二重細孔有機鎖無機多孔質体、二重細孔有機鎖無機多孔質体の製造方法、およびクロマトグラフィー用カラムの製造方法
【課題】耐アルカリ性に優れるとともに、クロマトグラフィーの充填材として用いたときに、優れた分離能を発揮する二重細孔有機鎖無機多孔質体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】加熱により分解してアルカリ成分を発生するアルカリ発生化合物と、相分離誘起作用を有する有機高分子とを含む酸性溶液中に、有機鎖アルコキシシランを投入して、有機鎖アルコキシシランを加水分解させたのち、加熱してアルカリ発生化合物を分解させながら、有機鎖アルコキシシランを重縮合させて三次元網目構造の骨格を有するゲルを形成するゲル化工程と、得られたゲルをアルカリ条件下で水熱処理して前記骨格中に微細孔を形成する微細孔形成工程と、を備えている製造方法によって、SiC結合部分を分子中に有するシラン重縮合体からなる三次元網目構造の骨格を有し、この骨格内に微細孔を備えている二重細孔有機鎖無機多孔質体を得るようにした。
【解決手段】加熱により分解してアルカリ成分を発生するアルカリ発生化合物と、相分離誘起作用を有する有機高分子とを含む酸性溶液中に、有機鎖アルコキシシランを投入して、有機鎖アルコキシシランを加水分解させたのち、加熱してアルカリ発生化合物を分解させながら、有機鎖アルコキシシランを重縮合させて三次元網目構造の骨格を有するゲルを形成するゲル化工程と、得られたゲルをアルカリ条件下で水熱処理して前記骨格中に微細孔を形成する微細孔形成工程と、を備えている製造方法によって、SiC結合部分を分子中に有するシラン重縮合体からなる三次元網目構造の骨格を有し、この骨格内に微細孔を備えている二重細孔有機鎖無機多孔質体を得るようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマトグラフィー用分離媒体、血液分離用多孔質体、環境分析用試料濃縮媒体、吸湿剤用多孔質体、消臭等低分子吸着用多孔質体、均一径微粒子を製造する膜乳化法に用いる多孔質膜、あるいは酵素担体および触媒担体用多孔質体等に適した二重細孔有機鎖無機多孔質体、二重細孔有機鎖無機多孔質体の製造方法、およびクロマトグラフィー用カラムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフィー装置は、一般に、シリカゲル等の無機系多孔質体粒子が分離媒体としてカラム内に充填されている。
この種の液体クロマトグラフィー装置において、分離能を向上させるにはカラムに充填される粒子の小径化が最も有力であるが、粒子の小径化を図ると同時に分析に適当な流速を得るのに必要な圧力が高くなり、カラム長を短くせざるを得なくなる。
【0003】
したがって、適当な試料負荷量を得るために表面積の大きい多孔質粒子が用いられているが、これらは低い機械的強度を示すために、均一な充填作業に困難が生じる。したがって、液体クロマトグラフィーにおける分離能を増大させるための粒子小径化には限界がある。粒子充填型カラムを圧力送液下で用いる限りこの制約から逃れることはできないので、短時間に高理論段数を得るためには、微粒子に伴う高圧力を避ける工夫が必要である。
短時間、すなわち高速で高性能分離を実現するには、低圧力で溶媒が流れることのできる大きな流路と、充填剤の粒子径に相当する小さな骨格をあわせもった分離媒体が必要である。
【0004】
そこで、上記のような条件を満足させるために、ポリエチレンオキシド等の水溶性高分子と、加熱により分解してアルカリ成分を発生する尿素とを均一に溶解させた酸性溶液中に、テトラエトキシシランを投入し、テトラエトキシシランを尿素の分解温度以下で、加水分解および重縮合させて溶媒リッチ相と骨格相とに分離した湿潤ゲルが生成させたのち、すなわち、スピノーダル分解に基づく相分離とゾルーゲル転移を同時に起こしてマクロ細孔を備えた骨格を形成し、この湿潤ゲルを尿素の熱分解以上に加熱することによって、アンモニアを発生させ、発生したアンモニアによって、骨格の一部を溶解させて骨格中に微細孔を形成するようにした無機系多孔質体の製造方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
すなわち、この無機系多孔質体の製造方法では、まず、従来の無機系多孔質体の製造方法のように、酸性溶液中で、テトラエトキシシランを加水分解および重縮合させるのであるが、酸性溶液中には、水溶性高分子が均一に溶解しているため、まず、水相部分と相分離して形成された島状の溶媒リッチ相と、シラン重縮合体からなる骨格相とからなる湿潤ゲルが形成される。
【0006】
そして、この湿潤ゲルを尿素の熱分解以上に加熱することによって、アンモニアを発生させ、発生したアンモニアによって、骨格相を形成するシラン重縮合体の一部を溶解して骨格中に微細孔が形成される。
したがって、最後に加熱乾燥して水溶性高分子等を除去すれば、平均直径100ナノメートル以上の連続細孔を形成する三次元網目構造をした骨格部分を備え、この骨格部分にナノオーダーの微細孔が形成されたバルク状あるいはモノリス状をした二重細孔多孔質体が得られる。
【0007】
しかしながら、上記製造方法で得られた二重細孔多孔質体の場合、従来の耐アルカリ性に問題があった。
【0008】
そこで、本発明の発明者らは、上記二重細孔多孔質体の製造方法において、テトラエトキシシランに代えて、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、1,2−ビストリメトキシシリルエタン等の有機鎖アルコキシシランを用いて、骨格部分をSiC結合を分子中に備えるシラン重縮合体とすれば、耐アルカリ性の向上を図れるのではないかと考えた。
しかしながら、有機鎖アルコキシシランを上記方法と同じ条件で重縮合させて湿潤ゲルを得た場合、同様に出発組成として用いた場合、有機鎖部位が骨格部の外部表面に表出したものとなってしまうため、その後加熱して尿素を分解してアルカリ性にしても、有機鎖部分が邪魔をしてうまく骨格内に微細孔を形成することができなかった。
【0009】
【特許文献1】特開平11−292528号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みて、耐アルカリ性に優れるとともに、クロマトグラフィーの充填材として用いたときに、優れた分離能を発揮する二重細孔有機鎖無機多孔質体およびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明にかかる二重細孔有機鎖無機多孔質体は、SiC結合部分を分子中に有するシラン重縮合体からなる三次元網目構造の骨格を有し、この骨格内に微細孔を備えていることを特徴としている。
【0012】
また、本発明にかかる二重細孔有機鎖無機多孔質体の製造方法は、加熱により分解してアルカリ成分を発生するアルカリ発生化合物と、相分離誘起作用を有する有機高分子とを含む酸性溶液中に、有機鎖アルコキシシランを投入して、有機鎖アルコキシシランを加水分解させたのち、加熱してアルカリ発生化合物を分解させながら、有機鎖アルコキシシランを重縮合させて三次元網目構造の骨格を有するゲルを形成するゲル化工程と、得られたゲルをアルカリ条件下で水熱処理して前記骨格中に微細孔を形成する微細孔形成工程と、を備えていることを特徴としている。
【0013】
本発明において、上記酸性溶液に用いる酸としては、特に限定されないが、たとえば、酢酸、硝酸、塩酸、蟻酸等が挙げられ、中でも酢酸のような弱酸が好ましい。
酸性溶液のpHは、特に限定されないが、重縮合前のpHが1以上5未満に調整することが好ましい。すなわち、酸性が強すぎると、骨格部分に微細孔を形成することが困難になり、弱すぎると、ゲル化が遅く、生産性に問題が生じる恐れがある。
【0014】
本発明において、有機鎖アルコキシシランとは、Si原子に1つ〜3つのアルコキシ基が結合し、3つ〜1つの有機基がSiC結合を形成するように結合したものを意味し、具体的には、たとえば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、1,2−ビストリメトキシシリルエタン等が挙げられ、これらを単独であるいは複数混合して用いることができる。
【0015】
上記アルカリ発生化合物としては、特に限定されないが、たとえば、尿素、ヘキサメチレンテトラミン、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等の有機アミド類が挙げられ、これらを単独であるいは複数混合して用いることができるが、中でも尿素が好適である。
