説明

二酸化チタン光触媒の製造方法、及びこれにより製造される二酸化チタン光触媒

【課題】本発明は、二酸化チタン光触媒の製造方法と、これにより製造される二酸化チタン光触媒に関するものである。より詳しくは、2段階に亘って酸−塩基触媒を投入するゾル−ゲル法によって、特に添加剤がなくてもメソ多孔性を増加させ、乾燥時にアナターゼ型が生成され、且つ高温で焼成してもアナターゼ型が維持される二酸化チタン光触媒の製造方法、及びこれにより製造される二酸化チタン光触媒に関するものである。
【解決手段】上記方法を用いて製造された硫黄とジルコニウムとがドーピングされた二酸化チタン光触媒は、可視光線でも触媒活性を発現し、表面特性などが優れて触媒活性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化チタン光触媒の製造方法、及びこれにより製造される二酸化チタン光触媒に関するものである。具体的には、2段階に亘って酸と塩基とを投入するゾル−ゲル法を用いた、メソ多孔性及び表面特性を向上させ、高温でもアナターゼ結晶構造を維持させる二酸化チタン光触媒の製造方法、及びこれにより製造される二酸化チタン光触媒に関するものである。また、可視光線領域においても触媒活性を有し、表面積、ポアの大きさ、ポアの体積など表面特性及び触媒活性が向上した、硫黄とジルコニウムとがドーピングされた二酸化チタン光触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1972年に東京大学のHondaとFujishimaにより、二酸化チタン光触媒を用いた水の分解反応がNature誌に報告されて以来、現在まで二酸化チタンのような半導体物質を用いた新たな光触媒の研究が、学術的な目的、または商業的な目的で進められている。特に、現在脚光を浴びているナノテクノロジーを組み合わせた二酸化チタン光触媒は、主に世界的に深刻な環境汚染物質を除去する手段として用いられている。近年は、エネルギー保存物質としての可能性が報告されて、これを用いた研究が進められると予想される。しかし、二酸化チタンが光触媒としての役割をするには、紫外線領域の短波長の光が必要であるという短所がある。これによって、現在、純粋な二酸化チタンを改質して、可視光線でも光触媒活性を発現することができる光触媒物質の開発が行われている。現在知られている二酸化チタンの改質方法としては、金属物質または非金属物質のドーピング、二酸化チタンの表面改質、及び、他の半導体物質との複合体形成などがある。
【0003】
先ず、金属物質をドーピングした二酸化チタンは、かなり以前から広く研究されている。大部分の金属物質によってバンドギャップの減少が観察されるため、可視光線で反応が起こると予想し得る。しかし、用いた金属の種類及び金属の量に応じて、光で形成された電子と正孔とが分離して存在する時間が、一般的な二酸化チタンより相対的に短くなる可能性があるため、反応性が低くなることが知られている。これを補完するための試みが、非金属物質をドーピングした二酸化チタン光触媒である。最近、サイエンス誌に、窒素、炭素などの非金属物質を二酸化チタンにドープすると、バンドギャップが小さくなって可視光線での反応性が非常に高くなるということが報告され、これに関連した研究が急速に全世界的に行われている。
【0004】
最近は、非金属物質のみを用いた二酸化チタン以外に、金属物質と非金属物質とを同時にドーピングすることにより、より良好な触媒活性を有する二酸化チタン光触媒が試みられているが、まだ初期段階であり、適切な組み合わせを見つける研究が進められている最中である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の問題点を解決するための本発明の目的は、乾燥時にアナターゼ構造が生成されるだけでなく、高温でも安定したアナターゼ構造を維持し、メソ多孔性及び表面特性が向上した二酸化チタン光触媒の製造方法、及びこれにより製造される二酸化チタン光触媒を提供することである。
【0006】
本発明の他の目的は、可視光線でも触媒活性を発現し、表面特性及び触媒活性が向上した、硫黄とジルコニウムとがドーピングされたことを特徴とする二酸化チタン光触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、
(1)チタンアルコキシドが有機溶媒に溶解した溶液に、酸、水及び有機溶媒を混合した溶液Aを一滴ずつ攪拌しながら投入して、溶液全体のpHが0.5〜2.0となるようにする段階と、
(2)上記溶液Aを投入した後、攪拌しながら12〜48時間反応させてゾルを形成する段階と、
(3)上記反応後に、溶液のpHが6.0〜10.0となるように、0.05〜0.5ml/secの速度で塩基水溶液を一滴ずつ攪拌しながら投入して、ゲルにする段階と、
(4)上記(3)段階で形成されたゲルを110℃で12時間乾燥させ、粉砕してパウダーにする段階と、
(5)上記パウダーを350〜800℃で焼成する段階とを含む二酸化チタン光触媒の製造方法を提供する。
【0008】
上記(3)段階後に、(3)段階で形成されたゲルを2〜5時間熟成(aging)させ、洗浄する段階を更に含むことができる。
【0009】
上記(1)段階において、チタンアルコキシドと水のモル比が1:10〜1:30となるように、上記溶液Aを投入する。
【0010】
また、本発明は、上記(1)段階で金属源(metal source)及び非金属源(nonmetal source)を含んだ有機溶液Bを、Aと同時に一滴ずつ投入する段階を更に含み、金属と非金属とがドーピングされるようにする二酸化チタン光触媒の製造方法を提供する。
【0011】
本発明の他の目的を達成するために、本発明は上記の製造方法により製造される二酸化チタン光触媒を提供する。
【0012】
本発明の他の目的を達成するために、本発明は硫黄とジルコニウムとがドーピングされた二酸化チタン光触媒を提供する。
【0013】
本発明の一実施例に係る硫黄とジルコニウムとがドーピングされた二酸化チタン光触媒は、二酸化チタン100質量部に対しジルコニウムが0.5〜6質量部でドーピングされる。
【0014】
本発明の一実施例に係る硫黄とジルコニウムとがドーピングされた二酸化チタン光触媒は、二酸化チタン100質量部に対し硫黄が0.1〜1.5質量部でドーピングされる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法によって、特に添加剤を使用しなくても、メソ多孔性及び表面特性が改善され、高温で焼成可能であり触媒活性が向上した、ナノサイズの光触媒の製造が可能となるため、輸入の光触媒を代替できると思われる。
