説明

人体用害虫忌避剤

【課題】使用感ならびに人体への刺激性が改善された天然ミネラル水配合の人体用害虫忌避剤において、忌避成分が日光等に曝されても劣化が防止され忌避効力の持続性を向上させ得る人体用害虫忌避剤の提供。
【課題の解決手段】(1)(a)害虫忌避成分、(b)C2〜C6のアルコール及び/又はグリコールから選ばれた1種又は2種以上、及び(c)硬度700以下の天然ミネラル水を含有する人体用害虫忌避剤において、更にp−メトキシ桂皮酸アルキル系紫外線吸収剤を配合してなる人体用害虫忌避剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蚊、ブヨ、サシバエ、イエダニ、ナンキンムシ等の害虫から人体を守るための人体用害虫忌避剤に関する。
【背景技術】
【0002】
害虫忌避剤について、従来より、使用感の改善、刺激性の軽減を目的とした様々な特許が出願されている。害虫忌避剤は基本的に腕、足、首筋等、人体の露出した肌、即ち、外的な刺激を受けやすい部分に塗布するものであり、近年では害虫忌避成分に皮膚を保護する目的で、化粧品原料に用いられている紫外線吸収剤や紫外線散乱剤を配合し、害虫忌避と日焼け防止を目的とした特許文献1(特開平5−92915号公報)及び特許文献2(特開平8−183720号公報)が、また、保湿効果が期待できる成分、例えばアロエエキスやモモエキスを配合し、ディートの異臭の軽減を目的とした特許文献3(特開2003−160413号公報)が出願されている。
更に、組成物中に水を配合した水性害虫忌避剤の特許も出願されている。例えば、害虫忌避成分、水溶性溶剤及び水を配合し、水溶性溶剤と水の配合比率を規定することにより、皮膚感触と臭気を改善した特許文献4(特開2003−192503号公報)や、忌避成分、アルコール又はグリコール、界面活性剤及び水を配合し、忌避成分の安定化と更に敏感な皮膚に対する乾燥及び刺激の軽減を目的とした特許文献5(特開平11−349409号公報)が挙げられる。
本発明者らは、更なる使用感の改善、ならびに刺激性の軽減を目指して検討を重ね、配合する水として天然ミネラル水を選択し、特許文献6(特開2005−132780号公報)において有用な人体用害虫忌避剤を開示した。一方、皮膚に塗布された忌避成分が日光等への曝露によって劣化するのを防止することも重要である。前記したように、通常の紫外線吸収剤や紫外線散乱剤の配合は、油性液剤には有効で相応の効果の得られることが知られている。しかしながら、マグネシウムイオンやカルシウムイオンを含む天然ミネラル水と併用されるような特殊な条件下では、そのまま適用できず検討の余地が残されていた。
【特許文献1】特開平5−92915号公報
【特許文献2】特開平8−183720号公報
【特許文献3】特開2003−160413号公報
【特許文献4】特開2003−192503号公報
【特許文献5】特開平11−349409号公報
【特許文献6】特開2005−132780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明はかかる現状に鑑みなされたもので、使用感ならびに人体への刺激性が改善された天然ミネラル水配合の人体用害虫忌避剤において、忌避成分が日光等に曝されても劣化が防止され忌避効力の持続性を向上させ得る人体用害虫忌避剤を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の構成を採用する。
(1)(a)害虫忌避成分、(b)C2〜C6のアルコール及び/又はグリコールから選ばれた1種又は2種以上、及び(c)硬度700以下の天然ミネラル水を含有する人体用害虫忌避剤において、更にp−メトキシ桂皮酸アルキル系紫外線吸収剤を配合してなる人体用害虫忌避剤。
(2)p−メトキシ桂皮酸アルキル系紫外線吸収剤が、p−メトキシ桂皮酸オクチルである(1)に記載の人体用害虫忌避剤。
(3)(a)害虫忌避成分が、ディート、3−(N−n−ブチル−N−アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル、1−メチルプロピル 2−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペリジンカルボキシラート、p−メンタン−3,8−ジオールから選ばれた1種又は2種である(1)又は(2)に記載の人体用害虫忌避剤。
(4)(c)硬度700以下の天然ミネラル水が、脱塩された海洋深層水である(1)ないし(3)のいずれかに記載の人体用害虫忌避剤。
【発明の効果】
【0005】
本発明の人体用害虫忌避剤は、使用感ならびに人体への刺激性が改善されるとともに、忌避成分が日光等に曝されても劣化が防止され、忌避効力の持続性に優れるので、その実用性は極めて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明で用いる(a)害虫忌避成分としては、害虫に対して忌避作用あるいは吸血阻害作用を有する合成あるいは天然の各種化合物が挙げられる。例えば、ディート、3−(N−n−ブチル−N−アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル[以降、IR3535と称す]、1−メチルプロピル