また、アルカリ発生化合物は、酸性溶液中に予め添加しておくだけでなく、必要に応じてゲル化時にさらに添加するようにしても構わない。
【0016】
重縮合時の加熱温度は、特に限定されないが、所定量のアルカリ成分が発生すれば、できるだけ低い方が好ましい。すなわち、加熱温度が高すぎると、溶液が沸騰して、ボイドが発生し、良好な骨格部が形成されない恐れがある。因みに、尿素を用いた場合、尿素の分解温度以上が50℃程度であるので、加熱温度は50℃以上80℃以下が好ましく、50℃以上70℃以下がより好ましい。
【0017】
上記有機高分子としては、特に限定されないが、たとえば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体が挙げられ、これらが単独で用いられてもよいし、併用されても構わない。
有機高分子の配合割合は、得ようとする骨格部の孔径に応じて適宜調整することができる。
【0018】
また、本発明の二重細孔有機鎖無機多孔質体の製造方法においては、酸性溶液中に、有機高分子をミセル化する溶媒を加えるようにしてもよい。
この有機高分子をミセル化する溶媒としては、特に限定されないが、たとえば、トリメチルベンゼン、メタノール、ブタノール等が挙げられ、これらが単独で用いられてもよいし、併用されても構わない。
【0019】
さらに、本発明にかかるクロマトグラフィー用カラムの製造方法は、キャピラリー内で本発明の二重細孔有機鎖無機多孔質体の製造方法を用いて、キャピラリー内に二重細孔有機鎖無機多孔質体が充填された状態に形成することを特徴としている。
キャピラリーの材質としては、特に限定されないが、たとえば、フューズドシリカ、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK樹脂)等が挙げられる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明にかかる二重細孔有機鎖無機多孔質体は、SiC結合部分を分子中に有するシラン重縮合体からなる三次元網目構造の骨格を有し、この骨格内に微細孔を備えているので、耐アルカリ性に優れたものとなる。したがって、アルカリ領域で用いるクロマトグラフィー用分離媒体、血液分離用多孔質体、環境分析用試料濃縮媒体、吸湿剤用多孔質体、消臭等低分子吸着用多孔質体、均一径微粒子を製造する膜乳化法に用いる多孔質膜、あるいは酵素担体および触媒担体用多孔質体等として好適なものとなる。
【0021】
また、本発明にかかる二重細孔有機鎖無機多孔質体の製造方法は、加熱により分解してアルカリ成分を発生するアルカリ発生化合物と、相分離誘起作用を有する有機高分子とを含む酸性溶液中に、有機鎖アルコキシシランを投入して、有機鎖アルコキシシランを加水分解させたのち、加熱してアルカリ発生化合物を分解させながら、有機鎖アルコキシシランを重縮合させて三次元網目構造の骨格を有するゲルを形成するゲル化工程と、得られたゲルをアルカリ条件下で水熱処理して前記骨格中に微細孔を形成する微細孔形成工程と、を備えているので、これまで得ることが困難であった耐アルカリ性に優れた上記本発明の二重細孔有機鎖無機多孔質体を得ることができる。
【0022】
すなわち、有機鎖アルコキシシランを酸性溶液に投入すると、まず、有機鎖アルコキシシランが加水分解する。そして、アルカリ発生化合物の分解温度まで加熱することによって、溶液を中性に近い領域にしながら、重縮合させると、表面にアルカリに弱い水酸基部分が多いシラン重縮合体からなる三次元網目構造の骨格部を有する湿潤ゲルが得られる。
そして、この湿潤ゲルをさらに水熱修理してアルカリ発生化合物をさらに分解して骨格に微細孔を形成するようにした。
【0023】
さらに、酸性溶液に有機鎖アルコキシシランとともに、有機高分子をミセル化する溶媒を投入してゲル化工程を行うようにすれば、有機高分子によってできた擬似的な微細孔の鋳型が骨格内に形成され、アルカリ条件により水熱処理を行うことでさらに拡大化できる。また、ミセル化する溶媒の種類を変化させることによりミセルサイズをコントロールすることも可能となり、よって、骨格内の細孔サイズのコントロールも可能となる。
そして、得られる二重細孔多孔質体は、骨格内の細孔による表面積の増加により、吸着媒体等に使用した際に試料負荷量の向上を図ることができる。
【0024】
本発明にかかるクロマトグラフィー用カラムの製造方法は、キャピラリー内で本発明の二重細孔有機鎖無機多孔質体の製造方法を用いて、キャピラリー内に二重細孔有機鎖無機多孔質体が充填された状態に形成するので、キャピラリー内に密に本発明の二重細孔有機鎖無機多孔質体が充填されたアルカリ領域でも良好に用いることができる分解能に優れたカラムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に本発明の特徴を更に明らかにするため実施例を示すが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0026】
(実施例1)
0.01M酢酸水溶液5 mlに相分離誘起作用を有する有機高分子としてのエチレングリコール−プロピレングリコールブロック共重合体(BASF社製商品名Pluronic P123,平均分子量5,800)を1.1 g、およびアルカリ発生化合物としての尿素を0.5 g溶解して均一となるように撹拌してpH3.4の酸性溶液を得た。
この酸性溶液に有機鎖アルコキシシランとしてのメチルトリメトキシシラン5 mlを添加し、撹拌して均一溶液とした。
この均一溶液が入れられた容器に5分間超音波を照射して脱気を行い、ヘリウムガス置換を10分間行った。その後、容器を密閉し、60℃条件下24時間で重縮合させ、pH7.9の湿潤ゲルを得た。
さらに、得られた湿潤ゲルを尿素水溶液で置換し、骨格内に細孔を形成するために、150℃で24時間 pH10.1のアルカリ条件下で水熱処理を行った。
得られたゲルを水およびメタノール水混合液で洗浄後、乾燥、250℃で10時間焼成し、二重細孔多孔質体を得た。
得られた二重細孔多孔質体を電子顕微鏡で観察したところ、図1に示すように、ミクロンオーダーの連続細孔が形成された骨格を備えていることがわかった。
また、得られた二重細孔多孔質体の骨格内の微細孔径を窒素吸着法により測定し、その結果を図2に示した。
図2から、得られた二重細孔多孔質体は、骨格内に形成された微細孔が直径10nm以下のものでほぼ占められ、直径8nm付近のものが大多数を占めていることがよくわかった。
【0027】
(実施例2)
0.01M酢酸水溶液5.25 mlに相分離誘起作用を有する有機高分子としてのポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを1.8 g、およびアルカリ発生化合物としての尿素を0.5 g溶解して均一となるように撹拌してpH3.4の酸性溶液を得た。
この酸性溶液に有機鎖アルコキシシランとしてのメチルトリメトキシシラン5 mlを添加し、撹拌して均一溶液とした。
この均一溶液が入れられた容器に5分間超音波を照射して脱気を行い、ヘリウムガス置換を10分間行った。その後、容器を密閉し、60℃条件下24時間で重縮合させ、pH7.7の湿潤ゲルを得た。
さらに、得られた湿潤ゲルを尿素水溶液で置換し、骨格内に細孔を形成するために、200℃で24時間 pH9.7のアルカリ条件下で水熱処理を行った。
得られたゲルを水およびメタノール水混合液で洗浄後、乾燥、250℃で10時間焼成し、二重細孔多孔質体を得た。
得られた二重細孔多孔質体を電子顕微鏡で観察したところ、図3に示すように、ミクロンオーダーの連続細孔が形成された骨格を備えていることがわかった。
また、得られた二重細孔多孔質体の骨格内の微細孔径を窒素吸着法により測定し、その結果を図4に示した。
図4から、得られた二重細孔多孔質体は、骨格内に形成された微細孔が直径10nm以下のものでほぼ占められ、直径3.5nm付近のものが大多数を占めていることがよくわかった。
【0028】
(実施例3)
0.01M酢酸水溶液5 mlに相分離誘起作用を有する有機高分子としてのエチレングリコール−プロピレングリコールブロック共重合体(BASF社製商品名Pluronic P123,平均分子量5,800)を2 g、およびアルカリ発生化合物としての尿素を1 g溶解して均一となるように撹拌してpH3.4の酸性溶液を得た。