【0016】
本発明により製造されるジルコニウムと硫黄とがドーピングされた二酸化チタン光触媒は、可視光線下でも触媒活性を発現し、表面積、ポアの大きさ及びポアの体積など表面特性が向上して、優れた光触媒活性を有する。従って、特にエネルギーを加えなくても、汚染物質である有害有機物とシックハウス症候群(sick−house syndrome)を誘発するVOCなどの分解が、光のみで可能となる。また、各種病原菌の耐性の増大が脅威とされている衛生問題においても、殺菌、坑菌用にも利用できる。水を光分解させて水素と酸素を生成することにより、次世代エネルギーと環境問題の解決にも寄与できると期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳しく説明する。
二酸化チタン光触媒の製造方法の中のゾル−ゲル法は、製造過程中に粒子の物理的及び化学的性質が調節できるため、最も幅広く用いられている。本発明は、従来のゾル−ゲル法とは異なり、2段階に亘って酸触媒と塩基触媒とを投入するゾル−ゲル法を用いて、メソ多孔性、結晶性及び高温安定性を向上させた二酸化チタン光触媒の製造方法を提供する。
【0018】
本発明では、下記のような方法により二酸化チタンを製造した。図2は、これを簡略に図式化した図である。
(1)チタンアルコキシドが有機溶媒に溶解した溶液に、酸、水及び有機溶媒を混合した溶液Aを一滴ずつ攪拌しながら投入して、溶液全体のpHが0.5〜2となるようにする。
(2)上記溶液Aを投入した後、攪拌しながら12〜48時間反応させてゾルを形成する。
(3)上記反応後に、pHが6.0〜10.0となるように、0.05〜0.5ml/secの速度で塩基水溶液を一滴ずつ攪拌しながら投入して、ゲルにする。
(4)上記で形成されたゲルを乾燥させ、粉砕してパウダーにする。
(5)上記パウダーを350〜800℃で焼成して二酸化チタン光触媒を製造する。
【0019】
本発明の製造方法を更に具体的に説明する。
上記(1)段階で溶液Aを投入し、投入後に溶液の初期pHが0.5〜2となるように、酸の量を調節することが重要である。好ましくは、溶液のpHが0.8となるようにする。金属アルコキシドを原料とするゾル−ゲル法は、加水分解と縮合重合とが同時に起こるものであって、酸触媒または塩基触媒の量、溶媒の種類、反応温度など種々の因子の調節によって、反応速度や粒子の物性を制御することができる。本発明においては、酸触媒を過量に添加して、初期pHを従来のゾル−ゲル法より非常に低めることにより、重合反応の速度を遅くし、これによってゾル状態が安定化するようにした。上記範囲よりpHが低いと、マイクロポアが多く生成される。上記範囲より初期pHが高いと、反応速度が遅くなるという効果が低くなるため、メソポアや結晶性の増加率が低い。
【0020】
上記(1)段階において、チタンアルコキシド及び水は、1:10〜1:30のモル比になるように溶液Aを投入することが好ましい。上記の範囲以下が添加された場合は、反応が完了できず、結晶形ではない無定形二酸化チタンが生成されることがある。上記の範囲以上であれば、チタンの濃度が低いため、生産性が低くなることがある。
【0021】
上記(1)段階において、上記チタンアルコキシドとして、テトラエチルオルトチタン酸、チタンテトライソプロポキシド、及びテトラブチルオルトチタン酸からなる群より選択される単独、またはこれらの混合物が用いられる。好ましくは、テトラブチルオルトチタン酸が用いられる。
【0022】
上記有機溶媒としては、炭素原子数1〜6の脂肪族アルコールが用いられる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、及びブタノールなどがあり、好ましくはエタノールが用いられる。
【0023】
上記酸としては、本発明が属する技術分野において用いられているものであれば特に制限されず使用可能である。具体的には、硝酸、塩酸、リン酸、酢酸、蟻酸、炭酸、及び硫酸などが用いられる。アナターゼ型二酸化チタンの製造のためには、硝酸、塩酸または硫酸が好ましく、より好ましくは塩酸が用いられる。
【0024】
上記(2)段階では、チタンアルコキシドが含まれた有機溶液に溶液Aの投入を完了した後、12〜48時間反応させてゾルを形成させる。反応時間が12時間を越えると、透明な溶液が不透明になりながらゾルが形成し始め、反応時間が長くなることによってゾル状態が安定化される。上記時間を越えると、これ以上ゾル状態には変化がない。24時間反応させた時に触媒の活性が最も大きいため、好ましくは24時間反応させる。
【0025】
上記(3)段階では、塩基水溶液を攪拌しながら一滴ずつ投入して、pHが6〜10となるようにする。上記(2)段階ではゾルが形成され、塩基が添加される前まではゲルが形成されないため、(3)段階は、塩基を添加してゲルを形成させる段階である。この時、塩基水溶液は、0.05〜0.5ml/secの速度で一滴ずつ投入して、pHが徐々に上昇されるようにする。好ましくは、pHが9となるようにする。塩基の添加によってpHが上昇するにつれ、重合反応が進められ、ゲルの形成速度が速くなる。従って、塩基水溶液を上記の速度で一滴ずつ投入してpHを徐々に増加させて、ゾル状態からゲルにゆっくりと変化するようにする。反応がゆっくりと進行するほど結晶化度が増加する傾向があり、結晶化度が増加するほど電子と正孔の再結合時間が遅くなって、触媒の活性が増加すると期待される。また、pHが高いと、pHが低い場合に比べて種々の結晶構造が生成されず、アナターゼ構造のみが安定して生成される。最終pHが6以上である場合に、アナターゼ型が支配的に生成される。pHが10より高いと、バンドギャップエネルギーが増加する傾向がある。
【0026】
上記塩基は、本発明が属する技術分野において用いられているものであれば特に制限されず使用可能である。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、アンモニア、及びアミンなどがある。好ましくは水酸化アンモニウムが用いられる。
【0027】
