説明

二重床の施工方法

【課題】コンクリート床スラブ1上に容易にかつ高い水平レベル性を有する下地層2を形成し、所定高さの支持体4を配置するだけで、支持体4の高さを微調整する作業を行うことなく、上面床板5を簡易に且つ迅速に設置できる二重床施工方法を提供する。
【解決手段】速硬性及び水平レベル性に優れたセルフレベリング性水硬性スラリー組成物を用い、床スラブ1上面にスラリー組成物硬体層3を設け、硬化体上面に一定の高さを有する複数の支持体4を設置して、さらに上部床面5を設ける二重床の施工方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフィスやマンションをはじめとした、建築物の新築工事および既設建築物の改築工事において、電気・通信配線や配管類等の多様な配線・配管類を格納する二重床構造を高い水平レベル精度で効率的に施工できる二重床の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、オフィス、マンション等の床部に二重床を施工する場合、コンクリート床スラブの上に高さ調整機能を有する各種支持脚を複数設置し、それらの支持脚の上に床板を設置して、電気配線等を格納でき、防振性、防音性を向上できる二重床構造に施工している。
【0003】
これらの二重床構造を施工する場合、下地となるコンクリート床スラブの微妙な凹凸や傾斜に対応して、施工担当者が複数の支持脚の高さを個々に微調整し、上面を形成する床板の高さを一定に保持するためのさまざまな支持脚と床板が考案されている。(特許文献1、2)
【0004】
特許文献3には、コンクリート床スラブ上に自己平滑性床下地材を設け、床板の支持脚を設置し、該支持脚を一定の高さに調整して、床板の水平レベルを調整する二重床の施工方法が考案されている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−44093号公報
【特許文献2】実開平6−44927号公報
【特許文献3】特開平7−11754号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新築或いは既設のコンクリート建築物のコンクリート床スラブ上に、施工が容易でかつ水平レベル性に優れた下地層を形成し、所定高さの上面床板の支持体を配置するだけで、支持体の高さを微調整する作業なしで、上面床板を簡易に且つ迅速に、一定の高さに且つ平坦に設置できる二重床の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、セルフレベリング特性に極めて優れ、高い水平レベル精度を達成でき、さらに施工効率を大幅に向上させる速硬性をも併せ持った自己流動性(セルフレベリング性)水硬性組成物スラリーを、新築或いは既設のコンクリート建築物のコンクリート床スラブ上に打設・硬化させ、水硬性スラリー硬化体層の上に、一定の高さの上面床板支持体を配置するだけで、支持体の高さを微調整する煩雑な作業を行うことなく、上面床板を簡易に且つ迅速に一定の高さに且つ平坦に設置できる二重床の施工方法を見出して本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明は、コンクリートの床スラブ上面に、プライマーを塗布して乾燥する工程と、前記プライマー層を設けた床スラブ上面に、水硬性成分を含むセルフレベリング性水硬性組成物と水とを混練して調製したスラリー組成物を打設して硬化させる工程と、前記スラリー組成物の硬化体上面に、上部床面を支持する複数の支持体を設置する工程と、前記支持体上に上部床面を設ける工程とを有することを特徴とする二重床の施工方法に関する。
さらに、本発明は、コンクリートの床スラブ上面に、プライマーを塗布して乾燥する工程と、水硬性成分を含むセルフレベリング性水硬性組成物を貯蔵するタンクを備えたセルフレベリング性水硬性スラリー調製・施工用トラックに搭載したミキサーを用いて、セルフレベリング性水硬性組成物と水とを連続的に混練してセルフレベリング性スラリー組成物を調整する工程と、前記トラックに搭載されたスラリーポンプによりスラリーホースを介して前記プライマー層を設けた床スラブ上面にセルフレベリング性スラリー組成物を連続的に供給・打設して、とんぼ、スパイクローラー、こて等の均し器具を用いて平滑な表面のスラリー組成物層を形成して硬化させる工程と、前記スラリー組成物の硬化体上面に、上部床面を支持する複数の支持体を設置する工程と、前記支持体上に上部床面を設ける工程とを有することを特徴とする二重床の施工方法に関する。
【0009】
本発明の二重床の施工方法の好ましい態様を以下に示す。好ましい態様は複数組み合わせることができる。
1)セルフレベリング性スラリー組成物の硬化体は、硬化体表面の水平レベル精度(勾配)が、4/1000以下であること。
2)上部床面を支持する複数の支持体は、すべて同一の高さを有すること。
3)セルフレベリング性スラリー組成物の硬化体表面のショア硬度が20以上であること。
4)水硬性成分は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなること。
5)セルフレベリング性水硬性組成物は、水硬性成分を含み、さらに無機粉末、細骨材、凝結調整剤、流動化剤、増粘剤、消泡剤及び樹脂粉末から選ばれる成分を少なくとも1種以上含むこと。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、セルフレベリング特性に極めて優れ、際立った水平レベル精度を有する硬化体を安定して施工でき、さらに施工効率を大幅に向上させる速硬性をも併せ持ったセルフレベリング性(自己流動性)スラリー組成物を用いることによって、電気配線や配管等を格納できる二重床、あるいは、防振性や防音性といった優れた機能を有する二重床を、簡易に且つ迅速に、さらに高い水平レベル精度で敷設でき、上面床板の水平レベルの不揃いを調整するための、多数の支持体の高さを個々に微調整する煩雑な作業が不要な二重床の施工方法であり、新築の建築物や既設建築物のリフォームで二重床を施工する場合に、高い施工効率と優れた水平レベルを実現するものであり、新築のオフィスビルやマンションのみならず、既設建築物を二重床にリフォーム施工する場合にも好適に採用できる。(図1、図2)
