説明

亜硫酸電解用電極およびこれを用いた亜硫酸電解水素製造装置

【課題】 亜硫酸酸化反応に対して高い触媒活性を有し、亜硫酸と硫酸が混在する環境におかれても酸化被膜を生成することなく、長期間安定に電解反応を行える高い耐久性を備えた亜硫酸電解用触媒、およびこの亜硫酸電解用触媒を用いた亜硫酸電解水素製造装置を提供する。
【解決手段】 亜硫酸を電気分解して水素と硫酸を生成する亜硫酸電解用の電極であって、金または金を主成分とする他の貴金属との合金からなることを特徴とする。金または金を主成分とする他の貴金属との合金の微粒子を酸化物材料または炭素製電極の表面に担持させた形態や、金または金を主成分とする他の貴金属との合金の微粒子を高分子電解質膜の表面に担持させた膜電極接合体からなる形態がある。亜硫酸電解水素製造装置は、電解槽内部を陽イオン交換膜により陽極側反応室と陰極側反応室とに区切り、陽イオン交換膜の陽極側および陰極側にそれぞれ陽極および陰極を配設した構造を有し、陽極として金または金を主成分とする他の貴金属との合金からなる亜硫酸電解用電極を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜硫酸(二酸化硫黄の水溶液)の電解による水素製造に際して効果的に使用できる、高い触媒活性と優れた耐久性を備えた亜硫酸電解用電極、およびこの電極を用いた亜硫酸電解水素製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
硫酸の合成と分解反応を組み合わせて電気化学的および熱化学的に水から水素を製造するハイブリッド熱化学法プロセスは、従来から数多くの方法が提案されている。
その一つとして、硫酸(H2SO4)を熱分解して三酸化硫黄(SO3)と水(H2O)を生成する硫酸加熱工程と、三酸化硫黄を二酸化硫黄(SO2)と酸素(O2)に電気分解する三酸化硫黄電解工程と、二酸化硫黄の水溶液からなる亜硫酸を電気分解して水素(H2)と硫酸を生成する亜硫酸電解工程とを組み合わせたハイブリッド熱化学法プロセスによる水素製造方法が知られている。
【0003】
かようなハイブリッド熱化学法プロセスにおいて、実際に水素を生成する亜硫酸電解工程では、電解槽の陽極側に供給した亜硫酸を電気分解することにより陽極側で硫酸が、陰極側で水素がそれぞれ生成される。亜硫酸酸化反応のための陽極側電極材料としては、従来から固体高分子型燃料電池等で高い触媒性能が確認されている白金(Pt)やパラジウム(Pd)が使用され、検討がなされてきた。
しかしながら、白金やパラジウムの場合には、電解反応に伴って表面に酸化被膜が生成し、電解電流が徐々に低下していくことが確認されており、亜硫酸と硫酸が混在する陽極側環境で長期間安定に電解反応を行える高い耐久性をもった電極材料の開発が待たれていた。
【0004】
一方、一酸化炭素(CO)と水とを反応させる水ガスシフト反応を利用した水素製造方法も知られており、この反応に金(Au)を含有する触媒を使用することが提案されている(特許文献1)。
また、炭化水素系燃料またはアルコール系燃料の水蒸気改質により水素を主成分とする改質ガスを製造する方法も知られている。この改質ガスを燃料電池用燃料として使用する場合、改質ガス中に含まれるCOが燃料電池の触媒を被毒および劣化させるため、改質ガス中に含まれるCOを選択的に酸化除去して、CO濃度を低減させる必要があり、そのためのCO酸化触媒として金含有触媒を使用する提案もなされている(特許文献2)。このCO酸化触媒においては、金を粒径10nm以下の超微粒子とした場合に高い触媒活性が認められている。
しかしながら、これらの従来技術で提案さている金含有触媒は、亜硫酸酸化触媒としては触媒活性が乏しいと考えられていたため、亜硫酸酸化反応への適用は試みられていなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2005−521548号公報
【特許文献2】特開平7−48101号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、亜硫酸酸化反応に対して高い触媒活性を有し、亜硫酸と硫酸が混在する環境におかれても酸化被膜を生成することなく、長期間安定に電解反応を行える高い耐久性を備えた亜硫酸電解用触媒を提供すること、さらにはこの亜硫酸電解用触媒を用いた亜硫酸電解水素製造装置を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明による亜硫酸電解用電極は、亜硫酸を電気分解して水素と硫酸を生成する亜硫酸電解用の電極であって、金または金を主成分とする他の貴金属との合金からなることを特徴とするものである。
上記した亜硫酸電解用電極の実施形態としては、金または金を主成分とする他の貴金属との合金の微粒子を酸化物材料または炭素製電極の表面に担持させてなるもの、さらには、金または金を主成分とする他の貴金属との合金の微粒子を高分子電解質膜の表面に担持させた膜電極接合体からなるものが挙げられる。
【0008】