上記(3)段階後に、(3)段階で形成されたゲルを2〜5時間熟成させ、洗浄する段階を更に含むことができる。ゲルが形成された後、2時間程度熟成させると、ゲル内部の液体が放出されてゲルの体積が減少し、ゲルが収縮する。このような過程を経て、ゲルは更に堅固且つ強くなり、熟成中に溶解及び再析出によって構造の再配列が行われて、結晶化度が増加する。残っている残留物を除去するために、熟成した後洗浄する。
【0028】
上記(4)段階では、洗浄後にゲルを110℃で12時間乾燥し、粉砕してパウダーを作製する。従来のゾル−ゲル法によれば乾燥後も無定形であるが、本発明の製造方法によれば上記乾燥後にアナターゼ型結晶構造が現れる。
【0029】
常温で製造されたチタンの一部はアナターゼ型で存在せず非晶質であるため、上記(5)段階は、相の制御のために350〜800℃の高温で焼成して結晶化させ、アナターゼ型TiOを製造する段階である。従来のゾル−ゲル法により製造されるチタンは、相の制御のために加熱する場合、粒子の大きさが大きくなり比表面積が減少するなど、触媒活性がなかった。また、アナターゼ型結晶構造が維持されず、400℃前後がその限界であった。本発明の製造方法により製造される二酸化チタン光触媒の場合は、800℃の高温で焼成しても他の結晶構造は現れず、アナターゼ結晶構造が維持される。従って、高温で焼成が可能なため、結晶性が向上し、これによって電子と正孔の再結合速度を遅くして触媒活性も増加することになる。
【0030】
本発明は、上記(1)段階において、金属源と非金属源とを含む有機溶液Bを、Aと同時に一滴ずつ投入する段階を更に含む、金属と非金属とが同時にドーピングされる二酸化チタン光触媒の製造方法を提供する。
【0031】
本発明の一実施例によると、ジルコニウム源と硫黄源とを含む有機溶液Bを、Aと同時に一滴ずつ投入して、硫黄とジルコニウムとがドーピングされた二酸化チタン光触媒を製造することができる。
【0032】
上記ジルコニウム源は、ジルコニウムアセチルアセトネート、ジルコニウムクロライド及びジルコニルクロライドハイドレートからなる群より選択される単独、またはこれらの混合物が用いられる。好ましくは、ジルコニウムアセチルアセトネートが用いられる。
【0033】
上記硫黄源は、チオ尿素(Thiourea)、チオアセトアミド及び硫酸からなる群より選択される単独、またはこれらの混合物が用いられる。好ましくは、チオ尿素が用いられる。
【0034】
従来のゾル−ゲル法では、酸触媒または塩基触媒を用いて二酸化チタン光触媒を製造する。酸触媒を用いると、粒子サイズが小さいことから表面積が増加するという長所があるが、アナターゼ及びブルッカイト相が同時に存在することになる。酸触媒が過量に使用すると、ポアサイズが小さくなってナノポアになる。塩基触媒の場合には、メソポアが形成されるが、高温で焼成するとメソ多孔性が減少することになる。
【0035】
本発明では、2段階に亘って酸と塩基を投入してpHを徐々に変化させながら、重合反応速度を遅くしたゾル−ゲル法を用いて、メソ多孔性が増加した触媒を製造した。通常の触媒製造時は、メソ多孔性を増加させるため、有機系バインダーや無機系バインダーなど添加剤を使用するが、本発明のゾル−ゲル法によると、特に添加剤を使用しなくてもメソ多孔性が増加した光触媒の製造が可能である。メソポアは、粒子内に存在する気孔の大きさが、2ナノメートル以上50ナノメートル以下の気孔である。2ナノメートル未満のマイクロポアの場合、大きな物質を含むには小さすぎるため、気孔の入口が詰まりやすいという短所がある。50マイクロメートルを超えるマクロポアの場合は、相対的に表面積が小さいため、効率的な触媒化学反応を起こすには気孔が大きすぎる場合が多いことから、メソポアが触媒反応に適合する。
【0036】
二酸化チタンの結晶構造としては、大別するとアナターゼ(anatase)、ルチル(rutile)、及びブルッカイト(brookite)がある。このうち、アナターゼ型結晶構造を有する二酸化チタンの活性が優れている。2段階に亘って酸と塩基触媒とを投入する本発明のゾル−ゲル法によって、アナターゼ型二酸化チタンが製造される。従来のゾル−ゲル法で製造された二酸化チタン光触媒の場合は、焼成前にはアナターゼ構造が生成されないのに対して、本発明の製造方法で製造された二酸化チタン光触媒の場合は、焼成前乾燥時にアナターゼ結晶構造のみが生成され、高温で焼成してもアナターゼ結晶構造が維持される。また、高温で焼成してもメソ多孔性が維持され、高温での焼成が可能になることにより結晶化度を増加させることができる。これによって、電子と正孔の再結合速度を遅くすることができるため、触媒の活性が増大することになる。
【0037】
本発明の2段階に亘って酸−塩基触媒を投入するゾル−ゲル法により製造された、硫黄とジルコニウムとがドーピングされることを特徴とする二酸化チタン光触媒は、可視光線下においても触媒活性を発現する。また、上記方法により製造された他の触媒と同様にメソ多孔性が増加し、乾燥時にアナターゼ型結晶構造が生成され、高温でもアナターゼ型結晶構造を維持することになる。
【0038】
本発明は、硫黄とジルコニウムがドーピングされることを特徴とする二酸化チタン光触媒を提供する。
【0039】
硫黄とジルコニウムがドーピングされることを特徴とする二酸化チタン光触媒は、上記本発明の製造方法以外にも、当業者に通常知られている方法、例えば、従来のゾル−ゲル(sol−gel)法により製造が可能である。
【0040】
二酸化チタンは、特定以上のエネルギー(紫外線)を受けると、電子(e)と正孔(h)とが形成される。この時、形成された正孔によってヒドロキシラジカル(OH・)が形成され、このように形成されたヒドロキシラジカル(OH・)によって、有機物質が分解される。しかし、二酸化チタンが光触媒としての役割をするためには紫外線領域の短波長が必要であるが、太陽光線の大部分は可視光線のため、可視光線下でも活性を発現する触媒の開発が要求される。図1は、可視光線光触媒の反応原理について図式化した図である。図1に示すように、金属物質または非金属物質のドーピングによって、電子と正孔とが分離されるエネルギー(バンドギャップエネルギー)を減少させ、紫外線より弱い光、すなわち、可視光線で反応が起こるようにすることが、その反応原理と言える。
【0041】
