説明

二酸化炭素の地中貯留施設およびその施工方法

【課題】二酸化炭素の非構造型貯留層への貯留を可能とする有効適切な地中貯留施設とその施工方法を提供する。
【解決手段】不透水地層からなる遮蔽層1の直下の地層中にグラウトを注入して二酸化炭素を遮蔽し得る人工の遮蔽体2を遮蔽層と一体に形成し、それら遮蔽体と遮蔽層とによって二酸化炭素を貯留するための貯留領域Aを区画形成する。遮蔽層が水平面に対して傾斜している略平坦な場合、遮蔽体を遮蔽層の傾斜方向上部側の下面側に遮蔽層からその下層の地層中に膨出する形態で壁状に形成する。その施工に際しては、貯留領域に二酸化炭素を圧入するための圧入井戸4を遮蔽層を貫通する位置まで先行施工し、その先端から遮蔽層の下層の地層に対してグラウトを注入して遮蔽体を施工して貯留領域を区画形成し、しかる後に圧入井戸を貯留領域の深部まで延長する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地球温暖化ガスとしての二酸化炭素(CO2)を地中に貯留するための施設およびその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CO2の回収・貯留(CCS)は、発電所や製鉄所などの排出源から排出されるCO2を大気中にそのまま放出することを防止する目的で、排気中からCO2を分離・回収して地中や海中に圧入して貯留するための技術であり、今後の地球温暖化対策技術の重要なオプションとして位置づけられている。
【0003】
CCSにより分離回収したCO2の貯留場所としては地下深部の帯水層(空隙を多く含む砂岩層など)が有望であると考えられていて、たとえば特許文献1や特許文献2に示されるような地中貯留システムの提案が既になされており、その実現に向けた大規模実証が国内外で計画されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−248837号公報
【特許文献2】特開2008−307483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
CO2の地中貯留システムおいては、地下の貯留対象層として油田やガス田に見られるような背斜構造の地層(地層が凸状に傾斜している地質構造)などの密閉構造の構造型貯留層が貯留後のCO2の漏洩防止の上で有利と考えられるが、我が国においてはそのような地質構造は存在が限られているため、密閉構造を持たない非構造型貯留層へのCO2貯留についての検討が進められている。
【0006】
しかし、非構造型貯留層へCO2を貯留した場合には、CO2に作用する浮力によって長期的にCO2が地層傾斜に沿って流動することが予想され、それに起因してCO2が断層を経由して地表へ漏洩するリスクも想定されることから、非構造型貯留層では貯留後のCO2の流動を極力抑制することが必要であるとされている。
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は非構造型貯留層へのCO2の貯留を可能とするべくその流動を防止し得る有効適切な地中貯留施設を提供し、併せてその施設を施工するための有効適切な施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は二酸化炭素を遮蔽し得る自然の地層を遮蔽層としてその下層の地層中に二酸化炭素を貯留する二酸化炭素の地中貯留施設であって、前記遮蔽層の直下の地層中にグラウトを注入して二酸化炭素を遮蔽し得る人工の遮蔽体を前記遮蔽層と一体に形成し、該遮蔽体により前記遮蔽層の下層の地層中に二酸化炭素を貯留するための貯留領域を区画形成してなることを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の二酸化炭素の地中貯留施設であって、前記遮蔽層は水平面に対して傾斜している略平坦な不透水性地層からなり、前記遮蔽体を該遮蔽層の傾斜方向上部側の下面側に該遮蔽層からその下層の地層中に膨出する形態で壁状に形成してなることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明の二酸化炭素の地中貯留施設を施工するための方法であって、前記貯留領域に二酸化