二酸素に対する耐性が改善された[NiFe]−ヒドロゲナーゼ、それらを得る方法及びそれらの用途
本発明は、二酸素に対する耐性が改善された[NiFe]-ヒドロゲナーゼに関し、該[NiFe]-ヒドロゲナーゼは:
- [NiFe]-ヒドロゲナーゼの大サブユニットをコードする配列を含む最初のポリヌクレオチドを準備し、ここで、前記大サブユニットは、以下のペプチドモチーフ:
・ L1: RGXE (ここで、X = L、I、F、V又はM)と、
・ L2: [R/K]X1C[G/R]X2C (ここで、X1は任意のアミノ酸残基であり、X2 = L、V、I又はMであり、L1及びL2は16個の任意のアミノ酸残基により分けられている)と、
・ L3: X1X2X3X4X5X6X7X8X9X10X11X12[D/S/E] (ここで、X1 = D、S、N又はE、X2 = H、D、S、N又はL、X5 = H、S、A、Q又はW、X6 = F、T、Y又はG、X9 = L、F、M又はY、その他のXnは任意のアミノ酸残基である)と、
・ L4: D[P/I/S]CX1X2CX3X4[H/R] (ここで、X2 = A、S、V、G又はT、X1、X3及びX4は任意のアミノ酸残基である)と
を含み、
・ 任意に、モチーフL0: R[I/V/A]EG[H/D/A]を含み、
- 前記最初のポリヌクレオチドを改変して、前記大サブユニットのモチーフL2の残基X2及び/又はモチーフL3の残基X4及び/又はモチーフL3の残基X9の少なくとも1つをメチオニンで置換する
ことにより得ることができる。
- [NiFe]-ヒドロゲナーゼの大サブユニットをコードする配列を含む最初のポリヌクレオチドを準備し、ここで、前記大サブユニットは、以下のペプチドモチーフ:
・ L1: RGXE (ここで、X = L、I、F、V又はM)と、
・ L2: [R/K]X1C[G/R]X2C (ここで、X1は任意のアミノ酸残基であり、X2 = L、V、I又はMであり、L1及びL2は16個の任意のアミノ酸残基により分けられている)と、
・ L3: X1X2X3X4X5X6X7X8X9X10X11X12[D/S/E] (ここで、X1 = D、S、N又はE、X2 = H、D、S、N又はL、X5 = H、S、A、Q又はW、X6 = F、T、Y又はG、X9 = L、F、M又はY、その他のXnは任意のアミノ酸残基である)と、
・ L4: D[P/I/S]CX1X2CX3X4[H/R] (ここで、X2 = A、S、V、G又はT、X1、X3及びX4は任意のアミノ酸残基である)と
を含み、
・ 任意に、モチーフL0: R[I/V/A]EG[H/D/A]を含み、
- 前記最初のポリヌクレオチドを改変して、前記大サブユニットのモチーフL2の残基X2及び/又はモチーフL3の残基X4及び/又はモチーフL3の残基X9の少なくとも1つをメチオニンで置換する
ことにより得ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸素(dioxygen (O2))に対する耐性が改善された[NiFe]-ヒドロゲナーゼに関する。
【背景技術】
【0002】
最初のエネルギーベクターとしての水素の使用は、現在、クリーンで持続可能なエネルギー経済の観点からの長期の解決法として広く認識されている(CHORNET及びCZERNIK, Nature, 418, 928〜9, 2002)。
緑藻又はシアノバクテリアの群に属するいくつかの光合成生物は、H+とH2の間の変換を触媒するヒドロゲナーゼを有する。ヒドロゲナーゼの存在は、これらの生物に、太陽エネルギーから出発して、水を電子及びプロトン供与体として用いて二水素(dihydrogen)を生産する能力を与える。このタイプの光エネルギーの水素への生物学的変換は、10%の入射光エネルギーが水素として理論的に回収できるので、エネルギー変換の点では最も効率的なものの1つである(PRINCE及びKHESHGI, Crit. Rev. Microbiol., 31, 19〜31, 2005)。
【0003】
それらの高い触媒代謝回転及びH2に対するそれらの特異性により、ヒドロゲナーゼは、いわゆるバイオ燃料電池の設計により、燃料電池の白金を置き換える可能性のある触媒としても構想される。このような設計は、白金及びH+選択膜の両方が主要なコストである燃料電池の値段を著しく緩和するだろう。安全性の用途のために、バイオセンサの設計にヒドロゲナーゼを用いることも提案されている(QIANら, Biosens Bioelectron, 17, 789〜96, 2002; BIANCO, J Biotechnol, 82, 393〜409, 2002)。よって、ヒドロゲナーゼの可能性のある用途は、二水素の光反応生成、バイオ燃料電池及びバイオセンサである。
【0004】
ヒドロゲナーゼは、それらの活性部位の金属含量により分類される酸化還元酵素のファミリーを構成する(VIGNAISら, FEMS Microbiol Rev, 25, 455〜501, 2001)。主要なクラスは、[NiFe]-ヒドロゲナーゼと[FeFe]-ヒドロゲナーゼであり、これらは系統発生的に異なるタンパク質ファミリーである。
【0005】
[NiFe]-ヒドロゲナーゼは、例えばデスルホビブリオ(Desulfovibrio)、アゾバクター(Azobacter)、ロドバクター(Rhodobacter)、ラルストニア(Ralstonia)、リゾビウム(Rhizobium)、ブラディリゾビウム(Bradyrhizobium)及びシネコシスティス(Synechocystis)を含む多様な細菌から単離されている。これらの酵素は、メタノコッカス(Methanococcus)、メタノサルシナ(Methanosarcina)、アシディアヌス(Acidianus)、ピロバキュラム(Pyrobaculum)のようないくつかの古細菌でも見出される。これらは、典型的に、Ni-Fe活性部位を含有する大サブユニット(large subunit)と、電子伝達に関与する[Fe-S]クラスタを含有する小サブユニットとを含む。これらは、さらなるサブユニットも含み得る。全ての[NiFe]-ヒドロゲナーゼの大サブユニットは、進化的に関連するようである。これらは、(N-末端からC-末端に) L1、L2、L3及びL4として表される少なくとも4つの保存モチーフを含有する。ある古細菌では、大サブユニットはL4の前で切断され、よってこのモチーフは付加的な非常に小さいサブユニットに含有される。L0と表される5番目の保存モチーフも、ほとんどの[NiFe]-ヒドロゲナーゼのN-末端の端の近くで見出される(KLEIHUESら, J. Bacteriol., 182, 2716〜24, 2000; BURGDORFら, J. Bacteriol., 184, 6280〜88, 2002)。
【0006】
これらのモチーフは、以下のコンセンサス配列により定義される(1文字コード):
・ L0: R[I/V/A]EG[H/D/A]
・ L1: RGXE (ここで、X = L、I、F、V又はM);
・ L2: [R/K]X1C[G/R]X2C (ここで、X1は任意のアミノ酸残基であり、X2 = L、V、I又はM; L1及びL2は16個の任意のアミノ酸残基で分けられる);
・ L3: X1X2X3X4X5X6X7X8X9X10X11X12[D/S/E] (ここで、X1 = D、S、N又はE、X2 = H、D、S、N又はL、X5 = H、S、A、Q又はW、X6 = F、T、Y又はG、X9 = L、F、M又はY、他のXnは任意のアミノ酸残基である);
・ L4: D[P/I/S]CX1X2CX3X4[H/R] (ここで、X2 = A、S、V、G又はT、X1、X3及びX4は任意のアミノ酸残基である)。
【0007】
上記のモチーフにおいて、[aa1/aa2・・・]は、その位置にてそれらのアミノ酸が選択可能であることを意味する。任意のアミノ酸残基とは、20個の通常のアミノ酸のいずれかの鏡像異性体及び立体異性体を含む天然又は合成のアミノ酸のことをいう。Xnは、具体的に言及されない全てのその他の位置に相当する。
【0008】
モチーフL2及びL4のそれぞれは、活性部位でのニッケルの結合に関与する2つのシステイン残基を含有する。L3は幾分可変性であるが、ClustalWによる複数配列アラインメントにおいて容易に同定される[Chenna R, Sugawara H, Koike T, Lopez R, Gibson TJ, Higgins DG, Thompson JD (2003). Multiple sequence alignment with the Clustal series of programs. Nucleic Acids Res, 31:3497〜3500]。L3の配列は、ディー・フルクトソボランス(D. fructosovorans)の[NiFe]-ヒドロゲナーゼにおいてDHLVHFYHLHALDであり、シネコシスティスPCC6803酵素においてSHALSFFHLSSPDである。
【0009】
[NiFe]-ヒドロゲナーゼ及び[FeFe]-ヒドロゲナーゼはともに、O2感受性である。一般的に、[Fe]-ヒドロゲナーゼは、O2により不可逆的に不活性化される。これとは対照的に、O2に曝露された[NiFe]-ヒドロゲナーゼは再活性化され得、そして、活性がより低い傾向にあるが、水素酸化細菌であるラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)からのMBH及びSHのような比較的酸素に耐性な酵素のいくつかの例がある(BURGDORFら, J Mol Microbiol Biotechnol, 10, 181〜96, 2005)。高度に酸素耐性であるがさらにより活性が低い[NiFe]-ヒドロゲナーゼの部分群は、ラルストニア・ユートロファからのRH (BERNHARDら, J Biol Chem, 276, 15592〜7, 2001)、並びにロドバクター・カプスラータ(Rhodobacter capsulatus) (ELSENら, J Bacteriol, 178, 5174〜81, 1996)及びブラディリゾビウム・ジャポニカム(Bradyrhizobium japonicum) (BLACKら, J Bacteriol, 176, 7102〜6, 1994)からのHupUVタンパク質、並びに[NiFeSe]-ヒドロゲナーゼのようなH2センサである。
【0010】
O2に対するヒドロゲナーゼの感受性は、これらの酵素の技術的な応用の開発に対して主要な障害となる。例えば、水の光分解の間に生成される二酸素によるヒドロゲナーゼ阻害のために(LEGERら, J Am Chem Soc, 126, 12162〜72, 2004)、二水素の光合成による生成は、天然条件下で一過性の現象でしかない(COURNACら, J Bacteriol, 186, 1737〜46, 2004)。その結果、実験室の実験で得られる実際の二水素生成効率は、1%より低い(MELISら, Plant Physiol, 122, 127〜36, 2000; FOUCHARDら, Appl Environ Microbiol, 71, 6199〜205, 2005)。
【0011】
[FeFe]ヒドロゲナーゼ及び[NiFe]-ヒドロゲナーゼはともに、分子表面と活性部位との間のH2及びO2の拡散を可能にする疎水性ガスチャネルを有する。図1は、ディー・フルクトソボランスからの基本形の[NiFe]ヒドロゲナーゼの結晶構造を表す。ガスチャネルは灰色で示す。
【0012】
[NiFe]活性部位に近い、疎水性チャネルの内部の端にて、酸素耐性H2センサのサブクラスでは、2つの疎水性残基(通常は、酸素感受性[NiFe]-ヒドロゲナーゼにおいて保存されるバリン及びロイシン)が、それぞれイソロイシン及びフェニルアラニンに置き換えられる(VOLBEDAら, Int. J. Hydrogen Energy, 27, 1449〜61, 2002)。これらは、それぞれ、保存モチーフL2の残基X2と、保存モチーフL3のX9とに相当する。酸素耐性ヒドロゲナーゼにおけるよりかさ高い(bulkier)残基の存在が、この点においてチャネルの直径を低減させ、よってH2分子より大きいO2分子が活性部位に近づくことを制限すると仮定されている。この仮定は、2つの異なるRH (H2センサ)についてのBuhrkeら(J. Biol. Chem. 2005, 280, 23791〜23796)及びDucheら(FEBS J. 2005, 272, 3899〜3908)による独立した研究により、現在、確認されている。
【0013】
これに基づいて、天然に存在するヒドロゲナーゼを、二酸素に対するそれらの耐性を改善するために、それらのH2チャネルの直径を低減させることにより改変することが提案されている。PCT出願WO 2004/093524は、よって、[FeFe]ヒドロゲナーゼを、H2チャネルを裏打ちする残基をトリプトファン又はフェニルアラニンのようなよりかさ高い残基で置換することにより改変することを提案している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明者らは、デスルホビブリオ・フルクトソボランスの[NiFe]-ヒドロゲナーゼにおけるVal74及びLeu122 (保存モチーフL2の残基X2と、保存モチーフL3の残基X9とにそれぞれ相当する)により占められる位置での変異の、二酸素耐性に対する影響を調査している。
【0015】