本発明では、硫黄とジルコニウムとをドーピングしてバンドギャップエネルギーを減少させることで、可視光線領域でも光触媒活性を発現させるのみでなく、触媒活性を向上させた。硫黄とジルコニウムとのドーピングで、TiO構造内のTi4+またはO2−が、Zr4+及びS2−に置換され、Zr,S−TiOが高い格子エネルギーを有することになり、格子内に歪みが生じる可能性がある。格子の歪みによって、Zr,S−TiOの表面に酸素欠陥のような構造欠陥が生じる可能性がある。格子内に欠陥が形成されると、触媒表面に存在していた酸素が脱離して、光を照射する際に形成される正孔と結合する。正孔によってOに変わり、連続的にOに変わる。こうして形成されたOは、触媒表面の有機物質と反応して有機物質を分解するため、ドーピングのない触媒よりも優れた触媒活性を有すると言える。
【0042】
また、エネルギーを受けて形成された電子と正孔の再結合確率が増加すると、触媒活性が低くなるため、これも改善することがより優れた可視光線光触媒を作製するための条件と言える。ジルコニウムは、電子と正孔の再結合速度を遅くする効果があるため、触媒活性が更に増加することになる。
【0043】
本発明では、硫黄とジルコニウムとをドーピングすることにより、表面積、粒子の大きさ、及びポアの大きさなど、表面特性を向上させた。ジルコニウムがドーピングされることにより、焼成過程で引き起こされる結晶の成長を防ぎ、触媒の多孔性を維持させ触媒表面積が増加する効果がある。ジルコニウムの量が増加するほど、平均結晶粒子の大きさも小さくなる。
【0044】
本発明の一実施例に係るジルコニウムと硫黄とがドーピングされた二酸化チタン光触媒は、二酸化チタン100質量部に対しジルコニウムが0.5〜6質量部でドーピングできる。上記の範囲以下でドーピングされれば、ジルコニウムの含有量が少なく、触媒の表面特性の向上効果がほとんどない。上記の範囲以上でドーピングされれば、触媒活性が減少する。
【0045】
本発明の一実施例に係るジルコニウムと硫黄とがドーピングされた二酸化チタン光触媒は、二酸化チタン100質量部に対し硫黄が0.1〜1.5質量部でドーピングできる。上記の範囲以下でドーピングされれば、可視光線領域で活性が発現されない。上記の範囲以上でドーピングされれば、ジルコニウムがドーピングされる量が少なくなり、表面特性向上の効果などが減少して触媒活性が減少する可能性がある。
【0046】
以下、実施例と比較例によって本発明をより詳しく説明する。これは本発明の説明のためのものであり、本発明を限定するものではない。
【0047】
<実施例1>
下記のように、2段階に亘って酸と塩基とを投入するゾル−ゲル法を用いて二酸化チタン光触媒を製造した。
(1)エタノール(140ml)にテトラブチルオルトチタン酸(Ti(O−nBu)、21.3mL、62.5mmol)を溶解させて、Ti(O−nBu)溶液を作製する。
(2)エタノール(70mL)に蒸溜水(22.0mL、1.2mol)と塩酸水溶液(6.0mL、0.20mol)を添加した溶液Aを作製する。先に作製しておいたTi(O−nBu)溶液に溶液Aを一滴ずつ攪拌しながら投入して、pHが0.8となるようにする。投入の完了後も、室温で24時間攪拌する。
(3)上記溶液Aが混合されたTi(O−nBu)溶液に、反応溶液のpHが9.0となるまで、1M NHOH溶液を一滴ずつ入れながら攪拌する。溶液は徐々にゲルに変化し、ゲルが観察されると2時間熟成される。その後、残っている溶液をフィルタで除去し、残っている様々な残留物を蒸溜水を用いて除去する。
(4)上記ゲルを110℃で12時間乾燥させ、乾燥されたゲルを粉砕してパウダーに作製する。
(5)こうして作製されたパウダーを、1分に1℃ずつ温度を上昇させながら、450℃または600℃に達した後、5時間焼成してTiOを製造した。
【0048】
<実施例2>
エタノール(70mL)にジルコニウムアセチルアセトネート(Zr(acac)、0.15g、0.30mmol)とチオ尿素(2.38g、31.25mmol)とを入れて溶解させた溶液Bを作製した。上記実施例1の(2)段階における溶液Aのように、一滴ずつ投入してジルコニウムが二酸化チタン100質量部に対し0.5質量部でドーピングされた0.5Zr,S−TiOを製造した。
【0049】
<実施例3>
実施例2と同様の方法によって、ジルコニウムが二酸化チタン100質量部に対し1質量部でドーピングされたZr,S−TiOを製造した。
【0050】
<実施例4>
実施例2と同様の方法によって、ジルコニウムが二酸化チタン100質量部に対し3質量部でドーピングされたZr,S−TiOを製造した。
【0051】
<実施例5>
実施例2と同様の方法によって、ジルコニウムが二酸化チタン100質量部に対し5質量部でドーピングされたZr,S−TiOを製造した。
【0052】
<実施例6>
上記実施例2において、溶液Bの製造時にジルコニウムアセチルアセトネートを添加しないことを除いては実施例2と同様の方法で、硫黄のみがドーピングされた二酸化チタン光触媒を製造した。
【0053】
<実施例7>
上記実施例2において、溶液Bの製造時にチオ尿素を添加しないことを除いては実施例2と同様の方法で、ジルコニウムのみがドーピングされた二酸化チタン光触媒を製造した。
【0054】
<比較例1>
実施例1の方法ではない従来のゾル−ゲル法である下記のような方法で、二酸化チタン光触媒を製造した。
(1)フラスコに蒸溜水180mlを入れて攪拌しながら、エタノール(10ml)にテトラブチルオルトチタン酸(Ti(O−nBu)、30ml)を溶かして製造したTi(O−nBu)溶液を供給する。
(2)上記Ti(O−nBu)溶液の供給が終了すると、直に塩酸2mlを添加し、12時間程度室温で攪拌する。
(3)攪拌後、110℃で12時間乾燥させ、乾燥されたゲルを粉砕してパウダーを作製する。
(4)こうして作製したパウダーを、1分に1℃ずつ温度上昇させ、400℃で5時間焼成してTiOを製造した。
【0055】
<実験例1>
合成された触媒の特性を分析するために、FT−IR分析を行った。Mattson FT−IR Galaxy 7020A spectrophotometerを用いた。FT−IR結果を図3に示す。図3の(a)は、実施例4で製造したZr,S−TiOを110℃で乾燥した後のFT−IRスペクトルであり、(b)は、実施例4で製造したZr,S−TiOを450℃で焼成した後のFT−IRスペクトルである。2本のスペクトルを見ると、共通に見られる1000cm−1以下で現れる広いバンドは、TiOの結晶格子振動(crystal lattice vibration)であり、また、1621〜1623cm−1及び3500〜3000cm−1で現れるバンドは、ヒドロキシル基(hydroxyl group)による伸縮振動(stretching vibration)である。特に、図3の(a)に示される1407cm−1は、チオ尿素の分解によって形成されたアンモニアイオンが触媒表面に残って現れる変形バンドである。そして、図3の(b)では、このようなバンドが観察されなかった。その理由は、高い焼成温度のためである。しかし、図3の(a)及び(b)を見ると、1557cm−1で弱いバンドが観察されるが、これはC−N−H変形モードとして説明される。このバンドの観察は、チオ尿素の分解反応が完全に完了せず、若干のチオ尿素が二酸化チタン格子中に存在することを意味すると言える。
