軸押出機などのせん断応力のかかる高せん断混合機を用いて予備混練してマスターチップ化する方法が好ましく例示される。特に、溶融押出前に、ポリフェニレンスルフィドとエチレンテレフタレート単位を主成分とするポリエステルの混合物を予備溶融混練(ペレタイズ)してマスターチップ化する方法が好ましい。
【0016】
本発明の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムに用いるPPSとは、ポリマーの主要構成単位として下記構造式で示されるp−フェニレンスルフィド単位を好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上含むポリマーである。p−フェニレンスルフィド成分が80モル%未満では、ポリマーの結晶性や熱転移温度などが低く、PPSの特徴である耐熱性、寸法安定性、機械特性および誘電特性などを損なうことがある。
【0017】
【化1】

【0018】
上記PPS樹脂において、繰り返し単位の20モル%未満、好ましくは10モル%未満であれば、共重合可能な他のスルフィド結合を含有する単位が含まれていても差し支えない。そのような単位としては、例えば、3官能の単位、エ−テル単位、スルホン単位、ケトン単位、メタ結合単位、アルキル基などの官能基を有するアリ−ル単位、ビフェニル単位、タ−フェニレン単位、ビニレン単位およびカーボネート単位などが例として挙げられ、具体例として、下記の構造単位を挙げることができる。これらのうち一つまたは二つ以上共存させて構成することができる。この場合、該構成単位は、ランダム型またはブロック型のいずれの態様で含まれてよい。
【0019】
【化2】

【0020】
実質的にp−フェニレンスルフィドのみからなるPPS、もしくは3官能成分が1モル%以下含有され99モル%以上がp−フェニレンスルフィドからなるPPSを用いることがコスト、製膜性、特に高温でのフィルム性能などの観点から好ましい。なお、この場合、PPS樹脂の融点は280〜290℃、ガラス転移温度は90〜95℃に観察される。
【0021】
本発明においてPPSの溶融押出時の樹脂流動性を改善し、フィルム加工性を向上する観点から、ポリフェニレンスルフィド樹脂重量とポリエステル樹脂重量の和を100重量%としたとき、該ポリフェニレンスルフィド樹脂中には共重合ポリフェニレンスルフィド樹脂が30重量%以上含有されていることが好ましい。より好ましくは50重量%以上含有されており、さらに好ましくは70重量%以上含有されている。、共重合ポリフェニレンスルフィド樹脂の含有量の上限は99.9重量%とするものである。本発明にいう共重合ポリフェニレンスルフィド樹脂とは、p−フェニレンスルフィドユニットとp−フェニレンスルフィド以外のフェニレンスルフィドユニット、つまり、m−フェニレンスルフィドユニット若しくはo−フェニレンスルフィドユニットとが共重合されて得られた樹脂をいい、かかる共重合ポリフェニレンスルフィド樹脂は、実質的にp−フェニレンスルフィドのみからなるPPSに比べ融点が低いことから、ポリフェニレンスルフィド樹脂重量とポリエステル樹脂重量の和を100重量%としたとき共重合ポリフェニレンスルフィドを本発明の好ましい範囲で混合することによりポリフェニレンスルフィド樹脂マトリックス自体の融点を効果的に低温化することができ、結果、溶融押出温度を低下させることが可能となる。また、共重合ポリフェニレンスルフィド樹脂が含有されることで破断伸度が向上しやすくなる。この理由は明らかではないが、共重合フェニレンスルフィドの骨格がp−フェニレンスルフィド骨格に比べ屈曲しているため分子鎖絡まり合いが増加し、引張試験時の分子鎖すり抜けが実質的にp−フェニレンスルフィドのみからなるPPSに比べ抑制される効果で伸度が向上しているものと推測している。
【0022】
他方、共重合ポリフェニレンスルフィドが30重量%未満ではポリフェニレンスルフィド樹脂マトリックス自体の融点を低温化させる効果が小さく、また破断伸度の改善が得られ難い場合がある。共重合単位として好ましくは、m−フェニレンスルフィド単位であり、該単位の共重合量は、3モル%以上50モル%以下が好ましく、より好ましくは5モル%以上30モル%以下であり、さらに好ましくは8モル%以上15モル%以下である。かかる共重合成分が3モル%未満では融点が高く、50モル%を超えると、ポリフェニレンスルフィド樹脂の特徴である耐熱性が著しく低下する場合がある。
【0023】
本発明に用いるPPS樹脂は種々の方法、例えば、特公昭45−3368号公報に記載される比較的分子量の小さな重合体を得る方法、あるいは、特公昭52−12240号公報や特開昭61−7332号公報に記載される比較的分子量の大きい重合体を得る方法などによって製造することができる。
【0024】
本発明においては、PPS樹脂を、空気中加熱による架橋/高分子量化、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下での熱処理、有機溶媒、熱水および酸水溶液などによる洗浄、酸無水物、アミン、イソシアネ−トおよび官能基ジスルフィド化合物などの官能基含有化合物による活性化など、種々の処理を施した上で使用することも可能である。
【0025】