酸素耐性H2センサに関する従来技術の報告に基づいて、まず、74位のバリンをイソロイシンに、122位のロイシンをフェニルアラニンに置換することを試みた。しかし、無酸素での酵素の触媒特性は保存されたものの、これらの置換は、二酸素耐性を改善しなかった。これとは対照的に、本発明者らは、驚くべきことに、Val74及びLeu122のメチオニンでの置き換えが、天然ヒドロゲナーゼと比較して、O2の存在下で活性を維持する能力を改善し、還元条件下で安定な活性をはるかにより早く回復させることを見出した。
【0016】
本発明は、[NiFe]-ヒドロゲナーゼの二酸素耐性を改善するための手段を提供する。本発明は、天然の対応物よりもよい酸素耐性を有するが、同等の触媒活性を維持する改変[NiFe]-ヒドロゲナーゼも提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の目的は、[NiFe]-ヒドロゲナーゼの改変大サブユニットをコードする変異ポリヌクレオチド得る方法であって、該方法は:
- [NiFe]-ヒドロゲナーゼの大サブユニットをコードする配列を含む最初の(initial)ポリヌクレオチドを準備し、ここで、前記大サブユニットは、以下のペプチドモチーフ:
・ L1: RGXE (ここで、X = L、I、F、V又はM)と、
・ L2: [R/K]X1C[G/R]X2C (ここで、X1は任意のアミノ酸残基であり、X2 = L、V、I又はMであり、L1及びL2は16個の任意のアミノ酸残基により分けられている)と、
・ L3: X1X2X3X4X5X6X7X8X9X10X11X12[D/S/E] (ここで、X1 = D、S、N又はE、X2 = H、D、S、N又はL、X5 = H、S、A、Q又はW、X6 = F、T、Y又はG、X9 = L、F、M又はY、その他のXnは任意のアミノ酸残基である)と、
・ L4: D[P/I/S]CX1X2CX3X4[H/R] (ここで、X2 = A、S、V、G又はT、X1、X3及びX4は任意のアミノ酸残基である)と
を含み、
・ 任意に、モチーフL0: R[I/V/A]EG[H/D/A]を含み、
- 前記最初のポリヌクレオチドを改変して、前記大サブユニットのモチーフL2の残基X2及び/又はモチーフL3の残基X4及び/又はモチーフL3の残基X9の少なくとも1つをメチオニンで置換する
ことを含む。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】1.8Åの分解能でのディー・フルクトソボランスの[NiFe]ヒドロゲナーゼの結晶構造(PDB: 1YQW)。
【図2】MSによりアッセイされた交換活性。
【図3】酸化状態での天然ヒドロゲナーゼ及びL122M-V74M-変異体のEPRスペクトル。
【図4】WT及びL122M-V74Mのディー・フルクトソボランス[NiFe] ヒドロゲナーゼの好気的不活性化。
【図5】ディー・フルクトソボランス[NiFe]-ヒドロゲナーゼにおけるガスチャネルゲートに対する変異の影響。
【図6】MSによりアッセイされ、ヒドロゲナーゼ遺伝子の野生型コピーで補完されたシネコシスティスのΔhoxH株を有するシネコシスティス無細胞抽出物中で決定されたH+/D2交換活性を示す。
【図7】MSによりアッセイされ、野生型酵素を有するシネコシスティス無細胞抽出物中で決定されたH+/D2交換活性を示す。
【図8】MSによりアッセイされ、I64M-L112M HoxH変異体を有するシネコシスティス無細胞抽出物中で決定されたH+/D2交換活性を示す。
【図9】MSによりアッセイされ、I64M-L107M HoxH変異体を有するシネコシスティス無細胞抽出物中で決定されたH+/D2交換活性を示す。
【図10】V74M (Mとして示す)、L122M-V74M (MMとして示す)及び野生型(WTとして示す)の酵素の、空気酸素濃度での不活性化の比較。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の好ましい実施形態によると、上記の方法は、最初のポリヌクレオチドを改変して、上記の大サブユニットのモチーフL3の残基X4をメチオニンで置換することを含む。
本発明の別の好ましい実施形態によると、上記の方法は、最初のポリヌクレオチドを改変して、上記の大サブユニットのモチーフL2の残基X2及びモチーフL3の残基X9の少なくとも1つをメチオニンで置換することを含む。
【0020】
別の好ましい実施形態によると、上記の最初のポリヌクレオチドは、上記の[NiFe]-ヒドロゲナーゼの他のサブユニットをコードする配列をさらに含むオペロンである。
【0021】
上記の方法により得ることができる変異ポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含有する核酸ベクター、並びに該ベクターにより遺伝子的に形質転換された宿主細胞も、本発明の一部分である。好ましくは、上記のベクターは、発現されるポリヌクレオチドが適切なプロモーターの転写制御下にある発現ベクターである。適切なベクター及びプロモーターの選択は、ポリヌクレオチドが形質転換する宿主細胞に依存する。
【0022】
本発明は、本発明の変異ポリヌクレオチドによりコードされる[NiFe]-ヒドロゲナーゼの改変大サブユニット、及び該改変大サブユニットを含有する[NiFe]-ヒドロゲナーゼも包含する。好ましくは、上記の[NiFe]-ヒドロゲナーゼは、本発明の変異オペロンによりコードされる。
【0023】
上記の改変[NiFe]-ヒドロゲナーゼは、それらが由来する野生型[NiFe]-ヒドロゲナーゼと比較したときに、同等の触媒活性と、改善された二酸素耐性とを有する。本発明の改変[NiFe]-ヒドロゲナーゼは、H2生産に用い得る。これらは、バイオ燃料電池の開発にも有用であり、これは、より強い活性表面を得て、結局は、水素酸化触媒と二酸素還元触媒との間の膜分離を廃するために、酸素耐性触媒を入手可能とすることにより利益を与えることができる(VINCENTら, J Am Chem Soc, 127, 18179〜89, 2005)。本発明の酸素耐性[NiFe]-ヒドロゲナーゼは、バイオセンサの設計に用いて、空気中のH2の存在を検出することもできる。
【0024】
本発明の変異ポリヌクレオチドは、それ自体公知である、特に定方向突然変異誘発を含む突然変異誘発技術により得ることができる。
【0025】
本発明の改変大サブユニット及び[NiFe]-ヒドロゲナーゼは、本発明のポリヌクレオチドを適切な宿主内で発現させることにより得ることができる。
この場合、水素光反応生成のために適する宿主細胞は、特に、シアノバクテリアであるシネコシスティスPCC6803、及び拡張により、そのサブユニットが、部位特異的突然変異誘発により、本発明により記載される様式で改変され得るNiFeヒドロゲナーゼを有する任意のシアノバクテリアのようなシアノバクテリアを含む。燃料電池用の触媒、電気分解装置又はセンサとして用い得るヒドロゲナーゼを生成するために適する宿主細胞は、NiFeヒドロゲナーゼがその中に存在し、部位特異的突然変異誘発を行うことができ、かつ抽出及び精製され得る任意の細菌、特にデスルホビブリオ・フルクトソボランスである(実施例1を参照)。
【0026】
上記の宿主細胞で用いるのに適する部位特異的突然変異誘発及び発現系は、当該技術において入手可能である、例えばデスルホビブリオ用のシャトルベクター(Roussetら, Plasmid (1998), 39: 114〜122)。シアノバクテリアの場合、利用可能な系は、以下のレビューに記載される:(i) Thiel T, Genetic analysis of cyanobacteria, in The molecular biology of cyanobacteria, DA Bryant (編), Kluwer Academic Publishers, The Netherlands, 1994, pp 581〜611; (ii) Elhai J. Genetic techniques appropriate for the biotechnological exploitation of cyanobacteria, Journal of Applied Phycology 6, 177〜186, 1994; (iii) Porter RD Transformation in cyanobacteria, CRC Critical reviews in microbiology, 13(2), 111〜132, 1986。
【0027】
本発明は、本発明の改変[NiFe]-ヒドロゲナーゼの生成と特性とを説明する実施例に言及する以下のさらなる記載により、さらに説明される。しかし、これらの実施例が、本発明の説明のためにのみ与えられ、本発明の限定をいずれにしても構成しないことが理解されるべきである。
【0028】
図の説明
図1. 1.8Åの分解能でのディー・フルクトソボランスの[NiFe]ヒドロゲナーゼの結晶構造(PDB: 1YQW)。Ni-Fe活性部位とFe-Sクラスタの場所は、対応する矢印で示す。ガスチャネルは、0.8Åの半径を有して灰色で表す。
図2. MSによりアッセイされた交換活性。実施例2に説明するように、O2が追い出され、所望の濃度に低減するまで、容器中の媒体にD2を通気し、次いで、容器を閉じ、活性化したヒドロゲナーゼの一定量を注入した(各グラフの最初の時間にて)。グラフDにおいて、2回目のD2通気を、18分の時間にて行った。点線:酸素濃度、黒色の線:ヒドロゲナーゼが媒介する同位体交換速度(計算のために30秒間の時間間隔を用いて時間に関してガス濃度曲線を数値的に誘導して得られたH2及びHD生成速度から、各点において算出した)。
【0029】
図3. 酸化状態での天然ヒドロゲナーゼ及びL122M-V74M-変異体のEPRスペクトル。Ni種Ni-Aのgx、gy及びgz成分は、図の上部にて3つの矢印で示し、Ni種Ni-Bのものは、下部の3つの矢印で示す。実験条件:温度、100K;マイクロ波電力、10 mW;変調増幅、100kHzにて1 mT。
【0030】
図4. WT及びL122M-V74Mのディー・フルクトソボランス[NiFe] ヒドロゲナーゼの好気的不活性化。タンパク質フィルムボルタンメトリー実験における時間に対する活性(パネルA)及び酸素濃度(パネルB)。活性を電流として測定し、好気的不活性化が始まる前のその値で標準化した。空気飽和溶液の一定量(20μLを5回、次いで200μLを3回)を、最初に3mLのバッファーを含有する電気化学セルに注入した。電流の尺度は、下の左の角にバーとして示す。電極電位:SHEに対して200 mV。T=40℃、pH 7。電極回転速度オメガ = 2 krpm。
【0031】
図5. ディー・フルクトソボランス[NiFe]-ヒドロゲナーゼにおけるガスチャネルゲートに対する変異の影響。(A) 天然の酵素活性部位に近い領域のズーム;(B) V74M/L122M二重変異体の同じズーム;(C) M122及びC543について代替の配座を有して、同上。
図6は、MSによりアッセイされ、ヒドロゲナーゼ遺伝子の野生型コピーで補完されたシネコシスティスのΔhoxH株を有するシネコシスティス無細胞抽出物中で決定されたH+/D2交換活性を示す。点線:酸素濃度。実線:ヒドロゲナーゼが媒介する同位体交換速度。
【0032】
図7は、MSによりアッセイされ、野生型酵素を有するシネコシスティス無細胞抽出物中で決定されたH+/D2交換活性を示す。点線:酸素濃度、実線:ヒドロゲナーゼが媒介する同位体交換速度。
図8は、MSによりアッセイされ、I64M-L112M HoxH変異体を有するシネコシスティス無細胞抽出物中で決定されたH+/D2交換活性を示す。点線:酸素濃度、実線:ヒドロゲナーゼが媒介する同位体交換速度。
図9は、MSによりアッセイされ、I64M-L107M HoxH変異体を有するシネコシスティス無細胞抽出物中で決定されたH+/D2交換活性を示す。点線:酸素濃度、実線:ヒドロゲナーゼが媒介する同位体交換速度。
【0033】
図10. V74M (Mとして示す)、L122M-V74M (MMとして示す)及び野生型(WTとして示す)の酵素の、空気酸素濃度での不活性化の比較。矢印は、活性化された酵素の注入を示す。点線は、D2消費活性を表し、実線は、H+/D2交換活性を表す。媒体における酸素濃度の変動は、矢印を付した線で示す。
【実施例】
【0034】
実施例1:変異[NiFe]ヒドロゲナーゼの構築及び発現
モチーフL2の残基X2及びモチーフL3の残基X9の疎水性残基の変異の、二酸素耐性に対する影響を、デスルホビブリオ・フルクトソボランスからの[NiFe]-ヒドロゲナーゼの大サブユニットhynBにおいて研究し([NiFe]ヒドロゲナーゼオペロンGenBank M35333から)、ここで、これらの残基はそれぞれVal74及びLeu122である。変異体V74M、L122F-V74I及びL122M-V74Mを構築した。
【0035】
ディー・フルクトソボランスは、多量の組換えヒドロゲナーゼの生成を可能にする遺伝子システムがこの生物において開発されているので、モデルとして用いた(ROUSSETら, Proc. Natl. Acad. Sci. U S A, 95, 11625〜30, 1998; DEMENTINら, J Biol Chem, 279, 10508〜13, 2004)。
【0036】
細菌株、プラスミド及び成長条件