炭素を圧入するための圧入井戸を前記遮蔽層を貫通する位置まで先行施工し、該圧入井戸の先端から遮蔽層の下層の地層に対してグラウトを注入して前記遮蔽体を施工することによって前記貯留領域を区画形成し、しかる後に、前記圧入井戸を前記貯留領域の深部まで延長することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の貯留施設によれば、自然の地層状況では密閉構造をもたない非構造型貯留層であっても、要所に簡易な遮蔽体を人工的に設けることのみで貯留されたCO2の流動を有効に抑制し得て地表への漏洩リスクを低減することが可能であり、この種の施設の安全性と信頼性を充分に確保することができる。それにより、この種の施設の立地条件が大きく緩和されて排出源近くに本発明の地中貯留施設を計画することも可能となる。
【0012】
本発明の施工方法によれば、圧入井戸を遮蔽層を貫通する位置まで先行施工し、その圧入井戸を利用して遮蔽体を施工することにより、遮蔽体を容易にかつ低コストで施工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態である地中貯留施設およびその施工方法を示すもので、貯留に先立つ遮蔽体の施工状況を示す図である。
【図2】同、貯留開始時点の状況を示す図である。
【図3】同、貯留中の状況を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1〜図3を参照して本発明の地中貯留施設およびその施工方法の実施形態について説明する。
本実施形態の地中貯留施設は、CO2を遮蔽し得る自然の地層(不透水性地層)を遮蔽層1としてその下層の地層中にCO2を貯留するものであるが、その遮蔽層1は水平面に対して傾斜していてその下方に貯留されたCO2は上方に向かって流動することが想定されることから、本実施形態の貯留施設では遮蔽層1の傾斜方向上部側の下面側にその下層の地層中に膨出する形態で壁状の遮蔽体2を人工的に遮蔽層1と一体に形成することにより、その遮蔽体2により遮蔽層1の下層の地層中にCO2を貯留するための貯留領域Aを区画形成することを主眼とする。
そして、本実施形態ではこの貯留施設の施工を以下の手順により行うようにしている。
【0015】
すなわち本実施形態の地中貯留施設は、最終的には、地表の排出源3から制御ボーリングによって貯留領域Aに達するように施工した圧入井戸4を通してCO2を貯留領域Aに圧入して貯留することになるのであるが、その施工に際してはまず図1に示すように圧入井戸4を遮蔽層1を貫通する位置まで先行施工し、その圧入井戸4を利用して遮蔽体2を施工することとする。
【0016】
具体的には、圧入井戸4が遮蔽層1を貫通した時点でその施工を中断し、圧入井戸4の先端から遮蔽層1の下層にグラウトを注入して固化させることにより、遮蔽層1の下面側に遮蔽体2を一体に形成する。
遮蔽体2は、地層状況から想定されるCO2の流動範囲を考慮して、地表への漏洩を有効に防止し得る範囲に形成することとし、そのためのグラウトとしてはベントナイト等の地中への浸透性に優れた材料を用いることが好ましい。
【0017】
上記のようにして遮蔽体2を施工した後、制御ボーリングを再開して図2に示すように圧入井戸4を貯留領域A内の深部にまで延長すれば本実施形態の地中貯留施設の施工の完了となるから、それ以降、圧入井戸4を通して貯留領域AへのCO2の圧入・貯留を開始すれば良い。
【0018】
この種の施設ではCO2を数十年間にわたって圧入し貯留することを想定していることから、その間にはCO2が貯留領域A内において次第に拡散することが想定され、特に図3に示すように自身の浮力により上方に流動して遮蔽層1の下面に沿って地表に向かって浮上していくことが想定されることから、無体策では断層を経由して地表への漏洩も懸念されるのであるが、本発明の施設では遮蔽層1の上部側に予め遮蔽体2が形成されていることからCO2の地表側への流動は遮蔽体により自ずと阻止される。
【0019】
このように、本発明の貯留施設によれば、自然の地層状況では密閉構造をもたない非構造型貯留層であっても、要所に簡易な遮蔽体2を人工的に設けることのみで、貯留されたCO2の流動を有効に抑制し得て地表への漏洩リスクを低減することが可能であり、この種の施設の安全性と信頼性を充分に確保することができる。