次に、PPS樹脂の製造法を例示するが、本発明では特にこれに限定されない。例えば、硫化ナトリウムとp−ジクロロベンゼンをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)などのアミド系極性溶媒中で、高温高圧下で反応させる。必要に応じて、トリハロベンゼンなどの共重合成分を含ませることも可能である。重合度調整剤として苛性カリやカルボン酸アルカリ金属塩などを添加し230〜280℃で重合反応させる。重合後にポリマを冷却し、ポリマを水スラリーとしてフィルターで濾過後、粒状ポリマを得る。これを酢酸もしくは酢酸塩などの水溶液中で30〜100℃、10〜60分攪拌処理し、イオン交換水にて30〜80℃で数回洗浄、乾燥してPPS粉末を得る。この粉末ポリマを酸素分圧10ト−ル以下、好ましくは5ト−ル以下でNMPにて洗浄後、30〜80℃のイオン交換水で数回洗浄し、5ト−ル以下の減圧下で乾燥する。かくして得られたポリマ−は、実質的に線状のPPSポリマ−であるので、安定した延伸製膜が可能になる。もちろん必要に応じて、他の高分子化合物や酸化珪素、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、架橋ポリエステル、架橋ポリスチレン、マイカ、タルクおよびカオリンなどの無機や有機化合物や熱分解防止剤、熱安定剤および酸化防止剤などを添加してもよい。
【0026】
次に、本発明に用いる、エチレンテレフタレート単位を主成分とするポリエステルとは、エチレンテレフタレート単位を少なくとも70モル%以上含有するポリエステルである。望ましくは、エチレンテレフタレート単位を80モル%以上含有するポリエステルである。30モル%未満は他の酸成分あるいは他のグリコール成分などから形成される単位を含むことが一般的であるが、p−ヒドロキシ安息香酸、m−ヒドロキシ安息香酸、2,6−ヒドロキシナフトエ酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸およびp−アミノフェノール、p−アミノ安息香酸などを本発明の効果を損なわない限り含むこともできる。
【0027】
本発明に用いられるエチレンテレフタレート単位を主成分とするポリエステルの固有粘度(IV)は、製膜安定性と、PPSとの混練のしやすさの観点から、好ましくは0.55〜2.0dl/g、より好ましくは0.6〜1.4dl/gである。
【0028】
以下に、本発明に用いるポリエステル樹脂を得る具体例を示すが、本発明はこれら説明によって限定して解釈されるものではない。
【0029】
ジカルボン酸もしくはそのエステル誘導体と、エチレングリコール等のグリコール成分とを、酢酸マグネシウムなどのエステル化あるいはエステル交換触媒の存在下、加熱溶解して常法によりエステル化もしくはエステル交換反応する。エチレンフタレート単位の量を所望の範囲とするには原料の配合を調整することが簡便である。エステル化もしくはエステル交換反応の終了後、2酸化ゲルマニウムなどの金属化合物触媒及び/又はリン酸トリメチルなどのリン化合物を添加し、次いで加熱昇温しながら反応系を徐々に減圧して1mmHg以下の減圧下、290℃で常法により重合反応を進め、固有粘度が0.5dl/g程度のエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルを得る。本発明ではフィルムの固有粘度を0.6dl/g以上とすることで製膜性を安定化させる観点から、得られた固有粘度が0.5程度のポリエステル樹脂をチップ状で、あらかじめ180℃以下の温度で予備結晶化させた後、190〜250℃で1torr程度の減圧下、10〜40時間固相重合させ、固有粘度が0.6dl/g〜2.0dl/gとしたポリエステルチップを得ることが好ましい。固相重合温度、および固相重合時間の条件は、ポリエステルに添加する金属化合物の種類および量、リン化合物の種類および量、固有粘度などにより適宜変更することができる。本発明では、あらかじめ180℃以下の温度で予備結晶化させた後、190〜250℃で1torr程度の減圧下、10〜35時間固相重合するのが好ましい。また、重縮合反応における重合触媒としては、通常のポリエステルの重合触媒を適宜使用することができる。例えば、3酸化アンチモン等のアンチモン系、2酸化マンガン等のマンガン系、2酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム系、各種チタン系、アルミニウム系化合物が挙げられる。
【0030】
粒子を添加する際には、例えば、粒子を合成時に得られる水ゾルやアルコールゾルをいったん乾燥させることなく添加すると粒子の分散性がよい。また、粒子の水スラリーをポリエステルに添加し、ベント式2軸混練押出機を用いて、ポリエステルに練り込む方法も有効である。粒子の含有量、個数を調節する方法としては、上記方法で高濃度の粒子のマスターを作っておき、それを製膜時に粒子を実質的に含有しないポリエステルで希釈して粒子の含有量を調節する方法が有効である。
【0031】
本発明の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの長手方向および幅方向の破断伸度が70%以上である。かかるフィルムとすることで、給湯器モーター用電気絶縁材料や、ハイブリッド車などに使用されるカーエアコン用モーターや駆動モーター用などの電気絶縁材料の加工時に割れを抑制することができる。長手方向および幅方向の破断伸度は、好ましくは80%以上であり、より好ましく100%以上である。フィルムの長手方向および幅方向の破断伸度が70%未満の場合は、例えば、モーター絶縁用として用いた場合、屈曲性を必要とするスロットライナーやウェッジの挿入加工工程において靱性が不足し割れや、クラックを生じるなど問題が発生しやすい。破断伸度の上限は特に限定されるものではないが200%とする。破断伸度を200%以上とすることは、製膜時の延伸倍率を極めて低倍率にする必要を生じる場合があり、分子鎖の配向性が弱くなるため延伸工程でフィルムの平面性が悪化するおそれがあるからである。破断伸度を70%以上とするためには、後でも述べるが、例えば、製膜時における溶融押出時の最大温度を300℃以下として溶融押出し、さらに二軸延伸した後の熱固定を240℃以上280℃以下の温度で施す方法によって達成することができる。
【0032】