さらに、本発明は、水硬性成分を含むセルフレベリング性水硬性組成物を貯蔵するタンク、セルフレベリング性水硬性組成物と水と混練してセルフレベリング性スラリー組成物を調製するミキサー及び前記スラリーを施工箇所に供給するスラリーポンプを備えたセルフレベリング性水硬性スラリー調製・施工用トラックを用いることによって連続的に品質の安定したセルフレベリング性スラリー組成物を調製・施工でき、大規模な新築工事や改築工事においても、優れた施工効率と良好な水平レベル精度の二重床下地の施工が可能となる。(図4)
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、コンクリートの床スラブ上面に、プライマーを塗布して乾燥する工程と、前記プライマー層を設けた床スラブ上面に、水硬性成分を含むセルフレベリング性水硬性組成物と水とを混練して調製したスラリー組成物を打設して硬化させる工程と、前記スラリー組成物の硬化体上面に、上部床面を支持する複数の支持体を設置する工程と、前記支持体上に上部床面を設ける工程とを有することを特徴とする二重床の施工方法に関する。
本発明の二重床の施工方法は、新築のオフィスビルやマンションだけでなく、既設建築物を二重床にリフォームする場合にも好適に採用できる。
【0012】
本発明の二重床の施工方法では、まずコンクリート床スラブ上の全面に、床スラブと水硬性成分を含むセルフレベリング性スラリー組成物の硬化体とを強固に接着するためにプライマーを塗布する。
プライマーは、アクリル−スチレン共重合樹脂やエチレン酢酸ビニル共重合体を主成分とする市販のプライマーが使用でき、特にアクリル−スチレン共重合樹脂を主成分とするものを好適に使用できる。
プライマーの塗布量は、好ましくは80〜240g/m、さらに好ましくは90〜225g/m、より好ましくは100〜200g/m、特に好ましくは120〜180g/m塗布することが良好な接着強度を安定して得るために好ましい。
プライマー塗布後の乾燥時間は、温度条件や通風条件に応じて適宜乾燥時間をとることができ、通常夏季には3時間〜8時間、冬季には5時間〜12時間乾燥することが好ましい。
【0013】
本発明の二重床の施工方法では、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、細骨材、無機粉末、凝結調整剤、流動化剤、増粘剤、消泡剤及び樹脂粉末から選ばれる成分を少なくとも1種以上を含むセルフレベリング性水硬性組成物を用いる。
【0014】
水硬性成分は、アルミナセメント30〜70質量部、ポルトランドセメント0〜45質量部及び石膏15〜50質量部からなる組成、さらに好ましくはアルミナセメント30〜60質量部、ポルトランドセメント15〜45質量部及び石膏15〜40質量部からなる組成、より好ましくはアルミナセメント35〜60質量部、ポルトランドセメント25〜45質量部及び石膏20〜35質量部、特に好ましくはアルミナセメント35〜50質量部、ポルトランドセメント25〜42質量部及び石膏23〜27質量部からなる組成を用いることにより、急硬性で、低収縮性又は低膨張性で硬化中の体積変化の少ない硬化物を得られやすいために好ましい。
【0015】
アルミナセメントとしては、鉱物組成の異なるものが数種知られ市販されているが、何れも主成分はモノカルシウムアルミネート(CA)であり、市販品はその種類によらず使用することができる。
【0016】
ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメントなどの混合セメントなどを用いるができる。
【0017】
石膏は、無水、半水等の各石膏がその種を問わず1種又は2種以上の混合物として使用できる。石膏は、硬化後の寸法安定性保持成分として働くものである。
【0018】
自己流動性水硬性組成物は、必要に応じてさらに高炉スラグ、フライアッシュ、シリカなどの無機成分を含むことができ、特に高炉スラグを含むことにより、乾燥収縮による硬化体の耐クラック性を高めることができる。
自己流動性水硬性組成物において、無機成分の添加量は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは10〜350質量部、より好ましくは30〜200質量部、さらに好ましくは50〜150質量部、特に好ましくは70〜130質量部とするのが好ましい。
【0019】
自己流動性水硬性組成物において、高炉スラグの添加量は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは10〜350質量部、より好ましくは30〜200質量部、さらに好ましくは50〜150質量部、特に好ましくは70〜130質量部とするのが好ましく、少なすぎると収縮が大きくなり、多すぎると強度低下を招くことがある。
高炉スラグは、JIS・A−6206に規定されるブレーン比表面積3000cm/g以上のものを用いることができる。
【0020】
自己流動性水硬性組成物は、必要に応じてさらに細骨材を含むことができる。
細骨材は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは30〜500質量部、より好ましくは50〜400質量部、さらに好ましくは100〜300質量部、特に好ましくは150〜250質量部の範囲が好ましい。
細骨材としては、粒径2mm以下の骨材、好ましくは粒径0.0075〜1.5mmの骨材、さらに好ましくは粒径0.1〜1mmの骨材、特に好ましくは0.15〜0.85mmの骨材を主成分としている。
細骨材としては、珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂などの砂類、アルミナクリンカー、シリカ粉、粘土鉱物、廃FCC触媒、石灰石などの無機質材、ウレタン砕、EVAフォーム、発砲樹脂などの樹脂粉砕物などを用いることができる。