この酸性溶液に有機鎖アルコキシシランとしてのメチルトリメトキシシラン5 mlを添加し、撹拌して均一溶液とし、さらに、相分離誘起作用を有する有機高分子をミセル化して細孔形成誘起させるための溶媒としてトリメチルベンゼンを1.4 ml加えた。
この均一溶液が入れられた容器に5分間超音波を照射して脱気を行い、ヘリウムガス置換を10分間行った。その後、容器を密閉し、60℃条件下24時間で重縮合させ、pH8.1の湿潤ゲルを得た。
さらに、得られた湿潤ゲルを尿素水溶液で置換し、骨格内に細孔を形成するために、200℃で24時間 pH9.7のアルカリ条件下で水熱処理を行った。
得られたゲルを水およびメタノール水混合液で洗浄後、乾燥、250℃で10時間焼成し、二重細孔多孔質体を得た。
得られた二重細孔多孔質体を電子顕微鏡で観察したところ、図5に示すように、ミクロンオーダーの連続細孔が形成された骨格を備えていることがわかった。
また、得られた二重細孔多孔質体の骨格内の微細孔径を窒素吸着法により測定し、その結果を図6に示した。
図6から、得られた二重細孔多孔質体は、骨格内に形成された微細孔が直径100nm以下のものでほぼ占められ、直径50nm付近のものが大多数を占めていることがよくわかった。すなわち、トリメチルベンゼンの添加によって細孔が拡大化されることがわかった。
【0029】
(実施例4)
0.01M酢酸水溶液4.5 mlに相分離誘起作用を有する有機高分子としてのエチレングリコール−プロピレングリコールブロック共重合体(BASF社製商品名Pluronic P123,平均分子量5,800)を2.2 g、およびアルカリ発生化合物としての尿素を2 g溶解して均一となるように撹拌してpH3.4の酸性溶液を得た。
この酸性溶液に有機鎖アルコキシシランとしてのメチルトリメトキシシラン5 mlを添加し、撹拌して均一溶液とし、さらに、相分離誘起作用を有する有機高分子をミセル化して細孔形成誘起させるための溶媒としてトリメチルベンゼンを1.4 ml加えた。
この均一溶液が入れられた容器に5分間超音波を照射して脱気を行い、ヘリウムガス置換を10分間行った後、内径50 mm I.Dおよび100 mm I.Dのフューズドシリカキャピラリー内にそれぞれ充填し、各キャピラリーの両端を密封し、70℃条件下24時間で重縮合させ、pH8.4の湿潤ゲルを得た。
さらに、骨格内に細孔を形成するために、各キャピラリー内を封緘し、200℃で24時間アルカリ条件下での水熱処理を行った。得られた各キャピラリーのゲルを水およびメタノール水混合液で洗浄後、乾燥、250℃で10時間焼成し、二重細孔多孔質体がキャピラリー内に充填されたクロマトグラフィー用カラム得た。
得られた各クロマトグラフィー用カラムの断面を電子顕微鏡で観察したところ、図7,8に示すように、ミクロンオーダーの連続細孔が形成された骨格を備えていることがわかった。
得られた各キャピラリーカラムを用い、カラム長150 mm、ヘキサン/2-プロパノール=98/2の移動相条件において、線速度1.1 mm/s、カラム負荷圧72 barの条件下で、順相クロマトグラフィーを行い、トルエン、2,6-ジニトロトルエン、1,2-ジニトロベンゼンの試料を分離したところ、図9、10に示すような結果となり、理論段高7.1 mmの性能を示すことがわかった。すなわち、このことから、キャピラリーによるダウンサイジング化と高性能カラム化を図れることがわかる。
【0030】
(実施例5)
0.01M酢酸水溶液6 mlに相分離誘起作用を有する有機高分子としてのエチレングリコール−プロピレングリコールブロック共重合体(BASF社製商品名Pluronic F68,平均分子量8,400)を2.12 g、およびアルカリ発生化合物としての尿素を0.725 g溶解して均一となるように撹拌してpH3.4の酸性溶液を得た。
この酸性溶液に有機鎖アルコキシシランとしてのメチルトリメトキシシラン5 mlとジメチルジメトキシシラン0.25 mlを添加し、撹拌して均一溶液とした。
この均一溶液が入れられた容器に5分間超音波を照射して脱気を行い、ヘリウムガス置換を10分間行った。その後、容器を密閉し、60℃条件下24時間で重縮合させ、pH7.8の湿潤ゲルを得た。
さらに、得られた湿潤ゲルを尿素水溶液で置換し、骨格内に細孔を形成するために、200℃で24時間 pH9.7のアルカリ条件下で水熱処理を行った。
得られたゲルを水およびメタノール水混合液で洗浄後、乾燥、250℃で10時間焼成し、二重細孔多孔質体を得た。
得られた二重細孔多孔質体を電子顕微鏡で観察したところ、図11に示すように、ミクロンオーダーの連続細孔が形成された骨格を備えていることがわかった。
【0031】
(実施例6)
0.1M硝酸水溶液5.8 mlに相分離誘起作用を有する有機高分子としてのエチレングリコール−プロピレングリコールブロック共重合体(BASF社製商品名Pluronic P123,平均分子量5,800)を1.1 g、およびアルカリ発生化合物としての尿素を0.5 g溶解して均一となるように撹拌してpH1.1の酸性溶液を得た。
この酸性溶液に有機鎖アルコキシシランとしての1,2-ビズ(トリメトキシシリル)エタン2 mlを添加し、撹拌して均一溶液とした。
この均一溶液が入れられた容器に5分間超音波を照射して脱気を行い、ヘリウムガス置換を10分間行った。その後、容器を密閉し、60℃条件下24時間で重縮合させ、pH1.8の湿潤ゲルを得た。
さらに、得られた湿潤ゲルを尿素水溶液で置換し、骨格内に細孔を形成するために、110℃で24時間 pH10.4のアルカリ条件下で水熱処理を行った。
得られたゲルを水およびメタノール水混合液で洗浄後、乾燥、250℃で10時間焼成し、二重細孔多孔質体を得た。
得られた二重細孔多孔質体を電子顕微鏡で観察したところ、図12に示すように、ミクロンオーダーの連続細孔が形成された骨格を備えていることがわかった。
また、得られた二重細孔多孔質体の骨格内の微細孔径を窒素吸着法により測定し、その結果を図13に示した。
図13から、得られた二重細孔多孔質体は、骨格内に形成された微細孔が直径10nm以下のものでほぼ占められ、直径7nm付近のものが大多数を占めていることがよくわかった。
【0032】
(実施例7)
0.01M酢酸水溶液5.25 mlに相分離誘起作用を有する有機高分子としてのポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを1.8 g、およびアルカリ発生化合物としての尿素を0.5 g溶解して均一となるように撹拌してpH3.4の酸性溶液を得た。
この酸性溶液に有機鎖アルコキシシランとしてのメチルトリメトキシシラン5 mlを添加し、撹拌して均一溶液とした。
この均一溶液が入れられた容器に5分間超音波を照射して脱気を行い、ヘリウムガス置換を10分間行った後、内径50 mm I.Dのフューズドシリカキャピラリー内にそれぞれ充填し、キャピラリーの両端を密封し、60℃条件下24時間で重縮合させ、pH7.7の湿潤ゲルを得た。
さらに、骨格内に細孔を形成するために、各キャピラリー内を200℃で24時間 pH9.7のアルカリ条件下で水熱処理を行った。得られた各キャピラリーのゲルを水およびメタノール水混合液で洗浄後、乾燥、250℃で10時間焼成し、二重細孔多孔質体がキャピラリー内に充填されたクロマトグラフィー用カラム得た。
【0033】
(比較例1)
尿素を用いず、1M硝酸水溶液4.5mlと相分離誘起作用を有する有機高分子としてのポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを3.05 g、と均一となるように撹拌混合してpH0.4の酸性溶液(を得た以外は、実施例7と同様にしてクロマトグラフィー用カラム得た。
上記実施例7および比較例1で得られたクロマトグラフィー用カラムを用い、それぞれメタノール/水=80/20の移動相条件において逆相クロマトグラフィーを行いウラシルとアルキルベンゼン7種(ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン、アミルベンゼン、ヘキシルベンゼン)の試料を分離したところ、比較例1のクロマトグラフィー用カラムを用いた場合、図15に示すように、ウラシルと各アルキルベンゼンが分離したのに対して、実施例7のクロマトグラフィー用カラムを用いた場合、図14に示すように分離しなかった。
