説明

人体移乗用器具

【課題】臥している人体の下への移乗用のシートの引き込みと、人体を載せた移乗用シートの移送用寝台への引寄せ作業、そして逆方向の作業を容易にし、介護者の大きな力を不用にする。
【解決手段】 本発明は、移乗シートと引寄せ手段と巻取り手段により構成されている。図6は、左側の巻取り棒20を回転させ、係着された環状器具13、環紐14、引き糸11を巻取り、表裏両面の摩擦係数が小さい移乗シート33をベッド6の上、人体の下に引込む直前の状態を示している。
引き込み完了後、巻取り棒20を右側に移動し、右側の環状器具13に巻取り棒20の係着具21を係着させ、巻取り棒20を回転させて引き糸11を巻取れば、人体を載せた移乗シートA部分33Aは、B部分33BとC部分33Cの上を滑るように引寄せられて移送用寝台7の上に移乗される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臥している病人、障害者、老人等被介護者の移乗用器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の人体移乗用器具の中には、長尺な移乗用シートと巻取り手段を備えたものがある(例えば特許文献1参照)。当該特許文献1の図1は手鉤2本に引出手段が、そしてその先には移乗用シートが繋がって居る。ベッドの片側から反対側に、衛生上の観点から直接人体の下を通さず、その下の幅約1mのマットの下を、ベッドの反対側より1mも手を伸ばして、隣接する移送用寝台上の手鉤と引出手段を引寄せるのは面倒な作業であり、この作業を2回行わなければならない。
【0003】
当該特許文献1の図4では手鉤は寝ている患者の首や足の下あたりに1.2m程度離れて位置しているが、両手を広げて手鉤を手前に力を入れて引くことは出来ない。両手を合わせて引くと手鉤の先の引出手段とその先の移乗用シートが中央に寄って来て移乗用シートの形が崩れる。一人の介護者が2回に分けて引いても、2人の介護者が同時に引いても、中央の腰部付近のシートは、逆方向向きの抵抗で形が崩れる。形が崩れたままでは被介護者を載せることが出来ないという問題がある。
【0004】
手鉤と引出手段の長さは通常のベッド幅1m以上ある筈で、これを介護者が引くにはその身体の動きもあるので、ベッドの傍らに幅1.5m以上の引寄せ作業用スペースが必要となる。これは狭い病室では無理な問題である。
【0005】
人体の体重は50kg以上ある場合が多く、人体の背面には凹凸があり、その摩擦係数は大きい。当該特許文献1の図5の断面図は、人体の左肩下に引出手段、アウターシート、ベースシート、そしてこれらの結合手段等が図示されている。その厚みは3枚のシートとこれを外側の上下から纏める材質形態が不明な結合手段を併せると5重となる。
さらに、患者を載せる側の上面側シートの摩擦係数が高く設定されているので、移乗用シートを人体の下に引き込むには、かなりの抵抗があり、かなりの力を必要とするという問題がある。
【0006】
人体の移送用寝台上への引寄せ移乗に際しては、移乗用シートの底面の摩擦係数は小さいが、その下で接触するマットやマットレスの摩擦係数は大きいので、相当程度強力な引く力が必要となるという問題がある。
【0007】
当該特許文献1の「0012」項には、「ベッドに患者を戻すときは、逆に、引出手段7先端の引出用手鉤部8により(中略)移乗用シート3ごと患者をベッド15床部移乗させればよい」とある。巻取りローラーには触れておらず、「手鉤」とあるので、これは2人の介護者が、器具を使わずに2個の手鉤を引く作業と理解される。
移乗用シートの底面の摩擦係数は小さいが、その下のマットレスやマットの摩擦系数は大きいので、この作業は相当な力を必要とし問題である。また、2人の介護者が手鉤を引くに当たって、介護者の身体の動きと手鉤と引出手段の長さが必要とする幅の広い作業スペースがベッドの横に必要という問題もある。
【0008】
既に商品化しているマットやボードに、介護者が引いたり持ち上げたりする為の握りや紐を備えている器具がある(例えば非特許文献1参照)。また、平面状或いは円筒状の表面滑性シートが市販されている。いずれも使用に当たっては、先ず、臥している人体の下に器具やシートを差込む必要があるが、当該人体の下への差込みは簡単ではない。