また、本発明による亜硫酸電解水素製造装置は、電解槽内部を陽イオン交換膜により陽極側反応室と陰極側反応室とに区切り、前記陽イオン交換膜の陽極側および陰極側にそれぞれ陽極および陰極を配設した構造を有し、陽極側反応室に供給した亜硫酸を電気分解することにより陽極側反応室で硫酸が、陰極側反応室で水素がそれぞれ生成されるようにした亜硫酸電解水素製造装置において、前記陽極として前記した金または金を主成分とする他の貴金属との合金からなる亜硫酸電解用電極を使用したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、硫酸の合成と分解反応を組み合わせて電気化学的および熱化学的に水から水素を製造するハイブリッド熱化学法プロセスにおいて、亜硫酸を電解して水素と硫酸を生成する亜硫酸電解酸化反応に効果的に使用できる陽極側電極材料を提供することができる。この電極材料を使用することによって、想定される0〜約1.0V(対参照水素電極)の運転電圧範囲において、電極表面に酸化被膜が生じることがなく、その結果、高電解性能かつ高耐久性の亜硫酸電解水素製造装置を構築することが可能となる。
【0010】
また、従来の白金やパラジウム電極の場合よりも、同一電圧で高い電流密度が得られるため、亜硫酸電解水素製造装置で消費される電気エネルギーの低減が可能となり、装置の電解効率を向上させることができる。
さらに、亜硫酸電解水素製造装置における消費電気エネルギーが低減される結果、ハイブリッド熱化学法プロセス全体における消費電気エネルギーが低減でき、プロセス全体の水素製造効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図4は、水素製造方法として採用されるハイブリッド熱化学法プロセスを構成する反応および反応式を示しており、亜硫酸電解反応において本発明の亜硫酸電解用電極を使用することができる。
硫酸加熱工程:
2SO4熱分解反応 H2SO4→SO3+H2O …[1](400℃)
三酸化硫黄電解工程:
SO3電解反応 SO3→SO2+1/2O2 …[2](>500℃)
亜硫酸電解工程:
亜硫酸電解反応 SO2+2H2O→H2SO4+H2…[3](<100℃)
【0012】
図1は、ハイブリッド熱化学法プロセスの装置構成の一例を示している。硫酸加熱装置においては、亜硫酸電解水素製造装置から供給されるH2SO4を約400℃に加熱することで、硫酸熱分解反応[1]にしたがってSO3とH2Oの混合ガスが得られる。
三酸化硫黄電解装置においては、硫酸加熱装置から供給されるSO3とH2Oの混合ガスを約500℃以上で電気分解することで、SO3電解反応[2]にしたがってSO3はSO2とO2に分解され、O2は電解装置から排出される。
亜硫酸電解水素製造装置においては、三酸化硫黄電解装置から供給されるSO2とH2Oの混合ガスと、別途供給される原料としての液体H2Oとを混合して亜硫酸とし、亜硫酸電解反応[3]にしたがって亜硫酸を分解することによりH2SO4とH2が生成される。
【0013】
亜硫酸電解水素製造装置は、図1に示すように、電解槽1内部を「ナフィオン(Nafion)」(デュポン社の商品名)等の陽イオン交換膜2により陽極側反応室と陰極側反応室に区切り、陽イオン交換膜2の陽極側および陰極側にそれぞれ陽極3と陰極4を配設した構造を有しており、電極間に電源装置(図示せず)から電圧を印加する。陽極側反応室では下記反応[4]の電解酸化反応によりH2SO4が生成される。この反応で生成した水素イオン(H+ )は陽イオン交換膜2を通して陰極側へ移行し、、陰極表面で下記反応[5]によりH2ガスとなる。H2SO4は硫酸加熱装置へ循環供給され、H2は製品として陰極側反応室から排出される。
2の陰極側反応室からの排出は、N2のごときパージガス、あるいは陰極側反応室で生成するH2SO4と同程度の濃度の液体硫酸を、パージ流体として陰極側反応室に流すことにより行うことができる。
2SO3+H2O→H2SO4+2H++2e- [4]
2H++2e-→H2 [5]
【0014】
亜硫酸電解水素製造装置の陽極側反応室では、供給される亜硫酸と生成される硫酸が存在するため、亜硫酸と硫酸が混在する環境となる。また、ハイブリッド熱化学法プロセスにおいては、前段の三酸化硫黄電解装置で電解されなかった未分解SO3も亜硫酸電解水素製造装置の陽極側反応室に供給され、このSO3は水に溶解してH2SO4となるため、亜硫酸と硫酸の混在環境となる。なお、亜硫酸電解水素製造装置の陽極側反応室に、製鉄所の高炉排ガスまたは火山ガス等に含まれるSO2ガスを直接供給することもできるが、この場合もSO2ガスの一部がH2Oに溶解して亜硫酸となり陽極での電解酸化反応により硫酸が生成されることになる。
【0015】
本発明においては、亜硫酸電解水素製造装置における陽極として、金(Au)または金を主成分とする他の貴金属との合金からなる電極材料を使用することによって、亜硫酸と硫酸が混在する陽極側環境においても、電解反応に伴って陽極表面に酸化被膜を生成することなく、長期間安定に電解反応を行える高い耐久性をもたらすことが可能となる。