これは、比較例1のクロマトグラフィー用カラムの場合、有機鎖が外側を向いていたことによる疎水性相互作用によって分離され、実施例7のクロマトグラフィー用カラムの場合、有機鎖が内側を向いているため分離されないということを示唆している。
また、上記実施例7および比較例1で得られたクロマトグラフィー用カラムを用い、それぞれヘキサン/2-プロパノール=98/2の移動相条件において順相クロマトグラフィーを行いトルエン、2,6-ジニトロトルエン、1,2-ジニトロベンゼンの試料を分離したところ、図16に示す実施例7のクロマトグラフィー用カラムの方が、図17に示す比較例1のクロマトグラフィー用カラムに比べて、試料保持能が大きいことがわかった。
これは、実施例7の二重細孔多孔質体は、従来のものに比べて、親水基(シラノール)が多く表出していることを示唆している。
【0034】
(比較例2)
0.01M酢酸水溶液5.5 mlにポリエチレンオキシドを0.6 g、および尿素を0.5 g溶解して均一となるように撹拌してpH3.4の酸性溶液を得た。
この酸性溶液に有機鎖アルコキシシランとしてのメチルトリメトキシシラン5 mlを添加し、撹拌して均一溶液とした。
この均一溶液が入れられた容器に5分間超音波を照射して脱気を行い、ヘリウムガス置換を10分間行った。その後、容器を密閉し、40℃条件下24時間保持したが、ゲル化しなかった。
【0035】
(比較例3)
1M硝酸水溶液3.3 mlにポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを0.4 g、メタノールを1.1 g、および尿素を0.5 g溶解して均一となるように撹拌してpH0.4の酸性溶液を得た。
この酸性溶液に有機鎖アルコキシシランとしてのメチルトリメトキシシラン10 mlを添加し、撹拌して均一溶液とした。
この均一溶液が入れられた容器に5分間超音波を照射して脱気を行い、ヘリウムガス置換を10分間行った。その後、容器を密閉し、40℃条件下24時間で重縮合させ、pH0.4の湿潤ゲルを得た。
さらに、得られた湿潤ゲルを尿素水溶液で置換し、骨格内に細孔を形成するために、200℃で24時間 pH9.7のアルカリ条件下で水熱処理を行った。
得られたゲルを水およびメタノール水混合液で洗浄後、乾燥、250℃で10時間焼成し、多孔質体を得た。
得られた多孔質体を電子顕微鏡で観察したところ、図18に示すように、ミクロンオーダーの連続細孔が形成された骨格を備えていることがわかった。
また、得られた多孔質体の骨格内の微細孔径を窒素吸着法により測定し、その結果を図19に示した。
図19から、得られた多孔質体は、骨格内にnmオーダーの細孔は形成されていないことがよくわかる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
クロマトグラフィー用分離媒体、血液分離用多孔質体、環境分析用試料濃縮媒体、吸湿剤用多孔質体、消臭等低分子吸着用多孔質体、均一径微粒子を製造する膜乳化法に用いる多孔質膜、あるいは酵素担体および触媒担体用多孔質体等への使用に適している。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施例1で得られた二重細孔多孔質体の走査型電子顕微鏡写真写しである。
【図2】実施例1で得られた二重細孔多孔質体の骨格内の微細孔を窒素吸着法によって測定させた細孔径分布を示す図である。
【図3】実施例2で得られた二重細孔多孔質体の走査型電子顕微鏡写真写しである。
【図4】実施例2で得られた二重細孔多孔質体の骨格内の微細孔を窒素吸着法によって測定させた細孔径分布を示す図である。
【図5】実施例3で得られた二重細孔多孔質体の走査型電子顕微鏡写真写しである。
【図6】実施例3で得られた二重細孔多孔質体の骨格内の微細孔を窒素吸着法によって測定させた細孔径分布を示す図である。
【図7】実施例4において内径50 mm I.Dのフューズドシリカキャピラリーを用いて得られたクロマトグラフィー用カラム断面の走査型電子顕微鏡写真写しである。
【図8】実施例4において内径100 mm I.Dのフューズドシリカキャピラリーを用いて得られたクロマトグラフィー用カラム断面の走査型電子顕微鏡写真写しである。
【図9】実施例4の内径50 mm I.Dのフューズドシリカキャピラリーを用いて得られたクロマトグラフィー用カラムによって順相クロマトグラフィーを行いトルエン、2,6-ジニトロトルエン、1,2-ジニトロベンゼンの試料を分離した結果を示す図である。
【図10】実施例4の内径100 mm I.Dのフューズドシリカキャピラリーを用いて得られたクロマトグラフィー用カラムによって順相クロマトグラフィーを行いトルエン、2,6-ジニトロトルエン、1,2-ジニトロベンゼンの試料を分離した結果を示す図である。
【図11】実施例5で得られた二重細孔多孔質体の走査型電子顕微鏡写真写しである。
【図12】実施例6で得られた二重細孔多孔質体の走査型電子顕微鏡写真写しである。
【図13】実施例6で得られた二重細孔多孔質体の骨格内の微細孔を窒素吸着法によって測定させた細孔径分布を示す図である。
【図14】実施例7で得られたクロマトグラフィー用カラムによって逆相クロマトグラフィーを行い、アルキルベンゼン6種の分離を行なった結果をあらわす図である。
【図15】比較例1で得られたクロマトグラフィー用カラムによって逆相クロマトグラフィーを行い、アルキルベンゼン6種の分離を行なった結果をあらわす図である。
【図16】実施例7で得られたクロマトグラフィー用カラムによって順相クロマトグラフィーを行いトルエン、2,6-ジニトロトルエン、1,2-ジニトロベンゼンの分離を行なった結果をあらわす図である。
【図17】比較例1で得られたクロマトグラフィー用カラムによって順相クロマトグラフィーを行いトルエン、2,6-ジニトロトルエン、1,2-ジニトロベンゼンの分離を行なった結果をあらわす図である。
【図18】比較例3で得られた多孔質体の走査型電子顕微鏡写真写しである。
【図19】比較例3で得られた多孔質体の骨格内の微細孔を窒素吸着法によって測定させた細孔径分布を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマトグラフィー用分離媒体、血液分離用多孔質体、環境分析用試料濃縮媒体、吸湿剤用多孔質体、消臭等低分子吸着用多孔質体、均一径微粒子を製造する膜乳化法に用いる多孔質膜、あるいは酵素担体および触媒担体用多孔質体等に適した二重細孔有機鎖無機多孔質体、二重細孔有機鎖無機多孔質体の製造方法、およびクロマトグラフィー用カラムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフィー装置は、一般に、シリカゲル等の無機系多孔質体粒子が分離媒体としてカラム内に充填されている。
この種の液体クロマトグラフィー装置において、分離能を向上させるにはカラムに充填される粒子の小径化が最も有力であるが、粒子の小径化を図ると同時に分析に適当な流速を得るのに必要な圧力が高くなり、カラム長を短くせざるを得なくなる。
【0003】
したがって、適当な試料負荷量を得るために表面積の大きい多孔質粒子が用いられているが、これらは低い機械的強度を示すために、均一な充填作業に困難が生じる。したがって、液体クロマトグラフィーにおける分離能を増大させるための粒子小径化には限界がある。粒子充填型カラムを圧力送液下で用いる限りこの制約から逃れることはできないので、短時間に高理論段数を得るためには、微粒子に伴う高圧力を避ける工夫が必要である。
短時間、すなわち高速で高性能分離を実現するには、低圧力で溶媒が流れることのできる大きな流路と、充填剤の粒子径に相当する小さな骨格をあわせもった分離媒体が必要である。
【0004】
そこで、上記のような条件を満足させるために、ポリエチレンオキシド等の水溶性高分子と、加熱により分解してアルカリ成分を発生する尿素とを均一に溶解させた酸性溶液中に、テトラエトキシシランを投入し、テトラエトキシシランを尿素の分解温度以下で、加水分解および重縮合させて溶媒リッチ相と骨格相とに分離した湿潤ゲルが生成させたのち、すなわち、スピノーダル分解に基づく相分離とゾルーゲル転移を同時に起こしてマクロ細孔を備えた骨格を形成し、この湿潤ゲルを尿素の熱分解以上に加熱することによって、アンモニアを発生させ、発生したアンモニアによって、骨格の一部を溶解させて骨格中に微細孔を形成するようにした無機系多孔質体の製造方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