本発明の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは150℃、30分間加熱したときのフィルムの長手方向および幅方向の熱収縮率の和が2.5%以下であることが好ましい。より好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.5%以下である。長手方向および幅方向の熱収縮率の和が2.5%を越える場合、例えば、異素材との貼り合わせで使用される太陽電池バックシートや回路基板用など、製造工程及び使用時の高温環境などに曝される用途には反り返り(カール)が生じ、寸法安定性が不適なものとなる場合がある。このような熱収縮率の範囲を達成するためには、延伸倍率・延伸温度および延伸後の熱処理条件を適宜調節することにより達成することができ、後でも述べるが、二軸延伸した後の熱固定を240℃以上280℃以下の温度で施すことが好ましい方法である。
【0033】
本発明の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは、フィルムに滑り性や耐摩耗性や耐スクラッチ性を付与したり、加工適性を向上するために、有機または無機の粒子を含有させることができる。粒子としては例えば酸化チタン、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナやジルコニアなどの無機粒子やシリコーン粒子、架橋アクリル粒子や架橋ポリスチレン粒子などの有機粒子などの不活性粒子を例示でき、またポリマーの重合時に酢酸カルシウムや酢酸リチウムなどを使用し、ポリマーの重合過程で粒子を析出させることも可能である。
【0034】
本発明の二軸配向積層フィルムの厚みは、目的に応じて適宜決定できるが、10μm以上、500μm以下であり、好ましくは、25μm以上、350μm以下である。フィルムの厚みが10μm未満では、フィルム全体の強度が不足しハンドリング性が悪化したり、例えば、モーター絶縁用として用いた場合は電気絶縁性が不足し、一方、500μmを越えると、フィルムが堅くなり加工が困難となるので注意すべきである。
【0035】
また、本発明の目的を阻害しない範囲内において、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、顔料、染料、脂肪酸エステルおよびワックスなどの有機滑剤などが添加されてもよい。
【0036】
さらに、本発明の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは、本発明の目的を阻害しない範囲において、熱処理、成形、表面処理、ラミネート、コーティング、印刷、エンボス加工およびエッチングなどの加工を行ってもよい。
【0037】
次いで、本発明の二軸配向フィルムを製造する方法について、具体的に例を挙げて説明するが、本発明は、この説明によって限定して解釈されないことは無論である。
【0038】
エチレンテレフタレートを主成分とするポリエステル樹脂を得る方法の例は先に説明したとおりである。
【0039】
PPS樹脂は、例えば、硫化ナトリウムとp−ジクロロベンゼンをN-メチル-2ーピロリドン(NMP)などのアミド系極性溶媒中で、高温高圧下で反応させて得ることができる。必要に応じて、トリハロベンゼンなどの共重合成分を含ませることも可能である。重合度調整剤として苛性カリやカルボン酸アルカリ金属塩などを添加することもでき、230〜280℃で反応を行う。重合後にポリマーを冷却し、ポリマーを水スラリーとしてフィルターで濾過後、粒状ポリマーを得る。これを酢酸塩などの水溶液中で30〜100℃、10〜60分攪拌処理し、イオン交換水にて30〜80℃で数回洗浄、乾燥してPPS粉末を得る。この粉末ポリマーを酸素分圧10トール以下、好ましくは5トール以下でNMPにて洗浄後、30〜80℃のイオン交換水で数回洗浄し、5トール以下の減圧下で乾燥する。かくして得られたポリマーは、実質的に線状のPPSポリマーであるので、安定した製膜や延伸が可能になる。また、必要に応じて、他の高分子化合物や酸化珪素、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、架橋ポリエステル、架橋ポリスチレン、マイカ、タルクおよびカオリンなどの無機や有機化合物や熱分解防止剤、熱安定剤および酸化防止剤などを添加してもよい。
【0040】
次いで、PPS樹脂とエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステル樹脂とのマスターペレットの製造方法を以下に述べる。まず、エチレンテレフタレートを主成分とするポリエステル樹脂を結晶化温度以上融点以下、好ましくは140〜200℃の温度で2〜5時間減圧乾燥する。PPSは特に乾燥しなくても構わないが、表面の吸着水を除去する目的で、エチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルと同等条件で乾燥しても構わない。乾燥したエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステル樹脂とPPS樹脂をブレンドし、270℃〜320℃に加熱されたベント式二軸押出機に供給する。二軸押出機のスクリュー構成は、パドルやダルメージなどからなるニーディングゾーンを備えていることが好ましい。剪断速度は50〜400sec−1が好ましく、より好ましくは100〜300sec−1である。剪断速度が50sec−1以下であると十分な分散状態が得られず、剪断速度が300sec−1を越えると、剪断発熱の発生などにより温度制御が困難となるばかりでなく、ポリマーの分解を引き起こす可能性がある。混練ポリマーの滞留時間は0.5〜10分であることが好ましく、より好ましくは1〜5分である。滞留時間が0.5分未満であると十分な分散状態が得られず、10分を超えるとポリマーの分解を引き起こす可能性がある。また、この混練工程において分散性を向上させる目的で分散剤を共に配合・分散させてもよい。
【0041】
