説明

二酸化炭素が濃縮された空気の供給下の液体培養培地中でアクチノバシラス・プルロニューモニエ毒素ApxIまたはApcIIIを産生させる方法

本発明は、アクチノバシラス・プルロニューモニエ細菌を、該細菌の増殖を支持する液体培養培地中で培養することにより、RTX毒素ApxIまたはApxIIIを産生させる方法であって、空気を該培地に導通させ、該空気は、通常の大気レベルを超える二酸化炭素含有率を有し、RTX毒素の産生期の間にRTX毒素の産生を増加させることを特徴とする方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチノバシラス・プルロニューモニエ(Actinobacillus pleuropneumoniae)を液体培養培地中で培養することにより、RTX毒素ApxIまたはApxIIIを産生させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブタの主要な呼吸器疾患であるブタ胸膜肺炎は、世界中で蔓延しており、超急性死亡、急性疾患ブタの治療および慢性感染動物の市場売買の遅延に起因して、ブタ産業に対して深刻な経済的損失を惹起する。病因学的作用物質は、アクチノバシラス・プルロニューモニエである。この作用物質は、主として動物間の直接的な接触により伝染し、もたらされた感染は超急性から慢性まで変動する臨床経過をたどる。疾患は、主として、高熱、重篤な呼吸困難、咳および食欲不振の臨床徴候を有する気道の感染である。疾患の発症は急速であり、罹患率および致死率が高い。アクチノバシラス・プルロニューモニエ(以下、「APP」とも呼ぶ。)感染を防除する手段の1つは、ワクチン接種プログラムである。過去に、このようなプログラムにおいてはバクテリンが使用されてきたが、バクテリンの重い副作用が知られている。近年は、APPの毒素をベースとするサブユニットワクチンが一般に使用されている。
【0003】
APPは、いわゆるRTX毒素(RTXは、毒素内反復(repeat−in−toxin)を意味する。)を産生する。このバクテリア細菌の病理学的特徴に高度に寄与するのは、これらのRTX毒素の存在である。過去に、RTX毒素は集中的に研究され、文献に記載されてきた。一般に知られている通り、全てのAPP血清型が全てのRTX毒素を産生するわけではない。例えば、血清型1、5、9および11は、ApxIおよびApxIIを産生する。血清型2、3、4、6および8は、ApxIIおよびApxIIIを産生する。血清型10は、ApxIのみを産生し、血清型7および12は、ApxIIのみを産生する。現在市販されているAPPに対するワクチンは、毒素ApxI、ApxIIおよびApxIIIをベースとする。かなり最近になって、全てのAPP血清型が目下ApxIVと呼ばれる第4のRTX毒素を産生することが見出された(EP0875574を参照のこと)。
【0004】
アクチノバシラス・プルロニューモニエを液体培養培地中で培養することにより、RTX毒素ApxIまたはApxIIIを産生させる方法が一般に知られている。特に、EP0453024は、ApxI(「Example 2」、第2パラグラフ「Purification and characterisation of hemolysin」、下位パラグラフ「Methods」を参照のこと)およびApxIII(「Example 4」、第2パラグラフ「Purification and characterisation of App macrophage toxin (Mat)」、下位パラグラフ「Methods」を参照のこと)を産生させる方法を既に記載している。使用されるApxIは「HLY」と称される一方、ApxIIIは一般に「Mat」と称されることに留意されたい(Freyらin「J Gen Microbiol.1993 Aug;139(8):1723−8」を参照のこと)。培地は、APP細菌の増殖を支持しなければならない。細菌の増殖を支持する培地を構成する方法が一般に知られている。古典的な培養培地は、1950年代および60年代にEagle、Hamらにより最初に開発された。Eagle、Hamらは、増殖のための基本的な要求を満たす培地は、無機塩、窒素源(例えば、窒素含有化合物の形態、例えば、ペプチドまたはタンパク質)、炭素源およびビタミンを含むべきであることを見出した。培地は、有利には、培地が酸性過多やアルカリ性過多のいずれかになるのを防止するために緩衝化される。この基本的なレシピの範囲内で、多くの異なる構成が利用可能である。例えば、アミノ酸を提供するために動物由来成分を選ぶことができるが、化学的に規定されたアミノ酸を選択することもできる。