大腸菌DH5α株、F-, endA1, hsdR17 (rK- mK+), supE44, thi-1, λ-, recA1, gyrA96, relA1, Δ(argF- lacZYA) U169, φ80dlacZΔM15を、組換えプラスミドのクローニングにおいて宿主として用いた。細菌は、日常的に、LB培地中で37℃にて成長させた。100μg/mlでのアンピシリン又は20μg/mlでのゲンタマイシンを、細胞がそれぞれpUC18又はpBGF4誘導体を有するときに加えた。ゲンタマイシン耐性遺伝子を伝達する、pBMファミリーのシャトルベクターであるpBGF4プラスミド(ROUSSETら, Plasmid, 39, 114〜22, 1998)を用いて、以前に記載されるような(ROUSSET et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U S A, 95, 11625-30, 1998)ディー・フルクトソボランスからの[NiFe]ヒドロゲナーゼオペロンを保持させた。
【0037】
[NiFe]ヒドロゲナーゼオペロンの欠失を有するディー・フルクトソボランスMR400株[hyn::npt ΔhynABC] (ROUSSETら, Mol. Microbiol., 5, 1735〜40, 1991)は、嫌気的に37℃にてSOS培地中で成長させた(ROUSSETら, Plasmid, 39, 114〜22, 1998)。大容量培養を、以前に記載されたようにして行った(ROUSSETら, Proc. Natl. Acad. Sci. U S A, 95, 11625〜30, 1998)。50μg/mlでのカナマイシンを日常的に存在させ、50μgゲンタマイシン/mlは、細胞がプラスミドpBGF4を有するときのみ加えた。
【0038】
部位特異的突然変異誘発
pBGF4からのAatII-PstIフラグメントをpUC18にサブクローニングして、突然変異誘発実験で用いる鋳型を作製した。QuikChange TM XL部位特異的突然変異誘発キット(Stratagene, Amsterdam, The Netherlands)を用いて、大サブユニットhynBにおいて点突然変異を作製した。
【0039】
バリン74のメチオニンでの置換は、バリンをコードするGTGコドンからのグアニン1533 (GenBank M35333配列の番号付けに従う)をアデニンに置き換えて、メチオニンをコードするATGコドンを得ることにより行った。バリン117のメチオニンでの置換は、バリンをコードするGTCコドンからのグアニン1662及びシトシン1664 (M35333配列の番号付けに従う)を、それぞれアデニン及びグアニンに置き換えて、メチオニンをコードするATGコドンを得ることにより行った。ロイシン122のメチオニンでの置換は、ロイシンをコードするCTGコドンからのシトシン1677 (M35333配列の番号付けに従う)を、アデニンに置き換えて、メチオニンをコードするATGコドンを得ることにより行った。
【0040】
突然変異誘発の後に、AatII-PstIフラグメントを完全に配列決定し、AatII-PstIで消化したpBGF4に挿入した。組換えプラスミドを、ディー・フルクトソボランスMR400株に、エレクトロポレーションにより導入した(ROUSSETら, Plasmid, 39, 114〜22, 1998)。
【0041】
タンパク質精製
StrepタグII配列(IBA Gmbh, Gottingen, Germany)を、ヒドロゲナーゼ遺伝子に導入した。タグS W S H P Q F E Kと5アミノ酸リンカーG A S G A Aを、大サブユニットのN-末端の端に導入した。酵素を、100 mM Tris/HCl pH8、0.5M Naclバッファー中でStrep-Tactin (登録商標)カラム(IBA Gmbh)に対する親和性により精製した。溶出は、製造業者により記載されるようにして行った。
【0042】
HiLoad TM 26/60 Superdex TM 200 prepグレードカラム(Amersham Biosciences, Uppsala, Sweden)を用いるさらなる精製工程を行った。組換えM74/M122ヒドロゲナーゼの精製収率は、培養物1リットルあたり2.25 mgの精製酵素であった。組換えL122F-V74Iの精製収率は、同様であった。
【0043】
実施例2:WT、L122F-V74I及びL122M-V74Mの[NiFe]ヒドロゲナーゼの触媒活性
ヒドロゲナーゼ活性を、電子伝達を伴わないので二酸素の触媒的還元が生じないヒドロゲナーゼ活性部位の固有の特性であるH+/D2交換活性をモニターすることにより、O2の存在下で評価した。
【0044】
H+/重水素交換反応
水相でのH+/重水素交換を、膜導入型質量分析法(membrane-inlet mass-spectrometric method)により(JOUANNEAUら, J Bacteriol, 143, 628〜36, 1980)、30℃にて、50 mMリン酸バッファー、pH 7を含有する1.5 mlの容器で連続的にモニターした。測定の前に、ヒドロゲナーゼを、H2雰囲気下で、100μM MVの存在下でインキュベートすることにより活性化した。活性化の間の試料の無酸素状態は、還元されたMVの青色により容易にモニターされた。次いで、アッセイを以下のようにして行った。D2を、容器中の媒体内に、O2が追い出され、所望の濃度まで低減するまで通気し、次いで、容器を閉じ、活性化されたヒドロゲナーゼの分割量(活性化された試料20μl、1〜2.5μgの酵素である)を注入した(図2を構成するグラフの最初の時間にて)。ヒドロゲナーゼ活性を、次いで、以前に公表されたようにして(COURNACら, J Bacteriol, 186, 1737〜46, 2004)、同位体交換の速度から算出した。
【0045】
結果を図2に示す。
予測されたように、天然酵素の不活性化は、10μM付近及びそれより高い二酸素濃度にてほぼ即座であった(図2A)。いくらかの活性は、より低いO2濃度(図2Bにおいて約4μM)で注入のすぐ後に検出され、これは数分の間に消えた。さらに、天然酵素は、再活性化されるためには、還元条件下で長期のインキュベーションを必要とした。より驚くべきことに、L122F-V74I変異体は、天然酵素と同じ様式で不活性化された(図2C)。
【0046】
L122M-V74M変異体の特異的水素摂取活性は320Uであり、これは、天然ヒドロゲナーゼのもの(500 U)と同等であった。約20μM二酸素の存在下でのL122M-V74M-変異体の不活性化(図2D)は、天然酵素のものよりもかなり遅かった。興味深いことに、H+/D2交換は、O2濃度を10μM未満に設定したときにかなりの程度回復した。最初の活性の約50%が、天然酵素が完全に阻害される濃度である6μM O2で維持された。これらの結果は、変異が2つの興味深い特徴を与えることを示す:i) O2の存在下で活性を維持する能力と、ii) 天然ヒドロゲナーゼにより必要とされる還元条件下での長期の再活性化を必要とすることなく、安定な活性を回復する能力。
【0047】
実施例3:WT及びL122M-V74Mの[NiFe]ヒドロゲナーゼのEPR分光分析
L122M-V74M-変異体の迅速な再活性化は、これらの変異が、活性部位Ni-Feイオンに対して直接的な影響を有することを示唆する。この影響を調べるために、野生型及び変異体の両方のヒドロゲナーゼを、EPR分光法により分析した。
EPRスペクトルは、Oxford InstrumentsのESR 900ヘリウム流動低温保持装置を装着したBruker ESP 300E分光光度計で記録した。
【0048】
結果を、図3に示す。
天然ヒドロゲナーゼの酸化状態において、NiFe中心は、2つのEPR-活性種、即時応答不能型(unready) Ni-A種(g = 2.31, 2.24, 2.01)と、即時応答可能型(ready) Ni-B種(g = 2.32, 2.16, 2.01)の混合物で存在し、Ni-A種が、Ni-A/Ni-B = 80/20で最も豊富である(図3)。酸化状態のL122M-V74M-変異体の場合、常磁性種の比は、Ni-A/Ni-B=20/80で逆転する(図3)。
【0049】
Ni-A種において、NiとFeとを橋かけする過酸化物リガンドが存在することが提案されており(OGATAら, Structure (Camb), 13, 1635〜42, 2005; VOLBEDAら, J Biol Inorg Chem, 10, 239〜49, 2005)、これは、除去されるか又は還元されるために長期の還元的活性化を必要とする(VOLBEDAら, J Biol Inorg Chem, 10, 239〜49, 2005; FERNANDEZら, Coordin. Chem. Rev., 249, 1596〜608, 2005)。これとは対照的に、Ni-B種において、橋かけリガンドは、還元条件下で容易に除去される水酸化物イオンであると考えられる(VOLBEDAら, J Biol Inorg Chem, 10, 239〜49, 2005; FERNANDEZら, Coordin. Chem. Rev., 249, 1596〜608, 2005)。
【0050】
天然酵素において、Ni-A状態は、好気的酸化状態の下でのみ得られるが、Ni-B種は、嫌気的酸化の際に形成され得る。酸化されたL122M-V74M-変異体において観察された著しい量のNi-Bシグナルは、よって、その速い再活性化と完全に首尾一貫し、変異体のメチオニン側鎖が、活性部位への二酸素の接近を制限することにより酵素を保護することを示唆する。L122M-V74M-変異は、EPR分光法により測定されるように、酵素の還元Ni-C活性状態又は還元鉄-硫黄クラスタに対して影響せず、このことは、変異酵素が完全に成熟して機能的であり、H2が活性部位に到達できることを示す。
【0051】
実施例4:WT及びL122M-V74Mの[NiFe]ヒドロゲナーゼの好気的不活性化
タンパク質フィルムボルタンメトリーを用いて、変異により好気的不活性化の速度がどのように影響されるかを決定した。この技術において、酵素は電極に吸着されるので、直接の電子伝達が生じ、活性が電流として測定され、可溶性メディエーターを用いる必要がない(LEGERら, Biochemistry, 42, 8653〜62, 2003)。
【0052】
電気化学的測定を、以前に記載されたようにして行った(LEGERら, J Am Chem Soc, 126, 12162〜72, 2004)。酵素を吸着させたエッジ熱分解黒鉛電極を、SHEに対して+200mVで平衡にし(poised)、pH7、40℃にて溶液中に浸漬し、H2で連続的に流し、活性を電流として測定した(図4A)。通気した溶液の分割量を、電気化学セルに繰り返し注入し、得られた時間に対する電流の減少は、酵素の好気的不活性化を顕示する。電流の減少が早いほど、二酸素感受性がより大きい(LEGERら, J Am Chem Soc, 126, 12162〜72, 2004; DEMENTINら, J Biol Chem, 279, 10508〜13, 2004; LAMLEら, J Am Chem Soc, 126, 14899〜909, 2004)。図4Bにおける時間に対する二酸素濃度の鋸歯形状のプロットは、H2により流し出されたO2に起因する。図4Bの二酸素濃度プロフィールは、空気飽和バッファー中の最初のO2濃度を250μMと仮定して、電気化学セルに注入された通気溶液の量から再構成した。各注入の後に、O2濃度は時間とともに指数関数的に減少し、減衰の時定数を、(LEGERら, J Am Chem Soc, 126, 12162〜72, 2004)に記載されるようにして最初の不活性化の速度を適合させることにより決定した。
【0053】
図4Aは、全く同じ条件下で行った2つの不活性化実験の結果を比較する。充分量のO2に曝露した後に、両方の酵素は全ての活性を失う。しかし、全ての事項が等しいが、MM-変異体は天然酵素よりも著しくよりゆっくりと不活性化する。我々は、変異が、二酸素を用いる反応についての二分子速度定数を32 s-1mM-1のO2 (LEGERら, J Am Chem Soc, 126, 12162〜72, 2004)から20 s-1mM-1に減少させると決定し、このことは、1) 活性部位へのO2の接近が、不活性化の速度を制限し、2) このプロセスが、変異体においてよりゆっくりであることを示す。よって、電気化学的実験も、変異体のメチオニンの側鎖が酸素の活性部位のくぼみへの侵入を遮断するという概念と完全に首尾一貫する。
【0054】
実施例5:L122M-V74M [NiFe]ヒドロゲナーゼの構造
酸化状態のL122M-V74M-変異体の結晶構造を解明して、ガストンネルの形状に対する変異の影響、二酸素に対するメチオニンの反応性、及び活性部位のくぼみでの変異により誘導される可能性のある改変を決定した。
【0055】
ディー・フルクトソボランス[NiFe]-ヒドロゲナーゼのメチオニン二重変異体の結晶を、S499A変異体について記載されたようにして(VOLBEDAら, J Biol Inorg Chem, 10, 239〜49, 2005)得て、液体窒素中に保存した。回折データは、フランスグルノーブルの欧州シンクロトロン放射施設のED23-1ビームラインで1.0ÅのX線波長を用いて、100KにてADSC Q315R二乗(square)検出器で収集した。放射線損傷の影響を低減するために、3組の画像を、冷凍冷却した(cryo-cooled)結晶の異なる部分から収集した。それぞれの画像について、0.5°のΔφ及び0.6秒の曝露時間を用いた。回折スポットを積分し、測定し、XDS (KABSCH, International Tables for Crystallography, F, 2001)を用いてゼロ線量補正(zero-dose correction)に供した(DIEDERICHSら, Acta Crystallogr D Biol Crystallogr, 59, 903〜9, 2003)。最終データ補正(reduction)は、CCP4パッケージ(Anonymous, Acta Crystallogr D Biol Crystallogr, 50, 760〜3, 1994)を用いて行った。強度データの統計表を、以下の表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
