説明

亜臨界水処理方法

【課題】 有機物を亜臨界水にて分解する方法において、より温和な条件下に亜臨界水処理を行うことができる方法を提供する。
【解決手段】 本発明の亜臨界水処理方法は、有機物を亜臨界水にて分解する方法において、ガスの存在下に有機物を分解することからなる。特に、被処理原料液に、炭酸塩、亜硫酸塩、亜硝酸塩、尿素などのガス発生物質を添加することが好ましい。本発明の方法によれば、従来法に比べて温和な条件下に亜臨界水処理を行うことができるので、処理装置の簡便化などの効果を奏する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は亜臨界水処理方法に関する。より詳細には、有機物を亜臨界水にて分解する方法において、より温和な条件下に亜臨界水処理を行うことができる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜臨界水処理(又は亜臨界水反応)は、環境への負荷を軽減する化学プロセスとして、有効な手法であることが知られている。上記の亜臨界水処理は、例えば、特許文献1、2などに詳述されるように公知の技術である。より具体的には、水の臨界点(374℃、22MPa)以上の温度・圧力の水は超臨界水、当該臨界点よりやや低い温度・圧力の高圧熱水は亜臨界水と称されている。超臨界水は極めて強力な酸化力を持ち、ダイオキシンなどの難分解性物質や有害な化学物質などを極めて容易に分解し無害なものにできる。しかし、ここまで酸化力が強いと逆に使いづらく、有機物の資源化には適さない。
そこで、超臨界水よりもやや温度と圧力の低い状態(亜臨界)の液体である亜臨界水を利用することが検討された。亜臨界水は超臨界水に比べおだやかな反応性を有するものであるが依然として強力な酸化・加水分解作用をもち、蛋白質や繊維質などの有機物を亜臨界水と接触させることにより分解し、ペプチド、アミノ酸、糖などの有用物質を生産することが試みられている(例えば、特許文献1及び2)。なお、本明細書においては、亜臨界水処理とは亜臨界水に被処理原料(有機物)を接触させて処理(分解)することを意味する。
【0003】
亜臨界水処理による有機物の分解法の具体的な応用例として、食品残渣や汚泥の資源化プロセス、有害な有機塩素化合物の分解処理、有効成分の抽出などが挙げられる。畜産副産物、食品残渣、汚泥など、主として蛋白質や繊維質を含有する材料は加水分解により食品素材や飼料などに利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−268166号公報
【特許文献2】特許第3644842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、亜臨界水処理は極めて有用な方法であるが、種々の問題点を有している。例えば、従来の亜臨界水処理において、特に連続的に処理を行う場合、配管の閉塞防止のため反応物を液状化させる必要があり、高温で亜臨界水処理させる場合が多い。このため高温に昇温する加熱手段(例えばヒーター)や耐熱性・耐腐食性のある配管、高性能な送液ポンプの設置といった大がかりなプラント設計が必要となり、さらに高温で連続運転することからエネルギーコストが高くなる。一般的な亜臨界水処理温度は、蛋白質の分解で230〜280℃、繊維質で250〜300℃であり、反応対象物によってはさらに高い温度で実施することもある。このような高温で処理すると、分解生成物が再度分解を受け、目的とする成分が減少してしまい、目的物の収率が低下する。また、加熱変性により未知の毒性化合物が生成することも考えられる。そのため、より温和な亜臨界水処理条件で、蛋白質、繊維質などで構成される資源を加水分解し得る方法が求められている。
これまでにも反応物に添加物を少量加え、低温でも反応を促進させる方法はあった。例えば蛋白質で構成される資源の液状化を試みる報告として、アルカリを添加する方法がある(土木学会論文集G 62. 427 (2006))。しかし、この方法で反応が十分進行しない場合も多く、中和などの後処理工程も必要になってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記の課題を解決するためになされたもので、本発明者らは鋭意検討したところ、亜臨界水処理に際して、被処理原料を水に溶解又は分散させた液(以下、被処理原料液という)にガスを存在させて亜臨界水処理を行うと、亜臨界水反応が促進され、温和な条件下に亜臨界水処理を行うことができることを見出した。