すなわち、この無機系多孔質体の製造方法では、まず、従来の無機系多孔質体の製造方法のように、酸性溶液中で、テトラエトキシシランを加水分解および重縮合させるのであるが、酸性溶液中には、水溶性高分子が均一に溶解しているため、まず、水相部分と相分離して形成された島状の溶媒リッチ相と、シラン重縮合体からなる骨格相とからなる湿潤ゲルが形成される。
【0006】
そして、この湿潤ゲルを尿素の熱分解以上に加熱することによって、アンモニアを発生させ、発生したアンモニアによって、骨格相を形成するシラン重縮合体の一部を溶解して骨格中に微細孔が形成される。
したがって、最後に加熱乾燥して水溶性高分子等を除去すれば、平均直径100ナノメートル以上の連続細孔を形成する三次元網目構造をした骨格部分を備え、この骨格部分にナノオーダーの微細孔が形成されたバルク状あるいはモノリス状をした二重細孔多孔質体が得られる。
【0007】
しかしながら、上記製造方法で得られた二重細孔多孔質体の場合、従来の耐アルカリ性に問題があった。
【0008】
そこで、本発明の発明者らは、上記二重細孔多孔質体の製造方法において、テトラエトキシシランに代えて、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、1,2−ビストリメトキシシリルエタン等の有機鎖アルコキシシランを用いて、骨格部分をSiC結合を分子中に備えるシラン重縮合体とすれば、耐アルカリ性の向上を図れるのではないかと考えた。
しかしながら、有機鎖アルコキシシランを上記方法と同じ条件で重縮合させて湿潤ゲルを得た場合、同様に出発組成として用いた場合、有機鎖部位が骨格部の外部表面に表出したものとなってしまうため、その後加熱して尿素を分解してアルカリ性にしても、有機鎖部分が邪魔をしてうまく骨格内に微細孔を形成することができなかった。
【0009】
【特許文献1】特開平11−292528号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みて、耐アルカリ性に優れるとともに、クロマトグラフィーの充填材として用いたときに、優れた分離能を発揮する二重細孔有機鎖無機多孔質体およびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明にかかる二重細孔有機鎖無機多孔質体は、SiC結合部分を分子中に有するシラン重縮合体からなる三次元網目構造の骨格を有し、この骨格内に微細孔を備えていることを特徴としている。
【0012】
また、本発明にかかる二重細孔有機鎖無機多孔質体の製造方法は、加熱により分解してアルカリ成分を発生するアルカリ発生化合物と、相分離誘起作用を有する有機高分子とを含む酸性溶液中に、有機鎖アルコキシシランを投入して、有機鎖アルコキシシランを加水分解させたのち、加熱してアルカリ発生化合物を分解させながら、有機鎖アルコキシシランを重縮合させて三次元網目構造の骨格を有するゲルを形成するゲル化工程と、得られたゲルをアルカリ条件下で水熱処理して前記骨格中に微細孔を形成する微細孔形成工程と、を備えていることを特徴としている。
【0013】
本発明において、上記酸性溶液に用いる酸としては、特に限定されないが、たとえば、酢酸、硝酸、塩酸、蟻酸等が挙げられ、中でも酢酸のような弱酸が好ましい。
酸性溶液のpHは、特に限定されないが、重縮合前のpHが1以上5未満に調整することが好ましい。すなわち、酸性が強すぎると、骨格部分に微細孔を形成することが困難になり、弱すぎると、ゲル化が遅く、生産性に問題が生じる恐れがある。
【0014】
本発明において、有機鎖アルコキシシランとは、Si原子に1つ〜3つのアルコキシ基が結合し、3つ〜1つの有機基がSiC結合を形成するように結合したものを意味し、具体的には、たとえば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、1,2−ビストリメトキシシリルエタン等が挙げられ、これらを単独であるいは複数混合して用いることができる。
【0015】
上記アルカリ発生化合物としては、特に限定されないが、たとえば、尿素、ヘキサメチレンテトラミン、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等の有機アミド類が挙げられ、これらを単独であるいは複数混合して用いることができるが、中でも尿素が好適である。
また、アルカリ発生化合物は、酸性溶液中に予め添加しておくだけでなく、必要に応じてゲル化時にさらに添加するようにしても構わない。
【0016】
重縮合時の加熱温度は、特に限定されないが、所定量のアルカリ成分が発生すれば、できるだけ低い方が好ましい。すなわち、加熱温度が高すぎると、溶液が沸騰して、ボイドが発生し、良好な骨格部が形成されない恐れがある。因みに、尿素を用いた場合、尿素の分解温度以上が50℃程度であるので、加熱温度は50℃以上80℃以下が好ましく、50℃以上70℃以下がより好ましい。
【0017】
上記有機高分子としては、特に限定されないが、たとえば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体が挙げられ、これらが単独で用いられてもよいし、併用されても構わない。
有機高分子の配合割合は、得ようとする骨格部の孔径に応じて適宜調整することができる。
【0018】
また、本発明の二重細孔有機鎖無機多孔質体の製造方法においては、酸性溶液中に、有機高分子をミセル化する溶媒を加えるようにしてもよい。
この有機高分子をミセル化する溶媒としては、特に限定されないが、たとえば、トリメチルベンゼン、メタノール、ブタノール等が挙げられ、これらが単独で用いられてもよいし、併用されても構わない。
【0019】
さらに、本発明にかかるクロマトグラフィー用カラムの製造方法は、キャピラリー内で本発明の二重細孔有機鎖無機多孔質体の製造方法を用いて、キャピラリー内に二重細孔有機鎖無機多孔質体が充填された状態に形成することを特徴としている。
キャピラリーの材質としては、特に限定されないが、たとえば、フューズドシリカ、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK樹脂)等が挙げられる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明にかかる二重細孔有機鎖無機多孔質体は、SiC結合部分を分子中に有するシラン重縮合体からなる三次元網目構造の骨格を有し、この骨格内に微細孔を備えているので、耐アルカリ性に優れたものとなる。したがって、アルカリ領域で用いるクロマトグラフィー用分離媒体、血液分離用多孔質体、環境分析用試料濃縮媒体、吸湿剤用多孔質体、消臭等低分子吸着用多孔質体、均一径微粒子を製造する膜乳化法に用いる多孔質膜、あるいは酵素担体および触媒担体用多孔質体等として好適なものとなる。
【0021】
また、本発明にかかる二重細孔有機鎖無機多孔質体の製造方法は、加熱により分解してアルカリ成分を発生するアルカリ発生化合物と、相分離誘起作用を有する有機高分子とを含む酸性溶液中に、有機鎖アルコキシシランを投入して、有機鎖アルコキシシランを加水分解させたのち、加熱してアルカリ発生化合物を分解させながら、有機鎖アルコキシシランを重縮合させて三次元網目構造の骨格を有するゲルを形成するゲル化工程と、得られたゲルをアルカリ条件下で水熱処理して前記骨格中に微細孔を形成する微細孔形成工程と、を備えているので、これまで得ることが困難であった耐アルカリ性に優れた上記本発明の二重細孔有機鎖無機多孔質体を得ることができる。
【0022】
すなわち、有機鎖アルコキシシランを酸性溶液に投入すると、まず、有機鎖アルコキシシランが加水分解する。そして、アルカリ発生化合物の分解温度まで加熱することによって、溶液を中性に近い領域にしながら、重縮合させると、表面にアルカリに弱い水酸基部分が多いシラン重縮合体からなる三次元網目構造の骨格部を有する湿潤ゲルが得られる。
そして、この湿潤ゲルをさらに水熱修理してアルカリ発生化合物をさらに分解して骨格に微細孔を形成するようにした。
【0023】
さらに、酸性溶液に有機鎖アルコキシシランとともに、有機高分子をミセル化する溶媒を投入してゲル化工程を行うようにすれば、有機高分子によってできた擬似的な微細孔の鋳型が骨格内に形成され、アルカリ条件により水熱処理を行うことでさらに拡大化できる。また、ミセル化する溶媒の種類を変化させることによりミセルサイズをコントロールすることも可能となり、よって、骨格内の細孔サイズのコントロールも可能となる。