かくして得られたPPS/エチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルのマスターチップを180℃で3時間以上真空乾燥し、270〜300℃の温度に加熱された押出機に投入する。本発明においては、押出機の溶融押出の際の加熱温度は300℃以下とすることが肝要である。加熱温度が300℃を超える場合にはエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステル樹脂の劣化の進行を招き破断伸度の低下を招いたり、分解物が発生しフィルム内部に欠点異物となり品質の悪化および製膜時の破れを生じやすくなる。
【0042】
押出機を経た溶融ポリマーをフィルターに通過させ、Tダイの口金を用いてシート状に吐出する。このシート状物を表面温度20〜60℃の冷却ドラム上に密着させて冷却固化し、実質的に無配向状態の未延伸フィルムを得る。
【0043】
次に、この未延伸フィルムを二軸延伸する。延伸方法としては、逐次二軸延伸法(長手方向に延伸した後に幅方向に延伸を行う方法などの一方向ずつの延伸を組み合わせた延伸法)、同時二軸延伸法(長手方向と幅方向を同時に延伸する方法)、又はそれらを組み合わせた方法を用いることができる。
【0044】
具体例として逐次二軸延伸法を挙げて説明すると、逐次二軸延伸は、未延伸フィルムを加熱ロール群で加熱し、延伸倍率は長手方向(MD方向)に3.0〜4.5倍、好ましくは3.1〜4.0倍、さらに好ましくは、3.2〜3.8倍に1段もしくは2段以上の多段で延伸する(MD延伸)。延伸温度は、Tg(エチレンテレフタレート単位を主成分するポリエステル樹脂を含んだPPS樹脂のガラス転移温度)〜(Tg+50)℃、好ましくは(Tg+2)〜(Tg+40)℃の範囲である。本発明のフィルムの場合、延伸温度は、90℃〜135℃であり、より好ましくは、92℃〜125℃である。その後20〜50℃の冷却ロール群で冷却する。
【0045】
MD方向の延伸に続く幅方向(TD方向)の延伸は、例えば、テンターを用いる方法が一般的である。このフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、幅方向の延伸を行う(TD延伸)。延伸温度はTg(エチレンテレフタレート単位を主成分するポリエステル樹脂を含んだPPS樹脂のガラス転移温度)〜(Tg+50)℃が好ましく、より好ましくは(Tg+2)〜(Tg+40)℃の範囲である。本発明のフィルムの場合、延伸温度は90℃〜135℃であり、より好ましくは、92℃〜125℃である。延伸倍率は3.0〜4.5倍、好ましくは3.1〜4.0倍、さらに好ましくは、3.2〜3.8倍の範囲である。延伸後の平面性および加工性および熱寸法安定性を向上させる観点から面積倍率(MD方向の延伸倍率とTD方向の延伸倍率の積)8倍以上、15倍以下が好ましく、9倍以上、14倍以下がより好ましい。面積延伸倍率が8倍未満の場合、延伸時の分子鎖の配向性が弱く熱処理後に平面性の劣ったフィルムとなる場合がある。他方、面積延伸倍率が16倍を超える場合、製膜時の延伸倍率を極めて高倍率にする必要を生じる場合があって、フィルムの破断伸度が低下するため加工性向上の効果および熱寸法安定性の効果が得られ難く、また延伸工程でフィルムが破断するおそれがある。
【0046】
次に、この延伸フィルムを緊張下で熱固定する。本発明の二軸配向フィルムは延伸後の熱固定温度を通常PETの製膜では採り得ないPETの融点近傍の温度から、それを越える領域すなわちPPSの融点以下で実施することが肝要であり、熱固定温度は240〜280℃の範囲である。熱固定温度は好ましくは245℃〜275℃であり、さらに好ましくは250℃〜270℃である。延伸後の熱固定温度が240℃未満の場合、融点が250℃近傍のPETの緊張非晶鎖および結晶構造の融解が不十分となり破断伸度の向上が得られ難い。また融点が285℃と高いPPSの結晶構造が不十分なため熱寸法安定性の向上が得られ難く寸法安定性が不十分なフィルムとなる場合がある。
【0047】
熱固定に次いで、さらにこのフィルムを40〜230℃、より好ましくは延伸温度以上熱固定温度以下の温度ゾーンで幅方向に弛緩処理する。弛緩率は1〜10%であることが好ましく、より好ましくは2〜9%、さらに好ましくは4〜8%の範囲である。
【0048】
さらに、フィルムを室温まで、必要ならば、長手および幅方向に弛緩処理を施しながら、フィルムを冷やして巻き取り、目的とする二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得る。
【実施例】
【0049】
本発明の特性値の測定方法ならびに効果の評価方法は次の通りである。
【0050】
(1)溶融粘度
フローテスターCFT−500(島津製作所製)を用いて、口金長さを10mm、口金径を1.0mmとして、予熱時間を5分に設定して、温度290℃、せん断速度100sec−1の条件で測定した。
【0051】
(2)フィルム厚み
アンリツ(株)製電子マイクロメーター(K−312A型)を用いて、針圧30gにてフィルム厚みを測定した。
【0052】
(3)フィルムのガラス転移温度(Tg)、融解温度(Tm)
JIS K7121―1987に準じて測定した。示差走査熱量計セイコーインスツルメンツ社製DSC(RDC220)、データ解析装置として同社製ディスクステーション(SSC/5200)を用いて、試料5mgをアルミニウム製受皿上350℃で5分間溶融保持し、急冷固化した後、室温から昇温速度20℃/分で昇温した。そのとき、観測される融解の吸熱ピークのピーク温度を融解温度(Tm)とした。なお、ガラス転移温度(Tg)は下記式により算出した。
ガラス転移温度=(補外ガラス転移開始温度+補外ガラス転移終了温度)/2。
【0053】
(4)破断伸度
