説明

二酸化炭素を駆動流体とする滞留水の湧昇方法および装置

【課題】深層水を水面付近に移動させるとともに、二酸化炭素を水に溶解させる方法及び装置の提供。
【解決手段】両端の開口した筒状体を、水中に上端が水面に近く下端がより深く位置するよう縦に設置し、該筒状体の中間に該筒状体の壁を貫いてノズルを設け、該筒状体の外部から該ノズルに配管を接続し、該配管および該ノズルを経由して二酸化炭素流体を該筒状体の内部に供給し、該二酸化炭素の上昇する流れを利用して水を下端より吸入し上端より吐出するとともに、該二酸化炭素を該水に混合および溶解させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素の流体を滞留水中に注入し、水中を上昇する流れを利用して、深層の水を水面付近に移動させるとともに、二酸化炭素を水に溶解させる方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、深層海水には雑菌が少ないことが知られ、活魚の延命に適するとして生簀用に採集利用されている。また、窒素、リン、珪素等の栄養成分の濃度が高いため、地形的に深層海水が湧昇する海域においては植物プランクトンの生育が盛んで、これを餌として魚が集まり、好適な漁場が形成されることが知られている。(たとえば非特許文献1参照)
水中に円筒を立て、内側に圧縮空気を吹き込むことにより、水を水面よりも高い位置まで汲み上げるための装置としてエア・リフトが知られており、簡便なポンプとしてかつて利用された。(たとえば非特許文献2参照)
一方、二酸化炭素は地球温暖化の原因物質とされ、大気中の濃度を引き下げることが世界的に求められており、様々な排出源からこれを集め、地中深くまたは深海底に圧入、固定化するための研究開発が進められている。(たとえば非特許文献3参照)
【0003】
【非特許文献1】長沼:深層水「湧昇」、海を耕す(集英社新書)
【非特許文献2】化学工学協会編:化学工学便覧改訂3版 171頁(丸善)
【非特許文献3】地球環境産業技術研究機構:二酸化炭素固定化・有効利用技術戦略マップ 2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
深層水の利用は活魚生簀用の深層海水など小規模なものに留まっている。また、深層海水を人工的に湧昇させ、漁業の振興、食糧の確保を図ろうとする提案はあるが、大規模にこれを実施しようとすれば、予算規模、費用対効果の面から大きな困難があった。
一方、二酸化炭素の大気中への排出を抑制するため、今後、工業設備から大量に回収し固定化することが求められている。固定化の方法の一つとして地下への圧入が考えられているが、これには地下深く井戸を掘削する必要があり、莫大な費用がかかる上、万が一地上に漏洩した場合の安全性の確保が難しいという問題がある。また別の方法として、重い二酸化炭素の液体を深海底に沈めて海水と混合させずに貯留する方法が提案されているが、海底生物への悪影響の懸念などから、構想のみで実験開始にはいたっていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、両端の開口した筒状体を、水中に上端が水面に近く下端がより深く位置するよう縦に設置し、該筒状体の中間に該筒状体の壁を貫いてノズルを設け、該筒状体の外部から該ノズルに配管を接続し、該配管および該ノズルを経由して二酸化炭素流体を該筒状体の内部に供給し、該二酸化炭素の上昇する流れを利用して水を下端より吸入し上端より吐出するとともに、該二酸化炭素を該水に混合および溶解させる方法および装置に関するものである。
筒状体内の二酸化炭素は当初気泡となって水中を上昇し、その動きによって水は筒状体下端から吸入され上昇し上端に至る。しかし、二酸化炭素量が少ないと気泡の浮力は不足し、十分な水の湧昇は期待できない。そこで、該ノズルの開口部付近中心軸が該筒状体の中心軸と略一致し、該二酸化炭素流体が該筒状体の上端に向けて噴射されるとともに、該筒状体内の流路の断面積を該開口部付近において小さく、上方に移動するに従って次第に太くなるよう製作された装置により、二酸化炭素流体に高速度を与え、ベルヌーイの定理により該ノズルの開口部付近の圧力を下げて、水の吸入量を増やすことが有効である。
該筒状体の上端から吐出する水は、水面付近の水よりも低温で比重が大きいので、再び下方に流れ下る性質がある。これを食い止め、太陽光の豊かな水面付近に二酸化炭素と栄養塩を含んだ、光合成に好適な水を保持し、さらに海洋動物を窒息から守るため、該筒状体の上端付近を中心に水面下を周囲に広がる膜および/または網を設置し、該筒状体の上端から吐出される水と該筒状体周囲の水との混合を抑制する手立てと講ずることが有効である。また、該膜および/または網に海藻類を着床させることにより、光合成をさらに活発化し、二酸化炭素を減らして、魚類の生息に必要な酸素を供給することができ、発明の効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、二酸化炭素を積極的に利用し、深層海水に代表される滞留水を水面付近まで移動させるための駆動源に利用するとともに、その過程で水中に溶解させることにより大気中への排出を抑制し、さらにその際の生態系への悪影響を最小限に抑制しつつ、漁業資源の開発に貢献しうる方法と装置を提供するものである。またその際、副次的効果として、深層水は低温であるので混合することにより、表面水の温度を局所的に引き下げることができ、地球温暖化の兆候としての好ましくない現象を抑制することも期待される。
外洋の表面海水には、植物プランクトンの成長に必要な窒素、リン、珪素などの栄養塩類が極端に少なく、豊かな太陽光線の存在にもかかわらず光合成はあまり活発ではない。しかし栄養塩類濃度は水深が増すにつれて劇的に増えるので、深層海水が湧昇する海域では植物プランクトンの成長、光合成が活発で、そこに動物プランクトンや中大型の魚類が餌を求めて集まるため、豊かな漁場が形成されることが知られている。本発明は、こうした豊かな漁場を人工的に創造する効果を持つ。
深層海水は表面海水と比べて低温度であり、日本近海の水深200mでは表面より10℃ほど低い。また2000m以深では約2℃で一定となる。したがって、深層海水を表面に移送し、そこにある程度留めることができれば、少なくとも局所的には海表面温度を下げ、地球温暖化による悪影響を緩和することが期待される。
また、ここで深層水の湧昇の駆動源として用いた二酸化炭素は、地球温暖化の元凶として大気中濃度を引き下げることが人類共通の課題となっているものである。火力発電所や大型燃焼装置から集めた二酸化炭素を圧縮して、本発明の用途に用いることは、二酸化炭素の大気放出を止めるだけでなく、光合成を促し酸素に転換するという、地球温暖化防止の最も好ましい方法を具現するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
二酸化炭素の臨界点は31.1℃、7.4MPaであり、それ以下の温度および圧力条件下では、輸送用には一般に液体の二酸化炭素が取り扱われる。日本近海の深度200mの海中の条件、水温15℃、圧力2.0MPa付近では、二酸化炭素は部分的に気化し、自身の気化熱によって冷却されるが、まわりの水から熱を奪って温められるので、結局すべてが気化される。外部配管から水深200m程度の深さに供給される液体二酸化炭素は、ノズル内で減圧、加速されて筒状体の中に送られ、いずれすべてが気化されて、上昇し、途中で水に溶解する。大気圧下、25℃における二酸化炭素の水への飽和溶解度は約1.5g/リットルであるが、水深200mの15℃、2MPaの条件下では約40g/リットルとかなりの二酸化炭素は水に溶解する。逆に、筒状体への二酸化炭素吹き込み量が1.5g/リットル以下であれば、高圧下で溶解した二酸化炭素が再気化することはない。
海洋においては、水深が深いほど吸入水の温度は低く、栄養塩濃度は高いので、該筒状体の下端の水深は、深いほど本発明の効果は大きいが、逆に設備費用も大きくなる。水深200m、とくに500mを越えて深くなると、温度降下、栄養塩濃度の上昇傾向も弱まる。さらに500m以深では、低温高圧になるため二酸化炭素の一部気化による流体の上昇力が弱まる。したがって該筒状体の下端の水深は200m乃至500mに、該ノズル開口部の水深は200乃至500mに選ぶことが好ましい。
本発明の方法により深層海水を太陽光線の豊富な海表面に移動すれば、溶解した二酸化炭素とともに植物プランクトンの成長に好適な環境を提供する。さらに必要な若干のミネラル類を与えることにより、植物プランクトンや着床させた海藻類の成長を一層促し、魚類の繁殖、成長の場を提供する。植物プランクトンの生育に必要なミネラルとして、鉄分が必須であることが認められている。この点と考慮すれば、本発明の装置は鉄製であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の使用状況を示す断面図
【符号の説明】
【0009】
1 水面
2 筒状体
3 筒状体上端
4 筒状体下端
5 ノズル
6 配管
7 二酸化炭素気泡
8 膜または網
9 海藻