そして、得られる二重細孔多孔質体は、骨格内の細孔による表面積の増加により、吸着媒体等に使用した際に試料負荷量の向上を図ることができる。
【0024】
本発明にかかるクロマトグラフィー用カラムの製造方法は、キャピラリー内で本発明の二重細孔有機鎖無機多孔質体の製造方法を用いて、キャピラリー内に二重細孔有機鎖無機多孔質体が充填された状態に形成するので、キャピラリー内に密に本発明の二重細孔有機鎖無機多孔質体が充填されたアルカリ領域でも良好に用いることができる分解能に優れたカラムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に本発明の特徴を更に明らかにするため実施例を示すが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0026】
(実施例1)
0.01M酢酸水溶液5 mlに相分離誘起作用を有する有機高分子としてのエチレングリコール−プロピレングリコールブロック共重合体(BASF社製商品名Pluronic P123,平均分子量5,800)を1.1 g、およびアルカリ発生化合物としての尿素を0.5 g溶解して均一となるように撹拌してpH3.4の酸性溶液を得た。
この酸性溶液に有機鎖アルコキシシランとしてのメチルトリメトキシシラン5 mlを添加し、撹拌して均一溶液とした。
この均一溶液が入れられた容器に5分間超音波を照射して脱気を行い、ヘリウムガス置換を10分間行った。その後、容器を密閉し、60℃条件下24時間で重縮合させ、pH7.9の湿潤ゲルを得た。
さらに、得られた湿潤ゲルを尿素水溶液で置換し、骨格内に細孔を形成するために、150℃で24時間 pH10.1のアルカリ条件下で水熱処理を行った。
得られたゲルを水およびメタノール水混合液で洗浄後、乾燥、250℃で10時間焼成し、二重細孔多孔質体を得た。
得られた二重細孔多孔質体を電子顕微鏡で観察したところ、図1に示すように、ミクロンオーダーの連続細孔が形成された骨格を備えていることがわかった。
また、得られた二重細孔多孔質体の骨格内の微細孔径を窒素吸着法により測定し、その結果を図2に示した。
図2から、得られた二重細孔多孔質体は、骨格内に形成された微細孔が直径10nm以下のものでほぼ占められ、直径8nm付近のものが大多数を占めていることがよくわかった。
【0027】
(実施例2)
0.01M酢酸水溶液5.25 mlに相分離誘起作用を有する有機高分子としてのポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを1.8 g、およびアルカリ発生化合物としての尿素を0.5 g溶解して均一となるように撹拌してpH3.4の酸性溶液を得た。
この酸性溶液に有機鎖アルコキシシランとしてのメチルトリメトキシシラン5 mlを添加し、撹拌して均一溶液とした。
この均一溶液が入れられた容器に5分間超音波を照射して脱気を行い、ヘリウムガス置換を10分間行った。その後、容器を密閉し、60℃条件下24時間で重縮合させ、pH7.7の湿潤ゲルを得た。
さらに、得られた湿潤ゲルを尿素水溶液で置換し、骨格内に細孔を形成するために、200℃で24時間 pH9.7のアルカリ条件下で水熱処理を行った。
得られたゲルを水およびメタノール水混合液で洗浄後、乾燥、250℃で10時間焼成し、二重細孔多孔質体を得た。
得られた二重細孔多孔質体を電子顕微鏡で観察したところ、図3に示すように、ミクロンオーダーの連続細孔が形成された骨格を備えていることがわかった。
また、得られた二重細孔多孔質体の骨格内の微細孔径を窒素吸着法により測定し、その結果を図4に示した。
図4から、得られた二重細孔多孔質体は、骨格内に形成された微細孔が直径10nm以下のものでほぼ占められ、直径3.5nm付近のものが大多数を占めていることがよくわかった。
【0028】
(実施例3)
0.01M酢酸水溶液5 mlに相分離誘起作用を有する有機高分子としてのエチレングリコール−プロピレングリコールブロック共重合体(BASF社製商品名Pluronic P123,平均分子量5,800)を2 g、およびアルカリ発生化合物としての尿素を1 g溶解して均一となるように撹拌してpH3.4の酸性溶液を得た。
この酸性溶液に有機鎖アルコキシシランとしてのメチルトリメトキシシラン5 mlを添加し、撹拌して均一溶液とし、さらに、相分離誘起作用を有する有機高分子をミセル化して細孔形成誘起させるための溶媒としてトリメチルベンゼンを1.4 ml加えた。
この均一溶液が入れられた容器に5分間超音波を照射して脱気を行い、ヘリウムガス置換を10分間行った。その後、容器を密閉し、60℃条件下24時間で重縮合させ、pH8.1の湿潤ゲルを得た。
さらに、得られた湿潤ゲルを尿素水溶液で置換し、骨格内に細孔を形成するために、200℃で24時間 pH9.7のアルカリ条件下で水熱処理を行った。
得られたゲルを水およびメタノール水混合液で洗浄後、乾燥、250℃で10時間焼成し、二重細孔多孔質体を得た。
得られた二重細孔多孔質体を電子顕微鏡で観察したところ、図5に示すように、ミクロンオーダーの連続細孔が形成された骨格を備えていることがわかった。
また、得られた二重細孔多孔質体の骨格内の微細孔径を窒素吸着法により測定し、その結果を図6に示した。
図6から、得られた二重細孔多孔質体は、骨格内に形成された微細孔が直径100nm以下のものでほぼ占められ、直径50nm付近のものが大多数を占めていることがよくわかった。すなわち、トリメチルベンゼンの添加によって細孔が拡大化されることがわかった。
【0029】
(実施例4)
0.01M酢酸水溶液4.5 mlに相分離誘起作用を有する有機高分子としてのエチレングリコール−プロピレングリコールブロック共重合体(BASF社製商品名Pluronic P123,平均分子量5,800)を2.2 g、およびアルカリ発生化合物としての尿素を2 g溶解して均一となるように撹拌してpH3.4の酸性溶液を得た。
この酸性溶液に有機鎖アルコキシシランとしてのメチルトリメトキシシラン5 mlを添加し、撹拌して均一溶液とし、さらに、相分離誘起作用を有する有機高分子をミセル化して細孔形成誘起させるための溶媒としてトリメチルベンゼンを1.4 ml加えた。
この均一溶液が入れられた容器に5分間超音波を照射して脱気を行い、ヘリウムガス置換を10分間行った後、内径50 mm I.Dおよび100 mm I.Dのフューズドシリカキャピラリー内にそれぞれ充填し、各キャピラリーの両端を密封し、70℃条件下24時間で重縮合させ、pH8.4の湿潤ゲルを得た。
さらに、骨格内に細孔を形成するために、各キャピラリー内を封緘し、200℃で24時間アルカリ条件下での水熱処理を行った。得られた各キャピラリーのゲルを水およびメタノール水混合液で洗浄後、乾燥、250℃で10時間焼成し、二重細孔多孔質体がキャピラリー内に充填されたクロマトグラフィー用カラム得た。
得られた各クロマトグラフィー用カラムの断面を電子顕微鏡で観察したところ、図7,8に示すように、ミクロンオーダーの連続細孔が形成された骨格を備えていることがわかった。
得られた各キャピラリーカラムを用い、カラム長150 mm、ヘキサン/2-プロパノール=98/2の移動相条件において、線速度1.1 mm/s、カラム負荷圧72 barの条件下で、順相クロマトグラフィーを行い、トルエン、2,6-ジニトロトルエン、1,2-ジニトロベンゼンの試料を分離したところ、図9、10に示すような結果となり、理論段高7.1 mmの性能を示すことがわかった。すなわち、このことから、キャピラリーによるダウンサイジング化と高性能カラム化を図れることがわかる。
【0030】
(実施例5)
0.01M酢酸水溶液6 mlに相分離誘起作用を有する有機高分子としてのエチレングリコール−プロピレングリコールブロック共重合体(BASF社製商品名Pluronic F68,平均分子量8,400)を2.12 g、およびアルカリ発生化合物としての尿素を0.725 g溶解して均一となるように撹拌してpH3.4の酸性溶液を得た。
この酸性溶液に有機鎖アルコキシシランとしてのメチルトリメトキシシラン5 mlとジメチルジメトキシシラン0.25 mlを添加し、撹拌して均一溶液とした。
この均一溶液が入れられた容器に5分間超音波を照射して脱気を行い、ヘリウムガス置換を10分間行った。その後、容器を密閉し、60℃条件下24時間で重縮合させ、pH7.8の湿潤ゲルを得た。