差込むに当たっては、人体を左右横向きにさせたり戻したりする介護者による体位変換作業が必要である。これは被介護者にとっても介護者にとっても負担である。
【0009】
これらの器具にはベッドと移送用寝台との間の移乗手段が備わっていないので介護者が被介護者を抱き抱えて移乗させるなどの重労働が必要となる。また、これらの器具や表面滑性シートも、その下のマットレスも柔軟性に富むので、ベッドの端で抱き抱えるときなど、その上の被介護者の人体が傾くなど、移乗作業は安定性に欠ける。また、患者に触れるので病原菌が伝染するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】 特公平7−55230号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】 パラマウントベッド(株) 2011カタログ(第104頁)「トランスファーマットレス」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、特許文献1の例が有する次の課題が解決できる人体移乗用器具を実現することを目的とする。
(1)手鉤と引出手段という移乗用シートの引寄せ手段を、ベッドの片側から入れ反対側に出す作業を簡単にすること。
(2)移乗用シートを人体の下に引き込むときの抵抗を少なくすること。
(3)移乗用シートを人体の下に引き込むときのシートの形の崩れを防止すること。
(4)移乗用シートを引くために必要なベッド脇のスペース幅を大幅に減らすこと。
(5)人体を載せた移乗シートをベッドより移送用寝台へ引寄せるときの摩擦抵抗を大幅に減らすこと。
(6)人体を載せた移乗シートを移送用寝台よりベッドへ引寄せるときの摩擦抵抗を大幅に減らすこと。また、人力ではなく器具を使って引寄せること。
【0013】
本発明は、非特許文献1の器具や市販の滑り布と称する薄布が有する、次の課題も解決できる人体移乗用器具を実現することを目的とする。
(1)人体の下への引き込みのための体位変換を不要にすること。
(2)ベッドと移送用寝台間の移乗の為の人体抱き抱え重労働を不要にすること。
(3)介護者の人力による不安定な作業を安定したものとすること。
(4)人体に触れる必要を無くし、病原菌の伝染を防ぐこと。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明請求項1の人体移乗用器具は、上記目的を達成するための、臥せている人体を、ベッドと移送用寝台との間で往復移乗させる人体移乗用器具であって、人体を載せて移乗させる移乗シートと、移乗シートを引寄せる引寄せ手段と、引寄せ手段を巻取る巻取り手段とにより構成され、前記移乗シートは、人体の頭部から膝部までの長さより長い長辺と、人体の横幅より長い短辺を有する長方形の、表裏両面の摩擦係数が小さい両面滑性シートから成り、前記引寄せ手段は、ベッドの幅以上の長さを有し、一端は前記移乗シートへの係着手段を備え、他端は環状に結ばれた紐が通された環状の器具を備えている引き糸複数本より成り、前記巻取り手段は、前記環状の器具との係着器具を複数備えた、移乗シートの長辺より長い円筒形の巻取り棒から成り、巻取り棒を回転させて引寄せ手段を巻取ることにより移乗シートを引寄せることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項2に記載の人体移乗用器具は、前記移乗シートの相対する長辺の双方に、前記引寄せ手段を固着したことを特徴とする請求項1に記載の人体移乗用器具である。
【0016】
本発明請求項3の人体移乗用器具は、前記移乗シートの幅を、一方の長辺の端より、ベッドの幅と移送用寝台の幅とを合わせた長さ程度拡幅して、拡幅された部分を前記移乗シートの下側に折り曲げて置いた形状を有することを特徴とする請求項2に記載の人体移乗用器具である。
【0017】
本発明の請求項4の人体移乗用器具は、前記巻取り棒の両端を支える巻取り棒支持手段が、上部の巻取り棒受け具と下部の巻取り棒受け具を支える支柱とにより構成され、前記支柱は床上置き型とベッドまたは移送用寝台の上面置き型と2種類あるが、いずれもベッドまたは移送用寝台の構造部分への係着手段を備えていることを特徴とする請求項1から3までに記載の人体移乗用器具である。
【発明の効果】
【0018】
前記「課題を解決する手段」で述べた構成形状としたことによって、特許文献1の器具と比較して、本発明の器具は次に列挙する効果が得られる。