他の化合物につき、多数のバリエーションも考えられる。実際、細菌の増殖を支持する培地を構成することは、比較的簡単である。しかしながら、増殖および/または代謝産生の最適化には、特に血清または他の動物由来成分を含まない培地が好ましい場合、いくぶんの開発の時間を要し得る。しかしながら、発酵培地性能を改善するための方針は、当該分野において一般に知られており、文献に詳述されている(例えば、Kennedy and Krouse in the Journal of Industrial Microbiology & Biotechnology(1999)23,456−475による総説記事を参照のこと)。このような最適化は、発酵実験室内での定型的な実験の一部を形成する。APPを培養する場合、本来、NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)が培地の一部を形成する。それというのも、APPはNAD依存性であるからである。NADが存在しなければ、培地はアクチノバシラス・プルロニューモニエ細菌の増殖を支持せず、従って、本出願および添付の特許請求の範囲の意味におけるAPPの増殖を支持するための液体培地とみなすことができない。細菌の増殖を支持するための液体培地、またはこのような培地を構成するための成分は、種々の会社、例えば、Sigma Aldrich、Quest International、Oxoid、Becton Dickinson、Pharmacia、VGD Inc、Mediatech、Invitrogen、Marcor、Irvin Scientificなどから市販されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許第0875574号明細書
【特許文献2】欧州特許第0453024号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Frey et al.in「J Gen Microbiol.1993 Aug;139(8):1723−8」
【非特許文献2】Kennedy and Krouse in the Journal of Industrial Microbiology & Biotechnology(1999)23,456−475による総説記事
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術は、APPを培養することによりRTX毒素ApxIおよびApxIIIを産生させる方法を提供するが、産生収量の改善が要求されている。これまで、産生収量を改善する試みは、主として、APPの培養の静止期中での毒素の産生率を標的とした。それというのも、最大のRTX毒素産生が高い細胞密度において、従って、指数増殖期の終了時に生じることが知られているからである(例えば、Microbial Pathogenesis 37(2004)29−33を参照のこと)。これらの試みは、産生収量全体の顕著な改善には至らなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
しかしながら、驚くべきことに、本出願人は、アクチノバシラス・プルロニューモニエの前記RTX毒素の産生期の間(従って、APP細菌の増殖期および/または静止期の間)に空気を培地に導通させ、空気が通常の大気レベルを超える二酸化炭素含有率を有する場合、RTX毒素の産生が顕著に増加することを見出した。実際、プレート上で細菌のコロニーを培養する間に、増加した二酸化炭素レベルを使用することが一般に知られている(例えば、US6,019,984:EXAMPLES「Bacterial Strains and Growth Conditions」を参照のこと)。しかしながら、この増加した二酸化炭素レベルの使用は、細菌のコロニーの培養し、次いで細菌を発酵槽への植種に使用することに関する。この段階において、細菌自体の増殖のみが生じ、RTX毒素の産生は生じない(少なくとも顕著なレベルでは生じない)。従来技術は、APP細菌を液体培地中に入れてRTX毒素の産生に好適な高い細胞密度に増殖したらすぐに、増加した二酸化炭素レベルを除くことを教示している。もちろん、この増加した二酸化炭素レベルの除去は、発酵槽中での最大Apx産生が高い細胞密度においてのみ、従って、指数増殖期の終了時に生じることを教示する上記従来技術に即する。この段階において、細胞増殖は終了しており、全く役割を果たさず、従って、二酸化炭素はこれまで重要なものとみなされなかった。さらに、APP細菌自体が、RTX毒素を形成しながら二酸化炭素を産生する。従って、二酸化炭素を培地に意図的に添加することは、毒素の産生を抑制するとさえ考えられる。これらの事実は、二酸化炭素がRTX毒素産生収量のための刺激因子と認識されることがない理由を説明する。しかしながら、二酸化炭素がApxIおよびApxIIIの産生を刺激する理由は明確でない。それというのも、特に、二酸化炭素は、RTX毒素ApxIIの産生レベルに対して正の効果を有しないと考えられるからである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