結晶構造を、REFMAC (MURSHUDOVら, Acta Crystallogr D Biol Crystallogr, 53, 240〜55, 1997)を用いて、S499A変異体について記載された(VOLBEDAら, J Biol Inorg Chem, 10, 239〜49, 2005)のとほぼ同じストラテジーで精密化した。2つの変異部位での残基Val74及びLeu122を、まず、アラニンに変更し、全ての水分子を開始時のモデルから消去した。各サブユニットの剛体精密化の後に、大サブユニットの74位及び122位にてメチオニンをモデル化した。次いで、TLS体を用いて、各サブユニットの全体的な異方性の運動をモデル化し(WINNら, Acta Crystallogr D Biol Crystallogr, 57, 122〜33, 2001)、典型的には、水分子を含んで、10サイクルのTLS精密化と、10〜15サイクルの原子位置及び等方性温度因子(isotropic temperate factors)の精密化とを、TURBO-FRODO (ROUSSEL及びCAMBILLAU, 81, 1991)を用いて手動モデル修正を用いて交互に行い、ここで、電子密度図は幾何学的に適切な位置にて著しいピークを示した。精密化の間に、変異された残基が部分的に無秩序であったことが明らかになった。最終モデルにおいて、Met74の側鎖は、非対称単位中の酵素分子に応じて見かけの80〜90%の占有率を有し、Met122は、ほぼ同じ占有率の2つの配座を有する。精密化の統計表を、以下の表2に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
差フーリエ(Fobs-Fcalc)電子密度図の著しいピークは、単位セル中に存在する3つの酵素分子のうちの少なくとも2つの活性部位状態の混合物を示した。3つの酵素分子のうちの1つについて、過酸化物リガンドが、非橋かけ酸素原子について70%の占有率でモデル化され、これは、即時応答不能型Ni-A及び/又はNi-SUの種のフラクションを反映する。残りの30%は、よって、水酸化物含有Ni-B形に相当するはずである。非対称単位中の他の2つの分子は、推定の水酸化物橋かけを含有し、このことは、酵素の常磁性フラクションのほとんどが即時応答可能型Ni-B状態にあることを示すEPRの結果と一致する。これらの2つの分子も、末端Cys543 Ni-リガンドについて2つの配座を示し、これらはそれぞれ70%と30%の占有率でモデル化される(図5B及びC)。構造中で著しい改変はどこにも検出されなかったので、変異により誘発された変化は非常に局所的である。変異体のMet74及びMet122の側鎖は、それらの対応する電子密度により示されるように(図示せず)、二酸素と反応して安定な付加物を形成しなかった。天然Val74及びLeu122をよりかさ高いメチオニン残基で置き換えた結果として、活性部位のくぼみとの界面でのガストンネルが、著しくより狭くなるようである(図5B及びC)。しかし、Met74及びMet122の側鎖の観察された分離された無秩序は、これらが異なる配座の間を変動することによりガス分子の通過を可能にするであろうことを示唆する。ガスチャネルと活性部位のくぼみとの間の界面に位置するアミノ酸の側鎖の性質は、ディー・フルクトソボランス[NiFe]-ヒドロゲナーゼのO2反応性に非常に重要な要素である。よって、立体障害は、唯一の決定的なパラメータではないようである。酸素耐性H2センサから示唆されるようなバリン及びロイシンのイソロイシン及びフェニルアラニンでの置換は、酸素耐性を与えなかった。IF-及びL122M-V74M-変異体の酸素耐性における違いを説明するためにさらなる研究が必要であろう。おそらく、イソロイシン又はフェニルアラニン側鎖と比較したときのメチオニン側鎖の固有のより高い柔軟性が、観察された表現型の原因であろう。
【0060】
実施例6:シネコシスティスPCC6803中のHOXHサブユニットの部位特異的突然変異誘発、並びにWT酵素、HOXH AADA酵素、I64M-L112M酵素及びI64M-L107M酵素の触媒活性
株及び成長条件
大腸菌XL1 Blue株、HB101株及びDH10β株を、組換えプラスミドのクローニングにおいて宿主として用いた。細菌は、通常、LB培地中で37℃にて成長させた。100μg/mlのアンピシリン又は50μg/mlのクロラムフェニコールを、細胞がpUC18又はpUC19誘導体を有するときに加えた。
野生型シネコシスティスPCC 6803株及び変異株は、液体改変Allen培地(Allen, J. Phycol., 4, 1〜4, 1968)中で30℃にて、30μmol-光子m-2 s-1の平均光強度を与える1つの蛍光管形電灯を用いる連続的な照明の下で、独立栄養的に成長させた。形質転換体は、欠失変異体ΔhoxHについて25μg-クロラムフェニコールml-1、又はhoxH遺伝子の変異体について25μg-スペクチノマイシンml-1を含有するAllenの寒天プレート上で選択した。形質転換体の正しい分離を、PCRにより確認した。
【0061】
部位特異的突然変異誘発
hoxHのORFと、シネコシスティスの完全な配列(Kanekoら DNA Res., 3, 109〜136, 1996)の300bp上流及び下流(1673795位〜1671771位)とを含む配列が挿入されたpUC19プラスミドを、大腸菌細胞にサブクローニングし、突然変異を誘発した。QuickChange TM XL部位特異的突然変異誘発キット(Stratagene, Amsterdam, The Netherlands)を用いて、hoxH遺伝子に点突然変異を作製した。プラスミドは、hoxHのORFの50bp後に挿入されたスペクチノマイシン(aadA)耐性カセットも含有する。最終のプラスミドは完全に配列決定した。シネコシスティスの残基I64、L107及びL112は、ディー・フルクトソボランスの残基V74、L117及びL122にそれぞれ相当する。
【0062】
突然変異誘発された遺伝子を挿入するために、シネコシスティス・スピーシズ(sp.) PCC 6803のΔhoxH株を、以下の構築物を有するpUC18で野生株を形質転換することにより、まず構築した:hoxHのORFと、300 bp上流及び下流(完全配列Kanekoら 1996の1673795位〜1671771位)、ここで、クロラムフェニコール耐性カセットが、hoxHの19位と1376位にてCla I制限部位に挿入されていた。実際に、欠失変異体から開始することは、シネコシスティスにおいて染色体コピー数が高いので、必要である。
【0063】
得られたΔhoxH株を、hoxHの変異体を含有する改変pUC19プラスミドで形質転換した。改変遺伝子を有する株を、次いで、上記のようにスペクチノマイシンで選択した。よって、I64M-L112M及びI64M-L107M HoxH変異体を得た。
【0064】
H+/重水素交換反応
ヒドロゲナーゼ活性を、O2の存在下で、実施例2に記載されるようにしてH+/D2交換活性をモニターすることにより評価した。結果を図6〜9に示す。
【0065】
図6及び7は対照である。図6は、ヒドロゲナーゼ遺伝子(hoxH)の野生型(WT)コピーで補完したシネコシスティス・スピーシズのΔhoxH株の場合に測定された活性を示し、図7は、WT酵素の場合に測定された活性を示す。
図8は、I64M-L112M抽出物において測定された活性を示す。O2を注入したときに、活性は最初は下落し、次いで増加して、O2がまだ存在するのに安定のままであった。還元されたメチルビオロゲン(MV)の添加は、活性を増大させなかった。
I64M-L107M変異体(図9)の場合、ヒドロゲナーゼ活性は、I64M-L122Mについてよりもさらにより強固であるようだった。なぜなら、O2の何回かの注入が活性の低減のために必要であったからである。
【0066】
実施例7: WT、L122F-V74M及びV74M [NiFe]ヒドロゲナーゼの触媒活性
野生型(WTと表す)、L122F-V74M (MMと表す)及びV74M (Mと表す)の[NiFe]ヒドロゲナーゼのヒドロゲナーゼ活性を、O2の存在下で、H+/D2交換活性をモニターすることにより評価した。
培地にD2を通気し、開放したままにすることにより、O2濃度を空気中のものに近づけた。結果を図10に示す。
【0067】
注入の後に、M-変異体(V74M)は直ちに活性であった。これはD2を消費し、還元されたメチルビオロゲン(MV)を生成し、MVはO2により酸化された。この反応に続いて、D2の消費(グラフA中の点線)と、メチルビオロゲン(MV)により還元されたO2の減少(グラフAの上の線)が起こった。酸素が存在する場合、電子フラックスは酸素の還元の方に駆動され、このことは交換反応が生じることを妨げた。酸素がなくなったときに、媒体は完全に還元され、交換反応が開始できた。この実験は、高酸素濃度の存在下でM-変異体が活性であることを証明する。
【0068】
MM-変異体(L122F-V74M)の場合、酵素は150μMのO2の存在下で活性であったが、動力学はよりゆっくりであった。酵素は、よって、それがO2に長時間曝露されることにより阻害され始めた。
対照として、WT酵素はO2により直ちに阻害された。
【0069】
結論
まとめると、上記の結果は、初めて、[NiFe]-ヒドロゲナーゼの二酸素耐性を改善できることを示す。我々は、酸素感受性ヒドロゲナーゼを、20μMまでの酸素の存在下で触媒活性がある酸素耐性酵素に変換した。導入されたメチオニンが二酸素と反応することは証明されていないので(図5)、我々は、これらのメチオニンが、おそらく、二酸素が活性部位に到達することを妨げることにより、酵素を保護していると結論付ける。二酸素により酸化されたL122M-V74M-変異体は、嫌気的に酸化された天然酵素と同じ酸化還元状態にある(de LACEYら, Coordin. Chem. Rev., 249, 1596〜1608, 2005)。このことは、主要なNi-B EPRシグナル(図3)、及び活性部位でのヒドロキシル橋かけリガンドが豊富なことにより明確に示される。この保護効果は、迅速な再活性化(図2)及びより遅い不活性化速度(図4)の原因であり、これらの組み合わせは、改変酵素が、WTを完全に不活性化するマイクロモル濃度のO2の存在下で継続して機能する能力を説明するようである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸素(dioxygen (O2))に対する耐性が改善された[NiFe]-ヒドロゲナーゼに関する。
【背景技術】
【0002】
最初のエネルギーベクターとしての水素の使用は、現在、クリーンで持続可能なエネルギー経済の観点からの長期の解決法として広く認識されている(CHORNET及びCZERNIK, Nature, 418, 928〜9, 2002)。
緑藻又はシアノバクテリアの群に属するいくつかの光合成生物は、H+とH2の間の変換を触媒するヒドロゲナーゼを有する。ヒドロゲナーゼの存在は、これらの生物に、太陽エネルギーから出発して、水を電子及びプロトン供与体として用いて二水素(dihydrogen)を生産する能力を与える。このタイプの光エネルギーの水素への生物学的変換は、10%の入射光エネルギーが水素として理論的に回収できるので、エネルギー変換の点では最も効率的なものの1つである(PRINCE及びKHESHGI, Crit. Rev. Microbiol., 31, 19〜31, 2005)。
【0003】
それらの高い触媒代謝回転及びH2に対するそれらの特異性により、ヒドロゲナーゼは、いわゆるバイオ燃料電池の設計により、燃料電池の白金を置き換える可能性のある触媒としても構想される。このような設計は、白金及びH+選択膜の両方が主要なコストである燃料電池の値段を著しく緩和するだろう。安全性の用途のために、バイオセンサの設計にヒドロゲナーゼを用いることも提案されている(QIANら, Biosens Bioelectron, 17, 789〜96, 2002; BIANCO, J Biotechnol, 82, 393〜409, 2002)。よって、ヒドロゲナーゼの可能性のある用途は、二水素の光反応生成、バイオ燃料電池及びバイオセンサである。
【0004】
ヒドロゲナーゼは、それらの活性部位の金属含量により分類される酸化還元酵素のファミリーを構成する(VIGNAISら, FEMS Microbiol Rev, 25, 455〜501, 2001)。主要なクラスは、[NiFe]-ヒドロゲナーゼと[FeFe]-ヒドロゲナーゼであり、これらは系統発生的に異なるタンパク質ファミリーである。
【0005】