【0056】
<実験例2>
二酸化チタン光触媒の結晶構造を解するために、XRD(X−ray Diffraction)を行った。XRDパターンはMulti−Purpose X−ray Diffractometer(X'pert PRO MRD/X'pert PRO MPD、Cu Kα、λ=1.54059Å)を用いて得た。スキャン速度は、0.03°2θS−1を用いた。450℃で焼成した実施例のXRDパターンを図4に示す。S−TiOZr,S−TiOの(101)結晶面のピークが、TiOより相対的に広く現れることが分かる。これは、SまたはZrのようなドーパント(dopant)がTiOに導入されるため、TiOの格子構造が歪んで現れる現象であると思われる。ドーピングによるTiOの格子構造の変化についてより詳しく知るために、(101)及び(200)結晶面を用いて触媒の格子定数を求めた。この時、用いた式は次の通りである。
Bragg’s equation:d(hkl)=λ/2sinθ
−2(hkl)=h−2+k−2+l−2
ここで、d(hkl)は(hkl)の結晶面間の距離であり、λはX−ray波長であり、θは結晶面(hkl)の回折角度であり、hklは結晶インデックス(index)であり、a、b、cは格子定数である。(アナターゼ構造は正方晶系(tetragonal)の構造であるので、a=b≠cである。)
【0057】
その結果を表1に簡略化して示す。表1から明らかに分かるように、全てのTiOサンプルの格子定数値は、a−軸及びb−軸の格子定数値はほとんど変化がないが、ZrとSとがドーピングされたサンプルの場合は、c−軸の格子定数が増加することが示される。ドーパントとして用いられたZr4+(0.72Å)及びS2−(1.7Å)のイオン半径は、TiOの構造内のTi4+(0.61Å)及びO2−(1.22Å)のイオン半径より大きい。TiOの構造内のTi4+またはO2−がZr4+及びS2−によって置換される時、大きいイオン半径を有するドーパントがc−軸に配列されて、これによってドーピングされたTiOのc−軸の格子定数が、TiOより相対的に増加すると言える。従って、Zr,S−TiOは高い格子エネルギーを有することになり、格子内に歪みが生じると考えられる。格子の歪みによって、Zr,S−TiOの表面に酸素欠陥のような構造欠陥が生じると考えられる。
【0058】
触媒の平均結晶粒子の大きさは、(101)結晶面を用いてScherrer’s equationで計算できる。その結果も表1に示す。表1によると、平均結晶粒子の大きさは、ドーピングされたTiOが純粋TiO(14.05nm)より小さいことが分かる(S−TiO:11.33nm、及び、Zr,S−TiO:10.78〜7.99nm)。Zr,S−TiOシリーズから、Zrの量が増加するにつれて平均結晶粒子の大きさが小さくなることが分かるが、これはゾル−ゲル合成がなされる過程でZrまたはSがTi4+を置換することにより、結晶の成長を防ぐことで発生する現象と言える。この現象は、前述のように格子定数計算の結果と相応する結果と言える。
【0059】
【表1】

【0060】
<実験例3>
アナターゼ型結晶構造を確認するために、ラマン分光法(Raman spectroscopy)を用いた。ラマンスペクトルはレーザ・ラマン分光光度計(Laser Raman spectrophotometer)(model:Ramalog 9I)を用いて観察した。その結果を図5に示す。図5は、450℃で焼成した実施例のラマンスペクトルを示す。典型的なアナターゼTiOのラマン活性(Raman−active)バンドは6本であると知られており、その値は各々、144、197、399、515、519、及び639cm−1であり、これはE、E、B1g、A1g、B1g、及びEの対称を示す。全てのスペクトルは、前述のようなアナターゼTiOのラマン活性バンドとほとんど一致することが分かる。従って、本発明によってアナターゼ二酸化チタン光触媒を得たことが確認できる。しかし、ここで得たラマン活性バンドは5本であり、これはA1g及びB1gバンドが互いにオーバーラップし、1つのバンドに見えると思われる。また、ドーピングされたTiOを見ると、純粋なTiOよりラマンバンドの位置が若干変わったことが分かるが、これはドーピングによって結晶の大きさが小さくなることに起因していると言える。このような事実も、実験例2のXRD結果と相応する結果と言える。
【0061】
<実験例4>
高い温度でのアナターゼ結晶性の安定性を確認するために、実施例4を高温で焼成してXRDパターンを調べた。その結果は図6の通りである。この時使用した焼成温度は、600℃(図6の(a))及び800℃(図6の(b))である。図6に示すように、800℃で焼成したサンプルでもルチル構造は見られず、アナターゼ結晶構造のみが見られた。しかし、比較例1の場合は、600℃で焼成する時に50%のルチル構造が見られた。
【0062】
従って、本発明のゾル−ゲル法によって製造された二酸化チタン光触媒の場合は、高温で焼成してもアナターゼ型結晶構造が安定的に維持されることが分かる。これによって高温焼成が可能になることで、結晶化度の増加が可能であり、また、結晶化度が増加すると、電子と正孔の再結合時間が遅くなって触媒活性が増加する。
【0063】
<実験例5>
触媒の表面積、ポアの大きさ、及びポアの体積など触媒の表面特性を分析した。450℃で焼成した触媒を対象とし、液体窒素の温度(77K)下でQuantachrome Instrument(NOVA 2000 series)を用いて窒素の吸着・脱着実験を行って、窒素の吸着−脱着等温曲線を得た。その結果は図7の通りである。触媒のポアの大きさに対する分布度はBJH脱着等温曲線から誘導され、Barrett−Joyner−Halenda(BJH)方法によって得た。その結果を図8に示す。表面積はBrunauer−Emmett−Teller(BET)方法によって得た。その結果を表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