本発明は係る知見に基づくものであり、本発明の要旨は、有機物を亜臨界水にて分解する方法において、ガスの存在下に有機物を分解することからなる亜臨界水処理方法である。上記の有機物としては、蛋白質及び/又は繊維質を含有する材料が好適に利用される。また、被処理原料液にガスを共存させる手段としては、被処理原料液にガス発生物質を添加する方法が好ましい。更に、当該ガス発生物質としては、炭酸塩、亜硫酸塩、亜硝酸塩及び尿素から選ばれた少なくとも1種を使用するのが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法によれば、ガスの存在により亜臨界水処理を速やかに進行させることができ、有機物を温和な条件下に分解させることができる。より具体的には、蛋白質や繊維質などの有機物は速やかに加水分解されて液状化が進行するので、処理装置の簡便化を図ることができる。また、温和な条件下で亜臨界水処理を行うことができるので、(1)分解生成物の再分解ロスも抑制でき、目的とする低分子成分の収量を向上させることができる;(2)亜臨界水処理物を飼料として用いた場合に消化率の低い凝集沈殿物の生成を防止することができ、飼料の消化率の向上や苦味の低減といった性状改善を期待できる。特に、ガス発生物質としての炭酸水素ナトリウムは食品や飼料製造において使用可能なため、極めて有効な添加物である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の亜臨界水処理方法は、有機物を亜臨界水にて分解する方法において、ガスの存在下に有機物を分解することからなる方法である。
本発明において、亜臨界水処理により分解される有機物としては、亜臨界水処理により有用物質を産生できる素材であれば特に限定されないが、好ましくは蛋白質及び/又は繊維質を含有する材料が挙げられる。
蛋白質を含有する材料(以下、蛋白質含有原料という)としては、例えば、家畜(例えば、豚、兎、羊、牛など)、家禽(例えば、鶏、七面鳥、うずらなど)や魚類の血液、組織や臓器(例えば、内臓、筋肉、皮、毛など)、食品製造副生物(例えば、ビール粕、酒粕、しょう油粕など)、汚泥、残飯などが例示され、複数種を併用してもよい。好適には、家畜又は家禽に由来する血液、筋肉、内臓が使用される。
また、繊維質を含有する材料(以下、繊維質含有原料という)としては、野菜、海藻などが例示される。
本発明の方法は、特に畜産副産物、食品製造副生物、汚泥、残飯など、主として蛋白質、繊維質で構成される廃棄資源の有効利用を図ることができる。
【0009】
前述のように、亜臨界水処理方法は既に公知の方法であり、当該亜臨界水処理は連続式であってもバッチ式であってもよい。被処理原料(即ち有機物)は、当該原料が固体の場合には適当な粉砕手段で0.5〜1mm程度に粉砕した後に亜臨界水処理するのが好ましい。
連続式亜臨界水処理の一例を示すと、連続式亜臨界水処理装置は主に高圧ポンプ、プレヒーター及び反応容器から構成され、反応器は横型であっても縦型であっても良い。被処理原料液は、被処理原料の濃度が8〜35%(重量%、以下同様)になるように、必要に応じて加水又は濃縮されたものが使用される。均質化された被処理原料液は高圧ポンプで送液され、プレヒーターで反応温度まで昇温され、反応器内で設定温度・圧力下で所定の時間滞留させる。なお、一般に滞留時間を反応時間としている。反応後の反応液は冷却水タンクに通すことで100℃以下に冷却し、冷却された液は背圧弁を通過させて常圧に戻した後、反応液を回収する。
【0010】
次に、バッチ式亜臨界水処理の一例を示すと、バッチ式亜臨界水処理装置は主に加熱器付反応器からなる装置である。被処理原料液は、被処理原料濃度が8〜35%になるように、必要に応じて加水又は濃縮されたものが使用される。均質化された被処理原料液をポンプで反応器に送液した後、反応器を密閉した。反応器に併設された加熱器で反応温度まで昇温させ、設定温度、成り行き圧力下で所定の時間滞留させる。なお、一般に滞留時間を反応時間としている。反応後は反応液温度が100℃以下、圧力が常圧になるのを確認後、反応液を回収する。
【0011】
