説明

交差損失を減少させた光導波装置

【課題】複数の光導波路と、2本の導波路がある角度で交差する1つまたは複数の交差領域を含む、改良された平面導波路デバイスを提供すること。
【解決手段】本発明によれば、交差によって生じる損失および漏話を、交差領域にわたって導波路をセグメント分割することによって減少させる。有利には、セグメントはまた、(交差から離れた導波路の伝送領域と比べて)幅を広くし、導波路の縦軸に対してずらして配置される。セグメントが交差する領域では、各セグメントは合体して、セグメント交差の外周に対応する形をした複雑なセグメントになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集積光導波路デバイスなどの光導波装置に関し、詳細には、損失を減少させた導波路交差部を含む光導波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ通信チャネルが金属ケーブルおよびマイクロ波伝送リンクに取って代ることが増えるにつれて、集積光導波路デバイスの形をとる光導波装置がますますその重要性を増してきている。そうしたデバイスは一般に、Sなどのクラッドベース層(cladding base layer)、ベース上のパターンを形成する薄いコア層、およびパターンを形成するコア上の上部クラッド層を備える、シリコンなどの基板を含む。導波特性を提供するために、コアはクラッド層よりも高い屈折率をもち、コア層は、ビーム分割、タッピング、多重化、逆多重化、フィルタリングなどの多種多様な光処理機能のいずれか1つを実行するように、フォトリソグラフィック技法によって構成される。
【0003】
より速い伝送速度が出現し、また波長分割多重化のレベルが上がるのに伴い、より多数の光入力で動作するより高密度に処理デバイスを集積した導波装置を提供することが望ましくなった。そのような装置をコンパクトに設計するには、1つの導波ビームが別のビームと交わる導波路の「交差」を必要とする。一般に導波路コア領域は、物理的に異なる平面上で交差せず、同じ共面領域を通過する。
【0004】
導波路の交差に伴う困難は、交差部では、各通路からの光が他の通路に入り込むために、散乱および漏話による光の損失が生じることである。交差導波路は交差部において非対称屈折率プロフィールを示す。このプロフィールは光導波モードを乱し、より高い次数の光モードを生じさせる。交差領域は階段的(abrupt)(非断熱的)なので、非導波モードを生じさせ、結果として漏話や光出力の損失を招くことになる。これらの問題は、導波路の比屈折率差δが増加するにつれて悪化する。
【0005】
従来技術を示す図1Aには、領域12上の共通コア層において角θで交差する1対の光導波路コア10、11を含む従来の交差部が概略的に示されている。導波路コア10、11は、周囲のクラッド層の屈折率nよりも高い屈折率nをもつ。高密度装置の場合、交差部は一般に角θ<5°よりも小さな角度で交差し、コアはクラッドに対して高い比屈折率差、すなわち、高いデルタ=(n−n)/nの値を示す。しかし、屈折率差が低くても、伝播する光のモードは交差領域によって乱され、光出力の損失および漏話の原因となる非導波モードを生じさせる。
【0006】
図1Bは、デルタ(δ)=4%(曲線1)とデルタ=0.8%(曲線2)の一般的な従来の交差部について、光出力の損失を交差角θの関数として示したグラフである。交差角が小さくなるにつれて損失が急速に増加することが明らかである。
【0007】
導波路交差部における損失を減少させるための多くの技法が提案された。1つの手法は、導波層を末広がりにして、その幅を交差領域に近づくにつれて広くするというものである(K. Aretz他、「Reduction of crosstalk and losses of intersecting waveguide」、25 Electronics Letters、No.11(1989年5月25日)、およびH.G. Bukkens他、「Minimization of the Loss of Intersecting Waveguides in InP-Based Photonic Integrated Circuits」、IEEE Photonics Technology Letters、No.11(1999年11月)参照)。したがって、光ビームのサイズが交差部において広がり、そのことが交差部の他方の側で光モードを導波路によりよく合致させる。6°より大きな角度について、30dBを超える低漏話、および低損失が達成された。しかし、この技法では、非常に長いテーパ長(>1mm)を必要とし、ある種の用途にとっては非実用的である。またこの技法は、デルタが大きな導波路交差では有効でない。
【0008】
同様の手法が、1990年10月9日に公開されたHernandez他の米国特許第4961619号によって提案されている。導波路の幅を交差接合部で広め、または狭めて、その領域における光モードの特性を変更する。これによって、横方向の屈折率分布に軸変動が導入され、交差部での電界のよりよいアラインメントが可能となる。この方法はまた、5°未満の小さな角度に対しても使用することができる。しかし、この方法は、光モードを断熱的に(adiabatically)拡張させるのに広いテーパ領域を必要とするので、デルタが大きな導波路にはあまり適していない。
【0009】