特に細骨材としては、珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂などの砂類、廃FCC触媒、石英粉末、アルミナクリンカーなどが好ましく用いることが出来る。
細骨材の粒径は、JIS・Z−8801で規定される呼び寸法の異なる数個のふるいを用いて測定する。
【0021】
自己流動性水硬性組成物は、材料分離を抑制しつつ適度の流動性を確保する流動化剤(高性能減水剤などの減水剤)を含む。
水硬性成分であるアルミナセメントの発現強度は、水/セメント比の影響を大きく受けることから、減水効果を有する流動化剤を使用して水/水硬性成分比を小さくすることが不可欠である。
流動化剤としては、減水効果を合わせ持つ、メラミンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、カゼイン、カゼインカルシウム、ポリエーテル系等、ポリエーテルポリカルボン酸などの市販のものが、その種類を問わず使用でき、特にポリエーテル系等、ポリエーテルポリカルボン酸などの市販のものが好ましい。
流動化剤は、用いる水硬性成分に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、水硬性成分100質量部に対して好ましくは0.01〜2.0質量部、さらに好ましくは0.02〜1.0質量部、特に好ましくは0.05〜0.3質量部を配合することができる。添加量が余り少ないと十分な効果が発現せず、また多すぎても添加量に見合った効果は期待できず単に不経済であるだけでなく、場合によっては所要の流動性を得るための混練水量が増大し、同時に粘稠性も大きくなり、充填性が悪化する場合が考えられる。
【0022】
増粘剤は、ヒドロキシエチルメチルセルロースを含み、ヒドロキシエチルメチルセルロースを除く他のセルロース系、蛋白質系、ラテックス系、及び水溶性ポリマー系などを併用して用いることが出来る。
増粘剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、自己流動性水硬性組成物100質量部中に、好ましくは0.001〜2質量部、さらに好ましくは0.005〜1質量部、より好ましくは0.01〜0.5質量部、特に0.03〜0.4質量部含むことが好ましい。増粘剤の添加量が多くなると、流動性の低下を招く恐れがあるために好ましい範囲で用いることが好ましい。
増粘剤及び消泡剤を併用して用いることは、水硬性成分や細骨材などの骨材分離の抑制、気泡発生の抑制、硬化体表面の改善に好ましい効果を与え、水硬性組成物の硬化物の特性を向上させるために好ましい。
【0023】
凝結調整剤は、用いる水硬性成分や水硬性組成物に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、凝結促進剤及び凝結遅延剤の成分、添加量及び混合比率を適宜選択して、水硬性組成物の可使時間を調整することができ、セルフレベリング材としての使用が非常に容易になるため好ましい。
凝結調整剤は、凝結促進剤、凝結遅延剤、或いは凝結促進剤及び凝結遅延剤の量が、水硬性成分100質量部に対して0.05〜5質量部、さらに0.1〜2質量部、特に0.30〜1.5質量部の範囲で添加することが好ましい。
【0024】
自己流動性水硬性組成物は、必要に応じてリチウム塩、酒石酸塩及び重炭酸塩を除く他の凝結調整剤、消泡剤などを、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができる。
【0025】
凝結促進剤としては、公知の凝結を促進する成分を用いることが出来、例えば、凝結促進の性質を有するリチウム塩を用いることが出来る。
リチウム塩の一例として、炭酸リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウム、酒石酸リチウム、リンゴ酸リチウム、クエン酸リチウムなどの有機酸などの、無機リチウム塩や有機リチウム塩などのリチウム塩を用いることが出来る。特に炭酸リチウムは、効果、入手容易性、価格の面から好ましい。
【0026】
凝結遅延剤としては、公知の凝結遅延剤を用いることが出来る。凝結遅延剤の一例として、硫酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム類(酒石酸一ナトリウム、酒石酸ニナトリウム)、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム類、グルコン酸ナトリウムなど有機酸などの、無機ナトリウム塩や有機ナトリウム塩などのナトリウム塩、オキシカルボン酸類などを用いることが出来る。特に重炭酸ナトリウムや酒石酸一ナトリウムは、効果、入手容易性、価格の面から好ましい。
【0027】
オキシカルボン酸類は、オキシカルボン酸及びこれらの塩を含む。
オキシカルボン酸としては、例えばクエン酸、グルコン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、α−オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸などの脂肪族オキシ酸、サリチル酸、m−オキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸、トロパ酸等の芳香族オキシ酸等を挙げることができる。
オキシカルボン酸の塩としては、クエン酸塩を除く、例えばオキシカルボン酸のアルカリ金属塩(具体的にはナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(具体的にはカルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩など)などを挙げることができる。
【0028】
消泡剤は、シリコン系、アルコール系、ポリエーテル系などの合成物質又は植物由来の天然物質など、公知のものを用いることが出来る。