本発明の特徴は、ガスの存在下に亜臨界水処理を行い、有機物(例えば蛋白質や繊維質)を分解することにある。
ガスの存在下での亜臨界水処理は種々の方法で行うことができる。例えば、被処理原料液にガス発生物質を添加しておく方法が挙げられる。当該ガス発生物質は加熱されるとガスを発生させるような物質であり、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムなどの炭酸塩、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムなどの亜硫酸塩、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウムなどの亜硝酸塩、尿素などが例示され、これらの物質は2種以上を併用してもよい。また、ガス発生物質を使用する方法と他の方法とを併用してもよい。
ガス発生物質の添加量は被処理原料の種類、処理条件などにより適宜調整することができるが、一般に被処理原料液に0.1〜5%(w/v%、以下同様)、好ましくは0.5〜3%、より好ましくは0.8〜1.5%程度添加される。
【0012】
また、加圧封入やマイクロ・ナノバブルによる溶解などにより被処理原料液に直接ガスを封入、溶解させて亜臨界水処理させてもよい。更に、ドライアイスなど気化しやすい物質を被処理原料液に混合させながら亜臨界水処理させてもよいし、装置上で気液混合させながら亜臨界水処理させてもよい。これらの方法は複合して実施してもよい。
上述した被処理原料液にガスを包含させる手段において、ガス発生物質を添加する方法は安価であるとともに簡易且つ確実に実施できるため特に有効である。
【0013】
亜臨界水処理条件としては、一般に、被処理原料が蛋白質含有原料の場合には230〜280℃、1.9〜5.9MPa程度の条件が採用されて(前掲の特許文献2の段落番号16参照)、また被処理原料が繊維質含有原料の場合には更に過酷な条件が採用される。しかし、本発明においては、前述のように、被処理原料液にガスを共存させることにより、従来法より温和な条件下に亜臨界水処理を行うことができる。
【0014】
より具体的には、ガス発生物質を使用した場合、適応できる反応条件としては、被処理原料が蛋白質含有原料のときは、被処理原料液にガス発生物質を濃度3%以下、より好ましくは1%以下で添加し、温度160〜250℃、好ましくは160〜180℃の条件下、また被処理原料が繊維質含有原料のときは、被処理原料液にガス発生物質を濃度5%以下、好ましくは1%以下で添加し、温度220〜350℃、好ましくは200〜250℃で亜臨界水処理を行うことができる。
【0015】
更に、好ましい原料である豚血液及び鶏血液について好ましい条件を挙げると、豚血液については、被処理原料液中の炭酸水素ナトリウム濃度0.5〜1.0%、反応温度160〜170℃の条件で、また鶏血液については、被処理原料液中の炭酸水素ナトリウム濃度0.8〜1.0%、反応温度190〜200℃で亜臨界水処理を行うのが好ましい。
【0016】
かくして亜臨界水処理された液(亜臨界水処理液)は、油分が存在する場合にはデカンテーションなどの慣用の手段で分離し、また固形分が存在する場合には濾過、遠心分離などの慣用の手段で分離した後、そのまま液状で又は加熱乾燥し粉末化して利用される。
加熱乾燥手段は特に限定されず、液体を加熱乾燥して粉末化できるものであれば何れの手段も使用できるが、簡便であることから、ドラムドライヤー、スプレードライヤーが好適に使用される。ドラムドライヤーはシングルドラムドライヤーでもよいが、濃縮効率の点からダブルドラムドライヤー又はコンパクトディスクドライヤー(CDドライヤー)が好適に使用される。係る加熱乾燥手段による加熱乾燥は常法に準じて行うことができる。
かくして乾燥された亜臨界水処理物は、必要に応じて慣用の粉砕機などで粉末化した後、必要に応じて、顆粒状、粒状などの適当な剤形に成形してもよい。
【0017】
本発明の方法で得られた亜臨界水処理物は、被処理原料が蛋白質含有原料の場合にはアミノ酸やペプチドなどを主成分とし、また被処理原料が繊維質含有原料の場合には単糖やオリゴ糖などを主成分するもので、必要に応じてイオン交換樹脂、ゲル濾過のような慣用の分離手段を用いることにより、アミノ酸、ペプチド、単糖、オリゴ糖などを分離・精製してもよい。