空気を培地に導通させることを可能にする、多くの技術が存在することに留意されたい。一般に使用される概念は、空気を培地中のある場所(即ち、培地の表面下)に泡状物の形態で逃がす装置を介して空気を通過させることである。このような装置は、とりわけ、培地の(近)平衡状況を確立することを所望するかどうか、所望するのであれば、この平衡にいかに早く落ち着くべきかに応じて、1個の単一ノズルまたは複数のノズルを有することができる。いずれの場合も、空気を培地に導通させることは、ヘッドスペースの空気を使用し、主として、単に拡散に依存することとは対照的である。このような技術は、不十分な結果を提供することが見出された。本発明の範囲の「空気」は、大気空気中に通常存在する1種以上のガス状成分、例えば、酸素、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン、ラドンなどを含むガス状媒体を意味する。「二酸化炭素についての通常の大気レベル」は、空気の全体積に対して0.04体積%のCOである。」
一実施形態において、空気は、アクチノバシラス・プルロニューモニエ細菌の指数増殖期の間に通過させる。指数増殖期は、従来技術に記載されているものとは対照的に、(静止期に次いで)RTX毒素の産生期全体の一部である期と考えられる。驚くべきことに、本出願人は、指数増殖期の間に二酸化炭素を通過させることが、この期の終了時にさえ、経済的に関連する量の毒素が発酵槽中に存在するように、RTX毒素の産生を極めて顕著に刺激することを提供することを見出した。従って、この実施形態は、指数増殖期の終了時に、または静止期に早期に発酵を終了させる任意選択を提供する。重要な利点は、顕著な産生時間を節約することができること、およびさらには最終生成物中のリポ多糖の量を減らすことができることである。
【0010】
培地を緩衝化する(即ち、酸または塩基を溶液に添加する場合に溶液の酸度の変化を最小化する物質を添加する。)、別の実施形態において、培地は、重炭酸塩(とりわけ、HCOイオンを含有する塩)を使用することにより緩衝化する。重炭酸塩緩衝液を使用することにより、過剰の二酸化炭素の固有のpH低下効果を極めて効率的に妨害すると考えられる。このような緩衝液、例えば、重炭酸ナトリウムまたは別のアルカリ金属重炭酸塩緩衝液を使用することにより、(近)平衡状態が、ほとんど、すぐに培地中で達せられると考えられる。
【0011】
さらに別の実施形態において、空気は、一定流量によって培地に導通させる。実際、ガスを培地に導通させる多くの異なる手段を考案することができる。極端に高い二酸化炭素含有率(例えば、最大90%)を有する空気を有する脈動流が、これらの手段の1つである。しかしながら、本出願人は、一定流量を用いると、極めて良好な結果を得ることができることを見出した。このような一定流量を用いると、穏やかな二酸化炭素レベルを空気中で使用することができる。この一定流量は、より良好に、緩衝液がいかなるときでもpHを平衡値付近に保持することができるという有利な効果を提供する。一定流量は、全体として、二酸化炭素の添加を幾つかの時点において中断しないことを必ずしも意味するものでないことに留意されたい。例えば、培養中の流れの短い中断は、この中断の前および後に、流れが一定であることを除外しない。一実施形態において、空気は、アクチノバシラス・プルロニューモニエ細菌の指数増殖期の間に連続的に通過させ、即ち、指数増殖期の間に流れを中断しない。
【0012】
一実施形態において、二酸化炭素含有率は、最大10v/v%である。この実施形態において、空気中の二酸化炭素の最大体積含有率は、10%である。このレベルを超えると、緩衝液は、常に高速で平衡を提供することができるわけではないと考えられる。このことは、RTX毒素の産生収量に悪影響を与え得る。好ましい実施形態において、二酸化炭素含有率は5v/v%である。この二酸化炭素含有率により良好な結果が達成され、経済的観点からも、この含有率が二酸化炭素の好ましい量である。それというのも、このような混合物は極めて低い価格で市販されているからである。