(1)移乗シートを人体の下に引き込むための引寄せ手段の引き込み方法が簡単である。
(2)移乗シートと移乗シート引寄せ手段の摩擦係数が小さい。
(3)人体の下に引き込んだ後の移乗シートの形状の崩れが少ない。
(4)移乗シートの人体の下への引き込み作業用スペースは狭くて済む。
(5)請求項3の発明の場合、人体を載せた移乗シートのベッドより移送用寝台への引寄せるときの摩擦抵抗が極めて小さい。
(6)人体を載せた移乗シートを移送用寝台よりベッドへ引寄せるときの摩擦抵抗が極めて小さい。また、人力ではなく器具を使って引寄せることが出来る。
【0019】
非特許文献1の器具や滑り布と称する商品と比較して、本発明の器具は次に列挙する効果が得られる。
(1)人体の下への移乗シーと引き込みのための体位変換は不要である。
(2)ベッドと移送用寝台間の移乗の為の人体抱き抱え重労働も不要である。
(3)介護者の人力による不安定な作業が安定したものとなる。
(4)人体に触れる必要が無く、病原菌の伝染を防げる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】 本発明の実施例1の平面図である。
【図2】 同、実施例2の平面図である。
【図3】 同、実施例3の平面図である。
【図4】 同、実施例3の請求項3の形状を示す斜視図である。
【図5】 実施例1の輪紐が引き糸を引き始めた状態を示すイメージ図である。
【図6】 図4の移乗シート引寄せ直前の状態を示す斜視図である。
【図7】 巻取り棒支持具の一例を示す斜視図である。
【図8】 図6の移乗シートの人体下への引き込み完了状態を示す断面図である。
【図9】 人体を移送用寝台よりベッド上へ引寄せる直前の状態を示す断面図である。
【図10】 図9の人体がベッド上に引寄せられた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
説明と理解を容易にするため、縦横左右等の位置関係は、ベッドの足許側より見た表現とする。ベッド上頭置き部と足置き部を結ぶ線は縦、これと直角に交わる線は横である。移送用寝台はベッドの右側に寄せる。
【0022】
通常金属製のベッド上には厚手のマットレス、薄手のマット、敷布、人体、毛布類が順次重なっている。引寄せ手段はマットとマットレスの間に引き込む事とする。
しかし、ベッドの上の厚手のマットレスの上に敷かれている薄手のマットと敷布、そして人体の上の毛布類についての取り扱いの説明と図示は原則として省略する。また、通常移送用寝台上にはマットが置かれて居り薄手のカバーが掛けられているが、薄手のカバーの説明と図示も省略する。
【0023】
細長い手段や移乗シート等はベッドや移送用寝台を越えた場所では下に垂れ下がるが、図面上では、全体構成の理解を容易にするため、水平に延びている形状で示した。
【実施例1】
【0024】
図1は本発明の基本構成要素である移乗シート31、引寄せ手段、巻取り手段を示している。移乗シート31は、表裏両面の摩擦係数が小さい両面滑性シートから成り、一層又は複数層のシート状の手段である。その素材は繊維、不織布、化学合成フィルムなどいずれでも良い。
【0025】
引寄せ手段を構成する引き糸11は、柔らかくしなやかに曲がる細長い凧糸などの手段であって、紐、テープと称するものでも良い。天然繊維、化学合成繊維、ワイヤーなど材質は問わない。引き糸11の一端には移乗シート31への係着手段12を備え、他端には環状に結ばれた紐、輪紐14が中に通された環状器具13を備える。
引き糸の長さは標準のベッドの幅よりやや長くする。引き糸11を複数本纏めて引寄せ手段を構成する。図1では8本の引き糸を図示しているが、本数を増やすことは容易であり、引寄せの際の移乗シートの崩れは少なく出来る。
前記移乗シートへの係着手段の一例としてはクリップがあり、他の例としては、移乗シートに空けた鳩目穴へのフックがある。
【0026】
輪紐14は、移乗シートの長辺の2倍程度の長さの紐を環状に結んだものであり、引き糸11の順序を保ち、巻取り棒20の係着手段21への環状器具13の係着作業を容易にする。引き糸11に絡まらないように、輪紐14の方をやや太めにする。輪紐引寄せ棒4の長さはベッドの横幅程度で、先端はフック状の形態である。
【0027】