本発明の方法で得られた亜臨界水処理物は食品素材、飼料などとして利用することができ、例えば亜臨界水処理物をそのまま又は他の飼料と混合して、家畜(例えば、豚、鶏、兎、羊、牛など)の飼料として好適に利用される。
【実施例】
【0018】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0019】
実施例1
ステンレス管(直径16mm、長さ150mm)に豚血液、又はガス発生物質としてNaHCO3を1%添加した豚血液を20g入れ、空隙部の空気をアルゴンガスで置換して密閉した。これを150〜190℃のシリコンオイルバスに10分間浸漬して亜臨界水処理した。なお、管の内圧は処理温度150℃で約0.48MPa、処理温度160℃で約0.62MPa、処理温度170℃で約0.79MPa、処理温度180℃で約1.00MPa、処理温度190℃で約1.26MPaである。反応後すぐ水浴に1分間浸漬し冷却し、反応物をメッシュ(メッシュサイズ;20μm)にかけて凝集物を除去し、メッシュを通過した懸濁液を容器に取り、重量測定と水分測定から固形分回収率(%)を求めた。なお、固形分回収率(%)は下記式に基づいて求めた。
固形分回収率(%)=懸濁液中の固形分重量/反応前血液の固形分重量×100
その結果を表1に示した。表1に示されるように、NaHCO3を1%添加することで固形分の回収率が増加した。
【0020】
【表1】

【0021】
更に反応前の豚血液、無添加豚血液190℃処理物、1% NaHCO3添加豚血液170℃処理物の分子量測定を実施した。固形分を0.5%に調整したサンプルをエタノール沈殿して色素除去した後、superdexTM
peptideカラム(排除限界分子量20,000)にかけて220 nmの吸光度を検出し、得られたピークの平均分子量を算出した。その結果を以下に示す。
反応前の豚血液の平均分子量:18,294
無添加豚血液190℃処理物の平均分子量:6,246
1% NaHCO3添加豚血液170℃処理物の平均分子量:7,991
上記の結果に示されるように、無添加豚血液190℃処理物と1% NaHCO3添加豚血液170℃処理物の平均分子量はほぼ同等であり、NaHCO3を添加することにより処理温度を低下させ得ることが明らかとなった。
【0022】
実施例2
ステンレス管(直径16mm、長さ150mm)に鶏血液、5
N-水酸化ナトリウム水溶液1%添加鶏血液、又はガス発生物質(NaHCO3、 KHCO3、Na2CO3、Na2SO3、NaNO2、NaN3又はNH2CONH2)1%添加鶏血液を20g入れ、空隙部の空気をアルゴンガスで置換して密閉した。これを180℃のシリコンオイルバスに10分間浸漬して亜臨界水処理し、反応後すぐ水浴に1分間浸漬し冷却した。反応物をメッシュ(メッシュサイズ;20μm)にかけて凝集物を除去し、メッシュを通過した懸濁液を容器に取り、重量測定した。その結果を表2に示す。
表2に示されるように、鶏血液のみ又は5 N-水酸化ナトリウム水溶液1%添加鶏血液ではほとんど懸濁液化せず水ごと凝集物化したが、ガス発生物質1%添加鶏血液ではほとんどが懸濁液化し、加水分解が進行した。このように、鶏血液単独や水酸化ナトリウム添加鶏血液では亜臨界水処理を行うことは困難であるが、ガス発生物質が存在すると亜臨界水処理を容易に行うことができる。
【0023】
【表2】

【0024】
実施例3
ステンレス管(直径16mm、長さ150mm)に鶏血液又は、0.5〜1.0% NaHCO3添加鶏血液を20g入れ、空隙部の空気をアルゴンガスで置換して密閉した。これを180℃のシリコンオイルバスに10分間浸漬して亜臨界水処理し、反応後すぐ水浴に1分間浸漬し冷却した。反応物をメッシュ(メッシュサイズ; 20μm)にかけて凝集物を除去し、メッシュを通過した懸濁液を容器に取り、重量測定した。その結果を表3に示す。
表3に示されるように、NaHCO3の添加量が増加するにつれて懸濁液及び固形分の回収率が増加した。
【0025】
【表3】

【0026】
実施例4
ステンレス管(直径16mm、長さ150mm)に豚血液、又は1%
NaHCO3添加豚血液を20g入れ、空隙部の空気をアルゴンガスで置換して密閉した。これを180℃のシリコンオイルバスに10分間浸漬して亜臨界水処理し、反応後すぐ水浴に1分間浸漬し冷却した。反応液を回収して乾燥し、この反応乾燥物の総窒素量及び加水分解態アミノ酸量を常法に準じて測定した。その結果、加水分解態アミノ酸量/総窒素量の比が無添加豚血液では0.849であったのに対し、1% NaHCO3添加豚血液では0.916であった。このことから分解して生成されたアミノ酸の再分解が抑制されていることが示唆された。