【0013】
RTX毒素がApxIである一実施形態において、培養培地は、ボログルコン酸カルシウムを含有する。実際、ApxIオペロンの転写活性は、増殖培地へのカルシウムの添加により高められることが一般に知られている(Microbiol Pathogenesis 37(2004)29−33を参照のこと)。ボログルコン酸塩(2,3−ジヒドロキシ−3−[2−ヒドロキシ−5−(ヒドロキシメチル)−1,3,2−ジオキサボロラン−4−イル]プロパノアート)を使用してカルシウムイオンを錯形成させた場合、幾つかの利点が見出された。第1に、下流処理における沈殿カルシウム塩の一般に直面する問題、特にフィルターが沈積物により塞がる傾向を防止することができ、または少なくとも顕著に減らすことができると考えられる。次に、他の錯形成剤、例えば、EDTAを使用する従来技術の方法と比較した場合、顕著に増加したレベルのApxIを産生させることができると考えられる。培地が錯体ボログルコン酸カルシウム(即ち、カルシウム2,3−ジヒドロキシ−3−[2−ヒドロキシ−5−(ヒドロキシメチル)−1,3,2−ジオキサボロラン−4−イル]プロパノアート、D−グルコン酸のホウ酸との環式4,5−エステルのカルシウム塩(2:1)としても知られている。)を含有するように、この特定の錯形成剤を使用することにより、他の陰イオンとのカルシウムイオンの実質的な沈殿を防止することができる一方、同時にカルシウムイオンは、アクチノバシラス・プルロニューモニエのApxIオペロンの転写活性を高めるために依然として利用可能であると考えられる。
【0014】
本発明につき必須ではないが、培地は、動物由来成分を含まなくてよい。多くの従来技術の方法の欠点は、これらの方法が動物由来成分、例えば、Columbiaブロスを含有する培地の使用に依存するということである。従来技術に挙げられる他の動物由来成分は、例えば、Columbia Broth ModifiedまたはBrain Heart Infusionブロスである。一般に知られている通り、動物成分の使用は、幾つかの深刻な欠点を有する。第1に、化学組成が、製造ロット間で大幅に変動し得る。さらに、動物起源の補給物質は、感染性作用物質により汚染され得る。主要な懸念は、ヒトまたは動物においてTSEを惹起するプリオンの存在である。単純に、動物成分を含まない培地(「ACF」培地と称されることが多い)を選ぶことができる。この意味における「動物成分」は、動物中でこのままで存在する任意の成分(例えば、血液またはタンパク質)、またはこのような成分に由来する任意の成分(例えば、血液に由来する修飾血清、またはタンパク質に由来するアミノ酸)を意味する。しかしながら、本出願人は、ApxIの産生効率が、このようなACF培地を使用する場合、動物由来成分を含有する培地と比較すると、カルシウム濃度が十分なレベルである場合でさえ、かなり低いことを見出した。理論に拘束されるものではないが、血清を使用すると、カルシウム塩沈殿による問題は、カルシウムイオンの可溶性錯体を形成する作用物質の存在に起因して、それほど深刻ではないと思われる。いずれの場合も、ボログルコン酸塩を使用してカルシウムイオンを錯形成させた場合、顕著なApxIの収量増加を得ることができ、驚くべきことに、従来の血清含有培地を用いて得ることができる収量よりもさらに高い収量をもたらす。
【0015】
材料および方法
菌株および培地
本調査は、ApxI産生アクチノバシラス・プルロニューモニエ株、血清型10(以下、APP10と呼ぶ。)、ならびにApxIIおよびApxIIIを産生する株、即ち、血清型2の株(以下、APP2と呼ぶ。)を使用して実施した。全ての場合において、これらの株のワーキングシードを、Columbia Blood Agar BASE(BAB)プレート(Becton,Dickinson USAから入手可能)を使用して再構成した。使用液体培地は、Columbiaブロス(Becton,Dickinson USAから入手可能)と動物成分不含培地(「ACF」と呼ぶ。)のいずれかであった。動物成分不含培地は、緩衝液として、KHPO(14.6g/l)およびNaHPO(3.6g/l)の混合物、この混合物とは別に、NaNO(0.2g/l)、50%のグルコース溶液(10ml)、15g/lの酵母エキス(Becton Dickinsonから入手可能)トレーサー元素(例えば、Handbook of Microbiological Media,3rd edition,Ronald Atlas,CRC Press,2004に挙げられている溶液SL−10 2.5ml)、ならびに10mMのアミノ酸溶液(トリプトファンを除き、全20種のアミノ酸を含有)を含有した。代替的な動物成分不含の試験培地(「ACF−alt」と呼ぶ。)は、システイン.HCl(0.1g/l)、NaNO(0.5g/l)、KCl(0.1g/l)、トレーサー元素(上記)、50%のグルコース溶液(10ml)および10mMのアミノ酸溶液(上記)、HEPES緩衝液(6g/l;例えば、Sigma Aldrichから入手可能)ならびに酵母エキス(10g/l)を含有した。