巻取り棒20は円筒形の棒とし、前記移乗シート31の縦幅よりやや長く、所定の間隔を置いて複数の係着器具21と、回転ハンドル22を備える。係着器具の一例は金属製のフックであり、他の例は頭部直径の大きめの釘である。巻取り棒20は、一例として、直径30mmの鉄パイプが挙げられる。
係着器具21の間隔は、体重が重く掛かる人体の腰部近辺ではでは狭く、軽く掛かる脚部近辺では広くする。巻取り棒20は、木製、金属製、塩化ビニール製など材質は問わない。引き糸11の一本毎にフランジを備えれば、複数の引き糸11それぞれの巻き取り場所を纏めることが出来る。
【0028】
ベッド上の人体を右隣の移送用寝台に移乗させる手順について図1及び図5を引用して説明する。移乗作業の第1ステップは移乗シート31の人体下への引き込みである。
先ず、図5に示すとおり巻取り棒20はベッド6の左側に置く。また、輪紐14が通された環状器具13を備えた引き糸11と移乗シート31は右側の移送用寝台7の上に置く。但し図4では、引寄せ手段を構成する引き糸11の弛みを示す為、移乗シート31は、移送用寝台7の右側に示した。
【0029】
次いで輪紐引寄せ棒4の先端を、ベッドの左側から人体の下を右側に通して、先端のフックを移送用寝台7上に突き出し、これに輪紐14を引っ掛ける。輪紐引寄せ棒4を左側に引き戻すと、輪紐14の先がベッドの左側に出てくる。図5はこの状態を示す。
更に引けば引き糸11の端の環状器具13がベッドの左側に出て来る。環状器具13を順次巻取棒20に備えられた係着器具21に係着する。巻取棒20を回転させれば、環状器具13の先の引き糸11が巻かれ、これに係着された移乗シート31が人体5の下に引き込まれる。
【0030】
移乗作業の第2ステップは、人体を載せたベッド上の移乗シート31の移送用寝台7上への引き寄せである。先ず、巻取棒20に巻かれている引き糸11の端の係着手段12が、図1および図5で移乗シート31の左側へ係着しているが、この係着を取り外す。
次いで巻取り棒20を移送用寝台7の右側に移動する。巻取り棒20を逆回転させて、巻きついている係着手段12と引き糸11を左側に引き伸ばしてベッド6上の移乗シート31の右端部(図1および図5で移乗シート31の右側の長辺)に係着させる。
【0031】
その後巻取り棒20を回転させると移乗シート31及びその上の人体5は移送用寝台7上に引寄せられ移乗する。移乗シート31の引き寄せの際には、ベッド6と移送用寝台7の間の凹みの上には、上面の摩擦係数が小さい薄手の渡し板を敷いて置き、移乗シート31の移動を容易にする。巻取り棒20の回転は、手動のみならずギアを用いた電動装置によることも可能である。
【実施例2】
【0032】
図2は、請求項1の移乗シート31の相対する長辺の双方に、前記引寄せ手段を固着した構成を示す平面図である。
請求項1では、引寄せ手段が一組なので、人体移乗第1ステップの移乗シートの人体下への引き込みの際には、前記引寄せ手段を移乗シートの左側に係着する。次いで、第2ステップの人体を右側の移送用寝台に移乗させる際には、前記係着を外して、引寄せ手段を右側に移動させて、移乗シートの右側に前記係着手段を新たに係着させるという面倒な作業が必要である。
【0033】
しかし、図2に示す実施例2では、前記引き込み時には左側の引寄せ手段を使用し、人体の移乗時には右側の引寄せ手段を使用するので、引寄せ手段の移乗シートの左側との係着の取り外し、右側への移動、移乗シートの右側への係着の作業は不要となる。
前記固着とは、着脱自在の係着とは異なり、接着或いは結着された2者を引き離す必要の無い固定された状態を意味する。
【実施例3】
【0034】
請求項3の人体移乗用器具の主要構成要素は、図3の平面図に示す通りである。
図2と同じ形状部分の移乗シートをA部分33A、その外側の移送用寝台の幅程度拡幅された部分をB部分33B、更にその先のベッドの幅程度拡幅された部分をC部分33Cと称することとする。
【0035】
請求項3の人体移乗用器具の核心的部分は、図4の斜視図に示す通り、移乗シート33のA部分33Aが上側に置かれ、B部分33BとC部分33Cは折り曲げられて下側に置かれた形状である。人体を載せた上側の部分が下側の部分の上を引寄せられるとき、接触する上下両面の摩擦係数が小さいので、引寄せのための力は、本発明の請求項1、請求項2、或いは特許文献1の人体移乗器具に比べると、相当小さくて済む。
【0036】