[NiFe]-ヒドロゲナーゼは、例えばデスルホビブリオ(Desulfovibrio)、アゾバクター(Azobacter)、ロドバクター(Rhodobacter)、ラルストニア(Ralstonia)、リゾビウム(Rhizobium)、ブラディリゾビウム(Bradyrhizobium)及びシネコシスティス(Synechocystis)を含む多様な細菌から単離されている。これらの酵素は、メタノコッカス(Methanococcus)、メタノサルシナ(Methanosarcina)、アシディアヌス(Acidianus)、ピロバキュラム(Pyrobaculum)のようないくつかの古細菌でも見出される。これらは、典型的に、Ni-Fe活性部位を含有する大サブユニット(large subunit)と、電子伝達に関与する[Fe-S]クラスタを含有する小サブユニットとを含む。これらは、さらなるサブユニットも含み得る。全ての[NiFe]-ヒドロゲナーゼの大サブユニットは、進化的に関連するようである。これらは、(N-末端からC-末端に) L1、L2、L3及びL4として表される少なくとも4つの保存モチーフを含有する。ある古細菌では、大サブユニットはL4の前で切断され、よってこのモチーフは付加的な非常に小さいサブユニットに含有される。L0と表される5番目の保存モチーフも、ほとんどの[NiFe]-ヒドロゲナーゼのN-末端の端の近くで見出される(KLEIHUESら, J. Bacteriol., 182, 2716〜24, 2000; BURGDORFら, J. Bacteriol., 184, 6280〜88, 2002)。
【0006】
これらのモチーフは、以下のコンセンサス配列により定義される(1文字コード):
・ L0: R[I/V/A]EG[H/D/A]
・ L1: RGXE (ここで、X = L、I、F、V又はM);
・ L2: [R/K]X1C[G/R]X2C (ここで、X1は任意のアミノ酸残基であり、X2 = L、V、I又はM; L1及びL2は16個の任意のアミノ酸残基で分けられる);
・ L3: X1X2X3X4X5X6X7X8X9X10X11X12[D/S/E] (ここで、X1 = D、S、N又はE、X2 = H、D、S、N又はL、X5 = H、S、A、Q又はW、X6 = F、T、Y又はG、X9 = L、F、M又はY、他のXnは任意のアミノ酸残基である);
・ L4: D[P/I/S]CX1X2CX3X4[H/R] (ここで、X2 = A、S、V、G又はT、X1、X3及びX4は任意のアミノ酸残基である)。
【0007】
上記のモチーフにおいて、[aa1/aa2・・・]は、その位置にてそれらのアミノ酸が選択可能であることを意味する。任意のアミノ酸残基とは、20個の通常のアミノ酸のいずれかの鏡像異性体及び立体異性体を含む天然又は合成のアミノ酸のことをいう。Xnは、具体的に言及されない全てのその他の位置に相当する。
【0008】
モチーフL2及びL4のそれぞれは、活性部位でのニッケルの結合に関与する2つのシステイン残基を含有する。L3は幾分可変性であるが、ClustalWによる複数配列アラインメントにおいて容易に同定される[Chenna R, Sugawara H, Koike T, Lopez R, Gibson TJ, Higgins DG, Thompson JD (2003). Multiple sequence alignment with the Clustal series of programs. Nucleic Acids Res, 31:3497〜3500]。L3の配列は、ディー・フルクトソボランス(D. fructosovorans)の[NiFe]-ヒドロゲナーゼにおいてDHLVHFYHLHALDであり、シネコシスティスPCC6803酵素においてSHALSFFHLSSPDである。
【0009】
[NiFe]-ヒドロゲナーゼ及び[FeFe]-ヒドロゲナーゼはともに、O2感受性である。一般的に、[Fe]-ヒドロゲナーゼは、O2により不可逆的に不活性化される。これとは対照的に、O2に曝露された[NiFe]-ヒドロゲナーゼは再活性化され得、そして、活性がより低い傾向にあるが、水素酸化細菌であるラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)からのMBH及びSHのような比較的酸素に耐性な酵素のいくつかの例がある(BURGDORFら, J Mol Microbiol Biotechnol, 10, 181〜96, 2005)。高度に酸素耐性であるがさらにより活性が低い[NiFe]-ヒドロゲナーゼの部分群は、ラルストニア・ユートロファからのRH (BERNHARDら, J Biol Chem, 276, 15592〜7, 2001)、並びにロドバクター・カプスラータ(Rhodobacter capsulatus) (ELSENら, J Bacteriol, 178, 5174〜81, 1996)及びブラディリゾビウム・ジャポニカム(Bradyrhizobium japonicum) (BLACKら, J Bacteriol, 176, 7102〜6, 1994)からのHupUVタンパク質、並びに[NiFeSe]-ヒドロゲナーゼのようなH2センサである。
【0010】
O2に対するヒドロゲナーゼの感受性は、これらの酵素の技術的な応用の開発に対して主要な障害となる。例えば、水の光分解の間に生成される二酸素によるヒドロゲナーゼ阻害のために(LEGERら, J Am Chem Soc, 126, 12162〜72, 2004)、二水素の光合成による生成は、天然条件下で一過性の現象でしかない(COURNACら, J Bacteriol, 186, 1737〜46, 2004)。その結果、実験室の実験で得られる実際の二水素生成効率は、1%より低い(MELISら, Plant Physiol, 122, 127〜36, 2000; FOUCHARDら, Appl Environ Microbiol, 71, 6199〜205, 2005)。
【0011】
[FeFe]ヒドロゲナーゼ及び[NiFe]-ヒドロゲナーゼはともに、分子表面と活性部位との間のH2及びO2の拡散を可能にする疎水性ガスチャネルを有する。図1は、ディー・フルクトソボランスからの基本形の[NiFe]ヒドロゲナーゼの結晶構造を表す。ガスチャネルは灰色で示す。
【0012】
[NiFe]活性部位に近い、疎水性チャネルの内部の端にて、酸素耐性H2センサのサブクラスでは、2つの疎水性残基(通常は、酸素感受性[NiFe]-ヒドロゲナーゼにおいて保存されるバリン及びロイシン)が、それぞれイソロイシン及びフェニルアラニンに置き換えられる(VOLBEDAら, Int. J. Hydrogen Energy, 27, 1449〜61, 2002)。これらは、それぞれ、保存モチーフL2の残基X2と、保存モチーフL3のX9とに相当する。酸素耐性ヒドロゲナーゼにおけるよりかさ高い(bulkier)残基の存在が、この点においてチャネルの直径を低減させ、よってH2分子より大きいO2分子が活性部位に近づくことを制限すると仮定されている。この仮定は、2つの異なるRH (H2センサ)についてのBuhrkeら(J. Biol. Chem. 2005, 280, 23791〜23796)及びDucheら(FEBS J. 2005, 272, 3899〜3908)による独立した研究により、現在、確認されている。
【0013】
これに基づいて、天然に存在するヒドロゲナーゼを、二酸素に対するそれらの耐性を改善するために、それらのH2チャネルの直径を低減させることにより改変することが提案されている。PCT出願WO 2004/093524は、よって、[FeFe]ヒドロゲナーゼを、H2チャネルを裏打ちする残基をトリプトファン又はフェニルアラニンのようなよりかさ高い残基で置換することにより改変することを提案している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明者らは、デスルホビブリオ・フルクトソボランスの[NiFe]-ヒドロゲナーゼにおけるVal74及びLeu122 (保存モチーフL2の残基X2と、保存モチーフL3の残基X9とにそれぞれ相当する)により占められる位置での変異の、二酸素耐性に対する影響を調査している。
【0015】
酸素耐性H2センサに関する従来技術の報告に基づいて、まず、74位のバリンをイソロイシンに、122位のロイシンをフェニルアラニンに置換することを試みた。しかし、無酸素での酵素の触媒特性は保存されたものの、これらの置換は、二酸素耐性を改善しなかった。これとは対照的に、本発明者らは、驚くべきことに、Val74及びLeu122のメチオニンでの置き換えが、天然ヒドロゲナーゼと比較して、O2の存在下で活性を維持する能力を改善し、還元条件下で安定な活性をはるかにより早く回復させることを見出した。
【0016】
本発明は、[NiFe]-ヒドロゲナーゼの二酸素耐性を改善するための手段を提供する。本発明は、天然の対応物よりもよい酸素耐性を有するが、同等の触媒活性を維持する改変[NiFe]-ヒドロゲナーゼも提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の目的は、[NiFe]-ヒドロゲナーゼの改変大サブユニットをコードする変異ポリヌクレオチド得る方法であって、該方法は:
- [NiFe]-ヒドロゲナーゼの大サブユニットをコードする配列を含む最初の(initial)ポリヌクレオチドを準備し、ここで、前記大サブユニットは、以下のペプチドモチーフ:
・ L1: RGXE (ここで、X = L、I、F、V又はM)と、
・ L2: [R/K]X1C[G/R]X2C (ここで、X1は任意のアミノ酸残基であり、X2 = L、V、I又はMであり、L1及びL2は16個の任意のアミノ酸残基により分けられている)と、
・ L3: X1X2X3X4X5X6X7X8X9X10X11X12[D/S/E] (ここで、X1 = D、S、N又はE、X2 = H、D、S、N又はL、X5 = H、S、A、Q又はW、X6 = F、T、Y又はG、X9 = L、F、M又はY、その他のXnは任意のアミノ酸残基である)と、
・ L4: D[P/I/S]CX1X2CX3X4[H/R] (ここで、X2 = A、S、V、G又はT、X1、X3及びX4は任意のアミノ酸残基である)と
を含み、
・ 任意に、モチーフL0: R[I/V/A]EG[H/D/A]を含み、
- 前記最初のポリヌクレオチドを改変して、前記大サブユニットのモチーフL2の残基X2及び/又はモチーフL3の残基X4及び/又はモチーフL3の残基X9の少なくとも1つをメチオニンで置換する
ことを含む。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】1.8Åの分解能でのディー・フルクトソボランスの[NiFe]ヒドロゲナーゼの結晶構造(PDB: 1YQW)。
【図2】MSによりアッセイされた交換活性。
【図3】酸化状態での天然ヒドロゲナーゼ及びL122M-V74M-変異体のEPRスペクトル。
【図4】WT及びL122M-V74Mのディー・フルクトソボランス[NiFe] ヒドロゲナーゼの好気的不活性化。
【図5】ディー・フルクトソボランス[NiFe]-ヒドロゲナーゼにおけるガスチャネルゲートに対する変異の影響。
【図6】MSによりアッセイされ、ヒドロゲナーゼ遺伝子の野生型コピーで補完されたシネコシスティスのΔhoxH株を有するシネコシスティス無細胞抽出物中で決定されたH+/D2交換活性を示す。
【図7】MSによりアッセイされ、野生型酵素を有するシネコシスティス無細胞抽出物中で決定されたH+/D2交換活性を示す。
【図8】MSによりアッセイされ、I64M-L112M HoxH変異体を有するシネコシスティス無細胞抽出物中で決定されたH+/D2交換活性を示す。
【図9】MSによりアッセイされ、I64M-L107M HoxH変異体を有するシネコシスティス無細胞抽出物中で決定されたH+/D2交換活性を示す。
【図10】V74M (Mとして示す)、L122M-V74M (MMとして示す)及び野生型(WTとして示す)の酵素の、空気酸素濃度での不活性化の比較。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の好ましい実施形態によると、上記の方法は、最初のポリヌクレオチドを改変して、上記の大サブユニットのモチーフL3の残基X4をメチオニンで置換することを含む。
本発明の別の好ましい実施形態によると、上記の方法は、最初のポリヌクレオチドを改変して、上記の大サブユニットのモチーフL2の残基X2及びモチーフL3の残基X9の少なくとも1つをメチオニンで置換することを含む。
【0020】
別の好ましい実施形態によると、上記の最初のポリヌクレオチドは、上記の[NiFe]-ヒドロゲナーゼの他のサブユニットをコードする配列をさらに含むオペロンである。
【0021】
上記の方法により得ることができる変異ポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含有する核酸ベクター、並びに該ベクターにより遺伝子的に形質転換された宿主細胞も、本発明の一部分である。好ましくは、上記のベクターは、発現されるポリヌクレオチドが適切なプロモーターの転写制御下にある発現ベクターである。適切なベクター及びプロモーターの選択は、ポリヌクレオチドが形質転換する宿主細胞に依存する。
【0022】
本発明は、本発明の変異ポリヌクレオチドによりコードされる[NiFe]-ヒドロゲナーゼの改変大サブユニット、及び該改変大サブユニットを含有する[NiFe]-ヒドロゲナーゼも包含する。好ましくは、上記の[NiFe]-ヒドロゲナーゼは、本発明の変異オペロンによりコードされる。
【0023】