フィルム長手方向および幅方向について、それぞれ長さ200mm、幅10mmの短冊状のサンプルを切り出して測定に供した。ASTM−D882−97に規定された方法に従って、引っ張り試験器を用いて25℃、65%RHにて破断伸度を測定した。初期引っ張りチャック間距離は100mmとし、引っ張り速度は300m/分とした。測定はサンプルを変更して20回行い、その破断伸度の平均値(X)を求めた。
【0054】
(5)150℃熱収縮率
JIS C2318(1997)に従って、フィルム表面に、幅10mm、測定長約200mmとなるように2本のラインを引き、この2本のライン間の距離を正確に測定しこれをL0とする。このフィルムサンプルを100℃あるいは150℃のオーブン中に30分間、無荷重下で放置した後、再び2本のライン間の距離を測定しこれをL1とし、下式により熱収縮率を求める。
熱収縮率(%)={(L0−L1)/L0}×100。
【0055】
(6)難燃性
縦200mm×横50mmのフィルムの縦方向下端から125mmの位置に横方向の標識線を入れ、12.7mmφのマンドレルに巻きつけ、長さ200mmの円筒状にする。この円筒状フィルムの標識線(円筒の下端から125mmに位置する)と円筒の上端との間の部分(長さ75mm)における重なり端をセロテープ(登録商標)止めした後、マンドレルを抜き取り円筒状のフィルムサンプルを作る。
この円筒状サンプルの上部開口をクリップで封じ、縦軸を垂直にして、円筒状サンプルの下端がバーナーから9.5mm上方にあるような位置に固定する。バーナーを調節して19mm長さの青炎とし、この青炎を3秒間サンプル下端に接炎して火をつけ燃焼させる20。火が消えたら直ちに、再び同じようにして接炎して第2回目燃焼させる。2回の接炎により燃焼させた時の燃焼時間を測定して次の基準により判定した。なお、燃焼テストは、1本のサンプルで2回接炎による燃焼時間を各接炎毎に測定することを、5本のサンプルについて行なった。合計10回の接炎燃焼時間により、次の基準で判定した。なお、5本のテストの内、1本でも125mmの標識線まで燃えた場合の難燃性は×とした。◎と○が合格、×が不合格である。
(難燃性判定基準)
◎:毎回炎をあてた後の燃焼時間が10秒未満であり、かつ、10回の接炎で燃焼する時間の合計が50秒以下であるもの。
【0056】
○:上記◎判定基準を満足できないもので、毎回炎をあてた後の燃焼時間が30秒未満であり、かつ、10回の接炎で燃焼する時間の合計が200秒未満であるもの。
【0057】
×:1本でも標識線まで燃えた場合。または、毎回炎をあてた後の燃焼時間が30秒以上であるか、または10回の接炎で燃焼する時間の合計が200秒以上であるもの。
【0058】
(7)成形加工性
モーター加工機(小田原エンジニアリング社製)を用いて、フィルムを12×80mmのサイズ(フィルムの長手方向を80mmとした)に打ち抜き、さらに折り目をつける加工をトータルの加工速度2個/秒の速度で1,000個のサンプルを作製し、割れや亀裂の発生数を数えて、以下のように判断した。◎◎、◎、○が合格、×が不合格である。
◎◎:割れや亀裂が発生したサンプル数が25個未満
◎:割れや亀裂が発生したサンプル数が25個以上50個未満
○:割れや亀裂が発生したサンプル数が50個以上200個未満
×:割れや亀裂が発生したサンプル数が200個以上。
【0059】
(8)フィルム表面の欠点異物
フィルム表面にアルミニウム蒸着を行い、位相差顕微鏡を用いて250倍で観察して、そこに見られる2μm以上の粗大突起の数を欠点異物とし、以下の基準で写真判定した。◎、○が合格、×が不合格である。
◎:粗大突起が2個/10cm未満
○:粗大突起が2個以上7個/10cm未満
×:粗大突起が7個/10cm以上。
【0060】
(8)製膜安定性
ポリフェニレンスルフィドフィルムの製造を行った際、フィルムの破断を生じることなく製膜できた時間を以下の基準で判定した。
◎:2時間を超えて破れなし
○:2時間で破れ発生が2回以下
×:2時間で3回以上の破れが発生。
【0061】
(9)寸法安定性
A.銅箔貼り積層板の作製
サンプルフィルムの表面にコロナ放電処理の表面活性処理を施し、幅20cm、長さ30cmの大きさにフィルムサンプルを裁断して、厚さ12μmの圧延銅箔を積層して窒素雰囲気下で270℃、5MPaの条件で20分間の加熱プレスキュアを実施して銅貼板とした後、銅箔をエッチング加工してモデルパターンの電気回路を形成した。室温まで冷却後以下の評価を実施した。
【0062】
B.回路基板サンプルの寸法安定性(耐カール性評価)
回路基板サンプルを平面台に置き、サンプル端面の浮き上がり(カール)を測定し以下の基準で評価した。浮き上がりが少ないサンプルが多いほど回路基板としての寸法安定性が良好であり、◎、○が合格、×が不合格である。
【0063】
◎:各々のサンプルの4つの角のうち、最も浮き上がりが大きい部分の浮き上がり高さが10mm以下であるサンプルが100枚の内90枚以上である。
【0064】
○:各々のサンプルの4つの角のうち、最も浮き上がりが大きい部分の浮き上がり高さが10mm以下であるサンプルが100枚の内70〜89枚である。
【0065】
×:各々のサンプルの4つの角のうち、最も浮き上がりが大きい部分の浮き上がり高さが10mm以下であるサンプルが100枚の内70枚未満である。

以下に、本発明の具体的な実施例を比較例と比較しながら説明する。
【0066】
(参考例1)ポリ−p−フェニレンスルフィド(PPS)の製造
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8267.37g(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2957.21g(70.97モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11434.50g(115.50モル)、酢酸ナトリウム2583.00g(31.50モル)、及びイオン交換水10500gを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14780.1gおよびNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0067】