図6は、請求項3の人体移乗用器具の、折り曲げられた形状の移乗シート33を人体の下に引き込む作業開始直前の状態を示す斜視図である。
移乗シート33のA部分33AとB部分33Bの境界線部分に係着している引き糸11は左側に伸びて、その端の円環13が巻取り棒20の係着器具21に係着している。移乗シート33の右外側の引き糸11は右側に伸びている。
【0037】
人体移乗用器具の形状を図6の如く形成するためには、事前に、輪紐引寄せ棒4による輪紐14、環状器具13、引き糸11のベッド上への引寄せと、引寄せられた環状器具13を巻取り棒20の係着器具21に係着させる作業がある。この作業手順は実施例1と同様である。
【0038】
図6は、移乗シートのAB両部分の境界線部分に引き糸11の通し孔16を示している。引き糸11の端はこの通し穴16を通り抜け、その裏側の糸縛り用細棒17に固着されている。
前記細棒の一例は、長さ1,600mm、直径2〜3mm程度の金属棒である。しかし固着手段はこの方法には限らない。長い1本の細棒ではなく引き糸と通し孔ごとに、個別に短い細棒で引き糸を固着する方法もある。金属棒を使わずに引き糸を接着剤で固着、あるいは引き糸を縫い付ける方法もある。鳩目孔に引き糸を通して結びつける方法もある。
【0039】
移乗シート33の人体下への引き込みは、図6の斜視図の状態から始めて、巻取り棒20を回転して引き糸11とその先の折り曲げた形状の移乗シート33を人体下に引き込む。引き込み完了時の状態は図8の断面図の通りである。
【0040】
図8のベッド6上の人体5を載せた移乗シート33A部分を移送用寝台7上に移乗させるためには、ベッド6の左側にある巻取り手段20を逆回転させ、係着器具21と引き糸11の先の環状器具13との係着を外す。
次いで巻取り棒20を移送用寝台7の右側に移動設置し、移送用寝台7の上の引き糸11の端の環状器具13に巻取り棒20に備えられた係着器具21を係着する。
巻取り棒20を回転させると、移乗シート33のA部分33AがB部分33B、C部分33Cの上を、摩擦が小さいので、滑るように引き寄せられて、緩やかに移送用寝台7の上に移乗する。
【0041】
人体と共に移乗した移乗シート、マット、敷布等は、まとめて移送用寝台と共に、診察室或いは手術室に持ち込むと取り外す手間が不要となる。診察又は手術が終わり病室に戻る時は、移送用寝台7のマットの上に移乗シート33を敷いて、人体5をその上に載せ病室に戻る。但し、移乗シート33は次項の通り置き方を変える。
【0042】
図9は、移送用寝台7上の人体5をベッド6上に移乗させるための準備完了状態を示す断面図である。移乗シート33C部分はベッド6の上にあり、33A、33B部分は移送用寝台7上に折り重なっている。33A部分上には人体5が載っている。
巻取り棒20をベッドの左側に設置し、係着器具21に引き糸11の端の環状器具13を係着して巻取れば、これに繋がる移乗シート33のA部分はBC部分上を滑るように引寄せられてベッド6上の移乗シート33C部分上に移乗し、図10に示す状態になる。
【0043】
移乗シートを人体の下より引き抜く方法に付き説明する。
図10で、引き糸11が巻きつけられている巻取り棒20を更に回転させれば移乗シートA部分33A,B部分33B、C部分33Cも巻取り棒20に巻きつけられ、最後には人体5の下から引き抜かれる。
この時、移乗シートA部分33Aの上の人体5が横に引かれて落ちないように押さえておく手段が必要である。
【実施例4】
【0044】
前記巻取り棒の両端を支える巻取り棒支持手段の主要構成要素は、上部の巻取り棒受け具と下部の巻取り棒受け具を支える支柱とである。
前記支柱が床置き型の例は、図面6に示す通りである。巻取り棒受け具23を床置き形支柱24が床の上で支える。
巻取り棒支持手段25の高さは、図6の通り、巻取り棒20がベッド上のマットレスの上面よりやや上方での高さを保持できる程度とする。
【0045】
巻取棒受け具23と床置き型支柱24との間の接続器具(図示省略)は、該支柱24を巻取り棒20に対して直角に、そして床より垂直に支えるだけではなく、折り曲げて巻取り棒20に密着出来る構造とすれば、全体を1本に纏めることが出来て持ち運びや保管を容易にする。
【0046】
図示してはいないが、該支柱24は、ベッド6および移送用寝台7の構造部分に係着する手段を備えることにより、巻取り棒20を安定して支持することが出来る。