上記の改変[NiFe]-ヒドロゲナーゼは、それらが由来する野生型[NiFe]-ヒドロゲナーゼと比較したときに、同等の触媒活性と、改善された二酸素耐性とを有する。本発明の改変[NiFe]-ヒドロゲナーゼは、H2生産に用い得る。これらは、バイオ燃料電池の開発にも有用であり、これは、より強い活性表面を得て、結局は、水素酸化触媒と二酸素還元触媒との間の膜分離を廃するために、酸素耐性触媒を入手可能とすることにより利益を与えることができる(VINCENTら, J Am Chem Soc, 127, 18179〜89, 2005)。本発明の酸素耐性[NiFe]-ヒドロゲナーゼは、バイオセンサの設計に用いて、空気中のH2の存在を検出することもできる。
【0024】
本発明の変異ポリヌクレオチドは、それ自体公知である、特に定方向突然変異誘発を含む突然変異誘発技術により得ることができる。
【0025】
本発明の改変大サブユニット及び[NiFe]-ヒドロゲナーゼは、本発明のポリヌクレオチドを適切な宿主内で発現させることにより得ることができる。
この場合、水素光反応生成のために適する宿主細胞は、特に、シアノバクテリアであるシネコシスティスPCC6803、及び拡張により、そのサブユニットが、部位特異的突然変異誘発により、本発明により記載される様式で改変され得るNiFeヒドロゲナーゼを有する任意のシアノバクテリアのようなシアノバクテリアを含む。燃料電池用の触媒、電気分解装置又はセンサとして用い得るヒドロゲナーゼを生成するために適する宿主細胞は、NiFeヒドロゲナーゼがその中に存在し、部位特異的突然変異誘発を行うことができ、かつ抽出及び精製され得る任意の細菌、特にデスルホビブリオ・フルクトソボランスである(実施例1を参照)。
【0026】
上記の宿主細胞で用いるのに適する部位特異的突然変異誘発及び発現系は、当該技術において入手可能である、例えばデスルホビブリオ用のシャトルベクター(Roussetら, Plasmid (1998), 39: 114〜122)。シアノバクテリアの場合、利用可能な系は、以下のレビューに記載される:(i) Thiel T, Genetic analysis of cyanobacteria, in The molecular biology of cyanobacteria, DA Bryant (編), Kluwer Academic Publishers, The Netherlands, 1994, pp 581〜611; (ii) Elhai J. Genetic techniques appropriate for the biotechnological exploitation of cyanobacteria, Journal of Applied Phycology 6, 177〜186, 1994; (iii) Porter RD Transformation in cyanobacteria, CRC Critical reviews in microbiology, 13(2), 111〜132, 1986。
【0027】
本発明は、本発明の改変[NiFe]-ヒドロゲナーゼの生成と特性とを説明する実施例に言及する以下のさらなる記載により、さらに説明される。しかし、これらの実施例が、本発明の説明のためにのみ与えられ、本発明の限定をいずれにしても構成しないことが理解されるべきである。
【0028】
図の説明
図1. 1.8Åの分解能でのディー・フルクトソボランスの[NiFe]ヒドロゲナーゼの結晶構造(PDB: 1YQW)。Ni-Fe活性部位とFe-Sクラスタの場所は、対応する矢印で示す。ガスチャネルは、0.8Åの半径を有して灰色で表す。
図2. MSによりアッセイされた交換活性。実施例2に説明するように、O2が追い出され、所望の濃度に低減するまで、容器中の媒体にD2を通気し、次いで、容器を閉じ、活性化したヒドロゲナーゼの一定量を注入した(各グラフの最初の時間にて)。グラフDにおいて、2回目のD2通気を、18分の時間にて行った。点線:酸素濃度、黒色の線:ヒドロゲナーゼが媒介する同位体交換速度(計算のために30秒間の時間間隔を用いて時間に関してガス濃度曲線を数値的に誘導して得られたH2及びHD生成速度から、各点において算出した)。
【0029】
図3. 酸化状態での天然ヒドロゲナーゼ及びL122M-V74M-変異体のEPRスペクトル。Ni種Ni-Aのgx、gy及びgz成分は、図の上部にて3つの矢印で示し、Ni種Ni-Bのものは、下部の3つの矢印で示す。実験条件:温度、100K;マイクロ波電力、10 mW;変調増幅、100kHzにて1 mT。
【0030】
図4. WT及びL122M-V74Mのディー・フルクトソボランス[NiFe] ヒドロゲナーゼの好気的不活性化。タンパク質フィルムボルタンメトリー実験における時間に対する活性(パネルA)及び酸素濃度(パネルB)。活性を電流として測定し、好気的不活性化が始まる前のその値で標準化した。空気飽和溶液の一定量(20μLを5回、次いで200μLを3回)を、最初に3mLのバッファーを含有する電気化学セルに注入した。電流の尺度は、下の左の角にバーとして示す。電極電位:SHEに対して200 mV。T=40℃、pH 7。電極回転速度オメガ = 2 krpm。
【0031】
図5. ディー・フルクトソボランス[NiFe]-ヒドロゲナーゼにおけるガスチャネルゲートに対する変異の影響。(A) 天然の酵素活性部位に近い領域のズーム;(B) V74M/L122M二重変異体の同じズーム;(C) M122及びC543について代替の配座を有して、同上。
図6は、MSによりアッセイされ、ヒドロゲナーゼ遺伝子の野生型コピーで補完されたシネコシスティスのΔhoxH株を有するシネコシスティス無細胞抽出物中で決定されたH+/D2交換活性を示す。点線:酸素濃度。実線:ヒドロゲナーゼが媒介する同位体交換速度。
【0032】
図7は、MSによりアッセイされ、野生型酵素を有するシネコシスティス無細胞抽出物中で決定されたH+/D2交換活性を示す。点線:酸素濃度、実線:ヒドロゲナーゼが媒介する同位体交換速度。
図8は、MSによりアッセイされ、I64M-L112M HoxH変異体を有するシネコシスティス無細胞抽出物中で決定されたH+/D2交換活性を示す。点線:酸素濃度、実線:ヒドロゲナーゼが媒介する同位体交換速度。
図9は、MSによりアッセイされ、I64M-L107M HoxH変異体を有するシネコシスティス無細胞抽出物中で決定されたH+/D2交換活性を示す。点線:酸素濃度、実線:ヒドロゲナーゼが媒介する同位体交換速度。
【0033】
図10. V74M (Mとして示す)、L122M-V74M (MMとして示す)及び野生型(WTとして示す)の酵素の、空気酸素濃度での不活性化の比較。矢印は、活性化された酵素の注入を示す。点線は、D2消費活性を表し、実線は、H+/D2交換活性を表す。媒体における酸素濃度の変動は、矢印を付した線で示す。
【実施例】
【0034】
実施例1:変異[NiFe]ヒドロゲナーゼの構築及び発現
モチーフL2の残基X2及びモチーフL3の残基X9の疎水性残基の変異の、二酸素耐性に対する影響を、デスルホビブリオ・フルクトソボランスからの[NiFe]-ヒドロゲナーゼの大サブユニットhynBにおいて研究し([NiFe]ヒドロゲナーゼオペロンGenBank M35333から)、ここで、これらの残基はそれぞれVal74及びLeu122である。変異体V74M、L122F-V74I及びL122M-V74Mを構築した。
【0035】
ディー・フルクトソボランスは、多量の組換えヒドロゲナーゼの生成を可能にする遺伝子システムがこの生物において開発されているので、モデルとして用いた(ROUSSETら, Proc. Natl. Acad. Sci. U S A, 95, 11625〜30, 1998; DEMENTINら, J Biol Chem, 279, 10508〜13, 2004)。
【0036】
細菌株、プラスミド及び成長条件
大腸菌DH5α株、F-, endA1, hsdR17 (rK- mK+), supE44, thi-1, λ-, recA1, gyrA96, relA1, Δ(argF- lacZYA) U169, φ80dlacZΔM15を、組換えプラスミドのクローニングにおいて宿主として用いた。細菌は、日常的に、LB培地中で37℃にて成長させた。100μg/mlでのアンピシリン又は20μg/mlでのゲンタマイシンを、細胞がそれぞれpUC18又はpBGF4誘導体を有するときに加えた。ゲンタマイシン耐性遺伝子を伝達する、pBMファミリーのシャトルベクターであるpBGF4プラスミド(ROUSSETら, Plasmid, 39, 114〜22, 1998)を用いて、以前に記載されるような(ROUSSET et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U S A, 95, 11625-30, 1998)ディー・フルクトソボランスからの[NiFe]ヒドロゲナーゼオペロンを保持させた。
【0037】
[NiFe]ヒドロゲナーゼオペロンの欠失を有するディー・フルクトソボランスMR400株[hyn::npt ΔhynABC] (ROUSSETら, Mol. Microbiol., 5, 1735〜40, 1991)は、嫌気的に37℃にてSOS培地中で成長させた(ROUSSETら, Plasmid, 39, 114〜22, 1998)。大容量培養を、以前に記載されたようにして行った(ROUSSETら, Proc. Natl. Acad. Sci. U S A, 95, 11625〜30, 1998)。50μg/mlでのカナマイシンを日常的に存在させ、50μgゲンタマイシン/mlは、細胞がプラスミドpBGF4を有するときのみ加えた。
【0038】
部位特異的突然変異誘発
pBGF4からのAatII-PstIフラグメントをpUC18にサブクローニングして、突然変異誘発実験で用いる鋳型を作製した。QuikChange TM XL部位特異的突然変異誘発キット(Stratagene, Amsterdam, The Netherlands)を用いて、大サブユニットhynBにおいて点突然変異を作製した。
【0039】
バリン74のメチオニンでの置換は、バリンをコードするGTGコドンからのグアニン1533 (GenBank M35333配列の番号付けに従う)をアデニンに置き換えて、メチオニンをコードするATGコドンを得ることにより行った。バリン117のメチオニンでの置換は、バリンをコードするGTCコドンからのグアニン1662及びシトシン1664 (M35333配列の番号付けに従う)を、それぞれアデニン及びグアニンに置き換えて、メチオニンをコードするATGコドンを得ることにより行った。ロイシン122のメチオニンでの置換は、ロイシンをコードするCTGコドンからのシトシン1677 (M35333配列の番号付けに従う)を、アデニンに置き換えて、メチオニンをコードするATGコドンを得ることにより行った。
【0040】
突然変異誘発の後に、AatII-PstIフラグメントを完全に配列決定し、AatII-PstIで消化したpBGF4に挿入した。組換えプラスミドを、ディー・フルクトソボランスMR400株に、エレクトロポレーションにより導入した(ROUSSETら, Plasmid, 39, 114〜22, 1998)。
【0041】
タンパク質精製
StrepタグII配列(IBA Gmbh, Gottingen, Germany)を、ヒドロゲナーゼ遺伝子に導入した。タグS W S H P Q F E Kと5アミノ酸リンカーG A S G A Aを、大サブユニットのN-末端の端に導入した。酵素を、100 mM Tris/HCl pH8、0.5M Naclバッファー中でStrep-Tactin (登録商標)カラム(IBA Gmbh)に対する親和性により精製した。溶出は、製造業者により記載されるようにして行った。
【0042】
HiLoad TM 26/60 Superdex TM 200 prepグレードカラム(Amersham Biosciences, Uppsala, Sweden)を用いるさらなる精製工程を行った。組換えM74/M122ヒドロゲナーゼの精製収率は、培養物1リットルあたり2.25 mgの精製酵素であった。組換えL122F-V74Iの精製収率は、同様であった。
【0043】
実施例2:WT、L122F-V74I及びL122M-V74Mの[NiFe]ヒドロゲナーゼの触媒活性
ヒドロゲナーゼ活性を、電子伝達を伴わないので二酸素の触媒的還元が生じないヒドロゲナーゼ活性部位の固有の特性であるH+/D2交換活性をモニターすることにより、O2の存在下で評価した。
【0044】
H+/重水素交換反応
水相でのH+/重水素交換を、膜導入型質量分析法(membrane-inlet mass-spectrometric method)により(JOUANNEAUら, J Bacteriol, 143, 628〜36, 1980)、30℃にて、50 mMリン酸バッファー、pH 7を含有する1.5 mlの容器で連続的にモニターした。測定の前に、ヒドロゲナーゼを、H2雰囲気下で、100μM MVの存在下でインキュベートすることにより活性化した。活性化の間の試料の無酸素状態は、還元されたMVの青色により容易にモニターされた。次いで、アッセイを以下のようにして行った。D2を、容器中の媒体内に、O2が追い出され、所望の濃度まで低減するまで通気し、次いで、容器を閉じ、活性化されたヒドロゲナーゼの分割量(活性化された試料20μl、1〜2.5μgの酵素である)を注入した(図2を構成するグラフの最初の時間にて)。ヒドロゲナーゼ活性を、次いで、以前に公表されたようにして(COURNACら, J Bacteriol, 186, 1737〜46, 2004)、同位体交換の速度から算出した。
【0045】
結果を図2に示す。
