説明

亜鉛合金流電陽極およびその亜鉛合金流電陽極を用いて高温環境下に置かれた設備を流電防食する方法

【課題】亜鉛合金流電陽極およびその亜鉛合金流電陽極を用いて高温環境、特に50℃以上の高温海水環境に置かれた設備を流電防食する方法を提供する。
【解決手段】Al:0.03〜0.5質量%、Sn:0.0005〜0.02質量%未満を含有し、残部がZnおよび不可避不純物からなる組成を有する亜鉛合金流電陽極、並びにこの亜鉛合金流電陽極を用いて50℃以上の高温環境下に置かれた設備を電気防食する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、亜鉛合金流電陽極およびその亜鉛合金流電陽極を用いて高温環境、特に50℃以上の高温海水環境に置かれた設備を流電防食する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、常温海水環境下で流電防食する時に使用される亜鉛合金流電陽極としてMIL規格(US Mil Spec.A18001J)やASTM規格(ASTMB418−88 Type I)が推奨され用いられていた。この亜鉛合金流電陽極は流電陽極として優れた性能を有しているが、この亜鉛合金流電陽極は有害物質であると考えられているCd:0.025〜0.07質量%を含有するために、近年、Cdを含まない亜鉛合金流電陽極が求められるようになってきた。かかるCdを含まない亜鉛合金流電陽極の一例として、Al:0.01〜0.4質量%、Sn:0.02〜0.2質量%未満を含有し、残部がZnおよび0.01質量%以下の不可避不純物からなる組成を有する亜鉛合金流電陽極が知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特公昭51−11016号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記従来のCdを含まない亜鉛合金流電陽極は常温において優れた流電防食作用を奏するものであるが、50℃以上の高温環境、特に50℃以上の海水中において粒界腐食を起こし、有効電気量が早期に低下するという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、本発明者らは、これらの課題を解決すべく研究を行った結果、前記従来のCdを含まない亜鉛合金流電陽極において、Sn含有量を低減させてSn含有量を0.0005〜0.02質量%未満に限定した亜鉛合金流電陽極は、50℃以上の高温環境、特に50℃以上の海水中において粒界腐食を起こし難くなり、有効電気量が早期に低下することはない、という研究結果が得られたのである。
【0005】
この発明は、かかる研究結果に基づいてなされたものであって、
(1)Al:0.03〜0.5質量%、Sn:0.0005〜0.02質量%未満を含有し、残部がZnおよび不可避不純物からなる組成を有する亜鉛合金流電陽極、
(2)亜鉛合金流電陽極を用いて50℃以上の高温環境下に置かれた設備を電気防食する方法において、亜鉛合金流電陽極としてAl:0.03〜0.5質量%、Sn:0.0005〜0.02質量%未満を含有し、残部がZnおよび不可避不純物からなる組成を有する亜鉛合金流電陽極を用いる高温環境下に置かれた設備の流電防食方法、に特徴を有するものである。
【0006】
この発明の亜鉛合金流電陽極の成分組成を前述の如く限定した理由を説明する。Al:
Alは高純度亜鉛地金に合金化させることで、流電陽極性能(陽極電位、有効電気量、溶解状態)を向上させる作用があり、さらに不可避不純物として含まれるFeの悪影響を抑制し、腐食生成物を軟化させる作用があるが、その含有量が0.03質量%未満では十分な効果が得られず、一方、0.5質量%を越えて添加すると、有効電気量の低下が顕著になるので好ましくない。したがって、この発明の亜鉛合金流電陽極に含まれるAlの含有量を0.03〜0.5質量%に定めた。一般的な製造設備で生産し、かつ安定した高性能品を得るにはAl:0.1〜0.3質量%の範囲内にあることが好ましいので、一層好ましい範囲はAl:0.1〜0.3質量%に定めた。
【0007】
Sn:
Snは不純物が低濃度である高純度亜鉛およびZn−Al合金に対して、極微量の添加で流電陽極性能(陽極電位、有効電気量)を向上させる作用があるが、その含有量が0.0005質量%未満では所望の効果が得られないので好ましくなく、一方、0.02質量%以上添加すると、高温環境下において粒界腐食が進行し、短期間で有効電気量が低下するので好ましくない。したがって、この発明の亜鉛合金流電陽極に含まれるSnの含有量を0.0005〜0.02質量%未満に定めた。一層好ましい範囲は、0.001〜0.01質量%である。
【発明の効果】
【0008】
この発明の亜鉛合金流電陽極は、高温環境、特に50℃以上の高温海水環境に置かれた設備を流電防食する際に、粒界腐食速度が小さいところから、長期間有効電気量が低下することがないと言う優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
JIS H 2107に規定される高純度亜鉛地金を黒鉛ルツボにて溶解し、これに所定量のAlおよびSnを添加して表1に示す成分組成の亜鉛合金溶湯を作製し、これら亜鉛合金溶湯を鋳造して直径:15mmの丸棒テストピースからなる本発明亜鉛合金流電陽極1〜13、比較亜鉛合金流電陽極1〜3および従来亜鉛合金流電陽極1を作製した。これら本発明亜鉛合金流電陽極1〜13、比較亜鉛合金流電陽極1〜3および従来亜鉛合金流電陽極1を80℃および50℃の人工海水中にそれぞれ浸漬し、陽極電流密度:1mA/cmの通電条件で30日間流電陽極試験を行い、陽極電位と有効電気量を求め、その結果を表1に示した。
【0010】
【表1】

【0011】
表1に示される結果から、本発明亜鉛合金流電陽極1〜13を使用して流電防食を行うと、30日経過しても有効電気量がいずれも800A・h/kg以上有するに対し、従来亜鉛合金流電陽極1を使用して30日間流電防食を行うと有効電気量がいずれも800A・h/kg未満となり、有効電気量が低下することが分かる。また、この発明の条件から外れた組成を有する比較亜鉛合金流電陽極1〜3も800A・h/kg未満となり、有効電気量が低下することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al:0.03〜0.5質量%、Sn:0.0005〜0.02質量%未満を含有し、残部がZnおよび不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする亜鉛合金流電陽極。
【請求項2】
亜鉛合金流電陽極を用いて50℃以上の高温環境下に置かれた設備を電気防食する方法において、亜鉛合金流電陽極としてAl:0.03〜0.5質量%、Sn:0.0005〜0.02質量%未満を含有し、残部がZnおよび不可避不純物からなる組成を有する亜鉛合金流電陽極を用いることを特徴とする高温環境下に置かれた設備の流電防食方法。