次に、p−ジクロロベンゼン10235.46g(69.63モル)、NMP9009.00g(91.00モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で238℃まで昇温した。238℃で95分反応を行った後、0.8℃/分の速度で270℃まで昇温した。270℃で100分反応を行った後、1,260g(70モル)の水を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後200℃まで1.0℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷した。
【0068】
内容物を取り出し、26300gのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別し、得られた粒子を31900gのNMPで洗浄、濾別した。これを、56000gのイオン交換水で数回洗浄、濾別した後、0.05重量%酢酸カルシウム水溶液70000gで洗浄、濾別した。70000gのイオン交換水で洗浄、濾別した後、得られた含水PPS粒子を80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。得られたPPS樹脂は、溶融粘度が2000ポイズ(310℃、剪断速度1000sec−1)であり、ガラス転移温度が90℃、融点が285℃であった。
【0069】
(参考例2)ポリエチレンテレフタレート(PET)の製造
ジメチルテレフタレートとエチレングリコールの混合物に、ジメチルテレフタレートに対して、酢酸カルシウム0.09重量%と三酸化アンチモン0.03重量%とを添加して、常法により加熱昇温してエステル交換反応を行った。次いで、得られたエステル交換反応生成物に、原料であるジメチルテレフタレートに対して、酢酸リチウム0.15重量%とリン酸トリメチル0.21重量%とを添加した後、重合反応槽に移行し、次いで加熱昇温しながら反応系を徐々に減圧して1mmHgの減圧下、290℃で常法により重合し、固有粘度0.54dl/gのポリエチレンテレフタレート(PET)を得た。得られたPETポリマーを回転型真空固相重合装置を用いて、1mmHg以下の減圧下、225℃の温度で20時間加熱処理し、固有粘度0.70dl/gのPETポリマーを得た。
【0070】
(参考例3)共重合ポリフェニレンスルフィド(m−PPS)の製造
オートクレーブに100モルの硫化ナトリウム9水塩、45モルの水酸化ナトリウムおよび25リットルのN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPという)を仕込み、攪拌しながら徐々に220℃まで昇温し、含有されている水分を蒸留により除去した。脱水の終了した系内へ主成分モノマーとして86モル%のp−ジクロロベンゼン、副成分モノマーとして15モル%のm−ジクロロベンゼン、および0.2モル%の1,2,4−トリクロロベンゼンを5リットルのNMPとともに添加し、170℃で窒素を3kg/cm加圧封入後、昇温し、260℃にて4時間重合した。重合終了後、冷却し、蒸留水中にポリマーを沈殿させ、150メッシュ目開きを有する金網によって、小塊状ポリマーを採取した。このポリマーを90℃の蒸留水により5階洗浄した後、減圧下120℃にて乾燥して白色粒子状の共重合ポリフェニレンスルフィド(m−PPS)ポリマーを得た。得られたm−PPS樹脂は、溶融粘度が2000ポイズ(310℃、剪断速度1000/s)であり、ガラス転移温度が86℃、融点が260℃であった。
【0071】
(実施例1)
参考例1で得たPPS樹脂97重量%および参考例2で得たPET樹脂3重量%を、それぞれ150℃、133Pa以下の減圧下で4時間乾燥した後、280〜320℃に加熱された二軸三段タイプのスクリュー(PETとPPSの混練可塑化ゾーン/ダルメージ混練ゾーン/逆ネジダルメージによる微分散相容化ゾーンの構成)を具備したベント式二軸押出機(L/D=40、ベント真空度200Pa)に供給し、滞留時間3分にて溶融押出し、PETを3重量%含有したPPS/PETのマスターペレットを得た。
【0072】
次いで、得られたPPS/PETのマスターペレットを180℃で3時間減圧乾燥した後、押出機溶融部が300℃に加熱されたフルフライトの単軸押出機に供給した。溶融したポリマーを繊維焼結ステンレス金属フィルター(14μmカット)を通過させた後、温度295℃に設定したTダイの口金から溶融押出した後、表面温度25℃のキャストドラムに静電荷を印加させながら密着冷却固化し、未延伸フィルムを作製した。
この未延伸フィルムを、加熱された複数のロール群からなる縦延伸機を用い、ロールの周速差を利用して、98℃の温度でフィルムの長手方向に3.4倍の倍率で延伸した。その後、このフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、延伸温度100℃、延伸倍率3.5倍でフィルムの幅方向に延伸を行い、引き続いて温度260℃で8秒間の熱処理を行った後、160℃にコントロールされた冷却ゾーンで横方向に5%弛緩処理を行い室温まで冷却した後、フィルムエッジを除去し、厚さ125μmの二軸配向フィルムを得た。本実施例で得られた二軸配向フィルムの構成および特性は表1に示したとおりであり、溶融粘度の値から流動性が向上しており300℃の溶融押出温度においても安定した溶融押出および製膜が可能あり、フィルム特性においても難燃性を有しており熱寸法安定性および成形加工性が極めて優れたものであった。
【0073】
(比較例1)