予測されたように、天然酵素の不活性化は、10μM付近及びそれより高い二酸素濃度にてほぼ即座であった(図2A)。いくらかの活性は、より低いO2濃度(図2Bにおいて約4μM)で注入のすぐ後に検出され、これは数分の間に消えた。さらに、天然酵素は、再活性化されるためには、還元条件下で長期のインキュベーションを必要とした。より驚くべきことに、L122F-V74I変異体は、天然酵素と同じ様式で不活性化された(図2C)。
【0046】
L122M-V74M変異体の特異的水素摂取活性は320Uであり、これは、天然ヒドロゲナーゼのもの(500 U)と同等であった。約20μM二酸素の存在下でのL122M-V74M-変異体の不活性化(図2D)は、天然酵素のものよりもかなり遅かった。興味深いことに、H+/D2交換は、O2濃度を10μM未満に設定したときにかなりの程度回復した。最初の活性の約50%が、天然酵素が完全に阻害される濃度である6μM O2で維持された。これらの結果は、変異が2つの興味深い特徴を与えることを示す:i) O2の存在下で活性を維持する能力と、ii) 天然ヒドロゲナーゼにより必要とされる還元条件下での長期の再活性化を必要とすることなく、安定な活性を回復する能力。
【0047】
実施例3:WT及びL122M-V74Mの[NiFe]ヒドロゲナーゼのEPR分光分析
L122M-V74M-変異体の迅速な再活性化は、これらの変異が、活性部位Ni-Feイオンに対して直接的な影響を有することを示唆する。この影響を調べるために、野生型及び変異体の両方のヒドロゲナーゼを、EPR分光法により分析した。
EPRスペクトルは、Oxford InstrumentsのESR 900ヘリウム流動低温保持装置を装着したBruker ESP 300E分光光度計で記録した。
【0048】
結果を、図3に示す。
天然ヒドロゲナーゼの酸化状態において、NiFe中心は、2つのEPR-活性種、即時応答不能型(unready) Ni-A種(g = 2.31, 2.24, 2.01)と、即時応答可能型(ready) Ni-B種(g = 2.32, 2.16, 2.01)の混合物で存在し、Ni-A種が、Ni-A/Ni-B = 80/20で最も豊富である(図3)。酸化状態のL122M-V74M-変異体の場合、常磁性種の比は、Ni-A/Ni-B=20/80で逆転する(図3)。
【0049】
Ni-A種において、NiとFeとを橋かけする過酸化物リガンドが存在することが提案されており(OGATAら, Structure (Camb), 13, 1635〜42, 2005; VOLBEDAら, J Biol Inorg Chem, 10, 239〜49, 2005)、これは、除去されるか又は還元されるために長期の還元的活性化を必要とする(VOLBEDAら, J Biol Inorg Chem, 10, 239〜49, 2005; FERNANDEZら, Coordin. Chem. Rev., 249, 1596〜608, 2005)。これとは対照的に、Ni-B種において、橋かけリガンドは、還元条件下で容易に除去される水酸化物イオンであると考えられる(VOLBEDAら, J Biol Inorg Chem, 10, 239〜49, 2005; FERNANDEZら, Coordin. Chem. Rev., 249, 1596〜608, 2005)。
【0050】
天然酵素において、Ni-A状態は、好気的酸化状態の下でのみ得られるが、Ni-B種は、嫌気的酸化の際に形成され得る。酸化されたL122M-V74M-変異体において観察された著しい量のNi-Bシグナルは、よって、その速い再活性化と完全に首尾一貫し、変異体のメチオニン側鎖が、活性部位への二酸素の接近を制限することにより酵素を保護することを示唆する。L122M-V74M-変異は、EPR分光法により測定されるように、酵素の還元Ni-C活性状態又は還元鉄-硫黄クラスタに対して影響せず、このことは、変異酵素が完全に成熟して機能的であり、H2が活性部位に到達できることを示す。
【0051】
実施例4:WT及びL122M-V74Mの[NiFe]ヒドロゲナーゼの好気的不活性化
タンパク質フィルムボルタンメトリーを用いて、変異により好気的不活性化の速度がどのように影響されるかを決定した。この技術において、酵素は電極に吸着されるので、直接の電子伝達が生じ、活性が電流として測定され、可溶性メディエーターを用いる必要がない(LEGERら, Biochemistry, 42, 8653〜62, 2003)。
【0052】
電気化学的測定を、以前に記載されたようにして行った(LEGERら, J Am Chem Soc, 126, 12162〜72, 2004)。酵素を吸着させたエッジ熱分解黒鉛電極を、SHEに対して+200mVで平衡にし(poised)、pH7、40℃にて溶液中に浸漬し、H2で連続的に流し、活性を電流として測定した(図4A)。通気した溶液の分割量を、電気化学セルに繰り返し注入し、得られた時間に対する電流の減少は、酵素の好気的不活性化を顕示する。電流の減少が早いほど、二酸素感受性がより大きい(LEGERら, J Am Chem Soc, 126, 12162〜72, 2004; DEMENTINら, J Biol Chem, 279, 10508〜13, 2004; LAMLEら, J Am Chem Soc, 126, 14899〜909, 2004)。図4Bにおける時間に対する二酸素濃度の鋸歯形状のプロットは、H2により流し出されたO2に起因する。図4Bの二酸素濃度プロフィールは、空気飽和バッファー中の最初のO2濃度を250μMと仮定して、電気化学セルに注入された通気溶液の量から再構成した。各注入の後に、O2濃度は時間とともに指数関数的に減少し、減衰の時定数を、(LEGERら, J Am Chem Soc, 126, 12162〜72, 2004)に記載されるようにして最初の不活性化の速度を適合させることにより決定した。
【0053】
図4Aは、全く同じ条件下で行った2つの不活性化実験の結果を比較する。充分量のO2に曝露した後に、両方の酵素は全ての活性を失う。しかし、全ての事項が等しいが、MM-変異体は天然酵素よりも著しくよりゆっくりと不活性化する。我々は、変異が、二酸素を用いる反応についての二分子速度定数を32 s-1mM-1のO2 (LEGERら, J Am Chem Soc, 126, 12162〜72, 2004)から20 s-1mM-1に減少させると決定し、このことは、1) 活性部位へのO2の接近が、不活性化の速度を制限し、2) このプロセスが、変異体においてよりゆっくりであることを示す。よって、電気化学的実験も、変異体のメチオニンの側鎖が酸素の活性部位のくぼみへの侵入を遮断するという概念と完全に首尾一貫する。
【0054】
実施例5:L122M-V74M [NiFe]ヒドロゲナーゼの構造
酸化状態のL122M-V74M-変異体の結晶構造を解明して、ガストンネルの形状に対する変異の影響、二酸素に対するメチオニンの反応性、及び活性部位のくぼみでの変異により誘導される可能性のある改変を決定した。
【0055】
ディー・フルクトソボランス[NiFe]-ヒドロゲナーゼのメチオニン二重変異体の結晶を、S499A変異体について記載されたようにして(VOLBEDAら, J Biol Inorg Chem, 10, 239〜49, 2005)得て、液体窒素中に保存した。回折データは、フランスグルノーブルの欧州シンクロトロン放射施設のED23-1ビームラインで1.0ÅのX線波長を用いて、100KにてADSC Q315R二乗(square)検出器で収集した。放射線損傷の影響を低減するために、3組の画像を、冷凍冷却した(cryo-cooled)結晶の異なる部分から収集した。それぞれの画像について、0.5°のΔφ及び0.6秒の曝露時間を用いた。回折スポットを積分し、測定し、XDS (KABSCH, International Tables for Crystallography, F, 2001)を用いてゼロ線量補正(zero-dose correction)に供した(DIEDERICHSら, Acta Crystallogr D Biol Crystallogr, 59, 903〜9, 2003)。最終データ補正(reduction)は、CCP4パッケージ(Anonymous, Acta Crystallogr D Biol Crystallogr, 50, 760〜3, 1994)を用いて行った。強度データの統計表を、以下の表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
結晶構造を、REFMAC (MURSHUDOVら, Acta Crystallogr D Biol Crystallogr, 53, 240〜55, 1997)を用いて、S499A変異体について記載された(VOLBEDAら, J Biol Inorg Chem, 10, 239〜49, 2005)のとほぼ同じストラテジーで精密化した。2つの変異部位での残基Val74及びLeu122を、まず、アラニンに変更し、全ての水分子を開始時のモデルから消去した。各サブユニットの剛体精密化の後に、大サブユニットの74位及び122位にてメチオニンをモデル化した。次いで、TLS体を用いて、各サブユニットの全体的な異方性の運動をモデル化し(WINNら, Acta Crystallogr D Biol Crystallogr, 57, 122〜33, 2001)、典型的には、水分子を含んで、10サイクルのTLS精密化と、10〜15サイクルの原子位置及び等方性温度因子(isotropic temperate factors)の精密化とを、TURBO-FRODO (ROUSSEL及びCAMBILLAU, 81, 1991)を用いて手動モデル修正を用いて交互に行い、ここで、電子密度図は幾何学的に適切な位置にて著しいピークを示した。精密化の間に、変異された残基が部分的に無秩序であったことが明らかになった。最終モデルにおいて、Met74の側鎖は、非対称単位中の酵素分子に応じて見かけの80〜90%の占有率を有し、Met122は、ほぼ同じ占有率の2つの配座を有する。精密化の統計表を、以下の表2に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
差フーリエ(Fobs-Fcalc)電子密度図の著しいピークは、単位セル中に存在する3つの酵素分子のうちの少なくとも2つの活性部位状態の混合物を示した。3つの酵素分子のうちの1つについて、過酸化物リガンドが、非橋かけ酸素原子について70%の占有率でモデル化され、これは、即時応答不能型Ni-A及び/又はNi-SUの種のフラクションを反映する。残りの30%は、よって、水酸化物含有Ni-B形に相当するはずである。非対称単位中の他の2つの分子は、推定の水酸化物橋かけを含有し、このことは、酵素の常磁性フラクションのほとんどが即時応答可能型Ni-B状態にあることを示すEPRの結果と一致する。これらの2つの分子も、末端Cys543 Ni-リガンドについて2つの配座を示し、これらはそれぞれ70%と30%の占有率でモデル化される(図5B及びC)。構造中で著しい改変はどこにも検出されなかったので、変異により誘発された変化は非常に局所的である。変異体のMet74及びMet122の側鎖は、それらの対応する電子密度により示されるように(図示せず)、二酸素と反応して安定な付加物を形成しなかった。天然Val74及びLeu122をよりかさ高いメチオニン残基で置き換えた結果として、活性部位のくぼみとの界面でのガストンネルが、著しくより狭くなるようである(図5B及びC)。しかし、Met74及びMet122の側鎖の観察された分離された無秩序は、これらが異なる配座の間を変動することによりガス分子の通過を可能にするであろうことを示唆する。ガスチャネルと活性部位のくぼみとの間の界面に位置するアミノ酸の側鎖の性質は、ディー・フルクトソボランス[NiFe]-ヒドロゲナーゼのO2反応性に非常に重要な要素である。よって、立体障害は、唯一の決定的なパラメータではないようである。酸素耐性H2センサから示唆されるようなバリン及びロイシンのイソロイシン及びフェニルアラニンでの置換は、酸素耐性を与えなかった。IF-及びL122M-V74M-変異体の酸素耐性における違いを説明するためにさらなる研究が必要であろう。おそらく、イソロイシン又はフェニルアラニン側鎖と比較したときのメチオニン側鎖の固有のより高い柔軟性が、観察された表現型の原因であろう。
【0060】
実施例6:シネコシスティスPCC6803中のHOXHサブユニットの部位特異的突然変異誘発、並びにWT酵素、HOXH AADA酵素、I64M-L112M酵素及びI64M-L107M酵素の触媒活性
株及び成長条件
大腸菌XL1 Blue株、HB101株及びDH10β株を、組換えプラスミドのクローニングにおいて宿主として用いた。細菌は、通常、LB培地中で37℃にて成長させた。100μg/mlのアンピシリン又は50μg/mlのクロラムフェニコールを、細胞がpUC18又はpUC19誘導体を有するときに加えた。
野生型シネコシスティスPCC 6803株及び変異株は、液体改変Allen培地(Allen, J. Phycol., 4, 1〜4, 1968)中で30℃にて、30μmol-光子m-2 s-1の平均光強度を与える1つの蛍光管形電灯を用いる連続的な照明の下で、独立栄養的に成長させた。形質転換体は、欠失変異体ΔhoxHについて25μg-クロラムフェニコールml-1、又はhoxH遺伝子の変異体について25μg-スペクチノマイシンml-1を含有するAllenの寒天プレート上で選択した。形質転換体の正しい分離を、PCRにより確認した。