消泡剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、水硬性成分100質量部に対して、
好ましくは0.001〜2質量部、さらに好ましくは0.005〜1.5質量部、より好ましくは0.01〜1質量部、特に0.02〜0.5質量部含むことが好ましい。消泡剤の添加量は、上記範囲内が、消泡効果が認められるために好ましい。
【0029】
自己流動性水硬性組成物を硬性する好適な成分は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分、硅砂などの細骨材、流動化剤、ヒドロキシエチルメチルセルロースを含む増粘剤、消泡剤及び、凝結調整剤とを含むものである。
【0030】
水硬性成分と、細骨材と、流動化剤と、増粘剤と、必要に応じて配合する無機成分、凝結調整剤、消泡剤、樹脂粉などを混合機で混合し、自己流動性水硬性組成物のプレミックス粉体を得ることができる。
【0031】
本発明では、セルフレベリング性水硬性組成物(C)と水(W)とを質量比(W/C)が好ましくは0.20〜0.30の範囲、さらに好ましくは0.22〜0.29の範囲、特に好ましくは0.24〜0.28の範囲になるように配合して混練し、セルフレベリング性スラリー組成物を調整したのち、上記のプライマーを塗布・乾燥したコンクリート床スラブ上に打設(流込)施工する。
セルフレベリング性スラリー組成物のJASS15M−103に準拠したフロー試験値は、好ましくは200〜260mm、さらに好ましくは210〜250mm、より好ましくは215mm〜245mm、特に好ましくは220mm〜240mmの範囲であることが好ましい。
フロー試験値が200mmより小さい場合、コンクリート床スラブ上に平滑で高い水平レベルを有する下地層を形成しにくくなり、また260mmより大きくなると、スラリー組成物自体が材料分離を生じることがあるので好ましくない。
【0032】
セルフレベリング性スラリー組成物は、L型フロー試験器(図5)を用いた流動性試験において、50cm地点の流速が、好ましくは6〜24mm/秒、さらに好ましくは7〜23mm/秒、より好ましくは8〜22mm/秒、特に好ましくは9〜21mm/秒の範囲が、平滑で水平レベル精度が高い硬化体が得られることから好ましい。
流速が6mm/秒未満ではセルフレベリング性が充分でないため硬化体の平滑性が不足することがあり、流速が24mmを超えると流動性は際立つもののスラリー中で水硬性成分と細骨材との材料分離抵抗性が低下して、良好な硬化体特性を得ることが難しくなることから好ましくない。
セルフレベリング性スラリー組成物は、L型フロー試験器(図5)を用いて試験した水平レベル精度(勾配)が、好ましくは4/1000以下であり、さらに好ましくは3/1000以下であり、より好ましくは2.5/1000以下であり、特に好ましくは2/1000以下のものを用いることによって平滑性に優れた二重床の下地層を形成でき、さらに一定の高さの支持体を介して平滑性に優れた二重床上部床面を形成することができる。
【0033】
本発明の二重床の施工方法では、大規模な床面積を有する現場への効率的で品質の安定した施工のために、セルフレベリング性水硬性スラリー組成物の調整・供給・打設には、セルフレベリング性水硬性組成物を貯蔵するタンクを備えたセルフレベリング性水硬性スラリー調製・施工用トラックを使用することが好ましい。
セルフレベリング性水硬性スラリー調製・施工用トラックを用いた前記スラリーの調製および施工手順について説明する。
【0034】
セルフレベリング性水硬性組成物を貯蔵するタンクを備えたセルフレベリング性水硬性スラリー調製・施工用トラックのタンク内に、前記の水硬性組成物を充填して二重床を施工する建築物の近傍に運び、そこで水硬性スラリー調製・施工用トラックに備え付けられたミキサーにより水硬性組成物と水とを混練して水硬性スラリーを調製し、前記トラックに搭載されたスラリーポンプによって、スラリーホースを介して水硬性スラリーを施工箇所へ供給して床面に施工する。
【0035】
セルフレベリング性水硬性スラリー調製・施工用トラックの一例を模式図として図4に示す。図4(a)は背面図であり、図4(b)は側面図である。
図4に示す水硬性スラリー調製・施工用トラック11は、上部に供給口12が設けられた水硬性組成物タンク13を有している。そして、水硬性スラリー調製・施工用トラック11は、水硬性組成物と水とを混練して水硬性スラリー14を製造できるように、混練装置(ミキサー)15と、水硬性組成物タンクからホッパー16を介し、混練装置15に必要量の水硬性組成物17を供給するためのスクリューフィーダー18を有する。
さらに、水硬性スラリー調製・施工用トラック11は、混練用の水を輸送、供給するために、水タンク19を備えており、タンク内の水は、水供給ポンプ20により、水供給パイプ21を通って混練装置15に供給される。
【0036】
セルフレベリング性水硬性スラリー調製・施工用トラックを使用した施工手順の一例を以下に示す。
図4に示す水硬性スラリー調製・施工用トラック11は、排出口を閉じた状態で、供給口11からタンク13内に水硬性組成物17が供給される。そして、所定量の水硬性組成物をタンク13内に入れた後、供給口12を閉じて施工現場まで移動する。施工現場に到着後、必要時に水硬性組成物タンク13下部の排出口を開け、そこから水硬性組成物を取り出す。
水硬性組成物は次いで、スクリューフィーダー18により制御されて、混練装置15に導入される。この混練装置15には、ほとんど同時に混練用の水が、供給水量を調整しながら、水タンク19から供給される。混練装置15で水硬性組成物と水とを所定の割合で混合攪拌して水硬性スラリー14を調製し、水硬性スラリータンク22に滞留させる。スラリータンク22は、実際に水硬性スラリーを施工するまで、スラリータンク内でスラリーの撹拌を続けられるようになっている。