さらに、得られた湿潤ゲルを尿素水溶液で置換し、骨格内に細孔を形成するために、200℃で24時間 pH9.7のアルカリ条件下で水熱処理を行った。
得られたゲルを水およびメタノール水混合液で洗浄後、乾燥、250℃で10時間焼成し、二重細孔多孔質体を得た。
得られた二重細孔多孔質体を電子顕微鏡で観察したところ、図11に示すように、ミクロンオーダーの連続細孔が形成された骨格を備えていることがわかった。
【0031】
(実施例6)
0.1M硝酸水溶液5.8 mlに相分離誘起作用を有する有機高分子としてのエチレングリコール−プロピレングリコールブロック共重合体(BASF社製商品名Pluronic P123,平均分子量5,800)を1.1 g、およびアルカリ発生化合物としての尿素を0.5 g溶解して均一となるように撹拌してpH1.1の酸性溶液を得た。
この酸性溶液に有機鎖アルコキシシランとしての1,2-ビズ(トリメトキシシリル)エタン2 mlを添加し、撹拌して均一溶液とした。
この均一溶液が入れられた容器に5分間超音波を照射して脱気を行い、ヘリウムガス置換を10分間行った。その後、容器を密閉し、60℃条件下24時間で重縮合させ、pH1.8の湿潤ゲルを得た。
さらに、得られた湿潤ゲルを尿素水溶液で置換し、骨格内に細孔を形成するために、110℃で24時間 pH10.4のアルカリ条件下で水熱処理を行った。
得られたゲルを水およびメタノール水混合液で洗浄後、乾燥、250℃で10時間焼成し、二重細孔多孔質体を得た。
得られた二重細孔多孔質体を電子顕微鏡で観察したところ、図12に示すように、ミクロンオーダーの連続細孔が形成された骨格を備えていることがわかった。
また、得られた二重細孔多孔質体の骨格内の微細孔径を窒素吸着法により測定し、その結果を図13に示した。
図13から、得られた二重細孔多孔質体は、骨格内に形成された微細孔が直径10nm以下のものでほぼ占められ、直径7nm付近のものが大多数を占めていることがよくわかった。
【0032】
(実施例7)
0.01M酢酸水溶液5.25 mlに相分離誘起作用を有する有機高分子としてのポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを1.8 g、およびアルカリ発生化合物としての尿素を0.5 g溶解して均一となるように撹拌してpH3.4の酸性溶液を得た。
この酸性溶液に有機鎖アルコキシシランとしてのメチルトリメトキシシラン5 mlを添加し、撹拌して均一溶液とした。
この均一溶液が入れられた容器に5分間超音波を照射して脱気を行い、ヘリウムガス置換を10分間行った後、内径50 mm I.Dのフューズドシリカキャピラリー内にそれぞれ充填し、キャピラリーの両端を密封し、60℃条件下24時間で重縮合させ、pH7.7の湿潤ゲルを得た。
さらに、骨格内に細孔を形成するために、各キャピラリー内を200℃で24時間 pH9.7のアルカリ条件下で水熱処理を行った。得られた各キャピラリーのゲルを水およびメタノール水混合液で洗浄後、乾燥、250℃で10時間焼成し、二重細孔多孔質体がキャピラリー内に充填されたクロマトグラフィー用カラム得た。
【0033】
(比較例1)
尿素を用いず、1M硝酸水溶液4.5mlと相分離誘起作用を有する有機高分子としてのポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを3.05 g、と均一となるように撹拌混合してpH0.4の酸性溶液(を得た以外は、実施例7と同様にしてクロマトグラフィー用カラム得た。
上記実施例7および比較例1で得られたクロマトグラフィー用カラムを用い、それぞれメタノール/水=80/20の移動相条件において逆相クロマトグラフィーを行いウラシルとアルキルベンゼン7種(ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン、アミルベンゼン、ヘキシルベンゼン)の試料を分離したところ、比較例1のクロマトグラフィー用カラムを用いた場合、図15に示すように、ウラシルと各アルキルベンゼンが分離したのに対して、実施例7のクロマトグラフィー用カラムを用いた場合、図14に示すように分離しなかった。
これは、比較例1のクロマトグラフィー用カラムの場合、有機鎖が外側を向いていたことによる疎水性相互作用によって分離され、実施例7のクロマトグラフィー用カラムの場合、有機鎖が内側を向いているため分離されないということを示唆している。
また、上記実施例7および比較例1で得られたクロマトグラフィー用カラムを用い、それぞれヘキサン/2-プロパノール=98/2の移動相条件において順相クロマトグラフィーを行いトルエン、2,6-ジニトロトルエン、1,2-ジニトロベンゼンの試料を分離したところ、図16に示す実施例7のクロマトグラフィー用カラムの方が、図17に示す比較例1のクロマトグラフィー用カラムに比べて、試料保持能が大きいことがわかった。
これは、実施例7の二重細孔多孔質体は、従来のものに比べて、親水基(シラノール)が多く表出していることを示唆している。
【0034】
(比較例2)
0.01M酢酸水溶液5.5 mlにポリエチレンオキシドを0.6 g、および尿素を0.5 g溶解して均一となるように撹拌してpH3.4の酸性溶液を得た。
この酸性溶液に有機鎖アルコキシシランとしてのメチルトリメトキシシラン5 mlを添加し、撹拌して均一溶液とした。
この均一溶液が入れられた容器に5分間超音波を照射して脱気を行い、ヘリウムガス置換を10分間行った。その後、容器を密閉し、40℃条件下24時間保持したが、ゲル化しなかった。
【0035】
(比較例3)
1M硝酸水溶液3.3 mlにポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを0.4 g、メタノールを1.1 g、および尿素を0.5 g溶解して均一となるように撹拌してpH0.4の酸性溶液を得た。
この酸性溶液に有機鎖アルコキシシランとしてのメチルトリメトキシシラン10 mlを添加し、撹拌して均一溶液とした。
この均一溶液が入れられた容器に5分間超音波を照射して脱気を行い、ヘリウムガス置換を10分間行った。その後、容器を密閉し、40℃条件下24時間で重縮合させ、pH0.4の湿潤ゲルを得た。
さらに、得られた湿潤ゲルを尿素水溶液で置換し、骨格内に細孔を形成するために、200℃で24時間 pH9.7のアルカリ条件下で水熱処理を行った。
得られたゲルを水およびメタノール水混合液で洗浄後、乾燥、250℃で10時間焼成し、多孔質体を得た。
得られた多孔質体を電子顕微鏡で観察したところ、図18に示すように、ミクロンオーダーの連続細孔が形成された骨格を備えていることがわかった。
また、得られた多孔質体の骨格内の微細孔径を窒素吸着法により測定し、その結果を図19に示した。
図19から、得られた多孔質体は、骨格内にnmオーダーの細孔は形成されていないことがよくわかる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
クロマトグラフィー用分離媒体、血液分離用多孔質体、環境分析用試料濃縮媒体、吸湿剤用多孔質体、消臭等低分子吸着用多孔質体、均一径微粒子を製造する膜乳化法に用いる多孔質膜、あるいは酵素担体および触媒担体用多孔質体等への使用に適している。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施例1で得られた二重細孔多孔質体の走査型電子顕微鏡写真写しである。
【図2】実施例1で得られた二重細孔多孔質体の骨格内の微細孔を窒素吸着法によって測定させた細孔径分布を示す図である。
【図3】実施例2で得られた二重細孔多孔質体の走査型電子顕微鏡写真写しである。
【図4】実施例2で得られた二重細孔多孔質体の骨格内の微細孔を窒素吸着法によって測定させた細孔径分布を示す図である。
【図5】実施例3で得られた二重細孔多孔質体の走査型電子顕微鏡写真写しである。
【図6】実施例3で得られた二重細孔多孔質体の骨格内の微細孔を窒素吸着法によって測定させた細孔径分布を示す図である。
【図7】実施例4において内径50 mm I.Dのフューズドシリカキャピラリーを用いて得られたクロマトグラフィー用カラム断面の走査型電子顕微鏡写真写しである。
【図8】実施例4において内径100 mm I.Dのフューズドシリカキャピラリーを用いて得られたクロマトグラフィー用カラム断面の走査型電子顕微鏡写真写しである。