2−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペリジンカルボキシラート[以降、ピカリジンと称す]、p−メンタン−3,8−ジオール、ユーカリプトール、α―ピネン、ゲラニオール、シトロネラール、カンファー、リナロール、カランー3,4−ジオールなどを例示できる。更に天然物としては、桂皮、シトロネラ、レモングラス、クローバ、ベルガモット、月桂樹、ユーカリなどから採れる精油、抽出液などを例示でき、これらの1種または2種以上を選択して用いることができる。上記化合物及び天然物のなかでは、特に、ディート、IR3535、ピカリジン、及びp−メンタン−3,8−ジオールが好ましい。
害虫忌避成分は各薬剤の忌避効力等により異なるが、本発明の人体用害虫忌避剤全体量に対して1〜20質量%、好ましくは3〜10質量%配合される。
【0007】
本発明で用いる(b)C2〜C6のアルコール及び/又はグリコールとしては、炭素数2〜3の低級一価アルコールであるエタノール、イソプロパノールや、グリコールであるエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等が挙げられ、これらを単独でまたは混合して使用することができる。C2〜C6のアルコール及び/又はグリコールは水に不溶の忌避成分を可溶化するために用いる。なお、エタノールを用いる場合、肌への作用が緩和で、かつ食品用として一般的な醸造エタノールが好ましい。
【0008】
本発明に用いる(c)天然ミネラル水としては、山麓の涌き水、地下深層水、海洋表層水、海洋深層水等が挙げられる。これらのミネラル水はマグネシウムイオン、カルシウムイオン、カリウムイオン等の金属イオンを含み、人体に不足しがちなミネラル成分を補給しやすいことから各方面で注目されている。例えば、逆浸透膜法等により濾過、脱塩処理を行い硬度を100〜1000程度に調整したものが飲料として販売されているが、本発明では硬度700以下のミネラル水が適合し、これらを皮膚に直接塗布することで、少量のミネラル成分による保湿感、さっぱり感が付与される。硬度が700を超えると、組成物の安定性に支障をきたすので好ましくない。
上記の天然ミネラル水のうち、特に海洋深層水はミネラル成分のバランスが良く、また水深200m以上の無光層より採取しているため、清浄性、安定性が良好で、製剤化した際、使用感、製剤安定性に優れる。本発明の更に好ましい組成物は硬度が5〜300に調整された海洋深層水を用いたものであり、一層良好な使用感を得ることができる。
【0009】
なお、本発明においては、(c)水に対する(b)アルコール及び/又はグリコールの重量比が1.1以下であることが好ましい。アルコールとして炭素数2〜3の低級一価アルコールを用いる場合、重量比が1.1を超えると塗布面にざらざらした感触が残り、一方、多価アルコールの場合、塗布面にべとつき感が残って使用感が悪くなる。
【0010】
本発明の人体用害虫忌避剤は、忌避成分が日光等に曝されても劣化が防止されるように、前記した組成物にp−メトキシ桂皮酸アルキル系紫外線吸収剤を配合したことに特徴を有する。
紫外線吸収剤としては、p−メトキシ桂皮酸アルキル系化合物の他、ベンゾフェノン系、フェニルベンズイミダゾール系化合物等種々のものがあり、エタノール等の有機溶剤の溶液中ではいずれも使用できることが知られている。
しかるに、本発明者らは、天然ミネラル水を含む製剤にこれらの紫外線吸収剤を適用したところ、p−メトキシ桂皮酸アルキル系化合物が特異的に有効で、他の紫外線吸収剤は不適であることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。詳細なメカニズムは不明であるが、天然ミネラル水中のマグネシウムイオンやカルシウムイオン等が関与しているものと考えられる。なお、p−メトキシ桂皮酸アルキルの配合量は、人体用害虫忌避剤全体量に対して0.05〜1.0質量%程度が適当であり、p−メトキシ桂皮酸アルキルのなかでは、p−メトキシ桂皮酸オクチルが使いやすく、効果の点でも最も優れていることが認められた。
【0011】
本発明では、上記成分以外に内容液の安定性を確保するために界面活性剤を配合してもよい。界面活性剤としては、特にHLBが11〜16のノニオン系界面活性剤が好ましく、ポリオキシエチレン(10モル)オレイルエーテル{HLB=12.4}、ポリオキシエチレン(20モル)オレイルエーテル{HLB=15.1}、ポリオキシエチレン(9モル)ラウリルエーテル{HLB=13.6}、ポリオキシエチレン(10モル)セチルエーテル{HLB=12.9}、ポリオキシエチレン(15モル)ステアリルエーテル{HLB=14.2}、ポリオキシエチレン(15モル)イソステアリルエーテル{HLB=14.2}等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレン(20モル)ソルビタンモノオレエート{HLB=15.7}、ポリオキシエチレン(10モル)ソルビタンモノラウレート{HLB=14.9}、ポリオキシエチレン(20モル)ソルビタンモノステアレート{HLB=15.7}等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン(14モル)モノオレエート{HLB=13.7}、ポリオキシエチレン(9モル)モノラウレート{HLB=13.3}、ポリオキシエチレン(14モル)ミリステート{HLB=14.6}等のポリオキシエチレンアルキルエステル類等が挙げられ、これらを単独でまたは混合して使用することができる。界面活性剤は肌への刺激性を考えると極力低減するのが好ましいが、HLBが11〜16のノニオン系界面活性剤は少量の配合で内容液の安定化に効果がある。また、使用感(塗布面のさらさら感等)の改善のため、無水ケイ酸、タルク、カオリン等の無機粉末及び変性デンプン、シルク繊維粉末等の有機粉末を配合することができる。更に、グリチルリチン酸ジカリウム、アラントイン、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、酢酸トコフェロール、カンフル等の消炎剤等を内容液の安定性に影響のない範囲で配合することができる。