【0016】
これらの培地を、予備培養および発酵において使用した。ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(0.01%)を予備培養および発酵において使用した。全ての培地を、0.22μmの濾過により滅菌した。培地を発酵において利用する前、85℃において1分間加熱した。
【0017】
培養
予備培養
APP株のワーキングシードを、Columbia BABプレート上にプレートアウトし、37℃において約24時間温置した。幾つかのコロニーを拾い、75mlのColumbiaブロスを含有する500mLの瓶に植種した。瓶を撹拌しながら37℃において約6時間温置して予備培養物を形成させた。これらの予備培養物を用いて、幾つかの発酵を実施した。
【0018】
SIXFORS発酵槽中での培養
約400mLの培養培地を含有するSIXFORS発酵槽(Infors AG,Switzerland)中に、約20mLの予備培養物を接種源として添加した。培養温度は37℃であり、pH=7.2±0.1(4Nの水酸化ナトリウムまたは4Nの酢酸の添加を介する。)であり、曝気は50%のpOである。発酵槽培養は、約24時間後に停止させた。
【0019】
Biostat発酵槽中での培養
10Lの培地を含有するBiostat発酵槽(B.Braun Biotech,Germany)中に、500mLのAPP予備培養物を接種源として添加した。SIXFORS発酵槽と同一の設定を適用した。しかしながら、二酸化炭素レベルを、95/5(v/v)の空気/COガス混合物につき1vvm(=1分当たりの培地体積当たりのガス体積)の一定気流を維持することにより増加させた。このことは、約5%のpCOを有する曝気設定をもたらす。発酵槽培養は、指数期の終了時、約8.5時間後に停止させた。
【0020】
パイロットプラントスケールにおける培養
パイロットプラント実験を、100lのバッチの滅菌可能な発酵槽中で実施した。撹拌軸は、3個の6枚羽根型Rushtonタービンインペラを備えていた。発酵槽に75リットルの培地を充填し、3リットルの予備培養物を接種した。温度を37℃に保持し、自動pH制御器により20%(w/v)のNaOHおよび8Nの酢酸を使用してpHを7.3に保持した。標準培養をヘッドスペースCO過圧(500mbar)下で実施し、インペラを250rpmの一定速度において回転させた。酸素圧は制御しなかった。COスパージ培養実験のため、培地にNaHCOを10mMの最終濃度に補給し、0.014vvmのCOが濃縮された0.25vvmの空気の一定気流を曝気した。このことは、約5%のpCOに導く。APP10株の場合、培地に25mMのCaClを補給し、曝気は50%のpOであった。
【0021】
分析
各実験の終了時、細菌細胞培養物の試料を発酵槽から無菌的に取り、648nmにおける光学密度ならびにApxI、ApxIIおよび/またはApxIIIレベル(ELISA;1ml当たりの単位)ならびに場合によりLPSレベル(LALアッセイ;1ml当たりの単位(×10))を求めた。
【0022】
結果
培地に導通された二酸化炭素の効果を調査するため、第1の実験を、株APP2を用いてパイロットプラントスケールにおいて実施した(CO「スパージ」実験)。使用培地はColumbiaブロスであった。結果を表1に示す。2つの実験(実験1および実験2)の結果を挙げる。
【0023】
【表1】

これらの結果から、二酸化炭素を通常の大気圧を超えるレベルにおいて培地に導通させることにより、ApxIIIの産生収量をほぼ2倍にすることができることが明確になる。ApxIIレベルに関しては、絶対的な増加は観察されなかった。指数増殖期の終了(表1の各実験の終了)時のLPS濃度は、あまり相違しなかった。しかし、ApxIIIレベルが2倍高いので、最終生成物中のApxIIIの実験1回分当たりのLPSの量は、最大で、標準設定により得られる生成物のものの約半分である。
【0024】