【図9】実施例4の内径50 mm I.Dのフューズドシリカキャピラリーを用いて得られたクロマトグラフィー用カラムによって順相クロマトグラフィーを行いトルエン、2,6-ジニトロトルエン、1,2-ジニトロベンゼンの試料を分離した結果を示す図である。
【図10】実施例4の内径100 mm I.Dのフューズドシリカキャピラリーを用いて得られたクロマトグラフィー用カラムによって順相クロマトグラフィーを行いトルエン、2,6-ジニトロトルエン、1,2-ジニトロベンゼンの試料を分離した結果を示す図である。
【図11】実施例5で得られた二重細孔多孔質体の走査型電子顕微鏡写真写しである。
【図12】実施例6で得られた二重細孔多孔質体の走査型電子顕微鏡写真写しである。
【図13】実施例6で得られた二重細孔多孔質体の骨格内の微細孔を窒素吸着法によって測定させた細孔径分布を示す図である。
【図14】実施例7で得られたクロマトグラフィー用カラムによって逆相クロマトグラフィーを行い、アルキルベンゼン6種の分離を行なった結果をあらわす図である。
【図15】比較例1で得られたクロマトグラフィー用カラムによって逆相クロマトグラフィーを行い、アルキルベンゼン6種の分離を行なった結果をあらわす図である。
【図16】実施例7で得られたクロマトグラフィー用カラムによって順相クロマトグラフィーを行いトルエン、2,6-ジニトロトルエン、1,2-ジニトロベンゼンの分離を行なった結果をあらわす図である。
【図17】比較例1で得られたクロマトグラフィー用カラムによって順相クロマトグラフィーを行いトルエン、2,6-ジニトロトルエン、1,2-ジニトロベンゼンの分離を行なった結果をあらわす図である。
【図18】比較例3で得られた多孔質体の走査型電子顕微鏡写真写しである。
【図19】比較例3で得られた多孔質体の骨格内の微細孔を窒素吸着法によって測定させた細孔径分布を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC結合部分を分子中に有するシラン重縮合体からなる三次元網目構造の骨格を有し、この骨格内に微細孔を備えていることを特徴とする二重細孔有機鎖無機多孔質体。
【請求項2】
加熱により分解してアルカリ成分を発生するアルカリ発生化合物と、相分離誘起作用を有する有機高分子とを含む酸性溶液中に、有機鎖アルコキシシランを投入して、有機鎖アルコキシシランを加水分解させたのち、加熱してアルカリ発生化合物を分解させながら、有機鎖アルコキシシランを重縮合させて三次元網目構造の骨格を有するゲルを形成するゲル化工程と、
得られたゲルをアルカリ条件下で水熱処理して前記骨格中に微細孔を形成する微細孔形成工程と、を備えていることを特徴とする二重細孔有機鎖無機多孔質体の製造方法。
【請求項3】
酸性溶液のpHが1以上5未満であるとともに、重縮合時のpHが重合前の酸性溶液pH以上である請求項2に記載の二重細孔有機鎖無機多孔質体の製造方法。
【請求項4】
酸性溶液に有機鎖アルコキシシランとともに、相分離誘起作用を有する有機高分子をミセル化する溶媒を投入してゲル化工程を行う請求項2または請求項3に記載の二重細孔有機鎖無機多孔質体の製造方法。
【請求項5】
アルカリ発生化合物が尿素である請求項2〜請求項4のいずれかに記載の二重細孔有機鎖無機多孔質体の製造方法。
【請求項6】
有機鎖アルコキシシランが、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、1,2−ビストリメトキシシリルエタンからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項2〜請求項5のいずれかに記載の二重細孔有機鎖無機多孔質体の製造方法。
【請求項7】
有機高分子が、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体からなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項2〜請求項6のいずれかに記載の二重細孔有機鎖無機多孔質体の製造方法。
【請求項8】
有機高分子をミセル化する溶媒が、トリメチルベンゼンおよびブタノールの少なくともいずれか一方である請求項4〜請求項7のいずれかに記載の二重細孔有機鎖無機多孔質体の製造方法。
【請求項9】
キャピラリー内で請求項2〜請求項8のいずれかに記載の二重細孔有機鎖無機多孔質体の製造方法を用いて、キャピラリー内に二重細孔有機鎖無機多孔質体が充填された状態に形成することを特徴とするクロマトグラフィー用カラムの製造方法。
【請求項1】
SiC結合部分を分子中に有するシラン重縮合体からなる三次元網目構造の骨格を有し、この骨格内に微細孔を備えていることを特徴とする二重細孔有機鎖無機多孔質体。
【請求項2】
加熱により分解してアルカリ成分を発生するアルカリ発生化合物と、相分離誘起作用を有する有機高分子とを含む酸性溶液中に、有機鎖アルコキシシランを投入して、有機鎖アルコキシシランを加水分解させたのち、加熱してアルカリ発生化合物を分解させながら、有機鎖アルコキシシランを重縮合させて三次元網目構造の骨格を有するゲルを形成するゲル化工程と、
得られたゲルをアルカリ条件下で水熱処理して前記骨格中に微細孔を形成する微細孔形成工程と、を備えていることを特徴とする二重細孔有機鎖無機多孔質体の製造方法。
【請求項3】
酸性溶液のpHが1以上5未満であるとともに、重縮合時のpHが重合前の酸性溶液pH以上である請求項2に記載の二重細孔有機鎖無機多孔質体の製造方法。
【請求項4】
酸性溶液に有機鎖アルコキシシランとともに、相分離誘起作用を有する有機高分子をミセル化する溶媒を投入してゲル化工程を行う請求項2または請求項3に記載の二重細孔有機鎖無機多孔質体の製造方法。
【請求項5】
アルカリ発生化合物が尿素である請求項2〜請求項4のいずれかに記載の二重細孔有機鎖無機多孔質体の製造方法。
【請求項6】
有機鎖アルコキシシランが、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、1,2−ビストリメトキシシリルエタンからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項2〜請求項5のいずれかに記載の二重細孔有機鎖無機多孔質体の製造方法。
【請求項7】
有機高分子が、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体からなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項2〜請求項6のいずれかに記載の二重細孔有機鎖無機多孔質体の製造方法。
【請求項8】
有機高分子をミセル化する溶媒が、トリメチルベンゼンおよびブタノールの少なくともいずれか一方である請求項4〜請求項7のいずれかに記載の二重細孔有機鎖無機多孔質体の製造方法。
【請求項9】
キャピラリー内で請求項2〜請求項8のいずれかに記載の二重細孔有機鎖無機多孔質体の製造方法を用いて、キャピラリー内に二重細孔有機鎖無機多孔質体が充填された状態に形成することを特徴とするクロマトグラフィー用カラムの製造方法。
【図2】
【図4】
【図6】
【図9】
【図10】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図19】
【図1】
【図3】
【図5】
【図7】
【図8】
【図11】
【図12】
【図18】
【図4】
【図6】
【図9】
【図10】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図19】
【図1】
【図3】
【図5】
【図7】
【図8】
【図11】
【図12】
【図18】
【公開番号】特開2010−120780(P2010−120780A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293158(P2008−293158)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(505191803)株式会社エマオス京都 (9)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(505191803)株式会社エマオス京都 (9)
【Fターム(参考)】
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