水硬性スラリーの品質(流動性)は、スラリータンク22から水硬性スラリー14をハンドビーカー23で採取して、JASS15M−103のスラリー試験器を用いて、水硬性スラリーを実際に施工する直前から評価を実施し、好ましくは30分毎に、さらに好ましくは20分毎に、特に好ましくは15分毎に流動性試験を実施し、試験結果を踏まえて水硬性組成物と水との混合割合を適宜微調整する。
水硬性スラリー14はスラリーポンプ24によってスラリータンク22からスラリーホース25を通って施工箇所に供給し、プライマー処理を済ませたコンクリートスラブ床面に水硬性スラリーを打設(流込)施工する。
【0037】
本発明では、セルフレベリング性水硬性スラリー組成物の施工厚さは、コンクリート床スラブ表面の凹凸状態やスラブ面の傾斜状態によって異なり、個々の施工現場毎に適宜厚さを設定することができる。
前記の水硬性スラリー組成物の施工厚さは、床スラブ面の最も凸部分上面を基準にして施工厚さを設定することができ、好ましくは施工厚さ2mm〜70mmの範囲、さらに好ましくは施工厚さ2mm〜50mmの範囲、より好ましくは施工厚さ2mm〜40mmの範囲、特に好ましくは施工厚さ2mm〜30mmの範囲で、前記水硬性スラリー組成物を流し込み施工することで、床スラブ全体に高い水平レベル性のスラリー組成物の硬化体、すなわち上部床面の下地層を形成することができる。
【0038】
セルフレベリング性水硬性スラリー組成物を床スラブ面の最も凸部分上面を基準にして2mm〜5mmの高さまで薄く施工する場合は、前記スラリー組成物を流し込み施工しながら、スパイクローラー、とんぼ、コテなどを用いてスラリー組成物を均等に広げる操作を行うことにより、床スラブ全体に薄層で高い水平レベルのスラリー組成物の硬化体を形成できる。
セルフレベリング性水硬性スラリー組成物を床スラブ面の最も凸部分上面を基準にして5mm〜70mmの高さまで厚く施工する場合には、前記スラリー組成物を流し込み施工しながら、とんぼなどを用いてスラリー組成物が均等に広がるように補助的な操作を行うことにより、床スラブ全体に厚層で高い水平レベルのスラリー組成物の硬化体を形成できる。
【0039】
セルフレベリング性水硬性スラリー組成物はその硬化の進行に伴って、硬化体表面のショア硬度が上昇する。
本発明では、水硬性スラリー組成物の硬化体表面のショア硬度が、好ましくは20以上、さらに好ましくは25以上、特に好ましくは30以上で、上部床面を支持するための複数の支持体を設置することが好ましい。
硬化体表面のショア硬度が20未満では、硬化体の上に作業者が乗って支持体の設置を行う過程で、荷重が小さな面積に集中してかかった場合などに、硬化体表面の平面性が損なわれることがあるため好ましくない。
【0040】
本発明で使用するセルフレベリング性水硬性スラリー組成物の硬化体は、水平レベルの精度に優れており、硬化体表面の勾配(最大高低差)が好ましくは4/1000以下、さらに好ましくは3.5/1000以下、より好ましくは3/1000mm以下、特に好ましくは2.5/1000mm以下の勾配であることが好ましい。水硬性スラリー組成物の硬化体表面の勾配(最大高低差)が前記範囲にあり、その水平レベル精度が極めて高いことから、前記硬化体上に一定高さの複数の支持体を設けるだけで、支持体の微妙な高さ調整を行う必要なしに支持体上に二重床の上部床面を形成することが可能となる。
【0041】
本発明の二重床の施工方法では、セルフレベリング性水硬性スラリー組成物の硬化体の上面にすべて同一の高さを有する複数の支持体を使用する。(図1、図2)同一の高さの支持体を用いることにより、支持体の微妙な高さ調整を行う作業が解消されて二重床を施工する作業効率が飛躍的に高くなる。
使用する上部床面の支持体は、金属製、樹脂製、木製あるいはこれらの素材の複合体など各種素材を加工した棒形状、厚板形状、箱形状など各種形状の支持体を適宜選択して使用できる。
支持体の高さは20mm〜200mmの範囲で、その高さ調整機能を有しない同一の高さを有する複数の支持体を好適に使用できる。本発明では、優れた水平レベル精度(勾配)を有するセルフレベリング性水硬性スラリー硬化体が下地層を形成しているため、支持体自体には高さ調整の機能は不要となる。
また、従来の二重床の施工方法で一般的に使用されている、高さ調整が可能な支持体を用いることもできる。高さ調整が可能な支持体を用いる場合は、事前にすべての支持体の高さを一定の高さに調整しておくと、セルフレベリング性水硬性スラリー硬化体の上面に設置するだけで高さ調整する必要がなく二重床を施工でき、施工作業の効率は阻害されない。
【0042】
本発明の二重床の施工方法では、セルフレベリング性水硬性スラリー組成物の硬化体の上面に一定高さの支持体を複数設置し、さらに支持体上に二重床の上部床面を設ける。
上部床面は、特に制限されるものではなく、市販の木製、金属製、モルタル製、樹脂製などの床材を使用することができる。
上部床面の形状および寸法についても適宜選択でき、形状においては三角形、四角形、六角形の上面形状を有するものが好適に使用できる。
【0043】
本発明では、流動性に優れ、高い水平レベルが得られるセルフレベリング性水硬性スラリー組成物を使用し、さらに、予め一定の高さに加工された支持体を用いることにより、支持体の上に上部床面を形成する床材を設置するだけで、高い水平レベル精度の二重床上部床面を形成することができる。
【0044】
本発明においてセルフレベリング性水硬性スラリー組成物の硬化体を形成した後、二重床上部床面を支持する支持体を設ける工程および前記支持体上に二重床上部床面を設ける工程の模式図を図1及び図2に例示する。
【0045】
図1(1)及び図2(1)は、新設あるいは既設建築物のコンクリート床スラブの部分断面を示しており、床スラブの上面に大小の凹凸や傾斜が存在している。
図1(2)及び図2(2)は、コンクリート床スラブの上面にプライマーを塗布した状態を示している。
図1(3)及び図2(3)は、プライマーが乾燥したコンクリート床スラブ上面に水硬性成分を含むセルフレベリング性水硬性スラリー組成物を流込施工し、スラリー組成物が硬化した状態を示しており、優れたセルフレベリング性により平滑度が高く、良好な水平レベル精度(勾配)を持った二重床の下地層(スラリー組成物の硬化体)が得られている。