本発明においては、金または金を主成分とする他の貴金属との合金は、微粒子とすることは必須ではなく、一般的な板状、メッシュ状等の電極形状で使用することができる。ただし、表面積が大きくとれるという観点から粒径数μm以下の微粒子として使用することが好ましい。この場合には、微粒子相互の合体による粗大化を防ぐために、他の貴金属類(Pt、Pd、Ru、Rh、Ir等)との合金化、酸化物材料(WO3、Ti2、Co34、Al23、ZrO2等)または炭素製のガス拡散電極の表面への担持等の方法が採用できる。また、微粒子を高分子電解質膜の表面に担持させた膜電極接合体とすることもできる。金と他の貴金属とを合金化する場合、金が合金中の主成分となるが、金の含有率は、陽極表面での酸化被膜の生成を効果的に抑制するために有効な含有率とすればよい。
【0016】
亜硫酸電解水素製造装置の運転温度は常温〜100℃程度までの範囲で行うことができ、金または金を主成分とする他の貴金属との合金からなる電極は、可逆水素電極電位に対して概ね0〜1.0Vの範囲で使用される。
陰極材料としては、従来と同様に白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム等の貴金属材料や炭素系材料が使用できる。
【実験例】
【0017】
図2に示す装置により、Pt、PdおよびAu電極を用いて、亜硫酸と硫酸を含む水溶液中でサイクリック−ボルタメトリー法によって取得した電流−電圧曲線を図3に示す。図2の装置は、作用極と対極と参照極とを備えたフラスコと、各電極間に電圧を印加する電源とからなり、温度制御は熱電対により行えるようになっている。
フラスコ中には4.5質量%亜硫酸と0.1M硫酸を含む水溶液を入れ、対極としてPt−黒、参照極として参照水素電極を使用し、作用極として表面積0.1cm2のPt、PdまたはAu電極を使用した。走査速度100mV/秒、温度20℃、0.3〜1.5V(対参照水素電極)としたときの電流−電圧曲線は図3のようになる。
【0018】
図3からわかるように、PtおよびPd電極では高電圧側に走査した場合には、表面酸化によると考えられる電流密度の低下がみられる。一方、Au電極の場合には、0〜約1.5V(対参照水素電極)までの電圧範囲で電流密度の低下はほとんど見られない。また、同一電圧で比較した場合には、Au電極を使用した場合が最も電流密度が大きい。これらの実験結果から、Au電極は、亜硫酸と硫酸の混合溶液中で高い耐久性をもつと同時に、同一電解電圧で高い電流密度(水素発生量)が得られることから、低電圧損失で高い電気エネルギー利用効率が得られることが確認できた。
【0019】
水素製造方法としてハイブリッド熱化学法プロセスを用いる場合には、電気分解はSO3電解反応[2]と亜硫酸電解反応[3]の2カ所で行われるが、SO3の電気分解は高温で約500℃以上の高温で行われるため、電圧損失は熱として回収可能であるが、亜硫酸の電気分解は100℃以下の低温で行われるため、電圧損失分のエネルギーを回収することができず、プロセス全体のエネルギー利用効率に与える影響が大きい。このため、亜硫酸電解水素製造装置で低電圧損失の電極材料を用いることにより水素製造効率の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ハイブリッド熱化学法プロセスの装置構成の一例、およびそれに組み込まれた亜硫酸電解水素製造装置の実施例を示す説明図である。
【図2】Pt、PdおよびAu電極を用いてサイクリック−ボルタメトリー法により電流−電圧曲線を求めるための実験に使用した実験装置を示す説明図である。
【図3】図2の実験装置を用いて求めたPt、PdおよびAu電極についての電流−電圧曲線を示すグラフである。
【図4】ハイブリッド熱化学法プロセスにおける亜硫酸電解水素製造方法を構成する反応および反応式の説明図である。
【符号の説明】
【0021】
1:電解槽
2:陽イオン交換膜
3:陽極
4:陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜硫酸を電気分解して水素と硫酸を生成する亜硫酸電解用の電極であって、金または金を主成分とする他の貴金属との合金からなることを特徴とする亜硫酸電解用電極。
【請求項2】
金または金を主成分とする他の貴金属との合金の微粒子を、酸化物材料または炭素製電極の表面に担持させてなることを特徴とする請求項1記載の亜硫酸電解用電極。
【請求項3】
金または金を主成分とする他の貴金属との合金の微粒子を、高分子電解質膜の表面に担持させた膜電極接合体からなることを特徴とする請求項1記載の亜硫酸電解用電極。
【請求項4】
電解槽内部を陽イオン交換膜により陽極側反応室と陰極側反応室とに区切り、前記陽イオン交換膜の陽極側および陰極側にそれぞれ陽極および陰極を配設した構造を有し、陽極側反応室に供給した亜硫酸を電気分解することにより陽極側反応室で硫酸が、陰極側反応室で水素がそれぞれ生成されるようにした亜硫酸電解水素製造装置において、前記陽極として請求項1〜3のいずれか1項に記載の金または金を主成分とする他の貴金属との合金からなる亜硫酸電解用電極を使用したことを特徴とする亜硫酸電解水素製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−133491(P2008−133491A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−318446(P2006−318446)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】