参考例1で得たPPS樹脂100重量%を180℃で3時間減圧乾燥した後、押出機溶融部が320℃に加熱されたフルフライトの単軸押出機に供給した。溶融したポリマーを繊維焼結ステンレス金属フィルター(14μmカット)を通過させた後、温度310℃に設定したTダイの口金から溶融押出した後、表面温度25℃のキャストドラムに静電荷を印加させながら密着冷却固化し、未延伸フィルムを作製した以外は実施例1と同様にして二軸配向フィルムを得た。本比較例で得られた二軸配向フィルムの構成および特性は表2に示したとおりであり、溶融粘度が高いために、320℃にて溶融押出する必要があった。フィルム特性において難燃性は優れる一方で破断伸度が低いため成形加工性が不十分であり、熱収縮率が大きく熱寸法安定性が不十分なフィルムであった。
【0074】
(実施例2〜5)
PPS樹脂とPET樹脂の混合比率を表1に示した条件に変更した以外は、実施例1と同様にして二軸配向フィルムを得た。本実施例で得られた二軸配向フィルムの構成および特性は表1に示したとおりであり、いずれの実施例も300℃の溶融押出温度において安定した溶融押出および製膜が可能あった。フィルム特性について実施例2で得られた二軸配向フィルムは難燃性を有しており熱寸法安定性および成形加工性が極めて優れたものであった。実施例3で得られた二軸配向フィルムは難燃性を有しており成形加工性が極めて優れており、熱寸法安定性も有したものであった。実施例4で得られた二軸配向フィルムは難燃性および成形加工性が若干劣るが熱寸法安定性が極めて優れたものであった。実施例5で得られた二軸配向フィルムは難燃性が極めて優れる一方で熱寸法安定性および成形加工性は若干劣るが問題のないレベルであった。
【0075】
(比較例2、比較例3)
PPS樹脂とPET樹脂の混合比率を表2に示した条件に変更し、溶融押出条件として押出機溶融部が310℃に加熱されたフルフライトの単軸押出機に供給し、温度300℃に設定したTダイの口金から溶融押出した以外は、実施例1と同様にして二軸配向フィルムを得た。なお、本比較例の二軸配向フィルムの構成および特性は表2に示したとおりであり、溶融粘度が高いために、310℃以上での溶融押出を行う必要があり、製膜2時間の間に2回の破れが生じた。310℃の押出温度であったためPET分解物と推定する異物がフィルム表面に確認できた。比較例2で得られた二軸配向フィルムは難燃性が優れる一方で異物があるため破断伸度が低く成形加工性が不十分であり、熱収縮率が大きく寸法安定性が不十分なフィルムであった。また比較例3でで得られた二軸配向フィルムは寸法安定性が優れる一方で難燃性が不足しており、また異物があるため破断伸度が低く成形加工性が不十分なフィルムであった。
【0076】
(実施例6)
押出機溶融部が290℃に加熱されたフルフライトの単軸押出機に供給した。溶融したポリマーを繊維焼結ステンレス金属フィルター(14μmカット)を通過させた後、温度290℃に設定したTダイの口金から溶融押出した後、表面温度25℃のキャストドラムに静電荷を印加させながら密着冷却固化し、未延伸フィルムを作製した以外は、実施例1と同様にして二軸配向フィルムを得た。本実施例で得られた二軸配向フィルムの構成および特性は表1に示したとおりであり、290℃の溶融押出温度において安定した溶融押出および製膜が可能あり、フィルム特性においても難燃性を有しており熱寸法安定性および成形加工性が極めて優れたものであった。
【0077】
(実施例7、実施例8)
二軸延伸後の熱固定温度条件を表1に示した条件に変更した以外は、実施例1と同様にして二軸配向フィルムを得た。本実施例で得られた二軸配向フィルムの構成および特性は表1に示したとおりであり、いずれも300℃の溶融押出温度において安定した溶融押出および製膜が可能あった。フィルム特性において実施例7のフィルムは難燃性を有していたが、熱固定温度が240℃と低いため熱寸法安定性、成形加工性がともに若干劣るが問題のないレベルであった。一方、実施例8のフィルムは難燃性を有していたが、熱固定温度が280℃と高く熱寸法安定性に極めて優れるが、破断伸度が不足し成形加工性は若干劣るが問題のないレベルであった。
【0078】
(比較例4)
二軸延伸後の熱固定温度条件を表2に示した条件に変更した以外は、実施例1と同様にして二軸配向フィルムを得た。本比較例で得られた二軸配向フィルムの構成および特性は表2に示したとおりであり、本比較例で得られた二軸配向フィルムは熱固定温度が230℃と低いため破断伸度が低く成形加工性が不十分であり、熱収縮率が大きく熱寸法安定性の向上効果が不十分なフィルムであった。
【0079】
(実施例9)
参考例1で得たPPS樹脂67重量%および参考例2で得たPET樹脂3重量%、参考例3で得たm−PPS樹脂30重量%を、それぞれ150℃、133Pa以下の減圧下で4時間乾燥した後、280〜320℃に加熱された二軸三段タイプのスクリュー(PETとPPSの混練可塑化ゾーン/ダルメージ混練ゾーン/逆ネジダルメージによる微分散相容化ゾーンの構成)を具備したベント式二軸押出機(L/D=40、ベント真空度200Pa)に供給し、滞留時間3分にて溶融押出し、PETを3重量%含有したPPS/PETのマスターペレットを得た。
【0080】
次いで、得られたPPS/PETのマスターペレットを180℃で3時間減圧乾燥した後、押出機溶融部が290℃に加熱されたフルフライトの単軸押出機に供給した。溶融したポリマーを繊維焼結ステンレス金属フィルター(14μmカット)を通過させた後、温度285℃に設定したTダイの口金から溶融押出した後、表面温度25℃のキャストドラムに静電荷を印加させながら密着冷却固化し、未延伸フィルムを作製した。この未延伸フィルムを、加熱された複数のロール群からなる縦延伸機を用い、ロールの周速差を利用して、98℃の温度でフィルムの長手方向に3.4倍の倍率で延伸した。その後、このフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、延伸温度100℃、延伸倍率3.5倍でフィルムの幅方向に延伸を行い、引き続いて温度250℃で8秒間の熱処理を行った後、160℃にコントロールされた冷却ゾーンで横方向に5%弛緩処理を行い室温まで冷却した後、フィルムエッジを除去し、厚さ125μmの二軸配向フィルムを得た。本実施例で得られた二軸配向フィルムの構成および特性は表3に示したとおりであり、実施例1に比べ溶融粘度の値から流動性が向上しており290℃の溶融押出温度においても安定した溶融押出および製膜が可能あり、フィルム特性においても実施例1と同様レベルの難燃性、熱寸法安定性を有しており、成形加工性においては実施例1より優れたものであった。