図1(4)及び図2(4)は、床板の支持体を設置した状態を示している。多種多様な物件毎に、各物件の仕様に合った一定の高さの支持体を複数用意して、それらを二重床の下地層(スラリー組成物の硬化体)の上に設置する。
図1(5)及び図2(5)は、設置した支持体の上に二重床上面床面(床板)を敷設し、凹凸や傾斜がない上部床面が完成した状態を示している。
【0046】
比較のために従来の二重床の施工方法の模式図を図3に例示する。
コンクリート床スラブ上面には大小の凹凸や不規則な傾斜があり、一定の高さの支持体を設置した場合には、複数設置した支持体の高さレベルはスラブ上面の大小の凹凸や不規則な傾斜をそのまま反映してしまい、高い水平レベルを得ることは難しい。従来は高さ調整が可能な支持体を用いて、複数の支持体の高さを作業者が個別に調整して複数の支持体上端の高さを一定に調整したのち、二重床上部床面(床板)を設置して、二重床上面の水平レベルを得ている。
異なるタイプの二重床の施工方法では、高さ調整が可能な支持体を配置し、二重床上部床面(床板)を支持体上に仮配置し、上部床面に設けた開口部からドライバーなどを用いて作業者が複数の支持体の高さを個別に調整して上部床面(床板)の高さを一定に調整して二重床上面の水平レベルを得ている。
これらの施工方法では、支持体のレベル調整に要する煩雑な作業は、二重床上部床面(床板)の水平レベルを得る上で不可避であり、二重床の施工作業の効率は大きく損なわれている。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明する。但し、本発明は下記の実施例により制限されるものでない。
【0048】
(流動性の評価方法)
・フロー値:
水平に設置した板の中央部に、内容積100ml、内径5cm、高さ5.1cmのスラリー試験器(JASS15M−103に準じたスラリー試験器)を配置し、セルフレベリング性水硬性組成物と水とを混練して調製したスラリー組成物をスラリー試験器の上端まで充填し、スラリー試験器を鉛直方向に引き上げ、スラリーの広がりの直径を直角2方向測定し、その測定値の平均値(フロー値)でスラリーの流動性を評価する。
【0049】
・レベル精度(L型フロー)試験:
図5に示すL型フロー試験装置を用いて、評価条件は、温度20℃、湿度65%の環境下で行う。L型フロー試験装置は水平に設置する。
L型フロー試験装置31のモルタル充填部35にモルタルを溢れない程度に充填し、充填後直ぐに堰板32を引き上げて、モルタルが堰板配置部より25cm及び50cm流れる時間を測定し、その測定値をもとに1秒当たりに流れる長さを算出し、L=250流速及びL=500流速とする。さらに堰板32を引き上げて20分後に、図3に示すような6箇所(溝34bの左右と中央部:41a,41b,41c;横板37aの左右と中央部:42a,42b,42c)のモルタルの高さを測定し、数式(1)に従い算出する。
フロー停止距離は、堰板32を引き上げて、モルタルが堰板配置部より、L型フロー試験装置の水平部分を流れる距離を示す。
【0050】
【数1】


【0051】
図5にレベル精度等の測定に用いるL型フロー試験装置の模式図を示す。
L型フロー試験装置31の横板(37b,37c)及び底板38は、堰板32を上下に可動出来るように、また、充填部35にモルタル(スラリー)を充填した時にレール部36に漏れないように溝(34a,34b,34c)を設けている。L型フロー試験装置31は、モルタル(スラリー)充填部35にモルタル(スラリー)を所定量充填し、堰板32を引き上げることにより、モルタル(スラリー)がレール部分36を流れ、横板37aまで到達する。
L型フロー試験装置31は、SUS等の金属製またはアクリル樹脂等の樹脂製で、底板の厚みは10mmである。L型フロー試験装置31の大きさは内寸で、a:500mm、b:40mm、c:100mm、d:80mm、e:40mmである。
【0052】
水平レベル精度は、溝34bの近傍(41a,41b,41c)3点のモルタル(スラリー)高さを測定し、この3点の結果を平均した値(数式1のA)と、横板37aの近傍(42a,42b,42c)3点のモルタル(スラリー)高さを測定し、この3点の結果を平均した値(数式1のB)より、数式1により算出する。
【0053】
・セルフレベリング性:
図6に示すSL測定器を使用し、幅30mm×高さ30mm×長さ750mmのレールに、先端より長さ150mmのところに堰板を設け、混練直後のモルタル(スラリー)を所定量充填する。充填直後に堰板を引き上げて、モルタル(スラリー)の流れの停止後に、標点(堰板の設置部)からモルタル(スラリー)流れの最短部までの距離を測定し、その値(SL値)をL0とし、堰板より200mm流れる時間を測定し、その測定時間をSL流動速度(L0)(秒/200mm)とする。
同様にモルタル(スラリー)を充填した後30分後に堰板を引き上げて、モルタル(スラリー)の流れの停止後に、標点(堰板の設置部)からモルタル(スラリー)流れの最短部までの距離を測定し、その値(SL値)をL30とし、堰板より200mm流れる時間を測定し、その測定時間をSL流動速度(L30)(秒/200mm)とする。
同様にモルタル(スラリー)を充填した後40分後に堰板を引き上げて、モルタル(スラリー)の流れの停止後に、標点(堰板の設置部)からモルタル(スラリー)流れの最短部までの距離を測定し、その値(SL値)をL40とし、堰板より200mm流れる時間を測定し、その測定時間をSL流動速度(L40)(秒/200mm)とする。
評価条件は、温度20℃、湿度65%の環境下で行う。
【0054】
(2)硬化物の表面状態評価(表面粉化、凹凸):
表面粉化及び凹凸は、得られるモルタル(スラリー)を、13cm×19cmの樹脂製の型枠へ厚さ10mmで流し込み、硬化終了後、目視で観察した。評価は以下の通りとした。
評価条件は、温度20℃、湿度65%の環境下で行う。