【0061】
部位特異的突然変異誘発
hoxHのORFと、シネコシスティスの完全な配列(Kanekoら DNA Res., 3, 109〜136, 1996)の300bp上流及び下流(1673795位〜1671771位)とを含む配列が挿入されたpUC19プラスミドを、大腸菌細胞にサブクローニングし、突然変異を誘発した。QuickChange TM XL部位特異的突然変異誘発キット(Stratagene, Amsterdam, The Netherlands)を用いて、hoxH遺伝子に点突然変異を作製した。プラスミドは、hoxHのORFの50bp後に挿入されたスペクチノマイシン(aadA)耐性カセットも含有する。最終のプラスミドは完全に配列決定した。シネコシスティスの残基I64、L107及びL112は、ディー・フルクトソボランスの残基V74、L117及びL122にそれぞれ相当する。
【0062】
突然変異誘発された遺伝子を挿入するために、シネコシスティス・スピーシズ(sp.) PCC 6803のΔhoxH株を、以下の構築物を有するpUC18で野生株を形質転換することにより、まず構築した:hoxHのORFと、300 bp上流及び下流(完全配列Kanekoら 1996の1673795位〜1671771位)、ここで、クロラムフェニコール耐性カセットが、hoxHの19位と1376位にてCla I制限部位に挿入されていた。実際に、欠失変異体から開始することは、シネコシスティスにおいて染色体コピー数が高いので、必要である。
【0063】
得られたΔhoxH株を、hoxHの変異体を含有する改変pUC19プラスミドで形質転換した。改変遺伝子を有する株を、次いで、上記のようにスペクチノマイシンで選択した。よって、I64M-L112M及びI64M-L107M HoxH変異体を得た。
【0064】
H+/重水素交換反応
ヒドロゲナーゼ活性を、O2の存在下で、実施例2に記載されるようにしてH+/D2交換活性をモニターすることにより評価した。結果を図6〜9に示す。
【0065】
図6及び7は対照である。図6は、ヒドロゲナーゼ遺伝子(hoxH)の野生型(WT)コピーで補完したシネコシスティス・スピーシズのΔhoxH株の場合に測定された活性を示し、図7は、WT酵素の場合に測定された活性を示す。
図8は、I64M-L112M抽出物において測定された活性を示す。O2を注入したときに、活性は最初は下落し、次いで増加して、O2がまだ存在するのに安定のままであった。還元されたメチルビオロゲン(MV)の添加は、活性を増大させなかった。
I64M-L107M変異体(図9)の場合、ヒドロゲナーゼ活性は、I64M-L122Mについてよりもさらにより強固であるようだった。なぜなら、O2の何回かの注入が活性の低減のために必要であったからである。
【0066】
実施例7: WT、L122F-V74M及びV74M [NiFe]ヒドロゲナーゼの触媒活性
野生型(WTと表す)、L122F-V74M (MMと表す)及びV74M (Mと表す)の[NiFe]ヒドロゲナーゼのヒドロゲナーゼ活性を、O2の存在下で、H+/D2交換活性をモニターすることにより評価した。
培地にD2を通気し、開放したままにすることにより、O2濃度を空気中のものに近づけた。結果を図10に示す。
【0067】
注入の後に、M-変異体(V74M)は直ちに活性であった。これはD2を消費し、還元されたメチルビオロゲン(MV)を生成し、MVはO2により酸化された。この反応に続いて、D2の消費(グラフA中の点線)と、メチルビオロゲン(MV)により還元されたO2の減少(グラフAの上の線)が起こった。酸素が存在する場合、電子フラックスは酸素の還元の方に駆動され、このことは交換反応が生じることを妨げた。酸素がなくなったときに、媒体は完全に還元され、交換反応が開始できた。この実験は、高酸素濃度の存在下でM-変異体が活性であることを証明する。
【0068】
MM-変異体(L122F-V74M)の場合、酵素は150μMのO2の存在下で活性であったが、動力学はよりゆっくりであった。酵素は、よって、それがO2に長時間曝露されることにより阻害され始めた。
対照として、WT酵素はO2により直ちに阻害された。
【0069】
結論
まとめると、上記の結果は、初めて、[NiFe]-ヒドロゲナーゼの二酸素耐性を改善できることを示す。我々は、酸素感受性ヒドロゲナーゼを、20μMまでの酸素の存在下で触媒活性がある酸素耐性酵素に変換した。導入されたメチオニンが二酸素と反応することは証明されていないので(図5)、我々は、これらのメチオニンが、おそらく、二酸素が活性部位に到達することを妨げることにより、酵素を保護していると結論付ける。二酸素により酸化されたL122M-V74M-変異体は、嫌気的に酸化された天然酵素と同じ酸化還元状態にある(de LACEYら, Coordin. Chem. Rev., 249, 1596〜1608, 2005)。このことは、主要なNi-B EPRシグナル(図3)、及び活性部位でのヒドロキシル橋かけリガンドが豊富なことにより明確に示される。この保護効果は、迅速な再活性化(図2)及びより遅い不活性化速度(図4)の原因であり、これらの組み合わせは、改変酵素が、WTを完全に不活性化するマイクロモル濃度のO2の存在下で継続して機能する能力を説明するようである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
[NiFe]-ヒドロゲナーゼの改変大サブユニットをコードする変異ポリヌクレオチド得る方法であって:
- [NiFe]-ヒドロゲナーゼの大サブユニットをコードする配列を含む最初のポリヌクレオチドを準備し、ここで、前記大サブユニットは、以下のペプチドモチーフ:
・ L1: RGXE (ここで、X = L、I、F、V又はM)と、
・ L2: [R/K]X1C[G/R]X2C (ここで、X1は任意のアミノ酸残基であり、X2 = L、V、I又はMであり、L1及びL2は16個の任意のアミノ酸残基により分けられている)と、
・ L3: X1X2X3X4X5X6X7X8X9X10X11X12[D/S/E] (ここで、X1 = D、S、N又はE、X2 = H、D、S、N又はL、X5 = H、S、A、Q又はW、X6 = F、T、Y又はG、X9 = L、F、M又はY、その他のXnは任意のアミノ酸残基である)と、
・ L4: D[P/I/S]CX1X2CX3X4[H/R] (ここで、X2 = A、S、V、G又はT、X1、X3及びX4は任意のアミノ酸残基である)と
を含み、
・ 任意に、モチーフL0: R[I/V/A]EG[H/D/A]を含み、
- 前記最初のポリヌクレオチドを改変して、前記大サブユニットのモチーフL2の残基X2及び/又はモチーフL3の残基X4及び/又はモチーフL3の残基X9の少なくとも1つをメチオニンで置換する
ことを含む方法。
【請求項2】
前記最初のポリヌクレオチドを改変して、大サブユニットのモチーフL2の残基X2及びモチーフL3の残基X9をメチオニンで置換する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記最初のポリヌクレオチドが、[NiFe]-ヒドロゲナーゼの他のサブユニットをコードする配列をさらに含むオペロンである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の方法により得ることができるポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項3の方法により得ることができるポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項7】
請求項6に記載のベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項8】
請求項4に記載のポリヌクレオチドによりコードされる[NiFe]-ヒドロゲナーゼの改変大サブユニット。
【請求項9】
請求項8に記載の改変大サブユニットを含有する[NiFe]-ヒドロゲナーゼ。
【請求項10】
請求項5に記載のポリヌクレオチドによりコードされる請求項9に記載の[NiFe]-ヒドロゲナーゼ。
【請求項1】
[NiFe]-ヒドロゲナーゼの改変大サブユニットをコードする変異ポリヌクレオチド得る方法であって:
- [NiFe]-ヒドロゲナーゼの大サブユニットをコードする配列を含む最初のポリヌクレオチドを準備し、ここで、前記大サブユニットは、以下のペプチドモチーフ:
・ L1: RGXE (ここで、X = L、I、F、V又はM)と、
・ L2: [R/K]X1C[G/R]X2C (ここで、X1は任意のアミノ酸残基であり、X2 = L、V、I又はMであり、L1及びL2は16個の任意のアミノ酸残基により分けられている)と、
・ L3: X1X2X3X4X5X6X7X8X9X10X11X12[D/S/E] (ここで、X1 = D、S、N又はE、X2 = H、D、S、N又はL、X5 = H、S、A、Q又はW、X6 = F、T、Y又はG、X9 = L、F、M又はY、その他のXnは任意のアミノ酸残基である)と、
・ L4: D[P/I/S]CX1X2CX3X4[H/R] (ここで、X2 = A、S、V、G又はT、X1、X3及びX4は任意のアミノ酸残基である)と
を含み、
・ 任意に、モチーフL0: R[I/V/A]EG[H/D/A]を含み、
- 前記最初のポリヌクレオチドを改変して、前記大サブユニットのモチーフL2の残基X2及び/又はモチーフL3の残基X4及び/又はモチーフL3の残基X9の少なくとも1つをメチオニンで置換する
ことを含む方法。
【請求項2】
前記最初のポリヌクレオチドを改変して、大サブユニットのモチーフL2の残基X2及びモチーフL3の残基X9をメチオニンで置換する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記最初のポリヌクレオチドが、[NiFe]-ヒドロゲナーゼの他のサブユニットをコードする配列をさらに含むオペロンである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の方法により得ることができるポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項3の方法により得ることができるポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項7】
請求項6に記載のベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項8】
請求項4に記載のポリヌクレオチドによりコードされる[NiFe]-ヒドロゲナーゼの改変大サブユニット。
【請求項9】
請求項8に記載の改変大サブユニットを含有する[NiFe]-ヒドロゲナーゼ。
【請求項10】
請求項5に記載のポリヌクレオチドによりコードされる請求項9に記載の[NiFe]-ヒドロゲナーゼ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5(A)】
【図5(B)】
【図5(C)】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5(A)】
【図5(B)】
【図5(C)】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公表番号】特表2010−535471(P2010−535471A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−518780(P2010−518780)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【国際出願番号】PCT/IB2008/002998
【国際公開番号】WO2009/019613
【国際公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(500539103)コミッサリア ア レネルジ アトミック (29)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE
【住所又は居所原語表記】25,rue Leblanc Batiment (Le Ponant D),75015 PARIS,France
【出願人】(502205846)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク (154)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【国際出願番号】PCT/IB2008/002998
【国際公開番号】WO2009/019613
【国際公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(500539103)コミッサリア ア レネルジ アトミック (29)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE
【住所又は居所原語表記】25,rue Leblanc Batiment (Le Ponant D),75015 PARIS,France
【出願人】(502205846)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク (154)
【Fターム(参考)】
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