【0020】
また、遮蔽体2の設置を前提とすれば、この種の貯留施設の計画に際しては地層傾斜などの地質条件が緩和されるので立地条件が大きく緩和され、そのため排出源3の近くに本発明の貯留施設を計画することも可能となり、その結果、立地条件上の制約から排出源3の遠方に貯留施設を計画せざるを得ない場合のように長大な圧入井戸4が必要となったり、遠方の貯留施設まででCO2を輸送する手間を不要とすることが可能となる。
【0021】
勿論、遮蔽体2の施工は圧入井戸4を先行施工してそれを利用することで容易に実施することができるから、そのような遮蔽体2はたとえば地中連続壁のような本格的な地下構造物による遮蔽壁を施工する場合に比較すれば遙かに低コストで施工することができる。
以上のことから、本発明の貯留施設によればCO2の貯留コストを大きく低減することが可能となり、この種の施設の実現と普及を促進することができる。
【0022】
なお、本発明の貯留施設の施工に際しては、上記実施形態のように圧入井戸4を遮蔽層1を貫通する位置まで先行施工してそれを利用して遮蔽体2を施工することが合理的であり最適であるが、必ずしもそうすることはなく、適宜手法で要所に遮蔽体2を先行施工して貯留領域Aを区画形成した後、貯留領域Aの内側にCO2を圧入するための圧入井戸4を改めて施工することでも良い。
【0023】
また、上記実施形態のように遮蔽層1が水平面に対して傾斜している場合には、遮蔽体2を遮蔽層1の上部側の位置にのみ設けることでCO2の上方への流動を効果的に防止することができるが、遮蔽層1がほぼ水平であるような場合や、諸条件を考慮してCO2の各方向への流動をより確実にする必要があるような場合には、遮蔽体2を各所に分散設置したり、あるいは地中壁のように連続的に設置しても良く、場合によっては貯留領域A全体を取り囲むようにして設けることも考えられる。
但し、遮蔽体2を各所に設けたり過度に広範囲に設けることは当然にそのためのコストを要するので、事前に貯留領域Aの周辺に対する充分な地質調査を行って貯留後におけるCO2の流動状況を充分に把握し、それに基づき地表への漏洩を確実に防止できる範囲で必要最小限の範囲に遮蔽体2を設けるに留めることが好ましいことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0024】
A 貯留領域
1 遮蔽層
2 遮蔽体
3 排出源
4 圧入井戸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を遮蔽し得る自然の地層を遮蔽層としてその下層の地層中に二酸化炭素を貯留する二酸化炭素の地中貯留施設であって、
前記遮蔽層の直下の地層中にグラウトを注入して二酸化炭素を遮蔽し得る人工の遮蔽体を前記遮蔽層と一体に形成し、該遮蔽体により前記遮蔽層の下層の地層中に二酸化炭素を貯留するための貯留領域を区画形成してなることを特徴とする二酸化炭素の地中貯留施設。
【請求項2】
請求項1記載の二酸化炭素の地中貯留施設であって、
前記遮蔽層は水平面に対して傾斜している略平坦な不透水性地層からなり、
前記遮蔽体を該遮蔽層の傾斜方向上部側の下面側に該遮蔽層からその下層の地層中に膨出する形態で壁状に形成してなることを特徴とする二酸化炭素の地中貯留施設。
【請求項3】
請求項1または2記載の二酸化炭素の地中貯留施設を施工するための方法であって、
前記貯留領域に二酸化炭素を圧入するための圧入井戸を前記遮蔽層を貫通する位置まで先行施工し、該圧入井戸の先端から遮蔽層の下層の地層に対してグラウトを注入して前記遮蔽体を施工することによって前記貯留領域を区画形成し、しかる後に、前記圧入井戸を前記貯留領域の深部まで延長することを特徴とする二酸化炭素の地中貯留施設の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−147869(P2011−147869A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10268(P2010−10268)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】