【0027】
実施例5
トウモロコシ-大麦発酵残渣(水分71.6%)、又は1% NaHCO3添加トウモロコシ-大麦発酵残渣をステンレス管(φ16×150 mm)に20g入れ、空隙部の空気をアルゴンガスで置換し密閉した。これを200℃のシリコンオイルバスに10分間浸漬して亜臨界水処理し、反応後すぐ水浴に1分間浸漬し冷却した。反応液を回収して乾燥し、粗蛋白質及び粗繊維質の消化率を測定した。その結果、1%NaHCO3添加トウモロコシ-大麦発酵残渣の亜臨界水処理物の消化率は95%であり、無添加のトウモロコシ-大麦発酵残渣亜臨界水処理物の消化率は80%であった。このことからガス発生物質の添加は消化率の向上にも有効であることが示唆された。
なお、粗繊維質消化率及び白質消化率の測定はBoisenらの方法(Animal Food Science Technology 68 277-286 1997.)に従った。要約すると、乾燥物サンプルにリン酸緩衝液を加え、塩酸や水酸化ナトリウム水溶液でpHを調整し、ペプシンで2時間、続いてパンクレアチンで4時間、多糖分解酵素混合物で18時間処理した後、不消化物を濾過して分離した。不消化物を550℃、2時間で灰化して減少した重量を測定し、in vitro消化率を計算した。計算式は下記の通りである。また、あらかじめ乾燥物サンプルの灰分についても上記と同様の灰化方法で測定した。
消化率(%)=100−乾燥物サンプル灰分(%)−(灰化による不消化物の減少量/乾燥物サンプル供試量)×100
【0028】
実施例6
めかぶ残渣(水分92.7%)、又は1% NaHCO3添加めかぶ残渣をステンレス管(直径16mm、長さ150mm)に20g入れ、空隙部の空気をアルゴンガスで置換し密閉した。これを250℃のシリコンオイルバスに10分間浸漬して亜臨界水処理し、反応後すぐ水浴に1分間浸漬し冷却した。処理液を回収して乾燥し、粗繊維質を測定した。その結果、1% NaHCO3添加めかぶ残渣の亜臨界水処理物の粗繊維質は50%であり、無添加のめかぶ残渣亜臨界水処理物の粗繊維質は75%であった。これは粗繊維質が分解して低分子化したことを示唆している。なお、粗繊維質の測定はフィルターバッグ法により行った。
【0029】
実施例7
ステンレス管(直径16mm、長さ150mm)に鶏肝粉砕物、又は1%
NaHCO3添加鶏肝粉砕物を20g入れ、空隙部の空気をアルゴンガスで置換し密閉した。これを180℃のシリコンオイルバスに10分間浸漬して亜臨界水処理し、反応後すぐ水浴に1分間浸漬し冷却した。反応物をメッシュ(メッシュサイズ;20μm)にかけて凝集物を除去し、メッシュを通過した懸濁液の固形分を前述のように測定した。その結果、鶏肝粉砕物のみでは固形分の回収率が56.6%であったが、1% NaHCO3添加鶏肝粉砕物では97.0%であった。また、1% NaHCO3添加鶏肝粉砕物の懸濁液は過熱による苦味が低減されていた。このことからガス発生物質の添加は蛋白質素材のエキスの製造に有効であることが示唆された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物を亜臨界水にて分解する方法において、ガスの存在下に有機物を分解することを特徴とする亜臨界水処理方法。
【請求項2】
有機物が蛋白質含有材料及び/又は繊維質含有材料である請求項1記載の亜臨界水処理方法。
【請求項3】
被処理原料液に、ガス発生物質を添加する請求項1又は2記載の亜臨界水処理方法。
【請求項4】
ガス発生物質が、炭酸塩、亜硫酸塩、亜硝酸塩及び尿素から選ばれた少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載の亜臨界水処理方法。

【公開番号】特開2010−158613(P2010−158613A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−1598(P2009−1598)
【出願日】平成21年1月7日(2009.1.7)
【出願人】(000229519)日本ハム株式会社 (57)
【Fターム(参考)】