P/P=0.99である時の窒素の吸着量を測定
EBJH方法と等温曲線の脱着部分から予測
【0066】
上記表2によると、Zrの量の増加のみでなく、硫黄の存在有無によってポアの直径(pore diameter)が増加することが分かる。すなわち、ZrとSが導入されることによって、TiOのメソ多孔性が増加することが分かる。また、本発明のゾル−ゲル法により製造された光触媒は、比較例に比べて表面積及びポアが大きく、表面特性が向上することが分かる。
【0067】
また、図7における実施例のTiOの等温曲線を見ると、その形態がType4の等温曲線形態で現れることが分かるが、このような形態の等温曲線を有する物質は、主にメソポアを有している物質であると知られている。図8によると、触媒の平均ポアの大きさは3.8〜6.8nmであるが、これはメソポアである。従って、本発明の製造方法によってメソポアの大きさを有する触媒が製造される。まとめると、本発明の2段階に亘って酸と塩基とを投入するゾル−ゲル法を用いて製造されたTiO、及び硫黄とジルコニウムとがドーピングされたTiOは、表面積、ポアの体積、ポアの半径のような表面特性が、従来のゾル−ゲル法で製造したTiOより非常に増加することが分かる。
【0068】
<実験例6>
実施例4(Zr,S−TiO)の形態を分析するために、透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)で観察した。300kVで作動する高分解能透過電子顕微鏡(High−resolution transmission electron microscope:HR−TEM)(model:JEOL、JEM 3010)を用いた。図9は、実施例4のTEMイメージである。図9の(a)によると、小さな粒子が集まってメソポアが形成されることが確認できる。粒子の平均の大きさは、約6〜7nmと確認され、この値はXRDパターンから得られる値とほぼ同じであることが分かる。図9の(b)はHR−TEMイメージであり、格子間の間隔が3.5Åであることが確認できるが、これは典型的なアナターゼTiOの結晶性を示すものである。
【0069】
<実験例7>
紫外−可視拡散反射率分光計(UV−visible diffuse reflectance spectra(DRS))を用いて、可視光線領域でも触媒の活性が発現されるか確認した。DRSは、BaSOを基準物質とし、UV−Vis spectrophotometer(Model Shimadzu UV−2450 diffuse reflectance mode)を用いて分析した。
【0070】
図10は、450℃で本発明のゾル−ゲル法で製造された実施例1(TiO)、実施例7(Zr−TiO)、及び実施例4(Zr,S−TiO)のDRSを示す。図10によると、硫黄が含まれたサンプルの場合のみ、触媒の吸収波長が可視光線領域に拡張されたことが分かる。従って、S−TiOとZr,S−TiOは、可視光線で触媒活性を発現すると予想される。
【0071】
TiOZr−TiOZr,S−TiOのバンドギャップエネルギーは、順に3.18、3.17、3.02eVであり、下記のような式で得ることができる。
=1239.8/λ(λは触媒が最大に吸収する時の波長)
【0072】
また、図10によると、焼成温度もバンドギャップエネルギーに影響を与える因子であることが分かる。Zr,S−TiOを各々450℃と600℃で焼成した後のDRS結果をみると、600℃の時のバンドギャップエネルギーは3.09eVであって、450℃で得たバンドギャップエネルギーより増加したことが分かる。しかし、TiOZr−TiOのバンドギャップエネルギーよりは小さいため、可視光線での反応性はある程度現れると予想される。
【0073】
<実験例8>
450℃で焼成したZr,S−TiO(実施例4)中に存在するS、Zrの組成を解するために、X線光電子分光(X−ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)分析を行った。XPSは、ナノ結晶の表面に存在する化学物質を分析する装備であり、VG Scientific ESCALAB 250 XPS spectrophotometerを用いた。
【0074】
図11に、XPSのサーベイスペクトル(survey spectrum)を示す。図11によると、450℃で焼成したZr,S−TiOは、Ti、O、C、Zrを有することが分かるが、Sは現れなかった。これは合成過程中、硫黄が円滑にTiOの格子内に分散されたからであると予想される。硫黄の量がXPS分析範囲内に入れなかった結果と言える。
【0075】
図12に、Zr,S−TiOのC1sとZr3dのXPSスペクトルを示す。C1sのピークは283〜291eV、Zr3dのピークは180〜186eVの範囲で現れた。ClsのXPSスペクトルから分かる点は、大部分のCが有する結合エネルギー(binding energy)は285eVであって、これはTiOのマトリックス(matrix)中にCが固溶体の形態で存在することである。XPSによって測定される炭素元素は、残っている非加水分解(non−hydrolyzed)のアルコキシ基から出たか、前駆体溶液から出たか、或いは偶然入ったかであると説明できる。182.2eV付近で観察されるZr3dの結合エネルギーは、Ti1−xZrの固溶体中のZr3d5/2を示す。
【0076】
<実験例9>
Zr,S−TiOのXPS結果によると、Sは現れなかった。これに加えて、硫黄の存在有無を確認するために、Energy Dispersive Spectroscopy(EDS)という他の分析装備を用いて確認した。EDS分析は、EDSが装着された電界放射型走査電子顕微鏡(Field emission scanning electron microscope:FESEM、S−4200 HITACHI)によって行った。図13に、450℃で焼成したZr,S−TiOのEDS結果を示す。EDS分析結果によると、硫黄の存在が確認でき、この時の硫黄の量は0.13wt%と測定された。
【0077】
<実験例10>