ニシモトによる第3の手法(1992年10月20日に公開された米国特許第第5157756号)では、交差領域の屈折率には、交差部の中央で導波路材料のアイランドを取り囲む低屈折率の周辺領域が含まれる。Lemoff他も参照されたい。この技法は交差角が小さい場合は損失を減少させることができる。しかし、ハイステップ(high step)の比屈折率差の導波路では有効でなく、損失はより高くなると予想される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】K. Aretz他、「Reduction of crosstalk and losses of intersecting waveguide」、25 Electronics Letters、No.11(1989年5月25日)
【非特許文献2】H.G. Bukkens他、「Minimization of the Loss of Intersecting Waveguides in InP-Based Photonic Integrated Circuits」、IEEE Photonics Technology Letters、No.11(1999年11月)
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第4961619号
【特許文献2】米国特許第5157756号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、導波路交差部での損失を減少させた光導波装置が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、複数の光導波路と、2本の導波路がある角度で交差する1つまたは複数の交差領域を含む改良型の平面導波路デバイスである。本発明によれば、交差によって生じる損失および漏話を、交差領域にわたって導波路をセグメント分割することによって減少させる。有利には、セグメントはまた、(交差から離れた導波路の伝送領域と比べて)幅を広くし、導波路の縦軸に対してずらして配置される。セグメントが交差する領域では、各セグメントは合体して、セグメント交差の外周に対応する形をした複雑なセグメントになる。
【0014】
本発明の利点、本質、および様々な付加的な特徴は、添付の図面と関連させて詳細に説明される例示の実施形態を考察することによりより十分に明らかとなるであろう。これらの図面は本発明の概念を説明するためのものであること、またグラフを除き、原寸に比例していないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】従来の導波路交差部の概略図である。
【図1B】図1Aによる2つの代表的な交差部について交差角の関数としてシミュレートされた損失を示すグラフの図である。
【図2A】本発明による導波路交差部を設計する際に有用な概略図である。
【図2B】本発明による導波路交差部を含む例示的な光導波装置を示す概略図である。
【図2C】図2のデバイスの導波路22に沿った概略断面図である。
【図3】図2Bの交差部を始めとする複数の交差部について交差角の関数としてシミュレートされた損失を示すグラフの図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
従来技術についての図である図1Aおよび図1Bは、背景技術において説明した。
本発明による導波路交差部を設計する際に有用な図である図2Aには、例示的な導波路交差領域21を含む光導波路装置20が示されている。本質的に交差領域21は、角θで交差する1対の共面(CO−Planar)光導波路22、23を含む。各光導波路22、23は、導波路が交差領域21において共用する複数のセグメント22B、23Bを含むコア部を含む。有利には、各導波路22、23は、交差領域に近づくにつれ幅を断熱的に逓増させ、交差領域から遠ざかるにつれ幅を断熱的に逓減させる。例えば、導波路22は、交差領域21に近づくにつれ幅を広げる連続的な入力コア部22Aと、領域21内の複数のセグメント22Bと、領域21から遠ざかるにつれ幅を狭める連続的なコア部22Cを含む通路を提供する。導波路23も、同じように説明される同様のコア部を有する。好ましくは、各導波路において、セグメントは連続的入力部22A、23Aの軸から横方向にずらして配置される。
【0017】
図2Aは、導波路コア22、23が別個の層にある交差に対しては可能であるが、コア22、23を同一平面とする交差に対しては適用できない。図2Aから容易に分るように、共面コアを有する装置においては、セグメント22B、23Bは合体して、セグメント交差部の外周に対応する形をした複雑な共通セグメントになる。本発明によれば、交差部はそのような複雑な共通セグメントを含む交差部を含む。
【0018】
図2Bには、本発明による交差部を含む例示的な光装置が示されている。この図では、共面導波コア22、23が、交差領域21を通過している。各導波路は、連続的な(交差領域と比べて長い)入力部、例えば、22Aと、複雑な共通セグメント25と、連続的な出力部、例えば、22Cを含む。導波路は共に、同じ複雑な共通セグメント25を有し、複雑な共通セグメントは、図2Aと関連させて説明したように、合体セグメントの外周に対応する形をしている。図2Bの装置は有利には、図2Aと関連させて説明した、テーパ(幅の逓増または逓減)およびずれも含んでいる。
【0019】