【0081】
(実施例10)
参考例2で得たPET樹脂3重量%、参考例3で得たm−PPS樹脂97重量%を、それぞれ150℃、133Pa以下の減圧下で4時間乾燥した後、280〜320℃に加熱された二軸三段タイプのスクリュー(PETとPPSの混練可塑化ゾーン/ダルメージ混練ゾーン/逆ネジダルメージによる微分散相容化ゾーンの構成)を具備したベント式二軸押出機(L/D=40、ベント真空度200Pa)に供給し、滞留時間3分にて溶融押出し、PETを3重量%含有したPPS/PETのマスターペレットを得た。
【0082】
次いで、得られたPPS/PETのマスターペレットを180℃で3時間減圧乾燥した後、押出機溶融部が280℃に加熱されたフルフライトの単軸押出機に供給した。溶融したポリマーを繊維焼結ステンレス金属フィルター(14μmカット)を通過させた後、温度280℃に設定したTダイの口金から溶融押出した後、表面温度25℃のキャストドラムに静電荷を印加させながら密着冷却固化し、未延伸フィルムを作製した。この未延伸フィルムを、加熱された複数のロール群からなる縦延伸機を用い、ロールの周速差を利用して、90℃の温度でフィルムの長手方向に3.4倍の倍率で延伸した。その後、このフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、延伸温度95℃、延伸倍率3.5倍でフィルムの幅方向に延伸を行い、引き続いて温度245℃で8秒間の熱処理を行った後、160℃にコントロールされた冷却ゾーンで横方向に5%弛緩処理を行い室温まで冷却した後、フィルムエッジを除去し、厚さ125μmの二軸配向フィルムを得た。本実施例で得られた二軸配向フィルムの構成および特性は表3に示したとおりであり、実施例1に比べ溶融粘度の値から流動性が大幅に向上しており280℃の溶融押出温度においても安定した溶融押出および製膜が可能あり、フィルム特性においても実施例1と同様レベルの難燃性を有しており、成形加工性においては実施例1よりも優れたものであった。熱寸法安定性については若干劣るが問題のないレベルであった。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0086】
電気絶縁用、太陽電池用、包装用、インクリボン用、回路基板用、コンデンサー用などの各種工業材料用フィルム、詳しくは、給湯器モーター用電気絶縁材料や、ハイブリッド車などに使用されるカーエアコン用モーターや駆動モーター用などの電気絶縁材料、また異素材との張り合わせで使用される太陽電池バックシートや回路基板用フィルムとして好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンスルフィド樹脂にエチレンテレフタレート単位を主成分するポリエステル樹脂をポリフェニレンスルフィド樹脂重量とポリエステル樹脂重量の和を100重量%としたとき0.1重量%以上8重量%以下含有し、かつ、フィルムの長手方向および幅方向の破断伸度が70%以上であることを特徴とする二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルム。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂の含有量がポリフェニレンスルフィド樹脂重量とポリエステル樹脂重量の和を100重量%としたとき0.5重量%以上5重量%未満であることを特徴とする請求項1に記載の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルム。
【請求項3】
加熱条件を150℃、30分間としたときのフィルムの長手方向および幅方向の熱収縮率の和が2.5%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルム。
【請求項4】
ポリフェニレンスルフィド樹脂重量とポリエステル樹脂重量の和を100重量%としたとき、該ポリフェニレンスルフィド樹脂中に共重合ポリフェニレンスルフィド樹脂が30重量%以上含有されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の二軸配向二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルム。
【請求項5】
ポリフェニレンスルフィド樹脂とエチレンテレフタレート単位を主成分するポリエステル樹脂をポリエステル樹脂がポリフェニレンスルフィド樹脂重量とポリエステル樹脂重量の和を100重量%としたとき0.1以上8重量%以下含有するよう両樹脂を混合するステップと、該混合した樹脂を溶融押出時の最大加熱温度を300℃以下として溶融押出するステップと、溶融押出されたフィルムを長手方向および幅方向に二軸延伸するステップと、二軸延伸した後の熱固定を240℃以上280℃以下の温度で施すステップと、を有する二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2011−162771(P2011−162771A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292161(P2010−292161)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】