光触媒活性を、可視光線下でのトルエンの光分解反応によって確認した。光触媒活性実験は、閉鎖された循環式反応器で行われた。図14は、本発明で使用した光触媒反応器について図式化した図である。先ず、体積が1Lのパイレックス(登録商標)ガラスで作ったチューブ形態の反応器内に、触媒(300±0.5mg)を、光が到達する部分に十分に塗布した。このように触媒が装着された反応器は、特殊処理されたチューブを介して循環ポンプに繋げられる。この時、ポンプの循環速度は320cm/minである。このようにポンプと繋げられ触媒が装着された反応器は、UVフィルタで処理された150Wハロゲンランプ(OSRAM HALOLINE)が装着された、30cm×42cm×27cmの大きさの黒いガラスボックスに配置される。この時、ランプと触媒との距離は15cmである。触媒活性をチェックするためのトルエンを反応器に入れるために、温度が70℃に維持されるガラスで作られたミキシングチャンバを光反応器に連結し、これを通じてトルエンを注入した。このように光反応器とミキシングチャンバとを含んだ反応器の総体積は、約1.3Lである。各反応に使用されるトルエンの量は、3.0μL(2.54×10−5M、530ppmv)である。触媒実験を開始する前に、まず、触媒が装着された光反応器を暗室内に放置した後、ポンプで循環させた状態でトルエンを注入し、2時間程度、触媒の表面にトルエンが十分に吸着及び脱着され平衡になるまで循環させる。その後、光を照射して、時間ごとに減少するトルエンの量を確認した。触媒活性実験は、基本的に4時間を基準として行った。一定時間ごとに減少したトルエンの量を測定するために、ガスサンプリングが可能なガスクロマトグラフィー(Shimadzu GC−17A、Shimadzu Corporation)を用いて測定した。トルエンの分解速度は、擬1次反応(pseudo−first−order kinetics)に従うと予測し、次の数式を用いて反応定数を計算した。
ln(C/C)=kt
:初期トルエンの濃度
C:一定時間が経過した後のトルエンの濃度
t:時間(分)
k:反応定数
【0078】
活性実験の結果を表3に示す。光を照射した時間とトルエンの濃度C/C、及び、ln(C/C)の値との関係を、図15及び図16に示す。全ての触媒は、光を照射した時間とln(C/C)の値との関係がほぼ一直線の形態を有するため、pseudo−first−order reactionであることが分かる。図15によると、可視光線下で、ドーピングしない比較例1及び実施例1の光触媒は、低い光触媒活性を発現することが確認できる。Zr−TiOの光触媒活性は、上記2つの触媒よりは相対的にある程度向上するが、S−TiOよりは低いことが分かる。
【0079】
可視光線下での光触媒の活性を左右する重要な因子は、触媒の光の吸収領域である。実験例7のDRS結果から、TiOZr−TiOの吸収波長が紫外線領域であることが分かるため、このような触媒は、硫黄が含まれた触媒よりも可視光線での反応が低くなることが分かる。これとは対照的に、全てのZr,S−TiO触媒は、硫黄のみがドーピングされたTiOより優れた光触媒活性を有する。特に、Zr,S−TiO光触媒は最も優れた触媒活性を示す。
【0080】
ガス−固体状の不均一光触媒反応は、表面で起こる反応のため、向上した表面特性を有する触媒が、優れた触媒活性を有することで知られている。Zrのドーピングによって、焼成過程中に引き起こされる結晶の成長を防ぐことができ、これによって触媒自体が有する多孔性をある程度維持させ、触媒の表面積が増加する役割をし得る。更に、Zr,S−TiO触媒の格子定数計算の結果から分かる点は、触媒自体にドーピングによる格子の歪み現象が見られたが、これによって格子内に欠陥が形成される可能性があることである。その結果、触媒表面に存在している酸素が脱離して、光を照射する時に形成される正孔と結合することになる。このようなメカニズムによって、表面から脱離した酸素(O2−)は正孔によってOに変わり、連続的にOに変わることになる。こうして形成されたOは、触媒表面に付いている有機物質と反応して、有機物質を分解する能力を有することになる。このように、格子の歪みによって分解されたOによって、ドーピングしない触媒よりも優れた触媒活性を有することになる。Zrの量が増加するにつれ、触媒の表面特性が良好になり、粒子も小さくなり、且つ、格子の歪みも大きくなって触媒活性が増加すると予想されるが、Zr,S−TiOの光触媒活性の程度は、Zr,S−TiO0.5Zr,S−TiOZr,S−TiOZr,S−TiOの順である。このような結果から、最適条件のZrの量が、より高い光触媒活性を示すことが分かる。
【0081】
光触媒の活性は更に、焼成温度により変わる。焼成温度を450℃または600℃にしたZr,S−TiOを用いて、触媒活性を確認した。その結果を図17及び図18に示す。図17及び図18によると、高い焼成温度で処理した触媒は、可視光線での触媒活性が相対的に低くなることが分かる。このような結果は、実験例7のDRSの結果と相応するものである。しかし、600℃で焼成したZr,S−TiOが、ドーピングしないTiOよりはより良好な活性を有する。
【0082】
また、比較例1及び実施例1の場合、600℃で焼成すると、実施例1の触媒活性が比較例1の触媒活性より3倍程度良好であった。
【0083】
【表3】

【0084】
4時間反応後に確認
A反応係数は、反応時間とln(C/C)との相関関係から得ることができる。
【0085】
以上、改良されたゾル−ゲル法を用いて、メソ多孔性及び表面特性が向上して触媒活性が増加し、高温安定性も向上したTiO及びZr,S−TiOを製造した。また、ジルコニウムと硫黄とがドーピングされた光触媒の場合、触媒の吸収波長が可視光線側に拡張され、可視光線領域でも触媒活性が発現される。また、表面積、ポアの大きさ、及びポアの体積など表面特性が向上し、高い温度で焼成が可能になることにより結晶化度を増加させることができ、触媒活性が増加することになる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】可視光線光触媒の反応原理を図式化した図である。
【図2】硫黄とジルコニウムとがドーピングされた二酸化チタン光触媒の製造方法を簡略に図式化した図である。
【図3】Zr,S−TiOのFT−IRスペクトルであり、(a)は110℃で乾燥した後のスペクトルであり、(b)は450℃で焼成した後のスペクトルである。