図2Cは、図2Bのデバイスの直線A−A’に沿った概略断面図である。この図は、シリカなどの第1のクラッド層27を支持するシリコンなどの基板26を装置が含むことを示している。コア層22、23は一般に、屈折率をより大きくするためにドーパントを添加したシリカ領域であり、パターンを形成したコアの上には第2のクラッド層28を置くことができる。
【0020】
交差角θは、導波路22と23の縦軸の間の鋭角である。本発明は、一般に35〜3°、好ましくは25〜5°の範囲のθをもつ交差に対して適用することができる。交差領域から離れた伝送領域内の一般的な導波路の幅と比べて、交差領域内の導波路は、一般に0〜30%、好ましくは9〜11%だけ幅が広くなっている。交差領域は一般に、3〜5個の共通セグメントが合体した合体セグメントを含む。各セグメントは、縦軸方向の大きさが4〜8マイクロメートルの範囲にあり、セグメントは互いに、1.2から1.4マイクロメートルだけ間隔を置いて配置される。本発明の有利な一実施形態では、セグメント分割された部分は、入力コア部と出力コア部の両方から横方向にずらして配置される。最適なずれは角θによって異なる。一般的な交差部の場合、ずれは、約0.1マイクロメートルより小さな値から1.0マイクロメートルより大きな値にわたることができ、θ=20°での有利なずれは0.3マイクロメートル、θ=5°では0.7マイクロメートルである。図2の実施形態では、セグメント分割された部分25Bは、入力部23Aに対して(左方向に)、また入力部22Aに対して(右方向に)ずらして配置されている。
【0021】
本発明は、0.8〜10の範囲のデルタを有する導波路の交差にとって有用である。本発明は、2〜6の範囲の高いデルタを有する交差にとって特に有利である。上で説明した交差では、交差導波路のセグメントの重なりによって、光出力を出力導波路の方向に導波する屈折率パターンが生成される。セグメント分割された部分は、交差領域21内で光ビームを拡張させる。さらに、セグメント分割された領域内で光モードを合致させるために、断熱的な(好ましくは指数関数的な)テーパによってビームはわずかに拡張される。セグメントの横方向のずれによって、導波路交差領域21でのモード結合(mode coupling)が改善される。
以下の具体的な例を考察することによって、本発明をより明瞭に理解できるようになるであろう。
【0022】
図3には、市販のBPVソフトウェアを用いたシミュレーション結果が示されている。これらの結果は、導波路の比屈折率差であるデルタを4%(円)および0.8%(四角)として取得したものである。デルタを同じ数値として、従来の交差部から取得したデータが点線で示されている。0.8%の導波路の場合、テーパ(幅の逓増または逓減)の開始幅は4.5μm、高さは6.4μmである。終了幅は交差角によって異なり、4から5μmとすることができる。(テーパを含む)交差領域の全長は120μmである。導波路のずれは角度毎に適合させる。この数値が示すように、従来の交差部と比べて、小さい交差角で損失の著しい減少を達成することができる。セグメントを用いない場合、標準的なデルタの導波路(0.8%)における損失は、30°で約0.08dBである。この値は、交差角を5°とより小さくした場合、1dBまで増加し、許容可能な損失としては高すぎる値となる。本発明の新しい技法を用いた場合、この値は、交差角5°で0.4dBまで減少し、結果は広い角度の範囲にわたってほぼ一定である。
【0023】
デルタが4%の導波路の場合、寸法は2.7×2.7μmである。テーパの全長(final length)は70〜120μmにわたる。導波路のずれおよび終了幅は、先と同様に交差角に基づいて適合させる。交差部でセグメント分割を用いることで、20°で0.15dBから0.13dBに、5°で約16dBから0.1dBに損失を減少させることができる。約16dBの値は、主に導波路の交差に伴う漏話による。これらの結果は、小さな角度の交差にとって非常に有望なものであり、このことによって、1チップ上の光デバイスの数が増加するであろう。
【0024】
上で説明した実施形態は、多くの可能な具体的な実施形態のうち、本発明の適用例を代表することができる2、3の実施形態を説明するものにすぎないことが理解されよう。当業者であれば、本発明の主旨および範囲から逸脱することなく、数々の多様なその他の構成を作成することができるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の光導波路を含む光デバイスであって、各導波路が、光を導波するための長手方向に延在するコア領域を含み、
前記デバイスが、少なくとも第1および第2の導波路が交差する少なくとも1つの交差領域をさらに含み、
前記交差領域内の前記第1および第2の導波路が、合体して少なくとも1つの共通交差セグメントになるセグメント分割されたコア領域をそれぞれ含むデバイス。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−277113(P2010−277113A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206194(P2010−206194)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【分割の表示】特願2004−91222(P2004−91222)の分割
【原出願日】平成16年3月26日(2004.3.26)
【出願人】(596092698)アルカテル−ルーセント ユーエスエー インコーポレーテッド (965)
【Fターム(参考)】