ApxIの産生に対する、培地に導通された二酸化炭素の効果を調査するため、第2の実験も、パイロットプラントスケールにおいて実施したが、本実験には株APP10を用いた(CO「スパージ」実験)。使用培地は、Columbiaブロスであった。結果を表2に示す。さらに、2つの実験(実験1および実験2)の結果を挙げる。
【0025】
【表2】

表2から明確になる通り、ApxIについて同様の結果を得ることができる。
【0026】
第3の実験において、培地に導通された二酸化炭素の効果は、上記ACF培地を使用して調査した。第1の培養は、SIXFORS発酵槽中で、追加の二酸化炭素を培地に導通させることなく実施した。第2の培養は、Biostat C発酵槽中で、上記の通り、追加の二酸化炭素を培地に導通させながら実施した。Biostat発酵槽において、条件をいくぶんより良好に制御することができるという事実に起因して、全条件が等しい限り、Apx毒素の収量がSIXFORS発酵槽における収量よりも約2倍(最大3倍)高いことが予期された。結果を表3に示す。
【0027】
【表3】

Biostat発酵槽中のApxIIIのレベルが約4と1/2倍高いので、培地に導通された二酸化炭素は、ACF培地を使用している場合も、Apx産生収量に対して正の効果を有すると結論付けることができる。
【0028】
SIXFORS発酵槽中で株APP10を用いて実施する第4の実験において、本出願人は、カルシウムをボログルコン酸塩錯体の形態で(錯形成していないカルシウムに代えて)添加することができるかどうかを調べた。ボログルコン酸塩濃度は、40、50および70mMの間で変えた。培養は、指数増殖期の終了時に停止させた。結果を表4に示す。
【0029】
【表4】

結果から、カルシウムは、ボログルコン酸カルシウム錯体の形態で存在し、十分なレベルのApxIを得ることができると結論付けることができる。この利点は、カルシウム沈殿物が、培地の下流処理(特に、濾過作業)にもはや悪影響を与えないことである。ボログルコン酸塩の濃度がより高ければ、産生収量に悪影響を与えると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチノバシラス・プルロニューモニエ細菌を、該細菌の増殖を支持する液体培養培地中で培養することにより、RTX毒素ApxIまたはApxIIIを産生する方法であって、RTX毒素の産生期の間に空気を該培地に導通させ、該空気は、通常の大気レベルを超える二酸化炭素含有率を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
アクチノバシラス・プルロニューモニエ細菌の指数増殖期の間に空気を通過させることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
培地を、重炭酸塩を使用することにより緩衝化することを特徴とする、培地を緩衝化する、請求項1から2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
空気を、一定流量によって培地に導通させることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
アクチノバシラス・プルロニューモニエ細菌の指数増殖期の間に、空気を連続的に通過させることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
二酸化炭素含有率が最大10v/v%であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
二酸化炭素含有率が5v/v%であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
培養培地がボログルコン酸カルシウムを含有することを特徴とする、RTX毒素がApxIである、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2012−509681(P2012−509681A)
【公表日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−537958(P2011−537958)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【国際出願番号】PCT/EP2009/065797
【国際公開番号】WO2010/060916
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(506196247)インターベツト・インターナシヨナル・ベー・ベー (85)
【Fターム(参考)】