【図4】450℃で焼成した触媒のXRDパターンであり、(a)TiO、(b)S−TiO、(c)0.5Zr,S−TiO、(d)Zr,S−TiO、(e)Zr,S−TiO、(f)Zr,S−TiOを示す。
【図5】450℃で焼成したTiO、S−TiO、そしてZr,S−TiOのラマンスペクトルを示す。(a)TiO、(b)S−TiO、(c)Zr,S−TiOを示す。
【図6】他の温度で焼成したZr,S−TiOのXRDパターンを示す。(a)は600℃で、(b)は800℃で焼成した結果である。
【図7】触媒の窒素吸着−脱着等温曲線を示す。
【図8】触媒のポアの大きさに対する分布を示す。
【図9】Zr,S−TiOのTEMイメージである。
【図10】450℃で製造したTiOZr−TiOZr,S−TiOのDRSを示す。
【図11】450℃で焼成したZr,S−TiOのXPSのサーベイスペクトル(survey spectrum)を示す。
【図12】Zr,S−TiOのC1s及びZr3dのXPSスペクトルを示す。
【図13】450℃で焼成したZr,S−TiOのEDS結果を示す。
【図14】光触媒反応器について図式化した図である。
【図15】光を照射した時間とトルエンのC/C値との関係を示すものであり、触媒の可視光線での活性を示す。
【図16】光を照射した時間とトルエンのln(C/C)値との関係を示す。
【図17】焼成温度が異なるZr,S−TiOの可視光線での活性を示す。
【図18】焼成温度が異なるZr,S−TiOの可視光線での反応速度を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)チタンアルコキシドが有機溶媒に溶解した溶液に、酸、水及び有機溶媒を混合した溶液Aを一滴ずつ攪拌しながら投入して、溶液全体のpHが0.5〜2.0となるようにする段階と、
(2)上記溶液Aを投入した後、攪拌しながら12〜48時間反応させてゾルを形成する段階と、
(3)上記ゾルの形成後に、pHが6.0〜10.0となるように、0.05〜0.5ml/secの速度で塩基水溶液を一滴ずつ攪拌しながら投入して、ゲルにする段階と、
(4)上記(3)段階で形成されたゲルを110℃で12時間乾燥させ、粉砕してパウダーにする段階と、
(5)上記パウダーを350〜800℃で焼成する段階とを含むことを特徴とする二酸化チタン光触媒の製造方法。
【請求項2】
上記(3)段階後に、(3)段階で形成されたゲルを2〜5時間熟成(aging)させ、洗浄する段階を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の二酸化チタン光触媒の製造方法。
【請求項3】
上記(1)段階において、チタンアルコキシドと水のモル比が、1:10〜1:30となるように、上記溶液Aを投入することを特徴とする請求項1に記載の二酸化チタン光触媒の製造方法。
【請求項4】
上記(1)段階におけるチタンアルコキシドは、テトラエチルオルトチタン酸、チタンテトライソプロポキシド、及びテトラブチルオルトチタン酸からなる群より選択される単独、またはこれらの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の二酸化チタン光触媒の製造方法。
【請求項5】
上記(1)段階における酸は、硝酸、塩酸、リン酸、酢酸、蟻酸、炭酸、及び硫酸からなる群より選択される単独、またはこれらの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の二酸化チタン光触媒の製造方法。
【請求項6】
上記(1)段階における有機溶媒は、炭素数1〜6のアルコールであることを特徴とする請求項1に記載の二酸化チタン光触媒の製造方法。
【請求項7】
上記(3)段階における塩基は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、アンモニア、及びアミンからなる群より選択される単独、またはこれらの混合物であることを特徴とする請求項1記載の二酸化チタン光触媒の製造方法。
【請求項8】
上記(1)段階は、金属源(metal source)及び非金属源(nonmetal source)を含む有機溶液Bを、Aと同時に一滴ずつ投入する段階を更に含み、金属と非金属がドーピングされるようにすることを特徴とする請求項1に記載の光触媒の製造方法。
【請求項9】
上記金属源はジルコニウム源であり、上記非金属源は硫黄源であることを特徴とする請求項8に記載の光触媒の製造方法。
【請求項10】
上記ジルコニウム源は、ジルコニウムアセチルアセトネート、ジルコニウムクロライド、及びジルコニルクロライドハイドレートからなる群より選択される単独、またはこれらの混合物であることを特徴とする請求項9に記載の二酸化チタン光触媒の製造方法。
【請求項11】
上記硫黄源は、チオ尿素(Thiourea)、チオアセトアミド、及び硫酸からなる群より選択される単独、またはこれらの混合物であることを特徴とする請求項9に記載の二酸化チタン光触媒の製造方法。
【請求項12】
上記請求項1乃至請求項11のいずれか1項の方法により製造されることを特徴とする二酸化チタン光触媒。
【請求項13】
上記光触媒は、アナターゼ型結晶構造を有することを特徴とする請求項12に記載の二酸化チタン光触媒。
【請求項14】
硫黄とジルコニウムとがドーピングされることを特徴とする二酸化チタン光触媒。
【請求項15】
上記ジルコニウムは、二酸化チタン100質量部に対し0.5〜6質量部でドーピングされることを特徴とする請求項14に記載の二酸化チタン光触媒。
【請求項16】
上記硫黄は、二酸化チタン100質量部に対し0.1〜1.5質量部でドーピングされることを特徴とする請求項14に記載の二酸化チタン光触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−274053(P2009−274053A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−132156(P2008−132156)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年11月20日 韓国化学会発行の「BULLETIN OF THE KOREAN CHEMICAL SOCIETY VOLUME28 NUMBER11」に発表
【出願人】(508151080)慶北大學校 産學協力團 (5)
【Fターム(参考)】