【0012】
こうして調製された本発明の人体用害虫忌避剤の実用上の使用形態については特に制限はないが、具体的な使用例としては、非エアゾール型スプレー剤やロールオンタイプの容器に充填する形態、不織布等のシート基材に含浸させる形態などの他、液化石油ガス、ジメチルエーテル、圧縮ガス(窒素ガスや圧縮空気等)等を噴射剤に用いてエアゾール剤とすることももちろん可能であり、適用範囲は極めて広い。
【0013】
次に具体的な実施例ならびに試験例に基づき、本発明の人体用害虫忌避剤について更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0014】
害虫忌避成分としてディート5.0gと紫外線吸収剤としてp−メトキシ桂皮酸オクチル0.2gをエタノール44.8gに均一に溶解させた後、脱塩処理した硬度500の海洋深層水50.0g(水に対するアルコールの重量比0.9)を加え、本発明の人体用害虫忌避剤を得た。
この組成物は、5℃及び40℃の恒温槽に1ヶ月間保存しても均一澄明であった。次に、本害虫忌避剤を蓄圧式のポンプ容器に充填して使用した。手の甲に約1mL塗布し塗り延ばした後、1分経過後の塗布面の状態を観察したところ、べたつきはなく、さっぱりとした感触であった。また、塗布部は屋外で太陽光に曝される状況であったが、忌避効力は約10時間持続し、その間、蚊などの害虫に悩まされることはなかった。
【実施例2】
【0015】
実施例1に準じて表1に示す各種人体用害虫忌避剤を調製し、下記に示す試験を行った。
(1)使用感
手の甲に約1mL塗布し塗り延ばした後、1分経過後の塗布面に指先で触れ、感触を評価した。結果を〇(さっぱり感あり)、△、×(べたつく、肌がざらざらする)で示した。
(2)忌避効力試験
試験者の手の腕に約3mL塗布し、ヤブカが多数生息する屋外の試験地に佇み蚊が腕に止まるまでの時間を計った。試験は試験者を替えて4連行い、平均の効力持続時間を求めた。
【0016】
【表1】




【0017】
本発明の人体用害虫忌避剤は、手の甲に塗布し、使用感を確認したところ、ベタツキが無くさっぱりとした使用感で、害虫忌避効力の持続性も優れていることが認められた。なお、本発明1及び本発明4のように、p−メトキシ桂皮酸エステル系化合物のなかでは、p−メトキシ桂皮酸オクチルが好ましかった。
これに対し、比較例2及び比較例3のように、ミネラル水を含む製剤に、ベンゾフェノン系やフェニルベンズイミダゾール系紫外線吸収剤を配合しても、害虫忌避効力の持続性は改善されなかった。一方、ミネラル水を含まない人体用害虫忌避剤(比較例4及び比較例5)では、p−メトキシ桂皮酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物のいずれも害虫忌避効力の持続性を向上させたが、使用感は劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明の人体用害虫忌避剤は、人体用以外の害虫忌避分野に適用できる可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)害虫忌避成分、(b)C2〜C6のアルコール及び/又はグリコールから選ばれた1種又は2種以上、及び(c)硬度700以下の天然ミネラル水を含有する人体用害虫忌避剤において、更にp−メトキシ桂皮酸アルキル系紫外線吸収剤を配合してなることを特徴とする人体用害虫忌避剤。
【請求項2】
p−メトキシ桂皮酸アルキル系紫外線吸収剤が、p−メトキシ桂皮酸オクチルであることを特徴とする請求項1に記載の人体用害虫忌避剤。
【請求項3】
(a)害虫忌避成分が、ディート、3−(N−n−ブチル−N−アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル、1−メチルプロピル 2−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペリジンカルボキシラート、p−メンタン−3,8−ジオールから選ばれた1種又は2種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の人体用害虫忌避剤。
【請求項4】
(c)硬度700以下の天然ミネラル水が、脱塩された海洋深層水であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の人体用害虫忌避剤。

【公開番号】特開2009−126804(P2009−126804A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301705(P2007−301705)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(000207584)大日本除蟲菊株式会社 (184)
【Fターム(参考)】