○:無し、×:有り。
【0055】
材料は以下のものを使用した。
1)水硬性成分
・アルミナセメント(フォンジュ、ラファージュアルミネート社製、ブレーン比表面積3100cm/g)。
・ポルトランドセメント(早強セメント、宇部三菱セメント社製、ブレーン比表面積4500cm/g)。
・石膏:II型無水石膏(セントラル硝子社製、ブレーン比表面積3460cm/g)。
2)細骨材
・珪砂:6号珪砂。
3)無機成分
・高炉スラグ(リバーメント、千葉リバーメント社製、ブレーン比表面積4400cm/g)。
4)凝結調整剤:
・重炭酸Na:重炭酸ナトリウム(東ソー社製)。
・酒石酸Na:L−酒石酸ニナトリウム(扶桑化学工業社製)。
・炭酸Li :(本荘ケミカル社製)。
5)混和剤
・流動化剤 :ポリカルボン酸系流動化剤(花王社製)。
・増粘剤 :ヒドロキシエチルメチルセルロース系増粘剤(マーポローズMX−30000、松本油脂社製)。
・消泡剤 :ポリエーテル系消泡剤(サンノプコ社製)。
【0056】
[実施例1]
温度20℃、相対湿度65%の条件下で、表1に示す水硬性組成物100質量部に対して混練水26質量部を加え、ケミスターラーを用いて、回転数650rpmにて3分間混練して、セルフレベリング性スラリー組成物を調製した。
得られたスラリー組成物について、フロー試験、L型フロー試験機によるセルフレベリング性試験およびレベル精度試験、表面仕上り評価を行った結果を表2及び表3に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
水硬性スラリー組成物の流動性を評価した結果、表2及び表3に示すとおり優れたセルフレベリング性が得られることが確認された。特に水硬性スラリー組成物の水平レベル精度(勾配)は2/1000以下であり、極めて優れた平滑性を得ることができる。
【0061】
[実施例2、3]
15m×10mのコンクリート床の4m×6mの面積部分2箇所(A面、B面)にそれぞれプライマーを塗布して乾燥した。
プライマー処理を行った4m×6mのコンクリート床2箇所(A面、B面)に、それぞれ水硬性スラリー組成物を施工するために、A面とB面の四辺に高さ30mmのスポンジ状目地テープを両面テープを用いて貼り付けた。
レーザー式レベル測定器を用いて、コンクリート床の四辺のスポンジ側面にスラリー施工高さの目標となる墨だしを行い、またコンクリート床面にはスラリー施工高さの目標を示すあたり(標)を1m間隔で設けた。
A面の中で最も薄く水硬性スラリーを施工する箇所は15mmで、最も厚く施工する箇所は25mmであった。また、B面の中で最も薄く水硬性スラリーを施工する箇所は2mmで、最も厚く施工する箇所は15mmであった。
【0062】
図4に示すセルフレベリング性水硬性スラリー調製・施工用トラックを使用して、表1に示す水硬性組成物100質量部に対して混練水26質量部になるように、前記トラックのミキサーへの水硬性組成物と混練水との供給速度を調節し、水硬性スラリー組成物を連続的に調製し、スラリーホースを介して4m×6mのコンクリート床面(A面、B面)上に水硬性スラリーを供給した。水硬性スラリーの流込み打設は、4m×6mのコンクリート床面のひとつの隅から流込み始めて、スラリーホースの位置を蛇行させてずらしながら対角線方向の隅までスラリーを打設(流込)して目標とする仕上り高さまでスラリーを施工し、A面については大型のとんぼを用いて、B面についてはスパイクローラーと大型の土間用こてを用いて、スラリー表面を平滑に均した。
また、コンクリート床のA面に水硬性スラリー組成物を施工した時点で、前記トラックのスラリータンクからハンドビーカーを用いて水硬性スラリー組成物を約2リットル採取し、スラリー温度とL型フロー試験器を用いた流動性試験及びレベル精度試験を行った。
水硬性スラリー組成物を4m×6mの面積2箇所に、それぞれの目標高さまで施工した後、3時間経過後にショア硬度計を用いて水硬性スラリーの硬化体表面のショア硬度をA面とB面それぞれ4箇所測定し、20以上の硬度を発現していることを確認し、水硬性スラリー硬化体(4m×6m)の中央部にレーザー式レベル測定器を配置して、1m間隔で水硬性スラリー硬化体の高さをA面とB面とそれぞれについて測定した。
次に、試験施工したA面の水硬性スラリー硬化体の上面に、図1に示す複数の支持体(高さ100mm)を50cm間隔で設置したのち、二重床上部床面を形成する500×500mmの床板を、前記支持体上に設置した。
【0063】
表4及び表5に前記トラックのスラリータンクから採取した水硬性スラリー組成物の流動性試験結果と、セルフレベリング性水硬性スラリー組成物を施工したA面(24m)およびB面(24m)の硬化体表面の水平レベル精度(最大高低差)を示す。
【0064】
【表4】

【0065】
【表5】

【0066】
実施例2及び実施例3に示すとおり、セルフレベリング性水硬性スラリー調製・施工用トラックを使用して調製した水硬性スラリー組成物においても、優れたセルフレベリング性と優れた水平レベル精度(勾配=3/1000以下)を得ることができた。
また、水硬性スラリー硬化体の上面に等間隔で複数の支持体を配置して二重床上部の床板を配置する作業は極めて容易であり、水平性に優れた二重床を効率的に形成できた。
【0067】
本発明は、セルフレベリング性に極めて優れ、際立った水平レベル精度を有する硬化体を安定して施工でき、さらに施工効率を大幅に向上させる速硬性をも併せ持ったセルフレベリング性(自己流動性)スラリー組成物を用いることによって、電気配線や配管等を格納できる二重床、あるいは、防振性や防音性といった優れた機能を有する二重床を、簡易に且つ迅速に、さらに高い水平レベル精度で敷設でき、上面床板の水平レベルの不揃いを調整するための、多数の支持体の高さを個々に微調整する煩雑な作業が不要な二重床の施工方法である。
本発明を適用することにより、新築の建築物や既設建築物のリフォームで二重床を施工する場合に、高い施工効率と優れた水平レベルを実現するものであり、新築のオフィスビルやマンションのみならず、既設建築物を二重床にリフォーム施工する場合にも好適に採用できる。