【0047】
床置き型とは別の、ベッドまたは移送用寝台の上面置き型の巻取り棒支持手段の一例は、図7に示すとおりである。巻取り棒受け具23は、垂直面と水平な底面が直角L字型に交わるL字型支柱26で支えられている。支柱の底面はベッド6又は移送用寝台7の上面の上のマットレスやマットの下に差し込む。また、前記底面は、畳の上の布団の横に置いた移乗用器具の下に差込んで置いての使用も可能である。
【0048】
図7の符号27は、L字型支柱26をベッド6および移送用寝台7の構造部分に係着する手段を備える場所の一例を示すものであるが、この場所にこだわるものではない。
ベッドまたは移送用寝台の構造部分との係着を容易にする為必要であれば、垂直部分は、水平部分を越えて下方に延びた形状とすることも可能である。ベッド6および移送用寝台7の構造は様々なので、実情に即した係着手段の開発が必要となる。
【0049】
巻取り棒の受け具23は巻取り手段の両端部分に位置するので、中央部分にかかる力により巻取り棒が曲がるおそれがある。これを防ぐ為には巻取り手段自体の強度を高める手段の他に、中央部分に巻きついた紐又は布の外側に、単数又は複数のローラーを当てて巻取り手段が曲がらないようにする方法もある。
【符号の説明】
【0050】
1 本発明人体移乗用器具の実施例1
2 同、実施例2
3A 同、実施例3(平面展開図)
3B 同、実施例3(請求項3の形状を示す斜視図)
11 同、引き糸
12 同、係着手段
13 環状器具
14 輪紐
15 固着手段
16 引き糸通し孔
17 糸縛り用細棒
20 巻取り棒
21 係着器具
22 回転ハンドル
23 巻取り棒受け具
24 床置き型支柱
25 巻取り棒支持手段
26 L字型支柱
27 L字型支柱係着手段
31、32、33 移乗シート
33A 実施例3の移乗シートA部分
33B 同、B部分
33C 同、C部分
4 輪紐引寄せ棒
5 人体
6 ベッド
7 移送用寝台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
臥せている人体を、ベッドと移送用寝台との間で往復移乗させる人体移乗用器具であって、人体を載せて移乗させる移乗シートと、移乗シートを引寄せる引寄せ手段と、引寄せ手段を巻取る巻取り手段とにより構成され、前記移乗シートは、人体の頭部から膝部までの長さより長い長辺と、人体の横幅より長い短辺を有する長方形の、表裏両面の摩擦係数が小さい両面滑性シートから成り、前記引寄せ手段は、ベッドの幅以上の長さを有し、一端は前記移乗シートへの係着手段を備え、他端は環状に結ばれた紐が通された環状の器具を備えている引き糸複数本より成り、前記巻取り手段は、前記環状の器具との係着器具を複数備えた、移乗シートの長辺より長い円筒形の巻取り棒から成り、巻取り棒を回転させて引寄せ手段を巻取ることにより移乗シートを引寄せることを特徴とする人体移乗用器具。
【請求項2】
前記移乗シートの相対する長辺の双方に、前記引寄せ手段を固着したことを特徴とする請求項1に記載の人体移乗用器具。
【請求項3】
前記移乗シートの幅を、一方の長辺の端より、ベッドの幅と移送用寝台の幅とを合わせた長さ程度拡幅して、拡幅された部分を前記移乗シートの下側に折り曲げて置いた形状を有することを特徴とする請求項2に記載の人体移乗用器具。
【請求項4】
前記巻取り棒の両端を支える巻取り棒支持手段が、上部の巻取り棒受け具と下部の巻取り棒受け具を支える支柱とにより構成され、前記支柱は床上置き型とベッドまたは移送用寝台の上面置き型と2種類あるが、いずれもベッドまたは移送用寝台の構造部分への係着手段を備えていることを特徴とする請求項1から3までに記載の人体移乗用器具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2013−563(P2013−563A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147726(P2011−147726)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【特許番号】特許第4897101号(P4897101)
【特許公報発行日】平成24年3月14日(2012.3.14)
【出願人】(511161904)日本橋クリエイティブ株式会社 (1)
【Fターム(参考)】