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端の開口した筒状体を、水中に上端が水面に近く下端がより深く位置するよう縦に設置し、該筒状体の中間に該筒状体の壁を貫いてノズルを設け、該筒状体の外部から該ノズルに配管を接続し、該配管および該ノズルを経由して二酸化炭素流体を該筒状体の内部に供給し、該二酸化炭素の上昇する流れを利用して水を下端より吸入し上端より吐出するとともに、該二酸化炭素を該水に混合および溶解させる方法および装置。
【請求項2】
該ノズルの開口部付近中心軸が該筒状体の中心軸と略一致し、該二酸化炭素流体が該筒状体の上端に向けて噴射されるとともに、該筒状体内の流路の断面積を該開口部付近において小さく、上方に移動するに従って次第に太くなるよう製作された請求項1の装置。
【請求項3】
該筒状体の上端を水面下1乃至20m、望ましくは5乃至10m、下端を水面下50乃至2000m、望ましくは200乃至500m、該ノズル開口部を水面下50乃至1000m、望ましくは200乃至500mとする請求項1および2の方法および装置。
【請求項4】
該筒状体の上端付近を中心に水面下を周囲に広がる膜および/または網を設置し、該筒状体の上端から吐出する二酸化炭素を含んだ水と該筒状体周囲の水との混合を抑制することを特徴とする請求項1乃至3の方法および装置。
【請求項5】
該膜および/または網に海藻類を着床させる請求項1乃至4の方法および装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−75906(P2010−75906A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271397(P2008−271397)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(505185400)
【Fターム(参考)】