さらに、本発明は、水硬性成分を含むセルフレベリング性水硬性組成物を貯蔵するタンク、セルフレベリング性水硬性組成物と水と混練してセルフレベリング性スラリー組成物を調製するミキサー及び前記スラリーを施工箇所に供給するスラリーポンプを備えたセルフレベリング性水硬性スラリー調製・施工用トラックを用いることによって、連続的に品質の安定したセルフレベリング性スラリー組成物を調製・施工でき、大規模な新築工事や改築工事においても、優れた施工効率と良好な水平レベル精度の二重床下地の施工が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】セルフレベリング性水硬性スラリー組成物を用いて、コンクリートスラブ上に平滑な下地層を形成し、支持体を設けて二重床上部床面を施工する本発明の二重床施工方法の一例を示す模式図(部分断面図、斜視図)である。
【図2】セルフレベリング性水硬性スラリー組成物を用いて、コンクリートスラブ上に平滑な下地層を形成し、支持体を設けて二重床上部床面を施工する本発明の二重床施工方法の一例を示す模式図(部分断面図、斜視図)である。
【図3】コンクリートスラブ上に、支持体を設けて支持体の高さを調整して二重床上部床面を施工する従来の二重床の施工方法の一例を示す模式図(部分断面図)である。
【図4】セルフレベリング性水硬性組成物の貯蔵タンクを搭載し、水硬性スラリーを調製・施工できるトラックの一例を示す模式図である。
【図5】L型フロー試験装置の模式図である。
【図6】SL測定器を用いて水硬性スラリーのセルフレベリング性を評価する概略を示す模式図である。
【符号の説明】
【0069】
1 : コンクリート床スラブ
2 : プライマー層
3 : セルフレベリング性水硬性スラリーの硬化体層
4 : 二重床上部床面の支持脚(支持体)
5 : 二重床上部床面を形成する床板
11 : 水硬性スラリー調製・施工用トラック
12 : 水硬性組成物の供給口
13 : 水硬性組成物タンク
14 : 水硬性スラリー
15 : 混練装置(ミキサー)
16 : ホッパー
17 : 水硬性組成物
18 : スクリューフィーダー
19 : 水タンク
20 : 水供給ポンプ
21 : 水供給パイプ
22 : 水硬性スラリータンク
23 : ハンドビーカー
24 : スラリーポンプ
25 : スラリーホース
31 : L型フロー試験装置
32 : スラリー充填室の堰板
33 : 堰板取っ手
34 : スラリー試験装置本体に堰板を差込む溝(34a、34b、34c)
35 : スラリー充填室
36 : 堰板を取除いた時にスラリーが流動するレール部
37 : スラリー試験装置の側壁
38 : スラリー試験装置の底板
41 : 流動後のスラリー高さ測定箇所(41a、41b、41c)
42 : 流動後のスラリー高さ測定箇所(42a、42b、42c)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートの床スラブ上面に、プライマーを塗布して乾燥する工程と、
前記プライマー層を設けた床スラブ上面に、水硬性成分を含むセルフレベリング性水硬性組成物と水とを混練して調製したスラリー組成物を打設して硬化させる工程と、
前記スラリー組成物の硬化体上面に、上部床面を支持する複数の支持体を設置する工程と、
前記支持体上に上部床面を設ける工程とを有すること
を特徴とする二重床の施工方法。
【請求項2】
コンクリートの床スラブ上面に、プライマーを塗布して乾燥する工程と、
水硬性成分を含むセルフレベリング性水硬性組成物を貯蔵するタンクを備えたセルフレベリング性水硬性スラリー調製・施工用トラックに搭載したミキサーを用いて、セルフレベリング性水硬性組成物と水とを連続的に混練してセルフレベリング性スラリー組成物を調整する工程と、
前記トラックに搭載されたスラリーポンプによりスラリーホースを介して前記プライマー層を設けた床スラブ上面にセルフレベリング性スラリー組成物を連続的に供給・打設して、均し器具を用いて平滑な表面のスラリー組成物層を形成して硬化させる工程と、
前記スラリー組成物の硬化体上面に、上部床面を支持する複数の支持体を設置する工程と、
前記支持体上に上部床面を設ける工程とを有すること
を特徴とする二重床の施工方法。
【請求項3】
セルフレベリング性スラリー組成物の硬化体は、
硬化体表面の水平レベル精度(勾配)が、4/1000以下であること
を特徴とする請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の二重床の施工方法。
【請求項4】
上部床面を支持する複数の支持体は、すべて同一の高さを有すること
を特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の二重床の施工方法。
【請求項5】
セルフレベリング性スラリー組成物の硬化体表面のショア硬度が20以上であること
を特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の二重床の施工方法。
【請求項6】
水硬性成分は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の二重床の施工方法。
【請求項7】
セルフレベリング性水硬性組成物は、水硬性成分を含み、さらに無機粉末、細骨材、凝結調整剤、流動化剤、増粘剤、消泡剤及び樹脂粉末から選ばれる成分を少なくとも1種以上含むことを特徴とする請求項1〜請求項6のいすれか1項に記載の二重床の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−57202(P2008−57202A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−234953(P2006−234953)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】